魔王(女)「異世界人を召喚したらサラリーマンが沢山来た」 (104)


侍女「魔王さま。近頃は人間どもの侵攻が激しく領土も大幅に失われています。住む場所を追われ人間の街の近くの危険な土地でや工場で寝泊まりする魔物たちも大勢いる始末です」

魔王「分かっておるわ。野蛮な勇者どもめが……」


侍女「資源も目減りする一方で、魔物たちからも不平や不満の声が増えています……」

魔王「うむ。こうなれば選択肢は一つ。異世界の戦士を召喚し、妾の美貌でたぶらかすことによって味方とする他あるまい」


侍女「ですが最高ランクの禁術である異世界人ガチャは一度きりしか使えません。当たりを引けるかは運しだいですね……」

魔王「幸い妾はハイパー超絶ナイスバディな美女じゃし、異世界の戦士となれば、勇者たちが知りもしないような魔法や武芸を習得しているはずじゃ」

侍女「はい。なんの苦労もなく敵を瞬殺して『アレ? やりすぎちゃいました?』なんて言い出す学生を頑張って召喚しましょう」

魔王「さあ異世界の戦士よ、召喚に応じ顕現するがよい! そして妾のために身を粉にして働くのじゃ!!」



――ピカーーーッ!!



男たち「「「「召喚に応じ参上致しました」」」」



魔王「おおっ! 一度に四人も!? すごいぞ妾!」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1514563027


ゼネ男「この度は手前どもへご相談をいただき誠に有難うございますっ! 自分は四井澄供建設(株)のゼネコン男と申します!!」 名刺 スッ


証券男「お招きいただき非常に光栄です。デイワ証券(株)から参りました、証券男と申します」 名刺 スッ


医薬男「ビーザイ(株)の医薬男です。私どものノウハウを是非ともお役立て頂ければと存じます」 名刺 スッ
 

製造男「ヨドタ自動車(株)の製造男でございます。何卒宜しくお願い致します」 名刺 スッ


魔王「あっはい……」


魔王「それで、貴様らは何ができるのじゃ。剣か、魔法か? 人間どもを倒せるなら何でも構わんぞ」

ゼネ男「はい! 自分は施工管理に携わっておりましたので、建築や設備の面でお役に立てるかと思いますっ!!」

証券男「わたくしはセリング、ディーラー、ブローカーと一通りの部署を経験しておりますので、財務会計や資産運用の面でお役に立てるかと」メガネ クイッ

医薬男「私は政策部門に異動する前には開発管理をしておりましたのでお力添えを差し上げられるかと存じます」

製造男「私も業務効率化や組織編制といった面でお役に立てるかと存じます」


魔王「このだぁほ共めが! 妾は貴様らの特殊能力を聞いておるのじゃ!」


ゼネ男「いえ会社員ですので、そういうのは!」

証券男「いえ会社員ですので、そういうのは」メガネ クイッ

医薬男「いえ会社員ですので、そういうのは……」

製造男「あ、ゴルフなら得意です」


魔王「じゃかあしいわ!」


証券男「では我々も今より魔王軍の社員ということで、早速社内を拝見させていただきたく存じますが」 メガネ クイッ

魔王「折角の異世界人ガチャが……もう終わりなのじゃ……」

ゼネ男「いえ! それはまだわかりません!」

医薬男「社会において勝利する為に必要なもの」

証券男「それは使いこなせるか分からないような特殊能力ではありません」

製造男「必要なのは知識と経験、そして応用力です」

魔王「まあ良い。もうどうせ最後じゃ。妾自ら、わが軍を案内してやろう」


ゼネ男「はい魔王様……いえ、社長!!」

証券男「社長」 メガネ クイッ

医薬男「社長」

製造男「社長」


魔王「じゃかあしいわ!」


【鍛冶場】

製造男「おお。ここが御社の……いや当社の武器工場ですね。鋳造で剣や斧を製造し、刃を研ぎ、持ち手を付ける。素晴らしい」

ゼネ男「凄い! 魔物たちが剣を鋳造している! まるでロード・オブ・ザ・リングに出てきたサウロンの軍みたいだっ!」

魔王「どうじゃ。驚いたか」


医薬男「見たところセル生産(※1)のようですね」

証券男「えぇ。これはライン生産に変更すれば業務効率化が図れるのでは?」

魔王「ふふん。愚かなり人間よ。確かにライン化すれば魔物一匹一匹の工数を減らし、製造を簡略化できるかも知れんのじゃ」

証券男「はい」 メガネ クイッ

魔王「浅はかじゃ! 全くもって浅はかなのじゃ!! やはり人間などでは妾の高貴な考えは読めんようじゃな」 ニヤリッ


製造男「なるほど。敷地面積が不足しているのですね?」

魔王「……っ!? き、貴様なぜそれを!!」



※1 セル生産:工業に縁のない大多数の人が創造する、あの順当に人が並んでAさんは作業A、Bさんは作業Bをやるコンベアがライン生産。
        このセル生産は逆に一人の作業員が複数の工程に関与、もしくは最後まで手を付ける。本来は多品種を少量ずつ作るのに向いている。


製造男「ひょっとして、この工場では以前はライン生産をしていたのではないですか?」

魔王「ぐ……その通りじゃ。じゃが、ライン生産は場所をとるし在庫もかさむ。魔物たちの兵舎が足りず、あげく倉庫は在庫でいっぱいとなって不平不満が増えていたのじゃ」


魔王「じゃが、妾の天才的な問題解決能力でセル生産方式へと切り替えたのじゃ」

ゼネ男「なるほど!」


製造男「社長の言うとおり、セル生産では一人または少数の工員が原材料から完成品までの全行程に着手しますので仕掛品(※2)や半製品(※3)の在庫は少なくなります」

魔王「うむ!」

証券男「なるほど」

製造男「逆にライン生産の場合は必然的にラインの間に仕掛品や半製品の在庫が発生します」

製造男「また、ライン生産の場合はラインの配置によっては無駄な空間が生じ、効率低下や工場面積の圧迫に繋がります」



※2 仕掛品:原材料に手が加えられているが、まだ完成品ではないもの。ここで言うと型から出されてまだ刃の付いていない剣など。

※3 半製品:仕掛品の内その状態でも買い手があり製品として成立するもの。基盤や部品。ここで言うと単に棍棒として見た場合での上記の剣。


製造男「つまり、社長の仰られた問題とは、在庫保管による工場あるいは居住空間の面積圧迫。そうですね?」

魔王「その通りじゃ。じゃがそれもセル生産に変更することで見事に解決しておるわ! 魔王たる妾の才覚を見くびるでない!」


製造男「はい。すぐに問題点に気づき、解決策を講じた行動力は素晴らしいです社長」

証券男「素晴らしいです社長」

ゼネ男「素晴らしいです社長!!」

医薬男「素晴らしいです社長」


魔王「じゃかあしいわ」


製造男「ですが……セル生産に変更したことで、以前と比較して品質のバラツキが増え、生産性も低下した。違いますか?」

魔王「うぐっ! 貴様……な、なぜそれを!? 妾も数か月後に報告書や帳簿を見てやっと気づいたことだと言うのに……!!」


医薬男「なるほど。我らが魔王軍では多能工(※4)がまだ十分に育っていないと、そういうことですな」

製造男「さすが医薬男さん。その通りです」

魔王「確かにセル生産においては鋳造した剣の取出し、叩き、刃付け、柄の仕上げまでを一匹の魔物が行う故、多能工が必要なのじゃ」

証券男「ほう。それによって担当した工員ごとに品質のバラツキが生じるということですね」

製造男「その通りです。逆にライン生産ならば一つの製品に対して一人の工員が触れる時間は短くなり、全製品の品質の均一化を図ることが可能です」



※4 多能工:一人で何種類かの作業や工程を遂行する技能を身につけた作業者のこと。育てるのが大変。逆にライン生産は単能工を沢山雇用すればOKなので簡単。


魔王「だぁほが! そのライン生産では途中品の在庫で面積が圧迫されるから困っておるのじゃ」

製造男「ライン生産は本来少品種大量生産に適した生産方式であり、当社の武器製造に適した方式であると言えます」

製造男「そのライン生産で仕掛品や半製品の在庫が増えるのは、工程ごとの仕上げスピードの均一化が出来ていないことが原因と思われます」

魔王「スピード!?」


製造男「つまり鋳造の型から取り出した剣ばかり在庫が溜まってしまったのは、その工程よりも時間のかかる工程が後ろに多くあったからです」

魔王「むう、なるほど……その工程ごとの作業開始~完了までの時間を均一化すれば余分な在庫を保管する必要が無くなる訳じゃな」

製造男「理解が早くて助かります」

製造男「工程ごとの作業均一化、これをラインバランシングと言います」


魔王「ならばそのラインバランシングをすれば良いのじゃな」


製造男「はい。ですがこの武器工場の規模、生産スピードから言って仕掛品と半製品の余剰在庫だけで敷地面積が圧迫されるとは思えません」

医薬男「なるほど。完成品在庫の削減と……」


証券男「そしてスペースの有効利用を行う訳ですね」

製造男「その通りです。かんばん方式(※5)を用いて必要生産数を下流から知らせることによる完成品・仕掛品の在庫削減をして、」

製造男「そして、SLP(※6)を用いての工場設備そのものの小面積化。これは敷地の有効利用だけでなく移動距離の短縮による生産効率向上にもなります」

魔王「むう。人間にしてはなかなか悪くない発想なのじゃ。よし。すぐに工場再編に取り掛かるが良い!」


製造男「はい。社長」

証券男「はい。社長」 メガネ クイッ

ゼネ男「はいっ! 社長!!」

医薬男「はい。社長」


魔王「じゃかあしいわ」



※5 かんばん方式:ト〇タ式生産の根幹となる手法。生産の下流側、つまり製品(完成した車)に近い側が一つ上流(部品)に対して必要生産数を指示するための札。
          これがあると必要な部品を、必要な時に、必要な分だけ作れる。言い換えると製品の完成に対する余分な部品在庫が全く無い。
          非常に経済的で、高く評価されている。経営学の世界では、かめはめ波なみに誰でも知ってる必殺技の一つ。

※6 SLP:システマティック・レイアウト・プランニング。
      製造設備はもちろん、人の動きや部品倉庫、前工程→後工程の移動、または音や温度も考慮した、工場の中に何をどう置くかのレイアウト。




……三か月後


魔王「おぉ! すごいぞ。損耗した分だけ即座に良質な武器が補充できているではないか!」

製造男「はい」


魔王「おまけに余分な在庫を抱えず、尚且つ部品ごとの製造を効率的な配置で行うことで、敷地面積を有効に利用できておるのじゃ」

製造男「はい。在庫削減と工場レイアウトの効率化は敷地の有効利用、そして品質向上の両方に効果を発揮することが可能です」

魔王「これで勇者どもに奪われた領地を幾分か取り戻せるかもしれぬのじゃ!」


侍女「魔王さま。北の砦より伝令です!!」


魔王「む。何じゃ。良い知らせだったら聞いてやるわ」

侍女「あ、いえ……」

魔王「んん?」

侍女「あ、あぅ……」


証券男「社長。パワハラは単にコンプライアンス違反というだけはなく生産性やイメージの低下に繋がります」

証券男「また、CSR(※7)や企業価値にも疑いの目が向けられます。どうかお気を付けください」 メガネ クイッ

ゼネ男「どうかお気を付けください!!」

製造男「どうかお気を付けください」

医薬男「どうかお気を付けください」


魔王「じゃかあしいわ」



※7 CSR:コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ(企業の社会的責任)のこと。

      近頃はなんちゃって意識高い系がやたらと使いたがるので知らないとニワカビジネスマンからバカにされてしまう面倒くさいワード。
      要するに高い法令順守し、人や社会のためになる、模範的な企業であろうという心構えみたいな感じで覚えればOK。

ちなみにレスポンシビリティは責任の所在がどうあるのか(未来的)で、
似た言葉のアカウンタビリティは(説明の)責任を負うものは誰なのか(過去的)という意味で微妙に異なる。
どっちも日本語だと一言では言い表せないので一応横文字で言う意味はある。


魔王「まあよい。はよ申すのじゃ」

侍女「北の砦は度重なる人間どもの侵攻で老朽化していて、そう長くは持ちそうにないと……」

侍女「それに居住区画のインフラ設備の劣化も激しく、魔物たちの不満の声も大きくなっています」

魔王「ぐぬぬぬ……」


製造男「なるほど。建物が劣化して持ちそうにないと」

医薬男「そうですか」

証券男「それはよかった」

魔王「なんじゃと!! 貴様ら何をふざけたことを……!!」

証券男「なんせ、当社にはうってつけの人材がいますからね」


ゼネ男「はいっ!! まだ健全な建物を建て替えるとあってはゼネコン屋の勿体無い精神に反しますからね!!!」


続く。
明日は建築で魔王さまへご助力差し上げたく存じます。


【北の砦】


魔王「ここが問題の北の砦じゃ」

証券男「なるほど。確かに劣化が著しいようですね」 メガネ クイッ

製造男「外壁は丸太を鉄材で束ねたもの。砦は石材建築のようですね」

証券男「外壁は鉄材が錆びて倒壊寸前……砦もクラック等の破損が随所に見られますね」


魔王「うむ。事実、砦の三分の一は既に崩れた石材で使用不能になっておる」

医薬男「崩れる……ということは当社がある地域は地震が発生するのですか?」

魔王「うむ。貴様らを召喚した場所でもある魔王城の近くには巨大な火山がある故な。わが領地一帯が地震の比較的多い地域なのじゃ」


医薬男「火山ですか……それにこの地域は長雨も降りますよね?」

魔王「うむ。雨ばかりということもないが月に数度は雨も降ろうし、季節によっては多くもなるのじゃ」


医薬男「ゼネコン男さん。これは……」

ゼネ男「はいっ!! この砦を短命たらしめた原因は鉄部の錆対策を怠ったことです!!」


魔王「サビ対策じゃと!?」

ゼネ男「火山灰は一般的に酸性。それに風雨にも晒されるこの環境下で鉄部・鋼材の酸化対策を怠るとは、建築瑕疵とまで言えます!!」

証券男「ほう。流石はプロフェッショナル……仰りますね」


ゼネ男「加えて、この天候や立地から察するにこの地域は恐らく地盤も頑強とは言い難いはずです!!」


魔王「ま、まあそうかも知れぬが、地盤など今更どうしようも無いじゃろう。妾に領地ごと引っ越せと申すのか?」

ゼネ男「違いますよ社長っ!!! 必要なのは地盤をどうこうすることではありません! 地盤に合わせた基礎を敷くことです!!」


魔王「基礎?」

証券男「基礎?」 メガネ クイッ

医薬男「基礎?」

製造男「基礎?」


魔王「って、じゃかあしいわ!」


ゼネ男「基礎とは建物を支えるための根幹部位ですっ! 基礎さえしっかりしていればっ!! 建物は決して死にません!!」


証券男「なるほど。確かにその通りですね。数年前の例のマンションの事件ではデベロッパー(※8)に随分泣かされましたよ。株価も激しく動きましたからね」

ゼネ男「あ……え、はい」

証券男「どこの企業とは言いませんがね。ええ」

ゼネ男「はい……まあ……あれは杭基礎が建物を支えるに足る地盤まで届いていなかったことが原因でした」


魔王「そもそもその杭とか言うのがよく分からぬが……」

ゼネ男「はい! 社長がそう仰るのは当然です! この世界の建築はすべてベタ基礎かフーチング基礎。すなわち地盤表面に基礎を構築し建物を乗せる方式ですので!」


魔王「貴様らの言う杭は地面に刺しこみ深くまで到達させるものということじゃな」

ゼネ男「その通りです。屈強な地盤まで基礎を到達させるか、もしくは多少軟弱な地盤でもがっちり根を張るように摩擦を生じさせる方法もあります」

ゼネ男「証券男さんの話にもありましたが基礎は建物の一番根幹の部分です! 安全性、資産価値全てに影響する重要部位なのですっ!!!!」



※8 デベロッパー:開発業者のこと。不動産業界で言うと事業主または協同売主のこと。
          ちなみに証券男の言う杭偽装事件は事業主も施工主も販売主も同じグループ企業なので言い逃れできない。

医薬男の有能感


魔王「むぅ。その基礎が重要なのは良く分かった。じゃが、いくら土台がしっかりしていようと上の建物が崩れたりサビついたりしては意味がないであろう」

ゼネ男「流石は社長!! よくお気づきですね!!!」

魔王(いちいち声デカイな……)


ゼネ男「建物に求められるのは耐震性、そして対候性! その為には土台や柱、梁といった骨格を守るための筋肉や皮膚が必要です」

魔王「ほう」

ゼネ男「加えて維持修繕のし易さも求められます。現在の石積みの砦は頑強ですが一度崩れたり破損すれば修復が困難なうえ、ドミノ式に崩壊する危険性もあります」


ゼネ男「そこで鉄筋コンクリート造(※9)での建て替えを推奨いたします」

魔王「こんくりーと?」



※9 鉄筋コンクリート造:RC造とも。もしも安マンションを探しているなら、とりあえずこれか鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)を選ぶと無難。
             と言っても最近はこれしかない。
             建築を支える鉄骨をコンクリートで覆うことで酸化から守ることが目的。なので定期的にコンクリートの中性化試験が必要。


医薬男「我々の世界での標準的な建築材料です。水、セメント、砂利や砂等の骨材を混ぜ合わせたものとなります」

ゼネ男「コンクリートは素晴らしいですっ! 扱いやすく、圧縮にも強い。……そして何より……アルカリ性なのです!!!」


魔王「……なるほど。貴様の言いたいことが見えたのじゃ」

医薬男「鉄などの鋼材は頑丈で建築にはうってつけですが、ご存知の通り非常に錆びやすい」

ゼネ男「そんな鉄筋を酸化から守ってくれるアルカリの鎧がコンクリートなのです!!」


ゼネ男「更にそのコンクリート自体がアルカリ性を損なわないよう、表面を防水塗膜で保護してやれば数十年からそれ以上の持ちが期待できます!!」

魔王「うむ! よかろう。すぐに建築に取り掛かるのじゃ」


ゼネ男「はい! では早速部下の魔物たちに材料の調達を……」

魔王「ところで、さっき言っておった『せめんと』という材料は手に入るのじゃろうな?」

ゼネ男「はい石灰石や珪藻土、石膏といった天然素材から製造が可能です!!」


魔王「せっかいせき? けーそーど?」

ゼネ男「え?」

魔王「その天然素材は我が領土にあるのじゃろうな?」

ゼネ男「あ、えー、その……」 シドロ

魔王「……」

ゼネ男「その件については……そうですね。いったん至急……確認をさせていただいてですね……」 モドロ


証券男「ご心配には及びません社長。その件でしたら、ゼネ男くんの指示でわたくしが既にプロジェクトを立ち上げております」 メガネ クイッ

ゼネ男「!?」


魔王「ほう」

証券男「社長のご指摘の通り、当社の領土内での産出が困難な資源であったことから、すでにホビットとの商取引契約を締結しています」


ゼネ男(しょ、証券男さんっ!)

証券男(この貸しは高くつきますよ) メガネ クイッ


魔王「しかしハーフリングたちと資源取引とはいつの間にそんな真似をしたのじゃ!?」

証券男「元々ホビットとの貿易協定そのものは結ばれていたかと存じます。私はそこから輸入の幅を広げただけですよ」


侍女「確かに、ハーフリングとの貿易協定を結ばれたのは魔王さまです。矮小種族との取引きなどと魔王軍の中でも賛否が割れたご決断ではありましたが……」

魔王「じゃが結果的には成功しておる。農作物や木工品などの輸入は非常に有益なものじゃった。妾の英断があってこそなのじゃ!!」

証券男「えぇ。ですからわたくしもそのチャンネル(※10)を利用させていただいた次第ですよ」 メガネ クイッ



※10 チャンネル:物流を担う内外の機関のこと。ちなみに「チャネル」と呼ぶか「チャンネル」と呼ぶかでその人の職業がだいたい分かる。
         SCMや3PLに係る職業で学問としてそれを学んでいる人は「チャネル」と呼ぶ傾向があるので真似するとなんか通っぽくてかっこいい。
         言うまでもないが綴りは「Channel」なので全く同じ。


※番外 ハーフリング:ダンジョン飯などでも見かける種族名だが元々はホビットの別称。
           ただしホビットに言うと「元々この身長で別に半分(ハーフ)な訳じゃねーよ」と怒られるので、ホビットを見かけても言わないようにしましょう。

続く。
実家に帰るので続きは年明けに。
良いお年を。

>>26
理系は良くも悪くも社内で存在感がつおいですからね。仕方ないですね。

召喚された時に洗脳されてるという設定とか出した方がよくないか 異世界に召喚され、端的にいって侵略国家、湾岸戦争のイラクに協力する状況で簡単に協力するか

れんげ「青色申告するのん!」と同じ読んで学べるSSだと思ったら同じ作者だった

サークル仲間の奴が魔王になる人と同じ方かな

皆さんあけおめことよろ

>>36
分かりづらくてすみません
小説でGA文庫二次選考の中の人に序盤が長すぎると言われたので、この作品は当初から「いきなり物語を始めよう」という目標のもとに書かれています
その葛藤はなろうかカクヨムに載せてる『経営コンサルタントとしての経験は、御世界にて軍師を勤めるにあたり、お役に立つものと考えております。』で描いていますので、よければそちらでどうぞ

>>41
どうもです

>>42
それは多分別の人です


侍女「でもハーフリングって鉱物にまで詳しかったんですね。知りませんでした」

証券男「いえ。実際に採掘しているのはドワーフですよ。ホビットがそれを購入し、粉に挽いたものをしかるべき価格で当社が購入しているのです」


魔王「んむ? それではひょっとしてドワーフたちの直接売価よりも高い金額をハーフリングどもに払っているのではないじゃろうな?」

証券男「流石です、社長。おっしゃる通りホビットには五割ほど上乗せした金額を支払っております」


魔王「だぁほが! それならばわが軍がヒゲモジャどもから直接購入し、わが軍で加工した方が得ではないか!」

侍女「そ、そうですよ。単に少し加工して横流ししただけでお金をぼったくるなんてずるいです。ハーフリングめ」

証券男「いえ、これはインバウンドSCM(※11)における正しいありかたですよ。彼らはバリューセリング(※12)を実施しているに過ぎません」



※11 SCM:サプライ・チェーン・マネジメントのこと。古典的には自社で物流経路を持つ企業(amaz〇n、Y〇dobashi、UNIQL〇等)で使用される単語だったが、昨今は協力業者も含めたモノの流れ全般を指す場合が多い。

      インバウンドは自社より上流(原材料~自社入荷までの物流。アウトバウンドは自社より下流(自社出荷~顧客)を指す。
      ちなみに「モノ」とカタカナで書くと「俺は経営の三要素であるヒト・モノ・カネの理論を知ってんだぜ」と意識高い系であることを主張できる。

※12 バリューセリング:物品の直接価値に付加価値を別途創造し、その合計分の価値を商品(財・サービス)として提供する手法。
            お洒落なホテルのBARラウンジでイケてるスツールに座り街並みを見ながら飲むコーラが1,000円くらいするのと同じ。もしくはおっパブのビール一杯が高いのと同じ。


侍女「ばりゅーせりんぐ?」

証券男「付加価値販売と言い換えてもいいでしょう。彼らはバケツリレーのように単に左から右にモノを販売している訳ではないということです」


証券男「ドワーフは大変気難しい種族です。当社が直接販売契約を取り付けるのはなかなかに骨が折れそうですし、営業活動にかかる諸経費もかさみます」

魔王「なるほど、当初に発生する営業の人件費はもとより、両社の関係を維持するためには定期的に顔を合わせる必要があるということじゃな?」

証券男「はい。その交渉をわざわざ彼らが担ってくれている訳です。そして当然、物流における運搬コスト、そして製品加工コストも彼らの元で発生します」

魔王「まぁそうじゃな」


証券男「そして、重ねて申し上げるならば、彼らのような種族、あえて中小企業と言い換えますが、彼らにビジネスチャンスを与えることもまた、我々大企業の果たすべきCSR(※7参照)と言えます」

魔王「ふむ……。ふふん。まあ良いじゃろう。持たざる者に機会を与えるのもまた、偉大且つ天才たる妾の役目じゃからな!」

魔王「よし! その石灰石とやらをハーフリングどもから輸入し、鉄筋コンクリート造にて砦を再建するがよいのじゃ!」

証券男「はい。偉大且つ天才の社長」

医薬男「はい。偉大且つ天才の社長」

製造男「はい。偉大且つ天才の社長」

ゼネ男「はい!! 偉大且つ天才の社長!!」 メガネ クイッ

魔王「じゃかあしいわ」

間違えてゼネ男に眼鏡クイさせてしまった……

なお年齢は魔王さま>>(桁の壁)>>医薬男>>製造男>証券男>ゼネ男です


……半年後

医薬男「ゼネ男くん。聞きましたよ。北の砦の竣工おめでとうございます」

ゼネ男「ありがとうございます。皆さんのご助力と部下の魔物たちの働きのおかげです」

証券男「なんでも居住利便性と堅牢さを兼ね備えた素晴らしい設計だとか」


ゼネ男「はい。居住棟などの建物はラーメン構造(※13)で汎用性を持たせつつ、筋交いを多く組み込むことで耐久性を高めてあります」

ゼネ男「そして攻撃に直接さらされる主たる砦には壁式構造(※14)でより一層強固な造りにしてあります」

製造男「私の部門にも人事異動で北の砦に転属になる魔物がいますが、今から楽しみだと喜んでいましたよ」


ゼネ男「すでに魔王城や近隣の改修計画も開始されていますからね!!! 領土中の建物を金城鉄壁、円満具足、悠々自適にしてやりますよ!!」

医薬男「ははは。これは心強い」


※13 ラーメン構造:柱と梁で組んだ立方体や直方体の骨組みを好きな形で組み合わせるイメージの建築方式。
          アクア用の水槽台や4本足の学校椅子をイメージすれば如何に頑丈か想像できるはず。
          ちなみにこの『ラーメン』はドイツ語の額縁が語源であって、小泉さんとも小池さんとも関係ない。

          この北の砦の例で言うと、一階はエントランスや共同浴場・食堂などの間取り。
          中層階は兵卒用の間取り。上層階は士官用の間取り。など好きなレイアウトにできる。


※14 壁式構造:コンクリ壁で組んだ同一形状の箱を積み重ねるイメージの建築方式。
        地震等にも非常に強いかわりに、延々同じ間取りで下から上まで重ねなければならない。
        同じサイズのカラーボックスをピッタリ積み重ねるイメージ。


魔王「医薬男!! 医薬男はどこじゃ!!」

証券男「……?」

医薬男「はい社長。お呼びでしょうか」


魔王「おお、ここにおったか」

医薬男「どうかなさいましたか?」


魔王「どうもこうもないのじゃ。ゼネコン男はや製造男がこうして成果をあげておるにも拘わらず、何をのん気にしておるのじゃ」

証券男「私も大きな成果は今のところ出しておりませんが」

魔王「貴様は巧みな為替操作で我々の通貨の価値下落を防ぎ(※番外2)、且つ人間の国の株取引で利益を上げておろうが!」

証券男「我々の元居た世界では為替や株価のインサイダーや蓋をするなどの行為は禁じられていましたからね。まぁここではやり放題ですが……ふふ」 メガネ クイッ


※番外2 通貨:過去の魔王さまの功績によって魔王軍、ドワーフは共通通貨、ホビットは日常的に数種類の通貨を用いる社会様式になっている設定。
        上の方々の雑談と被るのと、外貨にはそこまで詳しくはないことと、株の話は過去作とも重複するので割愛。

>>60

かこさくはなにが?


魔王「医薬男。貴様は四天王の中でも最年長者だというのに碌な成果を出しておらぬではないか」

証券男「我々のことは四天王ではなく取締役会(※15)とお呼びください」

魔王「どちらでもよいわ。貴様は元の世界では薬学に係る職であったと聞いておったが、そうならば妾の想像もつかないような発明を出来ぬのか!?」

医薬男「ご期待に沿えず誠に申し訳ございません」

魔王「貴様が今日までに発明したものといえばすでにあるような魔法や薬などばかりではないか」

医薬男「おっしゃる通りでございます」



※15 取締役会:会社法で設置が義務づけられています。所謂専務等。
        ちなみ会社によっては経営会議の議事録やビデオが見れたりすると思いますがすごく勉強になるのでお勧めです。

>>61
れんげ「青色申告するのん!!」

ついでに小説の宣伝をしてもよければ経営学の基礎はこちら。
『経営コンサルタントとしての経験は、御世界にて軍師を勤めるにあたり、お役に立つものと考えております。』
GA文庫、講談社で2次選考落選。ラノベ層向けに書いているのでこのスレより子供向けです。


証券男「つまりアイデア創出が最初期段階となりますが、当然我々が思いもよらないは作り出せん」

証券男「そしてアイデア同様に、材料もまた、当社が保有しているものからしか選択できません」

魔王「ま、まあその通りじゃな」


証券男「だからこそ、これまで医薬男さんは下地作りに徹してきたんですよ。例えるなら粘土細工を作る前に粘土を柔らかくこねくり回すように」

ゼネ男「おお流石です!!」


証券男「加えて、医薬男さんの元々いた業界というのは技術シナジー(※15)を重要視する傾向があります」



※15 シナジー:相乗効果のこと。上のほうのSCMの説明でも書いた自社物流もこの一種。
        この場合「売る部門=お店」と「届ける部門=配達」が1+1=2以上になったということ。

        医薬系メーカーでは「医薬品目線では以前からあるもの」をスポーツ用品や食品保存、食品添加などに応用することなどもありえる。
        更に顕著な例では富士フィ〇ムは写真のフイルム製造で培ったコラーゲン研究を活かして化粧品を作っているし、〇王は洗剤などで培った界面活性剤の技術をフロッピーディスクの生産に使ったりもしている。


魔王「シナジー?」

証券男「多角化した二つ以上の事業における相乗効果のことです。」

ゼネ男「おお! 建設業界でも聞いたことがあります!!」


証券男「ええ。CRM情報(※16)やノウハウ、データ、そして顧客そのものを多角化したグループ企業で共有というのもよくある話です」

証券男「当社においても魔法事業、薬学事業、武器兵器事業、軍事戦略事業といった一見独立した個々の事業部門が相互に影響しあい、シナジーを発揮しています」

魔王「なるほど」


証券男「そうでしょう。医薬男さん」

医薬男「いやはや、その通りです。本当は次回の経営計画会議で社長にご報告したかったのですが、実際にはこれらの相乗効果が徐々に実を結び始めています」



※16 CRM:カスタマーリレーションシップマネジメント。顧客関係管理のこと。

      お店なら大体、合計購入額、最終来店日、来店頻度などでランク付けされる場合が多い。
      エンドユーザー対象の場合は大体ポイントカードで管理される(んだと思うけど>>1は物販業界じゃないので知らない)。


魔王「ほう」

医薬男「具体的には魔物たちが持つ分身魔法、そして本社である魔王城にある幻術トラップ。これらを応用してプロジェクションマッピング通信装置の開発に成功しております」

魔王「プロ……マ……?」


証券男「立体映像通信ですよ。こちらをご覧ください」 ピコッ

侍女「はい、もしもし」


魔王「なんと……妾の部屋の清掃中のはずの侍女ではないか!」

侍女「あ、魔王さま。お疲れ様です」


ゼネ男「凄い! スターウォーズみたいだ! まるでこの場にいるように見える!!」

申し訳ない

>>62>>64の間を飛ばした

********

魔王「あげくの果てに先日の報告書を見れば『一粒で火山を噴火させる薬』? いつ使うのじゃ!! 面白い発明じゃろうと使い道が無ければ全く意味がないじゃろう!」

魔王「もっとこう飲んだら全身の傷が治る豆とか、一時的に身体能力が倍増する注射とか、そういうのは出来ぬのか?」

製造男「それは……」

証券男「社長。お言葉ですが、それは不可能と言えるでしょう」

魔王「む?」

証券男「ビジネスにおいてプロダクトデベロップメントとは開発グループの発想の及ぶ範囲からしかアイデアの創出は行われません」

証券男「創出されたアイデアを精査し、効果を検証し、開発の要否を検討しそして実際に商品が出来上がる訳です」

魔王「うむ……」

********


製造男「というかなんで証券男さんと侍女さんが持ってて、共有してるんです?」

証券男「え?」

侍女「え?」 ///


医薬男「いやはや、それはさておき、これもまた開発のファーストウェーブに過ぎません」

医薬男「ほかにも火山を噴火させる薬を開発致しました。この錠剤一粒であっという間に火山を噴火させることが可能です。ポイズンピルと名付けました」

魔王「使い道なさすぎじゃろ……。効果のわりに名前可愛すぎじゃし」


ゼネ男「まだまだ研究初期段階っていうことですね!!」

医薬男「これもまた、部下の魔物たちが手を貸してくれて、ナレッジマネジメント(※17)を実施できた成果だと言えるでしょうな」

魔王「なるほど。闇雲に時間を浪費していた訳ではないということじゃな」


医薬男「はい。暗黙知(※18)を解消し、全員がそれぞれアイデアを創出できる環境を生み出す。その下地作りのため、長くのお時間を費やしてしまいました。不徳の致すところでございます」

魔王「うむ。良い。妾が間違っておったわ」


製造男「え? で、証券男さんと侍女さんはどういう関係なんですか?」

ゼネ男「どういう関係なんですか!?」

魔王「どういう関係なんじゃ?」

証券男「じゃ、じゃかあしいですね」 メガネ クイッ




※17 ナレッジマネジメント:暗黙知を共有し形式知にすること。そもそも集団でのアイデア創出は集団浅慮などの問題もあって思った以上に難しい。
              みんなが同じ土台に立って会議や意見提出をするためにもまずは知識を平準化しようよということ。
              上での証券男の言葉で言うなら「粘土細工を作る前に粘土を柔らかくこねくり回す」段階の作業。


※18 暗黙知:分かっているけど言葉では説明しづらい知識のこと。
       職人技などは大体これだが、企業では当然「見て盗め。下積み10年だ」などとは言っていられない訳で、上記のナレッジマネジメントが必要になる。
       ここでは医薬男に魔王軍の魔法や技術を共有することはもちろん、魔物の種族など毎に知識・常識の差を埋めることを実践した結果、やっと二種の技術のシナジーにこぎつけてアイデアが創出されたということ。

あ、火山の話被ってるわ……
脳内保管してください……


……一年後


魔王「フハハハ! ついに人間どもに奪われた領土の五割を奪還したのじゃ!!」


ゼネ男「おめでとうございます社長」

証券男「おめでとうございます社長」 メガネ クイッ

製造男「おめでとうございます社長」

医薬男「おめでとうございます社長」


魔王「うむ!!」


魔王「貴様らも遠からず有休を消化するがよいのじゃ。早期に奪還した土地にはすでにレジャー施設も建設されておるぞ」

医薬男「お気遣い痛み入ります」

魔王「この調子ならば人間どもも迂闊に魔物や亜人を虐げる訳にもゆかなくなろう! フハハハ。良い気分じゃ」



侍女「魔王さま、魔王さま! 大変です!!」

魔王「なんじゃ騒々しい」


侍女「それがアライアンス(※19)を結んでいた人間どもの商会から情報提供を受けたのですが……」

魔王「受けたのですがなんじゃ?」


侍女「それが人間どもが新たな勇者として、異世界の戦士を召喚したそうです」

魔王「なんじゃと!? ぐぬぬ……卑怯な人間どもめ」



※19 アライアンス:企業間連携のこと。単なる一時のコラボではなく継続的に協力体制を敷くことを指す場合が多い。
          ただし実施する場合は身内ではなくあくまで他人同士の協力であることに注意する必要がある。
          教義では航空会社や鉄道会社が一部の情報やデータを共有するなど。広義では電子マネー対応やポイントカード共通化も含めて言う場合もある。


ゼネ男「ご心配には及びませんよ社長っ!!」

製造男「我々とて元の世界では社内外に蔓延る有象無象のライバルたちと渡り合って今日に至る身です」

医薬男「その人間の勇者がどのような職業のかたであれ、知識と経験の汎用性で我々四人を上回ることは難しいでしょう」

証券男「むしろ同じ世界の者であれば思考も読みやすいと言えますね」 メガネ クイッ


魔王「ふむ。よかろう! 魔王軍四天王の力を見せつけてやるのじゃ!!」



侍女「ま、魔王様」

魔王「なんじゃ。まだ心配なのか貴様は」


侍女「いえ、ちょうどいま通信が……その……前線で人間の軍と戦っていた5万の魔物たちが、人間の勇者によって倒されました」


ゼネ男「!?」

製造男「!?」

医薬男「!?」

証券男「!?」


魔王「は? ……ど、どうなっておるのじゃ! 不可能じゃろう。そんなのは」

侍女「聞いたことがあります。魔王さまが召喚を行った際にもお話ししましたが、一定の条件を備えた異世界人は召喚の際に特殊能力を得ると」


魔王「それは……つまり超強力な異世界人が召喚されてしまったということではないか……」


……一か月後


侍女「魔王様見てください。勇者の魔法で人間の戦線に見るも巨大な砦が!!」


魔王「ぐぬぬぬ……。あんな適当でいい加減な設計では荷重を支えきれぬはずじゃのに……」


……二か月後


侍女「魔王さま。勇者が黄金を無限に生み出すせいでホビットが次々寝返ってしまいます」


魔王「だぁほどもめが……。目先にとらわれおって……」

魔王「無限に生み出せるということは任意のタイミングでハイパーインフレを起こして経済を崩壊させられるということではないか……」



……三か月後


侍女「ま……魔王さま。き……北の砦が一瞬で吹き飛ばされました。ど……どうすれば……」


魔王「………………」


……四か月後


侍女「魔王さま……勇者たちが、魔王城の間近にまで……」


製造男「……」

証券男「……」

ゼネ男「……」

医薬男「私どものご助力が至らないばかりに、申し訳ございません社長」


侍女「……いえ、最後の一兵になるまであきらめてはいけません! 刺し違えてでも勇者をっ!!」

魔王「……」


証券男「最早打てる手は多くはありません。我々が勇者へ交渉を申し入れます」

医薬男「できるだけ長引かせますので、社長はどうかできるだけ遠くへお逃げください」

ゼネ男「トニー・スタークなみの巧みなトークで勇者を足止めしてやりますよ!!」

製造男「こんなこともあろうかとドワーフとコネクションを設けてあります。どうかそちらに……」



魔王「この、だぁほどもめが! ビジネスにおいて必要なのは決死の覚悟ではないわ」

魔王「必要なのは知識と経験、そして応用力じゃ!!」


製造男「それは……仰る通りです。ですがもはやどうすることも……」

魔王「最初に貴様らから社長と呼ばれた時からずっと考えておったのじゃ」


証券男「……?」

魔王「魔王とは象徴じゃ。魔物たちは魔王へ献身し、魔王はその対価として、皆の畏怖と畏敬の象徴であり続ける」

医薬男「はい」



魔王「では、社長は何をすれば良い。社長の役目はなんじゃ?」

ゼネ男「それは……協力会社との関係構築や……業務の指針を定めたり……」

魔王「それは本当に社長にしか出来ない仕事か? 貴様らのような優秀な役員がおれば必ずしも必須では無いじゃろう」


製造男「では、社員たちの象徴として……」

魔王「本当にそうか? 貴様ら『サラリーマン』とやらは魔物が魔王にするように、社長に対し献身するのか?」


証券男「……いえ。それは……」

魔王「うむ。当然違う。だからこそずっと考えたのじゃ。社長がなんであるのか」


侍女「ま、魔王さま。勇者どもが来てしまいます。……お話は逃げながらでも……」

魔王「社員は社長に献身せず、では何に献身するのか。それは会社という組織に対してじゃ。社員は組織の為に働く。そうじゃな」

医薬男「……。はい。おっしゃる通りです」


魔王「ならば社長の責務は組織を守ることか?」

ゼネ男「……はい」


魔王「だぁほが! 会社を守っておるのは実際に最前線で戦う社員じゃろうが!」

ゼネ男「……そ、そうです」


魔王「その社員の働きによって多くのステークホルダー(※20)との関係が出来上がり、会社の存在価値は増し、重要になっていくな」

製造男「……はい」


魔王「ではその会社がある日突然無くなったら貴様らどうするのじゃ! 困ってしまうじゃろうが!」

証券男「……はい」



※20 ステークホルダー:利害関係者のこと。狭義には従業員や顧客、取引先、債権者、株主。広義には地域住民や会社が係る全ての人を指す。


魔王「社長の役目とは……社員が働き席を置くための『会社を創めること』」

魔王「大勢のステークホルダー達の期待を裏切らぬよう『会社を導くこと』」


魔王「そして、立ち行かなくなった際に逃げ出さずに『会社を終わらせること』じゃ」


侍女「……」

魔王「残るのは貴様らではないわ。だぁほどもめが。貴様らは都合の良い時だけ社長の座を奪うつもりか!」

医薬男「……」

魔王「それに貴様らが勇者の手にかかってしまえば、残った魔物どもを誰が守ってゆくのじゃ。いま必要なのは象徴ではなく実務じゃろうが!!」

ゼネ男「……」

魔王「妾の魔王軍じゃ。妾が終わらせねばならぬ。残った全軍に伝えよ。魔王軍は本日をもって解散じゃ。資本金は共有持分に応じて分配せよ」

製造男「……」




魔王「……残った魔物たちを頼んだぞ」

証券男「分かりました……。そこまで決意なされているのであれば、私に考えがございます」


…………


魔王「…………。フハハハハ!!! 我が無敵の軍勢を打ち倒し、よくぞこの魔王のもとまで辿り着いたな。勇者どもよ!!!」



ニート「いや無敵の軍勢って、クソ雑魚しかいなかったんスけど」

ヒロイン1「はぁ! アンタがエルフのお姫様とイチャイチャしてる間に私らは魔王軍の将軍に超苦戦してたの忘れたの!?」

ヒロイン2「…………相手は3,000年以上生きてる怪物。……女性に見えても油断しない方がいい……」

ヒロイン3「魔王よ。貴様がつくした極悪非道の限りも今日までだ! その血で罪を洗うがいい!」

ヒロイン4「あらあらうふふ」


魔王「人間風情が。この魔王たる妾に罪を洗えとは……片腹痛いわ!」

ヒロイン1「言っとくけど、このニートはスケベで変態だけどチョー強いんだからね! アンタなんか瞬殺よ瞬殺!」

ヒロイン4「ニート君は全属性の魔法耐性を備えているうえに現在確認されている全てのスキルを自在に使用できますから、いくら魔物の王でもお相手にならないと思いますよぉ」


ニート「っていうか一人でオレと戦うんスか? もっとエスタークとかアルテマウェポンみたいなの百匹くらい用意した方がいいスよ」


ヒロイン4「あらあらうふふ、魔王さんにはピンチに駆けつけてくれる白馬の王子様はいないんですねぇ」

魔王「……ふん。ホワイトナイト(※21)を求めるなどガラではないわ」


魔王「じゃが一人で待ち構える妾が絡め手を用いるとは予想しなかったのかのう?」

ヒロイン3「絡め手だと?」


魔王「異世界の勇者よ。ニートとか言ったか。……とっておきじゃ!! 貴様を好敵手と認め、このポイズンピル(※22)を使ってやるわ!!」




※21 ホワイトナイト:TOB(公開買付=不特定多数から特定企業の株を買い集める行為)等で経営を乗っ取られそうになっている会社に対し、友好的な他の企業が資本提携や株式引き受け等で助けに入る行為のこと。
           有名なのはチャルメラで有名な明星食品が外資系ファンドに敵対的買収を仕掛けられた際に、日清をはじめとする数社が明星を守る目的での資本提携を持ち掛けたエピソードなどがあります。


※22 ポイズンピル:TOB(公開買付=不特定多数から特定企業の株を買い集める行為)等で経営を乗っ取られそうになっている会社が、新規に自社株を発行して安値でバラ撒く行為。
          仮に、全部で100万株の会社を乗っ取ろうとした側が48%の株を集めたところで、新規に50万株を安値で他の人たちにバラ撒くと乗っ取ろうとした側の保有率は32%まで下がってしまう計算。
          当然使い方を間違えれば乗っ取ろうとした企業も乗っ取られそうになった企業も、双方とも二度と立ち上がれなないくらいの大打撃を追う可能性もあるかもしれない。


ニート「ポイズンピル? 毒薬? あぁ。あいにくオレ毒とか状態異常も一切効かない体質なんスけど……」

魔王「なぁに。一向に構わぬわ。さぁ、堪能せい!」 

ヒロイン3「錠剤が消えた?」

ヒロイン2「……転移魔法? どこに飛ばしたの……?」


--ゴゴゴゴゴゴ……



魔王「ハーーーハッハッハッハ! 我が軍の精鋭が開発したとっておきの秘密兵器じゃ!


魔王「あの錠剤一粒でこの城を囲む火山という火山が瞬く間に噴火するぞ!!」


--ゴゴゴゴゴゴ……

ヒロイン1「そ、そんなことをすればアンタだってただでは済まないじゃない!」


--ゴゴゴゴゴゴ……

魔王「ほう。それで?」



--ゴゴゴゴゴゴ……

ヒロイン2「……我々はマグマなんかに飲まれれば即死……。でも貴方は業火に焼かれしばらく悶え続けることになる」


--ゴゴゴゴゴゴ……

魔王「ああ、そうじゃな。そしてそれは勇者といえども同様じゃ!!」


--ゴゴゴゴゴゴ……

ニート「え? ちょ……楽してチーレム作れるって言うから来たのに。え? 俺まだ死にたくないんスけど」



--ゴゴゴゴゴゴ……

魔王「……さて、この城がマグマに埋もれるまで幾ばくも無いが……存分に語ろうか。なぁ、クソ雑魚の勇者とやらよ」





--ゴゴゴゴゴゴ……




魔王「フハハハハハハハハハハハハハハハ…………」



……一年後


侍女「はい。お問い合わせありがとうございます。モンスター派遣会社グッドアサイン(※22)、わたくし侍女が承ります」

侍女「はい。通信魔法の圏内であればどちらにでも派遣可能です」

侍女「はい」

侍女「はい。ご利用ありがとうございます」



医薬男「近頃は遠方からの問い合わせも増えましたね。そろそろまた支店を増やしましょうか」

証券男「当社の魔物たちは優秀な社員ばかりですから。リピート客も数多くバズマーケティング(※23)も期待できますしね」

ゼネ男「そろそろ本社ビルを建てて管理機能を集約しますか!!? 設計書きますよ?」


製造男「製造部門も悪くないですね。魔物を派遣した先がそのまま商品の買い手になってくれるといったシナジーもちらほら見受けられます」

侍女「当社の立体映像通信装置は本当にそこにいるかのようにリアルだと評判ですからね」

ゼネ男「この調子ならゆくゆくは魔物たちだけでも会社を回していけますね」


証券男「勇者たち一行があのマグマから脱出したと聞いた際には驚きましたが、あの一件で魔王軍に恐れをなし、遠くの地でひっそり暮らすことを選んだようですしね」



※22 アサイン:割り当てられる、選ばれる等の意味。
        ここでは名詞としてネーミングに使用したが、動詞として「アサインした」と使うと似非意識高い系の代名詞と言えるくらいクソダサい単語になります。
        >>1的には『日本語で言う文字数と大差ないもの』をあえて横文字で言うのはかなりダサいと考えています。(異論は認める)
        逆にここまでこのスレで出してきた単語はバリューセリング等の一部例外を除いて使うに値する単語だと思いますし、役にも立つと思います。


※23 バズマーケティング:いわゆる口コミ、ネットの評判などのこと。
             上の※22で書いた内容と矛盾して「クチコミ」と言った方が早いですが、この場合『マスマーケティング』、『ダイレクトマーケティング』等とバランスを取るための意味合いもあるのでやはり横文字で言いたいところ。

             余談ですが、「ダイレクトマーケティング」はスラングではステマの対義語ですが、経営学上の意味は生産者が自主的に行う広告という若干だけ異なる意味合いになります。


医薬男「ところで皆さん。今日はノー残業デーですよ」

証券男「はい社長」

製造男「はい社長」

ゼネ男「はい社長!」

侍女「はい社長」


医薬男「よろしい。では飲みに行きますよ」


製造男「行きますよ、会計女さん」

証券男「行きますよ、会計女さん」

ゼネ男「行きますよ、会計女さん!!」

侍女「行きましょう、会計女さま」



「じゃかあしいわ」






 お し ま い

100レス以内でこの結末で終えようというのは書き始めたときに決めていました。
奇しくもギリギリでしたがなかなか楽しかったです。

読んでくれた皆さんも乙。ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年01月06日 (土) 15:58:45   ID: BpvStlkg

これもう100レスまでいって完結してますけど
続きのせないんですか?

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