薬草屋はかつて……
一人の戦士だった……
戦士「僕も、ここまでか……」
傷付き倒れ……
死を覚悟したその時……
彼は救われた……
戦士「これは……」
無造作に生えていた……
一本の薬草に……
彼は薬草で傷を癒やし……
どうにか逃げ延びた……
だが彼は……
剣を捨てた……
なぜなら……
剣だけでは……
誰の命も救えないと気付いたから……
だが生きる以上は……
働かねばならない……
だから彼は……
薬草屋を始めた……
薬草屋「薬草ありますよ!」
旅人「1つ貰うよ」
薬草屋「毎度あり!」
薬草屋「薬草ありますよ!」
冒険者「間に合ってるよ」
薬草屋「必要な時はいつでも言ってください!」
薬草屋「薬草ありますよ!」
僧侶「回復魔法がありますので」
薬草屋「そうですか……」
薬草屋は……
あまり儲からなかった……
なぜなら薬草は……
回復量が少ないし……
かさばるし……
変な匂いするし……
ていうか薬草屋って何だよ……
道具屋じゃねえのかよ……
いいから聖水売ってくれよ……
キメラの翼ねえのかよハゲ……
ハゲてねえし……
とにかく薬草は……
人気がなかった……
彼は思った……
薬草屋「俺が薬草の本当の力を引き出せてないから売れないんだ、ちくしょう!」
それ絶対違うから……
でも彼は……
薬草を研究し始めた……
それは……
とても長い道のりだった……
彼は……
毎日薬草を食べた……
生で食べて……
焼いて食べて……
煮て食べて……
蒸して食べた……
薬草は……
とても不味かった……
薬草屋「そうだ、薬草を美味しく食べられるレシピを考えよう!」
薬草を人気者に……
その想いが……
彼を動かしていた……
薬草屋「さあさあ! 美味しい薬草料理だよ!」
村人「ほう、ひとつ貰おうか」
薬草屋「毎度あり!」
薬草料理は……
大不評だった……
あまりの不味さに……
お客は嘔吐し……
彼に襲い掛かり……
末代まで呪ってやると叫んだ……
薬草屋「なんでだ!! 僕の薬草料理はこんなに美味しいのになんで!?」
そう……
彼は毎日薬草を食べて……
既に味覚が……
完全に薬草に汚染されていた……
作る御飯は薬草料理……
外食には自作の薬草パウダー……
彼から漂う青臭い香りは
もはや歩く薬草……
それに薬草屋は……
元々戦士だし……
料理とか別に……
全然得意じゃなかった……
薬草屋は……
料理を諦めた……
でも……
夢は諦めなかった……
だって夢は……
諦めなければ……
いつか必ず……
叶うものだから……
るーらららー……
薬草屋「そうだ、味よりも効果だ!! 僕は薬草の本当の力を引き出したいんだ!!」
薬草屋は……
初心に帰った……
最初からそうしろよとか……
言ってはいけない……
だって……
人が夢のために頑張る姿は……
尊いものだから……
薬草屋は……
一生懸命頑張った……
西に伝説の薬師がいると聞けば……
土下座して弟子入り志願した……
薬師「孫が病気なのじゃ」
薬草屋「どうにかします!」
薬草屋は魔物が住む山脈を登り……
100年に1度咲くという……
万病の効く薬となる花を採取して……
花を守る守護獣と戦い……
3日3晩の死闘の最中……
絶え間なく薬草を食べ続け……
見事に勝利し……
その花を持ち帰った……
持ち帰った花は……
すぐに薬師が薬にした……
孫娘は無事助かり……
薬師は感謝した……
薬師「ありがとう薬草屋よ」
薬草屋「弟子入りを許してくれますか?」
薬師「もちろんじゃとも」
薬師は薬草屋に……
自分の技術の全てを……
余すことなく教えた……
薬草屋「これで夢に一歩近づけました!」
薬師「うむ。精進するのじゃぞ」
孫娘「ばいばい、薬草屋さん!」
薬草屋「お世話になりました!」
去ってゆく薬草屋……
涙で見送る二人……
ただ薬師は思った……
あいつ薬草屋なのに……
わしに薬草売ったりしなかったな……
ガチバトルで守護獣倒してたし……
薬草屋なのに……
薬草屋なのに……
伝説の薬師の調合は……
薬草をよく効く傷薬に変えた……
薬草屋「良い傷薬あるよ!」
旅人「1つ貰うよ」
薬草屋「毎度あり!」
薬草屋「良い傷薬あるよ!」
冒険者「人数分くれ」
薬草屋「ありがとうございます!」
薬草屋「良い傷薬あるよ!」
僧侶「予備に貰いましょう」
薬草屋「毎度です!」
傷薬は……
結構売れた……
だが薬草屋は思った……
薬草屋「うーん、これじゃ薬草の素材本来の素晴らしさが伝わったとは言えないんじゃないかな?」
薬草屋は……
意識高い系拗らせてた……
薬草屋は……
素材探しの旅に出た……
火山地帯の……
赤い薬草……
豪雪地帯の……
白い薬草……
海中に生える……
青い薬草……
薬草屋は……
様々な薬草を手に入れた……
でも……
やっぱり薬草は……
あまり売れなかった……
薬草屋「くそ!! なんでなんだ!? なんで皆は薬草の魅力が分からないんだ!!」
だってそれ……
色違うだけじゃん……
だけじゃん……
だが……
失意の薬草屋は……
ある日出会った……
薬草屋「これは!? ただの緑の薬草なのに回復量が違う!?」
運命の薬草に……
薬草屋は……
その薬草の産地を訪ねた……
薬草を愛する……
薬草屋だから気付けた……
僅かな回復量の差……
その秘密を知るために……
薬草屋「どうか私に教えてください!」
農夫「秘密って言われてもなあ。普通に育てただけだべ」
薬草屋「え?」
薬草を……
育てる……
その発想は……
無かった……
さす農……
だって薬草って……
森行けば生えてるし……
取り放題だし……
あえて畑で育てるとか……
悪魔的発想……
薬草屋は……
僕が馬鹿なんじゃない……
農夫さんが凄いんだって……
必至に自分に言い訳した……
薬草屋「どうか僕を弟子にしてください」
農夫「おう、手伝ってくれるんか。ええぞ、泊まってけ」
農夫は……
すごくいい人だった……
朝起きる……
畑を見る……
水をやる……
農夫「やりすぎだべ」
薬草屋「え、でも昨日と同じ量ですよ」
農夫「昨日の薬草と今日の薬草は違うべさ」
確かに……
今日の薬草は……
ちょっと瑞々しい……
そうか……
昨日の薬草と今日の薬草は……
違うのか……
薬草屋は……
毎日新しい発見をした……
薬草は……
奥が深い……
やがて薬草屋は……
薬草の声が……
聞こえるようになった……
あの肥料が欲しいよ……
ちょっとお水が欲しいな……
薬草屋「薬草は、薬草は僕にこんなにも話しかけてくれてたんだ!!」
それは幻聴です……
薬草屋「本当にありがとうございました」
農夫「おらが役に立てたなら良かったべ」
薬草屋は……
ようやく本当に薬草に向き合えた……
そう思った……
だからお礼に……
農夫に薬草料理を御馳走した……
農夫は……
薬草料理を完食した……
農夫は……
すごく……
すごく……
すごくいい人だったから……
薬草屋は……
上質な薬草を育て……
高級傷薬に変えた……
商人「馬車に積めるだけ仕入れさせていただきたい」
薬草屋「はい! 積むの手伝います!」
神官「神殿に常備したいのですが契約していただけますか?」
薬草屋「はい! 喜んで!」
冒険者「しばらく街を離れるんだ。多めに貰えるか?」
薬草屋「今お持ちします!」
薬草屋は……
ついに大繁盛した……
最初は……
口コミだった……
あの薬草屋の傷薬は……
よく効くらしい……
値段も安い……
薬草屋はただ……
薬草の素晴らしさを……
多くの人に伝えたかったから……
値段も上げなかった……
だから売れた……
めちゃくちゃ売れた……
でも……
薬草農園……
薬草販売……
傷薬調合……
三足のわらじ……
薬草屋は……
人を雇った……
傷薬は……
少し値上がりした……
それでもまだ安かった……
薬草事業は……
順調に成長した……
多くの人を雇い……
薬草を育て……
傷薬を作り……
それを売り……
また人を雇う……
薬草屋印の傷薬……
それお前……
ほぼ傷薬屋やん……
でも……
薬草屋は満足していた……
薬草屋「薬草なしに傷薬はない。つまり傷薬とは薬草なんだ!」
素晴らしい傷薬は……
薬草の素晴らしさの証明なんだと……
薬草屋は信じていた……
だが……
薬草屋は……
傷薬の限界を知った……
戦士「あんたの所の傷薬を使ったのに俺の仲間が死んじまったじゃねえか!!」
薬草屋「も、申し訳ありません!」
傷薬でも……
救えない命はある……
薬草屋「違う!! 薬草には、薬草にはどんな命でも救える力があるはずなんだ!!」
圧倒的過大評価……
薬草さんも困惑……
薬草屋「最高の調合、最高の薬草、これ以上何をすればいいんだ僕は!!」
薬草屋は……
悩んだ……
毎日薬草に相談し……
毎日薬草神に祈りを捧げ……
毎日薬草風呂に入り……
毎日薬草料理を食べ……
毎日薬草布団で眠り……
毎日薬草の歌を歌った……
そしてついに……
薬草神「薬草屋よ」
薬草屋「や、薬草神様!? 薬草神様なのですか!?」
薬草神「薬草屋よ、薬草の可能性を信じるのだ」
薬草屋「僕はどうすればいいのですか!?」
薬草神「薬草の可能性を信じるのだ……のだ……のだ……」
薬草屋は……
神託の夢から覚めて……
誓った……
薬草屋「薬草神様、わかりました! 僕は薬草の可能性を信じる!!」
ちなみに薬草神とは……
薬草屋が勝手に信じてるだけの……
存在しない神である……
薬草屋は……
旅に出る事にした……
今度の旅は……
長くなる……
薬草屋「後の事は任せたよ」
弟子「はい!」
もう事業に未練はない……
残りの人生はただ……
薬草の可能性を掴むために……
薬草屋は……
街から街へ歩き……
薬草の可能性を求めた……
冒険者「薬草屋か、奇遇だな」
冒険者「え、薬草の使い道?」
冒険者「傷を治す以外に思い付かないな」
可能性は……
簡単には見つからない……
農夫「久しぶりだべ!」
農夫「薬草? 虫除けに使えるべ!」
農夫「料理は、もう勘弁してけれ……」
それでも薬草屋は……
旅を続けた……
薬草の可能性……
エルフ「薬草? そこらに生えてる雑草でしょう」
そんなものは……
獣人「臭ぇもん近づけるんじゃねえ!」
本当に……
衛兵「黙れ不審者! 一晩牢屋で頭を冷やしていけ!」
あるのだろうか……
薬草屋は……
少しずつ……
擦り切れていった……
薬師「おぬし、薬草屋か?」
薬草屋「う、ああ……」
孫娘「薬草屋さん、しっかりしてください!」
薬草屋は……
再会した薬師を前にして……
倒れた……
心も……
体も……
もう限界だった……
薬草屋は……
薬師に事情を話した……
薬師「薬草屋よ、薬草神などおらぬ。それはただの夢じゃ」
薬師「そもそも薬草は薬草じゃ、薬草で人は生き返らぬ」
あまりにも正論だった……
薬草屋は……
もしかして僕って……
思い込み激しいのかな……
と思った……
え……
今更すか……
薬師「実はのう、孫娘はお前を好いておるのじゃ」
薬師「お前さえ良ければ、婿に来てわしの跡を継がぬか?」
薬草屋は……
それも悪くないと思った……
思えば……
薬草に振り回されてばかりの人生……
選ぶべき道は……
他にあったのかもしれない……
そう思った……
でも……
薬草への愛が……
薬草屋の決意を……
鈍らせていた……
薬師「まだ薬草への未練があるようじゃな」
薬師「仕方あるまい、お前もこれを見れば諦めも付くじゃろう」
そして薬師は……
一枚の葉を取り出した……
薬師「これは死人を蘇らせると言われておる、世界樹の葉じゃ」
薬草屋「こ、これが!?」
薬師「ふぉっふぉ、そうじゃ。お前も薬師ならば分かるじゃろう、この価値が」
薬草屋は……
目が離せなかった……
薬師「薬草は薬草、世界樹の葉は世界樹の葉。薬草は世界樹の葉にはなれんのじゃ」
薬師の言葉を聞いた薬草屋は……
その世界樹の葉を奪い取り……
食べた……
むしゃむしゃ……
もぐもぐ……
むしゃむしゃ……
もぐもぐ……
薬草屋は……
感動していた……
むしゃむしゃ……
もぐもぐ……
むしゃむしゃ……
もぐもぐ……
世界樹の葉が……
あんまりにも……
美味しかったから……
言うまでもなく……
世界樹の葉は貴重だし……
おそろしく高価で……
食べ物じゃない……
世界樹の葉は……
食べ物じゃない……
薬師は……
思った……
え……
こいつ……
頭おかしいんとちゃう……
気付くのが……
ちょっと遅かった……
薬草屋「師匠、御馳走様でした」
薬師は激怒した……
縁談話はブチ壊れたし……
師弟の縁も切られた……
薬草屋は……
お金だけはあるので……
世界樹の葉を弁償した……
そして……
薬草屋は……
一人叫んだ……
薬草屋「世界樹の葉は、薬草だ!!」
なんだってー……
薬草屋は……
毎日薬草を食べて……
薬草の味で……
薬草の全てを……
理解できるようになった……
世界樹の葉は……
薬草だった……
それも……
とても濃厚な薬草……
そう……
世界樹の葉は……
薬草の可能性だった……
つまり薬草は……
人を生き返らせられる……
薬草屋は……
ついに辿り着いた……
長い旅の末に……
薬草の可能性に……
薬草屋「僕はついに薬草の可能性に辿り着いたんだ!!」
コングラチュレーション……
コングラチュレーション……
そして薬草屋は……
この事実を大々的に発表したけど……
反響は薄かった……
世界樹の葉が量産できるわけでもないし……
だから何ってなりますよねー……
こうして薬草屋の物語は終わった……
数十年後
魔王「なぜだ、なぜ貴様らは倒れぬのだ!? ぐぬおおおおおお!!?」
勇者「滅びろ、魔王!!」 ズドドドーン
魔王「グアアアアアアアアアッ!!?」 シュオオオオン
戦士「やったな、勇者!」
武闘家「ふん。魔王を名乗るには歯応えの無い奴だったな」
勇者「うーん、こんなに簡単に倒せちゃっていいのかな」
戦士「ま、楽な方がいいじゃねえか」
武闘家「さっさと『ヤクソウ』で回復して帰るとするぞ」 ゴクリ
勇者「でもこれ、凄く不味いんだよね……」
魔法使い「まあ、有難く使わせていただきましょう」 ゴクリ
戦士「しかし王家の連中も気前いいよなあ」
戦士「HP・MPは全快する、死人も蘇る。こんな秘薬をくれるなんてよ」
戦士「それも魔王を倒すまでに使い切れねえほどの量だぜ?」
勇者「不思議だよね。武器も防具もお金も全然くれなかったのに」
勇者「なんでこんな便利な回復アイテムだけはくれたんだろ?」
勇者「おかげで魔王城まで一直線に来れちゃったけど」
武闘家「俺はこの秘薬を疑っているがな」
武闘家「これだけ便利なものだ、副作用があるに違いない」
武闘家「大体なぜ名前が『ヤクソウ』なのだ。意味が分からん」
魔法使い「まあ、そう思われるのも無理はないと思いますがね」
魔法使い「実は私、この秘薬の由来を知っているのですよ」
勇者「そうなの?」 戦士「ほう」 武闘家「聞かせろ」
魔法使い「王国に着くまでの時間潰しにお話しましょうか」
魔法使い「皆さん、錬金術を御存知ですよね?」
武闘家「当たり前だろう、何を言っているのだ?」
魔法使い「ははは。いえこれが数十年前まではマイナーな分野だったらしくて」
魔法使い「でも、ある時天才錬金術師が現れて、一気に錬金術を発展させたのですよ」
魔法使い「今ある錬金術の基礎は彼が一人で作り上げたと言っても過言ではないほどに」
勇者「へえ、全然知らなかったよ」
魔法使い「彼は地位や名誉に無頓着な人でしたから、あまり名前は知られていないんですよ」
魔法使い「彼は自分の技術や成果を一切隠さずに公表していましたから」
魔法使い「そのオリジナルが彼であるとは知らないままに使われているものが大半ですね」
武闘家「で、その錬金術師がこの秘薬を?」
魔法使い「というより、その秘薬を作るために彼は錬金術師になったんですよ」
戦士「ほう? それはどういう事だ?」
魔法使い「実はその秘薬の原料は薬草なのです」
戦士「『ヤクソウ』の原料が薬草なのか……」
武闘家「……薬草が原料なのにMPが回復するのか?」
魔法使い「厳密には複数の種類の薬草が使われているんです」
魔法使い「属性の異なる薬草を調合する事でマナ反応が起きて」
魔法使い「MP回復の効果が生まれているそうですよ」
勇者「そ、そうなんだー」
魔法使い「あはは。私もよく分かっていません。ただそういうものらしいです」
魔法使い「そして魔法的工程も加えて濃縮、変化を繰り返した結果」
魔法使い「この『ヤクソウ』が完成するそうですよ」
武闘家「原料は、薬草だけなのか?」
魔法使い「いくつか触媒は必要らしいですが、ほぼ薬草だけですね」
武闘家「……なるほど」
魔法使い「ところがこの秘薬、完成と同時に王家に没収されてしまったんです」
魔法使い「理由は想像が付きますよね?」
武闘家「危険すぎるからだろうな」
勇者「え、なんで?」
戦士「原料がその辺で取れる薬草、そして死人すら蘇るほどの作用……」
武闘家「量産できるなら国家転覆、いや世界情勢すら変わりかねんな」
魔法使い「ええ。彼は秘薬の存在や製法を一切公開しないよう国に命令されました」
魔法使い「彼はその命令を受け入れる代わりにひとつの要求をしました」
戦士「要求とは?」
魔法使い「その秘薬の名前を、『ヤクソウ』として伝えること」
戦士「んん? なぜそうなる?」
魔法使い「あはは、話せば長くなるのですが……」
魔法使い「彼は元々旅の戦士だったのです」
魔法使い「ですが瀕死の重傷で倒れた所を、1本の薬草に命を救われました」
魔法使い「それ以来、彼は薬草が素晴らしい物だと信じ、薬草を広める事に命を燃やしました」
魔法使い「最初は薬草を売りました。ですが薬草は役に立たないと人々に言われました」
魔法使い「次に薬草を傷薬にして売りました。ですが傷薬では救えない命があると知りました」
魔法使い「彼は薬草を素晴らしい物だと信じていたので、薬草で人の命を救う事にしたのです」
魔法使い「そうして彼は、錬金術の世界に飛び込みました。薬草で万能の秘薬を作り出すために」
魔法使い「ですから、完成した秘薬は薬草の素晴らしさを伝えるためのもの」
魔法使い「公表されないのならせめて薬草の偉大さが伝わるようにと」
魔法使い「彼は秘薬を『ヤクソウ』と呼ぶように取り引きしたのです」
魔法使い「この約定が破られた時、彼はあらゆる手段を使ってもこの国を滅ぼすと宣言したそうです」
戦士「……狂人じみているな」
魔法使い「あはは、本人は少し変わった優しいお爺さんなんですけどね」
勇者「え、知り合いなの?」
魔法使い「私の祖父です」
勇者「えええええええええええええ!?」
武闘家「……この『ヤクソウ』がなければ、俺達は世界を救えたろうか?
戦士「分からん。だがもっと苦労したのは確かだろうな」
戦士「そう考えると、本当に世界を救ったのは薬草の力なのかもしれんな……」
勇者「うーん、それは違うと思うな」
戦士「ん?」
勇者「旅立った時の僕達はスライムの群れにだって苦戦したけど」
勇者「今はこうやって魔王だって倒せてるでしょ?」
勇者「僕達がこうなれたのは、誰かが僕達を勇者だって信じてくれたからだよ」
勇者「きっと世界を救ったのは」
勇者「まだ形のない可能性を信じる気持ち」
勇者「……希望なんじゃないかな」
おしまい
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