美琴「傍にいて」 (166)
以前書き溜めておいた上琴ssを投下してみる。
文才無いですが暇なら付き合って頂けると幸いです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376062053
時刻は午前四時。外は暗闇に光を射した群青の空が支配している。
まぶたを半分開いた美琴が最初に見たのは、グレーのTシャツを着た上条の後ろ姿だった。
「……おはよう」
呟くような美琴の挨拶は彼にしっかり届いたようで、男性らしいがっしりとした体をびくっと震わせた後、上条は振り向いて微笑みながらお早うを返した。
「……どこか行くの?」
「ん。ちょっと走りにな」
灰色のシャツに短パンと、彼の服装は明らかに外出用の格好であり、「運動に行く」と言えば100人中100人が納得するだろう。
しかし、美琴は不満げに上条の顔をじっと見つめる。
別に浮気などを警戒しているのではない。
そもそも彼にそんな器用さが無い事など百も承知である。
彼女が気に入らないのは唯一つ。
「私を置いてくの?」
忘れていたけど上条美琴同居設定でお願いします。
「美琴も来るか?……って無理だよなぁ」
「他人事みたいに言わないでよ……っう……」
顔をしかめて呻きながら美琴は言う。
明日は日曜日だ。という事で調子に乗り、夜の魔翌力と一時の情熱に身を任せた結果がこれだ。
同じ衝動を感じた筈なのに、上条の体はランニングに行く程ピンピンしており、反対に美琴の方はまともに立てない程の腰痛をその身に宿している。
男女の体のつくりの違いもあるが、あれだけ動いてなお準備運動として前屈をしている上条は、レベル5(超能力者)の彼女からしても異常だった。
「んー。なら四時半までには帰ってくるから、それまで待っててくれよ。いいか?」
上体だけ起こした美琴の柔らかい髪をくしゃっと撫でて、子供を宥めるような口調で上条は愛する我が儘少女の説得を試みる。
いつもは一時間異常外を出歩く彼にとっては、出血大サービスの譲歩だ。
だが、
「傍にいて」
「いやでもこれ日課」
「傍にいてよ…当麻ぁ」
上条の腰にしがみつき、潤んだ瞳で上目を遣うという悪魔のコンボに、彼の出血大サービスは全くの無意味であった。
美琴の目を見ないように不自然に顔を逸らしながら腕を組んで考えた結果、上条はとりあえず洗面所に向かう事にした。
数十秒後、白のシャツやら下着やらを色々取り揃えて美琴の前に置いた。
「やっぱ今日は二人で散歩だ。服着たら行こうぜ」
その言葉を聞いた美琴は、嬉々として眼前の着替えに手を伸ばす。
いかに彼女と言えど、女性の着替えを見るのは失礼だと思い、上条は美琴に背を向けた状態でベッドに座っている。
彼の場合、体質で不本意でも見えてしまう事があるのだが。
「お背中をどうぞ、お嬢様」
美琴をおぶる体勢になり、ふざけて上条が言ったジョークを、美琴は笑って受け止める。
首に細い腕が絡んだのを確認すると、何事もないように上条はすくっと立ち上がった。
「ひゃっ」と小さい声で驚いた美琴をくすくすと笑うと、背中に微量の電撃が走った。照れているらしい。
午前四時三十分、部屋を出て散歩が始まった。
美琴にルートを聞いたら、「どこでもいい」との答えが囁くように帰ってきたので、いつも自分が走るコースを歩いて、最後に自販機のある公園に着く道を選んだ。
いつもの喧騒の無い学園都市を、上条は美琴をおぶって歩く。
季節は夏だが、この時間帯に吹く涼しい風が上条は好きだった。
いつになく上機嫌なのか、美琴が耳元で話しかける。
「ねぇ、私重くないわよね?」
「体重は軽いけど愛はかなり重いな」
「もっと重くして、離れられなくしてやるわよ」
「はは。是非ともお願いしますよ」
「……離れないでよ?」
そうだ。依存症なんだ。
上条当麻という人間は、自分を苦しめる病にして、自分を楽にさせる薬でもある。
「病的なまでに愛する」という言葉があるが、今の彼女が文字通りその状態である。
冥土帰しでも直せない、不治の病。
彼女は、治すつもりはないらしいが。
午後五時十五分。
誰にも知られない二人の散歩は、最後の目的地である公園にたどり着いた。
背中の美琴を茶色のベンチに下ろして、ポケットから300円出して自販機に投入した。
自販機に向かう時点で「嫌な予感がする」と感じていた美琴だったが、案の定それは当たるもので、目を向ければ自販機に頭で寄りかかって
「不幸だ……」
と、ぼやく上条の姿があった。
念の為と持ってきた美琴の150円のお陰で、何とか水分不足は免れた。
「本当にアンタはいらないの?」
「いらないも何も、それ美琴が買ったやつだからなぁ」
スポーツドリンクを飲む美琴の横で、上条が大きな欠伸をする。
その時、美琴の頭に名案が浮かんだ。
「あの……美琴さん?上条さん何か悪い事したでせうか?」
顔に汗を浮かべて困惑する上条。
その膝の上に、美琴が座っている。
「飲ませてあげよっか?」
「へ?」
美琴はドリンクを口に含むと、ためらいなく上条に口づけた。
上条の喉を、甘いドリンクが流れ落ちる。
溺れてしまいそうなキスは、美琴の口内のドリンクが無くなっても続けられた。
ゆっくりと唇を離し、にやにやと笑って彼女は尋ねる。
「もう一杯、いる?」
呆然としていた上条だが、しばらくすると観念したように溜め息をつき、主導権を握る美琴に注文した。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
帰宅後、美琴はベッドで手足をばたつかせて激しく悶えていた。
言うまでもなく朝の事なのだが、自分でもペットボトル半分250ml使ってしまったのはまずかったと自覚していた。
唯一の幸運は、公園に誰も来なかった事だろう。
そんな美琴とは裏腹に、上条は密かに次回の散歩の計画を立てていたのだった。
深夜のテンションで恥ずかしい物投下してしまいました。後悔はしています。
何か本当にすいませんでした。
乙 これは良い上琴 続くよね?
>>10
ありがとう。
他にメインのssがあるからそれが詰まったらまた書こうと思います。
良かったら誰か他の上琴書いてもどうぞ
ファミリーレストランのボックス席に、三人の青年が座っている。
その中の一人、机に突っ伏したまま動かない上条当麻を、向かいの浜面仕上と一方通行が奇異の目で見つめているという、かなり可笑しな状況だった。
一方通行の携帯に、『奢ってくれ』といった内容の上条からのメールが送られてきたのは、午前十一時過ぎの事であった。
『飯に付き合ってくれ』というメールはよく送られてくるが、上条が自分からご馳走になる事はこれまで殆ど無いパターンだったので、とりあえずドリンクバー要員の浜面を呼び寄せて三人になり、今に至る。
ウェイターが来たのでドリンクバー3つと上条の為に腹に溜まる料理を5、6品注文すると、ウェイターは手元の端末にオーダーを書き込んで愛想のいい笑顔と共に去っていった。
「……ンで、その情けねェ格好は何だよ」 「あのシスターちゃんは、今は大将がいた高校の寮の筈だろ?」
全ての騒動が終わった後、インデックスは上条の高校に入学して勉学に励んでいる。 よって彼女にも学園都市から生活費が与えられ、上条がインデックスの為に食費をすり減らす事はなくなった。
なくなったのだが、原因はそれではない。
「超電磁砲……オリジナル絡みかァ?」
当たり、とばかりに一方通行に人差し指を向ける。
浜面が3つの飲み物の入ったコップを持って席に座った。
自分はコーヒーを取り、上条に烏龍茶を勧めた一方通行は、話の根幹を聞きだすべく、正面の上条を促した。
「いい加減言えよ上条。オレは気が短けェンだよ」
「あぁ……うん。はい」
空返事してボックス席のソファにもたれかかり、ポツポツと上条は一連の騒動を語り始めた。
「浜面。俺この前お前に本借りたよな?」
「あぁ。あの本な」
「ベッドの下に隠しておいたんだけど、美琴が俺が学校行ってる時に見つけちまったんだよ」
あの本とは、あの本である。どんな本かは、隠し場所から推察してもらいたい。
「そんで俺が帰って来たら玄関に本持って仁王立ちしててさ、
「この本は何なの?」
って帯電しながら淡々と聞いてくるんだよ……
いやぁ怖かったぜ。心なしか目のハイライトが消えてる感じがしたし」
この世の終末を迎えたように、上条は両手で頭を抱えながら話した。
異常に震える身体と声音からして、よほど恐ろしい思いをしたのだろうと浜面は考えた。
「それでェ?まさかそンだけでくたばるテメェじゃねェだろォ」
手を頭の後ろで組んで、それまで話に興味なさげな態度をとっていた一方通行が、さらに上条に告白を促す。
はぁー、と大きな溜め息をつき、上条は至って簡潔に不調の原因を口に出した。
「その夜、朝まで美琴にこってり搾られて今に…痛っ!何すんだ!」
「今に至る」を言わせずに、立ててあったメニュー表で一方通行は力の限り眼前のウニのような頭をぶっ叩いた。
能力無しでは彼の力は街中の一般学生にも劣るが、それでも痛いものは痛い。
頭を押さえる上条に構わず、今まで聞いてきた分を返却するがごとく、凄まじい勢いで彼はまくし立てた。
「そンなンテメェの自業自得じゃねェか!こちとら相談位は乗ってやるかとか思って聞いてやったのに「搾られた」だァ!?
フザケた冗談も大概にしやがれ三下がァ!」
「非道い!上条さんに腎虚になれと!?」
「既に空っぽの頭持ってンだろ?後一つぐらい空っぽになっても死にはしねェよ!」
「落ち着け一方通行!ここ店の中だから!」
二つ空っぽでも大丈夫という謎の超理論を繰り出した一方通行を羽交い締めにして、浜面は能力を使われる前に彼の頭に上った血を下げようとした。
足を何度も踏まれたものの何とか事態を鎮静化させた浜面に、周囲の人々は密かに拍手を送った。
「まぁ内容はともかく大将だって真剣な訳だし、そこを解ってやってくれよ」
「チッ……」
話を仕切り直す浜面。事件の一端は、遠慮した上条に半ば無理矢理本を5冊無期限で貸した彼の所為でもあるのだが。
「でもそれ位で良かったじゃんか。俺なんか見つかった日には滝壺に一週間監禁食らったからなぁ」
「えっ?」
「こういう手錠みたいなのつけられてさ。いや流石に外の空気を一週間吸えないのは辛かったぜ」
身振り手振りをつけながら、笑って話す浜面。
本人は笑い話のつもりらしいが、聞いている側は笑う所の話ではない。
「学園都市の女はこンなンばっかかよ……」
話し終えて「あれ?つまらなかった?」と尋ねる浜面の横で、せめて打ち止めにはこうはなって欲しくないと切実に思う一方通行だった。
『お仕置き』編、完。
今日は後一つ投下して寝ようと思うけど、
・風邪の上条さん
・暑い日の話
どっちにすればいい?
とりあえず票の多い暑い日を書きます
他人に首を横に振られるのは決して良い気分ではないが、扇風機だけは別だ。
シャーペンを握りしめて進まない課題と格闘する上条は、ふとそんな事を考えた。
色々な事情でクーラーのついていないこの部屋に唯一清涼をもたらすオアシスとして、彼は必死に首を振って働いている。働いている筈なのだ。
「美琴。俺の所に風が来ないんだけど……」
「気のせいよきっと」
上条が後ろのソファに転がっている美琴を振り返ると、何と扇風機は労働を中止して彼女の方へ顔を向けたまま涼しい風を送り続けていた。
無言でスイッチを弄ると、扇風機はまた首を振り始めた。
「何すんのよー」
不満げな声の後、美琴はソファの前の上条に抱きついた。
たまらず上条が声をあげる。
「美琴さん。熱いです」
「折角だから外で見せつけてやりましょーよ」
「そんな格好で外行く気か?」
そんな格好と言われ、美琴は改めて自分の服を見た。
いつもの短パンと、上条から勝手に借りた黒のタンクトップ。
「あー……確かにこれは……マズいわね」
彼の服は、美琴の上半身を包むにはいささか大きかった。
こんな状態で黒子にでも出会ったら、そこら一帯に血の雨が降り注ぐだろう。
(それに、やっぱ外も暑いしね)
外出を勝手に諦めた美琴は、ソファを下りて冷蔵庫へ向かった。
やっと帰ってこれたー!再開します。
「サイダー?」
美琴が冷蔵庫から持ってきたのは、ペットボトルに入った二本のサイダー。
まさか!とこの前あった出来事を思い出し、上条は反射的に口を手で塞ぐ。
その仕草の意図を理解して、顔を赤らめて美琴は上条の考えを必死に否定した。
「ち、違うわよ!?そうじゃなくてこれで……これで涼しくなるのよ!そう!」
動揺を隠すように、上条の顔にペットボトルを突きつける。
「それで、どうやって涼しくなるんだよ」
この前は半分しかできなかったので、その4倍を心のどこかで期待していた上条は、目の前のペットボトルを取って美琴に訪ねた。
「んー。とりあえずお風呂場でやるからついて来て」
踵を返して上機嫌で洗面所に向かう美琴を見て、子どもの遊びに付き合う親の気持ちで上条はゆっくり立ち上がる。
その瞬間、彼の頭に一つの言葉がフラッシュバックされた。
お風呂場?
これはもしかして、さらに凄い事になるんじゃないのかと、また新たに上条の期待が生まれた。
これはもしかして、さらに凄い事になるんじゃないのかと、また新たに俺の期待も生まれた。
凄いえろい事になっちゃってもいいのよ
>>34、>>35
残念ながらもう少し待ってもらう事になるな。
「何でサイダー振ってんだ?」
不安9割、期待1割で洗面所に来た上条が見たのは、黙々とサイダーを振り続けている美琴。
そんな事をしたら、美味しく飲めないではないか。
「ビールが無かったから、サイダーで代用よ。
ほら、あのよく野球の試合後にやる奴」
なるほど、と何となく美琴のやりたい事を理解した。
つまり、『ビールかけ』をやりたいのだろう。
確かに涼しそうだが、上条は乗り気ではない。
「上条さんとしては、あまりそういう食品を粗末にする事はしたくないのですが……」
「えー?楽しそうじゃない?」
振る手を休めることなく美琴は駄々をこねる。
実際上条が正論なのだが、学園都市の平均気温を軽く上回ったこの状況で、判断力も幾分か鈍っているのかもしれない。
ならば、と美琴は最後の手段、奥の手を見せた。
「お願い!お礼に何でもさせてあげるから!」
「何かいかがわしいなそれ……」
お願いの見事な受け身態勢を見た上条は、渋々ビールかけごっこを了承した。
両手にスナップを効かせてペットボトルを振りながら上下運動を加えて、シェイカーの真似事をする。
何それ教えてと頼む美琴に「また今度な」と返して、風呂場に足を踏み入れた。
「でもやっぱ二人じゃ盛り上がらな……ぶふぉ!」
美琴の方を振り向いた上条の顔を、突如水飛沫が襲った。
この場合は、サイダー飛沫と呼ぶのが正しいのかもしれないが。
幾多の修羅場を潜り抜けた上条も不意打ちにはたまらず尻餅をついた。
顔を拭うと、美琴が自分を指差して大爆笑していた。
「あはははは!面白い反応!」
その時、美琴でも見逃すほどの一瞬、
上条の口端が、歪んだ。
素早く後ろのシャワーに手を伸ばしてツマミを捻り、標準を定めて水を発射すると、「きゃっ!」という可愛いらしい悲鳴と共に美琴が笑っていた上条と同様に尻餅をついた。
「あー楽しいなー」
無表情で上条は呟いた。その手にあるシャワーは、まだ水を吹き続けている。
実際、心のどこかでこの行為を楽しいと感じる自分がいた。
ツマミをまた捻って水を止め、サイダーを持って座り込んだ美琴に近づいた。
屈んで目線を同じ高さにし、とうとうペットボトルのキャップを開けた。
勢い良く噴き出すサイダーは、美琴の小さな体を瞬く間に濡らしていく。
口だけ笑って上条が囁いた。
「何でもさせてくれるんだよな?」
「ち、ちょっと待って……ひゃん!」
美琴の制止を振り切って、舌を美琴の細い首に這わせる。
「甘いな……もっと欲しい」
「だからここじゃ駄目だって……ふあっ!?舐めるなぁっ!」
「三下ァ。この前借りた龍騎のDVD返しに来たぜェ」
チャイムも鳴らさず、白い紙袋を持って一方通行が上条の部屋のドアを開けた。
しかし次に聞こえたのは上条の声ではなく、恐らく御坂美琴の物であろう嬌声だった。
瞬間的に思考回路をシャットダウンして、玄関にDVDの入った紙袋を置いて
「お邪魔しましたァ」
とだけ言ってドアを閉めて部屋を出た。
この間約3秒である。
「バカップルもあそこまで行くとなァ……」
誰にも聞かれない小声で、一方通行は静かに呟いた。
『暑い日の話』編、完。
にしたいところだけどやっぱ続き書こうか?
よーし頑張るぞー
リップ音が、狭いバスルームに何度も響く。
水を吸った美琴のタンクトップは上条が脱がされ、上半身無防備な状態で胸の先端を舌で弄り回されている。
サイダーの糖によるべたつく感覚と、上条の赤い舌の柔らかさが彼女の快感を高める。
一方の上条の頭からは、部屋の鍵がかかっていない事や一方通行が今日DVDを返しに来る事などはすっぽり抜け落ちており、ひたすら目の前の少女の甘い場所を探す事に執着していた。
首筋から始まり、顔、鎖骨、指ときて今に至るという訳だ。
「はぁ……」
右胸から唇を離すと、美琴の艶やかな息とリップ音が共鳴する。
すかさず左胸に唇をつけ、強く吸い上げた。
「……っ!」
美琴の身体がビクンと一回震え、左胸から伝わった刺激が全身に回る。
そんな事はお構い無しに、赤子のように唇と舌を巧みに使って上条は味を確かめる。
「ん……ここも甘いな」
「やあっ……何言ってんのよ……ひゃあっ!?」
快感を得る為左胸に全神経を集中させていた美琴は、急に下腹部から来る衝撃に驚いた。
恐る恐る下を見ると、自身の秘部はそれを覆う物を失って既に外気に晒されており、その中で蠢いているであろう上条の二本の指も見えた。
それを察した上条は二本の右手の指を引き抜いた。
分泌された液体のせいでぬらぬらと光る指を、見せつけるように舌で舐め上げる。
変に扇情的なその仕草に、美琴は思わず顔を背けた。
上条は美琴を抱きかかえ、自分の元に座らせると、指での愛撫を再開した。
「生はマズいから指で我慢してな」
右手の二本の指は最奥に達し、バラバラに動いて美琴を惑わせる。
緩急をつけて行われる行為は、優しく彼女を苛んでいった。
「ぅあっ…や、ぁっ…」
指の動きとの相乗効果で嬌声が増し、それに合わせてさらに指が激しく責めたてる。
玄関から誰かの声が聞こえたが、構わない。
美琴の喘ぐ声と、ぐちゅぐちゅと鳴る水音が、今の二人の聴覚を支配している。
もうそろそろかな、と呟くと、上条は人差し指と中指の動きを連動させ、彼女が最も反応した場所を突く。
腕の中の美琴が、再び強く震えた。
「ひっ、あ、やだっ、あっ、んあっ!」
「あ、そういえば指は初めてだっけ?」
「それ、んっ、今言う事!?あうっ、ふやぁっ!」
最早目を瞑って耐える他ない美琴の中で、上条は強い力で人差し指を曲げる。
それが、引き金となった。
「ーーーーっ!」
シーツの代わりに上条の服の袖を握り締め、両足の指を丸めながら、美琴は達した。
脱力感から上条に体を預けると、子どもを褒めるように頭を撫でられた。
午後7時
上条当麻は、玄関に置かれた白い紙袋を前に激しく後悔していた。
中を見てみると、一方通行に貸した筈のDVD。
最中に玄関から聞こえた声は、彼の声だった。
覗かれはしなかった筈だが、恐らく聞かれただろう。
「美琴には絶対言わないでおこう……」
奥のベッドで幸せそうに眠っている美琴を思い出し、上条は次に一方通行に貸す筈のDVDが勝手に抜き取られていた事に気付いた。
『暑い日の話』編、完。
真っ昼間から何やってんだ俺。
10時位から 『風邪の上条さん』編を投下しようと思います。
寝落ちもあり得るのでご容赦下さい。
「38度6分!?アンタそんな熱で学校行こうとしてたの!?」
差し出された上条の手から体温計を取った美琴が言った。
上条はというと、無理やり美琴に寝間着に着替えさせられ、額に解熱用のシートを貼られている。
馬鹿でも風邪は引くんだな、と彼は心中思った。
どうしてこのような状況になったのかというと、発端は先日の風呂場での一件にあった。
あの後寝室に戻って体も拭かずに二回戦を始めた事が原因だろう。
朝起きた上条を襲ったのは、激しい頭痛と倦怠感、咳等々。
気のせいだと自分で処理して学校に行こうとした所を朝食を作っていた美琴に止められ、現在の状況となっている。
「何か食べたい物ある?」
「アイス…………何味でもいいから」
自分の紅い顔を覗き込む美琴に、途切れ途切れで上条は自分に籠もる熱を冷ましてくれそうな物を注文した。
分かった。と二つ返事で了承し、上条の頬に唇を落として美琴は部屋を飛び出した。
「感染ったりしないよな……」
誰も居なくなった部屋で、風邪引きの声が静かに生まれて消えていった。
今日がアルバイトの日でなかった事に感謝し、枕元の携帯を操作して一方通行に
『風邪を引いて講義には出れない』
という内容のメールを送信する。
それから30秒と経たない内にメールの受信音が上条の耳に届いた。
『昨日はお楽しみでしたねェ^^
馬鹿でも風邪は引くンだなァ』
益々頭が痛くなった。文面だけではフレンドリーな感じが出ているが、その奥から彼の殺意がひしひしと伝わってくる。
はぁ……。と長い溜め息を一つついて携帯を閉じると、それと同時に部屋のドアが開く音が聞こえた。
「なぁ。研究室には行かなくていいのか?」
「休暇なら沢山溜まってるから、1日2日位平気よ」
青いアイスキャンディを舐める上条の横で、椅子に座って料理の本を読んでいる。
天井を見上げ、しかし隣の美琴に向けて言う。
「……何か、悪いな。こんなに、してもらって」
「いいのよ。ほら、こ、恋人は助け合いでしょ?」
「……仰る通りで」
赤面した美琴が、さっきと同じように上条に尋ねる。
「そ、それより昼は何が食べたいの?ほら、買ってきてあげるから!」
「じゃあ、美琴が作ってくれ。それなら食べられたから」
笑顔で答えた上条を見て、どちらが病人か分からない程の赤い顔のまま、美琴は部屋を大急ぎで後にした。
「何か怒らせる事言ったかな……」
寝返りをうって、再び上条は呟いた。
二年経とうと、愛する人が出来ても鈍感は治らないようだ。
まだ頭にはぼんやりと靄がかかっている。
体は倦怠感に支配され、動けない。
咳が喉の奥からこみ上げ、何度も彼の呼吸を遮断する。
しかし、上条は気丈に振る舞う。
美琴の苦しむ顔など、見たくはない。
余計な責任など、負わせたくはない。
何より、あいつは笑った顔が一番可愛い。
口にする事はしなかったが、上条は誰よりそれを知っている。
「はい、あーん」
「あの……上条さんは自分で食べられますけど」
「いいから!はい、あーん」
美琴の頑なな姿勢に負け、上条は口を開けて、卵粥を掬ったスプーンが入るのを待った。
美琴がゆっくりスプーンを口に運び、一口。
「……美味い」
「本当!?」
上条が一言言うだけで、美琴は面白いくらいに喜ぶ。
間髪入れずに二口目を用意して、口に運ぶ。
そのまま三口、四口と食べさせていく。
(これ、結構楽しいかも)
はやる気持ちを抑えられず、結局上条は茶碗一杯分を全て美琴の手で食べさせられた。
睡魔には勝てなかったよ…
明日続き書きます
「36度8分……まだ安静ね」
体温計の液晶画面を見てそう言った後、ベッドの上で上体を起こした上条の掌に一つカプセルを落とした。
上条はそれをひょいと口に放り、差し出されたコップの水で流し込んだ。
「洗い物してるから、何かあったら呼んでね?」
「はいはい……」
心配そうな目でドアの隙間からこちらを覗く美琴を、苦笑いで送る。
バタン、というドアが閉まる音と、枕元の携帯の着信音が重なった。
ベッドに横になって携帯を開くと、土御門をはじめ大学の友人数人からのメールが届いていた。
おそらく一方通行が話したのだろう。
いや、それしか考えられない。
おまけに、メールの内容は
『彼女に看病とか羨ましいわー』
『リア充はそのまま燃え散るぜよ』
『いいよなぁお前は…………』
等、バリエーションに富んだ妬み僻みの数々だ。
まともな文を送ってきたのは浜面と、どこから聞いたのかは分からないがインデックスだけだった。
携帯を閉じて、また溜め息をついた。
そんな彼を慰めるように、窓から優しい風が入ってくる。
同時に重くなる目蓋に抵抗の意志を見せず、上条は自分の体を休めることにした。
「あれ?寝てる?」
家事をあらかた片付けた美琴が寝室に行くと、安らかに寝息を立てる上条の姿を見た。
二年経ち、目の前の彼は18才と立派な青年になった筈なのに、何事もなく眠る顔は二年前と全く変わらない。
無意識に、美琴はポケットから携帯を取り出していた。
上条の顔の前にかざして、幾つかのボタンを押す。
「えへへ……」
しばらくすると、満足そうに画面を見つめながら美琴は部屋を後にした。
『当麻』
暗闇の中、微かに自分を呼ぶ声。
導かれるまま、声の方へと歩いていく。
『当麻。当麻』
歩く度、その声は大きくなっていく。
間違いない。美琴の声だ。
上条は走る。声は、自分を求めている。
黒で塗り潰された世界に、人影が見えた。
それが声の主であると確信した上条は、足を速めて近づいていった。
あともう少しという所で右手を伸ばして、
(嘘だろ……動けない……)
上条の体は空間にそのまま固定された。
『当麻。助けて、当麻』
すぐそこにいる彼女が助けを求めているのに、体は蝋で固められたかのように微塵も動けない。
声も出せず、ただひたすら右手を伸ばそうと力を込める。
しかし、上条を留めている力は消えることはなく、美琴と上条の手が触れるのを阻む。
『傍にいて。当麻』
美琴が瞳を濡らし、左手を伸ばした。
「美琴っ!」
勢いよく体を起こした上条は、自分を落ち着かせる為に何度も息を吸っては吐いた。
「夢か……」
呼吸のリズムを整え、ふと右を見ると、驚いたような怯えたような顔をした美琴が座っていた。
「当麻?一体どうしたの……きゃっ!」
慌てて身を乗り出して、美琴を両腕で抱きしめる。
「ちょ、ちょっと!いくら何でも風邪の時は……」
「良かった……ちゃんと触れる……」
「え?」
盛大な勘違いをしている美琴の言葉を遮って、上条は安堵の声を漏らした。
自分はここにいて、御坂美琴もここにいる。
夢での出来事がどうしても夢に感じられず、確かめるように一層強く美琴を抱きしめた。
が、現実はそう甘くない。
「何勝手に期待させてんだコラァー!」
「ふ、不幸だーっ!」
赤面したまま繰り出した美琴の電撃が、病持ちの上条に容赦なく向けられた。
入浴を終えた美琴が寝室に入ると、昼間と同じく上条が眠っている。
それを確認すると、明かりを消して一人で寝るには大きいベッドに潜り込んだ。
「感染らなきゃ、大丈夫よね?」
『美琴まで風邪になったら困る』とソファで寝ると言った上条を説得して、ベッドに寝かせた甲斐があった。
(ソファじゃ二人で寝れないしね)
愛する彼の寝顔を見つめながら、美琴は深い眠りへと落ちていった。
何もない砂漠に、御坂美琴は一人立っていた。
辺りを見渡しても、ベージュ色の砂以外は建物は愚か植物すら存在しない。
放心状態の美琴の目に、ある人物が飛び込んできた。
それは紛れもなく、自分と同じ服を着て、自分と同じ顔をした、
クローンなどではない、御坂美琴本人だった。
突如現れたもう一人の美琴は、立ち尽くす美琴に向かって脱兎の勢いで走り出す。
その手に、ナイフを持って。
殺される。と感じた頃には遅く、無表情のもう一人の美琴は懐に入り込み、腹にナイフを突き立てた。
不思議と、痛みはなかった。
それはそうだろう。彼女は傷一つ負ってはいない。
美琴を庇うように立ち塞がった上条当麻が、代わりに凶刃を受けていたのだから。
深紅に染まったナイフを引き抜いて、美琴は蜃気楼と化した。
それと全く同時に、力無く上条が後ろに倒れる。
「当麻ぁっ!」
美琴が必死に傷口を押さえるが、血は止まらずに地面を濡らしていく。
『お前のせいだ』
頭の中に、自分の声が木霊する。
「お願い!死なないで!」
『お前を庇ったからだ』
「嫌!当麻ぁ!」
『お前が刺されていれば』
「私の……せい?」
『そう。私のせいだ』
美琴の涙が上条に落ちると、上条は灰となって崩れ落ちた。
ぼんやりとした輪郭が、徐々に上条の物となっていく。
そうか、夢か。
夢だと分かった瞬間、深い安堵と共に自然と涙が出てきた。
隣で横になっている上条に、寝たまま抱きついた。
「心配したんだぞ?泣いたままずっと俺の名前を呼んでたんだからな」
「ぐすっ……ごめん、なさい……」
「?」
嗚咽混じりの声で、美琴は話す。
「ずっと、思ってたの……。当麻が、私の分も風邪を引いたんだって……私の身代わりになってくれたって……。
だって、昼間寝ていた時、すごく、苦しそうだった。うなされてた。
だから、私も、当麻とおんなじように………」
「……いや、それは考え過ぎだろ」
美琴の背中に手を回してさすってやり、上条は優しく語る。
「そもそも原因は上条が調子乗っておっ始めた事だし、お前に責任はないよ」
「でも……」
「それに、美琴さんの身代わりになれるなら上条さんは本望ですよ」
「馬鹿ぁ……っ」
微笑む上条の胸に顔をうずめて、さらに美琴は泣き続ける。
「お、おい。泣くなよ……」
「あんた、だって、泣いてるじゃない……」
言われるまで気づかなかったが、自分もいつの間にか涙を流していた。
頬に伝う雫を拭わずに、二人は静かに泣き続ける。
窓から覗く月だけが、ずっと二人を見つめていた。
エピローグ
「美琴ぉ!これいつ撮ったんだ!?」
風邪から復帰したばかりの上条が、美琴の携帯を手に迫る。
「駄目?何か可愛いと思って」
「あぁ……上条さん凄ぇ恥ずかしい……」
彼女の携帯の待ち受けには、額にシートを貼って頬を赤く染めた、上条の寝顔が使われていた。
『風邪の上条さん』編、完。
やっぱシリアスは苦手だわ。
最後に『プロポーズ』編を投下したいと思います。
「結婚式のスピーチ?」
テーブルに向かって腕を組む上条に、ソファの上でだらけている美琴が尋ねた。
「そ、浜面のな。しかし何を言えばいいんだ?」
『サルでもわかる!結婚式のスピーチ』という題名の本を片手に気の利いた言葉でも書こうとするが、全くと言っていい程思いつかない。
後でこのタイトルをつけた出版社に文句を言ってやろうかと考えていた矢先、美琴が言った。
「………私達のスピーチは、いつやって貰うの?」
沈黙が訪れた。
上条が本を置いて考え出した答えを、美琴は一分一秒でも早く欲している。
時計の秒針が一周し、いい加減冗談だと茶化そうかと思ったとき、上条が振り向いて美琴の右手を取った。
「もし、俺が大学出るまで待っていてくれるなら……」
右手の甲にキスを落とした。
「俺と、結婚してくれないか?」
真剣な眼差しでこちらを見据える上条に、美琴は
「…………はい」
としか言えなかった。
「じゃあ上条さんも頑張っちゃいますか!」
テーブルに向き直り、鉛筆を再び握る。
しっかりとしたスピーチを考える上条の後ろで、美琴は子どもの名前を考えていた。
『プロポーズ』編、完。
と言いたいけれど、もしも暇ならいくつか安価でリクエストをお願いしたい。
どうでしょうか。
色々案があるけどとりあえず>>98お願いします。
帰省編
>>98
おk。それじゃあ今日中に書き始めます。
「あらあら、帰ってくるなら言ってくれれば良かったのに」
「いやぁ、中々休みが取れなかったんですよ」
コップに注がれたジュースを一口で飲み干して、上条は机の向こう側の母親、上条詩菜に言った。
30℃を超す真夏日に、電車を乗り継いでさらにバスと徒歩で帰省してきた上条の顔には疲労の色がありありと浮かんでいる。
そんな上条と、その隣に座っている美琴を交互に眺めて詩菜はくすくすと笑った。
「インデックスちゃんの時は親子みたいだったけど、こっちは本当に夫婦みたいねぇ」
母親から飛び出した特大の不意打ちを喰らって、頬杖をついていた右手が崩れた。
支えを失った頭は一直線に落下していき、机へと激突した。
顎が痛い。辛うじて舌は噛まなかったものの、歯が全て砕ける程の痛みが口内を襲う。
しかし、問題なのは隣の彼女だ。
上条以上に上条を意識している美琴が、どんなリアクションを起こすか分からない。
恐る恐る、美琴の方へ顔を向けて様子を窺う。
「ふ、夫婦、かぁ……えへへ……」
「うおぉぉぉい!戻って来い美琴ぉ!」
俯いて照れる美琴と、彼女の肩を揺さぶって現実へ戻そうとする上条を見て、詩菜は再び笑い始めた。
美琴の精神が戻った後、そうだ。と言って詩菜がある紙を二人に差し出した。
「夏祭り?」
「そう。せっかくだから行ってきたら?」
それは、市内の夏祭りの案内。
「美琴ちゃん、浴衣は着れる?」
「一応着れますけど……浴衣が……」
「じゃあ、私のを貸しましょうか?」
「お、お願いします!」
「当麻さん。ちょっと待っててね」
手を振って席を立つ詩菜と、それに続く美琴。
自分を置き去りにして話が展開しているが、美琴の浴衣姿は見てみたい。
祭りの時の体力消耗の予防として、クッションを枕代わりにして上条はしばらく眠る事にした。
「何で俺まで着る事になるんだ?」
自分の隣を歩く美琴に呟いた。
「いいじゃん。結構決まってるし」
上条の前に回り込んで笑顔でそう返す。
詩菜が以前着ていたと思われる、藍色の生地に朝顔の咲いた浴衣は、美琴の心を掴んだようだ。
無論、それは上条の心も掴んだのだが。
「んー。すげえ違和感……」
浴衣を探していた途中に偶然丁度良い男用の着物も見つけてしまったらしく、その場のノリで上条も着てしまった。
それでも「涼しいし、美琴が喜んでるから別にいいや」と自分を納得させて、あまり抵抗もなくここまで来てしまった。
「ここか……祭りの場所は……」
一本道に吊り下げられた提灯を見て、またも呟いた上条を置いて、美琴はある屋台に向かっていく。
まるでロックオンした標的を貫く銃弾のように、脇目も振らず真っ直ぐその屋台に向かう。
「これ買ってもいいかな!?」
「お前16にもなって……」
棚に飾られた、デフォルメされた蛙……ゲコ太のお面を持って輝く瞳で懇願する美琴に呆れながら、仕方なく上条は首を縦に振った。
お面を頭の左側につけて上機嫌で歩く美琴の横で、上条の視線は右や左の屋台に移っている。
小さい頃、ここに俺は居たのだろうか。
年期を感じさせる看板や、食べ物の焦げた匂いの中に、俺はあったのだろうか。
半ば感傷的にそんな事を考えていると、美琴の声が突然自分を思考の世界から引きずり出した。
「そう言えば、アンタの友達とかどこかにいないの?」
「……俺ここに友達いた覚えないし、いても多分お互い覚えてない……と思う」
美琴の方を向かずに、上条は答えた。声に抑揚は無く、顔は無意識の内に無表情になっていた。
美琴も何かを察したようで、正面に向き直ってそのまま歩き続ける。
二人の歩幅は揃っているが、会話が全く無い。
どちらかが何か言う事もなく、足は真っ直ぐなコンクリートの道を進んでいく。
これが俗に言う、重い空気なる物だ。
そもそも話す話題すら見つからない美琴は、脳内でこの空気を打破する逆転カードを引こうと頑張っている。
(>>113!アンタ何か私に話題提供しなさいよ!)
抱きついて「当ててんのよ」
>>113
おk
背中に何かがぶつかったのを感知して、上条は歩みを止めた。
俯くと、自分の胸の辺りに細い腕が巻きついている。
そして背中には、柔らかい感触。
「美琴さーん。当たってるんですけどー」
「当ててんのよ」
あまりに唐突すぎて、一瞬上条の脳内は活動を停止する。
しかし、3秒のインターバルを置いて彼の左脳は様々な演算を繰り広げた。
(これはアレか?誘ってるのか?それとも俺を試しているのか?
そっかぁしばらくご無沙汰だったもんなぁ…
…いやいや、流石にこんな所で欲情する程ではない筈……
って事はやっぱり俺で遊んでるのか!?
しかし据え膳喰わぬは何とやらと言うし……)
足の指に全神経を集中させて必死に下腹部がウェイクアップするのを耐えながらの15秒にも及ぶ壮絶な一人会議の末、上条は背中の美琴を担いで近くの神社へ消えていった。
最初に言っておく。本番は無い!
誰もいないと思われる神社の裏まで行くと、片腕で運んできた美琴を降ろした。
さっきの彼と同じく状況の整理ができずに立ち尽くす彼女に、上条が仕掛けた。
美琴の両腕を、対する自分の両腕で抑えつけた。
屈んで美琴に顔を近づけて、舌を絡めたキスをする。
「ふぅ……ん……はぁ……」
美琴の方も、反射的に舌を絡めて応じてきた。
この隙に、右手で浴衣を少しずつずらしていく。
それに気付いた美琴が腕に力を込めるが、如何せん抵抗になっていない。
先程彼の右手が掴んでいた彼女の左手に至っては、上条を抱きしめるように手を回している。
「はぁ……あ、当麻ぁ……」
このまま流されてもいいかもしれない。
最近ご無沙汰なのは彼女も一緒だった。
夏の夜の雰囲気に身を任せて、行く所まで行ってしまおうか。
しかし、ここは野外だ。
もしも誰かに見られたら自分は辺り構わず最大出力で放電し、己ごと消し去ってしまう自信がある。
こうしている間にも、上条は着々と準備に取りかかっている。
「浴衣って脱がしにくいな……」
脳内で囁き合う天使と悪魔の論争に終止符を打ったのは、
「やっぱ駄目っ!」
「ごはっ!?」
至近距離から上条の鳩尾目掛けて放たれた、美琴の渾身の膝蹴りだった。
「かき氷買ってきたぞ」
「ありがとー」
境内に続く石階段に座っている美琴に、上条が2つのカップを掲げてみせる。
「レモン味で良かったっけ?」
「うん。アンタは苺練乳?」
「ああ。やっぱりシンプルなのが一番だろ」
そこから会話は途切れ、二人は無言でかき氷を口に入れ続ける。
「……ごめん」
先に口を開いたのは、上条だ。
「いいのよ……元はと言えば私が」
美琴も返答し、約3分ぶりに会話が復活した。
「お詫びと言っちゃ何だけどさ、何か欲しいものとか、やりたい事とか……あるか?」
「……何でもいいの?」
「俺に出来ることなら」
「それじゃあ……してくれる?」
詩菜「それで、ここまでおんぶしてきたんですか?」
上条「まぁ……そんな所です」
苦笑いの上条に、詩菜がくすくすと笑う。
上条の後ろに抱きついている美琴は、満面の笑みで眠っていた。
詩菜「それじゃあ、次はそのままお風呂に入ったら?」
上条「そんじゃお言葉に甘えて」
上条の一言で、悪戯っぽく微笑んでいた詩菜の顔が驚きの色に染まっていった。
今度は、上条の勝ちのようだ。
上条「痛い痛い痛い!」
美琴「本っ当にアンタはあああ!」
二人分の布団が揃って並べられた寝室に、上条の悲鳴と美琴の怒号が木霊する。
右手を捻り上げられた上条の体には、電流が流れ込まれている。
流石にそこまで強い訳ではないが、上条が床をタップするのに余り時間はかからなかった。
上条「いいだろ別に……お互い何度も見てるんだから……」
美琴「……いつまで経ってもデリカシーが身につかないの?」
電流を止めた美琴は、そそくさと布団に潜っていった。
突然、「あ。そうだ」と言わんばかりに上条が両手を合わせる。
布団から顔を出して寝ている美琴の耳元で「おやすみ」と囁き、頬にキスを落とした。
たちまち恥ずかしそうに布団を被って、にやけた顔を隠してしまう。
これで少しは機嫌良くなったかな?
そう思いながら、顔の見えない彼女の方を向きながら枕に頭をうずめた。
「暑い……」
学園都市ほどではないが、神奈川の夜は暑い。
回る扇風機が意味を為さない事を悟って、スイッチを切って代わりに窓を開けた。
まだ気温は高いが、前よりはマシだろう。
隣で眠る美琴を少し恨めしく思いながら、上条は冷蔵庫を目指して台所へと向かっていった。
「おう。お帰り当麻」
明かりの点いた台所に居たのは、上条の予想外の人物だった。
「いつ帰ってきたんだよ……父さん」
「まあ、とりあえず飲むか?」
無精髭をたくわえた男、上条刀夜は、息子に麦茶の入ったコップを差し出した。
_____________________
テーブルを挟んで座る親子。
会話の口火を切ったのは、父だ。
「お前、嫁さん連れて来たんだって?」
勢い良く上条が口内の麦茶を噴出した。
「まだ結婚してねぇよ……」
「でも、するつもりなんだろう?」
小さく、上条が頷いた。
「大学卒業して、ちゃんとした職に就いて、余裕が出来たらな」
「………そうか」
刀夜がグラスを傾けると、中の飲み物はたちまち消えていった。
「あの子といて、楽しいか?」
「ああ。たまに怒らせる事もあるけどさ、あいつと居ると何か…………不幸が消えていく気がするんだ」
「成る程な……。不幸が消える、か……」
今日はここまでです
おやすみなさい
「何にせよ、後悔はするなよ。
お前が幸せになれるのなら、あの子も幸せにしてやれ」
グラスをもう一度傾けるが、そこに飲み物は無かった。
「……済まなかったな。碌に会っていない親父が説教なんかして」
「…………いや、ありがとう」
笑って、上条は2つのグラスをシンクに持って行った。
「幸せにするからさ、絶対」
「それはあの子の前で言ってやれ」
外は、朝焼けを浴びて元の色彩を取り戻していた。
「何にせよ、後悔はするなよ。
お前が幸せになれるのなら、あの子も幸せにしてやれ」
刀夜はグラスをもう一度傾けるが、そこに飲み物は無い。
「……済まなかったな。碌に会っていない親父が説教なんかして」
「…………いや、ありがとう」
笑って、上条は2つのグラスをシンクに持って行った。
「幸せにするからさ、絶対」
「それはあの子の前で言ってやれ」
外は、朝焼けを浴びて元の色彩を取り戻していた。
「良かったのか?あんな事言って」
電車に揺られる2人を、窓から差し込む夕日が染める。
時刻は、間もなく5時を回ろうとしていた。
「ばかねぇ。私はアンタと離れる気なんて無いの!分かった?」
燈色の光が幸いして、彼女の紅潮した頬は上条には気づかれてはいないようだ。
「…………なあ」
「…………なに?」
「………次は、どこに行く?」
「決まってるでしょ?私の家よ!」
「はいはい………」
学園都市に着くまでは、まだ時間がある。
「……寝るか。美琴」
「……おやすみ。当麻」
2人はお互いに寄り添ったまま眠りにつき、とうとうお互い学園都市まで離れる事は無かった。
『帰省』編、完。
遅いしグダグダで本当に済まなかった>>98。
許してくれ…………
ラストに一つ、『お仕置き』編の前日談投下します。
本当に数レスなので付き合って頂ければ幸いです。
「これ、何?」
寝室のフローリングに正座する上条に美琴が叩きつけたのは、計5冊の雑誌の束。
いずれも、ベッドの下に巧みに隠してあった物だ。
どんな本かは隠し場所から想像して貰いたいが、いずれにせよ彼女の機嫌を損ねるにはもってこいの内容であった。
「この本は何なの?」
上条は膝に置いた自分の拳を眺めた。
理由は一つ、目を合わせたくないからだ。
前に一度見た、あのハイライトの消えた目を見ていると、詩の一節のように深淵を覗いた感じがするのだ。
しかし、このまま俯いている訳にもいかない。
既にバチバチと火花の散る音が聞こえている。
気がつけば電撃を防げず黒焦げなんて事もあり得るかもしれないのだ。
「いやー実はさ、浜面に預かるように頼まれてさ……」
意を決して話しかける。人間笑顔が大事だ。こっちが笑っていれば向こうも釣られて笑ってくれる筈だ。
「へぇ……浜面さんの……ふふ……」
前言撤回。口では笑っているが目が笑っていない。
とりあえず謝ろう。それが今の最善の手段だ。
「あの、ごめんなさい!俺が軽率でし」
「羨ましいの?胸が大きい人が彼女で」
ふと雑誌に目を落とすと、表紙には全て胸の大きい女性の写真があった。
あの野郎浜面。今度会ったら一発ぶん殴ってやると密かに決意したはいいが、弁解の言葉が見つからない。
「許さないから」
彼女の両手が、上条の頬を包んだ。
(
「お、おい美琴さん?」
「今日は、寝られないと思って?」
「ちょっ、俺凄い疲れてんだけど……」
「知らないわよ………バカっ……!」
「っ……………!」
『前日談』編、完。
これでこのssは終わりです。
長い間お付き合い頂きありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
おもしろいな