【ガルパン】赤星小梅「これが私の戦車道」 (204)
キーンコーン
小梅「……」ゴソゴソ
沙織「ヘイ!彼女!一緒にお昼どう?」
小梅「……」ゴソゴソ
沙織「……ヘイ!ヘイってば!赤星さん!」
小梅「……」ゴソゴソ
沙織「赤星さん!」
小梅「えっあっ!私っですか?!」
華「ほら沙織さん、赤星さん驚いてらっしゃるじゃないですか」
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食堂
沙織「赤星さんってどこから転校してきたんだっけ?」モグモグ
小梅「熊本です」
沙織「へぇー人生いろいろあるよねぇ」
華「骨肉の争いとか……」
小梅「……」シュン
沙織「あ!とにかくさ!せっかく転校してきたんだから学園艦、案内してあげるよ!」
華「良いですね」
沙織「放課後空いてる?お茶でもしながらね、どう?」
小梅「いいんですか?私なんかのために」
沙織「もっちろん!」
小梅「ありがとうございます……でも」
華「でも?」
小梅「せっかく誘ってもらって悪いんですけど、やっぱりいいです」
沙織「えー?なんで?彼氏と予定とか?ならしょうがないかー!彼氏を取るか友達を取るかって難しいもんね!」
華「いた事ないでしょう?」
小梅「そういうのじゃなくて……私なんかが高校生活を楽しむ権利ないから」
沙織「え?」
小梅「誘ってくれたのにごめんなさい。でも武部さん達が話しかけてくれて、すごく嬉しかった」
ガララッ
華「あれは、生徒会の方達ですね。なぜこの教室に……」
杏「おっ!いたいた!赤星ちゃん!」
小梅「!!」ビクッ
杏「今度の選択必修科目だけど、戦車道取ってね~」
小梅「せ、戦車道!?この学校には無かったはずじゃ」
桃「今年度から復活した」
小梅「そうなんですか……でも私は戦車道はもうしないって決めたんです。すいません」
杏「いやー、それじゃあ困るんだよねぇ。経験者は赤星ちゃんしかいないからさぁ」
柚子「なんとかお願い出来ないかな?」
沙織「赤星さんって戦車道やってたんだ」
桃「知らないのか。赤星はあの名門、黒森峰女学園から転校してきたんだぞ」
小梅「そ、その話はやめてください!」
杏「……ま、とにかくよろしくー」
柚子「放課後に戦車道のオリエンテーションがあるからお友達のみんなも良かったら取ってね」
ツカツカツカ ガララッ
小梅「……」
沙織「だ、大丈夫?じゃ無さそうね」
華「ウチの生徒会は相変わらず強引ですね」
小梅「……」
沙織「ほ、ほら!よくわかんないけど嫌なら嫌ってちゃんと断ろうよ」
華「良ければわたくし達もお供しますよ」
小梅「……ありがとう」
沙織「オリエンテーションってやつが終わったら生徒会のところに行こう!」
オリエンテーション終了後
沙織「私、戦車道やる!モテモテになっちゃう!」
華「わたくしもやりたいです」
小梅「……」
沙織「小梅も一緒にやらない?みんなでやれば怖くないよ」
小梅「ううん。やっぱり私は出来ないよ。ごめんなさい」
華「わかりました。でしたら私と沙織さんが戦車道を履修する代わりに小梅さんは別の科目を選択できるように説得してみますね」
沙織「それいいね!」
小梅「え、でも……そんな」
沙織「気にしないで!友達でしょ!」
小梅「友達……」
後日 戦車道第一回授業
ザワザワザワ
沙織「というわけで、小梅は戦車道取らないから」
桃「どういうわけだ!赤星を呼べ!」
華「今日は体調不良でお休みしていますよ」
桃「あいつがいなければ我が校の戦車道は……!」
杏「ま、今日のところは集まった履修者だけでやろっか」
桃「集まったのは我々も入れて20名です」
柚子「良いんですか?」
杏「今日のところは、ね。どの道赤星ちゃんにはどうしても戦車道取ってもらうからねぇ」
沙織「ちょっと!そんな権利ないでしょ!」
華「本人が嫌がっているんですから」
杏「そんなに抵抗すると、この学校に居られなくなっちゃうかもよ?」
華「脅す気ですか?」
杏「黒森峰は色々あったから赤星ちゃんの事情はわかるけどさぁ、私達も」
沙織「事情って何ですか?小梅が戦車道やりたがらない理由知ってるんですか?」
杏「ありゃ?武部ちゃん達は知らなかったの?」
華「何かあるのは察しがつきましたけど、本人が言いたくないことを聞いたりしません」
杏「それじゃー私の口からも言えないなぁ」
ザワザワザワ
梓「なんか生徒会の人達と先輩が揉めてる」
あや「こわ~い」
優花里「……」ソワソワ
カエサル「会長。まだ待機ですか?」
杏「おーごめんごめん。じゃあ始めよっか」
沙織「で、戦車探せって言われて解散したけど。何もわかんないよ!」
華「まさか戦車も揃ってないとは」
沙織「それに小梅の事情っていうのも気になるし!でも本人には聞きづらいし!もー!」
優花里「あの、すいません」ヒョコ
沙織「あ、さっきの」
優花里「戦車道履修者の普通Ⅱ課、秋山優花里と申します」
沙織「私は武部沙織!よろしく!」
華「五十鈴華です」
沙織「秋山さんも一緒に戦車探す?」
優花里「良いんですか!ありがとうございます!っとその前に、気になることがあって話しかけさせていただいたんですけど」
沙織「なに?」
優花里「先程、生徒会との会話が少し耳に入ってしまいまして、黒森峰から転校してきた赤星殿という方がいるとか?」
華「ええ。わたくし達のクラスに。でも戦車道は取りたくないとおっしゃっているので今日は来てません」
優花里「やはり……」
沙織「秋山さん、小梅の知り合いなの?」
優花里「いえ、その方は名前だけなら存じていますが知り合いでは……
私は戦車が大好きで、去年の戦車道全国大会もチェックしていたので去年起きた事故のことも……」
沙織「事故?そんなことあったの?」
優花里「はい。戦車道界隈では大事件だったんですが、興味が無いと知らないニュースかもしれないですね」
華「よろしければ、教えて頂けますか?」
優花里「……決勝戦で、黒森峰の戦車が川に滑落する事故があったんです。
そこで、黒森峰副隊長が自分の戦車を放棄して救助に向かい、乗員は助かったんですが試合は負けてしまいまして」
沙織「助かったなら良かったじゃん!」
優花里「ええ、全くその通りです。私もその試合を見ていて感動しました。ですが……」
華「ですが……?」
優花里「何日か後、乗員を助けた副隊長が……その……学園艦から飛び降りて自殺したんです」
沙織「え……」
優花里「副隊長の名前は西住みほさん。戦車道の家元西住流の次女で、隊長の妹さんでした」
優花里「恐らく自信が原因で負けたという自責の念で……これは推測で内部の事情はわかりませんが、もしかしたら批判もあったのかもしれません」
沙織「そんな……助けたのに……ひどすぎる」
優花里「そして、そのみほさんに助けられた選手の中に、赤星小梅殿の名前があったと記憶しております」
華「……そういうことでしたか。小梅さんからしたら、自分のせいで副隊長が……と思われてしまうかもしれませんね」
沙織「……うう、そんな、そんなの悲しすぎるよ」グスッ
優花里「すいません、こんな話……」
沙織「ううん。話してくれてありがとう……やっぱり小梅に無理やり戦車道やらせるなんて許せない」
華「ええ。生徒会の方達はこの事情を知ってなおやらせようとしたみたいですし。わたくし達で小梅さんを守りましょう」
桃「見つかったのは38t、Ⅲ突、M3リー、八九式……倉庫に残ってたⅣ号を合わせて5輌か」
柚子「整備は自動車部に任せるから、今日は解散です。お疲れ様でした」
沙織「あの!」
桃「なんだお前たち。早く帰れ」
杏「んー?」
沙織「会長は小梅の前の学校で何があったか、知ってるんですよね」
杏「それは『知ってる』の定義によるけどねー」
華「誤魔化さないでください。去年の大会のことは秋山さんに教えて頂きました」
優花里「……」コクリ
杏「あれー?秋山ちゃん、戦車道経験者だったの?河嶋~」
桃「いえ。彼女はずっと大洗に住んでいます。我が校に入学する以前も戦車道に関わった形跡はありませんでした」
優花里「私はただの戦車好きですから経験者では……ってそこまで調べたんですか!?」
桃「お前だけじゃない。全校生徒を調べている」
杏「ふーん……戦車道好きの子、いたんだねー。今の大洗じゃマイナーなのに。じゃ、秋山ちゃんは赤星ちゃんと会ったことはないんだね」
優花里「そうですけど……」
沙織「会長はやっぱり知ってるんですね!辛い思いしたってわかってて無理やりやらせようなんて最低!」
桃「会長になんて言い方だ!口を慎め!」
杏「まあまあ河嶋。私だって赤星ちゃんをいじめたくてやってるわけじゃないんだよ」
華「結果的に追い詰めているんですよ」
杏「じゃ、こうしよう。赤星ちゃんの体調が回復して登校してきたら、あと一回だけ私に交渉させてくれない?」
杏「それで断られたらもうスッパリキッパリ諦めるからさ」
華「本当ですか?」
杏「もちろん!約束は守るよー」
沙織「そうやって脅すつもりなんじゃ?」
杏「そんなことしないって。いやー信用されてないねぇ」
華「でしたら、その時はわたくし達も同席させて頂きます。よろしいですね?」
沙織「まあ、それなら……」
杏「オッケー!じゃあ決まりー!また明日ね!」
華「……失礼します」
沙織「ねえ、帰りに小梅のお見舞にいかない?」
華「ええ、そうしましょう」
沙織「秋山さんも来る?」
優花里「ええっ、でも私は赤星殿に会ったこともないので……」
沙織「あ、そうだよね。ごめん」
優花里「あっ、で、でも体調が回復されたら、是非お会いしてみたいです……良ければ、ですけど」
沙織「うん、わかった。紹介するね!じゃ!」
華「また、戦車道の授業で」
優花里「お疲れ様であります!」ビシッ
生徒会室
桃「武部と五十鈴は赤星の寮に向かったそうです」
杏「秋山ちゃんは?」
桃「2人とは別れて一人で戦車ショップに寄り道しているようです」
杏「よーし、んじゃ今のうちに打てる手は打っておかないとねぇ」
柚子「会長、良いんですか?約束が違うんじゃ」
杏「小山~。私がしたのは『私が』『赤星ちゃんと』する交渉は1回だけって約束だからなー」
戦車ショップ
テレビ『それでは戦車道のニュースです。注目の選手にインタビュー!』
テレビ『黒森峰女学園の西住まほさんは、去年の辛い事件を乗り越えて隊長を続けています。今年度の意気込みを聞きました』
まほ『今年こそは優勝します。絶対に優勝します。優勝しかありません。
隊員のために私にできることはそれだけです。妹もきっと私を見守っていてくれています』
優花里「……」
秋山家
優花里「ただいまー」
好子「お帰りなさい!どこで道草食ってたの?生徒会長さんが来てるわよ」
杏「おかえりー」
優花里「!!」
好子「戦車道のことで相談があるんですって」
杏「私たちみんな素人なんで、戦車に詳しい優花里さんがいてくれてとーっても助かってるんですよ」
好子「良かったわね優花里」
優花里「う、うん……」
杏「部屋、行っても良い?」
優花里「はっはい、どうぞ……」
好子「ごゆっくり」
ギィー バタン
小梅の部屋
沙織「おかゆ作ったよ~」
小梅「わあ、ありがとう……良い匂い」
華「美味しそうです。すいません手伝えなくて」
沙織「ふふ、これならいつでもお嫁にいけるでしょ」
華「相手がいないでしょう?あ、大盛りでお願いします」
沙織「ちょっと!」
小梅「あはは……」
沙織「明日は学校に行けそう?」
小梅「うん……ごめんなさい。本当は今日もそこまで体調悪いわけじゃなくて……
ちょっと休みたくなっちゃって……」
沙織「そっか。まあいいんじゃない?そういう時もあるよね」
華「明日も無理しなくて大丈夫ですよ」
小梅「ううん、明日はちゃんと学校に行くよ」
沙織「じゃあ、会長と……」
小梅「ちょっと怖いけど、断る」
華「私たちもついてますから、頑張りましょう」
翌日
生徒会室
沙織「……」ギュッ
華「……」ギュッ
小梅「……」ギュッ
小梅「ごめんなさい。やっぱり私は戦車道は出来ません」
杏「そこをなんとかさー。私らには赤星ちゃんの力が必要なんだよ」
小梅「私なんて、全然……役に立ちませんよ」
杏「そんなことないでしょー。あの黒森峰でやってたんだから」
沙織「はいストップ!交渉は一回って約束ですよね!」
華「小梅さんは断りました。これで終わりです」
杏「んーならしょうがないかぁ」
トントン
杏「あれー?来客かな?どうぞー?」
ガチャ
優花里「失礼します……」
沙織「秋山さん?なんで生徒会室に」
杏「あ、そうだー私が戦車の相談で呼んだんだ。すっかり忘れてたよ」
杏「ちょうど良いから紹介するね。戦車道履修者の秋山ちゃんだよ。んでこっちは黒森峰から転校してきた赤星ちゃんね」
小梅「ど、どうも……」
優花里「よ、よろしくお願いします……」
優花里「……ぁ」
小梅「??」
沙織「どうしたの?」
優花里「……あ……あっ……」
優花里「……あっ……あのっ!!!」
小梅「は、はいっ?」ビクッ
優花里「わ、私、去年の決勝戦……テレビで観てました!!」
小梅「!!」
優花里「そ、それで……私が言うのもおこがましいんですが、あの、に、西住みほ副隊長の判断は、絶対に間違ってなかったと思います!!」
小梅「……」
優花里「で、ですから、あの、どうか……ご自分を、責めないで……ください……」
優花里「絶対に、絶対に間違ってないって、思ってますから……
私、ううっ、去年はテレビを観ながら感動して……西住みほさんの大ファンになって……でもあんなことになって……ぐすっ」ポロポロ
優花里「よっ、良ければ、一緒に戦車道やりませんかっ……!
西住みほさんの戦車道が間違ってないって……証明しませんか……!」ポロポロ
小梅「……」
優花里「うう、ひっぐ、えぐっ」ポロポロ
沙織「ちょ、秋山さん落ち着いて。ほらハンカチ」
杏「おー泣いちゃったねぇ」
小梅「……わかりました」
小梅「私、戦車道やります」
沙織・華「えーっ!?」
桃「よし」グッ
柚子「良かったぁ」ホッ
杏「ふふーん、助かるよー」ニィ
沙織「小梅!本当にいいの?」
華「無理なさっているんじゃ」
小梅「心配してくれてありがとう。でも断れないよ。ああ言われたら」
優花里「ず、ずいません……私は……うえぇえん」ポロポロ
華「小梅さんがやるとおっしゃるのなら止めません」
沙織「でも、辛くなったらちゃんと言ってね!」
小梅「ありがとう、沙織さん、華さん」
杏「よし、そうと決まればどんどん訓練だねー。河嶋~」
桃「はい。すでに明日、蝶野教官をお呼びしています」
小梅「えっ」
杏「明日からよろしくねー赤星ちゃん」
翌日
亜美「それじゃ早速戦車に乗って模擬戦やるわよ!みんながんばってね!」
エエー ザワザワ
小梅「……」コソコソ
亜美「あら?あなた……」
小梅「はっはい!?」ビクッ
亜美「マスクにサングラスまでして、重度の花粉症かしら?」
小梅「そ、そうなんです」
亜美「大変ね!でも戦車道を始めれば体質もドーンと改善するわよ!たぶん!」
小梅「あ、あはは……」
亜美「各チーム戦車に乗り込んで!!」
※チーム分け、模擬戦の流れ、麻子加入までは本編と大体同じなのでカットします
数日後
沙織「小梅さー、最近明るくなったよね」
小梅「そ、そうかな?」
華「ええ、とても」
小梅「だとしたら、みんなのおかげだと思う。私を支えてくれて……」
沙織「そうだ!今日、小梅の部屋でご飯会しない?」
小梅「え、でも……」
沙織「また、楽しむ権利がないなんて言わないでよ?私が認めるからね!」
華「沙織さんのご飯、楽しみです」
沙織「華、私が作る前提になってない?」
小梅「……ありがとう。じゃあ、来てもらおうかな」
優花里「あの……」
小梅「秋山さんも、良かったら」
優花里「は、はい」
小梅「冷泉さんも……」
麻子「……沙織のご飯が出るなら行くか」
沙織「麻子まで!もー!みんなで作るの!」
ガチャ
小梅「ごめんなさい、ちょっと散らかってるけど」
沙織「えー、全然綺麗じゃん」
華「すっきりしていて、でも可愛いアクセントもあって小梅さんらしいです」
沙織「うん!この1匹だけいるクマはなに?なんか包帯巻いてて面白いね」
小梅「あ、ボコられグマのボコって言って……」
沙織「うんうん」
小梅「その子は大切な人に貰って……」
小梅「……」シーン
優花里「た、武部殿!!今日の献立は何でありますか??」
沙織「あ!うん!今日は男子が大好きモテモテ料理の肉じゃがね!」
華「美味しそうですね」
優花里「男子に人気って本当ですかね?」
小梅「……」
数時間後
沙織「わー!もうこんな時間!」
華「そろそろ失礼しましょうか」
麻子「疲れたな」
沙織「麻子は準備中も寝てて何もしなかったでしょ!」
優花里「武部殿、今日は勉強になりました!」
小梅「みんな、気をつけて帰ってね」
沙織「ばいばーい」
麻子「おやすみ」
華「お邪魔しました」
小梅「……ねえ、秋山さん」
優花里「は、はい!?」クルッ
小梅「……えっと、やっぱりなんでもない」
優花里「そ、そうですか。では、失礼します」ソソクサ
翌日
桃「みんな訓練ご苦労。早速だが、練習試合が決まった」
桃「相手は聖グロリアーナ女学院だ!」
ザワザワザワ
沙織「どこ?」
優花里「全国大会で準優勝したこともある強豪校です……」
華「それはすごいですね」
優花里「はい……」チラッ
小梅「……あ、あの会長」
杏「んーー?」
小梅「ちょっと、後でお話が……」
生徒会 会長室
小梅「私を練習試合のメンバーから外してほしいんです」
杏「何で?赤星ちゃんには隊長を任せようと思ってたんだけどねぇ」
小梅「対外試合に出るのはちょっと……」
杏「でも戦車道やるって約束したよね?訓練だけが戦車道じゃないっしょー?」
小梅「わかってます!戦車道の授業には出ます。
作戦会議にも参加するし、試合前の整備やサポートもやります!でも本番の試合だけは……」
杏「いやー出てもらわないとねぇ。赤星ちゃん無しじゃ大会でも勝ち進めないし」
小梅「大会!?全国大会に出るつもりですか?」
杏「もちろん!やるからには目指すは優勝!だからね!」
小梅「ぜ、絶対無理です!私は出ません!!もし出場してあの人に見られたら……あの人に知られたら……私は……!」
杏「あの人ってもしかして、西住まほのこと?」
小梅「!!!」
小梅「会長……会長はどこまで知ってるんですか……」
杏「知ってることしか知らないよー。まー要するに、赤星ちゃんがウチで戦車道やってるって外にバレなきゃ良いんでしょ?」
小梅「……」
杏「私にいい案があるからさ、任せてよ。にしし」
今日はここまでになります
ザワザワ
杏「ってことで、試合は赤星ちゃんに指揮を取ってもらうことになったよー」
パチパチパチ
杏「赤星ちゃんは名門黒森峰でレギュラーだったすごい子だからねー」
オオー
杏「ただし、ちょっと事情があるから赤星ちゃんがいることはみんな内緒ね」シー
麻子「じゃあ言うなよ」
杏「対外的には河嶋が隊長ってことで進めるから、よろしくー」
あや「せんぱーい、事情ってなんですかー?」
梓「ちょっと!」シー!
杏「試合まで間がないからねぇ。質問があったらどんどん聞いちゃってね」
梓「あ……じゃあ質問いいですか?」
杏「はいどーぞ!」
梓「私は戦車に乗るの初めてで……みんなもそうですけど……それで車長になっちゃって。
だから車長の心得みたいなのがあれば教えてほしいんです!」
杏「はいじゃあ赤星ちゃんに答えてもらおう」
小梅「車長の心得、ですか」
小梅「まずは落ち着いて状況を見ること、それと……」
小梅「何があっても戦車から離れないこと、かな」ニコッ
数日後
桃「練習試合を受けてくれて感謝する」
ダージリン「お互いに騎士道精神で頑張りましょう。ところで、貴女が隊長ですの?」
桃「んぁっ!?あ、ああ、そうだ。よろしく頼む」
桃「会長、挨拶を済ませてきました。奴ら私が隊長と信じて疑っていません」
杏「ほーい。じゃ、みんな頑張ってこー」
ハーイ
杏「赤星ちゃん、指揮は頼んだよー」
桃「私の作戦通りにやれば間違いはない!」
小梅「は、はあ……」
オレンジペコ「あちらの様子はどうでしたか?」
ダージリン「何かを隠してるみたいね。アッサム」
アッサム「かしこまりました」
審判「試合開始!」
小梅「予定通り私達Aチームが囮になって敵を誘導します。残りのチームの皆さんはキルゾーンで待機、迎撃の準備をお願いします」
小梅「パンツァー・フォー」
桃「安心しろ!私の作戦は完璧だ!」
ドォンッ!
オレンジペコ「1輌で仕掛けてきました」
アッサム「あからさまな囮作戦のようですね」
ダージリン「お相手して差し上げましょう。追いなさい」
桃「来たぞ!撃て撃てーー!!」
ドォン! ドバァン!
小梅「あ、待ってください……」
沙織「味方を撃ってどうすんのよー!」
ゴゴゴゴゴ
杏「囲まれちゃったねー」
ダージリン「砲撃開始」
ズバァッンッ!! ドォッン!!
小梅「みなさん落ち着いて、バラバラに撃たないで1輌を狙ってください」
優季「無理ですーー!!」
あゆみ「こわいよー!」
ギャーギャー
バタバタバタ
梓「み、みんな、待って……!」
梓「だ、ダメ。車長は何があっても戦車から離れたら……」
梓『こちらDチーム!すいません!私以外みんな戦車から降りて逃げました!』
沙織「えー!?大丈夫!?」
小梅「……!」
ガチャ
沙織「小梅!?どこ行くの?」
小梅「こんな足場の悪い、しかも砲弾が飛び交ってる中、パニック状態で外に出たら何が起こるか……!」
小梅「すぐに安全を確保しないと……」
沙織「そ、そうか!じゃあ行ってあげて!あ、でも小梅が出ちゃったら指揮は!?」
優花里「私が行きます!赤星殿は残って指揮を続けてください!」
華「優花里さんのほうが地理には詳しいでしょうし、お任せしては?」
優花里「はい!赤星殿が離れてしまうと」
小梅「……去年の西住みほの二の舞いになる?」
優花里「!!!……そ、そういう意味ではっ……」
小梅「……ごめんね」
優花里「え?」
小梅「やっぱり放っておけないし、他の人を危険な目には合わせられない。秋山さん、指揮を引き継いでください」
ガチャン バッ
沙織「あ、ちょっと小梅!」
優花里「赤星殿……!」
今日はここまでです
アッサム「また人が外に!」
オレンジペコ「試合する気、あるんでしょうか」
ダージリン「面白いじゃない。十分離れるまでは砲撃は中止よ」
アッサム「わかってます」
トリップミス
ガチャッ
小梅「澤さん!」
梓「赤星先輩!?なんでここに……」
小梅「みんなの姿が見えない。どっちの方向に逃げていったかわかる?」
梓「た、確かあっち……東の方だったと思いますけど、よく覚えてないです。私も焦ってて……すいません」
小梅「大丈夫。それよりもひとりでよく残って頑張ったね」
梓「それは、先輩が教えてくれたからです。車長は何があっても離れるなって」
小梅「ちゃんと守ったんだね。私なんかよりよっぽど車長に向いてるよ。私は出来なかったから。車長失格だね」
梓「そんな……!」
小梅「みんなを探さないとね」
ドォンッ!
パシュッ
審判『大洗女子学園、全車輌走行不能!聖グロリアーナ女学院の勝利!』
小梅「あ……」
梓「負けちゃいましたね……」
優花里『こちらAチーム。申し訳ありません!私の指揮が至らないせいで……!』
小梅「ううん。初めての試合でここまで耐えただけでもすごいです」
桃「何ー!もう終わりだとー!この体たらくでは大会で優勝なんて夢のまた夢だ!」
杏「やっぱり赤星ちゃんナシだときびしーなぁ」
柚子「ていうか赤星さんの姿、見られちゃったんじゃ」
杏「かもねぇ。まあ聖グロと黒森峰は直接関係ないし大丈夫じゃない?」
柚子「でも顔を知ってたら……」
杏「こーやーまー。あんま気にしてもしょうがないって」
優花里「……」
小梅「秋山さん?」
優花里「……あの、私が戦車道に誘っておいてこんなこと言うのは本当に失礼だと思いますが……」
小梅「大丈夫だよ。言ってみて」
優花里「無理に生徒会に従わなくても良いのでは?公式戦には当然黒森峰も出るでしょうし……その、赤星殿は見られたくないのかと……」
順番を間違えました
>>90の前にこちらが入ります
数時間後
梓「赤星先輩、すいませんでした!」
1年達「すいませんでした!」ペコ
小梅「みんな無事で良かった」
あや「次は絶対逃げません!」
小梅「次、か……」
優花里「赤星殿……生徒会は公式戦に出場すると言ってました」
小梅「そうみたいだね」
優花里「もし生徒会に何か言われてるなら、いっその事逃げてしまうのはどうでしょうか……!
例えば他の学園艦にひっそり転校するとか!実はコンビニ艦を利用して密航するシュミレーションを昔から考えてるんです!
赤星殿さえ良ければ一緒に……!」
小梅「そんなことしたら、秋山さんにも、みんなにも迷惑かかっちゃう。
それに、生徒会からは何も言われてないよ。何を考えてるかもよくわからないけど」
優花里「ですが!」
小梅「秋山さんは、どうして私なんかにここまで付き合ってくれるの?」
優花里「それは……」
小梅「前から聞きたかったんだ。生徒会の人達はわからないけど、秋山さんは去年の試合見てて知ってるんでしょ?私のこと。それなら」
優花里「あ、あ!赤星殿!あそこにいるのは武部殿、と五十鈴殿では!?」
沙織「おーい!」フリフリ
華「お待たせしました。実家で色々ございまして……」
小梅「実家……華さんの実家って、華道の家元だったよね」
華「はい。戦車道をやってると母に知られ失神されてしまいました」
優花里「失神!?大丈夫でありますか!?」
華「体は問題ありませんでしたよ。戦車道を続けるなら実家の敷居は跨ぐなと言われましたが」
小梅「お母さんか……華さんも大変なんだね……」
沙織「そういえば、小梅の実家ってどんな感じなの?熊本だったよね」
小梅「えっ、わ、私の実家?」
優花里「た、武部殿、そういうのはあまり……」
小梅「……えっと、施設で育ったから、いないの。両親」
沙織「あっ……ご、ごめん」
小梅「……ううん」
聖グロリアーナ女学院 学園艦
アッサム「只今戻りました」
ダージリン「お帰りなさい。それで、どうだったかしら?」
アッサム「オレンジペコは?」
ダージリン「外してもらったわ。これは私の個人的な興味ですから」
アッサム「では調査結果を。……まず隊長の河嶋桃についてですが」
ダージリン「……」コポコポ
アッサム「……ダージリン自ら淹れるなんて珍しいですね」
ダージリン「たまにはいいでしょう?どうぞ続けて」
アッサム「彼女は過去に指揮の経験どころか、戦車道をやっていた形跡もありませんでした」
ダージリン「よほど人手が足りないのね」
アッサム「ええ。他の戦車道受講者も全員調べましたが経験者は皆無。ですが……ひとつ気になることが」
ダージリン「気になること?」
アッサム「登録選手名簿の中に、『河嶋梅』という人物がいました。学年は2年。
名前からして、河嶋桃の妹かと思ったのですが……」
アッサム「経歴が一切不明なんです。去年以前にどこに所属し何をしていたかどう調べても出てきません」
ダージリン「この前の試合では何を?」
アッサム「……Ⅳ号戦車の車長だそうです」
ダージリン「それって……」
アッサム「はい。あの時、車外に飛び出した人物だと思われます」
ダージリン「そう。アッサムはその人の顔を見た?」
アッサム「いえ、走ってる上に後ろ姿だったのでハッキリとは……」
ダージリン「私もよ。ね、アッサム」
アッサム「もちろん、引き続き詳しく調査します。でも良いんですか?そこまで首を突っ込むなんて」
ダージリン「『河嶋梅』の本当の名前を突き止めなさい。大洗が他校と接触する前にね。
場合によっては全国大会に大きく影響するかもしれないわ」
※小梅の出自はこのSSの独自設定です
更新頻度が落ちちゃったけど今日はここまで
黒森峰女学園 学園艦
エリカ「隊長、お話があります」
まほ「どうした?」
エリカ「来週が全国大会前の最後の寄港になります。その時に私と、何人かで副隊長……いえ、元副隊長のお墓参りに行く予定なんですが……隊長も一緒に行きませんか」
まほ「いや……悪いが遠慮しておく」
エリカ「隊長、お葬式以来一度も行ってないみたいじゃないですか。差し出がましいですけど、隊長が行ってあげたほうが……」
まほ「私が行っても彼女は喜ばないだろう」
エリカ「そんなことは……」
まほ「私は気にしないでエリカ達だけで行ってやってくれ」
エリカ「ですが」
まほ「行かないと言っているだろう!!!」
エリカ「っ!!」ビクッ
まほ「あ……」
エリカ「すいませんでした。出過ぎたことを言って……」
まほ「いや、声を荒げて悪かった」
エリカ「今回こそは必ず優勝しましょう」
まほ「……そうだな。勝とう」
まほ「みほがいなくても黒森峰は、西住流は盤石だと知らしめよう」
エリカ「はい!」
まほ「プラウダ対策はすでに仕上がりつつある。次に警戒すべきは聖グロリアーナだ」
エリカ「どこが相手でも西住流の戦い方は変わりません。
あ、そういえば聖グロが先日練習試合をしたそうなんですが、相手が聞いたこともない無名校で。全国大会前に何のつもりなんでしょうね」
まほ「ダージリンはたまに突拍子もない事を涼しい顔でやるからな。その相手の名前は?」
エリカ「茨城の……大洗女子学園という学校です」
まほ「!」
エリカ「……?もしかしてご存知でした?」
まほ「……知らないな。日本で戦車道をやってる高校は全て把握していたつもりだが」
エリカ「私も気になって少し調べましたが、今年から戦車道を始めたみたいですね」
まほ「それで、練習試合の結果は?」
エリカ「当然、聖グロが勝ちましたよ」
まほ「そうか……」
エリカ「まあ所詮はお遊びみたいものでしょう。大会にも出ないでしょうし、気にすることはありません」
まほ「うん……すまないがエリカ、この後のミーティングと訓練の指揮を任せていいか」
まほ「少し用事ができた」
エリカ「え、はい、わかりました」
ダージリン『御機嫌よう、まほさん。お久しぶりね。貴女から電話してくるなんて何の用かしら?』
まほ「大洗女子学園と練習試合をしたらしいな」
ダージリン『ええ、先日お相手させて頂いたわ。何故それを?』
まほ「副隊長から聞いてな」
ダージリン『そう』
まほ「詳しい話を聞いてもいいか?」
ダージリン『それなら、こんな電話じゃなくて直接会って話さない?
来週、全国大会の抽選会があるでしょう?その後にでも』
まほ「……わかった。時間を作ろう」
ダージリン『楽しみにしていますわ』
大洗女子学園 生徒会 会長室
ガチャ
小梅「失礼します、あの、話って何でしょうか」
杏「やあ赤星ちゃん、まあ座ってよ」
桃「おい、赤星以外は呼んでないぞ」
沙織「付き添いです!一人で呼び出されて何かあったら嫌だから!」
華「わたくし達がいても問題ないですよね?」
麻子「……終わったら起こしてくれ」
優花里「れ、冷泉殿、ここで寝るのはさすがに」
桃「なんなんだお前たち!勝手に座るな!」
杏「まあまあ河嶋。一緒に聞いてくれても問題ないだろー別に」
桃「会長がそうおっしゃるなら……コホン。先日の聖グロ戦はご苦労だった。
残念な結果だったが、試合の途中で戦車を飛び出し仲間のもとに向かった赤星の行動が界隈ではそこそこ評判になってるようだ」
小梅「えっ」
柚子「あ、名前は『河嶋梅』で登録されてるし、中継映像に顔も映ってなかったから大丈夫だからね。赤星さんの個人情報は一切出てないから」
杏「去年の黒森峰の事件を思い起こして、ってのもあるんだろうねー。まさかその黒森峰出身者の行動とはみんな思ってないだろうけどねぇ」
小梅「私、わざわざ目立つような余計なことを……」
優花里「赤星殿、そんなこと言わないでください。あの行動は誇るべきものですよ!」
沙織「そうよ!あれは1年の子たちのために……」
杏「いや、私らも悪いとは言ってないって。むしろあれがきっかけでいい話が飛び込んできたんだよね」
華「良い話、とは?」
柚子「大洗女子の試合に感銘を受けて、ぜひ戦車を寄付したいって申し出てきた人がいるの」
優花里「戦車を寄付!?本当ですか!?」
桃「しかも整備に必要な諸々も含めて数輌提供しても良いとな。現状5輌しか保有していない我々にとっては願ってもない話だ」
小梅「でも……一体誰が?」
杏「……プラウダ高校隊長のカチューシャって人だよ」
小梅「!!」
杏「去年の決勝戦、仲間を助けるために車長が飛び出し指揮官を失ったフラッグ車を撃破して優勝を掻っ攫った張本人だ」
今日はここまで
沙織「じゃ、じゃあその人のせいで小梅の友達は自殺……」
華「沙織さん!」
小梅「……カチューシャさんのせいじゃないよ」
沙織「あ……そうだよね、事故だもんね。ごめん、私つい……」
桃「ゴホン……その件が支援の理由と関係あるかどうかは我々のあずかり知らぬところだ」
杏「だけど貰えるものは貰っておかないとね~」
優花里「あの、提供される戦車は!?T34ですか!?それとも」
桃「落ち着け。詳しいことはまだ決まっていないが、プラウダとは来週会って打ち合わせをすることになった」
優花里「あれ?ですが来週は確か」
桃「全国大会の抽選会がある。打ち合わせはそれが終わった後だ」
杏「それでその打ち合わせ、赤星ちゃんにも同席してほしいそうなんだよねぇ」
小梅「え、えぇ!?」
小梅「対外的には河嶋先輩が隊長をやるからそういう場には顔を出さなくていいって約束じゃ……」
杏「それが、プラウダ側の希望でさ。戦車を飛び出した勇気ある人に是非会いたいって言うんだよ」
小梅「で、でも抽選会には各校が集まるし、そんな場にいくわけには……」
杏「抽選会には来なくて大丈夫だよ。終わった後に近くの喫茶店で待ち合わせて、って段取りだから」
優花里「ですが会場近くの喫茶店には他の抽選会終わりの生徒が来る可能性がありますよね」
杏「顔を見られちゃうかもしれないよねー。だからちょっと考えたんだけど、秋山ちゃん、代役やってみない?」
優花里「へ?」
杏「いやだって、そもそも『河嶋梅』の顔なんて誰も知らないんだからさ。秋山ちゃんがそう名乗ってプラウダと会ってくれれば万事解決でしょ?
まー他の子でも良いんだけど戦車道の知識的に秋山ちゃんが適任だよね」
華「それは相手を騙すということですか?」
杏「誰も損しないんだから良いっしょ?」
華「ですが優花里さんの負担が……」
優花里「やります!元はといえば私が赤星殿を誘ってしまったわけですから、このくらいやらせてください」
小梅「秋山さん……」
桃「決まりだな」
杏「ありがとねー!話はウチらが進めるから秋山ちゃんは挨拶して適当に座ってれば大丈夫だから。
話を振られてもおどおどしないで堂々と答えてね」
優花里「はい」
小梅「秋山さん、ありがとう……」
優花里「気にしないでください!」
柚子「抽選会に参加するのは会長と桃ちゃん、秋山さん、それに私ですね」
桃「私達がいない間もしっかり自主練するんだぞ。赤星が指揮をしろ。
あと桃ちゃんと呼ぶな!」
小梅「はい……」
抽選会終了後 会場付近
桃「初戦の相手はサンダースか……」
優花里「優勝候補の強豪です……」
桃「だが絶対に勝たねばならんのだ!」
優花里「な、なんでそこまで……?」
柚子「あ、あそこのお店ですよ。打ち合わせする喫茶店」
優花里「『戦車喫茶ルクレール』!戦車好きなら誰もが知ってる有名店じゃないですか!」
杏「じゃ、入ろうか」
コソコソ
沙織「お店に入ったみたいだね」
華「なんだか尾行みたいでワクワクします」
麻子「これ以上は近づかないほうがいいぞ」
小梅「みんなごめんね、私のわがままで付いてきてもらって。本当は自主練があったのに」
沙織「いいってば。小梅がゆかりんを心配する気持ちわかるし」
麻子「あの生徒会のことだからな。何か企んでるかもしれん」
華「しかし道端にずっと隠れているわけにも行きませんね」
小梅「戦車喫茶の向かいのコンビニに入りましょう。そこならしばらく居てもたぶん怪しまれません」
麻子「コンビニなら喫茶店と違って赤星さんもマスクと帽子をしっぱなしで大丈夫だしな」
沙織「さすが、事前に調べてたのね。了解!」
エリカ「一回戦は知波単学園、楽勝ですね」
まほ「油断はするなよ」
エリカ「当然です。それより隊長、このあと時間があったらお茶でも……」
まほ「悪いがダージリンと近くの喫茶店で会う約束をしている。先に帰っていてくれ」
エリカ「あっはい……私も同席してはダメですか?」
まほ「隊長同士の話だ。すまないな」
エリカ「で、でしたらお店の前で待ってます!一緒に帰りましょう」
まほ「エリカ、副隊長だからってそこまでしなくてもいいんだぞ。私に気を遣いすぎじゃないか?」
エリカ「そんなことはありません。私がそうしたいだけですから」
まほ「そうか……」
まほ「この店だな」
エリカ(『戦車喫茶ルクレール』……私が隊長を誘おうとした店だわ!)
エリカ「ではお待ちしています」
まほ「すまないな。なるべく早く済ませる」
スタスタ
エリカ「ふう……向かいのコンビニで時間でも潰してようかな……」
ピンポーン イラッシャイマセー
エリカ「コンビニで時間潰しなんて、まるであの子みたい……」
今日はここまで
長らくお待たせしました。最終章に間に合いませんでしたがこれで最終回です
沙織「見てみて!このケーキ美味しそうじゃない?」
小梅「新商品だね」
沙織「買って帰ろうか?ゆかりんの分も」
麻子「全面的に同意する」
華「何しに来たか忘れてませんか?あ、わたくしは3つよろしいですか」
小梅「あはは……」
エリカ「……?」
エリカ(何か聞き覚えのある声が……)チラッ
小梅「こっちのモンブランは前に買ったことがあって、美味しかったよ」
沙織「そうなんだ~迷うなー」
エリカ「!!」
エリカ(マスクと帽子で目元しか見えないけど……まさか……そんな……?)
エリカ(いや、そんなことあるわけ……でも……)
エリカ「……」スタスタ
小梅「それで、あっ……!」
エリカ「……」ジー
華「あの、何か……」
麻子「こっちをすごい見てるなあの人」
小梅「そ、そろそろ出ようか?」スー
エリカ「っ!待って!」
沙織「うわ!こっち来た!」
エリカ「顔を見せて!」ガッ
小梅「あっやめっ……」バッ
ブチッ ストッ
沙織「ちょっと!いきなりマスク取り上げるなんて何!?変態!?」
小梅「……」
エリカ「あ、あ、あ……」ガクン ドサッ
麻子「今度はいきなり尻もちついたぞ。本当に何なんだ」
エリカ「嘘……何で……」ガクガク
小梅「エリ……逸見さん……」
エリカ「何であなたがっ……」
沙織「小梅の知り合い……みたいだけど」
華「小梅さんの前の学校のお友達ですか?」
小梅「えっと……」
エリカ「は……?何言ってるの……?」
エリカ「この子は……小梅なんかじゃない!!」
麻子「そっちが何を言ってるんだ。本当に赤星さんの知り合いか?」
エリカ「だから違う!!この子の名前は西住みほ!!私達の元副隊長よ!!」
「…………」
沙織「へ?」
華「西住みほさん……確か優花里さんが言っていた……」
沙織「自殺しちゃったっていう……」
麻子「……ああ」
エリカ「そ、そうよ……!死んだはずなのに……!」
小梅「……」
エリカ「何とか言いなさいよ……!」
小梅「……ごめんなさい!!」
ダッ
沙織「小梅!?」
エリカ「ま、待って!」
ザワザワ……
華「あの、他の方の迷惑になっているようですし、わたくし達も一旦外に出ませんか?」
沙織「そうだね。変に注目されちゃってるし……」
華「立てますか?」スッ
エリカ「……た、隊長に報告を……」フラフラ
戦車喫茶ルクレール
まほ「……これはどういうことだ?2人で会う予定だったはずだが」
ダージリン「私がお招きしたの。こちらは大洗女子学園の戦車道チームの皆さん」
杏「いやーどうもどうも」
優花里「……あ、あの」
ダージリン「カチューシャとノンナは紹介するまでもないわね」
カチューシャ「よくカチューシャの前に現れたわね」
ノンナ「こんにちは」
まほ「何のつもりだ」
ダージリン「ちょっと確かめたいことがあってね。ね、河嶋梅さん?」
桃「おい!」
優花里「あ、はい!」
ダージリン「カチューシャにお願いして呼んでもらったんだけど、おかしいわね?
私が試合の時に見た『戦車を飛び出した人物』とは違う方みたいだけど?」
桃「!!そ、それはっ!すまなかった!ええと、本人が体調不良でその、代役をだな……」
ダージリン「あら、やっぱりそうでしたのね。私も試合の時に顔は良く見えなかったんだけど、別人でしたか」
桃「な!!カマをかけたな貴様!!」
柚子「桃ちゃん……」
まほ「私に関係ない話を続けるなら帰らせてもらうぞ」
カチューシャ「待ちなさい!」
ノンナ「最後まで付き合ってもらいますよ。西住まほさん」
ダージリン「ウチの情報部の調べによると、河嶋梅なんて人は大洗に存在しないわ。
まあ戦車道の選手登録は本名である必要はないから、河嶋梅の本名は別の名前、ということになるんだけど」
まほ「誰が何を名乗ろうと勝手。紅茶の名前よりはマシじゃないか」
ダージリン「戦車を飛び出すと言えば、去年の決勝戦のことを思い出すわね。カチューシャ」
カチューシャ「嫌でも忘れないでしょうね。カチューシャのおかげでプラウダが優勝して……そのせいで人が死んだんだから」
ノンナ「この1年間、部外者からの心無いバッシングにカチューシャは耐え続けました。
これは私達が背負うべきものなのだ、と……」
優花里「あのっ、きょ、今日はこのへんでもう、あの」
ダージリン「貴女も何か言いたいことが?」
優花里「そ、その……」
ダージリン「……最初は戦車を飛び出すという行動からちょっと連想しただけなのよ。
それで調べているうちに、黒森峰から1人の生徒が大洗に転校していることがわかったの。名前は赤星小梅さん。まほさんはご存知?」
まほ「元隊員だ。当然知ってる。転校先は知らなかったが」
ダージリン「でしたら、なぜ電話までして私に接触しようとしてきたのかしら?
大会期間中の重要な時期に知りもしない高校の話を私としようと?」
まほ「……エリカに情報を意図的に流したのか?」
ダージリン「私の予想が正しければ、試合で河嶋梅と名乗っていたのは赤星小梅さん、そして、赤星小梅さんの正体は」
まほ「やめ……」
エリカ「隊長!!!」
まほ「エリカ……?」
エリカ「はあ、隊長!そこに!!はあ、はあ、いたんです!死んだはずの元副隊長が!!」
エリカ「みほが……!みほが生きていました!!」
まほ「……!」
ダージリン「私が言うまでも無かったわね」
カチューシャ「ふぅん。そういうこと」
沙織「え、追いかけてきたら何?この状況」
華「聖グロリアーナの皆さんが何故ここに?」
優花里「武部殿!五十鈴殿!来てたんですか!?」
沙織「うん、小梅が心配だからって。麻子も……ってあれ?麻子は?」
華「いつの間にかいなくなってますね」
沙織「そうそう!それでこの人が小梅を見て騒ぎ出しちゃって……」
エリカ「だからあの子は赤星じゃないって言ってるでしょ!」
カチューシャ「じゃあその赤星はどこにいると思う?」
エリカ「は?」
カチューシャ「自殺したはずの西住みほが生きていて、赤星小梅と名乗っていた。
じゃあ、『本当の赤星小梅』はどこにいるのかしら?」
エリカ「…………!」
エリカ「うそ、そんな……で、でも!西住家で葬儀までやって……!」
ノンナ「みほさんのご遺体は見たのですか」
エリカ「それは……見てないけど……学園艦から飛び降りて、さらに数日後に見つかったから……とても見せられる状態じゃなかったって……」
ノンナ「じゃあなぜ発見された遺体がみほさんだと?」
エリカ「元副隊長の部屋に遺書が残ってたのと……隊長が遺体を確認して……」
エリカ「……隊長?」
まほ「…………」
エリカ「隊長、まさか……!?」
まほ「私を疑うつもりか?エリカ」
エリカ「で、でも」
まほ「みほは死んだ!!」
タタッ
みほ「もうやめて!お姉ちゃん……」
まほ「!?な、何故ここに」
麻子「……大体予想通りの展開になってるな」
沙織「麻子!小梅!どこ行ってたの!」
麻子「赤星さんを追いかけてた。早まったりしないようにな」
みほ「止めてくれてありがとう、麻子さん」
麻子「いや、赤星さんじゃなくて西住さんだったか」
沙織「小梅、どういうことなの?」
みほ「ごめんなさい。沙織さん」
華「わたくし達が今まで一緒に過ごしてきたのは、西住みほさんだったと……」
みほ「うん、華さんも……騙しててごめんね」
みほ「秋山さんも、私を気遣ってずっと秘密にしてくれて、ありがとう……」
優花里「そ、そんな……申し訳ありませんでした。私が戦車道に巻き込んでしまったばっかりに……」
沙織「えー!!ゆかりん知ってたの!?」
優花里「決勝戦の録画は何回も観ましたから……一目見ればわかります」
杏「いやー、いきなり会ってたら秋山ちゃんもパニックになってたんじゃない?」
華「まさか会長も知ってて?」
杏「そんなことないよー。偶然だよ偶然。
秋山ちゃんのお家にお邪魔して、『赤星ちゃんの写真』を見せて交渉をお願いしただけだって」
優花里「……あの時の私の気持ちは本心です……どうしても伝えたくなって……気持ちが溢れてしまって。本当に申し訳ありません!」
みほ「ううん。私は間違ってなかったって言ってくれて、嬉しかったよ」
みほ「もしかしたら生徒会と何か企んでるんじゃないかってちょっと怖かったけど……良かった。ありがとう、優花里さん」
優花里「あ、あうう」
まほ「みほ……何故また戦車道を始めてしまったんだ」
エリカ「隊長……どういうことですか……どういうことなんですか!赤星をどうしたんですか!!」
まほ「……もう察しはついてるんだろう……私が赤星を殺した」
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1年前
黒森峰女学園 みほの部屋
ピンポーン
ピンポーン
みほ「……」
ピンポーン ドンドン
みほ「はい……」
ガチャ
みほ「お姉ちゃん……」
まほ「いるならすぐに出てくれ……ひどい顔だな。まだ何も食べてないのか」
みほ「喉を通らなくて……」
まほ「今回の試合、お前は何も悪くない。私の指揮が……」
みほ「ごめんなさい……みんなが私を責めないでくれてるのはわかってる。でも……」
まほ「……今はとにかく食事と睡眠が必要だな。私が何か作ろう……」スタスタ
みほ「あ、待って……!」
まほ「この机の上にあるものは……なんだ?手紙??」ペラッ
まほ「……みほ!これは遺書か!?」
まほ「死ぬつもりなのか!?」
みほ「……もう、耐えられなくて……苦しくて……だけど戦車道をやめるなんて、誰も許してくれないし……だったらもう……」
まほ「落ち着いてくれ。そんなに辛いのならもう戦車を続ける必要はない」
みほ「お姉ちゃんが良くても、お母さんが許してくれるかな……もしお母さんが許してくれても……私が辞めたら色んな人に迷惑をかけちゃう……そんなの見たくない……」
まほ「……」
まほ「……わかった。なら誰からも干渉されない、戦車道のない学校に転校させる」
みほ「そんなことできるの?」
まほ「できるさ。だから早まった真似はするな。念のためこの遺書は預かっておくぞ」
まほ「明日また来る」
学園艦左舷側公園
まほ「すまなかったな。こんな時間に呼び出して」
小梅「いえ……あの、今回は皆さんに迷惑をかけて本当に……」
まほ「そんなことを責めるために呼んだんじゃない。退院してから体調はどう?」
小梅「病院の先生にはしばらく自宅で安静と言われましたが、すぐにでも練習に復帰したいです」
まほ「そうか」
小梅「皆さんに迷惑をかけたから、復帰したら誰よりも練習して次の試合ではもっと戦力になるために頑張ります」
まほ「そうか……赤星。頼みがあるんだが、やってくれるか?みほの為にどうしても必要なことなんだ」
小梅「みほさんの為……?はい。私にできることなら何でもやります!」
まほ「そうか……すまないな」
ドンッ
小梅「えっ……」
次の日
みほの部屋
ガチャ
まほ「みほ、戻ったぞ。外出の支度をしろ」
みほ「お姉ちゃん?もう夜だけど……」
まほ「お前の転校の為に色々と手続きをな……ほら、すぐに出るぞ。連絡船の最終便まで時間がない」
みほ「今から学園艦を出るの!?」
まほ「そうだ。荷物は最低限の衣類以外は持っていくな。それから個人情報が書かれたものは全部ここに置いていけ。
もちろん携帯や財布も。お金は私が用意したものを使って、携帯は転校先についたら私が新しいものを送ってやる」
みほ「ボコのぬいぐるみは持っていっちゃだめ……?」
まほ「駄目だ。お前につながるようなものは全部」
みほ「じゃ、じゃあひとつだけ!お姉ちゃんに昔、誕生日にもらったこの子だけは……」
まほ「わかった……それだけだぞ。それから転校先では新しい名前で生活をしてもらう。お前を守るためだ」
みほ「え??」
まほ「これが書類。あっちではこの名前を名乗れ」
みほ「『赤星小梅』……?なんで私が小梅さんの名前を」
まほ「お前が知る必要はない。とにかく、その情報をお前の情報として覚えろ。誰かに聞かれてもちゃんと応えられるようにな」
みほ「…………お姉ちゃん」
まほ「何も聞くな」
みほ「……うん」
まほ「もう二度と会えないかも知れないが、元気で。
みほがいなくても私が黒森峰と西住流を支える。安心して遠くで見ていてくれ」
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現在
エリカ「隊長が……赤星を……」フラッ
沙織「ちょ、ちょっと!しっかり!」
華「あまりにも酷すぎます」
ノンナ「貴女のせいでカチューシャがどれだけ傷を負ったか。恥を知りなさい」
カチューシャ「カチューシャのことなんかより……自分の隊員にそんなことするなんて許せないわ!」
ダージリン「みほさんを夜逃げさせるだけじゃ駄目だったの?」
まほ「皆が探し続ければいずれ見つかる。死んだことにすれば悲劇として終わる。赤星は両親がいないから都合が良かった。それだけだ」
みほ「本当はお姉ちゃんが何をしたかわかってた……でも怖くて聞けなかった」
みほ「お姉ちゃん、2人で自首しよう?償えることじゃないけど……」
まほ「うん……」
桃「会長!?大変なことに……これでは優勝なんてとても……」
杏「私たちも偽名に気付かないで転校を受け入れちゃった責任はあるからね。仕方ないでしょー」
エリカ「ま、待ってください!隊長!!黒森峰はどうなるんですか!私はどうすればいいんですか!!」
まほ「私はもう隊長じゃなくなる」
まほ「あなたの好きにすれば良い」
エリカ「……!」
沙織「小梅!!じゃ……なくて、ええと、みほ」
みほ「?」
沙織「名前は違ったけど、私たちはずっと友達だと思ってるからね!」
華「ええ。また会いましょう」
優花里「戦車道、続けますから……」
麻子「そこそこ楽しい日々だった」
みほ「みんな、ありがとう……私も、楽しかった……」
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半年後
熊本県 とある墓地
沙織「ついた!ここだね」
優花里「やっと来ることが出来ました」
麻子「うむ」
華「赤星小梅さん……どうか、安らかに」
「「「「……」」」」
ザッザッ
優花里「あ、誰か来ましたよ」
エリカ「!あなた達は……」
沙織「あ、あの時の……」
エリカ「わざわざ来てくれたのね。本人と会ったこともないのに」
華「はい。それでも来るべきだと思いましたから」
エリカ「そう……」
優花里「あの、黒森峰の話……聞きました」
エリカ「別に同情しなくていいわ。戦車道メインだったウチが大会出場停止になって、西住流関係者は連盟の役職を解かれ、門下生も激減、流派は実質消滅……廃校になるのは当然でしょ」
華「これからどうされるんですか?」
エリカ「黒森峰じゃなくても戦車道は出来るもの。いつか2人の代わりに西住流を再興させてやる。私が信じた西住流を……」
沙織「そっか……」
優花里「そろそろ行きましょう」
沙織「うん……じゃあまたね、小梅」
赤星小梅「これが私の戦車道」
おわり
読んでくれてありがとうございました
#正体はみほ
乙
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