勇者「お互い年を取ったのう……」魔王「こうして会うのも、あと何度できるか……」 (26)


勇者「おお~……魔王、こっちじゃこっち」ヨロヨロ…

魔王「お~う、一年ぶりじゃな」ヨロヨロ…

勇者「今年はくたばって、もう来ないかと思ったわい」

魔王「抜かせ。それはこちらの台詞じゃ」

勇者「あ~……腰が痛い」

魔王「ここにある岩に座ろうか」

勇者「お互い年を取ったのう……どっこいしょ」

魔王「こうして年に一度会うのも、あと何度できるか……」


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勇者「わしとお前さんはかつて、ここにあった魔王城で戦ったが……」

勇者「今やすっかり更地となってしまったのう」

魔王「保存するという運動もあるにはあったが」

魔王「だいぶ古かったし崩れると危ないっていうんで、取り壊されてしまったのう」

魔王「おかげで今やここを訪れる者など一部の物好きだけじゃ」

勇者「まあ、おかげでこうして毎年二人きりで会えるわけじゃがな」

魔王「こんな会話も毎年してるような気がするよ」

勇者「仕方あるまい。わしらは記憶力も怪しくなってきとるし」

勇者「きっと今日も、今までにしてきた会話を繰り返すんじゃろうよ」


魔王「……」シュボッ

魔王「ふぅ~……」

勇者「煙草か、いい御身分じゃの」

魔王「安いやつじゃよ。大してうまくない」

魔王「お前もどうじゃ?」

勇者「わしはいい……子供ができてからは禁煙しとるし」

魔王「そういやそうじゃったな。このやり取りも毎年してる気がするわい」


魔王「子は元気か?」

勇者「まぁな……長男は王国軍に入り、今は一軍を任される立場じゃ」

魔王「ほう!」

勇者「次男は刀鍛冶やってて……職人が集まるコンテストで優勝したようじゃ」

魔王「そりゃすごい。さすが、勇者の血筋といったところかの」

勇者「手前味噌になるが、よく育ってくれたとは思ってるよ」

勇者「お前さんの子はどうじゃ?」

魔王「娘は結婚した。人間とな」

勇者「人間と? お前さん、よく反対しなかったのう」

魔王「昔のワシだったら大反対してただろうが、もうそんな気力もなくなったわい」

勇者「息子さんは教師だっけ?」

魔王「ああ、魔族の教育水準を上げたいらしい」

魔王「眼鏡もかけてるし、ワシとは似ても似つかぬインテリに育ったよ」


勇者「お互い孫もできたしな……」

魔王「ああ……」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「孫ってなんであんなに可愛いんじゃろうな?」

勇者「息子どもは愛着こそあれ厳しく接してきたが、孫にはどうしようもなく甘くなってしまう」

魔王「分かる」

魔王「長女が生んだ魔族と人のハーフの子が、ワシも愛しくてたまらん」

魔王「もし、『おじいちゃん死んで!』っていわれたら喜んで死んじゃうかもしれん」

勇者「分かる」


勇者「世の中変わったよなぁ」

魔王「ああ……変わった」

勇者「建物はどんどんでかくなっていくし……」

魔王「道路は整備されて、交通の不便もほとんどなくなった」

勇者「食べ物はおいしくなり、治安もよくなり」

魔王「昔からの部下や知り合いは年々減っていき」

勇者「わしとお前さんの戦いも、今や遠い昔の伝説になってしまった」


勇者「なによりも変わったのは人と魔族の関係じゃろうなぁ」

魔王「そうじゃな」

勇者「昔は犬猿の仲もいいところで、だからこそお前さんは魔族を率いて人間を滅ぼそうとしたし」

勇者「わしはわしで魔族を一匹残らず殲滅してやるという目標に燃えていた」

勇者「わしは城まで攻め込み、お前さんと歴史に残る死闘を演じたが――」

魔王「結局、決着はつかなかった」


勇者「その後、どういうわけか、人と魔族が互いに歩み寄るようになった」

魔王「お互い争うのにいい加減疲れてただろうし、長年の争いを経て」

魔王「互いが互いのいいところも悪いところも見た結果じゃろうなぁ」

勇者「雨降って地固まるというやつじゃな」

勇者「その後は、するすると人と魔族は分かり合い、今の人魔共存社会が生まれた」

勇者「町中で人間の子供がスライムと遊ぶ光景など、昔では考えられんかった」

勇者「もし、若い頃のわしが今の世の中を見たら、『これは幻覚かなにかだ!』と思うじゃろうな」

魔王「ワシも同じじゃよ。人間と仲良くするなんて考えられんかった」


勇者「世の中が平和になるにつれ、剣と魔法も変わったのう」

勇者「剣は魔族を倒すための手段から、自己を鍛えるための手段へと変わり」

魔王「魔法は一部の者しか使えない邪悪な術から、日常生活で便利な道具へと変わった」

魔王「ワシもお前もとうに一線からは退いたし、あとは静かに朽ちるのみ……」

勇者「うん……」

魔王「が……」

魔王「ワシには一つだけ、やり残したことがある」

勇者「ほう?」


魔王「それは……貴様と決着をつけることだ、勇者」

勇者「……」





ピリッ…


魔王「世がどんなに平和になろうと、貴様だけは楽に死なせるわけにはいかぬ!」

魔王「この“我”自らの手で、暗黒の魔力をもって、地獄の底へ送り込んでくれようぞ!」

勇者「望むところだ!」

勇者「“俺”は、この期に及んで魔族に恨みも憎しみもない」

勇者「だが、お前だけは別だ!」

勇者「お前だけは俺の剣で、直接叩き斬り、葬り去らねば気が済まん!」チャキッ

魔王「クククッ……そうこなくてはな。この爪が唸るわ!」ジャキンッ


勇者「いくぞぉぉぉぉぉっ!!!」

魔王「はぁぁぁぁぁっ!!!」



ガキィンッ!



勇者「ぬうう……!」グググッ…

魔王「ぐぐぐ……!」グググッ…



ギィンッ!


魔王「喰らえ、我が暗黒魔力による砲撃をッ!」

魔王「ぬがぁっ!」ボウッ!



ズガァァァァァンッ!!!



魔王「やったか!」

勇者「いや、こっちだ!」ババッ

魔王「ぬ!?」


魔王「ちいっ!」

勇者「喰らえええええっ!!!」

シュバァッ!

ガキンッ!

勇者「バリア……!」

魔王「おっとぉ……今のを喰らっては危なかった。さすがは勇者」ザッ

勇者「お褒めの言葉をありがとよ!」ザッ



勇者「うおおおおおおおおおおっ!!!」ダッ

魔王「はああああああああああっ!!!」ズアッ


――ピタッ!



勇者「……」

魔王「……」

勇者「ふ、ふふふ……」

魔王「は、ははは……」

ドサッ……

勇者「ハァ、ハァ、ハァ……もう限界じゃ。一分も戦えん」

魔王「ワシもじゃ……あの暗黒砲撃一発が精一杯じゃて」


勇者「短いながら、いい戦いができた」

勇者「毎年やっとることじゃが、お前さんとこうして本気を出し合うと」

勇者「その時だけは、まるで自分が若返ったようになるわい」

魔王「ああ……毎年この一瞬だけは、全盛期の自分に戻れたような気がする」

勇者「ま、明日がキツイんじゃけどな」

魔王「絶対筋肉痛と魔力痛で動けんわい」

アッハッハ……


ザワザワ……



勇者「おっと、さっきの爆発音で、近くの住民がやってきたらしい」

勇者「疲れてるが、とっとと退散せねばな。今の世の中、わしらといえど私闘はご法度じゃし」

魔王「うむ、こんなことで捕まったら子や孫に大恥かかせてしまう」

勇者「では、また一年後に!」

魔王「達者でな!」


――

――――

勇者「ただいまー」

妻「お帰りなさい」

長男「オヤジ、お邪魔してるよ」

次男「ボクも」

勇者「おお? なんでお前たちがここに?」

長男「こいつがコンテストで優勝したから、記念に集まろうって手紙送ってたじゃないか」

次男「ひどいなぁ、父さん」

勇者「おお、すまんすまん」


孫「ねえねえ!」

勇者「ん?」

孫「おじいちゃん、どこいってたのー?」

勇者「……ああ、おじいちゃんはね」

勇者「ふるーい友人に会いに行っていたんじゃよ」





― 完 ―

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