歌織「歌を織り」歌鈴「歌を鳴らす」 (26)

自衛官「本日は基地祭にお越しいただき、本当にありがとうございました」

歌織「父から遠征とお願いされたときは驚きました」

自衛官「すみません、ご無理を言って。自衛隊の歌姫の噂は我が奈良基地にも届いておりましたので」

歌織「歌姫だなんて、そんな」

自衛官「噂通りの素晴らしい歌声でした。もう東京へ戻られますか? 新幹線なら京都駅までお送りします」

歌織「ありがとうございます。実は奈良は初めてなので、少し観光してから戻ろうかなと」

自衛官「左様ですか。では観光地までお送りしますよ」

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……


歌織「さて、どこに行こうかしら」

歌織「やっぱり東大寺で大仏様? 薬師寺も捨てがたいし」

歌織「……」

歌織「見知らぬ土地をあてもなく巡るだけでも楽しそうだし、とりあえず歩いてみましょうか」



歌織「この辺りは観光地から少し離れたみたい、お店も少なくなってきましたね」

歌織「似てる路地が多くて、進みすぎると戻れなくなるかも……」

歌織「もう引き返したほうがいい? でも、せっかく来たんだからもう少し……」



歌織「……すっかり迷ってしまいましたね」

歌織「そこの神社で道を尋ねることにしましょう。宮司様がいるといいけど」

歌織「ごめんください。道をお尋ねしたいのですが」

歌織「……境内は綺麗に掃かれてるので無人神社ではなさそうだけど、誰もいないのかしら」


「……~♪」


歌織「誰かが歌ってる、綺麗な声……本殿の裏に誰かいるみたい」

歌織「あの、ごめんくださ――きゃっ!」バシャ!

巫女「え! わ、ああごめんなさいっ!」

歌織「いえ、水撒き中に突然飛び出してきてすみませ……くしゅんっ」

巫女「あわわわ、風邪ひいちゃったらいけないので乾かします! 着替え持ってくるので中へ!」

歌織「いえ、そこまでしていただくのは申し訳ないですし」

巫女「私の不注意でびしょ濡れにしちゃったのでっ! あ、もしかして時間ないですか!?」

歌織「予定はないのでそれは大丈夫ですけど」

巫女「はわぁ、良かった~。じゃない! でしたらどうぞ! お、お詫びもしたいので!」

歌織「断る方が悪いようですし……では、お言葉に甘えます」

……


巫女「いま乾かしてますので、それまでゆっくりしててください」

歌織「まさか着替えが巫女服なんて……少し照れちゃいますね」

巫女「すみません、私の服だとサイズが合わなくて。巫女服ならバイトさん用のものがあったので」

歌織「えっ、巫女さんってバイトなんですか?」

巫女「はい。大晦日から三が日は人手が足りないので、臨時ですけど」

歌織「あなたも?」

巫女「私はちょっと違います、父がこの神社の宮司なんです。道明寺歌鈴っていいます!」

歌織「そうでした。申し遅れましたが、私は桜守歌織といいます。歌に織物の織るで、歌織です」

歌鈴「えっ、私は歌に鈴と書いて歌鈴なんです! 歌が同じですね!」

歌織「まぁ、何だか嬉しい共通点ですね。歌鈴ちゃんは高校生?」

歌鈴「そうです。歌織さんは年上、ですよね……?」

歌織「ふふっ、歌鈴ちゃんよりはお姉さんですよ」

歌鈴「ですよね! 歌織さんの雰囲気がなんというか、大人の女性と少女が一緒にいるみたいな……あぁごめんなさい! 変なこと言っちゃってますね!」

歌織「いいえ、たしかに大人びてとも、年相応にも、幼くも見られるから。人によってばらばらで」

歌鈴「うーん、なんとなくわかる気がします……歌織さんはお仕事何をされてるんですか?」

歌織「東京で音楽教室の先生をしてます。今日はこちらで歌のステージがあって来ました」

歌鈴「歌の先生なんですかぁ! それも東京から奈良で発表会なんて凄いなぁ……」

歌織(父のことまで話すと長くなりますし、『自衛隊の歌姫』は恥ずかしいので黙っておきましょうか)

歌鈴「そうだ、お茶持ってきますね。待っててくださいっ」

歌織「お手伝いしましょうか?」

歌鈴「いやいや! 私のドジで水と迷惑かけちゃったんですから、ゆっくりしててください!」

歌織「わかりました。ではお待ちしています」


歌織(優しい風、揺れる木漏れ日……ここは時間がゆったりと流れているみたい)

歌織(こんなことになるとは思わなかったけど、これも神様のめぐり合わせかしら?)


宮司「おーい歌鈴、掃除道具も片付けずどこにいるんだ? っと、あれ?」

歌織「お邪魔してます。えっと、こちらの宮司様ですか?」

宮司「如何にも。あなたは新しいバイトの方? 早速ですが、途中になってる裏の掃除をしていただけますか」

歌織(あ、そういえば今の私、巫女服……)

宮司「どうされました?」

歌織「ふふっ。いえ、行ってまいりますね」

……


歌鈴「か、歌織さんっ!」

歌織「歌鈴ちゃん丁度良かった。落ち葉なんですが、どこに集めればいいですか?」

歌鈴「あ、落ち葉は箕で掬って奥の物置小屋に……じゃなくて! なんで掃除してるんでしゅか!」

歌織「はい、宮司様に頼まれましたので」

歌鈴「えぇ! お、お父さんがっ!」


宮司「あぁ、いたいた!」

歌鈴「お父さん! 町内会の会合の筈でしょ?」

宮司「いやぁ、ちょっと忘れ物で戻ってね。そちらの方は?」

歌織「桜守歌織と申します」

歌鈴「あのねお父さん! 歌織さんはバイトさんじゃなくて私が」

宮司「みなまで言うな。庭の物干し竿に見慣れない女性ものの服、濡れた地面に投げ出された道具で気付きました。歌織さん、勘違いをしてしまい申し訳ありません」

歌鈴「すみません~!」

歌織「そんな、私も否定しなかったですから。それに、ちょっと嬉しいんです」

歌鈴「ふぇ?」

宮司「嬉しい、ですか?」

歌織「厳格な父の元で育ちましたので、恥ずかしながらアルバイトというものを経験できませんでした。ですから、このまま体験しちゃおうかなって……すみません」

宮司「あ、いえ。謝るのは私どもの方です」

歌鈴「お父さん、会合行かなくていいの?」

宮司「あ、そうだった! では歌織さん、重ねてになりますが申し訳ありませんでした」

歌織「いえ、お気になさらずに」

宮司「歌鈴、後は頼んだぞ。くれぐれも失礼のないようにな」

歌鈴「うん、わかった! いってらっしゃい!」


歌織「さ、あと少しなので一気にやっつけちゃいましょう」

歌鈴「そんな、もう大丈夫ですから歌織さんは休んでてくださいよ~!」

歌織「いいんですよ。二人でしたらすぐ終わりますし、お手伝いさせてください。ね?」

歌鈴「うぅ、わかりました……ありがとうございますっ!」

……


歌鈴「粗茶でしゅが……こほん、どうぞ」

歌織「ありがとう歌鈴ちゃん」

歌鈴「歌織さんが手伝ってくれたおかげで、いつもより早く終わりました~」

歌織「私も巫女服で神社のお掃除ができて楽しかったです」

歌鈴「普通の人は袖を通す機会なんてそうないでしょうからねぇ」

歌織「歌鈴ちゃんは将来この神社を継ぐんでしょうか。あまり詳しくないのですが、女性でも宮司に?」

歌鈴「女性神職もいますし、宮司も性別関係なく継げますよ。私は……まだわからないですけど。あの、歌織さん」

歌織「なんでしょう?」

歌鈴「歌織さんは、なぜ音楽の先生になったんですか?」

歌織「うーん、歌が好きだから、ですかね」

歌鈴「歌が好きだから、かぁ。歌を織る……歌織さんの名前にもぴったりですね!」

歌織「ふふっ、そんな歌鈴ちゃんの名前にも歌がついてますよ」

歌鈴「わ、私はそんな!」

歌織「歌に鈴……歌を鳴らす、とても綺麗でいいですね」

歌鈴「も、元々鈴は舞で使われる神具なんです。神道と鈴は切っても切れない存在で……だから名前に鈴って付けたんだと思います!」

歌織「歌鈴ちゃんは歌うの好き?」

歌鈴「歌は好きですけど、上手くはないです……すぐ裏返ったりしますし」

歌織「そんなことないですよ。実は、声を掛ける前に歌鈴ちゃんの歌声が聞こえて」

歌鈴「えぇ! お、お掃除してるときの……聞こえてたんですかぁ!」

歌織「のびのびと歌っていて、つい聞き惚れてしまいました。あぁ、この人は楽しそうに歌うなぁって」

歌鈴「は、恥ずかしい……」

歌織「そうだ。歌鈴ちゃん、いまから一緒に歌いませんか」

歌鈴「わ、私が歌織さんと? そ、そそそんな、急に言われてもっ」

歌織「いいから、ね。この曲は歌えますか? ~♪」

歌鈴「こ、これなら知ってますけど……」

歌織「じゃあこの曲で。さんはい♪」

……


歌織「ありがとう。お上手でした♪」

歌鈴「か、歌織さんの方がすっごく上手くて、さすが先生ですっ!」

歌織「それは歌い方を知ってるからで、技術は後から学べます。でも、それ以上に大切なことを歌鈴ちゃんはもう持ってますよ」

歌鈴「大切なことって?」

歌織「それは、自分の気持ちを込めて歌うことです。歌鈴ちゃんは心を乗せて歌っています。私の歌は技術で人に感心させられても、歌鈴ちゃんの歌は心で人に感動を与えるんです」

歌鈴「そ、そんなことないでしゅよ……!」

歌織「教える立場になって、人前で歌う機会も増えて……そんな今、歌鈴ちゃんに出会って、一緒に歌えて良かったです。ありがとう、歌鈴ちゃん」

歌鈴「あ、あの! 恥ずかしかったけど、私も歌織さんと歌えて、とっても楽しかったです!」

………
……

歌織「うん、すっかり乾いたみたい。もう大丈夫です」

歌鈴「良かったぁ。あ、これ簡単ですけど駅までの地図書きました」

歌織「そういえば道を尋ねに来たんでしたね、すっかり忘れてました」

歌鈴「あはは……長居させてごめんなさい」

歌織「いいえ、来て良かったです。それでは、お邪魔しました」

歌鈴「はい、道中お気を付けて。あと、これもどうぞ!」

歌織「これは、お守り?」

歌鈴「アルバイトのお給金……なんて、現物支給ですけど」

歌織「ふふっ、ありがとうございます。何のお守りですか?」

歌鈴「諸願成就のお守りです。いろんな願いが叶いますように」


歌織「……では、また歌鈴ちゃんと歌えますようにって、お願いしておきますね」

歌鈴「えへへ……そうですね! またいつか、一緒に歌いましょう!」

…………
………
……


P「――さん、歌織さん。着きましたよ」

歌織「んん……あ、すみません。助手席でうとうとしてしまいました」

P「歌織さん、少し朝に弱いですよね」

歌織「もう、それを言わないでください……ふふ」

P「どうしました? 良い夢でも見れましたか」

歌織「ええ、懐かしい夢を見ていました」

P「それは結構ですけど、寝ぼけたままじゃいけませんよ」

歌織「今から他プロダクションの方との合同ミニライブ……頭もはっきりしてますよ?」

P「大丈夫そうですね。他の事務所のアイドルも、歌織さんと同時期にデビューした新人が中心なので、堂々といきましょう。じゃあ入りますよ」

歌織「おはようございます。765プロ所属の桜守歌織です、本日はよろしくお願い致し――えっ?」

P「ん?」

モバP「おーい、急に固まってどうした? 歌鈴も765さんに挨拶して」


歌鈴「……あの、その」

歌織「ご利益、ありましたね♪」

歌鈴と歌織さんの絡みが見たい!でもない!
じゃあ自分で書くしかないじゃない!

ここまで読んでくださった方に、お守りを。

確かにお互いアイドルになったあと再開とはご利益かも
乙です

ミリオンライブより
>>1
桜守歌織(23)
http://i.imgur.com/JWlIySg.png
http://i.imgur.com/ThX9ZTQ.png

シンデレラガールズより
>>5
道明寺歌鈴(17)
http://i.imgur.com/HVDAWzq.jpg
http://i.imgur.com/ymizr9V.jpg

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