【ガルパン】ケイ「アンツィオのサンダース汚染」 (20)

※地の分が少しあります。


サンダース大付属戦車道隊長ケイの朝はハンバーガーから始まる。

ビッグサイズのバンズから、はみださんばかりのパテ、
それにオニオンスライス、ピクルス、チーズ。

そこに、噛みついた瞬間溢れて零れるほどの
たっぷりのトマトケチャップ。

もはやトマト味の甘味料と言った方がいいほどの
甘味はケイの起き抜けの脳を覚醒させてくれる。

口の端についたケチャップを親指で拭って舐めとり、
ケイはスクールバッグをひっさげた。


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ケイ「で、アンツィオ汚染って何の事?」

アリサ「アンツィオから仕入れているトマトペーストは
ご存知ですか?」

ケイ「ええ、知ってるわ。アンチョビに試供品も貰ったし」

ケイ「私は甘味が足りないなーって思ったけど」

アリサ「……隊長は馬鹿舌だから」

ケイ「何か言ったー?」

アリサ「ノー、マム。近年のロハスブーム、自然食ブームで
今いくつかの学園艦で大人気なんです」

アリサ「もともとアンツィオでの生産数も少なく他校も
争って買うので転売する輩まで現れる始末」

アリサ「いまではトマトペースト一瓶と同じ重さの
硬貨で取引される、なんて話」

ケイ「大航海時代のコショウじゃないんだから……」

アリサ「ともかく、需要に供給が追い付いていないのが
現状なんです」

アリサ「そこでここはアンツィオと大量購入の契約を結んで
アンツィオの生産力そのものを底上げするべきかと」

ケイ「んー、別にそれはいいんだけどさ」

ケイ「汚染、なんて物騒な単語を使う問題かナ」

アリサ「……厄介なことに一度アンツィオ秘伝のトマトペースト
に鞍替えした生徒はそれ以外では満足できなくなって」

アリサ「サンダース農業科印のケチャップがさっぱり
売れなくなって、関税をかけろなんて声まで」

ケイ「それで汚染、か。嫌な話だけど、地場産業も
大切なことだからねー」

ケイ「私は農業科とお話したいから、買い付けのほうは
ナオミに任せようかな」

アリサ「あ、いえ、ナオミは……」

ケイ「どーかしたのー?」

アリサ「ナオミは、今、療養中で……」

ケイ「え、嘘!? 言ってよモー! 今のだって
大事な話だけど、仲間の病気より優先することじゃないよ」

ケイ「お見舞いに行かなくちゃ」

アリサ「い、いえ。ナオミは、今私の部屋に」

ケイ「あれ? アリサが看病してたの?」

ナオミ「(くっちゃくっちゃ……)」

ケイ「な、ナオミ……? 生気が抜けてる、ケド……?」

ナオミ「トマト……ペー、す、と」

ケイ「あ、アリサ、これはいったい」

アリサ「わ、私が……私が悪いんです! 最近
トマトペースト中毒の子が多いって聞いて」

アリサ「ナオミは無頓着に見えてこだわりは分かる、
みたいなキャラ作ってるとこあるから!」

アリサ「隊長と違って違いの分かる女なんでしょって……」

アリサ「面白半分で……チリやらオムライスやら
振る舞ってるうちに……すっかり……中毒に……」

ケイ「え、まずそんな話私全く知らないのに
軽く疎外感覚えるんだケド……」

アリサ「もうアンツィオのトマトペースト味以外
なにも受け付けなくなって……」

ケイ「そんなこと……ほらガム噛んでるでしょ?」

アリサ「ガム……? っ! ナオミ! すぐ吐き出して!」

アリサ「トマトペーストの、瓶のラベル……こんなものまで」

ケイ「ヒェっ」

アリサ「ごめんね……ごめんねナオミ……私がすぐ
買ってくるから……二万もあったら一瓶位……」

ケイ「ちょ、ちょっとアリサ! たかがトマトペーストに
そんな値段……」

アリサ「でも……私のせいですから……ナオミ……
大丈夫よ……無線傍受器売ってお金作ったらすぐに……」

ケイ「あ、それは売っておくべきかも……いやそうじゃない!」

ケイ「トマトペーストは私が何とかするから!
アリサはナオミの看病をお願い!
いい!? はやまっちゃ駄目だヨ!?」 

ケイ(とは言ったものの、アンツィオと航路が重なるのは当分
先なのよね……)

ケイ(何処かで安く手に入ればいいんだけど)

ケイ(……次に接近交流予定のある学園艦は……黒森峰ね)

  



ケイ(ワッツ!? ここはほんとに黒森峰?)

ケイ(あちこちに出ているブルストやノンアルビールの屋台)

ケイ(オクトーバーフェスでもないのにこの浮かれ振り……)

ケイ(これじゃまるでアンツィオだわ……)

まほ「やぁ、ケイ。待たせたな」

ケイ「急な訪問にも関わらずありがとう、マホ」

ケイ「にしても驚いたわ。なんだか随分にぎやかになったのね?」

まほ「ああ、実は学園艦のメンテナンスで半月ほどアンツィオと
港を共にしてな」

まほ「折角の機会だからと学園艦をあげて交流したんだ」

まほ「アンツィオはいいな……数々の史跡……
出会う人みな陽気で優しく……」

ヒトツモラオウ……プシッ……ゴクゴク……

まほ「っは。将来はアンツィオの学園艦職員というのも
悪くはないかもしれない……」

ケイ(平然とノンアルコールビール空けたヨ!?)

ケイ「えーと、それでね、マホ。事前に伝えた通り
アンツィオのトマトペーストを少し融通して欲しい
って話なんだけど」

まほ「ふむ、我が校でも大人気だからな。
すこし予備を含めて買い付けてあるが……」

まほ「なにせサンダースの消費量ではな。
此方が融通できる分では焼け石に水だろうな」

ケイ「当座の分だけでも十分よ。どうせ
アンツィオと本格的に契約はしなきゃいけないだろうし」

まほ「そういう事なら……む、すまん電話だ」

まほ「……ああ、うん、そう……え!?」

まほ「すまないケイ。少し事情が変わった。
とりあえず倉庫まで来てくれ」

ダージリン「一足遅かった様ね、ケイ」

ケイ「ダージリン!? なんでこんなところでお茶会を?」

エリカ「すみません隊長……ケイさん。
まさか同じ要件だと思わなくて」

エリカ「余剰分のトマトペーストは全て聖グロリアーナに
売却する契約をしてしまいました」

まほ「すまない。ほうれんそうの不備だ」

エリカ「いえ、連絡も相談も昨日したんですけど隊長は
あの時ノンアルコールビール飲みながらアンチョビさんの
ライブDVD見てひどくご機嫌だったので」

まほ「……」

ケイ「それにしてもダージリンが……? こう言っては
何だけど、ウチなみに食事には拘らないと思って
たんだけど」

ダージリン「ごめんなさいね。あぶらげを掠めるような
真似をして。お詫びに紅茶はいかがかしら」

ケイ「早い者勝ちだし仕方ないわ。あら、珍しい
ロシアンティーね……トマトペーストだヨこれ!?」

ダージリン「そう、わが聖グロリアーナではスプーンで
トマトペーストを含んでから紅茶を飲むナポリタンティーが
ブームなの」

ケイ「ナポリの人に謝ろうかダージリン」

ダージリン「もともと茶葉が切れると禁断症状を
起こしていた我が校の生徒は今では二重の禁断症状に
苦しむ有様」

ダージリン「トマトペーストの確保は我が校も急務なの」

ダージリン「このままでは安定したトマトの供給の為に
東アンツィオ会社を立ち上げなければならなくなるわ」

ケイ「そ、そう……お大事に……でも弱ったわ。
そうするとウチはどこから……」

まほ「そういえば、トマトペーストの話をすると
カチューシャがプラウダには腐るほどあると言っていたな」

まほ「ただの売り言葉に買い言葉かと思ったが……」

ケイ「サンキュ、マホ。あたるだけ当たってみるわ」

カチューシャ「アンツィオのトマトペースト?
ああ、たしか買ってたわね、ノンナ?」

ノンナ「ええ、ボルシチの素材の一つですからね。
アンツィオに限らず色々な学園艦のものを仕入れています」

ノンナ「トマトは寒さに弱いですからね」

ノンナ「寄港地や航路の関係上プラウダではあまり
栽培していません」

カチューシャ「でもあれってそんなに執着するものかしら」

カチューシャ「カチューシャも最近食べたけど
それほどおいしいとは思わなかったわ」

カチューシャ「というわけでコンテナごと持ってって
いいわよ」

ノンナ「いえ、カチューシャ。プラウダではそうでも
ありませんがいまアンツィオのトマトペーストは
空前の品薄状態」

ノンナ「需要には相応の価格というものが存在します」

ケイ「分かってるわ……」

カチューシャ「ま、その辺はノンナに任せるわ。
それよりケイ、せっかく来たんだからお茶くらいは
ご馳走するわよ」

カチューシャ「ロシアンティーでいいわよね」

ケイ「……普通のジャムね」

カチューシャ「え、そりゃそうよ?」

ケイ「ソーリー、何でもないわ」


サンダース生「やられましたマム! 購入したトマトペースト、
全部賞味期限から一年過ぎてます!」

ケイ「なんですって!?」

カチューシャ「プラウダの倉庫で凍ったり溶けたりで二年くらい
保存してたものだけど」

カチューシャ「ボルシチで煮込んで食べたら別にお腹壊さなかった
から大丈夫よねノンナ?」

ノンナ「プラウダ的に全然問題なしですカチューシャ」

ケイ(プラウダから買った分は誰も食べないように
連絡を出したけど)

ケイ(定価よりは高い値段を出してこれじゃ……)

ケイ(いっそ禁止令を出すべき……? でも……)

サンダース生A「ああ、鉄板ナポリタン食べたい……」

サンダース生B「アンツィオのピッツァが食べたい……
サンダースピザなんてもう食べらんない……」

サンダース生C「ねぇねぇお姉さん。本物のトマトペースト
欲しくないかい? あるルートから入手できたんだけどさ。
戦車道の選手にだけ特別……」

ケイ(思った以上に依存が進んでる……このままじゃ……)

ケイ(お腹減ったわ……空腹で物事を考えてたらどんどん
アンハッピーになる)

ケイ(ハンバーガーでも食べてガッツを入れましょう!)

ケイ「サンダースサイズ一つ。ケチャップたっぷりね」

バーガーショップ店員「申し訳ありません……今アンツィオ
トマトペーストは切らしてまして……」

ケイ「普通の、サンダース印のケチャップでいいんだってば。
私はそっちが好きなの!」

バーガーショップ店員「……えっ?」

ケイ(信じられないものを見る目……)

……戦車道の……ほらあの人……舌だから……

ケイ「…………」

ケイ(美味しいじゃない……何がいけないの……?)

サンダース戦車道女子「ここにいた! 大変ですマム!
ナオミさんが緊急搬送されたって!」

ケイ「要因はやっぱり賞味期限切れのトマトペーストですか?」

サンダース保健科「そうとも言なくもないですが、たんに過剰摂取ですね」

サンダース保健科「トマトペースト一瓶食べつくしたら、
そりゃ普通吐きます。あえてカルテにかくなら胸やけです」

サンダース保健科「で、吐いたのが血だと思われたらしく緊急搬送」

アリサ「…………ごめんなさい、ごめんなさいナオミ」

ケイ「アリサ……あのトマトペーストは駄目って言ったでしょ」

アリサ「でも、マム。ナオミが苦しんでたんです……」

アリサ「トマトペースト頂戴って、これが最後にするからって」

アリサ「苦しんでたんですものぉ……!」

ケイ「………………」

サンダース保険科「あ、これ以上手に入っても一気には
食べないでくださいね。普通に身体に悪いので」

アンチョビ「やーやー、ケイ。久しぶりだな。元気だったか?」

ケイ「……白々しい」

アンチョビ「ん? すまん聞こえなかった」

ケイ「いえ、何でもないわアンチョビ。今日はビジネスの話なの」

アンチョビ「聞いてるぞ。うちのトマトペーストだな。
サンダースほどの大口の顧客が取れるとは」

アンチョビ「私も営業したかいがあるよ。農業科の奴らも
喜んでてなぁ。時間があれば会って行ってやってくれ」

ケイ「折角だけど……一刻も早く持って帰ってあげたいから」

アンチョビ「そうか、そう伝えておくよ。きっと喜ぶ」

ケイ「…………」

サンダース生A「ヒャッホーゥ! アンツィオのパスタは
最高だぜぇー!」

サンダース生B「やっぱアンツィオのピッツァが一番ね。
トマト味が上品でこくがあって……」

ケイ「…………」

アリサ「ナオミ、良かったね。隊長がトマトペースト
買ってくれたよ……」

アリサ「さ、もう一気に飲んじゃ駄目だからね」

アリサ「哺乳瓶に詰めてあげたから、ちょっとずつ
ちゅっちゅしようね……」

アリサ「美味しい? そう、良かった……はい、
ちゃんとげっぷもしようね……」

ケイ「……………………」

アンチョビ『実はさ、日頃のご愛顧に応えるって事で
新商品を作ったんだ』

アンチョビ『サンダース好みに、酸味を抑えて甘みを引き出した
アンツィオトマトケチャップ』

アンチョビ『あいつら、自分たちのトマトを気にいってくれた
サンダースの人たちに少しでも応えたいって毎日頑張って……』

アンチョビ『気に入ってくれると嬉しいよ。感想頼むぞー』

ケイはテイクアウトしたハンバーガーを手に取る。

冷め切り、レタスに力はなく、チーズは溶けてこびり付いている。

バンズを剥がすと、パテの上の既存のケチャップを紙ナプキンで
無造作に拭い取る。

そして、持たされたアンツィオのケチャップを、パテの端から
零れて垂れるまで掛けると。

バンズを戻し、齧りついた。

以上です。お目汚し失礼しました。

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