高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「謎解きと時計のカフェで」 (57)

――回想・数日前――

高森藍子「加蓮ちゃんは、コンセプトカフェ、って知っていますか?」

北条加蓮「……? ううん、知らない」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1509171376

――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第56話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「9月に入った頃のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「休日のカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「都会のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「郊外のカフェで」

藍子「ごほんっ♪」

藍子「何か特徴的なコンセプトを持っているカフェを、コンセプトカフェって言うんです」

加蓮「特徴? んー、あっ、猫カフェとか!」

藍子「そうですね。でも、猫カフェはもう猫カフェっていう名前で定着してるので、少し違うかも……」

藍子「例えば、お店の中で工作ができる、ものづくりカフェ」

藍子「内装が、学校風……学校の机や椅子が使われていたり、給食のようなメニューのある、学校カフェ」

藍子「それに、お化け屋敷よりもずっと怖いって評判の、ホラーカフェ」

加蓮「ホラーカフェ……へぇ」ニヤリ

藍子「1人で行ってください」

加蓮「冷たい」

藍子「そういう、ちょっと変わったところのあるカフェを、コンセプトカフェって言うんですよ」

藍子「そんな訳で、この日にはここのカフェに行こうと思ってるんですっ」

加蓮「オッケー。で、そこはどういうカフェなの? そこにも何かあるんだよね?」

藍子「それは――」

加蓮「それは?」

藍子「到着してからのお楽しみです♪」

加蓮「…………」


<ん? ここがいいの? ここもくすぐられたいの? ん? ん?
<あはっ、あはははっはあははは加蓮ちゃんっやめて~~~~~~!

――回想終了――

――静かなカフェ――

<がちゃ

「いらっしゃいませ――おや」

藍子「こんにちは」ペコッ

加蓮「ど、ども」ペコッ

加蓮(結局、何のカフェか教えてもらえないままついてきちゃったけど)キョロキョロ

加蓮(……全体的に暗がりで、壁も床も高級っぽい木造り)

加蓮(入り口から反対側の壁には、なんかもう何百年も前からありそうなほどの古時計がある)

加蓮(他の客は……話はしてるみたいだけどすごく真剣で静かな感じ)

加蓮(で、今藍子と話してるのは、上から下までびっしりした、如何にも紳士って感じのおじいさん)


<前に電話させてもらった、高森藍子です。今日は、このカフェのことを――
<はいはい。存じ上げておりますよ。ここの話などでよければ、いくらでも――


加蓮「…………」(薄青色のコートを羽織り直す)

藍子「ありがとうございます。……加蓮ちゃん? どうしたんですか、ぼーっとして」

加蓮「あ、ううん……」

藍子「もしかして、寒いとか……?」

加蓮「ううん、いいの。……いいってばっ。ほら、話はついたの?」

藍子「大丈夫みたいですよ。じゃあ、こっちに座りましょうっ」グイ

加蓮「カウンター席に座るんだ」

藍子「ふふ♪ 最初に来た時は、こっちに座った方がお得なんです」

加蓮「そう……」キョロキョロ

藍子「ほらほら、加蓮ちゃんっ」

加蓮「まぁ、藍子がそう言うなら座るけど――」ヒッパラレ

加蓮「ぅう」スワル

藍子「……」ジー

藍子「変な感じ。今日は、加蓮ちゃんが隣に座ってる」

加蓮「……? ん、確かにね。いつも向かいだもんね……」

藍子「はじめまして、お隣の加蓮ちゃん♪」

加蓮「……はじめまして、お隣の藍子?」

藍子「えへっ」

加蓮「はじめましてでもないでしょ」

藍子「そうでしたっけ?」

加蓮「なんなのもー」

加蓮「藍子だけズルいよ。自分だけ大人っぽいジャケット着てきて」

藍子「これですか?」ピラ

藍子「これ、モバP(以下「P」)さんにオススメしてもらったお店で探したんです」

加蓮「なんか私だけ、いつも通りすぎて浮いてる感じじゃん! あとその店、後で教えて」

藍子「そんなことないと思いますよ? ……もしかして加蓮ちゃん、緊張しちゃってます?」

加蓮「……まあね。こんなにオシャレな場所だって、聞いてなかったし」

藍子「大丈夫ですよ。ですよね、おじいさん♪」

「そうですな。なにせ、午後になればスーツの方に、ステテコの方に、学生の方に」

「そして、アイドルの方まで……ほっほ。色々な方がいらっしゃいますからな。なに、お気になさらず」

藍子「だそうです」

加蓮「知ってたの?」

藍子「電話で聞いた時に、教えてもらいました」

加蓮「……じゃあなんでちょっぴり大人ファッションなのよ」

藍子「それは……つい?」

加蓮「このぉ」ゲシ

藍子「きゃ! 蹴らないでくださいよ~」

「ほほほ」

加蓮「そういえば店員さんって――」

「おじいさん、でいいですよ。そう呼んでもらえると、嬉しい物ですな」

加蓮「じゃあ、おじいさん。おじいさんは、藍子がアイドルだって知ってるんですか?」

「ほう?」

加蓮「さっき、アイドルの方って言ったから」

「ほう、ほう」

「……ほっほっほ。『お散歩カメラ』、孫も気に入ってくれたんですよ」

加蓮「!?」

藍子「あ、あはは。照れちゃいますね」

「今度、加蓮様のCDも探しておかなくてはなりませんな」

加蓮「……」ジー

加蓮「……」グニグニ

藍子「いひゃいいひゃいっ。どうしてほっぺたぐにぐにするんでふか~!」

「ほっほっほ」

藍子「ううぅ」

加蓮「せっかくだからいっぱい聞いてよっ。絶対だからっ」

「ええ、そうしましょうかの」

藍子「ふふ。加蓮ちゃん、もういつも通りですね」

加蓮「……あはは。肩に力を入れすぎちゃったみたい」

藍子「敬語の加蓮ちゃん、なんだか面白かったです♪」

加蓮「う、うっさい」

藍子「気持ちは分かりますよ。私も最初、ちょっとだけ、大丈夫かな? って思ってしまいましたし」

加蓮「だから自分だけちゃっかり大人っぽい格好して。ズルいってっ」

藍子「そうだ、注文しなきゃ」

加蓮「こらっ逃げるな! ……もう。教えてくれれば私だってそれなりのを用意してたのに」

藍子「加蓮ちゃんが本気で大人コーデをやったら、私の方が浮いてしまいますよ~」

加蓮「そう?」

藍子「おじいさん。コーヒーの……今日のコーヒー、2人分で。それと、"例の問題"をっ」

「ほほ。そうですな。ふむ……ふむ」

加蓮「?」

「承りました。では、珈琲を淹れるまでの間、こちらで楽しんでくださいな」スッ

藍子「はい!」

「では、ごゆっくり。……ほほ、ヒントは1回までですぞ?」

すたすた・・・。

加蓮「例の問題? ヒント?」

藍子「加蓮ちゃん。これが、このカフェの最大の特徴――謎解きですっ」

加蓮「謎解き」

藍子「このカフェでは、珈琲を淹れてもらうまでの間、いくつかの謎解きを出してもらえるんですよ」

藍子「珈琲を淹れるのって、どうしても時間がかかっちゃいますよね?」

藍子「その間に、退屈しない為のアイディアだそうです」

加蓮「なるほどー……。それでコンセプトカフェなんだ」

藍子「最初に来た時は、カウンター席に座ることで、謎解きを出してもらえるんです」

加蓮「それでこっちに座った方がお得って言ったんだね」

加蓮「あ、もしかして、……(以下小声で)向こうで真剣な顔してる男の人2人って?」

藍子「(小声で)謎解き目当ての常連さんも、たくさんいるみたいですよ。おじいさん、みんなの顔を覚えているって、さっき」

加蓮「そっか」

藍子「正解できたら、いいものももらえるとか――」

加蓮「ほう」キラン

藍子「加蓮ちゃんの目の色が変わった……!」

加蓮「ほらほら、見せてよクイズ!」グイグイ

藍子「急かさないで~。ええと、1問目は――」


『モングーコヒーニー』


加蓮「……何コレ?」

藍子「……何でしょう?」

加蓮「クイズってこれだけ? こう、○○を求めよ~、とか、××に入る文字は~、みたいなのもなし?」

藍子「そうみたいですね……」

加蓮「ふぅん」

藍子「そうだっ。せっかくですから、どちらが先に解けるか競争してみませんか?」

加蓮「よしきた。んー……もんぐー……もんぐー?」

藍子「もんぐー、こひー、にー……言い辛いですね。こひーにー」

加蓮「何かの専門用語かな。藍子、知ってる?」

藍子「いいえ。こんな言葉は聞いたことがないです」

加蓮「逆からは読めないし……紙を裏返しても何もないよね」

藍子「こひーにー……。こひー、って、コーヒーに似てるような……?」

加蓮「コーヒー? んー……んー? コーヒー。もんぐー……。もんぐー、に……」

加蓮「……あ。私分かったかも」

藍子「本当ですかっ。教えてください!」

加蓮「競争はどこに行ったのよ」

藍子「いいからいいからっ」グイグイ

加蓮「はいはい。しょうがないなー。ふふっ、じゃあ教えてあげる」

加蓮「これってアナグラムでしょ。文字を入れ替えるヤツ」

加蓮「伸ばし棒が2つあるから、こひー、は藍子が言ったように……ほら。こっちの棒と合わせて、コーヒーで」スッ

加蓮「他の文字は"もんぐー"と"に"。並べ替えると何になるかな?」

藍子「もんぐーに……。もにーぐん……、モーニング?」

加蓮「うんうん。合わせると?」

藍子「あっ! モーニングコーヒー!」

加蓮「如何にもカフェっぽい言葉だし、正解はモーニングコーヒーじゃない?」

「ほほ。流石ですな」

加蓮「わ!」

藍子「おじいさん、いつの間にっ」

「悩み楽しまれているお客様と、解いた瞬間のお客様の顔こそ、私めの最大の至福ですからな」

加蓮「答え、あってるの?」

「大正解ですよ。ほっほ」

加蓮「やたっ」

藍子「よかったっ」

加蓮「っていってもマグレなんだけどね。それに、藍子がコーヒーみたいだって言ってくれたからピンと来たの」

藍子「競争なのに、ヒントを言っちゃったんですね、私」

加蓮「あとは、字を見てたらなんとなく分かったっていうか……」

藍子「加蓮ちゃん、こういうの得意なんですか?」

加蓮「んー、そんなでもないけど」

「文字という物は、最初と最後の文字さえ正しければ、他の文字の順番が違っていても分かりやすい、と。どなたかが申しておりましたな」

藍子「へぇ~」

加蓮「最初のモと伸ばし棒は、順番が同じだね。だからすぐピンと来たのかな?」

「いやいや。お二方が聡明でいらっしゃったからこそ、ではないですかの」

藍子「ふふ、加蓮ちゃんはさすがですね」

加蓮「藍子こそー」

「ほほほ。では、次はこちらなんてどうでしょう?」スッ


『イ 2
コ 4,5
ア 1,6
ス 3』

加蓮「カタカナと……数字?」

藍子「数字は1つと2つがありますね。イが……2?」

加蓮「イ=2ってことなのかな。でも、数字が2つあるのは何だろ」

藍子「イとスは1つで、コとアは2つです」

加蓮「共通点……? アとイが1とかなら、どっちもア行ってことになるけどなぁ」

藍子「同じ数字もありませんよね。共通点ではないような気も……」

加蓮「むむー」

藍子「イコアス……。イコアス……」

加蓮「また並び替えとかかな。イコアス、イスアコ、アコイス、アスコイ……アスコイ……明日来い?」

藍子「あ! また明日も来てください、っていうメッセージじゃないでしょうか」

加蓮「うーん。来い、ってちょっと乱暴すぎない?」

藍子「あぁ、それもそうですね……」

加蓮「アスコイ!」

藍子「?」

加蓮「いや、なんか呪文みたいだなーって」

藍子「明日も来てほしい、っていう呪文?」

加蓮「それもうただのツンデレじゃん」

藍子「だったら、加蓮ちゃんの呪文で大丈夫そうですね♪」

加蓮「ツンデレは奈緒だってば。私は違うのー」

藍子「なら、加蓮ちゃんは?」

加蓮「純粋少女かれんちゃん――そこ、何言ってんのって顔しない」

藍子「何言ってるんですか加蓮ちゃん」

加蓮「口に出せばいいって話じゃないっ」

藍子「じとー」

加蓮「顔に出せって話でもないからっ!」

藍子「えへ」

加蓮「それよりほら、謎解き! アスコイはとりあえず違うでしょ?」

藍子「うーん。……あっ! ここ、並び替えたら、アイス、って読めませんか?」

加蓮「ホントだ。アイス、と、コ? ……小アイス? 小さい的な」

藍子「アイスコ……は、なんだかファッション用語みたい――」

藍子「あいすこ?」

加蓮「? 何か分かったの?」

藍子「ほら、さっきの答えがモーニングコーヒーだったじゃないですか?」

藍子「だから今回も、カフェと関係している言葉なのかなって」

藍子「アイスコ、って口にしたら、アイスココアが浮かんできて――」

「ほっほっほ。流石ですな」

加蓮「わ!?」

藍子「おじいさん、いつの間にっ」

「これは少々、役不足――ごほん。不相応でしたか。これはこれは、失礼を」

藍子「へ?」

加蓮「……そういえばコーヒーは大丈夫なの?」

「ほっほっほ。心配要りませんぞ。最上の一杯、しかと淹れさせて頂きますゆえ」

「それにしても、さすがアイドルですな。こうも早く解いてしまうとは」

加蓮「え? 藍子、解いたの?」

藍子「いえ、私はまだ――」

「おや。先程、アイスココア、と口にしたではありませんか」

加蓮「……??」

藍子「……?」

藍子「あ。もしかして、答えって――」

「あっ」

加蓮「……あー」

「……。そうそう。実はこの店には、私めの代わりに珈琲の面倒を見てくれる小人がおるんです」

藍子「そうなんですか?」

「ええ、ええ。それはそれは、皆優しいものでして」

「私めがこうしてお客様と話せるよう、気を取り計らってくれておりましてな」

藍子「ふむふむ」メモメモ

加蓮「ちょっと。ちょっと待って。藍子、メモ取るのやめなさい。ダマされてるからそれ!」

藍子「もう、加蓮ちゃん後にしてください。今真面目にやってるんですっ」

加蓮「いやいやいや」

「そういえばコラムをお書きになるのでしたな。でしたら、小人にまつわるエピソードを1つ――」

藍子「はいっ、お願いします!」

加蓮「いやいやいやいや!」

□ ■ □ ■ □


「これでもほんのお戯れでしたが。加蓮様はやはり、大変真面目でいらっしゃる」

藍子「そうなんですよ~。加蓮ちゃん、こう見えてもすっごく真面目なんですよ♪」

「ほう、ほう。しかし私めの目には、そのようにしか見えませんでしたな」

加蓮「マジメとかそういうことじゃなくて……。それより、答えはアイスココアでよかったの?」

「ええ。私めとしたことが、早とちりしてしまいましたな」

藍子「どうしてこの、

『イ 2
コ 4,5
ア 1,6
ス 3』

が、アイスココアになるんでしょうか」

「ふむ、ふむ……。それは、また来店して頂いた時にでも――」

藍子「えーっ」

加蓮「イコアス……アイスココア……。アイスコ……あ、そっか。文字の隣の数字だ」

「おや」

加蓮「ほら、アが1と6、コが4と5でしょ?」

加蓮「1番目と6番目にアを、4番目と5番目にコを持ってきて、あとは残りの……2番目にイ、3番目にスを持ってくれば」

藍子「ええと、あいすここあ……あっ、アイスココアです♪」

加蓮「思ったより簡単だったね。なんか悔しいっ」

藍子「もうちょっと、単純に考えてみた方がよかったみたいですね」

「世の謎というものは、得てしてそのような物ですからな」

加蓮「ねえおじいさん、次の謎解きは? 他にはないの?」

藍子「珈琲、まだかかりそうですか?」

「ふむ、ふむ……。すみませんな。小人達も、頑張ってるようですがの――」

加蓮「もう小人はいいってば」

「では、……ふむ、ふむ。このような問題は、如何ですかの」スッ

藍子「ふんふん――」

『――これは魔法の呪文。はじまりは、消えた時間ではなく、姫を探す途中の時間。

み ↓20
し ↑11
す ↑5
た ↓16
す ↑8
な(小) ↑3

完成した呪文は何か――』

加蓮「また、平仮名と数字……」

藍子「さっきみたいに数字の順番に並び替えるのでしょうか」

加蓮「な、す……す……、なすす、したみ?」

藍子「あはは、違うみたいですね……」

加蓮「数字の隣には矢印があるね」

藍子「数字の分だけ、何かを動かすってことではないでしょうか?」

加蓮「何かって?」

藍子「うーん……。あいうえお順?」

藍子「みの下に20だから……」

藍子「む、め、も。や、ゆ」ユビオリ

藍子「よ。ら、り、る、れ」ユビオリ

藍子「ろ。わ、を、ん」ユビオリ

藍子「あ、あれ? 違うのかな――」

加蓮「ううん。合ってるかも、それ」

藍子「え?」

加蓮「ほら、なの上3って、と、て、つ――で、"つ"になるでしょ?」

加蓮「なのところだけ(小)ってある。これ、小さい"つ"ってことなんじゃない?」

藍子「なるほど~。でも、みの下に平仮名は20個もありませんよ」

加蓮「何か他にもあるのかな。それとも、ぜんぶ計算方法が違うとか」

藍子「この、最初の文章はどういう意味なのでしょう?」

加蓮「何かの詩っぽいよね。消えた時間ではなく探す途中の時間」

藍子「消えた後に、探すお話……?」

加蓮「消えて探す、かぁ」

藍子「? 何か、心当たりがあるんですか?」

加蓮「ううん。私だったら、消える前に捕まえちゃうなって思っただけ」

藍子「……くすっ。私もです♪」

加蓮「藍子に捕まえられるかなぁ。のんびりしてる間に逃げられちゃうんじゃない?」

藍子「むぅ。確かに、いつもはのんびりしていますけれど……いざって時くらい!」グッ

加蓮「あははっ。魔法の呪文かー」

藍子「絵本とかでよくありますよね。呪文」

加蓮「ちいさい頃はオリジナルの呪文とか作ってたなー。藍子はそういうのなかった?」

藍子「うーん……あんまり? ごっこ遊びみたいな感じ?」

加蓮「そんな感じ。まだ看護師さんと仲良くしてた頃なんかに考えた呪文を言い合って――」

藍子「ふむふむ」

加蓮「……、ごめん、今のなし」

藍子「え」

加蓮「今のなし」

藍子「ええっ。続き、聞かせてくださいよ~」

加蓮「そんな私はいない」

藍子「純粋少女かれんちゃんじゃなかったんですかっ」

加蓮「やっぱツンデレでいいや」

藍子「奈緒ちゃんとかぶっちゃいますよ?」

加蓮「奈緒が素直になればオッケーだね。明日からそうさせよう。それよりほら、クイズクイズ。何か思いつかないの?」

藍子「む~。もうちょっと聞きたかったのに……」

加蓮「魔法の呪文……。ちっちゃい"つ"……。うーん」

藍子「消えた時間ではなくて探す途中の時間……。朝なのかな、お昼なのかな……」

「疲れた頭に一杯、注文の珈琲はどうですか?」スッ

藍子「ありがとうございますっ」

加蓮「いいタイミング!」

藍子「わあ、いい香り……♪」

加蓮「あれ? 私のと藍子のとで香りがちょっと違わない?」

「ほほ。僭越ながら、藍子様と加蓮様に合いそうな物を、それぞれ独断で選ばせて頂きました」

藍子「ごく、ごく……。すっとしてて、コーヒーなのに甘いっ」

加蓮「ごくごく……。飲みやすいけどちょっぴり苦くて……ふふっ、コーヒーって感じ」

藍子「これ、何のコーヒーなんですか?」

「藍子様のはモカを。加蓮様には、サントスを用意させて頂きましたよ」

藍子「へぇ~……あれ? モカってもっと酸味があったって聞いたことが……。こんな味にもなるんですね……」ゴク

加蓮「……(さんとす、って何だろ。帰ったらPさんに聞いてみよ)……とりあえず美味しいっ♪」ゴクゴク

加蓮「ごくごく……。あれ?」

藍子「ごく、ごく……。加蓮ちゃん、どうしましたか?」

加蓮「ううん。これ、クイズってコーヒーを淹れてもらうまでの暇つぶしじゃなかった?」

藍子「そういえば……。でも、コーヒーはもう、こうして淹れてもらいましたね」

加蓮「……すっかり夢中になっちゃってたね」

藍子「あはっ。私も加蓮ちゃんも、ぜんぜん気づきませんでした」

「皆様、そう仰ってくれるんですよ。そうして時計を見て、こんなに時間が経ったんだ、って」

藍子「私たちみたいな人が、いっぱいいるんですね」

加蓮「だね。おじいさん、まるで藍子みたい」

「ほう?」

加蓮「藍子もさ、話してるとすぐ時間を奪っていっちゃって。ふふっ、いつも困らされてるんだよ」

藍子「そ、それはっ。……うぅ。本当のことですけれど」

「ほほ。そうでしたか」

藍子「時計っていえば……あんなに大きな時計、初めて見ました」チラ

加蓮「うんうん。最初見た時にびっくりしちゃった。あれって、ずっと置いてるの?」

「そうですな。ふむ、ふむ……」

「私めがここを開いたのは、どれ、10年前でしたか、20年前でしたか」

「その時に、父から頂いた物で……。そういえば、父からの最期の贈り物でしたかの」

藍子「最期の、ってことは」

「ええ、ええ。父は、私めなどを大変かわいがってくれておりました」

「小さくても、皆様が盛り上がるようなカフェを開きたい。そう言った時も、厳しくも応援して頂いた物です」

「開店した時には、我が事のように喜んでもらったもので。それから、数日後でしたかの……」

「それからは、時計が父代わりですな。今でも、見守ってくれているような、不思議な気分で」

「今でも、元気に時間を教えてくれとります。ほほ。私めも、もう子に継いでいく頃合いとなったでしょうか」

加蓮「おじいさんのお父さんも、いい人だったんだ……」

藍子「だから、時計を大切にされているんですね――」

藍子「……………………時計?」

加蓮「ん?」

「おや。これはこれは」

加蓮「藍子、何に気づいたの?」

藍子「さっきの、解けなかったクイズ……。もしかしたら、時計なのではないでしょうか?」

加蓮「そうなの?」チラッ

「そうそう。このカフェには、父親の小人が時計を持って――」

加蓮「藍子。これ絶対大当たりだよ。おじいさんメチャクチャなこと言い出した」

藍子「あはは……」

『――これは魔法の呪文。はじまりは、消えた時間ではなく、姫を探す途中の時間。

み ↓20
し ↑11
す ↑5
た ↓16
す ↑8
な(小) ↑3

完成した呪文は何か――』


藍子「時計や時間って、12時で一周しますよね? それに、午後2時なら、14時。午後3時なら15時ってなります」

藍子「だから、20は20時のことで、本当は8時のことじゃないかなって」

加蓮「そっか! ってことは、みを下に8つずらすってこと? む、め、も、や、ゆ、よ、ら、り。"り"?」

藍子「11はそのままで、しの11個上は――"あ"ですね」

加蓮「すの5つ上は、"く"。たの16個下……じゃなくて、16時は4時だから、4つ下は、"と"だね」

藍子「すの8つ上は"お"。なの3つ上は、加蓮ちゃんがさっき言ってくれた通り、小さい"つ"ですから」

加蓮「続けて読むと、……りあくとおっ?」

藍子「……???」

加蓮「並び替えなきゃダメみたい。うーん……数字の小さい順からかな? それなら、つくおあとり?」

藍子「あっ。"つ"は小さいつなんですよね?」

加蓮「じゃあ最初には来ないね」

加蓮「つくおあとりってなんだろ……なんかこう、もうちょっとで出てきそうなんだけど……」

藍子「つくおあとり、"つ"は小さいつ……」

加蓮「ん~~、んん~~~~~」

「――はじまりは、消えた時間ではなく、姫を探す途中の時間」

加蓮「え?」

「ほほ。ヒントは1回まで、ですからの?」

藍子「消えた時間、姫……? 時間……。姫が消えた時間……」

藍子「――もしかして、『シンデレラ』?」

加蓮「じゃあ、姫っていうのはシンデレラのことで……シンデレラが消えたのって、夜の0時だから」

藍子「待ってください加蓮ちゃん! はじまりは、消えた時間ではなく探す時間なんです。同じ0時でも、夜の0時ではなくて――」

加蓮「昼の12時ってこと!?」

藍子「はいっ! 12時が始まりってことは、この暗号はきっと、12時から順に読んでいくんです!」

加蓮「じゃあ、16時からスタートだから、とりっくお――」

藍子「……!」

加蓮「魔法の、呪文……」

「おや、おや。最後の文章を、忘れてしまわれましたかの?」

加蓮「藍子」

藍子「はいっ」

加蓮「せー」

藍子「のっ」


『トリック・オア・トリート!』
『Trick or Treat♪』


「ほっほっほ。さすが、お二方とも聡明で……ほほ、ほっほっほ」

「せっかくですし、コラムに載せてやってくださいな」

藍子「あ……。そうだっ。私たち、カフェコラムを書くためにここに来ていたんでした!」

加蓮「あれ、藍子忘れてたの? 私はちゃんと覚えてたけどね」

藍子「加蓮ちゃんだって、謎解きに熱中してたじゃないですか~」

加蓮「それでも覚えてたもん。謎解きだって私の方が多く解けたし?」

藍子「最後の力作を解いたのは私ですっ」

「ほっほっほ」

――1時間後――

「これくらいで、よろしかったですかな?」

藍子「はいっ。いろんなお話を聞かせてくれて、ありがとうございました!」

加蓮「私からも。ありがとね、おじいさん」

「ほっほっほ。良ければまたいらしてくださいな。その時には、新しい問題を用意しておきますゆえ」

藍子「はーい♪」

加蓮「あ、その時には私の歌の感想、聞かせてもらうからね!」

「そういえば先程、通知が来ておりましたかな。商品の発送確認でしょうかの」スッ

加蓮「いつの間にっ」

藍子「おじいさんのスマートフォン、私のより新しい機種です……」

「ほっほっほ。コラム、期待しておりますよ?」

藍子「頑張らなきゃ……! 一緒に頑張りましょうね、加蓮ちゃんっ」

加蓮「ふふっ。こんな面白くてすてきな、カフェとおじいさんの話だもん。いくらでも書けちゃうよ」

藍子「ですね♪ それじゃ、お邪魔しましたっ」

加蓮「ごちそうさまでした。また来るね!」

「ほっほっほ。ご来店、誠に感謝致します――」

<からんころん

「さあ。また、お二方に合った謎解きを作っておかなければ」

「ほっほ……このような年寄りの戯れに付き合ってくださるとは。良き孫のような子でした、な」

「ほっほっほ」

――後日・高森藍子のコラムより一部抜粋――

今回は、あるカフェのおじいさんのお話です。
見た目は60代くらいの、すごく紳士って感じがする立派な方でした。でもお話してみると――





その時の写真がこれです。(上:かぼちゃの馬車の形のケーキ)
中まで精巧に作ってあってびっくりしちゃいました! おじいさんは、優しい小人さんが作っているって――


――左下に小さな吹き出しがある――

手作りの、
「ら た→ あ わ→ た↓」
の写真、藍子のツイッターまで募集中~♪
先着5名様には藍子ちゃんのヒミツの写真をプレゼントっ!
(by加蓮ちゃん)



おしまい。読んでいただき、ありがとうございました。

1年前、更新からおよそ12時間ほど悶え転がっていたあのガシャが復刻されました。
懐かしいし、今でも見る度にニヤニヤしてしまいます。

せっかくですから、皆様も1度だけでも回してみては如何でしょうか。



作者です。いつも読んでいただき、そしてコメントして頂き、誠にありがとうございます。

>>46>>47 の間に1つ、投下抜けしていた文章があった為、1日遅れながら追加させて頂きます。
相変わらずミスばかりで大変申し訳ございません。


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「ではご要望にお応えしまして。こちら、新しく作ったパンプキンケーキに御座います」スッスッ

藍子「わあ……! ちいさいかぼちゃの馬車、可愛いですっ♪」

加蓮「すごいっ。こんな細かいの作れるんだ……! 窓に、あ、見てこれ、中の座席まで作ってある!」

藍子「本当です! すごい……!」

加蓮「食べるのが勿体無いよ、これ!」

「ご心配なく。このカフェには、大変優秀な小人がおりましてな」

加蓮「ふふっ、また小人なんだ」

藍子「写真を1枚、ぱしゃりっ♪」

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