周子「あたしの魔法使いさん」 (47)

周子誕生日記念&ジュエルドノエル実装記念のモバマスSS、地の文ありの周子とそのプロデューサーのお話
若干ジュエルドノエルのネタバレも含むので念のため注意
しゅーこかわいいよ、しゅーこ

次から投稿していきます

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1513008255


――暗くなった事務所
あれほど賑やかに開催された誕生日パーティの熱ももうすっかり冷めてしまっている。
にも関わらず今日の主役であるあたしは1人ポツンと手持ち無沙汰にしていた。

こうして待ち続けてどれくらい経ったのだろうか?
もうそろそろ時計の長針と短針が真上を向いて重なり合おうとした時に一人の男がやっとあたしの前に現れた。

「――遅れて本当にすまない!」

男は目の前に現れるなり平謝りしだした。

一切言い訳をせずに謝罪から始めたことには一定の評価をしよう。

そしてまるで100m走の後のように肩で息をして、冬なのに汗だくな姿をみれば、全速力で間に合わせてきたこともわかる。

またそんな状態なのに謝罪したまま頭を上げない姿勢や仕事でも見たことがない申し訳なさ漂う雰囲気を見れば、彼の心中は自ずとも察することができる。

ただ、折角の今日という日なのにその手に荷物が全く見当たらないのはどうなのさ?


あたしは頭の中でそんなことを思いつつ、男の姿を尻目に如何にも『超不機嫌ですよ』というオーラを醸し出した。
……まあ本当のところはこの人が今日の日のためにどれだけ尽力し、師走に入ってから今日まで息つく暇もないくらいだったのはあたしが一番良く分かっている。

だから実際は『まあ仕方がないか』と思っており、それほどは怒ってはいない。
それどころか本来であれば尽力した彼を労い、感謝の気持ちを伝えねばならないところだ。

が、例えそうだったとしても今日は、今日だけはあえて怒るフリをしなくてはならない。
また他の誰でもなく、彼が彼だからこそ、あたしは怒るフリをしなくてはならないのだ。

アイドルになってから輝き始めた演技力をフルに用い、それを生粋の京女の魂であたしなりのアレンジをしてみる。

「ほ~、Pはん流石の気遣いやなぁ~。この時間ならいくら今日忙しいあたしでも二人っきりになれるもんなぁ~」

「…………すまない、周子……」

なんであたしが怒るフリをしてPさんが謝っているかだって?
何故なら今日はあたし、塩見周子の誕生日なのだ。
そんでもってPさんの両手はすっかり空で、プレゼントの類が見当たらなかったのだ。

シンデレラを迎えに来た魔法使いなら魔法くらいちゃんと使ってよね。


ポーンポーンポーン

あ、時計の音がなった。訂正、昨日はあたしの誕生日だったのだ。


――話は少し前に戻る

今日はあたしの誕生日ということで、夜に事務所での誕生日パーティーが企画されていた。

季節柄、忘年会も兼ねていたのもあったが、事務所の大方の人が参加してくれ大賑わいとなった。

パーティーの間、みんなが代わる代わるあたしを祝福してくれるもんだから、嬉しいような、むず痒いような、でもやっぱりほっこりとした感覚にずっと浸っていた。

……居場所ができるってホント良いことだねぇ。


楽しい時ほどあっという間に過ぎるということは事実のようで、始まったばかりと思ってたパーティーも
『宴もたけなわだが、未成年も多いから夜も更ける前に……』
ということで先ほど解散している。

未成年組は自宅や寮へ帰され、大人組はまだ年が忘れられないのか直ぐに二次会へ繰り出している。
そのため、今はもう事務所には殆ど人が残ってない。

そんな事務所であたしは人を待っていた。
何故かっていったらそりゃぁ……と頭の中で自問自答しかけたところで、入口の方から誰かがやってくる気配を感じた。

待ち人来たるかな?でもちょっと早い気もする。


「あら?周子はん、まだおったん?一緒に帰りまへんか?」

そこにひょっこり現れたのは待ち人ではなかったが、同じくらい大事な可愛い妹分だった。

「あぁ、紗枝はん。いや、ちょっと野暮用があってね……」

「ほー……今日の周子はんへ用がある人はぎょーさんおっても、周子はんの方が用のある人なんて……あぁ……そないなことか」

「ん、そういうこと」

特にこちらから何か言ったわけではないけど、紗枝はんは合点がいったようだ。

この娘はこういうところでやけに聡い。

「……しかしPはんもいけずやなぁ……折角の周子はんの誕生日やのにパーティーにも出ーひんで……」

そう、さっきのパーティーには肝心のPさんがいなかったのだ。

というの今日のために、年末の忙しい時期にも関わらず、予定を調整したツケを絶賛一括払い中だったのだ。

パーティーを盛り上げるためにあたしだけでなく、みんなの予定も調整したのだからツケは相当なものだろう。

それを示すように朝からずっと仕事にかかりきりで、こんな遅い時間でもまだ外出しており、今日は一度も顔を見てない有様だ。

「んー、まあ元から出られないって言ってたし。あたしのせいでPさんが忙しくなったのを考えるとあんまりワガママをいうのも、ね?」

「そないなこというて、ほんまはなぁ……?今日くらいワガママになってもええやない?」

理解の深いオンナを演じようとするも付き合いの深い妹分には即座に見抜かれる。

紗枝はんの言う通り、折角の誕生日なのにPさんから祝ってもらわなければ片手落ちなのも確かだ。

だからこそみんなが居なくなる中、ウダウダとここに残っていたのだ。


「まぁ事務所で待ってりゃ、帰ってきたPさんにきっと会えるでしょ。会えないなら会えないって連絡くれるはずだし。気長に待つとするわ」

「いじらしいなぁ……なら馬に蹴られんよう、お邪魔虫はさっさと退散するとしよか~」

「ちょ……お邪魔虫なんて……!しかも馬に蹴られるって……Pさんとはそんな仲じゃ……!」

「あら、ちゃいますの?……あぁそういや、"まだ"ちゃいましたなぁ……」

妹分の思わぬカウンターが見事にハマり、一発KO。あたしから出たのは"グッ"という声にならない声だけだった。

違う違う!違わないのはそうなんだけどさ!違うんだよ!まだ言えてないだけなんだよ!

「…………全く」

とはいえ、発破をかけられたんじゃあ、姉貴分としては恥ずかしいところを見せられない。

Pさんから貰う物を貰って、ついでに貰うべき言葉も貰ってやろうじゃないの!

「さて……それじゃあ少し待つとしますかね」


誰かが言ってたのをよく覚えてる。待てる女はいいオンナだと。

まあ遅くなるといっても、なんだかんだもう少しで来てくれるっしょ。

なんていったって優しいあの人があたしの誕生日を祝ってくれないはずがない。

……来て……くれる、よね……?


――そうして冒頭に戻る

今はもう魔法は解けてしまう時間帯だけど、あたしの怒りは解けずにいる。まあ所詮フリなんだけどね。

「Pはん、聞いてな。こないな時間になってしもたけど、実は帰れへん理由があったんよ~」

「………………」

「あたし、今日こ~んなにプレゼントがもろてな。持って帰るのがえらいなぁと困ってたんやわぁ~」

「………………」

「やから、これ以上プレゼントが増えたらどないしよと思ってた所なんやわぁ~。」

「………………」


「そしたらPはんが両手を開けてきてくれはってな。困っている担当アイドルを助けに来てくれはったんやんやねぇ~。」

「………………」

「流石の気遣いのお人やなぁ~。その気遣いに感謝してプレゼントを分けてあげたいくらいやわぁ~。」

「……………………本当に……すいませんでした周子さん……」

一通りPさんをいじめて怒ったフリを続ける。
実のところ途中から楽しくなってきたのは内緒ね。


……だけどもう頃合いだろう。あたしはわざとらしくため息をついた。

「……まあ、Pさんが忙しいって重々承知だしね……」

「それは、その――」

「ただそんな話をする前にさ、あたしはずっと待っててすっかり凍えちゃったってわけ。あったまらせてよPさん」

「……あったまるってどうやって?」

「あたしの隣空いてるからさ、ほらはやく!」

そういってあたしはPさんを隣に促し、座った瞬間くっつきだした。

今日は沢山の人と会ったにも関わらず、この人だけは特別な温かさを感じる。

こんなに温かいなんて、やっぱりこの人は魔法を使ってるに違いない。


「はぁ……Pさん、ぬくいわ~」

「まあさっきまでずっと走ってたからな」

「暖房替わりでよいよい~♪」

「ほいほい、いくらでも温めてやるから」

Pさんはそういってくっついてきたあたしをハグして迎え入れてくれた。

そうしてあたしの機嫌が少し直ったのを見て、少しホッとした表情を見せる。

平謝りが功を奏し、もう一押しすればあたしを宥めるのに成功するんじゃないかという希望を抱いているのだろう。

多分この後は甘い言葉を囁いて、宥めすかそうという思惑に違いない。

それこそがあたしの思惑通りだとも気が付かずに……。


「……その……周子……ほんとごめんな……いくら忙しかったからってプレゼントも用意できずに……」

「いいよ、Pさん。ただでさえ冬の稼ぎ時で忙しいのに、パーティーのためにみんなの予定を調整してたらね……。とてもじゃないけど時間なんてないよね」

「いや……そうだとしてもお前の特別な日だからな……。タイミングすぎちゃったけどプレゼントだってちゃんと用意するし、この埋め合わせは必ずするから」


「ほんと?!」

「本当だ」

「プレゼント用意してくれる?」

「用意する」

「埋め合わせしてくれる?」

「絶対する」

「何でもしてくれる?」

「何でもする……って、あー!そこまではいってないぞ!!」

「えっ……」

「ウッ……」


あたしは不安げな顔で上目遣いをしながらPさんの顔を覗き込んだ。

長い付き合いだ、Pさんがあたしの上目遣いに弱いのは良く知っている。

これを使って奢ってもらったことはPさんにスカウトされてから数えきれないくらいだ。

さらに今日に関していえば、Pさんに後ろ暗い気持ちだってあるはず。

だから、これが効果覿面じゃないはずがない。

Pさんも顔を背けたり、目を泳がしたりして、僅かばかりの抵抗をしようと試みていたけど、

最終的にどっちに軍配が上がるかなんて火を見るよりも明らかだった。

動揺しているPさんをもう少し見続けたい気持ちが湧き出てきた。

ただ動揺から立ち直られても困るので、今のうちに畳みかけるようにダメ押しておこう。


「何でも、する?」

「…………何でもします……」

「やったーん!言質とったりー!」

やったね、作戦大成功!無事、白紙の小切手を手に入れられた!

これで冬が近づいてきてからきてからずっと『どうしよう…』と胸でつっかえていた悩み事が解決できる!

嬉しくてつい、前にお仕事でやった時代劇みたいな口調になっちゃった。


「……で?何がご所望でしょうか、姫様?」

そんな心中を知ってか知らずかPさんは話を促してくる。

いきなり本題に行ってもいいけど、それじゃ流石に突拍子なさすぎるか。

それじゃあ、元々考えていた作戦も使ってみるとしますかね。
ずっと温め続すぎて腐っちゃうとこだったし。


「話は変わるけどさー。ほら、これから寒い季節じゃん。冬の撮影とかって大変なんだよね~」

「あー、寒くても衣装は決まってるからなぁ…しかも場合によっては季節先取りで撮影したりするし……」

「そんな時は『これ終わったら自分にご褒美あげよー』とか思ってるわけよ」

「なるほどな、まあそういうのは励みになるよな」

「逆にご褒美がなきゃ、もっと凍えちゃうな~。これから冬本番だし、もっとご褒美があったら頑張れるんだけどなぁ~」

「ほぅほぅ、つまりはそのご褒美が欲しいわけだな。さっきも言ったけど何でもするぞ。どんとこい!」

「さっすがー♪男らしいねPさん!惚れちゃうよ!」

「はっはっはー、よせやい照れるだろ!」


「ということで、埋め合わせは一緒にクリスマスのお出かけとか。そんな感じで、よろしゅーこ♪」

「はいはい!お安いごy…………え?今なんて言った?」

「寒い季節を乗り切るには、ほっこり気分をいっぱいためておかなきゃねー」

「周子、さっきなんて言った?なんかクリスマスって言葉が聞こえた気がするけど、気のせいだよな?」

「さあさあ、すっかりあったまったし帰ろうよPさん!あ、荷物多くて困ってたのは本当だからプレゼントは持つの手伝ってね!」

「おい、周子、なに帰り支度してるんだよ!待てよおい!」

「じゃあ先に下で待ってるよ、あんまり待たせるとまた冷えちゃうから早くしてねー。よろしゅーこ♪」


そう言いながらまだ騒ぎ続けてるPさんを尻目にあたしは事務所からさっさと退散する。

ドアを開けて外に出た瞬間、事務所のソレとは明らかにレベルの違う寒さが襲ってきた。

ただ、一人で事務所で待っていた時とは打って変わって、あたしの体はバカみたいに熱く、寒さなんて感じる余裕は全くなかった。


それからの約2週間は人生で一番長くて短く感じた2週間だったかもしれない。

単に稼ぎ時で忙しいっていうものあったけど、それよりなにより25の数字に大きく赤マルをつけたカレンダーを毎日見つめて、1日の終わりのバツをつけていく作業が楽しすぎたからだろう。

1日はあっという間にすぎるのに、25日が楽しみすぎて、心は『まだか、まだか』と焦るものだから、毎日もどかしくってしょうがなかった。

でもそんな気持ちも今日までのこと。
ついにクリスマス当日がやってきたのだ。


正直言うと本当にクリスマスを二人っきりで過ごせるだなんてこれっぽっちも期待してなかった。

あたしもPさんも忙しすぎて、どうせ時間が合わないと思ってたしね。

せいぜいお仕事の合間で事務所のみんなといる時にちょっと話すとかだとかね。

あるいは二人っきりになれても全然別の日になってクリスマス気分を味わうのが関の山だろうーって。

ところがどうだ、クリスマス当日にあたしはイルミネーション煌めく街中にいる。
Pさん、流石仕事のできる男♪

その仕事っぷりに免じて、あたしを待たせているのは許してあげよう。

オシャレするために冬にしては若干薄着で我慢しているから、早く来てくれた方がありがたいのは確かだけど。


「って浮かれて早く来すぎたのあたしが悪いんだけどね~」

「悪い、待たせた……ってなに一人でブツクサいってるんだ?」

「ひゃっ?!」

いきなりのPさんの登場に思わず飛びのいてしまった。
やばっ……楽しみにしすぎてニヤニヤしてたのバレちゃったかな……?


「驚きすぎじゃないか……?どうした……?」

「い、いや、なんでもあらへん、何でもあらへんよ!」

「いや、でも顔も赤いし……どうかしたのか?」

「だ、大丈夫……大丈夫だってば……」

必死に誤魔化そうとするけど、すればするほど逆に怪しくなってしまう。

「ってもしかして寒いのか?なら、これやるから早くあったかい恰好しろ」

ただPさんはあたしの大根役者っぷりを不思議と思わなかったらしい。
何か勘違いしたようで、Pさんは持っていた包装箱をあたしに差し出してくれた。


「これって……?」

「遅くなったけどな……誕生日プレゼントだ」

「え……?!やったーん!開けていい?!」

「いいぞ、開けてみてくれ」

箱から開けてみるとあたしのイメージカラーとほぼ同じの青みがかかったマフラーが出てきた。
それはそれはとてもあったかそうに見えて、すぐさま首に巻く。


「あったかいか?すぐ着れるようにしておいたんだが」

「うん♪ありがとPさん。はぁ〜、温いわ〜」

マフラーを巻いただけなのにそこだけ熱を帯びたように暖かくなり、そこから全身に熱が移っていく。

きっとこんな魔法を使えるのはPさんしかいない。

途中、やっぱ似合うなぁ……というPさんの声も聞こえてきて、さらに体がポカポカしてくる。


って思わぬ喜びに2週間悩みに悩んで考え抜いた作戦を全部忘れるところだった。
……いけないいけない。これじゃ小悪魔の名が廃ってしまう。

周子「ア、アー。マフラーはあったかいけど、寒空の下で待ってたから身体の端から端まで冷え切っちゃったなー」

P「あ、あぁ……待たせて本当にすまなかった……」

周子「ところで、Pさんってあたしの保護者みたいなもんでしょ?だから冷え冷え周子ちゃんを保護してちょーだい」

P「保護って……なにすりゃいいんだ?」

周子「ふふふ、それはね。なんとあたしの隣を歩く権利を授けよーう!可愛いしゅーこちゃんを保護できるぞー、苦しゅうないぞー」

P「ってなんだそりゃ……」

とか言って苦笑しつつもPさんはあたしのすぐ近くまで来て一緒に歩いてくれる。
こういうことにノッてくれるPさんにはホント感謝しかない。

しまった……上に名前が入ってた…下で訂正します


って思わぬ喜びに2週間悩みに悩んで考え抜いた作戦を全部忘れるところだった。
……いけないいけない。これじゃ小悪魔の名が廃ってしまう。

「ア、アー。マフラーはあったかいけど、寒空の下で待ってたから身体の端から端まで冷え切っちゃったなー」

「あ、あぁ……待たせて本当にすまなかった……」

「ところで、Pさんってあたしの保護者みたいなもんでしょ?だから冷え冷え周子ちゃんを保護してちょーだい」

「保護って……なにすりゃいいんだ?」

「ふふふ、それはね。なんとあたしの隣を歩く権利を授けよーう!可愛いしゅーこちゃんを保護できるぞー、苦しゅうないぞー」

「ってなんだそりゃ……」

とか言って苦笑しつつもPさんはあたしのすぐ近くまで来て一緒に歩いてくれる。
こういうことにノッてくれるPさんにはホント感謝しかない。


そしてあたしは最後にLiPPSのユニットでよく歌う歌から発想を得た、とっておきの作戦を繰り出す。

「……そういやしゅーこちゃん、手袋忘れてきてさー。……ね?」

「……ほらよ」

昔『冬が寒くてホントに良かった』と歌っている歌を聞いたことがあった。

その時は全然意味が分からなかったけど、今ならよくわかる。

冬が寒くてホントに良かった。この温もりを感じたらもう二度と離れられない。


――それからはまるで魔法にかかったかのような時間だった。

キラキラ街を彩る幻想的なイルミネーションに見惚れ、
クリスマス一色の街中でウインドウショッピングに興じ、
たまたま見かけた和菓子屋に立ち寄って、
オシャレなレストランで普段食べられないようなコース料理に舌鼓を打って、

そうして今は綺麗な夜景を一望できる展望台で幸せな時間に浸っている。


もちろんそれぞれが素晴らしいのもあるが、"二人で過ごすクリスマス"というだけでさらに格別な思いとなる

結局『なにをするか』じゃなくて『誰といるか』が大事なんだろう。

そんな風に思いながら幸せを噛みしめていると、魔法使いさんがおもむろに口を開いた。

展望台に着いてからずっと黙り込んで緊張しているみたいだったけど、急にどうしたんだろう?


「……そういえばな、実はもう一つプレゼントがあるんだ」

ほらよ、といってPさんがポケットから小箱を取り出す。

決して重くはないはずの小箱をまるで献上品のように慎重に扱う。

「……開けていい?」

「あぁ……もちろん。是非この場で開けてくれ」

開けてみると箱の中から暗い夜の中でも一際銀色に輝く指輪が顔を覗かせた。
え……?これって……?


「……俺だっていい大人だからな……。覚悟がなきゃ、クリスマスにデートなんか誘わないよ」

「……それって……!」

「……立場もあるから今はまだ本物を用意できなかったけどな。いつか絶対本物を用意するから、今日の所はそれで許してくれないか?」

「……うぅん……。凄く嬉しい……」

早速左手の薬指につけ、いろんな角度からそれを何度も眺める。

眺める度に様々な色を覗かせたけど、そのどれもが綺麗でいつまでも見飽きなさそうだった。

あたしとPさんの間に気恥しく、何とも言えない空気が流れる。

ただそれは決して不快ではなくて、逆に心地よい雰囲気だった。

Pさんには色んな魔法をかけてもらったけど、その中でも最高の魔法だった。


その雰囲気のまましばらく時間がたったけど、流石に恥しくなったのかPさんが照れ隠しのように口を開く。

「……まぁ、なんだ。クリスマスプレゼントってことで一つよろしく頼む」

「クリスマス……プレゼント……?」

「ああ、そうだ。……ん?どうした周子?」


『クリスマスプレゼント』

その言葉を聞いた瞬間、アタシは今までの熱さが嘘のように体から血の気が引いてくのがよく分かった。

どうしよう……。誕生日から今日までずっと浮かれてて『クリスマスはプレゼントを贈る』っていう風習があるのをすっかり忘れてた……。

あたし、Pさんへプレゼント何も用意できてない……!

こんな素敵なもの貰っておいて、いつものように『ありがとーん』と言うだけじゃ、流石のあたしでもいくらなんでも締まりがなさすぎる……!


「周子どうしたんだ?……もしかして……イヤだったか……?」

赤くなったり青くなったり忙しいあたしの顔色を見てPさんがあらぬ心配をする。

「……えっと……いや……そうじゃなくて……、あの、その……Pさん……」

ごめんなさい……と消え入るような声で謝罪し、たどたどしく全てを自白する。

『昨日に戻れたら』とどれだけ思ったことだろうか。

今日のために拙いながら作戦を練りに練り、それが無事に成功して、折角Pさんから最高の答えをもらえたのに…!

あぁ……最後の最後でなにしてるんだろあたし……。これじゃ小悪魔どころかオンナとして失格だ……。


「そんなに気に病むなって」

「……でもあたしだけプレゼントがないなんて……」

「……もう一度聞くけど、渡したプレゼントが嫌だったわけじゃないんだよな?」

「それはもちろん!!……むしろ、こんなに素敵なもの貰ったのに何にも返せないなんて……」

何もか……とボソっと呟いたPさんは少し考えこんだ後、ニヤっと白い歯を見せる。

あ、これ仕事の最中に悪いことを思いついた時と同じ顔だ……。

地獄のレッスンだとか、ドッキリだとか、突拍子もない企画だとか。

この笑顔の後にどれだけあたしを振り回されてきたことか……。

なんだか非常に嫌な予感がする。


「それなら、まぁいいか……。それならプレゼントなんてこれからもらえばいいわけだし」

「え……?だからあたし何も用意してないって……」

「…………夜はまだまだこれからだからな。丁度良いことに今夜は一年に一度の聖夜ときている」

そう言ってPさんはあたしの手を引き、グイグイどこかへ引っ張っていく。

……聖夜?……夜はこれから?

……え?これってもしかして……。もしかしなくても、これって……!!


「えっ?ちょっ……?Pさん?待って!いや、決してイヤってわけじゃないんだけど。まだ心の準備が……!Pさん?ねえ、Pさんってば……!Pさーん?!」

ポーンポーンポーン

どこかで12時を告げる鐘が鳴った。

ただ、そんなものお構いなしに今日のアタシは魔法にかけられっぱなしらしい。

全く……悪い魔法使いさんもいたもんだ。


シンデレラと魔法使いの二人っきりの舞踏会はまだまだ続いていく。

叶うことならこの幸せがいつまでも続きますように。


おわり

周子と一緒に誕生日とクリスマスを迎えたい人生だった

月末実装に阿鼻叫喚したけど、エピソード見たら最高すぎて感極まったよ!
真正面からクリスマスデートを誘うなんて……

エピソードでは余裕たっぷりに誘ってるけど、きっと周子も誘うまでに色々葛藤したり、
当日までドキドキして過ごしたりして、きっと心が落ち着かなかったんじゃないかと思います
そんな気持ちを自分なりに想像してSS書いてみました

なおSS書いてる時に開催されてた4th復刻アニバと6thアニバの順位
自分史上最高に走ってもランキング入りの足元にも及ばなかったので報酬なんて到底むーりぃー
おとなしくスタドリためてお迎えします

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