【モバマス】雪解けと春の夢 (27)
長い、夢を見ていたような気がする
煌めく星々と、あたたかい仲間に囲まれていた夢。
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先日行った天体観測の記憶だろうか。でも、あの時は私一人で、帰ってから両親に怒られたはず。
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「アーニャ、もう起きなさーい!遅刻するわよー!」
階下からママの声がする。
時計が示すのは出発時間の45分前、そんなに焦らなくてもいいのに、と思うが、ぼーっとしていると何だかまた眠くなってしまうので、ゆっくりとベッドを下りる。
リビングではママが朝食の支度をしてくれていて、まだ少し寝ぼけた頭を覚ましながらそれを食べる。
僅かに白い湯気を立て登らせる、蜂蜜入りのホットミルクのマグカップで手を温めながら、ほう、と息をつく。
北海道の冬は、言うまでもなく寒い。
でも、私はきっと、もっと寒い冬の中にいた。
教室へ着いても、誰かと挨拶を交わすことはなく、そのまま自分の席へ。
近くの机でクラスメイトたちが楽しそうに会話しているのを聞き流しながら、1時間目の授業の支度をする。
もうすぐ三年生へ進級する大切な時期、逆に言えば忙しくなる前の最後の自由な時間。みんなが浮き足立つのも分かる。
先生が入ってきて、朝の会が始まる。特別なイベントも無い、ありきたりな1日。
授業中も、休み時間も、私はひとりだ。
いじめられているのとは少し違うような気がする。ただ、誰も私に近寄らないし、私も誰にも近寄らない、ただそれだけと言ってしまえばそれで終わってしまう。
何故、と聞かれれば、怖いから、と答えることになるのだろう。
慣れたのか、と聞かれれば、それは否だ。
独りでいることに全く慣れない訳ではない。もう、それなりに長い時間を過ごしてきた。
それでも、寂しいものは寂しい。
しかし、今更誰かに話しかけるような勇気が、私には無かったのだ。
私の雪色の髪も青い瞳も、なんだか忌まわしいものに思えてしまう。
私が星に魅入られたのも、当然だったのかもしれない。
夜空の星々は私を受け入れてくれる。何億年もの時を超えて、私と語り合ってくれる。
その時間だけは、私は一人でも、独りじゃない。
ああ、きっと私はこのまま歳をとって、人知れず生きていくのだろう。
やはり、それは少し、寂しい。
そう、思っていた。
長い、夢を見ていた気がする。
少し前の事なのに、ひどく昔のように感じる、永い永い冬の季節の記憶。
残暑も緩み、少しずつ秋の気配が漂い始める季節。
時計に表示された日付は9月19日。
眠い目をこすりながら食堂へ向かうと、もうみんなは朝食を食べ始めていた。
「あーにゃん!おっはよーにゃあ!」
「Доброе утро、ミクは朝から元気、ですね」
「まぁみくはパッションだからな~」
「え、奈緒チャン酷くない!?」
他愛のない会話。
私が彼から貰った、大切なもののひとつ。
「あ、そうそう、今日あーにゃんの誕生日でしょ?夜にここでホームパーティするから楽しみにしててね!」
「ダー、分かりました。…でも、そういうものはサプライズでやるのではないのですか?」
「あー…それはみく達も考えたんだけどね」
「結局妙にひねるより普通にやった方がいいんじゃないかってなってな」
「なるほど…ですね。ありがとうございます、ミク、ナオ」
「お礼ならPチャンに言っておいてにゃ!事務所のみんなでパーティやるとあーにゃんが楽しそうだから、って今回の話出してくれたんだよ!」
プロデューサー。
私に雪解けをもたらしてくれた人。
この髪も瞳も、綺麗だと言ってくれた人。
私をアイドルにしてくれた魔法使い。
私の、大切な人。
朝食を食べ終えて、遅刻しないうちに寮を出る。
中学三年でアイドルになり、都内の中学に転入した後、レッスンをしながら勉強をして都内の高校へと進学した。
今年度から本格的なアイドル活動が始まり、少しずつ出演を増やしている。
教室へ着くと、数人のクラスメイト達が近寄ってくる。
「アーニャちゃん誕生日おめでとー!」
なんて言いながら、各々プレゼントを渡してくれる。
この高校はプロダクションがお世話になっているようで、アイドルやその候補生が何人もいるため、生徒も心が広い人が多い。私と友達になってくれる、優しい人達だ。
昔は考えられなかったようなお祝いをたくさん受けて、たくさんのプレゼントを抱えて寮へと帰る。夕方の風は既に少し肌寒いが、なんだか体がほっこりと暖かくて、気にならなかった。
今日はレッスンはお休み。
「準備が整うまで待っていてほしいにゃ!」と言われたので、部屋で貰ったプレゼントの確認をする。
いっぱいのアクセサリや食べ物を並べながら、クラスメイトの顔を思い浮かべてクスリと笑う。不揃いなクッキーだって、大切な宝物だ。
暫くすると、ドアがノックされる。
「やぁ、迎えに来たよ、今日のプリンセス」
ドアを開けると、そこに立っていたのはエクステが特徴的な女の子。もちろん彼女も同じプロダクションの仲間だ。
「ありがとうございます、アスカ」
「なに、いい機会だったからね。この前はキミに助けられたから、礼をしなければと思って協力させてもらったのさ」
「ランコとアスカが仲直りできて、私も嬉しいです」
そんなことを話しながら、食堂へ。
食堂は綺麗に飾り付けられており、いい匂いが漂っていた。
「さぁ主役の登場にゃ!みんな、準備はいい?Pチャンは後から合流するらしいから、先に始めるにゃ!それじゃあ…」
アーニャちゃん、お誕生日おめでとう!!
お祝いの言葉とともに、盛大にクラッカーの音が鳴る。
「さー今日は響子ちゃん達の特製手料理がてんこ盛りにゃ、あーにゃんもいっぱい食べてね!」
テーブルにはハンバーグやボルシチを始めとしたたくさんの出来立て料理が並んでおり、どれもとても美味しそうに湯気を立たせている。
少しずつ料理をつついていると、矢継ぎ早にみんなが話しかけてくる。
飛鳥やみく、蘭子や美波といったよく話す面々に、同好の士であるのあ、よく面倒を見てくれる奈緒、周子、つかさ。
話題は尽きることなく、パーティはどんどん盛り上がっていく。
でも、数時間ほど立ってもプロデューサーは現れなかった。
「ミク、プロデューサーはどうしました?」
のあに魚を食べさせられそうになっていたみくに聞くと、みくは複雑そうな顔で答えた。
「あー…Pチャン、お仕事長引いちゃってるみたいで…もしかしたら間に合わないかもって」
「そう、ですか…わかりました」
プロデューサーは私達のために働いてくれている。だから、仕方のないことなんだ。
そう自分に言い聞かせて、みんなとのおしゃべりへ戻る。
アイドルのみんなからもプレゼントをたくさん貰った。
飛鳥と蘭子からは雪の結晶をモチーフにしたネックレスを。みくからはネコミミを。奈緒と美波からは可愛らしい服を。のあやつかさ達からはなんと望遠鏡を。
それぞれにそれぞれの想いがこもった、素敵なプレゼント。
「名残惜しいけどそろそろお開きの時間にゃ。あーにゃん、楽しかった?」
時計が午後8時を回る頃、みくが再びマイクを持った。
「ダー…とっても、楽しかったです。みんな、Благодарю вас…アー、ありがとうございます」
「それはなによりにゃ!来年もやろうね!」
結局プロデューサーは来られなかったけれど、やはりみんなで集まって賑やかに行うホームパーティは素晴らしいものだ。
パーティが解散となると、みんなは各々の部屋へと戻っていった。
私はひとり、談話室でぼーっとしていた。
おなかの所に何か小さな生き物でもいるように、あったかくて、少しだけむず痒いような、そんな感覚に浸っていた。
ここにいれば、彼が来るような気がして。
そして、時計の針が10を指す頃に、談話室のドアをがたんと開けて彼は来た。
「アナスタシア!」
「Добрый вечер、プロデューサー。…待っていました」
「すまない、急にスケジュールの変更があって…」
彼は頭を掻きながら、バツが悪そうな顔をする。
「謝らないでください、プロデューサー。分かっています、全部、アーニャたちの為、ですから」
「ありがとう、アーニャ…いや、違うな」
カバンを開けてごそごそと何かを探すと、彼は小さな包みを一つ取り出した。
「誕生日おめでとう、アナスタシア」
「はい…ありがとうございます、プロデューサー」
包みを開けると、出て来たのはデジタルカメラだった。
「カメラ…ですか?」
「あぁ、藍子や椿に教えて貰って選んだんだ。……前に、今が夢みたいだ、って言ってただろ?えっと、だから、思い出を残せるようにと思って。夢じゃないんだって言いたくて…」
しどろもどろになりながら、ゆっくりと言葉を選ぶプロデューサーを見て、自然と目から涙がこぼれる。
「あっ、えっ…もしかして、気に入らなかった…かな」
「нет、違います…とっても、嬉しい、です」
この人は、本当に、どこまでも不器用で、優しい人だ。
私が以前、ふと零した弱音を覚えていてくれた。今の私は全部夢で、起きたらまた一人なのではないか…そんな風に言った、たった一言を。
これは、夢なんかじゃない。
アイドルとしての努力も、共にいる仲間たちも、大切な人も、この思いも。
私はもう、独りじゃない。
冬はいつか終わり、その後には春が来るんだと、彼が教えてくれた。
「本当に、ありがとう…Я тебя люблю、私のプロデューサー」
今はまだ、伝わらない言葉だけれど。
いつかは、彼にも届くように。
以上です。
改めてアナスタシア、誕生日おめでとう
過去作
【モバマス】追憶は珈琲と共に。
【モバマス】追憶は珈琲と共に。 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1504512248/)
ここのところ忙しかったので短めになってしまった
ギリギリ間に合ってよかった……
アナスタシアは某スレの影響で今年度に入ってから急に副担当まで上がって来た娘。シベリアンハスキーみたいで可愛い。
ではhtml化依頼出して来ます
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