モバP「事務所に帰ってきてさっそくで悪いんだが、ちょっと……頼むわ。ガツンと左頬をさ」
拓海「何言ってんだアンタ? ……体調でも悪いのか?」
モバP「いや、違う違う。こう、なんていうか……ね?」
拓海「……いや、ね? じゃねえよ」
モバP「頼むよ~、拓海と俺の仲じゃないか」
拓海「アタシとアンタの仲だからこっちは困ってんだろうが!」
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モバP「それは違うぞ、拓海」
拓海「何が違うんだよ」
モバP「例えば、だ。今のお前が街で気に入らない奴をぶん殴ったらどうなると思う?」
拓海「そりゃ、まぁ……。問題になるかもな」
モバP「だろ? ヤンキーやってた昔ならともかく、今人殴ったら当然週刊誌のネタになってしまうわけだよ。最悪捕まってしまうかもしれない」
拓海「昔だって殴ったら捕まる可能性あったけどな」
モバP「ま、それは一回置いておいてくれ。つまり、だ。今お前が人を殴るとしたら、週刊誌にも書かれず、警察にも捕まらない必要があるんだよ。ここまで大丈夫か?」
拓海「おう」
モバP「そこで俺だ。幸い、ここは事務所で俺と拓海以外に人はいないし、俺が殴ってくれるように頼んでる上に警察に届けるような心配もない。つまり、拓海が殴れるとしたら今しかチャンスがないってことなんだよ」
拓海「確かにな……」
モバP「と、いうわけなんだ。ほれ、遠慮しなくていいからバシッと来てくれ」
拓海「おう!」グッ
拓海「……いや、ちょっとまて」
モバP「ゑ?」
拓海「冷静に考えたらどうしてアタシがPを殴らなくちゃならないんだよ」
モバP「……いや、だって、ね?」
拓海「だから、ね? じゃねえんだよ」
モバP「逆に聞くけどさ、拓海はそれでいいのか?」
拓海「どういうことだよ」
モバP「拓海だってさ、最近は人を殴ってないだろ」
拓海「今までアンタはアタシをどんな目で見てたんだ……」
モバP「違うんだって。……拓海はさ、よくやってくれてるよ」
拓海「……」
モバP「いやだいやだって言いつつも俺の取ってきた仕事ちゃんとこなせてくれるしさ、レッスンだって真面目にやってくれる。本当にさ、プロデューサーとしてはありがたい限りなんだ」
拓海「P……」
モバP「だからさ、気にせずに来いよ。どんなに強いパンチだって、俺の左頬は絶対に受け止めてやるから。お前の気持ち、全部受け止めてやる」
拓海「……そっか。じゃあ、いいんだな?」
モバP「おう」
拓海「……よっしゃ! じゃあ、ぶち込んでやるぜ! ……泣くなよ?」グッ
モバP「よし来い! お前のグーパン、突っ込んでくれよ!」
拓海「……いや、ちょっとタンマ」
モバP「えぇ……」
拓海「よくよく考えたら、アタシの疑問が全く解決してねぇじゃねぇか。アタシは別に人を殴りたいわけじゃねぇから」
モバP「そう、なのか?」
拓海「当たり前だろうが!」
モバP「てっきり俺は……」
拓海「なぁ、P」
モバP「なんだ?」
拓海「……何か、あったんだろ?」
モバP「何か?」
拓海「あぁ。アンタがこんなこと言ったこと、今まで一度だってなかったよな。何か、事情があるんだろ? 自分を許せなくなったような事情がさ。それで、アタシに自分を殴らせたくなったんだろ?」
モバP「……」
拓海「……なぁP、もっとアタシを頼れよ。そりゃ、まあ、アタシは頭だって悪ぃし、頼りにならないかもしれないけどさ。それでも、話を聞いてやるくらいはできるし、アタシなりに協力してやりたい。P、話してくれよ」
モバP「拓海……」
モバP「あのな、その……」
拓海「ああ」
モバP「拓海のパンチ力ってどれくらいあるのかなって知的好奇心が……」
拓海「ふざけんな!」
モバP「いや、この好奇心は至って真面目なもので」
拓海「いや、ふざけんなよ! どうしてくれんださっきまでの会話!」
モバP「いやあ、嬉しいぞ。拓海からあんなこと言われるなんて、プロデューサー明利に尽きるってもんだ」
拓海(あ、殴りたくなってきたわ)
拓海「……一応聞くけどよ、その意味のわかんねぇ好奇心はどっから湧いてきたんだ?」
モバP「きっかけはなんてことないんだよ。先日、ちょっと色々あって殴られることがあってな」
拓海「殴られるほどの色々ってなんだよ……」
モバP「いや、今はそれはいいんだ。それで、結構痛かったんだよな。『ああ、パンチって痛いもんだな』って思ったよ」
拓海「……それで?」
モバP「それでな、『拓海って昔は人殴ったりしたこともあるんだろうな、元ヤンのパンチってどれくらい痛いんだろう』って思って」
拓海「……言っておくけど、アタシはアンタが思ってるほど喧嘩してたわけでもねぇぞ」
モバP「わかってるよ。そうでもなきゃ、拓海の綺麗な顔に傷の一つでも残っててもおかしくないとは思ってたからな」
拓海 「……なんでこういう時にそういうこと言うんだよ」
モバP「えっ、なんか不味いこと言ったか?」
拓海「いや、そういう訳じゃねぇけどさ……」
モバP「ま、そういう事なんだ。なんてことない理由なんだよ。1発もらえば気も済むと思うからさ。ささ、思い切ってやっちゃってくれ」
拓海「……はぁ、しょうがねぇなぁ」
モバP「おっ、やってくれる気になったか。恩に着るよ」
拓海「……言っておくぞ」
モバP「なんだ?」
拓海「アタシのパンチはちっとばっか響くぞ……!」ブォン
グワッ
モバP「……っ!」
モバP(なんてこった、拳がよく見える!)
モバP(左頬から入って右わき腹にぬける……即死だな)
モバP「……ん?」
バキィ
モバP「ぐへっ!」
ドッシャア!
拓海「……あ、やべ」
モバP「……」ピクピクッ
拓海「お、おいP! 大丈夫か! ええと、こういう時は揺らしちゃダメなんだっけか。とりあえず誰か……!」
モバP「拓海……」スクッ
拓海「……え、お、おいっ」
モバP「拓海、何故手加減した?」
拓海「いや、だって、なぁ?」
モバP「なぁ、じゃない! 笑っちゃうぜ、あんな弱々しいパンチなんかなぁ!」ガクガク
拓海「笑ってんのはアンタの膝じゃねえか! ……ん? この匂い……。おい、やっぱ酒飲んでるだろお前!」
モバP「アルコールが、体に、あるこーる。なんちて」
拓海「うるせぇ! 誰だコイツに酒飲ましたの!」
モバP「菜々しゃ〜んすみません年齢ネタでいじっちゃって……もう殴らないで……もう殴らないで……」
拓海「殴られたのさっきの話かよ! ああもう一回座れ! とりあえず頭を動かすなって!」
翌日、腫れた頬で菜々さんに謝罪をするプロデューサーの姿があったとかなかったとか。
おわり
読んでいただいてありがとうございました。
男なら、一度は可愛い女の子にグーパンされてみたいですよね。俺もそんな気持ちでした。
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