ヴィーネ「サターニャと雨宿り」 (20)
季節は梅雨、急に降り出した雨。
さっきまで眩しかった空はうっすらと翳り、まるで電気を消した部屋の中のようだった。
図書館へ本を借りに来ていたヴィーネは、帰るに帰れずに立ち往生していた。
ヴィーネ「まさかこんなに降るなんて…今日雨なんて言ってたかしら」
ヴィーネ「洗濯物干してたのにな…はあ…」ションボリ
ヴィーネ「あら?そこにいるのって…」ジ-ッ…
ヴィーネ「……やっぱり!サターニャじゃない!」
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ヴィーネ「サターニャ!こんなところで会うなんて偶然ね」
サターニャ「あら、ヴィネットじゃない。あんたも雨宿り?」
ヴィーネ「うん。急に降ってきちゃって…サターニャは図書館に何の用だったの?」
サターニャ「禁断の魔術書を探しに来たのよ。…残念ながら見つからなかったわ」
ヴィーネ「そりゃ普通の街の図書館には無いだろうけど…」
ヴィーネ「私、傘を忘れちゃって。どうしようかしら」
サターニャ「ふっふっふ…安心しなさい、ヴィネット」
ヴィーネ「え?もしかして傘持ってるの?」
サターニャ「もちろん………持ってないわ!」ドヤァ
サターニャ「だからこれから暇つぶしに二人で語り合うのよ!私とお喋りできることを光栄に思いなさい!」
ヴィーネ「はあ…ま、いいけどね」
ヴィーネ「それにしても凄い雨ね。すぐ止むといいけど」
サターニャ「心配せずともすぐに止むわ。たぶん30分ってところね」
ヴィーネ「へえ、わかるの?凄いわね」
サターニャ「悪魔的第六感<デビルズシックスセンス>……つまりただの勘よ!」ドヤドヤ
ヴィーネ「…そんなところだろうと思ったわ」ハァ
サターニャ「二人でお喋りするのは久しぶりよね」
ヴィーネ「そうね。いつもはガヴやラフィがいるから」
サターニャ「じゃあ何の話をしようかしら。普段は出来ないのがいいわね」
ヴィーネ「うーん…普段はできない、か。ガヴやラフィに聞かれたくない話?」
サターニャ「そうよ!聞かれたくないといえば悩みごと!サターニャ様のお悩み相談室を開催するわ!」
ヴィーネ「相談室って…。でも、悩みを打ち明けるのはありかもね」
サターニャ「早速だけど、ヴィネットの悩みは何なの?」
ヴィーネ「悩み、かあ…。やっぱり、悪魔っぽくないってところかな」
サターニャ「あー…なるほどね」
ヴィーネ「頑張って頑張って悪魔らしく振る舞っても仕送りは増えないし」
ヴィーネ「私、何の才能もない全然ダメダメな悪魔だから…」
ヴィーネ「いっそ、悪魔に生まれない方が良かった…なんて思うこともあったりして」
ヴィーネ「あ、あれ?ごめん…なんかちょっと泣けてきちゃった、かも…」ウルウル
ヴィーネ「ご、ごめんね。こんなはずじゃないのに…」グスッ
サターニャ「ヴィネット」ジ-ッ
ヴィーネ「えっ?な、なに?」ドキッ
サターニャ「あんたの悪い癖ね。そうやってすぐに自分を卑下するのはやめなさい」
サターニャ「確かにあんたは悪魔っぽい性格じゃないけれど、それがあんたの欠点だなんて誰も思ってないわ」
サターニャ「性格なんてみんな違って当然よ。誰もそれを非難する権利なんてないわ」
ヴィーネ「サターニャ……」
サターニャ「悪魔に生まれなければ良かったなんて、思っちゃダメよ。ご両親がかわいそうだし、何よりあんた自身がかわいそうでしょ」
サターニャ「悪魔だとか天使だとか関係ないわ。ヴィネットにはヴィネットなりのいいところがたくさんあるんだからね」
サターニャ「だからヴィネット、無理に変わろうなんて思わなくてもいいのよ。少しずつ進めばいいんだから」
ヴィーネ「……うん。ありがとう……こういう時はカッコいいのよね、サターニャは」クスッ
サターニャ「ふふん。惚れちゃったかしら」ドヤ
ヴィーネ「ううん。別に」ニコッ
サターニャ「……さらっと言われると悲しいわね…」
ヴィーネ「ところで、サターニャは悩みとかあるの?」
サターニャ「私?この大悪魔に悩みがあると思うの?」
ヴィーネ「ないなら別にいいんだけど…あんたもわりと悩みを隠すタイプじゃないかなと思ってね」
サターニャ「んー…強いて言えば、最近ラフィエルの絡みがしつこくなってきたってことかしら」
ヴィーネ「いつも通りじゃない」
サターニャ「いやいや、勝手に家に入ったりストーキングしたり、普通に考えたらおかしいでしょ?気づいたら後ろにいるから怖いわよ」
ヴィーネ「それだけサターニャに構ってほしいってことよ。ほら、好きな子にはちょっかいかけたくなるって言うじゃない」
サターニャ「す、すすす好きっ!?いや、私たちそんな関係じゃないから…」アタフタ
ヴィーネ「さっきのイケメンモードで迫ったら、多分落とせるわよ」ニヤニヤ
サターニャ「かっ、からかわないでよ…!」カァァ
サターニャ「ま、それはそれとして」コホン
サターニャ「そんな感じだから、今は悩みとかほとんどないわ。みんなといると楽しいからね」
サターニャ「…テストの点が良くないのは、ちょっとした悩みだけど」ボソッ
ヴィーネ「『今は』」
サターニャ「へ?」
ヴィーネ「今は悩みは無い、って言ったわね。じゃあ前まではあったの?」
サターニャ「…耳ざといわね。もしかしてヴィネットも悪魔的聴覚<デビルズイヤー>を…」
ヴィーネ「地獄耳…ってうるさいわね。ごまかさないの」
サターニャ「……まあ、悩みはあったわよ。今となってはちっぽけな悩みだけど」
サターニャ「私って隠してしても大悪魔だし、どうしても目立っちゃうじゃない?周りのやつも威圧に恐怖して寄り付かないわけよ」
サターニャ「だから常に孤高の存在で…」
ヴィーネ「要するに、友達がいなかったと」
サターニャ「…ズバリ言わないでよ」
ヴィーネ「あ、ごめんね…デリカシーなかったわ」アセアセ
サターニャ「ううん。いいのよ」
サターニャ「だって、一人だった私に話しかけてくれたのはヴィネットたちなんだから」
ヴィーネ「そういえばそうだったわね…。階段で隠れてお昼ごはんを…」
サターニャ「…あんまり思い出したくないわね」
ヴィーネ「あ、ごめんね…」
サターニャ「でも、おかげでみんなと会えて友達になれたのはすごく嬉しかったの。今でも感謝してるわ」
ヴィーネ「ううん、こっちだって、サターニャがいると退屈しなくて楽しいわ」
サターニャ「そう?えへへへ…なんか改めてこういうこと言うと照れるわね」
テレテレ
ヴィーネ「ふふっ、そうね。二人だけだから話せることね」
サターニャ「ラフィエルやガヴリールがいたら絶対に茶化されるもの」
ヴィーネ「もし私がこのことをみんなに言いふらしたら、どうする?」
サターニャ「ヴィネットはそんなことするやつじゃないって知ってるわ。人の嫌がることはできないもの」
ヴィーネ「ふふ、よく知ってるわね」
サターニャ「魔界からの長い付き合いだもの。当然よ」
さきほどまで大雨だったのが嘘のように雨粒は細かくなっていく。
空はもうじき太陽を取り戻そうとしていた。
ヴィーネ「本当に30分で上がったわね。サターニャ、気象予報士にでもなれるんじゃない?」
サターニャ「そんなちっぽけな器に収まる私じゃないわ。やがては全世界の天候を操る大悪魔になるんだから」
ヴィーネ「…その根拠のない自信と向上心は見習いたいものね」
サターニャ「常に上を向いていれば、ヴィネットだっていつかは一人前の悪魔になれるわよ。この私が保証するわ」
ヴィーネ「…本当にいつものサターニャと印象違うわね。普段からそんなふうにしてればいいのに」
サターニャ「嫌よ、気心の知れたヴィネットだからこそ、こうして話せてるんじゃない」
ヴィーネ「結構恥ずかしがりやなのね、サターニャは」
サターニャ「たまにはこうしてお喋りするのもいいものね。すっきりしたわ」
ヴィーネ「うん、私も楽しかったわ。カッコいいサターニャも見られたし」
サターニャ「…今思うとカッコつけすぎて恥ずかしくなってきたわ……みんなには言わないでよ?」
ヴィーネ「どうしよっかなー。知られたらきっとすごくいじられるわね」ニヤニヤ
サターニャ「ちょ、ほんとにやめてよ?信じてるわよ?」
ヴィーネ「んー、考えておくわね♪」タタタッ
サターニャ「ちょっと!待ちなさいよー!」ダダッ
サターニャ(心配しなくてもちゃんと悪魔っぽいところあるじゃない、ヴィネット)
サターニャ(あんたはあんたらしく、小悪魔らしく生きていけばいいんだから)
サターニャ(ま、それまではこの大悪魔翌様を見習っていればいいわ!)
サターニャ「なーっはっは!」
ヴィーネ「サターニャ?何してるの?置いてっちゃうわよー?」
サターニャ「今行くわよー!待ってなさーい!」タタタッ
雨は悩みを洗い流し、空は未来を照らすように輝いている。
うっすらと虹のかかる空の下、騒がしくも楽しげに、二人の悪魔が並んで歩き始めた。
完
ありがとうございました。
ガヴリール「ラフィエルと雨宿り」
ガヴリール「ラフィエルと雨宿り」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1498462739/)
の悪魔組視点的な話でした。
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