道明寺歌鈴「藍子ちゃんの誕生日」 (28)

アイドルマスターシンデレラガールズ
道明寺歌鈴のSSです。

タイトルどおり(?)歌鈴が藍子ちゃんの誕生日プレゼントに悩むお話で、
高森藍子さんはほとんど出てきません。


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からの流れを受けています。
前作未読ですと意味不明と思われます。

【ご注意】
前作、本作ともに百合を想起させる描写があります。
百合的要素が苦手な方は読まない方がよいと思われます。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406212487

7月下旬:CGプロ・ラウンジ


「おつかれさまです…」


高く青い空に入道雲、季節はまさしく夏となったある日、
私、道明寺歌鈴はレッスンを終えて事務所に戻り、
一息つくためにソファーのあるラウンジに来ました。


「あ、歌鈴さん、お疲れ様です」

「あぁ、泰葉ちゃん、お疲れ様。お邪魔してもいい?」


ソファーで雑誌を読んでいた岡崎泰葉ちゃんは、
私に気付くと明るい声でお返事してくれました。

「どうぞどうぞ。給湯室に冷えた麦茶がありますから、持ってきますね」

「あ、いえ、いいですよ、そんなわざわざ」

「丁度私もおかわりをもらうつもりでしたから、ついでです♪」


泰葉ちゃんは立ち上がると、空になったグラスを持ちあげて軽くゆらし、
ウインクで答えます。


「そうですか、それじゃ、お願いしちゃいますっ!」

「はいっ!少々お待ち下さいね」


給湯室へ向かう泰葉ちゃんの後姿を見ながら、
私はソファーへと倒れこむように座ります。



「すっかり夏ですねぇ…」


レッスンスタジオから事務所までの道中、
じりじりと照らす太陽の熱に軽くのぼせた私には、
ラウンジのエアコンは心地よさを感じさせます。

室内を見回すと、壁にカレンダーがあり、
とある日付を目にした所で、私は目下の悩みを思い出すのでした。

7月25日は私の親友、高森藍子ちゃんの誕生日。
事務所のみんなでお誕生パーティーを開く事は決まっているのですが、
肝心のプレゼントがまだ決まりません。


「う~ん……」


何かヒントが無いか、とマガジンラックから適当に雑誌を
拾い上げて拡げてみます。
お洋服に小物、バッグに靴、いろいろあるし、
プレゼントを贈られるという事だけで、
藍子ちゃんはきっと喜んでくれるのでしょうけど……



「お待たせしました。……どうしたんです?何か悩みごとですか?」


氷のたっぷり入った麦茶を、わざわざお盆に載せて持ってきてくれた泰葉ちゃんが、
心配そうに私に声をかけてくれました。


「ひゃい!?あ、う、ううん!な、何でもないよ?
 麦茶、ありがてゅ、っ、ありがとうね」

「いえ、その……そうですか……」


泰葉ちゃんは、そのまま言葉を継げず、ちょっと思案げな顔を
しながら元の席に座って、雑誌を拡げ直しました。


(心配させちゃいましたね。ですけど、この悩み事は、
 なんと言いますか、難しい相談になりますし……)


多分、『藍子ちゃんの誕生プレゼントに悩んでいる』と言えば、
どういったものがいいかとか、そういうアドバイスは
頂けるのでしょうけど、問題は、そこじゃなくて、なんといいますか……



(そう、「一番喜んでもらえる贈り物」は何か、なんですよね)


藍子ちゃんは、私が事務所に入った頃から、ずっと、いろいろお世話になって、
困ったときとか、悩んだときとか、いつも相談にのってもらったりで。
だからこそ、誕生日のお祝いで、少しでもお返し出来るならと一所懸命に考えているのですが……

答えの見つからない私はお手上げと言わんばかりに両手を高々と掲げ、そのまま
ソファーの背もたれに身体を預けます。
ふっかふかのソファーの背もたれは、私の頭を支えきれず、私の顔は仰向けになりました。



「ほんと、どうしましょうか……」


そのまま目を瞑り、泰葉ちゃんに聞こえないようにすごく小さな声でひとり呟きます。
すると、


「きゃっ!!」


額に何か冷たいものを感じて、驚いて目を開けると


「またひどく深刻な悩みのようですね、歌鈴」


笑顔の珠美が私の顔の近くで見降ろしてます。
私の額には、プラスチックのコップに入った
アイスコーヒーが涼しげに水滴を滴らせていました。


「珠美、お疲れ様。いつ来たの?」

「つい今しがたですよ。あ、泰葉さんもお疲れ様です」

「お疲れ様です、珠美さん。麦茶は……要りませんね?」

「ええ、道中どうにも暑くてですね。誘惑に負けてしまいました。」


珠美は私の額に置いたアイスコーヒーのカップを持ちあげると、軽くゆすります。
その分、私の顔にまたも冷たい水滴が降りかかります。


「つ、冷たいですよぉ、もう……」

「あはは、すいません。でも、少し頭を冷やした方がいいって思うぐらい
 ひどく悩んだ顔をしてましたよ?」

「そんなにですか」

「ええ、そんなにです」


そう言いながら珠美は私の隣に座ります。
泰葉ちゃんはそのまま雑誌に目を落としてます。



「それで、歌鈴の悩みの種は何なのですか?」

「ええ、あの、藍子ちゃんの誕生日プレゼントをどうしようかと思いまして……」

「あぁ、藍子さんの、ですか。……確かにそれは悩ましいですね」


そう言ってカップに刺さってるストローに口をつけました。
珠美は、私が詳しく話していないにも関わらず、何に悩んでいるのかを
すぐ解ってくれたようでした。


「その人が大事で大切になるほど、何を贈ればいいのかわからなくなります。
 珠美も、歌鈴へのプレゼントはかなり悩まされましたから」

「ええ、私も珠美への贈り物は本当に悩まされました。といいますか、
 結局ちゃんと準備できませんでしたし……」

「仕方ありません。あの時は歌鈴も時間があまりありませんでした」

「悩んでるうちに時間が過ぎてしまうんですよね……」



当日はボイストレーニング合宿と重なった事もあって、結局
珠美が一番喜ぶプレゼントは見つけられず。
最終手段として贈ったのが…


「今度はお月さまをプレゼントするわけにいきませんしね」


私が去年珠美の誕生日にに贈った最終手段を思い出して言葉にすると、
珠美は軽くむせて


「あ、あれはお勧めしません。あーいうきざったらしくてこっぱずかしい
 P殿のセンスは、一歩間違うとどん引きされますよ?」

「そうなんですか?珠美は喜んで下さいましたけど」

「それは、まぁ、その、雰囲気に流されてと言いますか……」


そう言いながら、珠美は少し顔を赤らめます。



「と、とにかくですね、P殿のセンスはあまり見習わない方がいいと思います。
 それに、今回はいろいろスケジュールも決まっていますし」

「そうなんですよね……。藍子ちゃん、売れっ子だから」


25日当日、藍子ちゃんはいつも通りレギュラーの番組収録を行い、
それから事務所に戻って、そのあと寮の食堂でお誕生パーティを開く事が
決まっています。藍子ちゃんはご実家暮らしなので、あまり遅くまで引き留める事もできません。


「そういう意味では珠美のように普段の自分をお見せする時間を作るのも難しいですね」

「そうですね。デートプランも当日は無理ですね」

「ですから、あれはデートでは無くてですね」

「デートでいいじゃないですか。私は、楽しかったですよ?」

「うう……その、デートって言い方ですと、その、恥ずかしくてですね……むむむ……」


珠美はまた顔を赤くすると、カップに残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干します。


今年の誕生日の前日、珠美は私を連れ出して、事務所では見る事の出来ない
いろいろな珠美の姿を見せて下さいました。剣道の練習ですとか、普段寄る
お蕎麦屋さんとか、お気に入りの時代小説のお話をしてくださったりとか。

それは、私にとってとても素敵なプレゼント。私が憧れている珠実の、
知らない部分を知ることができた、とても貴重な時間でした。



「そう言えば、歌鈴は藍子さんからどんなプレゼントを頂いたんです?」

「えへへ、実はですね、藍子ちゃんからは、靴を頂きました」

「靴、ですか」


私の誕生日はそのままバースデーライブがあったので、
終わった後の打ち上げを兼ねてこじんまりとしたパーティーを
開いて頂きました。
その時に藍子ちゃんから頂いた誕生日プレゼントは、靴。
可愛らしい革のローファーで、サイズも履き心地もぴったりでした。
それに―――


「ええ、魔法の靴なんですよっ!」

「まさか、一度履いたら永遠と踊り続けるという?」

「それは呪いの靴じゃないですか!違いますよぉ」

「違いましたか、それではどんな魔法が?」

「実は、『転ばない』魔法がかけてあるんですよっ!」



藍子ちゃんはそう言って私に靴を渡して下さいました。
もちろん、藍子ちゃんがそんな魔法を使えるはずがありません。
でも、この靴を履いてお出かけした時は、一度もこけた事が無いんです。
帰りついて靴を脱いで上がった瞬間に足を滑らせる事はあるのですが……


「転ばないんですか?」

「ええ、ほんと不思議なんですけど、その靴でお出かけしたら
 転ばないんですよね。
 この前もその靴で藍子ちゃんと少しお散歩してたんですけど、
 転ばずに事務所に戻る事が出来ました」

「おや、藍子さんと一緒に散歩に行かれたのですか」

「今年に入ってからちょくちょくお誘いがあるんですよね」


そう言えば藍子ちゃんに珠美から頂いた誕生日デートの話をしてから
お誘いが多くなったような気が………気のせいでしょうね。


「そうですか……藍子さんと……」


珠美も珠美で何か考えてるようにあごに手を当ててます。
その声の感じから、ふと、あることが思いきました。
問題が問題なので、出来るだけふざけた感じで聞いた方がいいでしょうか?



「珠美、もしかして妬いてます?」

「ええ、まぁ正直に言えば妬ける気持ちが無いわけでもないのですけどね」


私の問いかけに、珠美は笑顔で正直に答えます。


「……その、やっぱり、あまりいい気持ではない、と?」


珠美があまりに真正面から答えてきたので、このままうやむやにできず、
私は確認のためにさらに問います。


「ん~……なんと言いましょうか……そうですね、例えば、歌鈴が珠美にお出かけの
 お誘いをしてきたとして、珠美が、剣道の練習の為といってお断りしたとします。
 そうしたら、歌鈴は嫌になりますか?」

「嫌にはなりませんね。珠美にとって剣道は大切なことだって知ってますし、
 むしろお邪魔してごめんなさいという気持ちになるというか、頑張ってと
 応援したくなると言いますか」

「つまり、そんな感じです」

「はい?」

「珠美も、歌鈴にとって藍子さんが大切な人だって知ってますから、
 お二人の邪魔をするのも悪いと思いますし、仲よくしてくださいね、って
 応援したくなるんです。まぁ、剣道と藍子さんを同じにするには少し無理がありますが、
 そんなに外れていないと珠美は思います」


そう言って。珠美は腕を組んでひとりうなずきます。



「それに、藍子さんから頂いたプレゼントの話をする歌鈴は、
 とっても楽しそうで、そんな歌鈴を見るのは珠美にとっても
 うれしい事です。ですから、藍子さんとのことについては、
 珠美にはお気遣い不要です」


珠美は笑顔で断言します。こうなった時の珠美は本当に強くて、
おそらく、これ以上何か言う必要はないのでしょう。


「しかし、何と言いますか、歌鈴と藍子さんの関係は不思議ですね。
 親友のようだったり、姉妹のようであったり」

「そうなんですよね、藍子ちゃんっていつも落ち着いてて、頼れる
 お姉さん、って感じなんですよ」

「藍子さん、珠美と同じ歳で歌鈴より年下なんですけどね」

「うぅ、そうなんですよねぇ……」


珠美に指摘されて、私は少しうなだれます。



「っと、かなり話が脱線してしまいましたね。
 まぁ、いずれにせよ、何かしら物を贈るのが現実的、という事になりますか」

「そうなりますね。う~ん、珠美に頂いた竹刀のような、私の思いが詰まったような
 モノはありませんし……」

「今までを預けるばかりがよいとは限りません。これからを大切にするのも
 大事なことだと珠美は思います」

「……………」

「……………」


私だけじゃなく、泰葉ちゃんも雑誌から顔をあげて珠美を見つめています。


「あの、どうかしましたか?珠美は、何か変な事言いましたか?」

「い、いえ、あの、ちょっとびっくりしました。その、意外と言いますか……」

「意外ですか?」

「……ええ、でも、そうですね、そう意外ではないかもしれません。
 珠美らしいと言えば珠美らしい言葉ですね」

「??」


正直に言いますと、珠美がそんな事を言うとは思いもよりませんでした。
ですが、元々珠美は前を向いて、目標に向かって突き進む素敵な女の子です。
そんな珠美だからこそ、これからを大事にする意味を一番理解しているのかもしれません。



「もう少しシンプルに考えましょうか。考えすぎては良い回答を逃す事もある、
 ってPさんにも言われましたし」

「そうですね。プレゼントならやはり趣味の物でしょうか。確か藍子さんの趣味は……」

「お散歩、なんですが、最近はトイカメラで撮影するのも楽しいそうです」

「と、なると、まず思いつくのはアルバムでしょうか」

「ですよね。でもなんだか他の方からも頂いているような気もしますし……」

「あまり沢山あってもかさばりますし、ただのアルバムでは……むむむ……」


やはり他のモノを考えた方がいいかな、と思ってたところで


「でしたら、こういうのはどうでしょうか?」

「ひゃい?」

「あ、ご、ごめんなさい、突然割り込んでしまって」


それまで黙って雑誌を読んでいた泰葉ちゃんが声をかけてきました。



「すいません、余計なおせっかいかもと思いましたけど、
 お二人のお話を聞いてて、少し思いついたことがあったもので」

「どんなことなんです?」

「アルバムって話から、少し前にあったことを思い出したんです。
 都さんと一緒に周子さんちに遊びに行ったときの事なんですけどね。
 周子さんと都さん、子供の頃の写真を見せ合ってて。
 私の写真は、って聞かれたとき、子役だったからプライベートの写真が
 無いんですよ、って答えたんです。
 そしたら、周子さんが―――」

『じゃあ今日からみんなでいっぱい写真撮ればいーじゃん♪』

「そう言って、3人での写真を撮ってくださって。
 私、その時すごくうれしかったんです。
 さっき、珠美さんが言ってたとおり、これからを大切にすることも
 大事だって、私も思います。
 それで、ですね―――」


泰葉ちゃんが出してくださいましたアイデアは、とっても素敵で、
私も珠美も異論なく採用させていただく事にしました。



7月25日夕刻:CGプロ女子寮エントランス


今日は藍子ちゃんの誕生日。
食堂では有志が集まって誕生会の準備を進めています。
今日の私の役割は、藍子ちゃんを会場へエスコートする役。
みんなで役割分担をする際に、なぜかそんなふうに決まって、


「ついでに、最初にプレゼント渡してもいいからね」


と、背中を押していただきました。

珠美と泰葉ちゃんは、今日はお仕事の都合で途中参加です。
お仕事に行く前に「がんばってね」と言われましたが、
私は何をがんばれば……いえ、がんばらないといけませんね。

先ほどPさんから電話があり、事務所を出たそうです。
ここ、女子寮までの道のりはそんなに遠くないので、
藍子ちゃんは散歩がてら歩いてくるでしょう。

道すがら、どんな事を思ったり考えたりするのでしょうか?
私にはわかりません。ですけど、きっと、うきうきした
気持ちでいると、私は思います。

そんな事を考えていると、門のあたりに人影が見えてきました。
その人影は、私を見つけると、少し小走りになって、
私の方に近づいてきます。
そして、玄関を開けると



「歌鈴ちゃん!」

「藍子ちゃん、お疲れ様!そして、お誕生日おめでとうございます!」

「はい!ありがとうございます!」


藍子ちゃんはいつもの優しい笑顔で私に応えてくれます。


「そ、それでですね、あの、先に、私からのプレゼント、
 お渡ししますね」


私は手に持ってた包みを藍子ちゃんに差し出します。


「わぁ、ありがとう!開けてみてもいい?」

「はい、ぜひ開けてください」


包みを開くと、中には少し小ぶりなアルバムが1冊。

「すてきなアルバムです。ありがとう!」

「あ、あのですね、その、ええっと」

「ん?」

「そのプレゼントしたアルバムなんですけど、さ、最初に貼る写真は、
 その、わ、わ、私とのツーショット写真とか、……どうでしょうか?」


自分で言ってて、なんだかドキドキして顔が赤くなるのがわかります。
恥ずかしくて、つい、下を向いてしまい、恐る恐る目線をあげます。

そこには、藍子ちゃんの、いつもよりも優しい笑顔がありました。




その後どうなったか、ですか?

すぐさまその場で取られた私と藍子ちゃんのツーショット写真が、
そのアルバムの1枚目にちゃんと貼られてるんです。



おしまい

久しぶりに描いてみました。

なんとも小ぶりな話になりましたが、
まぁ、これはこれでありかなと。

てなわけで、

HTML依頼だしますね

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