友「ハーレムエンドっていいよな」 (200)

                                          ・・
男(――高校からの帰り道……。他愛もない話をしながら歩いていると友人のソイツは唐突にソレについて話を始めた)


男「いきなり何を言い出すのお前」

友「昨日やったやつがハーレムモノだったんがな……エロ目的で買ったんだが、予想以上にストーリーも良かったんで」

友「誰も不幸にならずにみんなハッピーとか現実ではありえないだろ?そんな優しい世界をエロゲの中では作れちゃうんだよ」
 
友「お前にも布教をって思ったんだけど……どう?」

男「んーいいんじゃない? というか、むしろやりたい」

男「でも、俺そういう系のゲームとかほとんどやったこと無いんだけど」

友「確かにお前は漫画やアニメしか見てこなかったしなー。まぁこの機会にいいんじゃないか? パソコン持ってないわけでもないだろ」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1512193606



男「まぁ……そうだな」

男(家でやるには色んな危険性を孕んでるからあんまり進んでやれたもんじゃなんだけど)

友「なら今日貸してやるよ! 俺はもう5週はしたからよ~」

男「いくら何でもやりすぎじゃないか……」

友「いいやこれでもまだ甘いな。好きな作品は何週クリアしても足りないなっ!」

男「……そういう熱意を勉強にも出せよ」

友「うぐっ! と、とにかく! 貸してやるか俺ん家よってけよ!」

男「……あいよ」


~~~~~~~~



男「……これねぇ」

男(部屋の椅子に座ってパソコンの電源を入れた後、友人に借りたいかがわしい絵に包まれた箱を眺める)

男(うん! 実にエッチいね! こんなのを見続けてたら息子も元気になってしまうよ!)ムスコ「ヤァ」

男(そんでもってこれを持ってる姿を女性に見られたら軽蔑されるよね! ソフトだけ出してさっさとパッケージはタンスの奥にでも隠しておこう……)ササッ

男(これでいいか……。あの人にこれを見られたら、ホントに俺の人生どうなるか分かったもんじゃないしな……)

男(まぁ、あの人も節操なく俺の家とかに来ないし大丈夫か。だいたいはアポとってからだし)

男(前置きはさておき、ディスクを入れよう……よしっ)

男「これで俺もエロゲデ「……入るわよ」


男「ビューッ!!!! ……って、えっ?」

?「……?」

男(ノックも無しに入ってきた人物の顔は俺が驚いてる様子をまるで疑問視するような顔をしている)

男(そして数秒経った頃、腰にまで届こうとしている艶のある綺麗な黒髪をなびかせながら彼女は、ある言って一定の答えを導き出したようだ)

?「……もしかして今、オn「はいそれ以上言わない! そんでもって、やってない!」

男(彼女は今盛大な勘違いをしている。いや、それに準ずるやましいことはやろうとしていたけども!)

?「あら、残念……。もし、あなたが望むのであれば私の”手”で……」

男「してねぇって言ってんだろ!」

?「……まったくもってあなたは臆病で意気地なしで度胸もへったくれもないヘタレね。こんなに魅力的な私の提案を断るなんて」


?「学校中の男共ならこの提案を断る人なんていないでしょうね。それこそあなたの友人のヘンタイ君だって……ね?」

男「ヘタレで結構。別に他がどうでも俺には関係ねーし」

?「ふぅん……本当に?」ボソッ

男(俺の耳元に口を近づけ、そう囁く彼女。その動作に距離の近さを感じてしまい不意に緊張してしまう)

男「だ、だからやってないって……!」

?「……じゃあ、この画面に出ているのは何かしら」

男「……?」

男(彼女の指差した先にはパソコンの画面。そこに映し出されていたのは……)
















                                                          ・・
?「『幼馴染も姉妹もクラスメイトも学園長も全員○ましてやる! おっぱいハーレムカーニバル!』……って、これであなたはナニをしようとしていたの?」

男「――――」



男(――これが、俺のエロゲデビューの瞬間であった)






































「ハーレムエンドっていいよな」



















~~~~~~~~



男「もうエロゲはやらねぇ」


友「おいおい友よ、朝からいきなりそんなやさぐれた声出してどうしたんだ? もちろんアレ、やったんだろう」

友「……そうか。お前にはあの甘美な世界はまだ早かったか――」

男「勝手に悟ってんじゃねぇよ」

男(……今、俺と会話をしている奴は友。見ての通り、エロゲオタクである)

男(ちなみに中学からの付き合い。顔もそんなに悪くないし、気さくでいいやつなんだが現実では出会いは無い)

男(友いわく『女と出会う前にエロゲと出会ってしまった』との事だ。なお未成年の彼がどこでエロゲを入手しているかは不明だ)


友「なーんてな。しっかし、不思議だなぁ。普通の人間のプレイ時間から考えてそこまで酷い内容が出てくるようなシナリオではなかった気がするぞ?」

男「見つかった」

友「え? まさか親に?」

男「いや、アレに」クイッ

男(俺の指した方にいる女性……。校門で挨拶をしている黒髪がトレードマークの彼女だ)

友「マジかよ……。それなら親に見つかってた方がマシだったな」

男「あぁ……」


?「……♪」ニコッ


男「げっ、やべっ……」

?「あら、おはよう友君」



?「――そして、見境なしに女の子を○ませようとしていた男君」ボソッ



男「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」



男(悪魔的な笑みを見せながら挨拶をしてきた彼女、その人こそ俺のエロゲデビューを邪魔をした、黒髪。俺の1つ上の三年生)

男(端正な顔立ちに抜群のスタイル。男女共に学校中の憧れの的だ)

男(そんな彼女と俺は昔に色々あり……今でもこうして親しくしている。……腐れ縁の様なものだと俺は思っている)


友「はぁー……。相変わらず黒髪先輩は凄く綺麗だなぁ……」

友「それに目をつけられてるお前も羨ましいよな。いや、弄ばれてるって方が正しいのか」

男「うるせえよ……」

男(ここ何週間は、その事をずっとイジられ続けるのではないか。そう思案させる秋風の吹く朝の出来事だった)


オハヨー ウッス オイッスー



友「――よりにもよってまさかあの人に見つかるとはお前も災難だったな……」

友「……それで、ソフトは没収とか?」

男「されてない。友からの借り物だってハッキリと言っといたから」

友「ごっそり好感度落としていくなお前」

男「仕方ないだろ、その時は頭回らなくて適当な理由を考えられなかったし」

友「へいへい……。どうせ元々好感度なんぞミリも無いから減りもすることなんて無いだろう」

男「いや、そんなことはないと思うが……」

友「えっ、マジ!?」ガタッ


?「はーい、そこまでだよ二人共ー。ホームルーム始まるから友君は自分の席に戻ってね~」


友「お、委員長か。すまんな」

?「ん、よろしい。よいっしょっと」

男(委員長と呼ばれた隣の席の彼女の名は女。友が言ったようにこのクラスのクラス委員をしている)

男(1年生の頃から同じクラスだったり、今はこうして隣の席って事で多少は仲良くしてもらっている感じだ)

男(肩ぐらいまで伸びた明るい茶髪、そして大きくパッチリと開いた目から快活な印象を受ける。実際にその通りで、男女分け隔てなく明るく接する姿はまさしく彼女らしいと言うべきか)

男(制服の着こなし方や、喋りといい……雰囲気は今時の女子高生といった感じだ)

男(そして、彼女の一番の魅力。それは……)


女「――おはよっ」ニコッ


男「お、おう……おはよう」


男(不意にされると緊張してしまう……曇りの一点もない、透き通った笑顔だ)


女「ちゃんと数学の宿題やってきた? あの先生結構当てられるとめんどくさいからねー」

男「大丈夫。ほんと心配性だよな、女は」

女「いや、そういう訳じゃないよー。今の内に男君と答え合わせしようかなって。男君って無駄に頭良いし」

男「無駄は余計。日頃からちゃんと復習してる成果なんだよ……ほい、これ」

女「ありがとー! やっぱり持つべきは友だねぇ~。……そういえば、あの黒髪先輩が勉強教えてくれるんだっけ?」

男「たまになー。余計なお世話なんだよな……」

男(そのお陰で昨日もいきなり家に来て大変な事になったんだけど……)


女「いいなぁ~あんな綺麗な先輩と勉強会って女子の私からしても羨ましいよー」

男(……女は何も知らないからそう言えるだろう。実際あの監きn……勉強会は地獄そのものだ)

男(その地獄の頻度を減らす為に勉強もしているという次第だぞ)

男「ははー。そうだなー」

女「そうだよっ、このこのぉ~」ツンツン

男(あとこの女、なんかあざとい)

男(アッ、ダメ、脇腹ヨワイッ)


~~~~~~~



「えーからしてこの問の回答は――」


男(四時間目、数学。先週予習した範囲をしている授業そっちのけで外の体育の様子を眺める)

男(黒髪がいるってことは今の授業は3年生ってことか……)


黒髪「――」ボヨンッ


男(つうか三階から見てもわかるその暴力的な双丘はなんなんだよ)

男(あー男共が見てるのが容易に想像できんなー。アレ間近で見れるって裏山……じゃなくてなんか悔しいな)

男(勉強会とかとこういう学校生活ってのはあくまで別物だからな、ウン)


女「なーに見てるの」ボソッ

男「うおっ……て、別に外眺めてただけだぞ」

女「この時間は確か3年生の体育……。ははーん」

男(なにわかったような顔してんのアンタ、つかなんで時間割把握してるんですか)

女「黒髪先輩、見てたの?」ササヤキ

男「ん、んなわけ――」

「おい、男少し騒がしいぞ」

男「あ、すみません……」

男「……ったく」

女「あはは……」


~~~~~~



キーンコーンカーンコーン

ジャアネー マタアシター バイバーイ



女「じゃあねー男君~」

男「おう、またなー」ヒラヒラ


友「男ー帰ろうぜ―」

男「悪い、今日は部活に顔出してくるわ。最近ちょっとサボり気味だったし」

友「分かった。んじゃまた明日な~」

男「おう。また明日」


男「さて、と……」


『文芸部』



男「……」コンコン

?「……どうぞ」

男「うっす……って今日もまた一人か」
 
?「あっ、先輩……。こんにちは」ニコッ

男(文芸部の部室の片隅で優しい笑顔で迎えてくれた彼女は後輩。俺の一つ下の1年生)

男(年下にしては大人びた容姿、雰囲気を持っている彼女。性格も物静かではあるが、素直でいい子だ)

男(この部活内でも幽霊部員一号の俺とか、その他の幽霊部員を慕ってくれている所も後輩がいかに良い奴であるかを物語っているだろう)


後輩「……」


男(――ただ、少し稀に陰のある表情を見せるのを知るのは……数少ないと思う)


男(しっかし、あれだなぁ。どれかの部活に所属しなくちゃいけない学校のシステムが理由で帰宅部員の受け皿になってる文芸部で真面目に活動してるって、ほんといい子だよなー後輩は)

男(まぁ、なんかいつも一人で本を読んでるのもかわいそうって思っちゃうから俺も部室に来てるんだけどなー。本を読みたい後輩にとっては余計なお世話になってんのは分かってはいるが)

男「毎回部室来るといつも後輩いるけどさ……。文芸部だからって真面目に部室で本を読む必要なんかないんだぞ」

男「放課後なんてもっと友達となんか……ほら、カフェとか行ったりさ」

男(女子が放課後何して遊ぶかわからなくてカフェなんて口走ってしまったぞ)

後輩「女子高生が放課後にカフェに行くって……先輩、ちょっと女の子に夢見過ぎじゃないですか?」フフッ

男「はははっ……」

後輩「別に私はそういった事はあまり好きでは無いですし……。好きなんです、ここで本を読むのが」


後輩「……こうして先輩がたまに来てくれたりして寂しくもありませんから」


男「……そうか。そりゃあ良かった」


後輩「あっ、そういえば……何か飲みますか? 紅茶とコーヒーならインスタントでもよければありますけど……」

男「あーいいよ。自分でやるから。俺の事なんて気にしないで本読んでて」

後輩「……じゃあ、お言葉に甘えて」

男(そう言うと後輩は彼女の定位置とも言える部室の隅の方の席に着き、本に挟んであった栞を取り出し読書を再開した)

男(彼女のその姿を確認し、部室に備えてある紙コップの中にインスタントのコーヒーの粉末を開け、お湯を入れる)

男(そして後輩とはそう遠くない席に腰を落ち着け、カバンの中から文庫本を取り出す)

男(空間に沈黙が訪れる。聞こえるのは本を捲る音、飲み物をすする音、そして外から聞こえる運動部の声)

男(少し気まずくもあるが、なぜか俺はこの時間が嫌いではなかった)

男(喋る言葉は少なくても、後輩といるこの時間は心を安らげてくれる……そんな気がしている)


~~~~~~



後輩「……そろそろ暗くなってきましたね」

男「おっと……もうそんな時間か。そろそろ帰るか」

後輩「はい。あっ、戸締まりとかは……」

男「いいよ、俺がやっとくから。たまにしか来ないんだし、先輩らしくこれぐらいの事はしないとな」

後輩「じゃあ、お願いしますね。お先に失礼します」

男「おう、また今度な」

男(家まで送る事はできないが、せめて扉までは見送ろとしていると、後輩は扉の前で立ち止まった)

男(そして急に振り返り……)

後輩「せ、先輩っ」

男「ん、なんだ?」




後輩「次は、その……いつ来てくれますか?」





男「……そうだな、また近い内に来る」

後輩「そうですか……。あの、私――」



後輩「待ってますからね。ここで先輩の事……」


男「ありがとな……。なんか幽霊部員の俺なんかに気遣わして」

後輩「そんなことないですっ……! と、という事でさ、さようなら!」


男(急にしおらしくなったり、興奮したり変な後輩ではあったが……。普段物静かな後輩のなんだかこういう姿は目新しいな……)


男(……さて、片付けも済ませて俺も早く帰るとしますか)


~~~~~~~



男「ふぅ……」


男(明日の範囲を予習を終え、時計を見てみると1時を指していた。もうそんな時間だったのか……)

男(あまり酷く眠気に襲われない事を思うと、部室で飲んだコーヒーの効果が思った以上に続いているようだ)

男(かといってこれ以上起きてても明日に支障が出かねないし、最悪寝坊なんかもあり得る)

男(早く布団に入ってしまおう……)


男「……」


男(……今日も色んな事があった)

男(黒髪に例のゲームをイジられたり、女に少しイタズラの様な事をされたり……って俺イジられてばかりじゃねえか)

男(あとは……後輩か。後輩のなんか新しい一面って言うか……そんな様なモノを見れた気がする)

男(先を考えると例のゲームの件は頭が痛いし、今後何を仕掛けてくるか分かったもんじゃねえ)

男(さっさとクリアして、友に返すとするか……)


男「……おやすみ」


男(誰に言うのでもなく、俺はただその言葉を呟き眠りについた――)










































―――――――――カチッ。






































長編になる予定です!文も下手です!誤字多いです!語彙もたまにおかしいです!それでもよろしければ是非お読みください!

後、このSSは特定の物語などを誹謗・中傷するようなものでも擁護するなものでもありません!


書き溜めもしないと思うんで更新頻度は低いです!すみません!

>>1
・・
ソレ
>>6
・・
ナニ


いきなり誤字ってましたすみません

~~~~~~



男(翌日。遅い時間に寝たのに幾分、体の調子が良い)

男(朝飯は……途中のコンビニでパンでも買うか。食べる時間確保したいし、早めに出るか)

男(顔洗って、歯磨いてーっと……)

男(……髪はこんなもんでいいか)

男(昨日の内に準備しておいた制服に着替え、出る準備を終えた。そしていつものように必ずすることがある)


男「そんじゃ、今日も行ってくるよ兄」


男(幼い顔立ちを写した遺影に挨拶をする。彼は俺の兄であり親友であった人物だ)

男(俺が9歳の時に交通事故によって亡くなってしまったが、親友として、家族として今でも俺の心の中に生き続けている)

男(……今週の終わりの日は、そんな兄の命日だ)


男(俺の家は昔から少し特殊だった。理由としては父さんが仕事が忙しい為に、年に数回にしか帰ってこないのだ)

男(そんなわけで食事も自分で作ったり、買わなきゃならない。こうやってコンビニ食で済ましてしまうこともある)

男(そんな生活を見かねた家が近い黒髪の母親が食事を届けてくれたりすることもある。たまに黒髪自身が家に作りに来ることだってある)

男(ちなみに黒髪の料理は超絶美味い。俺の料理の腕前が普通の男に毛が生えた程度だとかではなく、ファミレスとかの美味さなんて比べ物にならない)

男(容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群……。おまけに料理も美味いし、手芸もできる。完璧超人だよなぁ、あの人は)

男(……まぁ、少しスキンシップが過剰って所は欠点というべきなのだろうか)

男(……黒髪の超人ぶりはそこまでにしとくか。さてと、さっきコンビニで買った牛乳でも飲むか)ガサガサ


「あー、食べ歩きはいけないよー!」


男「……その声は女か。朝から委員長らしく大変だな」ススゥー

女「そうだよー。そうやって、男君が牛乳を飲むのをやめてくれないと仕事が増えて大変だよー」

男「別にストローで飲んでるくらいはかまわないだろ? 朝飯食べてないからハラ減ってるんだ」

女「だからって校則破っていい理由にはならないけどね……。まぁ、今回は多目に見てあげる」

男「さすが委員長! っということでこのサンドイッチもここで食べていいか?」

女「ダーメ。ちゃんと教室に着いてからだよ」

男「へいへい」


男「そういえば、いつもこんぐらい早い時間に出るのか?」

女「うん。委員長として色々とやることあるしね~」

女「というか私元々早起きする方だから」

男「生活から何まで優等生だなー。とても俺には真似できそうにはねえな」

女「そうだねぇ……男君が委員長として色々と働くことなんて想像できないもんね」

男「確かにホームルーム始まる前にクラスを静かにさせようとしても余計に騒がしくしそうだし、授業合間の休み時間だって日直の手伝いなんてやらずに友達と駄弁ってるかもなー」

男「男子からエロ本を取り上げようとしたら俺も一緒に読んじゃうだろうな」アハハ

女「……」ジー

男「……って、さすがにデリカシーなかったな。わるいわるい」

女「もうっ……私だって女の子なんだよー?」

男(いつも平然とケロッとしながらエロ本取り上げるもんだから平気だと思ってた)


女「……やっぱり、男君も興味あるんだ」

男「いやっ、まぁ……人並みには」


女「……えっち」ボソッ


男「――っ」

男(ジト目気味にそう言葉を零した女に、不意にドキッとしてしまう)

女「……なーんてね。冗談だよっ。それじゃ、急ぐから先に行くね」

男「お、おう。頑張れよ、仕事」

女「ありがとっ。じゃあ、また教室でね」

男(そう言うと女は小走りになって俺の先を行く。……と思っていたら、少し進んだ所で女は俺の方を振り向き、そして大きく深呼吸をして――)


女「サンドイッチ! 絶対に教室で食べなきゃダメだよーっ!」


男(……ほーんと、委員長のくせにあざといんだよ、あいつ)

男(だから人気あるんだけどさ……。委員長に言われた通りこのサンドイッチは教室で食べるとしますか)

男(時間も余裕はあまり無いし、少し早く歩くか)

~~~~~~





友「ふぅー食った食った~」

男「……ごちそうさま」ボソッ

友「そういえば、昨日は俺の貸したやつはやった?」

男「昨日は部活から帰ってから色々とやってたら、やる時間無かった。今日あたりにでも――」

ブブブブブブブブブ

男(右ポケットから振動を感じる。この振動の感じからして、おそらくメールでも来たのだろう)

男(携帯を画面を見るとそこには『黒髪』の名前が表示されていた)

男「……っわり。ちょっとメール返すわ」

友「んー」


男(黒髪からのメールは少なく、大体が重要な連絡事項がほとんどなので確認は早めにしといた方がいい)

男(早速メールを確認する。そこに記さていた内容は……)





男「……すまん、友。今日も例のゲームできそうにない」

友「へ?」


~~~~~~



黒髪「~♪」トントン


男「……」


男(制服の上にエプロンを着て我が家のキッチンで料理に勤しむ黒髪。そう、今日の夕食は何を隠そう黒髪の手料理である)

男(頻度といえば黒髪の気まぐれで決まるために多い時は多いし、時には週に一度も来ないことだってある。

男(前に来たのは一昨日だとすると今週はわりと多目の部類に入る)


男(……にしても鼻歌混じりで料理を作る彼女は少し目に毒だ。制服エプロンという特定の性癖を狙い撃つ様な格好はやめませんか。俺に効くから)


黒髪「……なぜそんなに私の事を舐めるような目つきで見るのかしら。確かに男子としては私のようなスタイルの女性をジロジロ見るのもわからなくは無いけど」

黒髪「まさか、制服エプロン姿に惚れ込んでるとかではないでしょうね?」

男「そ、そんなわけねえって! 料理に集中しろ!」

黒髪「あら? なんだかまんざらでも無い様子ね。他の男子ならいざ知らずだけど……」

黒髪「男なら昔からのよしみとして、特別にじっくり見てもいいのよ?」ボソッ

男「――っ!」

男「そうやって近づいて耳元で囁くのやめろ! 俺が耳弱いって分かってやってるだろ……!」

黒髪「ふふっ……。やっぱり耳、弱点なんだ」フゥー

男「だあーっ! 息を吹きかけるな!」

黒髪「……これ以上やるとかわいそうだから、今日はここまでにしとこうかしら」

黒髪「男が望むなら、私はいくらやってもいいんだけどね?」

男「ぜぇぜぇ…。いや、今後一切やらなくていいから」

黒髪「そう? 残念だわ……」





男「……ごちそうさま」

黒髪「お粗末さまでした」

黒髪「お皿は洗っておくから置いといて」

男「いや、作ってもらってるんだからこれぐらいは自分でやるよ。何でもやってもらうのも申し訳ないし」

黒髪「別にそんなこと気にする必要ないのよ?」

男「親しき仲にも礼儀ありってことだよ……。ほら食器」

黒髪「私の食器を取り上げてどういうつもりかしら。箸でも舐めるつも、だったら直接キスしても……」

男「早く食器よこせ」


ジャー



黒髪「臆病者……。据え膳食わぬは男の恥って言うでしょ?」

男「はいはい……」

黒髪「……そういえば今週の土曜のことだけど」

男「兄の命日か? それがどうした?」

黒髪「その日はちょうどお父さんも帰ってこられるのでしょう? 滅多にない機会だから私の家でお父さんを連れて食事でもって、母が言っていたのだけれど」

男「ああ、分かった。父さんに相談しておく。後、墓参り行くけど、来る?」

黒髪「ええ、勿論行かせてもらうわ。……今年で8年になるのね」

男「……ああ」


男(まるで兄を想うように遠くを見る彼女。沈痛な表情を見せるのもその筈。二人は生まれた頃からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染だったから)

男(黒髪と兄は仲が良かった。二人が優しかったから俺も間に入れたものの、普通ならあの頃の二人を割り込むことなんてできなかったと思う)


男(……あれほど仲が良かったんだ。こんな表情だってするだろう)



黒髪「……それじゃあ、用事も終わったし、帰るわ」

男「あいよ。送ってこうか?」

黒髪「大丈夫よ。別にそんなに心配するほど長い距離でもないでしょ」

男「そりゃそうだけど……」

黒髪「兄の話をした後だから不安になるのも分かるけど……」

男「……」

黒髪「次はいつ来るかは分からないけど、来る前にはメールするから」

黒髪「前みたいにいかがわしいゲームをやっててメール確認してなかった……なんてことしちゃダメよ?」

男「……肝に銘じておく」

黒髪「じゃあ、また明日」ガチャ…

男「ああ。今日もありがとな」

黒髪「ん……」


バタン…

男「……」


男(『兄の話をしたから不安になるのも分かる』ってか……)

男(黒髪は兄の話をすると、決まって俺の心配をしてくる)

男(普段はあれだけスキンシップをしてくる癖に、こういう時だけ大人しくなるんだ)

男(兄が死んだのなんてもう8年も前だ。もういい加減にそんなに気にするのはやめてもいいだろう?)



男(……兄を意識してるのは、俺よりお前なんじゃないのか?)

今回はここまで

~~~~~~~



女「あの、ちょっといいかな男君」

男「ん、どうした?」


男(今日も授業の全てを終え、放課後に何をするかを考えていた時。唐突に隣の席の女から声をかけられる)


女「手伝ってほしいことがあるんだけど……この後って時間あるかな?」

男「あー……」


男(今日は部活に顔を出そうと思っててんだよな……)


後輩『待ってますからね。ここで先輩の事……』


男(なんだか、信頼されてるみたいだしな。近いうちに行くなんて言ったからなぁ……)

女「……」


男(……別に明日でもいいか。今の女の表情を見ると相当困っているみたいだし)

女「もしかして、何か用事あった……?」シュン

男「いや、大丈夫。それで要件は?」

女「文化祭実行委員会でやる作業があるんだけど、人手が足りなくて」

男(そういえば文化祭実行委員も兼任してるんだったな……。って、文化祭のことすっかり忘れてた)

女「やることって言うのは倉庫の掃除。汚れちゃうかもしれないからジャージに着替えた方がいいかも」

男「わかった。それだったら、着替えてから落ち合うことにするか。倉庫っていうのは校舎裏のゴミ捨て場の近くの倉庫であってる?」

女「うんっ、急いで着替えてくるから男君も早めにね?」

男「……りょーかい」




女「おまたせーっ」


男(早々に体操服に着替えて倉庫の前で待っていると、少し遅れて女がやってきた)

男(いつもは結んでない髪をポニーテールにし、上着のジャージを腰に巻いた上は半袖、下はジャージを着ている)

男(狙ってやってるのか、それとも普通なのかよくわからないラインではあるが、やはりその格好は危険だと思います。ウン)


女「待った?」

男「いんや、俺もさっき来たところだしそんなには」

女「……」


男「手っ取り早く終わらせようぜ。……どうした」

女「いやっ、さっきのやり取りがそのっ……」

男「……?」

女「……デートの待ち合わせみたいだなって思って……」セキメン

男「――」

男「バ、バカなこと言ってないではやくやるぞ!」

女「う、うん」







女「……」



男「よいっしょっと……。これはここでいいか?」

女「うん。あっ、中身割れやすいから、注意して置いてね」

男「はいよ……」


男(作業することおよそ30分。最初は去年の文化祭などで使ったものなどが整理されずに置かれている状態で大分酷かったが、結構片付いてきた)

男(あと30分もあれば終わるか……。もしかしたら部活に少しぐらいなら顔を出せるかもしれない)


女「っしょと……」

男「……」


男(……まだ夏休みが明けてからまだ一月も経ってないせいか、締め切った倉庫内での作業は結構蒸し暑く、汗もかいてしまう)

男(それは女も同じ様で、ほのかに顔が火照っているような……。出るとこ出ててスタイル良いし、髪を纏めてる影響でうなじが見えて……。あれ、何だか色っぽく……)

男(って何を考えているんだ俺はっ! 女は実行委員として頑張っている中でやましいこと考えている場合じゃないだろ……!)

男(落ち着け俺……。黒髪のスキンシップに耐えてる時のように平常心だ……!)ブンブン


女「……どうかした男君?」

男「気にしないでくれ」キリッ

女「う、うん……」


女「この具合なら後もう少し終わりそうだねぇ」

男「だな。こんな面倒くさい作業とっとと終わらせよう」

女「うん。あとは何かトラブルが起きないといいけど……」

男「トラブルというと?」

女「機材を落としちゃって壊したりとか、こんなに埃が積もってるし、隅っこの方で変な虫が出たりとか……」


女「二人っきりで倉庫に閉じ込められちゃったり……」


男「虫は出てくるかもしれないが、物の破損とかは注意して運べば大丈夫だし、倉庫に閉じ込められるってそんな漫画じゃあるまいし」


男「あるわけない――」


ガチンッ


男「だろ……って、えっ」

女「まさか、今の音って……」


男(おい、嘘だろ。こんな所で……)


女「えっ、ちょっと、誰かぁ!」ドンドン!


男(こんな格好の女と二人きりって……)


男(まずいだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!)


男「おい! 誰かいないのか! いたら返事してくれ!」


シーン……

男「……マジかよ」

男(確かに校舎裏に人が来ないっていうのも分からなくも無いが……!)


男(っ! そうだ、携帯があった! ……って、ポケットに入ってない……?)

男(こういう時に限って置いてくるとは……しっかりしてくれよ俺っ……)

男「女、携帯持っているか?」

女「……充電切れ」


男(……万事休す、か)


男(いや、俺だって体育倉庫に閉じ込められるシチュは憧れてはいるよ。だがな……)


女「……グスン」


男(実際、涙目の女子と一緒となると気まずすぎる……!)


男「おーいっ!! 周りに誰かいるなら声をかけてくれ!!」

女「……無駄だよ男君。ここって誰も近づかないから」

男「分かってる……! けど、静かに待つよりかはまだマシだ」

女「かもね……。私もやってみる」


男(外から鍵をかけられて、大分時間が経った)

男(あれから必死に大声を出しても何の反応もなく、結局は無駄に終わってしまった)

男(……早く、どうにかしないと)

女「男君ー」

男(扉を突き破るか……? 俺にそんな力はあるだろうか?) 

男(なら、換気用の小窓からの脱出は? ……いやダメだ。あの窓は人が通るには小さすぎる)

男(じゃあどうすれば? このまま助けを待つしか無いのか……?)


女「おーとーこくーんっ!」

男「おわっ! び、びっくりさせるな……」

男(何か誤解が無いようにと離れて座っていた女がいつの間にか俺の目の前に来ていた)

男(そして、俺の隣にごく自然に座り、口を開いた)

女「だって男君、さっきから呼びかけても反応してくれないんだもん……」

男「悪い、ちょっと色々とここから出る方法考えてた」

女「そっか……」


女「ねぇ、男君」


女「私に気を遣って離れて座ってくれたり、閉じ込められた状況をどうにかしようって考えるのも、男君なりに私に優しくしてくれてるのも分かるよ?」

男「……当たり前だ。こんな所で男と二人っきりになったら不安になるもんだろ」

女「そう、だね……。普通の男の人だったらいつ何をされるか、不安だったかも」

女「……でも、ね」


男(暗くなった倉庫の中でも顔を紅く染めた女。吐息混じりに喋る姿はすごく、魅力的で――)



















女「――私、今男君になら、何をされても……いい、よ……」セキメン


















男(異性を意識付けるには、十分過ぎるほどだった)


男(……ゴクリ)

女「ねぇ……おとこ、くん……」


男「お、俺は――」


「すいません……もしかして人いましたか」




男「          」女「          」




「あっ、これはお邪魔でしたねー」


男(倉庫に鍵を締めたのは用務員の方だった。いつも使われていない倉庫なので、つい鍵を締めてしまったらしい)

男(そのうっかりのせいでどれほど俺の心労がすごかったことか……)

男(……しかし、それ以上にダメージを負っているのは――)


女「……」


男(……俺の目の前で俯きながら顔を真赤にしている彼女だろう)


女「あの、ごめんね男君……。私、ちょっとどうにかしてたみたい」

男「あ、いや、全然なんのこと? 気にしてないから大丈夫大丈夫」

女「……いやらしかったよね。幻滅しちゃったかな……」

男「いやいやいやいや! そもそも俺が流されてたのが悪いって!」

女「……優しいね」

女「男君、あんなこと言った傍で、こんなこと言うのも悪いけど……」







女「私は、男君になら、本当にそういう事をしてもいいと思ってるから……」


男「――っ」


女「~~~っ!! そ、そういうことだからじゃあねっ!!」


男「あ、えっと……」


男(今のってつまり、告白……ってことだよな。あの、女が俺に……?)

男(あの、男女の誰からも人気があって、いつもクラスをまとめている委員長が、俺に?)


男「マジ、かよ……」



男(彼女の純情で真っ直ぐな気持ちに、俺は……どう、答えればいいのだろう)









































"Man is a tool-using animal. Without tools he is nothing, with tools he is all."
                『女』ルート







































こんかいはここまでです。

こんな感じに各ルートやってく感じです

~~~~~~



男(あの日から、俺はおかしくなってしまった)





男『………』

後輩『……先輩? さっきからずっとポットを眺めてますけど何かあるのですか……?』

男『あ、うん……ポットの曲線美って、何だか見てて癒やされるよな』

後輩『へ……? あ、そ、そうですね……』


男(ポットの曲線美の素晴らしさを後輩に伝えていたり……)


黒髪『男……? さっきから箸が動いてないけれど』

男『……』


焼き魚『男君になら、何をされても……いい、よ』


男『~~っ!!』バクバクバクバク


黒髪『何なのよそのすごい勢い』



男(焼き魚と謎の会話を繰り広げたり……)


女『男君……その、おはよ……』


男『――』シュッ


友『おい、男! どこに行く! ホームルーム始まるぞぉ!』


男(……女と顔を合わせるのが恥ずかしく、逃げ出してしまった)

男(その日の授業は気まずすぎて、何か言えたもんじゃない)




男「はぁぁぁぁぁぁ…………」



男(こんなに女性耐性無かったんだな俺……)ズーン

男(今までモテた事はなかったもんな……。ただ、一回だけバレンタインに知らない女の子からチョコを貰ったことはあるけどなぁ……)

男(俺が不甲斐ないせいで女にも気を遣わせてしまった……。ここは男らしく答えを出さなければ)

男(できることなら返事は早い内に返したい。女性を待たせるような不誠実な男にはできるだけなりたくない)


男「そもそも俺って好きな人って居たっけ……」


男(好きな人ってのは居ないと思うが……気になる人はいる)

男(……真っ先に浮かんできたのは黒髪。小さな頃から知己なだけあって、異性としては一番多く接しているからな……)

男(けど、この気持ちはきっと恋ではない。……恋だと思いたくは無い。あの人が見ているのは俺ではなく――)

男(って、そんな事を意識してはダメだ。……きっと命日が近かったからか意識してしまっているだけだ……)


男(……次に浮かんできたのは後輩の顔。稀に見るあの何か諦めたような、そんな悲しい顔をした後輩を見ていると……なぜか気になってしまう)

男(前に一度、後輩に手を貸した時の事とか関わっているのだろうか。……あれだけ取り乱した後輩を見たのは最初で最後だ)

男(けど、これも恋という気持ちとは違うような気がする。俺のお節介な部分が出てしまってるんじゃないか?)


男(その他に色んな女子の事を考えてみる……。しかし、女の事を考えたときのようにドキドキする感覚は感じられない)

男(……そこから導き出される結論はただ1つ)


男(俺も、女の事が好きなのかもしれない)

~~~~~~



男(週明けの月曜日。いつもより自分の容姿に気をつかう)

男(下手に髪がボサボサだったり、前歯に何か付いてたりしては格好がつかない)

男(だってそうだろ? 好きな人の目の前ではより魅力的な自分でいなければダメだ)


男「兄。俺、好きな人ができた。告白されたんだ、彼女から」

男「その人に俺は今日返事を返すつもり。……もちろん、OKの」

男「俺が不甲斐なくて、少し待たせてはしまったけどな……」

男「黒髪の事は……大丈夫だ。兄の代わりにこれからも俺が見守っていくから。彼女ができたからって簡単に見捨てたりするワケ無いだろ?」



男「……それじゃ、今日も行ってくるよ、兄」


友「よーっ」パンッ

男「おっ、友か。ういっす」

友「先週までおかしい男では……もうないか」

男「それについては迷惑をかけた。すまん」

友「迷惑なんてしてねーよ。むしろ男の行動にめちゃくちゃ笑わせてもらったから感謝したいぐらいだ」ハハハ…

男「やめろ思い出したくない」


友「……それで、あんだけおかしくなったって事は……何かあったんじゃないのか?」


男「……女に告白された」

友「へー委員長がねー……。えっ、委員長が!!???!!!?」

男「あ、ああ……」

友「こいつぅ! 知らぬ間にマセやがって~! このこの~!」

男「くっつくな暑苦しいっ……!」

友「んで、返事はどうするんだ?」

男「……色々と考えたんだが……俺は女にOKを出すつもりだ」

友「……そか」


友「……ったく、俺もリアルでエロゲみたいな恋愛してぇなあ」

男「いや、決して俺は漫画とかみたいな恋愛じゃ……」


男(って、アレ? 妙にテンプレじみた事が多かったような記憶が……)
 





友「それでさあ、そこで言うセリフがこれまた痛快なんだよなあ」

男「へー……。なんかそれも気になるな」

友「じゃ、今度貸してやるよ! ってまだ俺が全部読み終わってないんだけどな」

男「……楽しみに待ってる」


「友君、おはようっ」


友「おっ、可愛い彼女さ――」ボソッ

男「バ、バカッ!」

友「モガーっ!」


女「……朝から元気だねぇー。もうそろそろホームルームだから自分の席に戻ってね」

友「ぷはぁ! りょーかい!」ビシッ


女「それと……。男君も、おはよう」

男「ああ。おはよう」


男(……あくまで女は普通を装うつもりか)


女「……月曜日ってやっぱり憂鬱だよね。や、やっぱり――「女」

女「……え? ど、どうしたかな?」

男「大事な話するから、放課後、教室に残ってくれないか」

女「え、あ、う、うん……。わかった」


男(その日の授業は緊張のせいか、今まで一番過ぎるのが早かったかもしれない)

男(彼女になんて伝えればいいのか。どんな言葉を言えば喜んでもらえるのか)

男(……そんな事を考えていると、あっという間に放課後になっていた)


女「うん! また明日ねっ」

ジャアネイインチョー マタアシター

女「……」


女「……これで、二人っきりだね男君」


男「そうだな」

女「……っ」

女「だ、大事な話って何? も、もしかしてこの間の言葉だったり……」

男「その通り。あれは告白されたって思っていいんだよな?」

女「そ、それは……。は、はい。そ、そうです……」

男「……それを聞いて安心したよ」



男「女、俺も好きだ。こんな俺でよければ……付き合ってください」


女「……ぁ」

女「……わ、私も好きです。こちらこそこんな私だけれど……よろしくお願いします」


男「……」 女「……」

男「クックックッ……」

女「……フフッ」

男「なんで、俺達敬語になってんだ」クスクス

女「だね、なんだかおかしいね」クスクス

男「今更こんな改まって言うってのは、な」


女「……そうだ、男君。私を彼女にするなら1つ言っておかないといけない事があります」

男「なんだ?」

女「私って実は……すっごく甘えん坊なの」

女「だから、男君には下の名前で呼んでほしいなぁ……」ウワメ

男「……それぐらいなら全然いいよ。えーと、お、”女”?」

女「もう一回」

男「女……これでいいか?」

女「うん、うん……。私も男君の事、名前で呼んでもいいよね?」

男「ああ。カップルだからそれが当たり前……だと思う」

女「ふふっ……そうだねっ」


女「大好きだよ、”男”君っ♪」

~~~~~~



女「はい、あ~ん」


男「……」

女「男君、固まってないで口を開けて」

男「あ、あーん……」

男「ん……」モグモグ

女「……どうかな?」


男「……うまい」

女「よかったぁ……。男君の舌に味が合うかなって心配してたんだ。もしかしたら、食べてくれないかもって……」

男「そんな心配なんてする必要ないって。十分おいしいよ」

女「じゃあ、もっと食べてねっ」アーン

男「いや、食べさせてくれるのはもういい……」


男(俺が女に告白して数日後。女がいつも俺が昼食を学食などで食べているのに気づき)


女『だったら、私がお弁当作ってくるよっ!』


男(なんて言い出して、只今ワガママな彼女と絶賛バカップル中でございます)


男(あんまり人に見られないような学校の敷地内のベンチで食べているが……こんな姿を誰かに見られたら大変だろうな)

黒髪『……』ニコニコ

男(……大変で済むかどうかもわからない。黒髪にも隠してたりせず、早めに言っておくか……)





















黒髪「……メスの匂いがするわ」

エッ、ドウシタノクロカミサン…… ドウドウ……


男「しかし悪いな……。俺なんかに弁当作ってもらって」

女「そんなことないよ。いつも自分の分を作ってるんだから、一人分増えた所で大した手間じゃないから」

女「それに、”俺なんかって”言っちゃダメだよっ。なんたって私の自慢の彼氏なんだから……ね?」

男「す、すまん。気をつける」


男(それにしても、付き合い始めてから女の隠れていた本性が見えてきた気がする)

男(普段は委員長としてサバサバしてるけど、二人きりになると途端にベタベタしてきたり)

男(結構、仕草だったりとかも凄く女の子っぽいと感じる)


女「あ、そうだっ。男君、今週の日曜って空いてる?」

男「えと……多分大丈夫」

女「それじゃ映画見に行こっ! ちょうど見たい映画が今週から始まるんだ」

男「もしかして例の恋愛映画か?」

女「当たりっ。ということで日曜は映画館デートだねっ」

男(そうか。二人で出かけるんだからデートってことか)

男(……そう思うと変に緊張してきたな)

女「えへへー。楽しみにしてるね!」

男「ああ。俺も楽しみだ」

~~~~~~



男(集合時間まで後10分……か)

男(駅前に10時集合とはいえまさか、9時半に着いてしまうとはちょっとやりすぎてしまったか)

男(待たせるのは良くないとは思って早めに出たが……。少し見積もりを誤ったか)

男(……それほど楽しみにしているって事にしておくか)

男(念のためもう一回時計を確認しようとすると、見慣れた姿を見つける)

男(あれはクラスの……。へぇ……あいつら付き合ってたのか)

男(たしかにクラスで一緒の所はよく見てはいたが……)

男(駅の中に消えてく彼らを見ていると、その反対方向から人混みの中でも一際目立つ存在がこちらに向かってきている)


女「はぁ……はぁ……ごめん、また待たせちゃったね」

男「いや、全然待ってないから大丈夫」

男(恥ずかしいので30分前にいたとは口が裂けても言えない)

男「それよりまだ集合時間前だぞ? そんなに急ぐ必要なかったじゃないのか」

女「あ、いや、その……」

女「待っている男君の姿見えたら、早く会いたいなーって思っちゃって……」セキメン

男「」

女「じゃ、じゃあ早く映画館に行こうっ」

男「そ、そうだな! せっかく早く来たことだしな」


男(そういえば、女いつもより綺麗だな……)


女「……」


男(化粧もナチュラルにしていて、服装も見慣れている制服じゃないせいか新鮮に見えて、それでまた緊張してしまう)

男(俺と会うためにここまでしてくれてるって思うとなんだか嬉しいもんだな……)

男(……そういう所は俺の方から褒めるべきだよな)


男「女、今日はいつもより、そのっ……か、かわいいな」

女「――!」

女「今日は男君と会うためにいつも以上に気合い入れてきたんだ」

女「そう言ってくれると、うれしいな……」

女「男君もいつもより髪とかキマってて、かっこいいよ」

男「ア、アリガトウ……」





男「えーと、高校生二人で……」

2600エンニナリマース

男「これでお願いします」

400エンにオツリデース


男「はい、これチケット」

女「あっ、ありがとう。でも本当にいいの? チケット代払ってもらって」

男「気にしないでくれ。こういうのが男が払ってなんぼだから」

女「でも……」

男「じゃあ、代わりにポップコーンでも買うか?」

女「んーー……。そうしようかなっ」

女「味は私が買うんだからキャラメルね! サイズは二人で食べるから――」


『ジョニー! 行かないで! 無理にでも行くのなら、私も共に行くわ!』

『すまないエリザベス……。これは俺個人の問題なんだ……。本当に、済まないっ……!』

『待って、ジョニィー……!』


男「……」

男(ベタだなぁ……。でも王道だからこその良さってのがあるよな)

男(女は――)


女「……」


男(……え?)


女「わ、わっ……。い、いきなり見られるとびっくりしちゃうよ」コソコソ


男「あ、すまん……」コソコソ

女「……私、ちょっとトイレ行ってくるね」

男「あ……」



男(その時の女の表情は、いつものような快活な印象とはかけ離れていて)


男(むしろ冷めきった様な……そんな風に感じた)




女「~~~! おいしい~」

男「気に入ってもらえたようで何より」

女「まさか男君がこんなお店知ってたなんて、ちょっと惚れ直しちゃったかも」

男「ま、まぁな……」


男(昼前から映画を見る予定だったから必然的に昼食を食べる事になってくるし、そうすると駅前まで来ているとなると外食になるのは自然の流れだ)

男(しかし、今までファミレスやラーメン屋とかしか行ったことないし、彼女をそんな所に連れていくわけに行かないしな)

男(事前に調べておいてよかった。ここなら女性向けのカロリー控えめなメニューもあるし、喜んでくれるだろうと思っていた)


女「ごちそうさまっ。あー、お腹いっぱいだよーっ」

男「えと……この後はどうしようか」

女「うーん、せっかく駅前まで来てるんだし……カラオケなんてどうかな?」

男「お、いいな。女はいつもどんなの歌うんだ?」

女「えーっと、最近は――」


男(この後のデートの予定を話す彼女はいつも通りの明るくて、二人きりになると少しワガママになる……いつもの女だ)

男(……きっと、さっきのは俺の見間違いだったんだろう)


男(せっかく彼女とデートに来ているんだ。思いっきり楽しまないとな)


女「ん~っ! 楽しかったーっ!」

男「歌、上手かったな。以外とかっこいい系の曲とかも歌っててビックリしたけど」

女「実はああいうのはあんまり歌わないんだけど、男君の前なのでちょっとカッコつけてみましたっ」

男「なんだよそれっ。別にカッコつける必要はないだろ」ハハハ

女「テンション上がっちゃって、つい……えへへ」


女「……今日は、ありがとね。時間を忘れちゃうほど楽しかった」


男「俺も。こんなに楽しい時間を過ごせたのは久々かな」

女「えへへ……ありがとう」

女「それじゃあ、また明日」

男「ああ。また学校で」

女「……ばいばい」


男(そう言うと、女は俺の家とは逆方向へ向かって歩き始めた)


男(さてと……俺も家に帰るとしますか)

男(久々にはしゃぎ過ぎたかな。今日は湯船にでも浸かるかー……)

こんかいはここまでです

~~~~~~



男「……ごちそうさん」

黒髪「お粗末さんでした」

男「ふぅ……。今日の麻婆豆腐、いつもより辛かったような気がするなー」チラッ

黒髪「あらそう……? 気の所為だと思うのだけれど」

男「おい待て、その手に握っている赤い物体はなんだ」

黒髪「……あなた、幻覚が見えてるんじゃない?」

男「おい」


黒髪「……冗談よ。色々とあって、味を変えてみようと思ったの」

男「その味を変えるに至った理由を詳しく聞きたい」

黒髪「……男、あなたがいつまで経っても話してくれないのが悪いのよ」

男「いや、何の事だ?」

男(女との件はこの後に言うつもりではいたが……)

黒髪「言うこと、あるんじゃないの?」

男(黒髪のその眼差しは、俺の目を捉えて離させてくれようとせずに、俺を覗き込むように見ていた)

男(……こりゃあ、もうバレてるんだな)


男「ああ。……俺、彼女できた」

黒髪「……やっぱり、ね」

男「……悪い」

黒髪「何で私に謝る必要があるのかしら。男にやっと彼女ができたっていうのに」

男「それはお前は――――」

男(その時、気づいた)


黒髪「――」


男(黒髪はもう覚悟を決めてきたんだ。それなら、俺は野暮にそれを穿る真似はするべきではないと)


男「……いや、何でもない。言うのが遅れて悪かった」

黒髪「なんなら一番初めに言ってきてほしいぐらいよ。小さな頃から見てきた男に彼女ができたなんて、”姉”として嬉しいわ」

男「あ、ありがとう……。……ん? ”姉”?」

黒髪「? だって、あなたは私の弟であり、私はあなたのお姉ちゃんでしょう?」」

黒髪「小さな頃からあれだけ触れ合ってきたんだもの……。これはもう完全に姉弟だと思うのだけれど。いや、完全に姉弟ね」


男(こ、こいつ……。おかしな方向に吹っ切れてやがる……!)


黒髪「なので今から姉弟としてのスキンシップをしましょう。それが一番だわ」ダキッ

男「ちょっ! いきなり抱きついてくるなっ! やばいって!!!!」

男(主に背中に当たっているその2つの球体が!!!!)

黒髪「いいじゃない。勉強会の時だっていつもしてきたことじゃない。それに……」

黒髪「こんなに大きな胸は、あの娘には無いのよ?」ササヤキ

男「~~~~~~っ!」ゾクゾク

黒髪「……この様子だとまだ一夜を過ごしたわけではなさそうね」

男「ば、ばか! 離れろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


友「よぉー男ー。……大丈夫かお前? 妙にげっそりしてるけど」

男「……黒髪のせいで大変な目にあった」

友「黒先輩にか。……このリア充め、ざまあみろ」

男「はあ……。夜ご飯作ってくれるのはありがたいんだけどなー……」

「誰が夜ご飯作ってくれるの?」

男「おわぁ! ……なんだ、女か。おはよう」

友「お、いいんちょおはよー」

女「友君、それに男君もおはよっ」


男「昨日メールで言ってた実行委員の仕事はもう終わったのか?」

女「うん。最初の予定だとホームルームに間に合うかどうか微妙だったけど、以外と早く終わっちゃった」

友「……」ニヤニヤ

男「そうか。そりゃあよか――」

女「それで、さっきの話の事。詳しく聞きたいな~」ニコニコ

男「あ、いや、その……」

女「ききたいなぁ~♪」ニコニコ

男「アッハイ」




女「そんなのずるいよっー!」

男「悪い……。確かに彼女がいるのに他の女子に夕飯作ってもらってるってのは無神経だった」

女「……私も作りに行く」

男「……はい?」

女「今日、男君の家にご飯作りに行くから放課後は買い物に付き合ってね?」

男「でも女は委員会じゃ……」

女「委員会より大事な事ができたの」

男「わ、分かりました……」



友「……」ニコニコ

友「イイナー。オレモカノジョホシイナー」ニコニコ


女「じゃがいも、人参、玉葱……」

男「……」

男(結局女に押し切られて、食材の買い出しに来た。ちなみに何を作るのか聞いてみたが一向に教えてくれそうにない)

女「しらたきと豚肉っと。そういえば男君の家に調味料って揃ってる?」

男「一般的な調味料なら大丈夫だ」

女「そっか。じゃあ後は――」


男(……なんかこの時点で作るメニューが分かってきた気がするな)

女「ねぇ、男君……なんだかこうやって買い物してると……夫婦みたいだね」

男「   」

女「私達、今新婚さんみたいにアツアツだもんね♪」

男「お、俺はこんな子に育てた覚えはないぞっ……!」

女「……?」


女「ごめんね、荷物持たせちゃって。重かったら持つよ?」

男「これぐらい大した事ないって。女はこれから料理作るんだから、それに備えてもらわないと」

女「そう言われたら仕方ないなぁー。よーっし! 気合い入れて作るよ―っ!」


男(彼女の手料理か……。今まで黒髪に作ってもらってはいたけど、それとはまた別だよな……)

男(やっぱ、雰囲気とか違うもんですよ。それだけに彼女の手料理というのは魔翌力を持っているはず)

男(くぅー! 楽しみだな……!)


「あら」


男「え」

女「あっ」


黒髪「これは奇遇ね。男に……女さんでよかったかしら」


男(ラスボスktkr)


女「あ、はい。私、女って言いますっ。その男君とは……」

黒髪「聞いてるわ。付き合ってるんでしょ、あなた達」

女「そ、そうです」

黒髪「そんなに堅くならないで。別に取って食おうってわけじゃないのよ?」

女「いえ、そのぉ……あの黒先輩と話してるってだけでなんだか萎縮しちゃいますよぉ……」


黒髪「……私ってそんなに怖い?」

女「い、いえ! そういうわけじゃないんです」

女「私達女子の間でも黒先輩は、憧れの人なんで」

黒髪「こんな可愛い子に慕ってもらえるなんて私も幸せ者ね」

黒髪「その彼女の男なんてもっと幸せものね」フフ…

女「と、とんでもないですっ!」

黒髪「……ホントに可愛い子ね」








黒髪「”で” そこでさっさと家に帰ろうとしている買い物袋を持った男君?」


男「」ビクッ


黒髪「その買い物袋の中身、気になるのだけれども」

男「い、いやぁ……。これは……」

女「私が今日、男君に夕飯をつくるんです」

黒髪「そうだったのね……」

黒髪「……」


男(……なんでだろう。すごく不穏な気配がするのですが……)






黒髪「私も、ご一緒させてもらおうかしら」ニッコリ

今回はここまでです。 次回はほっこりまったり食卓回です(白目)

乙です

俺バカだからよお、女ルートが確定した時の英語が何言ってるのか全然わかんなくてよぉ、誰か和訳を教えてくれねぇか

>>113
僕の方から教えると少し野暮な気もするので……『<英文> 和訳』で調べるとすこしハッピーになります(白目)


男(買い物をしていた時の女の”新婚”という表現はあながち間違っていなかった)


女「……っ」

黒髪「……」ニコニコ


男(一生懸命夕飯を作ってくれている女。その様子を遠巻きに微笑みながら”観察”している黒髪)

男(早くも嫁姑問題の様な形相を描き出している我が家の食は果たして大丈夫だろうか)

男(結婚とかしてないけどね! あくまでそれっぽいってだけあって、決して他意は無いからなっ!)


黒髪「……こうしてると、本当に弟を送り出す姉の様な気持ちになるわね」

男「”姉”じゃないけどな。どちらかと言えば姑みたいな感じ」

黒髪「いつから私はあなたの母親になったの? それとも姉を否定して母親を肯定するって事は私が年老いてるとでも言いたいのかしら?」

男「すみませんお姉様。これからは言動に気をつけます」アセアセ

黒髪「よろしい」


黒髪「……ところで男。あなたはどうして女さんを好きになったの?」

男「え、やだよ……。何でそんな恥ずかしい事を言わなきゃならんのよ」

黒髪「いいじゃない……。お姉さんからのお願いよ」

黒髪「言わないと……イタズラしちゃうかも」ボソッ

男「わ、わかったよ……」


男(確かに、今までそういう所を考えてこなかったな……。俺が女を好きになった理由か)

男(いつも明るくて、誰に対しても優しい。誰からも慕われる女)

男(だけど、二人きりなると俺の為に一生懸命尽くしてくれたり、少しワガママになったり、他の女子に嫉妬したりする可愛い一面もある)

男(彼女の隠された一面を知っているのは多分、俺だけ。……きっとそんな性格を好きになったのだろうな)

男(理由としてはこうだと思う。けれど、そんな事考えていた時間なんて一度も無かったんだ。だから俺の答えは……)


男「――気づいたら彼女を好きになっていた。ただ、それだけ」


黒髪「……ふぅん」

男「……なんだよ、興味なさそうに」

黒髪「別に? 考えた結果がそんなものかなんて思ってないわよ?」

男「絶対思ってんだろ……」

黒髪「じゃあ、ここでお姉さんからワンポイントアドバイス」

男「姉を訂正しろ姉を」

黒髪「……ノリが悪いわね。あなた気づいたら好きになってたなんて言ってたけれど」




黒髪「彼女の事、ちゃんと分かってる?」


男「当たり前だろ……。」

黒髪「じゃあ、彼女の好きな食べ物は?」

男「それは……」

男(あれ……? なんだっけ……? この間デートした時はパスタを美味しそうに食べてはいたが……)

黒髪「彼女の趣味、得意な事。逆に苦手な物や不得意な事……。あなたはそれが今、全て言えるの?」

男「……言えない」

黒髪「はぁ……。これだからあなたは」


黒髪「女さんが好きなら、彼女の事をもっと見て、もっと知りなさい」

黒髪「浮ついた気持ちじゃなくて、本当に好きになった相手なんでしょう?」

男「……ああ」

黒髪「だったら尚更よ。……女の子は好きになった相手には自分を理解してほしい生き物なの」

黒髪「彼女もきっとそれを望んでいるはず。だから、男。あなたはそれを肝に命じて置きなさい」

男「……分かった」


男(黒髪の言ったことに何も反論できなかった。そんな自分に腹が立つ)

男(女の事、何も理解しないまま彼氏面して……。ダセえな、俺)

男(もっと彼女の事を理解していかなければ、そうしてもっと近づいていける様に)

男(そしたらきっと――)


女『……』


男(あんなにも寂しく、虚しい顔をしていた女さえも理解する事ができるはずだ)



女「出来ましたーっ!」


男「おぉ……!」黒髪「へぇ……」


男(明るい声と共に料理を持ってくる女。その手にあったのは俺の予想通り……肉じゃがだった)

男「やっぱり肉じゃがだったんだな」

女「あれだけ材料見られたらさすがにバレちゃうよ」

男「野菜を買っている時はまだカレーの線をまだ捨てられなかったけどな……しらたきの時点でピンときた」

女「しらたきをカレーに入れることなんて絶対無いもんね」クスッ

男「それ以外にも煮浸しとか、酢の物、これは……」

女「ほうれん草の胡麻和え。お母さんが好きだからよく作るんだ」

男「へぇ……。料理できるって言ってもまさかここまでとは思ってなかった」


男「じゃあ……いただきます」

黒髪「……頂きます」

女「どうぞ、召し上がれ」ニコニコ

男「んー! んまい、って熱っ!」ホフホフ

女「あっ、大丈夫?」パクパク

男「大丈夫……。いきなり一口大のじゃがいも頬張ろうとしたから……」

女「んもー……。量は多目に作ったつもりだからどんどん食べてね?」

黒髪「……」

女「黒先輩も私に遠慮しないで食べてくださいっ」

黒髪「ええ。そうさせてもらうわ」ニコ

黒髪「……ところで、これは隠し味でも入れてるのかしら。少し風味が違うように感じるわ」

女「あっ、それは味噌を――」


男(この様子だと黒髪と女の心配をする必要もないみたいだな。主に黒髪が何をしでかすか分かったもんじゃないし)


男「……本当に大丈夫か?」

黒髪「大丈夫よ。まだ9時も回ってないし、駅までの道も明るくて人通りも多いでしょ」

男「いや、やっぱり俺も送りに行くよ」

黒髪「たまには”女の子”だけで話したい事だってあるの。そうでしょ、女さん」

女「は、はい……」

黒髪「変な事があったらすぐ電話するから」

男「わかったよ。女、今日はありがとう」

男「よかったら……また作ってくれ」


女「うんっ、またその内にね」

男「じゃあ黒髪、女の事頼む」

黒髪「ええ。……では、失礼するわね」

女「男君、じゃあね~」フリフリ

男「……」フリフリ


バタン……


男(女の肉じゃが美味かったな……。次はまた違うメニューを作って欲しいな)

男(彼女の手料理……ん~! いい響きだなぁ~)





スタスタ……




黒髪「……」

女「……」


女「……あ、あのっ」

黒髪「?」

女「話したい事があるって聞いたので何だろうと思いまして……」

黒髪「そうね……私、口下手だからあまり話題浮かばないのよねぇ……」


女「あ、あはは……」

黒髪「……ということでいきなり聞くけど、女さんは男のどこを気に入ったのかしら」

女「えっ、ええと……優しい所です」

黒髪「分かるわ。男は変に細かい所まで気を遣ってくるから」

女「そうですよねっ」

黒髪「男ったら小さい時なんて……これは、やめておくわ」

女「男君の小さい頃の話ですかぁ……。気になりますね」


黒髪「この話はまた今度でいいかしら。そろそろ駅に着くでしょう?」

女「そうですね、また機会があればその時に是非……」

黒髪「じゃあ、私から最後に一つだけ……」


黒髪「――あなたが何を目的として男に近づいたかは私は別に興味無いし、男にも言うつもりも無いわ」


女「……!!」


黒髪「ただし……」
























黒髪「男に何か危害を加えるような事をしたら、私はあなたを絶対に許さない」ギリッ



女「……」


黒髪「……なーんて。冗談よ」



女「……ふ、ふ……」

女「ふはあぁぁぁぁ…………息が詰まるかと思いましたよぉ……」


黒髪「ごめんなさいね。ちょっとこういう事するのに憧れがあったの」

女「黒先輩、すっごく怖かったです……」

黒髪「女さんをここまで怖がらせる事ができたってことは私の演技も板に付いてきたってことかしらね」

女「今後はこういう事をしないでくださいね……。心臓いくらあっても足りません」


黒髪「ふふっ……。あなたも反応が可愛いわね……」

女「あ、私ここまでで大丈夫ですっ」

黒髪「そう? ……では、女さん。またいつかこうしてお話しましょ?」

女「はい……。おやすみなさい!」

黒髪「ええ。おやすみなさい……」






































黒髪「……もしかしてと思ってカマをかけてみたけど、あの顔――」


女『……』


黒髪「……残念ながら、”クロ”ね……」







































今回はここまでですん

~~~~~~


男(夏の気配は鳴りを潜め、いよいよ秋も深まってきた。文化祭も近づき、本格的に校内が文化祭ムードに染まりつつある)

男(それは俺の周りも例外ではなく、クラスの準備等でこれからは忙しくなりそうだ)

男(中でも女は実行委員なだけあって多忙を極めている。その為、ここ最近は放課後に共に過ごす事も少ない)


男「はぁ……」


男(そして今は部活に来て、女の仕事が終わるのを待っている。……待っている事は女に伝えてないけど)

男(サプライズの様なもんだし、作業で疲れている彼女を少しでも元気づけられる……と思う)


後輩「先輩、珍しくため息なんて溜め息ついてどうしたんですか?」

男「あっ、悪い。無意識に……」

後輩「何か悩みがあるのであれば、私が聞きましょうか……? 解決は、できないかもしれないですけど」

男「いや、大丈夫。別に大したことじゃないから」

後輩「そう、ですか……」シュン

男「あっ、気を悪くしないでくれ。本当に大した事じゃないんだ。これは自分で考えるべきことだから」

後輩「いえ、私が勝手な考えで先輩のお役に立とうとしただけです」

後輩「……これぐらいで、恩を返すとは程遠いことですが……」

男「いや、後輩の気遣いのお陰で少しは楽になった。ありがとな」ニコ


後輩「ぁ……は、はい」

男「それにあの時の事はもういいって。俺が勝手に出しゃばっただけだし」

後輩「い、いえっ! そんな事はないですっ!」

後輩「あそこで先輩がいなかったら、私はっ……!」

男「お、落ち着け後輩……」 

後輩「あ……すみません」

男「いや、謝る必要はない。ただ、後輩がそこまで声を出すなんて少し珍しいから驚いた」

後輩「~~~っ!!」セキメン


男(後輩は手に持っていた本で顔を隠す。よっぽど恥ずかしかったのか……)


後輩「わ、忘れてくださいっ……」

男「いーや、覚えとく。こんな姿の後輩なんて二度と見れないからな」

後輩「うぅ……」

男「……まーとにかく、あれは俺が勝手に恩を投げ売りしていっただけ。それに返すも何もない。それでいいな?」

後輩「……じゃ、じゃあ私からも1ついいですか?」

男「ん?」

後輩「また先輩が困っている様なことがあったら、その時は私が勝手に恩を投げ売ります」

後輩「そこに貸し借りは無い……。そういう事でよろしいですか?」ニコ

男「……まいったな。こいつは一本取られた」

男「わかったよ。ただ勝手に無茶するような事だけはしないでくれよ?」

後輩「……はいっ」


~~~~




男「……」


男(時間も頃合いになったので、後輩に別れを告げて校門に向かい、女の下校を待つ)

男(前ほどの暑さは感じられなくなり、程よく心地の良い気温なので、女が来るのを待つのも苦じゃない)

男(……女はどんな反応してくるのだろうか。少しワクワクする)

男(遠目に昇降口を見ると、下校してくる人の中に女の姿を見つける。……内心、いなかったらどうしようかと思っていた所なので、ほっとする)


男(……さーてと。そろそろ姿を出そう)


男「よっ、お仕事おつかれ――」

男(女が校門近くまで来たのを確認し、声をかけたその瞬間)



女「――――え?」



男(女の顔は、心底驚いたような顔をしていた。それは喜ぶ類の感情ではなく……まるで凍りつくような冷たい表情だった)


男「……あっ、ちょっとしたサプライズで……その、最近あんまり一緒に帰ってなかったし……」

女「そ、そんな……私のせいで男君に負担をかけさせたくないって前に言ったはず」

男「大丈夫だって。今日は部活に出てきたから、負担も何もかかってないから」

女「で、でも……」

男「……最近、仕事の忙しさで大分疲れていたのを見てて、俺も何か出来ないかって考えたんだ」

男「仕事を手伝おうにも女は断るから、せめて少しでも話を聞いて、疲れを癒せればと」

女「……う、ううん。大丈夫だから」


男「……そ、そうか」

女「……」

男「……ご、ごめんなっ。俺の勘違いで返って女に負担かけさせて」

女「そんなことないよ。男君の気持ちはすごく嬉しいから……」

男「あ、うん……」

女「……」


男(女の気持ちを考えないで自分勝手な行動をしていた事に恥じなければならない)

男(そして、彼女の気持ちを第一に考え……自分の気持ちを”押し殺せばいい”)

男(少し待てば、きっとまた女と触れ合う時間は増えるはず……)


男(――しかし、本当にそれでいいのか?)


男(女の状態は明らかにいつもと違う。いつもの明るい表情は鳴りを潜め、曇った表情をしている彼女を俺は野放しにしている事が彼女の為になる?)

男(彼女を支える立場にいる俺が、今何もしないことは本当に正しいことか?)



男(……違う。それは正しい”選択”ではない。俺が成すべきことは……)




男「……女」


女「……?」


男「俺は、女を支える立場にいる人間だと思っている」


男「だから辛いことがあれば、遠慮なく言ってほしいし、それを解決する為の手助けをしたい」

男「……彼女が暗い顔するのは、俺は嫌だから。女は笑顔の方が絶対似合っていると思うし……」


男(映画館で見た表情。そして、さっき見せた表情だって……。俺はまだ、彼女という存在を理解していない)

男(彼女には俺の知らない面が隠されている……。そう思ったから)


女「……」

男「俺の自己満足かもしれない。おこがましい事を言ってるのかもしれない……。それでも、俺は女の力になりたい」

男「悩みがあるならいくらでも聞く。何かしてほしい事があるならいくらでもやってやる」


男「……だから、手を貸してほしい時は声をかけてくれ。その時まで、俺は待つから」


男(今言っている事は、彼女に負担をかけさせてしまうかもしれない。けれど、そうしてでも言わなきゃならない)

男(彼女の様に身近な人が困っているのなら手を差し伸べなければならない)



『おれといっしょにあそぼうっ!』



男(俺がそうされた様に。手を差し伸べることが、いつかはその人を救う事になると信じているから)


男「急に色々言ってごめん。でもこれが俺の気持ちだから。迷惑だと思ったのなら聞き流してくれ」

男「……それじゃあ、また明日」

男(ちょうどいつも別れている付近まで来たので、一言入れてさっさとと行くことにした)

男(……だって、少し恥ずかしい事言ったしなぁ……ちょっと離れたい気分もある……)

男(女も考える時間が必要だろう。だから、今はこれいいはずだ)






女「……」


――――




「……今日で終わりだ。今までご苦労だったな」

「問題ないです。……今までに無かった体験ができましたから」

「へぇ……興味深いな。計画が終わった際には色々と聞かせてもらおうか」

「……大した事ではありません。”持った”同士で行動すると何が起きるか想定ができないというだけです」

「なるほど。”再生<ロード>”を繰り返してきたお前にとって、同じ行動を取らない対象は扱いにくいと?」


「……そのような解釈です。第一に今回は”再生”が許可されていません」 

「持っている者同士だと互いに”再生”を繰り返して行動パターンが読めなくなると説明を受けてましたから」

「そうだったな。まぁ、研究対象についてはまだアレを自覚していない点からしても、”再生”を行う可能性は極めて低いのだがな。念には念を入れとかないとな」

「……」

「だからヤツが選ばれたと言っても過言ではない。っと、他愛もない話はここまでにしとこうか」

「次に向けての準備をしなければな……」

「お前は、役目からしても少し疲れてはいるだろうから休暇を一日ほど取っても構わないが、どうする?」

「大丈夫です。私はいつでも”再生”してもらっても構いません」

「そうか。なら日付が変わる前に”再生”を実行する。三時間後、またここに来るように」

「……はい」


~~~~



(……)

(幾度となく世界を繰り返してきた)

(何度も同じ言葉を聞いた。何度も同じ行動を見てきた。そして、私の望む展開にする為に何度も繰り返した)

(そうして、望む物全てを手に入れてきた……はず……)

(なのに……どうして、私は今こんなに動揺しているのだろう)

(行動が予測できなかったから? 再生ができなかったから? 選択を選べなかったから?)


男『……だから、手を貸してほしい時は声をかけてくれ。その時まで、俺は待つから』


「……」

「こんな事を言われたのは、初めて」

「だから、少し動揺しているんだ私」

「でも、これでもうお終い。あなたが私を気遣うことは二度と無い」

「もうすぐあなたは、違う誰かを愛さなければならない」

「それが”計画”の中に組み込まれている、ストーリーの一つなのだから」









































女「さようなら、男君。”100人目”の偽りの彼氏」
















































































"There is no coincidence in fate. Before meeting a fate, a human being is making it."
『序章』 完






































うわスペースミスってるうううう 真ん中にあるもんだと思ってくださいというかそうしてくださいお願いします

生存報告程度にこの程度ですが、とりあえずここまでで。

>>1さん過去にss深夜で書いたことあります?

>>159
え、エスパーですかね……
結構前にかいてました 

(……酷く、気持ちが悪い)


(頭の中を得体の知れない”何か”が蠢いている……そんな感触がする)

(その”何か”は実際に物体として動いてるわけではなくて……なんとなく、違う物をどうにかしようとしている)

(そう、これは……多分、俺の記憶に何かしようとしているんだ)

(現に今、夕方に出会った”彼女”の顔がもう誰なのか分からないぐらい薄れてきている)

(今日、大切な誰かに伝えた事があるんだ。だから、俺は待たなきゃいけないんだ)

(……待つ? 何を? そもそも伝えたってなんだ……?)

(分からない。何も思い出せない……。俺は一体何を考えているんだ……)

(……ああ。わかったぞ。これは夢の中の出来事だ。きっと夢の中で起きた事を現実の事と勘違いしているだけだ)

(そうでないと、忘れるはずがないだろう? こんなに考えても忘れるような事を)


(……もう、目を覚まそうぜ? こんなくだらないことしてたって意味なんて無い……。目を開くだけでいいんだ)



(あれ、俺は誰かを助けなきゃいけない――――)


男「――」


男「っ!……いって……」

男(起きた途端に頭がズキズキと痛む。……不思議と寝起きに起きる頭痛には慣れているからあまり驚くことはないけど)

男(月に1.2回程だったか……。最近は無かったもんだから油断してたな)

男「えーと、今日は何曜日だっけ……」

男(確か文化祭が近かったような気がするが……)




男「……え?」



男(俺ってこんなにボケてたか……?)

男(日付を見ると文化祭の約一ヶ月前を指している。文化祭の一ヶ月前……つまり、兄の命日の近くってことか)

男(……)


男(俺の単なる勘違いか。さてと、こんなアホみたいな事してないでさっさと制服に着替えてしまおう)


アリガトウゴザイマシター

男「……」ゴクッ

男(はぁーっ。やっぱ朝一に飲む牛乳ってやっぱ最高だな。)

男(どうせならサンドイッチも食べるか。早い時間だし、そんなに人が通る事もないし)

男(委員長あたりに見つかったらめんどくさそうだけど……たとえば)


『あー、食べ歩きはいけないよー!』


男(みたいな感じに近づいてきて、軽く注意してきそうだ)






男(……ま、そんな事起きるわけないんだけどなー)





友「ふぅー食った食った~」

男「……ごちそうさま」ボソッ

友「そういえば、昨日は俺の貸したやつはやった?」

男「昨日は部活から帰ってから色々あってやる時間がなかったんだよ。今日にでも――」

ブブブブブブブブブ

男(右ポケットから振動を感じる。この振動の感じからして、おそらくメールでも来たのだろう)

男(携帯を画面を見るとそこには『黒髪』の名前が表示されていた)

男「……っわり。ちょっとメール返す」

友「んー」


男(黒髪からのメールは少なく、大体が重要な連絡事項がほとんどなので確認は早めにしといた方がいい)

男(早速メールを確認する。そこに記さていた内容は……)


男「……すまん友。今日も例のゲームできない」

友「どうした? まさか、お前女子でも連れ込んで――」

男「んなわけあるか。飯作りにくるんだよ、黒髪が」

友「それはそれでなんかムカつくんだけど」


男「飯作りにくるだけ。それ以上も何もないだろ。それはお前だって分かっているはずだぞ」

友「まぁな……。でも俺も黒髪先輩の手料理食いてえよ!!」

男「なら今度余りでも持ってくるか? 日が経ってすこしアレかもしれないけど」

友「大歓迎だよ!! なんなら今日のやつを明日持ってきてほしいね!!」

男「……あいよ」


~~~~



男「……ごちそうさま」

黒髪「お粗末さまでした」

男「皿は俺が洗っておくから、置いといて」

黒髪「あら、変に気が利くじゃない? どうしたの? 病気? 薬飲む?」

男「病気じゃねーよ……。いつもやってることだろうが」

黒髪「いつも私が先に洗い始めるから、自分の分だけでしょ?」

男「うぐっ……。まぁ、いつもやらせてばっかだし……たまにはって」


黒髪「……ふーん」

男「な、なんだよ……」

黒髪「なーんでも。少し思う所があっただけ」

男「少し思う所って……気になるから是非教えて欲しいもんだな」

黒髪「些細なことよ。前よりも……」

男「……?」


黒髪「――やっぱりなんでもないわ。さっさと洗って私を見送りなさい」

男「言わないんかい! いや、別にいいけど」

黒髪「ホントは気になるくせに」

男「はいはい。そちらは帰る準備でもしといてくれ」


男「……」ジャー



黒髪(本当に、些細なこと)


黒髪(ほんの少しだけど……あの人に似てきたって。それだけ)



黒髪「……ふふっ」

~~~~



男(――それは突発的に襲い掛かってきた)

アザシター

男「……」


男(今日も面倒くさくてコンビニで朝飯を済ませる事にしてしまった。不摂生であるのは分かっているのだが)

男(もうちょっと早寝早起きを心がけて、朝飯を作る余裕を確保しなきゃ――)




「――先輩?」


男「――っとと、あれ? 後輩?」

後輩「はい。おはようございます、先輩」

男「おはよう。……朝に会うなんて珍しいな」

後輩「そうですね。そのパンは……もしかして昼食を?」

男「いや、これは朝飯。作るの面倒くさくてこういうので済ませちゃうんだ」

後輩「そうなんですね。……先輩って一人暮らしですか?」

男「一応親と暮らしてるけど、親はほとんど帰ってこないし実質一人暮らしみたいなもん」

後輩「……大変じゃないですか? その、家事だったり全部一人でやった上で、勉強する時間も確保しなければいけないでしょうし……」


男「んーたしかに大変だけど、慣れたかな。勉強とかも記憶力とか変にいいからあんまり時間もかからないから」

後輩「……」

男「ん? どうした後輩……」

後輩「そ、尊敬しちゃいます! そんなに大変な環境に置かれた中で成績の順位も高くて、家事もこなしちゃうなんて……!」

後輩「私なんてやること成すこといつも時間かけてばかりで……」

男「いや、ほんとそんな言われるほど大変じゃないから! 男一人の洗濯なんてすぐ終わる!」

男「洗うもんなんてパンツと肌着とYシャツぐらいだし……」

後輩「……せ、先輩のパンツ……?」

後輩「」プシュー


男「お、おい後輩っ! し、しっかりしろ!」

後輩「……っ。 こ、これはお恥ずかしい所を……」

男「いや、いきなり立ち止まるからどうしたもんかと思って。病気で倒れたりしたら怖いからな」

後輩「ご、ごめんなさい。ちょっと感情の制御が……」ゴニョゴニョ

男「……? とりあえず大丈夫か?」

後輩「は、はいっ。身体はこの通り健康です……」

男「ならよしっ。だったら早く学校行こうぜ。時間に余裕はあるにしろ何があるかわからないからな」


後輩「……」

男「後輩?」

後輩「……それは一緒に登校するということでいいんですか?」

男「当たり前だろ。ここで会ったのも何かの縁だ……なんて大層な事は言わないけど」

後輩「あ、ありがとうございますっ」

男「ど、どういたしまして……?」





後輩「……先輩と部室以外で話すのも、すごく久しぶりな気がします」

男「そりゃあ、学年違うからそんなに会うこともないしな」

後輩「前に話したのは……たまたま食堂で会った時でしょうか」

男「そうだったか? 廊下とかで会ったような……」

後輩「もしかしたらそうかもしれませんね。……そういえば、先輩の家はこの近くなんですか? 駅は反対側ですし……」

男「ああ。わりとうちの高校頭良いし、ここいらに住んでて頭がそれなりに良いやつだったら大抵目指すからなー」


後輩「実は私もここの近くに住んでるんです。……すこし歩きはしますけど」

男「へぇー。中学はたしか、私立だったっけ」

後輩「はい。と言ってもここから4駅ぐらいのところですけどね」

男「なら、そのままエスカレーターで高校行かなかったのには理由があるのか?」

後輩「……はい」




後輩「――とても、大事な理由があります」


男「おお……。そこまではっきり言われると、理由が知りたくなるな」

後輩「……先輩には、内緒です」

男「だよなあ……。ただの先輩の俺なんかに教えるのは無理って分かってた」

後輩「い、いえっ。あのっ、その……」

男「いや、いいよ。そんな気を遣わなくたって。人には言いたくないことなんて1つや2つあるもんだからな」

後輩「す、すいません……」




後輩「……先輩だから、言えないんです」ボソッ






後輩「……では、また気が向いたときにでも部室に来てくださいね」

男「ああ。じゃ、また今度」


男(後輩と話しながら学校に向かっていたらあっという間に昇降口まで来ていた。なので、後輩とは別れ自分のクラスへ向かう)

男(部室以外で後輩と長く話すのも初めてかもしれないけど楽しかったな。後輩は話してみると意外と口数多かったりするし)

男(また今度部室行った時にちょっと色々と誘ってみるかー)

男(一緒に本買いに行くのとか良さそうだな。本は後輩も好きだし)



男(……いつもは物静かな後輩。本当は明るい性格を持ってるのかもしれない)

男(俺もよく分かっていない……。でも、今日話していてそう感じた)





『……わたしはっ……もうなにもかもなくした……!』






男(――あの日。後輩と初めて出会った。その時俺は一つの事以外、何もすることができなかった)

男(何も知らなかった。だからその時、彼女の背中を追うこともせず、見送った)



男(彼女は稀に陰のある表情を見せる。……その表情、理由を知っている人間は数少ない)



男(後輩は今も心を傷つけながら、生きている)








































"A life is pain and fear. So the man is unfortunate. But man is loving a life in now. That’s because pain and fear are loved."
                            『後輩』ルート








































本日は以上です。更新頻度は……がんばりまっする

リアルタイムとは言わないけど、当時サイト徘徊して更新翌日には最新分読んでたもののなかに
前置きから個別ルート、最後にハーレムルートの流れで完結した話が
約6年前に

>>184
その作品は別の方の作品かと……。私自身、ハーレム物のSSは書いたことがありませんので……
期待させてしまったのなら申し訳ありません。




男「……」

後輩「……」


男(朝に後輩と偶然会った日から数日後の放課後。現在、俺は後輩と二人で街へ買い物に来ている)

男(まさかこんなにも早くこんな機会が来るとは思っていなかったが……しかし、俺達はある重要な用事を済まさなければいけない)


後輩「……先輩?」


男「――おっと……悪い、少し考え事をしてた。んで、どうした?」

後輩「あ、いや……先輩の顔が少し困っているようでしたので……」

男「そうだな……。心配をかけて悪いとは思うがこればっかりはな……」

後輩「いきなりあんな事を言われても、少し無理難題な気がしますからね……」

男「だよなあ……」


男「まさか、幽霊部員の巣窟になっている文芸部が文化祭で喫茶店をやろうなんて無理があるよなあ……」


男(……事の発端は今から一時間前である)


~~~~





男「……」コンコン


シーン……


男(……あれ、珍しいな。今日は後輩は来ていないのか)

男(仕方がない。また明日にでも顔を出そう――)


ガチャ


男「……ん?」

「お……?」


男(こ、この声はっ……!)


「あっ、男クンじゃーん!! ひっさしぶりー!!」

男「お久しぶりです……部長」


男(文芸部に似つかわない騒が……明るい性格。……そして金色に輝かく髪を持った彼女こそ俺らの所属する文芸部の代表である部長だ)

男(なぜ文芸部に所属しているか、なぜ部長になっているかはささやかに噂されている高校の七不思議の1つである)


部長「どう?最近黒とはうまくやれてる?」

男「それなりにやってますよ」

部長「そうかー! なら良し!」


男(……そして中学生から黒髪の親友であるが為に割と付き合いがある)


後輩「あっ……」

男「……おっす」

後輩「……」ニコ


部長「う~ん?」ジロジロ

男「……どうしたんすか先輩」

部長「へぇ~?」

部長「……別に私は君が誰を選んでも何も言わないけどね~?」

男「……は?」


部長「ま、そんなことはどうでもいい!」

部長「今日は部長として部員に伝える事があって来たんだよねぇ~」

男「は、はあ……」

部長「そこのおそらく勤労賞の後輩ちゃん!」

後輩「は、はいっ」

部長「メイドは好きかね?」

後輩「好きか嫌いかで言われれば、好きですが……」

部長「うんうん、なるほどね~」


部長「男クンはどうかなー?」

男「別になんとも」

男(メイド服は好きですけど)

部長「……そっかー」

男「その質問は今日伝える事と関係があるんですか」

部長「あるかないかで言うと、超あるね」

部長「何を隠そう、我々文芸部は来る文化祭にて――」



部長「メイド喫茶を出店することに決定したからね!!」




後輩「……えっ」

男「……は?」


部長「クラスで提案して、あと一歩で決まる所だったのに……。ずばり男クン、君のせいだぞ!」

男「それはいくら何でも暴論っすね」

部長「いーや、違うね。だってあの黒の一声がメイド喫茶を陥れる原因だしねー」

部長「あの黒が頑なに反対するもんだから理由聞いたらさー」



黒髪『メイド服なんて着たくないもの……。それに、私のメイド服姿を見せてあげるのは一人しかいないわ』


部長「なーんて事言ってねえ……」

男「……」

部長「絶対君だろぉ!! 返せよぉ私のメイド喫茶ぁ!! そして黒のメイド服すがたぁ!!」

男「そんな事俺に言われましても……」

部長「……という事で悔しいので部長特権で文芸部はメイド喫茶の開催を決定いたしました。この決定は絶対に覆りません」

部長「うちの所、わりと可愛い娘いるじゃん? 絶対メイド服着せたら可愛いじゃん? 燃えるじゃん?」

男「ほぼ幽霊部員ですけどね」

部長「そこは私がうまくやるから大丈V!! とりあえず、そこの後輩ちゃんがメイド第一号だっ!」

後輩「……え?」


男(いや、後輩は無理だろう。接客とかに向いてなさそうだし、第一本人もメイド服を着るのは嫌だろう)

男(しかし後輩のメイド服姿か。あの綺麗な艶のある黒髪にカチューシャが足される事でほのかに可憐な雰囲気を――)

後輩「せ、せんぱい……?」

男「……」

男「大丈夫だ、問題ない」

部長「それで? 後輩ちゃんはメイドになってくれるのかなあ?」

後輩「わ、私は……人と上手く話せないので、それに私にメイド服なんて……」

男「そんなことはないと思うぞ」

部長「ないね。超合うね」

後輩「は、はう……」カァァ


後輩「……で、でも私はやりません。迷惑はかけられませんから」

部長「絶対いいと思うけどなあ……でも、人の嫌なこと無理やりやらすわけにはいかないしね」

男(確かに非常に残念ではある。しかし、後輩がそう言うのなら仕方がない)

男(……ところで部長。俺達は既にメイド喫茶を無理やりやろうとしている点については何か考慮しないのか)

部長「じゃあ後輩ちゃんには調理の方の担当を任せるね」

後輩「わかりました」

部長「男クンは……メイド喫茶だし男性陣にも調理に入ってもらうか」

男「まだ参加できるとは限らないですけどね!!」


部長「君は強制参加だ」

部長「……参加しないなら黒に色々と」ブツブツ

男「やはりメイド喫茶のいろはを教えるのは俺しかいないようですね、部長」

部長「よろしい」


後輩「……」ジトー


部長「……ということで。早速調理班に任命された二人には一緒に街の喫茶店に視察に行ってもらおうか」ニヤニヤ

男「……なっ」  後輩「――!」


男「それは部長、後輩に迷惑が――」

部長「シャラップ! 男クンの意見は聞き入れられないよっ! 後輩ちゃんがどうしても嫌って言うなら別々でもいいけど……」チラッ

後輩「……」


後輩「いえ、大丈夫です」

男「そうだよなー。やっぱり俺みたいなのと一緒なんて……え?」

部長「なら、よろしくねー! 私は他の部員に連絡するからーっ!」

後輩「わかりました」

男「……えっ?」


後輩「……それでは早速向かいましょう、先輩」

今回は以上。すっごくSSに不向きなストーリーな気がしてきました

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