マクドナルド「クルーになろう」 (13)


マクドナルドにて――


男「でさぁ~……」

友「ハハハ」

男「いやー、たまにはマックもいいもんだな」

友「ああ、久しぶりに来たけど、案外くつろげるわ」

男「ところで、トレーの上に敷いてあるこのチラシはなんだ?」

友「クルーになろう、って書いてあるな」


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男「なによ、クルーって」

友「クルーってのは乗組員……ようするにアルバイトのことだろ」

男「なんでクルーなの? バイトでよくね? 店員になろう、でよくね?」

友「知らねーよ。マクドナルドに聞け」

男「じゃあ、ちょっくら店員さんに聞いてくる」

友「いやいやいや、待て待て待て。変な客だと思われるからやめとけって」


男「ところでこのチラシ、アニメキャラみたいなのが書いてあるな」

友「アルバイトの、イメージキャラクターってところだろうな」

男「よーし、せっかくだし一人ずつ見ていこうぜ」


【日々野すみれ 大学1年生】
『尊敬する先輩に追いつきたくて、最近シフトに入るのが楽しみかも』



男「この子、可愛いな。俺のタイプかも」

友「どうでもいいよ、お前の好みなんて」

男「だけどさ、部活ならともかく、バイト先の先輩に追いつきたいなんて普通思わなくね?」

男「シフト入るのが楽しみ、ってのも思ったことないし」

男「むしろバイト前ってものすごく憂鬱になるんだが」

友「お前はそうかもしんねーけど、先輩に頼りきろう、バイトめんどくせえ、なんて書いたら」

友「バイト募集のチラシにならねーだろ」

男「そりゃそうだけどさ……」


【桜庭若葉 高校1年生】
『高校生になったら新しいことたくさんしたくって、バイトもはじめました』

たくさんのクルー仲間と、楽しく仕事を覚えながら、成長できるマクドナルドのアルバイトは、
はじめてのあなたにも最適。手に入るのはお小遣いだけじゃない。



男「眉太いな」

友「太いな(好みだ)」

男「それはさておき、高1からバイトってちょっと早すぎる気がする」

友「そうか?」

男「やっぱ高校の時はさ、勉強を頑張った方がいいと思うんだよな。個人的な意見だけど」

男「新しいこと始めるなら、部活でもいいわけだし」

友「ん~……でも早めに客商売経験しとくとためになるってのもあると思うぜ?」

男「そっかぁ……」


【星野育美 大学4年生】
『もうすぐ大学卒業。
 マックで働いてるから、ビジネスがちょっと身近になりました』

リーダーシップ、チームワーク、マネジメント、リアルなビジネスの場で学べることは無限大。
大学の試験や部活のスケジュールに合わせて、柔軟に働けるのも特長です。



男「いわゆるキャリアウーマンを目指す学生か」

友「ほらな? 社会に出ても役に立つって書いてあるじゃん」

男「そりゃ、この子は大学4年じゃん。バイトの一つや二つしとかないと」

男「あとさ、柔軟に働けるって書いてあるけど、実際どうなんだろ?」

男「明日試験だってのに休みをくれない店長とかも絶対いるだろ」

男「マックって連帯作業っぽいし、一人抜けるだけで相当キツくなるイメージあるし」

友「まあ……いるだろうなぁ、実際」


【道端悠太 フリーター】
『夢に向かって、いまはお金を貯めています。
 大道芸のパフォーマンスと、バーガーづくりの正確さは、誰にも負けません』

あなたのライフスタイルに合わせて、長期休暇も集中勤務も可能です。
マクドナルドのアルバイトこそ、叶えたい夢、なりたい自分への、近道なのかもしれません。



男「この人は大道芸人になるのが夢で、バイトで金稼いでるって設定みたいね」

友「もしくはもうなってるけど、まだ収入が少ないってパターンかも」

男「でもそれだったら、フリーターはおかしくね?」

友「あ、そっか」

男「頑張って欲しいけど、マックのバイトこそ夢への近道、は流石にオーバーすぎる気がする」

男「それと、バーガーづくりの正確さって、あんなん誰がやっても一緒じゃないの?」

友「いや……ああいう作業にこそ案外差はできるもんなんだよ」

男「ってことは、マクドナルド○○店のバーガーは出来がよくて、××店はヘタクソ……」

男「みたいのがあるのかもしれないのか」


【岡優子 主婦】
『子どもも大きくなったし、久しぶりにバイトしています。
 みんなで仕事するこの楽しさ。しばらく忘れてたかも』

育児やお子さんの学校行事の合間に。
幅広い世代のグループ仲間といっしょに、ちょっと働いてみませんか。
もういちど社会で活躍したいあなたを応援します。



男「おばさんも頑張ってるねえ」

友「若く見えるけど、子供大きくなったってことは、もう50歳ぐらいなのかね」

男「ただ、マックのバイトっていつもドタバタしてるイメージあるから」

男「おばさんにはキツイんじゃないかとも思う」

友「レジ打ちなら大丈夫じゃね? スーパーのレジもだいたいおばさんだし」

男「ああ、そっか」

男「しっかし、もう一度社会で活躍したいあなた、って書いてあるけど」

男「大抵は家のローンやらなんやらで仕方なくバイトしてるおばさんが多いんだろうな」


男「……これで全員か」

男「なーんかさ、全体的にマックでのバイトを美化しすぎだよな」

男「マックで働くの楽しい! いい経験になる! 夢が広がる! ……みたいな」

男「アットホームな職場です、的な胡散臭さを感じるよ」

友「うーん……たしかに」

友「バイト募集のチラシにネガティブなことは書けないとはいえ、ちょっとオーバーな気もする」

男「だろ?」

男「実際マックの店員さんってすげー忙しそうじゃん」

男「忙しいだけならまだしも、わけ分からんクレームつけてくる客も多そうだしさ」

男「絶対このキャラクターたちみたいにニコニコ働けないって」

友(お前みたいに、わけ分からん質問してくる客もいるだろうしな)


男「でも……」

友「でも?」

男「うさんくせー、絶対キツイ、と思いつつも、ちょっとやってみたいかも……と思ってる自分もいる」

友「分かる!」

友「そう思わせる力が、このチラシにはあるよな!」

男「だろ?」

男「俺たち、うだつの上がらない男二人組だけどさ……」

男「マックでバイトして、チンケな人生を豊かな人生に変えてみようぜ!」

友「やってみる価値はあるかもしれないな……やってみるか!」

男「クルーになろう!!!」


――

――


男「……どうだった?」

友「ダメだった。不採用通知が来た。そっちは?」

男「俺も」

友「そっかー」

男「正直、この展開は予想してなかったよ」

友「俺もさ……マックで生き生き働く自分の姿を夢想してたよ」

男「俺たち、クルーになれなかったな……」





おわり

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