千早「音符のヘアピン」 (26)
「んっ、このくらいで大丈夫かしら……?」
私、如月千早は今自宅にて二人分のちょっと遅めの夜ご飯を作っている。
何故一人暮らしの私が二人分を作ってるかと言うと、その話は昨日の事務所にさかのぼる。
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「突然で悪いのだけど。明日、千早の家に泊めてもらえないかしら?」
そう言って事務所で本を読んでいた私に話を切り出したのは伊織だった。
「えっ、構わないのだけれど……突然家に泊めてほしいってなにかあったの?」
唐突なことだったので少し驚きつつも理由を聞くと。
「べっ、べべ別に深い理由はないんだけど?
明日、明後日で朝早くからちょっと夜遅くまでお仕事が入ってて……あ、後、ちょっと用事があるから?」
とのこと
「ま、まぁ、そう言うわけで突然だけど明日お邪魔しにいくわ」
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そういった経緯でそろそろ伊織が泊まりに来るので少し遅めに夜ご飯を作ってるわけなのだけど。
ピンポーン
と来たみたいね。
ガチャ
ドアを開けると泊まり用のバッグと、四角い手提げ箱を持った伊織が立っていた。
「お邪魔します、遅くなったわね」
そう言って少しくたびれ気味に部屋に上がり込んだ
「いらっしゃい、お仕事お疲れ様」
「悪いわね……昨日の今日で泊まらせてほしいなんて」
「構わないわ、それより伊織はもう夜ご飯は済ませちゃったかしら?
丁度2人分のご飯の準備をしているのだけど……」
そう言えば聞くのをすっかり忘れていた、食べて来ちゃっていたら明日の朝ごはんにでも持ち越してしまおう……
「お言葉に甘えていただくわ……実は丁度、ご飯食べそこねたからお腹ぺこぺこよぉ……」
そう言って伊織はお腹をさする、気をぬくとぽへぇ~と気が抜けそうな顔がちょっと面白い。
「ふふっ、できるまでもう少しかかるから先にお風呂にはいってくるといいわ」
「あ、その前にちょっと冷蔵庫借りてもいいかしら?」
思い出したようにそう言って手に持っていた手提げ箱を持ち上げ
「実はお仕事終わりにプリンいただいちゃったのよ。あ、ちゃんと千早の分もあるわよ?」
ということだった……甘いものは嫌いではないのでちょっと嬉しい。
「そうなの? それじゃあ、夜ご飯終わったあとにでもいただこうかしら」
「そうね、それじゃあ冷蔵庫にいれて先にお風呂いただくわ」
そう言って伊織はパタパタと冷蔵庫に箱をいれお風呂場へ向かって行った。
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そろそろご飯ができる頃合いね、呼んで来ようかしら?
と思っていたらお風呂の方から足音がし、伊織がパジャマ姿で出て来た。
「千早、お風呂ありがと……んー、良い香りね」
ピー!
と炊飯器の炊き上がりの音がタイミングよく鳴る。
「んっ、タイミングぴったりね。丁度ご飯が炊けたからそのままご飯にしちゃいましょうか」
そう言って私は再び味噌汁などを用意し食卓に並べはじめた。
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食卓に並んでいるのはご飯、味噌汁、焼き魚、お漬物。
少し前から春香に習って料理の勉強をして少しは作れるようになった品の数々。
「凄いわね、これ千早が全部作ったの……?」
結構驚いたような反応をされると少し……確かに前まで料理は得意な方ではなかったからそれはそうなのだけれど……
「春香から色々教えてもらって作れるようになったのよ、ほら食べましょ?」
「そうね、もう遅いし冷めちゃう前に」
「「いただきます」」
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「「ごちそうさまでした」」
「千早の料理美味しかったわよ♪」
お茶碗に米粒一つ残さず伊織が言う。
練習の成果もあって我ながら上手く作れたわね。
「それはよかったわ、もう遅いし私もさっとシャワー浴びてくるからゆっくりしてて」
ちょっと遅くなってしまったから、さっと浴びて寝る準備をはじめてしまおう。
「えぇ、そうさせてもらうわね」
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シャワーを軽く浴びて戻ると
「だいぶ遅い時間になっちゃったけど、プリンの箱、開けちゃわない?」
そろそろ深夜を回りそうな時間に唐突に伊織がそう言いながら冷蔵庫のほうへ移動していた。
夜ご飯を食べる時間がちょっと遅かったから食べようと思うと今なのは分かるけれど……
この時間に甘いものを食べても大丈夫かしら……
ポーンポーン
と深夜を過ぎた音と共に伊織がニコニコした笑顔で先ほど冷蔵庫に入れた箱を既に持って来ていた。
……まぁ、持ってきてしまったのなら自分に甘えてちょっと食べよう。
パカ
と、箱を開けたらプリンではなく二切れのケーキが入っていた。
「あら?」
? と思い伊織の方を向くと今にも「にひひっ」と言い出しそうな良い笑顔をしていた。
「プリンじゃなくて残念だった? の前にケーキの上よく見てみなさいよ」
と言われ、ケーキに視線を戻して見たら片方のケーキの上に白いチョコ板が乗っていたのに気づいた、そこには
『ハッピバースデー如月千早ちゃん』
ハッピバースデー……?
「……あっ!」
「にひひっ! お誕生日おめでとう千早!」
サプライズ大成功と言った顔で、お泊まり用の荷物のポケットから小さめな箱を取り出した。
「その様子だとやっぱり千早、誕生日のこと抜けてたのね~」
図星だ、ここ最近は確かに忙しくて今まで自分の誕生日のことがすっぽり抜け落ちていた。
「明日、千早と事務所で会える時間が無かったから皆に言って先に私と千早で今日、お誕生日会をしようと思ってたのよ、はいこれ」
用事って、私の誕生日のことだったのね
嬉し驚いた頭でそんな風に考えながらプレゼントの箱を受け取った。
「この伊織ちゃんからのプレゼント開けてみなさいな!」
手渡された箱の中には『♪』の形をしたヘアピンが入っていた。
「あんまり千早はこういうのを付けてるところを見たことなかったし、似合いそうだったからプレゼントに包んでもらったの」
私のイメージに合わせた音符のヘアピン、正直凄く嬉しい、ついつい笑みが溢れてしまうくらい凄く。
「ふふっ、ありがとう! 大切に使うわね」
「せっかくだし、今付けて見なさいよ♪」
と催促をしてくる。
ライブの衣装とかでないと、あまりこういうものを普段付けることが無いからどう付けたら似合うのかしら……
あーでもない、こーでもないと迷っていると待ちかねた伊織が「付け方わからないの? かして見なさい」
と言うのでヘアピンを渡してまかせることにした。
スッスッ
髪を少しまとめられヘアピンを通される、なんとなくくすぐったい気持ちを感じていたら
「にひひっ! こんな感じでどうかしら?」
カシャ
と目をつぶってヘアピンを付けたパジャマ姿の私の写真を撮って私に向けた。
普段あまりこういうおしゃれをしないものだから写真を見てもいまいちピンとこない……
「似合っ……ているのかしら? 自分ではよく分からないわね」
と言っていると、何か思いついたのか少し悪そうな顔をして「ちょっと待ってなさい」とスマホを操作しだした。
何をしているのかしら……?
数分後、伊織のスマホから着信音がしてそれを確認すると私に画面を向けた。
春香『千早ちゃん、すっっっごくにあってる!!!!』
美希『千早さん似合ってるけど……でこちゃんずるいのー!』
あずさ『あらあら、伊織ちゃんのプレゼント? 可愛いわねー凄く似合ってるわ!」
・・・
などなど、この時間まで起きているみんなの名前のメールが見える。
「えっ、も、もしかして」
「似合ってるか自分じゃ分からないって言ってたから皆に似合ってるか送っちゃった♪」
送っちゃった♪らしい。
流石の私でもパジャマ姿でちょっと無防備な状態の写真を送られると、ちょっと……いや、結構恥ずかしい……
「い、伊織!?」
さすがに耐え切れず伊織の名前を呼ぶと
「こっちの方が千早の反応も面白いと思ってね~、さあ夜も遅いし千早もケーキ食べて寝ましょ?」
と満足げな顔でケーキを一口。
「ん~美味しいわね!」
うまく逃げられてしまったような……でも、似合ってるという文面のメールを思い出すとそんなに悪い気はしない。
「も、もう……まぁ、そうね遅くなりすぎるのは良くないわね……」
ちょっと落ち着かない気持ちでケーキを一口。
「んっ……確かに美味しいわね」
伊織の言う通り確かに甘くて美味しい。
「ま、改めてお誕生日おめでとう千早」
「……ありがとう伊織」
そんな会話をしながらケーキを食べ終えて、
満足気に伊織と私は布団に入って半分恥ずかしさと、半分の嬉しさを感じながら夜を過ごした。
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誕生日の朝、私が少し早く起きた後、ちょっとしたイタズラがてらまだ寝ている無防備な伊織のほっぺをつつきながら写真に収めたり、
早速音符のヘアピンを付けて事務所に行きみんなに昨晩の出来事をはなしたりするのはまた別のお話。
おわり
少し遅刻しましたが千早ちゃんお誕生日おめでとうございました!
HTML化依頼をしてきますここまで読んでいただきありがとうございました!
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