三船美優「ごめんなさい」 (9)
「ごめんなさい」
「ごめんなさい、プロデューサーさん」
「こんな女に付き合わせてしまって、ごめんなさい」
ぽつり、呟く。
包んで抱きながら。離れていってしまわないように、繋がり結ばれたままでいられるように、包んで抱きながら。
触れて撫でながら。そっと静かにふんわりと柔らかく、この胸の内へと抱いた私の中の何より温かな想いを……恋い慕って愛おしむ至上の想いを、しっとりと贈り注ぐように優しく触れて撫でながら。
乗せて迎え入れながら。警戒なく構えもなく身体を晒して差し出して、それに応えて私を信じて……私を許して、私を受け入れて、そうして私へ委ねてくれたその身体を乗せて迎え入れながら。
プロデューサーさんの頭を、プロデューサーさんの身体を……プロデューサーさんを、私のこの身体へ重ねながら。
事前に出来得る限りの手入れをして綺麗に清めた身体……その太ももの上へは布を一枚。普段身に着けているものとは違う……普段着ているものよりも少し薄い、目を凝らせば淡くその奥が透けるようなスカートの布を一枚。それだけを間に挟んで、そうして自分の上……膝枕の上へとプロデューサーさんの頭を乗せ受け止めて寝かせながら。
ぽつりと、その晒された左耳へと呟きを落とす。
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「こうして時間を使わせてしまって」
「仕事は山のように……それこそ限りのないほど抱え込んでいるのだと、分かっているのに」
「どんなにあっても足りないような、そんな貴重で得難い大切な時間を……こうして、私との時に使わせてしまって」
「ごめんなさい」
言葉を送りながら、ほんの少しだけ身体を前へ。
背中を丸めて前へ出し、太ももの上で眠りに沈むプロデューサーさんの顔へと自分の顔を近づける。
自分自身で自覚ができる程度に熱を持って上気して、きっと色も元の肌色の上へ紅を幾重か重ねてしまっているのだろう自分の顔を、無防備に緩んで安らぐその顔……心から気を許してくれている、素敵に整ったプロデューサーさんの顔へ、ゆっくりと。
「私はずるい女です」
「――もちろん、貴方を癒してあげたいというのは本当の想いです」
「貴方を温め」
「貴方を安らがせて」
「貴方を労わりたい、と」
「そう思いそう願い、そう想っているのは本当です」
「嘘のない心から本当の気持ち」
「――そう、なのですけど」
言葉を紡ぎぱくぱくと柔く動く自分の口元を、眠り体温が上がっているからかほんのりと赤みを差し入れたプロデューサーさんの耳元へ――その場所と、あとほんの少し身体を前へと倒すだけで触れ合ってしまえるほどの距離まで近づけて、言葉を続ける。
プロデューサーさんの耳だけに届いて至るよう、そこへ尽くしそこだけへ向けて贈って注いで、漏れ出ていくこの吐息がプロデューサーさんの耳や頬を撫でて包むよう……自分の中の熱や想いを精一杯に込めながら、声を囁くようなそれにして言葉を。
「プロデューサーさん、私はずるい女なんです」
「勝手で欲張りでわがままな、そんな女なんです」
「貴方が、私たちを大事に思ってくれていることを知っていて」
「貴方が、私たちからの好意を無下にできない人だと分かっていて」
「貴方が、私たちとの時間を作るためなら陰で無理をしてしまう方だと理解していて」
「それでも、私は私がこうして貴方といたいから」
「こうして貴方と同じ時を過ごしたいから」
「貴方が――プロデューサーさんが、欲しいから」
「そうして、そんな自分勝手な理由で貴方に迫って」
「根を詰めすぎているのでは。と投げかけて」
「癒して差し上げますから。と持ちかけて」
「休みを取るのも仕事の内ですよ。と語りかけて」
「貴方という人を知って、分かって、理解しているのに……なのに、だからこそ、そうして迫って」
「私自身の想いのまま、貴方をこうして付き合わせて独占してしまっている」
「そんな、ずるい女なんです」
連日の激務の影響か、少しくたびれた感触を返してくるプロデューサーさんの頭を撫でる。
これまでもずっとプロデューサーさんのそこを包んで愛でて撫でていた手を、これまでよりもなお優しく、これまでよりもさらに柔らかく、これまでよりも一層深く絡ませて……ゆっくりと、しっとりと、撫でていく。
囁き呟いて贈る吐息や言葉と同じように。熱を込めて心を込めて、胸に抱いた想いを込めて。
「……私は、貴方がいれば叶えられます」
「貴方の夢見るものを。貴方と夢見るものも。貴方に夢見るものだって」
「なんでも。……きっと、どんな何だって叶えられます」
「……私は、貴方がいなければ叶えられません」
「夢も。見ることも、思うこともできなくなる。貴方の傍で貴方の隣を貴方の未来に夢見る私は、何も。……ただ、生きていくことさえ」
「何も。……きっと、どんな何でさえ叶えられません」
頭を撫でているのとは逆、プロデューサーさんが自身のお腹の前辺りへと置いている手と重ねていた左の手をプロデューサーさんのお腹へ。
最後の離れ際にぎゅっと少し包み抱く力を込めてから宙へ浮かせて……それから、横になる時に軽くシャツを肌蹴て覆うものを少なくしたプロデューサーさんのお腹へと左の手をゆっくり移す。
そしてそこをすりすり、ぽんぽん。柔く撫でて、優しく叩いて、触れ合わせて愛おしむ。
「だから……そして、ごめんなさい」
「こうして貴方の時間を貰ってきてしまったことを」
「こうして貴方の時間を頂いてしまっていることを」
「こうして貴方の時間を独占し続けていってしまうだろうことを」
「ごめんなさい」
プロデューサーさんの頭を撫でる動きを中断して、その手を少し横へ。耳の後ろへ伸びて垂れた髪を指に絡めて弄りつつ滑らせて……それから、そのもう少し横へ落ち着かせる。温かくて、柔らかくて……心地のいい感触で迎え入れてくれるその頬へ、私の手を。
ほんのりと綺麗な朱色を差し入れたそこ。普段よりもいくらかきっと熱っぽく温かい、無防備なそこ。それをまた、頭のように……頭を撫でていたときよりも、もっと。もっと込めて、想いを尽くして……溢れて止まらない想いを注ぎながら愛おしむ。
「私は貴方を支えます」
「貴方を助けて、貴方を癒して、貴方のことを支えます」
「貴方のアイドルとして、貴方を愛おしく想う一人の存在として」
「だから」
「だから……プロデューサーさん、ごめんなさい」
プロデューサーさんを撫でて愛おしんで。想いの限り……贈れる限りの好きを、届けられる限りの大好きを、捧げて尽くせる限りの愛おしさを込めて……そうして、言葉。
近づけていた口元を、さらに近くプロデューサーさんの耳元へ寄せて。吐息が触れて混じり合うくらいだったプロデューサーさんとの距離を、間に薄皮を一枚挟んだ程度の……もうそれよりもさらに間がないくらいの距離にまで近づけて、そうして静かにそっと口を開く。
熱っぽく焼けていた顔や熱く潤んでいた吐息が、その上もっと茹だっていくのを自分でもどうしようもなく感じながら……プロデューサーさんへの想いが響き広がって全身が心地よく蕩けていくのを自覚しながら、身体をプロデューサーさんへと近づけて……そして、そうして贈る。
「貴方を想う私を許してください」
「貴方に迷惑を掛けてしまう私を見捨てないでください」
「貴方と一緒にいたいと願う私をこれからも傍に置いてください」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい、プロデューサーさん」
「こんなアイドル、こんな人、こんな女……ですけど、でも」
「でも、それでも」
「お慕いしています。貴方という人を誰よりも何よりも、他のどんなすべてよりも……」
「大好きです」
「プロデューサーさん、愛しています」
以上になります。
お目汚し失礼致しました。
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