男「金のなる木を育てることにしたぞ!」 (27)
男「金のなる木?」
商人「はい、これはその苗でございます」
男「あー、知ってる知ってる。葉っぱがコインに似てるとかいう、実在するやつでしょ?」
商人「いいえ、違います。これは正真正銘、金のなる木でございます」
男「マジ?」
商人「マジです」
男「……買った!」
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男「買っちゃったぜ~、金のなる木!」
男「かなり高かったから、しばらくはバイトのシフト増やさなきゃな!」
男「じゃ、さっそく水をあげましょうっと」ジョロロロロ…
男「はーやく金を実らせてちょうだいねんっ」ジョロロロロロ…
シナッ…
男「あれ? 早くもしなびてきちゃったぞ?」
男「なんでだ? ちゃんと毎日水はあげてるのに!」
男(そういや、商人に『育てる時の注意』っていう冊子をもらったっけ……)
男(どれどれ……)
男「え!? 水はミネラルウォーターじゃないと受け付けない!?」
男「肥料もいるのか……それも超高級なやつ!?」
男「なんて贅沢な……しかし、このままじゃ枯れちゃう!」
男「仕方ない、先行投資だ! ミネラルウォーターと肥料を買ってこよう!」
男「よしよし、成長してきたぞ……」
男「……ん?」
男(ちょっと虫がついてるけど、このぐらいなら問題ないだろ)
男(農作物も虫がついてる方がいい、なんていうし)
シナッ…
男「あれ? またしなびてきちゃった!」
男(例の冊子を……)
男「なになに、『金のなる木は非常に虫に弱いです』だと!?」
男「『虫なんかにつかれたら死にます、即死します』『農薬で殺虫しまくって下さい』だとォ!?」
男「やっべぇ、急いで農薬買ってこなきゃ!」
男「オラッ、虫っ! 死ねっ! 金のなる木を食うなっ!」プシュプシュッ
男「ふぅ~、こんなとこでいいかな」
男(まったく……金のなる木は非常に栄養があるから、食べた虫も強く育つ)
男(だから、一度ついた虫は高い農薬じゃないと殺せないとは参ったよ)
男「バイトじゃきつくなってきたな……ちゃんと就職するかぁ」
ニョキッ
男「だいぶ育ってきたな……もう立派な若木だ!」
男(だけど……)
ヒョロッ…
男(いまいち細いというかひょろいというか、頼りないんだよな。今にも折れそうだ)
男(こういう時は、またまた冊子を……)
男「な、なにい!?」
男「金のなる木は木になると、さらに生命力が弱くなるから」
男「毎週一回は樹木ドクターに診てもらって、専用の栄養剤を注射してもらえ、だと!?」
男「ここまできて枯らしてたまるか! 樹木ドクターに連絡だ!」
チューッ
樹木ドクター「……これで、一週間は大丈夫でしょう」
男「ありがとうございます!」
樹木ドクター「診療費と栄養剤の費用として、これぐらいいただきましょう。請求書です」
男「こ、こんなに……!?」
男(しかも、毎週一回ってことは、毎週この費用が飛ぶってことか!)
男(俺、もっとバリバリ働かないと!)
男「だいぶでかくなったな……」
男「だけど、なかなか金がなる様子はない……どうしてだろう?」
男「冊子を……」
男(金のなる木は非常に気難しい性質で、見た目も整えてやらなければなりません)
男(腕のいい庭師を雇って毎日のように手入れしてあげましょう……か)
男「すぐ庭師雇わなきゃ!」
チョキチョキ… チョキチョキ…
庭師「ご主人、だいぶ整いましたぜ」
男「うん、ありがとう。また明日、頼むよ」
庭師「分かりました」
男(腕は一流だけど値段も一流……。庭師って、やっぱり金がかかるんだなぁ……)
男(俺、もっともっと出世しなきゃ……!)
……
……
……
大富豪「まったく、素晴らしい邸宅だ」
大富豪「我が家もかなりの豪邸だが、この家にだけはかなわんよ」
男「いやいや」
大富豪「ところで、君がここまでの大金持ちになれた秘密はなにかね?」
男「君には世話になったこともある。特別に教えてあげよう」
男「実は“金のなる木”のおかげなんだよ」
大富豪「金のなる木……!?」
大富豪「ぜひ、見せてくれないか!」
男「いいとも」
男「金のなる木はこっちにある。ついてきてくれたまえ」
大富豪「おおっ、これは立派な樹木じゃないか! いかにも金がなりそうだ!」
男「だろ?」
男「今は特別に編成した専門のチームに、この木を維持・管理させているよ」
大富豪「ところで、下世話な話なのだが、“金のなる”とはどんな風に?」
男「そのまんまだよ。シーズンになると、金が実るのさ」
大富豪「おおっ!」
男「もちろん、この木からなったお金は決して偽造扱いされることはないんだ」
大富豪「なるほど……それで一体どのぐらい実るのだね?」
男「毎年秋になると、一円玉が木にぱーっと実るんだ」
男「その数、木の調子にもよるが、なんと一万枚!」
男「その光景は、まるで飾り付けられたクリスマスツリーのようにキレイで……」
大富豪「お、おう」
― 終 ―
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