佐藤心「相方」 (24)

・「アイドルマスターシンデレラガールズ」のSSです
・メインの登場人物はプロデューサー(視点)、佐藤心、安部菜々
・地の文あり
・5thライブの内容に触れます

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1504187866

「まずは・・・改めて、石川公演お疲れ様」

「おっつスウィーティー☆いやー、ホント疲れたわー☆」

俺の労いの言葉に、伸びをしながら返事をする女性。

彼女は佐藤心、俺の担当アイドルだ。

「どうだった、初めてのライブは?」

「もー最高☆まだ余韻が残ってるー☆・・・まぁ、筋肉痛も残ってるけど☆」

「へぇ、てっきり明日辺りに筋肉痛に襲われるもんかと思ってたけどな」

「おい年増扱いすんな☆ってか同い年だろが☆」

同じ年齢、そして心の性格もあって、今ではこうして軽口を言い合えるほどに打ち解けられている。

・・・初対面ではこのキャラに圧倒されて、プロデュースしていけるか不安な面もあったが・・・。

「さて、それじゃ本題に入るとするか」

「ほいほい☆次の公演の打ち合わせね☆」

「ああ、次はSSAの1日目だ。最後の場所だけあって、このツアーで一番広い会場になる」

「もっとたくさんのファンにはぁとのスウィーティーなステージを見せられるんだ・・・☆楽しみー☆」

前より大きな会場と聞いて、緊張より期待が先に出てくるあたりは心らしい。

「あ、ところでさ☆他の子たちは最初っからSSAの内容まで聞かされてるっぽいんだけど、なんではぁとはこのタイミングなの?」

「ん?ああ、まぁ色々あるが・・・石川公演からSSAまで間が空くからレッスンの時間が十分取れそうなこと、佐藤はライブ初参加だからあまり先まで考えずに集中してほしかったこと、石川公演で一度経験した方がSSAのイメージも湧きやすいと思ったこと、かな」

「なるほど・・・ちゃんと考えてたわけだ・・・☆」

「おいおい、プロデューサーとしてこれくらいは当然だろ?」

「じゃあそんな有能なプロデューサーは、佐藤じゃなくはぁとって呼んでくれるよね☆」

「さて、SSAで歌う曲だが・・・」

「スルーかよ、おい☆」

お決まりのやりとりを挟みながら打ち合わせを進めていく。

「まず石川で歌った全体曲のうち、『Yes! Party time!!』『夕映えプレゼント』『M@GIC☆』『お願い!シンデレラ』はSSAでも同じく全体曲として歌う。正確には『M@GIC☆』は全員で歌うわけじゃなく、地方で歌ったことのあるメンバーで歌うから、人数は半分なわけだが・・・パートは変わらないから、引き続き今のレッスンを続けてくれ」

「りょうかーい☆」

「次、『Near to You』は馬車に乗って歌う」

「ば、馬車?」

困惑した表情で聞き返す心。まぁいきなり馬車と言われてもイメージは出来ないか。

「まぁいわゆるトロッコだ。通路を動くトロッコに乗って歌うライブも見たことあるだろ?」

「あー☆あれ憧れてたんだよねー☆」

「そしてユニット曲、『命燃やして恋せよ乙女』『Take me☆Take you』の2曲だ」

「よっしゃ☆ついにはぁとがメンバーの曲、生で歌えるんだ・・・☆」

「ああ、しっかり見せつけてこい。人数が少ないからいくつかパートが変わってることに注意してくれ」

「歌う曲はこれで全部?SSAでもだいぶボリュームある感じだけど☆」

「・・・まぁ、確かに十分曲数あるな。だが、まだだ」

「えっ・・・?」

「前半が終わった後の企画として、『Serendipity Medley!!!』っていうのがあるんだ。そこで佐藤には4曲歌ってもらう」

「えっ、すっご・・・あとはぁとって呼べよ☆」

「まぁそれぞれショートバージョンだがな。まず始めと終わりに『お願い!シンデレラ -Jazz Rearrange Mix-』を全員で歌う」

「ふむふむ☆」

「後は今回のライブツアーで初参加の11人で『メッセージ』、SSAに出演する宵乙女の4人で『LET'S GO HAPPY!!』だな」

「おー、ユニットと曲のギャップが・・・そういう感じのメドレーなんだ・・・☆で、もう1曲は?」

「最後の曲は・・・」

一旦手元の資料を見るフリをして、表情がばれないように顔を隠す。

・・・ダメだな、冷静に伝えるつもりだったのにどうしても表情が緩んでしまう。

それでも、なんとか緩んだ顔を抑え、精一杯に平静を保ち曲名を伝える。

「最後の曲は、『メルヘンデビュー!』だ。それも、佐藤、お前のソロだよ」

時が止まった・・・そう錯覚するほど会議室は静まり返っている。

そのまま10秒ほど経っただろうか。固まっていた心がぽつり、ぽつりと言葉を漏らし始めた。

自分で自分に理解させるように。

「メルヘン、デビュー・・・パイセンの、曲・・・はぁとがソロ・・・?」

喜びを噛みしめるように。

「メルヘンデビュー、ナナ先輩の曲を、はぁとがソロで・・・!」

ぱぁーっと顔が明るくなり、身を乗り出して尋ねてくる。

「プロデューサー!はぁとがソロで『メルヘンデビュー!』歌うってマジ!?マジでマジ!?」

あぁ、もう俺も我慢できない。

笑みをこぼし、喜びを分かち合う。

「ああ、本当だ。やったな佐藤!」

「やったぁ☆ってかはぁとって呼べよ☆やん、でもうれしい☆」

怒ったフリをしても、緩んだ顔が戻っていない。

まぁ、心が菜々さんにどれだけの思い入れがあるかを考えれば当然か。

「・・・さて、打ち合わせは以上だ。何か質問はあるか?」

「んー・・・?特にないかなー・・・☆」

「・・・というか、そもそもアレ以降話聞いてたか?」

「聞いてたよー☆頭に入ったかはわかんないけど☆」

そう言ってにへっと笑う心。まぁ、こうなるのはある程度予想出来ていたところではあるが。

「まぁ、資料も渡したし、分かんないところがあったら改めて聞いてくれていいから。じゃあ今日はこれで終わりで、明日からレッスンだぞ」

「ほーい☆おつかれっしたー☆」

打ち合わせを終え、心が会議室のドアを開けて外に出る・・・前にこちらに振り向き話しかけてくる。

「プロデューサー・・・ありがとね☆」

「俺は大したことしてないさ。お前がこれまでやってきた結果だろ?」

「やーん☆プロデューサー、褒めてもなんにも出ないぞ☆それじゃーねー☆」

そう言うと走って会議室を出ていく。この後は同僚を誘ってお祝いの飲み会だろうな。

「さてと・・・俺も頑張るとするか」

翌朝、事務所でテンション低めの心と出会う。

「おはよう、ほらウコン」

「おはよー・・・あー、ありがと・・・」

「やっぱり昨日はみんな誘って飲み会だったか」

「ごくごく・・・ふぅ。いや、みんな都合が合わなくて飲み会は無し☆だから家で寂しく一人で飲んでたぞ☆」

「一人で二日酔いになるほど飲んでたのか・・・?」

「どっちかっていうとテンション上がって寝付けずに寝不足の方があるかも☆二日酔いもなくはないんだけど☆」

どちらにせよ良いわけではないが・・・まぁレッスンに響くほど体調を悪くしたことはないから良いとしよう。

「今日のパイセンの予定知ってる?」

「午後一でレッスンルームを使うみたいだから・・・って、連絡とかしてないのか?」

「いやー、直接言いたくって☆電話とかしちゃったらそのまま言っちゃいそうじゃん☆」

「なるほどな。まあ時間はそうらしいから、午後まで待ってれば会えるんじゃないか?」

「りょうかーい☆じゃ、準備しよっかな☆」

そう言って更衣室へ向かう心。今日は俺もレッスンを見学するとしよう。

レッスンが始まった。次のライブで歌う曲を一通り歌い、現在の習熟度を見るのが今日のレッスンだ。

心も寝不足や二日酔いを引きずっている様子はなく、しっかり声を出して歌えている。

「それじゃあ、次は『メルヘンデビュー!』にいきましょうか」

「はいっ☆」

心がトレーナーさんに返事をすると、聞き覚えのあるあの曲が流れだす。

歌う準備をしている心の顔を見ていると・・・一瞬顔が曇ったような気がした。

しかし、歌い始めると、顔は戻り歌声もちゃんと響いている。音程も全くずれていない。

「キャハッ!ラブリー17歳♪ブイッ♪」

セリフも完璧だ。さっき顔が曇って見えたのは気のせいだったか・・・?

「うん、この曲は大丈夫そうね、次の曲にいきましょうか」

「・・・はい」

返事をした心の顔が、また一瞬曇ったように見えた。

「はい、じゃあレッスンはここまで。次からは、それぞれの曲の出来具合からレッスン時間を割り振っていくので、お願いしますね」

「はい、おつかれさまでしたー」

レッスンが終了した。

スポーツドリンクを飲み、一息ついている心に声をかける。

「お疲れ様。次のライブで歌う曲はどうだった?」

「あ、おつかれー・・・まぁ最初だし色々わかんないとことか有ったけど。まぁこっからレッスンしていけばいいっしょ」

「まぁそうだな。・・・大丈夫か?元気が無いように見えるが・・・」

「そ、そうかな?ちょっと疲れちゃったかな?お酒か寝不足のせいかなーあはは」

「おいおい・・・レッスンに響くようなら没収しなきゃいけなくなるぞ・・・?」

「あはは、ごめんごめん・・・じゃあレッスン終わったことだし、はぁともう帰るねー」

「ん?もう帰るのか?」

「うん、ほら、明日のレッスンにも響くようだといけないし」

「そうか、じゃあまた明日な」

「はーい、お疲れー」

・・・お酒か寝不足のせい、か・・・。

最初の打ち合わせから1カ月半が過ぎた。

トレーナーさんによれば、どの曲も順調に進んでいる、ということだが・・・。

「問題は『メルヘンデビュー!』か・・・」

元々、普段からよく聞いていた曲のため、習熟度は高く、それゆえにレッスンのスケジュールにはあまり入っていない。

自主レッスンしたり、不安なところだけトレーナーさんに聞いてもらうような形をとっているが・・・。

どうやらあまりトレーナーさんに聞いてもらっていないらしい。

自主レッスンでは、どの曲よりも時間を割いてやっているようだが、それも極力人に見せないようにしているようだ。

俺が終わりの時間を告げにレッスンルームに入った途端に歌うのを止めるくらいだから・・・なかなか重症だ。

俺がライブ準備で本格的に忙しくなる前に問題を解決する必要があるな。

原因はおそらく・・・。

「プロデューサーさん!」

自分が呼ばれていることに気付き、慌てて顔を上げると・・・。

「安部さん、お疲れ様です」

「お疲れ様です!えっと、お忙しかったですか・・・?」

安部菜々さん。心が最も尊敬しているアイドルであり、ユニットを組む仲間でもある。

ある意味、もう一人の当事者とも言えなくもないか・・・。

「いえ、大丈夫です、ちょっと考え事をしていただけなので」

「そうですか・・・」

「えっと、なにかご用件がおありですか?」

そう聞くと、菜々さんは少し目を伏せたのち、意を決したように口を開く。

「はぁとちゃんのことでお聞きしたいことがありまして・・・この後、お時間大丈夫ですか・・・?」

「!・・・はい、大丈夫です。では、空いてる会議室に行きましょうか」

「はい、お願いします」

タイミングよく話を切り出されたため驚いてしまったが、ひとまず会議室に移動し、席に座ってもらう。

「それで安部さん、お聞きしたいこととは・・・」

「あのっ!はぁとちゃん、ナナのこと嫌いなんでしょうか!」

席に着いた途端、俺の言葉を遮って話し出され、思わずポカンとしてしまう。

「はぁとちゃんが『メルヘンデビュー!』歌うって聞いたんですけどはぁとちゃんなんだかよそよそしくって・・・!」

「確かに最近あまり・・・」

「もしかしたらナナがなにかはぁとちゃんを怒らせるようなことしちゃったんじゃないかって・・・!」

「いや、そういうわけでは・・・」

「ナナの曲を歌ってくれるって聞いてすごく嬉しかったのにはぁとちゃんは嬉しくないどころか嫌がってるんじゃないかって・・・!」

「それはないです!ひとまず落ち着きましょう、安部さん」

敬語を崩してまくし立てる菜々さんをなんとか遮って落ち着かせる。

それだけ、心のことを心配してくれていたということか。

「すみません、興奮しちゃいまして・・・」

「いえ、大丈夫です。」

落ち着きを取り戻した菜々さんは、申し訳なさそうにしながら椅子に座っている。

「佐藤が安部さんに対して怒ったり、曲を歌うのを嫌がったりしてることはありません。誓って言えますよ」

「そ、そうですか・・・でも、やっぱり最近避けられているようで・・・」

嫌われたりしていないということで、ほっとしたようだが、それでもまだ心配そうな顔をしている。

「ちなみに、いつごろから避けられていると感じましたか?」

「石川公演が終わった直後の電話は、楽しそうに話してたんですけど・・・次に話したのが、SSAに出る宵乙女のメンバーで集まってレッスンしたときです。そのときに避けられているって感じて・・・」

普段仲のいい二人が、レッスンで顔を合わせるまで話をしなかった。

ましてや、あんなに直接伝えたがっていたのに、か。

避けているというのは事実みたいだな。

「分かりました、原因に関しては自分もある程度察しがついてますので、明日佐藤と話をしようと思います。その前に、安部さんにお願いがあるのですが・・・」

翌日、俺はレッスンルームに向かっていた。

「しっかり話さなきゃな・・・昨日のこともあるし」

レッスンルームに着き、コンコンとノックしてから扉を開ける。

そこには、一人で自主レッスンをしていた心の姿があった。

慌てて止めた曲は、やはり『メルヘンデビュー!』か。

「ど、どうしたのプロデューサー☆まだレッスンの時間じゃないよね?」

「ああ、そういうわけじゃない。朝から自主レッスンか、頑張ってるな」

「ま、まぁね☆はぁとは頑張り屋さんだし☆それで、何か用?」

「ああ、今からちょっと打ち合わせがしたいんだが、時間いいか?」

そう言うと、心の顔が一瞬曇ったのを今回はしっかりと感じ取った。

「・・・うん、大丈夫」

「そうか、じゃあレッスン着のままでいいから会議室に来てくれ」

「うん・・・」

心は頷くと、そのまま顔を俯かせたまま、とぼとぼとついてくる。

「さて、それじゃあ打ち合わせなんだが・・・佐藤?大丈夫か?」

会議室に着き、向き合って話をしようとするも、心は未だに俯いたままだ。

「疲れてるかもしれないが、大事な話だから・・・」

「プロデューサー!!」

心が顔を上げ、俺の言葉を遮るようにまくし立ててくる。

「話って『メルヘンデビュー!』のことでしょ!」

「ああ、そうだが・・・」

「やっぱりはぁとが全然歌えてないからライブで歌うのも無しになるんだ・・・!」

「ん?いやそういう話では・・・」

「昨日ナナ先輩がプロデューサーにはぁとのことで話があるって言ってたし・・・!」

「お前あれ聞いて・・・」

「みんなに見られないうちにしっかり歌えるようにって頑張ってたけどナナ先輩にもバレちゃって・・・!」

「と、とりあえず落ち着いて・・・」

「やっぱりはぁとがナナ先輩の曲を歌うなんて・・・!」

「ストップ!!」

軽く暴走している心を、なんとか遮る。

「ライブで歌わせないことになったとかそういう話じゃないから、まずは落ち着いてくれ」

なんとか心を落ち着かせようとしながら、昨日を思い出しデジャヴを感じてしまう。

まったく、この二人は・・・。

「昨日菜々さんと何を話したかもちゃんと話すから、ひとまず座ってくれ」

そう言われ、ようやく椅子に座りなおす心。

落ち着いたのを見計らって、改めて話を切り出す。

「今回の打ち合わせで話しておきたかったのは、『メルヘンデビュー!』の追加の情報だよ。もう一度言うけど、歌わせないとかそういう話じゃない」

「・・・追加の情報?」

「ああ。『Serendipity Medley!!!』で歌われる曲には、『〇〇の歌を歌う』みたいな煽り文を付けることになってたんだ。その内容が決まったことを伝えようと思ってな」

「そうなんだ・・・『メルヘンデビュー!』以外の曲は?」

「ほかの曲は他のプロデューサーとかとも話し合わなきゃいけないしな・・・先に『メルヘンデビュー!」の分が決まったから言っておこうと思ってな」

「なるほど。煽り文かぁ・・・『先輩の歌を歌う』とか?」

「いや・・・『相方の歌を歌う』だ」

―――――――――

――――――

―――

「『相方の歌を歌う』・・・それではぁとちゃんの問題が解決するんですか?」

「ええ、安部さんに相方と認めてもらうことで、失った自信を取り戻せると思います」

「で、でもナナはそんな大層な人間じゃ・・・」

「そんなことありませんよ。特に、うちの佐藤にとっては本当に大きな存在です。だからこそ、プレッシャーも大きく感じてしまって、自信を失ってしまったんですから」

「そ、そうなんですか」

「はい。ですので、認めていただけませんか?」

「・・・えっと、まだ恥ずかしいような気持ちはあるんですけど、それではぁとちゃんが良くなるなら、喜んで」

「ありがとうございます」

「それと、よかったらはぁとちゃんにナナの気持ちも伝えてくれませんか?」

「それは・・・是非お願いします」

「はい。ナナははぁとちゃんのことを、ずっと前から相方だって思ってます。だから、はぁとちゃんらしく歌ってください。そうすれば、きっと最高のものが見られるって信じてますから」

―――

――――――

―――――――――

「・・・ナナ先輩・・・」

昨日の話を聞き、しばらく黙っていた心がポツリと言葉を零した。

「ナナ先輩ってさ、はぁとがデビューした当時から人気で、すごく輝いてたんだよね。その輝きになんとか近づきたくて、がむしゃらに後追っかけてたら、ユニットまで組ませてもらえて」

ポツリ、ポツリとゆっくり言葉を紡いでいく。

「間近で見たナナ先輩は、遠くで見てたときよりも眩しくて・・・はぁとなんて全然敵わないなぁって思えるくらい。でも、大好きなナナ先輩と一緒に居られるなら、それでもいいかなとか思っちゃったんだよね」

心情を吐露していくにつれて、心の眼が潤んでいく。

「『メルヘンデビュー!』歌えるって聞いたときはホントに嬉しかったんだけど、いざ歌おうとすると怖くなって・・・。ナナ先輩の輝きに埋もれているはぁとに、歌う資格なんてないんじゃないかって・・・。ナナ先輩をがっかりさせちゃうんじゃないかって・・・」

一筋涙が零れるも、それを拭い、前を向く。

「でも、はぁとらしく、か・・・。そう、そうだよね・・・。しょげてたって仕方ないもんね。ありがとね、ナナ先輩、プロデューサー。はぁと、やるよ!」

あぁ、やっぱり菜々さんと心はよく似ている。

「あぁ!その意気だ、佐藤」

「・・・はぁとって呼べよ☆」

他人のために自信が持てるところが、本当にそっくりだ。

そしてついにSSA公演初日を迎えた。

あの打ち合わせ以降、俺はライブ準備で忙しく、あまりレッスンを見れていないが・・・心配はしていない。

心ならきっと大丈夫、そう思いながら関係者席でライブを見守る。

やはり会場が広い分、観客の盛り上がりも大きいが、心もそれに飲まれることなく、次々に曲を披露していく。

『命燃やして恋せよ乙女』の後のMCでは菜々さんとハートマークを作って『しゅがしゅが☆み~ん』のポーズを作るサービスも見せ、観客を湧かせた。

菜々さんともしっかり仲直りできたようだ。

そして、いよいよ次の曲が心の『メルヘンデビュー!』になる。

「さぁ、思い切ってやってこい」

そう呟くと同時に、曲が流れだし、モニターに『相方の歌を歌うメルヘンデビュー!』と表示された。

「はーい☆今度ははぁとの番だぞ☆ほらほら、みんな引くなよ☆」

セリフで観客をさらに盛り上げながら、心が登場すると、大きな歓声が上がった。

その歓声にひるむことなく、観客を盛り上げるように歌い出す。

「ミンミンミン、ミンミンミン、ウーサミン☆ミンミンミン、ミンミンミン、ウーサミン☆」

シンデレラガールズの曲の中でも屈指のコール曲なだけに、観客の盛り上がりもすごいが、その声に埋もれずに歌い続ける。

「ウサミンパワーでー☆メルヘンチェーンジー☆」

自分の曲のように歌いこなす心に、観客も必死にコールして応えていく。

「ホーントのきもち☆キャハッ!ラブリー26歳☆ブイッ☆」

心本人の年齢に歌詞がアレンジされ、少し笑いが起こる。

「ミンミンミン、ミンミンミン、ウーサミン☆ウサウサウサ、ウーサミン☆」

ついに最後まで歌い切った。

出来がどうかは・・・言うまでもないな。

「パイセン!はぁと、やったよー!!」

観客の大歓声と、心の表情が、なによりも雄弁に語っている。

ライブが終わり、撤収作業の合間を縫って心に声をかける。

「お疲れ様。どうだった、今回のライブは?」

「あ、プロデューサー!おっつスウィーティー☆見ての通り大いに満足だわー☆」

「それはなによりだ。それじゃあ、撤収の用意を・・・」

「あ、ストップ!パイセーン!!」

菜々さんの姿が目に入った途端、俺の話を遮って駆け出していく。

「はぁとちゃん!お疲れ様です!」

「パイセーン!はぁと、やったよね?よかったよね?」

「もう、ライブ中にも言ったじゃないですか。最高でした!」

「うっし☆よっし☆」

本当に嬉しそうな笑顔で、菜々さんと話す心。

「次は、パイセンにはぁとの曲歌ってもらうから☆そのためにもっともーっと頑張って、シンデレラガールになるくらい頑張っちゃうから☆」

「その意気ですよはぁとちゃん!でも、ナナも負けませんからねー」

一つの夢を叶えた先に、また別の大きな夢ができる。

そうやってどんどん夢をどんどん叶えながら、成長していくんだろう。

「安部さん、お疲れ様です。話が盛り上がってるところすみませんが、二人とも撤収の準備をお願いします。」

「あ、プロデューサーさん、お疲れ様です。了解しましたー」

「もう時間ー?プロデューサーのケチー☆」

「まぁまぁ、打ち上げもあるでしょうし、そこでいっぱい話しましょう、はぁとちゃん」

菜々さんになだめられる心を見て、先輩後輩の関係は相変わらずだな、と思いくすっと笑ってしまう。

「あ、ちょっと何笑ってんのプロデューサー☆」

「いや、別になんでもないさ。ほらほら、早く準備しないと」

撤収を急かして誤魔化しながら、俺も新たに決意を固める。

菜々さんに負けないくらい、アイドルとして輝かせてやるからな。



おわり

以上です。

SSA初日のあの衝撃に思わず久々に筆を取り、うんうん呻りながらなんとか書き切りました。
もっとも、衝撃が強すぎて記憶が定かじゃない部分があったりするので、実際のライブと違う部分があるかもしれませんが、ご了承ください。

『シュガハ』が『ソロ』で『メルヘンデビュー!』を歌ったことのどれも嬉しかったんですが、個人的には『相方の歌を歌う』という表記が一番嬉しかったです。
カップリング論争をしたいわけじゃないんです。
しゅがまりも、ちづしんも、しゅがみゆも、それ以外のどんな絡みも大好きです。
ただ、『しゅがしゅが☆み~ん』というユニットにおいて、雲の上の存在だった菜々さんに並び立つことが、公式に認められた気がしたのが、最高に嬉しかったですね。
これまでの努力が無駄じゃなかったと思わせられた瞬間でした。

それでは、改めて終わりとしたいと思います。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
最後に過去作を置いて、HTML依頼を出してきます。


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