勇者「え!? ビール瓶で魔王を倒せ!?」 (33)

勇者「でき……るわけねえだろ!」

勇者「なんでもっとマシな武器がないんですか!」

国王「おぬしも知ってるだろうが我が国は酒造りを奨励しており、国民もみな酔っぱらっておる」

国王「それゆえ危険な事件を防ぐため、刃物類の製造を制限している」

国王「なのでこういう時に用意できる武器がないのだ。兵士たちもみんな武器は持っておらんし」

勇者「無防備すぎますよ。よく今まで他国から侵略されませんでしたね」

国王「我が国の酒は他国でも大人気だからな、ハッハッハ」

勇者(この人も酔っぱらってんじゃねえだろうな)

国王「というわけで勇者よ! なんとかビール瓶で頑張ってくれ!」

勇者「……分かりました」

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勇者(本当にビール瓶だけ渡されて、城を追い出されちゃったぞ)

勇者(しかも中身入ってんじゃん……なに考えてんだ)チャプ…

勇者(だけど――)コンッ

勇者(ビール瓶って俺が思ってる以上に硬いんだな。これなら結構な武器になるかも)

勇者(よぉし、酒場に寄ってから、冒険に出るとするか!)

勇者(町を出発したが、どうなることやら……)スタスタ

スライム「ピキャーッ!」プルンッ

勇者「わっ、スライム! もうここまで魔物の侵略が進んでたのか!」

勇者(こいつ一匹で大の男十人より強いといわれているが……)

勇者(ビール瓶を信じるんだ!)

スライム「ピギャーッ!」プルルルンッ

勇者「どりゃあっ!」ブンッ

ゴッ!

スライム「……」ピクピク…

勇者「おおっ、一発でスライムを……!」

勇者「しかも、ビール瓶はビクともしてない!」

勇者「これイケる! 予想以上だ!」

勇者「よぉーし、ビール瓶で魔王を倒してやるぜ!」

勇者「だりゃあっ!」

ガゴッ!

オーク「ぐぎゃあっ!」



勇者「うりゃ!」

バキッ!

ワーム「キシャァァァ……」



勇者「むんっ!」

ズガッ!

ゴブリン「ぐええっ!」

勇者(うん、快調な滑り出しだ)

勇者(今のところ、ほとんどの敵を一撃で倒してるぞ)

勇者(まさか、単なる入れ物だと思ってたビール瓶がこんなに優れた武器だとはなぁ)

勇者(俺がすごいのか、ビール瓶を作った人がすごいのか……ま、どっちでもいいか!)

勇者(このまま一気に魔王城まで突き進んでやる!)

勇者「頼むぞ、マイビール瓶!」

ゴーレム「グオオオオ……!」ズシン…

勇者「たあっ!」

ガキッ!

ゴーレム「グオッ……!」

勇者(ちっ、さすがに一撃じゃ沈まなくなってきた!)

勇者「こうなったら連打だ!」

ガッ! バキッ! ゴッ! ガンッ! ガツッ!

勇者「だあっ! だあっ! でりゃああああああっ!」

ガッ! ゴッ! バキッ! ゴッ! ガッ!

ゴーレム「ウォォォン……」ズシン…

勇者「ハァ、ハァ……やっと倒せた」

ピシッ…

勇者「瓶にヒビが……」

勇者「いや、この程度ならまだ大丈夫だ!」

ドラゴン「ぐふふふ……お前を倒せば褒美をもらえル……」ズシン…

勇者(全身を赤い鱗に覆われた竜……こいつは強そうだ!)

ドラゴン「カァッ!」

ゴォォォォォォッ!

勇者「あぶねっ!」サッ

勇者(ビール瓶はガラス製だから、あんなの浴びたらあっという間に溶けちゃう!)

勇者(今度はこっちのターンだ!)

勇者「でやぁっ!」ブオッ

ガシャァンッ!

勇者「――!?」

勇者(ついに……割れちゃった……)

ドラゴン「ガッハッハ、これで終わりだな勇者ヨ!」

勇者「……」

勇者「……いや!」

ギラギラ…

勇者「この割れ方、このギザギザ、この鋭さ……これは立派な凶器じゃないか!」

ドラゴン「なにッ!?」

勇者「うおおおおおおおっ!」

勇者「このギザギザで突き刺しまくってやる!」

ザクザクザクザクザクザクッ!

ドラゴン「ぎぃやぁぁぁぁぁ……!」

勇者「ドラゴンをたやすく倒せた……」

勇者(瓶が割れて絶体絶命と思いきや、最強の武器に進化していたとは……)

勇者(そうか、古くからの言い伝えにある伝説の剣というのは≪割れたビール瓶≫のことだったんだ!)



勇者「待ってろ魔王! この割れたビール瓶でお前の野望を切り裂いてやる!」ギラッ

デビル「魔王軍最高幹部である、このデビル様が相手だ!」

デビル「喰らえええッ!」

ズオオオオッ!

勇者(凄まじい魔力の渦! これをまともに喰らったら命はない!)

勇者「だが!」

ザンッ!

デビル「なんだとォ!?」

勇者「この割れたビール瓶に切り裂けぬものはない!」

勇者「うりゃあああああああっ!」

ズバシュッ!

デビル「グギャアアアッ!」

デビル「魔王様……お許しを……」ボシュゥゥゥゥ…

勇者「強敵だった……!」

勇者「だがこれで残るは魔王ただ一人!」

勇者(ついに魔王城までたどり着いた……!)

魔王「フハハハ……会いたかったぞ、勇者よ」

魔王「ビール瓶一本でここまで来るとは大したものだが、ここまでよ!」

魔王「ゆくぞぉっ!!!」

勇者「だあああああああっ!!!」

ガキンッ! ザシュッ! キィンッ! ガンッ! ズシャアッ!

魔王「ぐぬっ……!」

勇者「くうっ……!」

魔王「やるではないか」ニヤッ

勇者(さすが魔王……今までの敵とはケタが違う!)

勇者「切り裂け、ビール瓶!」ブオッ

魔王「魔防御!」サッ



パキィィィィン……



勇者「ああっ……」

勇者(ついに……ついにビール瓶が完全に砕けちまった……!)

勇者「くそう……!」

魔王「あっけない幕切れだが、武器がなければ戦えまい! いさぎよく地獄へゆけ、勇者!」

勇者「ま、まだだっ!」

勇者「砕けた破片を投げる!」ジャラッ ジャラッ

サクサクッ

魔王「ぐわあっ! 目に入った! いってぇ!」

魔王「ギャッ! 足にも刺さった!」

魔王「おのれぇ~……!」ビキビキッ…

魔王「下らぬ悪あがきをしおって! だが、これで本当に貴様は丸腰のはず!」

魔王「一気に勝負を決めてくれるわ!」

勇者「いや……まだ武器はある!」

魔王「下らないハッタリを……」

勇者「ハッタリなんかじゃない……これだ」チャプ…

魔王「なんだそれは!?」

勇者「ビール瓶に入ってた……ビールだよ」

魔王「バカな!? 貴様のビール瓶はとっくの昔に割れていたはず!」

勇者「ビール瓶に中身が入ったまま、武器にするわけないだろ?」

勇者「俺だって酒好きの国出身なんだからな」グビグビ

勇者「旅立ちの時、酒場に寄って別の容器に移し替えてたんだよ」ゴキュゴキュ

勇者「ウ~イ……」

勇者「うちの国のビールはなかなか酔えるぜ……」

魔王「ふん、ビールになにか特殊な薬品が入ってるのかと思いきや、酔っぱらっただけか!」

魔王「酔っぱらったまま死んでいけっ!」ブオッ

勇者「ヒック」ヒョイッ

魔王「え!?」

勇者「うえぇっぷ」ギュンッ

ドゴッ!

魔王「ぐはぁっ!?」

勇者「フンフ~ン……」ヨロヨロ…

魔王「なんだこれは……!? なんだこの奇怪な動きはぁっ!?」

勇者「これは“酔拳”だウイ」

魔王「酔拳!?」

勇者「俺の故郷では、みんなこれを当たり前のように体得してるウ~イ」

勇者「あっ、なんで武器のないうちの国がどこからも侵略されないかやっと分かったヒィック」

勇者「単純にうちの国の住民はみんな強いからだったんだウ~イ」

勇者「アハハハハハハッ!」ヨロヨロ…

魔王「ふざけおって……! 酔っ払いなどに負けてたまるか!」

勇者「ウ~イ」ヨタヨタ…

勇者「ウイ~」

ガッ!

勇者「ヒック」

ドゴッ!

魔王「が、がはっ……!」

勇者「おっとと……」ヨロヨロ…

勇者「トドメだ……ふんっ!!!」


ズギャアッ!!!


魔王「ぐはぁっ……! なんという強さだ……!」

魔王「酔っ払い、恐るべ、し……」

ドサァッ……

勇者「ウイ?」

勇者「どうやら……魔王を倒した……ヒックね」

勇者「あんま実感ないけど……うぇっぷ」

勇者「じゃあ帰るかぁ~……おっとと……千鳥足になってる……帰れるかなぁ~……」

ヨタヨタ… ヨロヨロ…

ドタッ

勇者「いてて……」

国王「――勇者よ、よくぞビール瓶で世界を救ってくれた」

勇者「俺は自分の使命を果たしたまでです! ……最終的には素手でしたし」

国王「さて、魔王を倒したおぬしは改めて国の名誉職≪勇者≫に任命し……祝福したい!」

勇者「ありがたき幸せ!」

国王「我が国の歓迎法といえば、やっぱりこれだよなぁ!」キュポンッ

ブッシャァァァァァッ

勇者「ビールかけ楽しいぃぃぃぃぃぃ!」ブシャァァァァァ



ワアァァァァァ……!

戦士「勇者さん、おめでとうございます! 後輩として鼻が高いです!」

勇者「おう、俺を見習えよ」

戦士「だけど、もし次また魔王みたいなのが現れたら、今度は俺の出番ですよね!」

戦士「これからは俺たち若い戦士の時代ですから! 勇者さんは隠居してて下さい!」

勇者「なんだとォ!? てめぇ、俺をナメてんのか!?」

勇者「ビール瓶を喰らえッ!」ブオンッ

ガツンッ!

戦士「ギャアアアアアッ!」



国王「あーあ、あんな暴力沙汰を起こしたら、すぐ勇者を引退させねばならんことになりそうだな」







― 完 ―

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