魔王「勇者のお父さんとお母さん!」 (303)

勇者父
   「?」
勇者母

魔王「私はそろそろ旅立とうと思う!」

勇者父「そうか……ついにこの日が……」

勇者母「いずれ来るとはわかっていたわ……でも、こんなに急なんて……」

魔王「私もそれなりに力を取り戻してきた。今なら、魔境を越え城に帰れるはず!」

勇者母「目を閉じれば、あのときのことを思い出すわ……」

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あのとき



勇者「おかーさん」

勇者母「? どうしたの?」

勇者「あれ」

羊「」メェ!

魔王「」ピクピク

勇者母「!」


あのとき 終わり

勇者母「羊がボロ雑巾みたいになったあなたを背負って来た時は、心臓が止まるかと思ったものよ」

勇者父「しかもいきなり魔境の王とか言い出したときは頭がアレなのかと……」

魔王「(あの時はツノも尻尾も生えていたはずなんだがなぁ)」





魔王「まあ、正月とお盆には顔を見せる! では!」

・・・・・・



勇者母「マオウさん、あの子には何も言わなかったわね」

勇者父「あの子が小さいころから一緒だったんだ、悲しむところを見たくないんだろう」

勇者母「……あのとき……」



・・・・・・

あのとき


魔王「ふ、う」

勇者父「まだ動いてはいけない」

魔王「いや、そういうわけには……」

魔王「! な、ない! あの剣が!」

勇者「」キャッキャ! (あの剣を持っている

魔王「! (勇者の剣が、光を!)」

勇者「?」

魔王「」

勇者「」

魔王「」

勇者「ヤー!」 ペタ (剣の腹を魔王にくっつけた

ジュッ!

魔王「ぎゃああ!?」

勇者母「こ、こら! やめなさい!」

魔王「(私の体が、焼ける!)
   まさか、この子供が……勇者だというのか!?」

勇者「ヤー!」 ジュッ!

魔王「ギャース!」

勇者母「やめなさいって!!」



あのときおわり

勇者父「あの子を勇者なんて言い出したときはますます頭がアレなのかと思ったものだけど」

勇者母「あれから十年経つんですねぇ」

10年前


魔王「よいか勇者!」

勇者「?」

魔王「お前はいずれ、なにかすごい使命を帯びるはず!
   その時のためこの魔王自ら修ぎ」

勇者「ヤー!」ペチ!

ジュ!

魔王「ギャー!」

魔王「この剣は没収だ!」ガシ!

ジュウ!

魔王「もうイヤ!!」

魔王「こっちの木の剣をもちなさい!」

勇者「」ザク(木のとげが刺さった

魔王「」

勇者「」

勇者「」プチ ポイ! (とげを抜いて捨てた

魔王「(な、泣くかと思ったが……)」ドキドキ

魔王「(さすが、神が選んだ勇者ということか!)」

勇者「」ブンブン!

バシバシ!

魔王「やめて! トゲがチクチクする!」

魔王「修行と言ったら走り込みだ! いくぞ!」ダッ!

メキ!

魔王の体の節々から異音が!

魔王「ギャー!」

勇者母「ああ! 腕や足がくっついてまだ一日も経ってないのに!」

勇者父「くっつくどころか自分で針金使ってつないだだけなのに……腹の穴とかも……」

魔王「くそう、我がことながら情けない……」(ベッドの上

魔王「魔力が戻れば……」

勇者「」ハァハァ

魔王「?」

勇者「」ゼェゼェ

魔王「(まさか、一人で走り込みに!)」

魔王「えらいぞ!」ナデナデ!

勇者「」

勇者父「な、なに! あの子がまだ帰ってこない!?」

勇者母「牛農家さんが森に走りこんでいくあの子を見たって!」

勇者父「なんで止めないの牛農家!?」





魔王「なんということだ……」

勇者「!」

魔物「グルル……」

勇者「」スチャ

ビュン! バキ!

勇者「!!」

木の剣はへし折れた!

魔物「」ブン!

魔王「燃えろ!」

ボッ!

魔物「!」

魔王「大丈夫か!」(勇者と魔物の間に割って入った

勇者「!」

魔物「グルル……!」

魔王「(まるでダメージが無い……なんという情けない威力だ……)」

魔物「ガアァ!」ブン!

魔王「く……」バシ!

魔王「(体もまともに動かんとは!)」ガシ! (折れた木の剣を掴んだ

魔物「」ビュン!

ザク!

魔王「ぐぅ!(爪攻撃であえて押さえ込まれ、次撃の首を狙った噛み付きで……)」

魔物「ガゥ!」

魔王「(口腔内から突き刺す!)」

ドス!

魔物「ガカァァァ!」

魔王「(くそ、力が入りきらん!)」

魔王がのしかかる形で強引に木の割れはしを突きこみ続けると、
最初こそ抵抗は強かったが、だんだんと魔物の体から力は失われていった。

魔物「」ガク

魔王「やったか……」

勇者「ワー!」ドス! ギュ!

魔王「ギャアア!?」 (傷が開いた

勇者「怖かったぁ!」ギュギュ!(悪気はない

魔王「痛い! 死ぬ! 死ぬる!」

勇者父「大丈夫だったか!?」

勇者「魔王が守ってくれたの!」

勇者父「ま、マオウさん……こんな血まみれになって……」

魔王「」ピクピク

ほとんど勇者から受けたダメージである

・・・・・


勇者「うーん」ズルズル

魔王「鉄の剣は危ないからこっちの木の剣にしなさい」

勇者「役にたたないんだもん」

魔王「なら聞こう、そうやって引きずらないと持ち運べない剣と片手でも振り回せる剣、どちらが便利かな?」

勇者「じゃあ鉄の剣と木の剣どっちでたたかれたら痛い?」

魔王「(生意気な……)」

魔王「ならば、その鉄の剣で私に一撃でも加えて見せるがいい」

勇者「うん」




勇者「うー……ん……」ズルズル

魔王「はっはっは! そんな動きでは」

勇者「」ドテ! ……

勇者「エーン!」

魔王「だ、大丈夫か!」ダッ!

勇者「すきあり!」

ゴン!

魔王「(エーンなんて泣き声不自然だと思った!)」バタ!

魔王「そろそろ本気で傷をいやさなければな」

ゴロン

魔王「zzz」

勇者「マオウー」

魔王「zzz」

勇者「……」

勇者母「もう、マオウさんに無茶させたら駄目よ?」

勇者「はぁい」

一日目

魔王「zzz」


二日目

魔王「zzz」


三日目

魔王「zzz」


四日目

魔王「zzz」

五日目

勇者「」トポトポ

魔王「ぎゃああ!?」

勇者「おお」

魔王「何をした!?」

勇者「お湯」

勇者「マオウ、あれ教えてよー」

魔王「あれ?」

勇者「なんかぼぅ! って出たやつ」

魔王「魔法か、お前にはまだ無理だ」

勇者「なんで?」

魔王「学ぶには、歳が歳だからな……」

魔王「あと10年もたったら教えてやろう」

勇者「今がいいー!」

魔王「無茶言うんじゃありません」




勇者母「」




勇者母「お父さん! あの子がマオウさんにあと10年は経たないと教えられないことを聞いていたわ!」

勇者父「な、何!?」

勇者母「そして10年たったら教えるって言ってたわ!」

勇者父「!」

・・・・・


魔王「体力はそこそこ回復したな」

勇者「とう!」

魔王「甘い!」パシ!

勇者「!!!!」

魔王「ふ、傷が治ってくればこの程度……」

勇者「」ダッ!

魔王「どこへ!?」

魔王「どうした勇者!」

勇者「うう……マオウが私より強くなっちゃった……」

魔王「ちょっと待て何故ショックを受ける!?」

勇者「私もう駄目なんだ……」

魔王「ええい若いもんが何を言う!
   むしろ追い越して見せるとか気概のあることを言えんのか!」

勇者「!」

勇者「999……1000!」

勇者はレベルが上がった!

勇者「やった!」




魔王「zzz・・・」

勇者「」コソッ

勇者「たあ!」

不意を突いた会心の一撃!
魔王に10のダメージ!

魔王「ん? なんだ勇者人が寝てる時に……」

勇者「」

魔王「?」

勇者「もう勇者なんか辞めてやる!」

魔王「え、何!?」

勇者「昔は私の攻撃であんなにダメージを受けてたのに」(全面的に怪我のせい

勇者「こうなったらアレしか……」



グツグツ



勇者「」コソコソ

魔王「zzz」

勇者「」ソー……

魔王「」ムクリ

勇者「!」

魔王「……なんだその鍋は」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「お湯だよこの野郎!」バシャン!

魔王「ギャアア!?」

逆切れである

勇者「」ズズズ……

勇者「なあ」

魔王「? なんだ」

勇者「こんな岩を押す特訓するくらいなら剣振りたいんだけど」

魔王「甘いな……旅に必要なのは剣だけではない!」

勇者「旅立つ気なんてないんだけど」

魔王「旅と言ったらダンジョン! ダンジョンといえばトラップ!
   この修業はダンジョンを攻略する上で必須のことなのだ!」

勇者「だから旅立たないっつーの」

魔王「そう言うな、せっかく作ったダンジョンが無駄になるだろう」

勇者「は?」




魔王「私は昔、人間界に神が残した足跡を求め、様々なダンジョンを旅した……
   時として美しい建造物、時として自然と融和した姿、
   そして趣向を凝らした数々のトラップ……
   心奪われた私が自らダンジョンを作ることに、何の不思議があろうか!」

勇者「不思議っつーよりおかしいだろ」

魔王「ぶっちゃけ造り終わってなんのために造ったのかよくわからなくなってとてもむなしくなった」

勇者「そりゃそうだ」

魔王「だが、今はお前がいる!
   私の仕事はお前を鍛え上げ、ダンジョンを攻略させることだ!」

勇者「嫌だ」

魔王「今日は魔剣技を教えよう」

勇者「まけんぎ?」

魔王「私が神と戦うときのために作り上げた剣術だ
   簡単に言うと魔力無しでも魔法が使える。その上剣術とあわせるから単純な魔法や剣より強い」

勇者「おお」

魔王「どうだすごいだろう」

勇者「そういうのをさっさと教えろよ」

魔王「……」

魔王「見ていろ」




魔王「かぁぁ!」

剣に宿る炎!

魔王「はああ!」

最上段の構え!

魔王「でぃえいああ!」

消し飛ぶ大岩!




魔王「さあやってみろ!」

勇者「無茶言うな」

勇者「かぁぁ!」

勇者「はぁぁ!」

勇者「てりゃぁぁぁ!」






魔王「なんと言うことだ……」

勇者「?」

魔王「叫んどいてなにも起こらないとかなり虚しい!」

勇者「黙れ」

サクッ

魔王「あうッ!」

勇者「うおおおおおおおお!」

魔王「」

勇者「はああああああああ!」

魔王「」

勇者「うがあああああああ!」

ポッ! (ちょっとした火の粉)

勇者「よ、よっしゃ!」

魔王「……zzz……ん?」

勇者「見たか今の!」

魔王「え、あ、う、うむ、なんか綺麗な鳥がアレだったよな!」

勇者「死ね!」

ザスコイ!

魔王「ぐっは!」

魔王「お前も大分レベルアップしたな」

勇者「5歳のときから特訓させられてるからな」

魔王「よし、今日は軽く実戦だ! どこからでもか」

勇者「とう」

ズガッ!

魔王「」ドクドク

勇者「え」

魔王「」バタン!

勇者「え、ちょ、お、お前」

魔王「」ドクドク……

勇者「うわあああああああああ!」

魔王「なんてな」ムクリ

勇者「」

魔王「」

勇者「」

魔王「」

勇者「」ガシ!

魔王「!」

バン!(倒された

ギュム!(踏みつけられた

サクサクサクサクサクサクサクサク!

魔王「ぎゃああああああああああああ!」

・・・・・

魔王城

魔王「くく……見事、だ……」ガク

勇者「……」

魔王は笑いながら倒れた
戦いの余波でボロボロに焼け焦げた絨毯の上に、赤い染みが広がる

勇者「どうして……こんなことに……」


・・・・・

勇者「はっ!」

勇者「……ここはベッドの上で」

勇者「……えーとつまり」



勇者「夢だったんかい!」

ドガン!

魔王「ど、どうした勇者!?」

勇者「うるさい黙れ!」

魔王「ギャー!!?」

勇者「はっ!」

勇者「……ここはベッドの上で」

勇者「……えーとつまり」



勇者「夢だったんかい!」

ドガン!

魔王「ど、どうした勇者!?」

勇者「うるさい黙れ!」

魔王「ギャー!!?」

すいませんミスです

・・・・・・・・

魔王「今にして思えば、みないい思い出よ」ホロリ

勇者「勝手に過去の思い出にするなって」

魔王「!」




魔王「おお勇者! いつの間に近くに!」

勇者「村の入り口で長々と突っ立ってたくせに……」

魔王「もしや、ついてきてくれるのか!」

勇者「勝手に僕の荷物まとめといて何言ってんだ」

魔王「いや、実は心細くて……」

勇者「だろーな」

魔物「ガアア!」

魔王「」ファイア!

魔物「」ギャース!

魔王「うむ、人並み以上の魔力は戻っている
   帰るに支障はあるまい!」

勇者「帰ったら下剋上でもされるんじゃない?」

魔王「心配いらん、私はすでに死んだことになっているはずだからな」

勇者「? なんで」

魔王「魔王を襲名した者は、神に挑む栄誉を与えられる
   私も先代の魔王様たちのように神に挑み」

勇者「ボコボコになって羊に引っ張られたと」

魔王「歴代魔王の死はすべて神に殺された、だからな
   魔境の政はすでに、私なしでも回っているはず」

勇者「ふーん……んじゃなんで帰るとか言い出すんだよ」

魔王「魔境は、なんであれ私のふるさとだからな
   この十年でどう変わったかを見たい」

勇者「あ、でもそれなら代わりの魔王がいるんじゃないか?」

魔王「いや、私が神に挑む前に『魔王』というもの自体をやめた
   統治も四天王がそれぞれの領地を治める連邦型になったし」

勇者「ふーん、つまりお前って」

魔王「?」

勇者「国に帰っても役立たずってことか?」

魔王「」

魔王「や、役立たずということはない
   私の意見を聞きたい奴もいるだろう(きっと! たぶん!)」

勇者「えー、でもザコくなったお前見たら幻滅するんじゃないの?」

魔王「!!」





「えー、あれが魔王様?」

「むしろ魔王?」

「むしろ魔」

「名前なんてもったいないんじゃない?」





魔王「(嫌だ!)」

魔王「今からでも遅くはない!
   魔境に帰るまでに体を鍛え直す!」ビュンビュン!

勇者「歩きながら剣振り回すな」






魔王「」ゼーッゼーッ!

勇者「あんな無茶するから……」

キャァァ!

魔王「! 悲鳴が!」

勇者「キャァァなんて悲鳴初めて聞いた」

魔王「……行くぞ!」

勇者「あいつ足速いな」ガサガサ



魔王「勇者! 気をつけろ!
   コイツは別名クモノスヅタ!
   強靭な蔦で捕えた人間や動物に悲鳴を上げさせて仲間を引き寄せまとめて捕食する
   恐るべき習性をもっている植物モンスターだ!」

勇者「別名? ほんとの名前は?」

魔王「イーダルボーゴッホブドウ。果実は食用には向かん」

勇者「……被害者に恨まれてそうだなそのイーダルボーゴッホさん」

魔王「イーダルさんとボーゴッホさんが見つけたんだがな」

勇者「で、なんで知ってるお前が引っかかってるんだよ」

女「キャァァ!」

勇者「」ザクザク!(蔦を切り払った

魔王「ふう、死ぬかと思った」

勇者「マジでひっかかっとったんかい」

女「あ、ありがとうございます……」





女「私は東の村に住んでいて……」

勇者「あ、んじゃ僕らとは違う方向じゃん。 じゃーね」スタスタ

魔王「待て待て」

魔王「送っていくのが紳士というものだろう」

勇者「僕女だし」

魔王「何故いやがる?」

勇者「だってさ、どこに住んでるのかも聞いてないのに住所言っちゃうとか
   赤の他人に送ってもらう気満々で言っててなんか嫌だ」

魔王「まあそうだが」

勇者「それに、ここまでは一人でこれたんだし一人で帰れるだろ」

魔王「……いわれてみればそのとおりだな」

勇者「じゃ、そういうことで」

魔王「お元気でー」

女「え!?」

初めてのダンジョン



魔王「」ソワソワ

勇者「? トイレか?」

魔王「いや、そうじゃないが……あの獣道に入ってみないか?」

勇者「なんでよ」

魔王「い、いや、何かありそうと言うか、私の霊感がだな……」

勇者「意味わからん」

魔王「ええいなんでもいいから来い!」ダッ

勇者「お、おい!」

魔王「な、なんと言うことだ……こんな所にダンジョンが!」

勇者「……」

魔王「さあ行くぞ!」

勇者「……」

魔王「さあ!」

勇者「ハイハイ」

魔王「うーむ、どうやったらあの扉は開くんだろうなー」

勇者「……」

魔王「スイッチと石像かー」

勇者「魔王」

魔王「なんだ?」

勇者「ウザい」

魔王「」

魔王「」シュン



勇者「よっ……ふんっ……」




勇者「重くて動かないぞこの石像」

魔王「え、そんなバカな」

魔王「なら私も手伝おう。いっせーので行くぞ」

勇者「うん。いっせーの」

魔王
   「ふん!」
勇者


石像「」グラッバタン! ガラガラ!

石像は倒れ粉々になった!

魔王「」

勇者「」チラ

魔王「」

魔王「」ヒョイ (粉々になった石像の破片をつまんだ。

魔王「」ポイ (投げた

コン……

勇者「だ、大丈夫か……?」

魔王「……今日はもう休もう……」

勇者「そんなにヘコむなよ、なっ!」


初めてのダンジョン・完

吸血鬼



村長「吸血鬼が、村の娘をさらっていくのです……」

魔王「ひどいことを」

勇者「なんかエロいな」

魔王「ちょっと黙ってなさい」

勇者「吸血鬼ってお前の管轄じゃないの?」

魔王「勘違いするな、私は魔境の王だ
   魔王軍の指揮下にない魔族など山ほどいるし、今の魔境は連邦政治
   それに元々魔王というのも最強の称号のようなもの。まあ、私はそれを利用して政治をしていたがな」

勇者「ふーん……んじゃお前、弱体化したからもう魔王じゃないんじゃ……」

魔王「」

吸血鬼「ふふ、美しいお嬢さん
    剣など捨て、私の屋敷に来ませんか?」

勇者「!」

魔王「?」

勇者「聞いたか魔王! お嬢さんだってよ!」

魔王「え? ああ」

勇者「僕女扱いされたの生まれてはじめてかもしれない! しかも美しいとか!」

魔王「大体みんなに言ってるんじゃないか?」

吸血鬼「え? まあそうですけど……」

勇者「死ね」

サクサク!

吸血鬼「早ギャァァ!?」

心臓と眉間を的確に射抜く二段急所突き!

勇者「そしてお前即断でお世辞と判断したな」

魔王「え」

サクサクサク!

魔王「ギャー!」

吸血鬼「」ガシ!

魔王「!」

吸血鬼「全く、手酷いダメージを受けた……
    見たところ魔人か、その力、もらうぞ!」ガブ!

勇者「!」

吸血鬼「!? なんだ、この血は!」

魔王「……なんの味がした?」

吸血鬼「貴様は一体……」

魔王「」ガシ!

吸血鬼「!」

魔王「そこそこ魔力を溜め込んでいるようだな、ちょうどいい、残さずもらうぞ!」ガブ!

勇者「!!!」

魔王「」ズズズ……


吸血鬼「」バタン!

魔王「ふう! 足しにはなったな」

勇者「……」

魔王「?」

勇者「へ、変態だ」

魔王「え」

勇者「男に掴みかかって首筋噛み付くなんて、魔王変態だ!」

魔王「ち、違う! あれは血を介して魔力を奪って……」

勇者「この変態魔王!」

魔王「やめろ! なんか魔王が変態なんじゃなく変態魔王っていう固有名詞みたいだろうが!」

勇者「同じだろこの変態大魔王!」

魔王「昇格させるなぁぁ!!」




血を吸われた村娘たちは吸血鬼になっていたが、魔王の浄化魔法で人間に戻った!

吸血鬼・完

すいません、魔王は男です

水中神殿


魔王「この湖には水中神殿がある!」

勇者「また面倒なところに作ったもんだな」

魔王「もともと陸に作っていたんだが、近所で騒ぎになってな
   仕方ないから水中に沈めたんだ」

勇者「中は大丈夫なのか?」

魔王「心配いらん、防水魔法が仕掛けてあるから浸水しない」





魔王「水中歩行用の水泡魔法」プクプク

水中神殿・正面門

勇者「でかい門だな」

魔王「ふふ、私の自信作だ」

魔王「さて、開けるか」グッ

魔王「……」

勇者「……?」

魔王「」グググッ(引き開ける方式の門なのですさまじい水圧で開かない

勇者「……???」

魔王「……ぬおおおおおおおおお!」

勇者「……」

魔王「(な、なぜだ! 以前は水中でも簡単に……ってそういえば私弱体化してた!
   そうか、あの石像がアホみたいに重かったのも完全な状態の私基準で作ったから……!
   そりゃ弱っている私や勇者にマトモに動かせるはずはない!)」

勇者「なあ」
   
魔王「(く、くそ、ダンジョンの扉が開かないからと諦められるか!
   あの吸血鬼から吸い取った魔力で、私もそこそこ回復している!)」

魔王「見せてやるぞ魔王の力の片鱗!」第二形態! 

バゴン!

勇者「! 門をぶっ壊し……!」

ゴゴゴ!



魔王「し、しまった! 入り口に仕掛けていた防水魔法まで壊してしまった!」

ドドドドドドドドド!

魔王「す、水流が!」

勇者「この馬鹿! バカヤロウ!」





ウワー!

パチパチ(焚き火

魔王「ふふ……ダンジョンが沈んでいく……」(体育座り

勇者「最初から沈んでたろ……ほれ乾いたタオル」

魔王「ふふふ……」

勇者「腕上げろっつーのほれ」グイグイ

魔王「ははは……」

勇者「あーもう頭上げろ」ゴシゴシ



水中神殿・完

火山迷宮



魔王「この火山には地下迷宮を作り上げた!」

勇者「しっかし、よくこんなとこまで魔族引き連れてきたもんだな
   それとも人間雇ったのか?」

魔王「え?
   ダンジョンはすべて私の手作りだが」

勇者「」




勇者「お前手で掘ったのか?」

魔王「まさか。ツルハシに決まっているだろう」

勇者「……まあいいけどさ」

火山を掘って作った、溶岩流れる自然の力に溢れたダンジョン

5年前の噴火でマグマが流れ込み進行不能になっていた

火山迷宮・完

勇者「魔王城とかとんでもないことになってそうだな」

魔王「……」


・・・・・・・


魔王「」ズルズル

地「魔王様、その鎖鉄球の束は一体……」

魔王「うむ、魔王城に仕掛けようと思ってな」

地「な、何故」

魔王「安心しろ、こんなものは小手調べ、無限迷宮に人喰い箱、毒霧超電流火炎放射!
   思いつく限りこの城をパワーアップしてやる!」

地「落ち着いてください!」


・・・・・・



魔王「静止を振りきって作ろうとしたら四天王総出で止められた」

勇者「そりゃそうだ」

魔王「まあダンジョンにしなくとも、魔境からしてとんでもないがな
   腐毒溢れだし大地死に揮発した毒の霧立ち込め、魔獣や魔人でなければ肌から腐り落ちる絶望の大地だ」

魔王「しかし、10年も帰ってないのか……」

勇者「……」

土「? 魔王様、それは一体」

魔王「人間界の書物だ……人間は、自らの知恵を残すことが好きらしい」

土「ふむ、我ら武官には縁のない話ですな」

魔王「いや、人間の武将が書き残した本も星の数ほどある……
   人間界は腐毒の霧がないから、記録が劣化しにくい
   だから一般民も知識や記録を多く残すことができる、多くの者に伝えることができる
   腐毒に負けぬ安価で長期保存できる紙が作れれば、魔境の歴史が変わるぞ」

土「そうでしょうか……」

魔王「空想を文章にして他人に伝える、魔境では考えられんな」

ペラペラ

魔王「……」

本格ホラー小説

とてもこわかった

魔王「四天王、地の将軍よ」

地「はっ」

魔王「この城にお化けはいるか?}

地「は?」

魔王「幽霊と言い換えても良い」

地「……」

魔王「正直に答えてくれ」

地「……四天王、火の将軍率いる妖火軍団がまさに幽霊ですが」

魔王「!」

地「火の四天王本人も幽霊ですが」

魔王「!!」

魔王「お前とはもう口をきかん」

火「な、何故!?」

火「むう……」

部下「いかがいたしました、将軍?」

火「なぜかわからないが魔王を怒らせてしまったようなのだ……昔からよくわからんことで機嫌が変わるやつではあるが」

部下「では、なにか贈り物をしてみては」

火「そういうご機嫌取りを好かん奴だからな」

部下「気持ちの篭った物であれば、将軍と魔王様は古くから戦場を共にしたご友人。気もおさまるのでは」

火「ふむ」

魔王「む、火……昨日はすまなかった」

火「いや、気にしないでくれ。魔王であるお前に謝られるなど恐れ多い」

魔王「ははは、そうだな
   ん? なんだその箱は」

火「私の大切なものだ。魔王と部下ではなく、ともに戦場に身を置いた友として、これを受け取ってはくれないだろうか?」

魔王「火……」

箱を受け取った魔王

魔王「中身はなんだ?」

火「私のしゃれこうべだ」

魔王「」バシン!

火「ああ!!」

土「魔王様、また人間界に行っておられたのですか」

魔王「ああ、人間界は学ぶことが多い」

羊「メェメェ」

土「しかし、前回の進軍の時のように神の勘気に触れるのでは……」

魔王「望むところだ、神の住む凍結大樹に行く手間が省けるではないか」

羊「メェメェ」

土「(魔王様……あなたは今、死ぬわけには行かないのですよ
   魔境の大規模改革のためにも)」

羊「メェメェ」

土「(そして、このフワッフワな生き物は一体……)」ナデナデ



水「魔王様は最近、人間界に興味を示しておられるな」

風「ああ」

水「これはいよいよ戦の準備か」

風「違うだろ」


風「よしよし」

羊「メェメェ」

水「……」






風「? どうした、水の四天王」

水「そのフワッフワな生き物は一体……」

風「ああ、魔王様からいただいた、人間界の家畜というものらしい
かわいいよな」

水「……ふ、ふん、暴獣と呼ばれ反乱軍を率いていたお前がかわいいとはな」

風「俺の過去がどうあれ、こいつがフワッフワなのはかわらないだろ」

水「馬鹿馬鹿しい……」


部下「風の四天王様! 魔王様がお呼びです!」

風「わかった。いい子にしてろよー」

羊「メェメェ」






水「」

羊「メェメェ」

水「」

羊「メェメェ」

水「」ガバ!

羊「メェェ!?」

フワッフワ! フワッフワ!

魔王「……というわけで、魔境における牧畜の研究を行いたい」

風「生き物を自らの手で繁殖させるとは、人間の考えは面白いですね」

魔王「こちらは空気も悪いし農耕もようやく本格化してきたばかり
   腐毒の管理を進めているとはいえ、人間界の家畜はこの王都内でしか生きられまい
   しかし成功すれば食糧問題解決に大きく前進……」

風「は? 食料?」

魔王「は?」

風「あ、アレを食べるのですか!?」

魔王「え」

風「ま、まさか家畜を増やすというのは!」ワナワナ……

魔王「え、いやちょっと」

風「人間とはなんて残酷な……」

魔王「い、いや……まあはじめて見たときは私も衝撃だったが、かなり合理的というか」

風「ご、合理的!? 産ませ育て殺すのが合理的ですと!?」

魔王「いや、毛も服とかに加工でき」

風「毛!? あの生き物から毛を取るというのですか!」

魔王「(なんだろう、人間がすごく残酷な生き物に思えてきた……)」

魔王「狩りばかりでは常にまとまった食料を得ることなど」

風「しかし!」

水「どうした、魔王様に対し語気を荒らげるなど」

風「う……」

羊「メェメェ」

魔王「ん? その羊……」

水「ええ、どうやら私にとてもよくなついたようで」

魔王「なるほど……ふむ、水の四天王、お前に家畜の養殖の研究を任せたいのだが」

水「は、この生き物をですか!? 喜んで!」

魔王「うむ、これで食糧問題に一歩……」

水「」

魔王「」

水「こ、この生き物を食べると!?」ギュー

羊「グェェ!」

魔王「お前もかい」

土「ええい貴様ら!
  何のために今まで戦ってきたのだ!」

(魔王の傍に控えていた)

水「魔王様のため、魔王軍のため、我が故郷の名誉のためだ」

風「俺を慕ってくれる民のためだ」

土「そのために戦うこととこの生き物を殺すことにどれほどの違いがある!
  戦争も畜産も生きるための戦いであることに違いはあるまい!」

風「……」

水「……」

土「いかにこの生き物がフワッフワであろうと……」

羊「メェメェ」

土「」

羊「メェメェ」

土「」フルフル

魔王「しっかりしてくれ……」





風「あ、火の四天王殿! このあたりでフワッフワな生き物を見ませんでしたか?」

火「? ふわっふわ? 私の部下の妖羊駒はフワッフワだが?」

風「いえ、こうメェメェ鳴いてねじれた角が生えててフワッフワなのですが」

火「奴もそんな感じだ」

風「メェメェ鳴くのですか?」

火「たまにな」




水「よしよし」

羊「メェメェ」

水「暖かい・・・・・・我が故郷氷雪の大地に連れて行けばさぞ・・・・・・
  しかしあの大地でこの子が生きていけるものなのかどうか・・・・・・」

地「お前所領はどうした」

水「この生き物を繁殖させよという魔王様から賜った任務のため、生態を調べているところだ」

地「将軍自ら調べよという命令では無いと思うが・・・・・・まあいいか」


テクテク

魔王「ん?」





風「おいテメェその生き物は俺が魔王様から賜った物だぞ!」

水「何を言う、この生き物を増やせという命令を戴いたのはこの私だ」

風「正式に決まったわけじゃねぇだろ!」

メェメェ フワッフワ!




魔王「いかん、普段からゴツい魔獣ばかり相手にしているから連中の可愛いものに対する耐性が……」

火「どうした」

魔王「ああ火か、この生き物を見てどう思う?」

羊「メェェ」

火「バラしやすそうだな」

羊「!」



火「この生き物を増やし食料に? いい考えだな」

魔王「そうだろう」

火「魔獣共は腐毒に対抗するためなのだろうが、皮が固くていかん」

魔王「うむ、しかも育てるにも数がそろって暴れればそれだけで脅威だ」

火「そこでいえばこの生き物はうってつけだな」

羊「!!」

火「可愛いから食べたくない?
  四天王も腑抜けたな……」

魔王「まあ最近の若いのは農耕の広まりで肉を食わんものも多いと聞く」

火「土は私と同年代のはずだが……よし、私に任せろ」

魔王「あの三人が倒れただと!?」

火「ああ、肉を食べさせた後で解体した現物見せたらバターンと」

魔王「!!」

火「皆うまいうまいと食べていたのに……」

魔王「」

火「あ、心配するな、きちんとゴーストとして生き返らせたから」

羊霊「メェェェェ……」

魔王「!!」


・・・・・・



魔王「皆いい思い出よ」ホロリ

勇者「(何考えてんだ……?)」

商都



勇者「魔王、勇者の剣って質に入れたんだよな?」

魔王「? ああ、昔村が洪水にあった時にな
   修繕費用捻出のために売っぱらったが」

勇者「あれ」




王者の剣

古代の王が持ったといわれる伝説の剣
その切れ味はミスリルの鎧さえたやすく切り裂き、竜をも屠るといふ

10000000G



勇者「勇者の剣が売りに出されてる……」

魔王「そ、そんな……売った時は3000Gだったのに……」

勇者「(高いのか安いのか微妙だな)」

勇者「変な尾ひれついてるし」

魔王「ああ、あれは私が質に入れるとき店主に言ったことそのままだな」

勇者「……」



魔王「しかし、ここで見つかったのは運がいい。売れたら誰が持っているかわからなくなるところだった」

勇者「買う気?」

魔王「うむ」

勇者「僕らの手持ち知ってる?」

魔王「ここは商都、人あふれ金踊る地だ。
   たかだか1000000Gならなんとかなる」




料理屋 マオウの店


魔王「はああ!」ジュウジュウ!

勇者「いらっしゃいませ!」






勇者「なにやってんだ僕ら」

勇者「お前料理できたのか、たまに台所立ってるのは見たことあるけど」

魔王「食料の少ない魔境においてうまい食事はそれだけで兵士のモチベーションを最高に高める
   ゆえに私や将軍たち上に立つものは料理において超一流の実力を備えるのだ!」

勇者「(ゆえにっていう理由がわからん)」

勇者「メシ屋なんて二人で回るわけないだろ
   この洗い物とかどうすんだ(今さら言うのもなんだけど)」

魔王「見せてやろう、これぞ世界の理を歪める大魔法の一つ「ディナイゲイン」!」

ピタッ!

勇者「これは……」

魔王「時間を止めた! さあ今のうちに洗い物だ!」

勇者「(この魔法であの剣パクればいいんじゃないかなぁ)」



一週間後、開店前

勇者「やばいぞ、めちゃくちゃ並んでる!」

魔王「ふん、面白い! はぁぁ!」第二形態!

角が生え翼生え尾が生える!

魔王「体力・パワー・スピード・魔力! どれも第一形態とは比べ物にならんぞ!
   さらにこの形態は尻尾が三本目の手の役割を果たすのだ!」

勇者「騒ぎになるから全部もげ」

魔王「え、いやもげってどゆこ」

ギャー!

もがれた

魔王「どうしたどうしたこんなものか!」

客「な、なんだあの料理人!
  炎の魔法を身にまといながら10の鍋を振り回していやがる!」

客「まさかホール50人分の食事を一人で一気に作るつもりなのか!?」

魔王「ははは! 私はあと2つ変身を残している! この意味がわかるか!」

客「!」

客「!」

勇者「なんだよ意味って」


勇者「この店って土地の割に広くないか?」

魔王「これぞ大魔法の一つ、空間を操る「スーパーワールド」!
   この魔法にかかれば一本道も無限迷宮、コップの底も大海原と化す!」

勇者「(フルパワーだな)」





勇者「」魔王がかけたスピードを倍にする魔法と常時回復魔法で全く疲れていない

ゴロツキ「おうおうねーちゃん! この店はこんな生ゴミくわせるんかい!」

勇者「申し訳ありません、お口に合わないのでしたら代金は結構ですので……」

ゴロツキ「そういうもんだいちゃうやろああ!?」ガチャガチャン!

魔王「申し訳ありません、お客様……こちらはお客様の口にあわせ作り直させていただきました」

ゴロツキ「ああ!? そんな……!?」

ゴロツキ「……」

黙々と料理を食べ始めるゴロツキ

勇者「なんだあの料理」

魔王「レスペリニアの郷土料理だ、水が悪い土地だから油と香辛料をがっつり使うのが特徴」

勇者「どこだよそこは」

魔王「はるか南にあった小国だ
   大柄な体格のものが多く、複数人でなら大型の魔獣もたやすく狩ったという
   だが、大国同士の戦争の際戦奴として徴収され国は滅んだ」

勇者「ふーん、まあありそうな話だな」

ゴロツキ「……すまなかった、久しぶりに故郷を思い出したよ」

魔王「ふふ、私の料理で思い出していただけたのなら光栄です」

ゴロツキ「……」

ゴロツキ「……ボミドエクスクデス食会に気をつけろ」ボソッ……スタスタ




魔王「!」


勇者「?」

魔王「ボミドエクスクデス食会だと!
   あの男、ボミドエクスクデス食会に雇われていたのか……」

勇者「なんだそれ」

魔王「この世界の食を裏で操るという料理人集団……
   急激に成長しているウチを叩くつもりらしいな」

勇者「いや組織内容も気になるけどボミドエクスクデスってなんだよ」

数日後、マオウの店への食材供給が完全に停止した。
ボミドエクスクデス食会が裏にいることは疑いなかった。


勇者「コレって卑怯すぎない?」

魔王「想定の範囲内だ」

勇者「せっかくの売り上げが日に日になくなっていくんだけど」



勇者「料理大会?」

魔王「うむ」

勇者「僕らが開くの?」

魔王「私たちではない」

勇者「?」

魔王「このやりようを見ればわかるだろうが、ボミドエクスクデス食会のやり方はかなり強引だ
   同じやり口でつぶされたり苦い思いをした者は多いだろう」

勇者「つっても負けた連中だろ」

魔王「多額の出資をした店をつぶされたような資産家をピックアップした
   発展途上の外食産業において、新参が乗り込みにくい環境を作っているボミドエクスクデス食会を
   邪魔に思っている連中だ」

勇者「へぇ」

魔王「私たちはその連中をつなぎ合わせ、ちょっとしたアイディアを渡すだけでいい
   提案ではなく、あくまでさりげない会話としてな」

勇者「でも大会開いて何の意味があるんだ?」

魔王「必要なのは権威だ
   長く君臨したボミドエクスクデス食会に対抗する権威、それが料理大会になるように仕向ける
   ブランドと言い換えてもいい」




1ヵ月後、魔王は着々と準備を進め、料理大会開始は目前となっていた。
しかし、大会開催告知を目前に控えたある日、ボミドエクスクデス食会が主催する大会の開催が決定された。

勇者「露骨だなー」

魔王「出場するのはほとんどがボミドエクスクデス食会の息がかかった店か
   よし、プランJだ。優勝しボミドエクスクデス食会の保った権威を崩す方向で行くとしよう」

勇者「どんだけプランが練ってあるんだ……?」

試合当日


司会「さあ第一回戦!
   マオウの店代表マオウ選手vsボミドエクスクデス食会東部5号支店代表カマセ選手です!」



相手と比べ、明らかに鮮度の落ちた食材が並べられている

勇者「あからさまな妨害工作だなぁ」

魔王「心配ない
   この一ヶ月で新たな食品の仕入れルートを確保した
   これからはどんな食材もそろえられる」

勇者「へえ」




勇者「あれ? それだったら大会に参加しなくてもよかったんじゃ……」

カマセ「ククク……マオウ? どこの田舎料理人かは知らないが、このボミドエクスクデス四天王の一人カマセが始末してやるぜ!」

勇者「」

魔王「? どうした」

勇者「別に」

カマセ「(料理はまずもって材料!
    そして料理人が最高の腕を振るには最高の設備が必要となる!)」

魔王「そのとおりだ、だが私は料理人ではない!」ダン!

カマセ「!」

司会「ま、マオウ選手、材料の入っている籠に拳を打ち付けました!」

カマセ「(ヤケクソになったか……!?)」

司会「おっと! なんと宙を舞った食材が、細かく切り刻まれています!」

カマセ「!(ヤツは魔法使いか!)」

司会「材料はそのまま、マオウ選手の手にした鍋におちていきます!」

魔王「はああ!」

司会「マオウ選手自らの体が燃えています! その炎で鍋を熱し、食材を炒めています!!」

カマセ「く、くだらんパフォーマンスだ」

魔王「甘いな」

カマセ「何!?」

魔王「自ら燃え上がり炎と一体化、支配することで食材に一切の苦味を加えることなく! 最高の温度管理を行うことができるのだ!」

司会「あーっと油を注ぎ込んでいます! 一体何ができあがるのでしょう!!」

魔王「(この作業は火加減がすべて・・・・・・食材を焦がさず、しかし緩めることのない絶妙な火加減!)」



勇者「ぶっちゃけ熱くない?」

魔王「そろそろ我慢がまずい」

しばらく後


司会「さあ! 両選手調理が完了しました!
   まずはマオウ選手の料理です!」

試食者「な、なんだこの味は!?」

試食者「これは肉? いや、肉ではないことはわかるがこの食感は……!」

魔王「それは魔境に生息するオオグモベニモドキ……肉食性の菌糸類だ」

美食家「! お、オオグモベニモドキ!? あの猛毒キノコの!?」

魔王「落ち着け、毒が残っているなら一口目でお前たちは死んでいる
   このソースにはオオグモベニモドキを含む茸を主食とするオニオオグラアリの腹を割いて得た体液を混ぜてある
   アリが持つ酵素が毒を無効化、同時にオオグモベニモドキの持つ栄養を消化分解しうまみと甘みに変え、他食材の味をまとめる酸味を与える」

美食家「な、なんと……」

魔王「乾燥させ味を凝縮させたキノコに多種の食材の味を閉じ込めた油を吸わせ、両面にこんがりとした焼き色をつけることで風味を増す、
   酵素によって分解されたオニオオグモベニモドキのかさは肉に似た食感を持ちながら舌で押すだけで容易に崩れ、
   口の中は食材の旨みを閉じ込めた脂で満たされ、オニオオグラアリの体液の酸味によってすっきりとした後味になる
   これがオオグモベニモドキステーキのオニオオグラアリソースがけだ!」

勇者「(なんかかなり気持ち悪い料理だな)」

見た目と匂いがおいしそうなのがより恐ろしい一品である。

司会「審査の結果、100対0でマオウ選手の勝利です!」

勇者「なんか悲しいものがあるな、ほんとなんとなくだけど」






カマセ「クク……いい気になるなよ……」

なんかボロボロになっている。

勇者「どこでそのダメージを負ったんだよ」

カマセ「俺はボミドエクスクデス食会四天王の中でも最弱……そしてトーナメント表をみろ!
    お前が優勝するには、我ら四天王すべてを相手にしなければならないのだ!」

勇者「(だからなんだろう……)」

カマセ「地獄で待っているぞはははははーーーーーー!」ガクッ!

勇者「え、死んだの!?」


休憩室に戻ると。

カマセ「うう……」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「コイツさっきの?」

魔王「霊体のようだな」

勇者「地獄で待つとか言っといて、未練たらたらじゃん」

カマセ「だって! 結婚もしてないのに!」

勇者「そういう問題か」

魔王「ふむ、お前が望むなら生き返らせてやってもいいぞ」

カマセ「ほ、ホントに!?」

勇者「そんなことできたのか」

魔王「死んだばかりだし、死体も新鮮だ。簡単に生き返らせられる」

魔王は四天王を次々と撃破し、ついに決勝戦にたどり着いたのだった。





なんか偉そうな人「ボミドエクスクデス食界も終わりだね・・・・・・
         あんなどことも知れない料理人に全滅とは」

会長「ま、まだ私がおります!」

偉そうな人「君ごときがあのマオウという料理人に勝てるとは思えんね
      ボミドエクスクデス・・・・・・奴がいれば」

会長「奴の話は・・・・・・」

偉そうな人「とにかく君とはもう終わりだ」スタスタ

会長「そんな・・・・・・くそっ! 奴めいったい何者だ!?」


???「見苦しい」

会長「!」


???「好き勝手にやって、好き勝手にやられたようだな」

会長「ボミドエクスクデス、クリムゾン! いつの間に戻っていたのだ!」

ボミドエクスクデス「私の名を冠した大会が開かれたと聞いてな」

クリムゾン「我らボミドエクスクデス食会はただうまい料理を作ることのみを目的として創立された……
      金に餓えた貴様には死、あるのみ」

会長「く……」

クリムゾン「だが……チャンスをやろう
      俺の料理を食しても、その命を保っていられるかな?」

会長「(クリムゾンの料理……! お、恐れることはない! 私の食力は昔よりはるかに上がっているのだ!)」


会長「(なんだ……ただ湯を沸かし、皿に流しただけだと!?)」

クリムゾン「これで仕上げだ」

一つの赤い小さな玉を、湯の中に滴とした。

会長「!? な、なんだこの香りは!? それに、湯が一瞬で澄んだ紅色に!」

クリムゾン「コレは魔境に咲くエビルローズの花びらを小山鳥の血に塩とともに漬け、醗酵させたものだ
      醗酵によりエビルローズの毒性と青臭い味は消え芳醇なうまみ甘みと香りが倍増、
      小山鳥の血によって深いコクと、うまみを引き出すわずかな雑味が加わる」

会長「(いかん! に、逃げなければ……!)」

ガシ!

会長「バカな! 手が勝手に皿を……」ゴクッ!

会長「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」ガク!

ボミドエクスクデス「ご苦労だった、クリムゾン」

クリムゾン「どうする、俺たちが修行している間に組織は大きく歪んじまった」

ボミドエクスクデス「この食界は、料理人を制限するためのものじゃない
          足かせになるなら解体するのみだ」

クリムゾン「だが……」

ボミドエクスクデス「ああ……「マオウの店」、久しく現れた、全力で戦える相手だ」


司会「さあいよいよやってまいりました決勝戦!
   チャレンジャーに対するは、ボミドエクスクデス食界最高の料理人……」



勇者「最高の料理人って誰?」

カマセ「マオウさんが準決勝で倒したボミドエクスクデス食界本店代表がそうです」

魔王「超特別シード枠で決勝直行になっている奴がいるが」

カマセ「会長ですよ、八百長で本店代表に勝つつもりだったんでしょう」

勇者「わかりやすい奴だな」





クリムゾン「」

ボミドエクスクデス「」




カマセ「! ボ、ボミドエクスクデス様!?」

勇者「へ? どっちが?」

カマセ「仮面をつけている方です!」

勇者「っていうか人名だったんだ。横にいる大きいのは?」

カマセ「あの男はクリムゾン……かつて町を転々とし店を開いては周囲の店を叩き潰していたという……」

勇者「はた迷惑な」

カマセ「二人とも突然修行の旅に出て・・・・・・そしたら今の会長が組織代表名乗り始めたんですが」

勇者「わりと無責任だな」

魔王「……なんという食気、食気獣を操るほどとは……」

勇者「? しょっき?」

魔王「闘いを極めた者が闘気を纏う事は知っているだろう」

勇者「知らないけど、まあなんとなくわかるよ」

魔王「同じように、学業を極めれば学気、農業を極めれば農気、そして食を極めれば食気を帯びる
   そして自然界のエネルギーが時として精霊や不定形なエネルギー生命体となるように、あふれ出す食気は命を得て食気獣と化すのだ」

勇者「のだとか言われても……」


司会「ボミドエクスクデス食界会長急逝につき、代理としてボミドエクスクデス前代表が参加します!」


勇者「なんか紛らわしいな」


司会「さあ決勝戦! マオウ選手vsボミドエクスクデス選手、レディーゴー!」

勇者「?さっきからあの人何もしてないぞ」

魔王「奴の籠をよく見ろ」トントントントントン!

勇者「……!? いつの間にか切られた食材が! って、消えた!?」

魔王「鍋だ!」シャァァ! カカカカカカッ!

勇者「い、いつの間にか鍋に火がかかっている!」

魔王「一流の暗殺者はターゲットに死んだことさえ気づかせないという……」ビャビビョウ!!

勇者「その理屈を当てはめるのはおかしいだろ」

魔王「(……魔境の永久溶岩にダイヤモンドシードの種を入れ殻を破壊・・・・・・そんな方法があったとは!
   そして集めた核を製粉……あの量、おそらく麺に仕立てるつもりだろう)」ジャジュゥゥ!

魔王「(良質なグルテンとタンパク、さらに独特の風味を消すためエシリアハーブの匂いを移した油を丁寧に練りこんでいる!
   5種の旨みをそなえかつ癖がない! どんな味でも10ランクは上に引き上げる恐るべき麺だ!!)」カン!


魔王「いかんな……奴らは真のプロフェッショナルだ、料理に命を賭けている」ビャンビャンビャン!

勇者「勝てるのか?」

魔王「……勝つ手立てはある」ギャリガリィィ!

勇者「え?」

魔王「奴らの作っている料理は、おそらく食材のクセを取り除き、繊細な味を極上のバランスでそろえたものになるはず
   逆に食材のクセを生かした料理で挑めば、あるいは……」カチャカチャ

勇者「それなら……」

魔王「だが、勝ち目があるのはこちらが先に試食されたときの話だ」コト

勇者「?」

魔王「奴らが先なら、その繊細な味わいを受けた舌に、クセを生かした料理は刺激が強すぎる
   そしてこちらが先でも、勝てる可能性は3割以下だ」ガツガツガツガツ!

勇者「じ、じゃあどうするんだよ」

魔王「……」フキフキ


勇者「(今にして思えば……コイツが少しでも弱気になっている所なんて見たことない)」

勇者「(よほど追い詰められているんだ……)」

勇者「……」

勇者「っていうか何のんきにメシくってるんだよ」








魔王「……お前の協力が必要だ」

勇者「え? 僕?」

会場外

魔王「今からお前に、魔剣技の奥義のひとつを教える」

勇者「え、いやなんの関係が?」

魔王「この技に切れないものは存在しない、たとえこの世で最硬の、巨体を誇る私の第3形態の皮膚であろうとな」

勇者「え」

魔王「頼んだぞ」

勇者「いや頼んだっておまえ」

魔王「切り取るべき部位は紙に書いておいた、頼んだぞ」

勇者「そこまでやるんかい」

魔王「た・の・ん・だ・ぞ!」

勇者「・・・・・・ハイハイ」

魔王「ぐうう……」

勇者「大丈夫か……?」

魔王「ふふ、奴らは料理に命をかけている、勝つためには私も命をかけなくてはな……」

司会「ボミドエクスクデス選手、料理が完成しました!
   さあ、試食者に料理を……」

クリムゾン「その必要はない」

司会「!?」

クリムゾン「そこに並んでいる連中が、この料理の何を語れる?
      あのマオウがたかだか6割程度の力で作った料理に何も言えなかった連中だぞ?」

試食者「!」

ボミドエクスクデス「この戦いにおいてあなた方美食家と評される人間など、一般人と大同小異
          この味を評するべきものは、対戦相手のみ!」

美食家「ふ、ふざけるな!」

司会「あ、ちょっと! ステージに……」

美食家「私はこの世のあらゆる味を食べてきた! あの男が作るゲテモノに、味を論ずる価値などない! だから何も言わなかっただけだ!」

ボミドエクスクデス「見苦しい」

美食家「なんだと!? 貴様らの料理も、珍奇な食材を使っただけの平凡な麺料理ではないか!」

クリムゾン「ククク」

美食家「こ、この……」

クリムゾン「すまんな、ボミドエクスクデスも俺も親切で言ってやったんだが……そこまで言うなら、食べてみるがいい」

美食家「いまさら……!」ガシ!

美食家「ば、バカな、手が勝手にフォークを……」ズルルッ!

美食家「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」バタン!

司会「!」

ボミドエクスクデス「……クリムゾン」

クリムゾン「ふん、お前の料理で死ねたならコイツも本望だろう」

司会「い、一体何が……」

ボミドエクスクデス「三大欲求、食、睡、性……人間の本能とはコレを満たすためにあるといっていいだろう
          私の料理は、通常の人間ならば一生に味わうだけの「食」の欲求を満たす
          これを口にしたものは、その本能の使命に最大の充足をもって天へと昇る」

魔王「……いただこう」

魔王「コレは!」ビュオォォォ!

司会「! マオウ選手が料理に口をつけた瞬間、嵐のような風が!」

勇者「(い、今の僕なら見える! 二人の持つ気が激しくぶつかり合っているんだ!)」

魔王「(繊細な味、絶妙なバランス・・・・・・だが、それは一つの食材を最高に高めるための土台に過ぎなかった!
   このオオツラマダラの胸肉、細かな切れ目を入れ、銀リンゴの果実酒とともにペーストしたヴェノムハリセンボンの肝をすり込んでいる!
   ペーストした肝はおそらく魔境の毒草を主食とする刃角牙兎の腸から得た細菌を利用し無毒化、
   さらにまろやかな旨みと味を引き立てる鋭い苦味を加えている!
   このダイヤモンドシードから作った一見して普通の麺! これには恐ろしく細かな穴が開けられ、具材やソースを見事適量に絡めとっている!
   口の中でほぐされた肉の旨油とともに溶け出し、最高の食感の麺と絡み合い、わずかに入れられたスパイスによって味が引き締められる!)」

魔王「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」ガク!

勇者「!!」

魔王「」





魔王「あなたは神、か?」

神「神? 君が……君たちがそう呼ぶのなら、そうなのだろう」

魔王「長きに渡る、魔境の民の夢……今、果たさせてもらう!」







魔王「……」

魔王「(あの戦いの決着は、まだ付いていない……
    そうだ、私は……まだ!)」

魔王「倒れるわけにはいかんのだ!」

勇者「ま、魔王!!」

ボミドエクスクデス「!」

クリムゾン「さすがだ、本能を超えた!」

魔王「次は……私の料理だ!」


ゴウ! バガア!



司会「か、会場の屋根が!」

勇者「魔王とボミドエクスクデスの気が、最高に高まっている!

   力が衝撃として具象化し、このままだとあたり一面を破壊しつくすぞ!!」

ボミドエクスクデス「いただきます」スチャ






ボミドエクスクデス「(……魔境にある、ごく普通の肉料理に見える……
          魔獣の毒を消すための薬効を備えたスパイス、栄養価を補うための魔境樹の種の核……
          だが、何だ? 私は何におびえているんだ!?)」




パク

ボミドエクスクデス「!! ま、まさかこの味は……!」

クリムゾン「どうした!?」

ボミドエクスクデス「実際に食べたことはない、だが聞いたことがある……
          巨大な体と強大な力を持つ、絶滅した種族たち……」

クリムゾン「まさか……」

ボミドエクスクデス「伝説の巨鳥ハルピュイア、海の魔神クラーケン、世界の覇者ドラゴン……それだけじゃない、
          さまざまな生命の命が、この肉に凝縮されている!」

ボミドエクスクデス「この肉に味を加えているものは、なんだ!?
          いや、解る! 味そのものはわかる!
          このクセの強い肉の風味、キメンオオイボダイダイの毒袋から作った酒とスパイスで香ばしくも上品な香りに変わっている!
          そして甘味は脂だけによるものではない、このすっきりとして後を引かず、素材の味を伸ばすのは
          チャムラサキドクツルボを置いて他にない!
          だが、この肉とキンメオオイボダイダイとチャムラサキドクツルボを束ねている、この味はなんだ!?
          この三つはいわば水と油、決してなじむことのない味のはず!」

勇者「(もう何使ってんのか名前聞いてもわからん……最初からだったけど)」

魔王「教えてやろう、クロキイロベニハンテンバナの種子から作った油だ」

ボミドエクスクデス「無毒化の方法があったというのか!?」

魔王「わずか耳かきひとすくいで魔獣一万匹も殺すという猛毒、だが、ただ一つ、存在するのだ……」ガハッ!

ボミドエクスクデス「! ま、まさかお前は!」

魔王「そう、私はこの大会開催の知らせを受けた日より厳選した食材を食い!
   その味すべてをわが身へと移した!
   すべての食材は私の体内で無毒化され、すべての味は混ぜる・揉みこむ・擦りこむ・埋めこむ・漬け込むなどより高い調和でもってミックス!
   これぞ我が最終料理『魔王ステーキ魔境風』!」

クリムゾン「あの男が食べたあの料理、あれにクロキイロベニハンテンバナの油が入っていたに違いない!
      おそらく代謝機能を高める薬効をもつ食材を同時に使い、体内での無毒化を早め食材と味のなじみを最高の状態にしたのだ!」

勇者「(そこまでやるか)」

カラーン……

ボミドエクスクデス「私の負けだ、マオウ」ゴハッ・・・・・・

魔王「ふ、私は全力を出しつくした……楽しかったぞ」グハッ……

ボミドエクスクデス「」ガク

魔王「」ガク

司会「り、両者ダブルノックアウト! 試合終了です!」

勇者「やばい! 魔王はマジで体力がもうないんだ!」

クリムゾン「何!?」



大急ぎで担架で運び、手当てを済ませた。


勇者「ふー、心配させやがってもう・・・・・・」

翌日、魔王は勇者とともに街の外れにいた


クリムゾン「店を畳むと聞いたが、なぜだ?」

勇者「なんか燃え尽きたんだって。料理はしばらくやりたくないみたい」

ボミドエクスクデス「そうか、君が止まっている間に追い越させてもらうとしようか」

魔王「うかうかしてはいられんな」

ボミドエクスクデス「ふふ、では、さよならだ」



テクテク

魔王「久しぶりに己の全力を出した気がするな」

勇者「他にどんなときがあったんだ?」

魔王「神との戦いのときだな」

勇者「(こんな奴に全力で殺しにかかられた神様もかわいそうだな)」

魔王「さて、魔境ももうすぐだ」

勇者「なんか料理大会のせいでうまいものであふれてそうな感じなんだけど」

魔王「とんでもない
   腐毒の霧のせいで日光は入り込まず、皮膚はただれ腐る絶望の大地だぞ
   植物も頑強な外皮に身を包み、それを食べる草食獣も鋼鉄の鎧なら軽く噛み砕ける
   当然、そんなのもを食べる肉食獣は言わずもがなだ
   あの料理はそんな中生み出されてきた、血と肉の結晶なのだ」

勇者「ふーん」






勇者「え、そんなとこに連れていかれるの?」


時は数カ月前に遡る


魔王「これぞ世界を歪める大魔法の一つ「ディナイゲイン」!」







クラーケン「!」

氷「クラーケン様、いかがなさいました?」

クラーケン「……今の感じ、まさか!」

魔王城


火「!」

土「……今、確かに……」

風「? どうしました?」

火「時が止まった」

水「! 時を操る……」

風「そんな大魔術、神か、あるいは……」

水「魔王様が、生きている!?」

火「また止まった!?」

地「一体何が!」




火「ええいまたか!」

地「ホント何が起こっているんだ!」




火「いい加減にしてくれ!」

地「一日に何度も何度も! ありがたみが失せる!」


風「(下手に魔力が高いと大変だな)」

水「よいか、我ら水剣魔団!
  魔境の腐毒全てさらい人間界を焦土と化そうと魔王様を見つけお迎えするのだ!」

部下たち「オオオオオォォォォ!!」

風「何やってんだ」

水「貴様こそ何をしている、さっさと領地から捜索軍を編成せんか!
  魔王様が生きているとわかれば、この世のすべてをひっくり返してでもお探ししなければ!」

風「まだ魔王様って決まった訳じゃねーだろ(まあ魔王様だとは思う)」

水「私にはわかる、あれは魔王様だ!」

風「頼むから勘弁してくれ、魔境はともかく人間界との交渉は全面的に俺に任されてるんだから……」

火「最初こそ魔王様が時を止めるほどの事態と気を揉んだが……
  数ヶ月間数十分おき、夜中は何もなかったところを見ると、そう緊急事態と言うわけでもないようだな」

地「もう起こらなくなったしな……だが、魔王様、一体どこにおられるのか……」

火「まあ、帰る時は自分で帰ってくるだろう」

地「下手に捜索隊を人間界に向かわせ警戒させるほうが、人間との交流による文化吸収を旨としていた魔王様の意を削ぐことになる、か……」

火「しかし……ふふ、生きていたか、ちょうどいい」

地「?」

火「魔王様の持ち込んだ牧畜の繁殖研究は着々と進み、2世世代も食べ頃だ
  戻ってきた日には盛大な畜産物パーティーを開こうじゃないか!」

地「い、いや! 奴らはあくまで研究用で……」

火「食肉用であれば、実際に食べてみるべきだろう
  それに魔王様が農耕を広めるとき、種族や地域を問わず大規模な農産物パーティーを催したのを忘れたか
  民に畜産の理解を広めるためにはその調理の手軽さと味をアピールするのが一番、
  そのためには肉に合わせた調理法や保存方法も探さねばならんしな」




地「アリー、ジョン、ジャスミン、ケイリー……私は一体どうすればいいのだ……」
  
メェェェ……コケー! モー……ブーブー




魔境最接近の街

勇者「なんかゴツいにーちゃんが多いな」

魔王「わざわざここに来るのは、魔境の鉱物を狙った盗掘者か、魔境の珍しい生き物を狙った密猟者だ」





魔王「まずこのクリームを全身に塗れ」

勇者「」ヌリヌリ

魔王「そしたらこの密着型防毒服を」

勇者「」ゴソゴソ

魔王「そしてこの上に着るタイプの防毒服」

勇者「」ゴソゴソ

魔王「最後にこの防毒マスクを」

勇者「」カポ

魔王「よし行くか!」

勇者「待てよ」

魔王「なんだ?」

勇者「こんなカッコで歩き回れるか」

魔王「少しでも露出があったらそこから腐り落ちるぞ」

勇者「お前は大丈夫なのか」

魔王「魔人にはそれなりに耐性がある」

勇者「ずるいな」






勇者「要するに、腐毒の霧さえ何とか出来ればいいんだろ?」

魔王「まあそうだが」

勇者「風の魔剣技」ビュン!

切り裂かれた風が渦を巻き、勇者の周囲に壁を作った!

勇者「これでオッケーだろ」

魔王「……(魔剣技を教えてたかだか3年、ここまで使いこなすようになるとは」



魔境

勇者「全体的に紫色だな」

魔王「腐毒の霧が光を複雑に反射してできる色合いだ
   魔境に住む者のほとんどにとってはこれが世界の色だ」

勇者「ふーん……」

魔王「そして、忌むべき最大の敵でもある
   魔人は耐性があるとはいえ、この毒性は出生率と小児死亡率に大きく影響している
   人数がいても毒のせいで生殖機能を冒され、子を残せず滅びを待つだけの種族もいるほどだ」

勇者「よく人間界に攻め入ろうとか思わないな」

魔王「神がいるからな」

勇者「神……魔人の敵なのか」

魔王「と、言うより人間の味方だな」

魔王「昔、私が軍を率いて人間界に攻め入ろうとした時の事だ」

勇者「……まあ、すぐ横にもっと楽に住めるところがあるんだもんな」

魔王「進軍中に神が現れ、ボッコボコのズッタズタにされた」

勇者「神様ってそんな直接手段に訴えてくるのか」

魔王「なんかチラッと見えたと思ったら鬼のように攻撃魔法打ち込まれてな……」

魔王「まあ、元々、人間界に本格侵攻したら神がどう出るかを見たかったのだが、助かる効果もあった」

勇者「助かるって?」

魔王「昔から魔境の民は、人間界に攻め入るべきという考えを持っていた
   私が進めようと思っていた魔境緑化や農耕、畜産の魔境での研究……
   人間の土地を奪えばわざわざそんなことをする必要はない、というのが大半でな」

勇者「あ、なるほど。神様が止めに来てボッコボコにされたって知ったら攻めこむ気も萎えるな」

魔王「神が止めに来たというのが最大のポイントだな、負けても文句を言う者はいない
   おかげで好戦論者は黙りこみ、民は生活を良くするために攻める以外の方法を考えるようになった
   ……その点で言えば、神は必要なのだ」



勇者「そもそも、この腐毒ってなんだよ」

魔王「かつてこの世界では、人間でも魔人でもない、二人の力ある者の争いがあったという」

魔王「負けた方は死の間際、この世界を永遠の呪いに沈めんと自らの身体を腐毒の沼に変えた
   腐毒の沼は水に混じり大地溶かし空を汚し、多くの生命が息絶えたという」

勇者「また迷惑な」

魔王「そこで勝った方は腐毒に汚れた空気や大地、水を集め風を操り魔境を作った
   そして、人間と動物に腐毒を取り去った清浄なる大地を与え、我ら魔人と魔獣を魔境へ押し込めた」

魔王「我々の言う神とは宗教の対象とか抽象的な存在ではない、それを行ったものを神と呼ぶのだ
   その打倒こそ、歴代魔王の絶対使命だった」

勇者「……恨んでるのか?」

魔王「いや、魔人の思いは憧れと挑戦が強い
   我らが祖先たちは、神に挑むため様々な手段を……!?」

勇者「?」



魔境中央都


クラーケン「王都……魔境にあってここは美しい」

氷「さようでございますね」

クラーケン「……(これも奴の力か……)」



・・・・・


勇者「ふと思ったんだけどさ、奴の力と書いて努めるだよな」

魔王「唐突になんだ」


・・・・・

クラーケン「……」

氷「? なにか気になるところでも?」

クラーケン「いや」

覆面の男「…………」

クラーケン「遅れずついてこい」

覆面の男「了解」

火「侵入者だと!?」

部下「はっ!
   城の見張りが氷漬けで見つかりました!」

水「氷漬け……まさか、あの女か!」

地「よくこの城に顔を出せたものだ、四天王崩れが」

氷「久しいな白鋼将軍、いや、地の四天王!」

氷が空をひとなですると、そこから生まれた結晶は肥大化、鋭い切っ先を備え放射状に広がった!

氷「かかれ!」ビュン!

地「ふん!」バキガキン! パラパラ……

地の体にぶつかった氷の槍は、当たると共に白粉と化しあたりに舞い散った

氷「!」

地「わが体は魔王様自ら鍛え上げられた鍛造オリハルコンにより造り直されている!
  砕けるのは神か、魔王様のみよ!」ドォン!

爆発と聞き間違う轟音を伴った踏み込み、次の瞬間には上なぎの拳により氷の肩は赤い血飛沫を上げた

氷「(高速回転する、拳だと! とっさに作った氷の壁を破壊し、肉をえぐるとは……!)」

地「忘れたか、お前より私のほうがはるかに強い」

氷「……」ニヤ

ガシ!

地「!?」

クラーケン「久しいな、地の四天王」

地「クラーケン!? しまっ……」

地の右腕をとっていたクラーケンは、開いた手を地の肩に乗せると無造作に押し込んだ

バキン!

地「!」

意外なほど軽い音を立て、地の右腕はへし折れ千切れ落ちた

火「炎よ!」

ゴウ!

クラーケン「!」

氷「味方ごと焼き払うとは!」

地「ち……氷がいながら貴様を警戒しなかったのは致命的だったな……」(炎に気を取られた隙に脱出した

火「……その腕、回復魔法が効かんのだったな」

地「この体は回復含め一切の魔法を受け付けん……それが強みだったのだが」

火「下がっていろ」

風「ま、魔王様!?」

水「違う! 奴はクラーケン……魔王様の愚兄だ!」

風「あ、兄!?」

火「そして、かつて魔王様に反乱を起こした男でもある」

風「は、反乱!?」

水「さっきからオウムか貴様!」

風「俺の世代の話じゃねーんだよ!」

風「魔王様の兄弟……噂には聞いてたが……」

クラーケン「……」

風「話通り、見分けがつかねえな」

水「馬鹿者が。魔王様の第二形態はドラゴンの後ろ二本角、奴は一角クラーケンの額一本角であろうが」

風「俺は魔王様の第二形態を見たことがないんだよ」

水「……」(自分も話に聞いただけで見たことが無いとは言えない)

氷「久しぶりだな、水
  私の尻拭いで昇格が遅れるかと思ったが、無事四天王に上り詰めたらしい」

水「貴様……!」

氷「ふふ、祝の言葉でもかけてやろうか?」

水「」ギリギリ……

火「挑発に乗るなよ」

水「わかっています!」

クラーケン「魔王はどうした、姿が見えんな」

火「(この男も、ここ最近の時間停止を感じていたのか……? 目的はなんだ?)
  魔王様が出るまでもない、いかに貴様とて、我々四天王と魔王城の総兵を相手にすれば命はないぞ?」

クラーケン「どうかな?」

覆面の男「」スッ……

火「……一人増えたからなんだというのだ」

バサ!(覆面を取り去った)

魔王?「……」

水「!」

風「後ろ二本角……魔王様!?」

火「……!」

クラーケン「(この反応……やはり奴の身に何かあったか?)」

火「魔王……いや、違う!」

地「クラーケン、まさか貴様は!」

魔王「魔造胎宮……復元していたか」





クラーケン「!」

氷「!」

地「!」

火「!」

水「!」

風「魔王様!」


すこし前


魔王「! 気配が、2つ!!?」

勇者「なんだよさっきから……」

魔王「これ以上まごまごしてはいられんか……
   瞬間移動で一気に魔王城へ行く!」

勇者「そんなことできたのか」

魔王「……」

勇者「……」

魔王「定員一名」

勇者「え」







勇者「……」

勇者「あの野郎置いて行きやがった!!」



魔王「次会うときには魔境と共に歩む道を選んでくれると思っていたが」

クラーケン「ともに歩む? 貴様が魔境を変えたのだろうが」

魔王「クラーケン、あの時も言ったはず。数千年前とは時代が違うのだと」

クラーケン「その数千年の間に、どれほどの兄弟が犠牲になったと思っている?
      我らが使命、我らが役目、私は必ず果たす
      さあ行け!」

「了解」

魔王「まて、クラーケ……!」

「」ズン!

魔王「」グハ!

みぞおちにえぐりこむような拳!

火「魔王!?」

さらにそこから後頭部へ突きささるようなカカト回し蹴り!

魔王「」バタン!

風「えええええ!?」

水「な、何故変身なさらないのだ!? ってクラーケンと氷いなくなってるし!」

地「そんなことはどうでもいい! 魔王様をお守りしろ!」ガキャン!(折れた腕を無理やりねじり込んだ

火「クソ、さすがに強い……!」

ワーギャー!

。。。。。。。。。


クラーケン「魔王!」

魔王「どうした、クラーケン」

クラーケン「魔造胎宮の破棄とは、本気か!?」

魔王「そうだ」

クラーケン「ふざけたことを!
      数百代と続く魔王の歴史を侮辱するつもりか!?」

魔王「それだけではない、『魔王』は私で終わりだ」

クラーケン「! 狂ったか!?」

魔王「我々こそ狂気の沙汰だ、ながらく続いたこの神話、私がすべて終わらせる」

クラーケン「……」第二形態

魔王「……」第二形態

ガキン!







クラーケン「殺せ……この腑抜けめが!」

魔王「クラーケンを連行しろ」

部下「は……はっ!」

クラーケン「ふざけるな! 私は……私は諦めんぞ!」

この日の後、魔王は次々と命令を送った
奴隷化した魔族の開放、所有地の軍有化など、それまでの権力者の力を大きくそぎ落とすものだった




クラーケン「ヤツは魔王にあらず!
      神への挑戦と我らが歴史を貶める者に、我ら自身の手で裁きを下すのだ!」

有力魔族「現魔王の横暴に屈するな! 我らの力を示せ!」

オオオオオオオオオ



火「……クラーケンを逃したそうだな」

魔王「ああ」

火「他の四天王も動揺しているぞ、クラーケンは魔王軍において古株、人望も高い」

魔王「その人望こそ、敵として欲しかったものだ
   古き者達には、さぞ美しい灯火に映るだろうからな」

火「……」

魔王「(領土割譲の上での政治の連邦方式化、人間界との人材交流、腐毒管理地、農業地仕分け……
   クラーケンはいわば敵を集める誘蛾灯、あの戦いで、すべての不安要素である旧支配層は皆殺しにした)」
   
地「魔王様、本当に行かれるのですか?」

風「魔境の変革は未だ完全ではありません、あなたを欠いては……」

魔王「そう弱気になるな
   お前たちであれば心配は無いし、私も死ぬと決まったわけではない」

水「……では、凍結大樹までの氷雪の大地、この水がご案内いたします」

火「私も、大樹の根までは付き添わせてもらうぞ」

魔王「うむ」

魔王「(……後は、私が神を殺せば全ては終わる
   神を殺した私も消えることで、この神語を終わらせるとしよう)」




。。。。。。。。。

魔王「はっ! こ、ここは!」

地「魔王様、よくぞご無事で!」

火「まったく、お前らしくない……」




魔王「……そうか、そういえばケリを受けて倒れて……あの男は?」

火「始末した」

魔王「そう、か」

火「恐るべき力だ、四天王が揃っていたからさほど大きな被害はなかったが……」

地「……腕を破壊され……魔王様に賜ったものを、申し訳ございません」

魔王「ははは、きにする……」

魔王「……………」

火「?」

地「?」

魔王「しまった!」

瞬間移動!

勇者「あの馬鹿大魔人! 次会ったら道中で見つけた妙に毒々しい色したクワガタ虫の角鼻にねじりこんでやるぅ!」

見知らぬ土地に置いてきぼりを食らってかなり心細い

クワガタ「」ワシャワシャ!

勇者「おらもっと力強くはさまんかい!」ミシミシ!(握りつぶそうとしている

クワガタ「」ワシャワシャワシャワシャ!!





魔王「(かなり出にくい!)」(木の影に隠れている



氷「B−24は魔王に勝てるでしょうか」テクテク

クラーケン「無理だろう。奴が時間停止を使った様子もない、そこまで追い詰めることも出来なかったらしい」テクテク

氷「……!」

クラーケン「?」

勇者「?」





魔王「!」





魔王「(いかん! あいつら足速いな……!
   く、勇者を掴んで大急ぎで瞬間移動すれば逃れられるか……?)」


クラーケン「人間? 盗掘者か?」

勇者「…………」ジッ……

クラーケン「……?」

勇者「……」

勇者「昆虫採集です!」

クワガタ「」ワシャワシャ!

クラーケン「そうか」






クラーケン「密入国の人間はもれなく顔に焼印だから早く帰ることだな」

勇者「はいどうも!」スタスタ

魔王「(ふ、ふう、肝が冷えた……
   間違って魔王とでも呼んで知り合いとバレたらどうなったか……)」

勇者「」

クワガタ「」ワシャワシャ!

魔王「!!!」

魔王「・・・・・・というわけだ」

勇者「ふーん」

クワガタ「」ワシャワシャ!

魔王「構えるな! そいつは毒を持っているんだぞ!」

勇者「死にゃしないだろ」

魔王「苦しむわ!」

勇者「ちょうどいい」


魔王「しかし、お前とクラーケンが鉢合わせするとは」

勇者「やっぱ知り合いだったんだな、悪い方の」

魔王「まあ、細かいことは魔王城で話す。瞬間移動で一気に行くぞ」

勇者「え? 一人しか移動できないんじゃなかったのか?」

魔王「」

勇者「つまり定員一名ってのは嘘だったってことか?」

魔王「え、いや……」

勇者「それに半日以上こんな所に置いて行きやがって……」

魔王「ええい、魔境のことに巻き込みたくないという私のアレが」

クワガタ「」ワシャワシャ!

魔王「ちょっと! ねえ! 足! 足が顔に擦れて痒い!」





間。





魔王「こちらが私が人間界でとてもお世話になった方の子供、勇者!」

勇者「ども」

魔王「こっちが我が魔王軍が誇る四天王!」

四天王「どうも」

ツンツン

勇者「?」

羊「メェェ」

勇者「ふーん、魔境にも羊がいるんだ(城の中で放し飼いするのはどうかと思う)」ナデナデ

地「人間界では珍しくないのか?」

勇者「僕の家羊農家だから」

水「ほう
  御本家から見てどうだ?」

勇者「とっても健康的で人になついてる、育て方がいいんだね」

土「そうだろう!」

勇者「肉付きもいいし、硬くなってくる歳だからはやくシメちゃったほうが」

水「!」

土「!」

羊「!」

勇者「……何?」



火「お前が生きていたのは嬉しいが、クラーケンや氷まで生きていたとは」

魔王「クラーケンは私の兄、心臓を潰した程度では死にようがないさ」

火「(……やはり、わざと生かしたのか……?)」

魔王「あの二人だけでは魔造胎宮を復元できまい
   背後に何らかの組織があるはず」

風「それについてですが、辺境の魔人軍ではないかと」

魔王「おそらくはな
   あの二人が身を寄せられるのはそこくらいしかあるまい」



魔王「さて、ちょっと行ってくる」

地「どちらへ?」

魔王「魔王墓所だ、兄弟を弔いたい」

勇者「兄弟?」



勇者「う、うわ……」

地「形は整えて防腐処理を施しましたが」

魔王「うむ」





勇者「(キッツいな……体の節々の骨とか明らかに折れてるし、コイツの顔そっくりってのが……)
   さっきのクラーケンってのもそうだったけど、お前ら3つ子か何か?」

魔王「我らが安息の地、魔王墓所に行けばわかる」

勇者「そんなとこ、僕が行っていいのか?」

魔王「何をいまさら遠慮する?
   お前を魔境に連れてきた理由の一つ、我が友として、見せておきたいものがあるからだ」




地「お供いたします」

魔王「頼む」

魔王墓所

魔王「うむ、綺麗綺麗」

地「魔王様ご不在の後も、お盆には門の掃除を」

魔王「ご苦労、我が兄弟の御霊も喜ぶ」

勇者「瞬間移動で来たけど、城から結構離れてるのか?」

魔王「ああ、あっちは移転した新王都、こっちは旧王都
   結構な距離があるな」

勇者「割と小さいな」

魔王「ほとんどのスペースが地下だからな」ペタリ

魔王が手を触れると、扉は溶けるように消えた

魔王「地、ここで待っていてくれるか?」

地「はっ!」



勇者「……中はホコリがすごいな」テクテク

魔王「あの扉は私にしか開けられないからな、後で大掃除だ」テクテク

魔王「ここだ」

勇者「!」

見渡すかぎりのガラス管、その中には、成人、子供、老人、胎児まで
すべてに共通しているのは、全く同じ顔つきをしていること

勇者「なんか、お墓って感じじゃないな……
   一目でお前の家族ってわかるけど」

魔王「墓じゃない、か
   では、どんな感じがする?」

勇者「…………図書館?」

魔王「言い得ているな、同じ静謐でも大違いだ……死者にはどちらがいいのかはわからんが」

魔王「ここにいるのは、すべて私の兄弟だ」

魔王「かつて、我らの祖先は神を超えるために様々な手段を講じた
   だが、修行や魔法、肉体には限界があった。強いといっても種族から頭ひとつふたつ抜ける程度、神にはかなわん
   そこで考えられたのが、力ある魔人や魔獣の異種交配による新たな魔人の創造
   それを可能とするのが、魔造胎宮なのだ」

勇者「……それこそ、神の所業なんじゃないの?」

魔王「そうかもしれんな」

勇者「」マジマジ

魔王「もう察しがついただろうが、私もそのうちの一人
   本来の名はエンシェントドラゴン・A・18、始祖竜の化石から得た情報をベースとし生まれた18番目の魔人だ」

勇者「さっきのクラーケンとか言う奴は?」

魔王「ホーンドクラーケン・F・76、一角クラーケンベースF期76番目だ」


勇者「こいつらも神に挑んで死んだのか?」

魔王「いや、彼らは生まれることなく死んだ」

勇者「へ?」

魔王「彼らは実験体。異種生物の組み合わせで成長に異常はないか、本当に戦闘に役立つ特徴を得るか、それを調べるためだけに生まれた。
   意志も持ち合わせず人造胎の中で息絶え、死後は資料としてここに眠る」

勇者「た、ためだけって……」

魔王「外に出られるナンバーはランダムに選ばれ、戦闘データ回収のため魔王軍兵士としての任につく
   魔王とは、その中でも最強のものに与えられる名前、神に挑む者を意味するのだ」

勇者「……おまえも、こうなってたかもしれないってことか?」

魔王「いや、私は私だ」

勇者「え?」

魔王「同じ能力と同じ容姿を持つ者が同じ経験を積む、それはつまり同じ者だろう?
   たとえ私ではない3番や40番が選ばれても、ここにいるのはつまり私だ」

勇者「……それは、違うだろ」

魔王「そうか?」

勇者「僕はお前じゃなきゃ嫌だ」

勇者「……まあ、つまり。

   あいつがクラーケンって呼ばれてるってことは

   お前ドラゴンって名前なのか?」

魔王「」

魔王「あの様子だと、ヤツは我が兄弟……魔王の軍団でも作ろうとしているらしい
   いや、ヤツ自身というより奴の背後にいる組織か」

勇者「そうかドラゴン」

魔王「……」

勇者「ドラゴン?」

魔王「……皆私のことは18と呼んでいた」

勇者「じゃあ18」

魔王「マ・オ・ウ・だ! 467代を襲名した時に以前の名前は捨てたわ!」

勇者「(……なんで怒るんだよ……)」

魔王「くそ、生き物としてはカッコイイが人名としては響きが悪すぎる……!」

勇者「(もしかしてコイツ、名前が嫌で魔王になったのか……?)」


墓所外

地「……貴様」

???「久し振りだね」

地「クラーケンの背後にいるのは貴様だったか」

???「私の作ってやった体の調子はどうだい?」

地「以前のクズ鉄と同列に扱うな!」ギュン!

魔王造魔「」パシ!

地「ち……まさか狙っていたのか?」

???「あの男もなかなかセンチだ。たとえ敵であっても、同じ物であればここに持ってくると思っていた」

地「この中には一歩たりと進ませはせん!」

地「魔王様ご本人やクラーケンであればいざ知らず、ロクに実践経験のない兵士に私が負けるか!」

???「一人なら、そうだろう」

魔王造魔B「……」

地「何!」


魔王「他人に植え付けられた意志ではあっても、お前は一時、自由に生きた
   せめてそのことに喜びを感じてくれ」ポンポン

勇者「……」

カラン!

勇者「? プレート?」

魔王「……A・18」

???「キミの墓標になるはずだったものだよ」

魔王造魔「」

魔王造魔B「」


勇者「」スチャ

魔王「クラーケンが生きているのはそう不思議ではなかったが……
   お前はキッチリと頭を吹き飛ばしてやったはずだが?」

???「ふふ、キミが殺したのは私の偽物だよ
    同じ容姿の人間など簡単に作れる」

魔王「……魔造胎宮の技術を自らのために使うとはな、クラーケンも辺境の仲間、といったところか」

???「彼らは私に、実にのびのびと研究をさせてくれる
    もっと早くつくべきだった」

魔王「(やはり辺境軍か……)」



魔王「時間停止!」

ピタッ!

魔王造魔「……」スッ

魔王「!」

???「時間停止になんの対策を練っていないとでも?
    こちらから時間を止めることはできないが、キミの止めた時間の中を動くまでなら十分可能だ!」

魔王「(しまった! このままでは魔力消耗が大きすぎる、解除……)」

ズム!

魔王「」ガク

時間が動き出す

勇者「!? 魔お」ドス!

勇者「」ガク

「82、そのまま魔王を回収し吸魔寄生虫を飲ませろ、その後魔境外のクラーケンと合流」

魔王造魔「了解」

「62は私と来い、探しものがある」

魔王造魔B「了解」


火「魔王が捕まった!?」

水「誰に!」

風「どうやって!」

地「……私もどうやってかはわからん、だが、一人は魔造胎宮の……‥魔王様の研究者だった」

火「!」


水「研究者?」

地「魔王様が人造生命だということは知っているだろう、その研究を行なっていた者たちだ」

火「魔王様が魔造胎宮を破棄する際、別の方面の研究に移ったものが多いのだが……
  研究を続けたいと思っていたものもいた」

地「ヤツはその中でも筋金入りだ。破棄を止めるため魔王様の偽物を作り成り代わらせようとして、魔王様に殺された……はずだった」

風「……命知らずというかなんというか……」

火「奴らが辺境国に属しているのは、間違いないのか?」

地「ああ、勇者殿が言うには、それとなく魔王様が問いただしていたそうだ」



風「魔王様の軍隊? 恐ろしい話だが、気の長い……」

地「いや、魔造胎宮での育成時のみの話らしいが、成長を促進し簡単な知識を埋め込むことはできる」

火「魔王様がそうだったからな
  当時の幹部クラスが3人も同時に亡くなった時、急遽実験体から選ばれた」

勇者「(運が良かったんだな、あいつ)」



水「辺境に落ちぶれた魔人共が……この一件、我が水剣魔団に任せてもらおう!」

風「落ち着けよ」

水「氷は元々我が種族より出た裏切り者、我等の手で血祭りに上げ汚名を燻蒸してくれる!」



風「辺境は人間界の向こう側、魔人の軍団を送り込むことはできねぇ」

水「なんだと! 貴様、魔王様が捕まったのだぞ!?」

地「…………私も、心情としては一刻もはやく我が軍団を率いて辺境に向かいたいところだ
  だが……」

風「今、人間界とはようやく交渉の取っ掛かりができてきたところ、大軍で持って刺激すれば、今まで以上に講和は遠のく」

地「人間界との交流は魔王様の望みでもあった、人間を滅ぼし土地を得るより、知識を吸収すべきだとな
  奴らを根絶やしにするのならばまだ良い、だが魔王様救出のためだけに我らが軍を動かすのは魔王様自身が望むまい」

水「く……」

火「酷なことを言うようだが、魔王様は神に挑むときすでに死を覚悟していた
  そして、我々もここ10年はそうやって魔境を動かしてきた」



勇者「(割とドライだな)」


水「しかし、ほうっておくわけには!」

地「当然だ、この責任全てこの地の四天王の不始末
  私単独で辺境に向かい、魔王様を救出するまでよ!」

火「待て! お前の所領は元々異種族ひしめく不安定帯、不在となるのはまずかろう、ここは私が向かう!」

風「人間界との交渉はこの風が多くを任されている、ならば私が行くのが筋というもの!」

水「不始末で言えば裏切り者氷を出した私の落ち度でもある! 私が行くぞ!」



勇者「(全員で行きゃいいんじゃないかな、この際)」




話し合いの結果、火と風の四天王が向かうことになった

風「しかし魔王様が生きておられたとは、未だ実感がわかねぇな」

勇者「歴代魔王は全員神に挑んで死んだって聞いたけど」

火「現魔王は特別だ、一度神と相対し生き残った」

勇者「昔の魔王ってどんなだったの?」

火「勇猛果敢、冷徹従順、理想の兵士の鏡だったな、死を恐れぬ最強の戦士
  それでありながら魔境の先を見据えていた、側にいて恐ろしいほどに
  兄のクラーケンを置いて魔王を襲名した時も、異論を挟む者はいなかった」

勇者「ふうん……」

風「俺はここ10年の魔王様のほうが気になるね、人間界じゃどんな生活をしていたんだ?」

勇者「僕に剣教えてくれたり、農業手伝ったり……一番の働き者だったなぁ」

風「へえ、一度人間界で暮らしてみたいって言ってたからな、ゆっくりされてたのかね」

勇者「(弱体化してるのは黙ってたほうがいいかな……あれで結構気にしてるし)」

火「我々のことを何か話すことはなかったか?」

勇者「んーと……城をダンジョンにしようとしたら止められたってくらいかな」

火「……そうか」

風「ま、宿とか人間界の常識とかは頼む
  俺は人間界の交渉を任されているが、歩きで長期間の旅なんてしたことないからな」

勇者「了解了解」





氷「信用できるのか、あの人間」

土「本当にただの一般人だろう、それにあれで10年といえば、人間では物心あやふやな頃からの付き合いのはず
  魔王様に敵意を持つ理由もあるまい」



勇者「いまさらだけどさ、辺境の魔人ってどうゆうことなの?」

風「ああ、迷惑な連中さ
  ずっとむかし、魔境では多くの勢力がひしめき合っていた
  血で血を洗う戦争、そんな中、魔境の覇権争いから弾かれた弱小勢力の末裔」

火「なにせ昔の話、私も聞いただけだが……
  魔境では有力種がいるからとても勝てない、だが脆弱な人間が相手なら、と考えたのだろうな
  何故自分たちよりはるかに強い種族たちが人間界に攻め入ろうとしないか、少し考えれば分かりそうなものだが」

風「魔境とは勝手が違う人間界では計画も失敗、荒廃した大地に追い詰められて、今じゃそこに魔王国って辺境の国を築いてる……が、
  こいつらがまたよう、人間界にちょっかい出してやがるんだ!
  現王の人間界侵略をまだ諦めてないっていうアピールなんだろうが、人間は魔族ひとくくりで考えるだろ!
  あいつらが起こした事件の詳細とか、俺に見せてどーすんだって話だ!」

勇者「(大変だな)」


辺境


魔王「魔力を奪う寄生虫か……厄介なものを腹に入れてくれたな」

クラーケン「……お前ほどの魔王が何故……」

魔王「まあ……いろいろあってな……」

氷「……」



研究者「魔王様、魔境の王を何故生かしたままに?
    魔境に敵対感情を持つ民は多い、民の前で処刑すれば士気も……」

辺境の魔王「魔王とは魔境において最強の称号だ
      我々の生み出した『魔王』がヤツを魔境の民の前で殺す
      魔王という絶対の存在を崩されれば、現行政権にとってはかなりのダメージになるはずだ」

研究者「なるほど」

辺境の魔王「量産体制は?」

研究者「一日に5体は同時に生み出せます
    あとはベースとなる試作型が完成すれば」

辺境の魔王「そうか……ふふ、我が勇猛なる先代たちよ、地上の全てはもうじき我らのものとなる……」



研究者「魔王様、魔境の王を何故生かしたままに?
    魔境に敵対感情を持つ民は多い、民の前で処刑すれば士気も……」

辺境の魔王「魔王とは魔境において最強の称号だ
      我々の生み出した『魔王』がヤツを魔境の民の前で殺す
      魔王という絶対の存在を崩されれば、現行政権にとってはかなりのダメージになるはずだ」

研究者「なるほど」

辺境の魔王「量産体制は?」

研究者「一日に5体は同時に生み出せます
    あとはベースとなる試作型が完成すれば」

辺境の魔王「そうか……ふふ、我が勇猛なる先代たちよ、地上の全てはもうじき我らのものとなる……」



氷「よろしいのですか」

クラーケン「止むを得まい、私一人では新たな魔王を生み出すことはできん」

氷「……しかし、これではただの戦争の道具……」

クラーケン「言うな……たとえどれだけの兄弟が道具に落ち果てようと、神への挑戦を止めるわけにはいかんのだ」

魔王「(人間界への進軍は、元々神の動向を見るためのものだった
   人間に過保護であれば、魔境の障害となるのであれば、なんとしても殺さなければならない)」

魔王「(そして……)」







魔王「」ゴロゴロ

魔王「……」ゴロゴロ

魔王「……」

魔王「…………ニャー」

魔王「……」(ツッコミ待ち

当然何も起こらない

魔王「(暇だ……3日もゴロゴロしているだけではないか……)」

敵地の牢でも瞬時にリラックスできるのが魔王たる所以であろう

魔王「(腹に寄生虫がいる限り回復も進まんし……)」ググッ

コツコツコツ

魔王「!」バッ(伸びをする猫のような格好から慌てて起き上がった

氷「出ろ、魔王」

魔王「? どうした」

氷「「弟」のテストをしたいそうだ……お前を相手に」

魔王「弟、か……何故クラーケンは黙っている?
  いかに対神のためであっても、奴にとっても弟をこんなことに使われるのはハラワタ煮えやらぬ思いだろう」

氷「黙れ……黙ってくれ……」

魔王「……ふむ」

魔王「クラーケンへメッセージを伝えてほしい」

氷「……なんだ」

魔王「神は私が殺した」

氷「!?」

魔王「恐ろしいダメージを負い、未だ後遺症抜けきらんがな」

氷「ば、馬鹿な! 神を……」

魔王「黙っていろ……伝えるのはクラーケンにだけだ」

氷「そ、そうか、あの時間停止は……!
  神との戦い、数ヶ月にも及んだのか……」

魔王「え?」

魔王「(数ヶ月…………???)」

魔王「・・・・・・・・・・・・・・・」

魔王「ああいやアレは全く関係ない
   私が挑んだのは10年前だし神は時が止まっても普通に動けたし……」

研究者「いつまでかかっているのですか!?
    こちらはすでに準備出来ているのですよ!」

魔王「うむ、わかった! ……ほれさっさと連れて行け」

氷「……」





辺境兵士「ま、魔王様! 突如我らが領付近に敵軍が現れました! その数、数万!」

辺境の魔王「何!? 人間が攻め入ってきたか……?」

辺境兵士「いえ、強力な魔力が確認されました! おそらく、魔人ではないかと……」

辺境の魔王「馬鹿な、魔境の魔王軍を率いれば、ここに来るどころか途中の人間の国が黙っては……」

火「亡者たちよ、我が火を受け生命を取り戻せ……溶けた土が新たな体、胸の炎が新たな魂」

土くれゾンビ「オォォ……」

火「辺境の魔人ども、我らが神たる魔王に手を出すなら容赦はない
  さあ、暖かな肉を食い血を啜れ! 奴らを皆殺しにせよ!」





風「一人万軍、火の四天王の妖火軍団……相変わらず凄まじい魔力だぜ……」

勇者「(怖ぇ……)」

風「まあ、いっそ全滅させてくれれば助かる
  連中が人間にちょっかい出すせいで交渉がしにくいのなんのって」





氷「クラーケン様!」

クラーケン「? 何用だ、私はこれから敵軍迎撃に……」

氷「……」

クラーケン「どうした」

氷「先程、魔王から話を……神を殺したと」

クラーケン「!?」

クラーケン「ば、馬鹿な! 奴が!?
      ……そうか、あの時間停止は……」

氷「あ、いえ、それは関係ないと……」

氷「クラーケン様もお分かりと思いますが、魔王が神に関することでそのような嘘をつくとは思えません」

クラーケン「それでは……私のやっていたことは、何なのだ……」

氷「……申し訳ありません、私があの時……」

クラーケン「…………もはや私は辺境軍から離れられん……私に何かあったら魔王を頼れ、悪いようにはすまい」

氷「そんな!」

クラーケン「では、な」




辺境兵「ぐああ!」

辺境兵「落ち着いて対処しろ! 一体一体は非力だ!」

辺境兵ゾンビ「オオオ……」

辺境兵「!? こ、こいつら……」

辺境兵「死んだ味方は燃やせ! 味方と判別がつきにくい分土のゾンビより厄介だ!」

辺境兵「同士討ちに気をつけろ!」

辺境兵「気を付けろといっても……!」

クラーケン「……かつては数体のゾンビを操るだけだったものが、ここまで伸びるとは」第三形態!

巨大な赤い一本ツノ、竜の鱗のガードの上を一角クラーケンの特徴でもある太く強靭な体毛が覆い隠し、
両手両足の他に鋭い剣を持つ6本の触腕を備えた竜の翼を持つ巨体の威容!



火「出たか、クラーケン」



風「んじゃ、俺らも行くか……氷が出てくるまで待ちたいとこではあるけど」

勇者「一人に任せて大丈夫なのか?」

風「火の四天王は魔王軍の中でもかなりの古参、陽動の戦い方は心得てるさ」




勇者「魔王のそっくりさんがうじゃうじゃいたりして」

風「(それが一番怖い……)」


研究者「全く、あなたはどんな鍛え方をしたのですか?
    第一形態時でさえ実験最初期型であるA列のデータ予測値をはるかに超えている」

魔王「予測が甘かっただけだろうな」

研究者「……」

研究者「ふふ、見なさい」

魔王造魔「……」




研究者「右からエンシェントドラゴンD−82、K−62、M−40、あなたより優れた弟達」

魔王「……」


研究者「嬉しいでしょう? あなたのデータも生かされているのですよ!!」




魔王「寄生虫をつけたまま戦えと?」

研究者「ふふ……あなたに反抗されると厄介ですから」

魔王「(やれやれ、研究と言う名の私刑というわけか)」

研究者「ではまずD−32、行きなさい!」



D-32「」ビュン!

魔王「」ヒョイ

D-32「」ダン!

魔王「」サッ




研究者「馬鹿な、スピードははるかにD-32のほうが……」

魔王「ふん、所詮戦闘経験は無い
   ただ大振り小振りを織り交ぜるしかできんようではな」

(でもそれに2回も負けたんだよな?)

魔王「! な、なんか幻聴が!?」


研究者「かまいません、全員で……」

魔王「」第二形態!

研究者「なけなしの魔力ではそうもちませんよ!」

魔王「用があるのはこれだ」バキ!

研究者「! 自分のツノを折った!?」

魔王「はああああ!」ゴウ!

ツノを剣に見立てた魔剣技

研究者「馬鹿な、そんな魔力……」

魔王「あいにく、この技には魔力は必要ない」

研究者「……だが、その程度の火で何ができるというのですか!」

魔王「ふん、こうだ!」

魔王が燃え上がるツノを腹に当てると、不自然な脈動を始めた

研究者「!(寄生虫を焼き殺すつもりか!)」

研究者「お前たち、さっさとかかれ!」

魔王「命令が遅すぎるわ」ガシ!

D-32「!」

魔王「ズズズ……」

魔力吸収!

D-32「」バッ!

魔王「逃げられたか……回復量10%、まあ十分だ
   全員合わせれば、完全回復できるだろう」

研究者「奴の動きを止めろ! 再び寄生虫を……」

研究者「!」

瞬間移動で急接近の後、頭部をなでるような、緩やかにも見える動き
柔らかなゼリーをすくうように、研究者の頭はこそげ落ちた

魔王「ふん、我が弟たちを玩具にした罪、あの世で精算しろ」ピッ(手についた脳漿を振り払った

造魔「……」ジリッ

魔王「……作られた意志でも、お前たちは外に出て動けた
   せめてそのことに喜びを感じながら、死んでくれ」




研究者「ば、馬鹿な、私は死んだはず……」

魔王「うむ、ちゃんと本物らしい」

研究者「!」

魔王「では死に直すがいい」

ボン!

魔王「……」

魔王「(……我が弟たちを強く生むならまだ生かしてやったものを……
   この体、生き返らせても1年ともたん、とんだガラクタだ)」ナデナデ

魔王「すまんな、死者に鞭打つことはしたくないが、私も余裕が無い……お前たちの魔力すべてもらうぞ」






魔王「……5人で魔力体力100%、さすがに桁外れだな」

魔王「(さて、どこからどこまでが研究施設なのかわからんことだ。すべてをケシズミにしてくれる)」第三形態!

後ろ二本角は後頭部を覆い余るほど巨大化、竜の特徴である鱗と翼に加え、ハルピュイアの柔軟な羽根と翼も鎧として併せ持つ。
壁床天井をコナゴナに破壊しながら、竜を基本とした二対四翼の巨大な魔獣へと変貌した

魔王「おっと、お前たちまで焼くわけにはいかん」ガシ!

造魔「」

バサ!(飛翔

火「! 魔王!」

クラーケン「!」



勇者「あれって魔王の第三形態!? 前見たのとは似てるけど迫力が違う!」

風「話以上だな……まさに魔境の王!」

魔王「スゥゥ……」

魔王「」ファイアブレス!

ゴウ!

土も蒸発する超炎熱!
周囲は一瞬にして焼失、巨大なスプーンにでもえぐり取られたような大地はグツグツとあぶくを立て煮えたぎった!

魔王「こんなものかな」






勇者「……」

風「」

勇者「僕ら何しにきたんだっけ?」

風「え……いや……うん……なんだろ?」

クラーケン「魔王!」ドォン!

翼を使っての加速を伴った、超重量の体当たり

魔王「ぬう!」

倒れず、尾を支えとして態勢を保った

クラーケン「私と戦え!」

ガシィ!
至近距離での取っ組み合い、巨体のぶつかり合いはその衝撃で周囲の瓦礫が飛び上がるほど

魔王「……(クラーケン、氷から聞いていないのか! 神は私が殺した! お前のやっていることは無意味だと何故わからん!)」

クラーケン「……(ならば私をその手で殺せ!)」

魔王「ええいこのわからずやめが!」ザク!

魔王の竜の爪の一撃はクラーケンの表皮を破り、肩に大きなキズをつけた

魔王「! 出血が、無い!?」

クラーケン「殺せ、私を……」


氷「重傷を負い意識を失ったあの方を連れ、私は辺境軍を頼った……
  だが、辺境の王はクラーケン様にあろうことか止めを刺し、アンデッドとして蘇らせたのだ……」

火「……アンデッドは主に絶対服従
  ち、一目で気付けないとは、妖火将軍の名が廃る」


クラーケン「(これでわかったろう! 神の打倒という我らが悲願が果たされた今、私は醜い傀儡にすぎんのだ!)」

魔王に襲いかかる6本の剣肢、しかし魔王は尾と羽ですべてを打ち払った

魔王「私にお前を殺させるな! 今日は弟を殺しすぎた、兄まで殺させるつもりか!」

クラーケン「何をためらう、私はすでに死人だ!」

魔王「ええい昔から頭の固い!」バシン!

尾の強烈な一撃!

魔王「凍れ、凍結魔法!」

クラーケン「!」ピキ!

魔王「私の魔法は氷とは比べ物にならんぞ! 10年20年、そうやって頭を冷やしていろ!」







魔王「」変身解除

魔王「全く……私の10倍以上生きながら幼稚な奴」ペンペン!





魔王「さて、この馬鹿騒ぎをさっさと終わらせよう」

辺境の魔王「我が魔王軍をよくもコケにしてくれたな」

魔王「それはこちらのセリフだな
   兵が可愛いなら今すぐ降伏することだ。この程度、火ならば一時間とかからず全滅させてしまうぞ」

辺境の魔王「ふん……頭の悪い男だ、兵などいくらでも生み出せる、今の兵よりも強靭で従順なものがな」

黒覆面「」

魔王「……五人か、一つ言っておこう、我が弟であっても敵として立てば私は一切容赦はせんし、
   あの程度であれば第二形態でも10人まとめて相手できる」

辺境の魔王「……ふふふ、何か勘違いしているらしい
      だれが魔王ごときの兵など作るものか」

魔王「……?」

黒覆面「」バッ!

魔王「!!! その顔は!」

辺境の魔王「さすがに顔色が悪くなったな! そう、神だ!」

辺境の魔王「ははははは! 魔王の軍隊!? 弱い弱い!
      我が兵は神! 神の軍団よ!」



神造魔「……」

辺境の魔王「あの研究者は言った、あの時、神が貴様の行軍を止めた時……
      お前はほんの少しだが、神に手傷を負わせたと!
      表向きは偽物を作ったなどということになっているが、本当は神の血を密かに盗もうとしたから殺されそうになったのだと!」

辺境の魔王「案の定、貴様は捨てることなく魔王墓所に神の血を隠していた……データを回収するには十分だったぞ!」

魔王「貴様……!」

辺境の魔王「さあ我が兵隊共、古き遺物など滅ぼしてしまえ!」






魔王「ク……(こいつら、生まれたばかりで神本人よりは劣るようだが……5人も同時に相手など!)」

勇者「忘れるなって、あのボロボロになった時と違って、僕がいるんだぞ」

魔王「! 勇者!」

勇者「危うく何しにきたのかわかんなくなるところだったよ」

クラーケン「神への冒涜……超えてはならん一線を超えたな」

辺境の魔王「く、クラーケン! 貴様、どういう……」

クラーケン「貴様につく意味などもう無い、どれほど砂をかもうとケリはつける」

魔王「……なるほど、一度アンデットとして死に制約を逃れ、再び火の魔力でアンデッドとなったか
   火と氷が協力すればお前を閉じ込めた氷柱も溶かせるだろうし」

辺境の魔王「ええい、たかが人間一人とゾンビ一匹、神の相手ではない!」

魔王「そういえば勇者、覚えているか?」

勇者「? 何?」

魔王「私が第二形態からもう2つ変身を残していると」

勇者「………そういや、そんなこと言ってたな」

魔王「」第四形態

魔王「辺境の王、死にゆくお前には教えてやろう、これが神を殺した私の姿だ」


・・・・・



勇者「意外と歯ごたえなかったな、いやめちゃくちゃ強かったけどさ」

魔王「おそらく埋め込まれた対多及び連携の戦略に関する知識がまだ未完成だったのだろう、私一人ならまずかったが
   それにしてもクラーケン、ようやく本領発揮といったところか」

クラーケン「流石は火、生前の私の能力そのままの体だ」

辺境の魔王「」(戦闘開始直後にクラーケンに引き裂かれた

勇者「しかしお前、いきなり爆弾発言するなよな」

魔王「? ……ああ、神のことか。他言無用で頼むぞ」

勇者「まあ、なんとなくそうじゃないかな、とは思ってたけど」

クラーケン「その女、ただの昆虫採集ではなかったということか」

勇者「いや、昆虫採集だ」

クワガタ「」グッタリ

魔王「もういいかげん逃がしてやれ」

魔王「そうだ、クラーケン」蘇生魔法

クラーケン「!」

クラーケン「……なんのつもりだ?」

魔王「完全に生き返らせてやったんだ、火の死霊術であれば解除できる
   ゾンビでは不都合が多かろ」

クラーケン「いらん……あのような生き恥を晒した今、この世からさっさと消えたい」

魔王「そう言うな。先代の魔王様亡き今、私にとっては唯一の家族なのだ」

クラーケン「……」

氷「クラーケン様!」タタタ

クラーケン「氷」

氷「ああ、元のお体に戻られたのですね! よかった……」

魔王「ではな。次会うときはともに歩んでくれることを願う」テクテク

クラーケン「氷、お前は魔王軍へと戻れ」

氷「な、なぜですか!」

クラーケン「魔王のこと、悪いようにはすまい」

氷「クラーケン様はどうするのですか!」

クラーケン「私は、凍結大樹を登ろうと思う 
      神がどうなったか、我らの魔王の戦いの歴史の終結を、この目で見たい」

氷「ならば、私もご一緒致します!」

クラーケン「今あるのはただ無気力な男だ、無理に付き添う必要はもうない」

氷「私は故郷を捨てました、私が仕えるはクラーケン様のお側のみです!」

クラーケン「……お前も物好きだな」




風「魔王様!」

魔王「ん? お前も来ていたのか
   火が来ているのには気づいていたが」

風「(ヒデェ……敵兵を収集して沈静化とかしてたのに……)」

・・・・・



魔王が魔境に戻り、その生存を祝うため、再び権威を示すため、魔境全土を巻き込んだ闘技大会が開かれていた



水「しかし、魔王様の考えはわからんな」

風「?」

水「人間の娘を参加させようとは」

風「そりゃ、未来の四天王として迎えるんだから当然だろ」

水「は?」

風「魔王様の政策上、人間との関係改善は命題だ
  幹部に人間を迎えるおつもりなんだろ
  そうすりゃ魔人たちも人間についてより身近に知ることができるようになる
  人間界と完全断交状態の魔境には必須事項だ
  わざわざ魔境に来てくれる他人なんていないだろうしな」

水「は、はぁ? 人間を四天王に迎えれば反発が……」

風「だからこの大会で実力を見せるんだろ。強けりゃ誰も文句は言わない
  ガキのころからマンツーマンで指導なさってたみたいだし、いいとこ行くと思うぜ」

水「に、人間がそこまで強くなるとは思えん!」

風「俺も反乱軍率いてるときは大したこと無かったけどよ、魔王様から鍛えられたら四天王の名に恥じないくらいになったからな」

水「何を落ち着いたことを!
  新たな四天王を迎えるとなれば、実力から言って私かお前が降格だぞ!?」

風「(聞いてて虚しくなる……)
  俺はもともと、反乱軍を率いていた統率力を魔王様に買われたんだ
  戦闘力は二の次なんだよ(言ってても虚しい……)」

水「で、では……!」

風「まあ補佐役っていう名目で統治自体は代わらないと思」

水「嫌だ降格など!!」





勇者「……だから参加しろとか言ったのか、あいつ?」

闘技場

準決勝

魔王「お前と手合わせするのはいつぶりだろうな」

風「……」

魔王「初めて戦った時は手を焼いたものだが……」





風「く、は……」

魔王「どうだ、我が軍につく気になったか?」

風「だ、誰が……」

メキ!

魔王「もう一度聞くぞ、我が軍に入る気になったか?」

風「ことわ」

グシャ!

地「魔王様、もう無駄では?」

魔王「そう言うな、あと一年粘れば気も変わるだろう」

風「(年!?)」



風「……」

特別席

水「風の顔色が悪いようですが」(4回戦で地に負けた

火「いろいろあるんだ」(3回戦で魔王に負けた

準決勝2回戦


地「まさか、ここまで勝ち上がってくるとは」

勇者「僕も意外だよ」

地「……ゆくぞ!」



水「どうした、魔王様が相手とはいえまるでなってなかったぞ」

風「……」


地「ぬうう……我が体を切るとは、恐るべき剣の冴え」

火「ふふ、神と魔王以外に負けなしの看板、降ろす時かもな」




水「しかしあの人間、たしかに強い……人間も鍛えればあれほどになるのか」

風「(今や人間に興味津々、他の魔族もそうだろう、魔王様の狙い通りだな)」

魔王「この大会、私の慰労にふさわしくありあまるものであったことを皆に感謝する!
   そして人間界からの来賓であり、この決勝戦にまで進んだ勇者に敬意を持った拍手を!」

魔王「ではこれより大会決勝……」

勇者「」チョイチョイ(アイコンタクト

魔王「」

勇者「」シャベラセロ(アイコンタクト

魔王「……」

勇者「」シアイバックレルゾ(アイコンタクト

魔王「……の前に、勇者から皆に向けての言葉がある!」

勇者「提案する! ここで勝った方が魔王の名を得ると!」

魔王「な、なんだと!?」

勇者「もともと、魔王は最強の称号! この戦いの勝者が名乗るのが当然だ!」

魔王「馬鹿な! 私から魔王の名を取ったら……」

勇者「ドラゴン」ニヤリ

魔王「」ゾッ!

地「私に勝ったくらいで魔王様に勝てると思ってか」

火「わからんぞ
  あの娘の使っている技は、魔王様が神との戦いに備え編み出した魔剣技
  しかし極めるには時間がかかりすぎると魔王様自身が投げ出したと聞く」

風「まあ、魔王様は剣より魔法のほうがずっと得意ですからね」

火「だが、勇者が魔王様以上に魔剣技を極めていれば……」

魔王「あっさり大会に参加したと思ったらこんなことを企んでいたのか!」

勇者「僕がいつまでもお前の敷いた道を歩くと思うなよ!」

魔王「時間を止めればそもそもお前は私に太刀打ちできん! 時間停止!」

勇者「時間を切り裂く魔剣技!」

時間停止は無効化された!

魔王「なにおう!?」

勇者「ククク……お前はどれだけ僕に手の内を見せたと思ってる?
   時間停止、空間伸縮、瞬間移動、加速、剛力、常時回復、そして!」

第四形態!

魔王「え!? それって生物的なアレだぞ!」

勇者「お前にできることはそれ以上の威力の魔剣技で再現できる!」

魔王「(ま、まずい! っていうかあいつ天才か!?
   そういえば神のコピーと戦った時もえらい強かったが……)」

魔王「ええい、何をおびえる!」バチン!

自分で自分の頬を叩いた。

魔王「単なる地力の戦いになったというだけ!
   己が力をすべて出し切るまで!」第四形態!

勇者「よく言った!」

魔王「うおお!」

勇者「どりゃああ!」



風「な、なんだあいつ! 魔王様と互角だぞ!?」

地「さすが、魔王様が幼少のころより目をかけていただけの事はある!」

水「(いかん! 四天王の座が……)」

火「(勇者の前ではうかつに術を使えんな……)」




勇者「くらえ五つの急所を同時に突く必殺剣!」

魔王「ええいこっちは素手だというのに!」バシ!

掴み取った!

魔王「」バキ!

折った!

勇者「甘い!」ブォン!

自らの闘気を剣と化した闘気剣!

魔王「!?」

勇者「あの大会で気の使い方を知ったからな!」

魔王「く、うかつに触れられん!」


水「魔王様が防戦一方だと!?」

火「いや、勇者にも隙はある」

地「しかしそれを本気で突けばまず殺してしまうだろうし、手加減すれば逆に自身に致命的な隙が生まれる」

火「……というよりわざと致命的な隙を見せて魔王様の動きを止めているな、なかなかあざといやつ」

風「これは……」

勇者「」ハァッハァッ!

魔王「」ヨシャ!

勇者「な、なんだそのガッツポーズ!?」

魔王「ふ、もともと私とお前には体力的に大きな隔たりがある!
   さらに魔剣技で身体機能を増強し、普段使い慣れん力に振り回され、闘気を剣にまで変えては早期でスタミナ切れを起こすは必然!」

勇者「こ、このヤロウ……! 魔王のクセにセコイ事考えやがって!」

魔王「聞こえんな! さあ喰らえ睡眠魔法!」

勇者「ま、待て! 疲れてるのにそんなの喰らったら」パタッ




勇者「く、くそう……こんな、地味な、終わり方…………」クークー

その後、サプライズを兼ねた畜産物パーティで四天王3人が倒れると言うハプニングがあったものの、
魔王と火が調理を実演しながらの立食会は実に盛り上がり

勇者「セコイ手で盛り下がった大会も一気に盛り直したな」

魔王「まだ言うかお前は……」

その夜



勇者「魔王、起きてるか?」

魔王「……」

勇者「……」トン

勇者「僕も、強くなった……自分でも信じられないくらい」

魔王「……」

勇者「昔、お前が悪ふざけで死んだふりしたことあったろ?
   その後、夢を見たんだ」

魔王「……」

勇者「僕は、怖くなる。あの夢が、いつか現実になるんじゃないかって……」

魔王「…………」

勇者「…………魔王?」

魔王「zzz」

ドゴン!


勇者「仕切りなおすぞ!」

魔王「な、何を?」

勇者「うるさい黙れ!」

魔王「ギャー!??」




勇者「魔王、起きてるか?」

魔王「起きてます」

勇者「僕も、強くなった」

魔王「おっしゃるとおりでございます」

勇者「……(雰囲気が台無しすぎる……)」

・・・・・・・



魔王「なぜ、魔人を魔境に押し込めた?」

神「私も、願わくば両方助けたかった……だが腐毒はもっと広い土地を侵していくだろう」

魔王「やはり
   腐毒の侵食範囲の広がりは私も気づいていた」

神「生きていける土地は、もっと少なくなる……
  ならば、どちらかを滅ぼして広くするしか無い」

魔王「……何故魔人を選ばなかった」

神「ふふ……キミも、気づいているはず……私は、人間の方が好きなんだ」

魔王「……」

神「見たまえ」

魔王「……剣?」

神「勇者の剣
  人間でも魔人を殺せる……だれにでも扱える、というわけじゃない、類稀な素質が必要だが
  魔人には君たち『魔王』がいる、だから人間には、私から『勇者』を準備しようと思ったんだ」


魔王「あなたはそこまで魔人が嫌いか?」

神「さっきも言ったろう、嫌いなんじゃない、人間が好きなだけだ
  ……私とあの人が争ったように、君たちも人間と、いずれは……」

魔王「……どちらかが滅ぶしか無いだと? 生きていける土地が少なくなるだと? 争いあうだと!?
   そんなもの、私が覆す! あなたが無理と言う事、すべてをだ!」

神「……」

神「やれるのなら、やって見せてくれ……」

魔王「……」

神「」

魔王「……瞬間移動」シュン

魔王が見つめるのは、はるか北
神が眠る、凍結大樹
あの日以来、魔王はそこを見るたび、志を新たにする

魔王「(魔力も体力もマトモに残っていないのに瞬間移動なんてしたものだから座標がびっくりするくらいズレてしまったんだよなぁ……)」

でもどうでもいいことを考える日もある


勇者「こんなとこにいたのか」

魔王「ん? 探していたのか?」

勇者「うん、見せたいものがあって……この剣、覚えてるか?」

魔王「……むしろお前よく覚えていたな」

勇者の剣

魔王「? どうやって手に入れた?」

勇者「あのときの売り上げと優勝賞金が残ってた」

魔王「……そういえば、あれはそれを買うためにやっていたんだったな」

魔王「今にして思えば、勇者だの何だの」

勇者「僕は結構気に入ってるけどね、魔王のオマケだし」

魔王「はは、オマケか」

勇者「ははははは」

魔王「ははは……」(普段笑わない勇者の笑いに一瞬不安になった

勇者「んじゃ、問題!
   この剣なしの僕にギリギリで勝った魔王とこの剣持ってる僕、どっちが強いでしょーか!」

魔王「」

魔王「しょーかじゃない! それは卑怯だろう!」

勇者「聞こえない聞こえない! さあ尋常に勝負!」

魔王「止めろ! いや止めて! ほんとちょっと!」



ギャー!



おしまい

今まで設定を細かく考えて書くことがなかったので色々と細かく考えてから書き始め、
そのうちの一つ、魔王が多種の魔獣の血を引いている伏線を何か張れないか、というのが料理大会の元です
設定は半分以上消化出来ませんでしたがとても楽しかったです、特に料理大会
最後まで読んでいただきありがとうございました、では

竜を女勇者が逆レイプの人?
なんか話のノリが似てる

>>300
娘「ここに竜が……」竜「Zzz……?」
劇中にR-18要素は(たぶん)無いので安心してください
正義の味方(略 も私です
人魚「人間に恋をしてしまいました」というのもありますのでよろしければ一読ください(宣伝
では

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