女「終電……なくなっちゃった」チラッ 男「俺が何とかしてやる!」 (24)

女「あっ!」

男「どうしたの?」

女「もうこんな時間……終電、なくなっちゃった」

男「え……」

女「どうしよう、歩いて帰るわけにもいかないし……」チラッ

男「……」

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男(俺としたことが、終電時刻のことをすっかり忘れてた!)

男(こんな暗い夜道を彼女に帰宅させるわけにはいかない……危険すぎる!)

男(俺が……俺が何とかしなきゃ!)

男(愛する彼女のために!!!)

女「そういえば、あなたの家ってここからすぐ近く――」

男「俺が何とかしてやる!!!」

女「!?」ビクッ

プルルル…

男「もしもし、鉄道会社ですか?」

男「終電時刻を過ぎてしまったので、俺の彼女が家に帰れなくなってしまったんです!」

男「だから特別に電車を動かして下さい!」

女「え!?」

男「……なに!? ダメ!? ――そこをなんとか!」

男「これほど頼んでもダメだというのか!」

男「ちくしょうっ、なんて融通のきかない会社だ! 人が困ってるというのに!」

女「ちょ、ちょっと……」

男「心配しないで。必ず俺が何とかするから」

男「こうなれば……鉄道を作るしかない!」

女「ええ!?」

男「緊急コール! 俺の部下達、緊急招集だ!」ピッポッパッ

男「待っててくれ。すぐ君の家までレールを敷いてあげるから!」

女「あ、あの……」

男「大丈夫、俺の部下はみんな頼りになる奴らさ!」

ザッ!

部下A「お呼びで」

部下B「あなたの望むことは」

部下C「必ず成し遂げてみせます」

男「今から新しく鉄道を作る。この地点から、彼女の家までの土地を全て買い取れ!」

男「金はいくらかかってもかまわん!」

部下全員「ははっ!」

女「えええ……」

部下A「……申し上げます!」

男「どうした?」

部下A「ある老人がどうしても立ち退きに応じないのです。何億、何兆でも土地を売らん、と」

男「俺の経験からして、そういう人間は金で釣ろうとしても無駄だろう」

部下A「消しますか?」

男「いや、そういう手段を好まない」

男「俺が直々に出向こう。案内を頼む」

部下A「ははっ!」

老人「なんじゃ、また土地買い取りの話か?」

老人「何度来ても無駄じゃ! 先祖から伝わってきたこの土地は絶対に売らん!」

男「……お願いします!」

老人「いくら頭を下げたところで……」

男「私の愛する女性を助けるためには……どうしても必要なことなのです!」ギンッ

老人「!」

老人「う……むむむ……!」

老人(この男、なんという澄み切った、まっすぐな瞳をしておるのじゃ……)

老人「分かった……売ろう」

男「……ありがとうございます!」

老人「しかし、条件がある」

男「なんでしょう?」

老人「おぬしの愛する女性とやら、必ず救って下されよ」

男「もちろんです!」



部下A「お手数をおかけしました。あなたに出向いてもらうなど、部下失格です」

男「気に病むな。俺の手が必要であればいつでもいってくれ」

男「俺は部下を顎で使うような男にはなりたくないからな」

部下A「ありがたきお言葉……!」ドバァァァァァ

女(涙が土石流のように……)

部下A「指定された地点と、ガールフレンド様の家までの土地、全て買収完了しました!」

部下B「障害となる家屋や建物は全て撤去しました!」

部下C「国や自治体、マスコミへの根回しも終わりました!」

男「ご苦労」

男「ではさっそく、この地点から彼女の家まで、線路を作るのだ!」

男「突貫工事で行え! なおかつ安全性には徹底的に気をつかってもらいたい!」

部下全員「ははっ!」

トンテンカン…

トンテンカン…

ズラーッ!





男「おお……瞬く間に一本の線路が出来上がっていく。まるで早送りを見ているかのようだ」

男「どうだい? すごいだろう?」

女「え、ええ……すごい……(すごすぎ……)」

部下A「線路ができました!」

男「よくやった。続いて駅と、走らせる列車を作るのだ!」

男「駅には彼女が不便しないよう、キヨスクはもちろん、さまざまなショッピングモールを誘致してくれ!」

男「さらにこの鉄道は24時間稼働させるから、複数の運転士を破格の条件で雇ってくれ!」

部下全員「ははっ!」

ジャン!!!



男「できた……!」

男「ついに完成したぞ! この地点と、君の家までを24時間結ぶ鉄道が!」

女「や、やったね!」

男「ホントにそう思ってるのかい?」

女「!」ギクッ

男「そのわりに“何もここまでしなくても”って顔してるけど」

女「いえいえいえ! そんなことない! そんなことないから!」

男「ならよかった」ホッ

運転士「ただいまより、運転を開始します。二人とも、お乗りになって下さい」



男「さ、乗ろうか。君の家に帰ろう!」

女「う、うん」

プシュー…

ガシャン…



ガタンゴトン… ガタンゴトン…

ガタンゴトン… ガタンゴトン…



男「お、君の家が見えてきたよ!」

女「……本当ね」

男「嬉しくないのかい?」

女「う、嬉しいわ」

男「そのわりに“ホントはもっと違う展開になることを期待してたんだけどな”って顔してるけど」

女「ううん! そんなことないから! もうすっごく嬉しい! サイコー!」

男「ありがとう」ホッ

男「……着いた」

男「君を無事家まで送り届けることができてよかったよ」

女「こちらこそ。わざわざ鉄道まで作ってもらっちゃって……」

男「だけど、俺……本当は……」

女「?」

男「今まで言う勇気がなかったんだけど……」

男「本当は俺……帰れなくなった君に、俺んちに泊まって欲しかったんだ……!」

女「!」

男「なぁ、よかったら俺の家に泊まらないか?」

女「うん……泊まらせて!」

男「すみません、運転士さん」

男「彼女の家に着いたばかりで申し訳ないけど、今すぐここから俺の家のある駅まで戻ってくれ!」

運転士「はいっ!」

運転士「これからお楽しみのようですね」ニヤッ

男「か、からかわないでくれ」

女「ふふっ」

男「愛してるよ」

女「私も……」

ガタンゴトン… ガタンゴトン…



二人の愛の列車に終電はない――










おわり

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