高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「9月に入った頃のカフェで」 (49)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「ハズレ。ホットココアは、もうちょっと雪が降りそうな日に飲みたいかな?」

高森藍子「涼しくなって来たから、これかな? って予想したのに……残念っ」

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第52話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「過ぎた後のカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「靄々の桜流しに」
・高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に 2回目」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「探り合いのカフェで」

お久しぶりです。

藍子「だいたい"雪の降りそうな日"って何なんですか~」

加蓮「何って言葉通りだけど。雪が降りそうな日は雪が降りそうな日」

藍子「天気予報で、雪って言った日ってこと?」

加蓮「違う違うー。冬にさ、朝起きて、窓の外を見て」チラツ

加蓮「あーこれ雪降りそうだなー。そしたら面白いのになー。降れ降れー」ウンウン

加蓮「って思うことってない?」

藍子「ないです」

加蓮「藍子ちゃん冷たーい。まだ冬には3ヶ月ほど早いよ?」

藍子「ないっていうか、ううん……。加蓮ちゃんの言うことは分かるんですけれど……」

加蓮「雪が降ったら面白いじゃん!」

藍子「あ、それはすごく分かりますっ。去年も、雪が降った後の都会は真っ白で綺麗で、写真を撮るのも忘れて見惚れ――」

藍子「……、…………」

加蓮「ん?」

藍子「あの、加蓮ちゃん。面白いことって、例えば?」

加蓮「新聞を見て苦い顔をしてる親とか、電車が止まって困ってる大人とか、学校の駐車場ですっ転んで大笑いされる先生とか」

藍子「ですよね」ジトー

加蓮「たはは」

藍子「雪が降りそうな、っていう雰囲気は、分かるような分からないような……」

藍子「お散歩に行く時も、お仕事に行く時も、天気予報を優先しちゃいますから」

藍子「朝は晴れていても、急にお昼から雨が降り始めて」

加蓮「そういう時に限って傘はない」

藍子「無い折り畳み傘を何度も探すの、むなしくなってしまいますよね」

加蓮「わかるー。で、そこに颯爽と現れ傘だけ置いていってくれるモバP(以下「P」)さん」

藍子「Pさんはそのまま、どこかに行ってしまうんですか?」

加蓮「Pさん絶対格好つけたくてすぐ立ち去っちゃうよ」

藍子「ふんふん」

加蓮「藍子を車で送った方がもっと格好いいのに」

藍子「あはは……」

加蓮「わざと傘を忘れたら、ヒロインになれるかもよ?」

藍子「ふふっ、やめておきます。そういうシチュエーションは憧れないこともないですけれど、困らせる訳にもいきませんから」

加蓮「そか」

藍子「うーん……」ジー

加蓮「? そんなに悔しかったの? 私が飲みたがってた物を当てられなかったこと」

藍子「はい。……加蓮ちゃんは簡単に当てちゃうのに」

加蓮「ただの気まぐれなゲームじゃん」

藍子「それでもですっ」

加蓮「ふーん?」

藍子「最近、加蓮ちゃんの考えていること、よく外しちゃうなぁって」

加蓮「って言っても私だってほぼカンだよ? なんか藍子が大人っぽい物飲みたそーにしてるから、アップルティーにしただけ」

藍子「天気予報みたいに、見たら加蓮ちゃんのことが分かる物ってないんでしょうか」

加蓮「加蓮ちゃんを見たら加蓮ちゃんのことは分かると思います」

藍子「なるほど」ジー

加蓮「秋の空、だっけ。すぐに天気が変わる奴」

加蓮「秋の空と加蓮ちゃん、どっちが心移りしやすいかなー?」

藍子「あれ? それなら、「女心と秋の空」って言葉がありませんでしたっけ。どちらも移り変わりやすいってことで……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……私今日からキュートグループに移籍します」

藍子「はあ」

加蓮「今すごいクールグループでやっていける自信がなくなった」

藍子「奏さんにでも影響されちゃったんですか?」

加蓮「そこは見抜けるんだ」

藍子「加蓮ちゃんを見たら加蓮ちゃんのことは分かるって、加蓮ちゃんが教えてくれましたから」

加蓮「……"加蓮ちゃん"って言葉が行方不明になっちゃいそうだよ」

藍子「探しに行きましょうっ」

加蓮「ゲシュタルト崩壊、だっけ」

藍子「同じ文字を見続けたら、文字の形が分からなくなっちゃう、ってアレですよね」

加蓮「アイデンティティ崩壊」

藍子「加蓮ちゃんなら、どのグループでもやっていけますよ」

加蓮「パッションでも?」

藍子「……わ、私だってやっていけてるんですから加蓮ちゃんだってっ」

加蓮「なんかさー」

藍子「はい」

加蓮「藍子にメガネをかけてみたくなった」

藍子「……はい?」

加蓮「なんとなく」

藍子「はあ。それなら、春菜ちゃんに連絡してアドバイスを――」

加蓮「待って待ってストップストップ」ガシ

藍子「きゃ」

加蓮「ダメ。それはダメ」

藍子「どうしてですか~。眼鏡と言えば春菜ちゃんですよね?」

加蓮「こう、なんていうかな。初心者が下手にマニアックなことしちゃダメっていうか」

加蓮「ネイルとかでもさ……。いや違う」

加蓮「ほら写真とかでも、撮り方知らないのにいきなり高級なカメラを買ってもしょうがないでしょ?」

藍子「あ、あはは……」

加蓮「あれ、心当たりあるんだ」

藍子「……時々、そういうファンレターをもらってしまいますから」

加蓮「お散歩講座とかやってみよう。絶対面白い」

藍子「今度、Pさんに相談してみますね」

加蓮「アシスタント料はポテトでいいよ」

藍子「せっかくですから、シェイクもつけちゃいますっ」

加蓮「ということで春菜への連絡はストップ。ね? せっかくのお休みをメガネワールドで潰れるのも勿体無いし」

藍子「はーい。分かりました」

藍子「……分かりましたから、連絡しませんから手を離してください加蓮ちゃん。さっきから手首、ちょっぴり痛いです」

加蓮「んー」ギュー

藍子「だから痛いですって……!」

加蓮「あぁごめん。手首を握るってこんな感じなんだなーって」

藍子「普段、握ったりしませんよね。どんな感じでしたか?」

加蓮「手首を握ってるって感じ」

藍子「…………」ジトー

加蓮「今日の藍子ちゃんはちょっと冬を先取りしすぎだと思います」

藍子「ちょっと前から秋冬のファッションのお仕事を始めている加蓮ちゃんに言われても」

加蓮「いつものふわもこスタイルはもうちょっとクローゼットの中で大人しくしてもらっとこ?」

藍子「ふわもこスタイルじゃないです、ゆるふわスタイルですっ」

加蓮「ゆるふわ~」

藍子「ゆるふわ~?」

加蓮「ゆるふわ~」

藍子「ゆるふわ~♪」

加蓮「……」

藍子「……な、何ですか」

加蓮「あざとい」

藍子「言わせたの加蓮ちゃんですよね!?」

加蓮「だって可愛いけどあざといもん」

藍子「加蓮ちゃんはいつも色鮮やかですよね」

加蓮「私はほら、流行に合わせたいアイドルだから」

藍子「加蓮ちゃんのスタイルって感じがして……どんな服でも着こなせるのはすごいなぁ、って」

加蓮「褒めても弟子にしかしないよ?」

藍子「弟子」

加蓮「明日からあなたもファッションリーダー!」

藍子「うーん……」ウーン

藍子「……」

藍子「遠慮しておきます」

加蓮「待って。なんで。いや半分ネタだから別にいいけど今何を想像して苦笑いになったの」

藍子「だって加蓮ちゃん、絶対「いつも着ない服に挑戦してみよう!」とか言って、その……」

藍子「露出度が高い服とか、足がばっちり見えちゃう服とか用意してきますよね?」

加蓮「うん」

藍子「ああいうのはちょっと……。まだ、勇気がありませんからっ」

加蓮「たかが足出すだけのことに何言ってんだろこの子。何着衣装を着たのよ」

藍子「衣装と私服はまた別です」

加蓮「私服もアイドルモード。何着たってアイドル」

藍子「オフの時間も大切っ」

加蓮「うんうん。じゃないとここでだらーっとする時間もなくなっちゃうし」

藍子「オフの時間は大切っ!」

加蓮「あはは、分かった。分かったってば。両手をぐっと握らなくても伝わってるからっ」

藍子「ところで加蓮ちゃん」

加蓮「んー?」

藍子「少しだけ、こっちを向いてもらってもいいですか?」

加蓮「……さっきからずっとそっち向いてるけど?」

藍子「そうじゃなくて……。私の目、見てくださいっ」

加蓮「んん? うん」

藍子「……」ジー

加蓮「……」ジー

藍子「……」ジー

加蓮「…………にらめっこでもしたいの? それなら本気でやるけど」

藍子「そうじゃないです。……にらめっこにも、本気とそうじゃない時があるんですか?」

加蓮「にらめっこに限らず全部にそうだけどね。ほら、マジな話と笑い飛ばしていい話ってあるでしょ?」

藍子「ありますね」

加蓮「そーゆーの。藍子が本気でやりたいなら私も本気でやるし、そうじゃないなら――」

加蓮「どうせ本気だけどね。色々と」

藍子「結局、加蓮ちゃんは加蓮ちゃんなんじゃないですかっ」

加蓮「本気を出さない藍子が悪い」

藍子「だから、本気のにらめっこって何なんですか~」

加蓮「負けたら勝った方の言うことを1つなんでも言うヤツ」

藍子「あぁ。それは確かに、これまでにないくらい本気を出さないと……!」

加蓮「……藍子ってたまーにすごく失礼じゃない? 主に私に対して」

加蓮「でさ。どしたの? 改まって」

藍子「……」ジー

藍子「うーん……。加蓮ちゃんのことは、加蓮ちゃんを見たらよく分かるハズなのに」

加蓮「……?」

藍子「うーん…………」ジー

加蓮「藍子ってさ」

藍子「あ、はい」

加蓮「変な子だよね」

藍子「……はい!?」

加蓮「変な子。くくっ、変な子ー!」

藍子「何なんですか急にっ! 変じゃないですっ普通です! たぶんっ」

加蓮「あはははっ。でもさー、1人で悩まれても私は退屈だよ?」

加蓮「相談できない話とか誰にも言えないこととか、そんなんじゃないでしょ?」

加蓮「っていうか仮にそうだとしてもここでなら言っていいでしょ。ほらほら言っちゃいなさいよ」

加蓮「誰に脅されてるの? 大丈夫大丈夫もしそれがうちの事務所の誰かだとしても基本私は藍子の味方――」

藍子「ちょっと待ってください」

加蓮「うん」

藍子「どうして私が誰かに脅されているお話に」

加蓮「その方が面白そうだから?」

藍子「……加蓮ちゃん、人が困るのを見るのが本当に好きなんですね」

加蓮「本気で藍子が困ってたらこうはならないけどね。それもこれも藍子が悪いんだよ」

藍子「私が!?」

加蓮「藍子がなんにも話してくれないから私が勝手に話してるだけだよ。で、話がどんどん広がって気づけばうちの事務所が分裂する話になっちゃうの」

藍子「あぁ……。そういうことでしたか」

加蓮「ん?」

藍子「加蓮ちゃんが悪い冗談ばかり言うのは私のせいだ、って言われているのかと思っちゃいました」

加蓮「それはそれで間違ってないけどね」

藍子「私と会う前からじゃないですかっ」

加蓮「ひねくれていい相手がここにいるんだから」

藍子「む~。褒められている気がしませんよ、それ」

加蓮「ふふっ。これでもお礼を言ってるつもりなんだよ?」

加蓮「で、お話は何?」(頬杖をつきながら少し身を乗り出す)

藍子「そんなに期待されても……。加蓮ちゃんの期待することではありませんよ」

加蓮「いーからいーから」

藍子「……でも、これ、直接加蓮ちゃんに言うのもちょっぴり変な気が……。どうしよう」

加蓮「……。あんまり焦らすようなら私から分裂騒ぎを仕掛けるよ?」

藍子「え」

加蓮「手始めに未央と茜、いやそこは最終目標にしよう」

加蓮「歌鈴……は逆に気が引けるし、他に藍子の周りにいる子で騒ぎになりそうなのは、んー」

加蓮「手始めにありすちゃんと加奈ちゃん辺りからかな。あの辺りは崩しやすそうだし、吹き込む内容は、」

藍子「すとーーーーっぷ! なんで具体的な話になってるんですか!」

加蓮「藍子がどうあれ私はいつでも本気だからね」キリッ

藍子「もうっ! 分かりました、話しますから! だからまずそのスマートフォンを机に置いてください!」

加蓮「ダメ?」

藍子「だめ!」

加蓮「はーい」コトッ

藍子「はぁ……。……笑わないで聞いてくださいね?」

加蓮「うん」

藍子「加蓮ちゃん――」


藍子「誕生日に、何が欲しいですか?」

□ ■ □ ■ □



加蓮「え……」

藍子「……」

加蓮「あー……。誕生日に何を。誕生日に何を――」

藍子「……」

加蓮「そだね。何かもらえる、なら…………」

藍子「……な、何か言ってください。うぅ」

加蓮「あー……いや……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……す、すみませーんっ!」

藍子「ええとっ、あっそうだお代わり! お代わりください! アップルティーでっ」

藍子「加蓮ちゃんには……加蓮ちゃんには、ええと……」

藍子「加蓮ちゃんにはたぶんいつものコーヒーでいいと思いますっ」

藍子「え? いつものって言われても加蓮ちゃんは色々な種類のを飲むから分からない……?」

藍子「いつものでお願いします! それならそう、前回注文したのでっ」

藍子「ぜ、前回注文したのがどっちだったか覚えてない!? なら両方でいいですっ!!!」

加蓮「……両方持ってきなさーい(ボソッ」

藍子「両方持ってきなさーいっ!!!」

加蓮「くくくくくくくっ…………!!!」

藍子「あれ? ……っ!?!?」

加蓮「あははははははははは!!! 敬礼した、今店員が敬礼したっ……! ここカフェでしょ、なにこれ、なにこれ……っっ!!」

藍子「~~~~~~!」カオマッカ

……。

…………。

(10分後)

藍子「あ、店員さん。あはは、さっきはごめんなさい……。ち、違うんです。あれは加蓮ちゃんが変なこと言うから」

加蓮「~~~♪」ヨソミ

藍子「もう。……本当に両方とも淹れてくださったんですね。ありがとうございます」

加蓮「そして藍子の分のアップルティーもきっちり用意する、と」

加蓮「しょうがないなー。焚き付けた責任は私にもあるし。コーヒーは両方とも私が飲むよ」

加蓮「その代わり、どっちが美味しいか厳しく判定するからねー? 店員さん、覚悟して待っててね?」

藍子「……ふふ♪」

加蓮「また後でねー」ヒラヒラ

加蓮「……藍子って暴走するとホント面白いことになるよね」

藍子「迷惑、かけちゃいましたね……」

加蓮「ごめんごめん。どう返せばいいか分からなくてさー。慌ててた藍子を見たらつい……たはは」

藍子「ううん。私こそ……。でも変なこと呟くのはやめてください」

加蓮「今日はやめるー」

藍子「明日になったらやるんですか……」

加蓮「やる」

藍子「……。……誕生日のこと、加蓮ちゃんに直接聞いても難しいことですよね」

加蓮「んー……」ゴクゴク

藍子「アップルティー、頂きます」テヲアワセ

加蓮「……」ゴクゴク

藍子「ごくごく……ふうっ♪ やっぱり美味しい……」

藍子「仄かに暖かくて、口の中に残った感じがだんだん甘くなっていくんですよ。加蓮ちゃんも飲みますか?」

加蓮「遠慮しとくー。胃腸の中がヤバイことになりそうだし」

藍子「残念」ズズ

加蓮「ごくごく……ふー。誕生日。誕生日、かぁ」

藍子「本当は、5日までに何か用意して、事務所かここか……お仕事の現場か、それとも加蓮ちゃんの家か」

藍子「どこかでお渡ししようと思ったんですけれど……」

藍子「プレゼントを選んでいる時、贈ることより、加蓮ちゃんに喜んでほしいなって思って」

藍子「そうしたら、加蓮ちゃんに聞いてみたくなっちゃいました。今の加蓮ちゃんが、何を欲しがってるのかな? って」

加蓮「だからって普通本人に聞くかなー。形だけでも秘密にしとくべきでしょ」

藍子「そこはもう、今さらかな、なんて……」

加蓮「今さら?」

藍子「加蓮ちゃん、もう今日までにかなりの回数、誕生日のお話をしていますよね?」

加蓮「まーね。それどころかプレゼントさえいくらかもらっちゃってるし」

藍子「私も、もうちょっと早めに準備しておくべきだったかな……」ズズ

加蓮「…………、……自惚れていいの?」

藍子「ふぇ?」コトン

加蓮「それよりさー藍子、聞いてよ。バースデーライブなんだけどさー」

藍子「……あー」

加蓮「いや分かるよ? 最近の私達の事務所の方針。色々なユニットを数撃とうとしてること。実際それで売れてる子もいっぱいいるんだし」

加蓮「でもさぁ!」バンッ

加蓮「バースデーライブまでセットにすることなくない!? それはさすがにヒドくない!?!? ヒドイよね!?」バンバンッ

藍子「まあまあ……。ほら、その分、大きなライブができると思えば――」

加蓮「そういう問題!?!?」

藍子「ですよねっ。お、落ち着いてください加蓮ちゃんっ。ほら周りのお客さん! こっち、見ちゃってますから!」

加蓮「っと……。いっけないいけない。この前もこれでPさんと大喧嘩したばっかりなのに」

藍子「ちょっと前にPさんが机で頭を抱えていたの、やっぱりそれだったんですか」

加蓮「分かってるんだけどね。Pさんも本意じゃないってことは」

加蓮「いろんなこと、最後まで交渉したとか言ってたし、何度も私に謝ってくれたし」

藍子「でも、つい言っちゃったんですよね」

加蓮「分かっててもねー……」

加蓮「はぁ。まだまだ子供なんだなぁ、私」ゴクゴク

藍子「ううん、仕方ありませんよ……。加蓮ちゃんは悪くないです。私だって、おんなじことになったらきっと、」

加蓮「そーいう見え透いた気慰めなんていらないの」ベチ

藍子「あう」イタイ

加蓮「ハァ……。ライブは6日でーす。合同でーす。見に来ーてねー」ベチョ

加蓮「…………まゆもあれでいいのかなぁ。ちょっとは文句とか言えばいいのに」

藍子「テーブルの上にべちょってなっちゃった……。応援しに行きますね?」

加蓮「やったー」ワーイ

藍子「でも、それなら悪いことばかりではありませんね。誕生日当日の5日が空くってことですから」

加蓮「うん。完全オフ。Pさんなりの罪滅ぼしみたいな物なのかも」

藍子「そうかもしれませんね」

加蓮「ねー、藍子」

藍子「はい」

加蓮「5日さ、…………」

藍子「……?」

加蓮「あー……えー、っと……」

藍子「……??」ゴクゴク

加蓮「……コーヒー飲んでみる? まだこっちのは手つけてないけど」ズイ

藍子「それは加蓮ちゃんの分ですから、先に加蓮ちゃんが飲んでくださいっ。私は、その後で少しだけ頂きますね」

加蓮「まだ1杯目もほとんど飲みきってないけど」

藍子「いいですよ。アップルティーを飲みながら、のんびり待ちますから」

加蓮「そか」ゴクゴク

加蓮「……」

藍子「……」ゴクゴク

加蓮「……突っ伏せてたPさんに何か言ってくれたのって、藍子?」

藍子「あ、はい。ちょっとだけ……。元気をあげられたかどうか、自信ありませんけれど」

加蓮「そっか……」ツップセ

藍子「……余計なこと、しちゃいましたか?」

加蓮「んーん。全然」ネガエリ

藍子「…………」シュン

加蓮「やっぱさ、こっちのコーヒー、藍子が先に飲んで。別に……意味なんてないけど」

藍子「……分かりました。頂きます、加蓮ちゃん」

加蓮「頂いちゃってください」

藍子「ごくごく……」

加蓮「……」ハァ

藍子「うぅ……。(以下小声)どうしよう……。加蓮ちゃん落ち込んじゃってるけど、何て言えば……」ゴクゴク

加蓮「……」

藍子「(小声)うーん……。ううぅ……」ゴクゴク

加蓮「……っていつまで飲んでるのよ」チラ

藍子「あっ」

加蓮「……」ギロ

藍子「か、加蓮ちゃん、目が怖いです。顔の半分が突っ伏せたままだからいつもより余計に怖いですっ」

加蓮「ん……」オキアガル

加蓮「店員に後で感想言うの、藍子も手伝ってよ?」

藍子「……はいっ」

加蓮「Pさんを慰めてくれてありがと。変なとこ押し付ける形になってごめんね?」

藍子「いいえ。もう仲直りはできているんですよね?」

加蓮「もちろん。ネチネチ言う大人にはなりたくないの、私」

藍子「ふふ。さっき、まだまだ子どもだなぁ……って言ってたのにっ」

加蓮「見た目はちょっと大人、頭脳もちょっと大人!」

藍子「ええと……。その名は?」

加蓮「ただの女子高生!」ドヤッ

藍子「わ~」パチパチ

加蓮「……」

藍子「わ、わ~……」パチパチ...

加蓮「…………」

加蓮「…………弱ったPさんにつけこんで自分の物にしようなんてやらしい子め」

藍子「えええぇぇ!? 原因作ったの加蓮ちゃんですよね!?」

加蓮「どうせ物陰で様子を見てたんでしょ。あ、これチャンスだ、とか密かにガッツポーズ取ってたんでしょ」

藍子「たまたま事務所に帰ってたらPさんが落ち込んでたから話を聞いただけですよ!?」

加蓮「とか言って実はー」

藍子「何もありませんよ……」

加蓮「とか言ってホントはー?」

藍子「だから何もありませんってば!」

加蓮「……なんで何もないのよ! チャンスでしょ!? アンタそれでも私の友達なの!?」

藍子「加蓮ちゃんは私にどうしてほしいんですか!?!?」

加蓮「そんなの私が知ってる訳ないでしょ何キレてんの!?!?」

藍子「私その言葉思いっきり加蓮ちゃんに投げ返したいんですけど!!??」

□ ■ □ ■ □



加蓮「……」ズズ

藍子「……」ゴクゴク

加蓮「……」ズズズ

藍子「……」ゴクゴク

加蓮「……」ズズズズ

藍子「ごちそう様でした」パン

加蓮「ごちそう様でした。……誕生日、かぁ」

藍子「あ、そうでした。誕生日プレゼントのお話……」

加蓮「うん」

藍子「何か、欲しい物とかありますか?」

加蓮「んー」

藍子「加蓮ちゃん、この前私にネイルセットをプレゼントしてくれたから……カメラとかアルバムとか、お返しするべきでしょうかっ」

加蓮「んー……」

藍子「それとも、何か別の物を? そうだっ。今から一緒に探しに行くのはどうでしょうか。最近、良い雰囲気の雑貨屋を見つけたんですよ、私♪」

加蓮「んー……」

藍子「違うカフェにでも行ってみますか? せっかく誕生日ですから、奢っちゃいますよ~」

加蓮「……たまたま通りかかった店員がすごく寂しそうな目をしてるみたい」

藍子「あっ。え、ええとその、あ、あははは……」

加蓮「欲しい物……欲しいの、か」

加蓮「……」

加蓮「…………ね、藍子」

藍子「わ、分かりましたっ今日はここにいますから――あ、加蓮ちゃん。ごめんなさい。何ですか?」

加蓮「あのさ……」

藍子「はい」

加蓮「……変な話、かもしれないけど」

藍子「はい」

加蓮「プレゼント」

藍子「はい」

>>41 4行目の藍子のセリフ、少しだけ追加させてください。
追加前:「わ、分かりましたっ。今日はここにいますから――」
追加後:「わ、分かりました。今日はここにいますから泣きそうになるのは――」


加蓮「5日……」

藍子「加蓮ちゃんの誕生日」

加蓮「空いてる?」

藍子「私ですか? 空いていますよ」

加蓮「うん。……時間」

藍子「時間……?」

加蓮「藍子、今色々挙げてくれたけど、どれもピンと来なくてさ」

加蓮「やっぱり今も……一番欲しいの、たぶん時間なの」

藍子「……??」クビカシゲ

加蓮「だから、その――」


加蓮「誕生日の日さ。……また、ここに一緒にいてくれる?」

加蓮「いや、ただのいつも通りって言ったらいつも通りなんだけどさ、ほら、改めてって言うか」

加蓮「どーでもいいこと喋って、大騒ぎして、喧嘩して、あとは、美味しい物でも食べて」

加蓮「それだけがいいの。……ううん、それが一番いいの」

加蓮「だから、誕生日に何かをもらえるなら」

加蓮「……それが、一番欲しいな」


藍子「加蓮ちゃん――」

藍子「はいっ、分かりました♪ 5日も、ここでゆっくり、のんびりしましょうっ」

加蓮「ん。ありがと、藍子。……ふうっ」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「あ、はは。いつも通りのことなのにね。カフェに誘うなんて」

加蓮「なのにすごく緊張しちゃった。変なの」

藍子「……ふふっ」

加蓮「む~」

藍子「こ、今度は唇を尖らせちゃった。何か変なこと、言ってしまいましたか?」

加蓮「なんか藍子が余裕そうにしてるのがムカつく~」

藍子「ええぇ……」

加蓮「……あはは」

藍子「もうっ。変なのは加蓮ちゃんの方ですよ」

加蓮「いーや藍子の方だ。藍子の方が絶対変」

藍子「加蓮ちゃんの方ですっ。……ふふ。変な子同士、またここでゆっくりしましょ? 美味しい物を食べて、楽しいお話をして」

藍子「……さ、騒ぐのと喧嘩するのは、遠慮する感じで」

加蓮「え? ヤダ」

藍子「やっぱり加蓮ちゃんの方が変な子ですっ」

加蓮「あはははっ。……ありがとね、藍子」

藍子「どういたしまして♪ でも、せっかくの誕生日なのに、いつも通りだけっていうのはもったいない気もしますね」

加蓮「そのいつも通りが一番嬉しいんだけどね」

藍子「……それもそうですねっ。それが一番、加蓮ちゃんらしいかもしれません」

加蓮「でしょー? あ、すみませーんっ。注文……店員さん? え、何そのすがりつく目。藍子が他所に行くのそんなにショックなの? いや知らないわよ藍子だっていろんなカフェくらい――」

藍子「ええと、私はホットケーキと――」



おしまい。読んでいただきありがとうございました。

ここ数ヶ月、投下が大変に遅くなってしまい申し訳ございません。
次はきっと、早めにお届けできると思います。きっと。

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