【艦これ】0と1で揺れ動く尻尾 (83)

※地の文アリ

だらだら書いていきます。よろしくお願いします

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じー。

書類整理をしていると、横から視線を感じる。

それもかなり強力な視線だ。下手したら俺に穴が開いてしまうのではないか、と思う位の。

提督「...初風、何か用か」

初風「...見てないわよ」

提督「...そうか」

提督(別に見たとか一言も言ってないんだけどな)


再び俺は手元の資料へ目を落とす。

大本営から通達された書類には"模範的な提督と艦娘の関係"と記されている。

言ってしまえば、部下である艦娘との良好な関係が築かれているかを問う物であった。

提督「良好的な関係、...ね」

隣の秘書艦をちらりと見る。


陽炎型駆逐艦7番艦、初風。

彼女との付き合いはそれなりに長いのだが、どうも掴みあぐねている所がある。

別に仲が悪いとかそういう訳ではない...と思いたい。

初風「ちょっと、こっち見ないでくれる?」

提督「...悪い」

俺から見るのはだめなのか...。


彼女を見ていると親戚に居た猫を思い出す。

基本的には此方に無関心で、用があるときだけちょっかいを出しにくるのだ。

猫の要求は至極簡単で、頭をなでろ、背中を搔いてくれ、存分にモフるがよい。

そして最後は、褒めて遣わす。

只、機嫌の悪いときに触ると、なんや?なにしとるんや?なんや用かこのボケカスゥ!!と段階的に怒っていたのが印象に残っている。

彼女はそこまで悪態はつかないものの、何かそれに通ずる様な距離の難しさを感じさせるのだ。


猫の事を考えていた俺は、無意識に初風へと手を伸ばす。

初風「!?」

初風は驚いたのだろうか、体をビクッ、と震わせると椅子をずらして俺との距離を空けた。

その距離、三歩半と少し。

初風「ちょっ、なに触ろうとしてんのよ!」

そう言いながら怒る初風はやはり件の猫にそっくりで、彼女の後ろに毛が逆立った尻尾が見えた気がした。


初風「きいてるの!?ねえ、提督ったら!妙高姉さんに言いつけるわよ!?」

提督「ふふっ...悪かったよ初風」

雪風「しれえ!雪風、報告書をお持ちしました」

執務室の外から元気な雪風の声が聞こえた。そういえばそろそろ艦隊が帰ってくる手筈だったな。

提督「おお、ありがとうな。そこに置いといてくれ。後で目を通すから」

雪風「分かりました!」

初風が猫なら雪風はなんだろうか。

やっぱりハムスターあたりか?どこまでも愛でたくなってしまう雰囲気が雪風にはある。


資料を置きに来た雪風の頭を撫でる。

雪風「しれえ、くすぐったいですよ~」

提督「すまんな、もう少しだけ我慢してくれ」

雪風「もう、しょうがないですね...えへへ」

うーんさすが幸運の女神。

暫くの間、俺は雪風を両手で構い倒した。

初風「...」


そんな俺であるが、最近新しい習慣が出来つつある。

昼休み、誰にも見つからない様に細心の注意を払いながら目的の場所へ向かう。

提督「あれ、居ないのかな...おーい」

鎮守府の裏にある茂みで、俺はお目当ての姿を探した。

ニャー

茂みの奥から泣き声が聞こえた。続いてガサガサと音を立てながら、彼女は姿を見せる。


提督「おー、よしよし。元気だったか?」

そう、野良猫である。

先日の昼休み、気分転換がてらにここら辺を歩いていた時の事だ。

どこからか猫の鳴き声が聞こえてきて、気になった俺は声を頼りに辺りを探した。

すると茂みの奥に彼女が潜んでいたのだ。

彼女はとても人懐っこく、初対面の俺にも体を撫でさせてくれた。


しかしこのご時勢、無責任に野良猫に触るのは色々と問題がある。

その時は少しだけモフらせてもらって、その場を離れた。

しかし数日たってもその猫は居なくならず、誰かに世話をされている訳でも無さそうであった。

さすがに心配になった俺は、ちょこちょこ餌をやる様になった。

そして段々とエスカレートしていき、今となっては

提督「よーしよしよし。あーーー!かわええなおまえなああああああ」

「ニャー」

この有様である。


うしろぽっけにはペットショップで見繕ってきたおもちゃ。

むねぽっけには煮干。

この男、見事に彼女の策略に嵌ってしまっていた。

でも仕方がないじゃないか。可愛いものは正義。古事記にもそう書いてある。

そして今日は大事な日でもある。ここまで手を出した以上、世話を見るのが道義と言うものだ。

彼女を抱っこすると、俺はある艦娘の元へ走った。


提督「大淀ー!猫、飼ってもいいか?」

大淀「いいわけないじゃないですか。元のところへ返してきてください」

提督「そんなー!」

おいおい、瞬殺じゃないか。

簡単に許可を貰えるとは思っていなかったが、ここまで拒絶されるとも思っていなかった。


提督「大淀、よく見てみろ。...こんなに可愛いんだぞ?」

大淀「で?」

提督「...私、この鎮守府に住みたいにゃあ~」

両膝に猫を乗せて、俺は寸劇を繰り広げる。

大淀「馬鹿じゃないですか。どんだけごねても結果は変わりませんよ」

くそっ、猫の可愛さアピールは完璧だったはずだぞ!?

反応の悪い大淀を見て、俺は即座に作戦を練り直す。

ここは情に訴える方向で行くか。


提督「頼むよ。もう名前も決めちゃったし」

大淀「余計に情が移るじゃないですか!...ちなみになんて名前なんですか?」

提督「...めけめけ皇女三世」

大淀「めけ...えっ?」

提督「めけめけ皇女三世」

大淀「いいじゃないですか、お葬式で読み上げられた時に噴出しそうな名前で。じゃあ早く返してきてください」

提督「ちくしょう、お前には血が通っていないのか!?」

大淀「提督こそいい大人なんですから分別を持ってください。今時の小学生でも提督より物分りがいいですよ」

提督「ぐぬぬ...」


俺は涙をこらえながら、めけめけ皇女三世を抱っこする。

(俺は世界を敵に回してもお前を守るぞ、めけめけ皇女三世。)

そして大きくあくびをするめけめけ以下略。

大淀「はぁ...まあ、もし引き取り手がいなかったら考えてもいいんじゃないですか?」

提督「ほ、本当か!?」

大淀「いなかったらですよ」

提督「ありがとう大淀!よかったなーめけめけ」

大淀「本当にその名前にするんですね...」

提督「くくく...お迎えできるのも、そう遠くないな?」

めけめけ「にゃぁ」


島風「てーとくだ。それ、なあに?」

猫を抱えながら廊下を歩いていると、島風に出会った。

彼女は猫に興味津々、といった感じである。

提督「野良猫だよ。もしかしたら鎮守府にお迎えできるかもしれないんだ」

島風「ふーん。...ねえ提督、私も抱っこしてみたい」

提督「いいぞ、優しくな。お尻を持ってあげるんだ」

ゆっくりと島風の方へ猫を渡す。

初めはおっかなびっくりであった島風だが、猫がおとなしいと分かるとゆっくりと猫を撫で始めた。


島風「かわいい...それになんかお日様のにおいがする」

提督「そうだろう。島風もこんなに可愛い猫が飼えたら嬉しいよな?」

島風「うん!」

(悪いな大淀、外堀は着々と埋めさせてもらっているぞ。)

いざとなったら島風をけしかけて、大淀に認めさせる作戦である。

汚いと罵ってもらっても構わない。

ここ一番の大試合であるのだから、俺は使える手なら何でも使ってやる。


島風「ねえ提督、私、ずっと妹が欲しいって思ってたの」

提督「う、うん?」

島風「この子、私の妹にしちゃだめ?」

思わぬ伏兵がいたものである。

確かに島風は他の艦娘と違って姉妹艦がいない。

やはりどこか寂しかったのだろうか、猫を撫でる島風の目には憂いが現れていた。


島風「それにね、私、妹ができたらやりたい事があるの」

やめてくれ。これ以上聞いたら島風の妹でいいやと思っちゃうじゃないか!

提督「...妹ができたら島風は何がやりたいんだ?」

一応ね?一応艦娘のお願いを聞くのも、提督の仕事だからね?

ぐらつき始めた俺の心は崩落寸前であった。

次の言葉を聞くまでは。


島風「私、この子と一緒にスカイラブハリケーンがしたいな...」

提督「スカイラブハリケーンかぁ」

いくらなんでも無茶が過ぎるのではなかろうか。

島風「ずっと夢だったんだぁ。妹と一緒にスカイラブハリケーンをするの」

提督「そうか...」

島風「この子と一緒に息を合わせて、それで私は空たかく飛び上がるの!」

しかも君が飛ぶ方か。

提督「か、考えておくよ...」

島風「本当!?ありがと、提督!!」


そう言いながら島風は猫を俺に返す。

すっかりご機嫌になった彼女は、走ってあっという間に俺の前から姿を消してしまった。

提督「どうしよう...な」

俺は抱きかかえためけめけに問いかけるも、帰ってくるのは暢気なあくびだけだった。


提督「ううう...なんで...」

島風「うっ...ヒッグ...」

翌日の昼休み、俺と島風は絶望に打ちひしがれていた。

めけめけ「にゃーん?」

目の前にはめけめけ皇女三世。

しかし、その首には昨日までには無かった"タマ"と書かれた首輪がしっかりとはめられていた。

そんな、俺というものがありながら!お前という奴は!


敷波「あー!いた!いましたよ大淀さん!」

大淀「やっぱりこうなりましたね。諦めはつきましたか、提督」

提督「ううっ...どういうことだよ...」

大淀「めけめけは野良猫にしては人懐っこすぎたんです。それに毛並み、良かったでしょう?」

提督「言われてみれば...」

確かに野良猫にしては毛並みが良かった。それにお日様のいい匂いもした。


さすがに他所様の猫を頂戴するわけには行かない。

でもここまできたら諦められない。

右手に握り締められた、真新しい首輪を触りながら俺は次の作戦へ出た。

提督「でも、島風も妹とスカイラブハリケーンがしたいって言うし...猫、飼わない?」

新しい猫を飼ってしまえばよいのだ。

執務室には通ったペットショップの雑誌がたくさん積まれている。

そこから可愛い猫を見繕えば...。


大淀「ああ、その件ですか。それでしたら」

嵐「おーい、島風!おまえ、スカイラブハリケーンやりたいんだってな」

島風「おうっ!?」

嵐「流石に妹になるのは無理だけど、それくらいならいっしょにやってもいいぜ!」

島風「ほ、ホントに?嵐ちゃん」

嵐「それに天霧の奴もやりたいってさ。これならスカイラブツインシュートだってできるぜ!」

島風「やりたい!私もまぜてー!」

提督「お、おい、しまかz」

島風「じゃあてーとく、私練習してくるね!」

提督「」

提督、我が軍から若干一命、造反が現れた模様です!

馬鹿な...これでは本陣が丸腰ではないか!


大淀「甘いんですよ提督。敵の手の内はちゃんと調べないと」

提督「くっ...」

流石我が艦隊の参謀、大淀。敵に回したらこうなるのか...。

敷波「提督、その、元気だしなよ...」

大淀「あと執務室の私物は私が片して置いたので」

提督「うわあああああああああん!!!」

傷口に塩をこれでもか、と塗りたくられた俺は耐え切れなくなって遁走した。

提督「鬼、悪魔、大淀!」

敷波「ちょ、大淀さん。そんなに追い討ちをかけなくても...」

大淀「あれぐらいしないと諦めがつかないでしょ。いいのよ、どうせ明日には忘れているから」

こうして俺のめけめけお迎え計画は、水の泡となって消えたのであった。


提督「めけめけ....めけめけ...」

摩耶「うわ、まだ言ってんのか。お前、そんなに飼いたかったのかよ」

めけめけとの別れから数日間たったが、どうしても俺は彼女を忘れられないでいた。

今となっては、あのさわり心地も泡沫となって消えてしまった。

まさにペットロス状態である。

しかも死別でない分、諦めがつかず性質が悪いのではないか。

摩耶「そんなに猫が飼いたいんだったら俺が...っておい」

提督「ちょっと行ってくる」

俺はまたあの場所へ脚を運ぶのだ。彼女がひょっこりと顔を出してくれる事を願って。


提督「いないか」

やはり彼女は居なかった。新しい主人の家が心地よいのだろう。

いい事じゃないか、めけめけが幸せならば。俺だって本望だ。

そろそろ諦めるか、と立ち上がり一つ伸びをする。

すると、ごそごそ、と茂みが揺れた。

もしかしてめけめけか?めけめけなのか!?

急に湧き上がった希望に俺は歓喜する。

そして茂みから顔をだした彼女に手を伸ばして----

提督「めけめけー!会いたか...」

初風「...に、にゃあ」


まじかよ。とんだ猫がいたもんだぜ。

綺麗な藍色の毛を携えた美少女。

いや、どこからどう見ても初風じゃないか。

仰向けになった彼女は茂みから顔だけ出して、俺の方手を伸ばす。

提督「あっ、えっと、きみは何処の、何ていう猫ちゃんかにゃ~?」

あまりの不測の事態に動揺した俺は、現実逃避を起していた。


初風は少しだけ考えた後に、

初風「えと、ここの鎮守府所属の、陽炎型駆逐艦、初風です...にゃ」

とだけ返す。

まさかのマジレスが返ってきてしまった。

提督「そっかー、初風ちゃんかー...」

初風「そうよ...にゃ」

何ともいえない空気が俺と初風の間に流れる。


なんなのだ、どうすればよいのだ!?

どうしたものか手を拱いていると、もぞもぞ初風は茂みから出てくる。

初風「よいしょっ..と」

提督「おおう...」

二足で立っちまったよ。

わかんないよ。俺、初風のことまったくわかんないよ!

普段はあんなにつっけんどんな態度をしているのに、今はこうして(おそらく)猫として俺と触れ合おうとしている。

端的にいえば、彼女は両極端すぎるのだ。


初風「で、撫でないの?」

提督「撫でていいのか」

初風「撫でていいのかって、前まであんなに撫でてたじゃない」

おそらく初風は俺とめけめけとの逢瀬を見ていたのだろう。

じゃあ、お言葉に甘えて...と俺は控えめに頭に手を伸ばす。

おそるおそる手を頭に載せる。いつもなら触んないでよ、とお叱りを受ける所だが...。


初風「...」

おとなしく撫でられているではないか。

俺は言われるがままに彼女の頭を撫でる。

さらさらの髪の毛を指で梳かす。何とも心地の良いものだ。

初風「...頭だけでいいの?」

提督「えっ」

頭以外も撫でていいのか!?

彼女の言葉に驚く俺。しかし、頭以外で撫でる所といったら...首か?

続いて首に手を伸ばす。


初風「シッ!!!」

提督「いって!」

叩かれた。思わず初風の顔を見るとなにやら目で訴えかけてくる。

首はやめな!ボディにしなボディに!

そうかボディか。

やはり首は古傷が痛むのだろう。納得するとおれは訴えかけられた通りおなかを選択することにした。


提督「じゃあおなかで」

初風「...ん」

ぺろりん、とシャツをまくる初風。

そこには白く眩しい素肌が晒されていた。

あれ、これってあんまり宜しくないのでは...?

そう思いながらも、俺の体は言う事を聞かずに初風のおなかを撫で続ける。


手に吸い付く、やわらかい肌。少し押すと反発する、ちょうどいい感触。

初風「んんっ...」

そしてちょっといけない鳴き声。

俺は初風のおなかを撫でるのに病み付きになっていた。


今日はここまで

週末にあげれたらあげます。

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投下していきます 眠い...


カァー....カァー....

提督「はっ」

カラスの声で意識がはっきりしてくる。気づけば周りはすっかり暗くなっていた。

昼休みに執務室を出たから...大体5時間位は外にいた事になる。

提督「やばい...仕事を放りっぱなしだった」

摩耶の奴、滅茶苦茶怒ってるだろうなぁ。

提督「早く戻らなくちゃ...って初風!?」

初風「フーッ...フーッ...」

目の前には服装が乱れた初風が倒れていた。

息も乱れていて、肩で呼吸をしている。

傍から見れば、如何わしい事案が起こったのではないかと言われても仕方のない絵図である。

一体誰がこんな酷い事を!


提督「おい、大丈夫か初風」

初風「わ、私は大丈夫だから...じゃあ今日は帰るわね」

提督「帰るって何処へ」

初風はおもむろに立ち上がり、ずれたスカートとシャツを直す。

そして再び座り込んで

初風「じゃあね...にゃ」

ごそごそと茂みの奥へと消えていった。

そこは無駄に猫に忠実なんだな...。


初風のお尻が茂みの中へ消えるのを見届けていると、秘書艦である摩耶の声が遠くから聞こえてきた。

摩耶「やっぱりここに居やがったか!サボりやがって、提督、お前どういう了見だよ!あぁ!?」

提督「すまん」

摩耶「はやく執務室へ戻んぞ、仕事が溜まってんだよ!」

提督「はい...」

摩耶に強引に俺の首根っこを引っつかむと、執務室へ引きずり始めた。


引きずられながらも、俺は初風の消えた茂みを眺める。

何とも不思議な時間であった。

今まで気難しい子だと思っていたのだが、今日一日で俺の彼女に対する印象はすっかり変わってしまった。

まさかあんな猫属性を秘めているとは...。

提督「フフッ...まあ今は俺が猫みたいだがな」

摩耶「あぁ?何か言ったか?」

提督「なんでもないです」


大淀「提督、聞きましたよ?なんでも仕事すっぽ抜かして摩耶ちゃんに怒られたそうじゃないですか」

提督「いやはや面目ない...」

夕飯時、俺は食堂で大淀に説教を食らっていた。

先程から大淀は示しがつかない、仮にも貴方は鎮守府の長なのですから、と俺の良心へダイレクトアタックを仕掛けてくる。

しかし俺はそれらの諌言を右から左へと聞き流し、意識を他の方へとやっていた。

無論、初風へである。


鎮守府裏の茂みで体験した出来事が、俺の頭の中を支配して止まないのだ。

当の本人である初風は他の艦娘達と談笑しながら食事をしている。

その様子はいつもの俺が知っている"初風"その物である。

だからこそ、あの時の初風との強烈な乖離が何とも言えない違和感となって、俺の心を魅了していた。

大淀「提督、あの、ちゃんと話聞いてますか?」

提督「うおっ」

急に意識の外側から話しかけられたものだから、驚いて声を上げてしまった。


大淀「やっぱり聞いてませんでしたよね」

提督「ソンナコト、ナイヨー?」

大淀「もう...」

提督「悪かったって」

大淀に謝りながらも尚、俺はまた初風の方へ視線を向ける。

すると初風も此方が気になっていたのだろうか、視線がかち合う形になってしまった。

初風「っ!」

初風は明らかに動揺しており、俺から視線を逸らす。


時津風「初風、調子でも悪いの?なんか落ち着かないけど」

初風「なんでもないわよ...間宮さん、ご馳走様!」

食器を片付けると、そのまま初風は食堂から出て行ってしまった。

大淀「...」

視線を戻すと、無言で俺を睨みつける大淀に気づく。


提督「...何だよ」

大淀「提督、隠し事してませんか?」

提督「エッ」

大淀「しかも結構ヤバめの奴」

提督「ヤダッ」

大淀「提督」

提督「ワタシ?」

大淀「惚けてもだめです」

提督「...すまん大淀、急用が出来た」

大淀「ちょっと提督!益々怪しいじゃないですか!」

大淀の追求を逃れるように食堂を後にする。


食堂を出ると、大広間で初風が一人佇んでいるのを見つけた。

提督「初風」

初風「...」

提督「あの、今日の事なんだけどさ」

初風「き、今日の事って何かしら?私にはさっぱり分からないわ」

挙動不審すぎる。

初風は視線を泳がせまくり、手汗が止まらないのか手袋をやたら服にこすり付けていた。

変なところで分かり易いな...。


提督「...にゃーん」

初風「!!」

俺は初風を煽る様に猫の鳴き真似をする。

すると初風の顔は見る見るうちに紅潮し始めた。

もう一押ししてやろう。

悪戯心を触発された俺は続いて初風を煽る。


提督「陽炎型駆逐艦、初風です...にゃ」

初風「あああああああああああああもう!何なのよ一体!」

提督「初風は提督大好き好き好き発情猫です...にゃ」

初風「そんなことは一言も言ってないでしょ!?」

提督「ん?そんなことは?」

初風「あっ」

語るに落ちるとはこの事である。

初風はついに観念したのか、諦めたように白状した。


初風「ええ、そうよ。私は馬鹿みたいに猫の真似をしていたわ。...それで、何がお望みなのかしら」

提督「いや別に。弱みを握って何かしようとは思ってないからな」

初風「そうなの...」

提督「何か残念そうじゃない?」

初風「そ、そんな訳無いじゃない!」


提督「まあ初風がいいって言うならお願いしようかな」

初風「...」

提督「また撫でても良いか?」

初風「...別に好きにすれば良いじゃない」

提督「ではさっそく」

先程と同じように初風の頭へ手を伸ばす。

しかし俺の手が彼女に触れる事は無かった。

頭に触れるまでもう少し、といった所で初風が急に暴れだしたのだ。


初風「や、やっぱナシ!ナシで!」

提督「ちょ、それはないだろ!俺もう撫でる気満々なんだけど!」

初風「知らないわよそんな事!あとそのワシャワシャする手付きをやめなさい!触ったら妙高姉さん呼ぶからね!?」

提督「そんなぁ...」

まさかのお預けを食らってしまった。しかも猫の方から。

その後、俺は初風にあの手この手で頼み込んだのだが拒否された。

初風「駄目なものは駄目だから」

非常に残念だ。


それから数日、俺はいつもと変わらぬ日常へと戻っていた。

秘書艦の初風を横目で見る。

初風「...何よ」

提督「いや、なんでもない」

あの日以来、俺が初風猫の姿を見ることは無かった。


そして俺と初風の関係も以前と変わらぬ物になっていた。

結局あれはなんだったんだろうか。

提督(初風との距離を縮めるチャンスだと思ったから、少し残念だな。)

提督「初風、そっちの資料まわしてくれ」

初風「わかった..」

初風(にゃん)

提督「ん?」

初風「な、何でもないわよ!」


提督「あーつかれた。」

長い間机に座って資料とにらめっこをしていた為か、凝り固まってしまった肩を回す。

窓から見える外はすっかり暗くなっていて、時計を見るとフタゼロマルマルを回る頃合だった。

もう他の艦娘たちは夕食を食べ終わってしまっているだろう。

提督「初風、後は俺がやっておくから帰っても良いぞ...初風?」

初風は机の上で舟をこいでいた。彼女はカクン、カクンと不規則に頭を揺らす。


提督「そんなに疲れてたなら言ってくれればよかったのに」

俺は眠気に負けてしまった彼女の体を抱くと、起さない様にゆっくりと来客用の長椅子へ寝かせた。

いつも生真面目で、あまり隙を見せない初風。

少し位頼ってくれても良いのにと日頃から思っていた俺は、思えばあの日の初風に出会った時、嬉しかったのかもしれない。

あの初風であれば、俺に甘えてくれるのではないかと期待をしたのだ。

年相応のあどけなささえ持ち合わせていない彼女を見ていると、いつか壊れてしまうのではないかと不安になる。


提督「何にも言わないんだから。なあ、初風」

俺の気も知らず暢気に眠りやがって。

やわらかそうな彼女のほっぺに指を突き立てる。やわらけえ。

初風「...あれ、私」

提督「すまん、起こしちゃったか」

目が覚めた初風は周りを見渡して、自分の置かれた状況を確認する。

そして最後に俺を見ると

初風「...にゃあ」

と一言だけ呟き、こちらへ手を伸ばした。


提督「初風?」

初風「いいわよ、撫でても」

初風「...じゃないわね。撫でて欲しい...にゃ」

確かにそれは初風だった。俺の知っている初風。

ただ、彼女の声は震えていて今にも泣き出しそうだった。

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無言で彼女へ手を伸ばす。目を細める彼女の体に触れる。

頭を撫で、前髪を梳かし、顔の輪郭を辿って...。

一通り彼女を確かめると向こうから腰に手を回してきた。

応えるように俺も手を回す。

彼女はとても暖かかった。まるで日向ぼっこをし終えた猫のように。

彼女を確かめようと抱きしめた腕に少し力を入れると、小さく声が漏れた。

自然と耳元の近くへ来ている彼女の口から、短い吐息を感じる。


初風「ねぇ...首、触って欲しいな」

提督「...いいのか」

初風「提督に触って欲しいの」

生前、彼女はブーゲンビル島沖海戦で僚艦である妙高と衝突して艦首を切断する損害を負った。

そして修理の為にラウバルへの帰投を図ったところ、敵部隊に見つかり轟沈してしまったのだ。

そこからか、今の初風は首へ少なからずトラウマを持っているようだった。


俺はゆっくりと彼女の首へ手を近づける。

人差し指と中指で擦るように触ると、ごくりと喉仏が下がったのが分かった。

初風「意外と、気持ちいいものね...誰かに触れられるのって。」

頬に涙を伝わせながら初風は笑う。

彼女から俺に向けられた初めての笑顔は、奇しくも泣き笑い顔になった。


初風「何で提督も泣いてんのよ」

提督「あ、あれ...参ったな...」

彼女に釣られて泣いていたらしい。

彼女は白い手袋で俺の涙を拭うと、ブレザーの右ポッケからある物を取り出した。

初風「はい、これ」

提督「これって...」

初風「もったいないから、貰っちゃった」

彼女からそれを譲り受けると、俺は----


"貴官に問う 陽炎型駆逐艦7番艦、初風との関係は良好であるか。"

あの日を皮切りに、俺と初風の距離は一気に縮まった。

以前では考えられなかった位に。

彼女曰く、これからは甘えられなかった分、沢山提督に甘えるから---だそうだ。

耳を澄ますと外の廊下から足音が聞こえる。そして、同時に聞こえる鈴の音。

初風「...おはよ、提督」

提督「ああ、おはよう初風」

俺は迷わず、極めて良好の欄に丸をつけた。

一旦終了です。もしかしたらもう少しだけ続くかも...

こちらのSSは一旦終了させて、後日初風視点を挙げることにしました

初風は轟沈ボイスでイメージが変わりますね...良いキャラしてると思います

会話だけで状況説明するってのがどうにも難しいんですよね
書きたい場面を地の文無しで書こうとするとテンポが悪くなるというか
だから地の文無しで書いてる方はすごいと思いますよ

まあ自分が書きたいだけってのもありますけど

めっちゃ分かりますね
ツンデレのツンの按配が程よいから、その分内面の脆さが引き立つというか
次の話でうまく補完していけたらなーと思ってます

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