巴「…ほれ、王手じゃ」ﾊﾟﾁﾝ

ほたる「えっ…あっ…！」

巴「これでウチの5連勝じゃな…とは言うても今日が初めてなんじゃろ？」

ほたる「は、はい…ルールとかは、ぼんやりとは知ってたんですけど実際にやるのは…」

巴「初めてにしちゃ良い筋しとるわ、とはいえウチも勝負事で手を抜く気は無いがの」

ほたる「ありがとうございます…その、巴さん」

巴「何じゃ？」

ほたる「その、もう一局…お願いできます、か…？」

巴「…ほう」

・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・


巴「…………」ﾊﾟﾁﾝ

ほたる「…………」ﾊﾟﾁﾝ

巴「…………」ﾊﾟﾁﾝ

ほたる「…………………え、っと……」

巴「……………」

ほたる「………っ」ﾊﾟﾁﾝ

巴「……そこは、隙じゃ」ﾊﾟﾁﾝ

ほたる「あ、あうっ…」

巴(………この局は、決まりかの…)ﾁﾗｯ

ほたる「…………まだ…！」ｼﾞｯ...

巴(……………)

巴「負けず嫌いじゃの」

ほたる「…えっ？」

巴「…この勝負はもう決まっとることは、お前なら分かるじゃろ、ほたる」

ほたる「…………」

巴「さっさと投了して、次の一局にさっさと移った方が勝ち目も…」

ほたる「そう、じゃ、ないんです…」

巴「…？」

ほたる「あ、いや、その…えっと…」

巴「……ふむ、言うてみい」

ほたる「私がまだ、初心者だから…その、投了のタイミングとかが分からない…のも、確かにあるんですけど…」

巴「…………」

ほたる「…けど、えっと…それが分かったとしても、多分、投了は…しないと、思います…」

巴「…………ほう」

ほたる「……え、えっと、その…えいっ」ﾊﾟﾁﾝｯ

巴「………それは、負けたくないからか？」

ほたる「えっ…と………違い、ます」

巴「…………」

ほたる「負けると分かってるから、って…たとえ、本当に負けるとしても…諦めたく、ないんです…」

巴「諦める？」

ほたる「…はい、諦めなかったら必ず勝てる、わけじゃないけど……諦めたら…絶対に、勝てないから…」

巴「…………」


ほたる「諦めなかったから…わたしは、今ここで、アイドルに、なれてる、から…」


巴「……………なるほど、の」

巴(ほたるの眼…会った時から不思議じゃった……)

巴(気弱そうで、何をするにも伏し目がちで、自信なんて欠片も見当たらなくて)

巴(じゃが……卑屈じゃあなかった。伏し目がちじゃが、その眼は確かに前を見据えて…ギラギラ、しておった…)


巴「……ほたるは、強いな」

ほたる「えっ…？」

巴「……ほれ、王手じゃ。諦めなかろうと、ここでお前の負けじゃ。………なら、お前はどうする？」

ほたる「…確かに、負けちゃいました…。でも、ここでやめたら、もうずっと勝てません…」

巴「……………」

ほたる「…だから…もう一局、お願いします…！」

巴「………応、もちろんじゃ！」

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・・・・・・・・・
・・・・・

巴「…………」ﾊﾟﾁﾝ

ほたる「…………」ﾊﾟﾁﾝ

巴(………む…)ﾊﾟﾁﾝ

ほたる「……………」ﾊﾟﾁﾝ

巴(…これは…ちとまずいの…一旦壁を…)ﾊﾟﾁﾝ

ほたる「…………！」ﾊﾟﾁﾝｯ

巴「！」

ほたる「…………」

巴「…………やるのぉ…」

ほたる「……ありがとう、ございます」

巴(これは………ここからじゃ、厳しいの…)

巴「………とうりょ…」

ほたる「…………」


巴(………諦めたくない、か…)


巴「…いや、何でもない、続きじゃ」ﾊﾟﾁﾝ

ほたる「…………」ﾊﾟﾁﾝ

巴(…後手じゃが…ウチも諦めずにやってみるかの…)



・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・



巴「……………」ﾊﾟﾁﾝ

ほたる「……………」ﾊﾟﾁﾝ


巴(……詰み、じゃな…次でほたるの王手じゃ。…面白いやつじゃな)ﾊﾟﾁﾝ



ほたる(……これで…………！)





ほたる「……おう







P「ただいまーーーーっ！！！！」ｶﾞﾁｬｶﾞｼｬｧｱｯ!!!!

モバP「いやーーー遅くなってごめんな2人とも！思ったより長引いて…ってなんか将棋盤と駒がぶっ散らかってるー！？」

巴「お前が今勢い良く帰ってきてブチ撒けたんじゃろが、アホウ」

ほたる「…………あ………」

モバP「ん？どしたのほたる、青い顔して」

巴「怒りが通り過ぎて赤くなる顔も青ざめるってモンじゃ、お前がブチ撒けた将棋盤のせいでな」

モバP「だだだ大丈夫かほたる！まさか顔に当たったりとか………！」

巴「もうええからお前は向こう行っとれ、茄子の姉御が呼んどるぞ」

モバP「お、おお！今行くぞ茄子ー！」


巴「やれやれ…帰ってきて早々喧しい奴じゃ…」

ほたる「…………」

巴「ツイてなかったの、ほたる」

ほたる「あ…いや、その…」

巴「まぁとはいえウチも見苦しく言い訳するつもりはない、あれはお前の勝ちじゃ」

ほたる「…………いえ」

巴「………あん？」

ほたる「最後は…確かに、わたしの不幸、ですけど…」

巴「というかPの不注意じゃがな」

ほたる「でも…きっとそれが起こったのは、巴さんが、最後まで…諦めなかった、からだと思います…。」

巴「………………」ﾎﾟｶﾝ

ほたる「だから、最後のあれは、起こるべくして起こった、というか…巴さんが諦めなかった結果というか…その、だから、やっぱり引き分け…というか…」

巴「…………く、くく…」

ほたる「………巴さん？」

巴「くくく…はっはっは！やっぱりお前面白いのう、ほたる！」

ほたる「え、え…？」

巴「気に入った！お前がそういうならこの勝負ありがたく引き分けにさせてもらおうかの！」

ほたる「え、えっと…」

巴「じゃが、次は負けんからな！だからまた、いつでもやろうや！の、ほたる！」

ほたる「……は、はい！」

巴「よし！もういい時間じゃ、飯でも食おうか！茄子の姉御がまた出先からわんさか美味いモン貰ってきたみたいじゃからな！」

茄子「はい～。運ぶの大変だったんですよ～」

モバP「俺も手伝ったぞ！さぁ一緒に美味い晩飯といこうか！」

巴「その前にお前は自分でバラ撒いた将棋盤片付けろや」

モバP「ｸｩ~ﾝ…」

巴「ほれ、ほたるも晩飯の支度じゃ、今夜は豪華じゃぞ！」

ほたる「……ふふっ」

巴「ほたる？何じゃニヤニヤ笑って」


ほたる「…いえ、やっぱりわたし、諦めずにアイドルやってて…良かったなって…」


巴「…ほたる…」


茄子「美味しいものも頂けますしね～」


巴「…そうじゃな！明日もステージじゃ、たっぷり食って英気を養うんじゃぞ！」


ほたる「……はいっ！」