【謎解き】 先輩「キミは知ってるのかな? 学校の七不思議」男「……はい?」 (167)


……



「悪くない……悪くない……悪いのは……」

「ずっと、ずっと……許してほしいと……」

「……もう、間に合わない」



男(血、血だ……こんなに……止まらない。血がどんどん流れて)

男(死ぬ……このままでは死んでしまう!)

男(……ああ)

男(どうして)

男(どうして、こんなことに?)



男(七不思議なんて)

男(調べなければよかったんだ……)

男(あのとき)

男(先輩に誘われたあのときに、断っていれば――)




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数日前放課後
ミス研部室

男「七不思議……? 最近、校内で流行っているヤツですか。何となく聞いたことはありますね」

先輩「おやおや? その返答。キミはあまり興味ないのかしら??」

男「オカルトは信じないタイプですから。でも、先輩もそうでしょう? 急にどうしたんですか」

先輩「いやー、それはそうなんだけど」

男「?」

先輩「私はね、噂の成り立ちに興味あるの。今の時分にどうしてこんな噂が広まったのかっていうこと」

男「ああ、なるほど」

先輩「特に最近はね、この学校のどこにいてもその噂を耳にするの」

男「学年男女問わずに流行っているみたいですね。夏休みを越えたら少しは収まるかと思いましたが」

先輩「というわけで、我が部は秋の文化祭に七不思議を研究して発表します!」ババーン

男「……いきなりですね」


先輩「嫌なの?」

男「ミステリー研究会らしくないような」

先輩「何故広まったのかの『謎』を追う。いいじゃない。それに流行りの七不思議を研究したとなれば注目される!」

先輩「そうすれば存続に必要な部員の一人や二人……、いえ十人くらい入部してきてもいいわね」

男「随分欲を張りましたね」

先輩「この部室には大切な想いがあるの。風化させてはならない。忘れて欲しくない。これは私の使命よ!」

男「去年までずっと使われていなかったでしょう、ココ」

先輩「あなたも副部長である以上、この部を盛り立てなければならないのよ、分かる?」

男「強引に入部させられたんですけどね」



先輩「もう。昔から脈々と受け継がれる七不思議。キミはそそられない? そそられないのかな?」

男「昔からあったんですか? 七不思議っていうのは」

先輩「ふふん」

男「何ですかその笑い」

先輩「テレッテレッテッテ~」ババーン

男「ノート?」

先輩「この部屋、昔の文集とか回報とか、良く分からないものいっぱいあるじゃない?」

男「半分書庫みたいになってましたから」

先輩「で、この部誌。私はこの青く輝くノートを見つけたのよ、棚の奥からね」

男「輝いてはいないです。この部屋にあったってことは、かなり昔のものですよね」

先輩「そ、十数年前よ」

男「へえ」


先輩「びっしり書いてあるから長い時間かけて読んでいるんだけど、なかなか興味深いのよ。当時の部活動の記録とか学校の様子とかがね」

先輩「で、その中にあったの。『最近、七不思議がとても流行っている』って」

男「そんな前にも流行ってたんですか」

先輩「そう。ま、書いてる本人は全然興味がなかったらしくて『どこかしこもこの噂でもちきりだ。面倒で仕方ない』としか書かれていなかったんだけど」

男「昔と今が同じ状況なんですね。確かに何だかちょっと面白い感じがします」

男(十数年前にもこの学校で流行っていた七不思議か……)


先輩「でしょでしょ!? 良かった、キミなら分かってくれると思ったんだあ」ニッコリ

男(だから突然七不思議なんて言い出したのか)

先輩「さっそく調査に入るわよ!」

男(相変わらず変な人だなあ)

男(俺がこの春ここに入部させられたときも……)


ガラガラ

男『あれ? ここは?』

先輩『……誰?』

男『!? す、すいません。備品倉庫だと思ったんですが、間違えました』

先輩『……』

男『まだ学校に慣れてなくてですね、その……、すいませんでした』

先輩『待ちなさい』

男『え?』

先輩『ここに来たからにはもう逃げられないわ』

男『……は?』


先輩『キミ、新入生ね?』

男『え、ええ』

先輩『ここを見つけ出すなんて才能があるわ』

男『や、普通に入口ありましたけど』

先輩『ふふん』ドヤ

男(何だこの人)

先輩『ねえ。キミって、幽霊や呪い、信じるかしら?』

先輩『それとも、信じない?』



男『僕は信じないほうですけど』

先輩『ふうん、そっかそっか』

先輩『じゃあ、これからよろしくね』

男『よろしくの意味が分からないです。そもそもここは何なんですか?』

先輩『ここ? ここはね……』ムゥ

男『……』

先輩『ここは……』

先輩『……ミステリー研究会の部室よ』

男『今考えませんでした?』



男(そして先輩は自身を部長として、かつてこの学校にあったというミステリー研究会を再開させ)

男(強引に入部させられた俺は、副部長に任命されたわけだが……)

男(何だかんだでずっと入り浸っている。この二人だけの部活に)


先輩「じゃあ、とりあえず七不思議の話を集めてみましょうか」

男「これだけ話題沸騰だと、すぐに集まりそうな気もしますね」

先輩「それだとちょっとつまらない気もするけど。私も周りのひとに聞いて回るから、そっちもよろしくね」

男「了解しました」

先輩「ふふ。夏休みはもう終わっちゃったけど、楽しいことになればいいわね!」

……


教室

友「別にいいけどさ、どういう風の吹きまわしだ? オカルトの類は信じないんじゃなかったか」

男「興味出てきたんだよ、何だか調べたくなってきて」

友「そーかそーか。やっぱりお前もか。あり得ないとは思いつつも、魅かれるものはあるよなあ」

友「幽霊、UMA、ムー大陸。宇宙人未来人超能力者にツンデレ少女。オカルトは思春期のロマンだ」

男「最後のはオカルトじゃないけどな。で、お前は幾つ知ってるの? 全部?」

友「まさか。2つだけだ」

男「少ないな」

友「こういうのは少しずつが基本だ。いきなり全部は粋じゃない」

男「そんなものなのか」

友「じゃ、教えてやるよ。俺が知ってるのは『うしろに立つ悪魔』『レンガ塀のさけび』だ」

友「実はこの学校にはな……」


……

男「ふーむ」

男(あれからまだ学校に残ってるヤツを捕まえては話を聞いてみたが、七つとも知っている人はいなかったな)

男(最近では放課後に残ってる生徒が部活の人間くらいしかいない。これも七不思議の影響があるとかないとか……)

男(今日は帰ってまた明日聞いてみよう)

男(にしても)

「……」

男(誰もいない学校ってのは少し不気味だ)



自宅

男「ただいま」ガチャ

姉「おう、お帰りやすー」

男「……」

姉「どした?」

男「姉ちゃん、いくら家だからってその格好はちょっとどうかと思う」

姉「まだまだあっついからのう。うわっ…私の格好、セクスィーすぎ…?」

男「そうですね」スタスタ

姉「やーん弟が冷たーい」

男「暑かったから良かっただろ」

姉「これは一本取られましたな」テヘ


男「姉ちゃんは夏休みが長くてうらやましいよ」

姉「おかげで毎日ゾンビの盆踊りごっこが捗るぜ」

男「楽しいのかそれ……。あ、そーだ。去年姉ちゃんがウチの生徒だった時さ、七不思議ってあった?」

姉「ん? 七不思議?」

男「今学校で流行ってるんだよ」

姉「ヘーそうなんだ。全然聞いたことなかったなあ……うん? や、記憶にちょっとあるようなないような」ウーン

男(大流行りしたのは今年からなのか)

姉「駄目だ、あったような気がするけど内容までは思い出せん。にしても、どしたの? 珍しい」

男「ちょっと気になってね」

姉「何、もしかして怖いの? 今夜おねーちゃん一緒に寝てあげようか?」

男「うるさい」


翌日
放課後

先輩「それで、どうだった?」

男「七つのうち一つだけ分からなかったんですけど、他は思ったより簡単に聞けました」

先輩「ほうほう。やるじゃない」

先輩「じゃ、聞かせて。私はまとめてみるから」

男「分かりました。まずは――」


『うしろに立つ悪魔』
 学校にいるという悪魔から殺されてしまう。逃れるためには学校を移るしかない。
その悪魔は昔から学校に棲みついている。


『みずに濡れた少女』
 放課後の校内に少女の幽霊が現れる。彼女は自らを殺した相手を探し求めている。


『忘れさられたへや』
 学校のどこかにあるという開かずの部屋。部屋には亡者の怨念が蠢く。
その扉が開けば、亡者が解き放たれ、学校に不幸を起こす。


『レンガ塀のさけび』
 レンガ塀の傍を歩いていると、悲鳴と助けを求める声が聞こえる。
しかし、それに応えてはならない。


『るり色の日記』
 クラスで苛められていた生徒の日記帳。担任にも見捨てられたその生徒は死んだ。
それを読むと、魂を奪われてしまう。


先輩「簡単にまとめてみたわ。こんな感じな訳ね」

男「ええ。あとそれから『ななつめの不思議』があるんですが」

先輩「ななつめ?」

男「ええ」


『ななつめの不思議』
 その謎は隠されている。不思議を体験したものは、それを見つけなければならない。


男「という曖昧なものです」

先輩「ふむふむ」


男「僕のほうはこんな具合でしたが、先輩はどうでした?」

先輩「うーん、残念。どれも私の聞いたのと同じだにゃー。残り一つは分からなかったわ」

男「そうですか……」

先輩「ふふ。まあまあ、謎が残ってるほうがいいじゃない? にしてもどう思う? この七不思議」

男「まあ、こんなものじゃないですか? もう少し場所が関係しているものかと考えてましたけど」

先輩「場所?」

男「例えばトイレとか、美術室、音楽室のなんちゃらが云々って感じで」

先輩「そうね、具体的な場所はレンガ塀しかないわよね。どれも殺したり死んだり物騒だけど」


先輩「じゃ、この不思議を一つ一つ調べてみましょうか」

男「調べるって、どうやって?」

先輩「もちろん現地調査よ」

男「現地調査?」


校舎裏

レンガ塀

男(とは言っても、調べられるのってこれだけか)

男(校舎裏のレンガ塀……叫びが聞こえるとか何とか)

男「確か、この塀は学校の創設と同時に作られたんですよね。昔の偉い人が寄贈したと」

先輩「へーそうなんだ。よくそんなこと知ってたわね」

男「校長先生がよく言ってません? 催しがあるごとに、我が校の創立は~って感じで始めて。その中で、寄贈したっていう偉い人の名前を必ず出します」

先輩「キミ校長先生の話なんて聞いてるんだ? 偉いねえ!」

男「先輩はロクに聞きそうにないですね」

先輩「もちろん!」フフン

男「自慢することじゃないです」


先輩「でも、ここあまり誰も近寄らないよね」

男「そもそも他に何もないですし」

先輩「だから、そんな噂が立ってもおかしくない……のかしら」

男「そうかもしれませんね。で、調べるって言ってもどうするんですか?」

先輩「……」

男「もしかして考えてなかった?」

先輩「……悲鳴が聞こえてくるまでここで待機よ」

男「えっ」


先輩「……」

男「……」

先輩「……」

男「……」

男(叫びなんて聞こえない……当たり前だが)

男(聞こえてくるのは……蝉の鳴き声に、遠くから部活動の……これは水泳部か)

男(……)

男(そういえば今年は海にもプールにも行かなかったなあ)

男(だらだら過ごしてたらいつの間にか夏休みも終わってしまっていた)


先輩「……」

男「……」

先輩「……」

男「……」

男(先輩と海に……誘ったらOKしてくれただろうか)

男(水が滴る先輩の姿を見てみたい)

男(美人だしプロポーションも良いし、絵になるだろう)

男(先輩の踊る黒髪、弾ける笑顔、白い水着、響く波音、熱い砂浜、太陽が燃えているぜ!)

男(……)

男(何か悲しくなってきた。俺は今何をしているんだろうか)


先輩「……」

男「……」

先輩「……」

男「……」

男「あの、先輩?」

先輩「うん?」

男「そろそろ部室に戻りませんか」

先輩「……うん」コクリ

男「先輩?」

先輩「私、私ね。ずっと、ずっと」

先輩「キミがそう言ってくれるの待ってたんだよ」

男「先輩……」

男「だったら先輩から言ってくださいよ」

先輩「負けるのは嫌なのよ」

男「何の勝負ですか」

今日は以上です
ぼちぼちやります
謎解き()


先輩「何の収穫もなかったわね」

男「そうそうあるものでもないでしょう」

先輩「でも、このままだと発表がまるで面白くないものになるわ」

男「単なる七不思議の箇条書きになってしまいそうですね」

先輩「……それだと部員十人は難しいかもしれない」ムゥ

男(初めから難しいと思いますが)

先輩「どうして七不思議が広まったのか、いつ頃から語られているのか、なんて情報がほしいわ」

男「十数年前の流行っていたって時期のことも気になりますね」

先輩「そうねえ。キミは学校のOBに知り合いいない?」

男「姉はここの卒業生ですが、去年のことですし。それにほとんど覚えがないそうです」

先輩「うーん。もう少し前の代のお話も聞いてみたいわね……」


男「考えたんですが、先生の中にはこの学校に長い人もいるかもしれません。もしかしたら話を聞けるかも」

先輩「良いじゃない、それ!」

男「ただ、先生達はこの噂にあんまり良い顔をしていないんですよね。学校の評判に関わることですから当然だと思いますが」

先輩「そこはまあキミの交渉術で籠絡してくれ給えよ」

男「僕ですか」

先輩「私も行きたいとこだけど。先生方には一目置かれてて、素直にお話してくださるのか分からないのよね」

男「目をつけられているって言ったほうが正しいと思います」


……

職員室

担任「そうかあ、文化祭でこの学校の昔のことをねえ」

男「ええ。できれば実際の学校生活のような、沿革ではなくお話を伺えれば、と思いまして」

担任「うーむ、この学校も異動多いからなあ。……あ、教頭先生だ確か」

男「教頭先生?」

担任「そうそう。確かずっとこの学校にいらっしゃるよ。クラス担任をされていた時からだったと思うな」

男「そうなんですか」

担任「それに教頭先生は、生徒のためなら喜んでお話して下さると思う……が、今は駄目だな」

男「?」

担任「今は出張中でね、残念」

体育教師「あの、それだったら美術の先生がよろしいのではないでしょうか?」


体育教師「すいません、立ち聞きしてしまいまして」

担任「いえ。ですが美術の先生は、この学校に今年赴任されてきたばかりでは?」

体育教師「ええ。しかし、彼女はこの学校のOGですよ」

担任「アッそうだったそうだった。教頭先生の教え子って言ってた」

体育教師「聞きたいのは学校生活の実情だったよね。美術の先生なら生徒目線の話を聞けて、良いんじゃないかな」

男「そうだったんですか。ありがとうございます、お話伺ってきます」


美術準備室

美術教師「この学校の、私が学生だったころの『昔』の話――って言われると引っかかるけれど。まだ少ししか経ってないわよ?」

男「す、すいません……」

美術教師「ふふ、冗談よ。でもそうね、私が生徒だったころと今と、あんまり変わっていないかもね」

男「そうなんですか?」

美術教師「ええ。もちろん流行り廃りはあるけどね。あなたたちも芸能人の話とか、好きな人の話とかするでしょう?」

男「はあ」

美術教師「そうね、例えばね――」


美術教師「……ということもあったのよ」

男「へー。それは面白いですねえ」

美術教師「でしょう? 私も若かったわ。色々失敗もしてきたわね」

男「そうなんですか」

美術教師「そうよ。だからね、あなたたちも挑戦して、そして失敗してみることが大事よ。それがきっと将来の自分にかえってくるから」

男「勉強になります」

美術教師「ふふ、本当かしら。何だか結構話してしまったわね。他に聞きたいこと、あるかしら?」

男「そうですね……あ、そういえば、今校内で流行ってますけど」

美術教師「……え?」

男「先生の頃には七不思議とかありました?」


美術教師「そんなものなかったわ」


男(……何だ?)

美術教師「あんな下らない噂を楽しがるなんて、今の子はどうかしてるわね」

男「そ、そうですか」

美術教師「……。お話は以上でいいかしら? 私もそろそろ美術部のほうに顔出さなきゃいけないのだけれど」

男「ええ。色んな話を聞けて良かったです。お時間ありがとうございました」

美術教師「……」

男「あとで聞き足りなかったなんて気が付いたら、また伺ってよろしいですか? 課外活動等はあまり深く聞けませんでしたし」

美術教師「……ええ」


男「失礼しました」ガラガラ

男(慎重に聞いたつもりだったが、あんなに不快感を露わにされるとは思わなかった)

男(嫌な思い出でもあるのかな?)

男(それとも単純にこの話が嫌いなのかもしれない)

男(しかし、これからどうしようか。結局肝心の七不思議のことについては聞けなかったが)

友「おっ? どうしたんだ? お前も美術室に用事か?」


男「その格好、部活中?」

友「そうなんだが……こないだの美術の課題提出しに来たんだよ、つい忘れてて。さっき思い出したんだ」

男「ああアレね。まだ提出してなかったのか」

友「い、言っとくけどわざと遅れたんじゃないからな。ウッカリだからな!」

男「? わざと?」

友「何だ、分からないんだったらいい。……や、だって美術の先生ってさ、まだ若いし綺麗だし。この学校には今年からっていうのに、もう全校で人気あるじゃん。女子にもファンが多いんだぜ」

男「ああ。それで、わざと課題を忘れてお近づきになりたいと」

友「俺は違うからな! そういうヤツもいるってことだよ。で、お前はどうしたんだ」

男「ちょっと聞きたいことがあって」


友「聞きたいことぉ~? あ、分かった。さてはお前、七不思議のことだろ」

男「え? 何で?」

友「俺だけじゃなくて他のヤツにも色々と聞いて回ったらしいじゃんか」

男「ああ、それで」

友「美術の先生、この学校のOGだもんな。十年くらい前だっけ。あんな人が同級生にいたらいいよなあ。楽しいだろうなあ」

男(美術の先生のことよく知ってるな……こいつ本当はわざと課題忘れたんじゃないのか?)

友「でも、そこまで七不思議のこと調べるってどうしたんだ? オカルトに興味なかったお前を何がそこまで動かすんだ」

男「いやそこまで大それたもんじゃないが……」


友「ほうほうほうほう。なるほどなるほど。そういうことかそういうことか」

男「結局美術の先生からは聞けなかったんだが……、って何でそんな嬉しそうなんだ?」

友「やーやーやー、いいっていいって。おかしいって思ってたんだよなあ。でも納得だぜ」

男「いや、だからそういう経緯でミステリー研究会で発表するだけだって」

友「分かる、分かるよ。あの先輩、すっげー美人だよな」

男「何を勘違いしてんだ。俺は別に――」

友「それにあの先輩ってちょっとミステリアスなところがあるもんな」

男(まるで他人の話を聞いていない……)

友「ウチの部のマネージャーさんにさ、親しくもないのに突然怖い話をしてきたという。雰囲気出ててすっげー怖かったらしい」

男(確かにそういうことを喜んでしそうな人ではある)

友「やっぱりお前はそういう人が好きなんだな」

男「何がやっぱりなんだよ、あとどういう人なんだよ」


男「まあいい。部活頑張ってくれ。それじゃ」

友「待ちたまえ。そんなキミに一つ朗報がある」ガシッ

男「何だよ」

友「ウチのカントクだ。キミが探している人間だ」

男「は? ……カントク?」

友「ウチの部の指導に来ている人なんだけど、OBなんだよ、ココの。美術の先生よりちょっとだけ年上だったかな」

男「え、本当に?」

友「ああ。間違いない。練習以外は優しい人だし、話してくれると思うよ」

男「そうか、じゃあその監督さんをたずねてみるか……」

友「ああ。ちょうど明日が練習に来る日だから、練習前に話せるよう取り計らっておこう」

男「え、そこまでしてくれんの? 悪いな」

友「いいんだ、いいんだ。友人の恋路を応援するのは当たり前のことだろう?」ニカッ

男(……。まあ、いいか)


……

翌日・放課後
部室

監督「えぇ~今の時代でも流行ってるんだ。驚いたなあ。オカルトの流行なんてもうないと思ってたよ」

友「そのせいで今、部活以外で放課後に残ってる生徒少ないんスよ。そろそろ文化祭の準備始めなきゃいけないのに」

監督「なるほどなあ。最近の子は割とすぐ帰るんだなって思ってた」

男「監督さんのころも話題になってたんですか?」

監督「そうそう、皆1年から3年まで熱を帯びたかのように。あれこそ一種のオカルト現象だったね」

友「へー、今の学校と同じなんスね」

監督「僕が卒業する年かな? 一番流行ってたのは。学校で問題にまでなってさ、全校集会で注意されたんだよ」

監督「でもま、それが逆に教師側が隠ぺいしてるって生徒を煽る結果になってな。頑固な教頭が顔真っ赤にして怒ってたなあ。教師を舐めてるって。あ、当時の教頭ね」

友「へー。そこまでになったんスね」


男「それで、その七不思議って覚えてます?」

監督「うん。全部言えるよ」

友「記憶力いいッスね!」

監督「だろ? って言いたいところだけど、こないだ同窓会があって偶然その話題になってな。そこにいた人間で何とか記憶を絞り出したんだよ」

監督「酒の席だったし怪しいところもあるが、大体は合ってるんじゃないかな」


『校庭を走る幽霊』
 夜中に校庭を走り回る亡霊が現れる。

『家庭科室の包丁』
 放課後に無人の家庭科室で包丁が飛び回る。

『地獄からの便り』
 亡くなった生徒から手紙が届く。

『体育倉庫の怪』
 死んだ男子生徒が現れる。

『もう一人の自分』
 帰宅していたのに、同じ時間にもう一人の自分が学校にいる。

『水底からの掴む手』
 泳いでいると何者かに足を掴まれる。

『死人の電話』
 学校から死人の電話がかかってくる。


友「俺が知ってる今のとは全然違うじゃないっスか!」

監督「お、そうなのか?」

男「一応こっちに今の七不思議をまとめたのがあります。まだ判明していないものが一つあるんですけど」ペ゚ラッ

監督「ふうん、どれどれ……」

友「こ、こっちに見せないでくださいね。一度に聞くのは、粋じゃないですんで」

男「……十数年前の七不思議は聞いても良かったのか?」

友「た、大切なのは過去じゃなくて今がどうかだろっ」

男(こいつ粋とかじゃなくて、実は怖がってるんじゃ……?)


監督「へーえ今はこんなのが流行ってるのかあ。これ文化祭で発表するんだ?」

男「ええ。もう少し色々と調べて、そうする予定です」

友「あんまりミステリー研究会らしくない題材だよな」

男「(先輩の)思い付きだからな。まだこの先も変わるかもしれない」

友「そういや、うちのクラスの出し物もいい加減決めなきゃいけないよな。カントクの時は何したんスか?」

監督「一、二年の時、どっちもお化け屋敷だったな。ゾンビメイクであーあー唸ってたよ」

友「へー。カントクに似合いそうスね」

監督「あ? それはどういう意味だ? あ?」

友「さ、三年のときは何したんスか?」

監督「いや、三年のときはなかったから、ずっと受験勉強漬けだった」

友「へー。カントクも勉強したんスね」

監督「あ? それはどういう意味だ? あ?」


……

校舎・廊下

男「うーん」スタスタ

男(監督さんから聞けて良かった。手伝ってくれたアイツに感謝しないとな)

男(しかし昔から大きく変わったもんだな……もしかするとまだ分かっていない今の七不思議の一つに、名残があるのかもしれないが)

「……!」

「……っ!!」

男「ん?」

男(何か騒がしい)

男「え?」

男(あれは……)


美術教師「いい加減にしなさい! して良いことと悪いことも分からないの!?」

先輩「言うほど悪いこととは思いませんが」

美術教師「それはあなたが決めることではないわ!」

先輩「なるほど、先生がお決めになることなんですね?」

美術教師「なんですって……!」グッ

男「ちょ、待った、待ってください!」

先輩「あら」

美術教師「! あなた?」


男「ど、どうしたんですか先輩」ヒソヒソ

先輩「私は悪くないわよ。向こうが突然難癖付けてきたのよ」ヒソヒソ

男「そんな、ヤンキーじゃないんですから」ヒソヒソ

先輩「本当よ。何だか分からないけれど、この人ずっと私のことが気に食わないのよ」ヒソヒソ

男「さっさと謝ったほうが得ですって」ヒソヒソ

先輩「えー↓ 私からー?」

美術教師「……っ」

男「先輩っ」ヒソヒソ

先輩「……ドウモ、スミマセンデシタ。コレカラ気ヲツケタイト思イマス」

男(うわあ棒読み)

美術教師「……」

美術教師「いいわ、もう。次からは注意して……っ」


先輩「で、で、それで何か分かった? 七不思議のこと」

男「と、とりあえず部室に行きましょう」

男(ものすごく睨まれてるから)

美術教師「……」

先輩「聞いてきたんでしょ? カントクさん? だっけ?」

男「は、はい。部室で教えますから……」

先輩「ふふ、じゃ早く行きましょうっ」


……

ミス研部室

先輩「ほほう……! それは面白い事実ね」

男「ええ。昔と今とで全く異なるとは思いませんでした……そんなものなんでしょうか?」

先輩「うーん、どうなのかしら」

男「今の七不思議で、まだ分かっていない一つが、もしかして昔と似たような話なのかもしれませんね」

先輩「ふっふっふー♪」

男「?」

先輩「キミが調べてくれている間にね、私も『今』の七不思議残り一つの話、ちゃんと掴んできたわよ」

男「えっそうなんですか? 美術の先生とケンカしていただけかと思いました」

先輩「い、言うわね。さっきのあれはちょっと……強引に聞きすぎちゃったかなーって感じ? まあ、そのおかげで分かったわ」




『らせん階段の死体』
夜、らせん階段の数を数えながら下りていくと、死体を見つける。



男「らせん階段? ウチの学校にそんなものありましたっけ?」

先輩「良いところに気がついたわね、ワトソンくん」

男「この学校の生徒なら誰でも気がつきますよ」

先輩「私も疑問に思って調べてみたの。そしたら五年前に撤去されていたみたいよ」

男「五年前に?」

先輩「老朽化と安全上の問題ですって。第二校舎外のプール側についていたみたいなんだけどね、撤去される以前から損傷がひどくて、立ち入り禁止だったみたいよ」

男「怪談の場所が安全上の問題で撤去されるってのも、皮肉な話ですね」

先輩「ふふ、そうねえ」

男「この話だけ広まってなかった理由もそれだったんですね。もう無い場所を怖がってもしょうがないですし」


男「これで今流行っている七不思議が揃いましたね」

先輩「ええ」

男「……」

先輩「何も起こらないわね」

男「七つ揃えると何かが起こるっていうようなものでもないでしょ」

先輩「タッカラプ――」

男「そういうのいいんで」


先輩「それで、ちょっとまとめてみると――」

男「これが昔の七不思議です」

『校庭を走る幽霊』
 夜中に校庭を走り回る亡霊が現れる。

『家庭科室の包丁』
 放課後に無人の家庭科室で包丁が飛び回る。

『地獄からの便り』
 亡くなった生徒から手紙が届く。

『体育倉庫の怪』
 死んだ男子生徒が現れる。

『もう一人の自分』
 帰宅していたのに、同じ時間にもう一人の自分が学校にいる。

『水底からの掴む手』
 泳いでいると何者かに足を掴まれる。

『死人の電話』
 学校から死人の電話がかかってくる。


先輩「で、こっちが今現在の七不思議ね」

『うしろに立つ悪魔』
 学校にいるという悪魔から殺されてしまう。逃れるためには学校を移るしかない。
その悪魔は昔から学校に棲みついている。

『らせん階段の死体』
 夜、らせん階段の数を数えながら下りていくと、死体を見つける。

『みずに濡れた少女』
 放課後の校内に少女の幽霊が現れる。彼女は自らを死に追いやった相手を探している。

『忘れさられたへや』
 学校のどこかにあるという開かずの部屋。部屋には亡者の怨念が蠢く。
 その扉が開けば、亡者が解放され、校内の罪人を殺す。

『レンガ塀のさけび』
 レンガ塀の傍を歩いていると、悲鳴と助けを求める声が聞こえる。しかし、それに応えてはならない。

『るり色の日記』
 クラスで苛められていた生徒の日記帳。その後生徒は死んだ。それを読むと、魂を奪われてしまう。

『ななつめの不思議』
 その謎は隠されている。不思議を体験したものは、それを見つけなければならない。


先輩「こういうのって時代とともに変わっていくものなのかしら」

男「そうなんですかね」

先輩「古い方の七不思議……『旧七不思議』って呼ぶわね。キミが言っていた通り『旧』と『新』で全く違う。こういう噂って語り継がれていくものじゃないの?」

男「うーん。『旧』が流行ってた時、つまりカントクさんが在校生だった時が大体十数年前ですね」

先輩「それだけ経てば変わるのかしら?」

男「まあ噂の一つや二つは……」

先輩「でもまるまるっと変化しているわ」

男「案外そんなものかもしれませんね。噂なんて、そもそもあてにならないものでしょう?」

先輩「そうねえ……」


先輩「もうちょっとグッとくるような真実があれば良いんだけど」

男「グっとくる?」

先輩「実は、この学校ではカクカクシカジカな事件があって、それがこの不思議になりました、みたいなね」

男「その話が作られた背景ってことですか」

先輩「火のない所に煙は立たぬ。何かがあって噂は生まれる。そうは思わないかしら?」

男「……うーん」

先輩「全部が全部とは言わないけれど、一つくらいそんな話があっても良さそうじゃない?」

男「まあ、そうですね」

先輩「その原因が取るに足らない話だったら笑い話にできるし、実際に何かあったって言うなら真実味が増す。どっちにしろ、面白くなると思うわ」


男「……あの、もしかしたら詳しい話を聞けそうなのが教頭先生なんですが」

先輩「教頭先生?」

男「ええ。教頭先生はずっとこの学校にいたらしいんです。もしかすると『旧』から『新』への移り変わりとか、その原因にも何か心当たりがあるかもしれません……そういうのがあれば、の話ですけど」

先輩「ふーんそうなんだ」

男「ただ、今はまだ出張中みたいでして。教頭先生は、生徒が望めば喜んで話をしてくれるような人らしいんですが」

先輩「基本的には誰にでも優しいからね! 頑張って!」

男「また僕一人ですか」

先輩「そう拗ねない拗ねない。ほら、アメちゃんあげるから」

男「子供じゃないんですから」


先輩「どうなるか分からないけど、文化祭はまだ先だし焦ることはないわね。最悪ねつ造すればいいし」

男「いや、駄目でしょ」モグモグ

先輩「という感じで、今日のところは解散ね」

男「分かりました」

先輩「でも……、気をつけてね」

男「? 何にです?」

先輩「七不思議全部を知ると、大抵よくないことが起こるらしいから」ニヤリ

男「はいはい」


下駄箱

男(次は教頭先生に話を聞いてからかな)

男(聞ければ、だけど)

男(……)

男(七不思議が出来た理由か……)

男(その場所が不気味だったからなんていう、話にもならない理由から作られてるんじゃないかなあ)

男(でも一つくらいちゃんとした理由があったほうが、先輩も嬉しいだろうけど)ガチャ

男「ん?」

男(靴の上に、手紙……?)


自宅

姉「おーおかえりゃー」

男「ん、どっか行くの?」

姉「そそ。虫のエサを買いにね」

男「虫?」

姉「おねーちゃんのお腹の虫。鳴いてしょうがないのよ」

男「ああ……」

姉「お母さんも今外出してるけど大丈夫? おねーちゃんいなくても一人でお留守番できる?」

男「俺は小学生か」


男(さて……この手紙だが)

男「宛名も差出人もないな」

男(中に書いてあるのかもしれない)

男「……」ソワソワ

男(わざわざ家に持ち帰って開けるだなんて、ちょっと期待しているのか俺は)

男(放課後どこどこで待ってます、とかだったらどうしよう。待ちぼうけさせたことに)

男「……」

男(なぜ俺は開けてもないのにこんなことを考えてしまうんだ)

男「よし」

男(妙に緊張する)

男「……」ビリリ

男「……え?」






    ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああ
 ああああああああああああああああああああああああああああ
    あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
  あああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああ


男「な、何だよこれ」

男(赤い字で延々と。ただ……)

男(気味が悪い)

男(……)

男(誰かの悪戯?)

男(でも、なんのために?)

男(それに、なんで俺に……)

電話 ♪~♪~♪~

男「っ」ビクッ

男「電話か……」

電話 ♪~♪~♪~


男「……はい、もしもし」ガチャ

『……』

男「もしもし?」

『……』

男(ん?)

『……』

男「あの、電話が遠いようなのですが」

『……』


男(ざわざわした音が小さく聞こえるが……誰かの息遣い?)

『……』

男「……何も、聞こえないので、切りますね」

『……』

男「……」ガチャ

男(イタズラ電話? 表示された番号は……知らない)

電話 ♪~♪~♪~


男(同じ番号だ)

電話 ♪~♪~♪~

男「……。はい、もしもし」ガチャ

『……』

男(何だ? 一体)

『……』

男「切りますよ」ガチャ

男(……何か、気持ちが悪いな。さっきから)

男(偶然にしては……)

男(考えすぎかな?)







電話 ♪~♪~♪~

今日は以上です


姉「ただいまんぼう」

男「お帰り」

姉「いやいや遅くなっちったよ。愛しの〆さばチーズ味が売り切れでさー遠くの店まで探したよー」

姉「どう? おねーちゃんいなくて寂しくなかった?」

男「全然」

姉「やーんおねーちゃん寂しー。ほれ、食いねぇ食いねぇ」

男「ん、ありがと」ガリガリ

姉「……ん? どした? 何かあったか?」

男「いや。さっきからさ、何度かイタズラ電話っぽいのがあってさ。出ても無言なんだよ。番号は同じなんだけど」

姉「え? 私も受けたよ、その電話! 出かけるほんのちょっと前に」


男「そうなんだ。イタズラかな? ずっと無言で不気味だったけど」

姉「私のときはすぐ切れたから。シャイな間違い電話だと思ったんだけどなー」

男(姉ちゃんのときはすぐ切れたのか)

姉「もうちょっと続くようだったら、番号で受信しない設定にしておこうか」

男「そうだね」

電話 ♪~♪~♪~

姉「……」

男「……」


男「この番号……さっきまでのと同じだ」

姉「……」ガチャ

男「あ、ちょっ」

姉「はい、もしもし」

男(イタズラ電話だったら姉ちゃんよりも俺が出たほうがいいと思ったんだけど)

姉「……」

姉「……えっ? ええ、はい、そうですが」

男(応えた?)

姉「ええ、おりますが……、どうしました?」

姉「……分かりました、少々お待ちください」

姉「はい、どうぞ」

男「え? 俺に?」


担任『おお、もう帰ってたか』

男「……先生? どうされたんですか?」

担任『あー少しな、確認したいことがあってな』

男「? 何です?」

担任『や、そうだな。明日、少し早く学校に来ることできるか?』

男「ええ。大丈夫ですけど。どうしたんですか?」

担任『詳しいことは明朝話すよ。じゃあ頼むな』


姉「担任の先生、何て?」

男「明日ちょっと早く来てくれって。よく分からなかったけど」

姉「あちゃー。ついにあの悪事がバレちゃったのかー。やっぱり嘘っていつまでも隠し通せるモノじゃないよね、うんうん」

男「何の話だよ」

姉「ふふ。それにしても電話、イタズラじゃないみたいで良かったね。通信障害でも起きたのかしらん」

男「ん、そうだね」


男(……例えば)

男(何度か電話した相手にようやく繋がって『もう帰ってたか』と言うだろうか)

男(それに、あの無言電話……まるで)

男(相手が息を殺してこちらをうかがっていたような)

男「……」

男(いやいや番号が同じだったし、あれも担任だったんだ。電話の繋がりか何かが悪くて聞こえ辛かったんだろう)

男(……)

男(……番号が同じ?)

男(担任の先生はどこからかけてきた?)


翌朝
生徒指導室

男(教室でも職員室でもなく生徒指導室。何の話だろうか?)

担任「悪かったな。朝早くに来てもらって」

男「いえ。それで確認したいことっていうのは何ですか?」

担任「ああ、それなんだが。昨日、お前いつ学校から帰った?」

男「? 昨日でしたら部活に出て、そのあとはまっすぐ帰りましたから。暗くなる前には家にいましたよ」

担任「疑ってるわけじゃないが、本当か? 記憶違いとかは?」

男(疑ってるじゃないか)

男「間違いありません。なんでしたら、家にでも確認していただければ分かると思いますが」

担任「そうか。ならいいんだ」

男「……何があったんです?」


担任「うん。昨日の放課後、おそらく暗くなってからだと思うんだが、家庭科室が荒らされてな。それで少し騒ぎになったんだ」

男「家庭科室……」

担任「結構派手にやられたらしい」

男「それで、どうして僕が?」

担任「ああ。その……」

担任「気を悪くしないでほしいんだが、その時間に付近でお前を見たっていう奴がいたらしくてな」

担任「何でも、そのときのお前の様子が随分とおかしかったから印象に残ってるって言ったらしい」

担任「青白い顔で視線も虚ろで、なのに口元は薄く笑っていて……あ、いや」

男「……」

担任「俺もお前がそんなことするはずはないって知ってるから、その生徒の見間違いか、勘違いだろう。現に、昨日すぐお前は電話に出たしな」

担任「だからこれは、ただの確認だ。一応のな。わざわざスマン」


男「その、僕を見たって人は?」

担任「ああ。部活動で学校に残ってた生徒らしいんだが、その……」

男「……」

男「いえ、名前を僕に言うのはためらわれるでしょう。そういうことなら仕方ありませんよ」

担任「すまん。その生徒には見間違いだったってしっかり伝えておくようにするから」

担任「嫌な気持ちにさせたと思う。本当にすまなかった」

男「いえ……」


廊下

男(濡れ衣を着せられるってのは、不愉快な気分になるものだな)

男(……にしても)

男(昨日から妙なことが続いてる)

男(誰かの嫌がらせか?)

男(それとも……)


『七不思議全部を知ると、大抵よくないことが起こるらしいから』


男(まさか。本当にそんなことが起こるわけがない)

男(でもあの手紙といい、電話といい)


『地獄からの便り』
 亡くなった生徒から手紙が届く。

『死人の電話』
 学校から死人の電話がかかってくる。


男(『旧七不思議』に似ている……? それに今の話)

『何でも、そのときのお前の様子が随分とおかしかったから、印象に残ってるって言ったらしい』

『青白い顔で視線も虚ろで、なのに口元は薄く笑っていて……』


『もう一人の自分』
 帰宅していたのに、同じ時間にもう一人の自分が学校にいる。


男(見間違い? 本当に勘違いなんだろうか?)

男(でも何で家庭科室を荒らすなんてこと――)

男(……)

男(家庭科室……?)

友「おっ、こんな早い時間に珍しい」

男「!?」


友「おお。ナイスリアクション」

男「何だお前か……突然うしろから声かけるなよ」

友「わざわざ前に回ってからってのもおかしいだろ。……? 顔色悪いけど、何かあったんか?」

男「いや、大丈夫だ。早起きして学校に来たからだな」

友「はは、慣れないことはするなよ」

男「朝練?」

友「うん、朝から頑張ってるぜー。で、いつも遅刻ギリギリの奴がどうしてこんな早くに?」

男「俺は、その……。他愛もない用事で」

友「ん? ああ、なるほど、そーか! 青春だなあ! どうだ、進展はあったのか?」ニヤニヤ

男「……何か勘違いしてるぞ」

友「いやいや、お前も頑張ってるようで何よりだぜ。付き合うことになったら、一番に報告してくれよ?」

男「あのな」


友「そういやさ、昨日の放課後ちょっとした騒ぎがあったんだぜ」

男「ああ……家庭科室のこと?」

友「おっ知ってるのか」

男「……さっき耳に挟んだよ。荒らされたんだろ?」

友「そうそう。俺実際に現場見たのよ。鏡とか窓とかが割られてたんだぜ……ムシャクシャしたワカモノの犯行か?」

友「それにな、これはあんまり人に言うなって言われたけど……実は包丁が何本かなくなってたらしい」

男「え?」

友「包丁がなくなるってのは結構怖いよな。そういうのもあって先生たち結構ピリピリしてる」


友「それで、今日は放課後の部活は見合わせられるかもってさ。どこのクラスの馬鹿がやったかしらんけど迷惑な話だよ」

男「学校内の人間の仕業だと?」

友「わざわざ忍び込んで家庭科室だけをこっそり荒らすってのもおかしいだろ? 先生たちもそう思っているみたいだ」

男「……そうか、そうだな」

友「でもさ、まるでカントクに聞いたあの話じゃね? 結構怖い偶然もあるもんだよな。実際、本当に包丁が飛び回ってたりして」


『家庭科室の包丁』
 放課後に無人の家庭科室で包丁が飛び回る。


男「……はは、まさか」

男(まさかね)


昼休み
学食

友「やっぱり〆さばチーズ味は最高だったな! しっかり授業で寝て、昼飯食って、毎日元気で楽しく過ごしたい!」

男「どうかと思うぞそれ」

美術教師「あら?」

友「あ! こ、こんにちは! きょ、今日もお綺麗ですね!」

美術教師「先生にお世辞言わなくてもいいのよ」

男「こんにちは」

美術教師「……、こんにちは」

友「?」

男(昨日、先生と先輩とのいさかいの場に居合わせたから……少し気まずい)

美術教師「……。少し、彼を借りてもいいかしら?」

友「え? ええ……」


美術教師「そう構えなくてもいいわよ。取って食おうってわけじゃないんだから」

男「はぁ」

美術教師「昨日は少し驚かせてしまったわね」

男「いえ……」

美術教師「あなた、あの子の部活の後輩だったの」

男「あ、はい。そうなんですよ」

美術教師「どうもあの子は、私の言うことを聞いてくれないのよ……どうしてかしらね」

男「さ、さあ、どうなんでしょう……」

男(先生、何が言いたいんだろう)


美術教師「それで、あなた確か、七不思議のことを聞いてきたわね」

男「えっ?」

美術教師「あのときは素っ気なく返して悪かったわ。本当は知ってたのよ。七不思議のこと。私が学生の時にも、とても流行っていたから」

男「……そうなんですか」

美術教師「でも、七不思議って学校にとっては良くない噂でしょう? あんまり好きじゃなくてね。そういうの」

男「……」

美術教師「私、この学校には恩があるの。だから――」

男「すいません……。そう言ったことに考えが回らず、軽率でした」

美術教師「違うわ。非があるのは私のほうよ。そんなことでムキになっちゃってね」

美術教師「だから、良ければ教えてあげるわ。私の知っている七不思議」


男(どうしてだ……あまりにも急に七不思議と近づいている気がする)

男(偶然なのか? 考えすぎか?)

美術教師「? どうしたの?」

男「あ、いえ」

男(気のせいだ、気のせい)

男(頭を切り替えよう)

男(美術の先生と監督さんは、確か在籍していた年がかなり近かったはず)

男(先生が言ってるのは、おそらく監督さんと同じ『旧』だろう。もうすでに知っているんだけど)

男(もしかして先生は、先輩との関係を良くしたいと思ってるのかな? それで後輩の俺に教えてくれるって)

男(だったら。素直に聞いておいた方がいいかな)

男「でしたら、すいません。お願いします」

美術教師「ええ。じゃあ、言うわね。メモして頂戴ね」ニッコリ


……

美術教師「……それで、その倉庫には亡くなった男子生徒が現れるっていうのよ。これが『体育倉庫の怪』ね」

男「なるほどですね、分かりました」カキカキ

美術教師「これで……、えーっと、いくつ話したかしら?」

男「今のが6つ目、あと1つです」

男(細部は違ったところもあったけど、監督さんに聞いた話とほとんど変わらない)

男(あと一つは『水底からの掴む手』)

男(泳いでいると足を掴まれるっていう、よく有りがちなやつだ)

美術教師「あら、もう次が最後? だったら最後はアレね」

男(先輩には、美術の先生が協力してくれたってこと伝えておこう……これで2人の関係が少しは良くなればいい――)

美術教師「最後は『七つめの不思議』っていうお話」

男「……えっ?」


男「『七つめの不思議』?」

美術教師「そう。そういう名前の不思議」

男(『水底からの掴む手』ではない?)


『酒の席だったし怪しいところもあるが、大体は合ってるんじゃないかな』


男(そういえば『旧』七不思議を教えてくれたとき、監督さんはそう言ってたな)

男(ここで別の話が出てきても、おかしくはない……のか?)

美術教師「? 何か気になることでもある?」

男「いえ。それでその『七つめの不思議』っていうのは、どういうお話なんですか?」

美術教師「よく聞く話なんだけどね、他の6つの話、あるじゃない?」


『校庭を走る幽霊』

『家庭科室の包丁』

『地獄からの便り』

『体育倉庫の怪』

『もう一人の自分』

『死人の電話』


美術教師「その6つの不思議全てに関わると――」

男「関わると……?」



体育教師「あっ、探しましたよ先生」

美術教師「!?」


体育教師「何でも僕に火急のお話があるとお聞きしましたが」

美術教師「え、ええ。あの、今回のことで少しお話がありまして――」

体育教師「ああ、家庭科室の――っと。今、取り込み中でしたか?」

美術教師「え、ええっと」チラッ

男(そうか。美術の先生としては『七不思議』について生徒に語っているところをあまり見られたくないだろうな)

男(特に今、学校全体で流行っているんだし、その騒ぎを助長しているって思われたら立場的に良いことにはならない)

男「この前の課題についてお聞きしていたところです。この続きはまたで良いですよ」

美術教師「そ、そう? ごめんなさいね、この話の続きはまた今度ね」

体育教師「なんだか邪魔したみたいで悪いな」

男「いえいえ、では」


男(本当は今すぐ聞きたかったが……)


『よく聞く話なんだけどね、他の6つの話、あるじゃない?』

『その6つの不思議全てに関わると――』


男(よく聞く話。全てに関わると……何だろう)

男(……嫌な感じがする)

男(……)

男「気のせいだ」ボソ

男(俺はオカルトなんて――)

今日は以上です


……

放課後
廊下

友「悪いな、日直の雑務に付き合わせてしまって」

男「すぐに終わったし、別に構わないよ」

友「にしてもホント校内人少なくなるなあ」

男「一種の流行り病みたいなもんだろ。それに周りが帰るってのに自分ひとり残るってのもおかしいし」

友「まあ、そうだな」

男「部活は?」

友「結局休みになった。天候も良くないし、ってことで運動部のほうは。はよ帰れってさ。ミス研は?」

男「何やるか分からないけど、とりあえず顔出すよ」

友「ほっほう。張り切ってますなあ。良いですなあ」

男「……。で、お前はこれからどうするの? 帰るのか?」

友「えっ俺? お、俺はだなあ……」

体育教師「お、良かった、良いの見つけた」

友「え、先生?」


体育教師「実は、体育用具のチェックと片づけをしなきゃいけなかったんだが、見回り担当で今からちょっと話すことができてね」

男(見回りの話し合い……家庭科室が荒らされたことだろうか)

体育教師「頼めそうなのを探してたらちょうど良いのがいたから」

友「ちょうど良いのって。喜んでいいんスか、それは」

体育教師「で、どう? 頼まれてくれないか? そんなに時間かからないと思うんだが」

友「あー、俺はその、どうせ部活は休みになったから、課題を仕上げようと思ってて。もうその約束しちゃってるんですけど」

男「……お前、その課題って」

友「や、やり直しって言われただけだよ。そんな目で見ないでくれ……」

男(……俺も美術の先生には、話の続きを聞きにいきたいが)


体育教師「じゃあ君は?」

男「僕ですか? 僕は――」

男(体育用具……)


『体育倉庫の怪』
 死んだ男子生徒が現れる。


男(また『旧七不思議』)

『他の6つの不思議に関わると――』

男(……まさか。あり得ないことを恐れるなんて馬鹿馬鹿しい)

男(俺はオカルト話を信じない、そうだろう?)

体育教師「頼む。評点にオマケがつくかもしれないぞ」

友「いいんですか、ソレ?」

男「分かりました、じゃあやりますよ」


体育倉庫

男(先生から預かったんだが……古い鍵だな)

ガチャ

ガラガラ

男(灯りが貧弱で、こんな天候だと薄暗い)

男(ここが七不思議の場所に選ばれるのも分かる気がする)

男(……気味が悪い)

男「……ま、そんなのが現れる訳がない」

男「さっさと片付けるか」


……

男「……ふぅ」

男(結構時間かかってしまった。先輩、部室で待ってるかもしれないな)

男「あとはこれを奥に……」ヨイショ

男「……」

男(駄目だ、どうしてもそのことについて考えてしまう)

男(死んだ……男子生徒)

男(倉庫の扉は外からしか鍵がかけられない。それに、ここはグラウンドの外れだ)

男(その生徒は何かの拍子に閉じ込められて、そして誰にも気がつかれることなく――)

男「はあ」

男(余計なことを考えすぎだ。悪い癖だな)

「……」

男「よし、これで完了っと――」

ガラガラ

男「!?」



ガシャン


男「なんで……扉が……?」

男「くっ」タタッ

男「おい、誰だ? こんなことして?」

男(待て。今鍵を持っているのは俺だ、だったらすぐに……)

男「……っ」ガタガタ

男「何でだ……何で鍵がかかってるんだ?!」

『……』

男「おい! 誰かそこにいるんだろ? 開けろよ!」

『……』

男「聞いてるのか! 冗談は止めろよ!」ドンッ


男「何で、どうしてだ……」ガタガタッ

男(開かない……間違いない、鍵がかかってる)

男(施錠は外からしかできない……鍵は今俺の手元)

男「どういうことだよっ開けてくれっ」ガタガタッ

男「おい! いい加減にしろっ!!」ドンドンッ

男「くそっ」

男(閉じ込められた……?)

男(今日は運動部は休み……誰も気がつかない)

男(これじゃあ、死んだ男子生徒ってのが……つまり――)

男「っ」

男(そんな馬鹿なことがあるかっ)


男「くっ」ガタガタッ

男(駄目だ、開かない)

男(ちょっとした悪戯なんかじゃない……)

男「どうしてこんな」

男(こんなところに閉じ込められるなんて)

男(こんな……)


「……」


男「!?」

男(俺のほかに誰か、いる?)


『体育倉庫の怪』
 死んだ男子生徒が現れる。


 




男(いや、そんなわけはない、気のせいだ。誰もいない。疑うから恐れるんだ大丈夫だ)

男(気のせいだ、気のせい……)

男(誰もいない、誰も……)


「……」


男「……開けてくれ。……頼む、誰か……」ドンドンッ

男「……頼むよ……」

男「誰かっ!!」ドンドンッ


先輩『ちょっと、どうしたの!? 中にいるのよね!? 閉じ込められたの!?』

男「! ……先輩!?」

先輩『大丈夫!?』

男「と、閉じ込められてしまったみたいで……」

先輩『鍵がかかってるわ』ガタガタ

男「今鍵は僕が持ってるんですけど、なぜか施錠されたみたいで……」

先輩『分かった! 体育の先生に伝えてくるから。ちょっと待ってて。すぐに戻るから、心配しないで!』

男「はい……」

男(良かった)

男「はあ」

「……」

男(気のせいだ。誰もこちらを見ていない。ここには俺しかいないんだから)

「……」

男(視界の隅から、誰かがこっちを見ているような気がするのは、考えすぎなだけだ)

「……」


ガチャリ

男「先輩」

先輩「お待たせ。大丈夫?」

男「……ええ。閉じ込められただけですから……その鍵は?」

先輩「スペア。先生から借りてきたの」

男「スペア……」

先輩「何があったの? どうして閉じ込められたの?」

男「僕にも分かりません……。中で片付けてたら、突然扉閉められて」

先輩「えぇ? 何それ……」

男「先輩は、どうしてここに?」

先輩「私? 私はキミを探しに来たのよ。部室で待ってても来ないからどうしたのかなーって」

先輩「それで探しに行ったら、キミのクラスメイトのお友だち? ほら、よく一緒にいる彼。彼を見つけてさ、キミのコト聞いたの」

先輩「そしたら、まだ倉庫の片づけしてるかもって言ってたから」

男「そうですか……助かりました。先輩が来なければ、閉じ込められたままでしたから」

先輩「なら良かった! キミのピンチに颯爽と現れて、救うことが出来たのね」

男「そう、ですね。ありがとうございます」

先輩「ふふ。にしても、どうしたのかしら? キミが中で片付けてたこと、気がつかなくて誰かが閉めたのかな?」

男「どうでしょうか……」


職員室

先輩「……それで、そのあと、私が先生から借りたスペアキーで開けたんです」

体育教師「そうか。そんなことがあったのか。それは災難だったなあ」

男「いえ……」

先輩「そうですよ! 誰かが気がつくまであんな場所に閉じ込められるんですよ! とっても怖いことです! それは災難だったなあ、なんてのんきに言ってる場合ですか!?」ズイッ

男(冷静に考えれば……先輩が来なくとも体育の先生が気がついたのか。終わったら鍵を返すし報告もするんだから)

体育教師「す、すまなかった。いや、あの倉庫も古いからな。ふとしたはずみで施錠されたのかもしれん。調べてみて修理が必要だったらそうするよ」

先輩「よろしくお願いしますね!」ズイッ


男「その、スペアのキーのことなんですが」

体育教師「ん?」

男「保管はどうされているんですか?」

体育教師「え? ああ、いつも使ってる鍵と並べて吊り下げてあるが……そうか、誰かがスペアを持ちだして悪戯したってこともあり得るか」

体育教師「だけど、ついさっき彼女が借りに来るまで、そんなことしそうなヤツは職員室にいなかったと思うけどなあ。入口の傍で話し合いしてたから、変なヤツが来ればすぐに分かるはずなんだが」

先輩「……もしかして、それって私が、そんなことしそうな変なヤツの範疇にあるってことですか?」

体育教師「こ、言葉のアヤって奴だよヤダなあははは」

男「……」


ガラガラ

先輩「失礼しましたー」

男(何かの拍子に鍵がかかることは、もしかしたらあるかもしれない。だが、あの扉が自然に閉まることはない)

男(閉めた誰かは、中にいた俺に気がつかなかった? いくら薄暗いとはいえ、特に広いわけでもない倉庫で?)

男(声もかけず? 灯りがついて扉が開いていれば、中で誰か作業しているかも、って考えるのが自然じゃないだろうか)

男「……」

男(それに昨日から。この『旧七不思議』に関わる連続した出来事……もう偶然とは思えない……)


男(『地獄からの便り』『死人の電話』『もう一人の自分』『家庭科室の包丁』『体育倉庫の怪』)

男(嫌がらせ? でも、誰が何のために『旧七不思議』を?)

男(それとも、本当にこれは……?)


『七つめの不思議』

『他の6つの不思議全てに関わると――』


男「……っ」

男(何だ、何だっていうんだ!? 他の6つに関わると、どうなるんだ?)

男(あと残りは1つ『校庭を走る幽霊』……)


先輩「どうしたの? 大丈夫?」

男「先輩」

先輩「閉じ込められるって嫌な経験よね。ズーンと来るのも分かるわ。よしよし」ヨシヨシ

男「いえ、それだけじゃなくて……」

先輩「え?」

男「その、実は」


先輩「昨日から『旧七不思議』を体験してるって。本当それ? そして『七つ目の不思議』……」

男「信じられないのは分かります。僕自身もそんなことは信じられない」

先輩「……」

先輩「いえ、信じるわ。現に今体育倉庫でそんなことがあったわけだし、家庭科室のことは私も聞いた。それにキミがそんな嘘を言うとは思えないもの」

先輩「私ならともかくね」

男「ええ」

先輩「ぇ」

男「一体なんでこんなことになってるのか、分からなくて。その、偶然で、僕の考えすぎだと思いたいんですけど」

先輩「……うん」

男「でも、偶然が重なりすぎてる。それに気になるのが」

先輩「うん?」


男「どうして『旧』のほうなんだろうって。もしかしたら『旧』は本当に……なんて。馬鹿げてるって自分でも思いますが……」

先輩「『旧七不思議』……そうね、どうしてかしら」

男「例えば誰かの嫌がらせだとしても、それは何のためにやってるのか。どう考えても、家庭科室を荒らすなんてやりすぎです」

先輩「……うーん」

男「それに……」

先輩「?」

男「あ、いえ……」

男(何で俺なんだ? 俺が何かしたか?)


男「何が起こっているのか、分からないことばかりで」

先輩「そうね……」

担任「お、ちょっといいか?」

男「……先生? 今度はなんですか?」

担任「う、悪い話じゃない。実は、教頭先生がさっき出張からお戻りになられてね。ほら、昔の学校生活について聞いてるってこないだお前言ってただろ?」

男「え、ええまあ」

担任「その件で少し伺ってみたんだが、教頭先生、喜んでお話してくださるそうだ。それでどうだ、今からでも」

男「……」

担任「お前のためならって思ったんだが……どうした、都合が悪いか?」

男(また……)

今日は以上です
言うほど謎解きでもないような気がするのでラクな気持ちで読んで下さると幸いです(震え)
できればお手柔らかに……


男(この学校にずっといる教頭先生なら、何か知っているかもしれない)

男(特に『旧七不思議』についてのこと、『七つ目の不思議』のことだ)

男(だけど、気が進まない。もう関わりたくないって気持ちがある……)

男(俺はこんなこと信じていなかったのに、こころのどこかでは……)

男「……先輩は?」

先輩「え?」

男「先輩は、どうされます? 一緒に――」

先輩「私? 私は……」

先輩「ごめん、私今日は少し早く家に帰らなくちゃいけなくて」

男「……そうなんですか」


男(またか……)

男(また俺が……)

先輩「そのね、今の話だったら、キミは――」

男「分かりました、先生。では僕一人で教頭先生に伺います。有難うございます」

担任「お、そうか。じゃあ、教頭室でお待ちになっているから」


先輩「大丈夫? その……」

男「……大丈夫ですよ。じゃあこれから教頭先生のところへ行きますので、さよなら」スタスタ

先輩「え? う、うん。じゃ、ばいばい……」


……

教頭室

教頭「いやあ、私としても嬉しいよ。生徒が学校の歴史に興味を持ってくれるのはね」

男「そう、ですか」

教頭「ああ。学校は勉強をする場所ではある。だけど、ただそれだけのところじゃ、味気ないだろう?」

男(教頭先生と直接話したことはなかったが、評判通り本当に気さくな人だ)

教頭「私も結局一番の古株になってしまったね。今まで他の学校に異動する機会もあったんだけどね、これも縁というやつなんだろうか」

教頭「だから、この学校のことであれば詳しく話せると思うよ。もちろん私の知っている限りのことだけどね」

男「ご協力いただいて、ありがとうございます」

教頭「うん。それで、学校の生活についてだったよね?」

男「はい。特に、生徒たちの間ではどんなことが流行っていたのか、なんてことが聞きたいと思いまして……」

教頭「ふむ。流行りか……」


教頭「もちろん今までの皆の流行りについて。長々と喋ることも良いけれど」

男「?」

教頭「君としては、もっと具体的に聞きたいことがあるんじゃないのかな?」

男「えっ?」

教頭「長年の教師の勘だよ。なんとなく分かるんだ。どうも様子がおかしい」

男「あ、いえ……」

教頭「言いづらいことでもあるのかね?」

男「……。その、実は」

教頭「何だい? 言ってごらん?」

男「少しお話ししづらいかもしれませんが、実は聞きたいのは七不思議についてなんです」

教頭「……。七不思議?」


教頭「七不思議か。もしかして、そっちが本題かね?」

男「実はそうでして、その、すいません」

教頭「いやいや謝ることはないよ。今流行っているんだよね。興味を持つのは自然なことだ」

教頭「この手の流行りは私も何度も見てきたし、不思議なことじゃない。七不思議だけど、なんてね」ハハハ

男「は、ははは……」

教頭「そういった超常的なことに心を惹かれるのは私も理解できるさ。学校側としては、良い話ではないが……。それを文化祭で発表するのかい?」

男「……ええ。そのつもりでしたが、まだ決まっていません」

教頭「ふむ? そういえば何部だったかな?」

男「ミステリー研究会です」

教頭「ミステリー研究会? ……なるほど。彼女がいるところか」

男「先輩をご存じなんですか?」

教頭「あぁ、ふふふ。まあ、なんていうか、彼女は教員たちの間でもたびたび話題に上るからね」

男(なんとなく分かる気がする)


教頭「面白い子だから1年生の時から目立っていたけどね。決定的になったのが君のいるミステリー研究会についてのことさ」

男「え?」

教頭「ミステリー研究会は、それまで部員が誰もいなくてね。長年廃部状態だったんだ」

教頭「ところが今年の初めだ。突然部活を作るって言い出して。半ば強引に作っちゃったんだよ」

教頭「以前からこっそり忍び込んでいたらしい部屋を部室だって言い張ってね」

男(想像に難くない。先輩らしいといえば先輩らしい押しの強さだ。……俺もそこに巻き込まれているわけだが)

教頭「そういうこともあってね。教師の中には彼女に対して苦い顔をしている人もいるんだ」

教頭「私もそのことで少し注意をしたんだが、残念なことに嫌われてしまったようだ」ハハハ

男「……」

男(それで……)

男(それで今日は早く帰るなんて言ったのかな)

男(……)

男(先輩少し、わがままだよ)


教頭「出来ればもう少し、慎んでくれると――ああ、すまない、君に話すことじゃなかった」

男「いえ……」

教頭「いや、どうも話が長くなって困るものだ。職業病というやつだろうか」

教頭「そうだ、七不思議の話だったね。悪いんだが、最近の七不思議についてはよく知らないんだ。今、よく流行っていることは知っているんだが……」

教頭「生徒たちも、やはり私のような立場の人間には話題に出しづらいんだろう。まあ、私も進んで聞こうとは思わなかったがね」

男「すいません」

教頭「いやいや、いいんだよ。だから、私が君に話すことができる七不思議も昔の七不思議なんだ」

教頭「今流行っているという話については、まったく分からない」

男「いえ。むしろ、そちらの昔に流行っていたと言う七不思議のほうが今は気になってて。そちらの話が聞きたいんです」


教頭「そうなんだ。それはちょうど良かった。でも、どうして昔の七不思議に興味を?」

男「あ、それは……特別な理由はないんですけど。昔も、今のように大流行していたって聞いたんです。それで興味が出てきて」

男(実は自分の周囲に起こっているんです、なんてさすがに言えない)

教頭「なるほど、そうだったか」

男「できれば、その。昔に流行っていた七不思議の内容を聞いてみたいんです」

教頭「うん、分かった。さて、どのような内容だったかな、ちょっと思い出してみようか」


……

教頭「……これが『校庭を走る幽霊』と呼ばれているものだったかな、たしか」

男(『体育倉庫の怪』『家庭科室の包丁』『地獄からの便り』『もう一人の自分』『死人の電話』『校庭を走る幽霊』)

男(これで6つ。内容は知っていることとほとんど変わらなかった)

男(だが、問題は最後の話だ)

男(教頭先生が知っているのは『水底からの掴む手』? それとも)

教頭「うん。これで6つか。次で最後だね。最後は――」




教頭「『七つ目の不思議』」


教頭「これはよくあるような話でね、珍しくもない」

教頭「今言った6つの不思議」


『地獄からの便り』

『死人の電話』

『もう一人の自分』

『家庭科室の包丁』

『体育倉庫の怪』

『校庭を走る幽霊』



教頭「これらの不思議全てに関わってしまった人は――」

 





学校の中で、死ぬ





 


教頭「以上が、私の知っている七不思議だ」

男「……」

男(不思議全てに関わった人は)

男(学校の中で、死ぬ……)

男「……」

男(僕は……)

男(『地獄からの便り』『死人の電話』『もう一人の自分』『家庭科室の包丁』『体育倉庫の怪』)

男(それらにすでに関わっている……?)

男(残すはあと一つだけ。それを経験すると――)

男(……僕は死ぬ?)

今日は以上です
折り返しは過ぎてますが、次ちょっと開きます

すまぬ…

あけましたほ

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