【マギレコ】いろは「好感度測定のウワサ……?」【コンマ】 (318)

 キャラ崩壊、独自設定に注意



 神浜市を調べるようになってからちょっと。
 やちよさんの助手として私は空いた時間を利用してウワサの調査をしていた。
 聞き込みはもちろん、足で情報を探し回り――命懸けの場面も多かったはずなのに、思い返してみれば不思議と充実した日々であった。

 そう。あの日あれを見つけるまでは。

いろは「……?」

 とある土曜日の夕方。いつものように神浜を探索していた私は、不思議なものを見つけた。
 オレンジ色の陽の光に照らされた一本の看板。町に看板があることはおかしくない。けれど私の視線は一目見た瞬間それに釘付けになってしまっていた。
 それほどその看板は異質だった。
 細めの丸太一本と木の板一枚だけで作られ、きっちりしたサイズの紙が貼り付けられているチープな作り。
 地面のコンクリートにまるで最初から穴が空いているかのように綺麗に刺さっており、住宅街――車も普通に通る道なのにど真ん中に配置されている。

 ……うん。常識的に考えてすごくおかしい。
 『町に看板!』ってところだけだよね……。おかしくないのは。

いろは「もしかして新しいウワサ……?」

 危ないことに巻き込まれるかもしれない、なんてことは考えず私は思うまま近づいてしまう。実際それで危ない目に遭ったこともあるのに。
 それでもフラフラ近づいていくのは私の中で「ウワサ」イコール「手がかり」みたいな方程式が出来上がっているからに違いない。


いろは「……」フムフム

 看板にはたった一文。『あなたは好感度を見たいですか?』。
 ……なんだろう? この問いかけは。

いろは「好感度……好感度。どれだけ好かれてるってことかな」

いろは「そんなの見られるなら、見てみたいよね」

 やちよさんに鶴乃ちゃん、フェリシアちゃんにみたまさん。それに手を貸してくれる魔法少女のみんな。
 全員の気持ちを見られるなら喜んで頷く。でもこうも露骨に怪しいものを頼る気にはならな――

??『見てみたい? 見てみたいの?』

いろは「へぇっ!?」

 くすくすと笑い、ささやくような声がすぐ間近から聞こえた。
 驚き飛び跳ねて周りを見回すけど誰もいない。
 なんだかまずい気がする。否定しないと……!

いろは「あ、あのっ。見てみたいけど、見えなくてい――」

??『なら力を貸してあげる』

いろは「いいんですけど!?」

??『いいならいいじゃないの』

いろは「そのいいじゃなくて――えと」

??『はいじゃあ頑張って』

いろは「ちょっ! 本当に要らない――」

 妙に砕けた口調になった声の適当さに戸惑っていると、私の前から看板が消えた。

 ……完全に巻き込まれちゃった。

 ど、どどどうしよう……。

いろは「そもそも何に巻き込まれたのかも分からないし……」

 誰かに助けを求める、とか?


 ↓1、2 ちょうどよく会う人 実装されているマギレコの魔法少女で一人指定 被ったら安価下


鶴乃「あっ、いろはちゃんだ! おーい!」

ももこ「ちょ、鶴乃? 街中だぞ」

 どうしようとあたふたしていると、前の方から見慣れた女の子二人が。
 私を見つけると笑顔で手を振り小走りでやって来る明るい女の子、鶴乃ちゃん。彼女の少し後ろで呆れ顔をしながら早歩きで進むもう一人、ももこさん。
 二人とも心強い私の味方で、これまで何度お世話になったかは分からない。

いろは「ぁ――鶴乃ちゃん、ももこさん!」ダッ

ももこ「いろはちゃんまで……なにかあった?」

 だから彼女達の姿を見た直後、私も走り出していた。
 何かに巻き込まれた不安と焦り。自分からフラフラ近寄ったのに、と思わなくはない。
 でもああ簡単に巻き込まれるなんて――

いろは「――あれっ?」

 二人に近づいた私は足を止めた。
 いつもの制服姿の二人の頭上。そこに不思議な数字が浮いているのだ。

 これが好感度……?


 ↓1、2 鶴乃、ももこ のいろはへの好感度 コンマで測定 00は100
      ゾロ目は二倍にして計算。奇数は通常の二倍。偶数のゾロ目は――

     『01から20』 顔見知り……むしろ敵対?
     『21から40』 ちょっと苦手な知り合い
     『41から60』 普通のお友達
     『61から80』 親友レベル。信頼している
     『81から100』 恋愛対象。意識している?

鶴乃 77×2 154
   『いろはちゃん愛してる! いろはちゃんと一緒にいたい!』

ももこ 7
   『まぁ……苦手だけど約束しちゃったからなぁ』



いろは「……」ゴシゴシ

 立ち止まり、目を擦る私。
 何かの見間違えであって。そんな願いも目を開いてすぐ打ち砕かれた。

 ……うう。やっぱり見える。
 数字と一言コーナーみたいなのが。

 あれが好感度だよね?
 どれくらいが普通なんだろう。鶴乃ちゃん3桁いってるけど、ももこさんはたった1桁で……考えるのが怖い。

 一言のところも不穏だし――

鶴乃「ぼんやりしてるところにドーンッ!」ガバッ

いろは「わひゃっ!? つ、鶴乃ちゃん?」

 いっそ逃げ去ってしまおうか。なんて思っていた私の真正面から衝撃。反射的にそれを受け止めようと手を伸ばせば、すぐ目の前にいたのは鶴乃ちゃん。人懐っこい笑顔を浮かべて私に飛び付いている。


鶴乃「えへへ、いろはちゃんはくっつき心地最高だね! むしろ最強。あぁー癒される」ナデナデ

いろは「あはは……ちょっとくすぐったいかな」

 ニコニコと笑いながら私を抱きしめ、頭を撫でてくれる鶴乃ちゃん。いつも通りな過剰スキンシップだけど――好感度を見てしまった今、どうしても意識してしまう。
 ももこさんが一桁で、鶴乃ちゃんが3桁。単純に百倍近くの好感度があるわけで――どこまで想われちゃってるんだろう。的な自意識過剰な悩みが頭に浮かんでしまう。

ももこ「こら、鶴乃。いろはちゃん困っちゃうだろ」

鶴乃「そーかなー。わたしのハグはやちよにも好評――っていう設定なんだけど」

ももこ「設定ならそれは勘違いだな」

鶴乃「むー。そうでも離れないからね」ギュウウウ 

 ももこさんも私の近くへ。三人揃い、自然と道の恥へ。
 好感度が本当に高いのならば、鶴乃ちゃんは私のことを嫌ってはないはず。私は実験も兼ねて、普段はまったくしないであろう行動をとった。

いろは「ぅ――うん。私は嬉しいよ。その、鶴乃ちゃんが抱き締めてくれると」

 自分からもギュッと少しの力を込めて鶴乃ちゃんを抱き締める。
 恥ずかしさでちょっと吃ったのは秘密だ。いつもはされるがままだったけど、どうかな?


鶴乃「へっ? や、やだなーいろはちゃん。嬉しくなっちゃうよ」

 ……すごく分かりやすい。頬を赤らめニコニコと笑う鶴乃ちゃん。動揺しているのか、腕の力が緩んでいた。
 やっぱり本当に好感度が見えるみたい。でもなんでこんなに鶴乃ちゃんに好かれているんだろう? ももこさんに嫌われている理由も気になる。

『あら見てみたい? 知ってみたい?』

 うん。――って、あ、あれ!?
 消えたと思ったのに、どこに――

『周りには聞こえてないからお気になさらず』

『気になっていること、教えてあげるわ』


 ↓1 鶴乃の好意の理由――その判定
   コンマ末尾の数字が高いほど不純。0は10とする

 ↓2 ももこの理由判定
    数字が高いほど深刻



鶴乃 3
   わりと純粋な方

ももこ 7
   わりと深刻め


ももこ『……なんか、納得できないんだよなぁ』

 ――ッ? も、ももこさんの声?
 これが『理由』?

ももこ『いろはちゃんが悪いってわけじゃないけど……四人チームになるのかなぁなんて思ったりもして』

ももこ『――けど結局、やちよさんと一緒に行動することになってるし……モヤモヤする』

 ……ぁ。
 そうだよね。やちよさんとももこさんは今はあんまり仲良くないし……お世話になったももこさんに何も言わないで、やちよさんとウワサ調査をしようと決めたのは複雑な気持ちになるかもしれない。
 全然考えなかった……。

ももこ『ウキウキしてたアタシもいるし、あーっ恥ずかしい!』

ももこ『……まぁ、やちよさんみたいに綺麗な人の方がいいのかもなぁ。一緒にいてウザいっていろはちゃんに思われたんだろうな、アタシ』

 ――え? そ、そんなこと……

鶴乃『いろはちゃんはパッと見て一目惚れだったけど――話していて、わたし思ったんだよね』

 あ、あれっ? ももこさんの話終わり?  というか、一目惚れって――

鶴乃『一つになるべき運命だって』

いろは「ふぁっ!?」

 低音の恐ろしい一言に、私は思わず叫んだ。


鶴乃「……」
ももこ「……」

 そして二人にきょとんとした顔で見られる辛い現実へカムバック。鶴乃ちゃんがまだくっついているのを見るに、さっきのは脳内で起きたことみたいで時間はあまり経過していないらしい。

ももこ「いろはちゃん、大丈夫? なんかぼけーっとしてたけどさ」

鶴乃「急に叫んでどしたの? ラーメン屋の屋台でも見つけた?」

いろは「な、なんでもないです! 気にしないでください」

 気にしない気にしない……気にしないようにしないと。
 まさかももこさんがあんなネガティブなこと思ってるなんて……そしてそれを私に知られたなんて考えたくもないだろうし。
 鶴乃ちゃんは……なんだろう。あの台詞だけ聞くとすごく怖いんだけど。でも、鶴乃ちゃんがそんな物理的に捕食みたいなこと……。

 うぅん……人の心の中って、私が思ってる以上に複雑ってことなんだろう。

 一言謝って鶴乃ちゃんを引き剥がし、私は苦笑する。二人は不思議そうな顔をしていたけど大して気に止めてないみたいで、またいつもの調子に。

ももこ「そう? あ、そうだ。アタシら今日、偶然鉢合わせてこの辺りで魔女を倒してたんだけど――」

鶴乃「そこで面白い話を聞いちゃったんだよね」

いろは「面白い話、ですか?」

ももこ「ウワサ。いろはちゃん喜ぶかな、って」 

 ウワサ。この辺り。情報鮮度抜群。

いろは「聞かせてください!」

 巻き込まれたであろう私は即座に食いついた。

ももこ「おおう、いい反応」

鶴乃「じゃ、わたしがやちよの代わりに……」

鶴乃「『アラもう聞いた?誰から聞いた?

    好感度測定少女のそのウワサ。
    気になるあの子とその子の気持ちとワケ。普段は知れない心の底もその娘にかかればお見通し。
    嫌われてる子とも仲良くなれちゃう?
    けれども注意――』」

いろは「……」ゴクリ

 身振り手振り付きで説明してくれる鶴乃ちゃん。でも彼女は言葉の途中でぴたっと止まってしまった。タメだろうか? なんて思った矢先、茶目っ気たっぷりに鶴乃ちゃんは舌を出した。

鶴乃「ってとこまでかな。聞いたのは」

いろは「ええっ……でも、その続きすごく大事そうな」

 完全にデメリットの話だろうし、聞いておきたいのに。


ももこ「そうなんだけどさ、何故かその話をしてた子達、途中で話がぱったり止まっちゃって。鶴乃が聞いても、覚えてないって」

鶴乃「ウワサ、もう消えちゃったのかな? いろはちゃんに会うすぐ前のことだったんだけど」

いろは「……そう、ですか」

 消えちゃった。心当たりはある。
 あの変な声が私の中からするってことから推測すると、確かに、この町って空間からはウワサは……。

 とにかく。私がウワサに巻き込まれたのはこれで確定してしまった。
 やちよさんに怒られるだろうなぁ……うぅ。

ももこ「ってわけだから、アタシらそろそろ帰るな。鶴乃に振り回されてくたくただよ」

鶴乃「えー、ももこのサポートしてたつもりなんだけど」

いろは「あはは。二人ともお疲れ様」

 ……こうして笑い合えるのに、好感度は天と地ほど違ってて。人ってこんなに本心が見えないものなのかと不安になってしまう。
 でも、これはいいきっかけだ。私が私の評価と向き合う、これからみんなと仲良くしていくための普通なら有り得ないデータだ。
 ……ウワサをなんとかする前に努力してみてもいいのかもしれない。


 ↓1 鶴乃、ももこのどちらと話す?

 『好感度は上がりますが、下がりはしません

    80以上で更に仲良くなると……
          逆に低すぎても……』

 

 向き合うなら……この人だよね。

いろは「ももこさん。ちょっと話しませんか?」

ももこ「アタシ? いいけど」

 考える暇もなく頷いてるし、やっぱり嫌われてるように思えない。でも鶴乃ちゃんの好意も普段は全然気づかなかったわけだから、ももこさんの気持ちもうまく隠されているのだろう。

鶴乃「おっ、なになに? わたしもついてっていい?」

いろは「えっ? えっと……ごめんね?」

ももこ「……。鶴乃、なんとなくだけどピンときちゃった。――今までので分かるよな?」

鶴乃「今まで? いろはちゃんの反応でしょ、ウワサでしょ、反応でしょ、それで二人きり――あああっ!」

 ブツブツと呟いて、驚愕した様子で叫ぶ鶴乃ちゃん。
 ……そんなに分かりやすい行動してたんだね、私。みるみる赤くなっていく鶴乃ちゃんを見つつ私は自嘲。

鶴乃「も、もしかしてわたしの気持ちをいろはちゃん……っ!」

いろは「うん……見えちゃった」

鶴乃「それを知ってて弄んだのね! ――ちなみに何見えるの?」

いろは「好感度154で、愛してるみたいな一言が」

鶴乃「なあああぁ!? そんなにハッキリ!? は恥ずかしいっ」

 ……かわいい。顔を真っ赤にさせて両手で覆ってしまう鶴乃ちゃん。
 こんな照れる印象なかったから意外だ。 

ももこ「――で、そういうわけだから、鶴乃」

鶴乃「ぅ……うん。まともにいろはちゃんの顔、見れそうにないし」

鶴乃「それに……いろはちゃんはももこを選んだんだしね」

いろは「うん。ごめん――え?」ポカン

鶴乃「いいの、いろはちゃん。わたし、分かってるから。ね?」ニッコリ

 さっきまでの恥じらいはどこにやら、急にさっぱりした顔で鶴乃ちゃんはすっくと顔を上げ背筋を伸ばし首をゆっくりと横に振る。
 ヒロイックな表情がなんかむかつ――あ、ゴホンゴホン。

いろは「ちょっと、鶴乃ちゃん。すごく早とちりして」

鶴乃「ももこに負けないように、わたし頑張るからー! 具体的には胸とか!」ダダダッ

いろは「話を聞いてぇっ! あとそれ大声で言うことじゃないです!」

 止めても突っ走っていく彼女の後ろ姿を、呆然と見送る私。
 頭よくて、私がウワサに巻き込まれたことも言われてすぐ気づいたのに結論がズレてる辺り、鶴乃ちゃんらしいというか……。

ももこ「――さて」

 鶴乃ちゃんの姿が完全に見えなくなると、ももこさんが私へ身体を向けた。

ももこ「鶴乃はああ言ってたけど、自分のことだからよく分かってるよ」

 苦笑から真面目な目つきに。少しだけ――ミラーズで偽者から殺気を向けられた時のことを思い出した。

ももこ「いいよ。話そう」

いろは「……はい」

 ちょっと怖いけどももこさんは悪い人じゃない。それは分かっているからやめようとは思わなかった。

ももこ「公園に行こう。ウワサについても知っておきたいし、座ってじっくり」

いろは「は、はいっ」

 歩き出すももこさんの後を追い、周りを見ながら歩く。
 いつもと同じはずの神浜の町が今日、今この瞬間は違って見えた。
 なんでだろう。私はこの時ももこさんと初めて会った日のことを思い返していた。
 初対面で助けてもらって、悪い人じゃないって思ってたのに不安で。でも、なんとなく報われるような感じがあって。

いろは「ふふっ」

 怖さと不安を感じてたはずなのに私は思わず笑みを零してしまうのだった。
 ……うん。分かり合えるよね、きっと。







 神浜へ来たばかりの時、私は一人で行動していた。
 それからももこさんに助けてもらって、みたまさんの協力を得て、仲間が増えていって――私はやちよさんとウワサの調査をすることになった。
 周りに恵まれて、一所懸命頑張って、ほとんどうまくいっていると思っていたけど、それは違って。
 きっとこのウワサの力がなければ、私はずっと気づかなかったのだろう。もしあのままももこさんと付き合いを続けていたらと思うと……ウワサに巻き込まれてよかったのかも、なんて気持ちもあるわけで。
 何かデメリットがある筈なのに、ウワサを消すことに名残惜しさを感じてしまう私もいる。

いろは「……それで、ももこさん達に会って」

ももこ「アタシと話そうって決めたわけか」

 さて、公園。夕暮れに包まれるそこでブランコを漕ぎ、私はももこさんと話していた。
 思えば彼女と初めて会ったのもこの場所だった。なんだか懐かしい気分だ。

ももこ「――正直なこと言うよ?」

いろは「は、はい。私もその方が嬉しいです」

ももこ「いろはちゃんのこと、嫌ってるというよりは……どう接していいかわからないんだよね」

いろは「……」

 正面を見ながら、なんでもなさそうなトーンで語る。
 なにも知らなかった私だったら、そうなんすかなんて言ってウワサの話に移っていたかもしれない。
 けど、彼女の気持ちを知ってしまった今、ももこさんの対応は不審に見えた。

いろは「……違いますよね? ももこさん、私のことを嫌ってると思います」

 そうじゃなければ好感度7だとか微かに感じる殺気だとか、説明がつかない。
 隠そうとするももこさんに、思わず私はストレートに問い詰めてしまう。分かり合いたい。その気持ち故の焦りだろうか。
 しまったと思ったのは全て口にした後だった。

ももこ「……本当のことだって。全部アタシのワガママみたいなものでさ、いろはちゃんは悪くない」

 俯いて、ぽつぽつと小さな声でももこさんが言う。
 そこに嫌悪――私を嫌う気持ち以外が感じられたのは、気のせいじゃないのだろう。
 彼女の好感度を知って、気持ちを知って、理由を知って、心の1片を覗き見た私に言えることは――


 1『ワガママ、もっと聞かせてください』
 2『ももこさんのこと好きだから、もっと知りたいんです』
 3『なら私がももこさんが好きな理由、話します!』

 ↓1


ももこ「――へっ?」

 素っ頓狂な声を出すももこさん。
 ブランコの鎖を握り、私は戸惑う彼女をよそにももこさんの好きなところを語ろうと口を開く。

いろは「初対面の人を助けてくれる優しい性格。面倒見のいいお姉さんなところ。綺麗で、かわいいところも――」

ももこ「わーっ! ちょ、ちょっといろはちゃん!? 何してんの!?」

 呆気にとられていた彼女だけれど、私が喋り出すとすぐ反応して止めにかかる。
 私に褒められても照れくさいみたいで頬がほんのりと赤い。

いろは「嫌ってる理由を言わないから、私は逆のことをしちゃえって思って」

ももこ「時々突拍子もないことするな……いろはちゃん。でもそれって何の意味もないような」

いろは「意味なら、私がももこさんのこと好きって分かってもらえれば、それで」

 私がももこさんのことを好きで、好かれたいって思っているのは紛れもない事実。
 だからももこさんが私を嫌っているならその理由をはっきり知りたい。ウワサで聞いた理由はほんの一部だろうし……正確なのかも分からないから。ウワサのことだから、嘘を教えてトラブルを起こす、とかデメリットがあっても不思議じゃない。


 
ももこ「いろはちゃん……」

 前のめりになっていた体勢を戻し、ももこさんは苦笑する。
 ちょっと……いや、かなり迷惑だったかも。嫌いな人からこんなことされたら。

ももこ「――うん、分かった。言うよ。嫌ってる理由」

いろは「は、はい……」

 どこかさっぱりした顔でももこさんはブランコから降りる。『嫌ってる理由』。口にされるとこれほど堪えるものなのか。
 ……でも、全ての人から好かれているなんて思うだけでも傲慢なこと。受け入れて、改善できるようにしなくちゃいけないよね。

 なんて、私が思った直後に異変は起こった。

ももこ「……」ピタッ

いろは「……? ももこさん?」

 私の方へ振り向いたももこさんの動きが綺麗に静止した。動画の再生が止まったみたいに表情、視線一つ変えずに髪だけを揺らして。
 刹那、視界に映る景色が激変した。

 不気味な文字列が並ぶ結界……これは。


いろは「ウワサ……!?」

 周囲を見てみれば、公園の辺りはもう結界で囲まれていた。戸惑い、周囲を見回しているとすぐ目の前で魔力を察知した。

いろは「っ!」

 ほぼ直感。直前のももこさんの異変が私の頭の中にフラッシュバックし、近づいてくる足音から反射的に遠ざかるように横へ飛ぶ。
 紙一重でさっきまで私のいた場所を縦に裂き、地面に突き刺さったのは刃が半円の形をした特徴的な剣。
 そしてそれを持っている人物は……一人しかいない。

ももこ「……」

 ももこさん。魔法少女姿になった彼女は、地面に刺さった剣はそのまま私へ顔を向ける。
 ――人を殺しにかかったとは信じられないくらい真顔で、感情を感じさせない。正気じゃないことは確かだ。

いろは「ももこさん! しっかりしてください!」

 攻撃が止んでる内に変身。必死に頭を回転させながら声をかけるけれど、ももこさんは剣を地面から引き抜くだけ。声に反応する素振りすらない。


いろは「ももこさ――あ゛っう!?」

 そのくせ動きはいつも通り。剣に意識を集中させていた私へ、彼女は思い切り蹴りを命中させる。
 腹部を綺麗に打ち抜かれ地面を転がる私。痛みと息苦しさ、霞む視界。止まった後も平衡感覚を乱しもたもたと、立ち上がるのに手間取る。
 すぐ前でももこさんが剣を振り上げているのが見えているのに、まともに動くことすら――

いろは「……っ」

 万事休す。せめてソウルジェムを守ろうと身体を丸め、ぎゅっと目を閉じていた私だけど――痛みが身体を襲うことはなかった。

???「……」

いろは「――えっ?」

 代わりに、頭上から降りかかる言葉。私はハッとして顔を上げた。
 そこにいたのは――


 ↓1 助けてくれた魔法少女は?(条件は最初のものと同じ)
 ↓2 その魔法少女の好感度を判定



レナ 10
   「……」
 
いろは「……レナちゃん」

 助けてくれたのはレナちゃん。目を開いて顔を上げると、ももこさんと対峙する彼女が見えた。
 ……好感度はももこさんとどっこいどっこいなんだけど。

レナ「ああもう、早く立ってよ。この結界ってことは、またウワサなの!?」

いろは「う、うん。ごめんねレナちゃん」

レナ「ほんとよ。なんでアンタのためにももことこんなこと――っ!」

 いつも通りに悪態をつくレナちゃんへももこさんの剣が横凪ぎに振られる。彼女はそれを屈んで避け、攻撃しようと槍を向け――止まる。
 ……躊躇っちゃうよね。偽者ってわけでもないから。

レナ「まったく状況分からないんだけど。ももこは話そうともしないし……レナはどうすればいいの?」

いろは「ええと……と、とりあえず一緒に結界の外に。今回はももこさん置いていっても問題ないと思う」

 縦に振られる剣を槍で弾き、蹴りを華麗にかわし、レナちゃんが時間を稼いでくれる。
 お陰で冷静に考えることができた。多分、今回もウワサのルールから外れたことをしてしまって襲われているのだろう。もしくは、ルールに従っているのか。
 いずれにせよその中心は操られているももこさんじゃない。私だ。

 私が離れれば、ウワサの影響下から外れる……と思う。

レナ「……それで本当にいいの?」

いろは「うん。ごめんね、迷惑かけちゃって」

レナ「――ももこに何かあったら許さないから」

 渋々、といった感じでため息をもらしてレナちゃんはももこさんの頭を槍の柄で叩いた。怯んだ隙を見てレナちゃんは素早く後ろへ。私を抜いて出口に向かった。
 私も慌ててその背中を追う。

いろは「ありがとう、レナちゃん――」

 と言葉を発するよりも早かったか、遅かったか。はっきり分からないけれど、不意に振り向いたレナちゃんを見た瞬間、私は反射的に思い切り飛んだ。

レナ「……」
ももこ「……」

 ももこさんと同じように目から感情の光をなくして、槍を突き出すレナちゃん。それを私は飛び越え地面に着地。
 のそっとした動きで振り向くレナちゃんに、その隣へ並ぶももこさん。言葉はないけど彼女らの敵は誰かはっきり分かる。

いろは「レナちゃんまで――なんでっ」

 ひとまず結界の外に出られそうな間合いだけど……見ておかないと。レナちゃんがなんで私のことを嫌っているのか。

 ↓1 レナの理由判定
     コンマ末尾の数が小さいほどくだらない理由



『面白そうなので理由判定時に書かれた理由はできる限り採用する――ようにします。力量不足で、最初はやめようかと思いましたが』

 0=10 かなり深刻


レナ『……いろはのことはすっごく嫌い』

レナ『ももこに助けてもらって、一所懸命でいい子で……誰かさんを思い出す雰囲気と流れで』

レナ『受け入れようとも思ったわ。でも……でも……』

レナ『結局、裏切った。よりによって――』


 ……例によって、私が念じたと同時に聞こえてくる声。深刻そうな、憎しみを込めた声音に私の背筋は凍る。
 ももこさんに続いて、こんなにも人に嫌われることを、私は……。

 でも、受け入れる覚悟はある。
 私がしたいこと――ういのために、私はやちよさんとウワサのことを調べるって決め――

レナ『よりによって……唐揚げにレモンをかけるなんて』

 ……。

 ……え?

いろは「唐揚げにレモン……そ、そんな理由で嫌われてるの!?」

レナ「『そんな理由』ってなに!?」

いろは「わ、喋った!」

 無表情だったレナちゃんが私のツッコミに過敏に反応する。怒りを露に、武器を強く握り締めた彼女はわなわなと身体を震わせた。


レナ「一緒に食べようと思った唐揚げを、アンタは5個全部レモンをかけて……」

いろは「あ、あれは……その、くれるって言うから、つい――全部かなぁ、って。味が濃そうで」

レナ「唐揚げはそういうもんなの! 調味料は自分が食べる分だけ! あとあれは恥ずかしくて入れ物ごと渡しただけ!」クワッ

いろは「ひっ、ごごめんなさい!」

 唐揚げで殺されそうな状況に追いやられるなんて、思ってもみなかった。
 キレつつされる気持ちの暴露やレナちゃんの剣幕に怯えつつ、私は心の中で嘆いた。

レナ「とにかくアンタは勝手に決めすぎなのよ。勝手に進んで決めて、人を巻き込んで――」

 理由もあってシュールさすらあったけれど、段々と緩んだ空気も再び張りつめていく。
 怒りは殺意に。聞こえてきた心の声と同じく、強い憎しみや様々な暗い感情が入り混ざった、寒気すら感じる威圧感に私の足が無意識に後退る。


レナ「――それで、結局正解してる。鬱陶しい。忌々しい……」

 ……唐揚げだけじゃないのかもしれない。色々きっかけがあって、彼女は私を嫌っているのだ。
 弁明したいし、反省も改善もしたい。でも今はそれもできなそうだ。
 彼女の青色の瞳は再び色を失い、私へゆっくり歩み寄ってきている。
 これから、二人との関係を良くしていくためにもここは……。

いろは「ごめんなさいっ!」

 変身を解除。のろのろ動く二人を背に、結界の外へと全力疾走。
 ウワサのことなら、やちよさんに聞くのが一番。とにかく今はやちよさんと合流して情報を集めなくちゃ。
 あとは、私が二人から離れることが正解だったのかも確かめないと。
 ……そっちもやちよさんと合流して、連絡してもらえば大丈夫かな。

 ごめんね、二人とも。
 私が変なウワサに巻き込まれたせいで……。


 ↓1 やちよさんと共にいる魔法少女を一人


 家に向かって走っていると、その入り口の前で話している二人の人影を見つけた。
 夕方も過ぎ、そろそろ暗くなる時刻である。人気も段々となくなってきた時間。静かさが今日は妙に怖く感じられる。

いろは「はぁっ、はぁ……」

 息が切れているけれど、私は足を止める気にはなれなかった。一刻も早くなんとかしないと、二人……いや、この町にいる皆に迷惑がかかるかもしれない。
 段々と人影が誰なのか見えてくる。すらっとしたスタイルの良い一人と、小柄な一人……知っている人だ。
 やちよさんと、都さん。二人とも私よりずっと歳上で、頼れる人たちだ。
 良かった……やちよさんと会えた。

いろは「や、やちよさ――っ、都、さん」ゼエハア

やちよ「……あら。環さん、急いでどうしたの?」

ひなの「なにかトラブルか?」

いろは「は、はい……」スーハー

 ……でも、会ったということはアレも見えてしまうということで。
 乱れた息を整えつつ、私は覚悟を決めて二人の頭上をチラッと見た。


 ↓1 やちよの好感度判定
 ↓2 みゃーこ先輩の好感度判定


 やちよ 38
    『手は組んだけれど話し難い子ではあるわね……』

 ひなの 64
    『素直でかわいい――後輩ってのはこういうものだな』


 わ、わぁー……やちよさんとそれなりに仲良くなれてたと思ってたのは私だけだったんだ。
 でも都さんの好感度が高くて嬉しいな。友達くらいには思ってくれてるかな。

やちよ「……どうしたのかしら?」

いろは「あ、やっ、なんでも――なくはないですけど」

ひなの「はっきりしないな。何かあったのは分かるが――」

 そう言って、二人は私から視線を外して……自分達の頭上を見た。う゛……流石鋭い。私の視線をしっかり捉えているとは。
 隠し事をするつもりがあるわけでもないのに、ちょっと焦ってしまう。
 ……本当のことを話すってことはつまり、その後は当然、好感度の話になってしまうのだから。
 ちょっと気まずい……。

いろは「やちよさん、ごめんなさい。私ウワサに巻き込まれたみたいで……」

 でも、黙っているわけにもいかない。
 おずおずと私は二人へこれまで起こったことを話しはじめた。二人とも真面目な顔をして、最後まで話を遮ることなく聞いてくれる。落ち着いた対応に、私も自然と平静を取り戻していった。

やちよ「……なるほど。状況は分かったわ」

ひなの「毎度厄介なことに巻き込まれるな、いろはも」

いろは「ごめんなさい。無用心ですよね」

ひなの「や、アタシも近づくかもしれん。そんなのあったら」

やちよ「そうね。看板に答えるのは、少数派かもしれないけれど」

いろは「うぅ……すみません」

 つい独り言が多くなっちゃうんだよね……ここに来てから色々あるし。常にあの子も傍に――あ。

ひなの「まあまあ。責めないで解決法を考えようじゃないか。とりあえず、襲ってきた二人に電話か?」

やちよ「そうね。離れて正解か確かめないと」

やちよ「レナでいいかしら……」

 やちよさんが携帯電話を取り出す。それを横目で見つつ、私はキョロキョロと周りを見回す。
 や、やっぱりいない……!

ひなの「どうした? キョロキョロして」

いろは「いないんです……小さいキュウべえが」

ひなの「――いないな。はぐれたのか?」

いろは「みたいです。私にウワサが憑いたからかな……」

ひなの「まあいずれ戻ってくるだろ」

いろは「だといいんですけど……」

 前のやちよさんみたいに命を狙う人もいないだろうし、一匹でも大丈夫だろうけど……心配だ。騒動がおさまったら戻ってきてくれるかな?

やちよ「――そう。分かったわ」

 ちょこっと都さんと話している内に、やちよさんの通話は終わったみたいだ。携帯をポケットにしまい、やちよさんは微笑する。

やちよ「環さんの対処法で正解みたいね。ももこもレナも無事よ」

いろは「本当ですかっ? 良かった……」

ひなの「これで、解決法を考えるだけになったな」

 白衣の袖をバサッと動かして、都さんが腕組み。真剣な表情で言う。


ひなの「やちよさんは、そのウワサについて何か知らないのか?」

やちよ「……知っているわ」

いろは「や、やちよさん!」

 流石やちよさん!
 いつものキリッとしたクールな表情が、いつにも増して頼もしい!

やちよ「神浜うわさファイル……その中でも、実例がなくて真偽が曖昧なウワサだけれど……」

 いつものノートを取り出して、やちよさんはパラパラとページをめくる。
 目当てのページにたどり着いたのか、彼女は手を止めると口を開いた。

やちよ「『アラもう聞いた?誰から聞いた??

    好感度測定少女のそのウワサ。?
    気になるあの子とその子の気持ちとワケ。普段は知れない心の底もその娘にかかればお見通し。?
    嫌われてる子とも仲良くなれちゃう??
    けれども注意。たった一言それだけで、好き嫌いのリョーキョクタン。

    好きはあなたを自分のものに。嫌いはあなたを亡きものに。

    時々振りかかる不幸を乗り越えて、好きと嫌いのアドベンチャーゲーム。 運命の相手が見つかるかもって神浜市の女子の間ではもっぱらのウワサ! ガンバッテー!』」

ひなの「……音読か」

やちよ「……と、こんな感じね」

 ファイルを閉じ、やちよさんが肩を竦める。鶴乃ちゃんが聞けなかったウワサの続き。大体私が体験したことと同じだけど……。

ひなの「『時々振りかかる不幸』、か。両極端だ、っていうのと区別されてる気がするが」

いろは「はい……。まだ他に何かあるのかも」

やちよ「ひとまずそれは置いておくとして……ウワサから解放される条件は分かったでしょう?」

いろは「条件ですか? 運命の相手を見つけるとか?」

ひなの「そうだな。俗っぽく言えば誰かとエンディングを迎えるってところか」

やちよ「アドベンチャーゲーム、なんて言っているからほぼ間違いないわ」

やちよ「ただ、今回はこれまでのウワサと形式が違うわ」

いろは「形式?」

やちよ「ええ。いつもならウワサと戦って強引に消すことができたけど……」

いろは「……あ。今回ウワサは姿を見せないから、戦えない」

やちよ「そう。元凶を叩いて排除、影響から解放という手段がとれないわ」

やちよ「環さんを叩くわけにもいかないし」

いろは「あはは……死んじゃわないなら、それが一番なんですけどね。手っ取り早いですし」


ひなの「憑依先を排除してもまた新しくとり憑いて繰り返しってパターンもあるかもしれないからな。あまり強行はしないほうがいい」

やちよ「そもそも、環さんと一緒にいるのかも不明だからここは大人しくルール通りにエンディングを目指しましょう」

いろは「それってつまり……誰かと恋愛、どすか?」

やちよ「そうとは決まってないけれど……そうね、やり易い相手が好ましいかしら。好感度が高い人とは会えた?」

いろは「それは……鶴乃ちゃんですね」

ひなの「ほう。鶴乃か。どれくらいだ? 数値が見えるんだろう?」

 興味津々な様子で都さんが訊いてくる。やちよさんもあんまり表情を変えないけど、そわそわとしてるような気がする。
 鶴乃ちゃんの好感度……これ多分、凄まじい数値なんだけど、言っていいのかな。

いろは「……154です」

ひなの「154。なるほどなぁ、じゃアタシは140くらいか? いろはのことは結構信頼してるし」

いろは「……都さん64で、やちよさんは38です。他の人の好感度も考えると……普通は二桁なんだと思います」

ひなの「限界突破……だと……」

やちよ「……鶴乃を攻めてればすぐ終わりそうな気がしてきたわ」

いろは「は、はい……かもしれません」

やちよ「けどそこまで高いとなると、鶴乃は避けた方がいいかもしれないわね」

ひなの「……ん? なんでだ?」

やちよ「好きと嫌いの両極端。好きはあなたを自分のものに。つまり――低い好感度で襲ってきた二人のように、鶴乃も――」

ひなの「べ、別の意味で襲ったり……」セキメン

いろは「別の意味?」

 はて。それは……

 ↓1 いろはちゃんのアレな知識量、女の子への関心。コンマ判定


 ↓2 やちよさんの嫌っている理由判定
 ↓3 みゃーこ先輩の理由判定

【理由判定時に書かれた理由が問題なさそうな場合は採用して、コンマは無視することにします。矛盾しそうなので

書けなかったりして採用しなかった場合は、再安価したりコンマの数値でこっちが勝手に想像したりするのであしからず】


いろはの知識、関心 38
  『並以下のちょこっとの知識。消極的』


いろは「それってどういう意味ですか?」キョトン

ひなの「!」
やちよ「!」

 襲われる……それに別の意味なんてあるのだろうか。意味が分からずに首を傾げると、二人は何故か驚いたみたいにビクッと反応した。

ひなの「情報社会の今の時分、こんなピュアな中学生がいるのか……」

やちよ「――環さんはそういう子よ。時々眩しくもあるわ……」

 そして遠い目でそんなことを呟いた。

いろは「えっと、私何か変なこと訊いちゃいましたか?」

ひなの「あ。あぁ気にするなっ。少し感動していただけだ。いろははそのままのいろはでいてくれ」

いろは「は、はぁ……」

 質問には答えてくれないみたい。話の流れ的には鶴乃ちゃんが私を自分のものにしようと暴走――ってことだよね。襲われるって。
 ……あ。ちょ、ちょっと分かっちゃったかも。
 鶴乃ちゃん私のこと愛してるって言ってたし、そうなんだよね、きっと。
 意味を理解して頬がじんわりと赤くなるのを感じる。私はそれを誤魔化すように慌てて口を開く。

いろは「そ、そうですねっ! 今は早くウワサをなんとかしないと! うんっ」アタフタ

ひなの「……ぐ、確かに眩しいっ!」

やちよ「それは多分環さんに悶えてるだけよ」

 羞恥に焦る私と目を手で覆う都さん。唯一落ち着いているやちよさんはため息を吐き、腰に手を当てた。

やちよ「……とにかく、これから環さんはウワサから解放されるためにも積極的に誰かと交流するしかないわね」

いろは「はい。そうですね。でもどうすれば……」

ひなの「今日みたいにすればいいんじゃないか? 好感度見て理由聞いて会話して。わだかまりをなくしていって、仲良くなっていけばエンディングだ」

いろは「なるほど……そうですね」

やちよ「それで問題ないと思うわ。ただ……ウワサだからあまり数値や理由を信用し過ぎない方がいいわね」

ひなの「……そのことだが、実験したらどうだ?」

いろは「実験?」

ひなの「ああ。いろはの話だと、今まで聞こえた理由を本人には話してないだろ? だから今ここで、聞こえた理由をアタシ達に教える」

やちよ「――それで、信憑性がある程度はっきりすると」

いろは「いいですね。これからのためにもやっておきたいです」

 ……でも。
 私はチラッとやちよさんを見た。

やちよ「私のことは気にしなくていいわ。好感度が低くても環さんのことは嫌いではないから。理由も理不尽にあなたを傷つけるものではないと思うわ」

やちよ「それに……環さんは私の助手だもの。ひどい理由で嫌ってる相手を助手になんかしないわ」

いろは「やちよさん……。はい」

 フッと微笑み、やちよさんは優しい口調で告げる。そうだ。やちよさんと出会って色々あって、仲間になって、一緒の家に住んで――嫌われてたら今の関係にはならないよね。
 私の何かで苦手意識を持たれてるなら、それを無くせば好感度も上がるはず。
 うん。やちよさんだから、そう信じられる。

 信頼の上で、絆の上で苦手なところを打ち明ける。そんな関係にちょっと憧れてたのかもしれない。

 悪いことを聞くかもしれないのに、私の胸はドキドキと高鳴っていた。緊張じゃない。これからもっと仲良くなれる期待に、だ。

 怖がらずに、立ち向かうためにやちよさんの好感度の理由を――


やちよ『環さん……いやらしいわね』

いろは「は、はいぃ!?」

やちよ「た環さん!?」

 ――いい話風の空気はすぐ吹っ飛んだ。

やちよ『普段は大人しいしっかりした子ダからかしら……魔法少女の姿がそんな風に見えてしまうのよね……』

 や、やちよさん……そんなことを思ってたの?

やちよ『透けてるインナーから見える体のラインとか、肌色とか……直に見せてないのが逆に卑猥だわ』

やちよ『時々ローブの下からチラチラ見えるのが直視できないくらいエロいし』

やちよ『段々と普段の雰囲気からも色気を感じるようになって……辛抱堪らないわ。抱き締めたい』

 どんどん単語が直接的に! それでいて淡々としてる!
 え、どういうことなの? やちよさん、私のことを好感度的には嫌ってたような……。

ひなの「……いろはが完全にフリーズしてるな」

やちよ「……嫌な予感がするわ」

 全く内容を理解できないものの頭は驚くくらい冷静だった。声が聞こえる時は大抵意識が飛んじゃってるんだけど、今回はしっかりクリアで澄んでいる。
 二人の会話すら聞こえているくらいだった。

いろは「その……聞いちゃいました」

やちよ「ええ。どんなことを言っていたの?」

 ……この落ち着いた表情。嫌な予感がしたとはいえ、そこはウワサ。信憑性がないと思っているのかもしれない。
 ――ううん。もしかするとやちよさんは本当はあんなこと考えてないのかもしれない。
 あ、そういう可能性もあるんだよね……。というか私としてはそっちを信じたいけれど……。

ひなの「で、何言ってたんだ?」

いろは「その……わ、私のこと――いやらしいって」

やちよ「……」

 あ、目逸らした。

ひなの「……やちよさん、本当なのか?」

やちよ「……さ、さぁ。自身の気持ちは自分すらはっきりと分からないもの。めめ明確には分からないわ、えぇ」

ひなの「もう認めてるようなものだコレ!」

 視線をあちらこちらに泳がせて見るからに挙動不審なやちよさん。こ、これは確定なんじゃ……。
 いや、でもやちよさんはそんな人じゃ――

いろは「やちよさん? 確かめるのでこっち向いてください」

 キョロッと周囲を見て、変身。
 これでウワサが嘘を言ってるならやちよさんはいつも通り――

やちよ「なに? 環さ――ンッフ」

 駄目だ! 反射的ににやけてる!

ひなの「大学生……駄目だろ」ジトー

やちよ「これは違うの! 一般的な人間なら当然の反応よ!」

いろは「否定しないんですね……」

やちよ「もうこうなったら仕方ないもの。開き直るわよ。変身後の環さんがやらしいのは周知の事実よ」

ひなの「それは認める」

いろは「都さん!?」

 私の変身した姿ってそんな印象なの!?

いろは「……じゃあ、ウワサが聞かせてくれる声は本当のことなんですね」

 釈然としないけど、というよりもあんまり信じたくないけど、本当なのだろう。変身を解除し、私はため息を吐いた。
 やちよさんの好感度上げるにはどうしたらいいのやら……。

やちよ「ももこ達の件から考えて、可能性は高いわね」

ひなの「断定しないのか? 今のところ精度は100パーセントみたいだが」

やちよ「まだあなたの声を聞いてないでしょう?」

ひなの「道連れにするつもりか……」

 あはは……あんな声を聞かれて自分だけ火傷だと退きたくないよね。

ひなの「まあいいか。アタシも試すつもりだったからな」

いろは「じゃあ、早速いきますよ……」

 嫌われてはないから、おかしなことにはならないと思うけど……やっぱり勇気がいる。覚悟を決めて、私は念じた。

ひなの『いろははいい後輩だよな』

ひなの『アタシのことからかったりしないし、かわいいし、すごく頼ってくれるし』

ひなの『一緒に戦うようになってからすごく充実した気分になったのを覚えてる。うむ』

ひなの『それに全然アタシの身長とか見た目のこと言わないしな。純粋に慕われるってのはいいことだな……』シミジミ

いろは「お、おぉ……」

 良かった……まともで。

やちよ「どう? 環さん。後輩と会った時はいつも、エロい展開を想って――ドキドキする……っ。みたいなことは言っていなかったかしら」

ひなの「オイ」

いろは「そんなことはなかったです。頼ってくれる――その、かわいい後輩だって」

 見た目のこといじらない……みたいのは省いておこう。エミリーちゃんとのやり取りでもそうだけど、ちょっと気にしてるみたいだから。

やちよ「……好感度60ラインはそれくらいなのかしら」

ひなの「好感度30台で邪な感情抱くのもどうかと思うがな」

やちよ「……それだけ直視できないのが恨めしいのよ」

ひなの「絶対見れたら好感度カンストしてるな、やちよさん」

ひなの「……ま、とにかくこれで本当のこと言ってるのは確定だろ」

いろは「そうですね。レナちゃんの時も合ってたリアクションはしてましたし」

ひなの「襲われないようにエンディングを目指す――って方針だな」

やちよ「ウワサのルールに反する方法も分からないから、仕方ないわね。好感度見えて、極端な好感度だと一言をトリガーに暴走して、運命の相手が見つかるかも――全部抗い様がないもの」

 やちよさんが肩を竦めてため息を吐く。
 ……うーん、今後もこういう従うしかないウワサが出てくると大変そうだなぁ。

ひなの「……じゃあアタシはそろそろ帰るな。やちよさん、今日は魔女退治の協力ありがとう」

やちよ「ええ。……今日聞いたことは忘れてほしいけれど」

ひなの「努力する。いろは、死なない程度に頑張れよ。もし危ないときは誰かに連絡しろ。かわいい後輩のためだ、アタシも協力するから」

いろは「は、はいっ。ありがとうございます」

 やるべきこと、現在の状態――何も分からなかった頃より全然マシになった。やっぱりこの二人は頼りになる。
 さっぱりと別れを告げた風なのに、それでも心配そうに時折振り向く都さんを見送り、家の前には私とやちよさんの二人きり。

いろは「……やちよさん、中に入りましょう?」

やちよ「……ええ。環さん、あの――ごめんなさい。失礼なこと考えていて」

いろは「――ふふっ。いいんです。嫌われてないって安心できましたし。ウワサで暴いたのは私ですし」

 開き直ってはいたけど罪悪感は勿論あったみたいで、やちよさんは真面目に謝ってくれる。
 ちょっと引いてた筈なのに、私はそれが微笑ましくて笑ってしまう。


 開き直ってはいたけど罪悪感は勿論あったみたいで、やちよさんは真面目に謝ってくれる。
 ちょっと引いてた筈なのに、私はそれが微笑ましくて笑ってしまう。

いろは「だから、やちよさんはもっと私を見て、慣れてくださいね?」ウワメヅカイ

やちよ「……」

いろは「……やちよさん? あれ? なんで無言――やちよさんっ?」

やちよ「ハッ!? だ、大丈夫よ。そうね、慣れないといけないわね」

いろは「……すごく不安になってきちゃった」

 好感度、好感度の理由……これに加えて暴走と不幸――これって今までのウワサの中でも厄介さはかなり上位なんじゃ……。

 ……でも、だからこそ積極的に行動を起こさないといけないよね。

 ――どうしよう。今日はこれからできることってあるかな?



1 やちよさん、対いろはちゃん克服特訓(コンマ判定あり 好感度以下で……)
2 鶴乃ちゃんと仲良くなろう(問答無用で……)
3 レナちゃんと会話
4 ももこさんと会話
5 その他、これまで会った魔法少女、まだ会ってない魔法少女と会話。指名も同時に


 ↓1、2
  一つの投稿で一つだけ選択。合計二種のイベント発生。被ったら下を採用



 何をしようか考えるのは簡単だ。
 けどそこから先、行動に移すとなると途端に難しくなってしまう。

いろは「うーん……」

 とどのつまり、私はぼんやりと部屋で考え込んでいた。
 何をしようとは思うけど、ずるずるご飯を食べてお風呂入って……何も予定ないお休みの日コースである。
 まぁ……あんなことすぐ整理できる頭を持ってる自覚はないんだけど。でも、少し罪悪感。

いろは「何かしないといけないんだけど……ふえっ!?」

 テーブルの上に置いていた携帯電話へ突然の着信。
 揺れる音が響き慌てて拾い上げる。

梨花『あ、早い。もしもしー? いろはちゃん、遅くにごめんね』


 その時画面に触れちゃったみたいで、通話が始まってしまう。画面には『綾野梨花』の文字が。
 スマホの通話って、暴発怖いよね……。たまに通話拒否の方にスライドしちゃうし。

いろは「は、はい。大丈夫ですよ。どうしたんですか?」

梨花『いろはちゃん、敬語はいいって。同じ中学生で仲間じゃん』

いろは「えっ? あ、うん。つい」

梨花『ふふ、そうそうっ。あ、本題なんだけど今からそっち行っても大丈夫?』

いろは「うん、大丈――今からっ?」

梨花『おおっ、ノリツッコミ。急で悪いんだけどねー。ちょっと話聞いちゃって』

いろは「……ウワサのこと?」

梨花『うん。好感度だっけ? 話聞いてみたいんだ』

いろは「それなら多分大丈夫かな。やちよさんも許してくれるかも」

梨花『よっし。ありがと、いろはちゃん。すぐ行くね』

 ……早いテンポだった。通話終了と表示された画面を見つめ、また整理できていないことが増えた頭をブンブンと振った。

いろは「ぼうっとしてないでやちよさんに話さないと」

 好感度低かったら家で戦闘がはじまっちゃうこともあるだろうし――あっ。全然許してくれなさそう!

いろは「……。ダメ元で行ってみよう」

 もし駄目だったら近くのコンビニとかファミレスとかでいいかな。
 携帯をポケットに。私は部屋を出て家のリビングへ――

やちよ「鶴乃、あなた……この、環さんをどうして直視できるのかしら」

鶴乃「愛だよ、って言いたいけどやちよが不純なだけじゃない? 純粋にかわいいと思うけどなぁ」

やちよ「えぇ……そうは思えないわ」

鶴乃「重症だよ」

いろは「何してるんです?」

 リビングのソファで話していた二人の背後から声をかける。
 何をしているのかは見えていたけど、尋ねざるを得なかった。
 ……テーブルの上のタブレット? だっけ。それに私の写真が大きく映っている。――水着姿の。誰でも訊きたくなるだろう。

やちよ「あら環さん。今私の特訓をしていたところよ」

鶴乃「あ、い、いろはちゃん。お邪魔してますっ」

いろは「悪びれないですね……」

やちよ「これは同意の上で撮った写真だもの」

いろは「そうなんですけど……」

 エロ視点で見られるのはなんか嫌です、とは言えない私であった。

鶴乃「……」ソワソワ

 鶴乃ちゃんもすっかり大人しいし……。ああ、これからどうなっちゃうの私たちの関係。……なんだろう。こんな台詞を漫画で見たような。

いろは「えっと、それはいいとして……やちよさん。これから梨花ちゃんが来るらしいんですけど大丈夫ですか?」

やちよ「梨花が? ウワサのことね。静かにしてれば大丈夫よ」

いろは「いいんですか? 暴走が始まったら……」

やちよ「その時は環さんが夜の街に全力疾走すれば平気よ」

いろは「私があんまり平気じゃないですよね」

 でも、私が巻き込まれたことだししょうがないことだよね。

鶴乃「そうなったらわたしの家に避難してきていいからね!」

いろは「う、うん。ありがとう、鶴乃ちゃん」

やちよ「さて……それじゃあ鶴乃、そろそろお開きにしましょう」

鶴乃「うんっ。じゃあねやちよ師匠、いろはちゃん」ババッ

 鶴乃ちゃんは素早く去っていく。
 フットワークの軽さは相変わらず健在だ。

やちよ「……それで、私がいても構わないわよね?」

いろは「はい。どんな話をするか分かりませんけど、特には言ってなかったので」

 印象は少し変わったけど頼もしいのは相変わらず。やちよさんが同じところにいるだけでホッとしてしまう。

いろは「……あ」

やちよ「インターホンね」

いろは「私出てきます」

 ……梨花ちゃん、仲良くなれるといいなぁ。


 ↓1 梨花の好感度判定
 ↓2 れんの好感度判定

綾野 81 恋愛対象
れん 24 ちょっと苦手


↓1 綾野の好感度の理由
↓2 れんの好感度の理由


それぞれ安価出して、再び落ちます

梨花「こんこんっ、いろはちゃん」

れん「こ、こんばんは……。夜遅くにすみません」

 ドアを開けて二人を出迎える。すると私はとても驚いてしまった。
 何故? 梨花ちゃんだけじゃなく、れんちゃんもいるから――ではない。
 二人の好感度が見えたからだ。

 梨花ちゃん、81。
 コメントは『節操ないのかな、あたし』。

 れんちゃん、24。
 『……こんな気持ち、抱くべきじゃないのに』。

 ……ほぼ反対。好感度と共にちらっと見えた一言も気になる。
 れんちゃんとはちょっとした親近感を持っていたから、この好感度は少しショックだけど……梨花ちゃんの好感度もある意味ショックが強い。
 みんなとそう変わらない接し方なのに、こんなに高いなんて。81ってどれくらいの好意なんだろう。

梨花「……そのリアクション、本当に見えちゃってるんだ」

いろは「ふぇあっ!? ――あ、うん」

 いけない。思わずぼんやりしてしまった。二人の頭上を見て固まる私に、二人は察したみたい。バツが悪そうに苦笑している。

梨花「そっか。驚くよね、それは」

 ……綾野梨花ちゃん。
 肩くらいまでの髪を左右でちょこんと結ったツインテールの、一見すると派手めな女の子。
 スリムで女の子らしくて、キラキラしてて、ピチピチのギャル――なんて、本人は言っている。ピチピチは古いらしいけど。
 ほぼ見た目通りに明るくてサバサバしてて、でも時々達観してるような面を見せたり……この子のこと、私はあんまり分かってないのかも。
 苦笑から表情を変え、寂しげな、不安そうな顔をしている彼女が何を思っているのか。好感度を知っていても私には想像がつかない。

れん「……」ギュッ

 五十鈴れんちゃん。
 銀色の髪で常に片目を隠している、大人しそうな女の子。
 普段は物静かで、あまり意見を口にはしない消極的な性格なんだけど、根はびっくりするくらい真っ直ぐで自分の意思を持った優しく強い人だ。
 時々頑固になるのがそっくりだと、やちよさん辺りに言われた記憶がある。
 ……いつもは仲良くしてるつもりなんだけど、今日は警戒してる様子。

いろは「え――と。とりあえず、中に入ろう? やちよさんの許可はもらったから」

梨花「うん。……れんちゃん? 行くよー」

れん「ぁ。うん……」

梨花「……ねぇ、れんちゃん。やっぱりついて来なくても――」

れん「っ! ううん。行く」

梨花「……ん。そっか」

いろは「……」

 ……やっぱり、何かおかしい。
 二人のやり取りはもっとスムーズで、こんな重苦しい空気じゃなかったのに。
 何かあるのかな。よくよく考えたら、梨花ちゃん『聞いた』って言ってたよね。
 多分都さんからだから、別れてから二時間くらいかな……。その間に話を聞いて、私と直接会って話をしようって決めて……。ううぅ、今更ながら怖くなってきた。

梨花「お邪魔しまーす。あ、やちよさん。こんばんは」

れん「お邪魔、します」

やちよ「いらっしゃい。二人がここに来るのは初めてね。好きなところに座って」

梨花「あ、そういえば。今日は夜にごめんなさいっ。ちょっと話したいことがあって」

やちよ「ウワサのことね?」

 家に入り、リビングへ。私とやちよさん。梨花ちゃんとれんちゃん。一つのソファーに二人で座り、話は自然とまっすぐ本題へ。

梨花「うん。好感度測定……だっけ。それから解放されるために、いろはちゃんが色々する予定だって聞いて――」


 ↓1 コンマ末尾が偶数か奇数かで梨花の発言が若干分岐
   偶数ならウワサの詳細を尋ねる
   奇数なら運命の相手立候補


【分岐。梨花、れんのストーリー共に進行】


梨花「……」スーッ

 梨花ちゃんが大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。笑顔を浮かべていた表情はスッと真剣な面持ちに。
 彼女は私を見つめると、そのまま告げた。

梨花「いろはちゃんの運命の相手……立候補してもいい?」

 ……。
 えっ? それってつまり……告白っ?

やちよ「今日来たから、大体は察していたけれど……堂々と言うわね」

いろは「り、梨花ちゃんっ? 急にどうしたの?」

梨花「急じゃないよ、いろはちゃん。聞いてないの? 好感度の理由」

 若干震えている声で梨花ちゃんが言う。
 鶴乃ちゃんはストレートにこっちを好いていてくれて――こう、悪い言い方になっちゃうけど『気軽』な感じがしたけど、梨花ちゃんはなんだろう――すごく真剣で、でも弱々しくて、顔を合わせているこっちが逃げ出したくなっちゃう。

いろは「好感度の理由……聞いてもいいなら」

やちよ「現状把握のためにも、聞いておいたらいいんじゃないかしら」

 そう言って、やちよさんは私の耳元へ顔を近づける。

やちよ「五十鈴さんのものも」ボソッ

いろは「……え?」

 耳打ちの意図が分からずきょとんとする私。けどれんちゃんに視線を向けて、すぐ察してしまった。
 れんちゃん、すごいことになってる……放心とはこのことを言うのか。真顔なんだけど、どこを見てるか分からないというか、マネキンっぽいというか。
 ……梨花ちゃんと仲良しだからなぁ。色々ショックだろう。
 彼女がなんであんな反応をしているのかも分かるかもしれないし、一応見ておこう。

いろは「……」

 私は念じる。すごく怖いけど……でも、何も知らないよりはマシだから。

梨花『はー、困ったなぁ。まさかまた、好きになるのが女の子なんて』

 ……また?

梨花『女の子同士なんて普通じゃないっ、なんて言っておいて一目惚れだもん』

梨花『でもさ、ほんと綺麗。神秘的で優しくて、お人好しで、話してるとどんどん好きになってくのが分かる』

梨花『いっつも困ったみたいな笑顔なのも、すごく気になっちゃって……。はぁ。まずいなぁ……』


 ……と、そこで声は止まった。
 一目惚れ? 私に? 鶴乃ちゃんと同じだけど……やっぱり彼女とは違う。
 梨花ちゃん、前も女の子が好きだったみたいな口振りだったけど……。
 分からないことが増えたような気がするけど、これで少なくとも急じゃないことは分かった。
 次はれんちゃんを見てみよう。

れん『いろはちゃんを見ていると、すごく苦しくなる』

れん『私に似てて……でも彼女は思ったことを素直に口にして、優しくて、みんなから好かれてる』

れん『梨花ちゃんだって、そう。いろはちゃんといる時は私と一緒にいる時と全然ちがう。とても、楽しそう』

れん『……私、あんなにも悪意を嫌っていたのに、今はよく分からない』

れん『人柄を嫌ってもいないのに、こんなに個人を恨めしく思うなんて』

 ……。
 れんちゃん……。うん、彼女の気持ちはちょっと分かる。
 周りに合わせてた私よりも、みんな他の友達とかクラスメイトとかと一緒にいる時の方が楽しそうだった。
 それを見て自分の無力さを感じたり、その人を憎んだり――多分無意識に何度もしたこと。
 れんちゃんの場合はもっと辛いのだろう。大事な友達が自分といるときよりも楽しそうに見えて――あ。
 今は、その大切な人が告白すらしちゃってる。

 ……な、なるほど。
 分かってきちゃった。この場がいかに危ないのか。

いろは「……えっと。聞いたよ、理由」

梨花「う、うん。それで、どう? あたしの提案」

いろは「それって、やっぱり――」

 告白を受けて、解放されるように梨花ちゃんと頑張る。その後も、梨花ちゃんと恋人……ってことだよね。
 ――ここで返事を出しちゃっていいのかな。

 私はもう、何も知らない私じゃない。みんなの知れないような値を知って、理由も聞いて、責任を背負っている。
 答えは慎重に、後悔がないように決めないと……。


1 梨花の提案を受ける
2 一度解散して誰かに相談する
3 答えは先延ばし。時間をもらう
4 解散して、後日れんと話す

 ↓1 いずれか選択
    選択によってはエンディングが近づくけれど……エンディング迎えても、ちょっと前に戻って二周目に入ろうかと


『1を選ぶと、そのまま梨花と恋人関係スタート。選択肢次第が出る限りは可能性は色々あります』

『それと、やろうと思っていた新要素を今まで条件を満たしていたのに見逃していたので、今度条件に触れたらいきなり始まるので察してください』



いろは「……ごめんね。やっぱり簡単には答えられないかな」

 このまま流されて解放への道を目指してもいいかもしれない。梨花ちゃんはいい人だし、彼女が私と恋人になりたいって思ってくれてることは嬉しい。
 でも、今はそれ以上に気にかかることがあった。

れん「……」

 さっきから一言も発しないれんちゃんのことだ。

 このまま放っておくのも危ういし、一回きちんと話しておかないと。

梨花「――ん。だよね。じゃあ今日はもう帰ろっかな。れんちゃん、用事ない?」

れん「ぁ……。うん」

 声をかけられてようやく反応するれんちゃん。梨花ちゃんは彼女の異変に気づいてないみたいで、あっさりとした様子でソファから降りた。

梨花「今日はほんと急にごめんね。どうさしても聞いてほしくて」

やちよ「……えぇ。気持ちはなんとなく分かるわ」

梨花「……。やちよさんも、ありがとうございました。じゃ、おやすみっ。二人とも」

れん「……」ペコッ

 いつも通りの表情を見せて、何もなかったみたいに家から出ていく二人。
 ドアが閉まると重苦しい雰囲気は一気に解放され――


『1を選ぶと、そのまま梨花と恋人関係スタート。選択肢次第が出る限りは可能性は色々あります』

『それと、やろうと思っていた新要素を今まで条件を満たしていたのに見逃していたので、今度条件に触れたらいきなり始まるので察してください』



いろは「……ごめんね。やっぱり簡単には答えられないかな」

 このまま流されて解放への道を目指してもいいかもしれない。梨花ちゃんはいい人だし、彼女が私と恋人になりたいって思ってくれてることは嬉しい。
 でも、今はそれ以上に気にかかることがあった。

れん「……」

 さっきから一言も発しないれんちゃんのことだ。

 このまま放っておくのも危ういし、一回きちんと話しておかないと。

梨花「――ん。だよね。じゃあ今日はもう帰ろっかな。れんちゃん、用事ない?」

れん「ぁ……。うん」

 声をかけられてようやく反応するれんちゃん。梨花ちゃんは彼女の異変に気づいてないみたいで、あっさりとした様子でソファから降りた。

梨花「今日はほんと急にごめんね。どうさしても聞いてほしくて」

やちよ「……えぇ。気持ちはなんとなく分かるわ」

梨花「……。やちよさんも、ありがとうございました。じゃ、おやすみっ。二人とも」

れん「……」ペコッ

 いつも通りの表情を見せて、何もなかったみたいに家から出ていく二人。
 ドアが閉まると重苦しい雰囲気は一気に解放され――

『二重投稿申し訳ないです』




やちよ「……疲れたわね」

いろは「本当に……」

 私達は二人して背もたれにぐったりと寄りかかった。
 悪意なんてないのに、人と人がうまくいかない。そんなことは当たり前だって分かってた筈だけど、こうも見せつけられると気分が落ち込んで仕方がない。
 ……明日も学校。好感度見ながら生活かぁ……大変そう。
 とりあえず、明日の朝にれんちゃんへメールをしようかな。やり方は覚えてるし、多分大丈夫。


 翌日、メールを送ってから学校へ行ってみると意外なことが分かった。
 通学の時から既に気づいていたけど、周りの人の好感度が見えないのだ。関係性がある人だけが見えるらしい。クラスメイトの中にはちらほらと見える人もいた。
 あ。あとそういえば、家に帰ってからご飯食べて、眠って、通学して……当然、あの二人とも顔を合わせたんだけど――


 ↓1 フェリシアの好感度測定
 ↓2 さなの好感度測定 


 フェリシア 90 恋愛対象
 さな    86 恋愛対象

 続けて↓1、↓2でフェリシア、さなの好感度の理由

【最初に土曜の夕方だとか言っていたので明日学校展開は修正。
  みゃーこ先輩に白衣常に着させてたのも修正――クラスのみんなには内緒だよっ☆】



 
 意外と言っちゃうのもあれなんだけど――すごく高かった。
 でも私が意外だなって思っちゃうのも仕方ないと思う。二人とも梨花ちゃんより高かったから。
 フェリシアちゃんが90。さなちゃんが86。
 告白してくる女の子よりも高いって、どうなんだろう……。

 一応二人にも私の事情を話して、二人の好感度を説明したけど――これからお家どうなっちゃうんだろう。
 なんて思っていた私の心配はどこへやら。普通にご飯食べてお風呂入ってテレビ観て、なにもなく一日が終わっちゃった。

 ちなみにやちよさんに言われて好感度の理由も聞いてみた。一人目はフェリシアちゃん。


フェリシア『いろはって最初は困った顔で笑ってる、なんてゆーか偽善者? みたいな感じだって思ったんだよな』

フェリシア『でも馬鹿みたいにオレのこと信じて心配して、叱ったりしてさ。こんなヤツ今までいなかった』

フェリシア『……こいつのお陰で今は一人ぼっちじゃないんだよな。家もできて仲間もできて――全然考えられなかったよな』

フェリシア『何もしてないみたいな態度するけど、あいつが何人助けてきたか。……今度はオレが助けてやりたいな。できれば、あいつのすぐそばで』


 ……なんだろう、この感動。これが母親の気持ちなのかな。フェリシアちゃんが私にこんなこと思ってたなんて。
 っと、つい満足感に浸っちゃった。
 でも良かった。フェリシアちゃん、私とかやちよさん、鶴乃ちゃんが決めたこと喜んでくれてたんだね。
 見た目のこととか、また、その……え、エロいとか言われなくて安心したのは内緒だ。

 で、次はさなちゃん。
 控えめで大人しい彼女が私のことをどう思っているのか。好感度抜きでもちょっと気になっちゃう。

さな『……。いろはさんと一緒にいるとつい意識しちゃう。私のために危険を冒して、探しにきてくれて――私に居場所を与えてくれて。お友達もいっぱいできて』

さな『いつもは綺麗で優しくて、ちょっと頼りない感じだけど、時々凛としてかっこよくて。同じ女の子だけどドキドキしちゃう』

さな『いろはさんは色々な人に好かれてると思うけど――あの人に必要とされた人は何人いるのかな』

さな『いろはさんに直接必要に……。ひ、必要としてくれるってそういうことですよね?』

さな『……いつでもいいように身体は綺麗にしておかないと。――ぁ、べ、勉強もがんばろう。やちよさんに聞いてみようかな』

 何故か私が告白というか、身体を求めた人的なニュアンスで評されていた。
 これ、私が一緒に寝ようかなんて言ったら頷いちゃうんじゃ……。そ、そんなつもりはないけどねっ?

 二人とも梨花ちゃん超えなのは納得できちゃう理由であった。
 この理由を二人に話しても特にはリアクションがなかったのが今となっては怖い。
 やちよさんは自分みたいな理由の子がいなくて落胆したり、さなちゃんの理由の最後の部分を話したら優雅に逃亡したりしたのに。ちょっと赤くなっただけだもんね……。


 ――さて。
 学校へ来た私は校舎裏、人気の少ないベンチへと向かっていた。朝、れんちゃんをメールで呼び出した場所である。
 校舎裏で屋外なのは暴走の可能性を恐れて。人前でいきなり変身して暴れだしたら大変なことになっちゃうからね。
 他にもいい場所があるんだろうけど……やっぱり学校が話しやすいと思った。
 れんちゃんと私はおなじ学校だし、私服でどっか別の場所で話すよりも緊張しないでいいだろう。れんちゃんも私も。

れん「……あ」

いろは「おはよう、れんちゃん」

 何をどう話そうか。頭を悩ませているとすぐ目的地へ到着した。
 ちょっと薄暗い校舎裏。ベンチにちょこんと座っているのは私と同じ、制服姿のれんちゃん。返信してくれた通りちゃんと来てくれたみたいだ。
 うう……あの好感度が見える。下がってないのが不思議だけど、昨日のことは梨花ちゃんの独断って割り切ってくれてるのかな。

れん「――その、おはようございます。いろはちゃん」

いろは「うん。えっとそれで……」

れん「……」ジー

いろは「……」

 れんちゃんの隣に座る。
 自然と私はその間話を途切れさせてしまい、沈黙が。
 ……そうだ。れんちゃんは私と同じであんまり会話とか苦手なんだった。
 やちよさんとかは「『それで』、話って?」みたいに繋いでくれるからつい。
 ここは私が私で話題を提供しないと。

いろは「えっとね――」


 1 昨日の告白について思ったことを語る
 2 これから遊びに行こうと誘う
 3 れんの気持ちを尋ねる
 4 れんの好感度の理由を聞いたことについて語る

 ↓1



【平日の日常にネジ集めとイベント周回、ミラーズと忙しすぎて更新遅れて申し訳ないっす】

『またミスしました。通学展開修正すると言ったのに、地の文で語らないミスを。>>1の通り土曜日のその翌日、日曜日として再開しております。本当に申し訳ないです』


 ……休日、日曜日の朝。部活動くらいしか学校で活動していないようなお昼ちょっと前に呼び出したのは理由がある。
 お話をするのは勿論、私はれんちゃんと――

いろは「これから遊びに行かない?」

れん「えっ……?」

 遊びに行こうと思っていたのだ。
 ……よくよく考えれば、れんちゃんと私は間に人が入ってることが多くて、二人きりになったことが少なかったような気がするから。
 お互いのことを知らなければ、苦手意識を持っちゃうのは当然。昨日、あの場であんなリアクションをしていたのだ。梨花ちゃんへの返事を考えるなら、彼女のことも知っておかないといけないだろう。
 少なくとも私はそう思ったのだけれど……。

れん「……なんで、ですか?」

 れんちゃんは違うみたいだ。戸惑った様子で私を見、口数少なく問いかける。
 当然の反応だ。梨花ちゃんのことが好きならあの場で梨花ちゃんの告白を受けるべきだし、意識してないなら昨日断って係わらなければいい。
 私がしていることは中途半端で理解し難いことだろう。


 でも、ウワサで知ってしまった以上、私は中途半端にならざるを得ない。極端な決断はそれこそ破滅を導くのだから。

いろは「……昨日のこと、判断する材料が色々欲しいから。混乱しちゃってて、まともに答えが出せそうにないし」

 ……嘘半分に本音が半分。頭は落ち着いてるけど答えが出せない。男の子の知り合いが少ないのもそうだけど、今のところ好感度が表示されるのは女の子のみ。
 梨花ちゃんや鶴乃ちゃんと深い仲になろうと口にするのは簡単だろうけど……でも、それが正しいのか分からない。
 だからこそ私は選んだ。答えを先延ばしにして人の気持ちを理解しようとすることを。

 自分がこれから、女の子を運命の相手にするとするなら――周りのフォローも考えないと。

 ……女の子同士ってどうなんだろう、って気持ちもあるし。

 そしてなにより、れんちゃんがどう思っているのか、どうしたいのかが知りたい。梨花ちゃんのことが好きなら、私はそれ相応の責任感を持つべきだから。

れん「昨日の……そう、ですか」

 ……まずい。
 なんとなく空気が重くなるのを察する私。お出かけに誘うのは悪くなかったけど……それ以前に、もっと悪いことを選択していたのかもしれない。

いろは「――さ、さぁっ、出かけよう?」

 このままじゃいつ暴走してもおかしくはない。
 私は強引にれんちゃんの手を引く。れんちゃんは驚いたのか目を見開いて、何かを言いかけたみたいに口を一回開いたけど、すぐに閉じてしまう。
 出かけることに抵抗はないみたい。手を引く私にれんちゃんは黙ってついてきてくれる。

いろは「……」

 ――よし、と。ここまでは順調かな。
 手応えを感じる私。けどここで、私の頭の中に一つの疑問が浮かび上がった。
 鶴乃ちゃんに梨花ちゃん、フェリシアちゃん、さなちゃん……私に好意を持ってくれてる人達だけじゃない。好感度が低い人達と仲良くなろうとして、その人たちのことを知ろうとして――私自身はどうしたいんだろう?

 結局は八方美人で丸くおさめたいだけじゃないのかな。
 変わりたくないだけなのかもしれない。

 答えの出ない問いから逃げるように、私は足早に学校の外を目指した。


 ○


 家から出て少し歩いて、待ち合わせ場所に。
 彼女は今朝、呼び出された先に向かうとそこには小さな少女が気難しそうな顔をしてテーブルの席に座っていた。

梨花「……。みゃこ先輩、おはーっ」

ひなの「梨花。早かったな」

 休日にも関わらず、喫茶店のテラス席にいる少女――ひなのは制服姿。余りに余った袖越しに器用にコップを持ち、物音一つなくテーブルに置いてみせる。
 気さくな挨拶の前に一呼吸置いた彼女は、気づいていた。ひなのの表情がいつもより真剣なことに。
 真面目な話なのだろう。待ち合わせに五分ほど遅れたというのに、遅いと責める気配もない。

梨花「でさ、なんの用? いきなり朝から呼び出しなんて」

ひなの「わかってるだろ?」ジトー

梨花「……うっ」

 たった一言。それだけで、ひなのの向かい側に座った彼女はギクリと動きを止めた。どうやら思い当たることがあるらしい。
 さながら悪いことをした子供が、それを親へ打ち明けるように彼女は恐る恐る口にする。

梨花「……ウワサのこと?」

ひなの「……」コクリ

梨花「やっぱお見通しかぁー」

 テーブルに突っ伏す彼女。むっつり頷いたひなのは深くため息を吐いた。

ひなの「誰だって分かるだろ。話終わった途端一方的に挨拶してぶつ切りだからな」

梨花「あはは……だよねー」

 昨晩の電話の件だろう。確かに、話を聞いた直後に電話を切られれば嫌な予感がするもの。事実、彼女はいろはへ会いに行っていた。

ひなの「それで、いろはに会いに行って何したんだ? ウワサを自分に移してほしい、とかか?」

梨花「えっ? あー、うーん……」

 ただし、会いに向かってそれから何をしたかまでは予想できなかったらしい。
 顔を上げた彼女は曖昧に言葉を濁し、髪を指先でいじる。ほんのりと赤くなりながら。

ひなの「その反応ってことは……他の何かか」

梨花「う、うん……その、ね? みゃこ先輩。引くかもしれないけど」

ひなの「……なんだ? いいから言ってみろ」

梨花「――告白したの」

ひなの「ん、なるほど。告白――はっ?」

 こくこくと頷いていたひなのだが、言葉の意味を理解した瞬間固まってしまう。告白。その言葉が何を意味するかは目の前の彼女の表情を見ていれば誰でも分かる。そして、向かった先から対象が同性であることも。

ひなの「ま、マジか……」

梨花「うん。いろはちゃんのこと好きだったから」

ひなの「そうなのか……気付かなかった」

 彼女の過去を知るひなの。最初こそ驚いたものの、彼女の気持ちを考えればその行動は仕方ないもの。すぐに冷静さを取り戻す。
 そして落ち着いた頭が、何かを思い出したようだ。ひなのは何かしらに気づいたように目を少し大きく開いた。


ひなの「……昨日電話したとき、れんも居たよな?」

梨花「えっ? うん。告白の時もいたけど」

 五十鈴れん。梨花と親しく、ひなの自身も梨花が連れてきたのをきっかけに何度か会話したことのある友人である。
 れんが電話の会話を聞いて、尚且つ梨花の行動を目にすればどうなるか……恋愛云々は置いといて、親友が同性に告白しはじめれば衝撃を受けるのはまず間違いない。

ひなの「……そうか」

 彼女はれんの気持ちに気づいているのかいないのか。一度、怒りからかムッとした表情になるものの……ひなのは怒鳴ったりはせず静かに息を吐く。

ひなの「もう嫌だろうな、順番待ちを見てるのは」

 自分は追い越されるだけ、順番か来ない列を親しい距離で見てるだけ。幸せそうにしている好きな人を見てるだけ。
 彼女は元々デリカシーがない女性ではない。昨日の一件は気が回らないだけ必死だったのだ。
 ひなのもそれは察しがついたようだ。

梨花「……うん。だからさ、今度は遠慮なく前に出ることに決めたの。普通じゃないからなんだ、ってね。結局保留にされちゃったけど、好きになってもらうために頑張る!」

ひなの「――分かった。本気ならいいんだ」

 開き直って前へ。成長を感じさせる彼女の表情に、ひなのは頷いた。

ひなの(不安も怖さもあっただろうに、一人で決断して行動して……)

ひなの(悪い、れん。とても叱る気になれないな)

 心の中で、一言謝る。
 ウワサきっかけではあるが、叶うはずないと諦めていた彼女が目標へ進み出した。その出鼻をくじくようなことは誰でもしたくはないだろう。

ひなの(しかし、皮肉なもんだ。梨花がある意味逆の立場に立つことになるなんてな……)

ひなの(れん、何もないといいが)

 キラキラと輝く目の彼女を前に、ひなのは遠い目をして考えた。


 ○


みたま「……で、なんで調整屋さんに来たのかしら?」

みたま「いやまぁ、私は嬉しいけれど……何もないわよ?」

いろは「あはは……つい無意識に。不甲斐ないです」

 れんちゃんと学校から外に出てちょっと。
 行き先に頭を悩ませて歩いていると、私は自然と調整屋さんへと辿り着いていた。だったらついでにと調整やメモリアのあれこれを見ようという話になったんだけど……。

  ↓1 みたまの好感度判定


 みたま 好感度48 普通のお友達レベル


 ……あ、みたまさんは普通くらいだ。
 嫌われてなくて良かった。色々お世話になる人だから。

いろは「ちょっと困っちゃってるのかも。私から誘ったんですけど、れんちゃんの好きなものってよく分からないから」

みたま「なるほどねぇ。梨花ちゃんはどう?」

いろは「どうって言われても……」

みたま「ふふ、冗談冗談。そうねぇ、なにかいいものがあるかしら……」

 そう言って、みたまさんはごそごそと棚の中を漁りはじめる。チラッと見てみればれんちゃんは遠くの方に座って、飲み物を飲んでいた。
 いいもの、ってなんだろう。

 ↓1 みたまの好感度の理由


 ↓2 調整屋さんのアドバイス判定

 コンマで判定
 01から20 何もなかった
 21から50 水族館の割引券発見
 51から70 動物園の広告
 71から90 ???来訪
 91から99、00、またはゾロ目 このメモリアでメロメロよ



 『今回はここまでで』
 


いろは「……」

 聞いておこう。みたまさんが何かを探している後ろ姿を眺めつつ、私は彼女の好感度の理由を聞くことにする。
 勝手に聞くのもどうかと思ったけど、開放のため。できるだけ情報は多い方がいい。好感度が高い人が運命の相手とは限らないから。

みたま『面白そうな子よねぇ、いろはちゃんって』

みたま『彼女がやって来てから神浜は劇的に変わりはじめたし……ちょっと期待しちゃうわ』

みたま『色々面白いものを見せてくれそうで、仲良くしてても損はなさそうね。ふふっ』

 うんうん、この好感度ならそういう理由だよね。友達……くらいには思われてるのかな?

みたま「――ごめんね、何もなかったわ」

いろは「ふえっ? ――あ、はいっ。謝ることなんて全然っ」

みたま「……? まぁ、何も案は出せないけれど、やっぱりお出かけなら食事とか映画とか、公園とか――多分、れんちゃんならなんでも喜んでくれそうだと思うわ」

いろは「そう……ですよね」

 それが嫌ってる相手とじゃないなら、そうなんだろうなぁとは思うけど。れんちゃん良い子だし。

みたま「だから放っておいて私とお話しちゃダメよ? 相談は嬉しいけど。頑張ってきてね」

いろは「はい、ありがとうございました」 

 話は終わり。そう言うように笑顔で私の頭の上に手を置くみたまさん。……そうだよね。ぼんやり調整屋さんに来てるようじゃ、誘ったのに失礼だよね。
 真面目に、れんちゃんのことを知れるように何か考えないと。――どうしようかな?


 1 喫茶店へ
 2 ゲームセンターへ
 3 雑貨屋へ

 ↓1 行き先選択 コンマ50以上で……


 コンマ50以上なので、追加で安価

 ↓1  お出かけ中遭遇する魔法少女を一人指名
      今まで出た子でもそうでなくても。初登場のキャラなら好感度判定も同時に行われます


 明日香 好感度 39 ちょっと苦手


 調整屋さんから出て、私は雑貨屋へと向かうことにした。れんちゃんの趣味がどんなものかよく分からないし、食事には早いし、これが最善だろう。

いろは「連れ回しちゃってごめんね? 行きたいところとかあったらすぐ言ってね」

れん「……は、はい」コクン

れん「……」

 街中を歩きながら声をかけるけど、やっぱり彼女は黙ってしまう。何か言いたげにも見えるのに、どうしたんだろう。

いろは「あ、ほらここ。最近友達に教えてもらったんだ」

 雑貨屋に到着。まるで童話に出てくるような洋風な建物で、外から見ても可愛らしいお店である。
 お洒落なものが色々売ってて、見てるだけでも楽しいんだよね。

れん「かわいいお店、です。はい」

いろは「だよね。良かった。中、見ていこうか」

 ドアを開いて店内へ。するとところ狭しと並べられた商品が目に入る。様々なジャンルのものが店内いっぱいに広がっている様子は、まさに雑貨屋さんという感じ。
 落ち着いた雰囲気の店内に、きちんと並べられている数多くの商品。ちょっとした博物館とか展示会みたいだ。


いろは「今日は何見ようかな……あっ、そうだ」

れん「?」キョトン

いろは「ちょっと欲しいものがあったんだ。いいかな?」

れん「はい。大丈夫、です」

 いつもよりゆったりと、棚を眺めながら歩く。そうして、文具のコーナーにやって来ると私は目についたそれを手にしてみる。

いろは「れんちゃんって何色が好き?」

れん「何色、ですか?」

いろは「うん。せっかくだからお揃いのペンとか買いたいなぁと思って」

れん「……っ」

 言って、私が手にしたボールペンを見せるとれんちゃんはちょっと辛そうな表情をする。
 あ、あれっ? 何かやっちゃった?
 笑顔のまま背筋を凍らせる私。すると少し時間を空けて、れんちゃんが口を開いた。

れん「なんで、ですか?」

 なんで? それは……

 1 「仲良くなりたいから」
 2 「何もしなかったから」

 ↓1

いろは「仲良くなりたいから」

 ……れんちゃんと仲良くなりたい。それが一番大きな理由だ。
 昨晩、知っておきながら何もしなかったから――っていうお詫びの意味もあるけど……でも、本当に私は彼女と仲良くなりたいのだ。

れん「……どうして。聞いたんですよね?」

 私が答えると、れんちゃんは今まで黙ってたのが嘘みたいに質問を続けた。朝に会った時から――いや、メールが来た時から抱いていた疑問なのかもしれない。
 自分のことを苦手に思ってる相手を、その心境を耳にしたというのに誘って、仲良くなりたいだなんて断言するなんて。

いろは「うん。……でもね、思うんだ。お互い嫌ってないのに苦手意識とか友達のことで離れて、傷ついて――なんか、もったいないなって」

 人柄を嫌ってもいない、ってれんちゃんは好感度の理由で言っていた。私もそう。だったら、梨花ちゃんのことでお互い気まずくなったけど、もっと仲良くなれるはず。

いろは「それに、れんちゃんがいい人だって知ってるから。友達でいたくて」

れん「……」

 ……すごく恥ずかしいことを言ったかもしれない。でもこれは紛れもない本心だから――少しは、伝わってくれると嬉しいかな。


 ↓1 好感度プラス判定 今回は試験的にコンマ二桁分を普通にプラス


『寝落ちます』

 24 + 90 = 114

 ということで、続きはまだですが新たな好感度理由を↓1で

いろは「……はっ?」

 期待を込めてれんちゃんを見ていると、それは起こった。
 れんちゃんの頭上に見えていた数字が突如輝いて――数値が変わったのだ。
 つまり、好感度が変わった。
 加えて彼女の新たな好感度の近くにはまた一言コーナーが。

 えっと、好感度……114!?
 一言コーナーもそれっぽい感じに……。ど、どうして?

『あら、初めてね。遅かったじゃない』

 戸惑う私の頭に響く声。女の子の姿をしたウワサの声だ。楽しそうに笑みを零している。

『あなたの対応によって好感度が変わる……当たり前のこと。驚くものでもないわ』

 それはそうだけど、これって上がりすぎじゃ……。心を操ったり――

『しないから安心なさい。全てが真実よ』

 ……。信じていいのかな。
 ――けど、今までもなんだかんだと嘘はなかったしそこまでおかしな心変わりもない。
 苦手から恋愛感情くらいにレベルアップ――女の子同士じゃなかったら少しは信用できたのに。

いろは「……」

 小さく息を吐き、私は再びれんちゃんの頭の上を見る。今度は好感度が上がった理由を聞いてみよう。これで不自然じゃなかったら、認めるしかないだろう。

『いろはちゃん……私に気を遣ってくれて、それだけでも申し訳なかったのに』

『面と向かって仲良くなりたいだなんて、私には言えない』

『……やっと分かったような気がする。私はこの真っ直ぐさに憧れていたのかもしれない。控えめだけど自分をしっかり持ってて、素直に気持ちを伝えてくれる』

『梨花ちゃんがいろはちゃんを好きなのも今なら分かる。私も今、いろはちゃんを見てると女の子同士なのにドキドキしちゃうから』

『見た目も心も綺麗で、それに……さっき、すごくかっこよくて。こんなこと思ったの初めて――かも』


 ……。
 ど、どうしよう。筋は通ってるけど、到底信じられないというか……。

いろは「……」ウーム

れん「……聞こえ、ました?」

いろは「えっ!?」

 真実か嘘か。頭を悩ませていると、れんちゃんから先に口を開いた。
 ……そうだ。彼女は事情を知ってる子。ぼんやり頭上を見て悩んでいては丸分かりだろう。こうなったら誤魔化せないよね。

いろは「……うん。ちょっとびっくりしたけど、嬉しいかな。私のこと好いてくれて」

れん「そ、そう、ですか……」

 顔を赤くさせて、あたふたした様子で前髪に触れるれんちゃん。いつもより落ち着きがなく、時折少しだけだけど悲しげな顔をする。
 梨花ちゃんのことが気にかかっているのかもしれない。梨花ちゃんが先に私へ告白したのだから。

れん「こんな、形ですけど……本当です……はい」

いろは「う、うん」

 ……うぅ、この面と向かっての告白は中々慣れないなぁ。複雑を通り越して歪な状況が出来上がり始めてるのに、どこか浮ついたような気持ちになってしまう。

いろは「その……私は――」

 ひとまず先延ばしにしてもらおう。判断するにはまだまだ整理が必要だ。
 そう思い口を開いた私はれんちゃんの後ろ、棚の後ろからひょっこり顔を出している人物に気づいた。39という数字が嫌でも目についてしまう。……そう。知り合いの魔法少女だ。

 学校が休みなのにきっちり制服を着ていて……流石お嬢様な学校なだけはあるなんて感心してしまう。驚いた私は、無意識に彼女の好感度の理由を聞こうと思ってしまうのだけど……


↓1 ロマンチック気味な二人の光景を目撃した明日香の好感度 39(ちょっと苦手)の理由

【アリナ先輩引けなくて破産しかねないから離れてたの。遅れてしまって、めんご!】



明日香『いろはさん……最近ご一緒に戦うことが多い魔法少女ですね。他の方たちとも仲良くて――

明日香『優しくてとても良い方なのですが……少し苦手な点が』

 あれ? 私、彼女――明日香さんの理由聞こうとしちゃってた?
 頭に響いてくる声に驚く私だけど、もうこうなったら止める術が分からない。せめてしっかり聞こう。好感度的には苦手に思われてるんだろうけれど。
 でも明日香さんに何で嫌われちゃってるのかな? 明日香さんいい人で行動力もあって、私結構好きなのに。

明日香『私の……』

 ……私の?

明日香『私の持ちネ――自害しますを本気で怒ってくるところが申し訳なくて申し訳なくて……っ!』

 な、なるほど……。確かに何回か怒ったような……? というか持ちネタとか言いかけなかった?


 ~回想~


 私が最初に怒っちゃった時。それは確か、明日香さんとささらさんの二人とも協力関係を結んだちょっと後だったような。

 公園でたまたま見つけた結界の中に入り、その中で既に戦っていた二人と協力をして使い魔を討伐。結界が消えた直後のことだ。

いろは「――ふぅ。終わりましたね。何もなくて良かったぁ」

ささら「おつかれ、いろはちゃん。怪我は大丈夫?」

いろは「は、はい。少し痛みますけど大丈夫です。それより明日香さん、さっきはすみま――」

明日香「いろはさん!」ガバーッ

いろは「え? あ、明日香さん!? どうしたんですか、土下座して……」

 魔女は倒していないものの、あの結界内の使い魔は全て倒した。これで被害者は少なくとも減るだろうと安堵した刹那に、明日香さんがスライディング気味に土下座してきた。
 戸惑う私へ、明日香さんは潤んだ目で顔を上げ、
 
明日香「先程は攻撃の軌道に入ってしまい、すみません! そのせいでお二人に怪我を――」

いろは「あ、あはは。大袈裟ですよ。私の方こそ明日香さんの背中に思い切り撃ち込んじゃいましたし……すみません」

 実際、あれは私の愚策だった。あそこで撃って、当たっていれば何事もなく終わっていたのだけどリスクが大きすぎた。
 前に出ていた明日香さんのすぐ近くの敵へ援護射撃。明日香さんから私やささらさんへ攻撃対象が移る前に討伐。
 選択肢には入る高リターンな作戦ではあったものの、それは失敗するであろう難易度を度外視した決断で。
 結果、撃った瞬間に横へ移動し射線へ入ってしまった明日香さんの背中に矢がクリーンヒット。刺さるものではなく炸裂するタイプだったから重傷にはなり難いけど、多分すごく痛かっただろう。
 悶絶する明日香さんを飛び越え、使い魔は私やささらさんの元へ。そして乱戦。なんとか乗り越えて現在、というわけだ。
 明らかに格下だったからよかったけど、これがもっと強い敵だったらどうなるか。前衛中衛後衛ごちゃまぜの乱戦がどれだけ危険なことか。

明日香「いえ! あそこで私が怯まず、敵を押さえていれば……」

いろは「いや、それは流石に……全力で撃っちゃいましたから」

明日香「ですが不用意に動いたのは私です! 少なくとも私が動かずに、後ろのいろはさんを気にしていればこんなことには」

いろは「だ、だからっ。掛け声もなしに危ないところに撃っちゃった私の方が悪」

明日香「ですから、責任をとって自害します!」

いろは「い――えっ!?」

 急に立ち上がり、明日香さんがそんなことを大声で宣言する。自害。自分で自分を殺めること。
 私が全体的に悪いのにそれを責めず、自分が悪いと思い込み自害すらしようとする。この時、付き合いの浅かった私は明日香さんが思い込みで突っ走って、責任感の強さ故に口癖的に自害するという言葉を使うことを全く知らなかった。
 だからここで宥めて私も悪いのだとしっかり言い聞かせてあげれば良かったんだけど……。

いろは「や、やめてください! どうしてそんなことするんですか! 悪いのは私なのに!」

 ――怒っちゃった。
 私が悪いって言ってて、謝ろうとしても聞いてくれなくて、果ては自害するなんて言い出すから、すごく惨めな気分になっちゃって。
 明日香さんにそんな気はないのは分かるけど、失敗したことを遠回しに強調する皮肉みたいにも聞こえて。

 振り返ると、大人げなかったなぁと思う。

明日香「で、ですが、私が未熟なせいで……」

いろは「それ以上に私が未熟で、判断ミスしたんです! 迷惑かけたのは私なんです! だから自害なんてしないでください!」

明日香「うぅ……ですけど」

いろは「い い ん で す ! 迷惑かけてごめんなさい!」

明日香「ひっ。いえ……こちらこそ……」

ささら「なにこれ……」

 謝る側が怒って、謝られる側が縮こまる。奇妙な光景にささらさんが苦笑した。


明日香「で、ですが、私が未熟なせいで……」

いろは「それ以上に私が未熟で、判断ミスしたんです! 迷惑かけたのは私なんです! だから自害なんてしないでください!」

明日香「うぅ……ですけど」

いろは「い い ん で す ! 迷惑かけてごめんなさい!」

明日香「ひっ。いえ……こちらこそ……」

ささら「なにこれ……」

 謝る側が怒って、謝られる側が縮こまる。奇妙な光景にささらさんが苦笑した。


 と、いうのが一回目。
 普段なら軽めに宥めても止まるんだけど、命がかかっていた場面。明日香さんも引き下がらなくて、私も私が悪いと思っていて。結果、すごく揉めちゃった。
 あの後も何回かこういうことがあって……。


明日香「じ、自害しますー!」

いろは「あ、あの自害は止め――」

明日香「私の失態の責任を取りま」

いろは「やめてくださいって言ってるでしょ!? どうしてそんなこと言うんですか!」クワッ

明日香「ひぇっ!? ご、ごめんなさい!」

 ――とか。つい自害っていう言葉に反応して真面目に叱りつけちゃうから、あの明日香さんが怯え気味である。
 でもやっぱり、自害とか言ってほしくないよね……。

 ……と。こんな感じで回想終わり。
 好感度の理由も納得だ。あんな理不尽に怒られて、申し訳ないなんて思ってくれる辺り明日香さんの人柄の良さが窺える。

明日香「じー……」

いろは「あ、あの……明日香さん?」

明日香「はっ!? 気付かれた!?」

 好感度がチラついて、れんちゃんと話している気にはなれなかった。このまま私とれんちゃんが好きだとか嫌いだとか好感度だとか話していたら、またすごく誤解されそうだし……。

いろは「えっと、ごめんなさい。お店の中でこんな目立つこと……」

明日香「ぁ、いえっ! つい見てしまったのは私ですから! お二人の邪魔をしてしまって、この責任は――」

いろは「……」ニコッ

明日香「な、なんでもありません!」

 ……まだ怖がられていそう。
 つい自然に笑顔で威圧しちゃった私も私だけど。

れん「……」

 さてどうしよう。そんなことをのんびり考えながら明日香さんから、れんちゃんへ視線を移す。
 れんちゃんは――


↓1 コンマ判定
  01~40 のほほん
  41~80 やや嫉妬
  81~100 暴走?

文章ダブった部分が……申し訳ないです
コンマはここから↓1で


 86 暴走
 【れんちゃんストーリー進行】


れん「……」

 ――あ、あれっ?
 さっきまでなんともなかったのに何故だかすごく暗い雰囲気。
 ジーッと私のことを見つめて微動だにしない。

いろは「れ、れんちゃん? どうしたの?」

れん「……いろはさん。告白した、私のこと放って置いて……どうしてですか?」ガシッ

いろは「ふぁっ!?」

 なにやら不穏な空気を感じとった私。様子を窺うように声をかけると、彼女の腕が私の肩に伸びてきた。
 片手で右肩を信じられないほどの力で握る彼女。
 まるで幽霊みたいな重たいトーンでれんちゃんは囁き、光のない目を向けてゆっくり顔を近づけてくる。
 こ、怖い……。実際悪いの私だから否定できないし。

いろは「ごめんなさい! でもお店の中だし、明日香さん見てたし……」

れん「また、他の女の人の話……。そういうのダメ、だと思います……はい」ギュウウ

いろは「え、うん気をつけ――ぁイタたたたた!」

 肩にかかる力が強まる。制服に皺が、と思ったのは一瞬のことで、すぐ痛みと恐怖で頭の外へ吹っ飛んだ。片手なのにまるで振り払える気がしない。

明日香「れんさんっ、いろはさんっ!」

いろは「あ、明日香さん……」

 確実によからぬことが起きそうになっている。急な危機に目を白黒させていると、唖然としていた明日香さんが意を決した様子で口を開く。
 そ、そうだ。明日香さんもいたんだ。助けてくれそうだし頼りになるけど……好感度39。前に助けてくれたレナちゃんがももこさんに釣られるように暴走してたし、頼っていいのか微妙な線だ。
 でも一人じゃ逃げられそうにない。それに明日香さんなら、という気持ちもあった。誰よりも真っ直ぐで誠実であろうとする彼女ならば、私のことも好感度関係なく助けてく――

明日香「ふ、ふしだらな行為は店外でお願いします!」

いろは「これのどこがそう見えるんですかっ!?」

 ――そうだった。明日香さん、かなりそそっかしいんだった。
 頬を赤らめて叫ぶ明日香さんへ、私は必死に突っ込んだ。

れん「これから……そうなり、ます。はい」

 れんちゃんはれんちゃんですごいこと言ってる!
 なのにドキドキどころかメキメキ言いかねない握力を私に込めてくるのはどうなのだろう。
 言動はともかく行動は暴走していると見て間違いない。前は低い好感度の二人に殺されかけたけど、今は高好感度のれんちゃんに拘束されてしまっている。
 ウワサの説明から考えて……ど、どうしよう。明日香さんの言うようなピンク色なことになるか、愛しさ余って憎さ百倍みたいな血みどろ展開しか想像できない。
 で、現在はれんちゃんの言動から前者の可能性が高くて、行動は後者。どちらに転ぶにせよ私には損しかないし、ここは逃げたい……。


いろは「れ、れんちゃん、痛いからっ。正気に戻って?」

れん「……」ジー

 明日香さんの言葉に反応するなら、私の言うことを聞き入れてくれるかもしれない。一縷の望みをかけて再度訴えかけると、れんちゃんが私のことを見つめてずいっと顔を近づけてきた。
 腕の力が弱まってホッと安堵する暇もない。れんちゃんの整った顔立ちが息がかかりそうな距離に。驚いて後退りしそうになる私を、彼女は更に一歩前へ出て抱き締める。
 両肩ではなく今度は身体を拘束。痛くはないしふわふわと柔らかくて、いい匂いがして無性に落ち着いてしまう自分がいるけど――

れん「いろはさん……」サワッ

いろは「ひっ……!?」ビクッ

 お、お尻触られるのはちょっと……。
 感じたことのない感覚に戸惑い、驚きの声を短く上げる私。れんちゃんはそんな私の顔を間近で眺め、ちょっと嬉しそうなご様子。
 自分では嫌がってるつもりだけど、その様子が良かったり……?

 って、そんなこと考えてる場合じゃない! れんちゃんのためにも早く離れないと!

いろは「れんちゃ、ん――ちょっと、くすぐったいから止め」

れん「……かわいい、です。いろはさん。はい」

いろは「んんっ、耳元で囁かないで……っ」

れん「いろはさんも……満更で」

明日香「た、たあああ!」ブンッ

れん「はぶっ!?」ドンガラガッシャーン

 いきなりの大きな音と衝撃。身体の拘束が解けた私はその場にへたりこんだ。

いろは「……あ、ありがとうございます明日香さん」

明日香「へっ!? ああっ!? わ、私、れんさんの行動につい! 申し訳ありません!」

 よっぽど見てられなかったのだろう。顔を真っ赤に赤面させた明日香さんが魔法少女の姿を解除。目を回して倒れたれんちゃんにぺこぺこと頭を下げている。
 あ、危なかったぁ……。あのまま流されちゃいそうだったよ……。
 ……私、女の子に興味あるのかな。

 一度深呼吸。落ち着いて周囲を見ると、周囲がちょっと明るくなったような気が。結界が広がっていたみたいで、周りのお客さんは全然こちらを気にしていない。長物で女の子がぶっ叩かれて昏倒したのに。
 良かった。一連のれんちゃんの奇行が公にならなくて。

いろは「明日香さん」

明日香「は、はいっ! この責任は――」

いろは「だ、大丈夫です! 私もれんちゃんも感謝してますから」

明日香「様子がおかしかったのは、分かりましたけど……いきなり頭を殴りつけられて、ですか?」

いろは「あはは、そこは色々と事情があって……」

 まあ頭を叩いて叩かれた本人から感謝されるのは奇妙でしかないよね。奇妙でしかないけど、れんちゃん絶対安心してると思う。普段の彼女からしたら恥ずかしいだろうし。満更でもじゃない、とか言ってお尻撫で回すなんて。おじさんじみてる。

いろは「後で説明しますから、れんちゃん頼んでも大丈夫ですか?」

明日香「は、はぁ。ご迷惑をおかけしましたし、勿論。ですがいろはさんはどこかへ?」

いろは「これもまた事情の一つなんですけど、れんちゃんの暴走は私が近くにいるから起きたんです。だから一旦離れておこうかなと思って」

明日香「……大変そうですね」

いろは「はい……すごく……」

 苦笑する明日香さんへ、私は肩を落として頷いた。
 大変だけど、自分が原因で巻き込まれたこと。今はとにかく落ち着くまで距離をとらないと。
 明日香さんがれんちゃんを抱える。それを手伝う最中、私はふと思い出した。

いろは「……お揃いのペン」

 それどろじゃなくなっちゃって、すっかり忘れてた。お詫びの意味も込めて買っておこうかな。

明日香「では、私は近くのベンチに連れて――」

いろは「明日香さん、ちょっと待っててください」

 言って、私はボールペンを二本手に取ると小走りでレジへと向かった。


 高い好感度の暴走。
 同性の友達に身体を触られて、その先も――なんてことも起こりうるのに、嫌だという気持ちはなかった。
 むしろあの時、私はドキドキしちゃって……私もれんちゃんが好きってことなのかな?
 もう一回、ちゃんと考えておかないと。



【遅れました。メインのストーリーか進んで、いつの間にか呼称が変わってたりするやも】




↓1 店を出たいろはが会った魔法少女(登場済の子でも、そうでない子でも)


 【申し訳ないですが、ルールを変えておきます。他原作とのコラボキャラはあまり知識がなく、うまく書けないと思うので再安価でお願いします

 今回はマギレコのオリジナル魔法少女と、まどかマギカの魔法少女で書いていこうかと。後出しで申し訳ないです】

 ↓1 人物指定再安価です


【では、かりんとアリナで行きます】


いろは「……ふぅ。何も起こらなくてよかった」

 ペンを買って、それを明日香さんに預けた私はお店を出て、ひとまず家へ帰ることにする。今日は休日だし疲れることだらけだし、休んでおきたかった。

いろは「部屋でごろごろしたい……」

 嗚呼、ベッドが私を待っている……。

???「アーリーナーせーんーぱーい!」

???「――だから、シャラップって言ってるのが聞こえないワケ?」

いろは「ア、アリナ……?」

 まさか。
 突然お店の横辺りから聞こえてきた声と、覚えのある口調に私はピクッと反応する。
 見れば店の横、裏路地へと入る道へ続く曲がり角からどこかの制服らしいものを着た女の子の姿がチラチラと見えていた。
 あれは……どこの学校なんだろう? 見たことがあるような。

いろは「……いや、それよりも……」

 制服よりも、問題はあの長い黄緑色の髪。
 ……強く記憶に刻み込まれているからか、見た瞬間間違いないと本能的に確信を得た。
 怖い。怖いけど、人前。堂々と襲ってくることはない――よね?
 ちょこちょこと足を進め、遠回りめに路地が見える位置へ移動。

アリナ「アリナは重要なミッション中なの。フールガールはお呼びじゃないカラ」

かりん「えーっ、ひどいの。せっかくのお休みの日なのに」

 ……や、やっぱり。
 アリナさんだ。
 一緒にいるのはかりんちゃん。杏子ちゃんとはまた違うタイプで一匹狼な魔法少女で、頼れば助けてくれるけど誰かとチームを組んでるところは見たことがない。
 ……アリナさんは言わずもがな。マギウスの一人でみんなに悪事を働く……よく分からない人だ。ただ、唐突に怒りだしたり趣味や趣向が危ない人だなぁとは思う。暢気な感想に聞こえるかもしれないけど、とにかく悪い人なのだという印象しかない。
 かりんちゃん、アリナさんと仲いいのかな……。思い返せばクールな先輩がどうとか言ってたような。
 私の中にはニヤニヤ笑いを浮かべて、私達の苦境を楽しんでる姿とか、怒って叫び散らしてる姿とか……とてもクールとは言えないイメージがあるけど。

いろは「……早く帰ろう」

 二人の関係は気になるけどアリナさんに見つかって良いことはない。私は素早く、そのまま路地を通り過ぎ……

アリナ「ミッション対象が勝手にどこ行くワケ? 大人しくしてほしいんですケド」

いろは「っ……」

 うぅ、そうだよね……のこのこ見に行ってバレない人じゃないよね……。背中を向けたまま声をかけてくるとは流石に思ってなかったけど。

アリナ「家に帰られると無駄骨なんだヨネ。せっかくの休日出勤なのに」

かりん「え? 先輩、急に何言って――あ、いろはちゃんなの。ん? じゃあアリナ先輩、もしかしてさっきからいろはちゃんをストーキングしてたの!? ミッションとか言って、ほんとは個人的趣味なの?」

アリナ「……。少し、トークしていかない?」

 振り向いたアリナさんは真面目な顔で静かに問いかける。その間近のかりんちゃんがうろちょろと忙しなく動いたり、彼女の頬をつついたりしても完全なるスルー。

かりん「先輩、白状するの!」

 ……。
 かりんちゃんのこと尊敬しちゃうかも。


 ↓1 かりんの好感度判定
 ↓2 アリナの好感度判定


 かりん 好感度26 ちょっと苦手な知り合い
 アリナ 好感度52 普通のお友達

 ↓1 かりんの好感度の理由
 ↓2 アリナの好感度の理由


 返事をどうしようか迷っている間にも、二人の好感度が嫌でも目に入ってくる。
 アリナさんは52。かりんちゃんは26。どちらも意外といえば意外で……アリナさんに至ってはマイナスとかになってても驚かないつもりだったのに、友達ぐらいには好感度が高かった。
 ――気になる。理由を聞いてみたい。

いろは「……」

 誘いに答えるのは後回しにしよう。
 せっかくの機会だから、敵であるアリナさんのこと、頼もしい助っ人のかりんちゃんのことを知りたい。
 私は理由を聞きたいと念じた。

アリナ『んー……アイツの見た目はすごく好みな方だけど』

アリナ『アリナと違う清廉潔白なホワイト? とにかく綺麗で、手がつけられてないキャンバスみたいで……染めてあげたくなるヨネ』

アリナ『でもこうも計画の邪魔されると、いくら見た目がライクでも結局プラマイゼロなワケ』

アリナ『……アンダースタン? いろは』

いろは「っ!?」

 こちらへと声をかけてくる心の声。まるで私へ好感度の理由を聞かれると分かっているかのような台詞に、私は息を呑んだ。


アリナ「ふーん……本当にウワサのターゲットになったワケ」

いろは「――なっ。なんで知ってるんですか」

アリナ「ホント、鈍いヨネ。ミッション対象って言ってて分からない?」

 そういえばそんなことを……。
 退屈そうな顔を、楽しげなものに変えてからかうように私を見てくるアリナさん。
 私の見た目が好みとか、理由では言われてたけど……変なことされないよね?

アリナ「アナタは『好感度測定のウワサ』のターゲットになった。で、アリナはアナタの観察と接触をお願いされたワケ」

アリナ「すごいらしいよ? エネルギー。さすが色恋沙汰。人間の主な娯楽なだけはあるヨネ」

いろは「……」

 ……そう、だ。
 巻き込まれてすっかり頭から抜けてたけど、ウワサに関係するイコールマギウスに協力すると言っても過言じゃない。
 それも人の感情を暴走させるようなウワサ。得られるエネルギーも相当なものだろう。

アリナ「今まで見つけることもできなかったウワサだから、そのまま長く巻き込まれてくれると、アリナとしても助かるワケ」

 見つけることもできなかった……?
 よっぽど特殊なウワサなのかな。というか、何を思ってこんなウワサ作っちゃったんだろう。

かりん「??? アリナ先輩、いろはちゃん。全然意味が分からないの。何を話してるの?」

いろは「ぁ……。ご、ごめんねかりんちゃん。ちょっと事情があって」

 きょとんとした顔のかりんちゃんへ、私は苦笑いしながら答える。かりんちゃんはアリナさんがマギウスなのを知らないみたい。知ってても大変なことにしかならないし……私としても穏便に済ませたいこと。大事になる前に終わらせるつもりなら、あえて真実を教えることもないだろう。

いろは「――アリナさん」

 考えて、私はアリナさんへ一言

アリナ「……なに?」


 1 アリナさんもターゲットですよ、私の
 2 立ち話もなんですし……
 3 かりんちゃんと仲良さそうですね?

 ↓1 一つ選択


いろは「かりんちゃんと仲良さそうですね?」

 話題を変えるがてら、私はすごく気になっていたことを尋ねてみる。アリナさんの制服から、かりんちゃんと同じ学校なのは予想がつくけど……かたやマギウス。かたや魔法少女。その二人が仲良さげな光景を見てしまうと、想像に容易い結論が一つある。

アリナ「フッ……」

 平然を装っていたけれど、そんな思惑はお見通しらしい。私が訊くとほぼ同時にアリナさんは鼻で笑う。
 「そんな下らないこと」。なんて感じに。

かりん「そうなのっ。アリナ先輩とはいい先輩後輩なの」

 対して、かりんちゃんは嬉しそう。
 ……うーん、マギウスはかりんちゃんと関係なさそうかな。かりんちゃん思い切り態度に出るから、マギウスの敵の私を見たらすぐ分かる反応をしてくれるだろうし。
 けどちょっと好感度の理由が気になるから――彼女の理由も聞いておこう。

 はしゃぐかりんちゃんに返事をしつつ、私は念じた。

かりん『いろはちゃんは気に入らないの』

 ちょ、直球な……。明るい声で言い切られた。
 なんでここまで苦手意識というか嫌われちゃってるのかな。


かりん『私は一人で戦う魔法少女……。対して、いろはちゃんはすっごい群れてるの』

かりん『やちよさんに鶴乃ちゃん、なぎたん――特にやちよさんのお家の魔法少女はいろはちゃんを見る目が熱いの』

 そ、それは……気づいてなかったけど、つい最近好感度を見て気づきました。

かりん『とにかく、強い魔法少女といっぱいコネ持ちすぎなの! 軟派なの!』

 ……。調整屋行きすぎなのかな、私。
 はっきりした理由で嫌われてて若干ショックだ。唐揚げにレモンとかならちょっと笑えたんだけど。それで殺されかけたのは置いといて。

かりん「? いろはちゃんどうしたの?」

いろは「あ、や、なんでもないよ」

 理由を聞いて考え込んでいた私は彼女の声で我に帰る。なんとか誤魔化そうと苦笑しつつ答え――彼女の隣、アリナさんの意地悪い笑みに気づく。
 私が嫌われてる理由を聞いたのだと分かっているかのようなリアクションだ。

かりん「フフフ、やっぱり他の人から見ると仲良しさも一目瞭然みたいなの、アリナ先輩」

アリナ「アリナがフールガールと仲良しなんてあり得ないんですケド」

かりん「またまたぁ」

 ご機嫌だなぁ、かりんちゃん。何気なく選んだ話題だけど、これなら彼女の好感度もちょっとは上がるかな?


 ↓1 かりんの好感度上昇判定
     (前回が上がりすぎたため、今回はコンマの右から2桁の半分の値だけ上昇)


 かりん 好感度26 → 55


 
いろは「……!」

 やっぱり来た。予想通りにかりんちゃんの好感度が変動する。一言コメントみたいなところは全然変わってないけど、中間点より上に好感度は上がってくれた。
 
かりん「あ、そうだ。せっかくだからみんなでご飯でも……」

アリナ「それはパス。ターゲットと同席なんて、面倒すぎるんですケド」

いろは(かりんちゃんとならいいのかな……?)

 なんて冗談を考えつつ、私は苦笑いを浮かべる。
 アリナさんの口振りからして誰かに私の監視を依頼されたみたいだし。でも――

かりん「えー? でもさっきはストーキング対象のいろはちゃんに帰ってほしくないって」

アリナ「……」

 わぁ、アリナさん面倒そう。すごく誤解されてるし。
 ま、まぁでもかりんちゃんの疑問は私も考えていたことだ。監視するなら一緒にいるほうが都合いいような。
 不機嫌そうな目をする彼女を見ていると、不意に頭へ声が。魔法少女のテレパシーだ。


アリナ(環いろは――アナタの恋愛事情、それとなく見させてもらうから)

アリナ(フフフ、楽しみだヨネ。誰かに乱暴されたり、殺されたりしちゃうかも)

いろは「……」

 なるほど。あくまでも監視、ということみたい。
 いや観察の方が正しいのかな。ももこさん、レナちゃん、れんちゃんとのことも見ていたのかもしれない。
 マギウスの邪魔をする私が振り回される姿に喜んでいるらしい。

アリナ(たまにアリナに会いにきてもいいケド。外見は好みだから)

 ……。何されるか分かったものじゃないし、多分それはしないと思うけど一応頭に留めておこう。

アリナ「じゃ、アリナは学校行くカラ」スタスタ

かりん「えっ? ちょ、アリナ先輩っ? いろはちゃん、またねなのっ」

いろは「あ、うん。またね、かりんちゃん」

 私の心の整理がつかない内に去っていく二人。
 監視、かぁ。ウワサが憑いていることは勘付かれてるみたいだし、マギウスにいつ見られててもおかしくはない。
 ……公共の場で暴走が起きないことを祈るばかりだ。


 ……さて。
 家に戻ろうと思ってたけど、どうしようかな。



 ↓1 人物安価 次に会う魔法少女を一人。既に出た魔法少女でもオーケー



フェリシア 好感度90 イベント一段階進行


 人目のないところにいないとマギウスに観察させる機会を与えちゃうかもしれない……。やっぱり家に帰ろうかな。
 一番はさっさと終わらせてウワサをどうにかすることだけど、先は見えないし。

フェリシア「おっ、いたいた。いろはー!」

いろは「……あれっ? フェリシアちゃん」

 アリナさんとかりんちゃんが見えなくなるくらいまで悩んでいると、そこへ代わるようにフェリシアちゃんがやって来た。
 いつもの制服姿で金色の髪を揺らし、元気に走っている。
 何か用事かな。すごく嬉しそうにしてるのが分かるけど。

フェリシア「やっと見つけた。今日もウンメーの相手探しか?」

いろは「うん。便利といえば便利だけど、やっぱり危ないから」

いろは「って……『見つけた』? 何か急ぎの用事?」

 尋ねると、フェリシアちゃんはフフンと鼻を鳴らし得意気に胸を張ってみせる。

フェリシア「ああ! 運命の相手って聞いたら黙ってらんねーし」

いろは「……。あっ」

 運命の相手。私の視界に映っている好感度。それで彼女が私を探してた理由の察しがついた。


フェリシア「いろはとオレ、その……結構運命的だと思うしな!」

 高好感度のフェリシアちゃんは、私に好意を抱いてて――つまるところ、私の運命の相手になろうと思って探してくれていたのだろう。
 もしくは単純に私の身を心配してくれたのかな。
 いずれにせよむずがゆい思いだ。頬をほんのり赤らめ笑うフェリシアちゃん。今までは家族的だったり、友情的だったり、そんな感情を向けられていると思っていたのに実際は違って。
 嫌な気は全然しないけど、未だに私がどうしたいのかは分からないままで。

いろは「うん、確かに。フェリシアちゃんに会ってから色々あったなぁ」

フェリシア「すごい昔みたいに言うのな。いろは、年寄りみたいだぞ」

いろは「と、年寄り……」

 味覚がそれ寄りとは言われるけど、ついに感性のほうまで影響が……。

フェリシア「で、どこで何する?」

いろは「えっ? あ、どこか行きたいの?」

フェリシア「当ったり前だろー。オレといろはが運命的だってガツンと示してやる!」
   
 フェリシアちゃん、すごく楽しそう。私も自然とのほほんとした気持ちになっちゃう。けど、注意しないと。高い好感度の人と係る時も暴走の危険性があるから。
 れんちゃん、明日香さんがいなかったらどうなってたか分からないし……。

 慎重に選ばないと。


 1 自室へ招待
 2 公園で遊ぶ
 3 その他(行き先、すること、自由に記載。あんまりなものは再安価有り)

 ↓1 一つ選択

『1 自室へ招待』


 アリナさんへやめてほしいと言われたけど、従う理由はまったくない。私自身休みたいし、フェリシアちゃんとは同じ家に住んでる関係。部屋に誘っても問題はないよね。
 何もない場所だからガッカリされちゃうかもしれないけど……今後を考えるとゆっくりしたい。

いろは「それじゃあ……私の部屋に行こう? ちょっとウワサのことで疲れちゃって。休憩したいなぁって」

フェリシア「ええっ!?」

 申し訳なく思いつつ私は提案を口にする。するとフェリシアちゃんがとてもびっくりした様子で叫んだ。
 やっぱり行き先が私の自室だと退屈だったかな? ――あれ? なんだかフェリシアちゃん、顔が赤い?

いろは「どうしたの? フェリシアちゃん」

フェリシア「な、なんでもない……」

 とフェリシアちゃんは答えるけれど、なんでもないように見えるかは言わずもがな。妙にしおらしく縮こまり、もじもじとする彼女は小さく呟く。

フェリシア「いろはの部屋……休憩……いや、なにもねえって……うん」

いろは「? なにもない?」

フェリシア「……ほら分かってない」ジトー

 今度はすごい冷たい目で見られてしまった。


フェリシア「いいぜー、いろはの部屋でも。大変なのは分かってるし」

いろは「うん。ごめんね。今度一緒に出かけよう?」

フェリシア「じゃ、ごはん連れてってくれよな。ニクニク!」

いろは「あはは……あんまり高くないところなら」

 ふぅ、良かった。事情を説明してあったとはいえ、失礼だと思われても仕方ない選択だったから。
 話がまとまり、自然と家へ向かって歩き出す私達。そういえば、フェリシアちゃんと一緒にいる時間は結構長いけど、こうして二人きりでいるのは久しぶりなような気がする。外にいる時は他の魔法少女の子もいたり、家にはやちよさんもさなちゃんも鶴乃ちゃんもいるから、二人きりとなると案外その時間は短いのかもしれない。

フェリシア「やりーっ。どこ連れてってもらおっかなー」

 嬉しそうなフェリシアちゃんの横顔を眺めつつ私は考える。
 フェリシアちゃんは高い好感度。今までのルールに当てはめるのなら恋愛感情を持っていてくれているということ。わざわざアピールしに来てくれたんだし、できるだけ真摯に対応しないと。

 ……あっ。さっきの反応の意味、分かっちゃったかも。好きな人から自室に、休憩したいからだなんて誘われたら変な風に聞こえちゃうよね……。誤解されなかったみたいだけど気をつけないと。


 私はみんなのことをただの仲間だと思ってた。けど実際はちょっと違ってて。女の子同士がどうなのか。私は考えたこともなかったからちょっと分からない。
 けれどれんちゃんに迫られたとき、全く嫌な感じはしなかった。

 うーん……女の子を好きかどうか。難しいなぁ。
 というか何で女の子――それも魔法少女限定なんだろう? 男の子に好感度判定は反応しないし。私とうい、灯花ちゃんにねむちゃん……誰が考えたウワサなのかな。気になってきた。そこはかとなくアダルティというか、子供っぽくないウワサだけど。

フェリシア「いろは? なにボーッとしてんだ?」

いろは「――あっ。ごめんね。何か言った?」

フェリシア「何も。でもすげー上の空だったぞ」

 呆れた様子のフェリシアちゃん。真摯に、なんて考えていた途端にこれ。私は苦笑しか返せず。

フェリシア「これじゃ休まなきゃいけねーな。早く行こうぜ」
 
いろは「う、うん。ごめんね」

フェリシア「気にすんなって! ほら、行くぞ」

 にっこりと笑うフェリシアちゃん。彼女は私の手を取ってグイグイと引っ張っていく。ちょっと乱暴な誘導の仕方に、以前なら戸惑ってたかもしれない。でも今は私に早く休んでもらいたいんだなぁ、と微笑ましく思ってしまう。
 これだけ気を遣ってもらっているんだから、少しでも休んでおかないと。
 それで、納得のいく結論を……。


いろは(うう、気が重い……)

子供の声「うわーん!」

いろは「……っ!?」

 突然の大声にびっくりして思考を引き上げる私。慌てて声の方を見れば、そこには親子らしき人達が。お母さんとお父さん、それに小さな女の子。
 泣いている女の子を、両親であろう人達が宥めている。
 どこかの買い物帰りかな。両親さん達は買い物袋を持っていて、女の子もお菓子らしきものを持っている。女の子はそんな気分じゃないかもだけど、微笑ましく見える光景だ。

フェリシア「……」ジーッ

いろは「フェリシアちゃん?」

フェリシア「あっ。だ、だいじょーぶ、なんでもねえって!」

 そうは言うけれど、何かあるのは一目瞭然で。
 フェリシアちゃんは時折こういうことがある。家族を見て止まっちゃうというか、何か考えているわけでもなく、ただ『何も無い』状態になるというか……。
 思い返してみれば彼女の家族の話は全然聞いたことがない。魔女に殺された、ということは知っているけどそれだけ。
 本人も思い出したくないのかもしれない、と私は思っていたから尋ねることは今までしてこなかった。
 フェリシアちゃんが止まる理由は多分、考えることを必死に抑えてるからだと思うから。


いろは「そっか。前に気をつけてね」ニコッ

フェリシア「っ……ああ」

 何も聞かない私に、フェリシアちゃんは少し戸惑う様子を見せる。それから我慢するみたいに口を固く結んで歩き出した。
 何故追及しないのか。その疑問を呑み込んでいつも通りに戻る。私もフェリシアちゃんも同じ。深く問おうとはしないで、いつか知ることになるその時を待つ。
 それは決して先延ばしにしてるわけじゃない。私達は知っているから。どんな秘密や真実であっても、みんなと支え合って乗り越えていけるんだ、って。

 無言なのにどこか心地よくて、気持ちが落ち着く。フェリシアちゃんの手から伝わる体温と優しさを感じながら、私は家への道を進んでいった。

 

 みかづき荘に到着。今日はみんな出かけてるのか部屋にいるみたいで、いつものリビングには誰もいなかった。朝はみんないたのに、珍しい。
 リビングを確認してからフェリシアちゃんに手を引かれバタバタと自室に。

フェリシア「よーしっ、いろは。はやくはやく」

いろは「ちょ、ちょっと待って」 

 そのままの流れでベッドに座らされそうになり、私は慌てて抵抗する。

フェリシア「ん? なんか忘れ物か?」

いろは「ううん。まだ制服のままだから」

 休むにしてもまずは着替えなくちゃ。皺がついちゃうし。と言いながら服に手をかけ――フェリシアちゃんがいることに気づく。
 フェリシアちゃんの好感度は高い。私を意識してくれてる人の前で脱いだりしたら、ウワサの暴走も有り得る……よね?

フェリシア「……?」キョトン

 けどそんなことなさそうな様子でもあるんだよね……。
 ど、どうしよう。二人きりだし暴走が起こったら大変なことになりそうだし、慎重に考えないと。

 ……どうしよう?


 1 そのまま着替える
 2 一旦部屋の外へ出てもらう
 3 その他。いろは、フェリシア、その他の台詞など記載化

 ↓1 一つ選択。選択肢、内容によって判定発生も


【1 そのまま着替える
     (後ろを向いてもらう)】

 ということで、↓1で追加のコンマ判定です
   コンマが80以上で……


  大変久しぶりの更新になって申し訳ないです。すっかりメインクエストの方も終わってしまって。色々キャラも増えましたがとりあえず、現段階ではマギウスの灯花、ねむと万年桜のウワサを除くオリジナル魔法少女を攻略対象にしようかと。
 最初は見滝原の魔法少女も対象に入れていましたが、手が回らなそうなので除外しておきます。

 
【22 暴走なし
    偶数ゾロ目なので、イベント発生】



 大丈夫……だよね。
 フェリシアちゃんはみかづき荘に一緒に住む仲間で家族なんだなら、信用しないと。着替えるから外に出てなんて、同性で警戒しすぎだと言われても仕方ない。
 でも万が一ということもあるから――

いろは「フェリシアちゃん。ちょっと着替えるから、後ろ向いててくれる?」

フェリシア「んー? 別にそれくらい――はっ!?」

 一度快諾しかけるフェリシアちゃんだけど、意外だったみたいで大きな声を出す。彼女は私を足元から顔まで視線を移し、ほんのりと赤くなる。
 ……意中の相手からそんなこと言われたら緊張しちゃうよね。つい自意識過剰かな、なんて自信がなくなっちゃうけど、常識的に考えてフェリシアちゃんの反応は妥当だ。


フェリシア「着替えるっ? ここで?」

いろは「うん。えっと……恥ずかしい?」

フェリシア「オレは別にいいけどさ……はぁ。もう、さっさと終わらせろよ?」

 クルッと素早く背を向けるフェリシアちゃん。少し呆れ気味だったのは、私の無防備さが原因だろう。
 女の子複数人に恋愛感情を抱かれている……つまり、普通の女の子とは違う魅力を私は持っている、ということなんだろうけど――正直、まだ自覚がないんだよね。
 出ていってもらうのは警戒しすぎ、みたいな思考がまず働く辺り、私は自分が置かれている立場を客観的に見れていないのかもしれない。


いろは「う、うん。すぐ着替えるから……」

 あれこれ思考が展開し、後ろで堂々と着替えるなんてどこのラブコメなんだろうなんて思いつつ、引っ込みがつかなくなった私は急いで着替えを始める。
 リボンを解いて制服を脱ぎ、下着姿に。いつも以上にテキパキとそれをハンガーにかけて壁のフックに引っ掛ける。
 フェリシアちゃんのすぐ後ろでこの姿。意識するとすごく恥ずかしい。
 肌に触れる空気をこそばやく思いながら、ふと私は気になったフェリシアちゃんの背中に視線を向け――

??『ごきげんよう』

いろは「わひゃぁっ!?」

 いつの間にか私とフェリシアちゃんの間に現れていた女の子に驚いて、思い切り絶叫した。


フェリシア「うわっ!? な、なんだ、いろは――っ!?」

 振り向いたフェリシアちゃんも、急に現れた女の子に驚いたみたい。目を見開いて視線を上下に忙しなく動かし、顔を真っ赤にさせて……あれ? 私のこと見てる?
 ……。あ。下着にニーソックス姿だった、私……。

いろは「ご、ごめっ、着替えてる途中で――っ!」

 これは流石に恥ずかしい。驚きもあるんだけど、それ以上に。自分の顔が赤くなるのを感じながら私は着替えにと取り出していた部屋着で身体を隠す。
 ……といっても胸と下半身、下着を隠すくらいの効果しかないんだけど。ま、まあこれでちょっとは安心……

フェリシア「いろは、それ逆効果だぞ……」

 ……安心、できないみたい。
 どうしてか丸見えよりむしろいかがわしい要素を増やしちゃったみたいで、フェリシアちゃんが目を逸らしてしまう。直視できないほどなのかな……。


いろは「うう……。あ、あの……あなたは?」

 ベッドの掛け布団を身体に巻いて、部屋着を身に着ける。ゴソゴソとしながら、私は謎の女の子に声をかけた。
 突然現れた女の子。私は彼女に見覚えがなく、フェリシアちゃんもそうみたい。身長はフェリシアちゃんより低いくらいで赤髪のロングヘア。
 年齢は……小、中学生くらいに見えるかな。お人形さんみたいに綺麗な顔立ちで、幼い容姿なのに綺麗だと思えてしまう。
 これまた見覚えのない学校の制服みたいなものを着た彼女は、私を見てにっこりと笑う。

??『この姿でははじめましてかしら? 誰だか分からない?』

いろは「え……? あっ」

 服を身に着け掛け布団を戻し、落ち着いたところでもう一度声を聞き、私はハッとする。
 この声……ウワサだ。


いろは「好感度測定少女……」

??『そうそう。ちょっと用があって現れたの』

 やっぱり、彼女みたい。
 これまで聞こえてきた声と同じように、気さくに楽しそうな様子で彼女は頷く。
 用……? いや、今はそれよりも……。

??『ああ。今の私を叩いても解決しないから。大人しく見てて』

フェリシア「へっ、そんなの信じるわけねーだろ。いろはにみんなにメーワクかけてんだ。とりあえずぶっ叩いてやる!」

??『意味ないのに』

いろは「……フェリシアちゃん、多分本当だから変身は解いて」

 本体が出たなら倒せるかも、と私も思っていたのだけど、どうもウワサの余裕が気にかかる。変身し、今にも殴りかかりそうなフェリシアちゃんを止め、私は手を伸ばす。すると女の子の肩をすり抜けてしまう。
 やっぱり触れないみたい。


フェリシア「クソ……」

いろは「心配してくれてありがとう、フェリシアちゃん」

フェリシア「当たり前だろ。こんなのすぐ終わらせた方がいいに決まってるし」

 フェリシアちゃんが変身を解除。制服姿に戻る。
 触れられない状態で姿を現す。当然そうした理由がある筈で。私は心の中で身構えながら、ウワサの言葉を待つ。
 私とフェリシアちゃんに睨まれるウワサは、数秒間をおいて不意に手を叩いた。

??『おめでとう! あなたはついさっき低確率の『不幸』を引き当てたわ、環いろは!』

いろは「不幸……? それって――」

 ウワサに憑かれた初日。やちよさんの説明がフラッシュバックする。

 『時々振りかかる不幸を乗り越えて』。

 説明された時は、好きと嫌いの暴走がその不幸だと思っていた。でも、ウワサの口振りからするとまさか……。


いろは「ランダムで悪いことが……?」

??『そ。ランダムで起こって、ランダムで内容を決める罰ゲームみたいなもの』

フェリシア「んなっ。そんなの聞いてねーぞ!」

いろは「……」

??『そんなに睨まないの。誰かが死んだりはしないから、その辺りは安心していいけれど……フフフ』

 それを聞いてほんの少し不安が和らいだ。
 でもこのウワサは人の感情を扱うもの。それが不幸に作用するのだから、一体どうなるのか……。

??『ということでルーレット、始めるよ!』

 軽いノリでウワサが言うと、虚空に大きな円盤が現れる。バラエティ番組で見るようなルーレット盤。上には矢印がついていて、恐らくそこに止まったものを実行するのだろう。
 細かい仕切りの線の中に小さな文字が見える。多分これが不幸の内容なのかな。目を凝らしてしっかり確認してみる。


 確かに誰かの命にかかわるものは無い。
 けど、『セックスしないと出られない部屋』とか、『妄想シチュエーション』とか不穏な単語がちらほらと。『ふたなり』……とかよく分からないワードもあるけど。

 あと、すごく気になることが一つ。

『マギウスにタライが落ちる』
『マギウスの服が脱げる』
『マギウスの物が一つ消える』

 ルーレットの内容からマギウスの三人に対しての恨みを感じる。

いろは「えっと、この突拍子のないマギウスの登場は……?」

??『腹いせ。今まで自由がなかったから』

 わ、わぁ……はっきり言う。

フェリシア「だったら全部マギウスでいいじゃん。あいつらだけに一日中雨降らせたり。室内でも」

いろは(寝られないし結構辛い……)

??『馬鹿、消されるでしょ。デメリットに天秤が傾かないようにするのよ。敵のメンバーを撹乱してるメリット以上のことはやらかさないわ』

 服消されるのは余程なメリットが無いと物凄い迷惑だと思うんだけど……。ウワサも色々大変なんだろうなぁ。

??『ルーレット回すわよ。好きなタイミングでストップって言いなさい』

いろは「――えっ? あ、はい、ストップ! って言っちゃった!」

 気が緩んだ瞬間に声をかけられ、つい言われるままにストップの宣言をしてしまう。内容について交渉したりできたかもしれないのに。
 ハッと口を押さえる私の前で、回転していたルーレットはゆっくりと止まり――


 ↓1 不幸の内容をコンマ一桁目で判定
    1 妄想シチュエーション
    2 キャラ追加(プラス補正付き)
    3 しないと出られない部屋
    4 判定の中で一つを選択し実行
    5 いろはちゃん、ふたなり
    6 この場で暴走(いろはor他)
    7 妄想シチュ
    8 ピーヒョロ
    9 選択実行(4と同じ)
    0 高好感度でキャラ追加


【妄想シチュエーション】

いろは「あっ……変なのに止まっちゃった」

フェリシア「なんたらシチュエーション? なんだそれ」

??『ちいっ。マギウスマスに止まらなかった……』

??『説明はここに』

 ルーレットが消え、入れ替わりに看板が一枚現れる。妄想シチュエーションの説明らしい。

いろは「えっと……」フムフム

『妄想シチュエーション!
   今からあなたは夢を見ます。夢はあなたとあなたの知る攻略対象との夢です。夢の内容は攻略対象の妄想。たまに不具合もあるかもしれないけれど、あなたとしたいこと、あなたで一度妄想したことがまるで現実のように展開されます。
 夢の中であなたは記憶があり、相手は妄想の役柄になりきります。相手に夢を見た記憶はうっすら残り、運が良ければあなたを苦手な人もあなたを意識してくれるかもしれません。

  簡単に言えばあなたと攻略対象のパロディショートストーリー。妄想の中であなたや攻略対象は先生だったり、ファンタジー世界の住人だったり――はたまた恋人だったり。

 罰ゲームになるかは攻略対象さんの妄想次第!』


いろは「……」

 えっ。大体言葉の通りの意味だけど……妄想のシチュエーションでシミュレーション、みたいな。
 でも、これってあれだよね?
 鶴乃ちゃんが選ばれたりしたら、わたしと鶴乃ちゃんが一つになる妄想が繰り広げられたりするんだよね。
 ひょっとしたらアリナさんかもしれないし……そ、そう考えると恐ろしい。

フェリシア「なーいろはー。なんて書いてあるんだ?」

いろは「夢を見るって書いてあるけど、内容は決まってないみたい。ごめんね、ちょっと寝ちゃうかも――はれっ?」

 ちらっとフェリシアちゃんの方を見て答える。すると突然、強烈な眠気に襲われる。心構えも何もない状態から、一気にまどろみの中へ。抵抗する間も思考の暇もなく私は眠りの中に落ちた。


 ↓1 本SSに登場済のキャラクターを一人指名
 ↓2 妄想内容。いろはと相手の役や、世界の設定やその他諸々。書けなそうなのは再安価をとりますのであしからず。不幸の内容から察せるかもですが、えっちいのも可です

性知識が38のいろはにクリムゾン的な魔の手が迫る

鶴乃 77×2 154『一つになるべき運命だって』
ももこ 7 『一緒にいてウザいっていろはちゃんに思われたんだろうな、アタシ』
レナ 10 から揚げにレモンをかけられた
やちよ 38 変身後の格好がえろはちゃん過ぎて直視しづらい
ひなの 64 見た目を馬鹿にせずに頼ってくれるかわいい後輩だから
梨花 81 一目惚れ
れん 24 梨花がいろはが居る時の方が楽しそうにするから  
 自分のことを苦手だと思っている相手と仲良くなろうとするという姿勢に感銘をうけたから→114
フェリシア 90 こいつのお陰で今は一人ぼっちじゃないんだよな…
さな 86 必要としてくれるってそういうことですよね?
みたま 48 色々面白いものを見せてくれそうだから
明日香 39 いろはの前で持ちネタの「自害します!」を言うと凄く怒るから
かりん 26 強い魔法少女とコネをたくさん持ってるから
 → 55
アリナ 52 見た目はライクだけど邪魔ばかりしてくるからプラマイ0なんですケド

【反応遅れてすみません!
  安価把握済です。かりんちゃんの妄想で今書いておりますので】

 
 
いろは「……ん。ふあ……」


 ぼんやりしていた意識がパッと元に戻る。
 目を覚ましたら何処かに立っていた。そんな経験、これまでしたことなんてなく。バランスがうまくとれずによろけてしまう。

??「っと。気をつけて、いろは」

いろは「へっ?」

 思わず素っ頓狂な声が出てしまう。私を横から支えてくれた人物。それはやちよさんだった。……何故か探偵ルックの。鹿撃ち帽にロングコート、一目でこの人は探偵だと思ってしまうほど典型的な姿をしている。

いろは「やちよさん? ……あれっ?」

 やちよさんの姿を見、しっかり立とうと身体を動かして自分の服装に気づく。私の頭にも同じ帽子が乗っていて、長めのケープに短いスカート。やちよさんのキリッとした探偵姿に比べてコスプレ感が強いけど、私も分かりやすい格好をしているみたい。
 やちよさんの腕から離れ、周囲を見回す。

 やっぱり、夢を見ているらしい。
 私の部屋とは全然違う景色が広がっている。
 時刻は夜。見るからに都会な街で、見上げるほど高いビルがあちこちに立っている。私とやちよさんがいるのはその裏道みたいで、街のネオンも喧騒も遠くぼんやり届きなんだか寂しい雰囲気。
 人気もなく、女の子二人で来る場所だとは思えなかった。


やちよ「大丈夫かしら、いろは」

いろは「は、はい……」

 私から手を離したやちよさんは、心配そうな顔をして首を傾げる。
 ……えっと。やちよさんがいるってことは、これってやちよさんの夢? やちよさんの妄想が探偵? なんだからしくないような気が……。

やちよ「これからあの大怪盗……かりんのアジトへ潜入するのよ、しっかりしなさい」

いろは「すみませ――はいっ?」

 かりん? 大怪盗?
 と、ということはこれってかりんちゃんの妄想なんだ……。
 それなら安心できそう。かりんちゃん漫画が好きで、描いてるくらいだからきっとこれもその漫画の題材的な妄想だろう。
 ……あ。でも嫌われてたから、もしかしたら私がひどい目に遭う妄想だったり……。い、いや、かりんちゃんはそんな子じゃないよね。

やちよ「不安だけれど……私は裏社会で顔が割れてるから、あなたに任せるしかない。しっかりね」

いろは「……」コク

 服装ですぐばれそうだけど……という主張は口にせず。ウワサによる妄想を再現する夢なのだ。ここで私が好き勝手暴れてもどうにもならない可能性が高い。登場人物に従うしかないだろう。
 
やちよ「アジトはあの酒場の奥よ。客になりすまして、機会を窺うのよ」

いろは「分かり、ました……」

 不安だ。これは夢で、なるようになるんだろうけど、私には記憶があって感覚もしっかりある。現実と違いがないのだ。
 命の危険はないけど、どうなるのか……。


いろは「やってみます、やちよさ――」

 酒場のドアから目を離し、やちよさんを見る――が、さっきまでそこにいた筈の彼女の姿はなかった。
 物音一つもなく人が消えた。紛れもなくここは夢なのだろう。

いろは「……少年漫画くらいがいいなぁ」

 敵の私と戦って友情展開、とか。肩をがっくりと落として私は呟く。

いろは「……はぁ」

 ……行こう。ため息を一つ吐くと私は酒場のドア目指して歩き出した。
 薄暗い道の中、酒場の看板は眩しいくらいの光を放っている。ドアの向こうからは楽しげな声が聞こえてきた。

いろは「子供で大丈夫なのかな……」

 呟きつつ中へ。ドアをくぐって入っていくと、そこは――

いろは「……え?」

 もぬけの殻。さっきまで声が聞こえていて、誰かがそこにいた筈なのに人の姿がない。急に無音になり、カウンターやテーブルの上には煙を昇らせるタバコが乗った灰皿、グラスやお皿に乗った料理、食器類が。
 形跡はあるのにそれを残した人物は姿形もない。不気味な光景に唾をごくりとのみこむ。

いろは「……」

 まるで魔女の結界に入ってるような不安感。
 何が飛び出してきてもいいように周囲を警戒しつつ私は酒場の奥のドアを開く。
 やちよさんの話通りなら、ここがかりんちゃんのアジトの筈だ。


いろは「誰もいない……よね」

 ドアを開いた先にある部屋は、やはり無人。パッと見た感じでは私達の私室と大して変わりない。ベッドが置いてあってクローゼットがあって、棚とかがあって……おかしなところといえば、部屋の中心にある台座くらい。
 広い部屋の中央。ぽつんと置かれたそれの上には、宝石みたいなものがポツンと一つ設置されている。
 かりんちゃんは怪盗らしいし、どこからか盗んだものかな。ドアをしっかり閉め、台座へ近づく。明らかに怪しいんだけど、つい無警戒に接近しすぎてしまった。

いろは「ひゃっ!?」

 宝石へ伸ばしていた手が不意に掴まれる。硬い感触にぎょっとし反射的に振り払おうとするけれど、まるで手応えなし。
 見れば、銀色の鉄? みたいな手が私の手首を掴んでいる。その腕部分はバネみたいになっていて、私が振っても形を変えて衝撃を逃がすだけ。
 強引に手の部分を開かせようと、もう片方の手を伸ばそうとするも――


いろは「こっ、こっちも!?」

 その手も同じような腕に掴まれていた。慌てて抵抗を試みるも、その瞬間にタイミングを計っていたみたいに金属のアームが収縮を始める。
 バネみたいな柔らかさが嘘みたいに固くなり、私が腕を動かしてもビクともしない。あっという間に私は腕を斜め上に挙げる形で拘束されてしまう。
 足は自由に動かせるけど、手は全然動かせない。これじゃあ何もできないのと同じだ。

いろは「うう……なんでこんな」

???「はーっはっはっは!」

 夢だからだろう。変身しようとしても変化はなし。焦る私がもがいていると、アジトの入り口のドアが開く。高笑いと共に登場したのは予想通りの人物で。

かりん「天才大怪盗かりん、ここに登場!」

 いつもの魔法少女姿のかりんちゃんだった。
 探偵と怪盗。私とかりんちゃんはこの夢では敵同士ということ。そして潜入、捕縛、アジトの主登場……不穏な流れだ。もしこれで処刑なんて流れになれば、どうなるのか。

いろは「か、かりんちゃん……」

かりん「ちゃん? 不思議な新米探偵もいたものだな。あんな罠にあっさりかかるなんて」

 決めポーズから姿勢を崩し、ちゃん付けに首を傾げるかりんちゃん。けれど今はその疑問より作戦が成功した喜びの方が大きいみたい。ニヤニヤと馬鹿にするみたいに笑いながら、私へとゆっくり近づいてくる。
 そういえば彼女、戦いの時のマジカルかりんモードだ。妄想でも使っているとは、よっぽど思い入れがあるらしい。


かりん「環いろは。頭はいいと聞いていたが、これではな」

いろは「離して……くれない、よね?」

 すぐ前までかりんちゃんがやって来る。妄想といえ容姿に変わりはない。けれどなんでだろう。私のことを上目遣いにニヤけつつ見てくる彼女の表情から目を離せない。なんていうか、色気が……。

いろは(肩におへそ、太もも……あぁああ。妄想の影響……っ?)

 表情も、制服に比べて薄い生地で露出も多めな魔法少女姿のかりんちゃんのあちこちが、魅力的に見えて仕方がない。
 急激に顔が熱くなるのを感じつつ、私は目の前で笑うかりんちゃんを見つめ続ける。
 今から拷問、処刑するなんて言われてもおかしくはない状況なのに私の頭の中はかりんちゃんのことでいっぱいだった。

かりん「当たり前だろう? 探偵をタダで返す怪盗がどこにいるのだ?」

いろは「だよね……」

かりん「フッ。お前のことはしっかり調べつくしてから……逆らう気が起きないようにするとしよう」

いろは「えっ? ……ふあっ!?」

 かりんちゃんの顔が急接近。思わずドキリとし後退りしようとするのだが身動きは当然とれず、かりんちゃんの更なる接近を許してしまう。
 ピトッと身体を密着させ、かりんちゃんの小さな手が私の頬に添えられる。息がかかりそうなほどの距離感。かりんちゃんのお菓子みたいに甘い香りが鼻に入ってくる。今この瞬間、思い切り蹴り飛ばすこともできるのに――私はかりんちゃんの唇を見つめていた。
 普段子供っぽい彼女の、余裕に満ちた大人びた表情。微笑に歪む柔らかそうな唇は、今まで感じたことがないくらい魅力的で。


いろは「んっ……」

かりん「どうした? 抵抗しないのか?」

 視界外で腰にそっと手を添えられ、身体を小さくよじる。過敏な反応に恥ずかしさを感じていると、頬に添えられたかりんちゃんの手が私を可愛がるように優しく撫でる。
 
いろは「そん、な……っ、抵抗したって逃げられないからっ」

かりん「それもそうだな。けど……」

いろは「あっ、う……」

 かりんちゃんの手が腰を無でる。くすぐったさと、よく分からない感覚が私の口から声を漏らさせる。かりんちゃんは楽しそうな笑みを深めた。

かりん「逃げる気すらないのではないか? 我にこうされることを望んでる……違うか?」

いろは「そんなこと……っ」

 これから何をされるのか。知識があまりない私でもなんとなく察しはついてしまっていた。これは、その……つまりこれからエッチな漫画みたいなことになっちゃうかもしれないんだよね?
 ……これって、私に対しての罰ゲームじゃなくて、かりんちゃんに対しての罰ゲームなのかな。妄想を私に見られるなんて。
 でも、妄想をリアルに体験できるなら嬉しいのかな? いや……私が相手だから、そんなことないのかも。

 色々なことを考えてしまい、緊張と恥ずかしさ、かりんちゃんの魅了攻撃もあって余裕がない。何をどうすればいいのか、必死に頭を働かせようとしているとかりんちゃんがまた手を動かした。


かりん「では、始めるぞ」

 頬に添えられていた手が私のお腹に触れる。服の下に何かないかチェックしているのか、念入りにゆったりとした動作でそこから上に指が動いていく。

いろは「ひぅ……」

 ただそれだけなのに身体がぞくぞくと震えてしまい、声が出てしまう。くすぐったいのもあるけど……もしかして、これって……。

かりん「何も持ってなさそうだな。……フフ、どうした?」

いろは「な、なにも……」

かりん「そうか? 身体が反応しているぞ?」

 分かって言っているのだろう。私の反応をすぐ間近で眺めながらかりんちゃんの手が私の胸を触る。
 それまであまり直接的に性的なことはしてこなかっただけに、分かり易い部位への刺激に羞恥心が煽られる。

いろは「ふぅ……っ、はぁ……ん♡」

 今までかりんちゃんに触られた時の未知な感覚。それが何なのかを認識してしまった。頭がぽわぽわとして熱っぽく、意思に反し強制的に感じさせられる強い幸福感……快感、なのだろう。
 かりんちゃんの指先が膨らみを無でる度、甘い感覚が私の身体に走る。少しでも何とかしようとしていた思考はぼやけ、身体から力が抜けていく。
 な、なにこれ……。服の上から触られるだけでこんなに気持ちいいの……?


かりん「蕩けた顔をして……嘘はよくないぞ。ボディーチェックで感じるなんて、とんだ変態だな」

いろは「違っ。そ、んな……ことは――っ、ひゃぅっ!?」

 否定しようとした矢先、指の先でくりくりと服越しに正確に……先っぽ、乳首の位置を擦られ声が出てしまう。一瞬目の前がチカッとするほどの快楽に頭の動きが止まってしまう。

いろは「はぁ……ぁ、んぅ♡」

 たった数秒のことだろう。快楽で薄れた意識が戻り、自分のうっとりとした声で我に帰る。
 やっ、やっぱりおかしい。経験もないのに、こんな……。

かりん「すごいだろう? 我のテクニックは。どうだ? 探偵を裏切るのならもっとすごいものを味あわせてやるぞ?」

 両手を私の身体に回し、抱きしめながらかりんちゃんが身体をこすり合わせてくる。ちょうど重なった胸の部分に柔らかい感触が。でも撫でられるよりはもどかしいくらいの刺激で、餌を前におあずけされているような気持ちになってしまう。

いろは「そ、それは――ううんっ、そんなこと絶対しない!」

 つい流されてしまいそうになるも、強すぎる快楽に抱いた不安が勝ち、首を横に振る。
 そう。これはかりんちゃんの妄想。だからきっと、私のこの反応も妄想の弊害なのだろう。つまり、かりんちゃんが私のことをこんな反応する女の子と思っているのか、それともかりんちゃん自身の設定がとんでもないテクニシャンなのか。
 かりんちゃんのセリフから察するに後者のような気がするけど……いよいよかりんちゃんへの罰ゲームの様相を呈してきた。
 かりんちゃんはこの夢を見たことを覚えてるらしいけど、絶対話せないよね。

 なにはともあれ、しっかり自分の意識は保たないと。
 ん? ……あれ? でも、これって妄想をなぞるから……結局意味ない!? 抵抗しようと決めたことも理由がはっきり言えないし。


かりん「ふむ、そうか。ではボディーチェックを続けるとしよう」

いろは「……あれっ!?」

 パッとかりんちゃんが私から離れる。その刹那、瞬きくらいの時間で起こった変化に私は驚愕する。私の探偵風味な服が綺麗に剥がれていた。腕をがっちり固定されていたにもかかわらず綺麗に、だ。
 前を見ればかりんちゃんの手の上に私の着ていた服がかかっている。破れた様子はない。さ、流石は大怪盗――という設定の妄想。

いろは「そ、その……これ以上は何も隠せないと思うけど?」

 服を奪い盗られ、下着とニーソックスに靴だけ。変にマニアックな姿になった私は自分の身体を見下ろしつつ弁明を始める。
 薄ピンク色で上下を揃えた下着。身体は現実と変わりないけど、服がなくなったことでパンツの違和感を強く感じるようになってしまう。かりんちゃんに触られた時のせいだろう。太ももにも滴ってるかもしれない。
 私の言葉通り、真っ赤になってしまいそうな恥ずかし過ぎるそれも今も隠すことはできず、かりんちゃんに晒すことしかできない。
 脚をモジモジと擦りあわせ、できるだけ見えないようにしながらかりんちゃんに言うと、彼女はゴクリと唾をのむ。

かりん「……そんなことはないぞ」

 人が『欲情した』とはっきり分かる表情、初めて見たかも。なんて暢気な心の声を発していると、かりんちゃんが指を鳴らす。

いろは「――なぁっ!?」

 今度はしっかり目で捉えた。まるで瞬間移動みたいに下着がかりんちゃんの手に移ったところを。
 驚く私の前でかりんちゃんはそれを床に置いた私の服の上に投げ、前へ。


かりん「まだ、隅々まで調べる必要があるな」

 またすぐ近くにかりんちゃんの顔が。急上昇する体温に硬直していると、視界外でかりんちゃんの手が素肌に触れる。肌と肌、かりんちゃんのすべすべとした指が私の胸に。小さい膨らみを揉まれ、甘い快楽が頭を走る。

いろは「あっ――んむっ」

 反射的に喘いだ私の口を、タイミングを計ってかりんちゃんが唇で塞ぐ。彼女に見惚れていた私だけど、急なことに驚いて目を閉じてしまう。
 勿論口も閉じようとして――その間を、かりんちゃんの舌が割って入る。

かりん「んっ、ふぅ……ちゅ」

いろは「ふぁ――っ、ぁ、んん」

 真っ暗な視界の中、かりんちゃんが私の口内を蹂躙する音が頭に響いてくる。唾液が混ざり、粘膜が擦れ合う淫靡な音。
 重なった唇は信じられないほど柔らかく、彼女の舌と私のものが絡む度、気持ちよさに身体が震えてしまう。

いろは「ぁっ、はぁ……ん、ぷぁ♡」

 彼女の熱に理性が溶かされるような心地よさと息苦しさ。頭がぼんやりして、いつの間にか口を開き舌を出したままの私をかりんちゃんが遠慮なく愛撫する。
 唇で舌を挟んだり、先を吸ったり、経験したことない快感に、苦しさは二の次。
 もっと。もっとしてほしい。考えられるのはそれだけで、私はきゅっと瞑っていた目を開く。


かりん「……ん」チュ

 彼女も感じていたのだろうか。私と目が合った彼女は若干涙目で、にっこりと笑う。いやらしい表情に心を奪われたのもつかの間、かりんちゃんがぐいっと私の頭を自分へと寄せ、再び深く口づけをはじめる。そして私の気持ちを読んだのか、胸に触れていた手で胸の突起をつまんだ。
 酸欠と快感にぼやけていた意識が一気に澄み、そして高まり――

いろは「ん、ふぁっ――あ、んうぅっ♡」

 一気に解放される。身体がガクガクと震え、触られてもいない下半身が熱く疼くのを感じる。目の前がチカチカと瞬き、強張った身体が弛緩。
 繋がった口からくぐもった嬌声が漏れる。

いろは「はぁ……っ、はぁ……♡」

 唇を離され、ぐったりとしてしまう私。ほぼ意識がなく絶頂の余韻が支配する頭。虚ろな目で舌を出したまま呼吸を繰り返し、唾液が垂れることも気にかからない。
 ほやっとした視界の中で、項垂れていたせいか足元に飛散している水滴が目に入った。よく見れば私の脚に透明な水の筋が。

かりん「まだ触ってもいないのにこんなに……どうだ? 我に協力するなら、更に強い快楽を与えてやろう」

いろは「ん、ぷぁ……ぁ♡」

 頭が働かない。かりんちゃんが私の内ももを撫で、蜜を付けた指を口へ入れてくる。人差し指で私の舌を撫で回し、口になんとも言えないいやらしい味と感触が広がる。
 経験のない状態でとても現実味のないレベルの快感。すっかり理性が飛んでしまった頭の中は、かりんちゃんから与えられる快楽のことしかなくて。
 私は夢見心地のまま、無意識に脚の間にあるかりんちゃんの脚へ擦り付けながら懇願する。


いろは「お願い……協力するから、もっと、気持ちよくして……?」

かりん「……。わ、分かった。交渉成立だな」

 ……一瞬目を逸らした?
 ちょっと落ち着いてきた頭に疑問が浮かぶものの、それは次の瞬間に吹き飛ぶ。

かりん「いくぞ……」

いろは「あっ、ぁ……入って――んうっ♡」

 かりんちゃんの指が下半身、秘所を撫でゆっくりと中へ入ってくる。身体の芯に直接差し込まれるような快感に、大した動きはしていないのにもう限界が近くなってしまう。
 身体を反らして反応する私を、かりんちゃんは容赦なく攻めはじめる。

かりん「そんなに腰を揺らして……聞こえるか? 敵に触られてこんなに濡らしているぞ?」

 指が抜き差しされる度、粘着質な水音が聞こえてくる。恥ずかしい……けど、そんなことを気にしてられないほど強烈な気持ちよさが彼女が一動作起こすごとに私を襲う。
 弱い絶頂の波が何度も押し寄せ、意識が点滅するかのように遠のいては目覚めてを繰り返し、苦しさもある筈なのにそれすらも快感の前ではどうでもよく。

いろは「あっ、はぁっ――ん、うっ♡」

 言葉を発する余裕もなくされるがままに愛撫を受ける。もう身体を拘束されていないとしても何もしないだろう。


かりん「――よし、そろそろイクといい」

いろは「あっ、あっ♡ もっ――う、いくっ♡」

 耳元でかりんちゃんが囁く。彼女の言葉に従うように私の快楽は上りつめ、そして――

いろは「ふああぁっ!♡」

 最高潮に達する。高まった快感が頭の中を塗りつぶし、身体が電撃を受けたみたいに震え、秘部から大量の蜜が噴き出る。
 絶頂を終えてもなお強い余韻が残り、私はぐったりと脱力。

いろは「は……っ、ぁ……♡」

かりん「少しやりすぎたか。まぁ、よい。これで駒として使えるのだ」

 ぼんやりした視界の中、かりんちゃんが機械を取り出し、ボタンを押したのが見えた。すると手の圧迫感が無くなり、身体が床に倒れるのをなんとなく感じた。
 拘束を解かれたのだろう。と、他人事みたいに考えたのが最後。

かりん「色々、活躍してもらうぞ……新米くん」

 かりんちゃんの声を聞きながら、私は眠気に襲われ意識を手放した。






いろは「はうあっ!」ガバッ

 それはまあされるがままな悪夢から私は突然目覚めた。
 奇声と焦燥感、寝坊確定な二度寝から覚醒したかのような慌てっぷりで身体を起こすと、そこは自室のベッド。
 身体にはしっかり毛布までかけられており、まるで本当にただ眠っていたみたいな感じ。

フェリシア「おわっ!? い、いろは!?」

 ただ違うのは、ベッドの横に座るフェリシアちゃんがいること。
 突然起きた私に飛び跳ねて驚き、彼女は心配そうな顔をする。

フェリシア「大丈夫だったか? なんか、すげーうなされてたけど。――エロい声で」

いろは「あ……。う、うん。一応安全といえば安全な夢だったから」

 健全ではなかったけど。精神的な貞操は守れなかったけど。
 現実の私がどんな声を出してたのか気になる。

 ……それにしても。

 額に手を当て、私は思い出す。
 今思い返しても、本当に現実みたいな夢だ。記憶がはっきり残ってるし、かりんちゃんの指が触れる身体の感触だって生々しく覚えている。
 ……うぅ。
 かりんちゃんの方に変な影響ないといいけど……。


 遅くなりました!
 とりあえず書いた分を投下して、今回は落ちます。続きはフェリシアの話を再開というところから。最後に判定だけ


 ↓1 かりんの好感度上昇判定
    コンマ二桁で判定。その2分の1、好感度上昇

 御園かりん
 55 → 97(+42)
 「夢の中でのことが頭に思い浮かぶの……」



かりん「っ――ぷはぁっ!?」

 御園かりんは長いようで短い夢から目を覚ました。
 悪夢から目を覚ましたかのように息は上がっており、けれど決して悪い気分ではなく。
 ぼんやりと、鳥の囀り代わりに聞こえる人々の喧騒をバックにかりんは夢での出来事を反芻した。
 自身の視点で現実と変わりなく自然な流れで展開された夢。夢に出てきた相手――環いろはにした行為は全て現実味があって、目を覚ました今も手に感触があるような感覚が残っている。
 自身の技術でいろはがかりんへ見せたあられもない姿。快感に抗い、それでも堕ちてしまう彼女の淫靡な反応。

かりん(……さ、さっきまで嫌ってたのになんでこんな夢を見てるの……?)

 まるで自分がいろはをそんな対象に見ていたかのような夢に、かりんは困惑する。彼女以外にも魔法少女、女の子の知り合いはいるのに。そもそも彼女は同性なのに。


かりん(まさか私、いろはちゃんのことが……?)

 未だ冷めない混乱の中、視線を動かすかりんは自分が喫茶店にいるのだと思い出す。

かりん(えーと……確か先輩をお茶に連れ出して、それで突然眠くなって……)

かりん「そ、そうだったの! ごめんなさい、アリナ先輩――」

 喫茶店に強引に連れて行って寝落ち。絶対に怒られる、とぼんやりした思考を放棄し即座に謝罪する。

かりん「……あ、あれっ?」

 けれども罵倒も、呆れたため息も返ってこない。それもそのはず、彼女の前の席には誰も座っていなかった。
 先輩がいるはずの椅子は無人で、その前、テーブルに一枚のメモが。

かりん「……」ゴクリ

 とりあえずのお説教は回避されたものの、これはこれで怖いものだ。恐る恐る手を伸ばし、メモを読む。

『アリナ、ミッションに戻るカラ。誘っといて寝るなんてほんとフールだヨネ。お金は払っておいたケド、後で覚えておいて』

 普段の口調に直すと、おおよそそんなことが書かれていた。後で覚えておいて。その一文だけは原文そのままだが。


かりん「あ、あわわ……」

 確かな恨みを感じさせる文面に戦慄するかりん。けれどそれ以上に、彼女の心を乱す事実がそこにはあった。
 馬鹿と言われることよりも、先輩が怒っているということよりも気にかかる点。それこそは――

かりん「アリナ先輩、そんなにいろはちゃんをストーキングしたかったの……!?」

 ――突然眠るかわいい後輩を置いて、それも奢りまでしてストーキング活動を再開する先輩の存在であった。


 ○

  
いろは「はああぁ……」

 深く、ふかーく、私は息を吐いた。大きく吸って吐く。深呼吸みたいなため息をして、私は頭を抱える。

いろは「このウワサも、やっぱり厄介だね……」

 分かっていたことではある。けれど最初から厄介と思っていたところに、あのランダムで襲いかかるトラブル。これからどうなるかを想像すると恐怖すらも感じる。
 今回のかりんちゃんの妄想だって、一歩間違えれば嫌いな相手をいじめる内容になっていた可能性だってあるのだから。
 ひょっとしたら、好感度を操作されたり、記憶を改竄したり……そんなことも起こるかもしれない。

フェリシア「まー、大丈夫だろ。今回はマギウスも見てるだけなんだろ? なら、仲間もいっぱいいるし心配ないって」

いろは「う、うん……。そこは頼もしい、けど」

フェリシア「けど?」

 沢山仲間がいるだけ、今回のウワサの厄介さが増してくような気がしてならないんだよね……。という心の声は胸にしまっておこう。
 悪いのはウワサだし、口にしてフェリシアちゃんを不安にさせちゃうのも嫌だから。


いろは「――なんでもない。言い間違えちゃった。そうだよね。みんなに頼ればきっとうまくいく筈」

フェリシア「そーそー。今まで通りだって」

 にっこりと笑うフェリシアちゃん。彼女にそう言われると、根拠はなくても信じられる気がした。

いろは「うん。ありがとう、フェリシアちゃん」

フェリシア「おう、どーいたしまして」

 お互いに笑みを向けて笑い合う。フェリシアちゃんの笑顔を見ていると、自然と不安も安らいでいく。
 鶴乃ちゃんもさなちゃんもそうだけど、彼女も、フェリシアちゃんも自分の気持ちを知られたのに全然変わらない。一連の騒動で変化だらけで振り回されてきた私には、それがとても有り難い。

フェリシア「――で、休むんだろ? 昼までまだ時間あるし、寝ててもいーぜ」

いろは「あ、うん。それじゃあ横になってようかな」

 実際に疲れていたので遠慮なくベッドに寝ることに。フェリシアちゃんはベッドのすぐ横、クッションを敷いて座る。身体を前に倒してベッドに上半身を乗せて頬杖をついた。
 昨日からずっと騒がしかったせいで、今こうしてのんびりしているとやけに静かに感じてしまう。夜寝た時と微妙に違うのは、フェリシアちゃんが隣で見ててくれるからかな。
 そんなことを思って隣を見ると、フェリシアちゃんが口を開く。


フェリシア「なぁ、いろは。辛くないか?」

いろは「え? 辛くは……ないかな。今のところ」

フェリシア「……女の子に好かれてるのに?」

 フェリシアちゃん、気にしてたみたい。言葉を発する前の間でなんとなく分かっちゃった。表情も不安げだし。

いろは「そこは全然気にならないかな。私自身、女の子をそういう目で見られるかと言われると……よく分からないから」

フェリシア「そっか……」

 複雑そうな顔をするフェリシアちゃん。彼女が何を考えてるのか、今度はすぐ分かった。出会ったばかりの頃に時々見せていたその表情――私は手を伸ばす。

いろは「でも、フェリシアちゃんが私の運命の人だったら――すごく嬉しいな」

 彼女の頭に手を乗せ、にっこりと笑う。女の子を恋愛対象として見られるかは分からない。でもフェリシアちゃんと恋人になれるのなら、私はそれを喜ぶだろう。矛盾しているようだけど、それが私の本心だ。


フェリシア「――っ」

 フェリシアちゃんは目を見開いて……あれっ? すごく顔が赤い。私が頭を撫でると、すごく恥ずかしそうな顔をしてもじもじする。
 よく考えると告白にしか聞こえない台詞だったんだけど、私はフェリシアちゃんを安心させようとしか思っておらず。想定外なリアクションを見せる彼女に若干戸惑いつつ言葉を続けた。

いろは「それは他の魔法少女の子たちも同じ。みんないい子ばかりだし、助けられてきたから……」

フェリシア「……やっぱりか」シラーッ

 こ、今度はすごく死んだ目を……。

いろは「えっと……フェリシアちゃん? 私、まずいこと言っちゃったかな?」

フェリシア「なんでもねーよ。ったく、もう。全然意識してねぇのな」

いろは「意識?」

 ぽかんと首を傾げる。そんな私を見て、フェリシアちゃんは大きなため息。頭に乗っていた私の手を下ろし、ベッドの上に身体を乗り出す。
 急に私へ顔を近づけてきたフェリシアちゃん。私が反応する間もなく、彼女はほっぺへと口づけをした。


いろは「えっ、あ――フェリシアちゃんっ!?」

フェリシア「あんまりむぼーびにしてると、食っちまうからな! き、気をつけろよ!」

 わ、わぁ顔が真っ赤……。捨て台詞みたいなことを言い放ち、フェリシアちゃんは素早く部屋から出ていく。

いろは「無防備……?」

 取り残された私はドキドキしながら彼女に言われた言葉の意味を考え、悶々とした休息を過ごすのだった。



 フェリシア編 1話進行
 フェリシアの好感度が+8 現在98


 【遅れました! そしてアニメ化おめでとう!今更ですが

 今回は次の魔法少女指名の安価を出して落ちます】


 ↓1、2 次に会う魔法少女を一人指名
      未登場、登場済問わず
      未登場の場合はコンマで好感度測定も同時に行われます

 かえで 好感度4 顔見知り……? 敵対? レベル
 かこ  好感度68 親友レベル

 
 
 その日の午後。


ひなの「……」

 ひなのはまたしても喫茶店にいた。
 奇しくも午前、彼女が座っていた席とまったく同じ場所で同じ飲み物を口にする。唯一違うのはここへ彼女を呼び出した人間か。
 さながら一度読み終わった本を読み返す気分。道を流れていく人を眺め、コーヒーを口に含む。余裕と退屈。喫茶店のテラスは街の喧騒から一歩ほどしか離れていないのに、やけに静かに感じられた。

ひなの「――いやいや。気取ってる場合じゃないだろう」
 
 一人で唐突にツッコミを入れる。
 梨花の相談に付き合い、そこから雑談に発展。あれやこれやとマシンガントークに付き合い、やっと店を出たと思えば今度は呼び出されてまた店内へ。
 そして自分を呼んだのは……嫌な予感しかしない相手。

ひなの「れん……。アタシを呼び出すなんて、嬉しいのやら戸惑うのやら……」


 五十鈴れん。
 梨花と仲の良い後輩である。つい最近までは世間話ですら中々話せない子だったのだが、呼び出してきたということはおそらく個人的な話。または相談か。信頼関係が少し進展したということなのだろうか。
 普段の彼女を知っているからこそ、ひなのは断る気にはなれなかった。……れんの親友が女性に告白した、という複雑な状況があるタイミングでも。
 
ひなの「フフ……アタシも大人の頼り甲斐というものが身についてきたかな」

 単純に頼られて嬉しい、という気持ちが大きいのも承諾した理由ではあるが。
 さて、待機して十分ほど。電話してから外へ出るとなるとこの倍以上はかかる筈だが、意外にも待ち人はすぐに店へやって来た。

ひなの「来たか。こんにちは、れん」

れん「あ……こ、こんにちは。お忙しいところ、ありがとうございます……」

 ぺこりと頭を下げ、れんは着席。
 見たところ落ち込んでいたり、暗い様子はない。メニューを渡しつつ観察する。部活があるひなのは休みの日も大抵そうなのだが、目の前の彼女も制服姿。


ひなの(……学校に行ってきた、それとも行くのか? もしかして、いろはに会ったり……)

 それで自分にアドバイスを、とそこまで考えて有り得ないと断定する。

ひなの(いや、それだとれんの様子と食い違うよなぁ……。いつも通りに見えるし)

 メニューを開き、それをじーっと見つめる彼女。しばらくするとボタンを押して店員を呼び、小声で注文。
 至って普通。れんが悩んでいたり、落ち込んでいる時は言葉に詰まることが多い。が、今はそれがまるでない。

ひなの(……むしろ浮かれてる? それは無いか)
 
れん「ぁ、あの……」

ひなの「――っと。悪い。ぼんやりしてた。今日はどうしたんだ?」

 問うと、れんは視線を下に。少しだけ俯いてしまう。頬はほんのり赤く、けれどこの時初めて悲しげな感情を表情に出す。矛盾しているような、複雑な気持ちの現れ。不意にひなのは梨花の姿を思い出した。

ひなの「……恋愛の話か?」

 普段ならからかい口調で言うようなこと。けれどそんな気にはなれなかった。


れん「……」コクリ

ひなの(ま、マジか……)

 恋愛。タイミングがタイミングだ。
 いろはのウワサ騒動に梨花の告白。それらが起こった後に梨花と親しい彼女が恋愛相談。――考えられるのは一つしかない。

ひなの(そうか……梨花のことを……)

 やはり、梨花のことが頭に浮かんでしまう。友人の告白をきっかけに自分の気持ちを知って――

れん「その……でも、女の子同士で……」

ひなの「……単刀直入に聞くが、それは恋愛感情だとはっきり言えるか?」

れん「……はい」

 コクン、と小さく頷く。頭を上げたれんはひなのと目を合わせる。嘘や強がりは感じられない。正真正銘、本心から好きなのだろう。
 れんの真剣な表情に、ひなのも気持ちを引き締める。状況は複雑だ。魔法少女の感情の揺れは死を招くこともある。自分を頼ってくれた後輩を悲しい目に会わせることはしたくなかった。
 ――と、真面目に考えて椅子に座り直すひなのの前。膝の上でギュッと拳を握っていたれんが、今度は恥ずかしそうに両手の指をもじもじと弄り始める。

 
ひなの(……本当に複雑だな)

 シリアスなやり取りをしていたつもりが、次の瞬間は和やかな雰囲気に。コロコロ変わるれんの表情に、ひなのは改めて思った。
 顔を真っ赤にさせ、チラチラとひなのを見、落ち着きなくれんは口を開く。

れん「……ぇっと、さっきはウワサの影響もあるんですけど……そういう、邪な気持ちにも……なって。は、はぃ……。抱きしめて……触って、しまいました……」
 
ひなの「――ぶっ!?」

 心構えも何もしていないところにいきなり爆弾投下。しどろもどろに話すれんの言葉に、梨花を襲うれんの図が脳内に浮かびひなのは口にしていたコーヒーを吹き出した。
 恋愛感情に気づいたその時から、もうお手つき済みとは完全に想定外であった。
 が、そういう対象として見ていると、分かりやすくはある。

ひなの(そうだ、落ち着けアタシ。触っただけだ。ウワサの影響も……ん? ウワサ?)

 ピンク色の想像に気を取られていたが、クールダウンした頭に一つの単語が引っかかる。
 ウワサ。今、そのワードを聞いて思い出すのは……


れん「都さん、大丈夫ですか……?」

ひなの「あ、あぁ。……その、もしかしてだが、梨花じゃないのか? 相手は」

れん「……えっ!? り、梨花ちゃんとなんてそんな……っ。違います、はいっ……」

 『梨花ちゃんとなんて』釣り合い、と思っているのだろう。聞かれて盛大に狼狽えるれん。ひょっとしたら無意識に遠慮して引いてるいるだけで、梨花にも……とひなのは感じてしまうが、今はそれどころではない。

れん「私が好きなのは……い、いろはさんです……」

 ――恋する乙女な顔で、環いろはの名前を口にする五十鈴れん。彼女の相談に乗っているのだから。

ひなの(そっ、そっちかぁぁ! 完全に読み違えてた! いやそもそも読めるか! 昨日鶴乃の好感度カンストに、やちよさんの下心に、梨花の告白で驚いてたとこにコレだぞ。いろはは何だ、サキュバスか何かなのか! いやその言い方はよくないけど、女性人気すごいな!)

ひなの「そ、そうかぁ……で、いろはに触ったわけだ」

 脳内は駄々こね状態で、本体は努めて冷静に、けれど訳の分からないセクハラ発言。ひなのは完全に混乱していた。


れん「はい……その、お尻を……」

 そしてそれに素直に答えてしまう彼女もまた混乱しているのは言うまでもない。
 れんの頭が一連の出来事についていけていないのは当然のこと。恋心もないうちから恋愛感情を抱き、告白し、ついには暴行未遂、そして頭部強打。目覚めてからは明日香にギクシャクした感じで説明をされ……彼女と別れた後はほぼ反射的にひなのを呼び出していた。
 普通の人間ならば、ベッドで半日は頭を抱えてようやく呑み込める案件。その時間がほぼ皆無というなら、どうなるかはお分かりだろう。

ひなの「……ウワサって、大変だな」

れん「はい……とても……」

 遠い目をして二人でしばし沈黙。少々落ち着いたところで、ひなのはため息を吐く。

ひなの「まぁ……ここに呼ばれた理由は大体分かった。梨花のことで申し訳なくなったんだろ?」

れん「……」

 黙秘。視線を下に向け、口を閉ざしてしまうれん。
 けれどもそれが肯定を意味していると流れで分かるし、彼女の表情がそう物語っていた。
 告白した友達のことを知っていての行動。それは彼女を裏切ることと同義。


ひなの「……。気にすることはないんじゃないか?」

 考えて、ひなのは一言口にした。
 適当そうな言葉を意外に思ったのか、れんは勢いよく顔を上げる。しかしひなのの表情を見て、本気で言ったのだと理解する。

ひなの「アタシは……梨花のこと、少し知っていてな。今のれんの行動を知ったら、きっとあいつは喜ぶと思う」

れん「……」

 自分のようにはなってほしくはないから。梨花ならばそう思うはず。それに多分、同じ人を同じ性別の友人が好きになったと、仲間ができたと喜びすらすると思うのだ、彼女は。
 はしゃぐ梨花を想像し、ひなのはフッと笑う。

ひなの「それにな……」

 それに、れんの行動が問題ないともう一つ言える理由があった。それは梨花の過去や優しさ、れんの気遣いや不安――それらとはまた違う、シンプルな事実。

ひなの「いろは争奪戦は凄まじい激戦区だ」

 みかづき荘に加え、梨花を含むその他魔法少女まで。今更れんが加わっても全体的に見れば些事に違いない。
 


れん「えっと……あの……女の子同士、ですよね?」

ひなの「ああ……」

 間違いなくマイノリティなのだが、ここ神浜、ひいてはいろはの周囲では例外なようだ。それがウワサの影響ならまだ分かりやすいのだが、みかづき荘メンバーの好意は既に外部の人間も認知しているもので。特別いろはが好かれやすいと考える他ない。

ひなの「とにかくだ。今更れんが参加しても卑怯だなんだと騒ぎ立てる奴はいない。堂々としてればいい」

れん「……はい。ありがとうございます……」

 安堵した様子の後輩に、ひなの自身もまたホッと胸を撫で下ろす。恋愛の、それも女性同士の悩み相談。自信はなかったがどうやら少しでも力にはなれたらしい。

ひなの(れんが恋か……。それも、いろはに)

 我が子の成長を感慨深く思うような気持ちで、ひなのはこれまでを思い返す。自分と話すこともままならなかった少女が、友達と同じ人を好きになって想い人に気持ちを伝えた。色々と複雑な気持ちはあれど、喜ばしいことであった。


ひなの(……まぁ、いろはが大変なことになるだろうし、もうなっているだろうが……)

ひなの(応援するしかないだろう。後輩達の成長を)

 止めて、忠告したってやめたりはしない。
 自分も恋に関しては暴走気味な自覚はあるため、止める気にはなれなかった。ましてや消極的な彼女が告白、それを先輩に相談までしてきたのだ。

ひなの(5人以上から好意を……。今度そのモテモテさの秘訣を教えてほしいものだな……)

 今回は黙って成り行きを見守るしかない。
 どんどん厄介さを増していく後輩の状況に、ひなのは苦笑しつつ彼女の無事を祈った。

 




 家にいるだけじゃウワサは解決しない。
 危険だけれど外にも出なきゃ。そんな想いで、仮眠から昼食をみかづき荘のみんなで食べて、私は一人午後の外出に。

いろは「……どうしよう」

 外出……したのだけど、私は困っていた。
 原因は少し遠くに見える二人の少女と数字。なんで私が困っているのかは言わずともなんとなく分かるだろう。
 低いか、それとも極端に高いか。今回は……

かえで「それでね、レナちゃんとももこちゃんがいろはちゃんに――」

かこ「そ、そんなことがあったんだ……。フェリシアちゃん大丈夫かな……」

 かえでちゃんは好感度4 。
 かこちゃんは好感度68。

 私のことを嫌っている子と、友達と思ってくれてる子の二人組。それだけなら勇気を出して飛び込んでいくところだけど……二人は同じチームを組んでいて、とっても仲が良い。
 それに加えて、かえでちゃんが所属しているもう一つのチーム……レナちゃんとももこさん達とも仲良し。
 で、かえでちゃんの好感度が判明した今、ももこさんのチームメイト全員から嫌われちゃってることが確定したわけで。
 そんな彼女が、私が昨日二人を巻き込んだことを話しているのだから――行くべきか見て見ぬフリをすべきか迷ってしまう。
 せめてかえでちゃん一人なら、頑張ろうと思えるのだけど、今行くとかこちゃんとかえでちゃんの仲も悪くさせてしまいそうで怖い。
 かえでちゃんが暴走してしまったら、間違いなくかこちゃんも巻き込まれるだろうから。

いろは「うーん……」

??『何迷ってるの? とりあえず理由、行くわよ』

いろは「――へっ? えっ、ちょ」

 休日の通学路。私服姿で談笑している二人を、曲がり角から顔を出してじーっと観察していると不意に声が聞こえる。それがウワサのものと分かった時には遅く、私の頭に二人の言葉がどこからともなく聞こえてきた。


 ↓1 かえでの好感度4の理由
 ↓2 かこの好感度68の理由

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