勇者「迷いの森」 (19)

勇者「迷いの森ねぇ...なんだそりゃ」

魔法使い「あら、知らないの? 」

魔法使い「『入るものを拒まず、出るものを生かさず』」

魔法使い「この言葉なら耳にしたことがあるんじゃないかしら」

勇者「あー、それなら確かに昔日曜学校で習ったわ」

勇者「毎年何人か入口のところでくたばってるってやつだろ? 物騒な話だぜ」

勇者「...で、どうしてそんな場所の話なんてするんだよ」

魔法使い「決まってるわ」

魔法使い「そこに、お宝を探しに行くのよ」

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勇者「はぁ...あのなあ、どうしてわざわざそんな危険地帯に行かなきゃならんのよ」

勇者「ご丁寧に迷いの森って名付けられて、人が迂闊に入らないようにしてるのにさ」

魔法使い「そこよ」

魔法使い「そうやって悪い噂話を広めることで、何か大切なものを守ろうとしている気がするの」

勇者「お前、馬鹿じゃねーの? 」

勇者「お前の言う『何か守りたいもの』が実際にあるとして」

勇者「その隠し場所にこんな有名な場所を選ぶか? いーや、俺なら絶対に違う場所にするね」

魔法使い「隠すのは何もモノだけじゃないわ」

魔法使い「特別な意味を持った泉や遺跡だとしたら、一度でもそれを広められたらおしまいよ」

魔法使い「そうなるくらいなら、別の噂で覆うのが一番利口じゃないかしら」

勇者「あー、そういう考えもあるのか」

勇者「でもな、それだとなおさら行く必要性がわからんぞ」

勇者「お宝、つまり金に還元できるものを探しに行くんだろ? 」

魔法使い「ええ、そうよ」

勇者「いくら歴史的価値のある遺跡やら何やらを見つけたところで、喜ぶのはこの国お抱えの研究者どもだけだろ」

勇者「金になんねーじゃん、意味ねーじゃん」

魔法使い「なら、そいつらから好きなだけぶんどりましょう」

魔法使い「そもそも、旅立ちの際に雀の涙ほどのお金しか寄越さなかった私たちの国の王が悪いのよ」

魔法使い「文句ならあの豚にでも言ってもらいましょう」

勇者「豚っておい...まあ、それならいいけどよ」

魔法使い「それに...いや、なんでもないわ」

魔法使い「......」

魔法使い「(立ち寄ることには納得してくれたみたいだし、わざわざ言う必要もないわね)」

勇者「? 」

魔法使い「...それで、実際のところどうなっているんでしょうね」

勇者「迷いの森、たる所以ってやつか」

魔法使い「ええ。さっきはただ悪い噂が広められているだけと言ったけど、流石に規模が大きすぎるわ」

魔法使い「遠く離れた私たちの国にも知られているなんて、やりすぎもいいとこだもの」

勇者「この手の話は地元の間でだけされるのがセオリーだしな」

勇者「何かあるんじゃないかと勘ぐられると、遠方はるばる立ち入って調べようとする馬鹿が出てくる」

勇者「丁度、俺たちみたいな連中だな」

魔法使い「それでも、今まで探索の成果らしきものは出ていない」

魔法使い「いえ、そもそも報告が出来たのかすら怪しいわね」

魔法使い「おそらく...見つかる死体というのは全て冒険者のものでしょうし」

勇者「......」

魔法使い「あとね、さっき街の人に聞いたんだけど」

魔法使い「迷いの森、そう呼ばれるようになったのはつい最近のことらしいわ」

勇者「? 昔から人を遠ざけてたってわけでもないのか。ちょっと意外だな」

魔法使い「街からは結構離れてるし、元々人の立ち寄るような場所でもなかったのでしょうね」

勇者「うーん、だとするとそう呼ばれるきっかけ的な出来事があったってことだよな? 」

勇者「街の人はそこんところで何か言ってたか? 」

魔法使い「いえ...それについては何も」

魔法使い「ただ、知らないというよりは...」

魔法使い「話したくない。そんな意志を感じたわ」

勇者「うわぁ...マジもんじゃねえか」

勇者「気づいたら霧に覆われてましたとか、そんな辺りでお茶を濁してきたんだろ? 」

魔法使い「...その通りよ」

魔法使い「だけど、問いただしたら正確な時期を教えてくれたわ」

魔法使い「15年前、つまり私たちが生まれたあとの出来事なのよ」

勇者「......」

魔法使い「ねえ...勇者はどう思う? 」

勇者「どうって言われても...そうだな、すっげー違和感を感じるかな」

魔法使い「私もよ。ちょっと考えてみただけでもおかしなことだらけ」

今日はここまで
亀更新で行きますのでごゆるりと

魔法使い「見聞が広まりすぎているのは置いておくとしても、その早さが異常だし」

魔法使い「それにしては肝心の部分が隠されている」

勇者「お前と話した街の人の感じだと、ここに住んでるやつには忘れられないレベルの出来事だったわけだよな」

勇者「何が起こったにしろ、結果だけが独り歩きしすぎじゃねーの? 」

魔法使い「そうなのよ...それに加えて何かに怯えているような口ぶり...」

勇者「え? そいつ怯えてたのかよ」

魔法使い「あら、言ってなかったかしら」

魔法使い「小刻みに震えながら、ボソボソとしか答えてくれなかったのよね」

魔法使い「しかも、私の身分が冒険家だって分かると露骨に敵意を向けてきたし」

魔法使い「なかなか人が見つからなかったからそいつで妥協したのだけど、正直あまり良い情報源ではなかったわね」

勇者「おー辛辣。でもまあ、確かに人は少ないかもな」

勇者「まともに開いてる店なんて一つもねーし、そもそも人とすれ違わねーし」

勇者「つーわけで、頼まれてた薬は買ってないんだわ」

魔法使い「はぁ!? 本気で言ってんのそれ! 」

勇者「いやー、めんごめんご」

勇者「俺だって結構頑張って探したんだぜ? んで、見つけたには見つけたんだが...」

勇者「なんとこれが定価の倍、まさしくぼった...え、ちょ、魔法使いさん? 」

魔法使い「...倍くらいなら買えたでしょう? どうして買わなかったのかしら? 」ニコニコ

勇者「...いやえっと、それはですね」

魔法使い「? 」ニコニコ

勇者「その...お金が足りなかったというか、なんというか」

魔法使い「どうして! 」バンッ

勇者「ひっ」

魔法使い「お金が足りなくなったのですか? 教えてください、勇者様」ニコニコ

勇者「......」

魔法使い「......」ニコニコ

勇者「...申し訳ありませんでした。少々目移りして、他の露天にて散財をしてしまいました」

魔法使い「正直でよろしい。それで、一体何を買ったのかしら」

勇者「あー...これだ」

魔法使い「へぇ...なんだか不思議な紋章の入った石ね」

魔法使い「見続けると吸い込まれそうになるというか、なんというか」

魔法使い「ところで、露天の人はなんて言ってたの? 」

勇者「それが、よく知らないんだとさ」

勇者「安く手にしたまでは良かったけど、ほかの商品と比べて誰もが欲しがるモノってわけでもないし、かといってこの意味ありげな紋章からして相当価値がありそうだし...」

勇者「てことで、俺が買うって言ったら結構喜んでたな」

魔法使い「ふーん...まあいいわ。渡したお金で買えたくらいなら大した出費でもないし」

魔法使い「薬は朝一で揃えるとして、今後の出費は...」ブツブツ

勇者「......」

勇者「(やっぱ魔法使いが怒るとおっかねーわ)」

魔法使い「...そうそう、話の途中だったわね」

魔法使い「勇者は街の人が怯えてることを気にしていたみたいだけど、それがどうかしたの? 」

勇者「あーいや、なんでもないぞ」

勇者「ただちょっと聞いてみただけだ」

魔法使い「あら、どうもそういう風には見えなかったのだけど」

魔法使い「何か思うところがあるんじゃなくて? 」

勇者「...と言っても、本当に大したことじゃないんだけどな」

魔法使い「構わないわ。聞かせて」

勇者「なんつーか、なに今更ビビってんのーってやつ 」

魔法使い「と、言うと? 」

勇者「その出来事とやらが起こったのは15年も昔のことだろ? 」

勇者「話したくないってのは分かるとしても、過ぎ去った危機にまで怯える必要はないよなって」

魔法使い「......」

勇者「つーわけで、そいつの態度はちょいとおかしいなって思ったわけ」

勇者「どー思います? 」

魔法使い「つまり...現在も何らかの形で脅威が続いているんじゃないかって? 」

勇者「そういうこと。勿論、迷いの森に入る、入らないは関係なしの大きなやつな」

勇者「もしそうなら、納得のいく説明がつくんだが...」

魔法使い「......」

魔法使い「確かに、そういう考えもあるかもしれないけど...」

魔法使い「うーん...難しいわね」

勇者「あれ、思ってた反応とちげーや」

魔法使い「二もなく賛同するかと思ってた? そうね...」

魔法使い「人が一度感じた恐怖って、なかなか消えないと思うの」

魔法使い「例えば...小さい頃に犬に襲われた人って、大人になっても子犬を怖がるでしょ? 」

魔法使い「勿論、子犬にその人を襲う力なんてないんだけど、分かってても体が寄せ付けないってやつね」

勇者「てことは、そいつも一緒だと? 」

魔法使い「断言はできないけど、私の意見はそんなかんじよ」

勇者「ふーん、恐怖ね。ぶっちゃけ俺には理解できねーかな」

魔法使い「あら、さっきは縮こまっていたくせに」

勇者「ありゃノリだ。そいつらみてえなのとは違ぇよ」

魔法使い「まあ...良くも悪くも、あなたは強すぎるもの」

魔法使い「理解できなかったとしても仕方がないわ」

勇者「...はぁ、めんどくせー」

魔法使い「でもまあ、どちらにしたところで原因は迷いの森を調べてみなければわからないことだし」

魔法使い「今日はもう休みましょう。シャワーは私から使わせてもらうわ」

勇者「......」ジー

魔法使い「...何よ、なにか文句でも? 」

勇者「あーいや、そこまで色々考えてるクセにお宝探しに行くって言い出すあたり...」

勇者「変わったやつだなーって」

魔法使い「......」

魔法使い「...そうかもしれないわね」

勇者「...あれ、まーた反応が違う」

勇者「怒らねえの? 今のはちょっと馬鹿にしてみたんだぜ? 」

魔法使い「あら、怒って欲しいのならそうするけど? 」

勇者「あ、うん。結構です」

魔法使い「...ならいいわ。あ、そうそう、言い忘れてたのだけど...」

勇者「ん? なんだ? 」

魔法使い「覗こうとしたら、殺す! 」バタンッ

勇者「はっはっはー、ナンノコトカナー」

勇者「......」

勇者「(ひえええええええええええ、あのこやっぱりオカシイヨ...)」

勇者「(といっても...実際覗く価値ってあるのか? )」

勇者「(魔法使いには悪いが、あいつってかなりちんちくりんだし...どことは言わんが)」

勇者「(どうせ覗くんなら、なんていうかこう、実ってる娘のやつじゃないと)」

勇者「(例えば...僧r)」

勇者「......」

勇者「(あー、しらけちまった。やめだやめだ)」

勇者「何か別のこと...お? 」

勇者「(...見間違いか? いや、確かに光ったような気がしたんだが...)」

紋章の石「......」

勇者「(これが何かの前兆...だったり? )」

勇者「...するわけねえか。寝よ」

勇者「(シャワーは...明日の朝でもいいか)」

勇者「(あー、今日は一日動き回ったからねみーわ)」

勇者「(すぐに寝ちまいそ...う......)」

勇者「......」



紋章の石「......」












紋章の石「......」キランッ

休憩

休憩

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