魔王「幼き魔王の物語」 (234)

魔王「今日から、君は立派な魔王だよ」

「お父様……」


それはまだ、私が魔王になったばかりの頃


魔王「僕の跡を継ぐんだ、泣いてなんていられないよ」

「分かって……います」


大好きだったお父様が亡くなったあの日


魔王「……大丈夫、手助けしてくれる仲間が君にはいる……だからもう、泣いちゃダメだ」

「……はい。泣きません、だから……」


これは、まだ泣き虫で弱虫な私の


魔王「そろそろ……お別れだ」

「……」

魔王「ハル……僕の可愛い娘……」


……幼き魔王の物語

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――――――
―――



側近「そろそろ休憩しましょう。お茶でも淹れましょうか?」

魔王「ん、そだな。飛びっきり甘いコーヒーお願い」

側近「コーヒーですか、はいはい……ところで魔王様、無理をしていませんか?」

魔王「何が?」

側近「先代が亡くなってまだ数日、あれから人が変わったようにしていらっしゃるので」

魔王「簡素だが戴冠式も終わり、もう私はこの国の王になったんだ。凛とした態度でいなければ示しがつかないだろう」

側近「あなたは言ってしまえばまだ年端もいかぬ少女。悲しんだっていいのですよ?」

魔王「いつまでも、少女のままでいるわけにはいかない。魔王の名を継いだんだ、泣き言なんて言っていられない」

側近「……強情」

魔王「悪い事か?」

側近「いいえ、必要な事です。今のあなたにとっては」

魔王「それよりも、視察先の資料をくれ。用意しているだろう?」

側近「はい、こちらになります」

魔王「ん……食料の供給が行き渡っていないみたいだな」

側近「元々は穀物の生産が盛んな場所でしたが、昨今の日照り続きのせいで自給もままならず」

魔王「このままだと飢餓必至だな。それに他の地域にも影響が出る」

側近「輸入に頼るしかありませんね。外交が必要となりますが、そこはこちらで何とかします」

魔王「私にはやらせてくれないのか?」

側近「圧倒的経験不足、もう少し私の後ろに付いてきてもらう形になります」

魔王「人手不足で人材の確保と育成に力を入れなければならないと思っていたが……まずは私がその育成対象か」

側近「あなたは王として学ぶべきことがまだまだ沢山あります。今は私と竜爺様に任せておいてください」

魔王「ああ、そうする。でもそうなると私が出来ることなど、たかが知れているな」

側近「これから増やしていけばいいです。あなたは成長途中なのですから」

魔王「さて、一応視察先にも輸入の話を通す必要があるだろう。状況も気になるしな」

側近「今すぐ向かわれるのですか?」

魔王「勿論、すぐに何とかしたい事だしな。と言う訳で、ティータイムはまた後でだ」

側近「かしこまりました、馬車を手配いたしますので少々お待ちを」

魔王「それでは私は着替えてくる。私服はマズいだろう」

側近「はい、魔王様の衣装はすでに用意させていただいていますのでそちらで。時間には余裕を持たせますのでごゆっくりと」

魔王「んー、ありがとう」

側近「……」

オーク「どうだい調子は?」

側近「扉越しに盗み聞きとは趣味が悪いですね」

オーク「ハハッ、気づいてたか、流石だな」

側近「魔王様もあなたには気づいていたと思いますが、なんですか?オーク護衛兵」

オーク「馬車の準備は出来ているって伝えに来ただけだけどな」

側近「用意がいいですね」

オーク「予めそうさせたのはアンタだろうに。どこかへ行く予定だったんだろう?」

側近「魔王様が向かわれる視察場所へ行こうとしていただけです。たまたま魔王様が行かれるとおっしゃったので都合がよかったですが」

オーク「一人で何でもかんでもやるつもりだったのかいアンタは」

オーク「……それでよ」

オーク「大丈夫なのか、あの子」

側近「それはどういう意味でしょう?」

オーク「まだ赤ん坊の頃からあの子の事をよく知っている身だ。俺には相当無理しているようにしか見えなくて痛々しくてな」

側近「実際はかなり無理をしているでしょうね」

オーク「……それで務まるのか?先代が残したこの国を率いる魔王として。俺としちゃあ普通の女の子として育ってほしかったんだけど」

側近「あの娘を疑うことは先代を疑うことに繋がります。そういった発言は思っても口に出すことはしないように」

側近「あの娘が例え暴王になろうと、覇道へ進もうと……私は先代の言いつけに従い、あの娘を守るだけです」

オーク「間違ったことを咎めるのも側近の仕事だと俺ぁ思うがな」

側近「……ま、時と場合によりますね。ですが、先代……彼が残した忘れ形見。きっと考えがあってあの娘を次の魔王に選んだのです」

側近「その答えに決して間違いはない……と、今は信じるほかないでしょうね」

オーク「そうだといいんだがな」

魔王「すまない、待たせたな」

側近「おや、随分早かっ……鎧ですか。魔王様、ご用意したお召し物と違うものを着ていらっしゃるのは何故でしょう」

魔王「あんなヒラヒラのレースだらけのものなんぞ着れるか!魔王だぞ!!」

側近「おやおや、可愛いと思っていたのですが。残念です」

魔王「ふざけんなッ!!私をなんだと思ってるんだッ!!」

側近「魔王様です。そんなことで目くじら立てていてはこの先私のいびりには耐えられませんよ?あ、ちゃっかり下はスカートなんですね」

魔王「お前は私をいびり倒すのか……」

オーク「御嬢さん方、外で馬車待たせっぱなしなんだ。漫才やってないで早く出発したらどうだ?」

魔王「ふん、まあいい。早速向かうぞ!」

オーク「おう、いってらっしゃい」

側近「あなたはついてこないんですか、護衛兵なのに」

オーク「城にトップ二人がいなくなるんだ、管理できる人材は残っていた方がいいだろう。それにアンタがいれば護衛なんて必要ないしな」

側近「一護衛が随分と偉そうですね。ですが、まぁお留守番はお任せします。信頼はしているので」

……

側近「いかがですか、馬車の旅は」

魔王「馬車移動も楽じゃないんだよなぁ。お尻痛いし」

側近「移動手段は限られますからね。飛龍(ワイバーン)が調達できればそちらの方が楽なのですが。飼ってみませんか?」

魔王「飼わん。飛龍とて一種のドラゴンだ、維持費が馬鹿にならん」

魔王「そこまでウチに余裕が無いという事は無いが、細かいところから節約をしなければな」

側近「あなたが利用する分なら問題は無いと思うのですが、購入を検討しておきましょう」

魔王「お前が楽したいだけじゃないのか?」

側近「……ところで話は変わりますが」

魔王「聞けよおい」

側近「お考えいただけましたか?」

魔王「何の事だ?」

側近「国葬の件です。先代のご遺体をあのままにしておくわけにはいきませんので」

魔王「……もう少し待っていてくれ」

側近「そうですね。大がかりな準備も必要ですし」

魔王「あ、いや。そっちの話もだが……」

魔王「関係者だけで質素に終わらせないか?お父様はあまり派手なのは好まないはずだ」

側近「……魔王様、自分が何を言っているか分かっていますか?」

魔王「王の死だ、国を挙げてやらなければいけないということは百も承知だ」

側近「そうするのが当たり前でしょう。まだ建国の日が浅くとも、先代は人気もある方でした。しなければしないであなたが非難されますよ」

魔王「しかし、まだ十分に体制が整ってない現状で、国民から税という形で国葬を行う金を巻き上げても誰も特はしないと……思うのだが」

側近「……あなたのお父さんなのですよ?それでもですか?」

魔王「それでも、だ」

側近「……」

魔王「お前の言わんとすることはわかる、しかし……」

側近「……この件については他の方々も交えてまた話し合いましょう」

側近「このままですと平行線になりそうですし」

魔王「……」

側近「例え形式ばったものだとしても、国にとっては必要な行事だと私は思います」

側近「あの方がそれを望んでいなくとも……です」

側近「さて、そろそろ目的地に着きますよ」

魔王「ん、案外早かったな」

側近「魔法で馬に強化を施してあります。名づけるなら強化馬と言ったところでしょうか」

魔王「そのまんまだな。何か反動とかで早い段階で使い潰しそうだが……」

側近「さて、ここの村長さんに早速お話をしに行きましょう」

魔王「ああ、直接現地の人たちから状況を聞くのが手っ取り早いからな」

……

「大変申し訳ありません。こちらは何の準備も出来ず……前魔王様がお亡くなりになられて大変だというのにわざわざ足を運んでもらって」

側近「いいえ、構いません。突然訪問したのはこちらですので気になさらないでください」

魔王「村に活気が無いな。……昨今の事は私も聞いている、苦労を掛けるな。とりあえず今後の事についての話し合いを……」

「えっと……そちらの御嬢さんは?妹さんですか?」

魔王「えっ」

「いやいや、可愛らしい子で。まだ小さいのにお姉さんのお手伝いかい?」

側近「……こちらが前魔王様のご息女、新しい魔王様です。出来ればなるべくご無礼の無いようにと……先に言っておくべきでしたね」

「え……え!?そ、それは大変失礼しました!」

側近「仕事に来ているのに弟妹を連れてくると思いますか?」

魔王「いいよ……うん……」

側近「露骨に落ち込まないでください。あなたの顔を知っている人なんてまだ碌にいないんですから」

魔王「気にしてないぞ、うん……」

「すみません、あなた様が繰り上がって魔王になったのだと思いまして……」

側近「その案もありましたが蹴りました。私は王の器ではありませんので」

「しかし……まだ継承して日も浅いというのにわざわざ直接視察に来ていただけるなんて。ありがとうございます」

魔王「そんな礼を言われるようなものでもない。城に引き籠っていては国を知ることは出来ん。気にするな」

側近「それでは村長さん、今回の不作の件でお話があります。それと輸入の事も視野に入れて頂きたいです」

「おお、丁度こちらもその話を持ちかけようと……収穫は報告した通りなのですが輸入に頼るとしてもまとまったお金も……」

側近「こちらでなるべく支援はするようにします。そもそもこの土地の穀物の生産が止まるのは国にとって痛手ですので」

側近「最悪、地方ごとではなく国全体で農作物を輸入しなければならない事態も……」

魔王「……」ポカーン

魔王「な、なぁ側近、とりあえず私は何をすればいい?」

側近「話の邪魔ですので散歩でもしていてください」

魔王「」

「あー……私が口を挟むべきではないのですが……酷い事を言いますね」

側近「冗談です、私なりの魔王様へのスキンシップのようなものです」

魔王「止めろよ突然そういうこと言い出すの……」

側近「とはいえ、今あなたが出る幕は実際ないので外の様子でも見てきてください」

魔王「結局お払い箱か!?」

側近「その眼で畑の様子を直接見てきてください。私は一度見ていますので」

魔王「……ん、お前がいうならまぁそうするが」

側近「これも勉強のうちです。はい行った行った」

魔王「なんか納得できん。適当な時間に戻ってくるぞ」ガチャ

側近「はい、いってらっしゃい。あ、お小遣いいりますか?」

魔王「いらん!最後までからかうな!!」バタンッ

「あの……魔王様大丈夫ですか?」

側近「ま、これから少し黒い話を交えたりするので、まだそういうことはあの娘に聞かれたくないという配慮です」

「それは一体……」

側近「はい、勝手ながら畑の土質を調べさせていただきました」

側近「その結果がちょっと黒い物でしたので。ひょっとしたらそれを隠して今まで生産していたのではないかと思いまして」

「え?」

側近(この反応……気づいていなかったか。だとすると外的要因でもあったというのでしょうか)

……

魔王「側近はああ言ったけど確実に私を追い出す口実だよなアレ……」

魔王「まったく私を誰だと思っているんだ、魔王だぞ魔王!」

魔王「……で、ここが畑か。こりゃまぁ酷い有様だな」

魔王「雨も降らず日照り続きでこうなったか……資料によると、ため池や地下水脈のおかげで水には困っていないようだが」

魔王「土もこんなに乾いて……ん?」

魔王「何だこの感じは」

男「……気になるかい、ここの土が」

魔王「あ、いや。私が気になるのは土じゃなくてこの場所の……うわッ!?」ビクッ

男「ど、どうしたんだい一体!?」ビクッ

魔王「ビックリしたー……気配も無く突然声を掛けられたら誰だってビックリするぞ」

男「あー、すまない……」

魔王「それでなんだ?ここの土がどうかしたのか?」

男「酷く痩せこけている、それに不純物が異様に混ざっているみたいだ」

魔王「不純物?なぜそんなものが?」

男「原因は分からない。だがここに使用されている地下水脈の水が原因だとは思う」

魔王「何?」

男「要は汚染だ。明らかに自然生成されるものではない物が混ざっている」

魔王「……日照りが原因ではなかったのか」

男「いや、それもあるだろうけど……色々な要因が重なってしまったということだ。もうどうしようもない」

魔王「ん?ここの水に問題があるのなら村の人たちにも影響が出ているんじゃないのか?」

男「それは無いよ。彼らの飲み水は別の場所……こことは離れたため池から引いていたハズだ」

男「ここは村から少し離れた位置にある。だから別途で水を使用していた」

魔王「……取り返しはつかないか」

男「ああ、残念ながら」

魔王「お前、ここの現地民か?」

男「いや、私は旅のものだよ」

魔王「ふーん、色々と詳しいんだな」

男「土……というより、鉱石をよく触るからね」

魔王「鍛冶師か?」

男「……さぁ、どうだろうね」

魔王「勿体ぶる必要ないだろ」

魔王「よく見たら今は春先なのにそんなボロっちいのマントなんて着こんでるし。顔もよく見えないし怪しさ全開だぞ」

男「気にしない気にしない。そういう君は何者だい?この場には似つかわしくない恰好をしているが……」

魔王「んー、こんな服の上から鎧はやっぱり変だったか」

男「いや、十分可愛いよ」

魔王「んな!?か、かかか可愛いだと!?私を誰だと思っている!魔王だぞ!!」

男「そっか、可愛い魔王さんだ」

魔王「お前……信じてないだろう」

男「……どの道、ここの畑はもうダメだ。不純物を取り除いたとしても完全に元に戻すまでは十数年かかるだろうね」

魔王「この村の唯一のライフラインだが……食料の供給は輸入頼りになるか。まったく、ウチから金がどんどん無くなりそうだ」

男「……だが、この土地はいい土地だ」

魔王「壌土汚染されているのにか?」

男「もう少しよくここら辺一体を調べてみるといい。私の鼻が正しいのなら……いい金属が眠っていそうだ」

魔王「は?」

側近「魔王様、ここに居ましたか」

魔王「ん?ああ、側近かどうした」

側近「話は終わりましたので、私もここをもう一度見ておこうと思いまして」

魔王「そうか。あ、紹介するぞ。こっちは私の側近の……あれ?」

側近「紹介?」

魔王「……居なくなってる」

魔王「おかしいな、ここにいたハズなのに」

側近「魔王様……」

魔王「な、なんだよ。本当にいたんだからな!」

側近「いえ、何も言わずともわかっております。お父様が亡くなられて寂しさのあまりその反動で幻覚まで見るようになってしまっていたとは……」

側近「申し訳ありません。私も配慮が足りなかったですね……」

魔王「ちょっとマテ!?やめろ!そんな可哀想なものを見るような目で私を見るな!!」

側近「とまぁ、冗談はさて置き」

魔王「お前冗談が好きなのか?こっちの神経擦り減るだけなんだけど」

側近「どうですか、ここを見てみて」

魔王「……土の状態がよくないようだな。汚染が激しい」

側近「慧眼ですね、お見事です。気が付きましたか」

魔王「って、さっき話していた男が言っていた」

側近「……」

魔王「頼む、もうそんな目で見ないでくれ」

側近「村長がその事実を知っていて今まで隠していたのだと私は睨んでいたのですが……どうもそうではないみたいです」

魔王「人をまとめる立場である村長がそんな事をする訳がないだろう」

側近「自分たちの責任なのに、国からの支援金目当てにそういうことを隠す人出てくると思いますよ……人を疑う目を持つことも重要な事ですよ」

魔王「誰彼かまわず疑うような事はしたくは無い」

側近「はいはい、ともかく村長は真っ白でしたのであなたの言うとおりですが」

側近「今は原因を突き止めた方がいいですね」

魔王「地下水脈か」

側近「はい、資料にもちゃんと目を通していただけていたんですね。関心です」

魔王「そんなことはどうでもいい。行くぞ」

側近「……今からですか。どうせ後で調査隊を派遣するんですからあなたが行く必要はありませんよ。危険です」

魔王「この目で直接見ておきたい。それに、何かあってもお前が守ってくれるんだろう?」

側近「……先日まで箱入り娘だった子が、よく言う」

魔王「お父様なら直接乗り込むだろうしな。さ、行くぞ」

側近「やれやれですね、ハァ……」

小休止

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……

側近「足元、お気を付け下さい」

魔王「ああ、広いから大丈夫だ」

側近「それにしてもよく入り口が分かりましたね。私もここらの地理に詳しい訳ではないのですが」

魔王「……さっきから変な感じがするんだ」

側近「変、とは?」

魔王「なんか、淀んでいるというか歪んでいるというか……」

魔王「そういう感じが風みたいに伝わってきて……ああもう!表現し辛いな!」

側近「ふむ、アレですか。年頃になると妙に気取ったり右腕が疼きだしたりする。私にも覚えがあります」

魔王「なにそれ?」

側近「……あなたとは無縁そうですね、そういうの。まだその年齢に達していませんし」

魔王「?」

魔王「ともかく、その気配を追っていたら目的地だったワケ」

側近「自信満々に行くと言っておいて到着するかは定かではなかったのですか。私は道知ってたからよかったですけど」

魔王「だったら私に先行させるなよ……」

側近「勝手に行ってしまったのは魔王様ですよ。っと、空洞に出ましたね」

魔王「……やけに広くないか?それに違和感も強く感じる」

側近「言葉が重複していますよ。しかし確かに……」

側近「そこそこ古いものと言ってもここまでの広さになるとは考えにくいですね」

魔王「それに……なんだか歪だ」

側近「空洞内に別の空洞が合わさったようになっていますね。奇怪です」

魔王「奥に進んでみよう、変な感じが強く流れてきている」

側近「勝手に進まないでください。ランプが切れそうですので点け直します」

魔王「必要ない、私が直接火を出す」ボッ

側近「……いつの間に魔法を使えるようになったんですか」

魔王「お父様の見よう見真似で出来るようになった……火しか出せないけど。お前は魔法は強いと聞いていたが、わざわざランプに頼ることも無いだろう」

側近「私の魔法は強いだけであって制御ができません。ですので汎用性は期待しないでください」

魔王「お前確か魔法使いだったよな……それでいいのか」

側近「誰に師事せずとも独学……真似だけで魔法を使いますか、才能がありそうですね。魔法使いの私としてはちょっと嬉しい」

魔王「ほ、褒められても別に私は嬉しくないぞ!ともかく進もう、違和感が段々薄くなってきている。早くしないと」

……

魔王「ここを越えた先だ」

側近「魔王様、何か分かりますか?」

魔王「ん……何か吸い寄せられているような気がする」

側近「特に魔法の反応もみられない……一体あなたは何を感じているんですか」

魔王「見れば正体がわかるんだ、どれどれ」ヒョコッ

魔王「!?」

側近「ッ!……これは!」

魔王「空中に……穴?」

側近「魔王様、一端ここから離れましょう」

魔王「え、でも……」

側近「でもも何もありません、下手をすれば一生ここに戻ってこれなくなりますよ?」グイッ

魔王「え?ええ?」

側近「ここまで離れれば一応は安全か……吸い寄せられる、間違ってはいない表現でしたね」

魔王「スマン、状況が理解できないんだけど」

側近「アレはいわゆる次元の裂け目と言うやつです」

魔王「何だそれは?」

側近「別の世界への出入り口。されど一度入ると元の場所に戻れなくなります」

魔王「別の世界?そんなものが……」

側近「……そうですね、例えば」

側近「あ、ありました。コレ、なんだと思いますか?」ガチャ

魔王「いや、分からない。金属片……?」

側近「私もコレの正体は何なのかはわかりません」

魔王「おい」

側近「何かの部品とも思われますが……この世界の物とは思えないほど高度な技術が使われていると思われます」

魔王「それが別の世界から来たものだって?」

側近「はい。異世界の物がこちらに流れ込む現象、我々は次元転移と呼んでいますが」

側近「最近各所で度々起こっていたらしく、こういった機械の技術や知識を取り入れた国もあるようです」

魔王「知識まで?どうやってだ?」

側近「何も流れ着いてくる物がなにも"物"だけとは限らないので」

魔王「?」

側近「さて、おそらく上での畑の汚染は、こういった汚物に近い物が大量に放り込まれたのが原因とみて間違いないですね」

側近「周りを照らしてみてください」

魔王「ん……うわぁ」

側近「ゴミゴミゴミ……あそこなんて水の流れが止まるほどにゴミと思しきものが沈んでいます」

魔王「空洞の内部が奇妙に重なり合っていたのもその次元転移とやらが原因か」

側近「そうですね、異次元の場所が直接こちらに衝突したのでしょう」

魔王「どうするコレ」

側近「どうしようもないです。この土地は破棄するしかないですね」

魔王「……それじゃあここに住む人々は」

側近「村の人たちには悪いですが、これは言ってしまえば天災のようなものです。防ぎようがありません」

側近「一応難民としては扱えますが、すぐに新しい居住や仕事までは用意出来そうにないですね」

魔王「何とかならないか?」

側近「何とかなるのなら私もこんなスッパリこんな物言いはしません」

側近「ハァ……出費が嵩みますね、まったく」

魔王「あ、消えた」

側近「どうしました?」

魔王「嫌な感じが消えたんだ。多分さっきの穴が無くなった」

側近「どれどれ……あ、本当に無くなってますね」

側近「今さら消えたところでどうだという話ですが。原因も突き止めたことですし、もう帰りましょう」

魔王「……」

側近「まだ何か?」

魔王「いい金属……か」

側近「?ここにある金属の塊でしたら、まぁ再加工すれば使用できないことも無さそうですが。良いものだと聞かれたら首を傾げます」

魔王「さっきの場所へ戻ってみよう、もっとよく調べるんだ」

側近「これ以上何も出てくるとは思いませんが……それであなたの気が済むのなら」

魔王「よいしょ……この奥はっと……」

側近「何を探しているのですか」

魔王「私も分からん。だが、さっき出会った男にここにはいい金属があると言われたんだ」

側近「またその話ですか。引っ張るのは構いませんがあまりそういうものを鵜呑みにするのは感心できません」

魔王「別に、お前は先に帰っていいんだぞ」

側近「それじゃあ護衛の意味がないでしょうに」

魔王「それなら黙って……ん?」

魔王「なぁ側近」

側近「はいはい今度は何ですか?」

魔王「この塊って、何か貴重なものか?キラキラ光ってるんだけどさ」

側近「!ちょっと見せてください!」

魔王「ああ、何かわかるか?」

側近「……魔王様」

側近「お喜びください。この村を救う方法が出来たかもしれないです」

魔王「何!?本当か!」

側近「ええ、それだけではなく。ウチに莫大な利益ももたらしてくれるかもしれません」

側近「これが実れば……我が国始まって以来の大事ですよ」

魔王「?」

――――――
―――



オーク「なにぃ!?鉱脈が見つかっただぁ!?」

側近「はい、一見しただけでも多種多様に渡る金属が確認されました。それもかなり大きな範囲で」

オーク「いや、おかしいだろ。そこの村って確か地下水脈から水引くときに一回調べられてるんだろ?その時には分からなかったのか?」

側近「その地下の空洞で次元転移が発生していたのです」

側近「そのおかげで、異世界からゴミが流れ着いてきて上の畑が日照りとのダブルパンチで壊滅しましたが」

オーク「……空洞まで転移してきたとかそういう話か?」

側近「はい、その通りです」

側近「先ほど入れ替わりで調査隊を派遣しました。報告待ちですが、間違いなくこれは金のなる木になりそうですね。魔王様様です」

側近「村の人たちも職と住む場所を失わずに済みそうです。ま、危険が伴う鉱夫に転職ですが」

オーク「あの子がそんなもん見つけるとはねぇ……運に恵まれてるんじゃねェか?」

側近「はい、とても運のいい娘だとは思いますよ。それが王として生かせればいいですけど」

オーク「で、その立役者は今どこに行ったんだ?」

側近「……お父様に報告をしてくると、とても嬉しそうに出ていきましたよ」

オーク「ああ……あそこか」

――――――
―――


魔王「こんばんは、お父様」

魔王「聞いてください。今日、視察先で鉱脈を見つけたんです」

魔王「村の人たちは喜んでいました!不作続きでもう村自体の存続が厳しくなっていて……」

魔王「それで、新しい仕事が出来た、村から出ずに済んだと」

魔王「上手くいけば、国としても大きな利益を得られると、側近も言っていました」

魔王「見つけたのは私ですが……でも」

魔王「それは、私の力ではなく、見も知らない人からもらった助言があったからです」

魔王「運が良かったと言ってしまえばそれまでです……ですが、これでよかったのでしょうか」

魔王「私は……」


ガチャ

側近「やっぱりここでしたか。また先代の亡骸に語りかけて……」

魔王「あ、側近……」

側近「二人でいる時くらいは名前で呼んでもいいですよ、ハル」

魔王「うん、そうだな。セピア」

側近「ここの教会、そんなに離れていないとはいえ、報告の為だけにワザワザ通うのも不便でしょう」

魔王「……お父様に伝えたかったからな。手間ではない」

側近「……浮かない顔して。何かお困りですか?」

魔王「ん、そういう訳ではない」

魔王「誰かの手を借りなければ、私は何も出来ないのかなと思ってな」

側近「畑で出会ったという空想の中の男の人の事ですか?」

魔王「空想は余計だぞ?」

魔王「本来の目的だって、お前が話を進めてしかるべき対処をする手筈だったんだろう?」

側近「そうですね。話が進めばそのまま地質調査と水質調査だけを行い、あの村から住民が消えていただけでしたが」

魔王「サラッと恐ろしい事を言うんだな」

側近「事実ですから。不毛の地に人を置く理由がありません」

側近「結果や内容はどうあれ、あなたがよく調べようとしたから今回の原因と鉱脈の存在を知ることが出来たのです」

側近「ま、王のすることではないですが」

魔王「……その決断も、本当なら私が下さなければならなかった」

側近「ですが、救ったのはあなたですよ。あの村の人たちを」

魔王「……そうなのかな。しかし、それは私でなくとも出来たはずだ。本来ならば、私は王として彼らに何をしてやれたのだろうか」

側近「考えるだけ無駄ですよ。それと泣き言は」

魔王「言ってない。ただ自問自答のような事をしていただけだ」

側近「意地っ張り……この程度でセンチになっているようではこの先私の虐めに耐え抜けませんよ」

魔王「虐めるの!?」

側近「冗談です。いちいち反応してくれてありがとうございます」

側近「さ、お城に戻りましょう。暖かいココアでも用意いたしますよ」

魔王「私は城を出る前にコーヒーを頼んだんだけど?」

側近「どうせどれだけ甘くしてもあなたは苦いというに決まってますから。初めから甘いココアにしておきなさい」

魔王「ふん、今はそういうことにしておいてやる!」

魔王「……最後に、お父様。さっき言った私に助言してくれた人

魔王「その人と話していたら、何故だかとても懐かしい気持ちになりました」

魔王「どこかお父様に似ている雰囲気でもありました……何でしょうね。この気持ちは

魔王「ともかく、今日の報告は以上です!」

魔王「……おやすみなさい、お父様」

側近「……」

側近(いつまでもあの人の遺体をこのままにしておくワケにもいかない。ハル、あなたもそれに気づいているでしょう?)

小休止


警告:あげんなよ

本日休業

>>71
ひょっとして私の事?

再開

――――――
―――



魔王「ふーん……」ペラペラ

オーク「ほぉ、勉強か?何を読んでるんだ?帝王学ってやつか」

魔王「そんなものとうの昔に終わっている。まったくの別事だ」

オーク「終わってるって……お前さんまだ10歳だろ。側近、ホントか?」

側近「本当です。ぶっちゃけ教えたことすべて丸暗記されてしまったので教え甲斐がまったくありませんでした」

オーク「お、おう。よくわからんが凄いな」

オーク「で、何してんだ?」

側近「以前魔王様が覚えた違和感……次元の裂け目を発見出来た理由をお調べになっています」

オーク「ああ、そんな事言ってたな」

魔王「私には感じ取れて側近にはそれが出来なかった。私に有って側近に無いもの……」

オーク「慈悲かな」

魔王「慈悲だな」

側近「ブチのめしますよ」

側近「絞り込むのなら単に魔王様にあって我々には無いもの、だと思いますが」

オーク「確かに、それなら他に違和感に気が付く奴とかが出てきそうだからな」

魔王「うーん……私の血筋かなぁ」

オーク「ああ、なるほどな」

側近「確かにそれなら納得がいきますね」

魔王「私はこの地上とは隔離された地下世界と天界の血が流れている」

側近「片方は地下世界に存在する種、"幻魔"と呼ばれる種族です。ちなみに、私も同じ種族ですがそんな能力ありません」

側近「魔王様が今手にしてらっしゃる本は私が過去にこの種族の事を知りえる限りを書き込んだ物ですが、正直読むだけ無駄ですね。関連することは書かれていません」

魔王「だよなぁー。で、もう片方は……天使」

オーク「理由があって天界を追われて逃げてきたんだったな、王妃様は」

側近「そこを先代に助けられたのですが。そもそも天使が地上で子供を作るなんて事は聞いた事無いですから、実質魔王様だけじゃないですか?その血は」

魔王「そうだな……でも私はお母様の事全然覚えてないけどさぁ」

オーク「物心つく前に亡くなられたからな。惜しい美人を亡くした……」

魔王「そっち?」

側近「……ともかく天界の者の血か、或いはその混血ということが鍵かもしれませんね」

側近「さて、この話は終わりにしましょう。魔王様、今日のお仕事ですが」

魔王(なぁなぁ、側近のやつお母様の話になったら急に機嫌が悪くなった気がしたんだけど。無表情だが)

オーク(気にすんな、女にはいろいろあるんだよ。無表情だけど)

魔王(ふーん……)

側近「この聞こえる距離でヒソヒソと話すのはやめてください」

側近「本日はこちらにサインをお願いします」ドンッ

魔王「許可書か……多いな」

側近「ええまぁ、これ以外は特にすることも無いので。あ、ちゃんと内容には目を通してくださいね。一応後で私もチェックしますが」

魔王「以前みたいに村へ訪問とかそういうの無いのか?」

側近「視察も大切ですが事務仕事も大切です。というより王の仕事はほぼこんな感じです」

魔王「んー……お父様も毎日こんなことしてたのか」

側近「はい、当然です。完璧とまでは言わずとも、しっかりとこなしていましたよ」

側近「ですが、無理なら無理と言ってくださいね。私も出来る限りフォローはしますので」

オーク「俺も言われれば手伝うぜ。お前はまだ幼いんだ、この量はちと辛いだろう」

魔王「幼いも何も関係ない。受け継いだ以上は完璧にやってみせる」

オーク「ハッハ!言うじゃねェか!」

側近「ま、好きなようにやってみてください」

魔王「よっしゃー!頑張るぞー!」カリカリ


オーク「まぁすぐにでも音を上げるだろうさ。まだ子供に事務仕事は早すぎる」

側近「素直にこちらを頼ってくれるような子なら、私も心配なんてしたりはしないんですけどね」

オーク「?」

……

魔王「おわり!」

オーク「……おい、すごい速さで終わったぞ」

側近「ほら言った通り……魔王様、こちらの内容についてですが……」

魔王「ああ、それなら職の無い者たちを優先であつめて派遣して作業させろ。各地で人手が足りていないんだ、人員を余らせるよりはマシだ」

側近「ではこっちは……」

魔王「んー、流石にウチにその手の知識を持っているのは竜爺くらいだから迂闊にサイン出来ないな。話がしたいから適当な日に呼び出しておいてくれ」

側近「こちら……」

魔王「数日前に行った村だな。鉱脈が機能するものだと分かったから追加で増資をしてくれという内容だったな。もちろん我々が支援しなくては」

側近「と、このようにサポートする必要もありませんでした」

オーク「化け物かよ」

魔王「人を化け物扱いするとは失礼だな!?」

側近「その小さな体でこのような事をハイペースで続けていたら倒れてしまいますよ。まったく休憩も挟まずに……」

魔王「平気だ、もっと頑張ってお父様のような王にならなければならないからな。弱音は吐かない」

側近「……そうですか。まぁ私の仕事が減りそうなので助かりますけど」

魔王「お前はお前の仕事しような?」

側近「おや、この書類、サインしてありませんが何か思うところでも?」ピラッ

魔王「ん?ああ、それか。正式なものではなかったから判断できなかった」

側近「普通の手紙……私のチェック漏れですね、こちらで処分いたします。失礼しました」

魔王「あ、待って。中身読んで」

側近「内容ですか?何が書いてあったとしても、この手の物はあなたが気にする物ではないですよ」

魔王「いいから」

側近「はぁ、それでは……」

側近「……」

オーク「何が書いてあるんだ?」

側近「魔王様、あなたはこれを見て何をしたいと思いましたか?」

魔王「確かめたい、出来れば早急に」

側近「……あそこの管理者からはそのような報告は一切受けていなかったのですが」

魔王「私も疑いたくはない。この手紙がただの悪戯ならそれでいいが、こう知ってしまった以上は確かめざるを得ない」

オーク「だから何が書かれていたんだよ!」

側近「どうぞ、自分で読んでください」

オーク「勿体ぶるなよ……えっとなになに?」

オーク「"さんぞくとまものに村がおそわれています。りょうしゅはたすけてはくれません"」

オーク「"まおうさま、たすけてください"」

オーク「……汚ェ字だな。子供が書いたのか?」

魔王「側近、準備をしろ。適当な理由を付けてその村に出向くぞ」

側近「ハァ、あなたがそうおっしゃるのなら……」

オーク「鵜呑みにするのか?」

魔王「確認するだけだ。私の国で助けを求めている声があるのなら、例え偽りだろうと見捨てることはしたくはない」

側近「杞憂に終わればいいですけどね。オーク護衛兵、今回は戦闘になるかもしれませんのであなたも同行してください」

オーク「あいよ。城の管理はどうするんだ?」

側近「そんな物竜爺様に押し付けてください。あの方は普段何もしていないのですからそれくらいはいいでしょう」

魔王「年寄りを酷使するのも気が引けるけどな」

オーク「年寄りでも竜だから大丈夫だろ」

魔王「それよりも……戦闘か。クックック」

側近「あなたは戦わなくてもいいです。その為に私とオーク護衛がいるので」

魔王「ギクッ!た、戦おうなんて思ってないぞ!わ、私は武器を持っていないのだからな!」

オーク「分かりやすいな……」

側近「この国にとってあなた以上に大切なものはありません。くれぐれも変な気を起こさないように」

側近「というより戦闘経験皆無なあなたに出しゃばられても邪魔なだけです、引っ込んでいてくださいね」グニグニ

魔王「わかってりゅ!顔を伸ばしゅにゃ!!魔王だぞ!!」

魔王(フフフ……ずっと外に出られなかった分、戦闘になったらとことん暴れてやるぞ!)

魔王(ずっとお父様と側近の手合せを見ていたんだ、私にだって出来る!)

魔王(……あの"魔剣"があれば!)

側近(……何か企んでいますね、この娘は)

小休止

再開

……

魔王「フフフ……これをこうして……」

側近「魔王様、こんな馬車の裏で何をしているのですか。もう出発しますよ」

魔王「はうん!?そ、側近か!わかっている!準備は出来ているぞ!」

側近「……大きな箱ですね。それをそんなところに入れてどうしようというのですか」

魔王「あ、ああ。到着まで半日はかかるし、帰ってくるのも明日以降になりそうだし何かと入用だろ、だからだな……」

側近「それ、魔剣ですよね」

魔王「ギクッ」

側近「擬音を発さないでください、あざとい」

側近「先ほど使用人が魔王様が宝物庫の鍵を持って行ったと報告がありましたが……案の定それを持ち出す為でしたか」

魔王「な、何が悪い!これはお父様の形見だ!私が受け継いだものの一つだぞ!」

側近「……私は何も言われていないので判断しかねますが。個人的には持っていてほしいものではないですね」

魔王「どういうことだ?」

側近「確実に手に余ります。私も先代も……その剣をまともに扱うことさえ出来ませんでしたから」

魔王「お前が扱うことが出来なかったのか?」

側近「ええ、魔剣自体に問題があるので私では。先代はそれ以前の問題でした」

魔王「うん、お父様は仕方がない。幼いながらにあのヘナヘナの剣技を見てダメだと思ってた」

側近「ハッキリ言いますね。その通りですが」

魔王「運動音痴だったからなぁ……」

側近「あの方、魔法使いタイプでしたので」

側近「……魔王様。武器を手に取るということの重みを忘れないでください」

魔王「?」

側近「手っ取り早く力を手に入れるのならば確かにそういった物に頼るのも間違いではありません」

側近「ですが、その刃は容易く人の命を奪うことが出来ます」

側近「その責任を……あなたは背負うことが出来ますか」

魔王「出来る。それで救えるものがあるのなら、例えこの手を血で汚そうと後悔はしない」

側近「……即答ですか。あなた魔王より勇者の方が性に合っているのではありませんか?」

魔王「魔王と言えど、その在り方は千差万別だ。王道をゆく魔王だっていてもいいだろう?」

側近「そうですね。あなたは覚悟を決めていたのでしたね」

側近「まぁ、本当のことを言うと別に持って行っても構いませんが」

魔王「いいのか!?」

側近「はい、強力な封印を施してありますので。魔王様もその箱から出せなかったハズですよ」

魔王「あー……そういうこと」

側近「邪魔になるだけですが魔王様の気が済むのならどうぞ」

魔王「……ふん!もう知らん!とっとと行くぞ!」

側近「はいはい」

オーク「話は終わったか?馬を出すぞ!」

側近「馬車……やっぱり飛龍を購入しましょうよ。移動が物凄く便利になりますよ」

魔王「……そうだな、今回みたいに急ぎの時には必要になるかもしれん」

側近「前と変わって物わかりがいいですね、それじゃあ帰ってきたら早速手配を……」

魔王「だが、購入するのならまとまった数だ。少し考えがある」

側近「考えですか?なんでしょう」

魔王「今回の件と関連しているが……終われば話すよ。どの道この国に必要な事だとは思うからな」

側近「……察しは付きますが、その時まで期待して待っています」

――――――
―――




魔王「ここが領主の屋敷か。無駄に大きいな……」

側近「国が出来る前からの権力者だったそうなので。ウチの国でありながらも土地の所有権を個人で多く持っているそうです」

魔王「なるほど、元から金持ちって事か」

側近「しかし……到着しましたが夕方になってしまいましたね」

魔王「距離が距離だからな。だが、小さい国でよかったと思うよ」

オーク「だがここが国の端っこってワケじゃねぇんだ、何だかんだでウチはもっと広いぞ」

側近「とりあえず私はここの領主に挨拶してきます。オーク護衛は宿の手配を。どの道今日は帰れそうになさそうですから」

オーク「あいよ」

魔王「なぁなぁ、私は?挨拶とかはしなくていいのか?」

側近「あなたから行く必要はありません。普通ならあちらから迎えさせるのですが」

オーク「突然の訪問だ。連絡を入れたとはいえあっちにも準備ってもんが必要だろ」

側近「そういうことですね。正式な場は明日設けさせることにしましょう」

魔王「ならばオーク護衛と行動する。構わないな?」

側近「はい、分かりました。オーク護衛兵、くれぐれも魔王様にお怪我の無いように」

オーク「分かってるよ。さ、行きましょうか魔王様」

……


魔王「受け取った手紙には村と書かれていたが……」

オーク「村というか街だな、それも結構広い。立派とは言えないが石造りの道や家か」

魔王「子供の書いた手紙だ、村と街の区別もつかなかったのだろう……しかし」

オーク「年季が入ってボロボロなのか、はたまた幾度となく襲撃にあって崩れているのか」

魔王「廃墟とは言わずも、あまりいい環境では無さそうだ」

オーク「見るからにアウトローな連中がそこらにいるからな、俺から離れないようにな」

オーク「しっかし、こんな調子でいい宿は見つかるのかねェ」

魔王「別にいい宿を探さなくてもいいだろう。最悪、野宿でもわたしは構わん」

オーク「逞しいのは結構。だけどな、自分が王って立場を忘れるなよ」

魔王「形くらいはしっかりしておけと?」

オーク「そうだ、一国の魔王が用もないのに野宿しているだなんて知れたら国の品格が疑われる」

魔王「そうだな……軽率な発言だった。しかしだな」

オーク「ん?」

リザード「ヘヘヘ」クイクイ

エルフ「……」

オーク「何だこのガキ共は?」

魔王「こんな風に、この街で私を魔王だと知っている者などいないだろうさ」

リザード「おかし、くれよ!」

エルフ「……」

オーク「物乞いか……ほらガキども、あっち行った!渡すものなんて何もねェよ!」

魔王「そういうな、私よりも幼いこの者たちをそう邪険にしなくたっていいじゃないか」

魔王「ほら、コイツで何かいいものを食べるといい」スッ

オーク「おいおい、こういうのは一回やっちまうと後から後から集りに来る連中が増えるだけだぞ?」


「ヘヘッ」

「間抜けだぜアイツら」


オーク「ああん?ギャラリーが笑ってやがるな……一体なんだ?」

リザード「わーい!それじゃ……」

エルフ「こっちをもらうッ!」バッ

魔王「何!?」

オーク「あ゛!俺の財布!?」

リザード「バーカ!!そんな小遣い貰っても嬉しくねーんだよ!逃げるぞリーリエ!」

エルフ「うん、アギト君……」

魔王「え?す、スリだと!?あんな子供が!?」

オーク「騙された方が悪いってかぁ!?魔王様、アレに側近から預かった全財産入ってるんだ!追うぞ!」

魔王「クッ……あの子達がこんなことをしなければならないほどここの治安は悪いとでもいうのか……!」

オーク「悔やんでいる暇なんてねぇぞ!?側近にどやされるだけじゃすまねぇっての!」バッ

魔王「ッ!それはキツイな……追おう!」バッ

小休止
日を追うごとに短くなる更新

本日休業
sage入れ忘れってこともあるしノンビリやりたいんであげるあげないは個人の自由でお願いします
これ以上この話題が続くようならここで書くのをやめて後日改めて別のスレを立てますので悪しからず

再開
カッコよく言ってもパスタはやパスタ

リザード「へへっ、ここら辺は迷いやすいからあんな連中じゃ俺たちに追いつけっこないぜ!家まで一気に逃げるぜ」

エルフ「うん……」

リザード「……悪いなんて思ってるのか?そんなんじゃここで生きていけないぞ」

リザード「自分で食う分は自分で稼がなきゃいけないんだから。こんな場所を何の準備も無しに歩いているアイツらが悪いんだ」

エルフ「分かってるけど……」

オーク「ちっくしょう!距離が離れてる!俺の足じゃ追いつけねぇ!」

魔王「少し痩せたらどうだ?前より太った気もするが」

オーク「ゼェ、うるせぇ!ハァ、歳だよ歳!」

魔王「鍛錬を怠っているからだぞ、平和ボケしているんじゃないか?」

魔王(しかし、あんな子供たち相手に魔法を撃つわけにもいかないし……直接捕まえるしかないか)

リザード「よし!路地裏ァ!ここまで逃げきれば俺たちの勝ちだ!」

エルフ「ッ!アギト君前!」

リザード「へっ?」


ドンッ


リザード「あうん!」ポテッ

リザード「な、なんだ?」

エルフ「ヒトにぶつかった……」

男「……」

エルフ「あ、ご、ごめんなさい」

男「いや、別に構わん」

リザード「そこに突っ立ってる方が悪いんだ、さっさと退けよ!」

男「……」

リザード「な、なんだよ……やんのか!」

男「君の生き方に口を挟むつもりは無いが、盗んだ盗まれたというのなら……」

ゴンッ!!

リザード「いッ!!」

エルフ「うあ……」

男「盗んだ方が悪いに決まっているだろう」

リザード「ってええええええええ!!殴られたあああ!!」

エルフ「あの人達の味方?」

男「いや、偶然見かけただけだ。関係は無い」

リザード「関係ないなら首突っ込むなクソ野郎!!」

男「もう一発行くか?」

リザード「ごめんなさい申しません殴らないでください構えるなバカ!サディスト!!鬼!!」

男「……そんな事を繰り返していけば、いつか人間性を失い、その行いが当たり前だと思うようになる」

男「それが盗みであれ、人殺しであれ……」

リザード「はぁ?何言ってんだあんた?」

男「君たちは今ならまだ踏みとどまれる。無責任な事しか言えないが、誰かの助けを求めるのもそれは決して悪い事ではない」

男「……悪人にはなるなよ」

エルフ「……」

リザード「なんのこっちゃ。誰かに頼れないから俺たちはこうして生きてるんだよ!」

オーク「やっと見つけた!!」

魔王「待てお前たち!」


リザード「ゲッ!来ちゃった!」

エルフ「むぅ……諦めよ」

リザード「あーあー……こんなつまらない事で捕まっちまうとは……」

オーク「やっと追いついた……」

リザード「オッサン息上がってるぜー」

オーク「うるせぇ盗人が!」

エルフ「……ごめんなさい。お金は返しますから許してください」

魔王「……」

オーク「前科持ちかもしれねぇし再犯の可能性もある。いっそしょっ引いちまった方がよくねぇか?」

魔王「しかしだな……」

オーク「お前さんが責任を感じる事じゃねェ。それにまだガキだ、更生させる手立てだって……」

リザード「へん!捕まえるならとっとと捕まえろ!!」

エルフ「アギト君……」

リザード「でもよ……そいつは関係ない!俺が命令してやってたんだ!悪いのは全部俺だ!」

オーク「ハァ!?何屁理屈捏ねてんだお前は!」

リザード「ええいどうでもいい!連れて行くなら早く俺を連れていけ!!」

魔王「……」

エルフ「違うの!私が悪いの!だからその子は見逃してください!」

オーク「ったく……お互い庇いあう気持ちがあるのなら少しでも他人の気持ちを考えろっての」

魔王「……そうだな、お前たちのしたことは決して許されることではないし、私も許すつもりは無い」

リザード「うう……」

エルフ「……」

魔王「私から金品を奪うなど重罪だ!死罪だ!!」

リザード「えー……」

オーク「いや、まぁ……考えたらそうか、そうなっちゃうか。確かに」

魔王「だが!しかし!」

魔王「私たちは今非常に困っている!なぜなら今日を過ごす宿が無い!」

魔王「と、いう訳で……」

エルフ「どういうわけ?」

魔王「簡単だ、お前たちの家に泊めろ。それで水に流してやる」

リザード「い、いいのか!?そんなことで!?」

オーク「随分と安い罪だなおい」

魔王「このままでは宿無し、よくてボッタくりの宿に辿りつきそうだからな。タダで泊まれるのなら悪い条件では無いだろう」

魔王「それに、お父様だったらこういったことも笑って済ませたハズだ。もちろん条件を付けてな」

オーク「無茶言うぜまったく……お前ら、それでいいか?」

エルフ「そ、それでお願いします!」

リザード「ケッ、信用出来るかよ」

魔王「言っておくが拒否権は無いぞ。今度逃げたら本当にお前"達"を捕えることになる」

リザード「ぐぬぬ……!」

オーク(ちゃっかり人質に取ってる辺りえげつねぇな)

オーク「……おい、どういう考えでこんな結論になったんだよ」

魔王「今言った通り、"お父様ならどうするか"と考えたからだ。間違っていたか?」

オーク「まぁ……アイツならそうし兼ねないが」

魔王「それと、この街の現状も知っておきたい。こういった子達に聞くのが一番わかりやすいと思ってな」

オーク「ちゃんとそこら辺はしっかりしてるのな」

エルフ「……あれ?」

リザード「どうした?」

エルフ「さっきの人……」

リザード「そういやどこ行ったんだ?いつの間にかいなくなっちまったな」

オーク「ほら無駄口叩くな!さっさと案内しろ!」

リザード「わ、分かってるようっせぇな!」

……

リザード「ここだよ、入れ」

魔王「入ってください、だ!」グリグリ

リザード「あだだだだだ!?何すんだよこのクソチビ!!」

魔王「チビだと!?お前達だってそう変わらないだろう!?」

エルフ「……」アセアセ

オーク「ここは児童保育か何かか?」

魔王「それはともかくとして……期待はしていなかったが、なかなか立派な場所じゃないか」

オーク「生活必需品は揃っているみたいだな。ベッドも上等なもんだ、こんなもんどうやって手に入れた?」

リザード「全部取ってきたもんだ。家主がいなくなった家からな」

魔王「そりゃ泥棒じゃないか」

リザード「使う奴がいないなら有効活用しない手はないだろ」


オーク「しかしこんなに沢山の物を……」

リザード「しょうがねーだろ。殺されたり連れていかれたり、ここから出て行ったりするヒトが多いんだ」

リザード「だから盗んだわけじゃなくてちょっと借りてるだけ。一生返さねーけど」

オーク「そりゃ火事場泥棒って言うんだぞ」

魔王「何故その……殺されたり連れて行かれたりする者がいるんだ?まずそこがおかしいだろう」

リザード「山賊の連中だよ。殺しては物を奪ったり、人を攫って売り飛ばしたりしてる」

リザード「酷い時は魔物が人の住む場所まで来ちゃうときもある」

エルフ「……私たちの居た孤児院、それで無くなっちゃった」

リザード「院長先生は俺たちを逃がしてくれたけど、襲われてその場で死んじまった。他の皆はどうなったかは知らねぇ」

オーク「……」

魔王「……」

リザード「ここら辺仕切ってる領主は何もしちゃくれない。それどころか賊の事を隠そうとまでしてやがる」

魔王「何故だ?自分の管轄内で起こった事を解決する義務があるはずだろう」

リザード「そこまでは知らないよ。俺たちはそんな事よりも、今を生きることで精いっぱいなんだ」

魔王「……強いな」

リザード「こうでもしなきゃ生きていけないなんて……おかしいよ」

オーク「……おめぇら、何歳だ?」

リザード「なんだよオッサン、突然……」

オーク「いいから」

リザード「……6歳」

エルフ「8歳です」

魔王「……私よりも年下か」

オーク「リザードマンもエルフも成熟が早く若い時期が極端に長い種族だ。なるほど、中々賢いとは思っていたが」

リザード「コイツ、年上の癖に俺がいなきゃ何も出来ないからな」

エルフ「……そっちだって私がいないと料理出来ない」

リザード「ふん!」

エルフ「……」プィ


オーク「こうしなきゃ生きていけない、ねぇ……こんな歳の子達にそんなことまで考えさせるこのご時世ってのは何なんだろうな」

魔王「……」

リザード「でも、何とかなるかもって思えるようなことが最近分かったんだ!」

オーク「んー?そりゃなんだ?でっかい山でも当てる旅にでも出るのか?」

エルフ「外は魔物がいっぱいで出歩けない……」

リザード「違うよ!魔王だよ魔王!」

魔王「魔王?それがどうしたというのだ?」

リザード「最近魔王が世代交代したって風の便りで聞いたんだ!」

エルフ「私たちと歳の変わらないヒトって聞いたから……今の事を知らせたら何かしてくれるんじゃないかって」

リザード「それで、わざわざ勉強して読み書きも覚えて手紙を出したんだ!」

魔王「ッ!」

オーク「まさか……こんな偶然が」

魔王「しかし、そんなものどうやって出したんだ?こんな場所では城になど届けられるルートなど無いだろう。それに検閲宣言に引っかかりそうだ」

エルフ「……瞬間移動するおじさんに頼んだ。直接ポストに入れてくれるって」

リザード「顔色悪い変な人だったけどね」

魔王(不気味だなおい)

エルフ「届くといいな……」

リザード「魔王だぜ魔王!きっと鋭い牙があってデカイ翼が生えてて角がズドーン!って出てるんだぜ!」

オーク(目の前に本人が居るが)

魔王(翼がある事以外は該当していないな、子供の夢を壊さないように黙っておこう)

リザード「……出来るならさ」

オーク「ん?」

リザード「すぐにでもこんな生活抜け出して。ちゃんとした場所で暮らしたいよ」

魔王「……そうだな」

リザード「だから、実際そんな会ったことも無いような魔王に頼るよりも、自分たちで何とかしなきゃな」

リザード「方法はどうあっても、俺は……守りたいものがあるから」チラッ

エルフ「……?」

オーク「よく言った小僧!」ガッ

リザード「グエッ!?なんだよオッサン!?」

オーク「男は度胸!行動力!そして気持ちを口に出して言えるのは大したタマだ!」

リザード「ヘッ!当然だ!男に産まれたからにゃあ意地張って見栄切って生きなきゃダメだろ!!」

オーク「盗みはご法度だがな!まぁいい気に入った!お前みたいな子供が欲しいぜ俺ぁ!」

リザード「え、俺は嫌だよ、太ったオッサンが父親なんて」

オーク「黙れ小僧!!ヒトの気にしていることを!!」


魔王「ハハ……変に同調しているな」

エルフ「……うん」

魔王(ともかく、疑念は確信に変わったか……)

魔王(側近と合流し次第、領主に話を聞かなければ)

魔王(理由によっては改善の余地は在るはずだ)

魔王(この子たちを見ていると……戦いだのなんだのと浮かれていた自分が恥ずかしいな)

魔王(これじゃあ、本当に子供なのは私の方じゃないか……)

小休止

失礼、大人(?)になってからも含めての見た目の年齢が知りたかったんだ。なんかずっとちっこいみたいだから。

>>157
ここでは10歳で相応の見た目ですが、以降の時間軸のSSでは諸事情で15歳程度で成長も老化も止まっています

失礼しました

本日休業
何度も失礼します

再開

魔王「あ、側近にはなんて言おうか」

オーク「そこんとこ考えて無かったな……どうする?」

リザード「なんだ?まだ誰かいるのか?」

魔王「ああ、友人……が、一人」

リザード「ふーん……もう暗くなるぜ?そいつも泊まるんならさっさと迎えに行った方がいいんじゃないか?」

オーク「そだな、それじゃあちょっくら行ってくらぁ」

リザード「道わかんねえだろ。着いていこうか?」

オーク「大丈夫だ、迷ってもここら辺うろうろしてりゃあ辿りつけるだろ」

エルフ「大丈夫かなぁ……」

魔王「大丈夫そうではないな。私も行こう」

オーク「アンタは残っててくれ。ここにいた方が安全だろう」

魔王「そ、そうか?んー……」

リザード「へッ!女子供が出歩いてたら誘拐されちまうからな!」

魔王「貴様も子供だろうが!!」グリグリ

リザード「あーうー」

エルフ「いたそう」

……

オーク「で、結局俺一人で来たが……」


側近「……」ブツブツ


オーク「お、いたいた。おーい側近」


側近「まったく、なんであんなクソの更に掃き溜めのような奴がここの土地の権利を持っているんでしょうね普通なら押収したいところですがまだ我々の力が足りないばかりにこんなことになてしまってきっとアレは誰かから騙し取ったんでしょうかそうに違いありませんねあそこまで酷い物言いいくら私と言えど太い堪忍袋の緒が細かく一本ずつ千切れて終いには燃えつきそうですよ大体何なんですかあのキザッたらしい服装に趣味の悪い成金漂わせる屋敷の内装は自分の身の丈に合ったものを用意しなさいというよりああもう彼の見た目でしたら豚小屋の肥溜めで十分ですねフフフフフフフフフフフフフ」


オーク「」

側近「あ、オーク護衛兵ご苦労様です。宿は見つかりましたか」ケロッ

オーク「いや、その……」

側近「独り言は気にしないでください、癖です」

オーク(魔王様、いつもあんな感じの小言言われてんだろうか)

側近「どうなんですか?見つかったのですか?」

オーク「お、おう。泊まるところは見つかったぞ」

側近「そうですか。ま、こちらがあの領主の屋敷の客人として泊まることが出来ればよかったのですが。何分我々を小馬鹿にしているようでそれは叶いませんでした」

オーク「しょうがねぇさ、お前さんも言っていたが国として王として、俺たちもあの子もまだまだ弱い立場だ」

オーク「元々土地を持っていた連中からしてみれば足元で騒ぐ鬱陶しい虫程度にしか思われないだろうな」

側近「徹底的に噛みしめるようにゆっくり失脚させてから財産の押収をするか、即座に暗殺して空白の土地になった領土を押収するか。どちらがいいと思いますか?」

オーク「いや、今そんな物騒な話してねェよ」

側近「それはともかくとして、明日の夜に食事会と称して我々を馬鹿にする会を開いてくださるらしいのでそこで今回の事について話しを聞きましょう。今日は本当にムカついてそれどころじゃありませんでした」

オーク(側近にここまで言わせるってホント何言ったんだここの領主は)

側近「それで、あの手紙について何かわかりましたか?」

オーク「あ、ああ。手紙を書いたやつとコンタクトが取れた」

側近「おや、大手柄じゃありませんか」

オーク「偶然だけどな。で、肝心の内容についてだが……」

側近「その顔は大当たりというところでしょうね」

オーク「賊の襲撃に町に降りてきた魔物の放置……どうも城にここら辺の惨状の報告が無いと思ったら領主が隠ぺい工作している臭いぜ」

側近「自分の土地の評判を落としたくないか。あるいは何か他の事を隠しているか」

オーク「賊に脅されているか或いは……」

側近「賊と徒党を組んでいるか」

オーク「そんなことがあり得るのか?自分とこの土地を荒らしてるんだぞ?」

側近「見返りに奪ったものの何割かを収められている……とか。考えたら色々あります」

側近「それに、そういった事例だって少なくはありません。彼らにとってはここに住む人々がどうなろうと自分達の生活が豊かになればそれでいいですし」

側近「仮に人がいなくなっても、また余所から人を招けばいい。情報を隠ぺいしている間はバレることはありませんしね」

オーク「だが、そんなメッキもいつかは剥がれる。魔物の影響で今この町から出られない連中も、何かの拍子にここから出て現状を伝える時が来るだろう」

側近「そこまで考える頭が無いのでしょう。所詮はただの金持ちの道楽気分、いずれ賊と手を組んだ、または見逃したことで自分たちが痛い目に会わない訳がないのに」

側近「そこは追々追求していきましょう。ところで、魔王様はどちらですか?」

オーク「ん?ああ、泊まる……あっちで待っててもらってるが……」

側近「軟弱もの」グキャッ

オーク「うごあ!?何で殴った!?すげぇ音したし!?」

側近「どこの世界に護衛対象を一人にする護衛兵がいるんですか。あの娘は国の宝、代えのきかない唯一の存在なんです」

側近「何かあったらつま先から頭にかけて削り殺しますよ」

オーク「そう無表情で言われると怖いっての……」

側近「早く案内しなさい。まったく、これ以上私の悩みの種を増やさないでください……」ブツブツ

オーク「わ、悪かったって……近いからつい置いてきちまったんだよ」

側近「早 く し ろ 護 衛 兵 失 格 者」

オーク「はい……」

小休止
パスタさんや林檎ちゃんはこの時産まれてすらいません

本日休業
書き溜めはもっとすべきだった

再開

……

側近「魔王様に傷が一つでもついていたら一つに付き一回斬ります」

オーク「ちょっ……いや、まぁ大丈夫だとは思うが」

側近「そうですかそうですか。楽しみですね」

オーク「お、迷わず来れたな。ここだ」

側近「迷う可能性があったんですか……ちょっと待ってください。なんですかこのオンボロ屋敷は」

オーク「中は案外しっかりしてんだ。入るぞ」

オーク「おーい、今帰ったぞー」


魔王「貴様!!私を誰だと思っているんだ!!」ガッガッ

リザード「誰だろうが知るかよ!!偉そうにしてたからムカついたんだよ!!」ガッガッ

魔王「私は偉いんだ!!」ガッガッ

エルフ「……!」アタフタ


側近「……生傷だらけですね」

オーク「oh......」

魔王「お、帰ってきたか。随分早かったではないか」ボロッ

リザード「なんだ?このチンチクリンなねーちゃん」ボロッ

側近「私がチンチクリンな事はともかくとして、これはどういうことでしょうか魔お……むぐッ」

魔王「シッ、今はそっちで呼ぶの禁止」

側近「……いまいち状況が呑み込めませんが、あなたがそういうのなら従いましょうか」

側近「それで。何故こんな場所に、こんな子供たちと、こんな風に殴り合っていたのか。説明をどうぞ」

魔王「今日泊めてもらう場所がここで」

リザード「そこを紹介させられたのが俺たちで」

エルフ「お互いに態度が大きいから気に入らないって殴り合いになりました」

側近「迅速でよろしい。とりあえず護衛兵、後で折檻です」

オーク「マジですかい……」

側近「大マジです」

側近「信用できるヒト達ですか?」

オーク「今のところは、な」


魔王「私の方が年上だぞ!敬え!」ジリジリ

リザード「俺がここの宿主だ!俺のルールに従え!」ジリジリ


側近「……ま、魔王様も馴染んでいる事ですし、信じましょうか」

側近「経緯については後で色々聞かせてもらいますが」

オーク「ああ、今回の件も含めて後でな」

リザード「で、アンタらが言ってたもう一人ってのはこのヒトでいいのか?」

魔王「ああ、そうだ」

側近「はい、それでは今晩お世話になります」

リザード「こっちは脅されて渋々置いてるんだ。勝手にしろ」

側近「それでは」ゴシュッ

リザード「ウグッ……!」バタッ

オーク「何で殴った!?」

側近「男の子が女の子を殴るもんじゃありません。元気なのは良い事ですが、嫁入り前なのですから傷が残ったらどう責任とるつもりですか」

リザード「お……大人しく殴られてろってのか……」

側近「その通りです」

オーク「随分と横暴だな……」

エルフ「皆さん、お夕食が出来ましたので召し上がってください」

魔王「ほう、お前は気立てがいいんだな。そっちのトカゲは心配じゃないのか?」

エルフ「いつもの事だから……」

オーク(いつもこんな目に会ってるのか)

魔王「それじゃあ腹も減ったし遠慮なく!いただきますだ!」

側近「このスープは……」

エルフ「畑で採れたお野菜を煮込んだものです。よく分からない物を沢山詰め込んでますけど」

側近「そんなものよく調理したうえで食べられますね。食中毒とか怖そうですが」

魔王「そうか?なかなかうまいぞ?」モッキュモッキュ

側近「あなたは真っ先に食べないでください。毒見、早く」

オーク「もう遅いとおもうけどなぁ」モグモグ

側近「役立たずめ……」

リザード「アッー!!俺の分まで食ってるんじゃねーよ!!」

魔王「うるさい!黙って寝てたお前が悪いんだ!」

リザード「寝かされたんだよ!?主にお前のせいで!?」

側近「ウルサイとまた黙らせますよ」

リザード「ヒィッ!」ビクッ

オーク「あんまり脅してやるなっての。完全に怯えてるじゃねーか」

側近「幼いころに植え付けられた恐怖というものは大人になっても残るそうですね。興味があるので試してみましょうか」

エルフ「やめたげて」

――――――
―――



魔王「……ふぅ」

側近「夜中に一人で外に出るなんて危険ですよ」

魔王「ああ、お前も来たのか」

側近「当然です。それも私の仕事の一つなので」

魔王「アイツらは?」

側近「二人とも騒ぎ疲れて眠っていますよ。護衛兵が御守りしてます」

魔王「アイツは何だかんだで子供が好きだからな。私も何度も世話になっている」

側近「黙っていれば可愛い子達なんですけどね」

魔王「ウルサイのはあのリザードマンの子供の方だけどな」

側近「……大体の事は護衛兵から聞きました。あなたはどうしたいですか?」

魔王「領主と話をする。方針を決めるのならばそのあとだ」

魔王「もし賊に脅されて口封じでもされているのならば助けたいし、そうでないのなら……」

側近「そうでないのなら。あなたに誰かを処罰することはできますか?」

魔王「……最悪のケースだが、それも考えなければいけないか」

側近「こういう時こそ即答してほしかったのですが」

側近「どの道、我々に黙って他者を苦しめていた時点で答えは一つですが」

側近「……一つ、脅し文句で言っておきます」

魔王「なんだ?」

側近「あなたのそれは優しさではなく甘さです、一種の驕りと同じ。結局、ダメな連中はどう転んでもダメ。いつか足元すくわれますよ」

魔王「ヒトを信じることが悪い事か?」

側近「疑うことを知らないということが愚かだということです。ハッキリ言ってしまいますが」

魔王「ホント……ハッキリ言うんだな」

側近「あなたの為ですから。それで聞かないというのなら……それでも別に構いませんが」

側近「さて、この話は明日決着をつけるので……まぁいいでしょう」

側近「それより、今日は随分とはっちゃけてましたね。お城では見せなかった楽しそうな笑顔……突然どうしたのですか」

魔王「同じくらいの年の子と触れあったことなんて一度も無かったからな」

側近「……そういえばそうでしたね」

魔王「友達と言える存在も無く、お父様の後ろにくっ付いて歩いていた記憶しかないな」

側近「そういった存在を用意しなかった私たちに問題があります。寂しかったでしょう、申し訳ございません」

魔王「寂しいと思った事なんて無いよ。竜爺にオーク護衛、お父様にそれに……」

魔王「お前がいたからな」

側近「ッ……」

魔王「なんだ?いつもみたいに何か言ってみせろ」

側近「……」

魔王「どうした?照れてるのか?」

側近「うるさい」

魔王「ハハハ!顔が真っ赤だぞ!」

側近「うっさい」

魔王「ともかくだ。今は立場も関係無いゆえ、こうして自分が魔王だということを忘れて楽しんでしまった」

側近「息抜きも必要ということですよ。ここ最近ずっと気張っていた方がおかしい状態でしたから」

魔王「しかし、それでは魔王の名が遠のくだけ。一日も早くお父様のようにならなければな」

側近「あなたはあなたのままでいいんですよ」

側近「泣いて笑って怒ってまた泣いて、先代が亡くなられる前のあなたのままでもいいんです」

魔王「それじゃあ……ダメなんだ」

魔王「もう泣かない。泣き言も言わない。お父様が亡くなられる間際にそう約束した」

魔王「立派になって、早くこの国を発展させる。それが私がお父様に出来る唯一の手向けだ」

側近「……」

魔王「あーあ、なんか疲れたな。明日も早いしそろそろ私は戻って眠るぞ」

側近「はい、寝床はすでに用意させています。そちらでごゆっくりと」

魔王「ああ、おやすみ」

オーク「……話は終わったか」コソッ

側近「コソコソしなくても堂々と現れればいいじゃないですか。空気を読まずに」

オーク「空気読まなかったらまた俺を切り刻むだろアンタ……」

側近「あの程度で済ませてあげたんです。感謝してほしいくらいです」

オーク「……あの子、少しは俺たちを頼ってくれないもんかね」

側近「ずっと一人で突っ走ってますね。私はそう感じますが」

オーク「俺もだ」

側近「死者の言葉は重い。それは重々承知しています、しかし……」

オーク「あの子は歪んでそれを受け止めちまってる。俺には"常に泣くな"なんて風には聞こえなかったんだけどな」

側近「誰にも覆せないその言葉は、時として心を蝕む呪いとなります……それに気が付くかどうかはあの娘次第」

オーク「潰れないように見守る事しか出来ないか」

側近「壊れないように、そして絶やさないように……」

側近「あの娘は私には眩しすぎる……眩しすぎるほど純粋なんです」

側近「決してあの娘が後悔しない結末を……私は与えたい」

オーク「惚れこんでるねぇ、お前さんが。珍しい事もあるもんだ」

側近「はい。私は彼女を愛することが出来てよかったと、本心から言えます」

オーク「……そっか。そうだったな」

小休止
いい加減側近をどうにかしないと誰が主人公だか分からなくなる

本日休業の為これで許して……
ユニコーン「角ー、角はいらんかねー」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395152314/)

なんかとてつもなくショックな事言われた気がする
前みたいなSSは多分もう書けないのでご容赦ください……

再開

――――――
―――


『誰だ、俺を呼ぶのは』


「この剣は……危険だ。あの子を求めているとでもいうのか」

「処分いたしましょうか」


『違う、お前達じゃねぇ』

『誰だ、誰が力を欲している』


「それは出来ない。この剣でなければ、我々は対抗することも出来なくなってしまう」

「聖剣は……」

「悔しい事に、僕では使うことが出来ない。それに、アレは所有者が既に決まっている」


『下らねぇ神器の話なんてしてるんじゃねぇ』

『俺を使え……俺の望む使い手を探せ!』


「この剣は……いずれ、あの子の身を滅ぼすことになりかねない」

「今までの使い手がそうだったように……ですか」

「封印してしまおう。いつか、必要とするその日が来るまで」

「分かりました。あなたがそうおっしゃるのなら……魔王様」


『ここにはいない……それじゃあどこに……』



『そうか、まだその域まで達していないってのか。……お前か』




魔剣『やっと見つけた』

――――――
―――



魔王「ッ!」

側近「お目覚めですか、魔王様」

魔王「……あ、ああ」

側近「昨日はよく眠ったというのに移動中の馬車で居眠りとは。慣れない環境でお疲れでしたか?」

魔王「そういうワケではないが……」

オーク「随分うなされていたが、大丈夫か?」

魔王「問題ない、少し妙な夢を見ただけだ」

側近「夢を見るということは眠りが浅いということですね、やっぱり疲れているんじゃないですか」

側近「これから領主との会食ですが、無理ならキャンセルしましょうか。むしろ私の方からキャンセルしたいくらいですが」

魔王「無理ではないし約束を取り付けたのはこちらだ。そんな事は許されないぞ」

オーク「そうそう、何事にも信用は得ないとな。そういったことを無下にゃ出来んだろ」

魔王「まぁな。それに、昨日は彼らにあんないい寝床を用意してもらったんだ。眠れなかったなんて贅沢な事は言えん」

側近「いい寝床ねぇ」



―――
――――――

リザード「どうだ!俺の拾ってきたベッドの感想は!」

魔王「固い!」

リザード「俺もそう思う!」ガシッ

魔王「そうだったのか!」ガシッ

側近「何くだらない奇妙な友情ごっこしてるんですか、行きますよ」

リザード「気を付けろよ、こんな時間でも野盗が出る時は出るんだ」

エルフ「それに、私たちみたいにまた盗みをしてくる人もいると思いすから……気を付けてください」

オーク「それをしていたお前達に言われてもなぁ」

リザード「もうやらねぇっての!多分」

オーク「男に二言は!」

リザード「無い!!うるせぇな分かってるよ!」

魔王「声を掛けてくれるということは、私たちを心配してくれているんだな」

リザード「ふん、一晩を過ごした仲だからな。それに楽しかったし、そのくらいの義理は果たすよ」

側近「文面だけ追うと誤解を招きそうですね」

オーク「ま、あんまり言えることは無いが達者でな」

エルフ「さよなら」

リザード「とっとと行きやがれってんだ!」

魔王「ああ、じゃあな」

――――――
―――


魔王「……何とかあの生活を改善させてやらなければならないな」

オーク「おうよ、それが俺たちの仕事だ!」

側近「気が重いですが、あなたがそういうのなら私も最善を尽くしましょう」

魔王「私はまだ他人と話すということに不慣れだ、だから補助を頼むぞ」

側近「言われずとも」

側近「ところで魔王様、どんな夢を見ていらしたんですか?あまり良い物では無さそうでしたが」

魔王「お父様とお前が出てきていたな」

側近「おや、縁起がいいですね。きっと今日はいいことありますよ」

オーク「何故自信満々にそんなことが言えるんだ……」

魔王「……なぁ、剣って喋るのか?」

側近「……は?」

魔王「いや、なんか夢で剣に話しかけられたような気がしないでもないような……」

側近「……」

魔王「待て!またそんな可哀想なものを見るような目で私を見ないでくれ!」

側近「まぁ夢ですしね。そんなこともありますよね、はい」

魔王「やめてくれ」

側近「と、言うのは冗談で。ありますよ、喋る剣」

魔王「あるのかよ!?」

オーク「オイ」

側近「話してもいいでしょう。どうせいずれは手にすることになるのですから」

魔王「二人は何を知っているんだ?」

側近「知っているも何も、喋る剣についてはあなたがここに来る前に馬車に積んでいたではありませんか」

魔王「……魔剣か!」

オーク「そうだ、ありゃ喧しいぞ」

側近「封印した理由が常時喋り続けていたためという事ですからね。鬱陶しい事この上ない」

魔王「強すぎる力がーとかとてつもない呪いがーとかの類じゃなくて?」

側近「……うるさいから封印した、それ以上の事はありません」

魔王「あれ?」

魔王「ゆ、夢の内容と随分食い違うな……あのシリアスなのはなんだったんだ」

側近「あくまで夢ですので、気にするだけ無駄ですよ。さ、到着したようですので降りましょう」

魔王「何か納得いかん」

オーク(全部は語らないんだな)

側近(そりゃそうですよ。多分この娘、とてもショックを受けると思いますから)

魔王「それで、約束の時間は何時だった?」

側近「16時です。が、早めには到着したくはなかったですね」

オーク「早く着くことに越したこたぁねぇだろ」

側近「基本的に約束の時間の15分後に姿を見せるというのがマナーですよ。早く到着しても準備中でしょうし」

魔王「それじゃあここで待つのか?」

側近「いえ、私が先行して連中の動向を伺うので合図したら入ってきてください」

魔王「な、なぁ。敵陣に向かう訳じゃないんだからさ」

側近「それではお先に失礼します」

小休止

色々考えた結果、ここから面白く出来る自信が0になったので手直し全開で最初から書き直します

追ってきていた方、申し訳ありません
このSSは没にしますorz

仮面男と鎧少女、夫婦揃って没かー……

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