【ガルパン】エリカ「夕焼けに笑う」 (46)

黒森峰女学園の新隊長、逸見エリカは元隊長である西住まほの実家に来ていた。
目的は戦術の引き継ぎ、それはすなわち西住流の理解を深めるということだ。
幼いころから西住流を志しているエリカは、既に社会人にも引けを取らないくらいの実力を持っていたが、それでも西住流の体現であるまほには遠く及ばなかった。
だからこそまほからの指導がエリカには必要だった。

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まほ「相手がこう動いてきたらどう対処する?」

エリカ「フラッグ車を後退させ、これとこれで迎え撃ちます。」

まほ「それでいい。フラッグ車の後退はやりすぎかもしれないが、負けの目を確実に潰すならそれが正解だろう。」

エリカ「はい!ありがとうございます!」

フラッグ車の後退、その弱気な作戦は本来西住流にないものだ。
当然劣勢になって後退する場面というものは存在するが、そもそもそうならないための作戦が西住流の本質であり、目的なのだ。
だがまほとエリカはそれを選んだ。今までの西住流だけでは勝てないと知ったからだ。
黒森峰を優勝させるためにはエリカの中で西住流を更に昇華させる必要がある。そうまほは感じていた。

まほ「そろそろ休憩にしよう。」

エリカ「はい、隊長。」

まほ「隊長はもうお前だろう。」

もう何度もしているこのやり取りに、まほは苦笑する。
そうしているとまほのスマホに着信が入る。
まほが「すまない。」と席を立つ、するとどういうわけか戻ってきたまほの後ろからまほの妹であり、大洗女子学園の隊長でもある西住みほが姿を現した。

みほ「こ、こんにちは……。」

エリカ「隊長!どういうことですか?なんで副隊長がここに!?」

まほ「落ち着けエリカ。隊長はお前で、みほは副隊長ではない。」

エリカ「す、すみません。で、なぜ大洗の隊長がここに?」

エリカがみほを睨む。
申し訳なさそうに縮こまるみほを庇うようにまほが前に出た。

まほ「私が呼んだんだ。それに自分の家に帰ってくることの何がおかしい?」

エリカ「……そうですか。」

みほ「お姉ちゃん、やっぱり私……。」

不服そうなエリカの思いを優先させようとみほが帰る素振りを見せる。
しかしまほがそれを許さない。

まほ「いや、はっきり言うが今日はお前たちの関係を修復するのが本来の目的だ。2人には悪いが付き合ってもらうぞ。」

エリカ「なんで私がこの子なんかと!」

みほ「……。」

まほの言葉にエリカは怒鳴り、みほは悲しそうに目を伏せた。
エリカがこうしてまほに怒鳴るのはいつぶりだろうか。
彼女が尊敬するまほに逆らうときは決まってみほが関係するときであり、みほのいない黒森峰には響かない怒声だ。
それ故にまほはどこか懐かしいような感覚に包まれた。

まほ「聞け、エリカ。私はお前たちには期待をしているんだ。お前たち2人は間違いなく引退する3年生を含めた同世代の中でもトップクラスの才能を持っている。」

思いがけない期待の声にエリカは驚き、怒りの勢いをなくした。
まほはそれを見て言葉を続ける。

まほ「しかしその才能があってもお互いがお互いの良い部分を素直に認め、取り込まなければ成長は見込めない。そしてエリカ、成長しなければお前は私と同じ道を歩むことになる。」

エリカ「私は隊長と同じ道ならばそれを進みたいです!」

まほ「バカなことを言うな。私は2年も黒森峰を率いて1度も優勝したことがない無能な隊長だぞ。」

エリカ「そんなことありません!隊長が無能だなんて……そんなことがあるわけないじゃないですか!」

みほ「そうだよお姉ちゃん!お姉ちゃんはすごい人だって、私知ってるよ!」

姉の自虐的な言葉に思わずみほも同意する。
同じ顔をした2人を見て、まほは小さく笑った。

まほ「ありがとう。それよりも、お前たちちゃんと息を合わせることができるじゃないか。」

エリカ「これはそういうのじゃないですから!」

照れからかエリカはふいと顔を背けた。
もう大丈夫だろう。そう感じたまほは笑いながら部屋を出て行く。

まほ「わかったわかった。私は席を外すからお互いにしっかり話し合うように。また後で様子を見に来る。」

2人きりになった途端に部屋が静かになる。
まだ不機嫌そうなエリカに、みほは思い切って声をかける。

みほ「逸見さん、ごめんなさい!」

突然の謝罪にエリカは驚く。
深く頭を下げていて顔はよく見えないが、不安そうな表情を浮かべているだろうということはなんとなくわかった。
その態度にエリカは不快になる。

エリカ「あんた一体何に対して謝ってるの?」

みほ「え?そ、それは……。」

思ってもみなかった問いかけにみほは言葉を失った。
思い当たることが多すぎで頭が回らない。言葉にできない。汗が吹き出て心臓の音がうるさくなってくる。
そうこうしているうちにエリカの怒りが爆発した。

エリカ「あんたのそういう所が嫌いなの!自分が引けばいいと思ってただ謝ってるヤツの謝罪なんて私はいらない!」

みほ「……ごめんなさい。」

エリカ「それしか言えないわけ?せっかく隊長が用意してくれた場なのに、台無しね。」

みほ「ごめんなさい。」

顔を伏せて謝るみほに向かってエリカは詰め寄る。
胸倉を掴んで顔を上げさせるが、反応はない。

エリカ「ふざけんじゃないわよ!どうしてあんたはそうなの!?こんなときくらい自分の言葉で喋りなさいよ!」

みほ「でも、私、なんて言っていいのか……。」

ついにみほは泣き出してしまうが、それでもエリカは逃げることを許さない。
鋭い目はそのままに、みほの言葉を促す。

エリカ「どうせ私に怒られるからなんてツマンナイ言い訳してるんでしょ?なんでもいいから言いたいことを言いなさいよ。」

エリカの言葉にみほは話出す。
泣きながらで声は途切れ途切れだが、本心であろう言葉を吐き出していく。

みほ「私、黒森峰から逃げ出して、戦車道から逃げ出して、エリカさんに会わす顔なんてない。」

エリカ「本当よ。それで大洗でまた戦車道を始めて、私たちの邪魔をして、何してるわけ?」

みほ「ごめんなさい……。」

エリカ「何してるの?って聞いてんのよ。言い訳でもなんでも、言い返してみなさいよ!」

エリカは掴んでいた胸倉を軽く突き放す。
自由になったみほはなにを話していいかわからず、とにかく大洗に転校してからのことを話した。
生徒会に無理やり戦車道をやらされそうになったこと。戦車は自由に乗っていいんだと気付いたこと。大会でのこと。廃校のこと。その全てを話した。

エリカ「ふーん、それで全部?」

みほ「え?は、はい……。」

エリカ「じゃあ今度は私が教えてあげるわ。」

話すだけ話して、すでに涙も乾いたみほに、エリカが宣言する。

エリカ「私はね、昔っからあんたのことが嫌いだったわ。」

予想通りとはいえ直接「嫌い」と言われ、みほは顔を伏せた。
そんなみほに構わずエリカは言葉を続ける。

エリカ「隊長と違ってハッキリしないし、どんくさいし、そのくせ戦車道の実力はある。私を差し置いて副隊長になったくせに、フォローしてあげないと失敗ばかりする。」

エリカ「副隊長のくせに私たちが嫌がることや危険なことは自分でやるし、責任取ってやめた後私が知らないところで楽しそうに戦車に乗るし、あまつさえそれで私たちに勝っちゃう。」

エリカ「腹が立つのよ!裏切ったあんたに!あんたを認めて嫉妬している自分にも!あんたなんてね!あんたなんて大嫌いなのよ!」

今度はエリカが涙を流して思いをぶつける。
みほはその姿に、逃げてはいけないんだと、向き合わないといけないんだと直感した。

みほ「エリカさん、ありがとうございます。私を認めてくれて。エリカさんには昔から憧れていて……だから、嬉しいです!」

エリカ「あんた、何言ってんの?嫌いって言われて嬉しいなんておかしいんじゃない?バカにされて悔しいって思わないわけ?」

思ってもみなかったお礼の言葉にエリカは戸惑う。
みほもエリカももう自分が何を伝えたいのか整理がつかず、頭に浮かんだまま口に出していた。

みほ「エリカさんの言うとおり、私は誰かに支えてもらえないと戦車に乗れないってわかったんです。だから、ありがとうございました。今まで私を支えてくれて。」

頭を下げるみほに、エリカは何も言えなかった。
別れの言葉とも取れる口振りに思考を奪われていた。

みほ「私は大洗で支えてくれる仲間ができました。また戦車に乗りたいって思えるようになりました。それはエリカさんに、黒森峰に対する裏切りなのかも知れません。」

みほは一息入れて思いきって話す。

みほ「恨ませれて当然だと思います!でも、わかってもらいたいんです!私はエリカさんのことが好きだから。……また戦いたいから。」

エリカ「……バカ。バカ!そんなの言われなくてもわかってんのよ!あんたが、みほが戦車道やめなくて良かったって、ずっと思ってたんだから!」

みほ「うん、ごめんね、エリカさん。」

泣き崩れるエリカをみほが優しく抱き締める。
お互いに支離滅裂なことを言っている自覚はあったが、それでもその瞬間はわかりあえた。そうだと思った。
2人は抱き合いながら、しばらく涙を流して謝り続けた。

まほ「様子はどうだ?」

何時間たっただろうか、まほが再び部屋に入ると2人は寄り添うように眠っていた。
起こすのはかわいそうだとも思ったが、まだやることがある。
名残惜しい気持ちを押し殺してまほは2人を揺さぶり起こす。

まほ「おはよう。その様子だと仲直りできたみたいだな。」

エリカ「隊長!?こ、これは違うんです!」

まほ「いい、その顔を見ればわかる。よく頑張ったな、2人とも。」

まほの優しい笑顔にエリカは嬉しくなって微笑む。
みほもそんな2人を見て過去から解放されたような、どこか清々しい気持ちになった。

まほ「みほ、ありがとう。おかげでエリカはまた強くなれる。お前よりもだ。」

みほ「うん、嬉しいな。エリカさんと戦うのがなんだか楽しみ。」

まほはみほに向き合って感謝する。
そして以前のみほからは考えられなかった言葉を聞き、内心驚いていた。

まほ「さて、では次はみほがもっと強くなる番だ。エリカ、手伝ってくれるな?」

エリカ「当然です。何をするんですか?」

まほ「みほとお母様を和解させる。」

みほ「お母さんと……?」

まほとみほの母親、そして西住流の家元である西住しほとの和解、その言葉は2人を一瞬にして緊張させた。

まほ「心配するな。エリカとできたんだ、お母様ともできる。」

そう言ってまほは準備を済ませ、2人を応接室に連れていった。

まほ「お母様、連れてきました。」

まほに促されて2人が入室する。
畳張りで純和風な応接室にはしほの姿があり、静かだが張りつめたような雰囲気に包まれていた。
3人が机を挟んでしほの前に座ると、しほの方からその静寂を破った。

しほ「まほがどうしてもと言うから来てみたら、会わせたかった人というのはみほのことだったのね。」

まほ「はい、お母様。私もしばらくしたらこの家から離れますので、その前にどうしても機会を設けたかったのです。」

しほ「お久しぶりですね、逸見さん。あなたはどうしてここにいるんですか?」

まほ「私が呼んだんです。」

しほ「私は今、逸見さんに話をしています。」

まほの話を遮り、しほが再度問う。
エリカは持ち前の負けん気で空気に飲み込まれないよう堪えていたが、やはり弱気になってしまう。
それでもみほのために勇気を振り絞る。

エリカ「ご無沙汰しております。私もみほさんと関係を修復しましたので、なにか力になれればと参りました。」

しほ「そう、わざわざ家のことで申し訳ないですね。」

そしてみほに向き直り、問う。

しほ「それで、みほはどうしたいの?」

みほ「……わ、私……私は……。」

声が震える。涙が目に溜まる。何も考えられない。
諦めようとしたその時、みほは両手に暖かいなにかを感じた。まほとエリカが勇気を与えようと机の下で応援しているのだ。
まだ勇気は出ない。でも2人のぬくもりは確かに受け取った。それを支えにみほは声を出す。

みほ「お母さんと、仲直り、したいです!」

みほの言葉にしほは小さくため息を吐く。

しほ「……私はあなたが戦車道のない学校に転校すると決めたとき、本当に悲しみました。」

みほ「はい……。」

しほ「そしてまた始めたと思ったら西住流とはかけ離れた作戦ばかりで、これは西住流の家元として到底許せることではありません。」

みほ「はい、ごめんなさい……。」

まほ「お母様、みほは……」

まほの言葉を再度遮るように、しほははっきりとした声で続ける。

しほ「しかし!……しかし、私はあなたの母親として、あなたを誇りに思っています。」

みほ「お母さん……!」

しほ「おかえりなさい、みほ。」

みほ「うん……!うん!ただいま!お母さん!」

嬉しさに今まで我慢していた涙が溢れ出す。
しほの表情は最初の厳しいものから優しい、穏やかなものに変わっており、みほもエリカも、まほでさえも安心感を感じていた。

しほ「こっちにいらっしゃい、みほ。」

おずおずとやってきたみほを赤ん坊を扱うように優しく自分の膝の上で抱き抱える。
甘えかたをよく知らないみほは少し恥ずかしかったが、それよりも嬉しさが勝ち、ただただ母親の存在を味わっていた。

しほ「思えば私はあなたたちに厳しくしすぎていたところがありました。反省しているわ。まほが過保護になってしまうのも仕方がないわね。」

まほ「お母様!」

しほ「冗談よ。まほ、あなたも来ていいのよ?」

まほ「結構です!」

ふいと横を向く姉がなんだかエリカのようだ。口には出さないが、そんなことを考えながらみほはこの時間を楽しんだ。

しほ「みほ、ここはあなたの家で、私はあなたの母親です。あなたの戦車道が西住流でなくてもそれは変わらないわ。またいつでも帰ってきなさい。」

みほ「うん、お母さん。」

しほ「さて、そろそろ仕事に戻らないと。あなたたちも遅くなる前に帰りなさい。」

まほ「それとも泊まっていくか?エリカの布団も用意できるが。」

みほ「泊まっていきたいけど、学校があるから。」

エリカ「私も明日の練習の準備をしなければならないので。」

まほ「そうか、では玄関まで送ろう。」

みほとまほが部屋を出る。
しほはそれに続こうと歩きだしたエリカを呼び止めた。

しほ「逸見さん、今日はお恥ずかしいところをお見せして、ごめんなさいね。」

エリカ「いえ、そんな……。」

しほ「これからもみほを、よろしくお願いします。」

しほはエリカに深く頭を下げる。
西住流を志すエリカは、家元であるしほの行動に慌てて頭を上げるよう促した。

エリカ「家元!やめてください!わかりましたから!」

しほ「あなたには期待しています。西住流にとっても、黒森峰にとっても、そしてみほにとっても、あなたの存在はとても大きいのだということを忘れないでね。」

エリカ「……はい!」

しほの言葉に大きく返事をしてエリカは玄関に向かった。
その堂々とした姿に未来を感じながらしほも続く。

2人が玄関を出ていくと、先ほどまで響いていた別れの声もがなくなり、急に寂しさが立ち込める。
名残惜しそうにしばらく玄関を見つめるまほに、しほは謝罪の言葉を投げかけた。

しほ「まほ、あなたには辛い道を歩ませて申し訳ないと思っているわ。」

まほ「勘違いしないでください。これは私が選んだ道です。西住流が私の戦車道です。」

しほ「……そうね。ありがとう。」

熊本のいなか道、みほとエリカはまだ距離があるものの、それでも端から見れば仲の良い友人同士といったふうに並んで歩いていた。
いろいろなことを話している中で、みほが提案する。

みほ「ね、エリカさん。手、つながない?」

エリカ「は?急になによ?」

みほ「お願い!ね?いいでしょ?」

エリカ「しょうがないわね……。ホラ。」

エリカが子供のわがままに付き合うような、少し困ったような顔をして手を差し出す。
みほはその手を取って子供のように笑う。

みほ「えへへ、エリカさん、大好き!」

エリカ「私もよ、みほ。」

みほ「え?エリカさん、今……。」

穏やかな帰り道、2人を包む熊本の空は2人の赤い頬を隠すほど、妬けるほどに赤く染まっていた。

以上です。

夕焼けを題材になにか書こうと思って書いていたのですが、思いのほか盛り上がってあんまり関係なくなっちゃいましたね。
しほの性格はちょっと丸くしすぎな気もしましたが、私の中では穏やかな母親の一面もあるイメージでしたので、内心みほのことを許しているだろうな、だったらこれでも違和感ないなってことでそのままにしました。
島田流の家元に教えてもらったとかでも面白いと思いますけどね。

次は前から書いてた澤ペコを仕上げるか、アイマスとかのを書いてみようかどうしようかって感じです。
では、ここまで読んでいただきありがとうございました。

おつありです。

澤ペコはもう主要な部分は書き終わってるんでGWには投稿できるかなーと思います。
自分の中ではエリみほ、たかひなに続く熱いカップリングなんで布教していきたいですね。

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