【俺ガイル】 八幡「比企谷…小雪?」 (70)
小雪「そうよ」
学校から帰ると比企谷小雪と名乗る雪ノ下雪乃そっくりの少女が俺の部屋に居た。
八幡「ちょっと待っててくれ」
小雪「?」
これがドッキリではないかどうか確認するために雪ノ下に電話をしてみた。
雪乃『何かしら?』
八幡「うぉっ!出た!」
雪乃『電話がかかってきたのだから出るのは当然でしょう?』
八幡「……」(ドッキリじゃない…雪ノ下は確かに電話の向こうに居る)
雪乃『それで、何の用かしら?』
八幡「……」(じゃあ俺の部屋に居る雪ノ下そっくりのあの子は誰なんだ?)
雪乃『比企谷くん?聞いているの?』
八幡「あぁ、悪ぃ…」
雪乃『何の用事か聞いてるのだけど?』
八幡「いや、特に用事は無いんだ。すまん…」
雪乃『はぁ……用事がないなら切るわね』
八幡「あぁ、すまん」
どういうことだ?ドッキリにしては手が混み過ぎてる。とりあえずあの子から話を聞こう
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491373093
八幡「すまん、電話してた」
八幡「えっ…と。どうやってここに?家の戸締りはしてあったはずだが」
小雪「私は自分のベッドで寝てたはずなのだけど、目が覚めたら部屋の風景が少し変わっていて貴方が入って来たわ」
八幡「風景が少し変わっていた…てのは?」
小雪「置いてる物が少し違うけれど、私の部屋と同じみたいなの」
八幡「……」(似ている部屋くらいはあるだろうが…)
小雪「それと、この机」
八幡「机がどうかしたか?」
小雪「私の使っている机と同じ物ね。私の部屋はパ…お父さんが使っていた部屋で机もお下がりなの」
八幡(今パパって言いかけた?)
八幡「質問ばかりで悪いんだが、親父さんの名前は?」
小雪「比企谷八幡よ。ついでに言うと母の名前は比企谷雪乃」
八幡「なるほど…俺と同じ名前…そして雪ノ下と同じ名前の母親」
八幡「これは察するに…お前は俺と雪ノ下の娘で、ここにタイムスリップしてしまった…ということになるのか」
小雪「俄かには信じられないけれど、そう考えるのが妥当ね」
八幡「俺が雪ノ下と結婚すんのかよ…マジかよ…」
小雪「少なくとも私の居る時代ではそうなっていたわ」
八幡「未来の俺ってどんな感じなんだ?あと雪ノ下も」
小雪「知らないわ」
八幡「は?知らないって…親だろ?」
小雪「両親は私が幼い時に事故で亡くなったの…」
八幡「!?」
八幡「俺と…雪ノ下が死ぬ?」
小雪「私は小町おばさんに引き取られて育てて貰っているわ」
八幡「小町に!?…というか事故って交通事故か?」
小雪「おそらく…」
八幡「おそらく…ってそれも知らないのか」
小雪「その事はおばさんもあまり教えてくれなかったから」
八幡「その事をあまり知らないってことは俺達が死ぬことを知らせるために来たってワケでもないんだな…」
小雪「ええ…」
八幡「そうか…」
八幡「俺達のこと恨んでるか?」
小雪「恨んでなんかいないわ」
小雪「でも、参観日や運動会の時小町おばさんは来てくれたけれど、両親の居る他の子が羨ましくて、寂しかった…」
八幡「苦労かけたみたいだな」
小雪「苦労と言うほどの苦労はしていないけれど、両親の事を考えない日はなかったわ」
小雪「ここに来る前にも両親に会いたいと思っていたから…」
八幡「今いくつなんだ?」
小雪「17歳よ」
八幡「俺と同じ歳か」
これが父性愛なのか…この子を見て結婚もしてなければ彼女居ない歴=年齢で童貞の俺が子を持つ親の気持ちが理解できた。
小雪「今日が誕生日だったの」
八幡「よし、帰り方がわからんならここに居ろ。何かあったら遠慮無く言ってくれ」
小雪「ありがとう…」
八幡「お前、好きな食いもんは?」
小雪「えっ…と…たべっこどうぶつ」
八幡「すまん晩飯の話だ」
小雪「か、唐翌揚げ…」
八幡「意外と普通だな」
小雪「唐翌揚げが嫌いな人は居ないと思うのだけれど。どうしてそんなことを聞くの?」
八幡「まぁ、何つうの?誕生日って言ってたし、お祝いに好きなもん食わせてやろうと思っただけだ」
小雪「気持ちはありがたいんだけど…パp…お父さんが作るの?」
八幡「言い直さなくてもパパでいいから」
八幡「あと露骨に嫌そうな顔すんな」
小雪「ごめんなさい…お父さんの事知らなかったから料理ができるとは思わなくて」
八幡「小町が作るんだよ」
小雪「肝心な所は人任せなのね」
八幡「そんなこと言うならパパが作っちゃうぞ」
小雪「ごめんなさい」
八幡「とにかく小町に電話しとくわ。お前は寛いでろ」
小雪「私の名前は「お前」じゃないわ」
八幡「そう言われてもな…なんか恥ずかしいんだけど」
小雪「私の名前を付けたのはお父さんだと聞いてるのだけれど?」
八幡「くっ……」(どうせ俺に似ないように小町+雪乃で小雪とか考えたんだろうな)
八幡「小雪…」
小雪「もっとハッキリ」
八幡「こ!ゆ!き!」
小雪「何かしら?お父さん」
八幡「パパと呼べ、パパと」
小雪「嫌よ」
八幡「トマト大盛りで出してやる」
小雪「何故トマトが苦手だと…」
八幡「俺の嫌いな食いもんだからなぁ。血は争えないとはよく言ったもんだ」
小雪「捨て身で我が子に嫌がらせするなんて」
八幡「嫌がらせとは人聞きが悪い。愛の鞭だ」
小町「ただいまぁ~…」
八幡「おう、お疲れ」
小町「だぁ~!!重かった!!いきなり電話かけてきてケーキ買ってこいとか晩御飯唐翌揚げにしてくれとかお兄ちゃん小町的にポイント低過ぎ…」
八幡「これには色々事情があるんだよ」
小町「事情ってなに。小町が納得できなかったら晩御飯の用意全部お兄ちゃんがやってよね」
小雪「あの…」
小町「はえ?雪乃さん来てたの?」
八幡「それなんだがな小町。この子雪ノ下じゃねえんだよ」
小町「いや、どっからどう見ても雪乃さんじゃん」
小雪「比企谷 小雪です。お邪魔してます」
小町「へ?ひきがや…こゆき?」
小町「お兄ちゃん、これってドッキリか何か?」
八幡「とにかく事情はゆっくり話すから」
小町「なるほどなるほど、つまりは小雪ちゃんはお兄ちゃんと雪乃さんの娘さんで未来からタイムスリップしちゃったって事なんだね」
小雪「はい」
八幡「そういうことだな」
小町「もっかい聞くけどドッキリじゃないよね?雪乃さんと一緒になって小町のことからかってるとか」
八幡「俺も最初は雪ノ下と由比ヶ浜が仕組んだドッキリかと思ったがどうも違うみたいだ」
小雪「騒がせてしまってごめんなさい」
小町「それはいいけどさ」
小町「でもホント雪乃さんにそっくりだなぁ、お兄ちゃん要素何処にあるの?」
小雪「トマトが苦手な所かしら」
小町「え?じゃあ何でお兄ちゃんトマト買ってこいなんて言ったの?」
小雪「父の程度の低い嫌がらせよ」
八幡「違う、教育的指導だ」
小町「じゃ、2人ともトマト大盛りね!」
八幡「小町ちゃん、愛してるからやめなさい」
小雪「おばさんは今も昔も変わらないわね」
小町「さぁて!可愛い姪っ子に料理を手伝ってもらいながら未来のこと聞いちゃおっかなぁ~」
小町「そんで、お兄ちゃんはお風呂掃除して来て」
八幡「はいよ」
小雪「あの…」
小町「ん?どうしたの?」
小雪「私、料理したことが無いから何をすればいいのかわからないのだけれど…」
小町「え……」
小雪「そもそも家事全般のやり方がわからないわ」
小町「………」
小雪「あの…おばさん?」
小町「あ!ごめん。いやぁ雪乃さんは家事全般完璧だから意外だなぁって」
小雪「その辺はあまりお母さんに似ていないみたいね」
小町「それでも女子高生たる者家事ができないとはいただけないなぁ~」
小町「ウチに居る間はおばさんがビシバシ鍛えてあげるから!」
小雪「私は将来大黒柱として社会で働くつもりだから専業主夫になってくれる男性と結婚するか、もしくは家政婦を雇えば私自身が家事をする必要は無いと思うのだけれど」
小町「うわぁ…お兄ちゃんの似ちゃいけない所が受け継がれてるなぁ…」
小雪「だから私はパパを手伝いに…
がしっ
小雪「!?」
小町「女の子がそんな考えでお嫁に行けるワケないじゃん!ごみいちゃんじゃあるまいし!」
小町「炊事洗濯掃除。全部できるようになるまで未来に帰さないから」
小雪「………はい」
小町「よーしっ!夕飯完成!流石は雪乃さんの娘だけあって飲み込み早いね」
小町「あとは途中でつまみ食いしようとする行儀の悪さを除けば完璧なんだけどなぁ…」
小雪「良質を求めるなら味見が必要だと思って…」
小町「そんな屁理屈ばっか言ってるとお兄ちゃんみたいになるよ?」
小雪「以後気を付けるわ」
八幡「ふぅ~…腹減った」
小町「あ!お兄ちゃん」
小雪「ちょうど夕飯の準備ができたわ」
八幡「げっ……俺だけトマト多くね?」
小雪「そうかしら?気の所為だと思うけれど」
八幡「つーか何で俺のは丼鉢に入ってんだよ。しかもお前の皿にはトマト入ってねぇぞ」
小雪「それも気の所為だと」
小町「大丈夫だよ!こっちに小雪ちゃんの分あるから!」
小雪「え…と…多くないかしら?」
八幡「気の所為だろ」
小町「食べよっか!」
八幡「いただきます」
小雪「いただきます」
小町「どう?自分で作った唐翌揚げの味は」
小雪「おいしい」
八幡「雪ノ下も美味いもん食うとそんな顔するのか」(守りたい…この笑顔)
小雪「私…変な顔してたかしら…」
八幡「いや、良い顔してたぞ大丈夫だ」
小町「唐翌揚げ食べるのもいいけどちゃんとトマトも食べようね」
小雪「………」
八幡「俺の方に皿を寄せるな」
小町「ところで未来の小町は結婚とかしてるのかな?」
小雪「…………」チラッ
八幡「なぜ俺を見る」
小雪「……大志おじさんと結婚してるわ」
小町「え?大志くんと?想像できないなぁ」
八幡「あの野郎…」
小雪「大志おじさんとおばさんが結婚するってわかった時にお爺ちゃんとお父さんが怒り狂ったと聞いたから…」
八幡「当然だ。ていうか付き合ってるとわかった瞬間から怒り狂うぞ」
小町「うえ~…身内に変な人居るって思われたくないからシスコンもほどほどにしてよね」
小雪「そうなる事が皆わかっていたから付き合ってることも隠してて結婚も式の日取りとかお爺ちゃんとお父さん以外で決めて事後報告したとか…」
八幡「あいつ次会ったらブン殴ってやる」
小町「お兄ちゃん人の事言えないじゃん。雪乃さんと結婚するんだし」
八幡「それはそれ、これはこれだ。第一俺はまだ雪ノ下と結婚もしてなければ男女の関係にすらなっていない」
小町「でもここに既成事実があるじゃん」
小雪「?」←既成事実
八幡「俺の子をそんな人聞き悪そうな呼び方するな。いくら小町といえど許さんぞ」
小雪「ふふふ」
八幡「どうした?」
小雪「何だかすごく楽しいなって思って」
八幡「そうか?普通だろ」
小雪「この光景を普通だと言えるのは幸せだと思うわ」
小町「そうそう、普通が1番!」
八幡「そういう意味じゃないと思うぞ」
小雪「おばさんは天然な所もあるから」
小町「小雪ちゃん、トマトちゃんと食べようね?」
小雪「…………」
八幡「だから俺の方に皿を寄せるな」
八幡「ここで寝るのか?」
小雪「ダメかしら?」
八幡「俺の部屋なんだけど」
小雪「私の部屋でもあるのだけれど」
小雪「それに父親と一緒に寝るくらい普通よ」
八幡「小さい頃ならまだしも高校生の娘と高校生の親父が同じ部屋で寝るのは普通じゃねぇだろ。むしろ超常現象だわ」
小雪「お父さんは嫌なのかしら?」
八幡「嫌ってわけじゃないんだが…なんていうか、自分の娘とはいえ雪ノ下そっくりの女子が同じ部屋で寝るのは抵抗があるな」
小雪「そう、なら大丈夫ね」
八幡「おい!せめて自分の布団で寝ろ!」
小雪「このベッドは私の物でもあるのよ?ということはこれは自分の布団ということになるんじゃないかしら?」
八幡「人の都合とか色々無視するその強引な性格は雪ノ下の姉ちゃんだな」
小雪「陽乃おばさんは……ちょっと苦手ね。可愛がってはくれているんだけど…過剰というか…」
八幡「雪ノ下も俺も苦手だ。安心しろ」
小雪「言ってなかったけど陽乃おばさんも運動会に来てくれるわ」
小雪「行進や種目の度に私を見つけて大声で名前を呼ばれたわ…恥ずかしかった」
八幡「それがぼっちの俺だったら公開処刑だな」
小雪「修学旅行について来たこともあったわ」
八幡「あの人俺らの時よりパワーアップしてやがる」
小雪「流石に隼人おじさんが迎えに来て連れて帰ったわ」
八幡「隼人?葉山隼人か?」
小雪「そうだけど」
八幡「どういうつながりだ?雪ノ下の姉ちゃんと結婚してるとか?」
小雪「いいえ、お母さんと陽乃おばさんの幼馴染という繋がりで私の事を気にかけてくれているの」
八幡「そうか」
八幡「まぁ、なんていうかちょっと安心した」
小雪「安心?」
八幡「未来で俺と雪ノ下は死んじまってお前には寂しい思いをさせてるみたいだが、お前のことを心配してくれる人が居るからな」
小雪「お父さんが良いこと言うと何だか気持ち悪いわ」
八幡「娘に気持ち悪がられるのはパパの宿命なんだよ。ソースはウチの親父」
小雪「昔を思い出すわ」
八幡「ん?」
小雪「私が小さい頃、まだお父さんもお母さんも生きていて。怖い夢を見た私は1人で眠れなかったからお父さんとお母さんの間に入って三人で川の字で寝たの」
八幡「明日雪ノ下に会ってみるか?」
小雪「お母さんに?」
八幡「ここに来る前に俺達に会いたいって思ってたんだろ?なら雪ノ下にも会っとくべきだ」
小雪「でも、そんなことをしたら未来が変わってしまったり…」
八幡「俺と小町はもう知っちまってるけどお前は消えてないし大丈夫だろ」
八幡「お前は会いたくないのか?」
小雪「会いたい」
八幡「なら決まりだな。電気消すぞ」
小雪「ええ、おやすみなさい」
八幡「おやすみ」
雪乃『何かしら?保険や家庭教師なら間に合ってるわ』
八幡「セールスの電話じゃねぇよ。俺だ」
雪乃『折田さん?そんな知り合いは居ないのだけれど?』
八幡「そういうのいいから」
雪乃『その声は比企谷くんね。間に合ってるわ』
八幡「おい」
雪乃『で、何の用かしら?』
八幡「今日ちょっとお前ん家に行っていいか?」
雪乃『怪しい臭いがするからお断りするわ』
八幡「待て、大事な客が居てだな。お前に会わせたいんだ」
雪乃『大事な客?まさか姉さん?尚更お断りするわ』
八幡「ちげぇよ。事情は後で話すからとりあえず今日は時間あるか?なんなら俺ん家に来てくれてもいい」
雪乃『どうしてもというなら土曜日だし特に用事もないから構わないけど』
八幡「すまんな」
雪乃『そっちに行くのはお昼過ぎになるけれどいいかしら?』
八幡「おう」
雪乃『では後ほど伺うわ』
雪乃「こんにちは」
八幡「おう、わざわざすまんな」
雪乃「本当よ。これで会わせる客は姉さんでしたなんて言ったら由比ヶ浜さんの手料理の実験台になってもらうわ」
八幡「いや、違うから。しかも何だよ実験台って」
八幡「で、会わせたい客ってのはこの子なんだが」
小雪「こんにちは、比企谷小雪です」
雪乃「!?」
雪乃「ひきがや…こゆき?」
雪乃「比企谷君」
八幡「ん?」
雪乃「私そっくりの美少女を紹介するなんて、何かのドッキリかしら?」
八幡「そう思う気持ちはわかるがドッキリじゃない。あとお前さりげなく自分のこと美少女って言ったよな」
雪乃「ドッキリでないならどういうことかしら?残念ながら比企谷という名前には貴方と小町さん以外に覚えはないわ」
八幡「どうする?自分で説明するか?俺が言うか?」
小雪「自分で説明するわ」
雪乃「?」
雪乃「つまりは貴女は未来からタイムスリップしてきた私と比企谷君の娘…ということかしら?」
小雪「はい」
八幡「その通りだ」
雪乃「信じられない…と言いたいのが実の所だけれど」
八幡「まぁそうだろうな」
小雪「………」
八幡「ん?どうした?」
小雪「私のお母さんってこんなに美人だったのね…」
八幡「お前ら紛れもなく親子だわ。しかもお前は写真か何かで雪ノ下の顔は知ってるだろ」
雪乃「私に会いたいと言っていたみたいだけど、会ってどうするつもりだったのかしら?」
八幡「おい、そんな言い方無いだろ。子供が親に会いたいって思うのは普通だ」
小雪「そうね、いくつか聞きたいことがあるけれど。まずどうしてうだつが上がらない男と結婚したのか聞きたいわ」
八幡「即座に相手の非を突いてやり返す辺り流石は雪ノ下の子だな」(自分を非って認めちゃうのかよ俺…)
雪乃「現時点で結婚するつもりなんて全くないけれど。未来でそうなってるなら人質を取られたか…弱みを握られたかのどちらかでしょうね」
八幡「お前に取られて困る人質なんか居るのか?」
雪乃「由比ヶ浜さんかしら」
八幡「由比ヶ浜人質に取って結婚迫るとかどんな状況だよ」
小雪「何度か会話に出ているけど、ゆいがはま…さんって誰なの?」
八幡「お前由比ヶ浜知らねぇのか」
雪乃「貴女が知らないということは、由比ヶ浜さんとは疎遠になってしまったということね…」
八幡「由比ヶ浜ってのは俺らの部活仲間で俺の同級生だ」
小雪「それって結衣おばさんのこと?」
八幡「なんだよ知ってるんじゃねぇか」
雪乃「結婚して苗字が変わってしまったんでしょうね。良かったわ」
八幡「そういうことか。ところで由比ヶ浜は誰と結婚したんだ?」
小雪「彩加おじさんと結婚してるけれど」
八幡「彩加…おじさん?」
八幡「待て待て……まさかとは思うが、そいつの苗字って…戸塚?」
小雪「そうだけど」
八幡「……………」
小雪「自分が死ぬって聞かされたときより悲愴な顔をしてるんだけど…」
雪乃「放っておきなさい。比企谷くんは少しおかしい人だから」
小雪「おか…雪乃さんはあまり動じないというか落ち着いているけど」
雪乃「お母さん」
小雪「?」
雪乃「親を名前で呼ぶなんて生意気よ。ちゃんと呼びなさい」
小雪「お母さん」
雪乃「何かしら?小雪」
八幡「俺はパパって呼ばれてるぞ」
雪乃「そう、何か越に浸ってるようだけど。どう呼ばれていようが父親なんて娘には煙たがられるものよ」
八幡「そんなことないよな?な?」
小雪「そんなことはないけれど、あまり知り合いには見せたくない…」
八幡「それじゃ生きてても運動会も参観日も行けねぇだろ。家族が揃ったってのに何だこの仕打ちは」
雪乃「私達はまだ婚姻関係にないのだからその表現はおかしいわ」
八幡「あ?子は鎹って言うだろ。小雪が居るんだから間違ってない」
小雪「小町おばさんが言ってたわ」
八幡「なんて?」
小雪「いつも仲良く口喧嘩してたって」
雪乃「それは違うわ、言い合いではなく罵倒よ。比企谷くんはそれで喜ぶから」
八幡「子供に変な事吹き込んでんじゃねぇ」
小雪「知ってるわ、さっきからお父さんが喜んでいるから」
八幡「喜んでねぇよ。それとパパと呼べと言っただろ」
小雪「嫌よ」
雪乃「小雪」
小雪「?」
雪乃「よかったら私の家に来ない?」
小雪「え……いいの?」
雪乃「母親の家に来るくらい普通だと思うけど?」
小雪「でもお父さんが…」
八幡「俺の事は気にしなくていいぞ、行ってこい」
雪乃「比企谷くんも来たければどうぞ」
八幡「俺はやめとくわ。お前らも2人で話したい事くらいあるだろ」
雪乃「じゃあ少し小雪を借りて行くわね」
小雪「行って来ます」
八幡「おう」
小雪「よかったのかしら」
雪乃「何のこと?」
小雪「パパを置いてきてしまったから」
雪乃「本人が居ないところではパパって呼ぶのね」
小雪「!?」
小雪「無意識だったわ…」
雪乃「比企谷くんのことなら気にしなくても平気よ。彼、蔑ろにされるのは慣れているから」
小雪「そんなつもりはなかったのだけれど…」
雪乃「冗談よ。昨日は彼と居たんでしょ?」
小雪「ええ」
雪乃「なら今日は私と居るのが筋だとは思わないかしら?」
小雪「それはたしかに」
雪乃「着いたわ」
小雪「このマンション…」
雪乃「知ってるの?」
小雪「両親と3人で暮らしてた時に住んでいた所ね」
雪乃「まさか比企谷くんは紐谷くんになっているのかしら?」
小雪「昔お母さんと一緒に駅までパパを迎えに行った記憶があるからちゃんと働いてはいたと思うけれど…」
雪乃「彼にもプライドのプの字くらいはあったみたいね」
雪乃「入りなさい」
小雪「お邪魔します」
雪乃「帰ったら『ただいま』でしょ?小町さんから言われなかったのかしら?」
小雪「ただいま、お母さん」
雪乃「ふふっ、おかえりなさい」
雪乃「ところで私の事はママと呼んでくれないのかしら?」
小雪「え……っと、パパはパパだけどお母さんは昔からお母さんと呼んでいたから」
雪乃「比企谷くんに嫉妬する日が来るとは思いもしなかったわ」
小雪「呼び方が違うだけで両親への愛情に差は無いのだけど」
雪乃「比企谷くんよりも上でないと納得できないわ。全てにおいて」
小雪「親の意地の張り合いに付き合わされる子供の身にもなってもらいたいわね」
雪乃「ところで少し気になっていることがあるんだけど」
小雪「?」
雪乃「私達が居なくなった後、雪ノ下家の方は貴女を引き取ろうとはしなかったの?」
雪乃「こう言っては何だけど私の実家の方が経済的にも力があるし、母がああいう人だから」
小雪「後から聞いたことだけれど。確かにお母さんの方のお婆ちゃんが私を引き取るという話も出たみたいよ」
雪乃「でもそうはならなかったのね?」
小雪「陽乃おばさんが反対したらしいわ」
雪乃「姉さんが?」
小雪「ええ、私はお婆ちゃんに悪い印象は持っていないけれど。陽乃おばさんは雪ノ下家に居ると真っ直ぐ育つものも育たないって小町おばさんに育ててもらうべきだと」
雪乃「それは私も同意見よ。おそらく姉さんなりに思う所があったのね…」
小雪「お母さんと陽乃おばさんはお婆ちゃんを良く思っていないかもしれないけど、私を可愛がってくれたから…」
雪乃「……そうね、貴女を可愛がってくれたのならそれでいいわ。ごめんなさい」
小雪「いいえ、そう思うのは無理も無いと知ってるわ。お婆ちゃん自身も後悔してるみたいだった」
雪乃「貴女を置いて逝ってしまったのだから私も親として失格だと思うわ。子供に必要な親の役割を果たせていないから」
小雪「確かに両親が居なくて寂しい思いはしたけど、私としては両親を親失格とは思わないわ」
雪乃「ありがとう、そう言ってもらえると気が楽よ」
雪乃「事故で死んでしまったのなら未来は変えられるかもしれないし」
小雪「そうなってくれれば嬉しいけど、その前に私が生まれない未来にならないかが心配ではあるわ」
雪乃「貴女が生まれない未来に変わるならこの時点で貴女は消えてしまうんじゃない?」
小雪「タイムパラドックス的な話はややこしくなるから好きではないけど…そうなるわね」
雪乃「あまり深く考えなくていいのよ。現に貴女がここに存在してるのだから比企谷くんと結婚する未来は変わっていないということよ」
雪乃「彼と一緒になるのは不本意だけど」
小雪「パパはお母さんの事好きだと言ってたけれど」
雪乃「!!!???」
雪乃「比企谷くんが…そ、そんなことを?本当に!?いえ、仮に言ったとしてもそれは異性としてではなくて…」
小雪「ウソよ」
雪乃「…………」
雪乃「親をからかったわね?」
小雪「お母さん…近いし、怖いわ…」
小雪「お母さんはお父さんの事どう思ってるのかしら?」
雪乃「貴女今自分の存在を消しかねない質問をしてる自覚はあるの?」
小雪「質問に質問で返すのは感心しないわ」
雪乃「…………」
雪乃「比企谷くんは奉仕部の一員だという認識だけれど…」
小雪「それだけかしら?」
雪乃「やけに突っ込んでくるのね」
小雪「気になるのだから仕方がないわ」
雪乃「一つ教えてほしいのだけど」
小雪「なに?」
雪乃「その質問は比企谷くんにもしたのかしら?」
小雪「ええ、パパにも同じことを聞いたわ」(本当は聞いていないけど)
雪乃「比企谷くんが何と言っていたかは私に教えないし、私が何と言ったかも比企谷くんに教えない。そういうことでいいのかしら?」
小雪「もちろんそのつもりよ」
雪乃「………男性として考えたことはないけど、人として好き…だと思うわ」
小雪「どういう所が?」
雪乃「この話はやめにしない?」
小雪「私は聞きたいわ」
雪乃「何か企んでる時の姉さんと同じ顔になってるわよ」
小雪「叔母だもの」
雪乃「はぁ……嫌と言っても引き下がってはくれなさそうね」
小雪「別に隠すほどの事ではないと思うけど?親子の普通の会話の範囲内よ」
雪乃「あいにく私と比企谷くんはまだ結婚もしていなければ交際もしていないのだから心に隠しておきたいこともあるわ」
小雪「でも私は未来に帰ってお墓に問いかけても返事は返って来ないの」
雪乃「それを言われると反論できないわね」
小雪「だから教えて、ね?パパのどこが好きなの?」
雪乃「うぅ………」(この人の弱みにつけ込む卑怯な性格は間違いなく比企谷くん似ね…)
雪乃「頼りになる所……とか?」
小雪「具体的には?」
雪乃「昨日一日比企谷くんと居たならもうわかっているはずよ」
雪乃「彼の頼れる所は見えづらいの。だから彼をよく知らない人は彼を認めなかったり、或いは批難したりもするわ」
雪乃「それでも彼に助けられた人には見えるものよ。だからつい甘えてしまう」
小雪「確かに…昨日トマトを食べてもらったわ。それも小町おばさんにバレないように」
雪乃「それくらい自分で食べなさい」
小雪「嫌よ。第一、栄養分を考えればトマト以外からでも摂れるのだから嫌いな物をわざわざ無理をして食べるなんてトマトにも失礼よ」
雪乃「そんな屁理屈は社会では通用しないわよ?出されたものを食べないという失礼を考えられないなんてまるで比企谷くんね」
小雪「お母さんも小町おばさんも「パパみたいになるわよ」って言えば私が言うことを聞くと思っているから困るわ」
雪乃「そんなことばかり言ってるとパパみたいになるわよ」
小雪「…………」
雪乃「今日の夕飯にはトマトを出すわ」
小雪「パパも呼んで一緒に…」
雪乃「ダメよ」
小雪「どうして?」
雪乃「彼にトマトを押し付けるつもりでしょ?」
小雪「パパの話さえしなければこんなことには…」
雪乃「親をからかうからそんな目にあうのよ」
雪乃「貴女の嫌いな食べ物はわかったけど、好きな食べ物は何かしら?」
小雪「唐翌揚げ…だけど昨日食べたから。そうね…」
小雪「クリームシチューが食べたいわ。」
雪乃「じゃあ今日はクリームシチューにするわね」
雪乃「作るのはしっかり手伝ってもらうけど」
小雪「…………」
雪乃「露骨に嫌そうな顔しないでもらえるかしら?比企谷くんにそっくりよ、その顔」
小雪「料理は得意ではないから」
雪乃「なら良い機会だから克服しなさい。貴女が将来お嫁に行く時に料理ができないなんて親の教育が疑われてしまうわ」
小雪「私は専業主夫になってくれる男性と結婚するから…」
雪乃「そういえば貴女の父親は専業主夫志望だったわね」
小雪「私、パパと結婚しようかしら」
雪乃「それは勝手だけど夕飯の支度は手伝ってもらうわよ」
小雪「…………チッ」
雪乃「舌打ちはやめなさい。下品よ」
雪乃「嫌がっていた割には上手ね」
小雪「できることが好きなこととは限らないわ。逆もまた然りね」
雪乃「とんだ才能の持ち腐れね。由比ヶ浜さんも貴女のことだけは妬んでいいと思うわ」
小雪「結衣おばさんの料理……いや……こわい……料理こわい……」
雪乃「何かとんでもないトラウマを抱えているみたいね…怯え過ぎよ」
雪乃「それはそうと、私が作った料理で1番好きなのが唐翌揚げなのかしら?」
小雪「唐翌揚げはどちらかというと小町おばさんね、お母さんが作った料理で印象深いのはクリームシチューよ」
雪乃「私自身はそこまでクリームシチューが得意というわけではないけれど、そんなに美味しいと思ってもらえているなら嬉しいわ」
小雪「味が美味しかった……というより、家族で食べた風景を1番思い出せるのがクリームシチューなの」
雪乃「………」
小雪「あ!お母さんのクリームシチューは美味しいし好きだから誤解はしないでほしいのだけど!」
雪乃「ふふっ…わかってるわ」
小雪「ほっ……」
雪乃「もっと聞かせてもらえる?その話」
小雪「ええ、たしかあれは私が幼稚園の頃だったわ…」
~~~~~~~~~
小雪(4)「お母さん!今日の晩ご飯なぁに?」
雪乃(28)「今日はね、クリームシチューよ」
小雪「わーい!クリームシチュー好きー!」
雪乃「それは何かしら?」
小雪「あ!お絵かきしたの!見て!」
雪乃「ん?どれどれ」
小雪「これがお母さんで、これが私!そんでこれがパパ!」
雪乃「あれ?パパのお顔がハンサム過ぎない?」
小雪「えー、こんな感じだよ?」
雪乃「パパはもっとこーんなお目目してるわよ?」
小雪「あははは!そっくりー!」
雪乃「うふふふ」
小雪「あれ?雨降ってきた…」
雪乃「本当ね、あの人傘持って行ってないのに…」
雪乃「小雪、パパを駅まで迎えに行こっか!」
小雪「うん!」
~~~~~~~~~~
雪乃「まさかそのせいで私と比企谷くんは……」
小雪「全然違うわ、後まだ話は途中よ?」
雪乃「ごめんなさい、つい」
小雪「そんな悲惨な結末の話しないわ。第一、その事故の件は憶えていないって言ったでしょう?」
雪乃「そうだったわね」
小雪「続けてもいいかしら?」
雪乃「ええ、続けて」
~~~~~~~~~~
小雪「でねー、お母さんが美人だって皆が言ってた!」
雪乃「お母さん照れるなぁ」
小雪「でもパパに私とお母さんどっちが可愛いって聞いたら私の方が可愛いって言ってたよ!」
雪乃「むっ!」
小雪「私の勝ちだね!」
雪乃「お母さんも同じくらい可愛いもん!」
小雪「えー!じゃあ後でもっかい聞くから勝負ね!」
雪乃「負けないわよ?」
雪乃「駅に着いたわね。パパはどこかしら?」
小雪「あ!パパだ!」
八幡(28)「雨止まねぇな……タクシー拾うしかねぇか」
小雪「パパー!」
八幡「ん?小雪!どうしたんだ?」
小雪「傘持ってきたよー!」
八幡「迎えに来てくれたのか。ありがとな」
雪乃「おかえりなさい。あなた」
八幡「おう、ただいま」
八幡「それにしてもすまんな。迎えに来てもらって」
雪乃「本当よ。ダメ雨男は健在ね」
八幡「ダメは余計だ」
小雪「ねぇパパ!私とお母さんどっちが可愛い?ねぇねぇ!」
八幡「ん?そうだなぁ…」
雪乃「………」じーっ
八幡「………うーん、悩むなぁ」
小雪「………」じーっ
八幡「」(何この戸塚より可愛い生き物…抱き締めたい!)
八幡「……小雪の勝ち!」
小雪「やったー!」
雪乃「ふーん、今日は晩ご飯クリームシチューだけど。パパはふりかけご飯ね」
八幡「ごめん。雪乃ちゃんが世界で一番よ、愛してるわ」
雪乃「どうだか…」
小雪「むぅー!小雪は!?」
八幡「小雪も世界で一番だぞ」
小雪「パパゆうじゅうふだん」
八幡「そんな言葉どこで覚えてきたのよ小雪ちゃん」
雪乃「小雪!女たらしのパパなんかほっといて帰ろうねー!」
八幡「余計な言葉を教えた犯人はお前だったか」
小雪「うん!パパの女たらし!あっかんべー」
八幡「ちょっ!マジ悪かったから傘だけでも置いてって!あと女たらしとか誤解される言い方やめろ!」
~~~~~~~~~~
雪乃「幸せそうな家族ね。クリームシチュー要素があまり無いけど…」
小雪「この後家に帰ってパパがご飯にクリームシチューをかけて食べたのを見たお母さんがドン引きして、それをきっかけに両親が大喧嘩したの…」
雪乃「長い前置きから酷いオチね。流石は比企谷くん」
小雪「まるで他人事のように言ってるけどパパを罵倒して怒らせたのはお母さんの方よ」
雪乃「当然よ、クリームシチューはご飯にかけて食べるものではないのだから。罵倒の一つもしたくなるわ」
小雪「一つ二つの罵倒ならパパも黙って聞いてたでしょうね……。私も2人の喧嘩を他所にパパの真似をして食べてみたけど普通に美味しいと思ったけれど」
雪乃「パパの真似はやめなさい」
小雪「お母さんも一回やってみればいいと思うわ。そうすればあの喧嘩は起きないから」
雪乃「絶対嫌よ。それに喧嘩くらいいいじゃない、仲が良い証拠よ」
小雪「そういう見方もあるけど目の前で喧嘩される子供の身にもなってほしいわ」
小雪「そういえば…」
雪乃「なにかしら?」
小雪「両親の喧嘩の後の仲直りは基本的にキスをして終わってるわ」
雪乃「……………」
雪乃「この話は終わりにしましょう」
小雪「お母さんが「ちゃんと愛してるならキスして」ってパパにせがんで」
雪乃「恥ずかしいからやめて」
小雪「それでちょっと困った顔したパパが…」
雪乃「やめて!」
小雪「まぁ嘘なのだけど」
雪乃「……………」
小雪「どこに行くの?」
雪乃「トマトを10コほど買い足しに行って来るわ」
小雪「ごめんなさい」
雪乃「反省することはいいことね。トマトの味と一緒に噛み締めなさい」
小雪「全部パパのせいね」
雪乃「いいえ、7割は貴女のせいよ」
ーーーーーーーーーーーーー
八幡「だぁーっくしゅんっ!!!!!」
小町「大っきいくしゃみやめてよね。ビックリするじゃん」
八幡「すまん…」
八幡「へーっくしっ!!!!」
小町「もう……さっきからくしゃみばっかしてるけど風邪?」
八幡「何やらあいつらが俺の事好き勝手言ってるような気がする」
小町「気になるんだ」
八幡「まぁ、ちょっとな…」
小町「お兄ちゃんも行けばよかったじゃん」
八幡「あいつら2人に対して俺1人じゃツッコミが追いつかん」
小町「ていうかまたクリームシチューご飯にかけてるし…」
八幡「悪いかよ」
小町「小町はいいけど嫌がる人も居るしさぁ」
八幡「小町が大丈夫なら問題無いな」
小町「小雪ちゃんが嫌がったら?」
八幡「…………」
小町「嫌われちゃうかもよ?「クリームシチューご飯にかけるパパなんか嫌い!」って」
八幡「それは困るな。小雪の前では別々に食うことにする」
ーーーーーーーーーーー
小雪「ごちそうさまでした」
雪乃「トマト」
小雪「………………」
雪乃「たった半個分くらい我慢して食べなさい」
小雪「……………」ごくっ
雪乃「す飲みする程嫌いなのね…」
小雪「うげっ……ごほっ……」
雪乃「サラダって基本的にトマトが入ってるけれど、普段どうしているの?」
小雪「小町おばさんの目を盗んでカマクラ(2号)に食べて貰ってるわ」
雪乃「嫌いな物を猫に食べてもらうなんて人間として恥ずかしくないのかしら?」(私もカマクラほしい…)
小雪「私とカマクラは持ちつ持たれつの関係だから恥なんかないわ」
雪乃「羨ましい」
雪乃「ところで貴女が通っている高校はどこのなのかしら?」
小雪「お母さんと同じで総武高校の国際教養科よ」
雪乃「奉仕部は知っているかしら?」
小雪「パパとお母さんと結衣おばさんでやっていた部活ね。話は聞いてるわ」
雪乃「ということはもう部は無くなってしまったのね」
雪乃「貴女は何か部活はやっているのかしら?」
小雪「私はテニス部に所属してるけど」
雪乃「まさか運動部に入っているなんて…」
小雪「お母さんと違って私は体力にも自信があるわよ?マラソン大会では陸上部にも引けは取らないほどに」
雪乃「悔しいけど私の負けのようね。でも我が子に超えられるのなら本望よ」
雪乃「家事スキルは私の足下にも及ばないようだけど」
小雪「お母さんって負けず嫌いなのね」
雪乃「お互いにね」
雪乃「体力があるのはいいけど肝心のテニスの腕の方はどうなのかしら?」
小雪「去年は千葉県大会シングルス準優勝でインターハイに出場したわ関東地区大会は3位で選抜大会も出場する予定よ」
雪乃「予想以上に凄かったわ」
雪乃「テニス部ではないけれど私も奉仕部への依頼の関係でテニス経験者とダブルスで試合をしたことがあるのだけどね」
小雪「勝ったの?」
雪乃「一応勝ったわね、最初は善戦したけど後半はスタミナ切れになってしまったわ」
小雪「誰と組んだの?」
雪乃「比企谷くんよ」
小雪「やっぱり」
小雪「パパってテニスできるの?」
雪乃「バカにしているけれど比企谷くんのおかげで勝ったのよ?県選抜にも選ばれるような相手だったわ」
小雪「パパのことだから何か卑怯な手を使ったんじゃないかしら…」
雪乃「そこは否定できないわね」
小雪「使ったのね…」
雪乃「ルールは守ってたわよ」
雪乃「なんだかよくわからないけど変なサーブを使っていたわ」
小雪「依頼というけれどどんな流れで試合をすることになったの?」
雪乃「戸塚くんは知っているでしょ?」
小雪「彩加おじさんよね」
雪乃「彼の依頼で練習に付き合っていたの」
小雪「県選抜の相手もテニス部?」
雪乃「その人は部外者よ。そもそも部外者のその人達が遊び半分に割り込んで来たから試合をする羽目になったのだけど」
雪乃「葉山くんは知っているかしら?」
小雪「隼人おじさんのことね。ん?県選抜の人ってまさか……優美子おばさんだったり…」
雪乃「優美子おばさん…って貴女あの人と関わりがあるの?」
小雪「隼人おじさんと結婚してるから」
雪乃「意地悪されたりしていない?」
小雪「いいえ、普通に良い人だと思うけれど」
小雪「まず優美子おばさんからテニスを教わった身だし」
雪乃「ごめんなさい、そっちではお世話になっているのね。私、彼女とは仲良くなかったから…」
小雪「優美子おばさんが言ってたわ」
雪乃「?」
小雪「おばさんがヘトヘトになるまで練習に付き合ってくれるから何でそこまでしてくれるのか聞いたの」
小雪「そしたら…」
『昔さ、雪ノ下さんとヒキオに結構助けて貰ったんだ。あいつらは奉仕部としてやっただけとか言いそうだけど。あーしは感謝してるんだ』
『そんで後悔もしてる、あーし態度悪かったし。あいつらはお礼も言えないまま死んじゃったけど、受けた恩はアンタに返すことにした』
小雪「……って言ってたわ」
雪乃「あの人まだ「あーし」が一人称だったのね…」
小雪「反応する所そこなの?」
雪乃「でも、あの人なりに感謝の気持ちは持ってくれていたみたいね」
雪乃「三浦さんのこと、少し見直したわ」
小雪「友達になれるかもしれないわね」
雪乃「それは無理よ」
小雪「…思わず滑り転けそうになったわ…なんでかしら?」
雪乃「照れくさいもの。三浦さんだってきっとそうよ」
雪乃「だからこのままでいいのよ。未来の三浦さんに「どういたしまして」と伝えておいてもらえるかしら?」
小雪「ええ、必ず伝えておくわ」
雪乃「時間も遅いし今日は止まって行きなさい。比企谷くんには連絡を入れておくわ」
小雪「うん、ありがとう。お母さん」
雪乃「布団出しておくわね」
小雪「お母さんと一緒の布団で寝たいのだけど」
雪乃「私のベッドは一人用だから2人は狭いんじゃないかしら」
小雪「私は狭くてもいいわ。お母さんが嫌でなければ」
雪乃「仕方ないわね、いいわよ」
小雪「ごめんなさい。無理言って」
雪乃「ダメと言って引き下がるほど聞き分けのいい子でないことくらい知ってるわ。私がそうだもの」
雪乃「それに謝るようなことでもないわ」
小雪「ふふふ、確かにダメって言われても強引に入ったわ」
雪乃「お風呂に入りましょう」
小雪「一緒にかしら?」
雪乃「それは別々」
小雪「どうして?」
雪乃「人には色々と理由があるのよ」←A
小雪「?」←C
雪乃「湯加減はどうだったかしら?」
小雪「それはよかったけれど…」
雪乃「けど?」
小雪「お母さんのパジャマ……サイズが合わなくて…胸が少し苦しい」
雪乃「……ジャージを持ってくるわ、サイズが大きいのがあったはず」
小雪「お母さん、怒ってる?」
雪乃「怒ってなんかないわよ?怒られるようなことをしたのかしら?」
小雪「いえ…身に覚えはないけど、顔が怖いから…」
雪乃「1番負けたくない所で負けたからよ」
小雪「あぁ、胸の大きさで人間の価値が決まるなんてことはないから大丈夫よ」
雪乃「一つ聞きたいのだけど」
小雪「なにかしら?」
雪乃「未来の私は…」
小雪「………うん、何て言うか…うん」
雪乃「」
小雪「いひゃい!頬つねらないれ!はなひて!」
雪乃「貴女がたくさん吸ったから縮んだのよ。きっと」
小雪「うぅ…とんだ言いがかりね…酷いわ」
小雪「そうよ、犯人はパパよ!」
雪乃「比企谷くんも吸ったというの?変態ね。気持ち悪い」
小雪「いえ、そこは知らないけれど。パパが揉んだから減ったのよ、多分」
雪乃「揉むと増えると聞いたことはあるのだけど」
小雪「えっ?普通に考えれば減らないかしら?」
雪乃「そもそも貴女。それは、彼と私が…その、してる所を見たということかしら?」
小雪「両親との思い出で唯一消したい記憶ね。パパはプロレスごっこだと言い訳したけど」
雪乃「ごめんなさい」
小雪「そのときはわからなかったけれど、今思えば…ね」
小雪「次からはちゃんと寝てるのを確認してもらえれば」
雪乃「次も何もまだそんな関係ではないのだけど…」
小雪「この話は終わりにしましょう」
雪乃「そうね、気まずくなるだけだし」
雪乃「狭くないかしら?」
小雪「ええ、パパのベッドより広いし大丈夫」
雪乃「貴女…比企谷くんとも一緒に寝たの?」(さっきの会話の流れのせいか何故か卑猥なことを言ってるような気が…)
小雪「パパは嫌がってたけど無理矢理一緒に寝たわ」(今何故か卑猥なことを言ってるような…)
雪乃「そこまで強引だと私を通り越して最早姉さんね」
小雪「パパにも言われたわ」
雪乃「彼も姉さんにおもちゃにされてる身だからそう思うでしょうね」
小雪「私も陽乃おばさんは少し苦手ね…」
雪乃「何かされたの?」
小雪「嫌なことをされたわけではなくて、何と言うか…愛情表現が過剰」
小雪「自分の部屋で寛いでたら『小雪ちゃ~ん』って独特の声が聞こえたからクローゼットに隠れたけど一瞬で見つかって、いつも通りハグからの頬っぺすりすりをされたわ」
雪乃「それは嫌なことではないの?」
小雪「私を可愛いと思ってやってることだから嫌とは言えないの…」
小雪「でも会うたびにされるから、やっぱり嫌なことね」
雪乃「姉さんは愛情表現が下手だから…。うん、多分本気で可愛いと思ってるはずよ」
小雪「それにしても何処に隠れても一瞬で見つかるのは何故かしら」
雪乃「第六感的な何かが働くのかもしれないわね」
小雪「やめて、ホラー映画じゃないのだから」
雪乃「母さんは?」
小雪「おばあちゃん?」
雪乃「あの人は貴女に何か強要したりはしない?」
小雪「習い事とかやりたい事を聞いてくることはあるけれど、何かを強制されたことはないわ」
小雪「多分、お母さんと陽乃おばさんの件で反省してるんだと思う」
雪乃「それなら良かったわ」
小雪「でも小さい頃は私に服を買い与え続けたわね、百貨店に行ったとき試着室でこれも可愛いあれも可愛いと店員さんに怒られるまで服を試着させられたわ」
雪乃「猫可愛がりの域ね」
小雪「私もカマクラに同じことをして小町おばさんに怒られたからあまり文句を言える立場ではないけれど」
雪乃「それはいいのよ」
小雪「え?」
雪乃「だって猫は可愛がるものでしょう?何も悪くなんかないのよ」
雪乃「でも安心したわ。私と比企谷くんが居なくなってしまっても小町さんも姉さんも母さんも三浦さんも皆貴女を心配して見守ってくれているみたいだから」
小雪「昨日パパも同じことを言ってたわ」
雪乃「私もまだ親になったわけでもなければ高校生で親に頼る身分だけど、そういうものなのよ親っていうのは」
小雪「パパもお母さんも私をあっさり受け入れてくれたけど、普通は自分と同じ年恰好の人間に「娘です」なんて言われても戸惑うばかりだと思うわ」
雪乃「私も最初は疑ったし戸惑ったけれど、ここまで私にそっくりなのだから信じるしかないでしょう?」
雪乃「それに…」
小雪「?」
雪乃「私は嬉しかったのだと思うわ。妹も弟もいないし、家族とはギクシャクしてしまっている状況で私を母親だと慕ってくれる人が現れたのだから」
雪乃「感覚的には娘というより妹という感じだけど」
小雪「私は両親には会いたかったけれど、自分が過去に来たことは良くないんじゃないかって思ったわ」
小雪「私が来たことで両親が結婚しないんじゃないかとか、小町おばさんと大志おじさんが結婚しないんじゃないかとか色々心配だった」
小雪「でも、いざ両親に会ってみたら案外そうでもなくて私の知ってるパパとお母さんだったわ。2人は高校生の時から夫婦してたんだなって」
雪乃「認めたくないわね」
小雪「それは嘘よ。お母さんはパパを認めてるし、どこか安心したような顔をしてる」
雪乃「娘の目は誤魔化せなさそうね。実を言うと少し安心してるわ」
雪乃「私の結婚相手は母が決めた人で、私自身も逆らえずに母が決めた相手と結婚するものなんだと諦めていたけど。未来から貴女が来て私の結婚相手は比企谷くんだと言った」
雪乃「私が比企谷くんと結婚したということは少なからず私の意思で彼と結婚したということだから」
小雪「その話だけど…」
雪乃「なに?」
小雪「……。やっぱり言わないことにする」
雪乃「何よそれ、気になるから言いなさい」
小雪「教えないわ、未来でのお楽しみよ」
雪乃「言うまでこちょこちょの刑よ!」
小雪「あはははは!やめてぇ!そこダメ!」
雪乃「貴女の弱い所なんてお見通しよ!観念して言いなさい!」
小雪「ぜったい言わない!」
雪乃「ふふふ、なんとなく答えはわかった気がするわ」
小雪「じゃあ未来で答え合わせね」
雪乃「楽しみね」
小雪「ところで、何で私の弱点が脇ってわかったの?」
雪乃「私の弱点だからよ」
雪乃「比企谷くんには内緒よ」
小雪「そうね、パパに教えてあげるわ。お母さんは脇が弱いって」
雪乃「やめなさい、それを知ったら比企谷くんのことだからおそらく毎晩…」
小雪「お母さんのエッチ」
雪乃「ち、違う!別にいかがわしいことなんか考えてないわ!」
小雪「さっきのお返し!」こちょこちょ
雪乃「きゃっ!やめて!ダメよ!」
小雪「ただいま…」
八幡「おう、おかえり」
雪乃「こんにちは…」
八幡「ゆうべは随分とお楽しみだったみたいだな雪ノ下」
雪乃「どういう意味かしら?」
小雪「…………」
八幡「俺達の娘の寝相が悪いという意味だ」
雪乃「貴方、知っていて教えなかったのね」
八幡「小雪、母ちゃんとお泊まりはどうだった?」
小雪「……朝までお説教されたわ」
雪乃「当然よ。何回ベッドから落とされたことか」
小雪「本当にごめんなさい…」
八幡「俺には裏拳と蹴りが飛んできたけどな」
小雪「お父さんはイビキが煩かったのだからお互い様よ」
雪乃「未来での私は妻かもしれないけど、今この時点では主従関係にあるのだから調子に乗らないことね」
八幡「いつ俺がお前の従僕になった」
雪乃「生まれた時よ」
八幡「知り合ったの去年なんですけど」
小雪「娘を放ったらかして惚気ないでもらえるかしら?」
八幡「だとよ雪ノ下」
雪乃「あら?貴方のことを言ってるのだと思うけど?鼻の下が伸びてるわよ」
小雪「はぁ………」
八幡「おい、溜め息つくな」
雪乃「では私はこの辺でお暇させてもらうわ」
小雪「お母さん帰るの?」
雪乃「ええ、貴女を送ったら帰るつもりだったから。昨日は楽しかったわ」
小雪「…………」
八幡「雪ノ下、お前今日は用事あるのか?」
雪乃「いいえ、特に用はないけれど」
八幡「上がって茶でも飲んでいけ」
雪乃「ふふ、ナンパかしら?」
八幡「どこがだよ」
雪乃「比企谷くんのお誘いに乗るのは釈ね」チラッ
小雪「?」
八幡「可愛くない嫁さんだな」
小雪「私はもうちょっとお母さんと居たい」
雪乃「小雪の頼みなら仕方ないわね。少し上がっていこうかしら」
八幡「わざとらしいぞ」
その日の夜まで雪ノ下は俺の家に居た。
小雪と小町と雪ノ下の3人がかりでいじられると多勢に無勢でツッコミも追いつかない。
晩飯を4人で食べ、娘とトマト押し付け合いをして小町と雪ノ下に親子で説教をされる。
雪ノ下を家まで送った後小雪は満足そうな顔をしていた。てっきり寂しそうな顔をすると思っていたが、どちらかというと雪ノ下の方が寂しそうだった。指摘しても認めなかったが
そして、その夜は寝る前に小雪は自分の服に着替えていた。
八幡「寝間着にジャージ出してただろ?」
小雪「いいの、もうそろそろ時間だから」
八幡「時間?」
聞き返しはしたが俺はその意味をわかっていた。
小雪「帰る時間」
八幡「……………」
小雪「この服。お母さんに返しておいてもらえるかしら?」
八幡「返しといてやるけどせめて畳んだらどうだ?」
小雪「そうね」
八幡「まったく…ずぼらだな誰に似たのか」
小雪「お父さんね」
八幡「俺だな」
小雪「今日も一緒に寝ていいかしら?」
八幡「断ってもどうせ入ってくるんだろ?勝手にしろ」
小雪「お言葉に甘えさせてもらうわ」
八幡「なぁ」
小雪「なに?」
八幡「昨日、雪ノ下ん家に泊まってみて。どうだった?」
小雪「私はお母さんに会えて良かったわ、お母さんもそう言ってくれたし」
八幡「ちゃんと楽しめたみたいだな」
小雪「お母さんね、お父さんの話ばかりしてたわ」
八幡「まぁ、未来の自分の旦那ってことになるわけだしな」
小雪「それはそうなんだけど。なんていうか…」
八幡「なんだよ」
小雪「お母さんはお父さんのこと好きだと思うわ」
八幡「流石に無ぇだろ。勘違いだ」
小雪「だってお父さんの話をしてるときのお母さんってすごく楽しそうだから」
八幡「嬉々として俺を罵倒しているのが目に浮かぶ」
小雪「たしかに言ってることといえば。やれ目が腐ってるとかやれ変態だとか、おっぱいを揉むだとか…」
八幡「待て、後ろ二つは身に覚えがないぞ。でっち上げだ」
八幡「そもそも変態とおっぱいを揉むはだいたいの会話では同じ意味だ」
八幡「さらに言うなら雪ノ下に揉むような乳は無い」
小雪「お父さんあたふたし過ぎ」
八幡「お前が余計な事を言うからだ」
小雪「お父さんはどうなの?」
八幡「は?」
小雪「お母さんのこと好き?」
八幡「まぁ……嫌いではない」
小雪「で、お父さんはお母さんのこと好き?」
八幡「お前それアレだろ。ドラクエとかで「はい」って言うまで同じ質問してくるアレだろ」
小雪「で、お父さんはお母さんのこと好き?」
八幡「………………」
八幡「…………好きだ」
小雪「やっぱりね」
八幡「」(このガキ…)
八幡「お前ちゃんと友達居るのか?」
小雪「そうね、まずどこからどこまでが友達なのか定義してもらいたいわ」
八幡「居ねぇのかよ…」
小雪「居ないなんて言ってないわ」
八幡「それ友達居ないやつのセリフだから。ソースはお前の母ちゃん」
小雪「父親が超エリートの圧倒的ぼっちなのだから仕方ないわ」
八幡「何それサイヤ人の王子的なやつですか?」
小雪「ところでベジータはいつまでサイヤ人の王子で居るつもりなのかしら?いい年して息子もいるのに恥ずかしくはないの?無職だし」
八幡「」(まさかのドラゴンボールネタに食いついてきた…)
八幡「ベジータに聞け、それか鳥山明に聞け」
小雪「パパ」
八幡「えっ…おぉ、パパって呼ぶのか」
小雪「お母さんを助けてあげてね」
そう言い残して小雪は消えてしまった。
俺が瞬きをしている間に居なくなっていた。
おそらく未来に帰ったんだろう、最後の俺達の会話はドラゴンボールネタだった。
月曜日とは億劫な曜日である。
ある者は仕事、ある者は学校。中には毎日がホリデーな人間も居るだろうが、世間一般では月曜日とは敵である。
しかし俺の気分が優れないのはどうやら月曜日のせいだけではないらしい。
学校で俺がいつも昼飯を食う場所、今日もいつもと変わらず風が吹いている。
この時間が俺は嫌いじゃない。
でも、その風は俺のセンチメンタルを癒してはくれなかった。
雪乃「その間抜けた顔は比企谷くんね」
八幡「雪ノ下か」
雪乃「こんな所で何をしてるのかしら?」
八幡「ここで飯食ってんだよ」
雪乃「見た限りあまり食がすすんでいないわね」
八幡「ほっとけ、そんな時もあるだろ」
一口しか齧られていない焼きそばパンを見て雪ノ下は察したようだ。
雪乃「帰ってしまったのね」
八幡「あぁ」
雪乃「なんとなくだけど、そんな気はしていたわ」
八幡「あ、そうだ昨日小雪が着てたお前の服持って来てるから放課後部室で渡すわ」
雪乃「そう、あの服はあの子にあげたつもりだったのだけどね」
雪乃「私のお気に入りの服だったの」
八幡「あれ高そうだったぞ。えらく太っ腹だな」
雪乃「自分の娘に着せるんだもの。惜しくなんかないわ」
八幡「そうか」(畳みもせずに返そうとしたことは黙っておこう)
雪乃「あの子、帰る前に何か言ってた?」
八幡「…………」
『お母さんを助けてあげてね』
八幡「いや、ドラゴンボールの話してた」
雪乃「ドラゴンボール?何でまた」
八幡「さぁな」
雪乃「何を考えているのかわからない所は比企谷くんにそっくりね」
八幡「歯に衣着せぬ俺への罵倒は間違いなくお前似だけどな」
雪乃「可愛い所も私似ね」
八幡「その高慢ちきな所もな」
雪乃「比企谷くん」
八幡「あ?」
雪乃「約束しなさい」
八幡「何をだよ。友達いねぇから約束なんかしたことねーぞ」
雪乃「絶対に死なないと約束しなさい」
八幡「…………」
八幡「そうだな、約束だ。お前もな」
雪乃「ええ、約束するわ。あの子のためにも」
雪乃「それと」
八幡「ん?」
雪乃「私、またあの子に会いたいわ」
八幡「俺もだ。またそのうちひょっこり現れるかもしれねぇな」
雪乃「はぁ………バカ、ぼけなす、八幡。今のはそういう意味で言ったんじゃないわ」
八幡「八幡は悪口じゃねーって言っただろ」
おわり
このSSまとめへのコメント
綺麗にまとまっててちょっと切ないけどいい話だった
また新しいss書いて欲しい
両親の姉は伯母、妹なら叔母だ
良かった、泣けました。ありがとうございます
ご飯にクリームシチューを
かけるの普通じゃないのか!?