あずき「闇のゲーム大作戦!」忍「学園編!」 (221)
―注意―
遊☆戯☆王(初代)×モバマスSSです。
決闘者的な意味で登場人物の大半がひどい目に遭います。
手元に原作がないので記憶を探りつつ書いていきます。
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茄子「あずきー、学校はー?」
あずき「んー」
茄子「……。ごはん片付けちゃうよー?」
あずき「わ、ち、ちょっとタンマ!」パタパタ
あずき「おはようお姉ちゃんっ!」
茄子「はいおはよう。お洒落は程々にね?」ニコッ
あずき「ごめんなさーい」テヘ
あずき「でもこのリボン先に結び直させて」
茄子「もうっ」
穂乃香「おはようございます」
忍「おはよ、穂乃香ちゃん」
拓海「ん、……穂乃香さん」
拓海「その前髪、切ってくるよう申し上げましたよね?」
穂乃香「あ……すみません委員長、週末には切りに行くので……」
拓海「しかしかなり以前から言っている筈です」イラッ
拓海「許容出来るのはアレまでっ」
柚「へ? アタシ?」キョトン
拓海「柚さんもギリギリですからね」
柚「へへー……ごみんごみん」
拓海「とにかく、明日までに――」
ガラッ
あずき「おはよーっ!」
拓海「……あァ?」
忍「あ」
柚「あー……」
あずき「え、なんかヤバい?」
拓海「その髪型は校則違反です」ツカツカ
拓海「解ってんだろ?」ヒソッ
あずき「――!」
拓海「大体、装飾品が多過ぎです」ヒョイ
あずき「あっ、それは」
拓海「ピアス、ヘアピン、付け爪」ヒョイヒョイ
拓海「化粧も擁護出来ないくらいしていますね、あまり逆らうようなら停学にしますよ」
穂乃香「ちょっと待って下さい、停学なんて……」
拓海「正しくなければ当然でしょう?」ギロッ
穂乃香「ひ……っ」
拓海「……桃井、放課後に旧校舎へ来い」ヒソヒソ
あずき「は、はい……」
忍「顔青いけど大丈夫?」
あずき「え? う、ううん平気。あんなの何とも思ってないから」ニコッ
穂乃香「いやいや、気にして下さい」
柚「アタシが言うのもなんだけど、ルーズ過ぎっ」
あずき「うぐぅ……」
柚「どーせまたカバンの中にあのパズルも入ってるんでしょ?」
あずき「……うん……」
柚「ダメだっての。今日こそボッシュートだーっ!」バッ
あずき「あぁっ?!」
穂乃香「発見しました!」
柚「へいパース!」
あずき「待って、返して! 壊れたら直せないから!」ピョンピョン
忍「しっ」
拓海「……」ギロッ
柚「――やば」タッ
穂乃香「か、返します……」ススス
忍「悪ふざけも限度が――」クドクド
穂乃香「」シオシオ…
忍「聴いてる?!」
穂乃香「……聞こえてます……」
忍「だからやらんとしていたことは兎も角――」
フラフラ…
あずき「……」ポスッ…
あずき「ヒッ……グスッ……」
忍「――解った?」
穂乃香「……解りました」
ピロリン♪
柚『早退するね』
穂乃香「……」ハァ
柚「ったく、ああ見えて意地っ張りなんだから」
柚「ま、こうしてピースをちょろまかしておけばパズルは完成しないワケだし」
柚「――ちょっとは諦めることも覚えるかな」
柚「……」
柚「うん……何かを諦めていくのがオトナだよね」
あずき「い、委員ちょー……?」
あずき「来ましたよー……」キョロキョロ
拓海「……」スパ…
あずき「た、煙草――!」
拓海「……ご機嫌よう。随分遅いですね」
あずき「え?! あ、あの……あはは……」
あずき「泣いてたらいつの間にか寝てて……」
拓海「――そう。ところで」ゲシッ
警備員「」
あずき「警備員さん――?!」
拓海「そのせいで巡回に来たこの方を黙らせなくてはなりませんでした」
拓海「どう思います?」
あずき「どう、って……い、委員長、だよね?」
拓海「質問に答えろ」
あずき「……良くない、と思う……」
拓海「そうですか」
スタスタ…
拓海「警備員は暴力から生徒を守るものです」
拓海「教師は内部での誹謗から生徒を守り」
拓海「風紀委員は中傷から生徒を守ります」
スタスタ…
拓海「旧校舎から適当な理由もなしに退けたり」
拓海「胸のことを執拗にネタにしようとしたり」
拓海「チャラチャラしたモンぶら下げたりしたら」ガシッ
あずき「ひっ!」
拓海「そんな生徒は守れねェんだよクソがっ!」ドゴッ
あずき「がっ――ぁあ……!」
拓海「テメーの持ってるパズルは風紀を乱す。寄越せ」
あずき「ゲホッ……やだ」ボタ…
拓海「聞こえるように針金で耳掃除してやろうか? 寄越せと言ったんだ、命令なんだよ!」
あずき「やだ!」
ドゴッ…
あずき「う、ぁ――っ」
拓海「へぇ、便器に突っ込んで起こす手間はなさそうだ」
拓海「これはみんなを平等にするためしてるんだ、協力してくれるよな?」
拓海「パズルを寄越せ」
あずき「……や、だ」
あずき「これは八年間……っ、ずっと私の、親友だったから――!」
拓海「……そして一人だけ幸せ、ってか。気に食わねぇ」
拓海「なら――テメーのパズル、守ってやるよ」
拓海「但し隠す分に見合う対価を寄越せ。今までの分は明日までに払ってもらう」
あずき「な……っ?!」
拓海「二〇万。出せるよな? 無理ならテメーは停学だ」
拓海「明日のこの時間、ここで待ってるぜ」
あずき「待っ――ぅ……っ」
拓海「ククッ……」スタスタ…
?「……」
あずき「二〇万……日付で言えば今日、か……」
カチャカチャ…
あずき「どうしよう……渡さないと殴られるし標的はあずきから別の子になる」
あずき「でも銀行で引き出したが最後――後には引けなくなる……っ」
あずき「作戦が……まとまらないよ……」
カチャカチャ…カチッ
あずき「あっ。嵌まった」
あずき「そっか、ここを半回転して……」
カチャカチャ…
カチッ…カチッ…
あずき「あはは……気分最悪なのにスラスラ解ける……」
あずき「……え、もしかして――」カチッ
あずき「――あと一つ……!」
あずき「さて最後のピースは……あれ?」
茄子「もう夜も遅いから寝なさーい」
茄子「あずき? ……寝てるみたいね」ソロリ
茄子「『パズルを解いた者は闇の番人を継ぐ』」
茄子「……それがいいことか、は分からないけど……」
茄子「少なくともあなたの友達一〇〇人大作戦は順調かな」
茄子「――はい、二〇万円。運良く丁度あったからカバンに入れておくね」
茄子「逃げたくなったらこれで逃げなさい」
茄子「それにしても――」
茄子「どこで誰が見てるか解らないものね」
茄子「あの子、大事にしないとダメだよ?」サラ…
あずき「んぅ……」スー
茄子「……」ナデナデ
柚「委員長」
拓海「あァ? ……あぁ、喜多見さんですか」
拓海「申し訳ないですが今日はこの後に予定があるので――」
柚「んー? 集金って言うべきじゃない、それ」
拓海「……昨日感じた視線はテメーか」ギロッ
柚「誠意を見たいなら二〇万はやり過ぎでしょ」
柚「ってことで、アタシから一万円あげる♪」ピッ
拓海「は?」
柚「代わりに、あずきチャンが来たら誠意を認めて借金チャラ! どう?」ヒラヒラ
柚「今ならなんとこの缶バッジも――」
拓海「……フザけんな」スタスタ
拓海「為したことへの責任は本人が取るのがスジだろ」
拓海「金だろうと何だろうと、その対価を他人に払わせるのは筋違い。ましてや風紀だ」ガシッ
柚「」サァッ
拓海「それは『平等』じゃねぇっ!」
あずき「――待ってっ!」
ドゴッ…
あずき「うぐ……っ」
柚「――!」
柚「そんな、庇って……?!」
拓海「へぇ、ちゃんと来たな」
あずき「……っ」
拓海「で、金は持って来たか?」
あずき「『認められたい』」
拓海「っ」ピクッ
あずき「……生徒を守りたいのはホントなんだよね」
あずき「でも風紀なんて一人では到底守り切れるモノじゃない」
あずき「だから『委員会』なのに、独断専行して」
あずき「それは周り全員を貶めて満足してるだけの――」
拓海「黙れ……っ」
あずき「『不平等』なお山の大将だよ――っ!」
ドゴッ
あずき「――!」ガクッ
柚「あずきチャンを……っ」キッ
拓海「なんだその目は」メキッ
柚「いっ――!」
柚「っ、へへ、殴り返しなんかしてあげないからね」ヨロ…
拓海「チッ……テメーは関係ねぇだろ、退け」
柚「やだね」ベー
拓海「揃って諦めの悪い……!」イライラ
ドゴッ
柚「――ッ」ドサッ
あずき「ぅ……っ」
柚「ヒュー……ぅ、く……こんな時だけど、っ」カチャ
あずき「……! 最後のピース……!」
柚「ごめん――見えないフリ、してた」
柚「諦めないこと、諦めてて……っ」
柚「……ごめん」
あずき「――いいよ」
柚「……へへ」カクンッ
あずき「」フラッ…
拓海「外が暗くなってきたな」
拓海「とっとと金を出せ。帰りてェんだ」
あずき「最後の、ピース」カチッ
あずき「諦めないことの証――」
カッ!
拓海「例のパズルか。別にそれでもいいぜ、寄越しな」
あずき?「……」
千年錐「」ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
拓海「……空気が変わったな。ハラでも決めたか?」
あずき?「……」
拓海「オイ、返事でもしたらどうだよ」
拓海「桃井あずき」
あずき?「」ニタァ
あずき?「はぁーい♪ アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆」
拓海「……は?」
拓海「え、は……?」
拓海「ちょ、唐突なことに頭が追っ付かないんだが」
拓海「桃井あずき……だよな?」
あずき?「あ~ん♪ れっどぴぃち、って呼んで☆ つか、呼べ☆」
拓海「赤、桃? ――あっ」ティンッ
拓海(あずき=レッドビーン、桃=ピーチ)
拓海(あぁ、成程……い、いやでもその呼び名はちょっと……)
あずき?「じー」ワクワク
拓海「……れ、れっどぴぃち……」ドンビキ
ぴぃち「ん、満足♪」
ぴぃち「んじゃ、ぴぃちとゲームしよ☆」
拓海「……」イラッ
拓海「まだそれ続ける気か? いいから早く――」
ぴぃち「やん☆ 焦るな焦るな☆」
ぴぃち「お金なら、こ・こ♪ ほら♪」
拓海「な……っ?! バッグいっぱいに万札が……?!」
ぴぃち「でもでも、これをアゲルのはマジで生徒を守ってくれる人だけ……」
ぴぃち「ゲームはそれを見るための、よ・きょ・う、だぞ☆」
ぴぃち「それとも自信がないとか?」ニタニタ
拓海「……安い挑発だな」
拓海「だが、買った。ケンカは引いた方の負けだ」
ぴぃち「それが『闇のゲーム』でも?」
拓海「当たり前だ!」
ぴぃち「ふふ……さぁ、ゲームを始めよっか」
ザァアァァァアアァ…
ぴぃち「ゲームは《脱衣野球拳》!」ドン☆
ぴぃち「勿論、風紀委員長相手にそのまんまじゃマズいからぁ、ちょっとスウィートにアレンジ♪」ピッ
拓海「……白紙のトランプ・カード?」パシッ
ぴぃち「プレイヤーはそれぞれ相手に見えないように自分の『秘密』を一つ書く」
ぴぃち「言わばそれがプレイヤーの『恥部』ってワケ☆」
ぴぃち「そして、じゃんけんの勝者は相手に一つ質問が出来る」
ぴぃち「相手はそれに『はい』か『いいえ』で答える」
ぴぃち「どちらかがその質問の権利で書かれたものを当てるまでこれを繰り返す」
ぴぃち「ゲーム終了まではお互いに質問とその応答以外で話してはいけない」
ぴぃち「……どぉどぉ?」ニタァ
拓海「上等だ」
拓海(フン……秘密なんかない、とでも言えば白紙のままでもいいじゃねえか)
拓海(この勝負――勝てる!)ニヤッ
二人『じゃんけん』
ぴぃち「ぽん☆」グー
拓海「ぽん、ぉっと」パー
拓海(こ、コイツ、殴る気か?)
拓海(とにかく一勝……最初の質問だ)
拓海「『それは身体にある質問である』」
ぴぃち「『はい』」
拓海(よしっ!)
ぴぃち「」ニタニタ
拓海(……桃井は……こんな表情をしたか――?)
拓海(何か企んでやがるな……慎重にいこう)
二人『じゃんけん』
二人『ぽん(☆)』グー
二人『あいこで』
ぴぃち「しょー☆」グー
拓海「しょ」パー
拓海(三連続でグー……?)
拓海(しかも全てこちらの顔へ向けて突き出した)
拓海(嫌がらせ? いや、大金を賭けたゲームで負け筋を作る意味はない)
拓海(……偶然か)
拓海「『それは首から上にある』」
ぴぃち「『はい』」
拓海(……カラコンか歯列矯正か髪色だな、もうそれくらいしかない)
拓海(勝ちが見えてきた――)
二人『じゃんけん』
二人『ぽん(☆)』グー
二人『あいこで』
二人『しょ(ー☆)』グー
拓海(ごっ、五連続……?!)ゾッ
二人『あいこで』
ぴぃち「しょー☆」グー
拓海「しょ……っ」パー
拓海(何だ? 何がそんな自信を……?!)
ぴぃち「」ニタニタ
拓海(コイツ……っ!)ギリッ
拓海「『それは目にある』!」
ぴぃち「『いいえ』」
二人『じゃんけん』
二人『ぽん(☆)』グー
拓海(う……っ、つい、力んだ……っ!)
二人『あいこで』
ぴぃち「しょー☆」グー
拓海「しょっ!」パー
拓海「『それは口にある』!」
ぴぃち「『いいえ』」ニタニタ
二人『じゃんけん』
二人『ぽん(☆)』グー
拓海(また、力んで――っ!)
拓海(く、クソっ、拳が大きく見えやがる……!)ゾクッ
二人『あいこで』
ぴぃち「しょー☆」グー
拓海「しょ……」パー
拓海「そ……『それは髪にある』っ!」
ぴぃち「」ニタァ
ぴぃち「『はい』」
拓海(やっと、あと、一勝……いや……)
拓海(本当にそうなのか?)
拓海(まだコイツはグー以外を出してない)
拓海(……まさか、注意を惹いておいてイカサマしてるのか?)
拓海(そんな筈は、いや、でも)
ぴぃち「じゃん」
拓海「!」ビクッ
二人『けん』
ぴぃち「ぽん☆」グー
拓海「ぽ……ん、っ?!」チョキ
拓海「~~~~~~~~~~?!」
ぴぃち「」ニタニタ
ぴぃち「『アナタは秘密を書いていない』」
拓海「な……っ!」
拓海「テメっ、オイ、まさか矢っ張り!」
ぴぃち「『ゲーム終了まではお互いに質問とその応答以外で話してはいけない』」
拓海「」ハッ
ぴぃち「ルールを守れなかったね」ゴゴゴゴゴゴ…
ぴぃち「それに、暴力沙汰っていう秘密がある以上は『白紙』もルール違反だ・ぞ☆」
拓海「く、おォっ!」バッ
拓海「どうせテメーのカードもロクに書かれてねぇんだろ、あァ?!」
拓海「――『私は』」
拓海「『私は五歳まで髪を短くしていた』……?」
ぴぃち「やぁん☆ 読み上げるなよ☆」
拓海「って待て、こりゃ今のことじゃねぇじゃ――」
ぴぃち「『恥部』とは言ったけど今を見て判ることとは言った覚えがないなー」ニタニタ
ぴぃち「さてと……『平等に』プレイするためのルールを破ったなら罰を受けないとね♪」バサッ
拓海(バッグに詰まってた万札が全部枯れ葉に……?!)
ぴぃち「闇の扉が開かれた」ォォン…
ぴぃち「罰ゲーム! ──CANARY SUMMER──」ドン☆
ワーワー…
拓海「……どこだ、ここ」キョロキョロ
拓海「一面が黄色い群衆……球場か何かか……?」
拓海「――いや違う、これはフェンスじゃない……!」
ワーワー…
拓海「『柵』っ!」
拓海「クソっ、出せ、ここから出せコラァッ!」ガシャァン!
ぴぃち「」ニタニタ
拓海「テメーっ、一体何しやがった!」
ヒュンッ
拓海「……消えた……?」
拓海「し、しかもアイツだけじゃない、群衆が――足元さえ!」
拓海「わ、ああ、あぁぁぁ?! 『速い』! 速過ぎる! 何が――ひぃぃぃぃぃぃ?!」
拓海「立っているだけで景色が流れる! お、置き去りになるっ!」
拓海「だ──誰か! 誰かぁぁぁっ!」
拓海「待ってっ! 待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ぴぃち「闇のゲームは心の闇を映し出す」
ぴぃち「この罰は不平等という名のアナタの闇」
ぴぃち「一等賞のない平等な『時の世界』に裏切られる気分はどう?」
ぴぃち「全てが時速六〇kmで前進する世界に放り込まれた気分は――」
ぴぃち「って、聞こえてないか☆ ぴぃちの声も速過ぎるし、ねっ☆」
ザァアァァァアアァ…
柚「っくしゅ」
穂乃香「……大丈夫ですか?」
柚「んー……昨日は布団も何もないトコで寝たから……」
忍「どんな所なの、それ」
柚「……床?」ジト
あずき「あはははは……なんか、ごめんね」
穂乃香「?」キョトン
忍「風邪――あぁ、病気と言えば向井委員長だけど」
忍「アレ、病欠じゃないらしいよ」ヒソヒソ
柚「……」
あずき「え、じゃああの委員長がサボり?!」
忍「そうじゃなくて、その……」
忍「『停学』。深夜に二輪で六〇km/h出してたらしくて……」
~作戦2~
TV「次のニュースです」
TV「昨日午後六時頃、『二三教』法王(キング)の若児和(わかるわ)常考こと川島瑞樹さんが詐欺の疑いで逮捕されました」
TV「川島さんは容疑を一部否認しているとのことです」
TV「警察は、同教団の幹部も関与していたと見て捜査を続けています」
紗南「んー……」
あずき「ただいまー」
茄子「お帰り、あずき」
紗南「あっ、お邪魔してまーす」ノシ
あずき「おぉ紗南ちゃんだ、久し振り」
あずき「今回は大分苦戦したの?」
紗南「いやー、裏ボスからが長くて長くて……」
紗南「573コマンドを甘く見てたよ」トオイメ
あずき「一体何が……」
茄子「まぁそういうことでいつもの通り見繕ってたの。手伝って?」
あずき「プロのお姉ちゃんの手伝いを私が?」
茄子「プロって……私は店員だよ、そりゃ継いだから今は店長だけど」ムスー
あずき「別の視点が欲しい?」
茄子「そうそう」
あずき「探してるのはどんなの?」
紗南「んー、偶にはワイワイやりたいし、次に流行りが来そうなゲームかな」
あずき「難しい注文だね……よーっし、捜索大作戦だ!」
あずき「おーっ!」
紗南「おーっ!」
茄子「お、おー……?」
ガサガサ…
ゴソゴソ…
あずき「これどうかな、デジタル・ペット君」
紗南「うわっ、レトロな雰囲気だねコレ」
茄子「業者さんがこの前来た時に置いていったものね」
茄子「確か去年発売された、だとか何とか」
紗南「これが去年に?!」
紗南「……こ、これください」
茄子「まいどありー♪」
紗南「……」ピコピコ
紗南「」ムフー
あずき「どう?」
紗南「イイ……♪ 流行るかは別だけど」
あずき「あー、じゃあ作戦失敗かぁ」
紗南「いやいや、私としてはパーフェクトだったよ」グッ
紗南「そうだ、成功報酬にしてはビミューだけど」ゴソッ
あずき「ん、何これ?」
紗南「ハンバーガーのタダ券。ゲーム仲間からいっぱい貰っちゃって」
紗南「正直あの味には飽きたし、あげるよ」
紗南「……あ、そうそう」ヒソヒソ
あずき「……!」
紗南「楽しんでおいで」ニヤッ
あずき「ありがと」ニヤッ
ピンポーン♪
忍「ご注文を――うわ」
柚「その制服かっわいー」ニヤニヤ
穂乃香「可愛い……」ポー
あずき「さっきぶりー」ニヤニヤ
忍「お、お願い、バイトしてるのは秘密に……!」
あずき「大丈夫大丈夫、向井委員長がいなくなってからはユルユルじゃん」
忍「そうじゃなくて! 広まったらイジられるでしょ?!」
柚「あ、ごめん、もうクラスに拡散しちゃった」テヘ
忍「もう……っ!」
穂乃香「スマイルください」
忍「」orz
穂乃香「あの、スマイル……」
忍「……これでいい?」ニコッ
三人『はぅっ』ズキューン☆
忍「吐血?!」
あずき「どうしよう柚ちゃん、ハンバーガーがしょっぱいよ」モグモグ
柚「店員サン、このハンバーガーしょっぱい」モグモグ
忍「うっさい」
穂乃香「スマイルください」
忍「またケチャップ吐くの?」ジトッ
穂乃香「はぅんっ」キュンッ
忍「穂乃香ちゃんは何でもいいんだね……」
忍「……ところでそんな泣くほどの話かな、これ」
柚「だってバイトの理由が学費の足しにするためだなんて」ヨヨヨ
あずき「課金しないとね。ポテトくださーい」ピンポーン♪
柚「アタシもアタシも。塩抜きね」
忍「こらっ、アタシがいるのに鳴らさないのっ」
チリンチリン♪
忍「あーもう、あとで持って来るから。今入店したお客様優先ね」トテテ…
あずき「カワイイ」パシャッ
柚「カワイイ」パシャッ
忍「撮るな!」
忍「ったくぅ……」
忍「一名様でしょうか?」ニコッ
女性客「ええ。あと注文も決まってるんですが」
忍「あぁ、それなら席にご案内してから――」
女性客「いえ、その必要はありませんよ」チャカ
忍「……え?」
ダァンッ!
穂乃香「ひぅ?!」ピクッ
柚「あ、起きた」
あずき「何の音……?」キョロキョロ
女性客「えー、このお店にいる方々全員にお知らせします!」
女性客「あなた方はたった今から人質です! 全員その場に伏せなさい!」
柚「は……?」
柚「――えっ、あれって……!」サァッ
忍「ひ、っ、~~~っ!」ガクガク
女性客「いいですか、従わない方は処分しますよー」
女性客「さ、店員さん。目隠しをしますからね」シュルッ
忍「え、ぁ、あぁ、いや――っ」フルフル
女性客「従わないんですか?」
忍「~~~~~~~~っ!」
女性客「いい子いい子」キャハ☆
女性客「目隠しはこれで全員よし、と。ふう、意外と骨が折れますね」
女性客「ええと――あっ。ちょっと借りますね」スッ
忍(あっ、アタシのスマホ――っ)
女性客「む……あの。これどう動かすんですか?」
忍「――ふぇ? あ、アタシですか?」ビクッ
女性客「ボタンが少ないですね。J-PHONE……は違いますよね、ボーダフォン?」
忍「AQUOS PHONEですけど……」
女性客「へぇ、そんな会社が」
忍「いえ、社名はソフトバンクです」
女性客「……」
女性客「…………」
女性客「チッ」
忍(舌打ちされた……)
女性客「もういいです、一人でやります」
女性客「……色々イジれば……」ポチポt
ピッ…prrr…
女性客「ほら通話出来た」
女性客「警察ですか? 私は二三教幹部『菜々』」
女性客「童実野町にいるナナの前でキングを解放して下さい」
女性客「もしキングを二時間で連れて来られなければ」
女性客「ウサミンパワーでここを星屑にします」ピッ
菜々「さて……次は何をしましょうか」
忍(目隠しで見えないけど――)
忍(さっき天井を撃った拳銃がアタシのこめかみに押しつけられてるのは判る)
忍(全然銃口がブレない。何とも思ってないんだ)
忍(アタシ……死ぬ、かも)
菜々「――ん、案外この子は冷静ですね。面白くない」
菜々「」ゴソゴソ
忍(何を――?)
ピンッ…チャリン…
菜々「表。なら素直に待ちましょうか」
忍「?!」ゾクッ
忍(今……コインでアタシの命を決めたの?!)
忍(もし、裏が出てたら――!)ガクガク
菜々「あ、動揺してますね?」
忍「ひっ!」ビクッ
菜々「ふふ、大丈夫ですよ。ナナはとっても運がいいんです」
菜々「分かりますか? だから何にも心配しなくていいんですよ」ニコッ
菜々「あなたの生き死にでナナは不幸になりませんからね」
忍(こ、この人――っ!)
菜々「だから安心して待ってて下さい。いつかちゃんと殺しますから」キャハ☆
忍「人でなし――」
菜々「?」
忍(――あっ)サァッ
菜々「今、何か言いましたか?」ズイッ
あずき「……どうする?」ヒソヒソ
穂乃香「……目隠しを外すのは無理そうですが」ヒソヒソ
あずき「助けたくない?」
柚「そりゃ、カッコよく助けたいけどサ」ヒソヒソ
穂乃香「えぇ、銃が相手では……」
あずき「……」
あずき「数撃ちゃ当たる大作戦は? 一斉に行けば――」
穂乃香「有効ですが間違いなく死傷者が出ます」
穂乃香「それに相手は『本物』です。攻め切れなければ皆殺しも……」
柚「こんなの日常じゃしない会話なよねー」アハハ…
柚「……はぁ。幸いまだ人質だし、警察に期待しよ」
柚(あとはこの前夢で見た『あの』――)
菜々「聞き間違いじゃなきゃ人でなしって」
忍「ひぃっ! あ、あー……え、と」ガタガタ
菜々「はい。何ですか?」ニコニコ
忍「あの……そう! キングってどんな人かな、って」
忍「……そう思って……え、えへ」ヒクヒク
菜々「あぁ……今のキングは無実なんですよ」
菜々「だってあの人は若作りなだけなんですよ?!」
忍「へ?」キョトン
菜々「なのに付き合ってた男は歳を知るなり訴えて……」
菜々「貢いだのはあっちの都合でしょう! そう思いませんか?!」
忍「知るか!」
忍「え、アタシそんなことがキッカケで人質なの?!」
菜々「二三教の認知度が上がりますからね」
菜々「そして教団が大きくなり、こんなことをやらかしたナナは降格される」
菜々「その方が何も考えなくていい。気楽でしょう?」
菜々「そうだ、あなたに決めてもらいましょう」
菜々「あと一時間、どう暇を潰したらいいと思います?」
忍「え……」
菜々「ナナは何をしたらいいと思いますか?」
忍「……じゃあ、自首を」
菜々「『どう暇を潰したらいいですか』ぁ?」グリッ
忍「っ!」ビクッ
忍(もうやだ、助けて――!)
穂乃香「――お酒」
菜々「うん?」
穂乃香「お酒はいかがですか?」
柚「ちょ、穂乃香チャン?」
穂乃香「気を逸らすのが最優先ですっ」ヒソヒソ
菜々「いいですね、ここに来る筈のキングもお酒が好きですし」
菜々「ついでに煙草も欲しいですね。ラッキーストライプが」
菜々「えーと……じゃ、そこのあなたにお願いしますっ☆」ポンッ
あずき「!」
菜々「っぷは」
菜々「んー、麦のジュース美味しいです! キャハ♪」
あずき「はは、ははは……」
忍(銃口は相変わらずこめかみから離れない――)
忍(目隠しを解かれたとは言え……あずきちゃんも下手に動けないよね)
忍(――声の位置からして……斜向かいに立ってるのかな)
忍「……ごめん」
忍(もう、無理だよ)
あずき「そんな、諦めたら――!」
あずき「……っ」カッ!
菜々「あなたも呑みます? なーんて!」ケラケラ
あずき?「……」ゴゴゴゴゴゴ…
ポスッ
ぴぃち「よっこらせと。ご指名じゃ仕方ないカナ?」ニタァ
柚「この口調――!」
穂乃香「わ、そんな大声を出したらっ」ヒソヒソ
柚「……っ!」
柚(あれは夢じゃなかった……!)
ぴぃち「はぁ~い☆ アナタのはぁとを狙い撃ち♪ ばぁん☆」
菜々「はい?」キョトン
ぴぃち「ノリ悪いな、ノれよ☆ JKのお肌みたく☆」
忍(え、あずきちゃん……?!)
忍(違う、声はそっくりだけどこんなに『歪』じゃない!)
ぴぃち「ま、いっか。そんなコトは」
ぴぃち「ナナさんだっけ? ぴぃちとゲームしよっか♪」
菜々「ゲーム……ピコピコは無理ですよ?」
ぴぃち「大丈夫、ここにあるものでやるから。そこらの居酒屋より酔わせてやるよ☆」ニタニタ
菜々「へぇ。……ナナの強運でも暇を潰せるなら」
ぴぃち「負けたら罰ゲームだぞ♪」
菜々「負けませんから平気ですっ」
ぴぃち「そんじゃ、レッツ・スウィーティー♪」
ぴぃち「ゲームは《ポントゥーン》!」ドン☆
ぴぃち「使うのはこのラッキーストライプの箱」
菜々「ボックスタイプの開け方は知ってますか?」
ぴぃち「あたぼーよ」カパッ
ぴぃち「でも中身があると音がするから、よっと」ザラッ
ぴぃち「──さて、これにアンケート用紙に付いてるこのペンを使う」
ぴぃち「これを『サイコロ』にするぞ」カチッ
菜々「『トランプ』ではないのですか?」
ぴぃち「スウィーティーだろ♪」
ぴぃち「ロゴが描かれた大きい面に1と6、取り出し口のある面に2と5、それ以外の面に3と4を、表裏足して7となるように中黒で書き込む」カリカリ…
ぴぃち「……さ、ゲームを始めるか☆」
ザァアァァァアアァ…
忍(空気が変わった──)
ぴぃち「プレイヤーは自分の番の度に箱を伏せて置く」スッ
ぴぃち「相手は箱の向きから推理して、掌で隠されたこの箱の『天井を向いている面』の中黒の数を当てる」
ぴぃち「例えばこの場合は『3』。当てたら3点、外したら倍の6点を相手は得る」
ぴぃち「先に点数が『21』になったら勝ち、点数がこれを超過したら負け」
ぴぃち「何か質問は?」
菜々「……」
忍(……え、あれ?)
菜々「いえ。あ、先攻貰っていいですか?」
ぴぃち「」ニタァ
ぴぃち「一回勝負だからよぉ~く考えるんだぞ☆」
菜々「へーきへーき、はい」スッ
ぴぃち「『6』」
菜々「当ったり~♪」
忍(このゲーム……大きな欠陥がある)
ぴぃち「んじゃ、ほい」スッ
菜々「んー、『5』!」
ぴぃち「残念『2』。倍の4点を食らえ☆」
菜々「あーっ、外したーっ」ケラケラ
忍(当たり外れが等率だとするとどの面も期待値は5.25)
忍(なら、バストにはこれを超える点数を与えればいい)
菜々「ナナ、いっきまーすっ!」スッ
ぴぃち「『ろ・く』♪」
菜々「また当てられましたかー」ケラケラ
忍(2の面を提示されたら毎回5と答えれば点数が期待値を下回る)
忍(3の面も1の面に優位性で劣る)
忍(つまり『常に6を出す先攻』が必ず勝つ!)
忍(これ、気付いてる……よね?! あずきちゃん?!)
ぴぃち「次はこれだっ!」スッ
菜々「む、『4』!」
ぴぃち「けっ、もってけドロボー!」
菜々: 8点
ぴぃち:12点
菜々「今度こそっ」スッ
ぴぃち「また『6』だろ☆ 猿かアナタは☆」
菜々「ナナはウサミン星から……」ゴニョゴニョ
菜々「ん゛んっ。えぇ、当たりです♪」
忍(これでチェックメイト……っ!)
忍(あず──……?!)
ぴぃち「声なら出ないぞ」ボソッ
ぴぃち「さ、この目を当ててみろ☆」スッ
菜々「これは──『6』ですね?」
ぴぃち「ぶっぶー」
菜々「えっ……い、『1』?」
ぴぃち「ちっちっちっ」ニタァ
ぴぃち「アナタの、負・け♪」
菜々「──これは……!」
ぴぃち「開けた状態で伏せれば取り出し口も『天井を向く』だろ?」
ぴぃち「6+5で『11』、だから倍の22点だ」ニタニタ
ぴぃち「ゲームセット☆」
菜々:30点(バスト)
ぴぃち:18点
菜々「まさか……最初に中身を抜いたのは『開ける』ために?!」
ぴぃち「必勝法のあるゲーム相手に思考停止した奴が悪いんだよ☆」
ぴぃち「折角待ってあげたのに。残念♪」
菜々「そんな、これは──」ワナワナ
菜々「~~~~~~~~っ!」チャカ
ぴぃち「そいつを使うのはマナー違反だぞ☆」
ぴぃち「──闇の扉が開かれた」ォォン…
ぴぃち「罰ゲーム! ──RABBITS LABYRINTH──」ドン☆
バタバタバタ…
菜々「……ぅ、ぐ……っ」
菜々(──気絶してた……? えっと、確か……ゲームに負けて……その後──?)
バタバタバタ…
菜々(この音は……警察……?! ひ、人質は──?!)ムクリ
菜々「……あれ? 身体が……」
菜々(動きます、けど……感覚が『遠い』)カチャ…ブスリ
菜々(フォークを手に刺したのに、痛いのに、辛くない)
菜々(現実感がまるでピコピコみたいに──)
バタバタバタ…
菜々(……警官隊の中に見知った顔がありますね)
菜々(あぁ、あれは元キングの──右手には拳銃……)
菜々(──逃げないとナナは撃たれますね。……?! こ、殺され──!)
チャカ
菜々「――!」
女「J.P.B.」
ザァアァァァアアァ…
菜々「きゃは」
ダァンッ!
警官「いかんっ!」サッ
ぴぃち「やぁん、いきなり抱きついてどうする気だよ☆」
ぴぃち「……おい、何とか言えよ☆」ゲシッ
警官「痛っ」
ぴぃち「『自殺』した、だろ?」ニタァ
警官「なっ、君、何故それが……?!」
ぴぃち「急いで落ち着け、見苦しいぞ♪」
ぴぃち「それに本人にそのつもりはないし。運が良ければまだ生きてる」
ぴぃち「――身柄解放をゲームにしたからな。だったらいっそ『生の実感』もゲームにした方がいい」スタスタ…
警官「ま、待て、君には我々も色々と──」
警官「──み、見失った……」
忍「……」
忍(いつか……話せるかな)
忍(もう一人のあずきちゃんと)
~作戦3~
柚「アタシ? ──TVの取材? どこの局?」
柚「ZTV……あっ、『イジメの実体』か!」
柚「はいはい視てる視てる! 視てまーっす!」
柚「うーん、でもイジメかぁ……え、違う番組?」
柚「ふむふむ」
柚「この学校のアイドルねぇ……真奈美サンとか?」
柚「うん、木場先生。あの人は料理も歌も凄いからね」
柚「英語ペラペラだし、体育教師だから体力あるし」
柚「ヒクイドリくらいならタイマンで倒せると思うよ」
柚「あの人がいる限りイジメは有り得ないかなー」
柚「あっ、ほら今あそこにいる!」
柚「──ん、ジャージじゃそうは見えない?」
柚「しょうがないよ、陸上部の顧問だし」
柚「流石に文化祭の時は着てこないと思うけど」
柚「ん、はい、はーい。文化祭の時にまた来てねー」ノシ
忍「──はい、他に何か意見のある人ー」
日菜子「出し物……なら」ハイ
忍「はい日菜子ちゃんどうぞ」
日菜子「文化祭と言えば──むふ、むふふ……」ポワポワ
忍「あ、これ長いヤツだね。座って座って」
日菜子「むぅ」
柚「はいっ」ピシッ
忍「……何?」
柚「リアルJKキャバクラやろう! 儲かるし!」
ポカッ☆
柚「~~~~~?!」モンゼツ
清美「『劇』だそうです」
あずき「うわぁ……」タジッ
穂乃香「劇でしたら私も賛成ですね」
忍「賛成2、と」カキカキ
忍「他に意見のある人は? いない?」
忍「あ、そうだ。あずきちゃんは何か作戦ある?」
あずき「あずきが?! わ、私は……うーん……」
あずき「カーニバルゲーム大作戦、なんて……」
柚「良かったよ、多分!」ペシペシ
あずき「痛っ、痛いってば……」
穂乃香「縁日の模擬では出来ない希少性を押し出す──いい提案だったと思います」ナデナデ
あずき「撫でないで」プクー(←145cm)
穂乃香「すみません、つい」(←161cm)
忍「ただ、かなり大掛かりになりそうだよね」
柚「その辺りは気合いと根性だネ」フンス
忍「男臭いなぁ……」
あずき「話変わるけど」
あずき「どうして忍ちゃんが実行委員の仕事してたの?」
穂乃香「あぁ、そう言えば……文化祭の委員は確か智絵里先輩でしたよね」
忍「……あー、これ話していいのかな……」
忍「端的に言うと、気絶するくらいのトラウマに遭って今は寝込んでる、かな」
忍「今からその話をしに行くから一緒に来る?」
沙紀「──よしっと。こんな感じっすか?」
女生徒「イイ! 最高っ!」パチパチ…
沙紀「へへ……じゃ、他のクラスにも頼まれてるしアタシはこれで」テクテク
柚「……!」
穂乃香「あれが美術部の……チョークはこんな絵も描けるものだとは知りませんでした」
柚「……すっごー……!」
柚「うわぁ、立体に見える。うわぁ」キラキラ
穂乃香「これは確かに大きな絵も見たくなりますね……」
忍「でもだからって廊下一面確保されるのは困るよ」ヒョコ
忍「毎晩忍び込んで掲示を剥がし回ってるみたい」
あずき「先輩は朝方それに出くわしたと……本人には注意したの?」ヒョコ
沙紀「姉貴は昼間だと寝てるんすよ」
あずき「へー……」
4人『?!』ビクッ
沙紀「ホントすみません、姉貴がとんだ迷惑を……」ペコッ
穂乃香「いえ! あの……お姉さんが、犯人、なんですか?」
沙紀「ええ。姉貴はアタシの絵が好きなんすよ、病的に」
穂乃香「病的に……ですか」
沙紀「だから幾ら言っても聞きやしない。というより聞こえてないんすかね?」
沙紀「もっと見てもらうべきだー、とか言って」ハァ
柚「……んー? 行き過ぎてるのは分かったケド……」ハテナ
あずき「それでどうして先輩のトラウマに?」ハテナ
沙紀「大方『声』っすよ」
忍「え、そんなに怖い声なんですか……?!」
沙紀「まぁ、ある意味?」
忍「?」
穂乃香「この『白紙』は剥がしていいんですよね?」
忍「うん、例の人が勝手に貼ったらしいから」
柚「ひゃー……廊下の向こう側まで貼られてるよ」
穂乃香「これ、結構作業量が多そうですね……これをたった一人、一晩でとは」
あずき「あ、剥がすの手伝うよ」
穂乃香「……凄いですね、その人」
あずき「感心しちゃダメだよぅ」ベリッ
あずき「──ん?」
柚「裏に何か描いてあるねぇ。なになに、『2ー3でたこ焼き焼いてます』……まさか」
忍「『ストラックアウト』……『お化け屋敷』……」ハッ
穂乃香「全部各クラスの作ったチラシ……?!」
あずき「……」
侵入者「またか、また紙を剥がしやがったか!」
侵入者「一度見てみろっての、ったく!」バリッ
侵入者「これも、これも、これも! 邪魔邪魔!」バリバリ
女生徒「はぁーい♪」
侵入者「?! 誰だ! 警備員か?!」
女生徒「おいおーい☆ 警備員は普通、カタいもんだぞ☆」
女生徒「ぴぃちはここの生徒、現役JKなんだから☆」
侵入者「いや……誰だよ……」ドンビキ
ぴぃち「ぴぃちのことは、ぴぃちちゃん☆ って呼んでいーんだぞ☆ だぞ☆」
侵入者「桃」
ぴぃち「シバくぞ☆」
ぴぃち「……ま、それはそれとして」
ぴぃち「折角の文化祭、楽しんでいこ☆」ニタァ
ゴゴゴゴゴゴ…
ぴぃち「『闇のゲーム』。やってくか?」
侵入者「はぁ?」
ぴぃち「名付けて《残像コリドール》!」ドン☆
ぴぃち「ぴぃちに勝ったらそれ貼るの手伝ってやるよ☆」
侵入者「……負けたら?」
ぴぃち「こわ~い罰ゲーム♪ 剥がせとは言わないからさ☆」
侵入者「はっ、何だか知らないけど面白そうじゃん!」
恵磨「乗った! アタシは恵磨、勝負だっ!」
ザァアァァァアアァ…
ぴぃち「さぁ、ゲームの時間だ」
ぴぃち「ルールは簡単、0時になると同時に校舎の両端からそれぞれ出発して、先に相手の出発した側の端まで着いた方の勝ち」
ぴぃち「但し階段以外の相手が通ったトコは数分間通れなくなるから気を付けろよ☆」
ぴぃち「それじゃ、ぴぃちはあっち側に行ってるわ~♪」
ぴぃち「時間になったらチャイムが鳴るようにイジってきたからそれでスタートな☆ ズルすんなよ☆」
恵磨「──って言ってたけど」
恵磨「『通れなくなる』? どういうことだ?」
恵磨「……んー、まぁ考えても仕方ないか」
…キーンコーン…♪
恵磨「っしゃあ!」ダッ
ゾロッ
恵磨「?!」
恵磨「な、何だコレ……残像?!」フリムキ
恵磨「うわ、アタシがいっぱいいる……」ゾッ
恵磨「……あーもう、コレを考えるのはヤメだ!」
恵磨「走る! 勝つ! 行くぞォ!」ダダッ
ゾロゾロゾロ…
恵磨(『相手の通ったトコは数分間通れなくなる』、か)タッタッタッ…
恵磨(この残像が本人以外へ質感を与えるモノだとすれば納得いくルールだ)
恵磨(当然、直線ルートは反復横飛びか何かで封じられている筈)
恵磨「迂回するしかない、か……!」タッタッタッ…
恵磨(校舎は全部で5階、そのうち少なくとも一つの端に接続しているのは下から3階)
恵磨(この3階はいずれも両端と接続している、よって移動はこの3階に限られる)
恵磨(──と、フツーは考える)
恵磨(文化祭期間中だからか校舎には懸垂幕が掛かってたよな)ニヤリ
恵磨(5階の窓から懸垂幕を伝って2階まで行ってやる)
恵磨「吠え面かきやがれ──っ!」タッタッタッ…
ガダン…
恵磨(……何か、遠くで音がしたような……)
恵磨「このっ、また紙テープかっ!」ベリッ
恵磨「道具を床に置いて帰るなよ畜生……!」
恵磨(それにしても……)タッタッタッ…
シン…
恵磨(静か過ぎやしないか?)
恵磨(アタシの移動の軌跡も相手の妨害になるようにしてきた、相手がゴールへ一直線とは考え難い)
恵磨(でもアタシはまだ相手の姿を見ていない)
恵磨「一体何が……なっ?!」
ぴぃち「おっつスウィーティー☆」ニタニタ
恵磨「ば、バリケード……こりゃ教室の扉か?!」ガシャン!
恵磨「テメッ、勝つ気はねぇのかっ!」
ぴぃち「そっちこそ来るのが遅いんじゃない? 迷子はその場を動いちゃいけないんだぞ☆」
ぴぃち?「おかげで探し回っただろーが☆」
恵磨(相手の軌跡が2本……2本?! いや、これは──!)
ぴぃち?「そのバリケードを押さえてるのはぴぃちの残像だぞ♪」ニタニタ
ぴぃち「本物は」バッ
恵磨「しま──っ!」
ぴぃち「背の低さを利用して物陰に隠れてたこっち☆」
タッタッタッ…
恵磨「新しい残像に囲まれた……!」
ぴぃち「この作戦は本家コリドールだと反則だから気を付けろよ☆」
ぴぃち「あでゅー☆」タッタッ…
恵磨「待て、このっ、邪魔だ……っ!」
残像『』ニタニタ
恵磨「出せっ! ここから出せぇぇぇぇぇぇぇ!」
タッタッタッタッタッ…
ぴぃち「はい到着☆」タッチ
ぴぃち「約束の罰ゲームの時間だぞ☆」
ぴぃち「──闇の扉が開かれた」ォォン…
ぴぃち「罰ゲーム! ──PALACE OF DRAGON──」ドン☆
ザッ…ザッ…
恵磨「お、おい、今度は何の音だよ……?!」ビクッ
残像『』ザッ…ザッ…
恵磨(アレは……アタシの残像?!)
残像『ァアァアアァァァアァァア』
恵磨「ひっ! ち、近付くな……っ!」
ズブッ
恵磨「──?!」
残像『ァアァアアァァァアァァア』ズブズブ…
恵磨(アタシの身体に入ってくる……!)ゾワッ
恵磨「た──助けて……!」
残像『ァアァアアァァァアァァア!』
残像『ァアァアアァァァアァァア!!』
残像『ァアァアアァァァアァァア!!!』
恵磨「誰か、やぁ、やだ、出して、助けて……!」
恵磨「耳がおかしくなる……! いや、いや……っ!」
ァアァアアァァァアァァアァアァアアァァァアァァアァアァアアァァァアァァアァアァアアァァァアァァア…!!!!
ぴぃち「切なさも愛しさも、躊躇いも誘惑も、全てアナタ自身」
ぴぃち「残像になっていたアナタのはぁとは一晩で戻るから安心して」
ぴぃち「ぴぃちはルールを守った子には優しいんだぞ☆」
ぴぃち「……でも、はぁとを全部取り戻すまでは」テクテク…
ぴぃち「残像一体毎に聴覚が倍になる。それが『罰』♪」
ぴぃち「心臓のビートに身を委ねてもいいんじゃない?」
ぴぃち「やぁん☆ ぴぃちったら詩人☆」テクテク…
ザァアァァァアアァ…
あずき「部屋の飾りはこんな感じ?」
忍「うん、矢っ張りこういうことのセンスならあずきちゃんに任せるのが正解だよね」
あずき「えへへ……模様替え大作戦ならちょくちょくやるからね」テレッ
柚「服のセンスといい、そういうことには才能あるよね」
柚「他の大作戦は大抵失敗するのに」
あずき「今回のカーニバルゲーム大作戦は誰の発案だったっけかな?!」ムスーッ
柚「はいはい」ナデナデ(←156cm)
あずき「ぐぅ……平均身長レベルのクセに……」(←145cm)
穂乃香「しかし部屋飾りそのものを作ったのは忍さんですよね」
忍「あはは、手先はまぁまぁ器用なんだ」ニコッ
穂乃香「はぅっ」キュンッ
あずき「……穂乃香ちゃんって忍ちゃんが相手だと乙女だよね」ヒソヒソ
柚「クールさがないよね」ヒソヒソ
沙紀「失礼しまーす」ガラッ…
忍「こんにちは、何日か振りですね」
柚「お、美術部の凄い人だ」
沙紀「その言い方はちょっと……こほん」
沙紀「描いていいのはどこっすか?」
あずき「あぁ、それならこっちに……」トテテ…
穂乃香「──あの、この際少しお尋ねしても?」
沙紀「何すか?」
穂乃香「ここ暫く深夜に掲示が剥がされることがなくなってますが、何かありましたか?」
沙紀「……」
沙紀「姉貴は……部屋から出て来なくなったんす」
沙紀「扉の下から出された紙も一枚きり、震える字で」
沙紀「『声が溢れて世界が壊れる』って」
~作戦4~
柚「『忍チャンともっと仲良くなりたい』?」
穂乃香「はい……///」カァ…
穂乃香「しかし『さん』付けしているのに今更変えるのも気恥ずかしく……すみません、変ですよね」
あずき「あー、とうとう来たかー」
穂乃香「えっ?」
柚「恋する乙女全開だったのに何を今更って感じだよね」
穂乃香「えっ……えっ?!」
あずき「それじゃ、忍ちゃんとラブラブ大作戦始めるよー」
柚「はーい」
紗南「はーい」
穂乃香「増えた?!」
紗南「やー、実は次にハマれそうなゲームを探しててさ」
紗南「忍ちゃんにもお願いしてたんだよ」
あずき「そこで穂乃香ちゃんがこれに協力、伸ばした手が触れ合ってそこから──!」
柚「キャー」(><)
穂乃香「やりませんよ?!」
あずき「同じ目的があれば何にせよ距離は縮まるんじゃない?」
穂乃香「う、それは一理ありますね……」
柚「実は忍チャンを既に呼んでまーす」
紗南「お、早い」
柚「穂乃香チャンから相談された時点で亀のゲーム屋での待ち合わせを取り付けたよん♪」
穂乃香「……あの、私ってそんなに分かり易いですか?」
あずき「うん」
穂乃香「」ズーン…
カランカラン…
留美「あら、ちょうど入れ違いね」
あずき「留美さんだけ?」
留美「茄子さんが車を出したから」
柚「あのぉ……そちらのキレーなお姉サマは?」
あずき「あぁ、お姉ちゃんに卸してる業者さんだよ」
紗南「いつもお世話になってます」ペコリ
留美「ご贔屓にどうも」ペコリ
穂乃香「し、忍さんは……?」キョロキョロ
留美「お母さんが何も言わずにいきなり上京してきたって慌ててたわ」
留美「それで、茄子さんの運転で急いで迎えに行ったみたい。店主らしからぬ行動だけどね」
柚「それでお店の前にあんなブレーキ痕が……」ヒソヒソ
穂乃香「どれだけ荒っぽい運転なんでしょうね……」ヒソヒソ
あずき「事故ってないのは運がいいだけだよね」
留美「言いつけちゃおうかしら」
あずき「勘弁して下さい」
留美「今日はこんな感じね」
紗南「ふむふむ……うーん……目新しいのはないなぁ」ペラッ
紗南「じゃ、期待してるからねっ☆」
穂乃香「は、はい。頑張ります」
カランカラン…
留美「何の話?」
あずき「次に流行りそうなゲームの話」
柚「入荷だけでこんなにあるんだ。意外かも」
柚「この『モンスターファイター』って何?」
留美「腕相撲っぽい格闘ゲーム、ってところかしら。このお店は全体的に懐古趣味なのよ」
柚「むぅ……こりゃ難題だねぇ」
柚「はい、リスト」ポン
穂乃香「わわっ」オタオタ
穂乃香「わ、分厚い」
穂乃香「……」ペラッ
柚「忍チャン遅いねぇ」モグモグ
あずき「あっ、最後のお煎餅取られた!」
留美(食べたかった……)
留美「私も一応仕事で来ているのだけれど」
あずき「楽しみを最後にとっておく大作戦がぁぁ……」
柚「んく……。仕事なら出来てるでしょ」チラッ
穂乃香「……」ペラッ
柚「あんなに集中してる穂乃香チャンは珍しいよ」
留美「……そういうことにしましょうか」
柚「あ、メール来た。忍チャンはそのまま帰るって」
留美「これはかなり遅くなりそうね。あずきちゃん、お茶戴けるかしら」
あずき「はぁい……」トボトボ…
穂乃香「──ん、これは」
穂乃香「業者さん」
留美「留美でいいわ、どうしたの?」
穂乃香「このM&Wってものを見せて下さい」
穂乃香「~♪」テクテク
柚「おはよー。えらくご機嫌だね」
穂乃香「ええ、おはようございますっ」ニコッ
柚「ううっまぶしい」ジュッ
柚「……ところでその手のものは?」
穂乃香「昨日教えて戴いたM&Wのデッキを組んできました」
穂乃香「M&Wは何でも長年くすぶっていた人気に近年火が点き始めたゲームだそうで、今では世界レベルの流行の兆しだとか」
柚「わ、そんな話してたんだ。盛り上がってたから何事かと思ったよ」
穂乃香「特にこのモンスターが可愛くて……♪」ゴソゴソ
つ『もけもけ』
柚「……へ、へー……のっけからハイレベルだね……」
穂乃香「レベル1ですよ?」キョトン
穂乃香「もし鳴き声がつくとしたら『くっ』ですね……♪」スリスリ
穂乃香「あぁ、あとはこの『ワタポン』なんかもよく見るとなかなか」
柚「うん、なんかもういいや……」
柚「もうすぐ忍チャンが来るよ、ガンバ」グッ
穂乃香「はいっ」ドキドキ
忍「穂乃香ちゃんが?」
あずき「うん、だから話は聞いてあげて。自信あるみたいだったから」
忍「へぇ、でもなんで私が紗南ちゃんに頼まれたことを知ってたんだろ?」
あずき「さ、さぁね?! 穂乃香ちゃんも頼まれたんじゃない?!」アセアセ
忍「どうして焦ってるの」ジト
ザワザワ…
忍「──ん、何だか騒がしいね」
あずき「」ホッ
清美「違反は違反です。廊下でメールはしてはいけませんっ」
生徒「そんな、融通きかせてよ。歩きながらやってたワケじゃないんだからさ」
清美「向井委員長がいなくなってから弛み過ぎですっ!」ビシッ
清美「勝手ながら向井さんの後任として風紀を預かる者として、とても容認出来ませんっ!」
清美「レッド☆カード!」
あずき「……やば」
清美「まったく……まったく!」スタスタ
忍「あれ、もしかして不味いかなこの状況」
あずき「物凄く不味いよ! ちょっと荷物持ってて!」ダッ
忍「うぐ、重……!」
あずき「先に教室に入って穂乃香ちゃんに伝えないと──!」
清美「廊下は走らないっ!」キッ
あずき「ひっ」ビクッ
清美「……おはようございます」ガラッ
柚「あ」
穂乃香「……あ」サッ
清美「……綾瀬さん、後ろに隠したそれを見せて下さい」
あずき「ま、待ったぁっ!」
清美「何ですか今度は……」ハァ
あずき「それ、あずきが売りました!」
穂乃香「?!」
柚「アタシも買えば幸せになれるって言ったカナー」
穂乃香「ゆ、柚さんまで……!」
清美「では三人とも共犯ですね」
穂乃香「……え、共犯じゃありません! これは私が勝手に──!」
清美「何でもいいですけど早く見せて下さい。事の次第ではただじゃ済みませんよ」ギロッ
柚「……」
柚「『ただじゃ済まない』? 脅してるの、それ」
清美「正しいか、歪んでいるか、人にはそれだけしかありません」
清美「正しくなければ人として歪んでいるのですから何をされても仕方ないでしょう」
あずき「……それは『平等』なの?」
清美「犯罪者の人権が制約されることと何が違うんですか?」
あずき「そう。向井委員長なら人の尊厳に目を向けたと思うけどな」ゴゴゴゴゴゴ…
清美「~~~っ! いいから早く出しなさいっ!」バンッ!
カッ!
あずき「」ズキュゥゥゥゥン☆
清美「──はっ。え、こ、ここは……?!」キョロキョロ
あずき?「アナタのはぁとの部屋だぞ☆ シャバダバシャバダバ~♪」
ぴぃち「あ、今のあずきはぴぃちって呼んでね☆ つか、呼べ☆」
清美「はぁ?! 何を言ってるのかさっぱり──」
ぴぃち「随分整った部屋だねぇ。『私物』がないけど♪」
ぴぃち「自分のはぁとの真ん中に大きな穴がある、そんな気がしない?」ニタァ
清美「ぐ……」
清美(桃井さんってこんな人だったの──?)
ぴぃち「清美ちゃん、ぴぃちとゲームをしよっか☆」
ぴぃち「このゲームに勝てたら何も言わずに出してあげる♪」
ぴぃち「負けたら罰ゲームに……アナタのはぁとのスキマ、お埋めします」キリッ
ぴぃち「なんちて☆」
清美「」イラッ
清美「勝てたら風紀を乱した報いも受けてもらいますからねっ」
ぴぃち「おっけー」ニタニタ
ぴぃち「さぁ、ゲームの時間だぞ☆」
ザァアァァァアアァ…
ぴぃち「ゲームは──ド・ド・《ドーナツ》♪」ドン☆
ぴぃち「よく切られたトランプ・カード一組52枚を用意しまーす」
清美「その年季の入ったカードはどこから──」
ぴぃち「アナタが没収したものの中から」シャッシャッ
清美「……」
ぴぃち「説明は続けるからな☆ ちゃんと聞いとけよ☆」
ぴぃち「このゲームには山札・場札・手札・持ち札があって」
ぴぃち「先ずは山札。これはカードを裏向きでドーナツ状に配置したものとする。山っぽくないとか言うなよ☆」
ぴぃち「次は場札。山札から1枚選んで表向きで山札の真ん中に置く」
ぴぃち「ほら、好きなの選べよ☆」
清美「じゃあ、これを」スッ
【ハートのQ】
ぴぃち「次は手札。これは各プレイヤーが山札から相手には見えないように3枚ずつ確保する」スッスッスッ
ぴぃち「持ち札は後半の説明に登場するぞ☆」
ぴぃち「自分の番が来たらプレイヤーは手札から1枚選んで場札の上に重ねる」
ぴぃち「場札にあるカードの数値の合計を互いに確認したら、山札から1枚引く」
ぴぃち「これを繰り返す。やることはこんだけ☆」
ぴぃち「但し、場札の値が『100』を『超えた』なら、超過させたプレイヤーはその超過させたカード以外の場札を全て持ち札に加える」
ぴぃち「ゲームが終わるのは『山札がなくなった時』」
ぴぃち「終了時点で持ち札が少ない方の勝ちっ☆」
ぴぃち「あと、カードには特殊カードもあって」
~特殊カード~
○「09」 場の数値が「99」になる(「99」「100」時に用いても「99」になる)
○「10」 場の数値を「10」減らす
○「J」 場の数値を「10」増やす(QとKも同様)
ぴぃち「これで説明は終わり☆ 何か質問は?」
ぴぃち「ちょっと長かったしデモプレイでもする?」
清美「いいえ。理解したので早く始めて下さい」
ぴぃち「あったまい~」ニタニタ
ぴぃち「なら敬意を表して先攻を譲るぞ☆」
清美(私の初期手札は3.3.8……)
清美(8を出して場札は18、7を引く)
ぴぃち「Kを出して場札は28」
清美(7を出して場札は35、Jを引く)
ぴぃち「8を出して場札は43」
清美(Jを出して場札は53、10を引く)
清美(10は今後もなるべく握っておきたいですね)
ぴぃち「7を出して場札は60」
清美(3を出して場札は63、Kを引く)
ぴぃち「5を出して場札は68」
清美(Kを出して場札は78、9を引く)
清美(よしっ、これで攻められる!)
ぴぃち「Jを出して場札は88」
清美(9を出して場札は99、4を引く)
ぴぃち「10を出して場札は89」
清美(4を出して場札は93、5を引く)
ぴぃち「3を出して場札は96」
清美(3を出して場札は99、9を引く!)
ぴぃち「がびょーん……Qを出して場札は10」
清美(よしっ!)
ぴぃち「いちにぃ──16枚、持ち札にする」ムムム…
ぴぃち「昔やってた?」
清美「いえ」ドヤッ
ぴぃち「あんましムカつく顔してっとお仕置きしちゃうぞ、校舎裏で☆」
清美(やった、やった♪)ニマニマ
ぴぃち「おーい、そっちの番だぞ☆」
清美「あっ……こほん」
清美(すぐさま攻められるけど……場札を貯めようかな)
清美(5を出して場札は15、2を引く)
ぴぃち「Qを出して場札は25」
清美(2を出して場札は24、6を引く)
ぴぃち「Kを出して場札は37」
清美(6を出して場札は43、6を引く)
ぴぃち「5を出して場札は48」
清美(6を出して場札は54、10を引く)
清美(10がダブった……次で行こう)
ぴぃち「8を出して場札は62」
清美(9を出して場札は99、Qを引く)
ぴぃち「おっと。1を出して場札は100」
清美(くぅ……10を出して場札は90、7を引く)
ぴぃち「8を出して場札は98」ニタァ
清美(う、また10を出して値を下げるしか……!)
清美(10を出して場札は88、1を引く)
ぴぃち「Jを出して場札は98」
清美(1を出して場札は……99!)
清美(山札に一枚だけある10を引き当てないとマズい、かも──!)
清美(──こ、これっ! じゃないか……1を引く)
ぴぃち「1を出して場札は100」ニタニタ
清美「あっ」
清美(……7を出して場札は7、9を引く)
清美「持ち札は──17枚」
ぴぃち「ふー……追い付いた」
ぴぃち「Jを出して場札は17」
清美(ドーナツ……山札の量からして終了間際ですね)
清美(何とか持ち札を増やさせないと)キッ
清美(Qを出して場札は27、6を引く)
ぴぃち「Kを出して場札は37、……」ニタァ
清美(──? 6を出して場札は43、4を引く)
ぴぃち「4を出して場札は47」
清美(4を出して場札は51、6を引く)
ぴぃち「3を出して場札は54」
清美(9を出して場札は99、2を引く)
ぴぃち「10を出して場札は89」ニタニタ
清美(最後の10……! 6を出して場札は95、4を引く)
ぴぃち「5を出して場札は100」
清美「あぁっ! あ、あぁ……」ウルウル
清美「……よ、4、出します……」
清美(場札を持ち札に回収して──2を、引く)
ぴぃち「9を出して場札は99、7を引いておしまいっ☆」
清美(負けた……!)ヘタリ
ぴぃち「いやぁ、楽しかった☆」
清美「っ」キッ
ぴぃち「意外と表情豊かなトコ見られたし♪」
清美「……え」ポカン
ぴぃち「本気で勝つ気ならもっと確実に終わらせられたぞ☆」スタスタ
ぴぃち「──はぁ。あのねぇ」
ぴぃち「ちゃんと可愛いって自覚しなよ」シャガミ
清美「な、にの、話を……?」
ぴぃち「鏡を見る前から怯えてちゃシンデレラにはなれないぞ☆」コツン
清美(け、結構痛い……)ズキズキ
ぴぃち「うーん、芯は強そうだしヘーキか……」ブツブツ
ぴぃち「よし。お姉さんからおまじないっ☆」
ぴぃち「──MELLOW YELLOW──」ドドーン☆
清美「っ、ぁ、あ──?!」ドクン…
清美(か、身体が、熱い……?!)ドクン…ドクン…!
ぴぃち「ドーナツの穴はドーナツを語ってはじめて見えてくる」
ぴぃち「人間の輪郭も同じことだろ☆」
ぴぃち「規則とか退屈とか、そんなモンに甘えんな☆」
ぴぃち「──自分らしさがあるなら、曝け出せ」
スルッ…パリンッ
清美(ヘアゴムと眼鏡がひとりでに──!)
ぴぃち「アナタの可愛いがアナタを作ってる。忘れんなよ☆」スタスタ…
清美「待って、ここからの、出方を……!」
ぴぃち「あぁ、そろそろ出られるぞ☆」
ぴぃち「でも」ニタァ
清美「」ビクッ
ぴぃち「覚悟を決めろ」
ザァアァァァアアァ…
清美「──はっ」
清美(戻ってこれた……? 記憶が少し曖昧ですけど……)
清美(そうだ、眼鏡──有り得ない箇所でバラバラになってますね。まぁ、伊達だから無問題ですが)スック
パラパラ…
穂乃香「……!」メソラシ
清美「何ですか、変な表情をして」
清美「確かに私は柔軟性に欠けていました、反省してますし以後気を付けます」
清美「ですが校則違反はそれと別の話で──」
柚「清美チャンっ!」アセアセ
清美「何ですかもう……」
柚「早く隠して!」
清美「え? ……?!」ババッ
清美(制服がジグソーパズル状にバラバラに……?!)
ザワザワ…
清美(見られた……絶っっっ対色んな人に見られた……///)カァァァァァァ
忍「穂乃香ちゃん大丈、夫……あー……」プイッ
清美「終わった……何もかも終わった……///」
紗南「留美さん、もっかい!」
留美「私は仕事中と言った筈だけど?」
紗南「こうなったら何回やっても大差ないって! 次こそそのファンカスノーレ突破してやる」メラメラ
留美「もう……じゃああと一回だけね」
2人『決闘(デュエル)!』バッ☆
茄子「うーん、どっぷりだねぇ」
穂乃香「もけもけドール……♪」スリスリ
忍「UFOキャッチャーの景品に二度見したのはこれが最初で最後かなぁ……」
柚「うーん、どっぷりだねぇ……」タジッ
あずき「M&Wの流行ぶりは学校も黙認だし、風紀委員様々だね」
清美「超☆風紀委員です。偉いんですっ!」カランカラン…
茄子「あ、いらっしゃい」
柚「『エロい』?」ニヤニヤ
清美「『偉い』っ!」キッ
茄子「それで、今日は何買ってく?」
清美「ぐ……ストレージ見せて下さい」
~作戦5~
穂乃香「『激流葬』を発動しますっ!」
忍「ああっ、あたしの魔法のシルクハットが……!」
穂乃香「破壊された『キング・もけもけ』の効果で『もけもけ』を蘇生!」
穂乃香「そして『怒れるもけもけ』の効果はまだ継続中です」
忍「……あっ」
穂乃香「忍ちゃんへ三連☆もけもけウェ~~~ブッ!」
忍「まっ、また負けたぁぁぁ……」LP7600→0
忍「この頃強くない?」
穂乃香「ふふっ、先生がいますからね」
忍「へえ、気になるかも」
穂乃香「明日会うことになってますから一緒に行きますか?」
穂乃香「あっちの方角にあるお城のような建物なんですが――」
忍「えっ」
穂乃香「?」キョトン
忍「――えっ、と、ごめん、明日は用事があった、かな」ハハハ…
穂乃香「……忍ちゃん?」
あずき「穂乃香ちゃんがエンコー? ないない。絶対ない」
柚「あっ、もしかしてエンコのこと? だとしたらあり得る」
あずき「確かに。結構後先考えずに全力出すから」
忍「じゃなくてっ!」
柚「……そんな目で見なくても解るよ、忍チャン真面目だもん」
忍「ぐすっ……」グシグシ
柚「でもどうしてそう思ったの?」
忍「――すんっ、えぐ」
あずき「よしよーし」ポンポン
忍「うぅぅー……」
柚「身長差をものともしない母性が炸裂」ボソッ
あずき「ちっちゃいって言うな!」ポカッ(←145cm)
忍「あ痛っ?!」(←154cm)
あずき「ああっ、別に殴るつもりは」オロオロ
忍「――ふふっ」グスッ
柚「お城みたいな建物、ねぇ。しかも指差した先は繁華街」
あずき「それを言ったのは嘘の吐けないあの穂乃香ちゃんで、理由は『会う』代わりに『教えてもらえる』から」
柚「きな臭いね、うん」ハァ
忍「今は何ともなくてもいつか……だから心配で」
あずき「繁華街って言っても今は寂れてるよね、あっちの方って」
柚「そうそう、何だか判んない工事ばっかりだし」
忍「寂れてるからこそアングラな商売は儲かるんだよ」
三人『……』
あずき「行ってみようよ」
忍「え……でも危ないかも……」
あずき「ここで話しててもどうしようもないでしょ」ニコッ
柚「それに知っちゃったからね」ニヤッ
忍「う」
柚「いざとなったら真奈美サンにでも電話すればいいじゃん。行こ行こ」
忍「……ありがとう」
柚「終わったらホットゆずオゴってね」
忍「はいはい」クスッ
柚「見つけた?」
忍「いやまだ……」
あずき「二人ともっ、こっちこっち!」テマネキ
二人『えっ』
サササッ
あずき「あれ!」ヒソヒソ
穂乃香「~♪」テクテク
忍「……いたよ」
あずき「穂乃香ちゃん捜索大作戦大成功っ!」ピース
柚「うわぁ、いたよ」
あずき「なんでそんな不服そうなの。心配ならともかく」
柚「あずきチャンの大作戦に負けると色々と悔しい」
あずき「どうしろと?!」ガーン
忍「あっ、移動してるよ」
ササササ…
黒服「――確認しました」
チュイイィィィィン…
ガガガガガガ…
あずき「この辺りはうるさいねっ!」
忍「壁の向こうは何の工事だろうねっ!」
柚「また曲がった! また見失うよっ!」
穂乃香「 」ピタリ
穂乃香「 」
あずき「? 聞こえた?!」
柚「無理っ! 聞こえない!」
忍「えっ?! 何か言った?!」
ギギィィィ…
三人『?!』
あずき「あんなトコに門が?! なんで?!」
柚「もしかして声紋で開いたのアレ?!」
忍「門が閉まっちゃう……! 閉まっちゃうよっ!」
黒服達『捕まえた』
三人『――っ?!』ビクゥ!
美嘉「ごめんね、工事中でうるさくて」
穂乃香「いえ。こちらこそ何もお返し出来ず……」
美嘉「だからそれはいいってば★」
美嘉「忙しくってロクに学校にも行けてない分、同年代の友達は貴重なんだから」
穂乃香「流石、KCのカリスマ社長は大変ですね」ニコッ
美嘉「社長としてはまだまだだよ。いいとこカリスマギャルってカンジ?」クスッ
黒服「美嘉様、お友達をお招きしました」
美嘉「はーい」
穂乃香「え?」
ギィ…ッ
あずき「どんどん連れて行かれるんだ……」ハイライトオフ
柚「もう駄目だ……」ハイライトオフ
忍「シマッチャウヨー…シマッチャウヨー…」ハイライトオフ
穂乃香「みんな?!」
美嘉「いらっしゃい」ニコニコ
柚「改めて見るとスゴい広さだね、ここ」
あずき「わあっ、見てよこの壁! 全部ガラスだよ?!」
美嘉「特殊な強化ガラスなんだ。軍用ヘリでも撃ち抜けないよ」
柚「この敷地に遊園地かぁ……とんでもない規模だねぇ」
美嘉「ちっちゃいちっちゃい子達に喜んでほしいからね★」
あずき「『ちっちゃい』?」キッ
美嘉「あっ……うん。ソウダネー」メソラシ
美嘉「良かったらもっと寛げる部屋に行こうか」
忍「シマッチャウヨー…シマッチャウヨー…」
穂乃香「起きて下さい忍ちゃん……っ!」ユサユサ
美嘉「立ち直ってない人が一人いるけど」
柚「行く行く! 何がある?」
美嘉「そうだね。ビリヤードでしょ、ダーツでしょ、ルーレットにチェスにトランプ・カード、あとは――」
美嘉「マイナーだけど、M&W」
忍「M&W……もけもけ……うぅ」ユラリ
穂乃香「起き、ましたか? 目の焦点が何だか――」
忍「えへ、えへへへぇ……」ニヘー
美嘉「どうしたの? 入っていいよ」キョトン
柚「いやぁ……恐れ多いというか……」タジッ
あずき「この量の賞状とトロフィーは初めて見たよ」
美嘉「うん、まぁ色んなゲームでタイトル獲ってるからね★」
美嘉「M&Wも知ってるみたいで良かったよ、アタシだけ盛り上がってもしょうがないもん」
美嘉「でも遊ぶのには邪魔だし、トロフィーとかは仕舞って――」
忍「ひぅっ」ビクッ
忍「シマワレル…シマワレル…」ガクガク
柚(何だか面倒臭いトラウマになってる!)ガーン
美嘉「や、やめとこうか……」
穂乃香「ええ……こほん。M&Wは今学校で流行ってますからね」
美嘉「へーっ、じゃあもしかして今行ったら人気者かな?!」
あずき「あぁっ! こ、このトロフィー……!」
柚「なになに、M&W全国大会――第一位?!」
美嘉「偶々だよ///」テレッ
美嘉「それまでの優勝者が殿堂入りしたからずれ込んだだけ。茄子さんって言うんだけどね」
あずき「え? 茄子は私のお姉ちゃんだけど……?」
美嘉「……へぇ」
美嘉「そっか、茄子さんはこの町に住んでたのか」
あずき「うん。ゲームショップやってるよ」
柚「一昨年までの優勝者かぁ。ならあの引きの強さも納得ダネ」ウンウン
忍「初手エクゾとかね」ゲッソリ
穂乃香「大丈夫ですか?!」
美嘉「――ってことは、プロモも?」
あずき「『青眼の白龍』のオリジナルは前に見せてくれたよ」
あずき「これは勝負してくれた人達の心を引き受けたカードだから売り物にはしない、って」
柚「あー、あれだけ強いと勝負の相手を探すのも大変そうだもんね……」
美嘉「ふーん……」
美嘉「あっ、そう言えば時間は平気? 送らせようか?」
忍「ホントだ、もう帰らないと」
穂乃香「ではお言葉に甘えて」
柚「お願いしまーすっ」
美嘉「じゃあこの部屋出て左のエレベータで1階まで降りてて。向かわせるから」
あずき「お邪魔しましたー」トテテ…
美嘉「……あずきちゃん。少し待ってて」
あずき「え? は、はい」
美嘉「レダメでビッグ・コアを攻撃っ★」
紗南「うわ……負けたー」LP200→0
ワイワイ…
あずき「流石に強いね」
穂乃香「ええ、でも学校でやったら迷惑です」チラッ
ルキトレ「あの、皆さん、授業の時間ですよー……?」ウルウル
穂乃香「泣きそうじゃないですか」
あずき「はいさい、やめやめ! 授業だよ授業!」
清美「私のセリフと立場が……」ポツン
穂乃香「マスコット役でいいじゃないですか」
清美「私は超☆風紀委員なんですっ! 可愛がられたいんじゃないんですっ!」プンスカ
美嘉「はいはい」オシノケ
清美「ちょ」
美嘉「あずきちゃん、また後でね」ヒソヒソ
あずき「うん、分かった」ヒソヒソ
美嘉「失礼しましたー」ガラッ…ピシャ…
穂乃香「……?」
穂乃香「……」キョロキョロ
穂乃香(矢っ張り。放課後になった途端に二人ともいなくなった)
穂乃香(私に敢えて言わなかった理由……一体何でしょう?)スタスタ
穂乃香「それにどこへ……旧校舎は以前にも増して厳重に閉鎖されてるし――」
穂乃香(教室棟にいないとなると後は体育棟の屋上くらいですね)
穂乃香(……良くない噂が多いところですね……)カツカツ…
カツン…
あずき「 」
穂乃香(居たっ!)コソッ
美嘉「 プロモ版 白龍 」
美嘉「 美しい」
穂乃香(ん……? 風でよく聞こえない……)
穂乃香(屋上に繋がる扉越しでは限界が――)
黒服「……」ヌッ
穂乃香「――え? きゃっ?!」
あずき「そろそろ帰らないと。それ、返して下さい」
美嘉「凄い……これがオリジナルの『青眼の白龍』……!」
美嘉「ふつくしい――何度言っても足りないくらいに」
あずき「あのー」
美嘉「ねぇ、あずきちゃん。これアタシと交換してみない?」
あずき「えっ……。でもそれはお姉ちゃんので――」
美嘉「いいでしょ、損な交換にはしないからさ」
美嘉「オリジナルの『ゼラ』と交換なんてどう? 青眼より貴重だよ」
あずき「お姉ちゃんは何を積まれても絶対に首を縦に振らないと思います」
あずき「勝負してくれた人達の心を引き受けたカード」
あずき「それに、今はお姉ちゃん自身の魂のカードなんです」
美嘉「……」サッ
美嘉「そっか、残念。じゃあこれ返すね」スッ
あずき「うん……あれ? このカード――」
ガシャアンッ!
あずき「ふぇ?! なになになになにっ?!」ビクッ
穂乃香「やだっ、離してっ! 離して下さいっ!」
美嘉「……やってくれたね」
黒服「あ、ぁあ」サァァッ
美嘉「たかがJK一人取り押さえるのに手こずったの?」
黒服「もっ、申し訳ありませんっ!」
あずき「うわ、でっかいもけもけドール」
あずき「こんなの入れたバッグ振り回せばそりゃガラスも割れるよね」
穂乃香「んー! んんー!」バタバタ
美嘉「ったく……事が穏便に進まなくなったじゃん」ボソッ
美嘉「じゃあねあずきちゃん、二度と会わないから」
あずき「え?! ま、待って!」
あずき「『本物の』カードを返して」
美嘉「チッ、矢っ張り気付いてたか……」
美嘉「やだよ」
あずき「そんな……どうして!」
美嘉「アンタのお姉ちゃんがイカサマをした罰だよ」
美嘉「先攻初手エクゾだけで優勝? 馬鹿馬鹿しい、あんなのは即無効試合になるべきだった」
美嘉「ほら、この青眼もアタシの下にやって来られて嬉しそう」
美嘉「だから諦めて帰って。荒事にはしたくないから」
カッ!
ゴゴゴゴゴゴ…
あずき?「『諦めろ』?」
穂乃香「!」ゾッ
穂乃香(こんな声色も持ってたんですか……?!)
黒服「」グラ…
穂乃香「きゃ――え? く、黒服さん?」ユサユサ
穂乃香「嘘……気絶してる……」
美嘉「そりゃ、これはアタシのものだからね」
美嘉「アタシは他人に譲る気なんてさらさらないよ」
あずき?「相応しいと思ってるんだ。へぇ」ニタァ
あずき?「じゃあさ、『魂のカード』を賭けてゲームしよっか」
穂乃香(――意識が……遠く……?)
穂乃香「」トサッ
ぴぃち「ぴぃちと、闇のゲームで☆」
美嘉「アタシにゲームで挑むの? はは、面白いね」
ぴぃち「魂を取り戻せないともれなく『死』が待ってるぞ」ドン☆
美嘉「……気迫から……本気なのが伝わってきたよ」
美嘉「いいよ、やったげる。『闇のゲーム』!」ドン★
ザァアァァァアアァ…
ぴぃち「ゲームは《M&W・876ルール》!」
美嘉「876ルール……?」
ぴぃち「やっべ、ぴぃちくらいの歳じゃないと知らないか」
美嘉(年下なんだよね?)
ぴぃち「んじゃ、説明してやっか。よっこいしょー☆」
ぴぃち「使うのはM&Wカード、互いのデッキとその中のモンスターの数は同じにする。決闘が長くなるとメンドーだからデッキ枚数は20枚、モンスターは16枚で固定すんぞ」
美嘉「そんな少なくていいの? サクッと終わっちゃうよ?」
ぴぃち「女は『早い』方がモテんだぞ☆ ……さて、次はフィールドの説明かな」
ぴぃち「場は互いにモンスターカードゾーンと魔法・罠カードゾーンの枠が1枚分ずつ。それ以外はデッキ・エクストラ・墓地・除外の4枠だけ」
ぴぃち「新m@sterルール以後に出たカードでもモンスターカードゾーンに置けるからな」
ぴぃち「あと原則として、破壊されたモンスターはコントローラーの墓地に送られる」
ぴぃち「あとはフェイズの説明か。フェイズは4つで、基本的にスタンバイ・メイン・バトルの3つを繰り返す。これもM@STERルールとは処理が違うから気を付けろよ」
■スタンバイフェイズ
互いのプレイヤーは手札が5枚になるようにドローする(このドローの課程や結果で
デッキが0枚になってもよい。デッキが0枚の時はこのドローの処理を無視する)。
その後、手札の魔法・罠をセット出来る。このフェイズにカード効果以外でセットされた
魔法・罠は発動条件を満たせば同一ターン中でも発動出来、スペルスピードは3になる。
■メインフェイズ
互いのプレイヤーは同時に場に通常召喚(表側攻撃表示か表側守備表示)を
しなければならない。この時既に場に出ているモンスターは破壊される。
この通常召喚はリリースを要しない。また、この召喚は同時に行われる。
■バトルフェイズ
モンスターで戦闘を行う。なお、この戦闘における攻撃宣言は互いのプレイヤーが
同時に行ったものとして扱う(攻撃宣言を行えない表示形式のモンスターを除く)。
戦闘破壊されたモンスターはコントローラーの墓地に置かれる。
ダメージステップ終了後、場のモンスターとその装備カードを
全てゲームから除外する。エンドフェイズで発動する効果はこの直後に処理する。
ぴぃち「但し、ターンプレイヤーの優先権がないから魔法・罠の発動は互いの合意の元に行われる」
ぴぃち「あとライフポイントの概念がない分のコストやバーン効果は処理されないから注意な♪」
ぴぃち「当然、ダメージステップも戦闘による破壊等の処理だけやるぞ」
美嘉「んじゃ何を以て終わりになるワケ?」
ぴぃち「メインフェイズが不履行になったらエンドフェイズに移る」
■エンドフェイズ
メインフェイズが不履行になった時、場のカードを全て墓地に捨てて移行する。
自分は相手の墓地のモンスターのレベルとランクとLINKの和を『星』として得る。
エンドフェイズ終了時、より多くの『星』を持っているプレイヤーは
その決闘に勝利する。『星』が同数になった場合は引き分けとする。
美嘉(『不履行』……宇宙モグラでも抜け穴にはならない、か)
ぴぃち「デッキは――今の手持ちのカードでデッキを作る、でいいだろ? いいよな?」
美嘉「ふぅん、まぁ構わないよ」
美嘉(青眼征竜は元々上級モンスターが多いからね……★)
シャッシャッ…
パチパチ…
美嘉「準備は?」ニコッ
ぴぃち「万全♪」ニタァ
二人『決闘!』
美嘉(アタシの手札は――レドックス、タイダル、テンペスト、太古の白石、黄金櫃)
美嘉(ま、最初は様子見だね。テンペストを――)スッ
二人『召喚っ!』
グオォォオォオォオォオオオォッ!
美嘉「――?! モンスターが……実体化した?!」
ぴぃち「やん、このくらいで驚くのはらめらめら~め☆」
ぴぃち「言っただろ、『闇のゲーム』だ、って」ニタァ
美嘉「っ」ゴクリ
美嘉(気迫だけじゃない、か……っ)
美嘉「更に魔法・罠カードゾーンへカードをセット!」
ぴぃち「こちらはセットしなぁい。使うならどーぞ?」
美嘉「っし、リバース★ 封印の黄金櫃!」
美嘉「デッキからタイダルを除外、そしてその効果でデッキからブラスターをサーチ!」
ぴぃち「――終わり?」
美嘉「え、うん……」
ぴぃち「『テンペストをリリース』」
美嘉「?!」
ぴぃち「そして手札からこの子を特殊召喚☆」
美嘉「多次元壊獣ラディアン――か、【壊獣】っ?!」
ぴぃち「そしてこちらの場にはバルバロスがいる――」
美嘉「ぐ……っ!」
ぴぃち「バトル! バルバロスでラディアンを攻撃っ!」
ズガァァァァァァァァ…!
美嘉「……っ、スタンバイ、ドロー!」
美嘉(引いたのはブラスター、か)
美嘉(もし本当に【壊獣】だとしたら狙いも解らなくはないかな)
美嘉(手札を荒っぽく消費してドロー枚数を増やせばデッキ切れも早まる、つまり相手よりも早く『メインフェイズを行えない状態』になれる)
美嘉(そうすれば不履行になった時点での相手の手札は全て墓地に置ける――優位になる)キッ
ぴぃち「」ニタニタ
美嘉(でも残念、こっちは【青眼征竜】だよ? 墓地のドラゴンを除外する手段は用意がある!)
二人『召喚っ!』
美嘉「こっちは攻撃表示のタイダル、そっちは攻撃表示のガダーラ……」
ぴぃち「更に魔法・罠カードゾーンへカードをセット」スッ
ぴぃち「そのまま発動♪ 『壊獣の出現記録』!」
美嘉「確定」ボソッ
ぴぃち「出現記録の効果でタイダルをリリース、そしてデッキから!」
ぴぃち「粘糸壊獣クモグスを特殊召喚っ!」
美嘉「うわぁ、虫VS虫かぁ……」ハァ
ぴぃち「んー? どしたどした? 溜息なんてスウィーティーじゃないぞ☆」
ぴぃち「バトル! クモグスを撃破!」
美嘉(これで星を一方的に28も稼がれた、か)
美嘉「フ……痛くも痒くも……ないね!」ニヤ
美嘉「スタンバイ、ドロー! 更に黄金櫃の効果でタイダルを手札に!」
二人『召喚っ!』
ぴぃち「こっちは攻撃表示のドゴラン、そっちは守備表示のレドックス、ねぇ」
美嘉「その邪魔なカード、破壊したげる」
美嘉「先ずは魔法・罠カードゾーンへカードをセット!」
美嘉「次に、手札からブラスターを2体捨てて効果を発動! 出現記録を破壊!」
ぴぃち「くくっ……それで?」ズガァァァァァン☆
美嘉「リバース! 『手札抹殺』!」
ぴぃち「――!」
美嘉「お、顔色が変わったね。どうしたの?」ニヤニヤ
ぴぃち「う……ラディアンを2体とクモグス、出現記録の計4枚を捨てる」
美嘉(ふふっ、アタシはブラスターと青眼の白龍を引いたけど……)チラッ
ぴぃち「――ない」
美嘉「バトル! どちらも戦闘で破壊されないなら除外だよね?」
美嘉「そしてこの空いた場に、墓地のタイダル2体を除外して墓地からテンペスト復活!」
美嘉「タイダルの効果でデッキからレドックスをサーチ」
美嘉「更に抹殺で墓地に捨てた白石を除外して青眼の白龍をサーチする!」
ぴぃち「――でも次のドロー直後にテンペストは墓地に送られる」
美嘉「これで35対21。まだまだ判らないんじゃない?」
美嘉(勿論アタシが勝つけどね!)
ぴぃち「そうだといいね。スタンバイ、ドロー☆」
美嘉(引いたのはテンペスト)
二人『召喚っ!』
ぴぃち「そして魔法・罠カードゾーンへセット♪」
美嘉(青眼とガダーラが互いに攻撃表示……さながら怪獣映画だけど)
美嘉(あの伏せカードが戦争や公害なんかより不穏なのは解るよ)
美嘉「こっちはすることないよ。発動したら?」
ぴぃち「じゃあ遠慮なく☆ 『妨げられた壊獣の眠り』!」
ズゴォォォォォォォォォォォォ…!
美嘉「きゃっ!」
ぴぃち「爆風注意~♪」
ぴぃち「こっちの場にはドゴラン、アナタの場にはガダーラが出現したぞ☆」
ぴぃち「いくぞ、バトル! 焼き尽くせ!」
ズガァァァァァァン☆
美嘉(このっ、調子に乗って……っ!)ギロッ
美嘉「墓地の青眼とテンペストを除外、ブラスターを蘇生!」
美嘉「更にテンペストの効果でドラゴンをサーチ――」
美嘉「――すると思った? しないね……ここはしない! そんなに圧縮をしなくてもドローに賭けた方が狙ったカードを引けるからね」
美嘉「スタンバイ、ドロー!」
美嘉(――来た!)カン★コーン
美嘉「ドローしたカードをそのまま魔法・罠カードゾーンにセット!」
二人『召喚っ!』
ぴぃち「テンペスト……バルバロスなら殴り倒せるね」
美嘉「それはどうかな」ニヤッ
美嘉「リバース★ 『竜魂の城』!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ…!
ぴぃち「――!」
美嘉「再び墓地に行ったブラスターを除外! そしてテンペストに700ポイントの攻撃力を加算する!」
美嘉「ハハハハハ! バトル! バルバロスを挽き潰せぇ!」
ズガァァァァァァン☆
美嘉「スゴイぞー! カッコいいぞー!」
ぴぃち「ぐぅ……っ!」
ぴぃち「――なんて」ニタァ
美嘉「スタンバイ、ドロー!」
美嘉(引いたのはタイダルと死者蘇生……)
美嘉(勝ってる、なのにどうして、この、イヤな感じは――!)
ぴぃち「ぴぃちのデッキ、引き切ったぞ☆」
美嘉「!」
ぴぃち「もう解るだろ?」ニタニタ
美嘉(星は29対37、逆転してる、けど……!)
ぴぃち「つまり、長くても5ターンしかない」
美嘉「……そしてあずきちゃんはあと1枚魔法・罠を残してる。実質最長4ターン」
ぴぃち「ノンノン♪ れっどぴぃちって呼べよ☆ 呼べ☆」
美嘉「~~~~~っ! 姉妹揃ってバカにして……っ!」ワナワナ
二人『召喚っ!』
美嘉「竜魂の城で墓地のブラスターを除外してレドックスを強化!」
ぴぃち「メタイオンは戦闘では破壊されな~い♪」
ぴぃち「バトルは双方を除外して終了する。残り4枚☆」
美嘉「っ、ドロー!」
二人『召喚っ!』
美嘉「ふ、ふ……っ、フザけるなっ!」
ぴぃち「やぁん、ぴぃち怖ぁい」クネクネ
美嘉(こちらはドローしたばかりのレドックス、あちらは……!)ギリッ
ぴぃち「バトル! メタイオンは戦闘破壊されない……ってついさっきもやったか☆」
美嘉「っ、っ! っそォォォォォォ! ドロー!」
ぴぃち「すかさず魔法・罠カードゾーンにセット☆」
二人『召喚っ!』
美嘉「いい加減沈めよ! 沈めッ! 青眼でバルバロスに攻撃っ!」
ぴぃち「……相討ちだぞ?」
ぴぃち「それも大切な青眼が相討つのに。何か思わないの?」
美嘉「カードはカードでしょっ!」
ぴぃち「へぇ。それがアナタなりの『魂』の世話なんだ」スッ
ぴぃち「青眼をリリース。そして手札からドゴランを特殊召喚」
美嘉「っ、でも結局は相討つ!」
ぴぃち「「そしてリバース! 罠カード!」」
美嘉(――今、二人分の声が――?!)ゾクッ
「「『壊獣捕獲大作戦』っ!」」
美嘉「な、あ、ぁ」
ぴぃち「ドゴランは裏側守備表示になる!」
ぴぃち「バトル! バルバロスで眠ってるドゴランを攻撃!」
ズガァァァァァァン☆
美嘉「キャアアアアアアアアアッ!」
ぴぃち「そしてぴぃちの手札もなくなった」
美嘉「でもまだターンは終了してない、征竜を出せば――」
美嘉「――!」
美嘉(墓地の属性が一つも揃ってない! し、しかもドラゴンが今墓地に送られた青眼しかいない……!)
ぴぃち「うんうん、健気だねえ青眼」
美嘉「て、手札のタイダルと墓地の青眼を除外して手札からブラスターを特殊召喚……そして破壊される」
ぴぃち「スタンバイを挟んでエンドフェイズ。異論は?」
美嘉「……ふんっ!」パサッ
ぴぃち「ラディアンが2体、クモグスとガダーラとバルバロス。アナタの星は37」
美嘉「ラディアン、クモグス、ガダーラ、ブラスター、テンペスト、そして!」
美嘉(エンドフェイズ直前のスタンバイで引いたカード!)
美嘉(大丈夫、『太古の白石』は2枚入れてた、白石のレベルは1、つまり星は同点に――)
美嘉「――なっ?!」
ぴぃち「『青眼の白龍』。レベルは8だよな?」ニタァ
美嘉「そんな、どうして」
ぴぃち「お姉ちゃんの青眼、どこに仕舞った?」ニタニタ
美嘉(ま、まさか、手放したくないあまりデッキへ組み込んでいた……?!)
ぴぃち「そのカード、ステンレス製なのに気付けなかっただろ?」
ぴぃち「それはカードに選ばれてないからだぞ☆」
美嘉「あり得ない、嘘だっ、嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ぴぃち「うるっさいなぁマンドラゴラかよ」イラッ
ぴぃち「――闇の扉が開かれた」ォォン…
ぴぃち「罰ゲーム! ――NIGHTMARE BLOOD――」ドン☆
美嘉「うわあああぁぁ!」
美嘉「――はっ、こ、ここは?」キョロキョロ
美嘉「まさか……カードの『中』?! M&Wの世界の?!」
美嘉「それにあの子もいない! いるのは――」
美嘉「ま、待って、あなた達はアタシのカードでしょ?!」
美嘉「やっ、やめて、来ないで――助けて――!」ポロッ
美嘉「ブラスター! タイダル! レドックス! テンペスト!」
美嘉「……青眼……!」ポロポロ
美嘉「アアアアアアアアアアアアアアア!」
グシャッ…
ぴぃち「とと、これで青眼も無事回収、っと」
美嘉「――」
ぴぃち「ふふふ、その目に何が映ってるかは知んないケド」
ぴぃち「安心して☆ その『死の体感』は一夜限りの幻影……」
ぴぃち「アナタがゲームで次こそきちんと笑えるように願ってるよ」
ぴぃち「そのためにも、一度全て燃えて灰になるといい」
美嘉「――」
ぴぃち「例え愛と思えない荒療治でも、それがカード達の愛の形」
ぴぃち「はぁとの愛の炎を避けるなよ☆ 物理的に☆」
ザァアァァァアアァ…
あずき「ゴノレフーっ!」
柚「ゴノレフーっ!」
忍「……何やってるの」ハァ
あずき「ゼェゼェ……ゴノレフだよ」
穂乃香「何がそこまで二人を駆り立てるんですか……」
柚「この後開かれる大会の優勝賞品がもけもけドールなんだー」
穂乃香「ゴノレフーーーーーっ!」
忍「穂乃香ちゃん?!」
日菜子「はっ。って、あんまりうるさいから現実に戻ってきちゃったじゃないですか!」ペチペチ
あずき「よし20ポイント!」
忍「それでいいの?!」
忍「……ところで柚ちゃん、その大会はホントにあるの?」
柚「うん。ヤ〇ルトの人が言ってた」
穂乃花「ゴノレフーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
あずき「この辺り一帯ってみーんなおんなじ人から買ってるよね」
柚「名前なんだっけ、あの目に優しい色の人」
忍「ちひろさんでしょ?」
日菜子「妄想ワールドからかけ離れた名前を出さないで下さいぃ!」ペチペチ
日菜子「あ、でも日菜子が無視され続けるというのも……むふ、むふふふ……」ポワポワ
~作戦6~
柚「やっほー皆の衆!」
穂乃香「……遅刻ギリギリですよ」ムスー
柚「ありゃ、お怒り?」
忍「決闘に負けたから拗ねてるの」
穂乃香「あ、あぅ、それはその」アワアワ
あずき「今日も素晴らしい『名推理』を見せてもらったぞ!」
穂乃香「うぅ、せ、せやかて工藤!」
忍「は?」ゴォッ
穂乃香「スミマセンデシタ」
柚「あー、でも忍チャンの【推理ゲート】かぁ、見たかったなぁ」
あずき「それはまた次の機会だねー。残念っ」
忍「そうそう、今日は予定があるもんね」
茄子「あっ、もう揃ってるね。それじゃ鍵閉めて、っと」ガチャリ
茄子「さ、みんな車に乗って~♪」
四人『……はーい』
茄子「あれ?」
四人(この人の運転かぁ……)ドヨーン
柚「ぅ、うぷ」
忍「」チーン
茄子「着いたよー……みんな?」
穂乃香「相変わらず……男らしい運転ですね……」マッサオ
あずき「フリスク、食べる? 酔い、覚めるよ、おぇ」
柚「ちょーだい……」ポリポリ
忍「」ムグムグ
穂乃香「あぁ、思い出の味になりそうです……落ち着く……」ポリポリ
茄子「あ、あれー?」キョトン
吉森「表で凄い音がしたので何事かと思えば……」テクテク
茄子「あら、吉森教授。今日はお世話になります」
吉森「うむ。私も久し振りに君と会えて嬉しいよ。何せ君と会ってから調査に出掛けると妙にツキが回る」
茄子「偶々ですよ、偶々」フフッ
吉森「それで、そのノビてる子達が見学の?」
茄子「はい。すみません、一般公開前にお邪魔して」
吉森「ははは、他ならぬ勝利の女神の頼みなら構わないよ」
吉森「さあ、早速案内しよう――回復したら、だが」
忍「ディアンケトビート…」
吉森「――で、これが今回の目玉のヒエログリフだ」
穂乃香「わぁ……こんな完全な状態で見つかるんですね」
吉森「かなり貴重なものだ。しかもどんな鉱物なのか未だに解っていない」
吉森「なんでもとある『魔術書』の写しらしいが――」
金倉「吉森君!」
金倉「呼んでもいいとは言ったがこんな人数だとは知らなかったぞ!」ドスドス
忍「……この方は?」
茄子「金倉会長です。今回の調査におけるパトロンですね」
金倉「そのヒエログリフは私が発見したものだ」フンス
吉森「まぁ盗掘まがいの強引さだったがね」ヒソヒソ
忍「あ、そうなんですか……」ヒソヒソ
柚「わぉ、これ面白いねー。ナイスだよナイス」
あずき「遺跡発掘大作戦! だね!」
金倉「君達っ! 体験型の展示を触るのはいいが一般公開前なんだから少しは自重してくれ!」
あずき「ぶーぶー」
柚「いージャン、二人でやれる量なんて高が知れてるんだし」
金倉「しかしだなぁ――ん? んん?!」
金倉「そ、それは――!」
穂乃香「良かったんですか?」
あずき「ちゃんと返すって言ってたし、平気でしょ」
あずき「それにお姉ちゃんの知り合いの同僚さんだからね」
柚「イヤ、確かに貸さないといけない雰囲気だったけどさ」
忍「矢っ張り……ねぇ?」
あずき「不安?」
穂乃香「アレを下げていることが一種の個性だったので」
あずき「うぐ、それは一理あるような……」
柚「だからここいらで個性を増やさないと! 例えば――何だろ?」
忍「考えてから話そうよ……例えば、和服の着付けが出来る、とか?」
穂乃香「確かに何故か出来そうな気がしますね。呉服屋の娘と言われても納得出来ます」
あずき「なんで?! うー、でも和服かぁ」
あずき「和服、お色気……いや、でも……うーん……」
柚「……悩み出しちゃったし、先に行こっか」
穂乃香「そうですね、茄子さんも行ってしまってますし」
忍「あずきちゃん、先行ってるからね」
あずき「はーい……」ムムムム
?「ほー?」
?「お悩みでしてー?」
あずき「わぁ?!」ビクゥ!
あずき「え、だ……誰?!」
?「そなたの妹――」
あずき「はぁ?!」
?「――のようなものかも知れませぬー」フフッ
あずき「……え、あ、からかわれた?!」ガーン
芳乃「依田は芳乃と申しましてー」
あずき「は、はぁ」
芳乃「小学生ではありませぬよー」ニコッ(←151cm)
あずき(あ、すっごく親近感湧いた)パァッ(←145cm)
芳乃「それではー、わたくしは先を急ぐのでー」
トテトテ…
あずき「へ」ポツーン…
あずき「――な、何だったんだろ……」
あずき(今の人、和服だったなぁ。可愛かったなぁ)
あずき(……勉強してみようかな)
あずき「ん、あれ、そう言えば――あの人、何者?」
金倉「ひひひひ……よもや千年アイテムがここで手に入るとは」
金倉「もう閉館時間も近い、そろそろあの小娘も来るだろう」
金倉「そこで、ぽんと七桁くらいの金額を提示する――」
金倉「たったそれだけで世界的な名誉が手に――ひひ、ひひひひひ」
金倉「さぁさっさと来い小娘、その瞬間に栄光の日々が約束される……」
芳乃「お探しの小娘とは芳乃のことでしてー?」
金倉「は? ……?!」ガタッ
金倉「きっ、貴様! いつからそこにいた!」
芳乃「たった今入ったのでしてー」ニコッ
金倉「ううう嘘を吐くな! この部屋唯一の出入口の正面に座っている人間の目をすり抜けて入れる筈がないっ!」
芳乃「……ほー。つまりここを塞げばそなたは出られない、と」ガチャリ
金倉「な、な――?! っ、何が目的だ!」
芳乃「真実の羽根を置いたこの天秤が傾かないならばー、わたくしはそなたを試さなくてはならないのでしてー」
千年秤「」ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
金倉「た、試す? 何を試すと言うんだ」
芳乃「そなたが闇の知恵を束ねる者たるかをー」ニコニコ
芳乃「さあ――『正直にお答え下さいますよう』」
ホータールノーヒーカーァリー
スミマセン…ヘイカンジカンデス…スミマセン…
あずき「はぁっ、はぁっ」
あずき「会長さーん! 遅れてすみませーん!」ガチャガチャ
あずき「嘘ぉ、鍵掛かってる……会長さーんっ!」ドンドン
芳乃「会長さんはもうおりませんよ-?」
あずき「ひゃああ?!」ビクゥ!
あずき「びっっっくりしたぁ……あ、芳乃さん?」
芳乃「はいー、芳乃と申しましてー」ニコッ
芳乃「何か失せ物でしてー?」
あずき「なくしたんじゃなくて貸してたと言うか……」
あずき「あの、これくらいの、逆三角錐形のペンダント知りませんか?」
芳乃「……」
芳乃「これのことでしてー?」ジャラ…
あずき「そう! それ!」
芳乃「『正直にお答え下さいますよう』。本当でしてー?」
あずき「えっ、そうだけど……」
芳乃「……。ほー。では――」
『ガチャリ』
芳乃(これは……!)
芳乃(心の部屋が区切られている方は何人か見てきましたが……)
芳乃「部屋が『二つ』ある方は初めてなのでしてー……」
芳乃(一方は――まだ幼い、遊具が散乱した部屋)
芳乃(しかしもう一方は……これは……)
芳乃(……行くしか、ない、ですがー……)
ギィィィィィィィ…
あずき?「おーい☆ 何しに来た?」
バタンッ!
芳乃(――! 退路を断たれた!)
ぴぃち「あ、このあずきのことはちゃんとぴぃちって呼べよ?」
ぴぃち「んでんで、よっちゃん? 何しに来た? 言ってみ☆」
芳乃「……では質問を。そなたが『闇』でしてー?」
ぴぃち「呼べっつったろ☆ 泣くぞ☆ 年甲斐もなく☆」
ぴぃち「んー、闇ねぇ……そうかも。考えたことなかったけど」
ぴぃち「ぴぃちとあずきは別人! うん、それがすっきりしてるな♪」
芳乃「ほー。――ならば、わたくしの用は済んだのでしてー」
ぴぃち「まぁまぁ、茶でも飲んでけよ☆」グイグイ
芳乃「け、結構でしてー。やっ、は、離して……っ」アセアセ
芳乃「ゼェ…ゼェ…」ガクッ
芳乃(イヤな予感が的中したのでしてー……)
芳乃(扉を開けなければ……結果論ですがー……)
あずき「え、と。大丈夫ですか?」
芳乃「お気遣いなくー……」ニコッ
芳乃(力を量るつもりが量られただけ――)
芳乃(これは日を改めて再戦せねばー……)
芳乃(……お茶ばかりたらふく飲まされた私怨も込めて)ケプ
芳乃「ふぅ……、む?」
あずき「?」
芳乃「もう一つ、お尋ねしてもー?」
あずき「うん、何?」
芳乃「その胸は生まれつきでしてー?」
あずき「特に変わったことはしてないかな」ドタプーン(←B80)
芳乃「ほー……」ストー…ン(←B73)
芳乃「……くっ」ペタペタ
芳乃(私怨も込めて!)
芳乃「これはお返ししましてー。それではまた後日ー」トテトテ…
あずき「?」キョトン
あずき「今朝の新聞読んだ?」
柚「読んだ読んだ。全国紙の一面に載るなんてね」
柚「おかげで親に読まされたよー。普段は読まないケド」
柚「あれでしょ。金倉会長の『惨殺事件』」
あずき「うん……凄い状況だったってお姉ちゃんが言ってた」
柚「そっか、関係者だから遺体を見たんだね」
あずき「見たから、あずき達には見せないように警察の人達にお願いしたみたい」
柚「……どんなだったの?」
あずき「えっと……あくまでお姉ちゃんの感想だけど」
あずき「『人間業じゃない。人間なら、あんな事は出来ない』」
柚「……」ゴクリ
あずき「原型を留めないくらい……『潰されてた』、って」
柚「……解った、もういいや」
あずき「あ、でも」
柚「で、でも?」
あずき「うん、怖いのと同じくらい変だって言ってた」
あずき「だって――傷痕も血痕も、一つも見つからなかったらしいから」
あずき「ところで穂乃花ちゃん」
穂乃香「」ボー
柚「穂乃香チャーン」ユサユサ
穂乃香「」ガックンガックン
柚「へんじがない。ただのほのかのようだ」
穂乃香「……名前を平仮名で書かないで下さい……」
柚「お。治った」
あずき「そんな壊れたTVみたいに……」
柚「どしたの? 話に入ってこないの?」ムニムニ
穂乃香「ひのふひゃんぁひなぃふぁあへふ」
あずき「柚ちゃん、ツッコミが不在だからストップ」
柚「へーい」パッ
穂乃香「ぷぁっ。忍ちゃんがいない生活なんて……」ズーン
柚「もけもけとどっちが大事?」
穂乃香「……勿論、忍ちゃんです」
あずき「その間は何」
穂乃香「それはそうと」
柚「強引だねぇ」
穂乃香「今朝、こんな矢文が机に刺さっていたのですが」スッ
あずき「時代はいつなのかな?」
柚「ええと、……これ何語?」パラッ
穂乃香「英語ではないですね。仏語でもないでしょう」
穂乃香「イタリア語……ロシア語……どれも違うでしょうね」
柚「流石、バレエやってるだけあって詳しいね」
穂乃香「教養も必要ですから。……あずきさん?」
あずき「へっ?」
穂乃香「どうかしましたか?」
あずき「い、いや……読めないなぁ、って思って」ハハハ…
柚「だよねー」
あずき(どうしよ、なんで読めるの?!)
あずき(『今晩零時に体育棟の体育館で待っています』)
あずき(『誰にも報せずに来て下さい。もし来なかったなら』――)
あずき(『そなたのご友人は会長さんと同じようになるでしょう』)
あずき「……」ピポパ
『おかけになった電話番号は――』
あずき(体育館は日中に使われることを考えてもどこかに攫われてるとしか思えない)ピッ
あずき(下手に通報なんかしたら警察が着く前に殺される――っ)
あずき(行くしかないんだ。私が、一人で)
ギッ…ギィィィ…
あずき「や、や、約束通り、一人で来たよ」ガタガタ
芳乃「お待ちしていたのでしてー」ニコッ
あずき「――! 会長さんを殺したのもあなたが?!」
芳乃「はてー、会長さん、でしてー?」
あずき(まるで関心がない……?!)ゾッ
芳乃「……しかし、それも過ぎたことゆえー」
芳乃「今はただ、そなたの技量のみがわたくしの関心事でしてー」パチンッ
忍「――」
芳乃「この方を賭けてゲームをしましょうー」ニコニコ
あずき「しっ、忍ちゃん!」
芳乃「少々、心から光を奪わせて戴きましてー。今の彼女は」
忍「――」
芳乃「物言わぬただの人形、人間ではないのでしてー」
あずき「~~~~~~~~~っ!」
芳乃「……さぁ」
カッ!
ぴぃち「――ゲームの時間だぞ☆」ゴゴゴゴゴゴ…
芳乃「古代エジプトにおいて死とは楽園への旅立ちとされましたゆえー」
芳乃「葬送の際は死者を護るための数々の品が納められましたー」
芳乃「ゆえに、今も多くの当時の品が出土するのでしてー」
芳乃「勿論、ゲームも」
ぴぃち「……《セネト》。盤雙六か」
芳乃「ご明察でしてー」ニコッ
芳乃「最強決闘者の決闘は全て必然。賽の目さえも定めなのでしてー」
芳乃「――さて。『これ』」スッ
芳乃「何でしょう?」
ぴぃち「は? ……え、骨?」
芳乃「またもやご明察でしてー。そう、これは左大腿骨。……『彼女の』」
ぴぃち「――なっ?!」
芳乃「今、彼女の首には縄を、両手足には枷を、二階観客席の柵に通して嵌めておりましてー」
芳乃「つまり一度敗北する度に骨を一つ抜いていきますとー、三回目で全ての枷が緩んで『首吊り』になるのでしてー」
芳乃「勝負はセネトの三回勝負、一度でもそなたが勝てば今日のところはよしとしましょうー」
芳乃「しかし、そなたがもし逃げたり、勝負が決する前に彼女を助けようとしたりすれば――」
芳乃「ふふ、お解りのようでしてー?」ニコッ
芳乃「セネト、別名ナイル・ギャモンの説明をいたしましょうー」
芳乃「使用するのは縦に三マス・横に一〇マスの『盤』と三本の『棒』、そして五つの『駒』を二種類」
芳乃「棒は表裏が判ればコインでも構いませぬがー、今回は古式に則りこれをー」パラッ
ぴぃち(紅白に塗り分けた指関節……悪趣味な)チッ
芳乃「互いのプレイヤーは盤面左上からZ字を描くように駒を進めましてー、三十マス目に到達させて駒を全て『あがり』にすることを目指しますー」
芳乃「初期状態は先攻側の駒から交互に一から一〇のマスへ駒が配置されましてー」
芳乃「手番毎に駒を一つ選びましてー、棒を振って出た表の数だけその駒を進めるのでしてー」
芳乃「なお、今回は『零』の出目を『四』といたしますー」
ぴぃち「進んだ先に駒がいる場合は?」
芳乃「その場合は動けませぬー。但しー、『それが相手の駒で、且つその駒に相手の他の駒が隣接していない場合』に限りー、その相手の駒を一のマスへ置いてから進めるのでしてー」
芳乃「このような『駒の同居』はー、一のマスと二六のマスのみの例外でしてー」
芳乃「二六のマス以降は処理が特殊になりましてー」
芳乃「二六のマスは『とまれ』のマス、必ず止まるのでしてー」
芳乃「二七のマスは『戻る』のマス、止まった駒は一五のマスへ戻るのでしてー。但し、一五のマスに既に駒がある場合は一五ではなく一のマスへと戻りますー」
芳乃「そして三〇のマスは『あがり』のマス、到着した駒は盤外へ行くのでしてー」
芳乃「なお、三〇のマスへは丁度到着する値を出さねばなりませぬー。超過する場合は進めないのでしてー」
芳乃「また、二八・二九のマスに駒が既にいる場合、進むマスはその次のマスとなりますー」
芳乃「無論、これで進んだ先が三〇のマスを超過するならばー、その駒は進めませぬー」
芳乃「ちなみにセネトは死者の書に対応するのでー、マスにはそれぞれの家(ペル)としての名前がありましてー」
芳乃「例えば駒を押し流す二七のマスは『水の家』、ナイル川を表すのでしてー」
芳乃「ではではー。そなたが逃げ出せぬようにー」スッ
『ベコッ』
ぴぃち「う……っ?!」ドサッ
芳乃「彼女と同じように左大腿骨を痛みなく抜いただけなのでしてー?」ニコニコ
芳乃「それでは一回戦。負ければ彼女とそなたの右大腿骨を抜き取るのでしてー」
芳乃「……ふむー、もし三回負けたら彼女は死ぬのですしー……」
芳乃「その時はー、そなたの頭蓋骨を戴くのでしてー」ニコッ
ぴぃち「……!」ゾクッ
ぴぃち(ちっくしょ、下に見やがって……っ!)
ぴぃち「逃げ出すワケねーだろ☆ こっちはいつでも崖っぷちだかんな☆」
芳乃「ほー。ならば――」
ザァアァァァアアァ…
ぴぃち(体育館の床面に『マス』と『駒』が浮き出た――!)
芳乃「ターコイズの魂(カー)とオニキスの魂。お好きな駒をー」ニコッ
ぴぃち「……オニキス!」
芳乃「ならば先攻はお譲りするのでしてー」ニコニコ
ぴぃち(必ずっ、必ず助けるからなっ、忍っ!)
柚「……んー」ゴロン…
柚「今何時っ。そーね大体……うわ、もうすぐ一時って」
柚「あー、駄目だー。全っ然寝られない」ムクリ
柚(……なーんか引っかかるんだよねぇ)
柚「――眠くなるまでデッキでも見てようかな」
パチパチ…シャッシャッ…
柚「ドロー! おっ、いい手札」
柚「霊廟使って真紅眼落として~、更に黒石を~」ヒラッ
柚「おっとと、落ちちゃった」テヘペロ
柚「むー、このスリーブ滑り易いのカナ?」
『無力の証明』
柚「……」シャッシャッ
柚「ドロー」
柚「……もっかいシャッフル」シャッシャッ
柚「ドロー」
柚「……」
『無力の証明』
ギシッ
芳乃「左上腕骨」スッ
『ベコッ』
ぴぃち「っ、ふ、っあ……!」
芳乃「これでわたくしの二勝。後はないのでしてー?」
ぴぃち(や、ヤバい、かも……)ガクガク
ぴぃち(棒を振るための右腕しか使えない今、忍がどうなってるのかは確認出来ない)
ぴぃち(何よりこの倒れた姿勢じゃ――っ!)
芳乃「さぁ、またそなたが先攻ですー」ニコッ
ぴぃち「――っ、まだまだ……っ! 九の駒!」
コロコロカラン…
ぴぃち「出目は『一』、一〇の駒を一マス目、トトの家に戻して駒を進める!」
芳乃「ほー。ではわたくしは六の駒をー」
ぴぃち「?!」
コロコロカラン…
芳乃「出目は『四』、そなたの一〇の駒をトトの家に戻すのでしてー」ニコッ
ぴぃち(こ、コイツ、何の躊躇いもなく博打手を……っ!)
ぴぃち「――七の駒!」
カタカタ…
穂乃香「……ふぅ。もう一時過ぎですね。そろそろ寝ないと……」
穂乃香(皮膚の構造――蛋白質――骨を溶かす薬品――)
穂乃香(状況についての話からして骨『だけ』抜かれたと考えられましたけど)
穂乃香「調べた限り、確かに人間業じゃない……ですね」
穂乃香(骨抜き、夢中、博打……イカサマ。そう言えばあの時――)
『アンタのお姉ちゃんがイカサマをした罰だよ』
『じゃあさ、『魂のカード』を賭けてゲームしよっか』
穂乃香(美嘉さんと話していたのは『誰』だった?)
穂乃香(黒服さんを手も触れずに気絶させたのは――)ハッ
穂乃香「『手も触れず』?」
穂乃香「まさか――!」
『ただいま留守にしています――』
穂乃香(……!)
穂乃香(間違いない、『犯人』がいる!)
穂乃香「そしてこんなメッセージがあるということは――!」
『――あずきは救出大作戦決行中です。場所は』
穂乃香「……解りました。今、行きます」
芳乃「五の駒を選びましてー、出目は『二』、七へ進めるのでしてー」
ぴぃち「う……っ」
~現在の盤面~
ぴぃち:1,3,8,9,13
芳乃:1,1,6,7,18
ぴぃち(でも大丈夫、三さえ出なければ八番が安パイ……)
ぴぃち「八の駒、出目は……『一』。移動しない」
芳乃「ではー、一の駒を選びましてー。出目は――『四』」
ぴぃち(ブロックが更に大きく……っ!)
ぴぃち「八の駒! 出目は――」コロコロ…
ぴぃち「――あ」
芳乃「『三』。一一へ移動でしてー?」
ぴぃち(不味い、不味いっ!)サァッ
芳乃「七の駒、出目は――『四』。一一の駒を戻すのでしてー」ニコニコ
ぴぃち「~~~~っ、九の駒!」
ぴぃち(勝たないと――!)コロコロカラン…
ぴぃち「……出目は……『四』。移動、なし」
芳乃「一一の駒を選びましてー。出目は――『二』。十三の駒も戻すのでしてー」
ぴぃち(どうして? なんで……? 勝ちが、見えない)ガクガク
ぴぃち「――。一の駒を選択」
ぴぃち(勝たないといけないのに、友達の命も掛かってるのに)
ぴぃち「出目は『一』。……二へ進める」
芳乃「わたくしも一の駒を選びましてー」
コロコロカラン…
芳乃「出目は『三』。四まで進みましてー」
~現在の盤面~
ぴぃち:1,1,2,3,9
芳乃:4,5,6,13,18
ぴぃち(こんな、殆どプライムみたいな状態に追い込まれて――っ!)
芳乃「……そなたー?」
芳乃「ねーねーそなたー? やめるのでしてー?」
ぴぃち(……ぴぃちが犠牲になれば満足して忍を解放するかも知れない)
ぴぃち(未来ある少年少女のため、ぴぃち、散りますっ! なんつって)
ぴぃち(――もう、それしか……)ガクガク
?「レットーーーーーーーーっ!」
ぴぃち「……え?」
柚「ふぃー、まさかこんなトコとはねー」
芳乃「?!」アワアワ
芳乃「かっ、加勢を呼んだのでしてー?」
柚「火星? 【代行天使】なんて使わないけど?」
ぴぃち「どうしてここが……」
柚「んー、なんとなく?」
?「――ということはあの留守電を聞いたのではないんですね」ハァ
柚「おろ? こんな深夜にどしたの、穂乃香チャン」
穂乃香「勿論、救出大作戦に加わるためです」ニコッ
ぴぃち(おーい☆ ぴぃちに無断で何してんだよご主人サマ☆)
ぴぃち「まったく……。……んふ☆ ありがと♪」ウルッ
ぴぃち(そう、諦めたらいけない――!)
ぴぃち「ゲームは続行するぞ☆」ドン☆
柚「うわ、よく見たら手足ヤバいよ? 肩貸そっか?」
穂乃香「しっ、忍ちゃんがぁぁ?! 私っ、行ってくるっ!」タタッ
ぴぃち「んもー、優しいなコイツ等☆」
柚「その口調どうにかならない……?」
芳乃「っ、ふー……。続行、ならばー。その意思を受け入れましょうー」
芳乃「そなたの手番なのでしてー」ニコッ
ぴぃち「九の駒に行動判定!」コロコロカラン
ぴぃち「出目は『四』! 一三の駒を戻す♪」
芳乃「一八の駒を選びましてー、出目は『三』、二一へ進むのでしてー」
ぴぃち「一三の駒に行動判定! 出目は――『四』!」
芳乃「……二連続……?」
ぴぃち「一三から一七へ移動っ☆ っあ」ガクンッ
柚「もうっ、ちゃんと掴まりなってー」
柚「何だか知らないけど振るならアタシがやろうか?」
ぴぃち「いいや、『これでいい』」ニタァ
芳乃「……二一の駒を選びましてー、出目は『二』、二三へ進めるのでしてー」
ぴぃち「一七の駒に行動判定! 出目は――」コロコロカラン
芳乃「……三連続!」
ぴぃち「二一へ移動! 二三も射程圏内だぞ☆」ニタニタ
芳乃「ぐ、二三を選びましてー……三以上で逃げ切れる……」コロコロカラン…
芳乃「……『三』。ほー……二六の『幸福の家』へ進むのでしてー」
芳乃「これで三の駒に四の目が出るまでは――」
ぴぃち「三の駒に行動判定。運命力で出目は当然!」コロコロカラン
芳乃「~~~~っ?! よ、よ、四連続……?!」
穂乃香「脚が折れて――いや、骨が抜かれているんですね」
穂乃香「枷は外れませんし、下手に触ると首が……」
忍「ぅ、うん……?」パチリ
穂乃香「! 忍ちゃんっ!」
芳乃(わたくしの動揺が伝わって“暗黙模様”が解けた――?!)
忍「え、きゃあああああ?! 何これ! どこ?! うわ高っ!」
忍「あああああすっっごく変な感覚する! 気持ち悪っ! え、今アタシの手足どうなってんの?!」
穂乃香「落ち着いて下さい! ええと、ええと、『もけもけ』見ますか?」
忍「そんな場合じゃないってぇぇぇぇぇ!」ウルウル
ぴぃち「どしたどした? さっさと振れよ、よっちゃん」
芳乃「――はっ」ビクッ
芳乃「ろ、六の駒を選びましてー、出目は――『三』。九へ進むのでしてー」
ぴぃち「一の駒に行動判定。出目は――『二』。三に移動する!」
芳乃「五の駒を選びましてー、出目は――」コロコロカラン…
ぴぃち「『四』。動けないな、残念☆」ニタァ
芳乃(二六を選んでいれば――!)
ぴぃち「次のぴぃちも『二』を出すぞ☆」
ぴぃち「七の駒に行動判定。出目は宣言の通り!」コロコロカランッ
芳乃「――『二』!」
~現在の盤面~
ぴぃち:1,2,3,9,21
芳乃:1,1,4,5,26
芳乃「追い、つかれた……?!」ワナワナ
芳乃「そっ、そなたっ、一体何を……イカサマでしてー?」
ぴぃち「そうじゃないのでしてー」ニタニタ
ぴぃち「強いて言うならぁ、年季の差?」
ぴぃち「『棒を投げて狙った面で止める練習』をしたことがあればその経験則で出来るんだよねー」
ぴぃち「今までは骨を抜かれて這いつくばった状態だったから出来なかったけど」
ぴぃち「だからこれは柚が来たお・か・げ☆」バチコーン☆
柚「うわキツ」ススス
ぴぃち「おいコラ引くなー☆ いやマジで。転ぶ、転ぶから」アセッ
芳乃「そんな経験を一体何で――」
ぴぃち「あちゃー、これが世代間格差?」
芳乃「同世代でしてー」シラー
ぴぃち「――バトエン、って知ってる? 昔流行ったんだけど」
芳乃「!」
柚「そっか、あずきチャン家のゲーム屋って懐古趣味だったっけ」
ぴぃち「いやー懐かしいね。まだお肌に潤いがあった頃……♪」
柚「だから同世代だよね?」シラー
ぴぃち「そーゆーワケだから、もうこの勝負は相手が悪い」
ぴぃち「で、どうするよ、よっちゃん。ぴぃちと同じくらい出目を操れるならいい勝負出来るぞ☆」
芳乃「いえ……うぅ、敗因が経験の差だなんて……」ズーン
ぴぃち「んー、それは違うかなー」
ぴぃち「支えてくれる人、守らなきゃいけない人、守ってくれる人がいるからぴぃちは勝てる状況にある」
忍「!」
穂乃香「!」
柚「へへ……」テレッ
ぴぃち「これは友情の力。ぴぃち一人の力じゃないんだぞ☆ だぞ☆」
芳乃「……完敗でしてー」パチンッ
忍「ひゃっ。ぉあ、骨がある……むぎゅ?!」キュッ
穂乃香「首! 首の縄はまだ解けてませんから!」アセアセ
ぴぃち「……警察に行くって感じじゃないし、最後に訊いとくか」
ぴぃち「アナタ、何者?」
芳乃「――ふふっ。依田の芳乃はそなたの妹のようなもの、でしてー」ニコッ
ザァアァァァアアァ…
ぴぃち「ちっ。まばたきしてる間に消えたか」
穂乃香「縄が解けましたよ――忍ちゃん?」
忍「穂乃香ちゃんっ!」ヒシッ
忍「こっ、怖っ、怖かった、よぉぉぉ……!」ポロポロ
穂乃香「よしよーし」ナデナデ
柚「穂乃香チャン、よだれ」
穂乃香「」ジュルッ
ぴぃち「――さ、帰るか☆ そろそろ忍の失踪届が出てるだろうし☆」
ぴぃち「あー、変なトコの筋肉使ったから筋肉痛恐いなー」スタスタ…
柚「待って、あずきチャン――今は『ぴぃち』だっけ?」
ぴぃち「……」
柚「……ありがと」
ぴぃち「正体は気にならない?」
柚「正体も何も、ぴぃちチャンでしかないでしょ?」
ぴぃち「さぁ……どうだろうね」スタスタ…
ぴぃち「そこんとこはぴぃちも分かんない☆」キュルーン
三人『うわキツ』
ぴぃち「声揃えんなぁぁぁぁぁぁぁ……!」ビエーン
忍「……行っちゃった……ふふっ」グスッ
~作戦7~
紗南「あずきーっ! こっちこっち!」
あずき「ごめんね紗南ちゃん、遅れちゃって」
紗南「大して遅れてないって。でも制服着替えるの面倒だよねー」
あずき「学生って目立つから仕方ないよ。だからこれは変装大作戦?」
紗南「いのちだいじに、ってね」
紗南「――あ。ところで柚は? 遅れるの?」
あずき「えっと、その、残念ながら」
紗南「もしかして今回のテスト……」
あずき「だけなら反省文だけで済んだんだけどね」ハァ
あずき「聞いたところだと反省文書いた後で先生待ってる時にヨーヨーやってたらしくて」
あずき「ストリングプレイスパイダーベイビー! って決めた瞬間にマストレ先生に見つかったとか何とか」
紗南「うわぁ……」
あずき「そんなワケだから今日は二人だね」クスッ
紗南「何やってんだかあの子は……」
紗南「……よし、気を取り直して行こっか。新しいのが見つかったら互いに連絡取り合うこと!」
あずき「らじゃ!」ピシッ
二人『作戦開始っ!』
あずき「この辺りのクレーンゲームってスカスカだなぁ」テクテク
あずき「入荷が遅れてるのかな? 店員さーん」
店員「はい?」
あずき「あの、ここに普段入れてる景品って何ですか?」
店員「はい、ええと……ぬいぐるみですね」
店員「すみません、ただいま景品の在庫がない状態で」
あずき「在庫が――ってことは元はあったんですか?」
店員「ええ、どうも上手い方がいらしたようでして」
店員「今回はM&Wシリーズのもけもけドールだったんですが」
あずき「あっ(察し)」
あずき「分かりました、ありがとうございます」
店員「」ペコッ…スタスタ…
あずき「何根こそぎ取っていってるの穂乃香ちゃん……」
あずき「でも、そっかぁ、じゃあこの辺りに目新しいのはないか……」
prrr…
あずき「おっと。えー、なになに。『今すぐカプセルトイ・エリアに集合』……? 何かあったのかな」
あずき「了解、っと。送信!」ピッ
あずき「ん、何だか甘い匂い」クンクン
紗南「……ぐ」カチカチ
あずき「おっ、紗南ちゃん発見。で、あの筐体は……?」
『Aムシキング』
あずき「何それ……」
紗南「っがぁぁぁぁぁ負けたぁぁぁぁぁ!」
紗南「――と、間に合ったんだね」コイコイ
あずき「え、なんで私呼ばれたの?」
紗南「いやぁ、今やってたこの子が強くてさ。是非とも代わりにリベンジしてもらおうかな、と」
あずき「自分でリベンジしなよ……」
紗南「予算分の100円玉使い切った」
あずき「え……そんなに負けたの?!」
紗南「流石に怪しいでしょ?」ヒソヒソ
あずき「あぁ、成程。不正を曝け大作戦だね」ヒソヒソ
?「む、あの顔はお姉ちゃんと……ねぇねぇ、桃井あずき、だよね?」
あずき「ぅえ?! ななっ、なんで知ってるの?!」
莉嘉「矢っ張り。美嘉お姉ちゃんと最後に話してた奴だ」
あずき「美嘉――『お姉ちゃん』?」
莉嘉「莉嘉の自慢のお姉ちゃんなんだ☆ 最近は忙しくて話せないけど」
莉嘉「ねぇ、アタシと勝負してみない? お姉ちゃんに勝ったって本当なのか気になるんだー」
客「えっ、あの子ってあの美嘉さんに勝ったの?!」ザワザワ…
あずき「え、ちょ」
紗南「あちゃー……これは逃げられないね」
あずき「そ、そんなこと言われてもこのゲーム知らないよ? 新旧の甲虫王者ならまだ兎も角……」
莉嘉「大丈夫、開発はKCだけど基本的にはセガと変わらないから」
莉嘉「アタシ左利きだから1Pねー」
紗南「いやルールくらい教えさせてよ」
莉嘉「ダメ。座って」
黒服「失礼」
あずき「ひゃ?! わぷっ」ストン
紗南「うわぁ……流石はアパレルを軸に全宇宙的展開をするKC社長の実妹。強引だなぁ」
紗南「……黒髪にして何年かしたらセーラー服が似合いそう」ボソッ
莉嘉「やりながら周りから説明受けてね。勝負は三回マッチ、二本先取で勝ち」
莉嘉「負けたらここにいる人達にケーキを買ってくる。はい決定☆」
あずき(うーん……取り敢えず見て判るのは)
あずき(新旧ムシキングのジャンケンのボタンは完備。でもガジェを置く場所が空白になってる。レバーは一人一つ?)
あずき(カードの取り出し口が薄くて小さい。多分シールくらいしか出て来ない)
あずき(筐体のすぐ横に真っ白なカードがある。多分電子カード。――これくらい?)
\A(アドバンスド)ムシキング!/
あずき(あ、そう読むんだ……)
紗南「ええと、先ずこのキャラの中から一人選んでPCにして」
あずき「ふむふむ。じゃあ、この『羽田リサ』にする」ポチッ
あずき「わ、いっぱいムシの画像が出てきた」
紗南「ここから使うムシを選ぶんだ。どうやらこのゲームのムシはきちんと寿命があるっぽくて」
あずき(美嘉さんのリアル志向が反映されてる……のかな?)
紗南「毎回ランダムに表示されるムシから選ぶことになってる」
紗南「このムシは対戦後にシールになって出てくるだけで引き継ぎも出来ないっぽい」
あずき「ええっ、じゃあ運ゲーなの?!」
莉嘉「課金すれば何度でも抽選し直せるよー」ニシシ
あずき(リアリストだ……)
紗南「能力値の増強については『パーソナルカード』を使うから正直どれ選んでも同じだけどね」
あずき「『記録カード』とは違うの?」
紗南「こっちはムシバトラーとしての経験値を記録する、ってコンセプトみたい」
紗南「過去のデータを利用して『カリスマ性』強化、なんてのも出来る。さっきやった時に確認した」ヒソヒソ
紗南「正直、カードの経験値の要素は出す手と等価かそれ以上だよ」
あずき「うむむむ……」
莉嘉「ねーまだー? あと七秒で画面変わるよー?」
あずき「わわっ、えーとえーと……じゃあこの子っ!」ポチッ
羽田リサ『サビイロカブト』
莉嘉「アタシはこのムシ!」ポチッ
歌田オト『ニジイロクワガタ!』
あずき「言い方のテンションの差っ!」ガーン
紗南「おおぅ、熱い差別ぅ……」
パッ
あずき「あ、画面変わった」
紗南「やばっ、早く説明終わらせないと」
紗南「舞台はこの画面に出てる近未来都市・ネオハネダシティだよ」
あずき「随分殺伐とした近未来だね」
莉嘉「そりゃサテライトだからねー♪」
あずき「『サテライト』?」ハテナ
紗南「作品世界での呼び名だから気にしないで。で、肝心のジャンケンだけど――」
『START!』
あずき「なんか始まった?!」
紗南「レバーでフィールド上の『アクションマジック・カード(AC)』を拾い集めて!」
あずき「わ、解った」カチャカチャ
紗南「拾ったACの手は手元の画面に表示される」
あずき(あー、そのための空白かぁ)カチャカチャ
紗南「時間になるとシティでムシバトルが始まるんだけどね」
紗南「ジャンケンでは拾った『手』しか出せなくて、その威力は重複して持っている『手』ほど大きくなる性質があるみたい」
紗南「ルールとしてはこれで終わりかな」
紗南「……ルールとしては」
あずき「?」
『TIME UP!』
莉嘉「行っけー! ニジイロクワガタ!」
ドスゥゥゥゥゥゥゥ…ン
ギャオオオオオオオオオ!
あずき「――えっ、何この怪獣大決戦。東映?」ポカーン
莉嘉「ムシバトルだよ☆」
リサ『頑張って!』
あずき(と、とにかく基本的にはジャンケンなワケだし)
あずき(拾えるカードの手はランダムなことを考えると、受けた攻撃の威力から相手の手の割合を予測して)
あずき(『マストカウンターで』勝つ。これが多分堅実なやり方)
手持ちの『手』:グー×3,チョキ×2,パー×7
あずき(最初は様子見のチョキだね)ポチッ
――2P・あずき:チョキ vs グー:莉嘉・1P――
莉嘉「よしっ」ガッツポ
――サビイロカブト:ゲージ20%減少――
あずき「これって多い方?」ヒソヒソ
紗南「まだ少ない方だね。ほぼ一撃必殺、とかあるし」ヒソヒソ
あずき(なら基本10%+残り枚数の差分×(5×2)%、くらいかな……?)
あずき(ってことは『グー』をもう持ってない筈)ニヤッ
あずき「勝ったー!」
莉嘉「……っ」ジワッ
紗南「大人げないからやめなさい」
あずき「はーい」
莉嘉「まだ二回戦があるもん」
あずき「よーし勝つぞ勝つぞー!」
莉嘉「……」
莉嘉「負けないから」ギラッ
紗南「っ」ビクッ
紗南(そうだ、さっきもこの言葉の後に――)
『START!』
あずき(このサテライトってとこ、全体的に世紀末的というか何というか)
あずき(鉄くずが散らばってて死角が多いマップだね。それがあるから対戦モードが成立するんだろうけど)カチャカチャ
あずき(かたやジャンクでかたや高層ビルかぁ、今回のマッチングそのものみたい)カチャカチャ
あずき「――ん、あれ……」
あずき(『チョキ』しか拾えてない……?)
莉嘉「……」カチャカチャ
あずき(ゲーム性を損なうから偏り過ぎることはないと思ってたけど違うのかな?)チラッ
あずき(散らばってるACを裏側から判別する方法がある、とか)カチャカチャ
あずき(――またチョキだ)
あずき(むぅ。こうなったらプロジェクトA! 莉嘉ちゃんの行く先へ先回り大作戦だよ!)
あずき(……Aは、あー……aheadのAかな、うん)カチャカチャ
あずき(死角に潜り込んで――今だっ!)
『TIME UP!』
あずき「あぁーっ?!」
あずき(やっば、これは……しかも動揺してるのまでバレた!)
手持ちの『手』:チョキ×9
あずき「――くぅ」ポチッ
――2P・あずき:チョキ vs グー:莉嘉・1P――
オト『やったぁ! 必殺技だ!』
『G.B.S.R.!』
――サビイロカブト:ゲージ100%減少(敗北)――
あずき「え……嘘ぉ?!」
あずき(一回戦をやった経験でさっきの計算が合ってることは確認した)
あずき(だから残り8枚チョキを持っている相手に100%以上のダメージを与えるには)
あずき(100=10+(X-8)×5でX=10、つまりグーを11枚以上拾う必要がある)
あずき(拾える『手』の種類が全部等確率、且つ莉嘉ちゃんもグーしか拾えてなかったとしても)
(1/3)^(11+9)=2.867971991…×10^-10
あずき(0.00000003%。あり得ない――それこそリアルからかけ離れた数値になる!)
莉嘉「勝つんだ……」
あずき「!」
莉嘉「アタシは勝つんだ……!」キッ
莉嘉「行くよっ、三回戦! 莉嘉が強いってことを見せてあげる!」
あずき「……どうしてそこまで……」
あずき「ううん、やるからには勝ちたいのは当たり前だよね」
あずき「でも私も――あずきも、諦めるつもりはないよ」カッ!
ゴゴゴゴゴゴ…
紗南「雰囲気が――あ、あずきちゃん?」
あずき?「あーい☆ でもぉ、ぴぃちって呼んでほしいな~♪」
ぴぃち「そんじゃま、こっからはプランBといくか☆」ドン☆
『START!』
莉嘉(口調や態度が変わってもやることは同じだよねっ)カチャカチャ
莉嘉(画面に表示されたキャラをレバーで操作してACを拾う)
莉嘉(拾ったACの『手』でジャンケンをする。要素はこの二つだけ)
莉嘉(なら、この『手』さえ判れば勝つのは簡単になる)カチャカチャ
莉嘉(お姉ちゃんには内緒で開発チームにお願いして、テストプレイ用のコマンドを対戦モードにだけ残させて)
莉嘉(スタートの合図の時にコマンド入力することで周囲の手を固定させる。これで要素はジャンケンだけになる)カチャカチャ
莉嘉(そして相手の手が判っていれば当然ジャンケンにも勝てる! 莉嘉頭いい!)
ぴぃち「またパーかぁ」チラッ
莉嘉(……無視無視。あっちはチョキしか出ないんだから)
莉嘉(ん、あれ――チョキで勝ちたいならブラフはグーじゃ……?)
莉嘉(っと、いけない、どうせブラフなんだから)カチャカチャ
ぴぃち「と・こ・ろ・で、莉嘉ちゃん?」カチャカチャ
莉嘉「――何?」
ぴぃち「罰ゲームはここにいる人達にケーキを買ってくる、だけど。それは莉嘉ちゃんもだよな?」
莉嘉「それがどうかしたの?」
ぴぃち「今から人数増やすけどいい?」ニタァ
莉嘉「?!」
ぴぃち「紗南」
紗南「はっ、ひゃい?!」ビクッ
紗南(あずきちゃんが――呼び捨て?!)
ぴぃち「柚の補習、多分終わってるから呼んどけ。忍は忙しくしてるだろうからあとは穂乃香と清美と――」
紗南「わ、分かった。えーと、LINEっと……」ポチポチ
莉嘉(う、ウソ、ハッタリに決まってる!)
莉嘉「そっ、そんなハッタリしても! 無駄だからね!」
ぴぃち「やってみなきゃ判んないだろ☆ ジャンケンなんだし☆」
莉嘉「い、今に解るよ……っ☆」
ぴぃち「~♪」カチャカチャ
莉嘉(何、この余裕は――っ! アタシは勝つために必死なのにっ!)
ぴぃち「うわー、またパーだ。困った困った」ニタニタ
莉嘉(ふ、ふんっ、アタシはグーさえ拾えば勝ち――あれ?)
莉嘉(そう言えばアタシはさっきからグーしか拾ってない。それに)
莉嘉(『第二試合でもグーしか拾わなかった』。……なんで?)
莉嘉(――まさか!)サァッ
『TIME UP!』
莉嘉「ちょ、ちょっとタンマ!」
ぴぃち「どーしたいきなり。可愛くないぞ☆」
莉嘉(もしかして――桃井あずきも同じコマンドを使った?!)
莉嘉(あ、あり得る。やったことがない、って言ってたし)
莉嘉(アタシがコマンド入力しているのを見てそっくり真似ていたのかも知れない)
莉嘉(そして第三試合ではその仕様に気付いてアタシより早く入力を終えた!)
ぴぃち「?」ニタニタ
莉嘉(つまり1Pが必ず負ける手になっている……?!)
莉嘉「ね、ねぇ……場所、交換しない?」
ぴぃち「ん? ずっと座ってて腰痛めたか? 若いのに大変だな☆」
莉嘉「そ、そう! もうそれでいいから!」
ぴぃち「やだね。ほらほら、『手』を出す制限時間が迫ってるぞ☆」
莉嘉「い……っ、いいから代わってっ! 早く!」
ぴぃち「はー……。んじゃ、一回だけな。よっこいしょういち」
莉嘉(こ、これでアタシがパーを出せば――)タタッ
莉嘉「――!」
――2P・莉嘉:チョキ vs グー:ぴぃち・1P――
オト『やったぁ! 必殺技だ!』
『G.B.S.R.!』
――サビイロカブト:ゲージ100%減少(敗北)――
莉嘉「負け、た? アタシ……」
ぴぃち「おーおー、負けたムシは捕食されるのね。……グロい☆」
莉嘉「――ぜっ、全部ハッタリだったの?!」
ぴぃち「全部っつーか、『パー』って予告してただけなんだけどな」
ぴぃち「知ってる? 勝ちに執着してると勝てないんだってさ♪」
ぴぃち「ま、これはついこの前に身を以て知ったんだけどな☆」
莉嘉「あ、っ、……ぅー……」ガクッ
ぴぃち「さーて、お楽しみの罰ゲームの時間だ」ニタァ
柚「ふぃー。お疲れお疲れ~」ノシ
沙紀「ケーキと聞いて来たんすけど……」
清美「こんな不埒な所にいたんですね。イエロー☆カードです!」ビシッ
日菜子「ピコピコうるさくて妄想し辛い――」ズーン
日菜子「――でも外へ声が届かない密室と考えると……むふ」ポワポワ
紗南「あれ?」
紗南「まだこんだけしか来てないの?」
莉嘉「ひっ?!」ビクッ
ぴぃち「莉嘉さんっ。ゴチでーす☆」
莉嘉「イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アアアアアアアアアアアアアア…
~作戦8~
光「次っ、次の問題だ!」
都「ふふん、いいでしょう!」
都「『星形の木の板の丁度真ん中に穴が開いています』」
都「『この板を二つに切り離して作ったものを組み合わせて、元の星形で且つ穴の位置が違う板を作る時』」
都「『その切り離し方を答えなさい』! どうですかこの問題は!」
光「……」
都「光さん?」
光「姉ちゃん……それ、ミステリでも何でもないよ」
都「」ガーン
光「でも宇宙人が地球人の知力を量るためにクイズを出すのはよくある展開だからな! 頑張るぞ!」
光「――で、これもいつも通り明日の朝までに考えればいいの?」
都「ハッ。そ、そうです! ではまたこの空き地で!」
光「ああ! じゃあな、姉ちゃん!」シュタタタタ…
都「また明日~」ノシ
都「ふー。さて、帰りますかっ」
?「……」
忍「ダンスは……苦手だな。身体硬いし」タンッ
穂乃香「どうかしたんですか?」
忍「あ、おはよう穂乃香ちゃん。実はTV番組に出られることになって」
柚「えぇーっ?! で、で、何に?!」ギュンッ!
忍「近い近い! 一旦離れて!」
穂乃香「私の忍ちゃんから離れて下さい」グイッ
柚「ぶーぶー」
あずき「しれっととんでもないこと言うね……」
忍「ほら、ZTVの『100万円!! ゲームDEゲット・ショー』だよ」
忍「まだ正式に告知はされてないんだけど、アタシの出る回は対戦形式になるらしくって」
あずき「それでダンスを?」
忍「あとは歌と表情についても練習するように、って……」
穂乃香「……一体、何をするんでしょうね?」
四人『うーん……』
都「お悩みですかっ!」ギュンッ!
柚「わぁっ?!」
忍「だから近いって! 流行ってるの?!」
都「成程。出演するTV番組で何をさせられるかイマイチ解らない、とこういうことですね?」
忍「整理するまでもなくそうだね」
都「いやいや重要なことですよ」
あずき「しゃーぺんずゅーあーっ」
柚「わ、あずきチャンが壊れた」
あずき「壊れてないっ!」プンスカ
穂乃香「……もしや"sharpens you up"ですか? 意味は『お前の全ての能力を尖らせろ!』」
柚「奴の動きの全てを見落とすな、そして目を逸らすな」
あずき「どうしたの急に」
柚「いやなんとなく」
忍「その英文どっかで聞いたような――あぁ、フリスクだ」ピーン
忍「TVCMなのに『TVを消してみる』なんて提案するヤツでしょ?」
あずき「そうそれ。まずはシンプルに考えてみるって重要だと思うんだ」
穂乃香「会議室でアイディアは生まれない、なんてのもありましたね」
柚「事件は会議室で起きてるんじゃない!」ドヤッ
あずき「現場で起きてるんだ!」ドヤッ
都「それ私が言いたかったのにーっ!」
都「ぜぇはぁ……歌とダンスと表情、ですよね」
都「これらの共通点は『芸能人に求められること』です」
柚「おおっ?! 珍しく都チャンが冴えてる!」
あずき「よもや天変地異の前触れ?!」
忍「失礼だよっ。――それで?」
都「つまり!」
穂乃香「つまり……?」ゴクリ
都「……えーと……つまり……」
都「……。白紙に戻して考えてみましょう」
あずき「あぁ、なんだ平常運転か」ホッ
あずき「じゃあ次は子供になって考えるプランでいく?」
都「いいですね、そうしましょう!」
キャイキャイ…
忍「ホント仲いいよね、都ちゃんとあずきちゃん」
穂乃香「かたや企んでかたや解き明かす――相反してるんですけどね」
柚「っていうか、都チャンと仲の悪い人が珍しいんじゃない? 無害な正義の塊みたいな子だし」
穂乃香「ふふっ……そうかも知れません」
光「あっ、おーい!」ノシ
都「おやっ、土曜日なのに制服なんですね。光さんは文化系の部ですからこの時間までやってたとは思えませんし」
光「ふふん、実はね」
都「おっとそこから先はこの探偵・都がズバッと当てて見せましょう」
都「ズバリ、学校近くでこっそり動物を育てているから! 違いますか?」
光「掠ってもないよ」
光「正解は、今日は定期考査の答案返却日だったから!」
都「むむ、やりますね……」
二人『…………』ピリッ…
二人『――っあははははははは!』
光「何今の真剣な空気……っ、平成ライダー?」クスクス
都「黒幕に思いがけず会った時のようでした……っ」クスクス
都「――ふぅ。ところで点数は」
光「む」ムスッ
都「あぁ、解りますよその気持ち。趣味って勉強と必ずしも繋がらないんですよね……」
都「おほん。気を取り直して、答え合わせからいきましょうか」
光「あー、そっか。別にばっさり切んなくてもいいのか」
都「はい。これぞ逆転の発想! 同じ大きさの穴をくり抜いて真ん中の穴に埋めればミッションクリアです!」
光「なかなか姉ちゃんの問題を安定して解けないなぁ」ムー
都「諦めなければきっと手は届きます! 頑張りましょう!」
光「……だな! やれるとかやれないとかじゃなく、やる! 全力で挑む! それがヒーローだ!」
都「ええ、それでこそ私の相棒!」グッ
光「そう、この地球がなくならない限り!」グッ
光「よーしっ、今日も憧れへ向けて特訓だーっ!」
都「おーっ!」
光「じゃあ……よしっ、今日は走り込みからだ!」
都「地道ですが足で稼ぐというのも大事ですからね! やりましょう!」
光「ああ! やっぱヒーローたるもの走らなくちゃ始まらない!」
光「現場へ急行だーっ!」ダッ
都「わっ、そんな急に走ったら――ま、前! 前見て!」
?「あら」
光「うわぁっ?! はー……ご、ごめんなさい……」
都「走り込みはいつもの空き地に着いてからにしましょうか」ニコッ
?「……」ジー
柚「からい……」ポリポリ
あずき「おはよ――って何、その異様な量のフリスク」
忍「おはよー……」シクシク
忍「あのね、これ全部穂乃香ちゃんが持ってきたの」ムグムグ
あずき「全部?!」
穂乃香「クレーンゲームでもけもけを取る過程で手に入れてしまって」
あずき「あの人形どんだけ集めれば気が済むの?!」
あずき「と、取り敢えず泣く程食べるのは止そうよ。お腹ゆるくなると思うよ?」
柚「んー、その言葉、手遅れ」ビシッ
柚「よってあずきチャンにもノルマとしてこれを進呈しよー」ガサッ
あずき「わ、みちみちにフリスクの詰まった袋が出てきた」
忍「それで大体元の1割くらいだから。頑張って」
あずき「えぇー……何日かに分けて食べちゃダメ?」
三人『その手があった!』
あずき「モルダー、あなた疲れてるのよ……」ハァ
穂乃香「し、しかし、こうも言いますよ」
穂乃香「『食べ続けるのは苦しい。でも私達は知っている。食べ切った時の快感を』」
あずき「フリスクから離れろ!」クワッ
都「おや、またもやこの辺りでお困りの声が」ススス
あずき「あー、いいって。今回ばかりは犯人が判ってるから」
都「そうですか……いえ、残念ではないですよ? 平和が一番です!」
あずき「じゃあフリスクお一つどうぞ」スッ
都「へ? あぁフリスクお一つどうも」
都「うーむ、しかしこの様子だと皆さんは違うようですね」ザラッ
柚「『違う』? 何が?」
都「実は――ああ、これは捜査中の案件なので密に、密にですが」ヒョイパク
都「どうやら最近、この学校の生徒の金銭が何者かに奪われているようでして」ポリポリ
忍「えっ、それってフツーに事件じゃん!」
都「しかしどうも妙なんです」
都「まず、先生方へ直接相談した方がいない。私が情報を流したことでつい先日発覚した事件ですから」
都「それから額が一定ではない。いわゆる不良ならいきなり全額奪うことはまずしません」
都「次回会った時に毟れる額が下がりますし、派手にやると通報され易いですからね。だから決まった額で奪う」
都「しかしそれぞれ別の事件として考えると被害者が多過ぎますし」
穂乃香「……」ポリポリ
忍「つまりアタシ達は被害者ではない、容疑者だ、と?」
都「う。まぁ、そうなりますね。お金を使えているんですから」
都「しかし犯人像が絞れない以上は私も含めて全員が容疑者です!」
柚「潔い! よっ、名探偵! ひゅーひゅー!」
都「それはいくら私でも思うところのある言い方ですね……」
忍「口笛吹けないんだ……意外」ボソッ
都「それで、皆さんならどう思いますか?」
あずき「どう、と言われても……」ウーン
穂乃香「……おいし」ポリポリ
柚「んー、ところで都チャンはどうやって事件を知ったの?」
都「日頃の情報収集の賜物です!」バーン
柚「ははぁ、つ・ま・り、盗み聞きかぁ。このこの」ツンツン
都「うぐぐぅ……ま、まぁその通りですけど……」
あずき「え、待って、校内でその話をしている人がいたってこと?」
あずき「だとしたらどうして先生が知らないの? おかしくない?」
四人『あ』
忍「まさか先生が――いや、まさかね……」
都「可能性がゼロではないのがまた何とも言い難いです」
都「――ということを話しましたね」
光「そっかー……いいな、姉ちゃん。ちゃんと探偵してて」
都「いえいえ。まだ事件も解決出来てない半人前、格好だけのハーフボイルドですよ」
光「むぅ……アタシにはパンチもキックも、武器も敵もないけど……」
光「それでもヒーローとして、夢を与えたい。どうすればいいのかな?」
都「……。格好いいですね、その言葉」
光「ええっ? 今の愚痴が?!」
都「新宿少年探偵団に『パラダイム・シフト』という言葉がよく出ます」
都「水は100度で沸騰する。でも80度で沸騰すると世界中のみんなが思うようになれば、水は80度で沸かせるんです」
都「真摯に憧れを目指して、最後に憧れを掴む。王道じゃないですか」ニコッ
光「姉ちゃん……うんっ、ヒーローが途中でくじけちゃいけないよな!」
都「いい答えです! じゃあ今日の問題いきますよ!」
都「『ある美術館に泥棒が入り、警備員が乱闘の末に殺された。監視カメラの類は全て持ち去られていた』」
都「『しかし警備員の死体近くには柱時計があった。柱時計は傾いて止まり、長短の針がいずれも飛び散っていたが、調べにより内部は正常に動作することが判った』」
都「『ここから犯行時刻を割り出して下さい』! 正解はまた明日発表、では今日は解散!」
都「ふぃー、毎日『謎』を考えるのも大変ですね……しかしこれも探偵修行!」テクテク
テクテク…
都(――ん? あれは……ウチの制服?)
都(……。尾行してみましょうか)テクテク
学生「 も だった 」
学生「 オッズ してほしい バカ 」
都(何やら不満を抱えていそうですね)テクテク
学生「 すればいいのに って 」
都(むっ、路地に入った――一旦通り過ぎましょう)テクテク
学生「安斎は正解させる気ないんじゃね?」
都(――私の名前?!)テクテク
都「あ、あれは一体……いや、偶然同姓の別人の話を――?」
都(追跡する前に取り敢えずメモ帳を、おや)ゴソ…
都「フリスク……そう言えば入れっ放しでした」
都「音がしますし、追跡は――いや……矢張り行きましょう。置いていけばいいんですから」カチャ
都「ゴム底靴、無音カメラ、メモ帳。よしっ」
都「いざ、都市に潜む闇へ!」テクテク
柚「はいもの悲しい顔!」
忍「も、もの悲しい? えっと……こんな感じ?」
穂乃香「おお……意外な才能ですね」ポリポリ
あずき「ホント。女優とかアイドルでもいけるんじゃない?」
あずき「いっそ次のTV出演からスターダム大作戦やっちゃう?!」
忍「ないない、アタシはそういうの興味ないから」
柚「とか言いながら笑ってないよ? もしや本気で狙ってたり?」
忍「」ギクッ
柚「あ、今『バレた』って顔した」ニヤニヤ
忍「いいでしょ夢見たってぇ!」
穂乃香「可愛い……///」ポリポリ
あずき「……今更そっちにはツッコまないけどさ。フリスクそんなに気に入ったの?」
穂乃香「何だかクセになってしまって」ポリポリ
柚「どこにそんな中毒性が……」チラッ
柚「――あり? 都ちゃん、ほーら謎だよ。ほらほら」
忍「そんな子供をあやすような言い方しなくても」ハァ
忍「ね、都ちゃ――ん……?」
都「……ええ」
忍「どうしたの、何だか元気ないけどさ」
都「こういうことだってありますよ」
穂乃香「ホームズも事件がない時は退屈で放心してますから、探偵も常に気を張ってるワケではない――それは、そうですが」
柚「安楽椅子にでも座ったら復活するんじゃない?」
都「いいえ。探偵・安斎都は暫く休業です」
あずき「え? でも学内で現在進行形の事件があるのに……」
都「どうしてそれを私が解決しなきゃいけないんですか!」キッ
あずき「っ」
都「……私には手に負えないんです。私が――私は……」
都「……。すみません、眠いので寝かせて下さい」
柚「あ、うん……」
都「グスッ…」ガタリ
柚「――アタシ、言い方キツかったかな」ヒソヒソ
穂乃香「時々そう思うことはありますけど、今回飛び抜けて不味かったとは……」
あずき「でも一時的に落ち込んでるって感じでもないよね……」ヒソヒソ
忍「まあまあ、少し様子を見ようよ。何か心境の変化があったのかも知れないし」
あずき「心境の変化、ねぇ……」
あずき「帰り道にフリスクが落ちてたからその角で曲がってみた」
あずき「これぞプロジェクト・A(nother)!」
あずき「――なんて、考えなきゃよかった」ガックリ
あずき「どうしよう、ちょっと道に迷ったかも……」キョロキョロ
あずき「気がついたら入り組んだトコ入ってるし。路地裏ってヤツ?」
学生「 ってことは かよ 」
学生「クソッ 賭け金 」
あずき「うぅ……あれ? ウチの制服だ。どうしてこんな所に?」
あずき「はっ。まさか都ちゃんの言ってた――!」
あずき(尾行のやり方とか知らないけど……突入大作戦!)コソコソ
学生「 安斎 光 」テクテク
あずき(安斎――都ちゃんのこと?)
学生「しょうがない、今日は帰ろう」テクテク
あずき(あっ、こ、こっちに来る!)サァッ
あずき(ど、どうしようどうしようどうしよう)アワアワ
学生「誰だコイツ」
学生「オイ、もしかして話聞かれたんじゃ――」
あずき(ピーーーーーンチ!)
「ちょーっと待ったぁ!」
あずき「……ふぇ?」
光「『お姉ちゃん』、アタシの家はこっちだよっ!」グイッ
学生「は?」
あずき「え、ちょ、え、誰?」
光「あっはっはー、『お姉ちゃん』は冗談が上手いなぁ」グイグイ
あずき「わわわわわっとととと?! ち、力強っ!」
あずき「分かった行く! 歩くから! 待って待ってあああ引きずられるぅぅぅぅ……!」ズルズルズル…
学生「――は?」ポカーン
ズルズルズル…
光「――ふぅ。ここまで来れば安心だろう」
あずき「」プシュゥゥゥゥ…
光「おーい、危機は去ったぞー」ペチペチ
あずき「うぅ……ん……? い、一体何が……」
光「ダメじゃないか、あの路地は目が行き届きにくいから危険なのに」
あずき「ご、ごめんなさい……? ところであなたは?」
光「アタシか? アタシは正義の味方だ!」バン☆
あずき「そういうのじゃなくて、名前」
光「……南条光」ムスー
光「ええっ、都姉ちゃんの同級生なのか?!」
あずき「どこを見て同世代だと思ったのかな?」ニッコリ
光「身長」(←140cm)
あずき「……うん、知ってた」ズーン(←145cm)
光「ってことは都姉ちゃんが今どうしてるかも知ってるの?」
あずき「――どういうこと?」
光「いつもは放課後になると集まって特訓するんだけど、今日はいつもの場所に来なかったんだ」
光「お互い身体が資本だから病気は滅多にしないし、気を付けてる。兆候があったら気付いてる筈なんだ」
光「ということは姉ちゃんの身に何かあったのかも知れないだろ? でも姉ちゃんの家も連絡先も知らないし……」
あずき「それで心配になったんだ」
光「」コクン
あずき「それなら大丈夫だよ、学校にはちゃんと――」ハッ
あずき「ちょっと待って。特訓ってもしかして都ちゃんも?」
光「あぁ、謎を解くために謎を考えてアタシに出すのが姉ちゃんなりの特訓だ」
あずき(そっか、それで……!)
あずき「……耳貸して、作戦伝えるから」
光「『作戦』――っ! あぁ、分かった!」パァッ
光「おーいっ」ノシ
都「あはは……すみません光さん。昨日は突然」
光「気にすんな」グッ
都「ごほん。おや? ちょっと身長伸びました?」
光「えっ。……そ、そうなんだ、成長期だから!」アセッ
?「……」ジー
光「そんなこと言ったら姉ちゃんだってそうだろ?」
都「いえいえ、私は今からではとても伸びませんよ。それに」
都「その養分は頭脳に回してますから」チラッ
光「へぇ、じゃあ今日はアタシが問題出してもいいか?」ニタァ
都「『最後のチャンスですよ』」
光「問題。『ある学校で生徒の財布からお金がなくなっていく事件が発生しました』」
光「『しかし被害届は出ておらず被害者も被害金額も正確な値は不明』」
光「『被害者の様子を観察するに恐喝や引ったくりの類ではなく、額も被害者によってまちまちでした』」
光「『ではここから導き出される犯人像と犯行の手段を答えなさい』」
「さあ――っ」ガシッ
?「きゃっ、……え、『二人』――?!」ズザッ
光「お前の罪を数えろ!」
光?「変身大作戦大成功♪ ここまでキマると爽快だな☆」ニタニタ
都「光さん、そのまま押さえてて下さい」
光「ああ、絶対逃がさない」ギリギリ
?「う、ぐ……っ」
都「この事件は公開情報に被害者しかないというところが困難でした」
都「しかもその被害者が情報を出さない。これでは探偵も動けません」
都「でもですね、依頼人が警察ではなく探偵を頼るのは『依頼人にも後ろ暗いところがある』から、っていうのは探偵小説の定番なんですよ」
都「学生でも参加出来て、人目を憚るもの。且つ金銭が直接絡む――」
都「『女』と『賭博』以外に何があるでしょうか」
?「っ」
光?「ま、女絡みで何人も被害者が出るなら額が一定の筈だからそっちは最初から眼中になかったけどな」
都「私もです。更に私は『被害者』の集まっている現場を発見して、そして彼等の話を聞いて確信しました」
都「私の出した問題に光さんが答えられるか、で賭けを主催している何者かが存在する」
都「となれば話は簡単です。中学と高校の下校時刻はそれぞれ不定」
都「筒元になるだけの資金があり、しかもその両方に合わせられる時間的余裕もある、つまり『無職』の人物。犯人はあなたです!」
都「『柊志乃』さん!」ビシッ!
学生「不味い、バレた……」ヒソヒソ
学生「……一応逃げとくか?」ヒソヒソ
光?「ぴぃちがこのまま逃がすワケねーだろ☆」
学生「げ、あずき」
ぴぃち「ぴぃちっつってるだろ☆ シバくぞ☆」
ぴぃち「そんなアナタ達にクイズ。今、この路地にはスプレーで無数に落書きがされている」
学生「確かに昨日はなかった落書きばっかだな。……まさかお前が?」
ぴぃち「スプレーの噴射剤はエーテルだ。ここに例えば火を点けると――どうなると思う?」シュボッ
学生「――なっ?! 馬鹿、やめ」
ぴぃち「聞こえな~い♪」ボゥッ!
学生達『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!』メラメラ
ぴぃち「ハハハハ走れ走れー! 迷路の出口に向かってよー!」
都「生徒の名誉を守るためとは言え鬼畜の所業ですね……」ヨッコラセ
光「ゾンバイアでもここまでダークじゃないな」ウケトリ
志乃「流れるように私のお酒を取らないでもらえるかしら」
光「えいっ」ポイッ
パリンッ…ゴォッ!
志乃「私のお酒……あぁ……」
ぴぃち「んじゃ、後処理はぴぃちに任しとけ☆」
都「本当にいいんですか?」
ぴぃち「こんなトコにヒーローがいていいモンじゃないぞ☆」
ぴぃち「ぴぃちは『警察』だ。主人公のケツにいて、犯人を法で裁く」
光「……行こう、姉ちゃん」
都「分かりました……お気をつけて」
光「後は頼んだぞ!」
タタタタ…
志乃「で、どうするつもりなのかしら?」
ぴぃち「どうも何も、今言った通りだぞ☆」
志乃「あらそう。でも司法で私を裁くのは難しいと思うけど?」クスクス
ぴぃち「――は? 司法? 何言ってんの?」
ゴゴゴゴゴゴ…
ぴぃち「千年錐を解きし者、闇のゲーム千の法を継ぎ闇の番人となる」
ぴぃち「裁くのは闇の法に決まってるだろ☆」ニタァ
志乃「」ゾクッ
志乃(何か――嫌な予感がする)
ぴぃち「さぁ、ゲームの時間だ」
ザァアァァァアアァ…
ぴぃち「ゲームは名付けて《田螺》!」ドン☆
ぴぃち「ルールは簡単、この小さな布袋に入っている米を明日の朝まで減らすことがなければアナタの勝ち」
ぴぃち「アナタが勝ったらあの二人は口止めする。約束はちゃんと守るぞ☆ あ、不正がないように量っとくか?」
志乃「……いいえ、それには及ばないわ」スッ
ぴぃち「はい、それじゃ明日またここで会うってことで☆」
志乃「ええ。良い夜を」
フラフラ…
志乃(へぇ……あくまで猶予を与えるのね)
志乃(つまり『自首しろ』ってことなんだろうけど……)
志乃(私、もうどうでもいいのよね)
志乃(逃げるつもりも、捕まりに行くつもりもない。ただ酔い潰れていたいの)
志乃「――ふふ、律儀に袋を明日見せたらどんな顔をするかしら」
志乃(捕まって禁酒生活になる前に……最悪の気分でお酒を飲む最悪の贅沢を――)フラフラ…
志乃(家に帰って深酒して、袋を眺め続けて朝を迎える――なんて無為。今晩はそうしましょう……)
クスクス…
志乃(さて、今日は――あら、セギュールが……)
志乃(うん、いい柿色……これにしましょう)
トクトク…
志乃「……んっ……」
志乃「はふぅ……」
志乃(セギュールのラベルは侯爵の寵愛の証――)
志乃(――そう言えば、このゲームの名前は何が由来なのかしら)
志乃「た、に、し……検索」
志乃「……『貧乏だが敬虔な老夫婦の間に子供が産まれた。しかしその子供はつぶ、つまり田螺だった』」
志乃「『老夫婦はその田螺を大事に育てた。田螺は誰よりよく働いた。町へ行くと田螺が働くという珍しさでも注目を浴びた』」
志乃「『やがて長者の家に住み込みで働くことになった田螺は、働く条件として長者にこう言った』」
志乃「『私の持っているこの袋には米が入っている。大事なものだからこうして肌身離さず持っている』」
志乃「『もし盗まれるようなことがある家ならば働くことは出来ない』」
志乃「『そこで長者は田螺を一晩泊め、その一晩のうちに盗まれたならば屋敷にあるものを何でも一つやると約束した』――」
志乃(……この田螺、結局イカサマで娘を奪ったのね)
志乃(もしかして――そういうこと?)
志乃(この袋の中に生き物が入っていれば量は減る)
志乃(『入っている米の量』を問うのだから生き物が入っている分にはルールに違反しない)
志乃「……だとしたら、受けた時点で負けになり得る。それは癪ね」フラリ
志乃「ええと、お皿お皿……あぁ、あった」
志乃(ふふ、ここに空けて生き物を除いておいて――)カタ…
志乃(――朝になったらその生き物を戻す。そうすれば量は減らない)
ザラ…ザラザラ…
ザラザラザラザラザラザラザラザラ…
志乃「……え?」
志乃「お、『多過ぎる』……っ、腕、動かな――っ?!」
志乃「はっ、はぁっ、と、止まって、止まってっ、止ま――っ!」
「あーあ」
志乃「!」ビクッ
ぴぃち「説明したのに。『朝まで減らすことがなければ』、って」
志乃「う、嘘、どうして私の家の中に――」
ぴぃち「闇の扉が開かれた」ォォン…
ぴぃち「罰ゲーム! ――MONOCHROME SPOT――」ドン☆
チュンチュン…
志乃「眩しい……もう、朝……?」モソ…
志乃(昨日は一体――それに、何だか凄く暑い……)
志乃(――先ず、ここはどこなのかしら)
女「あぁ、起きられましたね。おはようございます」
志乃「……?」
女「昨晩は熱帯夜だったからか大層寝苦しそうな様子で」
女「おかげで私はちっとも眠れませんでしたよ」
女「ところで千鶴子さんはお元気でしたか?」
志乃(この女は誰……? 千鶴子……?)
志乃「ええと……見かけなかった、ですよ」
女「あぁ、矢っ張りお祭りにいらしたんだわ」
志乃「じゃなくて――い、一体何が、あなたは」
女「もう、寝惚けるのはいいですけどね」フリムキ
女「ご自身の女房の顔くらいは覚えてて下さい」ニコッ
志乃「にょう、ぼう」
女「はい。さ、ともあれお着替えになって下さい」
女「今日は中野の稀譚社に行かれるのでしょう?」
志乃「――」
ぴぃち「問題。行方不明になった親友はどこにいるでしょーか☆」
ぴぃち「安心しろよ☆ 親友の部分はちゃんとアナタの親友になるし」
ぴぃち「謎を解いて意識が戻ると、その親友はちゃんと死ぬからな☆」
志乃「――」
ぴぃち「おー、そだ。ぴぃちもアナタがどうするか当ててやるよ」ニタァ
ぴぃち「どれだけ涙を流しても親友を忘れられず」
ぴぃち「アドレスを消せずに残したまま」
ぴぃち「ヤケになってこのセギュールの残りを一気に呷る!」
ぴぃち「おっと手が滑って一気に飲むとODでぴったり致死量になる量の薬を入れてしまったぁー☆」サラサラ
ぴぃち「んじゃ、ぴぃちの推理が当たったかはアナタの命で確かめることにするわー☆」
ぴぃち「これぞ、光に代わってお仕置きよ、ってね☆」
志乃「――」
ザァアァァァアアァ…
光「かーえーるーのー……あっ。姉ちゃん、久し振りっ」
都「あ。――そう、ですね。……久し振り、です、ね……」
都「……ええと……すみませんでした。相談もせずに」ペコッ
光「それはいいよ、もう。犯人達はあの時みんな裁かれたんだし」
光「それに姉ちゃんは、結局ちゃんと探偵だったじゃないか」ニコッ
都「……」
光「もうっ、やり辛いなっ。元気出せよっ!」
光「それにあの問題の答えまだ聞いてないんだぞっ!」
都「問題、問題……あぁ、柱時計の……?」
光「ああ。二週間もあったからいっぱい考えてきたんだ」
光「でもやっぱ一番の答えはこれだな」ウンウン
光「『時計は戻せる』!」
都「――!」
光「針をもう一度嵌め直して時計の傾きを直せば柱時計は動くんだろ?」
光「あとは腕時計か何かで次の時報までの時間を計れば、そこから逆算して止まった時の時間が判る。どうだ!」
光「――って姉ちゃん?! 何も泣かなくても……自信あったの?」オロオロ
都「あは、あはははは……私より、いい答えですね」グスッ
都「かくして事件の幕は下りたのだった。一件落着です!」
~作戦9~
あずき「やっと終わったぁーっ!」
柚「お、お嬢ちゃん、い、今一人かい」
あずき「……何それ」クスッ
柚「誘拐犯ごっこ」
柚「やー、無事に放課後を迎えられたねぇ。ここで補習なんか入ったら悲惨だったよー」
あずき「でももし入ったとしてもフケるでしょ?」
柚「当然っ」テクテク
柚「何と言っても今日は忍チャンの出る番組の収録日だからネ」
あずき「生放送だからつまり放送日でもあるけどね」テクテク
柚「考えてみればTVなんだよね。アタシ達も映るかも?」
あずき「おぉっ、おこぼれ大作戦! だね!」パァッ
柚「だったら目一杯『イイ』格好しないとねっ!」ワクワク
あずき「どんなのだったら目立つかなぁ。着ぐるみとか?」
柚「い、いやそれは今から用意するの難しいんじゃ……おろ?」ピタッ
あずき「はぷっ」ムギュ
あずき「いきなり止まらないでよっ……柚ちゃん?」
柚「裏道の細い路地を抜けるとリムジンがあった」
あずき「なんで雪国?」
柚「いきなり非日常があったから」
柚「リムジンって実在するんだね……」
あずき「それ以前にそもそもどうしてここに?」
柚「んー……そういうことはこの際抜きにしてさ」
黒服達『……』ズラリ
柚「この状況をどうにかしようよ」ナミダメ
あずき「無理」ウルウル
あずき「って言うかどっから出て来たのこの人達!」
柚「――アタシ、ラケットなら持ってるよ」
あずき「あずきは――ゴメン、デッキしかない」
柚「デッキならアタシでも持ってるって。あっはっはー……」
柚「んにゃろぉぉぉぉぉっ!」ガバッ
あずき「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」ガバッ
黒服達『』ブンッ(←無言の腹パン)
メコォッ
二人『』チーン
二人『――はっ』ムクッ
ブロロロ…
柚(ここは……車の中? それにしては広いような)
柚(……まさかさっきのリムジンに――?)
あずき「柚ちゃん」ヒソヒソ
柚「分かってる」ヒソヒソ
柚(どうにか、気付かれないように外と連絡を――)モソ
運転手「この車の中は圏外ですよ」
柚「!」ビックゥゥゥ!
あずき「あ、あなたはさっきの……?!」
運転手「手荒で申し訳ない、あれ以外のやり方を知らなかったので」
柚(荒み過ぎでしょ)
運転手「我々はお迎えに上がったのです」シマッチャウヨー
あずき「迎え、って。こんなことする人のところに連れて行かれるの?」
柚「大体、名乗れないようなら紛れもない誘拐だよ」キッ
運転手「あぁ、それを言えば良かったのですか――」
運転手「あなた方を招待するように、と。美嘉様からです」
柚(――美嘉先輩、か……)
黒服「それでは、暫しここでお待ち下さい」
ギィィ…バタンッ
二人『……』
あずき「――どうする?」
柚「どうも出来ないね。一介のJKに乱闘は出来ないよ」
柚(ここは応接間……いや、ダイニング、かな。長いテーブルがある)
柚(椅子はいっぱいあるけど誰かを座らせるつもりらしい席は二つだけ)
あずき「どうしたの? 早く座ろうよ」
柚「……ん、そだね」ニコッ
柚(その二つの席の前にはそれぞれフォークとケーキが置かれている)
柚(どちらもイチゴの乗った普通のショートケーキ。その脇には湯気の立つティーポット)
柚(――誘拐紛いな割に丁寧で逆に気持ち悪い)
あずき「時間は判るのに電波はないみたいだね」
あずき「端末がさっきから外と通じないんだ」
柚「わ、そろそろ出発しないと収録行けない時間じゃん」
あずき「あーあ、見たかったなぁ。忍ちゃんのTV生出演」
柚「ぐぬぬ、羨ましいぞ穂乃香チャン!」
柚「おいしー! おいしー!」キャッキャッ
柚「……はぁ。暇だね」モグモグ
あずき「ね。また決闘する?」
柚「やだよ、流石にもう手の内分かるもん」
あずき「ふはぁ……じゃ、別のゲームにしよっかっ」
柚「何やる?」
あずき「《C.C.LEMON》」
あずき「ルール説明ね。このゲームは三種類の『手』を使うの」
あずき「一つ目はこう、両手を猫の手にして、胸の前で親指以外の手同士を握り込む『弾』」ギュッ
あずき「二つ目は両手を胸の前で交差させる『盾』」バッテン
あずき「三つ目はゲッツ……もとい、両手で男チョキをしてその人差し指を相手の胸に向ける『銃』」バン
柚「男チョキ?」
あずき「親指と人差し指を立てた手のことだよ。ちなみに人差し指と中指で作るのは女チョキで、男チョキの亜流だね」
あずき「このゲーム、元の名前は《戦争》なんだけど、同じ名前のゲームが幾つかあるからか今はこんな名前みたい」
あずき「ソースは近所の小学生だよ。でも手の名前はそのままなんだよねー」
柚「えっ、『弾』がレモンと代わるとかじゃないの?」
あずき「面白いよね、時代が変わってもすぐには変化しないんだよ」
あずき「『銃』はそれまでに込めた『弾』の数までしか使えない」
あずき「『盾』に『銃』は効かない。『銃』対『銃』は引き分ける」
あずき「つまり『弾』を込めている時に『銃』で撃たれると負け」
あずき「お互い同時に手を出し合って勝敗が決するまでそれを続ける」
あずき「――以上、ルールおしまいっ」
柚「ふーん……ん? 待って待って」
柚「これ、初手で弾込めたら後はひたすら盾張るゲームにならない?」
あずき「そうなるね」
柚「盾の回数に制限とかは?」
あずき「えへへ……」
柚「な、ないんだ……」ガックリ
柚「じゃあさじゃあさ、他の《戦争》のルール教えてよ」
あずき「他? んー、有名なのは二つあるね」
あずき「一つは紙と鉛筆を使って戦艦を駆使していく、別名《魚雷》」
あずき「ローカルルールが多くって、しかも基本ルールもそこそこ多いからおいそれとはやれないんだよね」
柚「ならもう一つは?」
あずき「……えーと、あずきは純粋にゲームとして紹介するよ?」
あずき「ルールは簡単。こういうテーブルで腕相撲の状態をとって」
柚「ほうほう」ガッシ
あずき「空いた手、今回は左手でジャンケンをする」
あずき「一回目の掛け声は『戦争』だよ」
二人『せーんーそっ』
柚「あ、勝った」
あずき「このゲームは『何回連続』で勝ったかが重要なんだ」
あずき「グーは『軍艦』、チョキは『朝鮮』、パーは『ハワイ』なんだけどね」
柚「ちょちょちょちょ! ちょっ! 大丈夫なのソレ?!」アセッ
あずき「だから言ったじゃん、純粋にゲームとして紹介するって」
あずき「説明続けるよ? 一回目以降、『直前に勝った側』はその時に出した手の名前を言わなきゃいけない」
あずき「例えば今グーで勝った柚ちゃんは、この後に続けてするジャンケンでは『軍艦、軍艦』って言ってから手を出すの」
あずき「この『軍艦、軍艦』はジャンケンをする拍子取りの意味もあるからちゃんと言ってね」
あずき「で、『直前に勝った側』は手を出す瞬間も宣言しなきゃいけない」
柚「ええと……じゃあ次はチョキ出すぞー、って思ったら『軍艦、軍艦、朝鮮』って言いながらジャンケンするの?」
あずき「そういうことだね」
あずき「もし連続して勝ったら、一回毎にこの組んでいる手をジャンケンに使ってる手で軽く払うの」
あずき「二回連続で『一本』、三回連続で『二本』、四回連続で『三本』になるよ」
あずき「そして、『三本』を先に取った方が『戦勝国』、つまり勝ち」
柚「……戦時下の遊び、って感じだねぇ」
あずき「あず、私は学校入る前に男の子達から教わったんだけどね」
あずき「誰からともなく始めた辺り、結構根強いんじゃないかな」
柚「ゲームとして考えるとこれただのジャンケンだよね?」
あずき「う、それはそうだけど……」
柚「手を握る意味も特にないよね?」
あずき「それはほら、停戦協定、みたいな」アセッ
柚「空いた手で戦争してるのに?」
二人『……』
柚「ま、まぁ、そういう皮肉だとしたらそれはそれで凄いね」
あずき「で、でしょー?」アセアセ
柚「それにこれなら気になるあのコの手を握れるしね!」
あずき「成程!」ピコーン
あずき「相手いないけどね!」
柚「まさに外道!」
柚「はぁ……矢っ張り暇だね」
あずき「だね。あぁ、もう生放送終わりの時間だ」
柚「ったく、今ノコノコ出てきたらどうしてやろうか」イライラ
あずき「次は《ワリバシ》でもやろうか……」
柚「今度は何なの、そのゲーゴブッ」
二人『?』キョトン
柚「え、えと、あずきチャン」
柚「そのゲームのルール説めゴボッ」
柚「――?! ぃ、っあゴブッ…カフッ…?!」グラッ
バタッ…
あずき「柚ちゃん?!」
柚「~~! ~~~?!」ブクブク…
「あぁ、やっと効き始めたんだね」
ギィィ…
莉嘉「でも思ったよりは早かったよ☆」ニコッ
あずき「っ、一体何したの?!」
莉嘉「何と言われても。あのケーキに毒を仕込んだんだよ」
莉嘉「これから一時間後、その人死ぬから」
あずき「……っ!」
莉嘉「ふぅん、でも桃井あずき、アンタは食べなかったんだね」
あずき「柚ちゃんに言われたからね。怪しい、って」
あずき「実際こんなことになるまでは食べたいだけだと思ってたけど」
柚「っ、っ!」ポカポカ
あずき「痛っ、痛いってば!」
莉嘉「……でも、好都合だよ。アタシはアンタに復讐したかったし、お姉ちゃんは明日の落成式に呼んだだけだしね」
莉嘉「ただ――勝ち逃げした分、ここで負けてもらうよ」
莉嘉「そこで寝てるソレね、泡吹いてるのは毒と一緒に仕込んだ薬剤のせいだから。その薬剤自体は無害だよ」
あずき「喋れないみたいだけど?」
莉嘉「動かなければ呼吸自体はギリギリ問題ないでしょ。で、ゲームだけど」
莉嘉「こんなのはどう?」パチンッ
ガラガラ…
柚(何、あれ……食材の乗った、ワゴン? やってTRYかな?)
莉嘉「名付けて《デスおせち》!」
柚(ネーミングセンスッ!)ガーン
莉嘉「ルールは簡単。今持って来させた、調味料を含む食材のどれか一種類に解毒剤が入ってるの」
莉嘉「ホントはどちらか消すつもりだったからね」ボソッ
莉嘉「それを一時間以内に引き当てて食べさせたらそっちの勝ちだよっ☆」
あずき「な、なら――」
莉嘉「但し」ニコッ
莉嘉「致死性の高い毒を入れた食材も紛れ込んでるから。この猛毒入りの食材の数は莉嘉も知らないんだー」
あずき「――!」ゾクッ
柚(つまり当てずっぽうは即死のリスクを高める……か)
莉嘉「あ、調理器具は用意したの使ってね。器具には絶対毒入れてないから。それじゃ、スタート☆」
あずき「ど、う――したら」
あずき「ヒント、は――いや、でも」
柚「……。……っ!」クイクイ
柚「コホッ、ぃい、よク聞ぃてッ、ガフッ」
あずき「?! 待って、寝てて」オロオロ
柚「信じてるカらッ!」
あずき「!」
柚(駄目、ちょっと休憩……)ヘタリ
あずき(柚、ちゃん……)
あずき「……」キッ
あずき(調理器具は安全、洗うための『水』は食材だから危険)
あずき(でもそれは他の食材と危険度が同じ、なら――)ティンッ
あずき「柚ちゃん、マゾ趣味はある?」
莉嘉「まぞ?」
柚「ブフッ」ゲホゲホ
柚「っ、ゴボッ、――?!」
あずき「ホースで直接胃袋に水を流し込んでお腹蹴り続ければ毒抜けるんじゃない?」
莉嘉「ぅえ?! ちょ、ストップ! タンマ!」アワアワ
莉嘉「それ……水責めだよね?」ビクビク
あずき「よく知ってるね。そう、拷問大作戦だよ」
莉嘉「それ無理だから! 意味ないから!」
あずき「ホントに?」ジトー
莉嘉「ホント! ここで嘘吐いたら人間じゃない!」
莉嘉「あの毒は粘膜から吸収されるのっ!」
あずき「ヒントもーらいっ」ニヤッ
莉嘉「……あーーーーーっ!」
莉嘉「ズールーいー! 卑怯者ぉー!」テシテシ
あずき(『水』が安全なら猛毒がある場所も限られてくる)
あずき(洗った時に流れ落ちない食材か、普通は洗わない食材)
あずき(例えばマヨネーズや缶詰の食べ物がそれに当たる)
あずき(ただ……問題は残ってる)
莉嘉「もうっ、もうっ! ふんっ!」スタスタ
あずき(――解毒剤の条件が相変わらず分からない)
柚「……カフッ」ガクガク
あずき(『解毒剤』なら吸収されて効果が発揮されるのは毒より早くなきゃいけない)
あずき(効力を発揮するのが宣言通り一時間だとして、このゲームの制限時間は同じ一時間)
あずき(つまり、解毒剤は飲んだら『即座に』効くことになる)
あずき(うーん……それって可能なのかな? 生物取ってないから分かんないよ……)
あずき(取り敢えず有効なのは『煮たら溶ける食材』を使ってスープを作って、それを飲ませること)
あずき(それ以外の食材は――死のロシアンルーレット、だね)
あずき「コンソメ……カレー粉……シチューのルー……」ブツブツ
あずき「ううん、どれも使えない。ここは――」
コトコト…
柚(あ、いい匂い……)ホッコリ
莉嘉「……」グゥ
あずき「後で食べる?」ニヤッ
莉嘉「う、の、ノーコメントで」
あずき(やっぱさっきので警戒されちゃったか……)トントン…
あずき(……昆布は水から出汁をとる。これくらいなら小学校の家庭科でもやるよね)
あずき(時間は掛かるけど、食材を煮られるように切る時間があるから相殺する、筈)トントン…
あずき(で、問題の解毒剤。スープの具材に入ってなければひとつひとつ試すことになるんだけど)チラッ
あずき(正直、今の柚ちゃんに何回も食べ物を食べる力があるとは――)
あずき「――痛っ!」
あずき「うーわ、指切った……」チュパ
あずき(……あれ……?)
柚「コホッ…ゲホッ、っ、ガ、ぁ、ゲホゲホゲホゲホ!」ビクンッ!
柚「っ、っ、っ、~~~~~っ、っ?!」ビクンビクン!
あずき「――え、ゆ、柚ちゃんっ?!」
あずき「は、早過ぎる――どうして?!」
莉嘉「大丈夫、あと30分は生きられるよ?」ニコニコ
莉嘉「でもここから先は生きるので精一杯。食事は受け付けるかどうか」
あずき「そんな――!」
あずき(迂闊だった――時間制限は『死ぬまで』か!)
柚「ヒュー…ヒュー…」ビクンッ
あずき「何か、何か方法は――?!」
ドクンッ
あずき「!」
あずき(あぁ、またこの感覚――)
ザッ…ザザッ…ザァァァァ…
あずき(あずきがあずきでなくなる――)
あずき(『何か』を……抑えられなくなる……!)
ゴゴゴゴゴゴ…
あずき(あずきは、『私』は、――『あずき』?)
あずき(いいや、その名前は違う。だろ?)
カッ!
あずき?「……はぁ~い♪」ニタァ
ぴぃち「れっどぴぃちのぉ、お料理の時間だぞ☆」
莉嘉「出たね、あの時のオバさん」
ぴぃち「おい今なんつった☆ 次はないぞ☆」
ぴぃち「めしをくってないのか? めしをくってないのか?」ジリッ
ぴぃち「めしをくってないのか? めしをくってないのか?」
ぴぃち「めしをくってないのか? めしをくってないのか?」ジリジリ
莉嘉「ヒッ、ち、近付かないで……!」ウルウル
ぴぃち「かあさんがまっているよ。ふわふわオムレツができたってまっているよ。まっているよ」
ぴぃち「まっているんだよ!」クワッ
莉嘉「ひぃぃぃぃん! ごめんなさいぃぃぃぃ!」ワーン
ぴぃち「っと、こっちはこれでよし」
ぴぃち「で。柚をどうするか……」
柚「」ヒクッ…ヒクッ…
ぴぃち「んー、いちおー訊いとくか」
ぴぃち「あのさ、柚」プニプニ
柚「」ヒクッ…ヒクッ…
ぴぃち「マゾ趣味はあるか?」
ぴぃち「本日のスウィーティーなお料理に使うのはぁ」
ぴぃち「瀕死の柚と、もう一つ! これだけ!」
ぴぃち「『ラー油』!」バン☆
ぴぃち「先ずは半分意識のない柚の服を脱がせます」ヌガセヌガセ
柚「」ヒクッ…ヒクッ…
ぴぃち「おぅふ、シゲキ的……」
ぴぃち「次にこう、お尻を掴んで、ぐいっと」
――くぱぁ
ぴぃち「そして後ろの穴に開封したばかりのこのおっきくてふっといラー油の瓶を――」ニタァ
ぴぃち「ぐさぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」ブスゥ!
柚「」ヒクンッ
柚「コヒュー…カフッ…ゲホッ、ぅ、いぎっ、ひっ?!」
柚「ひ゜に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ?!」
柚「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」ゴロゴロ
柚「抜いてぇっ! これっ! 抜いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ぴぃち「えー? でもちゃんと解毒されたか分かんないよぉ?」ニタニタ
柚「いいっ! いいからぁっ! 死ぬっ、死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
柚「」ガクガク…
柚「」ガクッ
ぴぃち「おーい☆ 莉嘉ちゃんっ」
莉嘉「」ガタガタガタガタ(←一部始終を見てた)
ぴぃち「あれが解毒剤の入ってた食材だよな? ん?」
莉嘉「ハイ…ソウデス…」ガタガタガタガタ
ぴぃち「随分と悪趣味じゃない?」
莉嘉「ヒッ! で、でも、これは復讐だもん……」メソラシ
ぴぃち「目ぇ背けんなぁー……チッ、こっちはギリギリだったってのに」
ぴぃち「水に溶く前に洗う可能性のあるものに毒がない、これは確かにアナタの発言から判った」
ぴぃち「じゃあ無毒と明らかなものに解毒剤を仕込むか? いいや、ぴぃちならそれはしない」
ぴぃち「バレる可能性は最大限考慮するモンだからな☆ だからラー油に仕込んだ。そうだろ?」
莉嘉「そ、それだけで――?」
ぴぃち「……ヒントは指切った時の『血』、正確には血流、な」
ぴぃち「効くのに一時間も掛かるなら効き方はCOみたいな『置き換わる』毒よりは毒に『なる』ROHみたいなタイプと踏んだ」
ぴぃち「加えて解毒は即座に終わる。なら、その毒成分は血液の循環で簡単に届く場所に集まる筈」
ぴぃち「そして人間は有機物。火葬くらいは小学生でも知ってるよな」
ぴぃち「血液に乗るような『有機的な毒』に対して解毒が作用するなら、これはもう何か代謝してるんじゃないの?」
ぴぃち「つまり解毒剤は加熱出来ない、そのままで毒に効果がある、ってことになる」
ぴぃち「ってなワケで、『加熱しないで食べられる』『油液状』のものにまで絞れた。ここまで絞るともう殆どない」
ぴぃち「あとはアナタの性格ね。たかだかゲームに負けたくらいで人殺しを計画するようなヤツは――」
ぴぃち「『量をまともに食べられないもの』を選ぶ。だろ?」
莉嘉「……」
ぴぃち「で、ここからは推測だったんだけど」
ぴぃち「ケツって人体で一番デカい筋肉だろ? ということは血液が多く流れるから詰まり易い」
ぴぃち「それが多分、痔ってヤツ。でも痔だからケツが腐りました、なんて聞いたことがない」
ぴぃち「なら、血管にスペアがあると考えればいい。要は血管がいっぱいある、ってね」
ぴぃち「そこに直接ぶっ込んでやれば血管フル活用して解毒が進むんじゃないかなー、なんて☆」
ぴぃち「あれっ、これもしかしてカンチョーか? やぁん恥ずかしい☆」クネクネ
莉嘉「……」
ぴぃち「……おーい☆ 何か話せよ☆」ニタニタ
莉嘉「まだ――」
ぴぃち「ん?」
莉嘉「まだ、負けてない……っ!」ギリッ
ぴぃち「負けだろ。認めろ」
莉嘉「アタシは負けてなんかないっ!」ジワッ
ぴぃち「――?!」
莉嘉「勝つ、勝ってきた、勝たないと――!」ウルウル
ぴぃち「お、おぅい……莉嘉ちゃーん?」
莉嘉「っ!」ギィッバタンッ!
ぴぃち「……泣いてたな。悔しい、だけか?」
柚「」ヒクヒク
ぴぃち「おっと、忘れる前に」
ぴぃち「そこの人達っ。オ・ネ・ガ・イ♪」
黒服達『ヒィッ!』ビックゥゥゥ!(←矢っ張り一部始終を見てた)
ぴぃち「んー? 返事が聞こえないなぁ」
黒服達『はい!』ビシッ!
ぴぃち「柚を治療して。どうせ外には出してくれないんでしょ?」
黒服達『御意のままに!』
黒服「おいそっち持て」
黒服「担ぐぞ、せーのって軽っ!」ヒョイッ
柚「」チーン(←43kg)
イソゲイソゲ…
ぴぃち「……行ったか」
ぴぃち「よっこらしょ、っと」ポフッ
ぴぃち「……もうすぐ日付が変わるな」
穂乃香「今日はありがとうございました」
忍『ううん、それはこっちのセリフだよ。今日はありがとうね』
忍『……あずきちゃんと柚ちゃん、来なかったから』
穂乃香「そう――ですね。未だに連絡も取れませんし……」
穂乃香「出来ることなら明日にでも亀のゲーム屋に――」
忍『あー、明日はその……ごめんっ』
忍『実は明日から暫くバイトで。こんな時に薄情だけど』
穂乃香「そうなんですか? 実は私も明日は予定があって」
忍『……じゃあ、二人を探すのはまた今度だね』
忍『何か起きてなければいいんだけど……』
穂乃香「ええ、今度学校で会ったら問い詰めてあげましょう」ニコッ
忍『あはは、……そうだね。そうしよっか!』
忍『それじゃ切るね、おやすみ』
穂乃香「はい、おやすみなさい」ピッ
穂乃香「――さ、明日は早いですし流石に寝ましょうか」
?「あの……その二人、大丈夫なんですか……?」ドキドキ
穂乃香「ええ、姪のあなたでも会えば解ります。あの二人なら大抵のことは平気だ、と」
穂乃香「千枝ちゃんが心配することは何もありませんよ」ナデナデ
「「『壊獣捕獲大作戦』っ!」」
美嘉「――ま、けた……?! このアタシが?!」
「罰ゲーム!」
美嘉「ああああああああああああああああああああああっ!」
――――――
――――
――
美嘉「――はっ」ガバッ
美嘉「ゼェ、ゼェ…また、また――あの夢だ……っ」
執事「……お目覚めでございますか、美嘉様……」
美嘉「……」カチャカチャ…
執事「仰せの通り、奴等には屋敷で一夜を明かさせました」
美嘉「……そう……」ニコッ
美嘉「フフ、あまりに朝が恋しくてつい寝ちゃったよ」
美嘉「皮肉にも――例の悪夢で目が覚めたけどね」
執事「……」
美嘉「冬馬、今日は執事業以外の用があるでしょ? 荷物くらい自分で持つよ」
冬馬「……はっ。失礼致します」
スタスタ…パタム
美嘉「……」
美嘉「KC、か……嫌な名前」
美嘉(仮称すらないテーマパーク……これが我が社の新たな象徴)
美嘉(『二つのK』の時代は終わった、あとは花を添えるだけ)
美嘉(目玉のDEATH-Tにもっとリアリティや話題性、血腥い『彩り』が欲しい。何としても)
美嘉(私が永遠に勝利し続けるため――)
美嘉(そして二つ目のK、『桐生コーポレーション』の呪縛を解くために)
美嘉「あずき。いや……ぴぃち。あなたを日没までに生贄にする」ドン★
『学園編』完。
『DEATH-T編』を書くならその時は書き溜めをしようと思います。
寝落ちを除いても丸一日掛かるとは……。シャケ召喚してきます。
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