紬「フェアリーのFはフォーエバーのF…?合言葉?」 (23)

※ミリオンライブシアターデイズの二次創作
※地の文あり
※呼称に不安あり
※基本フェアリー限定
※わりとキャラ崩壊
※独自設定あり
※誰が何言ってるかわからないかも
琴葉「プリンセスのPはプロデューサーのP」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528642126/)が最初
美希「エンジェルのAは愛してるのA、なの」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529124494/)が二番目
※これが三番目、一応完結編

それでもいいという方はどうぞ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1530352395

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姫とは振り向かないもの。
天使とはなりふり構わないもの。
では妖精とは。

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「だから聞いてよ千早ちゃん!
 また美希がプロデューサーさんのベッドにもぐりこんでたんだって!
 不法侵入ですよ!不法侵入!」
「春香だって寝てたプロデューサーに何かしようとしてたの!」

 天海春香は振り向かない。
 星井美希はなりふり構わない。
 そんな二人に挟まれた如月千早は微妙な笑みを浮かべながら相槌をうっていた。
 とりあえず「また」とはどういうことだと小一時間問い詰めたかったが、これはスルー。何かしようとしていたって何をしようとしていたのか聞きたかったが、これもスルー。
 厄介事は右から左。あの人から教わったことだ。ありがとうございますプロデューサー。
 ともあれ、この二人は割といつも言い争いをしている。
 765随一の母性を誇るあの女であれば、あらあらまあまあとか言いながら笑顔でこの二人を完封できるのだろうが、千早自身はそこまで包容力がない。
 あれが包容力だけでなせる業と言うのも違うような気がするが。
 如月千早のパートナー曰く。

『あずささんはたまに人の話聞いてないからなあ。
 それでもなんとなく場をいなせるのは仁徳というかなんというか。
 あれも母性なのかね、千鶴さんともまた方向性は違うんだろうが』

 そう言って苦笑いした彼の鼻の下は伸びていた。
 何を考えているんですかプロデューサーと聞けなかったのは己の不覚。くっ。

「なーにーもーしーてーまーせーんー!
 証拠もないのにそういうこと言わないでよ!」
「ミキの第六感はハニーの危機をビンビンに伝えてたの!
 どーせ春香のことだから、ろくでもないことしようとしてたに決まってるの!」

 この二人はよく第六感とかいう言葉を使う。
 詳しくは知らないが、彼女らの想い人に危機が迫ると何かを感じ取れるらしい。
 まさに愛で第六感だ。何をどうやって感じ取るのかは知らないが。
 あと想い人が誰かも知らない。知らないったら知らないのだ。スルー。
 そう。とかくこの事務所はスルーしなきゃいけないことが多すぎる。
 主にプロデューサーが三浦あずさの胸や四条貴音の尻や篠宮可憐の胸と尻を見ているときなどはことごとくスルーしている。
 プロデューサーがああ貴音の尻ひっぱたきたいとか言ったのもスルー。
 だって昔よりはマシだ。何を思ったかアイドルに対していきなりバストをタッチしてくるような奇想天外な行動よりかはわりとかなり幾分多少はマシなはず。
 大丈夫。
 何でまんざらでもなさそうな顔なの?雪歩。あなた男性嫌いじゃなかったの?

「美希のハニーさんが誰かは知らないけど」

 そう言った千早の顔に何を感じたのか知らないが、ぴたり、と春香と美希の会話が止まる。

「プロデューサーを困らせたらだめよ、春香も美希も」

 ふっと笑みを浮かべる。穏やか、と言っていいだろう。
 完璧である。春香も美希もバツの悪そうな顔で「うむむ」だの「むむむ」だの言っている。
 やりましたプロデューサー。私もあの91に並んだと言っていいのではないでしょうか。母性的な意味で。

「はい、これでこの件はおしまい。
 そろそろレッスンに行くわよ、二人とも」

 まあなんだかんだで春香も美希も互いに甘えているだけである。
 たとえ自分でなくとも、この場を収めるのはそう難しくはなかっただろう。
 とはいえ、かつての自分ではそうはいかなかった。
 やはり、一年といくらかの時間を経て自分も成長したということだ。
 昔のように「まあ、なんでも、いいですけれど」とか言ってはいられない。
 と。

「あーっ!そうなの千早さん!
 プロデューサーの目覚ましの音が千早さんのJust be myself!!から春香のHoney Hertbeatに変わってたの!!
 春香が何かやったに違いないの!」
「えっ嘘」

 …………………………………は?

「とぼけても無駄なの!
 英語が上手くて馬鹿みたいにノリがよくてすごく楽しいけど春香の歌をハニーが目覚ましにするわけないの!」
「なにそれ私しらない」
「嘘つくな!なの!」

 …………………………………。

「えっえっ本当に知らないんだって、私、そんな」
「春香」
「ヒッ」

 横で金色の何かが飛び上がったが、如月千早にはもはやその姿は見えていない。

「ごめんなさい、ちょっと詳しく聞かせてくれるかしら」
「はぃ」
「ううん、大したことじゃないの。うん、どちらでも、いいのだけれど」
「はぃ」
「とりあえず、どういう経緯で、ね?そうなったのかしら」

 目の前の親友が涙目になっているのだが、なんでだろう。
 まあでも、確かに昔だったらこんなことすら言わなかったかもしれない。
 たとえ、彼がどんな曲を目覚ましのために使っていても気にしなかった。

 つまりは、変わったのだ。
 そう。今の私は、ただありのままの自分をぶつけるだけ。
 あの人が私の心を解き放ってくれたのだから。

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姫たちが求めたのはその人自身。
天使たちが求めたのはその人の愛。
では妖精たちが求めるのは?

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「と、いうことなの」

 そこは劇場の中の一室……ではない。
 どこぞのお姫様たちならともかく、妖精たちは劇場内の施設を勝手に占有したりはしない。
 というか、できないのである。フェアリースターズには765のご意見番、委員長以上に委員長らしい、恐怖の眼鏡こと秋月律子がいる。
 彼女の眼の届かないところでやるならともかく、フェアリースターズで集まるとなると必然彼女も同席することになる。
 なので。今回その会合は劇場側のカラオケ、パーティ用にと確保されている特に大きい一室で行われていた。

 そんな一室。カラオケなのに不健康な煙草の臭いもない小奇麗でついでに照明も明るいものの防音はきっちりしている、そんな一室で。

「どういうことなのよ……」
「どういうことなんですの……」

 フェアリースターズの御目付役とも言える秋月律子と二階堂千鶴は頭を抱えていた。

「だから言ってるじゃないですか。プロデューサーの目覚まし設定音が春香のHoney Hertbeatになったんです」
「だからなんで知ってるんですの!?」
「美希に聞きました」
「じゃあなんで美希は知ってたんですの!?」
「スルーしました」

 がっくりとうなだれる千鶴に気の毒そうな視線を向けるのは秋月律子である。
 そもこの如月千早という娘、わりと他人とこだわる部分が異なる。
 彼女自身思い入れのある歌についてもそうなのだが、それ以外についても割と常識人の―――であると一応は自認している―――千鶴と律子にとってはわりと頭が痛くなることも少なくはなかった。
 なお昔の彼女と最も接していたプロデューサーに言わせたらまあマシになった方だろう、とのことではあるが。

「話の流れから察するに、プロデューサーの部屋で寝起きした時に聞いたんでしょうね……」
「プロデューサーの部屋で寝起きするアイドルってなんなんですの……!」
「美希は前から割と仮眠室に入り浸ってましたし……」

 私ついていけませんわ、とその長い髪を巻き込まないように突っ伏す千鶴。

「私もプロデューサーくんの仮眠室で寝泊まりすることあるわよ?」
「知ってます。潰れた時に運んできてもらうんですよね?」
「うん、そうだけど」

 と純真無垢な笑顔を浮かべるのは百瀬莉緒。
 年長者としてどうなのかは議論が分かれるところではあるが、現状彼女や馬場このみが週に一度か二度、男性用仮眠室で寝ているのは珍しいことではない。
 彼女ら二人に関しては、大概そんな日は一日中役に立たないので、ああ何もなかったんだ……と思われるのが常なのだが。
 なお、プロデューサー氏には、過去に一度、睡眠して意識がない女をアレしてこうするのが興奮する外道なのだという嫌疑がかけられたことがあるのだが、それはまた別の話である。

「だからなんでお兄ちゃんのところで美希さんが寝起きしてるのよ!?
 そこが一番おかしいところじゃない!」
「言っても聞かない人間って最終的にそういう扱いになんのよ。
 まあどこかの誰かにも言えたことだけど」

 とオレンジジュースの入ったグラスを傾けながら水瀬伊織が視線を向けた先では、すでに如月千早は他のメンバーと熱論を繰り広げていた。

「だから私はやっぱり自分の歌声でプロデューサーに目覚めて欲しいの」
「わかります。たとえ心が離れても、たとえ一緒にいれなくても自分の歌声だけは聞いてほしい。さすが千早さんです」
「わかります。たとえ全部自分にしてくれていたことを覚えていても不安になるんです。だから形を残したい。さすが千早さんです」
「なんなん……」
「紬さんにもそういったことがあるのではないでしょうか」
「そもそも私は何故この集まりに呼ばれたのでしょうか……」

 フェアリースターズの集まりがある。
 そう聞いて、参加したのがこの金魚。
 ソワソワしながらフェアリーのFは何やらという合言葉なるものを聞き、やはりソワソワしながらこの日を楽しみにしていたら。
 のっけから先輩の惚気というか愚痴というか意味不明な話を聞かされた彼女の気持ちにもなってほしい。
 仲間だと思っていた年下の中学生も何かノリノリで話題に参加しているし。あんたのことやいね北沢。
 そりゃあ遠い目というか濁った目にもなる。
 ああ家に残してきた金魚はどうしているでしょう。今頃家に不在の自分を恨んでいるのではないか……とそんなことさえ考え始める始末。
 が、そんな思索は長くは続かない。

「でも、私聞いたのですが。プロデューサーさんとデートしたんでしょう?」
「ひぇっ!?」
「私も聞きました。噂では手を温めてもらったとか」
「はぅあ!?」
「言葉を唇で塞がれたそうね。まあ、どうでも、いいですけれど」
「なんやいね!?」

 かくして蒼い三連星の作った針のむしろに乗せられる白石紬。
 大体は話題に上っている件のプロデューサーのせいなのではあるが。
 全てを彼のせいにしてしまって逃げ出すことのできないのが白石紬なのであり。
 そもそもそんなことで逃げ出すのを許すほど、如月最上北沢の三人組は甘くなかった。

「お兄ちゃんとキス……!?」
「話半分にきいときなさいよ、本人は口を割ってないわ。
 どーせ春香あたりが話をおっきくしたんでしょ」
「伊織は豪胆ですわね……」
「口を割ってないってことは本人に聞いてるのよ……」
「あっ」
「律子?」
「はいはい、わるうございました」
「そういえば朋花と貴音はどうしましたの?」
「かたっぽはおつきの人達がここに入れなかったから。貴音はどうしたのかしら。連絡してみましょうか」

 ちなみにみちこは冒頭の千早の話の時点で顔を赤くして外に出て行った。
 さてそんなぐだぐだになっている会話の中、意を決して立ち上がる乙女が一人。

「わ、私やっぱり直接紬さんに聞いてくる!」
「なんで一番年下の女の子が一番まともに恋する乙女をやってるんですの……」
「今更ですよ、千鶴さん」

 さて。結局のところ、これはただの集まりであり、ただの会話である。
 姫たちのように共通項を以て何かを成し遂げようとして――大概暴走して破綻するのだが――いるわけではない。
 ぶっちゃけた話、千早があんな話をふったものの、話半分で別の話題に移っている者たちもかなりいた。
 というか、千早自身もすでに別の話題に移っていた。

「なるほど、着信音……!
 その手があったわね!」
「さすが桃子さんです、私にはない発想でした」
「さすが桃子。毎日のうどんのように、最も頻繁に聞くであろう音声を押さえるなんて、悪魔的発想ね」
「さすが桃子。いつも気づいたらプロデューサーさんを目で追っている女は言うことが違うわ」
「何で今度は桃子がいじられてるの!?」
「でも千早さん。プロデューサーさんの携帯の着信音を聞いたことはありますか?」
「いいえ、ないわ。いつもマナーモードで……」
「それじゃだめじゃない!?」

 ともかくも。
 妖精とは姫たちや天使たちとは違い、基本的に何か表だって行動するわけでもない。
 ただああでもない、こうでもない、と思索を巡らすものの、直接彼女らの想い人の部屋に殴り込んだり、殴り込んだアホどもを止めるために実力行使にでたりするわけでもない。
 当然ありあまる財力を持っていても、とある青年の部屋に盗聴器やカメラを仕掛けようともしないし、仕掛けようとした奴らを止めるためにやっぱり実力行使にでたりするわけがないのだ。
 つまるところ。

「私はあのくだりが気になったのですが。プロデューサーが貴音さんの尻を叩きたいという」
「ごめん……そういうのは……」
「……いや、うん。ミズキはおとなしい顔してすごいこというな……」
「なんでおしりをたたきたいんだ?貴音が何か悪いことやったってことか?」
「そういうことではないと思います……こいつら駄目駄目な気がするぞ」

 彼女らは、確かにめんどくさかったり、少々奇抜な部分はあるが、割と常識人の集まりなのである。
 ただし、一部を除いて。

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 空にはまだ月はない。
 夕日は雲と眼下を染め上げている。
 見渡せば、ネオンや街灯がそこらに光を灯し、ビルもまたその中から光を放っている。
 すぐそばの道路でも、ヘッドライトをつけたばかりの車が走り始めていた。

 午後6時。そんな時間にこんなのんびりするのもなかなかない。
 特に劇場の屋上に出てたった一人で一休み、なんてことは稀だ。
 たとえ暇があっても、頻繁にこの劇場では誰かの相手をしている。

 そういえば、なぜ屋上にでる羽目になったのか。
 田中琴葉が思いつめた顔で屋上に向かっていたからだったか。
 それとも、いつも使っているデスクの前で篠宮可憐が自分の衣類に包まれてテンションを上げていたからか。
 はたまた、天海春香に何故か自分の目覚ましについて言及されて逃げてきたからか。
 あるいは、事務仕事が終わり、飲みたいなあー連れてってほしいなーという雰囲気を見せつけてきた馬場このみに一旦冷静になる機会を与えたかったからか。

 ―――いや。

 琴葉は探し物をしていただけで。
 可憐についてはいつものことで。
 春香に聞かれてやましいことなんて特にはなく。
 このみさんと飲みにはいくつもりだった。

 じゃあ、なんなんだろうな、と思って外から屋上の入り口に目を戻すと、

「―――あなた様」

 なんだ、お前がよんだのか、とそう答えそうになった。
 浮世離れした、という言葉が大概浮世離れしている劇場の中でも最も似合う女がそこにはいた。

 四条貴音。
 苗字からして大概浮世離れしているが、名前もタカネときたものだ。
 高翌嶺の花。貴い音。まあアイドルとしては本名を芸名にしていいぐらいのインパクトのある名前である。
 昔はプロデュースできんのかこいつ、とも思ったが今は大分角もなくなって売り出しやすくなった。

「……ええ、わたくしが呼びました」
「嘘か」
「嘘です」
「心を読まれてるのかと思った」
「読心の術は未だ身に着けておりません」

 さよか、と思ったが話半分で聞いておく。
 この世は大概不思議であふれている。自分もそうだが、自分の担当するアイドルなんてもっと無茶苦茶だ。
 空に飛んでいく劇場とか一体なんなのか。劇場だけならともかく、アイドルが空を飛んだり深海にもぐったり、しまいには世界を壊したり。まあ夢の話だ。
 そんな中で、貴音は元から不思議の塊のような女である。心を読めても不思議ではない。

「実際心を読めていたらどうなんだろうな。
 俺が今何考えてるかわかるか、貴音」
「……面妖なっ!」

 突然顔を赤らめられても何がなんだか。
 別にいつも考えてることしか考えてない。
 こいつの尻ひっぱたきてえなあ、とかぐらいだ。

「……考えてることがばれてるって怖いな。
 いや可憐も似たようなことできるけど」
「プロデューサーの視線が不躾だったからわかっただけにすぎません。
 わたくしはあの者とは違います」
「すげえよなあ……こっちが発情してるのが常にフルオープンとか。
 あいつに俺の心の中がモロバレって気づいた時は人生終わったと思ったんだけど、まあなんとかなるもんだな」
「あなた様はわりと心が口から洩れていますので」

 マジかーと思って空を見上げる。まだ夕暮れ時だ。
 篠宮可憐には本気で感情発情から細かな身体情報までわりとモロバレなので、こっちもフルオープンで接していたりする。
 一応周囲に他人がいる時は気を使っているけども、それも自分が適当なので限度がある。
 まあそのせいかしらんが、最近はあっちもフルオープンになってきている。
 多分俺のせいじゃないと思う。この環境が悪いのだ。環境が。
 つまり大体社長のせい。そういうことにしとけ。

「しっかしそうかあ。こりゃその内プロデューサー業もクビになるかもしれんな」
「そうしたらわたくしもアイドルを廃業せねばならなくなるかもしれませんね」
「嘘つけ。お前は俺が辞めてもアイドルを続けるよ」
「はい、嘘です」

 そっかあ、と言ってやっぱり空を見上げる。若干日は沈みかけている。
 悲しいとも特に思わない。
 四条貴音はそういうアイドルだ。本人の中で何らかの使命のようなものがあって、アイドルをしている。
 だからきっと、自分がいなくても彼女はアイドルをし続けるだろう。
 己の使命を果たすまでは。

「ですが、あなた様はきっとプロデューサーであり続けるでしょう。
 わたくしがアイドルを続ける限りは」
「意味がわからんなあ」

 プロデューサー業に未練などない。
 やってることは楽しいし苦しいしやりがいはあるけど給料は人並みだ。
 きっと、高木という男に義理を感じていなければ、ここまでこの仕事を続けることはなかっただろう。
 アイドルは可愛いがそれだけでできる仕事でもない。当たり前だが。

「あなた様はわたくしたちにずっと一緒にいると頻繁に言ってるではないですか」
「俺が言った覚えはねえぞ。そもそもずっと一緒とか一番怖い言葉だと思うんだが」
「そうですか?心はそうは言っていないようでしたが」
「やっぱり心が読めるんじゃねえか」
「嘘です」
「嘘かー」

 ずっと一緒、という言葉をアイドルから言われることはよくある。
 アイドルというのは、テンションを限界まで高く保っていなければできない仕事だ。
 そりゃテンション高くなりゃ仲間をいとしく思うようになるし、踏み込んだ言葉もぽろっと出るだろう。
 それにしても春香はやりすぎだが。いや、俺も言い過ぎたけど。

「ずっと一緒ねえ……よく言われるが」
「あなた様はいけずです」
「やかましい。そもそもずっと一緒にいれるわけないだろ」
 アイドルったってそれこそずっと続けるわけじゃないし、俺だってその内この仕事辞めて別の仕事探さなきゃいけないかもしれん」
「その通りです」

 しかし、と銀髪を揺らして彼女は言う。

「それでも、永遠にともにいたいと思うのは間違いでしょうか」
「お前が言うとなあ……それこそ、お前の事情とか俺は何も知らんし。
 言っとくけど、俺が担当しているアイドルの中で一番先行き不安なのお前だからな?」
「ありがとうございます」
「ほめてねえよ、なんでそうなる」

 と、そこで電話が鳴る。
 携帯の着信音は、幸せを求める蒼い鳥を唄った歌。
 あるいは別れの歌だろうか。
 それを聞いて、貴音の顔は、悲しんだのだろうか。はたまた喜んだのだろうか。
 表情が動いたような気がしたが、それは読み取れなかった。

「なんだ、律子?
 ……貴音?いるぞ、こっちに。え、電話しても出ない?
 急用……でもないのか。まあいいや、はいはい。
 わかってるよ、仕事はちゃんと終わらせるって。ああ、今日までだろ?はいはい……あいよ、じゃあな」

 言って、携帯の通話を終わらせる。
 さて、そろそろ時間だろう。
 ぼちぼち仕事を再開しないと、このみさんとの飲みにいけなくなる。
 赤かった空も、間もなく暗くなろうとしていた。
 空には月。―――そう、月がのぼりかけている。
 別に、月があったから、というわけではない。ただ、風が貴音の髪を揺らしただけだ。
 それで、わかった。四条貴音は、笑っていた。

「なんだよ、貴音」
「いいえ、やはり永遠、というものはあるのものかもしれない、と思いまして」
「なんだそりゃ」
「あなた様は、その曲が好きなのではありませんか?
 ずっと、変わらず。初めて聞いた時から」
「……あのなあ」

 はあ、とため息をついて歩き出す。

「そりゃずっと好きだけどな。それでも一年かそこらだよ。
 いつかは嫌いになるかもしれないだろ」
「ええ。でもずっと好きなのかもしれません」

 ともかくも、これで妖精の話も終わる。

「永遠なんてあるはずがないって。
 そりゃあったらいいかもだけどな」
「その通りです。しかし――――」

 本当の妖精のごとく。のぼりかけた月を背に、はかなく、飛んで消えていきそうな彼女はそう言った。

「―――ふぇありーのえふはふぉーえばーのえふと、そう聞きました。
 なので、そのような思いが込められてるのかもしれない、と。
 ただ、そんなことを思ったのです」

 彼女の銀髪。月は、そこに輝いていた。


(紬「フェアリーのFはフォーエバーのF…?」あるいは、月の妖精との雑談・了)

以上です。
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