瑞樹「いいえ、絶対虫歯よ。わかるわ」
楓「違いますよ」
瑞樹「ここ数日、誰かに飲みに誘われても断ってばかり」
楓「それは次の撮影のお仕事のために食事制限をしているので…」
瑞樹「あら、昨夜の留美ちゃんの話だと『地元の友達と飲みに行く予定があると言われて断られた』そうだけど…」
楓「」ギクッ
瑞樹「そして何より――大阪での仕事帰りに私が買ってきたこの岩おこしに、さっきから全く口を付けていない」
楓「それも食事制限のためであって…」
瑞樹「……じゃあさっきから物憂げな乙女って感じで頬に触れているその右手、外してもらえるかしら」
楓「……」スッ(右手を離した頬が腫れている)
瑞樹「口を開けて」
楓「……」パカ
瑞樹「完全に虫歯ね」
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瑞樹「もー、そんなんじゃ写真撮影どころじゃないでしょ。歯医者さんに行きなさい」
楓「……嫌や」
瑞樹「え? なんて?」
楓「歯医者さん怖い……嫌や…」
瑞樹「ちょっと、25歳にもなって何言ってるのよ」
楓「嫌や…」
瑞樹「しょうがないわね。私がついていってあげるから、ちゃんと診てもらいなさい」
楓「嫌や…嫌や…」フルフル
瑞樹「大丈夫やって。虫歯の治療なんてガーッとやってバーッてなったら終わりやん」
楓「ガーッとやって……バーッてなるんですか……」ガクブル
瑞樹(まずいわ。逆効果だったみたいね)
瑞樹「ちょっと待ってて。今プロデューサーくんに連絡して歯医者予約してもらうから」
楓「いーやーやー」ギュッ
瑞樹「ダメよ。歯医者が怖いのはわかったけど、かといって虫歯をそのまま放っておくわけにはいかないでしょ」
瑞樹「楓ちゃんも大人なんだから、虫歯を放っておいたらどうなっちゃうか、わかるわよね?」
楓「……」コクッ
瑞樹「えらいわ」ピポパ
楓「……」
瑞樹「安心して。さっき言ったとおり私が最後まで付き添ってあげるわ」
瑞樹「それと……虫歯治療を頑張るシンデレラのために、とびきりのカボチャの馬車を用意したから、待っててね」
――事務所前
瑞樹「よし。変装もバッチリね」
楓「ええ。そうですね」キリッ
瑞樹(ホントこうしていればただの出来る女にしか見えないんだけどなぁ……まあそこが楓ちゃんの魅力よね)
瑞樹「そろそろかしら」
(Can't Stopのイントロ)
ブォォーーン キキーッ
ウィーン
早苗「お待たせ♪」
心「迎えに来たぞ、シンデレラ☆」
美優「えーと……ど、どうも」
楓「あのぅ、カボチャの馬車はまだでしょうか。私を歯医者さんに連行するパトカーにしか見えないんですが」
早苗「歯医者から逃げちゃう悪い子はお姉さんが逮捕しちゃうわよ~」
瑞樹「早苗ちゃん……ここまで連れてくるだけでも大変だったんだから、悪ノリはそのくらいでお願いね」
――車内
早苗・心「新たな歯科医に会いに~行こ~う♪」
楓「……」
美優「周囲から繰り出されるダジャレに無反応……本当に辛そうですね」
瑞樹「そうなのよ。虫歯の痛みより治療への恐怖の方が大きいみたいで。美優ちゃんからも励ましてもらえたら心強いわ」
美優「もちろん、私でよければ力になります」
美優「楓さん……私も小さい頃、虫歯に罹ったことがあります。随分前のことなので、記憶はおぼろげですが――」
美優「とても不安で、怖くて泣いていたのを憶えています」
美優「ただ、痛かった憶えはないので、きっと楓さんも大丈夫だと思いますよ」
楓「美優さん……ありがとうございます。少し気持ちに余裕ができた気がします」
美優「力になれたのなら嬉しいです。そうだ、虫歯といえば、以前私の愛犬も虫歯になったことがあって――」
心「オイ☆、その愛犬ってもしかして……」
美優「これも随分と昔の話ですね。あの子はもう、天国に旅立ってしまいましたから」
全員「……」
心「そ、そうだ早苗さん、なんか曲かけない? 自分の曲じゃなくて、良い感じの懐メロとかさ」
早苗「い、いいわね。そういえばそこのラックの中にウチの事務所の若い子たちがカバーした懐メロアルバムがあったはずよ」
瑞樹「確か蓮実ちゃんがセンターのジャケットだったかしら」
心「あった、これだな。入れるぞ。ポチッとな☆」ピッ
ほたる『今年も~海へ行くって~いっぱい映画も見るって~♪』
心・早苗・瑞樹「だあああ~~~~っ!!!」
瑞樹「はぁとちゃん、飛ばして! スキップスキップ!」
心「イ、イエスマム」ピッピッ
優・聖來『忘れないよこの道を~パトラッシュと歩いた~♪』
美優「うぅ…(泣)」
心「これはやらかしちゃったかも☆」
瑞樹「迂闊だったわ……ちゃんと収録曲を思い出していればこんなことには…」
早苗「こういう状況で聞かなけりゃ、どれも名曲なんだけどね…」
――歯科医院前
早苗「随分どんよりとしたカボチャの馬車になっちゃったわね」
心「カボチャはカボチャでもハロウィンのカボチャって感じ?」
楓「……」ズーン
美優「あの……頑張りすぎないでくださいね楓さん。私も陰ながら、そしてこの子も空の上から応援していますから」
楓「はい。高垣楓、頑張りません…」
瑞樹(美優ちゃん、死んだ愛犬の写真を部屋に飾ってるのは知ってたけど、手帳に挟んで持ち歩いてるとは思わなかったわ)
早苗「それで瑞樹ちゃん、何かこの状況を打破する策はないの?」
瑞樹「策も何も……プロデューサーくんが指定してくれたこの歯科医院。ここに全てを賭けるわ」
心「何コレ。軒先に遊具があって、建物もカラフルで、辺りには動物のキャラクターの置物や絵がいっぱい――まるで幼稚園だぞ☆」
早苗「歯医者嫌いの子供の恐怖心を和らげるためのあらゆる策を出し尽くしたって感じの雰囲気ね」
美優「このトラの置物、かわいいですね。仁奈ちゃんが喜びそう」
心「といってもこんなの結局子供騙しだし、さすがに楓ちゃんには通用しないんじゃ――」
楓「ふふっ。トラだけに、これから虫歯の治療にトライ――なんて」
瑞樹・早苗・心「!!!」
早苗「あれだけテンションの低かった楓ちゃんがダジャレを……!?」
心「さすが25歳児。これは形勢逆転の予感」
瑞樹「勝てる……勝てるわ」
美優「こっちの犬の置物は……少し、あの子に似ているように思えます…」
心「元気出せよ☆」
――歯科医院の中
瑞樹「そうです。予約していた高垣楓です――ほら楓ちゃん、保険証出して」
楓「はい…」プルプル
早苗「建物の中も完全に子供向けの装飾で、なんだか落ち着かないわね」
心「こんなところにいたら、はぁと純真無垢な少女に戻っちゃいそう☆」
美優「あら? 向こうのテレビから聞き慣れた声が…」
仁奈『虫歯菌の気持ちになるですよー!』
薫『歯磨きしない悪い子の歯はおいしそうだねー!』
千佳『そこまでよ! 虫歯菌はこのブラッシング少女ラブリーチカがおしおきしちゃうんだから!』
早苗「あー、そういえば以前このメンバーで歯科衛生の教材ビデオを撮影したって仁奈ちゃんから聞いたわ」
心「眩しい……これが真の若さってヤツ?」
千佳『どうして……歯ブラシ攻撃が効かない』
仁奈『そんな磨き方では仁奈たちを倒すことはできねーですよ』
薫『それにその歯ブラシ、とっくにお取り替え時期を過ぎてるよ』
千佳『そんな、どうすれば……』
??『力を貸すわ! ラブリーチカ!』
千佳『こ、この声は』
菜々『芸能人は歯が命! この現役JKデンティスト・ウサミンがあなたの歯をお掃除しちゃいます!』キャハッ
菜々『さあ虫歯建設株式会社のみなさん、ドリルとシャベルを置いて出て行ってもらいましょうか』
仁奈『?? 菜々おねーさん何を言ってやがるですかね』
薫『?? アドリブかなぁ。薫たちドリルやシャベルなんて持ってないのに』
心「パイセン……虫歯より痛いことになってるぞ☆」
早苗「こ、これが全国の歯科医院や小学校幼稚園やらで流れてるわけ…」
美優「菜々ちゃん、昔の幼児番組のパロディを入れるなんてさすが勉強熱心ですね」
早苗「美優ちゃんの純真さも眩しいわね…」
瑞樹「ちょっと、もっと隅っこで大人しくしててよ。正体ばれて騒ぎになったらどうするのよ」
早苗「ごめんごめん。でもいくら変装して大人しくしてても、この中だとさすがに浮いちゃうわね」
美優「他の患者さんはお子さんばかりで、みんな付き添いの親御さんとの二人組ですからね」
心「大人の患者一人に付き添い四人はさすがに目立ちすぎ☆」
楓「……」ガクブル
早苗「楓ちゃん、この場の誰よりも怯えてるわよ」
瑞樹「大丈夫よ楓ちゃん。ほら見て」
看護師「お大事に~」
女の子「お姉さんばいばーい」
お母さん「泣かなかったわね。えらいえらい」
女の子「えへへ。先生も優しかったし、機械でチューンってしたらすぐ終わったよ」
瑞樹「ね? 楓ちゃんの虫歯も見たところそこまで酷くないし、治療もすぐ終わるわよ」
心「ここまで診察室から何人か出てきたけど、みんな平気そうだったし中から泣き声もしなかったもんね」
早苗「それにしてもまだかしら、楓ちゃんの番」
瑞樹「今入っていった男の子の次くらいだった気がするけど…」
男の子「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」
楓「」ビクッ
心「ちょ…」
早苗「待合室まで響き渡るほどの絶叫……まあ、たまには泣いちゃう子もいるわよね」
楓「」ガタガタブルブル
美優「楓さん、気を確かに…」サスサス
男の子「やだああああああああああああママああああああああああああああああああ」
楓「」ガクガクプルプル
瑞樹「楓ちゃん、手汗がすごいわよ」
男の子「ママああああああああああママあああああああああああああああああ」
お母さん「大丈夫ですわよ息子ちゃま。ママが傍についておりますからね」
男の子「ごわいいいいいいごわいよおおおおおおおおおおママあああああああああああああああ」
お母さん「少しの間の辛抱ですわ。さあ、お医者様にご挨拶なさいまし」
男の子「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
お母さん「もう、そんなことではずっと虫歯のまま過ごすことになりますわよ」
歯科医「すみませんお母さん、少しの間息子さんが暴れないように押さえていてもらえますか」
お母さん「ええ。構いませんわよ」
歯科医「よしよし、大丈夫だからねー」
チュイイイイイイイイイン
男の子「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
楓「」
瑞樹「楓ちゃん? おーい、もしもーし」
ガチャ
看護師「お大事に~」
お母さん「よく頑張りましたわね息子ちゃま」ヨシヨシ
男の子「ああああああああああああああああママああああああああああああああああ」
お母さん「お鼻ちーんしましょうね」
男の子「ママあああああああああああああああああああああ」
看護師「お待たせしました。高垣楓さん、どうぞ~」
瑞樹「さあ、行くわよ楓ちゃん」グイッ
楓「」ズルズル
早苗「グッドラックよ。楓ちゃんなら必ずホシを落とせるって信じてるわ」ビシッ
心「はぁと、この戦いが終わったらみんなで飲みに行くんだ…」
美優「どうかご無事で」(←犬の写真持ってる)
瑞樹(この子ら本当に応援する気あるのかしら…)
――診察室
歯科医「わあすごい、本物のアイドルだ(よろしくお願いします)」
瑞樹「先生、おそらくですけど本音と建前が逆になってますよ」
歯科医「おっと失礼いたしました。改めまして高垣さん、よろしくお願いします」
楓「……よろしくお願いします」
瑞樹(なるほど、この先生はトークで患者の緊張を解していくタイプなのね。さっきの男の子には効いてなかったけど…)
歯科医「――それでは、お口を開けてください」
楓「は、はい」ビクッ
歯科医「あー、これはまあ典型的な虫歯ですね。それじゃあ早速治療始めていきますね」ガチャガチャ
楓「」ゴクリ
歯科医「はい、ではお口を開けて――」
楓「嫌です……」
瑞樹「ちょっ」
楓「嫌です……治療なんて、むぅぅぅぅぅりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
瑞樹「待って何よその猛烈にビブラートの効いた悲鳴は――」
~~~~~~~
楓「無理です。私……やっぱり耐えられそうにありません」
瑞樹「楓ちゃん、約束したじゃない。私が傍にいるから治療頑張るって…」
楓「ごめんなさい川島さん。でも……嫌なものは嫌なんです。むーりぃー、なんです」
瑞樹「乃々ちゃんのものまねしてる場合じゃないのよ」
楓「ごめんなさい、本当にごめんなさい……私はきっとこのまま、虫歯に蝕まれていくんです…」
瑞樹「ダジャレ言う元気があるなら頑張りなさいって――」
ゴァァァァッ
歯科医「うわあああああっ」
看護師「きゃあああああっ」
瑞樹「なっ――楓ちゃんの体から謎の黒い影が! これは一体…」
虫歯菌ボス「ケーッケッケッケッ。シンデレラガール高垣楓ともあろう者が俺たちの侵略を許すとは片腹痛いわ」
瑞樹「な!? あなた、何者なの」
虫歯菌ボス「俺様は虫歯建設株式会社の棟梁! 悪いがこいつの体はもう俺たちが乗っ取っちまったのさ」
瑞樹「そんな……させないわよ。あんたたちなんかに、楓ちゃんは渡さない!」
虫歯菌ボス「馬鹿め! 現在進行形でこいつの体が虫歯エナジーに飲み込まれていくのが見えねえっていうのか?」
楓「川島さん、手を……私と握ったその手を離してください。このままではあなたまで巻き添えにしてしまいます」
瑞樹「嫌よ。言ったじゃない。治療が終わるまで、ずっと握っていてあげるって」
楓「ダメです……お願い、瑞樹さん。私は、これ以上あなたに傷ついて欲しくないから…」スッ
虫歯菌ボス「そういうわけで、紀州路快速和歌山行は日根野で後ろ4両を切り離し致します! じゃあな! ガハハハ!」
瑞樹「待って、楓ちゃん! 楓ちゃん!!」
虫歯菌ボス「ゆけ! 俺のかわいい弟子たち!!」
虫歯菌ザコたち「ドリルとシャベルで引っこ抜いてやるぜェェェーーー!!」
瑞樹「なんて猛烈な虫歯パワー……一体どうしたらいいの?」
??「大丈夫です! 私たちが力を貸します!!」
瑞樹「こ、この声は――!」
菜々「メルヘン歯ブラシで、ハピネスブラッシング! デンティストアイドル・ウサミン!」キャハッ
心「同じくデンティストアイドル・シュガーハート!」キュピーン
早苗「デンティストアイドル・バブリーバファロー!」バキューン
美優「デンティストアイドル・アンニュイタイガー…」シャラーン
瑞樹「みんな…」
菜々「さあ川島さん――いいえ、デンティストアイドル・ブリーズエンジェル。あなたの心の歯ブラシを目覚めさせるのです!」
瑞樹「私の、心の歯ブラシ……」
パァァァ
虫歯菌ザコA「なっ――この光は…」
虫歯菌ザコB「オイオイオイ」
虫歯菌ザコC「死ぬわ俺ら」
瑞樹「感じる……心の内から湧き出る希望の光を。そして私が成すべきことの全てが……わかるわ」キリッ
瑞樹「駆け抜けるこの思いは、どこまでも響く鼓動――デンティストアイドル・ブリーズエンジェル。ここに見参!」シャキーン
瑞樹「というわけで早速ブラッシングしてあげるわよ」ビビビビビ
虫歯菌ザコA・B・C「ギャアアーーーーッ!!」
虫歯菌ザコD「まずいぞ。オイ新入社員共! 曲者だ! 出会え出会えィィ!!」
新たな虫歯菌ザコたち「働くって素敵。流した汗は美しい。たくさんの歯を溶かせるなら、苦労なんてなんのその」
瑞樹「くっ、次から次へと……」
早苗「ブリーズエンジェル、ザコたちなら私たちに任せて!」
美優「楓さんを救えるのは、あなただけです」
瑞樹「みんな……ありがとう。頼んだわよ」ダッ
虫歯菌ザコE「待ちやがれ――グギャッ!?」
心「追いかけても無駄だぞ☆」
菜々「悪い虫歯菌は、私たちがまとめてお掃除してあげますからね♪」
虫歯菌ザコF「――うわキツ」
瑞樹「楓ちゃんがいるのは、この黒雲の中ね…」
楓「私は、虫歯……世界を蝕む、虫歯の女王…」
虫歯菌ボス「フハハハ! そうだ。もっと絶望しろ。そして世界を虫歯菌で染め上げるのだァ!!!」
瑞樹「そこまでよ! あなたにこれ以上楓ちゃんを傷つけさせるわけにはいかない!」
虫歯菌ボス「フン。現れたな。だが貴様一人で何ができるというのだ?」
虫歯菌ボス「見ての通り、高垣楓は虫歯の女王と同化し菌を撒き散らし続けている。この空間も増幅されていく一方だ」
瑞樹「だけど私は信じてるわ……楓ちゃんは、絶対に虫歯なんかに負けたりしない」
虫歯菌ボス「ほぅ……だが無駄だ! 俺たちの侵食は既に精神領域にまで及んでいる。貴様が説得しようとも届くわけがないッ!」
楓「私は、虫歯の女王……デンティストアイドルを、排除する…」ゴゴゴ
瑞樹「そんな……楓ちゃん! 目を覚まして!」
虫歯菌ボス「ハハハハ! 仲間との絆・信頼……そんな形無き物にすがり裏切られる人間の姿は実に滑稽だな!」
瑞樹「こうなったら……みんな、聞こえる? 少し力を貸してくれないかしら」
菜々『もちろんです!』
早苗『まだまだ元気、有り余ってるわよ!』
心『はぁとのとっておき、見せちゃうぞ☆』
美優『ブリーズエンジェル……私たちも、想いはあなたと同じです』
瑞樹「ありがとう、みんな。楓ちゃん、受け取って。私たちのエナジーを……そして目覚めさせるのよ。あなたの心に眠る力を」
楓「私の……力…」
瑞樹「あなたにもあるはず。私たちと同じ、虫歯に負けない強い意志が――」
楓「私に……虫歯に勝つ力が…」
パァァ…
虫歯菌ボス「ばっ、馬鹿な……ッ!」
(こいかぜのイントロ)
楓「満ちては欠ける想いは、今ここで溢れ出す――デンティストアイドル・ハルモニーブルー…!」
虫歯菌ボス「何故だ……侵食は確かに完璧だったはず!」
瑞樹「紀州路快速和歌山行は日根野で後ろ4両を切り離す――さっきあなたは、私たちの状況を喩えてそう言ったわよね」
瑞樹「でも紀州路快速が後ろ側に関空快速4両を繋いでいるのは、大阪方面に向かっているときなのよ」
楓「つまりその場合、日根野で行うのは切り離しではなく連結。喩えの矛盾が示すように、侵食の力も不完全だったというわけです」
瑞樹「まあ東京で発症した虫歯菌くんは知らなくて当然だろうけどね」
虫歯菌ボス「なん…だと…」
瑞樹「というわけで、私たちも故郷を走る列車にあやかって両方の特性を連結させた必殺技をお見舞いしましょうか」
楓「ええ。異なる個性が共鳴して生まれるハーモニー……私たちアイドルが織りなす無限の力」
(Nocturneのイントロからサビに突入)
虫歯菌ボス「か、体がすくんで動けん……この俺様が、怖じ気づいているとでもいうのか……!?」
瑞樹・楓「フッ素配合☆クールミント・ノクターン!!」
虫歯菌ボス「いやあああああああああああああああママあああああああああああああああああ」
~~~~~~~
楓「川島さん、起きてください。川島さん」
瑞樹「う~ん。クールミント――って、あれ? 私眠ってたの?」
楓「ええ。それはもうぐっすりと」
瑞樹「……ああそっか、楓ちゃんの悲鳴から発せられる1/fゆらぎによって究極のリラックス状態に陥ってしまったのね」
瑞樹「それで、治療の方は大丈夫だったの?」
楓「ええ。瑞樹さんが、ずっと私の手を握り続けてくれたおかげです。気持ち、伝わりましたよ」
こうして楓はしばらくこの歯科医院に通院し、無事虫歯治療を終えた。
新作の写真集の売り上げも好調だという――。
――それから数日後の居酒屋
瑞樹「――ということがあったのよ」
菜々「ええぇ…」
瑞樹「あんな夢を見たのは、完全に菜々ちゃんの教材ビデオのせいね」
菜々「で、でも良かったじゃないですか。写真撮影の日までに治療を終えられたんですから」
瑞樹「ええ。先生の腕も確かだし、あのとき一緒だったメンバーもみんな定期検診はあの医院で診てもらおうかと検討中よ」
菜々「そうなんですか」
瑞樹「菜々ちゃんもどう? 事務所からもそんなに離れてないし、おすすめだと思うけど」
菜々「う~ん……自分の出演したビデオが延々と流れているところにはさすがに行きづらいというか…」
瑞樹「それもそうね」
菜々「まあ菜々は永遠の17歳ですから、まだまだ歯医者さんのお世話にはなりませんよ~」
瑞樹「ウフフ確かに」
――翌日
瑞樹「――菜々ちゃんが親知らずと歯槽膿漏のダブルパンチで倒れて今日の宵乙女のイベントに出られないですって!?」
早苗『そうなのよ。美世ちゃんの車のエンジン音みたいな呻き声を発しながらプロデューサーくんに連れて行かれたわ』
瑞樹「で、私に菜々ちゃんの穴を埋める役が巡ってきたわけね」
早苗『お願い瑞樹ちゃん。衣装は既存のものをはぁとちゃんが急遽アレンジして良い感じにこっちのキャラに寄せとくから』
瑞樹「わかったわ。早速現場に向かうから打ち合わせはそっちでしましょう。確か○×市のショッピングモールだったわね」
瑞樹(宵乙女のイベント……内容詳しく聞いてなかったけど、何をするのかしら)
瑞樹(曲は一応頭に入ってるし、歌とトークだけなら衣装さえあればこなせそうだけど…)
――ショッピングモール
♪~ ♪~
美優「恋する乙女は…」
心「いつでも清く、美しく」
早苗「虫歯も歯垢も許さない」
楓「白い歯とともに、命燃やして恋せよ乙女」
楓・早苗・心・美優・瑞樹「歯にも優しい、ビタミン3460のど飴!」シャキーン!
司会「ありがとうございました! いやぁ、演歌調の楽曲と魔法少女風の衣装のギャップが素晴らしかったですね~」
司会「では、CMテーマソングでお馴染みの宵乙女のみなさんと、スペシャルゲストの川島瑞樹さんに盛大な拍手をー!」
ワーパチパチパチー
瑞樹「……何コレ。まさか正夢……?」
おわり
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