モバP「リンゴのお酒」 (6)

お酒が飲みたかった(現実逃避)

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カランカラン、とウィスキーに浮かぶ大振りの氷を揺らして音を楽しむ。間接照明にほの暗く照らされるこの空間は、さながら雰囲気のあるバーのようだ。

大人になってから見つけた俺の唯一の趣味。音楽を楽しみながら酒を嗜むこと。

女性を招くためでなく、ただ自分の趣味というだけで生み出したこのダイニングには、かつてはジャズやクラシックなどの雰囲気に相応しい音楽が流れていた。

もっとも、昔と違うのは流している音楽だけではない。

「ふ~、やっぱりお風呂あがりは暑いですね~…って、私の曲は流さないでって何回もお願いしてるじゃないですか~」

バスルームから出てきたプリンセスは、シャツにホットパンツという季節錯誤にラフな格好で俺の向かいに腰を下ろした。

「私、おしゃれなジャズが聞きたいです」

「今日はこれの気分なんだ」

人前で歌うのは平気なのに、自分の曲をかけられるのは恥ずかしいんだな。そう言うと、彼女はも~と頬を膨らませた。まさにぷりぷり怒るといったその仕草は、童顔の愛らしさを引き立てるにすぎなかった。

カランカラン。

俺はこの小気味いい音が好きだ。透き通った音色が1日の疲れを消し去ってくれる。

頬を膨らましたり腕を組んだり睨んだりと、俺への抗議に勤しんでいた彼女だったが、ついに諦めたのかテーブルに突っ伏し頬を押し当てていた。

「ひんやりして気持ちいいです~」

童顔に不釣合いなそれらがテーブルに押しつぶされてひしゃげている。もはや見慣れた光景ではあるが、高尚に酒を楽しんでいるときに不埒な気持ちを抱くのはばつの悪さを感じ彼女から目を逸らした。彼女のスイーツのように甘い声が視界の空気を揺らしている。

「あれ…ブランデー、って、お菓子に使うやつですか?」

「さすがお菓子の国のプリンセスはお目が高い」

テーブルに突っ伏していた甘い魔法使いさんは、がばっと起き上がり「えっへん♪」と腰に手を当てた。

「あと少しで飲めるようになる人間がする仕草じゃないな」

そんな~、と途端にふてくされた顔をする。酔いが回ってくるとどうしてもちょっかいをかけたくなってしまう。幼いのはどっちだろうか。

そんな愛おしいお姫様は従者の葛藤など露知らず、ブランデーのラベルに釘付けだった。彼女に英語は読めるのだろうか、という考えがよぎったが、さすがに大学生には失礼だったろうか。

「リンゴのお酒ってことしか分かりませんでした~」

あいにく大学生には英語は難しかったらしい。そんなことを知ってかしらずか、風呂あがり以来の不満げな視線を俺に投げつけた。

「もしかして、リンゴのお酒だから『アップルパイ・プリンセス』を流してたんですか?」

返答代わりににやっと笑うと、愛梨の顔がリンゴのように紅潮した。


以上です。

ところでウィスキーが好きそうなアイドル、ケイトさん以外にいるでしょうか

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