唇学園生徒会 志希√ (84)


これはモバマスssです
かなりの独自設定があります

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奏「ーーと言うわけで……本日付で我が校『唇学園』の生徒会会長になった速水奏よ。ふふっ、よろしく」

ゔぉーっ!っと。

校庭中から拍手喝采が巻き起こった。

二月頭、まだ気温の上がりきらない寒い時期。

それでもこの校庭は、熱気に溢れかえっていた。

マンモス校である唇学園は、日本最多の生徒数を誇る。

だというのにその全ての生徒が彼女の当選を喜んでいるところから、速水奏という人物の人気が伺えた。

奏「数いる立候補者の中から私を選んでくれてありがとう。みんなの応援に心から感謝してるわ。期待に応えられる様、精一杯この学園に尽くすつもりよ」

生徒会会長というただ一つの席を狙っていた人物は、当然他にもいた。

けれど最終的にはその立候補者達すら速水奏に投票したらしい。

なんともまぁ圧倒的カリスマだ。



奏「……けれどどうやら、一人だけ。投票に参加すらしなかった生徒がいるのよ……とても残念な事だと思うわ」

ちらりと舞台袖に視線を送ってくる速水奏。

先程全ての生徒が、と言ったが。

残念ながら実は一人だけ、速水奏に投票しないどころかそもそも投票すらしていない人物がこの学園には一人だけ存在した。

美嘉「……しとけば良かったのに。アタシ言ったよね?」

P「いや……転校したてで、まさかこんなにこの学園の生徒が積極的だと思わなくてさ」

美嘉「それも伝えた筈だけど?もしかしてP聞いて無かった?」

P「……言ってた気がする」

年が変わっての転校、一月という微妙な時期にこの学園に入学して来た俺はここまで生徒会選挙が大人気イベントだとは思っていなくて。

あと他に用事もあって、投票しに行かなかったのだ。

だって立候補者の事そんな知らないし……

確かに昔馴染みの友人だった美嘉から、再三選挙は取り敢えず速水奏に投票するようにって言われてた様な気もする。

さて、現在舞台上でスピーチを述べている生徒会会長速水奏。

そんな彼女を正面から見つめる生徒達。

では、俺は何処に居るかと言えば……



周子「おなかすいたーん。奏ちゃん長くない?」

美嘉「一応いつもの半分くらいでって頼んではみたんだけど」

生徒会会計担当の塩見周子先輩が八橋を摘んでいる。

志希「突然奏ちゃんの髪が金髪に変わったら面白くなーい?」

美嘉「志希そのフラスコしまって?」

生徒会広報担当の一ノ瀬志希先輩が眠そうにフラスコ内の液体を撹拌している。

舞台袖という多分会長に一番近い場所で、彼女のスピーチを聞かされていた。

そんな二人の手綱を任されてんやわんやしているのが、俺の昔馴染み兼生徒会副会長担当の城ヶ崎美嘉。

美嘉以外の生徒会の面々はイスにダラーンと座っている。

そして俺は……

奏「そんな彼には、生徒会庶務をお願いする事にしたわ」

わぁーっ!!

歓声が上がる。

なんで……

なんで……こんな事になってしまったんだ。

絶対めんどくさいじゃん。

仕事押し付けられまくるの分かってるじゃん。

既に今日だけでどんだけの椅子を並べたと思ってるんだ。

せめて昨日のうちに言って欲しかった。

いやそうではない、任せるなよ。

生徒会選挙に興味が無くて投票しなかった奴を生徒会の椅子に着かせるなよ……



今朝、登校と同時にハンカチを口元に当てられ意識を失い。

気付けば生徒会室の椅子に縛り付けられ。

何が何だか分からなかった俺は助かる為に目の前の書類にサインして。

気付いたら今度は生徒会庶務という椅子に縛り付けられていた。

奏「今すぐ辞めても良いけど、当然その件は全校生徒に公表されるわ」

志希「あたしの仕事増やして欲しくないし、辞めようとなんて考えないでね~」

周子「おっ、雑用係増えたん?なら集会用の椅子並べといてーん」

美嘉「だから言ったのに……」

辞めたら多分学校中から居場所が消えるだろう。

まぁ興味が無かっただけで嫌って訳じゃ無いし良いか。

そう思って首を縦に振った俺が悪かった。

周子「じゃ、椅子の片付けよろしくねー」

志希「……んにゃ、眠い……生徒会新聞今週の分よろしく……」

美嘉「ごめんねP、アタシも手伝ってあげたいんだけど他にやる事あって」

思った以上に、雑に扱われていた。

凄い、出会って一日と経たないうちにここまでこき下ろされる間柄になれるなんて。

奏「ーーさて、話はこのくらいにしておこうかしら。そろそろ、みんなの唇も乾いてしまうでしょうし」

起立!気を付け!礼!!

全校生徒の礼を眺めながら、俺は思った。

…………なんでこの学園、こんなに唇に拘ってるんだ?





P「ただいまー……あー、疲れた……」

大量の椅子をかたし終え、足を引きずって帰宅した。

今日だけで果たして何カロリー消費した事だろう。

文香「あら……お帰りなさい、P君」

フレデリカ「わぁお、へいへーい鷺沢ブラザー!こんばんはー?」

P「あ、こんばんはフレデリカさん」

従姉妹の文香姉さんとその友人の宮本フレデリカさんがレポートを書いていた。

おい文香姉さん、店は良いのか。

文香「さ、P君……夕飯の支度、お願いします」

P「了解。フレデリカさんも食べてきますか?」

フレデリカ「いいの?じゃーお言葉にスイートしちゃおっかなー?」

二人分も三人分も大して手間は変わらないし。

俺がこの鷺沢古書店に引っ越してきて早一ヶ月。

だんだんと、暮らしにも色々慣れ始めて来ていた。

そもそも小中学生の頃は結構な頻度で通っていたし。

まさか暮らすことになるとは思ってなかったけど。

文香「それと……食後に、送られてきた荷物の整理を手伝って頂きたいのですが……」

P「おっけー」

フレデリカ「わぁお……大量の段ボール。段ボールハウスでも作るのー?」

P「父さんと叔父さんが世界中から古書を集めて送ってくるんですよ」

俺の父さんと文香姉さんの父さんは昔から本が大好きで、まぁその影響もあって俺も文香姉さんも本が大好きだけど。

まさかここまでくるとは思わなかった。

ネット古書店をしていた俺の父さんが、文香姉さんの父さんを誘ったらしい。

世界に羽ばたいてみないか、と。

アホか。

それに乗った叔父さんも、アホか。

そしてその時の父さんの『お前に一人暮らしは無理だろうし、鷺沢古書店にお世話になれば良いじゃないか』という言葉のせいで俺はここにお世話になる事になった。

まぁ結構慣れた土地だから不便はないけど。

最初はやっぱり流石に女性との二人暮らしは抵抗が無かった訳じゃ無い。



けれど……

フレデリカ「ねぇねぇ文香ちゃん、こないだプレゼントした化粧品使ってるー?」

文香「……えぇ、はい。もちろんです。贈り物はきちんと部屋のタンスを肥やしていますよ」

フレデリカ「絶対もっとキレイになれると思うんだけどなー?」

文香「よしんば私が綺麗な女性になれたとして……それで、書の面白さは増すのでしょうか……?」

なんというかうん、女性っていうよりも。

なんだろう……見た目は凄く綺麗なんだけど。

色々と、アレだったから、うん。

いいと思う、話しやすくて。

P「悪いけど運ぶの手伝ってもらっていい?」

文香「すみません……いま私は本を読んでいますので……」

フレデリカ「アタシもレポートとにらめっこしてる」




ピピピピッ、ピピピピッ

朝が来た。

やだ。来てない。

布団を頭まで被れば真っ暗だし、まだ夜ってことにしよう。

莉嘉「おっはよーPくん!!」

P「っぼぁっ!!」

ズドンと、腹に物凄い衝撃を受けた。

痛い。とても痛い。

朝を否定する者への罰が些か重過ぎるんじゃないだろうか。

美嘉「まったく莉嘉、勝手に男子の部屋に入っちゃダメでしょ?」

そう言いながら美嘉も俺の許可を取らずに部屋に入って来た。

P「……おはよう美嘉、莉嘉」

美嘉「おはよ、昨日の疲れはとれた?」

P「まぁな、一晩寝れば。元々重い物運ぶのは慣れてるし」

美嘉「じゃ、今日も放課後生徒会室に来てね。色々と教えなきゃいけない事あるから」

P「なんていうかさ、みんな俺の扱いが雑過ぎない?」

美嘉「だってあんた庶務じゃん。雑用じゃん」

P「雑用係だからって雑に扱って良いわけじゃないと思うんだけど」

美嘉「まぁまぁ、アタシも出来る限りフォローしてあげるからさ」

莉嘉「むーっ!アタシも早く高校生になりたい!!」

小中の頃良く遊んでいた二人は、相変わらずやかましく楽しそうだ。

こっちに戻って来てからほぼ毎朝うちに起こしに来ている気がする。

P「で、そろそろ着替えたいから出てってくれると助かるんだけど」

莉嘉「アタシが手伝ってあげよっか?!」

美嘉「はいはい莉嘉、バカな事言ってないで出るよー」

二人が出てった後、さっさと制服に着替える。

さて、早く朝食の準備しないと。

文香姉さんが不機嫌な波動に飲まれてしまう。




文香「おはようございます、P君」

リビングへ行くと、文香姉さんが調味料だけテーブルに並べて待っていた。

斬新な圧力の掛け方だ。

P「はいはい、今作るから待っててって」

美嘉「Pって結構料理出来るんだね。なんか意外かも」

P「父さんと二人で暮らしてたからな。高校入ってからはずっと自分で作ってたし」

適当にスクランブルエッグを作りつつトーストとベーコンとソーセージを焼く。

出来た。

P「姉さ……美嘉、悪いけど運ぶの手伝って貰えるか?」

美嘉「オッケー、うわ実に男子」

莉嘉「食物繊維0!」

P「パンって食物繊維含まれてたりしないのかな」

文香「……さ、頂きましょう」

みんな「いただきます」

朝食をつまみつつ、美嘉と今後について話す。

P「ところで俺さ、いつになったら生徒会から解放されんのかな」

美嘉「任期終えるまでじゃない?」

P「一年か……」

文香「……あら、P君は生徒会に入ったのですか……?」

P「まぁ、うん……色々と」

美嘉「安心して下さい、文香さん。アタシがついてますから!」

とても不安。

いやまぁ、美嘉がこう見えてしっかりした奴だって事は知ってるけど。

あの他のメンバーから助けてくれるとは思い難い。





文香「……ところで美嘉さん。現在の生徒会に男子は……」

美嘉「……全員女子です」

文香「……ふむ……成る程……」

成る程?

何か荒事とかあるんだろうか。

文香「……まぁ良いでしょう。P君は少し、私以外の女性とも交流を持つべきかと」

美嘉「あの!!」

莉嘉「あーもーっ!アタシも高校入る!唇学園に転入するー!!」

美嘉「転入と言えばPはよくうちの高校に転入出来たよね。テスト難しくなかった?」

P「まぁまぁそこそこ。中学卒業してからこっち戻ってくるまで友達出来なくてずっと勉強してたんだよ」

美嘉「……うわぁ」

莉嘉「……Pくんかわいそー……」

うるせぇ。

いいだろ別に、ちょっと上手く馴染めなかったんだよ。

……うん。

小さい頃から美嘉や文香姉さんばっかと会話してたせいで男子と何話せば良いのか分かんなかったから……

P「んじゃ、そろそろ行くか」

美嘉「だねー、けっこー良い時間だし」

莉嘉「またねーP君!お姉ちゃん!文香さん!」

文香「片付け、お願いしますね?」

P「うっす」





校門をくぐると、たくさんの生徒が行ったり来たり。

なんだか、やたら美男美女のカップルが多い気がした。

P「っていうか、この高校って異性との交友を大っぴらに認めてんだな」

美嘉「そこも人気の理由だしね。まぁ成績下がると強制離別させられるらしいけど」

腕組みながら校門で先生に挨拶してるカップルもいる。

なんともまぁメンタル強い事で。

にしても、やっぱり。

唇学園って名前はおかしいと思う。

校門にデカデカと彫られた唇の文字がジワジワくる。

モブ女子生徒「キャーッ!新生徒会長よー!!」

モブ男子生徒「うぉぉっ!朝からラッキーだぜ!!」

P「ん……?なんか向こうが騒がしいな」

美嘉「あ、奏が登校して来たみたい。見てわかる通り、すっごい人気なんだよね」

ハリウッド俳優が到着した空港みたいになってる。

大量の生徒に囲まれた速水さんが、その一人一人に丁寧に挨拶していた。

P「すげーなぁ」

美嘉「心がこもってないよ」

P「疲れそうだなーとは思ってる」

美嘉「それを苦とも思わないのも凄いとこだしね」

実際速水さんの歩き方は凄く綺麗だ。

校門から昇降口まで赤い絨毯が敷かれているのかと錯覚してしまうくらい。



奏「……あら、おはよう美嘉」

美嘉「おっはよー奏。朝から大人気だね」

奏「からかわないで頂戴。朝から流れ星になるのも大変なのよ」

それをさらっと涼しい顔で言えてしまうって凄いな。

奏「それにしても……良い調子じゃない。進展はどうなのかしら?」

美嘉「そっちこそからかわないでってば。アタシは別にそういうつもりは無いし」

P「ん……?何かあるんですか?」

奏「同い年なんだから敬語は結構よ、鷺沢君。ま、そうね……放課後にでもお話しましょう?」

ウィンクされた。

あー成る程。

これは……やばいな、人気出る理由がよくわかるわ。

美嘉「……鼻の下伸びてる、P」

P「違う、鼻の下以外の顔のパーツが縮んだんだ」

大して交流の無かった俺相手にも今みたいなコミュニケーションを取れるなんて。

普通の男子だったら、いや男子に限らなくてもイチコロだろう。

綺麗な手を振りながら、速水さんは校舎内へと入って行った。

P「……で、なんかあんのか?」

美嘉「へっ?!あ、あぇーっと……放課後奏から聞いて?」

……何か隠されてる。

こいつ誤魔化すの下手だな。

美嘉「ほらほら、早くしないと遅刻しちゃうよ?」

P「……まぁ、良いか」



美嘉「起立!礼!さようなら!」

クラスメイト「さようなら!!」

わいわいとクラスメイト達が帰って行く。

ま、俺は帰れないんだけど。

美嘉「それじゃP、生徒会室行くよ」

P「あいよー」

同じ教室でここ数週間過ごして分かったけど、どうやら美嘉も生徒達から大人気らしい。

一部の生徒からはカリスマと呼ばれているそうだ。

実際、なんだろう……実に流行の最先端系JKって感じはするし。

P「……今日はどんな雑務が待ってんのかな……」

美嘉「まぁまぁ、昨日はたまたま選挙結果発表だったからあれだっただけで、普段はそんな体力使う仕事は無いよ」

コンコン

美嘉「失礼しまーす」

P「失礼します」

生徒会室の扉を開ける。

昨日拉致された時は気付かなかったが、とんでもなく広くて綺麗な部屋だった。



奏「あら、お疲れ様二人とも。今志希が出てるから少し待って貰えるかしら」

周子「おっ、逃げると思ってたのにちゃんと来たんだ。偉いねー週刊少年ジャプン読む?」

逃げると思われてたらしい。

にしても塩見先輩、生徒会室でなんつーもん読んでんだ。

周子「漫画や雑誌は持ち込み禁止だって思った?ざんねーん生徒会は特例で私物なんでも持ち込めるんよ」

だから生徒会に入ったと言わんばかりのドヤ顔をする塩見先輩。

なんだかとても気さくで良さげな先輩だ。

美嘉「ところで、志希が出たのって何分前?」

奏「三十分前くらいよ、多分どこかほっつき歩いてるわ」

美嘉「あと一時間は掛かりそうだし、先に始めちゃわない?」

一ノ瀬先輩もまた不思議な信頼をされてるな。

周子「今ええとこだからちょい待って。っあーここで来週に引っ張っちゃうかー……」

奏「周子ちゃん周子ちゃん、今真面目な雰囲気出す流れよ」

周子「……まぁ気楽に座りなよ新人君。床でもテーブルでも、なんならしゅーこちゃんの膝の上でも良いよ?」

P「床で結構です」

なんで椅子は用意されて無いんだろう。

美嘉「今は志希居ないし、志希の椅子使っちゃえば?」

奏「そうね、それじゃあ始めましょうか……」

一瞬にして、生徒会室に緊張した空気が流れ始めた。

あれだけふざけていた塩見先輩が漫画を置いて。

美嘉も、見たこと無いくらい真面目な表情をして。

そして……速水さんが、口を開いた。




奏「…………誰が、カップルになるか……よ」

P「……………………」

…………は?

カップル?

この真面目な空気に現れて良い単語では無い。

いや待て、聞き間違えの可能性もある。

奏「……鷺沢君、我が唇学園の一大イベントと言えば何があるかご存知かしら?」

P「えっと……生徒会選挙ですよね……?」

奏「そう、貴方が唯一の不参加者である生徒会選挙。それと他にももういくつか、大きなイベントがあるのよ」

美嘉「それが……カップルコンテスト」

カップルコンテスト……

周子「略してカプコン」

カプコン……

奏「怒られるわよ周子。まぁそういう事で、カップルが必要なの」

カップルが必要なの……

生きてるうちで多分今後聞く機会は無いと思うそんな会話。

意味が分からない。

カップルコンテストが何なのかも、だから何故カップルが必要なのかも。

奏「……この学園の一大イベント『カップルコンテスト』は、その名の通りその年最高のカップルをコンテスト形式で決めるイベントよ」

へー。

美嘉「二月末に立候補カップルを集めてて、三月中旬にコンテストするんだ」

立候補カップルって響きがもう面白いんだけど、笑ったら殴られそうだ。

まぁ要するに、学校中のカップルから毎年一組名カップルを選ぶよーみたいなやつか。




周子「まぁもちろん毎年毎年歴代の生徒会から参加したカップルが優勝してたんだけどねー……」

奏「困った事に……今の生徒会、男性が居ないのよ……」

美嘉「そこらへんって生徒会の沽券に関わるしさ、今年もグランプリ取らないと困るんだよね」

P「え、でも別に片方は生徒会の人じゃなくても良いですよね?誰かしらが彼氏と出れば……」

周子「まー今の生徒会のメンバーなら彼氏側がどんな人でも勝てそうだけどね」

美嘉「……あのねP、それが叶うならあんたを呼んで無いって」

周子「うんうん……お恥ずかしながら……」

奏「私から言うわ……」

ごほんっ、っと。

速水さんは、言った。

奏「……私達、誰も恋人いないのよ…………」

P「……………………」

あまりにも。

あまりにも、そっかーと言うしか無い理由だった。



周子「……何か言えよ」

P「……えマジですか?!うわめっちゃ意外……」

こんな美少女だらけで構成された生徒会なのに……

全員非リアとか……

周子「いやー奏ちゃんモテモテっぽそうに見えて誰からもアプローチされないんだよね。高嶺の花になり過ぎちゃってる感じ」

奏「周子だって色々あるじゃない、貴女ジャプンの続き気になり過ぎて告白の途中に本屋に行ったんでしょ?」

P「えっ美嘉もいねぇの?」

美嘉「あっははー……いないけど?!だから何?悪い?!」

そこまで言ってねぇだろ……

奏「だから鷺沢君。貴方に課された最優先の課題は……」

あぁ、うん。

なんとなく、その先の言葉を分かってしまった。

奏「……生徒会の誰かと、付き合って頂戴」

なんで……ほんと、なんで俺なんだ……

そんな感じで、俺の生徒会での本格的なお仕事は。

恋人作りとかいう絶対他の学校の生徒会には無い業務からスタートする事になった。

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P「……で、誰と付き合えば良いんですか?」

周子「しゅーこちゃんパース」

奏「私もパス」

美嘉「ならアタシもパスしとこっかな」

P「えぇ……」

誰かと付き合えとか言われたのに、全員に拒否された。

まぁ俺としてもこんな流れで誰かと付き合うとか不本意でしかないけど。

じゃあなんで呼ばれたんだってなる。

周子「そこはほら、鷺沢君の頑張りどこじゃない?」

奏「貴方が今月末までに、私達の誰かに付き合っても良いかもって思わせるのよ」

P「……えぇ……」

無理では?

明らかにみんな俺に対して興味無さそうだし。

美嘉「まぁまぁ、これから生徒会の仕事で一緒に行動する事になる訳だしその間にPも誰かに惚れるでしょ」

この流れだとそれも厳しそうな気がする。

ガチャ

志希「ただいま~、志希ちゃんの凱旋だよ。ファンファーレは?」

奏「私からの労いの言葉で良ければ。お疲れ様、志希」

志希「志希ちゃんは今、と~っても疲れている。美味しくて良い香りの飲み物を所望するよ」

周子「玄米茶ならあるよーん」

志希「んー……セーフ!ギリあたしの満足ゲージ一歩手前!」

P「それってアウトじゃ……」

志希「……ん?キミは……誰?って言うかなんであたしのイスに座ってんの?人間椅子希望?ヘンタイ行為は他所でやってくれる?」

P「あっすみません」

急いでイスから降りて床に体育座りした。

なんだこいつみたいな視線を向けられた。

嘘だろ。

俺、昨日一ノ瀬先輩に拉致られたのに。

貴女は拉致った相手を覚えてないのか。

奏「ごめんなさいね、鷺沢君。志希は興味無いものを長くは覚えて無いのよ」

ショックが増した。

暗に俺に対して興味が無いって言われてる様なもんじゃん。

一ノ瀬先輩とも付き合う事は難しそうだ。




奏「志希、彼は鷺沢君よ。昨日貴女が拉致した子」

志希「へ~カワイソウに」

なんて他人事、なんて平坦。

奏「ところで鷺沢君。貴方は私達全員の顔と名前と役職は一致しているかしら?」

P「あ、それなら大丈夫です」

速水さんが会長。

美嘉が副会長。

塩見先輩が会計。

一ノ瀬先輩が広報。

んで俺が庶務。

一年生二人の方がなんか重要っぽさそうな役職に就いてるんだな。

……あれ?

P「そう言えば、書記って居ないんですか?」

周子「いたよー2代前まで、とびっきり優秀過ぎたのが」

奏「それ以降の代は、常に空席にするって学園長が決めたらしいのよ」

へー、なんか凄い人がいたんだな。

奏「さて、鷺沢君。これから貴方は生徒会の庶務としての業務もこなして貰う訳だけど……差し当たって先ずは普段の雑務……業務を覚えて貰うわ」

雑務って言った。

色々面倒な事を俺に押し付ける気しかねぇ。

奏「それじゃ、志希に色々と案内して貰って頂戴」

志希「え~……あたし今現在進行形でダルいナウなんだけどにゃ~」

とんでもなくめんどくさそうな物を見る様な視線が心地悪い。

せめて美嘉か塩見先輩だったらこっちとしても話しやすかったのに。

P「えっと……すみません、お願いします……」

志希「イヤ」

心が折れそうだ。

奏「私からもお願いするわ。彼が色々覚えれば、後々貴女も色々と楽になる筈よ」

志希「はぁ~~……仕方ないか、お仕事だし……はぁぁぁぁ…………」

ため息がデカい。

息苦しくなってる俺の代わりと言わんばかりの量の酸素を消費している。

志希「言っとくけど、あたしの君への興味ゲージは0ケルビンだから」

冷たい視線と共に温度まで奪われた。

存在すらままならないらしい。

志希「……さっさと着いて来てよ、時間は有限なんだから。それともキミはあたしの時間まで盗むつもり?」

ふざけてた感じすらどんどん消えてく。

マジで嫌われているらしい。

俺、なんかしたかな……

にしても、時間まで……?



P「あ、失礼しました」

礼をして生徒会室から出る。

現時点で、これから先上手くやっていける自信が五十割消し飛んでいた。

P「……えっと、その……一ノ瀬先輩」

志希「……は?」

振り返った一ノ瀬先輩の目付きでビビる。

けれどこんな事でへこたれていては多分この先ずっとビビりライフだ。

少しくらい強気で出ても良いんじゃないだろうか。

P「お言葉ですが一ノ瀬先輩、業務中なんだから少しくらいは」

志希「は?何ふざけた事言ってるの?」

P「ごめんなさい」

謝った。

判断を誤った。

無理だ、怖いものは怖い。

志希「……キミ、何を間違えたか分かってる?それ理解出来てないようなら謝られても困るだけなんだけど」

P「あー……失礼な事を言おうとして」

志希「そうじゃないよね?違うよね?朝に夕飯食べるくらい間違ってるよね?」

そんなにおかしな間違いをしていたのか俺は。

にしても、俺は何を間違えた?

生まれてくる世界だろうか。

志希「今キミ……ううん、さっきから。あたしの事なんて呼んだ?」

P「えっ?一ノ瀬先輩って……」

志希「…………世が世なら家庭裁判所な訳だけど、そこんとこ自覚ある?」

ある訳が無い。

家庭裁判所が設置されたのは昭和24年の1/1だけど、当時に一ノ瀬先輩と呼んでたら訴訟されてたんだろうか。

志希「…………この場にはあたしとキミしか居ない。何が起きても、何があっても、目撃者は一人もいない」

かつん、かつん。

一ノ瀬先輩がゆっくりとこちらへ向かって来た。

志希「……さ、キミの出がらし茶葉みたいな脳でも理解出来た?」

……殺される。

本気でそう思った。

一瞬で俺の意識を刈り取る薬品を持っていた一ノ瀬先輩だ、命を奪うくらい容易だろう。

逃げないと。

でも、足が震えて動かない。

少しずつ、一ノ瀬さんが距離を詰めて来て。

俺の制服が、強く握られて……




志希「にゃっはっは~!うぅぅぅんっ!うんうん!変わってないなぁPの匂い!」

胸元に、頭をグリグリされた。

P「…………は?」

甘い匂いがする。

何故女子はこうも良い香りがするんだろう。

ってそうじゃ無いそうじゃ無い油断するな俺。

頭のてっぺんからぴょこんと伸びたアホ毛部分で刺殺を図ろうとしているのかもしれないんだから。

志希「えっとね?あたしね、頑張ったんだよ?アメリカ行ってね?たくさんベンキョーしてね?気付いたらすっごいくらい凄くなれてね?」

P「……………………は?」

一ノ瀬先輩が頭良さそうな事は知ってる。

だからこそアメリカに留学経験があったとしても驚かないし。

だからこそ、それを今カミングアウトされても正直はいそうですかとしか言えないし。

だからこそ……なんで今それ言った?

冥土の土産的なやつだろうか。

志希「すっごく頭良くなれたから、Pに会いたくって帰ってきたんだ~。でもPは引っ越しちゃってて、会えなくって毎晩お布団と枕濡らして寝てた」

P「……はぁ、なるほど」

志希「でもやっと会えて嬉しくってね?だからね?そのね?一ノ瀬じゃなくて、志希って呼んで欲しいなーなんて思っちゃってるんだけど~……」

P「……あの、一ノ瀬先輩……」

志希「……呼んでくれない?ダメ?」

P「……志希」

上目遣いはズルい。

なんかもう全く何も分からないけどとりあえず志希と呼んでみた。

志希「何が間違ってたか分かった?」

P「……俺が、志希先ぱ」

志希「先輩も要らないから」

P「……志希の事を一ノ瀬先輩って呼んだ事です、はい」

志希「んもー、気付くの遅すぎ~!でも許しちゃう、だってPだんもね~?」

何が……

何が、ね~なんだ……

分からない。

展開の急展開さに着いて行けない。

さっきからずっと置いてけぼりばっかりだ。



志希「さっきはごめんね?久し振りできんちょーしちゃったって言うか、こー心臓が嬉しさで突然断熱圧縮しちゃったって言うか……」

P「……あの、えぇ……?」

志希「ねーねー、撫でて撫でて~?あとぎゅ~ってして?」

P「あ、はい……」

なんかよくわからないけどこれも生徒会の業務の一つなんだろう。

言われるがままに、一ノ瀬さんの頭に手を伸ばそうとして。

ガチャ

美嘉「……何してるの、二人とも」

生徒会室から、美嘉が出てきた。

P「あ、美嘉。あのさ」

現状を伝えようと思った瞬間、一ノ瀬先輩に突き飛ばされた。

志希「キミ、何手を伸ばしてきたの?気軽に触られる程あたしの頭と脳は安くないんだケド」

P「……えぇ……」

美嘉「なんか志希の方から抱き着いてる様に見えたよ?」

志希「錯覚錯覚、人の脳はひじょーに騙されやすいから。メカニズムの解説は必要?」

現状を解説して欲しい。

P「あの……」

志希「気軽に話し掛けないでくれる?」

P「……すみません、志希」

志希「一ノ瀬先輩でしょ?頭沸いてる?キミの脳の沸点は常温なの?」

志希って呼んだら怒られた。

さっきのは一体なんだったんだ……

美嘉「……見間違いかな。まぁいいや、アタシはもう帰るから。じゃねーP、志希」

P「お疲れー美嘉」

美嘉が帰って行った。



当然残された俺たちは再び二人になる。

P「……一ノ瀬先輩」

志希「志希でしょ~?もーさっき言ったばっかじゃん!忘れちゃったの?忘れん坊さんなの?あーもーっ!そんなとこも好き~!!」

……あー分かった。

この人、あれだ。

多重人格ってやつだ。

志希「あれだけあたしの事バカにしてきたのにもーっ!それとも……」

突然。

一ノ瀬先輩の目が、ミシンの針みたいになった。

志希「……あたしの事、忘れてる?」

動けなくなった。

よく見たら足が軽く踏まれてる。

それだけで俺の身体は全く動かなかった。

わぁ凄い、まるで廊下に縫い付けられたみたい。

なんかの武術なんだろうか。

志希「……なわけ無いよね~?Pがあたしとの約束忘れる訳無いもんね~?」

P「も、もちろんです!全部覚えます!!」

志希「敬語もやめて?あたしとPの仲じゃん」

P「だよな!俺たちの仲だもんな!!」

何も覚えて無い。

だって多分初対面だもん。

俺たちの仲ってなんだよ、拉致の被害者と加害者の関係だよ。

志希「じゃーPにもんだーい!あたしの誕生日はー?」

知らんがな……

まあ適当に答えれば1/365で当たるか。

P「……1/365」

志希「1月は31日までしか無いんだけどにゃあ」

そらそうだ。

頼む、奇跡よ起これ……

奇跡が起きそうな日に全てを賭けろ……

P「……12月25日」

志希「ばかばか、それはイエスさんのでしょー?あ、でもあたしとの初めてはクリスマスがいいって事?ならあたしそれまで我慢するケド」

やばい。

とつもなく一ノ瀬先輩が重い。

体重じゃなくて、こう、色々と。



P「……ご、ごめん!ちょっとド忘れしちゃってさ!あと364回チャンスくれない?!」

我ながらアホな事を言ってると思う。

これで閏年の2月29日だったらもう帰りに宝クジ買おう。

志希「んー、回答権は30回まで!あとヒントは5月ね?どー?これなら当てられそー?」

なんとも有情な情報と譲歩だ。

P「5月1日!」

志希「はずれー」

P「5月2日!」

志希「ちがーう」

P「5月3日!」

志希「はい次ー」

P「5月4日!」

志希「ねくすともあー!」

一つずつ候補を潰してゆく。

これでまぁどっかしらで当たるだろ。

……なんて考えは、甘かった。

P「……5月29日」

志希「はいラスト~!」

回答権は残り1回。

残りの候補は30日と31日。

うっそだろ……まさかこれだけチャンスがあって外すなんて……

志希「どー?思い出せそー?」

思い出すも何ももう二択なんだけど。

っていうかそもそもこれだけ外してりゃ覚えてない事くらいバレてるだろ。

どっちだ……

流れ的に、このまま順番に30日って言ったらなんだか外れそうな気がする。

ここは……



P「…………5月31に」

志希「なーんで順番通りに言わないかなー……」

P「ち……は違うな!そうだそうだ!30日だよ!!」

志希「うんうん!そーそー!あたしの誕生日は5月30日でした~!」

P「だよな!良かったぁ覚えてて!!」

志希「はい、まぁPがどーせあたしの誕生日なんて覚えてないって事くらいは分かってたしそれが判明した訳だけど」

P「…………」

……まぁ。

バレるよな……

志希「そもそもあたし、Pに自分の誕生日教えた事無いし」

ならなんでクイズしたし。

志希「はぁ~……ほんっとうに覚えて無いんだ」

P「その……すまん」

志希「そっか~……ごめんね、P」

ポツリと呟いた一ノ瀬先輩は。

なんだか、とても悲しそうな顔をして。

志希「まいっか~別に。そんなら今から1から始めよ?」

見間違いだったんだろうか。

また一瞬にして明るくなった。

P「ちなみに、俺達って昔会った事あったっぽいんだけどさ。どんな関係だったんだ?」

志希「夫婦」

P「ダウト」

志希「にゃっはは~、流石に騙せないか~」

いや、まぁ……年齢的に……

今だってまだ俺結婚出来ないし。

志希「それは~……うーん、ヒ・ミ・ツ!思い出せないなら無理してまで思い出す必要は無いからね。あたしにとっては大切なタカラモノだけど、Pにとってはそうじゃ無かったみたいだし」

当時はあたしもバカだったし、なんて笑う一ノ瀬先輩。



志希「で、だ。ここで本題だよワトソン君」

突然の推理パート。

志希「今回の一連の事件の被害者……仮にPと呼ぶとしよう」

まぁ、うん。

仮じゃなくても被害者俺だし。

志希「Pが何故生徒会に無理矢理加入させられたのか。先ずはそこから紐解いてゆかなければならないんだけど、キミは何処まで理解しているかい?」

P「えっと……カプコンに向けて、生徒会から一組カップルを輩出する為だよな?」

志希「そう!その為にPは被害者となった……うんうん、なんたる悲劇!生徒会の誰かしらに恋人がいたら、きっと彼がこんな道を辿る事は無かっただろうね~……灰色の青春が生み出した被害者Pは、時代の流れの犠牲者と呼ぶに相応しい……」

なんでこんな演劇風なんだろう。

志希「しかし、だ。まだ彼の被害が少ないうちに救う事が出来るとしたら。救いの手を我々が差し伸べる事が出来るとしたら、キミはどーする?」

P「そりゃ助けたいよ」

ってか助けて欲しい。

志希「よーし!話は決まりだね!あたし達で彼を助けてあげよう!」

P「でもどうやって?」

志希「あたしたちがカップルになれば良いだけ。ここまで単純明快な解答なんて世界中を探してもそうそう無いんじゃない?」

P「なるほど!確かに俺が志希と付き合えば被害者Pはわざわざ生徒会の誰かと付き合う必要が無くなる!なんて分かりやすいってバカかおい」

果たして何も解決策は提示されなかった。

被害者P助かって無いじゃん。

救いの手を握ったと思ったら自分の反対側の手だった。

志希「まぁまぁどうどう。で、どう?悪くない提案だと思うんだケド」

P「えっ?いや、あの……」

志希「こー見えて、あたし結構好きな人につくしタイプだよ?」

つくしタイプ……植物なんだろうか。



志希「なんならあたしの恋人になったらカップルコンテスト出場せずに済む様に話通してあげるけど」

P「まじで?!」

志希「だってあたしはめんどーだから出たくないも~ん」

……いやそんな理由で付き合うってどうなんだ。

志希「ま、早目に返事くれると嬉しいかにゃ」

P「……少し考えさせて下さい」

ガチャ

奏「あら、二人ともまだ居たのね」

周子「生徒会室前で堂々とサボりとはしゅーこちゃんよりもメンタル強いねぇ」

奏「貴女は生徒会室内でもサボるじゃない」

周子「それで二人は何話してたん?」

P「あ、ちょっとカップルコンテストについて話してたんですよ。俺が志希と付き合う」

志希「とかいう世迷言を聞かされてただけ。ふざけてるの?ふざけてるんだよね?キミ。正気で言ってるなら病気だけど」

あ、人格変わった。

志希「しょーじきすっごく迷惑だし鬱陶しいから視界から消えて。業務内容は明日誰かに聞けば?」

奏「早速口説きにかかるなんて……鷺沢君、貴方なかなかのプレイボールなのね」

周子「まぁ暴投と言わざるを得ないけどね、志希ちゃん相手に出会って即告白とか」

志希「とっくに三振、さっさと他の誰かと交代して欲しいんだケド」

多分泣いても許される。

そんな感じで、この日は何も出来ずに終わった。



P「いや、ほんとなんかもうアレ」

美嘉「まぁまぁそのうち慣れるって。面白い人ばっかりだし」

翌日、美嘉と並んで通学路を歩きながら昨日の事を話してみた。

信じてもらえなかった。

俺が疲れてるって事にされた。

つらい。

P「ってかマジでさ、無理じゃない?誰も俺に興味ゼロな感じじゃん」

美嘉「あー……あの、さ……」

なんだか申し訳なさそうに、美嘉が俯いた。

P「どうかしたか?」

美嘉「えっと、昨日は場の流れであんな風に言っちゃったけど……その……」

志希「おっはよ~美嘉ちゃん。今日も元気してた?」

がしっ!っと。

校門の陰から飛び出して来た一ノ瀬先輩が美嘉に飛びついた。

美嘉「……おはよー志希★うんうん、アタシはいつでも元気だよ!……あははー……」

突然明らかに元気が無くなった。

なんだ、何を言おうとしてたんだ。

P「おはようございます、一ノ瀬先輩」

志希「……は?」

P「……志希」

志希「…………は?何?」

どっちで呼べば良いんだほんと。

今はどっちの人格なんだ。



美嘉「仲悪くない?これから一緒に活動してくんだし志希ももうちょっと優しくしてあげたら?」

志希「必要性が感じられないから却下。いくら美嘉ちゃんの頼みでもねー、イヤなものはイヤだから」

美嘉「……P、何かしたの?」

P「心当たりが全く無いんだよ……」

志希「反省の色はナシ、と。うん、良いんじゃない?その方がこっちとしてもテキトーにやれるし」

美嘉「……本当に心当たり無いの?P」

P「無いって……まぁいいや、教室行こうぜ美嘉」

冷たく接してくる人にワザワザ媚び諂う必要も無いし。

そんな事より遅刻したらマズイ。

美嘉と共に教室に向かおうとして……

志希「あーキミキミ、色々思う所も言いたい事もあると思うけどちょっとお仕事」

一ノ瀬先輩に呼び止められた。

志希「なーに、あたしも奏ちゃんに頼まれちゃってるだけでキミと馴れ合うつもりは無いから安心していいよ?」

安心の要素がどこにあったんだろう。

P「……んじゃ美嘉、先に行っててくれ」

美嘉「はいはーい、また後でねーP」




すたすた

P「あの、一ノ瀬先輩。何すれば良いんですか?」

すたすた

P「あ、あのー……」

すたすた

P「……一ノ瀬先輩?」

志希「……はぁ、黙って着いて来なよ。あたしが先導してるんだから目的地に向かってるに決まってんじゃん」

そうは言ってもなぁ。

まぁ美嘉が担任の先生に伝えといてくれるか。

廊下を走る生徒達が教室に飛び込んだと同時、チャイムが鳴った。

これで美嘉が伝えといてくれなければ俺はお説教だ。

志希「さ、入って」

到着したのは生徒会室。

良い思い出の無い部屋の扉を、重い腕で開けて。

バタンッ

ガチャ

……ガチャ?

なんで鍵が閉められた……?





志希「おっはよ~P。昨日別れてから15時間27分32秒あたしと会えなくって寂しかった?あたしは寂しかった!」

ぎゅーっと抱き着かれた。

ほんわりと漂う甘い香りと柔らかい感触。

当然そんなのを堪能する程俺の心も脳も余裕は無いけど。

P「……いや、別に……」

志希「素直じゃないにゃあ、あたしちょっと傷付いちゃうんだケド」

もんの凄い猫撫で声だ。

ほんの数秒前の無感情な感じは一切ない。

あと別に、本当に寂しくはなかった。

志希「でもごめんね、あたしも冷たくって。他の人が居るとどうもね~。アメリカ居た時ずっとあんな感じだったから、なかなか上手く出来なくってさ」

P「あー……成る程」

アメリカに居たって言ってたもんなぁ。

今より若い年齢でアメリカの大学みたいな実力社会(?)にいたらそうなっちゃっても仕方ないのかもしれない。

だから鍵閉めたのか、他の人が入って来れない様に。

志希「実はあたし、もう大学卒業してるんだ~」

P「はえー……」

凄過ぎて語彙力が旅立った。

分かってはいたがとんでもなく頭ヤバい。





志希「ねーねー、一緒に朝ご飯食べよ~よP。あたしお腹空いちゃった」

P「……あの、一ノ瀬先ぱ」

志希「志希って呼んでって言ったでしょ~?」

P「……志希腕引っ張らないで強い強い減っちゃう腕減っちゃう」

志希「お腹減ってるの、あたし。腕減ってるの?P」

朝からこのテンションは非常にカロリー過多だ。

フレデリカさん以上に色々と自由過ぎる。

P「そう言えば仕事って言ってませんでした?」

志希「Pを連れ出す為のウソに決まってるじゃーん」

P「……」

志希「騙される方が悪いって古来から言われてるしね~。でもま、お詫びに手を繋いであげる。ぎゅーっ!」

より強く抱き締められた。

俺の身体は手ではない。

P「……俺、教室行くんで」

志希「まぁまぁまぁまぁ、もうちょっとくらいあたしに付き合ってもバチは当たらないんじゃない?」



P「……昨日の夜何食べた?」

志希「えっとね、カルビ風ピザそうめん」

P「ふーん……じゃ、俺教室行くんで」

一ノ瀬先輩から離れようとする。

あっ思ったより力弱い。

志希「ちょっとちょっとへいへいそこのキミ!今糸口いっぱいあったよね?会話広げられたよね?ツッコミ入れたくなったよね?!」

P「……」

涙目でブレザーの背中掴むのはズルいんじゃないかな。

P「……ピザそうめんって生物学的にはどっち分類されるんだ?」

志希「野菜かな、小麦粉含まれてるから野菜かな」

P「野菜で一番好きなのは?」

志希「アメリカンポテト、脂ぎって塩たくさんかかってるやつ」

P「お塩は温めますか?」

志希「お祓いの相手にも小さな優しさ!」

P「盛り塩について一言」

志希「外なのにお盛んだね~」

P「ポイントカードは?」

志希「野菜じゃないと思う」

P「支払いは如何なさいますか」

志希「未来の旦那さんにツケといて~」

P「……テキトーに言ったのによく返せたな……」

フレデリカさんと会話してる時みたいな心地良さだ。

志希「ど?もっとあたしと話してたくなった?」

P「頭に何詰まってんだろうなとは思いましたね」

志希「恋する乙女の頭の中は、お砂糖とスパイスと……あと、キミの事が詰まってるの」

ほんと凄い思考速度だな。

志希「にゃっははー。契約書要らずの自動更新、お部屋に置くだけお手軽設置。一家に一台どう?あたし」

P「…………」

志希「絶対退屈させないよ?」

クラっときた。

確かに一ノ瀬先輩は他の生徒会のメンバーに負けず劣らず美人だし。



P「でも勝手にいなくなりそうだな……」

志希「そこはまー、持ち主の技量じゃない?」

P「俺次第ねぇ」

志希「Pがあたしに構ってくれる限り、あたしは何処にも行かないよ?」

あと、まぁ。

昨日も思ってたけど。

重い。

志希「なんなら事前登録しとく?特典としてキスがプレゼントされるよ」

P「マジで?!」

志希「おっ食い付いた食い付いた。男子って単純だにゃあ」

けらけらと笑う一ノ瀬先輩。

P「……騙された……」

志希「んにゃ?ウソじゃないよ、今の」

P「えっ?」

いつのまにか、一ノ瀬先輩は俺の目の前に居て。

少しずつ、その顔が近付いて……



ガチャ

奏「…………朝からお盛んね、二人とも」

P「……あ、あぇーっと……おはようございます、奏さん」

奏「おはよう、鷺沢君。それと昨日言ったでしょう、同い年なんだから敬語は要らないわ」

P「んじゃ、おはよう奏」

奏「……あら……呼び捨てまで許したつもりは無かったのだけれど……」

ん、そう言えば。

一ノ瀬先輩は……

志希「……キミ、なに急に近付いて来てんの?キミのパーソナルエリアは5センチ未満なの?」

あーほらもう……

奏「体勢的には志希ちゃんの方からキスしてる様に見えるけど」

志希「キスしてくれないと仕事しないとかふざけた事言ってたから、ちょっとお説教してあげようとしてたダケ」

そんな事言ったっけ俺。

まぁ、もう慣れた。

今は奏居るからな、素直になれないんだよな。

奏「……鷺沢君、貴方本当にユニークね。気に入ったわ」

P「いや、あの……」

奏「でも困った事に、志希ちゃんは嫌がってるみたいなのよ。だから……申し訳ないけれど、代わりに私のキスで良いかしら?」

P「えっ?」

志希「はにゃっ?!」

何言ってんだこの人。

奏「あら、私じゃ不満?」

P「いや、そういう訳じゃなくて……そもそも俺キスしろなんて言って無いし……」

奏「そうなの?志希」

志希「奏ちゃんはあたしと新人、どっちを信じるの?」

奏「もちろん志希ちゃんよ。だからキスしようとしてるんじゃない」

志希「え、あぇー……志希ちゃんちょっとヤラカシちゃったかもねー……」

P「……きょ、教室行くんで!お疲れ様ですまた放課後!」

奏「……ふふっ、可愛い子ね」

志希「あー……折角のリラクゼーションタイムが~……」

こんな場所に居られるか。

心が保たないわ。






P「って事があったんだよ」

美嘉「はいはい、授業中寝てたもんねP。夢の話でしょ?」

夢の話にされた。

6時間目も終わり、また俺たちは生徒会室に行かなければならない。

はぁ……疲れる。

美嘉「お疲れ様ー★」

P「お疲れ様です」

周子「あ、おつさまおつさまー。まだ奏ちゃんも志希ちゃんも来てないよ」

ふぅ……良かった。

美嘉「周子は何してるところ?」

周子「んー……分かんない。しゅーこちゃん今何してたんだろ?」

P「えぇ……」

周子「あ、丁度いいとこに新人君。悪いんだけどさ、ちょっと来週のジャプン買って来てくんない?」

P「ちょっと隣のコンビニでみたいなノリで未来にパシらせるってエグく無いですか?」

周子「いやー、続きが気になり過ぎて仕事に身が入らないんだよね」

美嘉「仕事してたの?」

周子「いや別に?」

美嘉「先月の収支報告用の書類は出来てる?」

周子「そりゃーもちろん、とっくに終わってるからこうやってダラけてんの」

塩見先輩も、どうやらかなり有能らしい。

ある程度のラインを超えた有能な人は変な人になる法則でもあるんだろうか。




周子「ところで新人君って一人暮らし?」

P「ん?いや従姉妹の姉と住んでますけど」

周子「……そっかー、ならいいや」

美嘉「なになに?周子もPの事実は狙ってる?」

周子「別にそーゆー訳じゃないし、なんなら美嘉ちゃん今自爆してるよ」

美嘉「……っ!」

P「……?」

周子「……今月末までにがんばー」

ガチャ

奏「お疲れ様、みんな」

志希「はろーはろー、いっつそーしきにゃ~ん!」

残る二人も入って来た。

女子ばっかりで大変居心地が悪い。

志希「しゅーこちゃん、何か良いネタなーい?」

周子「生徒会便りに載せるやつ?ならそれこそ庶務が就任とかでええやん」

志希「……なんであたしがそんな事書かなきゃいけないの?」

周子「……新人君、志希ちゃんに何したん?」

P「何もしてないです、本当に」

周子「あ、奏ちゃん。書道部と漫研から来年度は部費増やしてくれって申請来てたよ」

奏「そこ二つなら自分達で造札出来るから放置で良いわ」

良くないだろ。

明らかにそれ犯罪だろ。

周子「あと一ヶ所収支合わないとこあったんだけど、先週誰か無申請で260円使った?あ、あたしがジャプン買ったんだった」

おい。

志希「んにゃ、ネタが……うーん、ピンと来るのが無いにゃあ」

周子「なら適当にでっち上げちゃえばええやん。速報!速水生徒会長に恋人の影!みたいな」

奏「やめて頂戴、より一層誰からも告白して貰えなくなっちゃうじゃない」

志希「うーん……此処は身を削ってネタの提供を……こないだ発見した新元素でも発表しちゃおっかなー」

美嘉「生徒にウケる?それ」

志希「ウケ悪そー、やめとこっか」

なんというか、会話のレベルが違い過ぎる。




周子「新人君も何かネタだしたげたら?」

P「えっ、俺ですか?なら」

志希「却下」

P「はい」

オチは見えてた。

もう慣れた。

周子「ところで、今日あたしの下駄箱に映画のチケットが入ってたんだけど、今日の夜のなんだよね。あたし行けないんだけど誰か要らん?」

美嘉「それ絶対誰かからのお誘いだったんじゃない?」

周子「なんか手紙も添えてあったんだけど、下駄箱開けた時風で飛んでっちゃった」

うわぁ。

奏「それは何というか……送り主君にはご愁傷様と言うしか無いわね」

志希「あ、あたしはパース。この後したい事あるし」

美嘉「アタシも良いや。仕上げなきゃいけない書類あるんだ」

奏「あら、なら此処は私が有り難く受け取らせて貰おうかしら」

奏がにっこにこな笑顔をしていた。

映画、好きなんだろうか。

周子「んじゃ、新人君と二人に決まりやね」

P「えっ?」

奏「あらっ?」

周子「あれ?言ってなかった?チケット2枚入ってたんよ」

すっと此方へチケットを渡す塩見先輩。

それを奏は受け取って……

奏「それじゃ、鷺沢君に付き合って貰おうかしら。この後空いてるわよね?」

P「え、あーまぁ。俺でよければ」

志希「……じーざす、ちょっとそこのキミ過去に戻ってチケット破って来てよ」

奏「……あら志希、本当は貴女も行きたかった?」

志希「えっ?ごめんねー今奏ちゃんがバージェス生物群と交際を開始って記事書いてて聞いてなかった」

奏「せめて陸上で現代の生物にして。あとオスかメスか分からない形状もお断りよ」

と、言うわけで。

奏「それじゃ……行くわよ、鷺沢君」

奏と、映画館に行く事になった。




P「……おそいな、奏」

校門から少し離れた所で、俺は待たされていた。

少し準備するから校門の外で待ってて頂戴、と言われて早15分。

何してるんだろう、化粧直しだろうか。

それにしても。

他の生徒に俺が大人気生徒会長速水奏とデートしてるとこ見られたら殺されるんじゃないかな。

大丈夫?背後から刺されたりしない?

「ごめーん、待ったー?」

ガシッと、俺の腕が掴まれた。

え、奏こんなキャラだった?

P「いや、今来たとこ……」

驚いてそっちに目を向けると……

P「…………誰?」

加蓮「……アンタ誰?」

いやこっちのセリフだけど……

なんか茶髪の女子生徒がいた。

加蓮「ってのは冗談で。へー……アンタが鷺沢、へー……なんていうか普通」

P「えぇ……」

初対面の女子に名前把握されててなんか普通とかガッカリされた。

ってかマジで誰だこいつ。




加蓮「あ、もしかしてアンタ……クラスメイトの名前覚えない系男子?草食系じゃん」

P「……あ!お前教室で見た事ある!!」

加蓮「よしよしもう一歩!はいあんよが上手!」

P「名前は確か……ほ……ほう……ほうじ……法事?」

加蓮「そんな名前の訳無いでしょ?」

P「豊穣?」

加蓮「実り豊かな子に育って欲しい、そんな願いを込めて私の苗字は豊穣って名付けられたのってそんな訳無いでしょ!!」

……テンションたけぇなこいつ。

加蓮「はーバカじゃんアンタ、脳みそ熱で溶けてるの?バカバカし過ぎてバカンスなんだけど、頭南国トロピカルなんじゃない?」

P「で、マジでお前誰?んで何?」

加蓮「名前は加蓮。で、北条」

P「北条、マジ北条お前誰?ん北条何?」

加蓮「怖い怖い暗号みたいになってる、『で』が『北条』になってる」

P「……なんで抱き着いて来たの?」

加蓮「あ、5千円ね」

P「しかも金取んのかよ」

加蓮「アタシだってしたくてした訳じゃ無いし!!」

じゃあなんでしたんだよ……

加蓮「デモンストレーション?人柱?アンタの反応チェックとかそんな感じ」

P「誰かに報告するのか?」

加蓮「さっきの反応は悪くは無し、と。それは私が言わなくてももうすぐ分かるよ。それじゃー良きバカンスを。じゃあね鷺沢、また明日」

手を振って北条が走って行った。




なんだったんだ、あいつ。

マジでなんだったんだ、あいつ。

P「……はぁ」

奏「溜息なんて吐いちゃって……幸せが逃げてくわよ」

P「あ、奏か。いや今なんか変なのに絡まれて……」

奏「……すぅー……ごめんなさいっ!待たせちゃったかしら?」

がしっ、っと。

再び俺の腕が掴まれた。

奏「でも安心して。貴方が幸せを逃した分、私が幸せにしてあげるわっ!」

ぎゅーっと強く握られる。

……なんで?

奏「……何か言いなさいよ」

P「奏、知ってるかもしれないけど人には得手不得手ってものがあるんだよ」

奏「好きこそ物の上手なれとも言うわ」

P「……で、なんで急に抱き着いて来たんだ?」

周りからの視線が非常に痛い訳だけど。

おいばかそこ写真撮るのやめろ。



奏「言ったでしょう。私、恋愛経験が無いから……こういった場合はどういう距離感で過ごせば良いのか分からないのよ」

P「普通にすれば良いんじゃない?ってかえ?恋愛経験?それ必要ある?」

奏「でも、今回はデートでしょう?背後から彼氏の腕に抱き着いて笑顔でこっぱずかしい事を言うのが普通って加蓮も言ってたわ」

あぁ、あいつが。

んでもって、そんなアホみたいな事を奏が信じてるって事は……

奏「さ、デートよ。こういった事は初めてだから、彼氏である貴方がエスコートして頂戴」

P「いや、あの……奏」

奏「何かしら……あ、そうね。まずは貴方が私の容姿を褒めるところからスタートだものね……ふぅ。はい、どうぞ」

……あぁ、成る程。

予想通りだ。

この人も、アホだ。

男子からの人気はあるし、クラスメイトとしての距離は完璧に掴めているんだろうが。

いかんせん、恋愛抜きにしても男女二人きりの場合の知識がなさ過ぎる。

んでもってあの北条に唆されたのであれば、まぁ。

P「……デートじゃないぞ?」

奏「……ふふっ、バカね鷺沢君。貴方は恋愛経験が無いから分からないのかもしれないけれど、放課後に男女が二人きりで何処かへ出掛けるのはデートって言うのよ」

P「……そうですか」

奏「……えっ?あらっ?違う?これデートじゃ無かったのかしら……?」

あたふたしてる奏さん。

なんていうか、思った以上に等身大な同い年の女の子だった。

奏「え、実は貴方を誘ったとき物凄く心臓がバクバクしていたのだけれど……もしかして、私だけだったのかしら……」

P「……デートかもしれない」

奏「ふふっ!そうよね、デートに決まっているわ。さ、鷺沢君」

P「おう」

奏「手を繋ぐフリをしましょう」

繋がないのか。

そこでフリだけで済ますのか。

奏「流石にそこまではしないわよ……そういうのはお付き合いを始めて月日を重ねてからでしょう?」

……うん。

なるほどね……

P「……じゃ、行くか」

奏「ええ、そうね」










『僕達、以前どこか古代エジプトで……』

『……そうだ。ようやく思い出したようだなボッター』

『……!君の名は!』

奏「……っ!」

スクリーンをジッと見つめる奏の横顔を、俺はずっと眺めていた。

いやだって、映画意味分かんないんだもん。

これジャンル恋愛なの?SFなの?ファンタジーなの?ホラーなの?

目まぐるしく変わる展開についていけず、最終的に俺は奏の反応で楽しむ事にした。

奏「……バカッ!なんでそこで火属性の魔法を撃つのよ……!」

小声でツッコミを入れている。

おかしいな、さっきまでお互いの事を忘れた恋人達が再開するシーンのはずだったのに。

奏「っ!キスでしょう?そこはキスするシーンでしょう?!」

上がったテンションを抑える為かジュースをちゅーちゅー吸っている。

映画、好きなんだな。

こんなので楽しめてるんだもん。

奏「なんっっでそこで一人になるのよ!早く戻って赤い方の導線を切りなさい!!」

程なくして映画が終わった。

……これ、元々塩見先輩を誘おうと思ってた男子生徒はどんなつもりだったんだろう。



奏「ふぅ……まあまあと言ったところかしら。85点くらいね」

P「高い」

奏「出演者や監督、演出等は高水準なモノだったもの。問題があるとすれば……」

P「展開だろ」

奏「飲み物から氷抜いて貰うのを忘れていたところね」

自分のせいじゃん。

映画側に一切非がない。

しかもそこに15点も割かれているのか。

奏「鷺沢君は楽しめたかしら?」

P「あーうん、めっちゃ楽しかった」

主に奏の反応が。

奏「ふふっ、この程度の映画で楽しいだなんてまだまだね……今度、また一緒に見にきましょう。ホンモノを教えてあげるわ」

あーなるほど。

こうしてサラッと次を誘えるあたり、奏の学校での人気の秘密が分かる。

でも奏さっきこの映画絶賛してたよな。

奏「さて、この後どうするの?彼氏さん」

P「んー、なら喫茶店でも言って感想会でもやるか?」

時間はまだまだ余裕あるし。

何かしらの作品を見た後は語り合いたくなるものだと文香姉さんも言ってたし。

問題は俺が一切映画見てなかった事だけど、それも適当に言ってればなんとかなりそうな作品だった。

奏「そうね……それじゃ、行きましょう」






奏「だから私言ったのよ、そこでかえんほうしゃはプレイミス、って。結果どう?やっぱり軽くいなされてしまっていたでしょう?ほらみなさい」

お洒落な喫茶店で、優雅にコーヒーを傾けながら。

奏が先ずは登場人物の行動にケチを付けていた。

奏「演出上そこで改めて敵は火属性が効かないってアピールする為だから仕方ないとは思うのよ。けれど、それならワザワザ天才タイプの彼を噛ませにしなくても良かったでしょう?お調子者の城之内で良かったじゃない」

城之内がディスられている。

誰。

映画ほっとんど見てなかったから覚えてない。

奏「あと、本編120分の内90分は背景でエイリアンとプレデターが踊ってたのも謎。インド僧なら分かるわ、マレフィセントでも許せるの。でもあの気持ち悪い形状の生き物が終始踊っているのは非常に目障りよ」

そんな映画だったんだ。

奏「ごほんっ、私ばかりごめんなさい。貴方は何か言いたい事は無いの?」

P「ん、俺ずっと奏見てたから分かんないや」

奏「……あ、あら……」

P「あ、やべ」

声に出てた。

映画を見てなかった事がばれてしまった。




奏「……ダメじゃない、まったく。私に糠漬けになってしまうのは仕方ないにしても、そこは少しは取り繕わないと」

P「釘付け、釘釘。釘が糠になってる」

奏「で、貴方は120分私に釘付けだったのね」

P「反応が見てて楽しかったしさ」

奏「自分をそういうコンテンツとして見られるのは正直不愉快だわ」

P「んじゃ言い直すけど、コロコロ表情が変わって可愛かったから」

奏「あら、鷺沢君からそう言って貰えるなんて後衛だわ」

P「あ、俺が前衛」

奏「男の子なんだから、恋人くらい守って頂戴」

にっこにこな笑顔の奏。

どうやら、本当に映画が好きなんだな。

奏「好きよ、とても好き。こうして誰かと観に来るのは初めてだったけれど……悪くないわね」

P「またいつでも誘ってくれれば付き合うよ」

奏「あら、鷺沢君からは誘ってくれないの?」

P「生徒会長としての業務命令?」

奏「恋人からのお願い、の方が素直に受け入れられるかしら?」

ふふっ、と小悪魔的な微笑みを浮かべる。

P「ま、なんか気になるタイトルがあればで」

奏「そ、期待せずに待ってるわ」

なんやかんや楽しかった。

こんな感じで気軽に話せるなら、学校でももっと話しかけても良いかもしれない。




奏「ところで、さっきからスマホに通知が来てるみたいよ」

P「ん?あ、ほんとだ。ちょっとすまん」

ラインを開くと、大量に通知が来ていた。

一ノ瀬先輩から。

端折った部分もきちんと添えると。

ライン交換した覚えの無い、一ノ瀬先輩から。

奏「どちら様から?ガールフレンドかしら?」

P「……まぁ、一応間違っては無いけど……」

確認するのが怖い。

でも放置すると翌日が怖い。

コーヒーを一気飲みして、トーク欄を開いた。



『にゃっはは~、もう映画見終わった?』

『そのあと一緒に夕飯どーお?』

『むむむ、これは奏ちゃんと楽しく感想会してる気配』

『あたし帰るね~』

『帰るよ?ほんとに帰っちゃうよ?』

『あと120分だけ学校で待ってたげる』

『返信くれると嬉しいんだけどにゃあ』

『おーい!おーい!お茶!』

『寂しさであたしは震えてるのにあたしのスマホは震えない』

『連絡寄越せー!』

『つらたん』

『声聞きたい』

『この悲しみを論文にする』

『飽きた』

『あ、正座占いの結果あたし体育座り』

『虚無』

『暇』

『あいたい』

『かなしい』

『いちのせ』

『せいとかい』

『いまどこ』

『こないとないちゃう、さびしい』

『いっぴつしたためるしょぞん』

『んがついた、終わり』

P「……ちょっと俺学校行ってくる」

奏「忘れ物かしら?」

P「……まぁそんなとこ。んじゃ、また明日」

奏「そ、また明日ね。鷺沢君」



周子「……ひまー……」

雨の止まない木曜日。

暖房がガンガンに効いて眠くなるような生徒会室にて。

志希「んにゃ……ねむ……むり……りもねん……」

美嘉「ねぇ志希寝るなら業務終わってからにしてよ」

奏「終わってるみたいよ。志希だもの」

それぞれが作業に打ち込んでいるなか、俺もまた押し付けられた業務をこなしていた。

誤字脱字のチェック、思ったより辛い。

奏も美嘉も塩見先輩も一ノ瀬先輩も滅多に誤字をしないからこそ、あっても見落としてしまう。

周子「うんうん、寒い日に暖房効いた部屋でガリガリさんを食べる幸せ。いやー人生って幸福に満ち溢れてるね」

奏「そ、私達は作業に満ち溢れてる訳だけれど」

周子「ねー暇。なんか無いの?」

奏「手伝って欲しい作業ならあるわ」

周子「やーんお仕事したくなーい」

奏「そんな素直で愉快な周子にはこの真っさらな書類をプレゼントするわ」

周子「奏ちゃんがあたしをいじめるー。新人君、助けてくんない?」

P「えっ?俺ですか?」

突然振られてビックリした。

そして当然嫌だ。

俺だって今別の作業してるし。



周子「きみ以外に新人はいないし。手伝ってくれたらしゅーこちゃんがデートしたげるんだけどなー」

志希「ダメ」

突然一ノ瀬先輩が起き上がった。

周子「ありゃ、ごめん起こしちゃった?」

志希「ダメダメ周子ちゃん、新人を甘やかしても今後つけあがるだけだよー」

周子「だってあたしこの後暇やし。なんなら現在進行形でいと暇持て余しだし」

いと暇持て余し。

なんて古風で今の分かり辛い言い回しなんだ。

あと仕事あるだろ塩見先輩。

周子「って言うかまぁあたしがダーツしに行きたいだけなんだけど、美嘉ちゃんも奏ちゃんも忙しそうだし。新人君付き合ってよ」

P「んー、俺そんなダーツやった事無いですけどそれで良ければ」

志希「断りなよキミ。何様のつもり?周子ちゃんとデートとか身の程を弁えなよ」

周子「あたしそんなお高い女じゃないんだけどなぁ」

P「ま、作業早く終わったらで」

周子「おっけー、ならあたしも軽く手伝ったげる」

志希「おっけー、ならあたしが重く妨害したげる」





P「っし、終わりっと」

ッターンッ!とエンターキーを押す。

心地よい音と共に本日の業務が終わった。

周子「おっけー、それじゃ行こっか」

志希「はいはいはい!あたしも行きたーい!!」

周子「志希ちゃんさっきまであんなに乗り気じゃ無かったのにどしたん?」

志希「前世のプロダーツ選手としての血が疼いちゃった?的な?」

奏「あ、志希。貴女この生徒会新聞書き直しよ」

志希「えーなんで?面白く書けたと思ってるんだけどにゃあ」

奏「面白く無いわよ。『生徒会会長速水奏、カブトムシ採集に夢中』だなんて見出し、私はちっとも面白くないわ」

周子「張り出した次の日には奏ちゃんの下駄箱がカブトムシで埋まってそーやね」

美嘉「この時期ってまだ幼虫じゃなかったっけ?」

志希「そこはまーほら、時代の先取り的な?」

奏「書き直しよ」

志希「はにゃーん!明日やる明日やるから!!」

奏「ダメよ、貴女いつもそう言ってやらないじゃない」

志希「じゃあ明後日やる!」

奏「明日刊行なのよ、明後日じゃ遅いわ」

志希「……新人君直すの手伝いなよ」

P「……塩見先輩、行きませんか?」

志希「無視するなし!」

騒がしい一ノ瀬先輩を置いて、塩見先輩と生徒会室を出た。

うーん、ずっと座ってたから身体痛い。

周子「ん、あれ。今日雨降っとるやん」

P「傘持ってます?無ければ二本あるんで貸しますけど」

常日頃から折り畳みも持ち歩いてて良かった。

周子「ありがと、それじゃーれっつらごー」





ひゅん、とんっ。

P「おー、上手い」

周子「ふふーん、どうよしゅーこちゃんの腕は」

心地良い音と共に、ダーツがボードのど真ん中に命中した。

既に2本刺さっているのに、よく上手く隙間を縫う様に刺せるものだ。

上のパネルに表示された数値が150減り、俺との差が広がる。

P「凄いですね、塩見先輩」

周子「うーん、先輩って呼ばれるのは慣れんなぁ。普段美嘉ちゃんも奏ちゃんも呼び捨てしてくるし、きみも塩見か周子で良いよ?」

P「じゃあ俺塩見になります」

塩見「それ婿入りしてるやん」

P「さて……俺の番ですね」

持ち方もまだ覚束ないけど、それっぽく投げてみる。

サクッと、1に刺さった。

P「……もうちょい右か左にズレてくれればいいのに」

周子「ふぁいとー」

P「よしっ!」

ひゅんっと指からダーツがすっぽ抜けた。

たんっ!

周子「おー、ブルやん」

P「……や、やれば出来るもんですね!」

完全にマグレだけど。

もう一本投げる。

ボードに当たりすらしなかった。





周子「……んー、もうちょい持ち方と投げ方変えてみたら?」

P「ペン持つみたいな感じじゃダメなんですかね?」

周子「まぁそんな感じやけど。ちょっと腕失礼するよ」

P「っんんっ!」

背後から塩見先輩に腕と手を握られた。

そのまま二人羽織の様な体勢で腕を動かされる。

周子「っとね、こんな感じで肘はあんま動かさずに……こうっ、そーそーそんな感じそんな感じ」

そんな感じではない。

距離が近過ぎてそんな感じどころでは無かった。

周子「ん?おやおや、照れていらっしゃる感じ?」

P「……そんな感じです」

周子「うぶだねぇ鷺沢君は。顔真っ赤にしちゃって」

P「いや全然うぶじゃねぇですし」

周子「じゃーもっと密着したげる」

うぉぉぉぉぉっ!

背中に!背中が!!

親方!背中から幸せが!!

空腹でも無いのに背中とお胸がくっつくぞ!

P「あーだめだめ全然恥ずかしく無いですね」

周子「声裏返っとるよ?」

P「塩見の耳が裏返ってるんじゃないですかね」

周子「うーん、これまた揶揄い甲斐のある……」





ピロンッ

俺のスマホが震えた。

もう大体送り主が誰か分かってるけど……

P「ちょっとすみません、確認だけ」

通知画面は……一ノ瀬。

よし、後ででいいや。

周子「ん?志希ちゃんから?」

P「あー、はい」

周子「仲悪そうやったけど、連絡来るんやね」

P「結構な頻度でライン送られてきますね」

周子「ん……?ライン?志希ちゃんラインやっとんの?」

P「え?あれ?」

皆んなは知らなかったんだろうか。

特に生徒会で一緒に活動する事が多いだろうに。

周子「ってかあの子スマホも持って無かった筈。前までパソコンにメール送っとったもん」

だからいつもなかなか返って来ないんだよねーと笑う塩見先輩。

もしかして、一ノ瀬先輩は……いや、志希は。

俺とラインする為にスマホを契約したんだろうか。

途端に色々と申し訳なくなってくる。

P「……ちょっとすみません、返信します」

スマホを開いた。

『にゃっはは~!はろはろーP!』

『ナウ、いと寂し過ぎるが進行形でサムシングがさみしんぐ~!』

『コーラしゅわしゅわ、飲むとぱちぱち、これなーんだ』

『あ、コーラじゃん』

『やば、奏ちゃんの書類にこぼしちゃった』

『…………怒られた。コラーって怒られた』

『(´・_・`)』

『たすてけ』

…………

…………うん。

P「特に返信の必要は無さそうです」

周子「ほーん、まぁいっか。続けよー」



さくっ、さくっ、さくっ。

心地よい音と共に、再びハットトリックを出す塩見先輩。

果たしてこれに勝ち目はあるんだろうか。

周子「20のトリプル連打すればまだワンチャンあるんじゃない?」

P「塩見が手加減してくれた方が勝率上がると思うんですよね」

周子「そこはほら、勝負やし。なんなら何か賭ける?」

P「現時点で249差が開いてる訳ですけど、それを埋められる様な条件じゃない限り呑みませんよ」

周子「んじゃーキスしたげる」

P「さーてやるか、ちょっと本気出すんで」

全部7に刺さった。

ブラックジャックだったら勝ち確なのに。

周子「あ、きみが負けたらこの後アイス買ってね」

P「……ガリガリさんで良ければ」

周子「あたしのキスは随分と安いなぁ」

P「引き分けの時は両方でいきましょう」

周子「このスコア差だと難しそうやけどね」

俺と会話しながらも、どんどんスコアの差を広げてゆく塩見先輩。

まぁ、分かってはいたけど。

勝ち目、無いよな。

周子「よーし残り101、次で終わりやね」

P「俺は……残り555か、次で終わりだな」

周子「チートやん」

P「俺の時だけ数字10倍になってくれないですかね」

周子「下一桁ある時点で10倍じゃ終わらせられなくない?」

P「ま、最後までやれるだけやってみます」

よし、もう一回くらいど真ん中に当てたい。

狙いを定めて……

ひゅんっ、プツッ

P「…………あれ?」

周子「…………ん?」

ダーツのパネルが真っ暗になった。

なんだ?何が起きた?

店員「すみません、その台ちょっと不調で時々電源落ちちゃうんです。大変申し訳ありませんが、隣の台に移って頂いてよろしいでしょうか?」

P「え、あ、まぁ」

店員に従い、隣のダーツに移った。

……まぁ、最初からになるよな。

P「もっかいやります?」

周子「もち、それじゃ次はクリケットにしよっか」

P「さっきの勝負は?」

周子「ドローでええよ」

P「だとすると賭けは……」

周子「どっちも…………無効試合!無効無効!途中で終わっちゃったし、そもそもあのまま続けてたらあたし勝ってたし」

P「……」

ん……もしや、塩見先輩。

そういった経験、無いのでは?

P「……ところで塩見、誰かとキスの経験は」

周子「そりゃよくされてるよ」

だよなー。男子に大人気だろうしな。

周子「……志希ちゃんに」

P「……男子は?」

周子「……空中はセーフ?アウト?」

空中キスって何。

周子「さーて次の試合の始まりだよ」

P「……んふっ」

周子「おーこら新人きみ笑ったな?逆に聞くけどきみはあるん?」

P「男子とキスした事なんてある訳無いじゃないですか。さー次の試合ですね」

からかうのはこれくらいにしておこう。

うん、塩見先輩、思ってた以上にフレンドリーで面白い人だ。

これからも仲良くしよう。

クリケットはフルボッコにされた。

奢らされたガリガリさんはとても冷たかった。

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