地の文多めです。
依田芳乃「そなチネ」
小松伊吹「映画みたいに」速水奏「いかない」
と一応関連しています。
涼と小梅が寮で同居している設定です。
蛍光灯のスイッチを二度軽く押すと、部屋は淡いオレンジ色へと変わる。
白坂小梅っていう名前の同居人はこの照明を気に入っていた。映画観るときにぴったり、と愛用している。
午前3時。アタシたちが好むホラー映画風に言えば丑三つ時。草木も他のアイドルも、流石に眠る時間帯。
流石に眠いな、と何気なく呟くと、彼女はえへへ、と少し申し訳なさそうに笑う。
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流石に眠いな、と何気なく呟くと、彼女はえへへ、と少し申し訳なさそうに笑う。
「・・・涼さんが眠いなら・・・今日はもう寝ちゃう?・・・一本観終わったわけだし」
「いや、大丈夫だよ。もう一本観れるぜ」
そう答えると、小梅の顔はパっと明るく輝いた気がした。
深夜に開かれる、ホラー映画専用の即席シアター。
オレンジ色に妖しく光る、アタシと小梅だけの空間。
以前「私と涼さん・・・だけ・・・?・・・違うよ」と半ば冗談交じりに言われたことがあるけれど、
現実的に考えればここは寮にある二人のための部屋だ。
電気のスイッチから戻ってきた小梅はソファーに座る。場所はもちろんアタシの横。
以前は小梅を膝に乗せて映画鑑賞をしてみたいと思っていて、実際やってみたこともある。
でも逆に軽すぎて落ち着かなかった。虚空を抱いている、というような。何かそんな感じ。
隣で体温を感じながら、アタシはが小梅が借りてきたDVDをセットする。
「またゾンビものか」
「あ、だってね・・・さっき観たやつはジャパニーズホラーだから・・・ね?」
「ああ確かに、血も少なかったな」
「そう・・・!次はぶっしゃー!って・・・それにすっごく出てくる子たちも可愛いんだよ?」
経験則からすると、小梅が「可愛い」とコメントするゾンビは大抵恐怖の塊だから、体が少しだけ強張った。再生ボタンを押すときの緊張感は、いつになっても消えやしない。
「初めのころは他の奴らも来てたけど」
「あ、そうだね・・・奏さんとか、伊吹ちゃんとか」
「あいつら映画好きだからな、あと幸子とかも来てたっけ」
「幸子ちゃんは・・・凄かったね・・・」
「観てるときこの世の終わりみたいな顔だったよな」
「まあ・・・あの時は、とびっきりに可愛いの観せてあげたんだけど・・・」
「可愛い」幸子が自称「可愛い」映画を観る、という少しニヤッとする構図。
小梅なりのささやかな悪戯みたいなものだったのだろう。アタシが拓海を無理やり連れてきて半泣きにさせた時も大概だったな、とちょっぴり自省してみた。
「・・・1408号室、みたいだな」
昔観た一枚のことをなんとなく思い出して、ボソリと口にする。
「あ!・・・あはは、私と涼さんの部屋には絶対入っちゃいけません!・・・みたいな」
「普段は普通の部屋だってのに」
今夜二本目の上映会はすでに始まっているが、どうしてもまだほんわかした雰囲気。
隣で足をばたつかせながら水を飲む少女の瞳はどこまでも無邪気で愛おしい。
丑三つ時、ゾンビが日常を支配していく終末を眺めるアイドル二人の時間。
たまに本当に二人だけなのだろうか、と考えてしまうこともあるけれど、あまり気にしないことが得策だ。
アタシの日常生活に支障は出ていないことだし。・・・多分。
兎にも角にも、これは唯一無二の、至福の時間。
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エンドロールが流れ始めた時、アタシは久しぶりに深い呼吸をした気がした。
最初の方は余裕があったけれど、途中からは画面から目を離せなくなった。良作の証拠だ。
緊張が解け、すぐに喉の渇きを覚えてコーラを流し込む。眠気なんて一切感じなかった。
小梅もふう、と軽く息を吐いて、伸びをしている。だらんと垂れ下がった袖がどこかチャーミング。
アタシは立ち上がって蛍光灯のスイッチに手を伸ばし、部屋は「アイドルの女子寮」へと早変わりする。
「どうだった・・・?」
「ああ・・・一言でいえば、凄かったな」
「そうだね・・・!ゾンビさんたちがぴょーん、ぴょーんって・・・」
身振り手振りを交えてその混沌さを表現する姿はどう見ても13歳の女の子だ。
「久しぶりに、ああ、怖いなって思ったな。大分慣れてきたと思ってたんだけどさ」
「私は怖い・・・とかはまあ、大丈夫だったかな・・・?」
「元々ゾンビが好きだからな、そりゃそうだ」
「涼さんも・・・ト、トイレとか行けなくなっちゃったりして・・・?」
と悪戯っぽく微笑んでくる。
「流石に行けるよ」
「付いて行ってあげないからね・・・?」
「分かってるって」
「あ・・・!逆に私が映画観てる間に・・・トイレに行って、涼さんをくらーい部屋に取り残す・・・どうかな?」
「それも・・・まあ、大丈夫だよ」
ふと考えいたら、意外と大丈夫じゃない気がしてきた。
けれど、動揺を見せるといつか本当に実行されそうなので、顔を見られないようにカーテ
ンを開けに行く。
空は少し白みがかってきていて、思わず苦笑い。
ホラー映画のおかげで睡魔が消えているとはいえ、流石に体にだるさを覚える18歳。
徹夜か、と呟くと、明日は私たちお仕事無いでしょ?と返された。
13歳はまだ興奮冷めやらぬって感じか。
少し回らない頭をいいことに、ふと浮かんだ質問を投げかけてみる。
「小梅って現実にゾンビがいてほしいと思う?」
「え?・・・まあ、思うって言えば思うような気もするけど・・・えへへ」
もういるよ、とか答えられなくて少し安心した。アタシは幽霊だけで満腹だ。
「そういやゾンビのプロデューサーがタイプなんだっけ」
「うん・・・恥ずかしいけど・・・でも怖い子は嫌だな・・・」
怖い子。その言葉にはたと思考が停止する。
アタシはいい子だろうが怖い子だろうが、小梅みたいに見ることはできない。
そういう時、小梅は一人で耐えていたのだろうか。・・・こんなに小さい体で。孤独に。
アタシが、映画の主人公のように、小梅を守れるか・・・それは無理だ。
それを考えると胸が締め付けられるような気分になる。
「あ・・・でもね」
そして彼女は続けた、穏やかな声で。
「アイドルになってから・・・それこそね、プロデューサーとかみんな、特に涼さんが横にいると、怖い子に負けたりなんかしないんだ」
「・・・そっか」
アタシは声を絞り出す。震えていないだろうか。
「だからね・・・安心していいんだよ、涼さんのいいところ、私はいーっぱい知ってるから」
「私は・・・一人じゃないんだから」
・・・完全に考えを読まれていた。
「・・・ああ」
アタシのポンと手が乗る。これこそ恥ずかしい気がするけれど、何となく心地が良くて
そのまま受け入れてしまう。
「このままでも・・・いいかな?・・・えへへ」
無言で頷く。どこまでも優しくて、どこまでも強い。
・・・何分くらいたっただろうか、頭から小梅の手がゆっくりと離れていった。
彼女はアタシの目を覗き込んで、無邪気に笑う。
「私が一番怖いのはね・・・涼さんがいなくなっちゃうことだよ・・・?」
「・・・いなくならないよ、絶対。ずっと見てるぜ。」
「私も・・・だよ」
少し間が開いて、笑いが込み上げてきた。お互いに顔を見合わせてくすくすと笑う。
空は完全に白くなり、寮では笑い声やパタパタと走る音が徐々に聞こえ始めた。
ふと、プロデューサーサンにホラー映画を見せたらどうなるか気になった。アイツは、
泣くかもななんて思いながら、いつものように挨拶を交わす。
「おはよう、小梅」
「おはようございます、涼さん」
以上です。失礼しました。
タイトルはクソみたいな駄洒落です。丑三つ時に書いたので。
失礼しました。
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