【俺ガイル】伊168「もう、先輩!いろは、ですよ?」【艦これ】 (39)

イムヤがいろはすに入れ替わったら、と言うだけの短編です。
ギャグ書きたかったのに何故かシリアス寄りに…

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いろは「失礼しまーす、オリョクル終わりましたよー」

水雷戦隊を編成し、鎮守府沖で対潜哨戒をしてもらっていた時のこと。
1人の潜水艦娘と邂逅した。彼女は伊168号潜水艦。
当然提督である私は、他の鎮守府にいる彼女を見たことがある。
だが一見してわかる通り、私の元に来たイムヤは少し様子がおかしい。

提督「あぁ、イムヤか。ご苦労」

いろは「だ、か、ら!いろはですってば」

まず、名前だ。他の鎮守府にいる伊168は自分のことを「イムヤ」と呼ばせてくる。
しかし、私の元に来た伊168は自分のことを「いろは」だと言い張る。

提督「すまん、癖だ。私の知っている伊168は自分の事をイムヤと称していたものでな」

いろは「もぅ!先輩、私が来て2週間は経ちますよ?いい加減慣れてください」

次に、私の呼称だ。まぁ、私の呼称自体は艦娘によって「提督」であったり「司令」であったりとバリエーションがあるものなので、個性と理解出来ないでもない。問題なのは、何故「先輩」なのか、だ。これは本人に聞いてみても「解らない」との解答だったので、どうにも釈然としないが受け入れている、と言うのが現状だ。

提督「…善処しよう」

いろは「それ絶対慣れる気ないじゃないですか!」

プクっと膨れ面をしているが、私の知る限りそんな表情を見せる伊168は居ない。
はじめは、本当に伊168なのか疑っていた。
ファーストコンタクトは対潜哨戒させていた艦隊からの通信だった。
祥鳳が遠慮がちに通信を入れて来たのだ。「ちょっと変わった艦娘を見つけた」と。
背後から聞こえてくる168の声を聞いた時は島風や川内型の誰かかと勘違いした。

いろは「ちょっと先輩!聞いてるんですか?そもそもですね、私をこんな地味な任務に就かせるなんて先輩は私をどうしたいんですか」

提督「今攻略中の海域では強力な水雷戦隊を含む艦隊も確認されている。そこに潜水艦である君たちを連れて行くわけにはいかないから、他の任務にあたってもらっているだけだ」

いろは「…はっ⁉︎もしかして今口説いてました?愛しい人を沈めたくないっていう気持ちは嬉しいですが出会ってまだ2週間なので無理ですもう少し時間をかけて攻略してくださいすみません!」

提督「それでは私は潜水艦隊全員に恋慕していることになるのだが」

いろは「旗艦を私にしてるあたり下心見え見えです、先輩♪」

何と言っても一番の問題点はこの言動だ。
あまりこの様な品のない言葉は使いたくはないが、敢えて一言で表すと、あざとい。
言葉だけならば聞き流して入ればいいのだが、彼女の場合言だけでなく動も付いてくるから厄介である。

こうしている今も、傍から見れば色々と誤解されそうな程近付いている。
私の座る椅子の肘掛に腰を乗せ、あろうことか私の手を取ってこちらを見つめている。

いろは「あれ?先輩、あんまり嫌がらないんですね?」

タチの悪い事に、潜水艦と言えども艦娘であるため、人間の私では単純な腕力では抵抗できないのだ。
それを解った上で、こんな質問をしてくる。

金剛「hey!テートク!戦果r…」

勢いよく扉を開けた金剛は、私達の状況を見て固まってしまった。
因みに、イムヤは入り口に背を向けているため、金剛から彼女の表情は見えない。

暁「ちょっとー!早く入ってよ~」

雷「あぁー!またいろはさんにチョッカイ掛けてたわね!良い加減にしないと加賀さんに爆撃してもらうからね!」

後ろからゾロゾロと第六駆逐隊が入ってくる。

今日は彼女たちは非番な筈なので、金剛の報告に面白半分で付いて来たのだろう。
よりにもよって、今日、この時に。

電「あわわわ…司令官さん、大胆なのです…」

響「…司令官、これは説明して貰う必要があるかな」

さて、内心焦っている。しかし、彼女は私以上に焦っている様で、見ていて面白い。
イムヤは振り返ることもできず、目線だけを忙しなく動かしてどうするか考えている様だ。

いろは「やっばー…いろはちゃんてばタイミング悪すぎ?あれ、でもここからなら表情までは見られてない…?」

ブツブツ呟いていたかと思った次の瞬間、身を翻し金剛に駆け寄った。

いろは「うわーん、怖かったですー!」

提督「…ッ⁉︎」

先程までとは打って変わって、金剛に縋り付き泣きだした。

金剛「テートク…話があるネ」

すると、抱きつかれた拍子に我に返ったのか、右手でイムヤを撫でながら、左手をこちらに向け睨み始めた。

提督「…あぁ、まずその主砲を収めてくれないか?それでは落ち着いて話せん」

任務を終え、真っ直ぐここに来たのか艤装は取り外されていなかったのだ。

金剛「No!事と次第によってはテートクを撃ちマス」

提督「…洒落にしては面白みに欠けるぞ」

言い終わるか終わらないかのタイミングで、私の後ろの壁に穴が空いた。
ゆっくりと両手を上げる。

金剛「次は当てマス」

相当怒っているのか、いつものハイテンションは見られない。
今の彼女からすれば、私は嫌がるイムヤに幾度も言い寄っている男なのだから当然だろう。
そう、これこそが彼女の言動が問題たる所以だ。
ただあざといだけならばまだいい。
だが、他の艦娘に誤解されると、決まって私が悪者になる。
どんな状況からでもひっくり返す彼女の演技は素晴らしいとさえ言えるかもしれない。
…実害が無ければ。

暁「ちょ、金剛さん⁉︎落ち着いて!」

雷「流石に撃ち[ピーーー]のはマズイわよ!」

金剛「殺したりはしまセン!But!利き腕じゃない方の腕くらい無くなっても執務に支障はない筈デース!」

最早暴走気味だ。などと冷静に考えている場合でもない。
彼女の眼は本気だ。本気で撃とうとしている。
チラ、とイムヤを見ると、ごめんという意味なのか、ざまぁみろという意味なのか、ペロっと舌を出してウィンクまでくれていた。

響「しかし流石にこう何度もとなると放ってはおけない」

提督「待て待て、待ってくれ、本当に。私は何もしていない」

どうすれば誤解が解けるか、必死に考えるが、終ぞこの状況を打破する術は思い浮かばなかった。

金剛「ならこの子は何で泣いてるデス⁉︎」

いや、今現在イムヤは泣いていないのだが。金剛は気付いていない様だ。
かと言ってここで私が指摘すれば、彼女はまた演技を始めるだろう。

提督「くっ…」

電「…‼︎」

どうにかイムヤにバレない様アイツの悪辣な笑みを表沙汰にできないものか…と考えていると、電が顔を上げてしまった。
恐らく偶然なのだろう。しかし、突然の出来事にイムヤは取り繕う暇もなかった。
電が口をパクパクさせながら金剛の裾を引いている。

金剛「どうしたのデスか、電?今は構ってる暇は…」

電「い、いろはさんが笑っていたのです…」

いろは「…」

やっばー…と言いたそうな顔をしている。
金剛がチラと振り向いた時には、すでに顔を逸らしていた。

いろは「⁉︎」

しかし、視線の先には響が回り込んでいた。

響「…笑ってはいないけれど、泣いていた様にも見えないな」

ビクビクっとイムヤの体が跳ねているのがここからでも解る。

金剛はこちらに向けていた腕を一旦下ろすと、イムヤの頭を上から鷲掴みした。

金剛「いろは、ちょっとこっち向くネ」

いろは「え、いや、ちょっ…」

抵抗しようとしている様だが、ギリギリギリと嫌な音が聞こえてくる。
潜水艦の彼女では戦艦の力に逆らえまい。

提督「待て金剛、やり過ぎだ。首がもげる」

見ていて不安になってきたので直ぐに止めた。
よく見ると、痛みによってかイムヤの目元には薄っすらと涙が浮かんでいた。

金剛「う~ん…これじゃあ今泣いたのか、提督に泣かされたのか解らないネ…」

提督「電と響の証言がある」

と言うかわからなくしたのはお前だけどな。
電はコクコクと激しく頭を振っているが、響は反応が薄い様だ。

響「…私はそんなにじっくり見たわけではないから断言はできないかな」

金剛「と言うことは…どちらもミステリーという訳ネ」

…ん?まぁ金剛の英語が怪しいのは今に始まったことではないので置いておこう。

雷「え?推理小説⁇」

金剛「怪しいと言う意味ネ」

強ち間違いではない…のか?ネイティヴではないので細かい所までは解らない。

電「でもでもいなづまは見たのです!」

いろは「うぅ…電ちゃん酷い…私より提督を選ぶんだね…」

態とらしさが隠しきれていないが、電には充分な様だ。

電「…」

答えに窮したのか黙り込んでしまった。

電「…っ」

暁「…電?大丈夫?」

とうとう泣き出した。
暁が電の背をさすりながら気遣うが、気まずい空気は否応なく流れる。

いろは「あー…そう言えば私やる事が____」

提督「168」

いろは「あ、はい嘘ですごめんなさい」

少し冷たい声で呼ぶと敬礼とともに姿勢を正した。

それからのイムヤは素直だったが、頑として私をからかった事だけは認めなかった。
ここで認めてしまえば今までの悪行が全て露呈すると考えたのだろう。
埒が明かなかったので、取り敢えず電に謝罪だけさせて全員下がらせた。
金剛は最後に「ごめんなさい…」と訛るのも忘れて謝っていった。
次までにイムヤから謝らせようと決意した。

提督「ふぅ…」

こうして、自称いろはの潜水艦は連日問題行動ばかり引き起こし、私の手を煩わせる。
ただでさえ現在攻略中の海域に手こずっており、猫の手も借りたい程に忙しいと言うのに、だ。
せめてもう暫くの間だけでも大人しくしていて欲しいものだと常々思っている。
しかしそれを本人に伝えた所で、「こんな可愛い子に言い寄られるのが迷惑だって言いたいんですか⁉︎」と騒ぎ立てる為、余計に気が滅入ってしまう。
自分で言い寄っていると認めてしまっているが良いのか。

大淀「提督、お疲れ様です。その、色々と…」

提督「あぁ、お互いに、な。全く、胃に穴があきそうだ」

大淀には艦隊司令部との連絡をしてもらっているついでに、秘書官も任せている。
余り負担を増やすべきではないかとも思い、以前は秘書官についてのみ交代制にしていたのだが、イムヤが来てからと言うもの、艦娘達に随分と嫌われてしまった様で、誰も秘書官をやりたがらなくなってしまったのだ。

大淀だけは、何故かイムヤの本性を直ぐに見破ったらしく、唯一私の味方をしてくれていると言っても過言ではない。

大淀「私の方でも、折に触れていろはさんについて皆に話してはいるのですが…」

提督「まぁ、無理だろうな。無駄に外面が良いから信用だけは厚い」

そう、彼女は何故か私以外には『良い子』振って接するのだ。
そこがまた厄介な所でもある。

大淀「ですがこのままこの様な事態が続けば、いずれ鎮守府の運営にも支障が…」

提督「まぁ、何とかなるだろう。ああ言う良い子振る人間は初めこそ受け入れられるが、その内ボロが出て自滅するもんだ」

そう、例えば今日の日中の様に。
そして騙されていたと知った方は、信じていた分だけ、もしくはそれ以上に不信感を抱く。

大淀「それはそれで何だか可哀想な気がしますね…」

提督「私だって鬼じゃない。頃合いを見てなんとかするさ」

大淀「自分の信用も取り戻せない人が、ですか?」

提督「これは手厳しい」

ひとしきり笑って、本日の執務を終了した。

次の日、朝礼にて本日の出撃、遠征、演習のスケジュールを発表し、各自任務開始まで待機を指示した後のことだった。

響「司令官、少し良いかな」

響が1人で執務室に残った。

提督「あぁ、しかし昨日の件ならもうケリがついただろう?」

響「うん、そうだね。あの場ではどちらとも言えないと言うことで私も納得しているよ」

提督「だったら何を…」

響「昨日の事だけではないんだ」

私の言葉を遮る様にして発された言葉には、何やら決意の様な物が感じられた。
だが、その後を続けるかどうか、まだ悩んでいる様にもみえた。

提督「…良ければ聴かせてくれないか」

響は私の問いかけに、コクリ、と頷いた。

響「先に、少し嫌な事を言う、ということを了解しておいて欲しい」

そう言って彼女が語り始めたのはイムヤの日頃の言動についてだった。

どうやら響も初めから彼女の言動に違和感があったらしい。
ただ、周囲の反応もあり、勘違いだろうと思うことにしたのだそうだ。
何より彼女にとって、これから一緒に戦っていく仲間を「疑う」と言う行為が苦痛だった。

響「そう思っていたところに、司令官がいろはさんに言い寄っていると言う噂が聞こえて来たんだ」

日頃の私の言動から、嫌がるイムヤに言い寄り続ける、と言うのはどうもおかしいと思ったらしい。
と言うか、普通ならすぐにでも全員がその考えに至って欲しいものだ。
日頃から私は信用が無かったのだろうか。

響「そこでもまた、周囲の反応に戸惑ったよ。けれど、私の意見を発表する事でいろはさんに危害が加わらないとも限らないし、黙っておこうと思ったんだ」

このまま何もなければ、ね。と小さく付け足した彼女の表情は、目深に被った帽子で半分程隠れていたが、それでも幾ばくかの悲しみを読み取れた。

提督「そうか。ありがとう、響。もしその意見を大々的に発表されていたなら、確かに私の疑いは今より遥かに晴れる事になるだろう」

提督「しかし、その場合、晴れた分の疑いはイムヤに向く」

それが解っていたから今まで黙ってくれていたのだろう。
何だ、大淀以外にも、ちゃんと私の事を理解してくれている子も居るんじゃないか。
それだけでなく、元凶である筈のイムヤのことまで気遣ってくれている。

提督「だから、今まで通り、黙ったままで居てくれないか」

響「でも、このままでは司令官が…!」

提督「心配してくれてありがとうよ。確かに、昨日の金剛みたいに暴走されたら、人間の私じゃどうしようもないかもな」

だが、と言いながら響の頭に手を載せる。

提督「私はこの鎮守府の提督だ。艦娘達の命を預かっている立場なんだよ。だから、例えどうしようもないイタズラ娘でも、彼女が危機に晒される位なら、私が身代わりになる」

そう言って響の頭を撫で回す。

響「…っ!」

何か言おうとした様だが、結局言葉にはならなかった。

提督「それに、こうして私を信じてくれている子が居ると解っただけでも、随分と救われた様な気分だよ」

更に大きく頭を撫で回すと、響の小さな両手が私の手を捉える。

響「司令官、これは少し、雑すぎないかな?もっと優しく撫でて欲しい」

提督「口止め料、かな?」

響「そう思ってくれて良い」

今日の一番の収穫は、無表情だと思っていた響が、案外照れ隠しが下手だったと言うことだ。

それからと言うもの、響は時折執務室にやって来ては私の見えていない部分でのイムヤの振る舞いを教えてくれたりした。
それによると、普段私に見せる一面とは打って変わり、とても勤勉で努力家である様だ。最も、そう言う面も余り人には見せない様にしているらしいが。
そんな響と入れ替わりの様にしてやってくるのは、大抵イムヤだ。

いろは「先ぱぁい、聴いてくださいよぉ~」

といつも愚痴を言いに来る。どうやら彼女の日課になりつつある様だ。
あの件以降、金剛の目が怖いだとか、実はイムヤの方から私に言い寄って居るのではと言う噂が流れ始めているだとか…。
話の種は様々な上に、一方的に喋り続ける彼女だったが、意識的か無意識的にかは定かではないものの、執務に支障が出ない範囲に抑えているのは間違いなかった。

いろは「全く、迷惑な話ですよ!私が先輩を口説いてるなんて!」

私がペンを握っている時には触れてこないし、どれだけヒートアップしていても1時間もすると「あ、お腹空いたんで帰りますねー」と言って去っていく。

提督「だったら誤解を招く様な言動を慎めば良いだろう」

ちゃんと気遣いのできる子なのだから、と付け足そうかとも思ったが止めておいた。
変に勘繰られて、響に偵察の様な事をさせていると知れてしまうのも気まずい。

いろは「最近はそんなにしてなくないですか⁉︎」

どうでも良いがしてなくないと言うのはどちらなのだろう。文脈から察するに否定の方だろうとは思うが、難しい日本語を使うものだ。

提督「最近は、と言うことは初めは自覚があったんだな…」

いろは「当たり前じゃないですか~。私がこんな隠k…根くr…寡黙な人に積極的に話しかけるなんて、普通ないですし」

そこまで口にしておきながら、言い換えればセーフ、とでも思っているのだろうか。
いや、これも意識的なものだろう。態とらしく額を拭う仕草までして見せる。

提督「ふ、お前のそう言う所、もっと出していけば良いと思うんだが」

いろは「いや、あの、本当に気持ち悪いんで止めてもらって良いですか」

提督「提督を辞めてお前に求婚しろと?少し気が早いな、イムヤ」

いろは「ゔっ…。いや、マジで止めて下さい。吐き気が物凄いです。あといろはです、良い加減名前覚えて下さいよ」

提督「そっくりそのままお返しするよ」

その日は、もう言い返す気にもならなかったのか苦虫を噛み潰した様な表情のまま執務室から出て行った。
一見、楽しそうなやり取りに思えるかも知れないが、彼女の言動は非常に奇妙だ。
この様な会話をするのが私に対してだけであり、しかし、かと言って私に信頼を置いているかといえばそうでもなく、彼女は私に対しては頑なに腹黒い面しか見せようとしない。
どうにもこのイムヤのアンバランスな振る舞いに危機感を覚えざるを得なかった。

何となく、このまま何事も起こらないんじゃないかと思い始めた矢先に、事は起こった。
いつも通り執務をこなしていた昼下がり、ドンドンドンと激しく扉がノックされた。

提督「どうした」

只事ではないと思い、すぐに入る様促した。扉を開いたのは響だったが、彼女は酷く焦っている様子だった。

響「司令官!すぐに来てくれ」

彼女にしては珍しく、敬礼さえ忘れ執務室を突っ切って来た。
私の手を取ると、体に見合わない力でグイグイ引っ張って行く。

提督「響、一体どうしたと言うんだ。説明をしてくれ」

聞きながら、急ぐべきと判断した私は、彼女を抱えると自分の脚で駆け出した。
力があると言っても、駆逐艦の歩幅では陸上で速度は出ない。

響「兎に角、食堂へ向かってくれ」

普段の彼女なら、抱えられる事に対する羞恥心から抵抗したのだろうが、余程の事態なのかされるがままだ。
一見特大のぬいぐるみを小脇に走っている様に見えるかも知れない、と言うくらい手足もブラブラさせ無抵抗である。
私達の緊迫感とは裏腹に若干コミカルに映る事だろう。

提督「昼食なら先程摂ったばかりだと言うのにな…」

まだまだ愚痴を漏らしたかったが、その前に人集りが見えて来た。
食堂に入るどころか、その前の廊下が寸断されてしまっている。

響「道を開けてくれ!司令官を連れて来た!」

私がどうするか思案している間に、響が叫ぶとさっと道ができた。
流石は私の艦隊だ、と感心しそうになったが、近頃の情勢を鑑みるに単に私を避けただけとも取れた。
複雑な気持ちで人混みを通り抜けると、食堂内は修羅場と化していた。

提督「これは…どういうつもりだ?」

まず、この場にあってはならない物が目に飛び込んで来た。
戦艦クラスの主砲による砲撃痕だ。
ついこの間執務室にも同じ物が設けられたが。

金剛「疑いが濃厚になりマシた。So、問い詰めている所デス」

在ろう事か、金剛の主砲はイムヤに向けられていた。
私が一番恐れていた事が、目の前で展開されていたのだ。

提督「金剛、まずはそれを下ろせ。そんなのは問い詰めているとは言わない」

イムヤは目を瞑りその場に蹲っていた。
装甲の薄い潜水艦ではあんなものを喰らえばひとたまりも無いだろう。
恐怖を感じるのも仕方があるまい。ここまで怯えるのは艦娘としてどうかと思うが。

金剛「テートクはいろはの肩を持つデスか⁉︎」

金剛は悲壮な顔をしている。仲間を疑いたくは無かったのだろう。
しかし、イムヤの外面なんて薄っぺらいものだ。
普通に生活しているだけで日に日に剥がれ落ちてしまうだろう。
すると、日頃の良い子ちゃんのイムヤと、時折見せる腹黒いイムヤのギャップに、彼女への理解が追いつかなくなる。
誰しも、理解できないものは怖い。増して、今は戦争中だ。
身内に理解できない、不穏分子が居るとなればその排除に感情が向いてしまうのも仕方のない事だろうとは思う。
恐らく、金剛はその狭間で苦悩して居るのだ。

提督「命令だ。それを下ろせ」

金剛「っ…」

苦渋に顔を歪ませながら、銃口を下ろした。

提督「金剛、恐怖で力を振るってはいけない。確かにイムヤの行動には目に余るものがあった」

主に私が被害を被るだけだったが。

提督「その言動から不審感抱いてしまうのも無理はない。だが、だからと言ってイムヤの外面が全て嘘だった訳でもないだろう」

内側だけが正しいなんて事はない。内側だけが本当でなくてはならない事もない。

提督「少々厄介な内面も、勤勉な外面も、両方合わせて彼女だ」

響「金剛さんのそんな辛そうな顔は見たくないし、いろはさんの怯える姿も見たくないよ」

響がそっと金剛を抱き締める。
ポロポロと、落ちていくものが見えた気がした。

金剛「でも、テートク…ワタシは…」

提督「あぁ、アイツのせいで私を疑った。しかし、その責任を彼女一人に押し付けるのは違うだろう?」

それは金剛の弱い心だ。私を信じなかったのは、あくまで金剛自身なのであり、イムヤが原因であることには変わりは無いが、彼女のせいにして良いことでも無い。

金剛「ごめ…なさい…」

その謝罪を皮切りに金剛は声を上げて泣き出してしまった。
全く、普段はしっかりしている癖に、肝心な時に子供だ。

提督「ほら、金剛は自分の過ちを認めたぞ?」

未だ蹲っているイムヤを無理やり立たせる。するとやはり、既に怖がってはいなかった。
大方、途中から気まずくなり顔を上げるに上げられなかったのだろう。

いろは「あの…ホント、ご迷惑をおかけして…」

いろは「すみませんでした!」

深々と頭を下げて謝罪をした。

いろは「私…怖かったんです」

頭は下げたまま、イムヤは語り出した。

いろは「初めて会った時から皆私の事を奇異の目で見てくるし…」

まぁ、イムヤは皆も知っていようが、いろはと名乗る潜水艦には心当たりがないからな。
不思議には思ってしまうだろう。

いろは「それでも、その内皆さんはいろはである私を受け入れてくれました」

先輩だけは未だにイムヤって呼びますけど、と小声で付け足す。
なら先に私の事を提督と呼べ、と言いたい。

いろは「ただ、打ち解けていく内に、本当にこれで良いのか、解らなくなっちゃったんです」

始めこそ騒ついていた食堂も、今ではイムヤの言葉を聴こうと静寂に包まれている。

いろは「本当は私じゃない誰かがいるはずの場所、言わば私はニセモノなんだって考えちゃって…」

彼女は彼女なりに悩んでいたのだと、今になってようやく気付かされた。
私の「イムヤ」と言う呼びかけが更に彼女を苦しめてもいたのだ。

いろは「だから本当の私じゃいけないんじゃないかって…」

被っていた猫を脱ぐタイミングが解らなくなってしまったのか。

提督「待て、それなら何故私の前でだけあんな振る舞いを?悪く言えば、私が一番「いろは」を否定していたのに」

頑なに彼女を「イムヤ」と呼ぶ行為は、彼女自身の否定に他ならなかった。
だからこそ解せない。
いろはとして振舞うことへの恐怖は、裏返せばイムヤへの期待と同義だ。
それなのに、私の前でだけはいろはとして振る舞うと言うのは矛盾していないだろうか。

いろは「私にだって解りません」

彼女は、すっと体を起こすと私の目を見据えた。

いろは「ただ、何となくですけど、「先輩」だけは私の味方をしてくれる…そんな気がしたんです…」

確かに、先程あの場で私が来なければ、金剛に撃たれていたかも知れない。
結果としては救ったと言えなくもないかも知れない。
だが、そこまで追い詰めてしまったのも私である。

提督「そうか」

他に言葉が出て来なかった。

私には、彼女を叱る事も、慰める事も、哀れむ事も、許されはしないだろう。
「なんとかするさ」などと言っておきながら、ここに来るまで何も理解できていなかった私に、彼女に何かしてやる資格はない。

いろは「それに、楽しかったんです。「提督」とのやり取りも、ここでの生活も…。だから失いたくないって、思っちゃったんです…」

例えそれがニセモノでも、と呟く彼女は微笑んでいた。
とても哀しい目をして、私達を見ていた。

いろは「でももう、終わりですね。これ以上、波風を立てるわけにもいきませんし、元々求められていたのは、私じゃ無かったんですから…」

響「いろはさん。黙って聞いていれば、それは随分と勝手じゃないかな?」

何も言えずにいる私の前に、響が進みでる。

響「今更「問題を起こしたので居なくなります」なんて言われても、困る。もう私達にとっていろはさんは仲間なんだよ」

一見、ただの慰めにしか聞こえないが、それを補って余りある想いが伝わって来る。
結局、言葉に意味はないのだ。何を伝えようとしても、完璧には理解できない。
誤解が生じないよう言葉を選べば、それはまた曲解されてしまう。
だから、想いを伝えたい時には、簡単な言葉で良い。
ともすれば陳腐に聞こえてしまう様な言葉でも、いやそんな言葉だからこそ、伝わるものがある。

響「いろはさんが司令官にした事は、確かに指揮系統を揺るがしかね無い大事態を引き起こしたよ」

そこまで大事だとは捉えていなかったのだが…。
そう言えば大淀にも言われていたな。

響「でもそれは、信用されない司令官にも問題はあるし、上官を疑う皆にも責任はある」

ゔっと声にならない声が漏れた。誰のものかは定かではない。

響にここまで言わせておいて、私が黙りと言う訳にもいくまい。

提督「その…なんだ…。まずは、済まなかった。イ…いろはがそんなに悩んでいると気付いてやれなかった」

まだ、気恥ずかしい部分がある。だがあんな事を聞かされてしまった後に、イムヤと呼べるほど無神経ではない。

提督「恐らく、すぐに全員がすんなり君を受け入れるのは難しいだろう。ただ、ここに居るのは私の部下達だ。不可能ではないと、私は思う」

提督「一部の者が君の排除に動いてしまったのは、「理解できない」と言う恐怖心からだ。いろはが何を考えているのか、それが明かされた今、少なくとも恐れる者は居ないよ」

一呼吸置いて、彼女の目を見つめる。

提督「私を信じて、ついてきてくれないか、いろは」

悪寒が走る様な台詞だが、今の私の正直な気持ちだ。

私の想いが伝わったのか、いろはの目に薄っすらと涙が見える。

いろは「似合わないですね、提督。特に私を名前で呼ぶ所とか。…はっ⁉︎もしかして今口説いてました?ごめんなさいいろはって呼ばれて満更でもないかと思いましたけどまだそうなるのは早いと言うかさっきまで私の事何も解ってなかった人に言われても微妙なんでもっとお互い理解しあってからにしてくださいすいません!」

この切り替えの速さは彼女の良い所なのだろうか。
何にせよ、いつもの調子が戻った様で何よりだ。

提督「似合わなくて悪かったな、イムヤ」

いろは「なんでまた呼び方戻ってるんですか⁉︎…あ、先輩、照れちゃってるんですかぁ?」

前言撤回、立ち直りが速すぎる。

提督「そっちこそ、誰だよ先輩って」

いろは「先輩は先輩ですよー。あ、響ちゃんも「先輩」って呼んじゃおうよ」

本当に、先程までの殊勝な態度は私の見間違いだったのだろうか。
響の耳元でなにやらコソコソと話している顔は、楽しそうに笑っていた。

響「せ…先輩?」

提督「いや、乗せられなくて良いぞ、響」

まぁ、いろはに言われるよりは悪くなかったが。

いろは「あれ…思いの外響ちゃんの先輩に破壊力が…私のポジ危うい?」

兎にも角にも、面倒事が片付いて良かった。本格的に海域の攻略に出よう。
少しでも早く、彼女達が争いと関係のない、平和な日常を過ごせる様に。

提督「イムヤ、取り敢えず資材が欲しい。潜水艦隊を編成してオリョールへ向かってくれ」

いろは「もう、先輩!いろは、ですよ?」

そう言う彼女の顔は、もう以前の様な危うさを感じさせない明るさだった。

終わり
レス見て思いましたけど妖精さん繋がりで入れ替えるのも面白そうですね
ガハマさんが凄い数に増えますけど

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