――ショッピングモール内のカフェ――
<ワイワイ
<ガヤガヤ
<でさー神だったんだよねー マジー?
<この前は娘が―― うちも似たことがあって――
北条加蓮「お待たせー。メモ通りに買って来たよ」
高森藍子「ありがとう、加蓮ちゃんっ」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第54話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に 2回目」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「探り合いのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「9月に入った頃のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「休日のカフェテラスで」
<ワイワイ
<ガヤガヤ
<今月ピンチー あたしもー
<もっと分かりやすくすればいいのにねぇ 本当本当
藍子「抹茶のムースとストロベリータルト。それに、ロールケーキ」
加蓮「今、ここで一番売れてるスイーツなんだよね」
藍子「下調べ、しっかりしてきましたから!」
加蓮「藍子ちゃんのドヤ顔いただきましたー」モグモグ
藍子「加蓮ちゃんは、どれが――ってもう食べてるーっ」
加蓮「抹茶ムース美味しー♪ ふふ、こういうのは早い者勝ちだよ?」
藍子「待ってー! た、タルトだけは確保しておきますっ」
加蓮「でもどれもメチャクチャ甘そうなんだよねー」
藍子「苦いコーヒーを飲みながらだと、ちょうどいいかもしれませんね」
藍子「残念ながら、エスプレッソは取り扱ってないみたいですけれど……」スッ
加蓮「すごく苦い奴、だっけ? ……あ、でもこれすごいほっとする。コーヒーの匂い。いいかも」クンクン
藍子「お店に入った時から、甘い匂いが充満していましたよね……加蓮ちゃん、入った時に顔が引きつっていましたよ?」
加蓮「最初はね。もう慣れたけど」
加蓮「……なんでこう女子って甘ったるい物ばっかり好きなんだろ」
藍子「あはは、加蓮ちゃんも女の子……」
加蓮「藍子はジュース?」
藍子「アップルジュースです」
加蓮「コーヒーに飽きたら後でちょうだいー」
藍子「はーい」ゴクゴク
加蓮「わ、見て見て。これムースの中。抹茶とスポンジが組み合わさってアートになってるっ」
藍子「本当です。パンダの形、かな?」
加蓮「これは撮らなきゃ。それならもうちょっと綺麗になるように噛んで、っと。角度はこっちからー」
加蓮「あっ、ロールケーキはまだ手つけてないよね? こっちも撮っとこー」パシャ
藍子「んー……」
加蓮「これでよしっ。あーでもこれも使えるかもしれないからSNSにはやめとこ……って藍子?」
加蓮「何してんの? 指をカメラフレームの形にして」
藍子「ふふ。今の加蓮ちゃんを見ていると写真を撮りたくなっちゃって」
藍子「今は指にクリームがついているから、撮るマネだけでガマンです」
加蓮「ふーん……? 服につかないよう気をつけなさいよ?」
藍子「はーい♪ ありがとう、加蓮ちゃんっ」
加蓮「服といえば藍子、一応変装してるんだね。デニムの藍子なんて久々に見たかも」
藍子「歩き回る時はこうなんですよ。加蓮ちゃんもそのニット帽、すっごく可愛いです♪」
加蓮「ふふ、ありがと」
藍子「……あはっ♪」
加蓮「んん? んー……んー? 藍子、何か隠してるでしょ」
藍子「ええと……」ウーン
藍子「んー……」ウーン
藍子「えいっ」ピト
加蓮「わひゃ」
藍子「はい、ほっぺたのクリーム。取れましたよ」アム
加蓮「うぁー。ついちゃってたんだ。ってナチュラルにそのまま舐めるなっ」
加蓮「あむあむ」
藍子「ごくごく……」
加蓮「なんか意外」
藍子「?」
加蓮「ショッピングモールにスイーツカフェがあるなんてね。見通してた」
加蓮「カフェってこう、もっと静かなイメージとかあったから」
藍子「あぁ、なんとなく分かります」
加蓮「でも言われてみれば藍子の話に出てた気がする。改めて来てみると、へー、って感じ……。ロールケーキもらっていい?」
藍子「はい、どうぞ」スッ
加蓮「さんきゅ。……うぇ。美味しいけど甘ー! なんで女子ってこんなのばっかり好きなのかなー。面倒くさい」
藍子「だから加蓮ちゃんも女の子……」
加蓮「甘いけど美味しいんだよね。藍子も食べなよ」
藍子「はーい。じゃあ、こっちのタルトを食べ終わってから頂きますね」
加蓮「……アンタさっきからずっとタルトばっかり食べてない?」
藍子「? アップルティーも飲んでますよ?」
加蓮「いやそうじゃなくて」
藍子「?」モグモグ
加蓮「……で、コラムはいいの?」
藍子「あっ」
加蓮「アンタ何しにここに来たの……」
藍子「……加蓮ちゃんとスイーツを食べに?」
加蓮「違うでしょーが」
藍子「ええと、メモ帳とシャーペンと……」ガサゴソ
加蓮「ほら、店員に取材をするとか、何かやることないの?」
藍子「今回は、店員さんにお話を聞くのは無しなんです」
加蓮「そうなんだ」
藍子「お忙しいみたいですから。お客さんとして利用して書いてください、って」
加蓮「そんなもんなんだねー」
加蓮「じゃ私は藍子の取材の為に残りのスイーツ食べちゃお。藍子の為だもんね。うんうん」アムアム
藍子「それ加蓮ちゃんが食べたいだけですよね?」ガシ
加蓮「だって藍子の為だもん。しょうがないよ」パク
藍子「何が"しょうがない"ですか!」
加蓮「もぐも……甘ぁ゛」
藍子「……………………」ジトー
加蓮「藍子ちゃん藍子ちゃん。目が怖いよ?」
藍子「はぁ……もう」
藍子「あ、そうだ」ポン
藍子「ここ、コーヒーのお代わり、自由だそうですよ」
加蓮「マジで!?」ゴクゴクゴクゴ...
加蓮「ぅげほっ」
藍子「わ。大丈夫ですか?」サスサス
加蓮「ゲホゲホ……う~」
藍子「もう。急にどうしたんですか」
加蓮「さんきゅ。いや、飲み放題って聞いたらいっぱい飲まないと損だって思っちゃって」
藍子「時間制限のあるバイキングじゃないんです。ゆっくりして大丈夫ですから。ねっ?」
加蓮「あはは。ついテンションがねー」
藍子「あははっ」
加蓮「ドリンクバーっぽいシステム?」
藍子「はい」
加蓮「……ドリンクバーってファミレスじゃないの?」
藍子「カフェにだってありますよ、ドリンクバー」
加蓮「ふうん……」ゴクゴク
藍子「あ、コラムのこと、また忘れそうになってました……。私、少しメモを取ることにしますね」ガサゴソ
加蓮「じゃその間に追加で何か買って来る。藍子は何がいい?」
藍子「それなら私も一緒に買いに、」
加蓮「ダメだよー。荷物の見張り番がいるし、藍子はメモ書くんでしょ? 2人で行ったら意味ないじゃん」
藍子「むぅ。……それなら、イチゴスティックと、チーズケーキで」
加蓮「はいはいっと」スッ
藍子「……」ミオクル
藍子「……」
藍子「……あ。メモ、書かなきゃっ」スッ
□ ■ □ ■ □
加蓮「ただいまー。お望み通りの物を――ん?」
藍子「ううぅ……」シュン
加蓮「どしたの?」
藍子「あ、加蓮ちゃん」
藍子「……うぅ」グスン
加蓮「……ホントにどしたの?」
藍子「コラムって……何を書けばいいんでしょう?」
加蓮「え? いや、前から書いてたんでしょ。カフェコラム」
藍子「いつもは……私の思うカフェのこととか、行った時のことを思い出してとか」
藍子「あと、周りの人にインタビューしてみたこととかだったから……」
加蓮「うんうん」
藍子「改めて、コラムの為にって思ったら、何をしたらいいのか分からなくて……」
加蓮「何書けばいいのか悩んじゃったんだね」
藍子「はい。……うぅ~」
藍子「加蓮ちゃん、何か思いつきませんか?」グスッ
加蓮「うーん」
加蓮(実際、ついてきたのはいいけど、私だってたまーにネイルの話とハンバーガーの話を書くくらいなんだよね)
加蓮(アドバイス、って言われてもね。思ったまま書いてるのを直してもらってるだけだし。正直言えば頼られてもって感じはする、けど――)
藍子「うぅ……」ウルウル
加蓮(……全く)
加蓮「コラムとエッセイは写真と同じような物!」
藍子「ふぇ?」
加蓮「ってモバP(以下「P」)さんが言ってた」
藍子「写真と同じような物……?」
加蓮「そこに景色があるから写真を撮るでしょ? そこに書くことがあるから、コラムとかって書く物……だってさ」
藍子「ふんふん」
加蓮「だからまず、そこにある物から書いてこ?」
藍子「はいっ」
加蓮「ねえ藍子。ここには何がある?」
藍子「ここには――カフェがあります!」
加蓮「……あ、うん。そうだね」
藍子「むぅ。何ですか、その呆れた目」
加蓮「呆れてるし」
藍子「だって加蓮ちゃんが、そこにある物から書こうって言ったんじゃないですか~」
加蓮「そうじゃなくてもっとこう……店内の感じ? とか?」
藍子「店内の感じ……」チラッ
<ワイワイ
<ガヤガヤ
<えーそれはないってー 面白いよー?
<えすえぬえす、というのが―― すまーとふぉん、は難しくて――
藍子「賑やか、ですよね。すごく賑やか」
加蓮「いっぱい人がいるよね。私達みたいに学校帰りの子も結構いるみたい」
藍子「賑やかなのに落ち着いた気持ちになれるのって、なんだか不思議ですよね。何故でしょう……?」
加蓮「なんとなくだけど、ここがカフェだからじゃない?」
藍子「ここがカフェだから……」
加蓮「賑やかだし、甘ったるい匂いしかないし、ドリンクバーあるし。スイーツバイキングかファミレスって感じはするけどさ」
加蓮「ほら、この落ち着いた感じのテーブルとか、天井でクルクル回ってるアレとか。いかにもカフェって感じじゃん」
加蓮「そういうことを書けばいい……んじゃないかなぁ――」
加蓮「ううん。そういうのを書けばいいんだよ、きっと!」
藍子「お~」
加蓮「……、……どう?」
藍子「なんだか、書ける気がしてきましたっ」
加蓮「よかった。じゃ、今言ったところまでやってみよ?」
藍子「はい! まずは……お店の中は――賑やかだけど、落ち着いた色のテーブルが……」カキカキ
加蓮「うんうん」
藍子「ここがカフェなんだと、思い出せてくれます」カキカキ
加蓮「何か別の言い方をしてみても面白いかも」
藍子「言い方……。落ち着ける場所……カフェっぽい場所……都会の中の癒やしスポット……」
加蓮「うんうん」
藍子「癒やしスポット? 癒やしスポット……!」カキカキ
加蓮「……あれ? これもしかして私ヒマになっちゃった?」
藍子「木製のシーリングファンも、カフェっぽい感じが……」カキカキ
加蓮「藍子ー。藍子ちゃーん。私ヒマなんだけどー。私も何か書いた方がいいー?」
藍子「少し疲れちゃった時にひと休みしやすい場所……学校帰りの子もいっぱい」カキカキ
加蓮「むむ」
藍子「"都会の中の癒やしスポットは、疲れた時や学校帰りにもオススメです。"……これでいいのかな?」カキカキ
加蓮「藍子。チーズかイチゴか」
藍子「いちご……」アーン
加蓮「ん」スッ
藍子「ついいっぱい、食べてしまいそうな――」モグモグ
加蓮(書きながら食べてる……。たぶん無意識だよね? これって)
藍子「食べてしまいそうな……気持ちに……ついなってしまって……。ええと……」カキカキ
加蓮「……」
加蓮「チーズかイチゴか」
藍子「チーズ……」アーン
加蓮「ん」スッ
藍子「たまには、ちいさな贅沢をしてみるのもいいのかも?」モグモグ
加蓮(……なにこれ面白い)
藍子「ちいさな贅沢を、みんなでしてみましょうっ、とか……」カキカキ
加蓮「でもヒマー」
藍子「うーん……」
加蓮「(こっそりと、藍子の口元に私の指を近づけてみる)」
藍子「あむ」ペロ
加蓮「うひぃっ」
藍子「あむあむ」ペロペロ
加蓮「ひぅ、ちょ、藍子!?」
藍子「あむ? ……あむあむ」ガジガジ
加蓮「ストップストップ! 痛い! それ私の指だから!」
藍子「あむあむ……。甘いけれど、ちょっぴりしょっぱくて……そんな変わり種のメニューも――」カキカキ
加蓮「タンマ! それはない!」ヒッコヌク
藍子「……ふぇ?」
加蓮「あーびっくりしたぁ……。そういえばそうだっけ……」
藍子「? 加蓮ちゃん? 急に大声出して、それにそんな顔……。どうしたんですか?」
加蓮「う、ううん何でも。それより藍子、順調そうじゃん」フキフキ
藍子「そんなことないですよ~」
藍子「あれ? お願いしたチーズケーキとイチゴスティック、どっちも半分なくなってる」
藍子「……加蓮ちゃん?」ジロ
加蓮「食べたのアンタだからね?」
藍子「加蓮ちゃんが冗談を好きでよく言うのは知っています。でも、冗談にしちゃいけないことだってあると思います」
加蓮「冗談じゃないし嘘でもなくて、アンタが無意識のうちに食べただけだからね……」
藍子「証拠はあるんですかっ」
加蓮「口の端。クリーム」
藍子「……?」フキフキ
藍子「あ」
藍子「……え、えへ」
加蓮「分かればよろしい。……なんてねっ。私が藍子に食べさせたの」
藍子「加蓮ちゃんが?」
加蓮「藍子にケーキとかスティックとか近づけたら小さく口を開けてさ。ぱくって。もぐもぐって食べて。餌付けみたいで楽しかった~♪」
藍子「私、本当に書くことに夢中になっていたんですね」
加蓮「うんうん。人の指を遠慮なくかじるくらいだし」
藍子「指……?」
……。
…………。
藍子「……うんっ!」パタン
藍子「メモ、これだけ書いておけばきっと大丈夫です!」
加蓮「おー」
藍子「まずは第一段階、おしまいです」
藍子「詳しいことは、帰ってまた考えたり、Pさんにも聞いてみないといけませんけれど……それは、帰ってからにしますね」
藍子「ん~~~。疲れたぁ~~~」ノビ
加蓮「お疲れ様、藍子。記念に何か食べる?」
藍子「ふふっ、お願いしてもいいですか?」
加蓮「お」
藍子「実は、さっき食べさせてくれた、イチゴスティックとチーズケーキ、あんまり味を覚えてなくて……」
加蓮「うんうん。買ってきてあげる」
藍子「ありがとう、加蓮ちゃん♪」
……。
…………。
加蓮「ただいまー。イチゴとケーキと追加でモンブラン……ん?」テクテク
藍子「ぼ~……」
加蓮「天井のくるくるしてるヤツ……シーリングファン、って呟いてたっけ……? を、ぼうっと見上げる藍子……」
藍子「ぼ~……」
加蓮「……魂抜けてる。あれ絶対魂抜けてる。くくっ」パシャリ
藍子「ぼ~……」
加蓮「ただいま、藍子」スワリ
藍子「お帰りなさい、加蓮ちゃん……」ボー
加蓮「そんなに疲れてたの?」
藍子「ちょっとぼうっとしてました……。わあっ、モンブランも買ったんですね♪」
加蓮「どれからいっとくー?」
藍子「せっかくだからモンブランからで!」
加蓮「ん」スッ
藍子「えいっ」パクッ
藍子「~~~~♪ 甘くて柔らかくて美味しい。それに栗の食感が食べごたえになって……私、これのためならここに通えますっ」
加蓮「それもそのままコラムに書けばいいと思うんだけどねー。無粋か」
加蓮「天井の。見てて面白かった?」
藍子「面白いというより、いつものカフェって感じだなーって」
藍子「くるくるしているのを見ていたら、ついぼうっとしちゃいました」
加蓮「くるくるくる~」
藍子「くるくるくる~」
加蓮「ぼうっとしてるからほっぺたにクリームをつけちゃう藍子ちゃん」
藍子「わ、また? 気付いたなら、とってくれてもいいじゃないですか」
加蓮「そのまま『次は藍子が買ってきて~』って言わなかっただけまだマシでしょ」
藍子「こんな顔で注文しちゃったら笑われちゃいますよ~」
加蓮「私がコラムに書いといてあげる。左下辺りにさ。写真つきで『クリームつけたまま注文しに行った藍子ちゃん』って感じで」
加蓮「そだ。今からそれ用の写真を撮っとこっか」
加蓮「ってことで藍子、クリームもっかいほっぺたにどうぞ」
藍子「やらせじゃないですかっ。それに、やらせじゃなくてもそれはイヤです!」
加蓮「ちぇ」
<すっ
加蓮「!」
<つかれたー
<今日は早く終わったねー
藍子「……? 加蓮ちゃん?」
加蓮「あ、ううん――」モゾ
加蓮(ここって隣のテーブルが結構近いし、私の座ってる側の座席はソファでひと続きになってるタイプなんだよね……)
加蓮(だから、隣に他のお客さんが来るだけでも、とても近くに来た気がして)
加蓮「……」スッ
藍子「……? 右にちょこっとだけずれた……」
藍子「さっきからどうしたんですか、加蓮ちゃん」
加蓮「あ、あはは……説明し辛いんだけどさ……」スッ
加蓮「(藍子に近づいて小声で)急に隣に人が来たから、ちょっとびっくりしちゃった」
藍子「はあ」
加蓮「(離れて)電車とかでさ、隣に急に座られたら居心地が悪くなったりしない?」
藍子「そうですか?」
加蓮「えー。知らない人が急に隣に座ったらびっくりするでしょ。そういうのない?」
藍子「うーん……。あるかなぁ……」
加蓮「ちぇ」
藍子「隣に座る、と言えば、この前、オフの日に隣町までお散歩に行く時、電車を使ったんですけれど――」
加蓮「相変わらずだねー」
藍子「私の座っていた席の隣に、おばあちゃんが座ったんです」
加蓮「知らない人?」
藍子「はい。私と目が合って、そうしたら、にこっ、っと笑ってくれて、話しかけられたんです」
藍子「ふにゃっとした声と、ほんわかとした笑顔で、つい私まで笑ってしまって……。それからいろいろ、お話しちゃいましたっ」
加蓮「相変わらずだねホント」
藍子「私が行こうとした街に住んでいる方だったんですよ。そのおばあちゃん」
藍子「紅葉が綺麗な丘のお話とか、ゲートボールのお話とか、色々教えてもらいました」
藍子「知らないお話がいっぱいで……。電車から降りてからも、ホームを出るまで一緒に歩いたんです」
加蓮「そっか。……あーそっか。藍子はそういうの慣れてるもんね」
藍子「他にも、カフェでもときどき相席することだってありますから」
加蓮「相席するの!? カフェで?」
藍子「こういう混雑したカフェだけですけれど、そういう時も、知らない方とお話が盛り上がったりして」
加蓮「いやいやいや。アンタ色々と不安になるんだけど……」
藍子「へ?」
加蓮「大丈夫なの? 知らない人についていっちゃダメだよ?」
藍子「そんな、大丈夫ですよ~。私だって子どもじゃないんですから」
加蓮「16歳は子供だっ。それに藍子、アイドルでしょ。バレたりしたら面倒だよ?」
藍子「その時はその時ですっ」
加蓮「意外とテキトーだね!?」
藍子「そんなにバレることってないんですよ」
加蓮「それなら大丈夫……なのかなぁ……」
藍子「あ、でも、ときどきファンの方から、前にカフェで会ったってお手紙を頂くことがありますね。もしかしたら、バレちゃってたのかも?」
加蓮「……なんか藍子のことメッチャクチャ不安になってきたんだけど」
藍子「?」
藍子「加蓮ちゃん。落ち着かないのなら、席、交換しましょうか?」
加蓮「ん、いいよ。落ち着かなくなったら藍子のことでも見とく」
藍子「私?」
加蓮「じーっ」
藍子「……あ、あは。じいっと見られると、私まで落ち着かなくなっちゃいますね」
加蓮「なら藍子の食べかけのモンブランでも見とく。じー」
藍子「食べたいんですか?」
加蓮「むしろ食べさせたいかなぁ」
藍子「食べさせ……?」
加蓮「ふふふー」
藍子「なんだか意味深な笑み……。何のお話ですか?」
加蓮「何のお話だろーねー」
藍子「気になりますよ~」
加蓮「ねえねえ知ってる? 藍子ちゃんって、集中してる時に口元に食べ物を近づけると無意識で食べるんだよ。ぱくって」
藍子「へ~、そうなんですか~。……って私のことじゃないですかっ!!」
加蓮「あはははっ! 最近の藍子ってツッコミに磨きがかかってきた?」
藍子「加蓮ちゃんのせいですよっ」
加蓮「さてとっ。ね、せっかくショッピングモールに来たんだしこの後ちょっと歩かない?」
加蓮「チェックしておきたかったブティックがあるの。可愛いスカートが入ったみたいだし、これはもう見に行かないとね~」
藍子「はーいっ」
加蓮「あ、でも早めにコラムを片付けた方がいいかな……。時間が経ったら忘れちゃいそう?」
藍子「大丈夫です。ちゃんとメモしていますし、覚えていますよ」
藍子「それに、カフェの帰りにショッピングっていうのも、お散歩の記録になると思いますから!」
加蓮「もうなんでもありだねお散歩コラム」
藍子「じゃあ、モンブランと他の2つを食べて、から……」ジー
加蓮「~♪」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「~~♪」
藍子「私がもう1度食べようとしていたイチゴスティックとチーズケーキは」
加蓮「そういえば最後にコーヒーのお代わりだけもらっていこっかなー。せっかく来たんだしー。え、何? イチゴ? 藍子が食べたんじゃないの?」
藍子「……………………」
加蓮「~~~♪」
藍子「……イチゴのスティック、中にクリームと別の何か入っていましたよね。たぶんカラメルだと思うんですけれど――」
加蓮「すっごく甘ったるかったけどすっごく美味しかった!」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「あ」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「……結局加蓮ちゃんが食べちゃってるじゃないですか! 食べさせたい、とか言ってたのにっ」
加蓮「だってさー」
藍子「……だって?」
加蓮「あれ、聞いてくれるんだ。いつもの藍子ならここから無条件で『今すぐ吐き出してください!』とか言って首に手をかけ――」
藍子「言うならそれ本当にやりますよ?」
加蓮「……藍子ちゃん、相変わらず目が怖いよ? アイドルのしていい目じゃないよ? でも膨らんでるほっぺたはちょっと可愛いかも」
藍子「…………」
加蓮「美味しそうだし、藍子、ずーっとモンブランをちょっとずつ食べてるし」
藍子「……食べるの遅いですもん、私」
加蓮「そこに美味しそうな色のスイーツがあったら……ね?」
藍子「…………」プクー
加蓮「まあまあ。ね、さっき買ってきた時に見たんだけど、ここお持ち帰りもあるんだって」
加蓮「ね、もう1つ、ううん2つくらい追加しておごるから。許してっ」
藍子「……そ、それなら許してあげます」
加蓮「許されたー」ワーイ
藍子「絶対ですからね。2つ。絶対、買ってくださいよ?」
加蓮「ん。約束ー。ごめんね藍子。つい食べちゃって」
藍子「……やっぱり3つにしてもらっちゃおうかな」
加蓮「え、なんで謝ったら増えるの。別にいいけど」
加蓮「さてと」
藍子「そろそろ行きましょ――」
<あっヤバイ! 行っちゃうみたい!
加蓮「……?」チラ
<ね、やっぱりそうだって! 聞いてみようよ!
<でも違ったら……。雰囲気ぜんぜん違うみたいだし……。
<間違いないって! ほら、ほら!
<わっ、お、押さないで!
「あ、あのっ!」
加蓮「さっき隣に座ってた女の子だ。……私?」
「そそ、その、ち、違ってたらごめんなさい! 私ええとっ、ふ、ファンなんです! アイドルの北条加蓮ちゃ、さ、さんの!」
加蓮「……」パチクリ
加蓮「……」ンー
加蓮「……!」
藍子「わぁ……!」
「……で、ですよね?」
加蓮「……」スゥ
加蓮「――しーっ。あんまり大声出すと騒ぎになっちゃうから。ね? ふふっ」
「!!!!!」コクコク
<ひひっ、顔まっかー
「う、うるさいな! ……あっ! え、えとっ、邪魔しちゃっ、その、よ、良ければサインだけ……これにっ」
加蓮「サインでいいの? じゃあ……はいっ、どうぞ」サラサラ
「わあ~~~~~……!」キラキラ
<おおう。あんなに目ぇキラキラしてるとこ見たことないよ
<あのまま天国行くんじゃない?
藍子「……加蓮ちゃん、ニヤニヤしてるっ」コゴエ
加蓮「はっ。さ、さっさと買いたい物でも選んできなさいよ! どーせ時間かかるんでしょっ」コゴエ
藍子「ふふ、そうしますね」テクテク
「あ、あの、ありがとうございました!」
加蓮「どういたしまして。これからも私のこと、応援してよね?」
「!!!!!!!!」コクコク
<あーダメだこれ。トリップしてら
<ありがとうございます、ええと……北条さん。この子ほんっとにすっごいファンで
<いっつも加蓮ちゃんの話ばっかりしてるよねー
加蓮「アハハ……。私まで照れちゃうよ」
加蓮「っと。私達もう行くところだから、その子にもよろしく伝えておいてね」テクテク
<はーい
<おーい帰ってこーい。……ダメだねこれ
<私まで嬉しくなってきちゃった!
――店の外――
加蓮「びっくりしたー……。急だったし……。ちゃんとアイドルの顔になってたかな、私」
藍子「大丈夫ですよ。一瞬で雰囲気が変わって……見ていてびっくりしちゃいました」
加蓮「……見てた?」
藍子「はい。レジの隣のベンチに座って」
藍子「加蓮ちゃん、話しかけられてすぐにアイドルモードになって……。本当に、すごいですよね。かっこよかったですっ」
加蓮「アイドルが何を言うか。っていうか、私だけアイドルバレして藍子がバレないのって――」
藍子「?」
加蓮「……ま、いっか」
加蓮「さて。……って藍子。ねえ藍子。これ何個買ったの。3つって話だったよね」ノゾキコム
藍子「美味しそうなスイーツが他にもいっぱいあったから、せっかくだから加蓮ちゃんの分も買っちゃおうかな、って」
加蓮「もー。こんなに買ったらブティック行けないじゃん」
藍子「あっ……。そうですね。ごめんなさい」
加蓮「事務所に戻ろっか。やっぱりさ、忘れないうちにコラムを書いとこうよ。私も手伝うからっ」
藍子「はーい」
加蓮「それにPさんにもいいおみやげ話ができたしー。あっ、どうせだからPさんにも食べてもらう? 買ったヤツっ」
加蓮「それで釣り上げて次は一緒に行こうって約束するんだー。ふふっ」
藍子「ちゃっかりしてる……」
藍子「片手で食べられるのも買ったんですよ。ちょっぴり行儀は悪いですけれど……たまには、帰りながら食べちゃいましょ?」
加蓮「いいねいいね。さすが藍子! じゃあ私は……これ!」ガサゴソ
藍子「えーっ。パインのは私のです! 私、最初にこれだけは食べたいって思ってっ」
加蓮「早い者勝ち!」
藍子「加蓮ちゃんいっぱい食べたんだから、私にも譲ってくださいよ!」
……。
…………。
――後日・高森藍子のコラムより一部抜粋――
○×ショッピングモールの中にあるカフェです。
とても賑やかだけれど、落ち着いた色合いのテーブルが、ここがカフェだって思わせてくれて――
・
・
・
お土産のぷちシュークリームです。これなら、みんなで一緒に食べられますね♪
日常のちょっとした思い出作りに、どうですか?
――左下にちいさな写真が掲載されている――
↑シーリングファンを見上げてぼーっとする藍子ちゃん(撮影:北条加蓮)
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
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