~1156年、八丈島~
俺「なにィーッ、それは本当なのか!」
部下「はい。聞くならく、結核を患っているとのこと。俺殿、これは絶好のチャンスですぞ。ライバルが衰弱死すれば、天下は貴方様のものに……」
俺「よし! ちょっと行ってくる!」
ジャポォーン!
ザパァ! ザパザパァ!
俺「よし! 鎌倉についたぞ!」
ドンドン! ドンドン!
俺「おい開けろ! 俺が来たぞ! 開けろ!」
守衛A「痴れ者ッ! ここをどなた様の屋敷と心得る! 貴様のような下郎が、敷居をまたげるはずなかろう! 疾く帰れ!」
守衛B「おい、待ち給え。右目から顎にかけて走っている傷痕……7尺にも及ぶ身長……。間違いない! 先の対戦で崇徳上皇側についた、俺とかいう化け物ではないかァーッ!」
守衛A「な、なんだってェーッ!? 殿の宿敵ともあろう御方が、何故ここにいらっしゃるのだ! 丁重にもてなしたい所だが、敵軍の将ゆえ、そういうわけにもゆきませぬ!」
俺「さっさとライバルに会わせろ。テメェらみたいな郎党とくっちゃべってる時間なんか、無ェんだよクソが」
守衛A(おいどうする! 殿の部屋に通してさし上げるか!?)
守衛B(待て待て、いくら殿が認めた良き敵と言えど、所詮敵は敵ぞ。病に乗じて、首を獲りに来たのやもしれん!)
守衛A(しかし、小脇に林檎や蜜柑の入った籠のような物を携えているぞ!? あれは如何なること!?)
俺「邪魔するぞ!」
守衛A「アッ、ちょ、やめ……」
ドカーン
お邪魔しまーす!
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ライバル「何奴……ゴホッゴホッ」
俺「俺だ! 見舞いに来たぞ!」
ライバル「貴様は鎮西八郎ではないか……ゴホッ、敵方の人間が、なぜ見舞いなど……」
俺「貴様に死なれては困るからな! ほれ、果物だ! これで栄養をつけよ!」
ライバル「私に死なれては、困る……?」
俺「元服前から、貴様とはよく争ったものだな。握り飯の大食い合戦に始まり、相撲や徒競走、背比べ。好きな女子の取り合いでは、俺とお主ふたりとも負けて一緒に悲しんだのを覚えている」
ライバル「そんなことも……あったな……」
俺「何年戦ってきたと思っておるのだ。お主はもはや、俺の半身のようなもの。その半身が病で倒れるなど、あまりに情けない」
ライバル「武士ならば……戦場での死こそ誉れなり……か……ゴボッ」
俺「然り! お主を討つのは俺だ。断じて病などではない! お主がその程度の男でないことは、誰よりも俺が知っている!」
俺「林檎、剥いてやったぞ」
シャクシャクッ! シャクッ!
ライバル「う、うまい……」
俺「おい! なんか随分と肩が凝ってそうだな! ちょっと服を脱げ、揉んでやるぞ!」
ライバル「礼をせねばならんな……」
俺「なんの、礼などいらぬ! お主が再び戦場で采配を振るうのであるならな!」
ライバル「ところで貴様……今は八丈島に配流されているのだろう? 如何にして鎌倉まで戻ってきた……船か?」
俺「いや、泳いで!」
ライバル「フッ……流石は鎮西八郎よ……やることなすこと、全てが超人的……ゲホッ! ガフッ! ガッ……ウッ……ウーッ!」
俺「大丈夫か! どこが苦しい! 言え!」
ライバル「もう帰れ。私が死ねば、疑われるのは貴様なのだぞ……」
俺「クッ、林檎や蜜柑を食べても結核は治らぬ、というのか。俺の力は及ばなかったというのか! ち、チクショオ……!」
ナデナデ
ライバル「八丈島からわざわざ見舞いに来てくれた……。それだけで、私の心は満たされたのだ……。ありがたく思うぞ」
俺「ふッふぐうッ……ううッ……うがああああああッ!! あああああッ!!!」
ライバル「泣くな、鎮西八郎……。私の魂は、常に貴様と共にある……」
俺「やめろ」
ライバル「この先、貴様がどんな苦境に陥ろうと……そばに私がいることを忘れるな……」
俺「やめろ!!」
俺「何か、言いたいことはないか!」
ライバル「そうだな……昔の話だが。京の東山に、たいそう美しい桜が咲いていた……ゴホッ。妻と共に眺めた桜よ」
俺「あれが、見たいのだな!?」
ライバル「否、もはや叶わぬ……。ただ、どこでもいい。最後に、桜の花が見たかった」
バッ!
俺「よし、走ろう! 京まで!」
ライバル「八郎……貴様、本気で申しておるのか? 鎌倉から京まで、どれくらい離れていると思っておる……」
俺「さぁ、俺の背に負ぶされ! お主には随分と世話になったな! 矢の雨を食らったり、池に突き落とされたり、散々な目に遭わされた! その借りを今ッ! 返すッ!」
ライバル「よ、よさんか! 私は病人なのだぞ……ゴホッゴホッ! グゥッ……!」
俺「好きなだけ咳をしろ、好きだけ血も吐け。だが俺は止まらん! 鎌倉から京まで、休まず駆けぬけてくれるわッ!」
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