【モバマス】あの子の知らない物語 (11)
・「アイドルマスター シンデレラガールズ」の二次創作です。
・すごく短い。
・白菊ほたるは出てこないけどほたる物です。
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一人のアイドルが居る。
決して不人気ではないが近年はいまひとつ伸び悩み、活動に限界を感じている。
ルーチンワークと化した毎日。
輝く外面を支えるつまらないしがらみや卑俗な苦労。
デビューしたばかりのころは考えもしなかった「引き際」について考えることも増えた、そんなアイドル。
そのアイドルのもとに、一通の手紙が届く。
差出人は自分のファン層からは外れた壮年の女性だった。
いぶかしみつつも目を通すと、そこには繊細な文字で、一面に感謝の言葉が綴られていた。
あなたのおかげで、私の娘が救われたのだ、と。
不幸な娘が居た。
自分だけでなく、人を不幸にしてしまう娘。
優しい娘だった。
人を傷つけることを恐れて人から距離を取り、自分を責め、目立たぬように息を潜めているような娘だった。
その娘が、ある日、貴女の出ている番組を見て、変わったのだという。
貴女の歌で、幸せになれたのだと。
自分も、人を幸せに出来る存在になりたい。
アイドルになりたい、と言ったのだという。
勿論、道は平坦ではなかった。
不運や他人の悪意に苦しめられて、娘はひどい苦労をした。
それでも、何度言ってもアイドルへの道を諦めない。
正直、娘がアイドルを目指す切欠を作ったことを恨みもした。
だが、その娘は苦労の果てに良い事務所にめぐり合い、アイドルへの道を掴むことができた。
電話の向こうの声が明るくなった。
友達が出来たのだと、報告してくれた。
クラスの皆が、ライブを応援しに来てくれた喜びを、長いこと話してくれた。
1日ごとに、娘はアイドルに近づき、明るくなっていく。
あのとき、貴女が出た番組を見たのは、ただの偶然だったに違いない。
だけど、あのとき貴女を見ていなかったら、娘はいま、どうしていただろう。
娘は今のように明るく笑っていただろうか。
突然こんな手紙を贈られても、貴女は戸惑うだろう。
だけど感謝を伝えたい。
娘に切欠をくれて、ありがとう。
貴女は確かに、娘の恩人なのだ。
手紙は、そう締めくくられていた。
自分のおかげじゃない、とアイドルは思う。
それはきっと自分でなくても良かったことなのだ。
憧れだけでやっていける世界ではない。
その子が夢を掴んだのはその子の中に確かな強さがあったからで。
たとえ自分がいなくても、その子はきっと切欠を見つけて、幸せになろうとした。
自分に力があったわけじゃない。
本当に些細な偶然に、自分が乗っていたに過ぎないのだ。
―――だが、その娘はアイドルになったのだという。
手紙を見ると、その子の苗字は白菊と言うらしい。
その白菊某がもう一度自分を見たとき、自分が落ち目になっていたら、どう思うだろうか。
多分がっかりするだろう。
それは嫌だな、とアイドルは思った。
いつかアイドル白菊に出会ったとき、カッコイイ先輩でいたい。
共演したとき、やっぱり凄い!と。
あのとき感じた輝きは本物だったのだ、と思わせてあげたい。
それまでは、居直って踏ん張っていいてやらなくては。
アイドルは笑ってそう決心して、とりあえずレッスンを増やしてもらえるよう、事務所に電話を入れたのだった―――。
おしまい。
短いですが、読んでくださってありがとうございます。
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