ア淫夢ドルマスター 迫真デレラガールズ ブッチッパレボリューション (364)

三度目の初投稿です
(書き溜め)ないです


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ア淫夢ドルマスター 迫真デレラガールズ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447214531/)
前スレ
ア淫夢ドルマスター 迫真デレラガールズ ステロイドステージ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1469883914/)

クッッッソ長いですが、最初から読まないと話が分からないのでこの機会に読んでください、オナシャス!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1489051596

2スレ分読むのがめんどくさいホモへのあらすじ



モバプロ所属のプロデューサーモバPはある日、オーディションを受けにやって来た田所、木村、三浦の三人を不合格にする。
結果が不満だった田所はモバPを昏睡レイプしようと企むが、睡眠薬入りのアイスティーを誤って渋谷凛が飲んでしまい計画は頓挫。凛は入院してしまう。
翌日。モバPは田所の家に向かうが、疲れからか、不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまう。大人しく車についていったモバPに対し、車の主、893プロ社長谷岡に言い渡された示談の条件とは・・・。



あとは読んできて、どうぞ

それと立てておいてなんですが今日の更新はありません

P野「じゃあ123、4で始めよう」

CER「はい。1,2,3、4……」

キュッ,スタッ,ズギュッ

P野「あらぁっ!?」ステーン!

CER「だっ、大丈夫ですか!?」

P野「ごめんごめん。ちょっとつまずいちゃった」

P野(身体能力が格段に上がってるとはいえ、中々上手くいくものじゃないな)イテテ

CER「じゃあもう一回やりましょう。1,2,3……」スッ

P野「はい、ほい、はい」キュッ,タッタッ

P野(えーと、次はどう動けばいいんだっけ……)スタッ

CER「!?」

ドサッ!

P野「す、すまん智絵里!大丈夫か!?」

CER「はい。私は大丈夫ですけど……中野さん」

P野「ごめんね本当に、ちょっと調子が出なくてさ」

P野(まずいな……踊れるかどうかはともかくとして、まず振り付けを完璧に覚える必要がある)

P野「ほら、立てるか? ゆっくりでいいぞ」スッ

CER「はい……っ!?」ビクッ

P野(なんだ、掴んだ手をすぐに離したぞ?)

P野「おっ、どうしました?」

CER「あっ、いえ、何でもないです……」スタッ

P野「……?」ジー

P野(俺の手に何か付いてんのかな……あっ!)

P野(この変装は鏡やカメラのレンズ越しでもバレる事は無いが、実際に姿を変えている訳ではない)

P野(姿も声も、あくまでベルトの機能で相手を錯覚させているだけなのだ)

P野(つまり感触まではごまかせない。頭にはヘルメットを着けているし、胴体はタイツ風のコスチュームだ)

P野(智絵里は俺の手の感触に違和感を覚えて反射的に離したんだな……この後も気を付けなきゃ)

CER「……あの、どうしますか? まだ続けます?」

P野「じゃあまた智絵里だけ踊ってくれないかな? ちゃんと出来ているか確認するから」

CER「分かりました。ダメなところがあったら言ってください」

P野「オッケー。でも本番前だから軽く、軽くね」

CER「はい。じゃあ、いきます……」

スタッ,キュッキッ,クルッ……

P野(ここがこうで、こっちがそっちで? これもうわかんねえな)

P野(そもそも冷静に考えてみると、智絵里が踊ってるのを見ても俺の振り付けは分からんよな……)

P野「あーそこまで! ストップストップ!」

CER「っ、はい……間違えてましたか?」キュタッ

P野「いや、まぁ動きはオッケーよオッケー。それよりさ、レッスン中に踊ったのを撮影した動画とかない……なかったっけ?」

CER「それなら、前にプロデューサーさんが送ってくれましたよ。今見るんですか?」

P野「今見れるなら見せてくれ!」

CER「いいですけど……中野さんの携帯には無いんですか?」スッ

P野「えっ、あっ……いや、慌ててスマホ忘れちゃってさぁ~」

P野(実際は上着のポケットに入ってるので、変身を解かないと取れない……)

CER「あ、そうなんですね。どうぞ」

P野「ありがとう」ジー

P野(さぁ覚えるぞ覚えるぞ覚えるぞ)





P野「……」

P野(やば……やば……わかんないね……)

CER「あの、どうして今これを?」

P野「えっ? いやまぁ、ちょっと気になるところがあって……」

CER「どこですか?」

P野「えっ!? あっ、や、気になったけど、気のせいだったかな~、なんて

CER「……」

P野「よ、よし。そろそろ会場に向かおうか! レッスンは疲れるから終わり、閉廷!」

CER「そう、ですね……」

P野「あ、それとさ、やっぱりまだ気になるから、後でまた見せてもらっていいかな? 今の」

CER「構いませんけど……中野さん、ちょっと……」

P野「何!?なんつった今もっかい言ってみろ、ええ!?」

CER「いっいえ、何も……行きましょうか」

P野(明らかに怪しまれているな……智絵里はあの性格だからはっきり指摘してこないが)スタスタ

P野(いくら見た目が本物だからって、普段の口調も性格も知らん奴が成り済ますのはやっぱ無理があったな……)スタッ

CER「あ、あのっ」

P野「ん、どうした?」スーッ

CER「それ、モバPさんの車ですよね……?」

P野「~~!!~^~↓^~!!(慟哭)」

CER「ひっ……だ、大丈夫ですか?」

P野「はっ! す、すまん。そうだったそうだった、まったく俺は何してんだろうな! あははは!」

CER「……」

P野「はは、は……じゃ、じゃあタクシー乗って行こうか。ちょうどそこに停まってるし」

CER「はい」

P野(姿を変えている限りバレはしないさ、大丈夫大丈夫……本当に大丈夫か俺)

スタスタスタ……トントン,ガチャ……バタン

「どちらまで?」

CER「武道館までお願いします」

「武道館ね、はい」ブゥーン

P野(会場は武道館だったか。急だったのによくそんな所抑えられたな)

P野「……あ、スマホ貸してくれない? さっきの動画見るから」

CER「あ、はい。どうぞ……」スッ

P野(移動時間で頭に叩き込んでやる。覚えられさえすれば、後はベルトの力で反射的に身体が動いてくれるはずだ……!)

イニ義事務所

ピピピピピピ!

タカダキミヒコ「はい、タカダです。ええ、ええ。はい……はい? そうですか。ええ」

タカダキミヒコ「では、そのまま続けてください。ええ、それでは」ピッ

イニ義「野郎の居場所が分かったのか?」

タカダキミヒコ「車だけ見つかったそうです」

イニ義「んだと?」

タカダキミヒコ「スタジオCOATという場所にモバPが使っている364プロの車があったのですか、本人はレッスンスタジオ内にも周辺にも居ないと──」

イニ義「馬鹿野郎! 車だけ見つけてもどうにもならねえんだよ!」

タカダキミヒコ「はい。ですので、そのまま捜索を続けるように言いました」

イニ義「……どうにもきな臭え。急な仕事ってのは嘘だな」

タカダキミヒコ「渋谷さん達にも伝えますか?」

イニ義「余計に心配させるだけだ、見つかるまで言う必要はねえよ」

タカダキミヒコ「分かりました。……兄貴ぃ、こちらで見つける前にモバPが戻ってきたらどうします?」

イニ義「フッ、そうだな、少し喝を入れてやろう」

タカダキミヒコ「ええ。きっと従順になりますよ」

イニ義「ああ。楽しみだ……」

短いですがここまで
(サムソンのおっさんどもはキチガイ過ぎるので登場し)ないです

会場 控え室

P野(こ、これはまずいぞ……絶対にまずい)

CER「……? どうしたんですか中野さん」

P野「い、いや……」

「ちょっとー、時間無いんで早く座ってくださいよ」

P野(メイクと髪型のセット! 顔はヘルメットで覆われてるんだから、触られるのはさすがにまずいですよ!)

P野「ちょっ、ちょっとトイレ行ってきます! 先に智絵里着替えさせといてください!」

CER「中野さん!?」

ガチャバタン,タッタッタッ……


P野(脱げるかなこれ……っ!?)スッ

スポッ!

P「あっさり取れるのか(呆れ)」

P(この状態で変装機能を使えば誤魔化せるか?)

「おい君君、こんなところで何してるんだい? ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」

P「え? いや、俺は関係者──」

「嘘を言うな! そんな変な格好の奴が演者の関係者なわけないだろ!」

P「え……?」

P(もしかして……ヘルメットを取ったから変装機能が解けたのか!?)

P「……逃げる!」タッタッタッタッ

「あっ、おい待てい!(江戸っ子)」

男子トイレ

P(警備員を走って巻けたし、どうやら変装が切れただけで変身状態は維持されてるらしいな)

P(しかし、ヘルメットを外した状態で変装機能を使うことは出来ないようだ。鏡に映る姿はいくらベルトをいじっても変わらない)

P(ならどうする……あのメイクさんを追い出せれば何とかなるか?)

P(でも下手なことを言って智絵里の事まで悪く思われるのは避けたい……)

P(他人に成り済ますってのは難しいなぁんん?)

P(と言いつつ……一ついい案が浮かんできたぞ)

P(一人で隠し通すのが難しいなら、いっそ共犯を作ってしまえ!)

P(なんたって今の俺は────)

スチャッ,カチカチ

GO P「神にだってなれるんだから、な」

会場外

スタ,スタ,スタ……

「お、おい。あれって」「うせやろ?」「いや、間違いない!」

ザワザワザワザワザワザワ!

「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GOisGOD!」

GO P(結構気持ちいいよこれ……っとと、早く目ぼしい奴を見つけて戻らないとな)スタスタ

「GO is GOD!」「GO is GOD!」ズササササ

GO P(……こっちが近づくと離れてくな)スタスタ

「GO is GOD」ズササササ

GO P(このっ……!)

スタスタスタ、ズササササ,スタスタスタ、ズササササ,スタスタスタ、ズササ──

GO P「お前漫才やってんじゃねえんだぞ!」

「」ビクッ 「神がお怒りだ!」「こ世界の終わりか……!?」

GO P(だ~っ、やっぱ全然気持ちよくねえ! 反応がいちいち大袈裟すぎる!)

GO P「おいそこのお前、じゃなかった君さ、ちょっと来てくんない? すぐ終わるからサ」

「お、俺すか……?」

GO P「そう。すげーよ、簡単だから。パパパっとやって、オワリっ!」

GO P(GOの口調はわりかし真似出来てる……気がする)

ザワザワザワザワザワザワ!!

「どういうことだ?」「何故神がこんな奴を」「それに聖也様の姿が見えないぞ」

GO P「あの、さ。俺の言うことが聞けないワケ? バラまくぞこの野郎!」

「主には主の意志があります」「神を試してはいけない(戒め)」「GO is GOD!」

GO P(多少怪しまれようが神性でゴリ押しすれば大丈夫だな)

「お前、早くGO様の下へ行くんだ」「神を待たせるな」「あ、あぁ……」

GO P「じゃ、詳しい話するからこっち来てくれる?」

「はい……」トボトボ

GO P「別に怖がんなくていいから。そうだ、君三浦さんに雰囲気似てるから、ミュラーって呼んであげるよ」

偽MUR「あ、ありがとうございます……」

GO P「ミュラーくんには特別に、俺の力をちょっと見せてあげるよ」

偽MUR「力……?」

パチン

SIY P「こういう力なんだけど」

偽MUR「!? か、神が、天使に……!」

パチン

GO P「この力を使ってさ、今から君と一緒に──」


……

短いですがここまで

控え室

ガチャ

CER「中野さん!」

P野「ごめんごめん、待たせて」ニコニコ

「やっと戻って来たわね……って、そっちの人だれ?」

偽MUR「あっ、や、俺、は……」チラッ

P野「……」カチカチ

P野「中野くんの専用メイクを務めさせていただくミュラーといいます」ウツムキ
偽MUR「(口パク)」

P野(ここで突っ立ってくれていれば、後は俺が声を変えて一人二役をこなせる……)

「は?(威圧) 専属メイクとか聞いてないんですけど」

CER「そんな人居ましたっけ……?」

P野「今日のステージのためにお願いしたんだよ、な?」

カチカチ

P野「はい、その通りです」
偽MUR「(口パク)」

CER「そうなんですか」

P野「ということで、君もう帰っていいよ」

「はぁ? 何それ、意味わかんない」

P野「いいからハイ!」

CER「またよろしくお願いします」

「何か変なのよねぇ……」

ガチャ,バタン!

P野(よし、あのメイクは追い出せたぞ。後は適当にメイクされてるフリをすれば完璧だ)

偽MUR「ご、GO様、これは一体どういう……何故こんな──」

ガシッ!

CER「……?」

P野「君は余計なこと考えなくていいから、言われた通り俺をメイクするフリだけちょっとやってくれればいいの。分かったか?」ボソッ

偽MUR「」コクコクコク

CER「どうかしましたか?」

P野「なんでもないよ。時間もないし、手早く頼みますよメイクさん」

偽MUR「……どうやればいいんですか?」ボソボソ

P野「なんでもいいからこの辺の道具を顔にポンポンやってりゃいいんだよ!」スタッ

偽MUR「はっはいっ!」ガチャガチャ

CER「だ、大丈夫ですか……?」

P野「あぁいやなんでもない、なんでもないよ……」

偽MUR「で、ではこの白いポンポンする奴を……」スッ

カツッカツッ

偽MUR「……?」ポンポン

カツッ,カツッ

偽MUR「???」

P野「どうかした……しましたか?」

偽MUR「か、顔の、感触が変な気がするのは私だけでしょうか……?」

P野「……」スタッ

偽MUR「ヒッ!」

P野「お前ごときが俺の顔に直接触れられると思うな。いいから黙って言うとおりにしろ」

偽MUR「はっはふっぃ!」

P野(これで問題は無いだろう)スタッ

コツコツコツ,トントントントン……

P野(と思ったけど音がちょっと変ですねこれは……まぁ仕方ない)

偽MUR「こ、こんな感じでいいでしょうか」

P野「うん。ありがと……ありがとうございます」

P野(顔をメイクを受けたように変えて、と)カチカチ

偽MUR「どういうことなの……(レ)」

CER「中野さん、衣装はフィッティングルームの中にありますから」

P野「ああ分かった。じゃ君、もう帰っていいよ」

偽MUR「あ……はい」

ズイッ

P野「もちろん、ここでのことは他言無用だよ。喋ったら……分かるな?」ボソッ

偽MUR「」ブンブンブンブン

P野(まあ本当にどうにかするつもりはないが、一応釘をさしておかなきゃな)

CER「あの、中野さん。一人だと着るの大変だと思いますけど……」

P野「えっ? ああっ、そ、そうだよな! じゃあ智絵里に手伝ってもらおうかな~」

CER「えっ!?」ビクッ

P野「あ嘘嘘、冗談だから。ミュラー君も何出ていこうとしてんのッ!」

偽MUR「だ、だってもう」

P野「今の話聞いてたでしょ? 俺の着替えを手伝う!」グイグイ

偽MUR「ははっ!」

トントントン

P野「なんだよ今度は!」

ガチャ

GO「どうもこんちわっす」

P野・偽MUR「!!?」

CER「ご、GOさん……!?」

偽MUR「か、神が二人……?」

P野(本人登場はまずいですよ!)

GO「別に怖がんなくていいよ。ちょっと挨拶に来ただけだから」

SIY「今日はよろしくお願いします」

CER「こ、こちらこそよろしくお願いします……」ペコッ

偽MUR「あ……だ……まさか、お前……」クルッ

P野(ここで騒がれたら終わりだぞ、どうする!?)

GO「ん? あれ、君……」

P野「……っ」ゴクッ

偽MUR「GO様! こいつはGO様の名を──」

スッ

GO「ままそう、焦らないで。大体読めてきたから」

偽MUR「ははっ」シュタッ

P野(読めてきたってこいつまさか、いや、そんな……)

GO「まさか君が……ねぇ。中々面白いこと出来るんだね君」

P野「!!」

P野(こ、こいつ……俺の正体を見抜いている!)

P野(ヤバイぞ、ミュラー君を騙したことも多分気付いてる!)

GO「ま、お互い今日は頑張ろうよ。中野クン」

P野「あ、あぁ……」

GO「んじゃ、また後でね」スッ

P野「な……」

偽MUR「GO様! いいんですか!?」

GO「えぇ? 俺は挨拶に来ただけって、今そう言ったでしょ」

P野(俺を見逃すつもりなのか?)

偽MUR「ですがこの男は──」

GO「それより君さ、随分なれなれしいけど誰? 知り合いだっけ、聖也知ってる?」

SIY「いや」

偽MUR「お、俺はその……」

GO「部外者は外に出てなよ。最近困ってるんだよね、君みたいに勝手な事をする奴が多くて」

P野「!」

偽MUR「は、はい……」

ガチャバタン

GO「それじゃ今度こそ失礼するよ。正々堂々、小細工ナシで頑張ろうね」

CER「は、はい」

GO「……ただ今回は何があろうと、絶対に俺達が勝つけど、ね」

P野・CER「…………」ゾクッ

ガチャ,キィー……バタン

CER「……メイクさん、GOさんのファンだったんですね」

P野「あぁ……」

P野(GOは一部の信者が暴走していることを知っていたんだ。おそらく、中野くんに近づいていたことも)

P野(GOにとってこのステージは、敗北の汚名を返上して暴走している信者を沈める絶好の機会。それが不戦勝になっては目的を果たせない)

P野(だからこそ、俺を見逃してくれたんだ……ステージで完膚なきまでに倒すつもりで)

P野(しかし変装どころか、俺が変身してることまで一瞬で見抜くとはマジで人間じゃないな……そいつと今から戦うのかと思うと身が震えるぞ)

P野「でも、やるしかない……」

CER「え?」

P野「勝つしかないよな、絶対!」

CER「はっはい! 怖がってたら、ダメですよね!」

P野「ふぅー、じゃあさっきの動画もう一回見せてくれない? 最後の確認ってことで」

CER「ま、またですか? いいですけど……あの、着替えは」

P野「ああそうだ、まずは着替えだな! 一人で出来るから心配しなくていいぞ」

P野(どうせ衣装を見てその格好に変装し直すだけだしな)

CER「は、はぁ……」

P野(智絵里はますます怪しんでる表情、っていうか俺ももう普段と同じように喋っちゃってるけど……まあ、後から何とでもなるさ!)


……
………

「お待たせいたしました。ただいまより、アイドルアルティメイトトーナメント部門、三位決定戦を行います!」

ワァァァァァァァ!!
「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」

「登場するのは、ここまで数々の対戦を勝ち抜いて来ましたが惜しくも準決勝で敗れた両ユニット! ────」


P野(この司会なんだか話が長そうだな。……それにしても凄い歓声だ)

「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」
ウオオオオオオオオオ!!!

P野(今からこの歓声の中に出てって踊るんだよな……あーもうおしっこでちゃいそう!)

P野(プロデューサーがステージに立つなんてもういよいよ何でもありだよ! クソッ!)

P野(はあ、変身してるってのに妙に身体が重い。これが本番前の緊張って奴か……)チラッ

CER「……」

P野「……緊張、してるか? 智絵里」

CER「えっ? はい、それは、もちろん……」

P野「やっぱりな♂……でも、ステージ上ではそんな素振りを全然見せない。なんでだ?」

CER「え……そんなこと、ないと思いますけど……」

P野「いやいや、曲が始まったらちゃんと歌って踊れてるじゃないか。それだけで凄いんだよ」

CER「一生懸命やろうとしてるだけで……本当、いっぱいいっぱいですよ。そんな私でもここまで来られたのは、支えてくれる人が居るからだと思います」

P野「支えてくれる人、か……」

CER「ファンのみんなや、カーリーさん。中野さんもですし、それに、モバPさんも……」

P野「俺もか!? 嬉しいねぇ」

CER「ユニットの仲間じゃないですか、もちろんですよ」

P野「あっ、うん。そうだね……」

CER「……やっぱり一人じゃなくて、見守ってくれる人が居るからこそ、頑張れるんだと思います」

P野「そうか……そうだよな。じゃあ俺は、智絵里のために頑張るとするよ」

CER「えっ!? わ、私のため、ですか?」


「さあ、それでは登場していただきましょう。『神×聖』そして『チェリークローバー』の皆さんです!」

ワァァァァァァァ!


P野「ああ。それじゃ、行こうか」スッ

CER「あっ、ちょっと待ってください!」スーッ

P野「ん、どうした?」

CER「あの、これ、付けてくれませんか?」スッ

P野「ん、四つ葉のクローバー……のバッジか?」

CER「はい。元はストラップとかキーホルダーにするアクセサリーなんですけど、留め具を付けてバッジにしてみました」

P野(なるほど、この形……初めて会った時にくれた奴と同じ物から作ったんだな)

CER「胸のところに付けるといいと思います。……今さら言い出してすいません」

P野「いいよいいよ。かわいいワンポイントになるな」スチャッ

P野(直接サイバーZのコスチュームに付ける形になるが、まぁいいだろう)

ザワザワザワザワ……

P野「っと、早く出ていかないとマズイな。行こう!」ギュッ

CER「はいっ!」

タッタッタッタッ……ワァァァァァァァ!!!

P野「!」スタッ

P野(舞台袖からステージの中心まで一気に駆け抜けるつもりだった足が途中で止まった)

────────! パチパチパチパチ!

P野(観客席の方を向いた瞬間に何百何千もの視線が突き刺さって、そのままじっと見つめるしかなかったのだ)


P野「…………」ボーッ

CER「中野さん……?」

P野「! わ、悪い悪い」スタスタスタ


P野(智絵里が繋いでいた手を話してこちらを呼び掛けるまで、俺は完全に放心状態だった……)

P野(これがアイドルたちの見ている景色なのか! こんな、こんな大勢の前で、自分を見せてるっていうのかよ……)

「さあ両者出揃いました! 早速対戦に移りたいところですが、その前に意気込みを伺ってみましょう」

ワァァァァァァァ!

「ではまず、チェリークローバーのお二人から。中野くん、どうですかこの武道館の舞台というのは?」

P野「え? あぁいや、その……えっと、ですね、あの……」

P野(や、やばい……何も浮かんで来ない)

「…………」

P野「あ……どっ、だっ……」

CER「え、えっと! とっても大きな舞台だから緊張してるみたいです。私もですけど……」

「なるほど、それはそうでしょうね。ですが緊張に負けず、頑張ってください」

CER「はいっ!」

パチパチパチパチ!

P野「…………」ハァッハァッ

P野(動悸が止まらない……あの一瞬、会場全体が俺を見つめていた。頭が真っ白になって何も考えられなかった……)

「では続いて神×聖のお二人に伺いましょう」

ワァァァァァァァ!
「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」

GO「みんな静かにね。また進行しづらくなっちゃうから」

シーン……

「ありがとうございます(半笑い) お二人はもう、武道館なんて慣れっこじゃないですか?」

GO「どうだろう、ねぇ。分かんないね」

SIY「そんなこと無いですよ」

P野(この二人は、いや、俺以外はこの雰囲気の中でも全く動じていない! しかり受け答えして、表情も自然のままだ)

P野(落ち着け……せめて俺も笑顔ぐらいは作るんだ。いつもアイドルに言ってることじゃないか)ニコニコ

「──なるほどそうですか。それではいよいよ、対戦に参りましょう!」

「GO is GOD」「GO is GOD!」
ワァァァァァァァ!

P野(え、嘘もう!? まだ心の準備が出来てないぞ!)

「準備はいいですか? それではミュージック、スタート!」

P野(だからよくないっつってんじゃねーかよ……)

~♪

P野(なんて言ってる場合じゃねえ! 動かないとダメじゃないか!)スタタッタッ

P野(重要な出だしの場面は何度も見直した! 今の俺の身体能力なら動けないこともないはずなんだ!)キュタッキュッ

P野(だから踊れてるよな? ミス、してないよな……?)タッタタッ

ドサッ!

CER「きゃっ!」

P野「!」スッ

ギュッ,グルーッ! パッ……ヒュー! パチパチパチ

P野(あ、危ない……間一髪手を掴めた。そのままぐるっと回って、それっぽい動きに見えたはずだ……)

P野(アイドルのダンスってよりかは体育祭のフォークダンスになってしまったが、転倒するよりはマシだろう)スッタッシュッ

P野(しかし、クソッ! 頭では分かっているのにミスしてしまった!)

P野(このダンスは複雑に動く立ち位置を完璧にしてこそ、個々の振り付けが映えるっていうのに!)

~♪

P野(悔やんでる余裕はない。もうイントロが終わって歌いだしだ……ん? 歌……?)

CER「~~♪」

P野(しまった! ダンスの事ばっかりで歌をどうするかまったく考えてなかった!)

P野(というか、歌唱力までは真似できないんだからどうしようもない……ならもうどうにでもなれ!)スーッ

P野「パパのチンチン入ってる~♪ アタシのおまんこに入ってる~♪ 気持ちいい……」

とりあえずここまで

P野(やってしまった……いや、やってやったぞ! もうこのまま突き抜けるしかない!)~♪

キュッターン、スタッフッタッ

P野(歌とダンス、両方に意識を集中させなきゃいけないのが辛いな。普段の俺なら30秒でグッタリだ)

P野(それをアイドルたちはよくもまあ、二曲も三曲もやっていられるよな……)スタタッ

CER「っ!?」

P野「おっぶえ!」クルッ

P野(こんな時にのんきな事考えてるからまたミスをする! すまん智絵里!)

P野(でもまたすんでのところで回避出来た……変身のおかげで咄嗟の判断力も思考速度も上がってるらしいな)

P野(だったらそれを少しでもこのステージに活かすんだ! じゃなきゃGOになんて到底……)


「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」「やはりGOは神だ!」

GO「いいね、盛り上がってきてるね」

SIY「~♪」


P野(勝てるのか? 三位決定戦の演奏曲数はこの一曲だけ、それにたたでさえ、ここまでの俺のミスで差は開いてる)

P野(負けるわけにはいかないが、しかし何の策も無しに続けたところでこのままでは……)スタッキュッ

~♪

P野(もうサビに入る……何か俺にできる事はないのか? 今の俺だからこそ出来る……)

CER「~~♪」キュッタッタッ

P野(ちょうどサビに入るタイミングで智絵里と俺が一直線に重なる。智絵里が前に出るから、俺の胴体が隠れる形だ)スタタッ

P野「……!」

P野(思い付いたぞ、今の俺だから出来る突拍子もない演出を!)

~♪

P野(今だ!)カチカチカチ

スッ,タッタッタッタッ……オォ~,パチパチパチパチ

CER「~♪ ……えっ!?」

P野「ほら、このまま続けないとご褒美はないんだぞ?」

CER「はっ、はいっ!」キュッ,ターン

P野(智絵里と重なって俺の体が隠れるわずかな時間、その一瞬で衣装替えを行ったのだ)

P野(ベルトを少し弄ればいいだけだから難しくはない。それでいてインパクトは大きかったはずだ)

P野(観客以上に智絵里が一番驚いてしまったのは誤算だったが、とにかくこれは使える! やれるタイミングでどんどんやっていこう)キュッ,タッシュッ

スッ……スタッ,ワァァァ! foo↑

CER「! っ……~~♪」キュッターン

P野(また上手くいったぞ! 智絵里も合わせてきてるな!)


GO「へぇ……道理で、ねぇ」パチン!

「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」


P野(しかし観客の反応が思ったより少ない。GO信者の勢いに押されてるのか? あるいは……いや、とにかくもう一度だ!)

シュッ,タッ,タタッ,タッタッタッ……

P野(よし、ここでまた一瞬すれ違うからそのタイミングで──)

CER「……っ」フラッ

P野(な、なんだ!? 俺の直線上に居たらぶつかっちまうぞ!)スッ

CER「……~♪」スッ,クルッ

P野(気付いていないのか……? いや、ミスしても俺みたいに大げさにはしないって事かな)

P野(……乱発すると飽きられるし、後半のここぞって時のために温存しておくか)

P野「形にとらわれるな~♪ 常識に縛られるな~♪ 人目、気にするな~♪」

「GO is GOD」「GO is GOD」「聖也くーん!」

P野(ちっ、馬鹿の一つ覚えのGO信者に加えてクソノンケの嬌声まで聞こえて来やがった。やはり来場しているファンの数がそもそも違うな……)

P野「このっ……!(焦り) 横ステップだ横ステップ!」キュッキュッキュッ

CER「っ!?」

P野(やばっ、またやっちまったか!?)キュッターン,クルッ

CER「……」スタッスッキュッ

P野(……あれ?)

P野(今のは俺がミスしたのかと思ったけど、違う。智絵里が本来停止する位置を越えて俺に近づいてきたんだ)

CER「~♪、……」スッタッタッ

P野(どことなく歌声もか細くなってきたんじゃないか……? どうしたんだ一体)

「GO is GOD」「GO is GOD」「GO is GOD」

P野「……!」

GO『気付いたかな?』

P野「っ!?」スタッ

ドサッ!

CER「ひゃっ!」フラッ

P野(や、ヤバい、倒れる!?)

ギュッ,スーッ!

CER「っ……」ダキッ

P野「ちょっ……!?」ギュッ

ワァァァァァァァッ! ヒューヒュー!

P野(ここで一番盛り上がるなんて下世話だぞ観客!)

GO『熱いねぇ。いきなり抱き合うなんて』

P野(お前がいきなり話しかけてきたから! ……あれ?)

GO『ふふっ、いちいち反応が面白いね君は』

P野(こいつ、俺の中に勝手に挿入ってきやがった!?)

CER「……」フラーフラー

P野(これが噂に聞く洗脳なのか? 答えろ!)

GO『人聞き悪い言い方しないでよ。俺はただこう、ちょっと背中を押してるだけ』

P野(ふざけんな! 今すぐ智絵里にかけた洗脳を解け!)

GO『解くとか解かないってモノじゃないんだよねぇ。だって後押ししてるだけだから』

P野(な……じゃあ、智絵里はもう……)

GO『ふふ、それはどうかな?』

P野(は? っていうかおい、話しかけてない所まで勝手に覗くな!)

GO『ゴメンゴメン、面白いからさ。じゃあこの辺でお喋りは止めにしようか。君には効かないみたいだしね』

P野(俺には洗脳が効かないってことか? これも変身してるおかげだろうな……)

GO『最後に言っとくけどさ、君たちいつまで抱き合ってるつもりなの?』

P野(えぇ? ……あっ!)ギュ

CER「……」

GO『あ、後さ。このままだとつまんないから、もうちょっと何か抵抗してよね。勝つつもりなんでしょ? 一応』

P野(なんだテメエ……♂ 言われなくても絶対勝つ! お前も呑気に話しかけてる暇があったら、自分のステージに集中しやがれ!)

GO『そう? じゃあ───』スッ

ウオオオオオ! ワアアアアアアアアア!
「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」

P野(あの野郎、とことんコケにしてくれる……もう許さねえからなぁ?)

~♪

CER「あ……ご、いず……」

P野(まずは智絵里をどうにかしなないとな。っていうか離れなきゃダメだろいい加減!)ズイッ

CER「ぁ、っ……」フラッ

P野「おっ、おい!?」キュッタッ

オォ~foo↑

P野「お前社交ダンスやってんじゃねえんだぞ! しっかりしろ!」

CER「あっ……私、私っ……」

P野「歌えよ智絵里!」

CER「……~♪」タッタッキュイッ

P野(正気に戻ったか? ……まだだな。上の空のままとりあえずパフォーマンスを再開したに過ぎない)

P野(GOは俺にやったように智絵里にも何かを語りかけたんだろう。恐らく、内心抱えていた不安や緊張を煽るような)

P野(だったら、逆の事をやってやるまでだ……!)

キュッ,タッタッキュッターン

P野(今度は俺が智絵里の前に出る形で一直線に重なる。そのタイミング!)

P野「っ!」クルッ,グイッ

CER「えっ……!?」スッ

P野(俺が突然振り向いて智絵里の背中に手を回す!)

CER「な、中野さん……」

スーッ……

CER「ぁ、いやっ……!」ツムリ

P野(顔を近づける俺に智絵里が目を閉じたその一瞬!)カチカチ

カチッ

「お前、何下手なパフォーマンスしとんねん」

CER「え……?」パチッ

「歌もダンスも全然レッスン通り出来てないやん! どうしてくれんのこれ!」

CER「すっ、すいません……」

「実力で負けてるかどうかは別として、自分の全力を出し切ってないのに勝てる訳がないやろ!」

CER「…………」

「他の全部負けててもええ。けどな、GOを倒すっていうんならせめて、気持ちで負けるなや!」

CER「気持ち、で……」

────────

カーリー『気持ちで負けとる奴がどうやってトップアイドルになるねん!』

────────

CER(そうだ……私、気持ちだけは負けてないってあの時言えた。なのにっ……!)

「ええか、最後まで諦めんなよ。お前と中野くんなら絶対勝てる」

CER「はいっ! カーリーさ──」

カチッ

P野「自由に恋しよう~♪」タッタッキュッ

CER「あ、れ……?」

ワアアアアアアアアアッ!
「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」

CER(……きっと、私が不甲斐ないからだ。最後まで、精いっぱい頑張らなきゃ!)キュッターン

P野「ほら変態アイドル行くぞ」スッ

CER「はい! パパのちんちん入ってる~♪ わたしのおまんこに入ってる~♪ 気持ちいいよぉ……♪」

とりあえずここまで

P野(ひどいエセ関西弁だったが何とか成功したみたいだな。智絵里の動きが戻った)

P野(っていうかそんな汚い歌詞歌わなくていいから……)


「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」
ワアアアアアアアアア!

P野(問題はここからどうするかだな。正直、この辺の振り付けは覚えてない……)

P野(雰囲気を崩さないようそれっぽく動いてるが、審査員は騙せないだろうな……)

P野(そもそも、あれだけミスしてしまった以上はこのまま続けても勝てる可能性は低い)

P野(智絵里とカーリーには悪いが、もう元の演出は無視するしかないもな……)キュッターン

CER「……? ~♪」スッターン

P野(さっきから適当に動いてるのは智絵里もとっくに気付いてるだろうな……クソっ、あんな事言っておいて俺が足引っ張ってどうする!)

P野(やはりここはもう一度衣装チェンジでアピールするか? いや、まだ早いような気もする)

P野(それにまず、振り付けが分からないから智絵里に重なるタイミングがはかれないんだよなぁ)

P野(だったらどうする……いや待て、なにも変身だけがベルトの機能じゃない)

P野(変声機能! これを使って七色の声を操り、一気に歌の評価を上げる!)カチカチ

P野「あ~♪(RN)、あ~♪(CHR)……あ~♪(UDK)」

CER「!? ……~♪♪」

P野「あ~? あぁ↑ あぁ↓」

P野(……やっぱダメだこれ、イメージがはっきりしてないから思ったような声が出せない)

P野(第一、出せたとしても歌ってるのが俺じゃあね……まるでカラオケで無理して声張り上げてる奴みたいだぁ……(直喩))

P野(地声が一番! ラブアンドピース!)カチカチ

P野「~~♪ …………あっ!」

P野(中野くんの声に戻さなきゃいけないのに俺の声に戻しちゃってたよ、ヤバいヤバい)カチカチ

CER「……」チラッ

P野(智絵里が一瞬こっちを向いた気がするが、気にしないでおこう……)

P野(しかしやってしまった、今のはただボーカル評価を下げただけだぞ……GOに追い付くどころか自分から離れているじゃないか)

P野(変声が駄目ならやっぱり変装しかない。ここまで来たら衣装だけじゃなくて、顔も他のアイドルにチェンジするか?)

P野(それかいっそ、逆に変装を解いてサイバーZとして踊るとか……どっちもダメだな、あまりに突拍子が無さすぎて観客が引いてしまう)

~♪

P野(間奏に入って後は最後のサビを残すのみか……クソっ、何も思い浮かばない!)

CER「……」キュッタッタッ,クルッ

P野「……すーっ、はぁーっ」スタッ

P野(諦めるな! 智絵里は一生懸命やってる、俺にだってまだ何か出来ることがあるはずだ!)

P野(発想を変えよう。元の演出は無視するしかないと決めつけてたが、逆にそれをもっと活かす方法があるんじゃないか?)

P野(ずっと滅茶苦茶な歌詞で歌ってたが本当はこの曲、複雑な恋愛模様を歌った名曲なんだよなぁ……)

P野(その歌詞を表現するため、俺と智絵里がすれ違ったり重なったり、とにかく立ち位置が細かく変わる振り付けになっているんだろう)

P野(しかし、俺が正しく踊れていないせいで表現しきれていない! だったら、それをベルトの力でなんとか──)

GO『必死に考えてるところ悪いけどさ、もう決めちゃうよ? 勝負』

P野「!?」

P野(あの野郎また頭の中に! GO! 一体何をするつもりだ!)

~♪

P野(おい、無視するなよ!)


「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」

GO「~♪ いいね、みんな今日は盛り上がってるじゃん」

ワアアアアアアアアア!
「GO is GOD!」「GO is GOD!」

GO「じゃあ今日はちょっと、サービスしちゃおうかな?」スッ

ザワザワザワザワザワ!!!


P野(なんだ、会場全体がどよめいてるぞ……よく聞こえなかったが、GOが何かするのか?)

「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」

GO「よし、じゃあ──」

SIY「君はGOの裸をみて……ゴー、ゴッ、ゴー!」

GO「~♪」ヌギッ


ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!


P野(ぬ、脱いだ! 脱いだのか!? そもそも脱ぐって何をだ!?)

ワアアアアアアアアアアアアアア!!

P野「────!」

P野(だ、駄目だ、声が歓声で完全にかき消された。もう演奏が聞こえないレベルだぞ!?)

GO「う~ん、いいねぇ。涼しい。聖也も脱ぎなよ」

SIY「はい」ヌギッ

キャアアアアアアアアアアアアアア!!!

P野(これがGOの本気か……まったく、ホモアイドルは脱ぐことしか考えないのか……)

P野(なんて考えてる場合じゃない。こっちも何かしないと、もう曲が終わってしまう!)

~~♪

P野(このままじゃマズイが、しかし、一番重要と言ってもいい最後のサビは優先して振り付けを覚えた。だから動ける!)タッタタッスタ

CER「~♪」タッタッキュタ

P野(でもラスサビは立ち位置移動がなく、横に並んで踊るだけ……変装機能は使えない)スッタッタッ

P野(しかし最後の最後、アウトロではステージの両端へそれぞれ移動した俺と智絵里が歩み寄り、ステージ中央ですれ違う、という動きがある。何かするそこがラストチャンスだ)

P野(どうする……衣装チェンジするとしたらどんな衣装だ? 最初の衣装に戻すか? いや、それじゃ何のアピールにも───)

ワアアアアアアアアアアア!ギャアアアアアアアア!

P野(GO信者の歓声がうざってぇ!)

CER「────、…………」スタッ,スタ,スタ……

P野(まずい、歌詞が終わった。もう考えてる時間もない!)スタ、スタスタ……

P野(何をしてやればいい、何を……ッ!)

スタッ、クルッ,スタ、スタ、スタ……

P野「くそっ……」ボソッ

CER「────」ニコッ

P野(智絵里が、笑った……?)

スーッ

P野「……!」カチカチ



「そこまで!」

ワアアアアアアアアアアアッ!
「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」

「両者ともに大変素晴らしいステージでした! それでは、審査の結果が決定するまでしばらくお待ちください」

GO「んしょっと、みんなあんまり騒ぎすぎないようにね」スルスル

「神々しい……」「やはりGOは神」

SIY「」スルスル

キャーワーキャワー!

SIY「あ、みなさんも他のお客さんの迷惑にならないようにお願いします……」

ザワザワザワザワザワ……


P野「智絵里……」

P野(ライブが終わる寸前、俺は自分のものではなく智絵里の衣装を変えようとした)

P野(しかしそんな咄嗟に良い衣装が思い付くはずもなく、結果的には、何も出来なかったのだ)

CER「どうしたんですか?」

P野「何度もぶつかったり、振り付けを間違えたり……足を引っ張ってばかりだった。ごめんな、本当」

CER「そんなことありません! 今日ステージに立てたのも、ここで最後まで頑張れたのも……中野さんのおかげですから」

P野「そう、か……すまん、気を遣わせて」

CER「謝らないでください。私だって、駄目なところはいっぱいあったと思いますから」

P野「……結果を待とうか」

CER「……」コクッ


……

「はい、ただいま審査が終了し、三位入賞となったユニットが決定いたしました」

ザワザワザワザワ……ゴーイズゴッドゴーイズゴッド……

「審査員らによる選評がありますので、それを読み上げたのち、LIVEバトルの勝者を発表いたします」

P野(俺と智絵里のステージ、審査員の目には果たしてどう映ったか……)

「選評。『神×聖』『チェリークローバー』ともに全体的なパフォーマンスのレベルは非常に高かった。神×聖はボーカル、ダンス、ビジュアルという三要素に大変秀でており、チェリークローバーはそれ以外の演出面、衣装替えなどのアピール面で優れていたという印象だ」

「さて、勝敗を決定するにあたってはまず、観客の反応を参照した。ライブ中最大の盛り上がりを見せたのは、神×聖の二人が上半身の衣装を脱いだ場面であるる。このアピール自体は技術の要った物ではないが、会場全体が震える程の盛り上がりは大きく評価出来る」

「次に注目したのは、ライブを通して見られたミスの数である。神×聖のパフォーマンスにははっきりミスと言える物は見られなかった。対して、チェリークローバーは全体通してダンスのミスが非常に目立っていた。これは残念な点だが、しかし、ミスを何度も重ねてなお雰囲気を崩さず歌いきったのは一定の評価に値する」

「選評は以上です。これらの観点から審査が行われ、勝者が決定しました」

P野(衣装替えの評価は高かったようだが、やはりミスが大きく響いてるようだな……)

「それでは、結果を発表いたします。アイドルアルティメイト三位決定戦、勝者は────」

ザワザワザワザワザワ……


「『神×聖』!」


ウオオオオオオオオ!パチパチパチパチパチパチ!
「GO is GOD!」「GO is GOD!」「私にとって彼はアポロンでした」「聖也くん最高!」「GO is GOD!」

「GO is GOD!」「GO is GOD!」「GO is GOD!」

P野(その歓声は、GOが右手を振りかざして信者たちを止めるまで続いた……)

とりあえずここまで

控え室

P野(ここに戻ってきて改めて、自分たちは負けたのだと実感した)

P野(今まで多田野やナオキたちが敗退するのをすぐ近くで見ていたのに、どうやら俺はその気持ちを理解出来ていなかったらしい)

P野(この気持ちは後悔や虚脱感、空しさに悲しみが混じりあったとてつもない絶望だった)

P野(そして更に言えば、今この場には普段一番近くでアイドルを見守っている人物も居ない。慰めも、健闘を讃える言葉もない)

P野(沈黙だけがただただ流れていた……)

P野「……」

CER「…………」チラッ

P野「……?」

CER「……」ウツムキ

P野(もの悲しげな表情をした智絵里が、さっきから俺の顔を見つめては目を逸らしている)

P野(もしかしたら、いい加減何か話しかけてほしいのかもしれない……もしくは、話すのをためらっているか)

P野(いずれにせよ、いつまでもこうしちゃいられないよな……)

P野「あの、さぁ……」

CER「え、あ……はい」

P野「カーリー……プロデューサさんに結果を伝えないとな」

CER「あ……そうでしたね」

P野「どうする、直接会って話すか?」

CER「そうですね。病院に行って……」

P野「じゃあ着替えてすぐに行こう。俺はそっち使うから、智絵里は反対側のフィッティングルームを使ってくれ」シャーッ

P野(カーリーには色々面倒なことを聞かれるかもしれないが、まぁ仕方ないか……)カチカチ

CER「あっ……あのっ! 病院に行くのは、私一人で大丈夫です」

P野「え?」シャーッ

CER「いや、あの……え、もう着替え終わったんですか?」

P野「あっ……う、うん。早着替え早着替え」

CER「……ずっと気になってたんですけど、中野さん、いつもは私の事を呼び捨てにしませんよね」

P野「!!!」

CER「呼び方もそうですけど、喋り方も、いつもは丁寧な感じなのに、今日は、ちょっと」

P野(や、ヤバい……智絵里はやっぱり、相当な違和感を覚えていたようだ……)

P野「は、はは……今日はほら、本番当日で気が立っててさ……です」

CER「そうなん、ですか……?」

P野「……」

P野(ステージが終わった今、これ以上中野くんのフリをしても仕方ないかもしれないな……)

P野(智絵里をこのまま騙すのも気が乗らないし、第一、俺が本物じゃない事は次期に分かるだろう)

P野(だったら今、はっきりと真実を伝えた方が──)

CER「……中野さんは中野さんですよね。変な事言ってごめんなさい」

P野「あ、いやそうなんだけど、そうじゃなくて……」

CER「いいんです。……あの、中野さんはもう、アイドル辞めちゃうんでしたよね?」

P野「え? や、まぁ、多分」

CER「そうですよね。改めて、今まで一緒に活動してくれてありがとうございました」ペコッ

P野「あ、あぁ。こっちこそありがとう。それより、病院には一人で行くって……」

CER「……ワガママです。今の気が立ってる中野さんを見たら、プロデューサーさんビックリして傷が開いちゃいますよ。ふふっ」

P野「智絵里……」

P野(何かを悟っている、そんな言い方だった)

CER「ダメ、ですか? やっぱり……」

P野「いや全然! ワガママなんて言われたら聞くしかないよ」

CER「ありがとうございますっ」

P野(まぁ、そっちの方が助かるしな)

P野「そしたら、俺はとっとと帰るかな。一人で病院まで行けるか? 迷わない?」

CER「あっ、当たり前じゃないですか!」

P野「冗談だよ冗談、ハハハ! それじゃあ、さよなら──」クルッ

CER「あっ、ちょっと待ってください! まだ話したいことがあるんです」

P野「ん?」

CER「今日のこと……勝てなかったのは、本当に悔しくて……まだまだダメだなって分かって、とても悲しかったですけど……それでも──」

CER「それでも私、あなたと一緒に歌えて本当に楽しかったです」ニコッ

P野「……ああ、俺もだよ。ありがとな」

CER「それと、あの、えっと……」

P野「……? まだ何かあるのか」

CER「はい。ちょっと変なことですから、もし違ったら全然、聞き流しちゃってください」

P野「なんだよ、遠慮せずに言ってくれ。これが最後みたいなものなんだからさ」

CER「じゃあ、あの……もし、中野さんが中野さんじゃないとしたら──」

P野「!」ビクッ

CER「もしそうだとしたら、私のためにこんなことまでしてくれて……本当に、本当に、ありがとうございます」

P野(やっぱりバレてるじゃないか(呆れ))

CER「もう感謝してもしきれませんけど……いつかまた会えたら、お礼させてください」ペコッ

P野「ハハァ……別に気にしなくていいんじゃないかな。そんなバカはきっと相当のお人好しだからさ、今の言葉だけで他に何も要らないよ」

CER「そうですか? でも──」

P野「あ~、この話はもう終わり、閉廷! 大体そんな奴居ないから、ここには智絵里と俺しか居ないの」

CER「……はい。やっぱり変でしたよね、えへへっ」

P野「(察したような笑みは)やめてくれよ……恥ずかしくなるじゃないか」

CER「ふふっ。それじゃあ中野さん、また」

P野「ああ、またな。智絵里」

ガチャ……バタン

スタスタスタ……

P野(智絵里、ちゃんと前を向けてるじゃないか……カーリーも中々いいプロデュースしやがる)

P野(っと、それはひとまずおいといて、早く凛たちの所に戻らないとな!)タッタッタッ

P野(今何時だ? 控え室に戻って来た後時計を見てなかったが、ステージが始まったのは15時だから、今は大体16時過ぎか)

P野(まずいな……凛たちのレッスンは17時まで。今から行ってギリギリ間に合うかどうかってところだ……)

P野(折角の機会なのに悪いことしちまったなぁ。またどこかで時間を作って、ちゃんと見てあげないと)タッタッタッ

P野(それにしても、なんだか身体が重い。さすがに疲れたか……)

ズキッ

P野「!!」スタッ

P野(な、なんだ……? 急に頭が、脚も震えだしたぞ……)ガタガタ

ピキッ!

P野(立っていられない……どうしちまったんだ、俺……)ガタッ

P野「……!」

P野(そうだ……変身には、いわゆるタイミリミットがあるんだった。俺の身体が耐えきれなくなったときに、この激しい痛みが襲ってくる……)

ズキッ!

P野「アァ!(スタッカート)」

P野(気を抜いたら、マジでイっちまうぞこれ……)バタン

P野「はあっ、はあっ……」

P野(思えば……本場前からやけに体がダルかったのも、ベルトのサインだったのかもしれない……)

P野(しかし、前テレビ局で変身した時は一時間ちょいしかもたなかったんだから、変身してられる時間はかなり延びたんだな……)

P野「なんて、言ってる場合じゃないか……っ!」スタッ

P野(このまま気絶したらいつ目が覚めるのか分からん……下手すりゃ二日三日じゃ済まない可能性もある)スタ、スタ……

P野(それを回避する方法は一つしかない……810プロに行って、田所にツボ押ししてもらうんだ)スタ,スタ……

P野(こんな急に戻ったら厄介な事になるのは間違いないが、もうそれしかない)スタッ

ギッ

P野「あぐっ……!」バタッ

P野(く、くそ……力が入らん、立てない……)

P野「ハアッ、ハア……はあっ……」

P野(意識が遠くなっていく……せめて、凛たちに連絡しなくては……)ムズムズ

P野「スマホ、どこだ……あれ……」

P野(あぁ、スーツのポケットに入ってるから変身したままじゃ取れないのか……なら、もう──)

P野「変身、解除……!」

ピカーッ!

P「っ……っく、が……っづ、で、電話……」スッ

ビギッ!

P「ぐぁっ! はあっ、あ、っく……」

P「…………」

P(すまん、凛、遠野、まゆ……)ガクッ


……
スタスタ……

CER(やっぱり、モバPさんだったのかな……でも、どうやって中野さんになったんだろう)

CER(衣装を一瞬で着替えたり、声が変わったり、不思議なことばかり。カーリーさんにはなんて言えばいいのかな)

CER(でも、今ならきっと……言いたいことをはっきり言えるよね)



ザワザワザワ……

CER(……? 何かあったのかな)スタスタ

「なんで部外者がこんな所で倒れてるの?」「知wらwなwいwよww」「あく救急車呼べよ」

CER(人が倒れてる……?)スッ

CER「……!」ガタッ

「ん? あ、智絵里ちゃん。ごめんね、ちょっと人が倒れてて──」

CER「う、嘘……なんで……」ガクガク

「あれ、もしかしてこの人の事知ってる? 俺もどっかで見たことあるんだけど」
「いいからあく救急車呼べよ」「お前が呼ぶんだよ!」「ん、おかのした」

CER「っ……モバPさん、モバPさんっ!」スタッ、ユサユサ

P「」

「揺らしたらダメだよ! 今救急車と人呼んだから」「AEDも持ってきてもらうからな?」

CER「どうして……カーリーさんも、中野さんも、私の大事な人、みんなっ……!」グスッ

P「」チーン


……
………

364プロ

TDN「……だから、お前はアイドルを続けた方がいいって何度も言ってるだろ」

DB「フン、そんな上辺だけの言葉」

TDN「あのなあ大坊……」

ガヤガヤガヤ

MUR「まるでホモカップルみたいだぁ……(直喩)」

DB「おい! 今なんて言った!」

MUR「あっ、なんでもないゾ」

DB「聞こえているんだぞ……冗談も大概にしろ」

TDN「そんなに怒るなよ、短気は損気だぞ。……ですが三浦さん、僕はゲイではありません。これだけははっきりと真実を伝えたかった」

MUR「そう……(無関心)」

プルルルルルルル!

MUR「おっ。(ガチャ) もしもし? ……病院? いや、ここは364プロだゾ。間違えるなよな~」ガチャ

TDN「間違い電話ですか?」

MUR「ここをどこかの病院と間違えてるんだゾ。おかしい人も居るもんだなぁ」

DB「……相手が名乗っただけじゃないのか?」

TDN「もし病院からわざわざかけてきたなら、何か重要な要件だったのでは……」

MUR「あっ、そっかぁ……(池沼)」

プルルルルルルル!

TDN「出てください!」

MUR「はいっ! ……もしもし、はい、364プロ社長の三浦だゾ。はい、は……え?」

MUR「そ、それはどういうことだゾ!? ……え? はい、はぁ。それは俺もよく分からないゾ……」

TDN・DB「……?」

MUR「……はい、はい、分かったゾ。ありがとうございます」ガチャ

TDN「何かあったんですか?」

DB「多田あたりが事故にでも遭ったか」

TDN「そういう事を言うな大坊!」

DB「……」ケッ

MUR「……プロデューサーが倒れたんだゾ」

DB「……何?」

MUR「プロデューサーが、武道館の通路で倒れていたんだゾ! それで救急車で運ばれてきたって!」

TDN「プロデューサーさんが倒れた!?」

DB「待て、武道館だと? あいつはどうしてそんな所に居るんだ」

MUR「それが病院側もよく分からないみたいなんだ……とにかく、プロデューサーは意識不明の重体らしい」

TDN「そんなにひどいんですか!?」

MUR「ああ。俺はすぐ病院に向かうから、大坊と多田野はイニ義の所に行って、凛ちゃんたちに事情を説明して連れてきてくれ」

TDN「分かりました」

DB「なんで俺がそんな事を……」トボトボ

TDN「口ではそう言っても体は正直みたいだな」

DB「チッ……早くしろ、なるべく飛ばす」

TDN「なんという病院に運ばれたんですか?」

MUR「聖バビロン大学病院だゾ。場所は分からないからそっちで調べてくれ、俺はタクシーで行く」

TDN「分かりました。大坊、急ぐのはいいがぶつけるなよ」

DB「分かってる! ごちゃごちゃ言うならお前は歩いていけ!」


……

イニ義事務所

剛竜馬「ショア! ショアシャア!」

RN「はあっ、はあ……今日は終わりだって」

遠野「あ、ありがとうございました……」ゼエゼエ

MY「……」ハァー

RN「……まゆ?」

MY「え……? あっ、どうかしましたか?」

RN「いや、別に……お疲れさま」

MY「はい、お疲れさま……はぁ」

遠野「プロデューサーさん、結局戻ってきませんでしたね……」

MY「そうですね……はぁ」

RN「……」

RN(プロデューサー……もしかしたらまた何か、変な事に巻き込まれてるんじゃ──)

ガチャ

RN「!」クルッ

イニ義「よお、姉ちゃん」

RN「なんだ、またアンタか……」

イニ義「あぁん? いくらなんでもそりゃねえだろ」

RN「……ごめん、ちょっと疲れてるみたい」

MY「イニ義さん、プロデューサーさんは見つかったんですか?」

イニ義「いや、悪いがまだだ。あの野郎、本当にどこほっつき歩いんてんだか」

MY「そうですか……」

トントン,ガチャ

RN「今度は誰?」

タカダキミヒコ「失礼します」

イニ義「おう、どうしたタカダ。モバPが見つかったのか?」

タカダキミヒコ「それが──」

スッ,スタッ

TDN「失礼します」

RN「多田野……? どうしたの」

TDN「今からモバPさんのことを話します。皆さん、落ち着いて聞いてください」

イニ義「なに?」

MY「プロデューサーさんに何かあったんですか?」グイッ

TDN「……モバPさんは今、聖バビロン大学病院という所にいます。とある場所で倒れているのが見つかって、救急車で運ばれたそうです。先ほど事務所に電話がありました」

RN「!!」

遠野「そ、そんな……」

イニ義「おい、そのとある場所っていうのはどこだ」

TDN「倒れていた場所は、あの武道館だそうです。どういうことなのか、よく分からないのですが」

MY「そんなことよりっ! プロデューサーさんは……モバPさんは大丈夫なんですか!?」

TDN「電話では、意識不明の重体だと……」

MY「な……っ」フラッ

RN「! まゆ、大丈夫?」

MY「っ、はい。ごめんなさい……」

イニ義「どうなってやがる……おいタカダ! すぐに車を出せ!」

タカダキミヒコ「はい」

タッタッタッ……スタッ

DB「……お前らも俺の車に乗れ。病院に行くぞ」

遠野「は、はい……」

MY「……」スタ,スタスタ……

RN「まゆ……」

TDN「凛さん、プロデューサーさんから何か事情を聞いていませんか? なぜ、そんな場所に居たのか……」

RN「……分からない。とにかく、行ってみないと」

TDN「そうですね……」

RN「プロデューサー……」

RN(どうして、悪い予感がした時に限って……!)

とりあえずここまで

聖バビロン大学病院

トントン,ガララララッ

MUR「おっ、みんな。ちょっと──」

MY「プロデューサーさんっ!」タタタッ,ギュッ

P「……」

ISHR先生「こら、離れなさい。彼は絶対安静でなければいけないんだ」

RN「まゆ、落ち着いて。お医者さんの話を聞こう」

MY「……はい」スッ

MUR「病院では静かにしなきゃダメだゾ~。……多田野、大坊、連れてきてくれてありがとな」

TDN「はい。しかし社長、あの子は……」

MUR「ん?」

DB「そいつだ、そいつ。名前を忘れたが、どうしてここに居るんだ?」スッ

RN「……智絵里!?」

MY「緒方、智絵里……?」クルッ

CER「……っ」ビクッ

MUR「そんなに震えなくても大丈夫だゾ。智絵里ちゃんはただ付き添って来てくれただけなんだ」

TDN「付き添い? ……そうか、そういえば武道館では今日、IUの三位決定戦が行われたんでしたね」

CER「か、会場から出る途中に人だかりができていて、なんだろうって思ったら、モバPさんが倒れてたんです……」

RN「それで自分から付き添うことにしたの?」

CER「は、はい……他に人が居なかったので……」

RN「……」

RN(プロデューサーはほぼ間違いなく今日ずっと智絵里と一緒に居たはず……嘘をついている? そうは見えないけど……)

MUR「智絵里ちゃんのおかげで事務所への連絡が早かったんだゾ~」

MY「そうだったんですね。ありがとう、智絵里ちゃん」

CER「い、いえっ、私は……」

MY「?」

RN(事情は話すに話せないってこと、かな……)

遠野「そういえば、イニ義さんたちは来ていないんですか? 僕たちより少し早く出ていったはずですけど」

MUR「来てないゾ」

遠野「あれ、おかしいですね……」

RN「気にしても仕方ないよ。それより、先生、プロデューサーの容態を詳し教えて」

MUR「そうだよ(便乗) 重体って、頭でもぶつけたのか?」

ISHR先生「いえ、外傷はありません。脳も検査しましたが、異常は認められませんでした」

MUR「じゃあプロデューサーはどうしていきなり倒れたんだ……?」

ISHR先生「それをこちらがまだ把握出来ていないからこそ絶対安静なのです。今のところ生命活動は安定していますが、容態が急変する可能性も十分に考えられます」

TDN「単なる過労という可能性はないんですか?」

ISHR先生「無いとは言い切れませんが、身体に慢性的な疲労を感じていたことを示すものはありません」

RN「いずれにせよ、いつ目覚めるかは分からないってこと……ですか」

ISHR先生「そうですね……検査をしながら様子を見るしかありません」

MY「そんな……」

ISHR先生「一つ言えることは、彼は本当に突然倒れたということですね。何者かに襲われたり、どこかケガをした拍子に倒れた……ということはありません」

MUR「そうですか……分かったゾ」

ISHR先生「では、私は一旦失礼します。くれぐれも彼を触ったり動かしたりはしないよう、よろしくお願いします」

ガララララッ,スタスタ……

DB「……明日からどうするんだ、こいつは一人で九人の面倒を見ていたんだぞ」

TDN「大坊! 今そんなことを言わなくてもいいだろう」

DB「いくら悲しんでもこいつが目を覚ますわけじゃないんだぞ。愛の力でもな」

MY「っ……!」ジッ

DB「っ、やべぇよやべぇよ……」ビビリ

RN「まあまあ。大坊の言うことにも一理あるよ。プロデューサーだって、自分の心配よりは仕事を優先して欲しいはず」

MUR「そうだよ(便乗) それだけに困るんだよなぁ、人手が足りないゾ……」

ガララララッ!

RIN「プロデューサーさんが倒れたってほん……っ、プロデューサーさん!?」

DB「うるせぇ!」

NTK「病院では静かにな、だりー」スタスタ

RIN「ご、ごめん。でも驚くよ、こんなの……」

NTK「……ああ」

KMR「まさかこんなことになるとは……」

TDN「社長が連絡したんですか?」

MUR「当たり前だよなぁ?」

RIN「プロデューサーさんは大丈夫なんですか? 一体何が……」

RN「今のところ、いつ目が覚めるかは分からないって」

RIN「えっ!? 嘘、そんなにひどいの……?」

遠野「原因が分からないそうですから、ひどいかどうかはなんとも」

KMR「それはまた……もどかしいですね」

RIN「プロデューサーが自分で起きるのを待つしかないんだ……」

CER「っ……私、私が……」

KMR「……誰か、何か言いましたか?」

CER「…………」

RIN「あれ? この子、緒方智絵里ちゃん……?」

RN「あっ、智絵里はプロデューサーに付き添ってここまで──」

ドサッ

RIN「うわっ、何、誰……?」クルッ

イニ義「どきな」

RIN「はっ、はいぃっ!」スササッ

TDN「ずいぶん遅れたみたいですが、どうしたんですか?」

タカダキミヒコ「あっ、いえ、なにぶんこういう風貌ですから」

DB「そういうことか」ククク

イニ義「あぁ……?」ギロッ

DB「ヒッ……」ビビリ

イニ義「野郎の容態は?」

RN「いつ意識が戻るかは、分からない」

イニ義「んだと……!」スタッスタッ

RN「!? やめて、プロデューサーは絶対安静なの!」

イニ義「てめえ勝手で仕事をフケた挙句このザマだぞ……ふざけんじゃねえ!」ギュウッ

RIN「ちょっ、ちょっと!」

遠野「せ、先生を呼んできた方がいいんじゃあ」

DB「警察の間違いだろ……」

ガタッ!

CER「やめてください! モバPさんは、何も悪くないんですっ!」

イニ義「あぁ……? なんだ嬢ちゃん、見ねえ顔だな」

タカダキミヒコ「兄貴ぃ、364プロのアイドルじゃないですよ。渋谷さんたちと同じでIUに出場していた、緒方智絵里というアイドルです」

イニ義「ほぉ……それで、よそ者が何を知ってるっていうんだ? あぁん?」ギロ

CER「ひっ……も、モバPさんは今日、私と──」

RN「待って、智絵里。まずは私が話す」

CER「え……」

KMR「どういうことですか、凛さん」

RN「みんな、ごめん。私、本当はプロデューサーが今日何をしていたか知ってた」

MUR「どういうことだゾ?」

RN「プロデューサーは今日、智絵里と一緒に居た。そうでしょ?」

CER「は、はい……」

遠野「え……じゃあ、仕事の都合というのは」

RN「……嘘」

イニ義「どういう事情だ。返答によっちゃあタダじゃおかねえぞ」

RN「それも今から話すよ。でも、その前にもう一度言わせて。……本当にごめん。まさか、こんなことになるなんて思わなかった」

MY「……大丈夫ですよ、凛ちゃん。だから、ちゃんと話してください」

RN「まゆ……うん。じゃあ、えっと、今日の朝のことなんだけど──」


……
RN「……私が知ってるのは、ここまで」

CER「私が電話してしまったせいで……本当にすいません」

MUR「プロデューサーは自分の意志で行ったんだから、気にしなくていいんだゾ」

イニ義「……それより嬢ちゃん、続きを話しな。モバPとはいつまで一緒に居たんだ」

CER「はい。モバPさんには、カーリーさん……私のプロデューサーさんが入院している病院に来てもらって、そこで中野さんを探して欲しいって頼んだんです。中野さんは、私のユニットの仲間で──」

イニ義「そんな過程は聞いちゃいねえんだよ。結果を話せ」

CER「は、はい……えっと、最終的に中野さんと普段使っているレッスンスタジオで合流することになって……モバPさんとは、そこで別れました。大体、午後一時ぐらいのことです」

イニ義「レッスンスタジオ? ……おい、タカダ」

タカダキミヒコ「レッスンスタジオというのは、ここの事で間違いありませんね?」スッ

CER「は、はい、そうですけど……」

KMR「どうして分かったんですか?」

イニ義「組の奴らにモバPを探させてたんだ。見つかったのは、ここに停めてある車だけだったがな」

タカダキミヒコ「午後一時というと、僕たちがこの車を見つける30分ほど前ですね」

イニ義「こいつはその後、どこで何してやがったのか……」

TDN「モバPさんが武道館に居たということは、隠れて三位決定戦を見に行ったということでしょうか」

RIN「でも、車を置いていったりするかなぁ……」

イニ義「おい、嬢ちゃん。嘘は付いてねえだろうな」

CER「ほっ、本当です! モバPさんとはそこで別れて、その後は……ずっと、中野さんと二人でした」

RN「……?」

イニ義「そうかよ……もういい、帰るぞタカダ」

タカダキミヒコ「ええ。ですがいいんですか?」

イニ義「肝心な部分がはっきりしない上にこいつが寝てるんじゃどうしようもねえ。あとの話は目を覚ましてからだ」

タカダキミヒコ「分かりました」スタッ

MUR「ちょっと待って欲しいゾ!」

イニ義「……あぁ?」

MUR「頼みがある。プロデューサーの代わりになる人間を二三人用意してくれないか? 最悪、送迎をしてくれるだけでもいいゾ」

イニ義「んなことをしてやる義理はねえよ。お前達で何とかするんだな」

MUR「……優勝を逃してもいいのか?」

イニ義「なんだと?」

MUR「送迎が無いだけでアイドルの負担は大きく増える。それが響いて決勝戦当日のコンディションが悪くなったらどうするんだ」

イニ義「……」

タカダキミヒコ「兄貴ぃ、人を少し貸すだけなら別にいいんじゃないですか?」

イニ義「ケッ……まあいい、精々二日かそこらだろうからな」

MUR「助かるゾ~!」

イニ義「ただそこまで言うからには、810プロを倒せなかったらどうなるか──」

RN「分かってる。部外者も居るんだから、あまりその事は言わないで」

CER「…………」

イニ義「フッ、そうだったな。……じゃあな、そいつが起きたすぐに連絡を寄越すんだぞ」

タカダキミヒコ「」ペコッ

ガララララッ,スタスタスタ……

RIN「えっと……じゃあ、この後はどうします?」

DB「ここに居ても仕方ないだろう」

NTK「そうだな。さっきから思ってたんだが、人が多過ぎて狭くるしいぜ」

遠野「イニ義さんたちが帰りましたけど、それでも一、二……十人も居ますものね」

RIN「……帰ろっか」

DB「フン、そうさせてもらう」クルッ,ガララララッ

TDN「では、自分も大坊と一緒に帰ります」

DB「なっ、ついてくるな!」

スタスタ……

NTK「相変わらずだな」

MUR「……あっ!」

KMR「ど、どうしたんですか?」

MUR「また事務所の鍵を閉め忘れてたゾ……(池沼)」

KMR「なら、一緒に戻りますか。僕も荷物を少し置いたままですから」

MUR「おっそうだな。じゃあ、お医者さんに何か言われたら……凛ちゃん、代わりに聞いておいてくれ」

RN「私? まぁ、いいけど」

MUR「じゃあ、また明日だゾ~」ガララララッ

スタスタ……

RIN「まゆちゃんはどうするの?」

MY「私はまだここに居ます。なるべく、傍に居たいですから」

RIN「そっか……智絵里ちゃんは?」

CER「わ、私は……」

NTK「帰るんじゃないのか? だりー。アタシももう行くけど」ガララララッ

RIN「あっ、ま待って! じゃあみんな、また明日! プロデューサーさんも、お大事に」ペコッ

スタスタ……

遠野「凛さん、まゆさん、僕も帰ります。お疲れ様でした」

RN「うん、お疲れ様」

MY「また、明日」

ガララララッ,スタスタ……

RN「あっという間に三人になったね」

MY「うふふ、そうですね」

CER「……」ウツムキ

MY「智絵里ちゃん」

CER「……はい」

MY「まだ、何か言いたいんじゃないですか?」

CER「えっ……いや……」

RN「私もさっきの話、ちょっと気になったんだけど。ずっと一緒って言ってたのに、プロデューサーを見つけた時は中野くんと一緒じゃなかったの?」

CER「いや、それは、ステージが終わった後すぐに別れたので……」

RN「なんで?」

CER「なんで、って……」

RN「ごめん。私が気になってるだけだから、答えたくなかったら、別に」

CER「……」

RN「ただ、それがプロデューサーと何か関係があるんだったら……教えて欲しい」

CER「……分かりました。でも、モバPさんと関係あるかどうかは、正直、分からないんです」

MY「大丈夫ですよ。顔を上げて、話してください」スッ

CER「はい。実は……今日私とステージに立った中野さんは、モバPさんかもしれないんです」

RN・MY「……は?(困惑)」

とりあえずここまで


……
CER「それで中野さんと別れて……そんな感じ、です」

MY「な、なるほど。確かに、それが本当なら変……ですね」

CER「……信じられないですよね。すいません」

MY「いえ、本当の事を言ってるのは分かります。でも──」

RN「うん、本当だね。プロデューサーで間違いないと思う」

CER「え……ほ、本当ですか?」

MY「何か根拠が?」

RN「ちょっと待ってて。もし、私の想像通りなら……」スタッ,ガサガサ

CER「えっ、何してるんですか……?」

MY「プロデューサーさんの上着に何か?」

RN「上着じゃなくて、隠れてハンガーに掛かってたこれ」スッ

MY「ベルト?」

RN「そう。……まゆには前話したよね、メガデスのこと。これは、サイバーZに変身するためのベルトなの」

MY「えっ?」

CER「えっ?」

RN「……ごめん、ちょっと唐突だった。とにかく、プロデューサーはこれを使って中野くんに化けたってこと」

MY「な、なるほど、そうなんですか? ……そうなんですね」

CER「えっ……す、すいません、よく意味が……いや、言葉の意味は分かるんですけど」

RN「うん、まぁそうだよね……私もどう説明したらいいか分からないんだけど」

CER「そ、そうなんですか……」

RN「……」

RN(監視カメラは……ない。よし)

RN「智絵里。ちょっと見てて」

CER「?」

ピカッ!

CER「……!? えっ、えっ!?」パチパチ

MY「わぁっ、何回見てもビックリしますね。でも……素敵です」

RN「世の中にはこういう不思議な力もあるってことだけ覚えてくれればいいよ。他の事情は、下手に知らない方がいいと思う」スッ

CER「じゃあ、モバPさんもそのベルトを使って、不思議な力で中野さんになってたってことなんですね」

RN「そういうこと。まったく……本当に無茶するんだから」チラッ

P「…………」

CER「あの、じゃあもしかして、モバPさんが倒れたのもその力を使ったから……ですか?」

RN「多分、そうだと思う。このベルトは身体にかなりの負担がかかるから、本当は長い時間変身したら駄目なの」

CER「モバPさんは、私と居る間ずっと変身していたから……」

RN「うん。プロデューサーのことだからそれでも智絵里を助けたいと思ったか、それとも──」

MY「それとも……?」

RN「実は前もこのベルトを使ったことがあるんだけど、その時はある方法で倒れずに済んだの」

CER「そうなんですか」

RN「だから、それをあてにしてたのかも。でも智絵里と別れてその方法を使おうとした矢先、力尽きて倒れてしまった」

CER「……やっぱり、私が無理なお願いをしたからこんなことに」

RN「それは違うよ。何度も言ってるけど、プロデューサーが自分で考えた結果だから」

CER「…………」

MY「それより凛ちゃん、今、倒れずに済む方法があるって言いましたよね?」

RN「うん。正確にはその時も一回倒れたんだけど、すぐに復活出来たんだ」

CER「じゃ、じゃあ……!」

MY「その、ある方法を使えば……」

RN「……プロデューサーを目覚めさせることは、出来ると思う」

MY「その方法を教えてください。まゆがやります」

RN「残念だけど、それは出来ないの。これもちょっと、事情が複雑なんだけど……とにかく、出来る人は一人しか居なくて、その人に頼むしかない」

CER「じゃあ、頼みに行きましょう! 私も一緒にお願いします」

RN「……ううん、それは私一人に任せて。なんとか上手くやってみせるから」

CER「そう、ですか……分かりました」

MY「……ずるいですね」

RN「え?」

MY「私の知らないプロデューサーさんを知ってるのは、いつも凛ちゃん。だから、ずるいです」

RN「えぇ……(困惑) そう言われても困る……」

MY「はい、だから聞き流してください。あとの事は任せますから」

RN「……うん。プロデューサーを起こしたら、もういい加減にしてって怒らないと」

MY「だったら、まゆは優しくしてあげる係ですね」

CER「じゃあ、私は……謝る係になります」

RN「えぇ?」

CER「あ……ごめんなさい」

MY「いいじゃないですか、かわいらしくて」

RN「まぁ、なんでもいいか……」

CER「あ、あはは……」

MY「うふふ♪」

RN「……くすっ」

フフフフ……

ガララララッ!

CER・RN・MY「!」ビクッ

ISHR先生「なんだ、君たちまだ居たんですか。今から検査を行うので、しばらく出ていてください」

CER「あ、はい。分かりました」

ISHR先生「……出来ればそのまま帰って欲しいですね」

MY「は?(威圧)」

RN「ちょっと、まゆ。もう日も暮れてるし、今日はそろそろ帰っていいんじゃない?」

MY「……そうですね。そうしましょうか」

ISHR先生「明日以降面会出来るかは分かりませんが、また事務所の方にお伝えします」

RN「分かりました。よろしくお願いします」

MY「お願いします」ペコッ

CER「」ペコッ

ガララララッ,スタスタ……

ISHR先生「それじゃ、続きいくよぉ~↑」スッ

シュッ、ジュズッ! ピョッ!(小鳥の囀り) プゥ!

スタスタ……

RN「エレベーター、一緒に乗るよね?」ポチ

CER「あ、はい。お願いします」

スタッ……ポチ、ウィィィィ……

MY「智絵里ちゃん、一つ聞いていいですか?」

CER「は、はい。なんですか?」

MY「ステージの上のモバPさんは、どんな人でした?」

CER「どんな……えっと……」

RN「見た目はずっと中野くんだったわけだし、答えづらいよね」

CER「はい……でも今思い返すと、ほとんど普段のモバPさんだったような気がします」

MY「普段と同じ、ですか」

RN「本物の中野くんに似せるつもりは無かったんだ……」

CER「あ、いえ、そんなことはないと思いますけど……そもそも、私が『普段のモバPさん』なんておかしいですよね。すいません」

RN「ううん、いつもの智絵里と接してる時のプロデューサーってことでしょ? おかしくないよ」

MY「智絵里ちゃんと接してる時のプロデューサーさん……なおさら気になってきますね」

CER「あ、いや……」

ピンポーン

CER「あっあのっ! 私カーリーさんの病室にも行かないといけませんから、失礼しますっ!」ポチ

ウィーン,タッタッタッ……

MY「あら、逃げられちゃいましたね」

RN「ね、って。私は何も聞いてないから」

MY「えぇ? 分かりますよ、本当は気になってるの」

RN「……そうやって心を見透かしたような言い方をするまゆの方がよっぽどずるいよ」ボソッ

MY「うふふ、ごめんなさい♪」

スタスタ……

RN「ねえ、まゆ。もし……私が失敗したらどうする?」

MY「プロデューサーさんのことですか?」

RN「うん。やってもらえるかどうか、本当に分からないから」

MY「私は凛ちゃんを信じます。ダメだったときは、仕方ありませんよ」

RN「……そっか。ありがと」

MY「もしかしたら、凛ちゃんが何とかする間に元気になってるかもしれませんよ? プロデューサーさんのことですから」

RN「ふふっ、そうだといいね」

MY「ええ。明日また、ひょっこり事務所に顔を出してて……」

RN「昨日はごめん! って?」

MY「うふふ、そうですそうです。それで次に───」



……
………

二日後

RN(ここに来たの、いつぶりだろう……)

『810プロダクション』

RN(あぁ、モバプロって名前はもう無いんだよね。正面入り口も改築したみたいだし、あの頃の面影はどこにも……)

RN「って、そんなこと考えてる場合じゃないでしょ」パチパチ

RN(プロデューサーの意識が戻る気配はまったくない。放っておいたら、最悪このまま目覚めない可能性だってある)

RN(昨日暇が無くて行けなかった分、一秒でも早く田所を連れていかないと!)

RN「…………」ムズムズ

RN(といっても、どうすればいいんだろう……受付の人に言ったら、それで来てもらえるかな?)

RN(でも、そもそも田所が今ここに居るかどうかが分からないんだよね、それ一番言われてるから)

RN(せめて卯月や未央と連絡がとれれば良かったんだけど……ちひろさんを恨むな)

RN「……」スゥー,ハァー

RN(あれこれ考えても仕方ない。まずは、行動しないと……!)スタッ

ウィーン

RN(最初に卯月か未央を呼んで、その後田所を──)スタスタ

ガシッ

RN「……あれ?」クルクルクル

RN(誰かに持ち上げられてる……!?)

「渋谷凛さん、あなたは出入り禁止です。どうかお引き取りを」ドスドスドス

RN「え? ちょっと、出入り禁止ってな──」

ウィーン,ボスッ

RN「…………」

ウィーン、タッタッタッ!

ガシッ

「お引き取りください」ドスドスドス

ウィーン、ドサッ

RN「…………」

ウィーン、スタタタタタ!

ガシッ

RN「お引き取らない! 離してっ!」

「申し訳ありません。お引き取りください」ドスドスドス

ウィーン、ドサッ

RN「…………」

ウィーン、スタッスタッ

ガシッ

RN「あのさ、出入り禁止なのは分かったよ。用件だけ聞いて欲しいの」

「…………」ドスドスドス

ウィーン、ドサッ……ウィーン,スタッ!

RN「無視しないで! 無視だけはやめて!」

ガシッ,ドスドスドス……ウィーン、ドサッ

RN「あああああああああああ! もうっ!」

RN(正面から入れないなら、別の入り口を探す!)スタスタスタ

RN(予想の斜め下をいかれた……本当なんなの? 出入り禁止って)

RN(そりゃ、自分の意志で辞めたのは事実だけど……)

RN「……ん」スタッ

『改築中、関係者以外立ち入り禁止』

RN(この奥にも出入り口があるはず。工事をしている音は聞こえないし、上手くいけば中に入れるかも)

RN(……ダメで元々。行ってみよう)

キィー,スタスタ……

RN「誰も居ない……? なら、扉まで走って──」スッ

トントン

RN「っ……このストーカー! まだ入ってないよ!」クルッ

変態糞土方「?」

RN「え、あっ、アンタ……誰?」

変態糞土方「わしは163*90*53、ただのアイドル好きのおっさんや」

RN「あ……思い出した。特別審査員? だったっけ、やってたよね」

変態糞土方「そうや。今度の決勝、楽しみに待ってるぜ」

RN「そ、そう……」

変態糞土方「……」

RN(な、なにこの人……無視していいのかな)

RN「じゃ、じゃあ私、これで……」クルッ

変態糞土方「待てや。ここは関係者以外立ち入り禁止。入り口は向こうや」

RN「それは分かってるけど……なら、アンタはなんでここに居るの?」

変態糞土方「わしはここで働いてる土方や。アイドルも毎日見られるし、最高や」

RN「えぇ……」

変態糞土方「今、帰ろうとしたら姉ちゃんが入って行くのが見えたんや。まさかと思ったら、本物の渋谷凛でわしはもう気が狂う!」

RN「そう……(無関心) っ!」タッタッタッ!

変態糞土方「あっ、おい!」

RN(入ってしまえばこっちのもの……!)

ガチャガチャガチャ

RN「! 開かない……っ」

変態糞土方「今日の作業は終わったからもう戸締まりしたんや。それに申し訳ないが、関係者以外がそこから入るのはNG」

RN「そう……分かった、もう行くよ」スタッ

変態糞土方「入りたいか?」

RN「え?」

変態糞土方「戸締まりしたのはわしや、鍵は持っている。開けてやろうか?」

RN「いいの?」

変態糞土方「アイドルの助けになれれば気持ちがいい。鍵を突うずるっ込む!」

ガチャン,キィー……

変態糞土方「やったぜ。」

RN「あ、ありがとう……」

変態糞土方「今度、糞まみれでライブやってくれや。ゲストで呼んでくれたら最高や」

RN「いや、まあ、考えとく……それじゃ」スタスタスタ

RN(よく分からないけど、いい人で良かった……)

スタスタ……スタッ

RN(このドアを開けたら810プロの中に入ることになる……正確に言えばもう入ってるけど)

RN(誰が歩いてるか分からないけど、さっきの警備員みたいなのに見つからないよう慎重に進まないとね)ガチャ

スタ,スタ……

RN(外観に比べると中はあまり変わってないかな。とりあえず、突き当たりにある階段で上の階に行こう)

RN(それにしても、懐かしいなあ。ちょっと前までは毎日来てたのに)

RN(いや、ちょっと前……もう半年以上経ってるからちょっとはないかな。少し前、大分前? どっちでもいいや)

RN「! 曲がり角……」

シュタッ,スーッチラッ

RN「誰も居ない、左右前後確認よし」

RN(なんだか潜入してるみたい。ちょっと楽し……いやいや、楽しんだら駄目だから。真面目にしないと)スタスタ

RN「さて、階段。ここは二階で、上の階には……」

『プロジェクトルーム』

RN「!」

RN(あそこはまだ、そのままなの……?)

過去

RN「……今日からここが私の部屋ってこと?」

P「私『たち』の部屋ね。勝手に私物化しない」

RN「それで、プロデューサーがそのなんとかプロジェクトっていうのを任されたの?」

P「まっさか! 俺みたいな新人が任されるわけ無いだろ~。ただ凛がメンバーに選ばれたから、俺もオマケでやらせてもらえるだけだよ」

RN「ふーん……」

トントン

P「おっ! 凛、ユニットの仲間が来たぞ!」

RN「……ユニット? なにそれ」

P「言ってなかったか? 今日からは──」ガチャ

UDK「おはようございます!」

MO「おはよ~!」

P「この二人とユニットを組んで、それを俺がプロデュースするんだよ! いいだろ~?」

RN「なんで自慢気なの……っていうか、聞いてないし」

P「いやぁ、まさかこんなに早くプロデュース出来るアイドルが増えるなんて思わなくてさ、これも──」

MO「おやおや? もしかしてここに居るのが渋谷の凛ちゃんかな?」ズイッ

RN「あ……うん。よろしく」

UDK「よろしくお願いします! 私、島村卯月っていいます!」

MO「よろしくね、しぶりん! 私は本田未央!」

RN「しぶりんってなに……」

MO「なにって、あだ名あだ名! しまむーは、しまむー!」

UDK「それじゃ分からないですよ未央ちゃん~」

MO「あ、そっかぁ。てへへ」

P「……っておい! そっちで勝手に盛り上がるな!」

UDK「あ、すいません。プロデューサーさんも、今日からよろしくお願いします!」ペコッ

MO「よろしく頼むぞ、プロデューサー君!」

P「おっすお願いしまーす! 未央は変なキャラやめろ」

MO「はーい」

RN「ねえ、私たち三人でユニットって……何か名前はあるの?」

P「ユニットの名前か? もちろんあるぞ」

MO「なになに? 聞かせて!」

P「それは名付けて……『迫真デレラガールズ』! どうだ!?」

MO「うわぁビミョー……(素)」

RN「……ダサ」

UDK「えっ、えっと……いいんじゃないでしょうか! ダジャレ? ダジャレっぽくて!」

P「申し訳ないが三日三晩悩んだ名前を酷評するのは本気でNG……つかマジ、へこむ……」

ガシャッ

RN「ちょっと、大丈夫?」スッ,ジー

P「悪い悪い。……どうした?」

RN「ここに書いてある『new generations』っていうのは何?」

P「ん? それは昨日の会議で決まった、プロジェクトメンバー全体のとりあえずの名前」

RN「ふーん……じゃあこれでいいじゃん、ユニット名」

UDK「ええっ!? そんなあっさり決めちゃっていいんですか?」

RN「少なくともプロデューサーが考えたのより良いと思うんだけど」

P「ウーン……」

MO「意味は、『新世代』? 私たちにピッタリかも!」

UDK「確かに、響きはしっくりきますね」

RN「どう? (これよりいい名前)出そう?」

P「あーー、もう分かった! ……今日から三人は『new generations』だ! 」

………
……

現在

RN(改めて考えてみても迫真デレラガールズは無いかな……)スタスタスタ

RN(あの部屋は今多分、別のプロジェクトで使ってるんだよね。冷静に考えて、あの時のままな訳ない)

スタッ

RN(ドアが少し開いて、光が漏れてる。誰か居る……?)

RN(ちょっとだけ、覗いてみようかな……)スーッ,チラッ

RN(……ダメだ、隙間が小さくて何も分からない。寄り道してないで早く……早く、どこに行けばいいんだろう)

キィー……

RN(!? ヤバっ、体重かかっちゃった!)スタタッ

RN(早く離れないと、知り合いのアイドルじゃなかったらまずい……!)

「……プロデューサーサンですか?」キィーッ

RN「!」クルッ

SMMR「……?」スタッ

RN「卯月! 良かった……」

SMMR「あれ、あなたは……凛チャン?」

RN「うん。ビックリした? どうしても頼みたい用事があるから、来ちゃった」

HND「しまムー、今の誰……しぶリン!?」

RN「未央!? ……はぁー、良かった。二人がここに居て……」

SMMR・MO「…………」

RN「……? そういえば二人とも、そのゴーグルみたいなのは──」

ポポポポポポ!

RN「!?」

SMMR「TARGET CAPTURED……」

HND「BODY SENSOR……」

エミュレイテッド,エミュレイテッド……

RN(みたいじゃない、田所が着けてるゴーグルと同じ!? 二人とも、それで様子がおかしくなってる!)

RN「ね、ねえ二人とも! 落ち着いて!」

SMMR・HND「……」ポポポポ

RN(ダメだ、聞こえてない……)

スタ,スタ,スタ……

RN「!」

ONDISK「おやおや……騒がしいと思ったらこれはまた……困りましたねぇ」

RN「氷崎健人……!」

とりあえずここまで

ONDISK「フルネームでご丁寧にどうも」ポチッ

SMMR・HND「」ガクッ

RN「そのリモコンは……二人に何をしたの!」

ONDISK「静かにしてくださいよ。それとも、人が集まった方が好都合ですか?」

RN「っ……」

ONDISK「島村さん、本田さん。とりあえず中に戻って、大人しくしていてください」

SMMR・HND「ハイ」スタスタ……

キィー,バタン!

ONDISK「さて……本来貴女は入ろうとしても入れないはずなのですが、どうやってここまでやって来たんですか?」

RN「二人に何をしたの。先に質問したのは私だよ」

ONDISK「何をした、という質問ならこう答えましょう。彼女たちにも田所と同じ装置を付けたのです」

RN「どうして!」

ONDISK「勝つためですよ、貴女達に。それは島村さんや本田さんも望んでいることです」

RN「な……だからって……!」

ONDISK「これ以上は答えようがありません。今度は貴女の番ですよ」

RN「……答える必要、ある?」

ONDISK「そうですか、でしたら早く出ていってください。それとも警備員を呼びましょうか?」

RN「…………」

RN(ここで引き下がれない。とにかく、なんとかして田所を引きずり出さないと)

RN「……待ってよ、私がここに来た理由は聞かないの?」

ONDISK「答えてくれるんですか? 何を聞いても無駄かと思いましたよ」

RN「答える……っていうか、正直に言うと、お願いする」

ONDISK「お願い……? なんですか、言ってみてください」ニタァ

RN「…………」

ONDISK「ほら、早く。人が来ても知りませんよ」ニヤニヤ

RN「くっ……」

RN(ムカつくし、ものすごく敗北感があるけど、言わなきゃ……!)

RN「田所を貸してほしいの。ほんの少し、一時間ぐらいでいいから」

ONDISK「貸す、それはつまり彼をどこかへ連れていきたいということですか?」

RN「うん。あいつにしか出来ない事をしてほしいから」

RN(……待った、もしかしたら今のゴーグルを付けた卯月と未央なら出来るんじゃ?)

RN(だとしても、こいつを退けないと連れ出すことは出来ないだろうけど……)

ONDISK「彼にしか出来ない事ですか。一体なんでしょう、それも話してくれないと困りますよ」

RN「……話したら、言うとおりにしてくれる?」

ONDISK「聞いてみないと分かりませんね」

RN(聞くだけ聞いて、断るつもり? でも、ここで止めたら……)

ONDISK「おや、ここでは話せませんか。人の来ない場所へ移動しますか?」

RN「……うん、そうしよう。話すから」

ONDISK「ではこの部屋の中で話しましょう」ガチャ

RN「待って。そこには卯月と未央が居るでしょ」

ONDISK「大丈夫ですよ、ほら……」

キィー,バタン

ONDISK「……」ポチッ

SMMR・HND「」

RN「……卯月? 未央?」

ONDISK「今の彼女達は言わば電源の入っていない機械のようなものです。話を聞かれる心配はまったくありません」

RN「なっ……どうして、卯月と未央にまでこんな……!」

ONDISK「時間が無いんで、話すなら早くしてくださいよ」グイッ

RN「……っ」

RN(嫌だけど、許せないけど、ここで放り投げたらいけない……!)

RN「田所にはツボ押しをやって欲しいの」

ONDISK「ツボ押し。お仲間が、ケガか何かされたんですか?」

RN「それは……」

ONDISK「誰にやって欲しいんですか? そこまで言ってくださいよ」

RN「…………プロデューサー」

ONDISK「はい?」

RN「プロデューサーが、倒れて……だから、田所のツボ押しで目覚めさせて欲しい」

ONDISK「へえ……そうですか……」

RN(動揺してる? さすがに予想外だったってことかな)

ONDISK「……分かりませんねぇ」

RN「何が?」

ONDISK「今の言い方、まるで田所のツボ押しでなければ目覚めさせられないような言い方でしたが……その理由が分かりません」

RN「! い、いや、別にそうじゃ……」

ONDISK「だとすればなおさら分かりませんねぇ。何故、危険を冒してまでここへ入り込んできたのか……」

RN「……」

ONDISK「ツボ押しというのは魔法ではありませんから、何でも治せる訳ではありません。ですが貴女の言い方は明らかに、この方法なら治せるという確信を持ったものでした」

ONDISK「その確信へ至った根拠は、なんでしょうか?」

RN「……アンタが知ってるかは知らないけど、前、田所のツボ押しでプロデューサーの体調不良を治してもらった事があるから」

ONDISK「知っていますよ。島村さんから聞いているので」

RN「根拠はそれだけだよ。プロデューサーがどうして倒れたのかは、医者も分からないらしいから」

ONDISK「成る程。それで納得しておきましょう」

RN「これで全部話したよ。……お願い、田所を連れてきて」

ONDISK「出来ませんね。よりにもよって相手がモバPでは」

RN「な……そっちの知りたいことは全部話したでしょ!」

ONDISK「だからこそです。ここまで聞いて敵に塩を送る人は居ませんよ」

RN「だって……別に、今度の決勝戦には関係ないでしょ? 私たちの誰かならともかく」

ONDISK「本当にそう思っているのですか? モバPが居ようが居まいが、勝敗には関係ないと」

RN「それは……」

ONDISK「いずれにせよ、田所を貸す訳にはいきません。残念ですがね」

RN「どうしても……出来ない?」

ONDISK「はい?」

RN「私……なんでも、するから──」

トントン,ガチャ

ONDISK「おや」

「ここに居ましたか。渋谷さん、いい加減にしてください」

RN「なっ、またアンタ!? どうしてここが……」

「先ほど監視カメラの映像を確認しました。あの様子では、まだ諦めていないだろうと思いましたので」

ONDISK「やりますねぇ。ちなみに、彼女はどこから入ってきたのですか?」

「工事関係者用出入口からです。まったく、驚きました……」ガシッ

RN「やめてっ! まだ話が終わってない!」ジタバタ

「……どうしますか?」チラッ

ONDISK「話は終わりました。連れていってください。……ああ、ここで話していたことは他言無用でお願いします」

「はい。分かりました」ドスドスドス

RN「離してッ!」ジタバタ

「暴れないでください……暴れないで」


……
………

────
810プロ 事務室

CHR「それは本当ですか!?」

ONDISK「ふっ、ええ。そう驚かないでくださいよ」

CHR「それは驚きますよ……凛ちゃんが来ていた上に、モバPさんが倒れたなんて」

ONDISK「そうですね。私も、最初は耳を疑いました」

CHR「……凛ちゃんはわざわざそれを伝えに来たんですか?」

ONDISK「いえいえ、そんな訳ありませんよ。ツボを押してもらうから田所を貸してほしいと頼みに来たのです」

CHR「ツボ押し? なんですかそれは」

ONDISK「あぁ、貴女はご存知ない。スタドリやエナドリのような効果を得られる行為だと思ってください」

CHR「なるほど、それでモバPさんを……、断ったんですか?」

ONDISK「もちろん。わざわざこちらの勝率を下げる必要はありませんよ。貴女が許可するというなら、吝かではありませんが」

CHR「まさか。やめてくださいよ、冗談は」

ONDISK「クク……しかし、まったくの期待外れでしたね。まさかこんな形で予想を裏切られるとは思いませんでしたよ」

CHR「ええ……モバPさんについては、他に何かありますか?」

ONDISK「渋谷凛が言うところによれば、倒れた原因は不明だそうです。詳しいことはまだ調べていません」

CHR「分かりました。どこの病院かは、分かりますか?」

ONDISK「ふっ、知ってどうするんですか?」

CHR「何もしません、少し気になっただけです。私が自分で調べますから、もう結構」

ONDISK「ちひろさぁん。貴女も結構、怖いですねぇ」

CHR「……ハァ(クソデカため息)」

病室

ガラララッ……

RN「まゆ……やっぱり、ここに居たんだ」

MY「凛ちゃん。お疲れさまです」

RN「あ、お疲れ様……隣いい?」

MY「わざわざ聞かなくても、好きに座ってください」

RN「……うん」スッ

MY「プロデューサーさんは、さっきからずっとこうです。ほんの少しも動かないんですよ」

P「…………」

RN「そう……いつから居たの?」

MY「1、か2(時間)ぐらいかな……分からないです」

RN「そんなに!?」

MY「プロデューサーさんが起きたとき、近くに居たほうがずっと嬉しいですもん」

RN「いや、まあ……それはそうだろうけど」

MY「もう少ししたら帰ろうって、さっきから思ってたんですけどね。中々、腰が上がらなくて」

RN「そっか。…………」

MY「……何か、あったんですか?」

RN「まゆ……ごめん、私、何も出来なかった」

MY「え……? それって……」

RN「プロデューサーの、こと……今日、頼みに行ってたの」

MY「そう……ですか。仕方ないですよ、凛ちゃんのせいじゃありません」

RN「私、また時間があるときに行ってみるから! 次は絶対に──」

MY「凛ちゃん」

RN「っ……」

MY「誰も凛ちゃんを責めませんし、プロデューサーさんの意識も絶対に戻ります。だから……そんな顔しないでください」

RN「まゆ……」

MY「気負い過ぎです。話さなくていいですから、たまにはゆっくり、休んでください」

RN「うん……ごめん……っ」グッ

MY「謝ることなんて、何もありませんよ……」チラッ

P「…………」

MY「……」ギュッ

とりあえずここまで

決勝戦当日

ガラララッ

遠野「あっ、おはようございます社長」

KMR「三浦さん、遅いですよ」

MUR「おはよう。いやーごめんだゾ、誰か間違えて事務所に来るかと思ってギリギリまで待ってたんだ」

NTK「多分、そんな勘違いするとしたらアンタだけだと思うぜ……」

MUR「あっ、そっかぁ……えーと、俺が最後でみんな居るよな?」

TDN「はい」

RN「……羽田野は?」

RIN「ここにちゃんと居るよ!」スッ

HTN「ウィヒ!」

RN「あ、そう……」

DB「なんでお前がかわりに答えるんだ」

RIN「絶対誰か羽田野さんが居るか確認すると思ってたんですよ!」フフン

HTN「プロデューサーが倒れた時は誰も俺に連絡してこなかったけどな」

RIN「あっ……」

MUR「い、いやあ気が動転してすっかり忘れたんだゾ。ごめんな」

HTN「うまいぞ言い訳(皮肉)」

RIN「そ、それよりほら! えーと……なんだろう、どうしようかな」

NTK「何も考えてないのかよ」

RIN「だって!」

MY「李衣菜ちゃん」シーッ

RIN「あ、ごめん……」

DB「……全員揃ったならとっとと出発すればいいだろう。ここは狭くて仕方ない」

RIN「あはは、なんだかプロデューサーさんを取り囲んでるみたいですもんね」

P「…………」

MUR「……様子は変わらないのか?」

MY「はい。ずっとこのままです」

MUR「そうか……じゃあ、大坊の言うとおりにしようか」

DB「フン、先に行ってるぞ」ガラララッ

TDN「おい、大坊! ……プロデューサーさん、行ってきます」スッ,スタスタスタ

KMR「……」ペコッ,スタスタ

NTK「じゃあな、モバPさん」

RIN「夢の中ででもいいですから、私たちのこと、見ていてくださいね」ペコッ

スタスタ……

MUR「ワン、ツー……まゆちゃんたちも行くゾ」

遠野「はい」

MY「……」スタッ

RN「…………」ジー

MY「凛ちゃん?」

RN「プロデューサー……私たち、先に行って待ってるよ。ゆっくりでいいから、ちゃんと来てよね」

P「…………」

RN「よし、行こっか」

MY「……はい」

スタスタ……

MUR「よし、全員出……羽田野も早く行くんだゾ!」

HTN「ばれたか」スタスタスタ

MUR「……じゃあプロデューサー、行ってくるゾ!」

ガラララッ,スタスタスタ……



……
………



ガラララッ! スタッ,スタ,スタ……

???「…………」

数時間後 会場 控え室

トントン,ガチャ

RN「ん、どうしたの?」

MUR「今、木村たちのステージが始まったゾ。それを伝えに来たんだ」

遠野「そうですか……じゃあもうすぐですね」

MUR「ああ。このままここに居ようか?」

RN「いいよ、私たちだけで大丈夫」

MUR「そうか。じゃあ、頑張るんだゾ」

キィー……バタン

遠野「…………」スーハースーハー

MY「……」

RN「ふぅーっ……緊張してきたね」

遠野「はっ、はい。そうですね」

RN「もう、ちょっとそわそわし過ぎじゃない?」

遠野「す、すいません。ただいよいよ、これで最後なんだと思うと……」

RN「最後、か……確かに」

MY「そう考えてみると、今まで色んな事がありましたね」

RN「モバプロから364に移ってもう7、8ヶ月?」

遠野「僕がアイドルになってからもそれくらい経つんですよね……長いような、短いような」

MY「ふふっ……私、遠野ちゃんの教育係を任されたとき内心戸惑ってたんですよ」

遠野「ええっ、そうなんですか?」

MY「はい。その時凛ちゃんが言ってましたけど、予選まで1ヶ月しかないのに未経験の人とユニットを組んで大丈夫なのかなって」

遠野「ああ、それはそうですよね……」

RN「でも、今はもうそんなこと思ってないでしょ?」

MY「もちろん♪ 遠野ちゃんと一緒で良かったと思ってますよ」

RN「うん。遠野とまゆと……この三人でユニットを組めて、本当に良かった」

遠野「凛さん、まゆさん……ありがとうございます」

RN「って、今からステージなのにもう全部終わったような言い方だった。ごめんごめん」

MY「うふふ♪ 今の言葉、このライブが終わったらもう一度言ってあげてくださいね」

RN「言ってあげる? 誰に?」

MY「まゆにじゃなくて、プロデューサーさんにですよ。このユニットを組んでくれたお礼の意味も込めて」

RN「あ……そうだね、プロデューサーにも……」

「…………」

遠野「……お二人の気持ち、僕には分かります」

RN「気持ちって、何の?」

遠野「大切な人と離ればなれになる気持ちです。僕と先輩もずっとそうですから」

RN「……うん」

遠野「でも、ちょっと予感がしてるんです。このステージが終わったときにはもう、戻ってきてるんじゃないかって」

MY「プロデューサーさんがですか?」

遠野「はい。先輩も……とにかく、僕たちの大切な人が戻ってきてる予感がするんです」

RN「……願望っていうんじゃないの? それ」

遠野「そんなことありません! 僕の予感は当たります!」

RN「初めて聞いたんだけど……」

MY「ふふ、引っ込み思案な遠野ちゃんがここまで言うんですから、きっとそうなりますよ。信じましょう、凛ちゃん」

RN「……うん、そうだね。じゃあ戻ってきた時に──」

トンッ! ガチャ

RN「っ、誰……イニ義!?」

タカダキミヒコ「どうも」

イニ義「よう、姉ちゃん達。準備は万端だろうな」

RN「なんでここに……IDカードを持ってる関係者以外は入れないはず」

イニ義「んなこたぁどうでもいい、質問に答えろ。準備は万端か?」

RN「……今日まで、やれることはやったよ」

イニ義「そうか。だったら、俺の目をまっすぐ見て『勝つ』って言ってみな」

RN「……」

イニ義「どうした。出来ねえか?」

RN「勝つよ。絶対」ジッ

イニ義「残った姉ちゃん達もだ。目ェ見て言ってみろ」

MY「……勝ちます」

遠野「お、同じく……勝ちますっ」

イニ義「……そうか。期待してるぜ、じゃあな」

タカダキミヒコ「失礼します」

バタン

RN「何なの、一体……」

スタスタスタ……

タカダキミヒコ「……? 兄貴ぃ、観客席はそっちじゃないですよ」

イニ義「あぁん? わざわざ見る必要はねえよ、結果だけ後から知れば十分だ」

タカダキミヒコ「それもそうですね」

イニ義「……それに、アレは負けるかもしれねえ」

タカダキミヒコ「え?」

イニ義「負けない覚悟しかしてねえンだよ。姉ちゃん達の目からは勝つ自信を全く感じなかった」

タカダキミヒコ「……じゃあ、まずいんじゃないですか?」

イニ義「その時は仕方ねえよ。……分の良い賭けだと思ったんだがな」

タカダキミヒコ「そうですねぇ、じゃあ兄貴ぃ、今の内に ────」ゴニョゴニョ

イニ義「……」

タカダキミヒコ「どうですか?」

イニ義「フッ、どのみちあいつは手に入れておきてえし、悪くねえな。よし、車ですぐに向かうぞ」

タカダキミヒコ「はい、精進します」


……
………

とりあえずここまで

────
~♪

(ステージの上で誰かが踊っている)

「────!」「──」「───!!」

(とてつもない歓声だ……)

~~~♪

(踊っている姿は見えるのに、歌っている声も聞こえるのに、それが誰なのかよく分からない……)

(しかしどうやら、ステージに居るのは一人じゃないようだ。これは……LIVE、バトル?)

ワアアアアアアア!!! フゥ~! ハイ! ハイハイ!

(三人組のユニット二つが競っているらしい。どちらが勝つのだろう)

~~♪

(実力は拮抗している。会場全体から双方のパフォーマンスを楽しんでいるという思いが伝わってきた)



(……あれ? 俺は一体────)



ワアアアアアアアアアアアア!!!!


(俺の意識が逸れたほんの一瞬で拮抗が崩れたようだ)

(顔に何かを付けたアイドルの居るユニットが優勢に見える)

(もう一方のユニットは挽回しようと必死な様子だが、勝負は今にも決まってしまいそうだ……)

(…………)

(……ああ、やっぱりそうなのか)

(俺はこの場に居ないんだ。一番大事なときに、俺は側に居てやれなかった)

(仕方ないよ。みんなは悪くない。何もかも、全部俺が悪いんだ……)

「負けないよ」

(声……?)

RN「私たち、絶対に負けないから……!」

P「凛……!?」

────

病室

バサッ!

P「っ!? っく、はあっ、はあっ……」

P(なんだ、俺は一体……いや、ここは、どこだ……?)キョロキョロ

『(パチパチパチパチパチ!)……ありがとうございました!』

P「ん、テレビが……つけっぱなしなのか?」

『スペシャルステージは以上となります。さあ! この後はいよいよ、アイドルアルティメイト決勝戦のお時間です!』

P「え、ファッ……は、はぁっ!? いっ、今なんつった!」

『司会は引き続き、わたくし西寺郷田がお送りします。フラッシュ!』

P「なん、や、どっ、え? あのさぁ……動悸が収まらないってそれ一番言われてるから……」ハアッハアッ

P(落ち着け! まず、俺が何をしていたのか思い出すんだ)

P(俺は中野くんを探してて、でも結局俺が中野くんになって、智絵里と一緒にステージに立って──)

P「最終的に、倒れた……! ならここは病院か!」

P(だったら今、このテレビで流れてたのはなんだ!? まさかとは思うが、あの日から決勝戦までの丸々一週間眠ってたっていうのか!?)

『ここでニュースをお伝えします。本日、東京では過去に例のない量の積雪が────』

ガララララッ

「失礼しま……あれっ! あなた起きてるじゃない!」サササッ

P「えっ? あ、はい! 起きたんですよたった今! えーっとそれでですね、あの、今日の日付は──」

「……あーっ! 点滴勝手に取ったらダメじゃないですか!」

P「点滴?」

P(左を見ると確かに点滴袋が吊り下げられていた。しかし、針は抜けている)

P「ちょっと飛び起きるような感じで目覚めたんで、その時抜けちゃったんですかね?」

P(にしては綺麗に抜けてるし、腕から血も出てないみたいだが……)

「そうですか。とりあえずは、えーっとすぐ先生を呼んでくるので、じっとしててくださいね」スタタッ

P「あちょっと! 今日は何日ですか?」

「はい? 24日です、12月24日!」

ガララララッ,スタスタスタ……

P(24日って……本当に決勝戦当日じゃないか!)

ガタッ,コロコロコロ……

P「なんだ、何か落ちた……ジュースの空き瓶か? 誰のゴミだよまったく」スッ

P(それは見覚えがある容器とラベルだった。このスタドリは間違いなく──)

P「……気になるが、今やるべきことはそうじゃないだろ」スタッ

P「えっと……スーツの上着にズボン、靴と……ベルトもあるな。よし」スッ,スルスル

P(じっとしてなんかいられるか、すぐに三人の所へ向かうんだ!)

ガララララッ,タッタッタッ……

タッタッタッ,ウィーン

ビヒュウウオオオッ!

P「運良く誰にも見つからなったぞ……ってか寒っ! 雪まで降ってるじゃないか!」

P(そういえばさっきのテレビでも言ってた気がするけど)

P「まったく、とんだホワイトクリスマスだな……とりあえず、どこかにタクシー乗り場でもないか探そう」スタスタスタ

ヒュウウ!

P「あー寒、東京のくせして雪降らせるなよホント……」

P(そういえば携帯は? ポケットに入ってるはずだが)スッ

P「あった! だったらとりあえず電話して……あれ?」カチカチ

P(電源が入らない……充電切れか!)

P「はーつっかえ! やめたらこの機種……タクシーも見つからないし」

P(病院内に戻って電話するか? ……いや、それよりは動きながらタクシーを探した方がいいか)

P(とはいえ、ここがどこの病院か知らないから道もまともに分からないし……)

P(クソッ! テレビ中継ではこの後決勝戦開始と言っていた、ぐずぐずしてる時間は無いぞ!)タッタッタッ

ブゥーン……キキッ! バシャッ!

P「うわっ、あぶねえだろこの野郎! 安全運転しやがれ! ただでさえこんな雪降ってんだぞ!」クルッ

P(……ん? あの車、もしかして──)

キキーッ,ストッ

P(向こうも止まった! もしかするか!?)

ガチャッ,スタッ

イニ義「モバP!」

P「っし、こんなときに運が良い……!」グッ

タッタッタッ……

P「イニ義! 話は後にして、とにかく会場まで送ってくれ!」

イニ義「ンだと、間に合うのか?」

P「そういう問題じゃないだろ! 行かなきゃ駄目なんだよ!」

イニ義「フッ、そりゃあそうだな。後ろに乗れ」

P「助かる!」ガチャ,バタン

イニ義「タカダ! 出せ!」

タカダキミヒコ「はい」

ギギッ,ブゥーーン!

イニ義「まさか、このタイミングで兄ちゃんの生きた顔を拝めるとはな」

P「おいおい、今まで死んでたような言い方しないでくれよ。しっかし本当……いやぁ、どうして今病院に来たんだ?」

イニ義「フッ……」

タカダキミヒコ「兄貴?」

イニ義「大した理由はねえよ。勘、だな」

P(胡散臭え……)

P「……なあ、俺が眠ってる間みんなは大丈夫だったのか? 送迎とか事務とか、仕事のことも気になるが」

イニ義「姉ちゃんも兄ちゃんも元気だぜ。てめえらの仕事は送迎に関しちゃ、しょうがねえからウチの奴らを少し貸してやった。事務は知らねえよ」

P「そうか……ありがとう、力を貸してくれて」

P(事務は三浦さんが一人でこなしていたんだろうな……)

イニ義「こっちからも質問させてもらうぜ。お前、あの日一体何してやがった?」

P「それに関しては……完全に俺の失態だ。本当にすまないと思ってる」

イニ義「質問の答えになってねえぞ? おい」

P「今はそんな場合じゃないだろう! 決勝戦が終わったら、いくらでも話すから」

イニ義「ほう……だったら今夜、俺の所へ来い。じっくり話そうじゃねえか、今後の事も含めて」

P「……ああ、分かった」

キィーッ……

イニ義「あ? どうしたタカダ、もっとスピードを出せ」

タカダキミヒコ「前を見てください兄貴。渋滞です」

イニ義「チッ……このクソ雪のせいかよ」

タカダキミヒコ「この渋滞では会場に着くまでかなり時間がかかるかもしれません。交通規制がかかってる場合もあります」

P「足止め食らってる時間は無いってのに!」

イニ義「多少迂回していい。別のルートはないのか?」

タカダキミヒコ「難しいですね。これでは、次の交差点まで進むのに何分かかるか」

P「……会場までの距離はあとどれくらいなんだ?」

タカダキミヒコ「約3キロといったところでしょうか」

P「なんだ、たったの3キロか。だったら……俺は降りて自分の足で行く!」カチッ,スーッ

タカダキミヒコ「待ってください! 確かに車よりは早く着くでしょうが、走ったとしても決勝戦には──」

イニ義「それでも行くっつってんだ。止めるんじゃねえよ」

タカダキミヒコ「……はい」

P「悪いな。それじゃ、イクゾオオオオオ!」

ガチャッ、バタン,タッタッタッ……

イニ義「……タカダ、ラジオだ。決勝はラジオ中継もあっただろう」

タカダキミヒコ「あ、はい」

イニ義「フッ、面白え……」


『……さあ、幾多のLIVEバトルを勝ち抜き残った二組のユニットがステージに上ります。SCOOOP! そしてミッドサマーナイツ・ルードドリームの皆さんです!』

とりあえずここまで

会場

ワアアアアアアアアアアアアアア!!!
キャアアアアアアアアアアッ!
ウオオオオオオオオオオオオオ!!
パチパチパチパチパチ……

NSDR「それぞれが可憐な衣装に身を包んで登場して参りました! それとともにものすごい熱気が会場を包んでおります!」


遠野「あ、あわわわ……」

MY「大丈夫です、遠野ちゃん。大丈夫」ギュッ

遠野「はっ、はい!」キッ

RN「……」チラッ


HND「いえーい! みんな、盛り上がってるかーい?」

FOOOOOO~!

SMMR「今日は見に来てくれて、ありがとうございます!」

ワアアアアッ!パチパチパチパチ!

野獣「…………」ポポポポポポポ


遠野「先輩……絶対救ってみせますから」

NSDR「ライブの前に少し、お話を伺います。本日の衣装はいずれも意匠を凝らしてあるものですが、ミッドナさんは今回あえて、デザインを統一していないんですね」

RN「うん。私たち個人のイメージに合うようにデザインしてもらったから、ユニットの衣装って感じはしないかもね」

NSDR「何故そのような衣装にしようと?」

RN「私たちは一つのユニットではあるけどその前に一人のアイドルだから、そのイメージを大事にしたいっていうのが、一つ」

NSDR「もう一つはなんでしょうか」

MY「今日は三曲演奏するじゃないですか。だから、三人別々の衣装の方が最後まで飽きないんじゃないかって、それがもう一つです」

NSDR「なるほど、その衣装は三人それぞれのイメージであるととも、に本日披露する三曲のイメージでもあるんですね。……対してSCOOOPサイドは、統一感のある衣装ですが」

SMMR「はい。私たちがSCOOOP! っていう感じの衣装だと思います」

HND「出た、たまに飛び出すしまむーの謎表現!」

NSDR「はははは、面白いですね~。一番の特徴はやはりそのゴーグルですか? これまで野獣さんが着けていたものと同じですよね」

野獣「……」ポポポポ

SMMR「先輩にあやかって私たちも着けちゃいました。大した意味は、無いんですけど」

NSDR「無いんですか(笑)」

アハハハハハ……

MY「……どう思います、凛ちゃん」

RN「どうかな……」

RN(この前と違って、様子がおかしいところはないみたいだけど……)

NSDR「さて、今さら聞くことでもないかもしれませんが、この決勝戦に懸ける思い、意気込みを語っていただきましょうか。まずは、SCOOOPの皆さんから!」

SMMR「はい! 今までやってきた事を出し切れるように頑張ります!」

HND「ここまで来たら、勝つしかないよね!」

SMMR「そうですね! 応援してくれるファンの皆さんに、今日は最高の私たちを見せてあげます!」

ワアアアアアアアッ!

NSDR「ありがとうございます。野獣さんはいかがでしょうか?」

野獣「キャプチュ……」

NSDR「……はい、ではミッドナの皆さんにも話していただきましょう」

遠野「ぼっ、僕はずっとせんぱ……野獣さんと同じステージに立ちたいと思っていたので……」

NSDR「なるほど、そうだったんですか」

遠野「はい。なので、えーと……満足しています!」

RN「今満足しちゃってどうするの……」

遠野「あっいえ、もちろん、今日勝って優勝するのは僕たちです!」

NSDR「はい。ライブ中も焦らず、遠野さんの美声を響かせてくださいね」

遠野「は、はい……頑張ります」

アハハハハ!

NSDR「お二人はいかがですか?」

MY「月並みですけど、このステージに立てたのは私たちの力だけじゃなくて、支えてくれる人の力があったからです」

MY「だから、今日のステージは少しでもその人たちへのお返しになればいいいなって思います」

NSDR「一つと恩返しというわけですか、いいですねぇ~」

MY「はい。次は凛ちゃんの番ですよ♪」

RN「うん。……遠野と被っちゃうけど、私もあの三人と戦いたいってずっと思ってた。特に、卯月と未央とは」

NSDR「それはもしかして、ニュージェネレーションズとして活動していた頃から?」

RN「……どうかな、正直分かんない。でも、この決勝って最高の舞台で巡り会えたのは偶然じゃないと思うから──」スタッ

NSDR「から……?」

RN「だから、お互い悔いのないように。最高のパフォーマンスで競い合おう」スッ

NSDR「おっと、凛ちゃんが戦いの前の握手を求めましたー!」

SMMR・HND「……」

野獣「…………」ポポポポ

RN「……?」

NSDR「ど、どうしたのでしょうか……」

ザワ,ザワザワ……

SMMR「…………はい! 頑張りましょう!」

ギュッ

RN「!」

ワアアアアアッ!パチパチパチパチパチ~

RN(今、明らかに動きが止まっていた……やっぱり何か、秘密があるんだ)

RN(でも、それを考えてる余裕はない。何があったとしても、今は自分のステージに集中すること)

NSDR「今、お互いが健闘を誓う握手をしました! それではいよいよ、火蓋を切るとしましょう!」

RN「遠野、まゆ」

遠野「はいっ」キリッ

MY「……」コクッ

NSDR「準備はいいですか? ……参りましょう。アイドルアルティメイトトーナメント部門決勝戦、『SCOOOP!』vs『ミッドサマーナイツ・ルードドリーム』」


「ミュージック・スタート!」


RN「行くよ……蒼い風が駆け抜けるように!」

────────
タッタッタッタッタッタッ……

P「ハァッ、ハアッ、クソ、革靴は走りにくいったらありゃしない!」

P(しかもなんか、滑りやすいような……)

ツルッ,ステーン!

P「痛ったァ……思ったそばから転んでんじゃねえよ……」

キキーッ,スタッ

「大丈夫かい?」スッ

P「あ、すいません……って、あなたは!」

一般通過爺「おや、見たことのある顔のような」

P「えーと、一週間? ほど前にそちらのアパートを訪ねたモバPです。あの時はどうも」

一般通過爺「ああ、あんたか! ナオキのサイングッズはまだなのかい!」

P「すっすいません! ちょっと、事情がありまして……」

一般通過爺「……こんな所で何してるんだ? 今ちょうど、あんたのアイドルがライブをやっているんだろう?」

P「知ってるんですか?」

一般通過爺「なんとかかんとかの決勝戦だって? 街頭ビジョンはその中継ばかりじゃよ」

P「ああ……俺、今そこに向かって急いでるんです。ナオキのグッズは必ずお渡ししますから、今日はこれで!」スタッ

一般通過爺「……待ちなさい!」

P「なんすか(半ギレ)」

一般通過爺「急いでるならこれを使うといい。こんな天気で年寄りが自転車に乗っていたら危ないからの」

P「いいんですか!?」

一般通過爺「かわりに、もっと豪華なグッズを頼むよ? 孫の喜ぶ顔が見たいんでな」

P「……ありがとナス!」スッ

一般通過爺「早くいってやるんだぞ!」

P(信号次第だけど、自転車なら10分もあれば着ける! こいつは心強いぞ!)


チャリチャリチャリ……

「ああもうやだああああああああ!」ダッダッダッ

P「!?」

キキーッ! ズルッ,ガターン! カラララララ……

P「あ、ぐっ……飛び出し……?」ガタッ

ひで「あっ、おじさん大丈夫……?」

P(こいつ……)

ひで「……死んでるね。さよならー!」タッタッタッ

P「ってお前待てオラァ!」スタッ

スッ,チャリンチャリンチャリン!

ひで「やだやめて追ってこないで!」

P「てめえひでだな! つくづく俺の邪魔しかしない奴だなお前は!」

ひで「おじさんだれ!? ぼくおじさんのことなんて知らないにょ!」

P「うるせえ! このまま轢き殺してやらぁ!」チリンチリンチリン!

ひで「あああああああああああ!!!」

ドカッ!

ひで「うぐええっ!」ヒューン

P「ざまあみやがれ! …………あれ?」カチ,カチ

P(ブレーキがきかない!? さっきのでイカれたか!)

「……? きゃあああああっ!?」「突っ込んでくるぞ!」

P(雑踏! 直進したら人殺し!)

P「曲がって止まれえええええっ!」グッ,スタッ

ドサッ……ドガシャーーン! カラカラカラカラ……

「なんだこのオッサン!?」「やべえよやべえよ……」

P「はっ、はあっ、あぶねえ……」

P(間一髪飛び降りて、大事故は免れたか……でも自転車は派手な音立ててビルの壁に突っ込んじまったぞ!)

P(いや、ブレーキが壊れてるんじゃどのみち駄目だな。騒ぎが大きくなる前に……逃げる!)

ガシッ

P「!?」クルッ

虐待おじさん「君、今この子を自転車で轢いたよね」

ひで「ぐすっ、ううっ、おじさん……」

P「げえっ! さ、さあなんのことか……」

「今の自転車、あの人が乗ってたよね……?」「おっ、やべえ110番だな!」「一応119番もだな!」

虐待おじさん「…………」

P「さいならーっ!」バシッ,タッタッタッ!

虐待おじさん「あっ、待てオラァ!」タッタッタッ

虐待おじさん「逃がさねえぞお前!」ブンブンブン

P「なんで竹刀もったおじさんに追いかけられなきゃいけないんだよ」!タッタッタッ

ひで「いっけー! おじさんやっちゃえー!」タッタッ

虐待おじさん「……あ?」スタッ

ひで「え……」

虐待おじさん「お前もお仕置きの途中で逃げ出してんじゃねえぞオラァ!」バシーン!

ひで「痛いんだよおおおっ!」タッタッタッ

虐待おじさん「悪い子は二人ともお仕置きだどー!」

ひで「ひいいっ!」

P「なんでお前も逃げてるんだよ!」

ひで「うるさいにょ! お前があんな所に居たから悪いんだにょ!」

P「うざっ! お前一人で捕まってろ!」ドカッ

ひで「うざいのはおじさんだにょ!」ゲシゲシ

虐待おじさん「興奮させてくれるねぇ!」ブンブンブン!

P・ひで「ひいっ!」タッタッタッ!

P(竹刀の間合いまで追い付かれたらアウトだ! どうする!?)

ザワザワザワザワザワ……

P「ラッキー人混み! あそこにまぎれるんだ!」

ひで「無駄だにょ! 時間稼ぎにしかならない!」

P「ちいっ! でもどっちにしろ進行方向よ!」ダッダッダッ

P「二人離れていればお互い囮に出来る。息を潜めろよ……」スタスタ

ひで「わ、分かったにょ……」スタスタ

「ちょっと何こいつら~」「割り込むなよな~頼むよ~」

虐待おじさん「…………」

「あのさぁ、ちゃんと並んで、どうぞ」

バシーン!

虐待おじさん「……OK? OK牧場?(激寒)」

「あっ大丈夫っす……」

スタスタスタ……

P(まずいな、やっぱり隠れるよりは通り抜けて逃げ続ける方が得策か……?)

KNK「お菓子はたくさんありますから、ゆっくりでも大丈夫ですよ~」

淫乱テディベア「(割り込みは)してはいけない(戒め)」

P(そうか、こいつらは菓子に群がってたのか)スタスタ

スタッ

KNK「わっ! びっくりしたぁ~、追い抜きもダメですよ!」

P「え? あぁすいません……」

P(いつの間にか先頭に出てしまったらしい)

KNK「って、あれ? モバPさんじゃないですか」

P「あ、うん。どうも、この前はケーキありがとう」

淫乱テディベア「……君はこんなところに居ていいのか?」

KNK「テディさん、こんなところ扱いは酷いですよ!」

淫乱テディベア「あぁいや、そうじゃなくてね……」

「ぎゃあああああああああ!!!」

KNK「な、なに!?」

P「ひでが捕まったか! ……お菓子、貰っていきますね!」ゴソッ

KNK「あっちょっと! もぉ~、一人一つですよ!」

P(今度しっかりお返ししないとな……)タッタッタッ

虐待おじさん「逃げられると思っているのか?」ザザーッ

P「は?(困惑)」

P(なんであの位置から先回り出来るんですかね……)

虐待おじさん「ひでを虐めていいのはプロデューサーの俺だけだ。君にはしっかりとお仕置きを受けて貰うよ」

P「そんな暇無いんだよ!」ダッダッダッ

虐待おじさん「向かってくるか!」スッ

P「喰らえ!」

虐待おじさん「遅い!」ブンッ!

ガシッ

虐待おじさん「!?」

P「そ、そう来ると思ったぜ……痛てて……」

虐待おじさん「攻撃はフリで初めから受け止めるつもりだったか!」

P「その通り! 今度こそ喰らえ!」フンッ

虐待おじさん「っ……!」スッ

モグッ

虐待おじさん「……なんだこれ」モグモグ

P「ショコラだよ! 美味しく頂いてくれ!」タッタッタッ

虐待おじさん「ちっ、時間稼ぎか……!」クルッ

P「残念だったな、もう追ってこられないぞ!」タッタッタッ

虐待おじさん「なに? ……! 信号が変わるタイミングまで読んでいたのか!」

P「こんな所で止まってられないんでな!」タッタッタッ

虐待おじさん「……そうか」スッ

P(素直に諦めたか……?)スタ、

ヒューン! ……ドガッ!

P「あずっ……!? がっ……」

虐待おじさん「信号が変わったら、すぐそっちに向かうからな」スタッ

P(竹刀を投擲とか、そんなのあり……?)バタッ

とりあえずここまで

────────
遠野「アンッ! アンッアッアンッ!」

RN・MY「~~♪」


ワアアアアアアアアアアアアアア!!!


TDN「三人とも、実力を存分に発揮していますね」

NTK「ああ、見てるこっちも熱くなってくるぜ」

TDN「……そのせいでしょうか、ファンの歓声まで今までと段違いに大きく聞こえてきませんか?」

NTK「ん、そうか? 確かにそんな感じもするな」

KMR「この関係者席もそうですけど、一回戦の時には開放されていなかった席も今日は全て埋まっています。だから、本当にあの時よりも大きな歓声が上がっているんですよ」

TDN「なるほど」


MUR「凛ちゃーん! がんばれー!」

RIN「遠野さんもまゆちゃんも、810プロに負けるなー!」

ワーキャーワー!


DB「……単にこいつらがすぐ側で喚いているからそう感じるだけじゃないのか」

TDN「ははは、そうかもしれない」

DB「まったく、恥も外聞もあったものじゃない……」

NTK「大坊も今日ぐらい素直に応援したらどうだよ?」

DB「フンっ…………俺はこいつらのように騒ぎ立てないだけだ」

TDN「大坊……よし、自分も応援します!」ワン!ワン!

RIN「そうだよ!(便乗)、みんなで応援しよう! 頑張れーっ!」

MUR「セリフ取られたゾ~……でも、とにかくがんばれー!」

舞台袖

CHR「どう見ますか、ここまでの彼女たちを」

ONDISK「はは、そう焦らないでくださいよ。まだ始まったばかりじゃありませんか」

CHR「……そうですね、すいません」

ONDISK「フッ。ちひろさぁん、そんなにこのステージの勝敗が気になりますか?」

CHR「それは当たり前です。こうしてモバPさんと戦う日のために、貴方を雇ったんですから」

ONDISK「ええ、分かっていますよ。肝心のモバPは今なお眠っているようですがね」

CHR「…………」

ONDISK「いずれにせよ、余計な心配はしなくて結構。このステージも予定通りに進んでいますよ」

CHR「その言葉、信じます。信じますが……」

ONDISK「が、なんですか?」

CHR「最後まで何が起こるか分からないのが勝負です。いくら周到に計算しても、イレギュラーは起こり得ます」

ONDISK「身に染みて分かっていますよ。それでも、勝つのは彼女達です」

CHR「……ええ」

────────
トボ,トボ,トボ……

P(結局まるで歯が立たず、俺は腹筋ボコボコにパンチ食らってのされてしまったのだった……)

P「げほっ、がはっ……クソッ、マジで容赦無いんだもんな……」

P(同じ調教師でも、タクヤとはレベルが違い過ぎる……)ズサッ

ツルッ

P「ああうっ!」バタッ

P(また転んじまった、これじゃ天海春香だな……)

P「っず、ぐ……あ、あれ……?」ドサッ

P(クソ、手も足も言うことを聞かない……予想以上にダメージが大きいみたいだ)

P「ぁー、誰か、誰か……」ムズムズ

P(おかしいな、真っ暗だぞ……そりゃあ日は完全に沈んでるけど、ここは東京だろ?)

P(それに雪だって降ってたはず。なのに、目の前は真っ暗……)

「なにこれ、人?」「パネルか何かが倒れてるんでしょ」「あ、そっかぁ(池沼)」

P(生きてるっての、頼むから起こしてくれよ……)ムズ

「それよりさ、早く行こうよ」「えーどこに?」「二人きりになれるとこ」「アーイク!」
スタスタスタ……

P「…………」

アハハハハハ!ソレマジ?ウンマジハェーアーイッスネエ
ゲラゲラゲラ
ザワザワザワザワ……

P(人の往来はあるのに、誰も俺の事を気にかけない。たまに誰かが近づいても、すぐ見なかったことにする)

P(そりゃあそうだよなぁ。触らぬ神に祟りなし、クリスマスイブに生き倒れに構う奴なんか居ないよ)

シンシンシンシン……

P(ああ、やっぱり雪は降ってるのか。
カップルにはいい日だろうなぁ、ノンケでもホモでも)

P「…………」グッタリ

P(なんだか、だいぶ冷えてきた……)


『きよし この夜 星は ひかり……』~♪


P(はは……おいおい、とうとう讃美歌まで聞こえてきたぞ。このまま天使が迎えに来るんじゃないか?)

P(まあ、いっそ、それも……)

P(…………)

P「いいわけ、ないだろうが……っ!」スッ

P(俺がこうしてる間にも三人はステージで歌いつづけてるんだ。いつまでもくたばっていられるかよ!)

P「っ、こんの……ッ!」ムクッ

「うわあっ!?」

P「んなっ!?」

ドスッ……バタッ

P(ああ、やっとの思いで立ったのに……後ろから来た人にぶつかってあっさり倒れる俺って一体……)

「ごめんなさい! いきなり立ち上がったから、避けきれなくて!」

P「…………」

「だ、大丈夫……?」

P「もう無理、立てない……」

「ええっ!? い、今起こしてあげるから!」ギュッ

P(よかった、優しい女の子みたいだ……)

「あれ……もしかして、お兄ちゃん? あー違う、お兄ちゃんじゃなくて」

P「お兄ちゃんじゃねえよ! ……え?」

YK「やっぱりお兄ちゃんじゃん!」

P「だからお兄ちゃんじゃねえよ! あっ、痛ててて……」スタッ

YK「大丈夫、っていうかどうしたの!? 傷だらけじゃん!」

P「まあちょっと色々あって、とととっ!」フラフラ

YK「ちょっ、危ない危ない! 肩貸すから!」スッ

P「わ、悪い悪い。病み上がりなもんでな……」

YK「病み上がり!? 生傷だらけになる病気ってなに!?」

P「あーもう、気にすんな……起こしてくれてありがとう、俺はもう行くから、離してくれ」

YK「えっ、駄目だよ! 病院に行った方がいいって」

P「そんな時間無いの! だいたい、お前もどっか行く途中だろ? 俺なんかに構わなくていいから……(良心)」バシッ、トボ,トボ

YK「アタシはねこっぴーのクリスマスディナーショーに……って、駄目だってば!」ガシッ

P「流行らせコラ! ムーミン野郎お前離せコラ!」ジタバタ

YK「ムーミン? っていうか野郎じゃないし!」ガシガシ

「モバPを離してあげなさい」

YK「え、誰?」クルッ

HRN「久しぶりね、モバP。姫川友紀も」

P「ヘレンさん!? 何してんすか!」

YK「ヘレン? ……あ、IUの予選で戦った人!」

HRN「そう、四次予選以来になるわ。次に会う時は、また別のステージの上になると思っていたけど」

YK「それよりおにっ、モバPくんを離せってどういうこと?」

P「いい加減間違えるなよ」

YK「モバPって呼び慣れてないもん!」

HRN「……私は全て見ていたわ。ボロボロになりながら歩みを止めず、しかし転んだ拍子に動けなくなってしまった彼を」

P「どこから!? っていうか見てたなら助けてくださいよ!」

HRN「あそこからよ」

P「あそこって……まさかビルの屋上ですか?」

HRN「少し、この雪の世界を感じていたの。それで不意に地上を見たら、アナタが来たのだから驚いたわ」

YK「えぇ……(困惑)」

HRN「遠くて、アナタと断定してここまで降りるのに少し時間がかかってしまったのは謝るわ」

P「あ、はい。なんかこっちもすいません」

YK「というか、今の理由になってないし……」

HRN「前へ進もうとしている者の歩みを止める事は許されないわ。さあ、離してあげなさい」

P「頼むよ友紀。どうしても行かなきゃいけないんだ」

YK「……うん、分かったよ」スッ

P「うおっとととっ!」フラッ

YK「ほらふらふらしてる! やっぱり駄目だよこれ!」

P「だーいじょぶだって安心しろよ~、平気平気、平気だから」

YK「本当かなぁ……」

P「それじゃ、俺はこれで──」

HRN「待ちなさい」ガシッ

P「ええっ!? なんでヘレンさんが止めるんですか」

HRN「アナタは何処へ向かおうとしているの? 私たちにもそれを知る権利ぐらいはあるはずよ」

P「……今まさにステージに立ってる、凛たちのところですよ」

HRN「……! IUの決勝戦ね」

YK「あっ、そういえば今日だった!」

P「これ以上は説明する時間がもったいないんで、俺はもう行きますよ」スッ

HRN「待ちなさい」ガシッ

P「なんですか!」

HRN「傷ついたアナタでは速く走ることは出来ないわ」

P「分かってますよ! だから急ぐんじゃないですか!」

HRN「落ち着いて。力を貸すと言っているの」

P「え?」

HRN「INUE君!」

INUE君「ああああああああああああああああああああああ!」ダッダッダッ

YK「うわっ、何この人!?」

HRN「INUE君、彼を乗せてあげなさい」

INUE君「あ(肯定)」スッ

P「えぇ……」

HRN「ほら、急いでいるのでしょう?」

P「わ、分かりました……」スタッ

INUE君「あああああああああああ!」ダッダッダッ

HRN「さあ行くわよ! アナタを待つ世界へ!」タッタッタッ

P「なんでついてくるんですか!?」

YK「よーし、アタシはエールで元気付けてあげる!」タッタッタッ

P「お前もかよ! 無理しなくていいんだぞ!?」

HRN「今の私たちに無理なんて言葉は似合わないわ!」

YK「野球でもアイドルでも、諦めたら試合終了だよ!」

P(似合うとかそういう問題じゃないし、なんか微妙にズレてる例えだし……)

P(でも……)

P「……ああ、その通りだ!」

────────
~~♪、…………ワアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
パチパチパチパチパチ!


RN「はあっ、はあっ……」

RN(一曲歌っただけでこんなに疲れたのは初めて……無意識の内に、余計な力を入れちゃってるのかも)

RN(二曲目が始まるまでのインターバルはとても短い。すぐに息を整えて、もう一度集中しないと)スーハー

RN「はぁっ、ふぅーっ……」チラッ

遠野「はあ、はあ、はあっ……」

RN(やっぱりまだ呼吸が荒い……でも、もう休んでる時間はない)

スタ、スタスタ……

RN「なんとか踏ん張って、遠野」

遠野「はあっ、凛さん……っ、絶対、勝ちましょう」

RN「……うん。じゃあ、交代」スッ

遠野「はいっ……!」スッ

パチン!

…………、~~♪

MUR「あれっ、センターが凛ちゃんから遠野に代わったゾ!」

TDN「センターを固定しない……衣装デザインを統一しなかったのにはこういう意図もあったんですね」

RIN「っていうことは、二曲目は遠野さんのイメージに合った曲ってこと?」

KMR「……ええ、そうだと思います」


~♪
デデデデン,デデンデンデンデン,デンデンデンデンデン,デデンデンデン……

RN・MY「Baby,I can't wait」

遠野「アアンッアンッアンッ↑アンッ↓アンッ↓ア↑アン↓アアンッアンッアンッ↑ア↓アン↓」

アアンアンアンアンアンアアン、アアンアンアンアンアンアアン……


KMR「『I can't wait』、歌詞も雰囲気も遠野さんにピッタリですよ」

RIN「凄い……遠野さんの歌声、きれい……」

MUR「いいゾ~コレ、810プロを引き離せー!」

KMR「ですが、この曲は……」ボソッ

TDN「……遠野さんへの負担も大きい、ですか」

KMR「はい。ここまでSCOOOPに大きな動きがないのも気になります」

RIN「二人とも! なに喋ってるの? ほら、応援応援!」

KMR「……ええ、僕たちに出来るのはそれぐらいですね」

RIN「がんばれがんばれー!」

DB「馬鹿騒ぎする曲でも無いだろうに……」

RIN「いーいーかーら!」

DB「チッ…………頑張らなきゃ撃つぞゴルァ」

RIN「えー、何ですかそれ……」

NTK「とことん素直じゃないな」

DB「うるさい!」

とりあえずここまで

────────
INUE君「あああああああああああ!」ダッダッダッ

P「うるせぇ! けど速え!」

HRN「アナタを背負っていなければもっと速いわよ?」タッタッタッ

P「はぇ~すっごい」

P(息ひとつ切らさずついてきてるヘレンさんも大概凄いが……)

YK「はあっ、ねっ、ねえ、あれ!」スッ

P「!」

P(ついに、視界の端に大きな会場のドーム部分が映った!)

HRN「INUE君! ラストスパートよ!」

INUE君「あああああああああああ! あああああああああああ!」ダッダッダッ

P「うおおおっ!?」グラッ

HRN「しっかり掴まっていなさい!」

P「は、はいっ!」ガシッ

YK「ちょっ、ちょっと、速くなぁい!?」タッタッタッ

P「はやいのがきもちいい!」

P(もうあと1キロも無いはずだ……もうすぐだからな、凛、まゆ、遠野!)

INUE君「あああああああああああ↑ ああああ、あぁ、ああああぁぁ……↓」

P「お、おい。どうした?」

ダッダッダッ……スタッ

INUE君「ああ、ああぁ……」ガクッ

HRN「……限界が来てしまったようね」

YK「はあっ、はあ、はあっ……こんなに走ったの、ひさびさぁ……」ゼエゼエ

P「こっちも……友紀、大丈夫か?」

YK「はあっ、うん……ちょっと休めば平気だから」

P「いいよ。もう十分だ」

HRN「そうね……どうやら私たちはここまでのようだわ。後はアナタ次第よ、モバP」

P「はい。ありがとうございましたヘレンさん。もちろん、INUE君も」

INUE君「あぁ、あぁあ……」

YK「ちょっと、はぁっ、アタシには感謝してないの?」ゼエゼエ

P「もちろんしてるよ。サンキューな、友紀」

YK「えへへ……ふうーっ、最後まで頑張れ! 応援してるぞ!」

P「おう! じゃあ、またいつか!」

HRN「次こそステージで会えることを期待しているわ!」

タッタッタッ……

HRN「……少しの間にずいぶん回復したのね。流石だわ」

YK「はあっ、はあ、はーっ、疲れた……速すぎだよ、えーっと、INUE君?」バシッ

INUE君「うっ……ちょっ、何か出ちゃう……(吐き気)」

HRN「INUE君!?」

INUE君「う、おえっ……」スタ,スタ

YK「ちょちょちょっと! こっち来ないでー!」

HRN「INUE君! 病室へ戻りなさい!」

INUE君「おええええええっ!」ゲロゲロゲロ……

────────
~~♪

ONDISK「心地よい歌声ですねぇ。彼はアイドルでなく歌手を目指すべきじゃないでしょうか?」

CHR「……はい? 何を言っているんですか」

ONDISK「まずうちのどかの事ですよ。世界の遠野と言った方が分かりやすいですか?」

CHR「そういう意味じゃありません! 対戦相手を評価してどうするんですか!」

ONDISK「はぁ。そう言われましても、私は彼女達に何の指示も出来ませんから」

CHR「一方的な『命令』なら出来る、以前そう言っていたのは貴方ですよ」

ONDISK「命令? いったいどうやってですか?」

CHR「……人を馬鹿にしてふざけるのもいい加減にしてください。そのための装置でしょう」

ONDISK「ええ、確かに準決勝ではそうでした。……ですが、今回は違いますよ」ククク

CHR「な……」

ONDISK「島村卯月と本田未央にあの装置を着けたのは命令を送るためではありません。勘違いしていたんですか?」

CHR「では一体なんの目的で──」

ONDISK「それを話す前に、俺が決勝戦をどのように勝つと話したか覚えていますか?」

CHR「なんですか一体……えっと、確か……真正面から、堂々と撃ち破るだけ、と」

ONDISK「その通りです。ではステージを見てください、それがどういうことですか分かるはずです」

CHR「……?」

~♪ アンッアンンッアンアン!

CHR「……!」

アンッアンンッアンアン! アーッアンアン!

RN(ん……遠野の声が、二重に聞こえる?)

遠野「アンッアーッ! アンッアンッ!」~♪

RN(喉の問題じゃない、マイクの故障?)

アンッ……アンッア……アァ……

RN「!?」

RN(遠野のパートじゃないのに、声が聞こえた……?)スタッ、タッタッ

遠野「……」スタッ、チラッ

RN(本人も驚いてる? どういうことなの……)~♪

キュッ,スタッ、タッ

MY「!」パチッ

RN(まゆ……!? どうしたの、視線の先……SCOOOPのステージに何かある?)の

アー、アッアッアッ!

RN(また声が重なってる、音響の問題?)

アーッ……アー、アーイキソ

RN(いや、違う……これ、まさか……!)

キュッ、クルッ,ターン!

RN「!」

RN(一瞬だけど、はっきりと見えた……)


野獣「アッアッンアーッ! アーッアッアッ!」~♪


RN(田所が、遠野と同じ世界レベルの歌声を出している……!)

RN(どういうこと? どうしてあいつが……)


遠野「アンッ! アンッアンアンッ!」
田所「アーッ、イキソ,アーイキソ……」


RN(ただ歌が上手いわけじゃない。ほとんど遠野の歌声そのもの、同じ声質)

RN(もしかして例のゴーグルに秘密が? でも、あれが喉に影響を与えてるとは……)

キュタッ,タッ、タッ……スタッ

RN「っ!」キュッ

RN(しまった! 一歩分余計にステップしちゃった……余計な事に気をとられているから!)

MY「~♪」タッタッ

RN(まゆも気づいたはず……この後もう一度同じステップをする場面があるから、そこでズレを直す?)

RN(でも、下手にズレを修正しようとするとまた余計なミスをするかもしれない……)

RN(……焦ったら負ける。今は、このまま続ける)

アンアンアアンアン! アーイキソ

RN(この曲でボーカルの評価に差を付ける予定だったけど、これじゃあそうもいかない。三曲目のためにもある程度体力を温存した方がいい気がする、特に遠野は──)

遠野「アンッ! アーッアンアンアン!」

RN(張り合うつもり!? ただでさえ負担が大きいのに、そんなことしたら……!)

遠野(今の先輩が本当の先輩がどうかは分からないけど……)

遠野(先輩がこうして僕と歌い合いたいというのなら……僕はそれに応えたい!)

野獣「アッ、ア!(スタッカート) アイキソ」~♪

遠野(やっと同じステージに立てましたものね)

遠野「アンッ! アンアンアッアーッ! アンッアンッ!」~♪

遠野(一生懸命やって楽しい思い出にしなきゃ損ですよね、先輩!)

アンアンアンッアーイキソンアー! アンッアンッ!

ワアアアアアアアアアッ!


ONDISK「さあ、盛り上がってきましたよちひろさん。このボーカル対決、どちらが勝つんでしょうね?」

CHR「それは私には判断出来ませんが……彼の歌があれほどとは知りませんでした」

ONDISK「あの歌こそ田所の真骨頂ですよ。私が特別何かをしたわけではありません、彼自身の素質だったんです」

CHR「何故今まで隠していたんですか?」

ONDISK「隠してなんていませんよ、これまではこうする必要が無かっただけです」

CHR「そうですか。……しかし、こうも競い合うように歌っていては体力の消耗が激しくなってしまいます。まだ二曲目なのに大丈夫なんですか?」

ONDISK「こちらの消耗を気にする必要はありません。なんといっても、そのためのゴーグルですから」

CHR「……なんですって?」

ONDISK「ちひろさん、遠野に疲労の色が見え始めましたよ。渋谷凛からは焦りも感じる、このまま自滅してしまうかもしれませんね」

CHR「氷崎さん!」

ONDISK「まあまあ。種明かしはもう少ししてからでも遅くはありませんよ……」

CHR「…………」

遠野「アンッアンッ! ……」

RN(遠野、少し声が伸びなくなってきてる……あんな無理するから)

~♪

遠野「っ、はっ、はぁっ……」スーハー

RN(今の調子で、最後までもつ? この曲は大丈夫だったとして、まだ三曲目もある。遠野の歌が無くなったら、私たち……)

キュタッ,タッ、タッ……スタッ

MY「I can't wait ~♪」キュッ

RN(まゆ!? 一歩余計に踏み込んでる、さっきの私と同じ!)

RN(……まさかわざと? でも、これだとズレを直すどころか、私たちの立ち位置がステージの中心に向かって一歩ずれただけ)

RN(どういうつもりなの……?)チラッ

MY「……」スーッ、パッパッ

RN(手……!? 繋ぐってこと? ちょっと、もう、何をしたいのか分から──)クルッ

MY『あ、せ、っ、ちゃ、だ、め、で、す』

RN「!」

MY(いつでも私たちに気を配って、ユニットをまとめてくれる凛ちゃんは本当に凄いリーダーです)

MY(でも、焦ったり慌てたりするのはらしくありません。もっとどっしり、凛々しくかまえてください)

MY(それに、頑張ってる遠野ちゃんを私たちが信じないでどうするんですか。気は弱くても、決めたことはやり遂げるのが遠野ちゃんです)

MY(今の私たちに出来ることは、その背中を支えてあげることだと思います)

MY(……なんて、長々言わなくても伝わりましたよね?)

RN「……」コクッ

MY(だって、凛ちゃんは私たちのリーダーだもの)

スーッ……ギュッ、スタッ,スタッ……

~♪

RN・MY『tell me what is on your mind』

遠野「すーっ……」

RN『……I can't wait』

アアアンアンアンアンアンアアン! アアアンアンアンアン! アアンアンアンアンアンアアン! アアアンアンアンアン……

会場外

タッタッタッ……スタッ

P「っだーっ、はあっ、はあっ、着いたぁーっ!」ハアハア

ザワザワザワザワザワ……キャーキャー!

P「はあっ、はあっ、なんだよ、外なのに人多過ぎだろ……」

ワアアアアアアアアアアアアアア!

P「……! そこにモニターがあるからか!」タッタッタッ

P(ありがたいが、中でやってるものをすぐ外で流すのはどうなんだ……?)

ワーワーワー! フゥー! ウヅキチャーン! リンチャーン!

P「はいちょっとどいて、ちょっ、通して、通してね」ズイズイ

「あぁん……」「邪魔すんじゃねーよ!」

P「うるせえ! いいから決勝を見せろ!」ズカズカ

『アアンッアンッアンッ↑アンッ↓アンッ↓ア↑アン↓ アアンッアンッアンッ↑ア↓アン↓』~~♪

P「っ! 凛、まゆ、遠野……!」グッ

P(I can't waitのアウトロか、まだ三曲目に間に合うぞ!)

P「……あれ? なんで三人でコーラスを歌ってるんだ?」

「これは一回戦でも見せた、凛ちゃんとまゆちゃんも遠野の歌い方をする演出ですねぇ!」
「はぇ~すっごいハーモニー……」「博識兄貴オッスオッス!」

P(立ち位置もおかしい……本来はセンターだった遠野が後ろに下がって、凛とまゆが二人で前に居るはず)

P(ところが三人横並びになって、まるで二人が遠野を支えるような形になっている……)

『アアアンアンアンアン、アアアンアンアンアン…………ワアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

P「っと、いかん危ない危ない危ない……(レ)、早く、会場の中に!」タッタッタッ

とりあえずここまで

────────
ワアアアアアアアアアアアアアア!パチパチパチパチパチパチパチ!

RIN「くぅ~っ、やっぱり凄いよ凛ちゃんたち!」

TDN「とてもいい響きでしたね」

MUR「鈴木が遠野並の歌声を出してきた時は驚いたけど、やっぱり歌なら遠野がナンバーワンだゾ!」

RIN「ですね、もうかなり差がついてますよ!」

KMR「いや……そうとはいいきれませんよ」

RIN「えっ?」

KMR「先輩の歌に隠れて目立ちませんが、SCOOOPは全体で見てもとてもレベルの高いパフォーマンスをしています」

RIN「そ、そうなの……?」

NTK「見てないのかよ……」

RIN「目には入れてたけど、凛ちゃんたちの方に集中してて……」

KMR「ボーカル、ダンス、ビジュアル……この基本的な三要素のうち、凛さんたちが確実に勝ってると言えるのはボーカルだけだと思います」

RIN「じゃあ、ダンスとビジュアルでは負けてる!?」

KMR「いや、それはなんともいえませんが……」

TDN「自分も見ていましたが、SCOOOPは動きが本当に正確なんです。ダンスやアピールの一つ一つが、まるで機械のようで」

NTK「あのゴーグルのせいで余計それっぽく見えるな」

RIN「で、でも、凛ちゃんたちならきっと大丈夫ですよ!」

KMR「もちろん、僕もそう思っていますが……相手は810プロですから」

RIN「う、そりゃあ、私たちは負けましたけど……」

NTK「……それ、関係あるか?」

DB「おい、ステージ上のあいつらをよく見てみろ」

RIN「え?」

野獣・SMMR・HND「…………」


TDN「あれだけのパフォーマンスをしたのに、疲れている様子がまったく無い……!?」

DB「息ひとつ切らしていないぞ。まだかなりが余力があるんじゃないか?」

RIN「ほ、ほんとだ……凛ちゃんたちは──」


遠野「はあっ、はあっ、はあっ……」ゼエゼエ

RN「はっ、ふーっ、はぁっ……」スーハー

MY「……」ハアッ,ハアッ


RIN「凄く疲れてる……」

DB「どうやら残りの体力でかなりの差がついているようだな。お前の言った通りだ」

KMR「SCOOOP……底が見えないユニットです」

RIN「…………」

DB「どうした、何を黙ってる」

RIN「だって、そんなに言われたら……」

DB「フン、どのみちお前は応援しか出来ないだろう」

RIN「な……そりゃあ、そうですけど!」

DB「勘違いするな。お前が落ち込んでいる暇は無いということだ」

RIN「……え?」

MUR「もう三曲目が始まるゾ! 準備して!」

RIN「は、はい!」

DB「……フン」

NTK「勝負は分からないからこそ応援を頑張れって、そう言えばいいだろ……?」ボソッ

TDN「大坊はそういう性格なんです。許してやってください」

DB「おい!」

RIN「それなら大坊さんもっ、ほら! サイリウム持って、一緒に応援しましょう!」ギュッ

DB「……今回だけだぞ」

NTK「うわぁ」

TDN「許してあげてください、オナシャス!」

DB「お前ら!」

バチン!

RN(三曲目が始まる前には一度ステージの照明が切られて、少しの間司会のMCが入る)


NSDR「皆さん、ここまでの二曲はいかがでしたか! そしていよいよ、次の楽曲がIU最後の曲になります!」

ザワザワザワ……

NSDR「いやぁ、振り返ってみるとこれまで様々な対戦が──」

ザワザワザワザワザワ!
「あくしろよ!」「もう待ちきれないよ! 早く出してくれ!」




RN(だから一曲目よりもインターバルは長いけど……)

遠野「はぁ、はぁっ、はあ……」

MY「大丈夫? 遠野ちゃん」

遠野「は、はい……大丈夫、ですっ……」スーハー

RN「泣いても笑っても、これが最後。勝とう、私たちの力を出しきって」

MY・遠野「」コクッ

RN「……あと、まゆ。さっきはありがとう」

MY「ふふっ、なんのことですかぁ?」

RN「もう、こんなときに……ううん、いいや。最後まで、その笑顔のままでいて」

MY「はい♪」


バチン!

NSDR「さあ! それでは! 皆さん準備はいいですか!?」

RN・MY・遠野「…………」コクッ

SMMR「はい! 私たちのステージ、最後まで楽しんでくださいね~!」ニコッ

ワアアアアアアアアアアアアアア!


NSDR「よし、参りましょう! ミュージック……スタートォッ!」

────────
P「だからさ、時間が無いんだよ! 頼むから通してくれ!」

「申し訳ありません。IDカードをお持ちでない方をお通しすることは出来ません」

P「ハァ~(クソデカため息) 顔見て分からない!? 俺モバPよ、モバP!」

「はぁ……あなたのようなアイドルは記憶にありません」

P「アイドルじゃねーよ! プロデューサーだよ!」

「そ、そうですか。申し訳ありません」

P「申し訳は聞き飽きたわぁ!」

「申し訳ありません。ですが、IDカードをお持ちでない方はお通し出来ません」

P「あのね、俺は本当に関係者なんだよ! そのカードもちゃんと貰ってる!」

「では見せていただけますか?」

P「家に忘れてきちゃったんだよ……頼む! この通りだから通してくれ!」

「そんなに大事なものを忘れますか?」

P「は?(威圧) おい、こっちだって忘れたくて忘れたんじゃないんだぞ! ほんの2,30分前まで病院のベッドで寝てたんだからな!」

「はあ……心中お察ししますが、IDカードをお持ちでない方はお通し出来ません」

P「それしか言えんのかこの猿ゥ!」

「申し訳ありません……」

P「申し訳は聞き飽きた、って二回も言わせるなや猿ゥ!」

スタスタスタ……

「何これ、揉めてるの?」「そうみたいですけど……」

「ああ、双葉さん、森久保さん。お帰りですか?」クルッ

ANZ「そだよ。巻き込まれるのは勘弁だから、早く通してくれないかな」

「はい、どうぞ」スッ

ANZ「ありがと」

MRKB「」ペコリ

「さて、貴方は……ん? いつの間にか、居なくなっている……?」

スタスタ……

ANZ「ふぁあぁ~。まったく、クリスマスイブにまで働かせるなんてとんでもないよね」

MRKB「何か、予定があったんですか?」

ANZ「え? いや、無いけどさ。雪も降ってるみたいだし、こんな日は部屋でゴロゴロするのが一番だよ」

MRKB「そ、そうですか……」

トントン

ANZ「なに、どうしたの……」クルッ

P「」ニコニコ

ANZ「うわあっ!」

MRKB「え……? ひいいっ!?」ガタッ

P「いやぁ、今日はやけに懐かしい顔と巡り合うな。久しぶり、俺のこと覚えてる?」

MRKB「あ、新手の詐欺師ですか……?」

P「違うわ!」

MRKB「ヒッ!」ガクガク

ANZ「あー、なんとなーく覚えてるよ。364プロのプロデューサーだっけ」

P「そうだよ(肯定)」

MRKB「お、思い出しました……あのライブのことは、あまり思い出したくないですけど……」

ANZ「途中で気絶しちゃったからねぇ」

P「二人ともスペシャルステージに出てたのか? 」

ANZ「うん。どーしてもって頼まれたから、年末年始を確実に休みにしてもらうってことで手を打ったよ」

P「ほー。相変わらずだな」

ANZ「……っていうか何の用? 杏たち、帰るところなんだけど」

P「一つ、俺に雇われてくれないか?」

ANZ「無理」

MRKB「杏さんが無理なら、森久保もむーりぃ……」

P「いやまだ無理か分かんないだろ! せめて内容を聞け!」

ANZ「じゃあ報酬だけ聞いてあげる」

P「これだよォ~、凄く美味しいんだぞ~?」

P(かな子のお菓子、たくさん貰っといて正解だったぜ!)

ANZ「えー、ただのチョコ菓子じゃん。これ一個だけなの?」ヒョイパクッ

P「あ、おい! 不労所得だぞ!」

ANZ「ん、これおいしいね」モグモグ

P「……まだあるよ~? あげるから雇われてくれるかな~?」チラチラ

MRKB「お菓子で小学生を拐う悪い人みたいですけど……」

P「……」ジロッ

MRKB「あっ、な、なんでもないです、けど……」

P「けど、そのお菓子はちょっと食べてみたいです~ってか? おい、コラ」

MRKB「あぅ……そうですけど……」

ANZ「ね、杏にももう一個ちょうだい?」

P「……あげるよ、あげるからさ、一つだけ頼みを聞いてくれよ」

ANZ「えー、でもな~」

P「土下座でもなんでもするから! お願い!」

ANZ「ん? 今なんでもするって言ったよね」

P「ああ、なんでもしてやる! 土下座でもホモビ出演でも好きにしろ!」

ANZ「むー、しょうがない。そこまで言うなら一つぐらい頼まれてみるかぁ」

P「よしきた! じゃあさっきのとこに戻るぞ!」ガシッ、ダッダッダッッ

ANZ「うわっ、引っ張るなー!」ヒュ~

MRKB「森久保にも、お菓子……」ヒュ~

とりあえずここまで

MRKBの一人称、森久保じゃなくてもりくぼでした……
申し訳ナス!

────────

遠野「アンッ……アンッ……」~♪
野獣「イキスギィ!」~♪


RIN「ね、ねえ、こんなことってある……?」

KMR「いえ……少なくともこの大会中は一度も無かったはずです」

DB「やべぇよやべぇよ……」

NTK「ああ。まさか……最後の最後で、両ユニットが同じ曲を演奏するなんてな」


HND「~♪」キュッタッキュッ
MY「~♪」キュッタッタッ


RIN「振り付けは多少違うみたいだけど……どうなっちゃうの、これ!?」

KMR「どうなるかは分かりませんが、パフォーマンスの比較がしやすいことは確かです」

MUR「つまり審査員が審査しやすいってことだな?」

KMR「それもそうでしょうが……ステージ上の渋谷さんたち自身が、自分と相手の演技を比較出来てしまうんですよ」

RIN「それって……どういうこと?」

TDN「変に相手を意識してしまい、本来のパフォーマンスが出来なくなる可能性があるかと」

RIN「なるほど……でも、それは向こうも同じだよ!」

DB「これが810プロの作戦じゃなければ、な……」

RIN「え……!?」

CHR「……わざと、ですか」

ONDISK「真正面から撃ち破る、そう言ったでしょう?」

CHR「意味深な事ばかり言って……初めからこの曲で勝負を着けるつもりだったんですね」

ONDISK「三曲構成のライブなのですから、三曲目に注力するのは当然でしょう?」

CHR「……分かりません」

ONDISK「はい?」

CHR「なぜ、そこまで真っ向勝負にこだわるのですか?」

ONDISK「……」

CHR「貴方はこれまで決して回りくどい勝ち方を選んだことはなかった。準決勝で行った一種の搦め手も、二回戦での一転攻勢演出も全て、勝利という結果を得るための最も確実な作戦でした」

CHR「ですが、今回は───」

ONDISK「回りくどい、そう仰いましたか? 真正面から戦おうとしているのに回りくどいとは、また変なことを言いますねぇ」

CHR「それは言葉のあやです!」

ONDISK「……貴女には、これが回りくどい方法に見えますか。本来ならばもっと各種な方法があるのに、俺がそれを避けていると?」

CHR「ええ。田所に遠野と同じ歌声を出させたり、こうして相手と同じ曲を演奏したり……ここまでする意図がまるで分かりません」

ONDISK「そうでなければ勝てないんですよ、彼女たちには」

CHR「!」

ONDISK「俺はやり方を変えたつもりは一切ありませんよ。これまで通り、最も確実な手段で臨んでいるだけです」

ONDISK「この三曲目、同じ曲を選択したことによって両者のパフォーマンスは対比されます。そこではっきりと、こちらが上だと示すんですよ」

CHR「それが一番確実な方法だと……?」

ONDISK「ミッドサマーナイツ・ルードドリームはアピールをほとんどせず、その圧倒的な歌唱力で魅せるユニットです」

CHR「そう、ですね……それが分かっているならなおさら、真正面から演技の質で競うのは避けた方がいい気がしますが」

ONDISK「ちひろさぁん。彼女達のボーカルの中心になっているのは遠野ですよねぇ? ではその遠野と同レベルの歌を持っているのは、誰でしょうか?」

CHR「田所……しかし、彼一人では彼女ら三人には及びませんよ」

ONDISK「確かにそうでしょうね。二曲目の時点までは」

CHR「二曲目と三曲目で何か違いがあるんですか?」

ONDISK「体力ですよ。ボーカルの中心である遠野はかなり疲労しています、もう二曲目までのような伸びのある声は出せないでしょう」

CHR「……しかし、体力を消費しているのはこちらも──」


野獣「イキスギィ! イクイクイク……」~♪


CHR「! これは……」

ONDISK「聞けば分かるでしょう? こちらに疲労はありません。このまま三曲目が終わるまで、100%の実力を発揮出来ますよ」

CHR「田所だけじゃなく、卯月ちゃんや未央ちゃんも……ゴーグルを装着した本当の目的はこれですか」

ONDISK「ご明察。それではそろそろ、種明かしをしてあげましょう……」

────────
ANZ「うわ~たすけて~(棒読み)」タッタッタッ

「双葉さん!? どうされたんですか」

ANZ「あっ、ちょうどいいところに警備員さんがいた(棒読み)。あっちに不審者がいるからー、急いで捕まえて?(棒読み)」

「不審者ですか……では無線で他の警備員を呼ぶので、その不審者の特徴を教えてください」

ANZ「あーダメダメダメ。あなたが行かないとダメだよ」

「いや、しかし……」


????「……ゃーっ、……すけてぇ……」


「この声は……?」


?「そんなんじゃ聞こえないダルルォ!? もっといい声で鳴いてみろやオルァ!」

MRKB「ひいっ! た、助けて欲しいんですけどおおおっ!」


ANZ「ほら、はやくー(棒読み) 乃々ちゃんがロリコンに誘拐されそうなんだよー(棒読み)」

「大変だ……双葉さん、あなたはここに居てください。至急至急、不審な男が連絡通路Cにおいてアイドルを拐おうとしている模様。繰り返します、不審な男が────」タッタッタッタッ

ANZ「ふー、杏のお仕事これで終わり……」ヘタッ

……ダッダッダッダッダッ

ANZ「……ん?」

P「警備員をどかすところまでは良かったけどその先を考えてなかった!!!」タッタッタッ

「待て! やはり関係者というのは嘘だったんだな!」タッタッタッ

ANZ「うわー、こっち戻って来ちゃったよ。騒がしいなぁ……」

ガシッ

ANZ「へ?」

P「このままステージまで行くぞ!」タッタッタッ

ANZ「こらっ! なんで杏まで逃げなきゃいけないの!」

P「あっ、すまん! 小脇に抱えられるサイズだったからつい!」タッタッタッ

ANZ「つい、じゃなーい!」

「森久保さんの次は双葉さんにまで手を出すつもりか! この変態野郎!」タッタッタッ

P「アイドルのプロデューサーなんて全員ロリコンの変態でいいんだ上等だろ!」

ANZ「うわ、それ本心で言ってるとしたらちょっと引くよ?」

P「えっ……いや、ち、ちげーよ! 嘘だよ!」

ANZ「……まあなんでもいいけど、杏、アイドル辞めたらあなたに養ってもらうから、よろしく」ビシッ

P「は?(困惑)」

ANZ「なんでもするって言ったよね?」

P「あのねえ、なんでもにも限度ってものがあるでしょうが!」

ガシッ

P「うげえっ!?」スタッ

P(人一人抱えてたんじゃそりゃ追い付かれるか……! 首根っこを掴まれた!)

「双葉さんを離しなさい!」ギュウッ

P「ぐっ……あ、杏!なんとかしてくれ!」

ANZ「やだ」

P「なっ……わ、分かった、養ってあげるから……」

ANZ「えー、でもこの状況はどうしようもないよ」

「警察に通報しちゃうからなお前な」

P(万事休すか!?)

MRKB「こ、こっちです……」スタスタスタ

P「も、森久保、助けに来てくれたのか……?」

「こいつがお前を襲った不審者か?」

MRKB「は、はい、そうですけど……」

P「っておい! 追っ手連れてきてどうすんだ!」

ANZ「面白いね」

P「面白くねえ!」

MRKB「ひいっ、は、早く捕まえてくださいぃ……」

P「えぇ……(困惑) ねねねね、人を裏切るのって楽しい?」

ANZ「さっきから怒鳴ってばかりだから、乃々ちゃん本気で怯えちゃってるんだよ」

P「そ、そうか。ゴメン……」

「何をべちゃくちゃ喋っているんだ。双葉さんを、離せ……っ!」ガッ

P「あぐっ!」パッ

ANZ「はぁ、やっと解放された」スタッ

「大丈夫ですか? 双葉さん」

ANZ「あ、うん。別になんともないよ」

P(……今の内に)スタッ

「逃がさねえぞ」ガシッ

P「あぁん……」

「私は双葉さんと森久保さんを預かりますから、谷岡さん、その男を頼みます」

P「谷岡? ……! お、お前は!」

TNOK「おう、お前はこっち来るんだよ。あくしろよ」

P「がっ、離せ……っ!」ジタバタ

ズルズル……

ANZ「じゃあねー、約束は守ってよー」

MRKB「結局、お菓子をもらい損ねたんですけど……」

ズルズル……ドサッ

P「っ、はあっ、首、締まってたぞ、おい……」ハアハア

TNOK「…………」

P「お前っ、はあっ、生きてたのか? イニ義たちに、殺されたんじゃ……」

TNOK「ここを進めばすぐ舞台袖だ。行け」

P「! い、いいのか!?」

TNOK「おう、あく行けよ。行かねえなら警察につき出すぞ」

P「い、いや! 行く行く行く! イクよ! でも一つ教えてくれ、お前なんでこんな所に──」

TNOK「……お前はもう手遅れだ」

P「え?」

TNOK「このライブの結果はに関わらず、用済みになるまでイニ義にいいように使われるだろうよ。俺みたいにな……」

P「……はぁ、なんだ。グダグダやってるうちにステージが終わったのかと思ったじゃないか」

TNOK「……」

P「そんなこと今気にしたってしょうがないだろ? ヤバくなったら、なんとかするさ」

TNOK「簡単に言ってんじゃねえぞ……」

P「あーはいはい。その言葉、忠告として受け取っておくよ。じゃ、ありがたく行かせてもらうぞ」

TNOK「勝手にしろ」

P「……あっ、そうだ(唐突)。お前のとこのアイドルはみんな元気でやってるから、いつかまた、顔見せてやれよな」スッ

タッタッタッ……

TNOK「……おう、考えてやるよ」

とりあえずここまで

────────
CHR「情報の遮断?」

ONDISK「はい。一応確認しておきますが、あれがどういう物かはお分かりですね?」

CHR「意識を外部から操作出来るようにする物、簡単に言えば洗脳装置でしょう」

ONDISK「その通りです。彼女らに装置を着けた目的は意識を操作し、余計な情報を遮断するためなんですよ」

CHR「余計な情報……例えば会場内の雑音だったり、相手のパフォーマンスだったりということですか」

ONDISK「そういった外部の情報はもちろんのこと、内部の情報も不必要な物は全て遮断していますよ」

CHR「内部? 卯月ちゃんたちが頭の中で考えていること、ということですか?」

ONDISK「不安、緊張、動揺、その他ネガティブな思考全てです。身体の疲労も今の彼女達は感じていません」

ONDISK「そして余計な情報を全て遮断したことにより、彼女達は今極限の集中状態にあるのです。『フロー状態』あるいは『ゾーン』と呼ばれるものでしょうか」

CHR「だからあれほど正確な演技を……しかし待ってください。いくら脳が認識していなくても身体は疲労しているはずです。装置でごまかしたとしても、いずれはその集中が途切れるのでは?」

ONDISK「曲と曲のインターバルでほとんど息を切らしていない彼女達をみたでしょう?」

CHR「それは……」

ONDISK「貴女の言った事は確かにその通りです。なので二曲目まではある程度セーブしていたんですよ。100%ほどで」

CHR「……100%で、セーブ? では今の三人は───」

ONDISK「普段の彼女達の限界が100%だとすれば今の彼女達は120、200……いや、810%といったところですか、ククク……」

CHR「えぇ……(困惑)」

~♪
RN(見なくても伝わってくる。今、卯月たちは信じられないぐらい凄いパフォーマンスをしてる)

RN(あのゴーグルの力? いや……成長したんだよね、お互い)

RN(新しいユニットを組んで、環境が変わって……離ればなれになったからこそ、色んな経験が出来た)

RN(そっちがそうなら、私たちもこれまでやって来たこと全部を見せる……!)

RN「遠野、まゆ!」ズサッ

MY「はい♪」スタッタッタッ

遠野「アンッ……アンッ!」スタッスタッ

ワアアアアアアアアアアアッ!

~♪

CHR「810%の力というのが誇張かどうかはともかく……凛ちゃんたちとはまだ決定的な差を付けられないようですね」

ONDISK「四次予選で見せた佐久間まゆと遠野のダブルセンター。向こうは総力戦ですね」

CHR「また呑気な……」

ONDISK「とんでもない。待っていたんですよ、相手が仕掛けてくるのを。……ここからは、こちらの独擅場になるでしょう」


野獣「…………」シュー


CHR「田所に『命令』するつもりですか?」

ONDISK「その必要はありません、あらかじめ指示をしておきましたから。相手側のボルテージが上がってきたと感じたら……」

CHR「感じたら……?」

ONDISK「…………」フッ



野獣「 (≧д≦)ンアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」


野獣「~~~~~~~!!!」


RIN「嘘、あれはナオキくんのシャウトじゃ!?」

KMR「いえ、元祖は先輩です。僕は借りているに過ぎません」

DB「チッ、うるさくて敵わん!」

KMR「僕のものとは声量も持続時間も違いすぎる……まさか、これほどは」

NTK「まさしく野獣の雄叫びだな……」

TDN「凛さんたちの歌声がすっかりかき消されてしまっています。このままでは……!」

MUR「嫌な流れだゾ……」


野獣「ーーーーーーーーーーー!!!!」ゴゴゴゴ



ONDISK「……で、……ですよ」

CHR「……はい? すいません、田所の声でよく聞こえません!」

ONDISK「フッ、まさしくその効果を狙っているのです。細く繊細な歌は、太くたくましい歌で上書きしてしまいましょう」

CHR「それが彼女たちの歌に対抗するための、真の作戦ですか」

ONDISK「ええ。これでボーカル・ビジュアル・ダンス、三つ全ての観点においてこちらが完全に上回りました。もちろん、贔屓目は無しに」

CHR「……」

ONDISK「向こうのボルテージも下がっています。このまま覆しようのない差を付けてあげますよ……」

────────
P(馬鹿デカい叫び声はおそらく田所のもの……どうなってるんだ!?)

タッタッタッ……スタッ

P「!」


HND「も~たどちゃん声デカ過ぎ!」ツッコミ

野獣「ダルビッシュ……」

SMMR「先輩だけじゃなく、私と未央ちゃんの声も聞いてくださいね~っ!」ニコッ

ワアアアアアアアアアッ!


P(卯月と未央もゴーグルを着けてやがる、あの野郎なんてことを……)

P(いや、それよりもこの状況!)


HND「一番後ろの人、ステージ裏の席の人、ちゃんと聞こえてる~?」

イエーーーーイ! チャンミオー!

HND「おっけーい! それじゃあ最後まで張り切っていくよー!」

ワアアアアアアアア! チャッチャッチャチャチャ、フゥー!

SMMR「見えなくても、みんなの思いは伝わってますよ!」

オオオオオオオオ!


P(観客への呼びかけで会場全体がどんどん盛り上がっていく!)

P(それでいて歌もダンスもとんでもない! なんてユニットだよ……!)

P「……そうじゃない、俺が見るのはそっちじゃないだろうが!」


RN・遠野・MY「~~♪」アンッアンッ


P「いいぞ、綺麗なハーモニーだ……俺が居ない間も頑張ったんだな!」

P(だが、これは……少なくとも、俺が今見た限りでは…………負けている!)

~♪

P(曲の終わりが近い! その上、この後はもうアッと驚くような演出も無いぞ……!?)

P「どうする……どうすりゃいいんだ!」

P(必死で走ってここまで来て、結局何も出来ないのかよ俺は!)

P(それじゃあ病室のテレビで見ているのと、街頭ビジョンで見ているのと、まるで同じじゃないか!)


ワアアアアアアアアアアアッ!

RN「~~♪」


P(アイドルは一生懸命やっている。だったら俺も、こうして俺が近くに居るからこそ、何かしてやれることが──)

P「いや……違う。そうじゃない」

P(思い返せば、IU本選の間俺はほとんどあの子たちの側に居てやれなかった)

P(だから変な勘違いをして、準決勝の前には演出を降りるだなんて言ってしまった)

P(でも、三人は必死で止めてくれた。凛も、まゆも、遠野も、俺が必要だと言ってくれたんだ)

P「……俺がするべきことは、たった一つ」

P(智絵里が言っていた。アイドルがステージの上で輝けるのは、自分を支えてくれる人、見守ってくれる人が居るからだと)

P(あの子たちにとって俺は、きっとそういう人だと思うから───)


P「すーーっ…………、凛! まゆ! 遠野ーっ! 俺は! ここに居るぞーーーーっ!」


P(伝えるんだ! 俺の存在を、すぐ側で見守ってることを!)

とりあえずここまで

「──────!」

RN(歓声に混じって、何かが聞こえてくる)

「凛! ──!、────!」

RN(私を……いや、私たちを呼ぶ、声……)

ワアアアアアアアアアアア!!!

RN(ファンの声じゃない。だったら、誰の───)

「───、頑張れ! 俺も────ぞ!」

RN「!」

RN(嘘、そんな、まさか……!)


P「……、俺はここに居る! ここでみんなを見てる! だから、最高のパフォーマンスを俺に見せてくれ! やれば出来る!」


RN(やっぱり、そうだ……プロデューサーっ……!)


MY「~♪、……」ウルッ

MY(信じてました、絶対に来てくれるって)

遠野「アンッ! アンアンアッアーッ! アンアンッ!」~♪

遠野(本当にどんな無茶苦茶なことでもやってしまう人ですね、プロデューサーさんは……)

MY(……だから、あなたがそう望むなら)

遠野(プロデューサーさんが出来ると言ってくれるなら!)


MY・遠野「凛ちゃん(さん)!」スタッ

RN「二人とも……うん、見せてあげよう。私たちの、最高のパフォーマンスを……!」

~♪

ONDISK「さあ、長く続いたこのステージも終わりですよちひろさん」

CHR「……ええ、どうやらSCOOOPの勝利のようですね」


SMMR「みなさーん、最後ですよー!」

HND「せ~のっ!」

野獣「イキスギィ! イクイクイクイク……」

『ンアーーーーーーッ!』ワアアアアアアアアアアアッ!

~~♪、デーン…………


ONDISK「最後まで向かってきたその姿勢には素直に感服しますよ。手強い相手でした」

CHR「それでも、貴方の想定の範囲内だったんですよね?」

ONDISK「ええ、それはもち──」

…………、~~♪

ONDISK「!」

CHR「別の曲が流れ始めた……? 運営の手違いでしょうか」

ONDISK「……」

CHR「それとも氷崎さん、まさかこれも貴方の───」

ONDISK「ちひろさぁん……少し、静かにしてください」

CHR「…………」

ONDISK(何故まだ演技を続けている……渋谷凛……!)

ザワザワザワザワ……

RIN「ね、ねえ! 三曲目で終わりなのに、四曲目が始まっちゃったよ!?」

NTK「あ、ああ……」

DB「やべぇよやべぇよ……」

MUR「ふっふっふ、俺は知ってたゾ~」

RIN「ええっ!? で、でもこれって、ある意味ルール違反なんじゃ……?」

KMR「そうとも言えませんよ。『一曲』の演奏に二種類の曲を使うことは今までもありましたから」

NTK「確かに、アタシたちとやった時のSCOOOPも二曲のMIXだったしな」

RIN「MIXとこれは違うんじゃ……?」

MUR「セットリストは運営に提出してあるから、何も言われなかったってことはオッケーってことだゾ」

RIN「なるほど……だったら大丈夫ですね! 頑張れ、みんなーっ!」


RN「私たちのステージはまだ終わってない。そしてこの先も、ずっと続いていく……」

遠野「聞いてください、僕たちの……『EVERMORE』!」

MY「最後の最後まで、ちゃんと、見ていてくださいね♪」

ウオオオオオオオオオ!ワアアアアアアアアッ!

~♪

遠野『ずっと 憶えてる はじめての日のステージ』~♪

遠野(先輩を探していたら半ば強引にスカウトされて、その二時間後には知らない人と初舞台)

RN『君のその声 勇気の追い風』~♪

遠野(今でもちょっと酷いって思います。でも、そのおかげで今の僕がある)

遠野・RN『弱気な背中 押してくれたんだ』~♪

遠野(あの時も、そして今も、プロデューサーさんが僕を支えてくれる!)

フゥー! ワアアアッ!

MY『もっと 広がっていけ 色とりどりの未来』~♪

MY(この先、私たちにどんな未来が待っているかは分からないけど)

RN『昨日の涙は 明日のチャンスに』~♪

MY(プロデューサーさんと一緒なら、きっと薔薇色ですね)

MY・RN『あの日の空想(ゆめ)は 今日のリアルだよ』~♪

MY(だって今、また一つまゆの空想を叶えてくれましたから♪)

RN『仲間の数が 増えてくたびに』~♪

RN(364プロに来てから、たくさんの仲間に出会えた。同じ舞台を目指して進んでいた仲間と)

RN『叶う願いも増えてゆくね』~♪

RN(道の途中でぶつかり合うこともあったけど、その度に成長出来た)

「凛ちゃーん! 頑張れー!」「ワン! ワン! ワン!」「負けたら撃つぞゴルァ!」

RN(今はこうして応援してくれる、大切な仲間。その声が、私たちの力になる!)

遠野・RN・MY『トキメキ集め 溢れるキラメキ』~♪

RN(ステージに立つ私たちと、それを見ているみんな。その全員で、一つの願いを叶えるんだ……!)

RN「行くよ!」

MY・遠野「はい!」

RN「終わらない、私たちの夢の先へ……!」

ワアアアアアアアアッ!

遠野・RN・MY『先へ先へ 夢の先へ! 進んでいくと誓うよ』~♪


P(俺が知っている三曲目にはEVERMOREなんてなかった)

遠野『歌い続けるReason』~♪

P(つまり、俺が眠っていた一週間のうちに三人が自分たちで考え、レッスンし、仕上げたということ)

遠野・RN・MY『いつも(いつも) 君が(君が) そこにいるから』~♪


P(一週間あったとはいえレッスンの時間は決して多くなかったはず。三曲を仕上げるだけでも精一杯かと思っていたのに)

P(それに仕上がったとして、本来は三曲のところを四曲踊るのだから体力の配分も難しくなる)

P(……それでも、三人はこうすることを選んだ)


遠野・RN・MY『先へ先へ 夢の先へ TVで舞台で世界で!』~♪

P(クオリティは文句無しに高い。歌もダンスも、まるで疲れを感じさせない)

MY『踊り続けるSeason』~♪

P「なんて、なんて……」

遠野・RN・MY『いつも(いつも) 夢が(夢が) そこにあるから』~♪

P「なんて凄いんだよ……! 最高だ、みんな!」


RN「……ふふっ」ニコッ

遠野・RN・MY『We are evermore』~♪

デデデッ,デーン……

NSDR「……っそこまでェッ!」


ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

とりあえずここまで

ワアアアアア!!! アアアア……アァ……ヌッ……

P(大きな歓声が収まるまで、少し時間がかかった)


NSDR「やー、はい。いーやいやもう……はい、素晴らしいステージでした。ね、会場のみなさん?」

ワー! ワーワー!

NSDR「それでは、えー、審査が終了するまで少々時間もかかりますので、この素晴らしいステージを見せてくれたアイドルたちに話を聞いてみましょう!」

ザワザワザワザワ……イエー!

NSDR「イェー! ではまず、SCOOOPの……卯月ちゃんに聞きましょうか。卯月ちゃーん?」スタスタスタ

SMMR「…………」ボー

NSDR「卯月ちゃん? ……卯月ちゃん? もしもーし」ブンブン

ザワザワ……

SMMR「……あっ、はい、すいません! ちょっと、ぼーっとしちゃいました」

NSDR「大丈夫ですよ。それで、どうですか? 決勝のステージを終えて」

SMMR「今は、結果が気になって、ドキドキしてます……」

NSDR「あっ、そりゃそうですよね! 自分たちのステージを振り返ってはいかがですか? 未央ちゃんも」

SMMR「えっと、正直、無我夢中でよく分からなくて……未央ちゃんはどうですしたか?」

MO「……」ボケー

SMMR「未央ちゃん? 未央ちゃんっ」トントン

MO「えっ? あっ、ごめん! どうしたの? ……って」

NSDR「ンハッ☆ 長いステージの後で少し疲れてるみたいですね、詳しいお話はまた後ほど伺いましょうか」

SMMR「あ、あはは……すいません……」

NSDR「いえいえ! では、最後に会場をアッと湧かせたミッドナのみなさんに話を聞いてみましょう!」

遠野「ハアッ、はあ……、っ……」ゼエゼエ

NSDR「おやおや、こちらもちょっとまだお疲れのようで……」

遠野「あ、大丈夫、です……」ハアッ

NSDR「いや、本当大丈夫ですか? 酸欠なってない?」

遠野「大丈夫です……」ハアハア

MY「話なら凛ちゃんが代わりに聞いてくれますよ。ね?」

RN「え? まあ、いいけど……」

NSDR「そうですか? では、ステージを終えての感想をどうぞ」

RN「……私たちがやりたかったことは出来た。後は、結果を待つだけ」

NSDR「ステージを終えてなお、真剣な表情の凛ちゃんです。やりたかったこととはやはり、あの最後の曲のことですか?」

RN「……」コクッ

NSDR「そうですか。ここで会場の皆さまに補足しておきますと、最後のEVERMOREまでがミッドナの『三曲目』となっております。四曲目ではなく、三曲目です」

MY「別に、四曲目でもいいんですけどね」

NSDR「いや駄目ですよ~、それだとルールを破ってることになりますから。あくまであの二つの曲が合わさって
、三曲目ということで」

ザワザワザワザワ……

NSDR「おっと、結果が待ち遠しいのかまた騒がしくなって参りましたね。しかしなにぶん優勝者が決まる審査ですので、もうしばらく、お待ちください」

CHR「……最後の最後で、予想外の出来事が起きたようですね」

ONDISK「ええ。貴女の言った通りでした」

CHR「珍しく焦ったんじゃないですか?」

ONDISK「……否定はしませんよ。彼女達の集中状態を解除するのも遅れてしまいましたし」

CHR「ということは……やはり卯月ちゃんたちの様子が少し変だったのはその集中状態のせいだったんですね」

ONDISK「極限の集中状態はステージのみに意識を向けて初めてそうなることが出来るのです。なので、その間他の事象に対しては一切反応出来ないんですよ」

CHR「想定外の事態に慌てていた氷崎さんと同じですね」

ONDISK「……人が少し焦ったり慌てた程度でそう得意げにならないで欲しいですね」

CHR「あら、すいません。そういう態度をしたつもりはないんですけど」

ONDISK「…………」

CHR「……確認しますが、凛ちゃんたちの最後のパフォーマンスを見た上で、勝つのはSCOOOPだと思いますか?」

ONDISK「フッ……当然。アレは所詮インパクトが大きいだけの演出ですよ」


NSDR「……はい、えー、審査が終了したようです!」

ザワザワザワザワ……ワアアアアアアアアッ!


CHR「卯月ちゃんたちが勝つと、本当にそう言い切るんですね?」

ONDISK「ええ、断言しましょう。彼女達は結局、演技の質でこちらを上回っていないのですから」

CHR「……分かりました」

NSDR「このLIVEバトルの結果、つまり優勝ユニットの名前は、大会運営委員長である伊藤文學氏に発表していただきます」

ラブオイル校長「どうも、みなさんこんにちは。えー今日は───」

ヒュイッ

ラブオイル校長「あらら。またマイクがそっぽ向いちゃった。……えーみなさん、今日は────」

ヒュイッ

ラブオイル校長「あーもう……」

ザワザワザワザワ……

ラブオイル校長「いやみなさん、これは決してわざとではなくてですね、勝手に────」

ヒュイッ……ザワザワザワザワ!!
「あくしろよ!」「茶番やってんじゃねーよ!」「そもそもピンマイクにすればいいだけなんだよなぁ」

NSDR「……はい、みなさん落ち着いてください。伊藤氏の準備が整うまで、特別審査員のお三方にコメントをいただきましょう」スタッ

NSDR「ではまず土方さん、一言お願いします」

変態糞土方「最高や。二回も男汁を出した。もう一度、いや、何度でも見たいぜ」

NSDR「そうですねぇ最高でしたよね! 男汁ってちょっとよく分からないですけども……NRKさんはいかがでしたか?」

NRK「若い、新しい世代の子たちの力が見られて大変良かったです。私もステージに立ちたくなってきましたね」

NSDR「おっと、これは復帰を匂わせるようなコメントですが……それはまた、別の機会に。では最後に平野さん」

平野「はい」

NSDR「……審査を終えてズバリ! 勝敗を分けたのはどんな点でしたか? 時間の関係で総評を長々とお伝え出来ないので、短く単刀直入にお願いします」

平野「まだ結果を発表していないのに無茶を言いますね……、では一つだけ。アイドルにとって一番といっていいほど大事なもの、その差が勝敗を分けたと思います」

NSDR「アイドルにとって一番といっていいほど大事なもの……なんですか!?」

平野「ご想像にお任せします」

トン、トン

ラブオイル校長「あーあー、治ったかな。もういいですよ!」

NSDR「あ、はい! ではみなさまお待ちかね、優勝者の発表に移りましょう!」

ワアアアアアアアアッ! パチパチパチ!

ラブオイル校長「はい、みなさん静かに。改めまして、大会運営委員長の伊藤文學です」

NSDR「伊藤さん。前置きはナシでお願いします」

ラブオイル校長「そうですか? エーでは、発表いたします。みなさんどうぞ、発表が終わるまではお静かにお願いします」

ザワ……ザワ……

P(いよいよだ……)

P(ステージの半分を以上見てない俺が勝敗を判断することはもちろん出来ない)

P(だが────)


ラブオイル校長「アイドルアルティメイト・第一回ユニットトーナメント部門! 栄えある優勝ユニットは────」


RN「……」

MY「……」

遠野「……」ゴクリ


野獣「……」ポポポポ

SMMR「……」

HND「……」


P(これだけは言える。あのEVERMOREは、俺の人生で見てきた中で間違いなく一番のステージだった、と)


「……優勝は」







「ミッドサマーナイツ・ルードドリーム!」





P「!!!」


遠野「ぁ……」

MY「……!」

RN「…………っ、やっ────」


ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!

P(ユニットの名前が告げられた瞬間、この会場を揺らすほどの歓声がわき上がった!)


MUR「やった! やったゾ! 凛ちゃんたちの優勝だ!」

RIN「くぅ~っ! 凄いっ、もう凄いとか最高とか、その言葉しか浮かんでこないよっ!」

NTK「……そういうときこそあれを言ってやればいいんじゃないか? だりー」

RIN「そっか、そうだよね!」スーッ

RIN・KMR「最っ高にロックだよ(だぜ)!」

RIN「……って、なんでナオキくんも!?」

KMR「いえ、その……もう、昂ってしまって」

MUR「そうだよ(便乗) 語尾にエクスクラメーションいっぱいつくゾ!!!!!」

RIN「うわーすっごい(適当)」

TDN「本当に……ナンバーワンになりましたね、みなさん」

DB「フン、────────」ボソッ

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

TDN「……大坊、何か言ったか?」

DB「うるさい。別になんでもないぞ」

HTN「うまいぞ称賛」ニヤニヤ

DB「チッ、お前には聞こえてたか……」

TDN「なんだ? 羽田野、教えてくれ」

DB「いい、いい! 言うなよ、羽田野」

HTN「」ニヤニヤ

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!

P(それからしばらく、誰が何を言っても分からないほどの歓声はやむことなく響いた……)

ONDISK「何故だ、そんなはずは……」

CHR「…………」

ONDISK「アイドルにとって一番といっていいほど大事なもの……一体なんだと言うんだ……!」

CHR「確かに……演技の質ではSCOOOPが完全に上回っていたのかもしれません。ですが……」

ONDISK「はい……? なんですかちひろさぁん……」

CHR「貴方が以前言ったじゃないですか、LIVEバトルの審査に明確な基準はない、所詮は審査員の印象ですべてが決まると」

ONDISK「……」

CHR「あの最後のEVERMOREは……審査員の心を動かすのに十分だったのではないでしょうか」

ONDISK「…….……」

CHR「それに、これは私の憶測ですが……その大事なものとは、気持ちじゃないでしょうか」

ONDISK「気持ち……」

CHR「卯月ちゃんたちは極限の集中状態に入り、ステージを完璧にこなすということにだけ意識をおいて演技をしていました。まるで、機械のように」

CHR「対して凛ちゃんたちは、最後まで最高の自分たちを見せたい、つまりは、見ている人を楽しませたい……そういう演技をしていたと、私は思います」

CHR「ですから、審査員の目には……卯月ちゃんたちよりも凛ちゃんたちの演技の方が、気持ちがこもっているに映ったのではないでしょうか」

ONDISK「馬鹿な……そんなものはただの判官贔屓だ!」

CHR「私にははっきりしたことは言えません。……ただ、氷崎さん」

ONDISK「……なんですか」

CHR「卯月ちゃんや未央ちゃんの笑顔を見えなくしてまでゴーグルを着ける必要が、本当にあったのでしょうか……?」

ONDISK「もういいですよ……貴女の言っていることはただの結果論でしょう」

CHR「……ええ、そうですね」

ワアアアッ……ワッ! ワアッ!……

NSDR「ようやく収まって参りました……はい、では優勝したミッドサマー……あーいや、長いのでミッドナでいきます」スタスタ

NSDR「ミッドナのみなさん! いかがですか、今のお気持ちは!」

RN・MY・遠野「…………」

NSDR「あ、あれ、どうされました……?」

遠野「ぅ……、ひっぐ、僕、僕は、ほんとに……」グスッ

MY「遠野ちゃん……」サスサス

NSDR「お、おっと、なんだか盛り上がるというよりはしっとりとした雰囲気であります……」

RN「二人とも……そんなんじゃ、ダメだって……」ウルッ

遠野「ううっ、すいません……」グスッ

MY「凛ちゃんこそ、泣いてる、じゃないですか……っ」ウルッ

NSDR「感動のあまり涙をこられきれないようです……」

RN「……ううん、涙は流さない。みんな、幕が下りるまでは……笑顔で」スッ

MY・遠野「……はいっ!」ニコッ

NSDR「今、三人の表情が笑顔に変わりました! 最高の喜びを感じさせる、眩しい笑顔です!」

フゥーーー!パチパチパチパチパチパチ!

NSDR「さて────」

スタッ、スタ,スタ

NSDR「お、おおっと、どうしました? 凛ちゃん!?」

RN「……握手、してもいいかな。もう一度」

SMMR「凛、ちゃん……」ウルッ

NSDR「これは……ライブが始まる前と同じく、凛ちゃんが卯月ちゃんに握手を求めました!」

RN「何の握手とか、そういうのは、無くて……ただ、握手したい」スッ

SMMR「はい……」ギュ

RN「また、一緒のステージに立とう。絶対、絶対……!」ギュッ

UDK「はいっ……、ありがとう、凛ちゃん……っ」

RN「……未央も、いいかな」

HND「もちの、ろんよっ!」ギューッ

RN「ちょっ、痛い、痛いって!」

HND「ごめん、ごめん……おめでとう、しぶりん」ウルッ

RN「……うん、ありがとう」

野獣「…………」ポポポポ

RN「アンタも……まあ、一応」スッ

野獣「キャプチュ」ギュ

NSDR「お互いの健闘を称え合う握手が行われましたッ!」

ワアアアアアアッ!

RN「……」スタ、スタ

MY「どうでしたか?」

RN「あったかかった……かな」


NSDR「えーそれでは、この後は大会運営委員長にお言葉をいただきます。なので、両ユニットには一度舞台袖に戻っていただきましょうか」

ザワザワザワザワ!!
「は?」「必要ねぇんだよ!」「ジジイが喋るの見に来たんじゃねえんだよ!」

NSDR「みなさん落ち着いてください! 一旦、一旦ですから、もしかしたら、みなさんの声次第で……ね」

ザワザワザワザワ……

NSDR「それでは、みなさんはどうぞ、下がってください」

RN「……じゃあ、行こっか」

遠野「みなさん、ありがとうございました!」

MY「またいつか、会いましょうね♪」

スタスタスタ……パチパチパチパチパチパチ!

舞台袖

スタ,スタスタ……

P(く、来る。来るぞ……俺がいきなりここに居たらみんなビックリしちゃうんじゃないか?)

P(どうしよう、うーどうしよう、どうしようもない……)

「……プロデューサー(さん)!!!」

P(気付かれた!)

タッタッタッタッ……スタッ

P「あ、いや、みんな……お疲れ」

MY「……っ!」ダキッ

RN「あっ、ちょっと、まゆ!」

MY「プロデューサーさん、本当に来てくれた……」ギューッ

遠野「やっぱり、あの声はプロデューサーさんだったんですね!」

P「やっぱりって……じゃあ聞こえたのか!? 俺の声!」

RN「うん。ちゃんと、私たち全員に届いたよ。プロデューサーが、ここで見守ってるってこと」

P「そっかぁ……! 叫んだ甲斐あったなぁ!」

MY「……あれ、プロデューサーさん、服がかなり破けてますよ。ズボンも」

P「ん、いやぁ、ここまで来るのにちょっと一悶着あってな、いや一つじゃすまないけど……」

MY「ケガしたんですね!? ほら、ここにキズが……」

P「大丈夫だって安心しろよ~、へーきへーき、平気だから」スッ

P(……あれ? さっきまではもっと生傷だらけだった気がするんだが……まあ、目がボヤけてたからそう見えたのかな)

遠野「そういえば、いつ頃目が覚めたんですか? 僕たち、ここに来る前までは病院に居たんですよ」

P「起きたのは……お前たちのステージが始まる直前かな?」

RN・MY・遠野「ええっ!?」

RN「そ、それでここまで、車で来たの?」

P「いや、ほぼ走りだけど」

RN「えぇ、いや、えぇ……!?」

遠野「や、やっぱりすごいひとだ……」

MY「まゆのプロデューサーさんです♪」ギューッ

P「まあまあ、今は俺のことなんていいじゃないか。あとまゆはそろそろ離れなさい」

MY「はぁい♪」スッ

P「よし、じゃあ、改めて……優勝、おめでとう! よくやったな!」

MY「はい!」

RN「……ふふっ」

遠野「ほんとに、優勝したんですよね!」

P「当たり前やん! 三人とも本当に日本一……いや、世界一のアイドルだ!」

RN「ランクアップしてるし……」

MY「じゃあ、そんな私たちをプロデュースしたプロデューサーさんは、アイドルマスターですね♪」

P「ええっ!? いや、照れるなぁ……でもアイドルマスターなんて、まだまだだよ。みんなはみんなの実力で優勝しただけで、俺なんて全然、何の力添えもしてない」

遠野「そんなことありませんよ!」

MY「そうですよ(便乗)」

P「いやでも、大事なときに一週間も寝てるのはほんとプロデューサー失格だろ……」

MY「今ここに居るからいいんです!」

P「そ、そうか……」

RN「……アイドルマスターじゃないなら、こういうのはどう?」

P「ん?」

RN「私たちは『ミッドサマーナイツ・ルードドリーム』で、訳したら『淫夢』でしょ」

P「まあ、そうなるな」

RN「だからプロデューサーは、ア淫夢ドルマスター……なんて」

P「…………」

MY「…………」

遠野「…………」

RN「ちょっ、ちょっと! 冗談だから! 本気じゃないから!」

P「……ぷっ、なんだよそれ! お前人のネーミングセンス笑えないぞ!」

MY「いいんじゃないですか? だってこれ、冗談、みたいですから♪」

遠野「凛さん……」

RN「うぅ、恥ずかしい……言わなきゃよかった……」

……コール、…コール!

P「ん?」

「アンコール! アンコール! アンコール! アンコール! アンコール! アンコール! アンコール!」

P「おお、こりゃまた凄いアンコールだな」

遠野「出ていったほうがいいんでしょうか……」

P「そりゃあな。遠野は初めてか、アンコール」

遠野「は、はい。緊張します……」

RN「今さら……」

タッタッタッタッ

NSDR「三人とも! 会場ではアンコールが止みません! ステージに出てきてくれませんか?」

RN「いいよね、みんな?」

MY「もちろん♪」

遠野「は、はい」

RN「……そういうことで。あ、一つ聞いていい?」

NSDR「なんですか?」

RN「SCOOOPも、アンコールには参加するの?」

NSDR「いや、こちらは優勝ユニットのみのアンコールを予定していましたが……SCOOOPも一緒にやっちゃいますか!」

RN「うん、お願い」

NSDR「イェア! じゃあ呼びに行ってくるぜ!」タッタッタッタッ

RN「じゃあ、行って────」

P「あぁちょっと待ってくれ。行く前に俺も一つ聞いていいか?」

RN「ん、何?」

P「最後のEVERMORE……あれはいつ、やろうと決めたんだ?」

RN「あれは……プロデューサーが倒れてから、三日ぐらい後かな」

P「三日後!? それお前、練習期間どれだけ短かったんだよ!?」

MY「プロデューサーさんにサプライズがあったらいいなって、みんなで話し合ったんですよ♪」

P「なっ、俺をビックリさせるためだけに一曲増やしたのか!?」

遠野「……プロデューサーさんへのメッセージのつもりでもあったんです。だから、EVERMOREにしようって」

RN「単純に、お客さんに長く楽しんでもらいたいって理由もあったし……まあ、そんなところ」

P「はあ、たまげたなあ……まったく、やっぱ俺なんて要らないんじゃないのか?」

RN「そんな訳ないでしょ。……じゃあ、行ってくるね。プロデューサー」

MY「まばたきしている間も見ていてください♪」

遠野「緊張してます、けど……頑張ります!」

P「おう! 好きにやってこい!」

スタ、スタスタ……

P(ああ……シンデレラの背中っていうのは、こういう風に見えるんだな……)

反対側の袖

野獣「…………」ポポポポ

SMMR・HND「…………」

ONDISK「みなさん、お疲れさまでした。とても……とても素晴らしい、ステージでしたよ」

SMMR「っ、ぐすっ、プロデューサーさん……っ、私っ……」ポロポロ

HND「ばっ、しまむーっ……! 泣いたら、だめって、しぶりんも……言ってた、じゃん……」グスッ

CHR「卯月ちゃん、未央ちゃん……」ギュ

SMMR「ぐすっ、ちひろさん……っ」シクシ

HND「……っ」ギュッ

CHR「……氷崎さん」

ONDISK「はい?」

CHR「さっきの言葉は訂正します。こんなに泣いてる子たちの演技が機械だったなんて、気持ちが入ってかったなんて、そんなこと、ありません……」

ONDISK「…………」

…………、タッタッタッタッ

NSDR「イェア! ちょっとお話……あっ、お取り込み中ですか」

ONDISK「なんでしょうか」

NSDR「いやあの、アンコール、聞こえてますよね?」

ONDISK「ええ。ですがここは優勝した彼女達に任せるべきでしょう」

NSDR「それがですねミッドナの凛ちゃんがぜひ、SCOOOPとも一緒に歌いたいと」

SMMR「え……」

MO「しぶりんが……?」スッ

ONDISK「……なるほど、分かりました。すぐに行かせますから、貴方はもう戻っていいですよ」

CHR「氷崎さん!?」

NSDR「話が早くて助かります! では!」タッタッタッタッ

CHR「氷崎さん……今のこの子たちは」

ONDISK「求められている舞台に立つ、それがアイドルでしょう」

CHR「しかし───」

SMMR「……プロデューサーさんの言うとおりです」スッ

CHR「卯月ちゃん……?」

SMMR「私、ステージに立ちたいです。お客さんの中には、私たちが出てくるのを待ってる人も居ると思います」

CHR「……大丈夫なんですか?」

SMMR「……はいっ、頑張ります!」ニコッ

HND「ぐすっ……しまむーの笑顔復活だ! だったら私も、元気復活!」

CHR「そう、ですか……それならもちろん、止めませんが」

ワアアアアアアアアアッ!

ONDISK「渋谷凛たちがステージに上がったですね。今度はこちらの番です」

SMMR「はい! それじゃあ────」

ONDISK「待ってください。今の貴女達にはもう、これは必要ありません」カチカチ、プシュ

CHR「! 氷崎さん……」

UDK「あれ、えっと、取っちゃって大丈夫なんですか?」

ONDISK「ええ。その方が、表情がよく映えます」

MO「確かに、しまむーの顔はこっちの方が断然いい!」

UDK「ええっ、そんなに変わりませんよぉ~」

野獣「…………」ポポポポ

ONDISK「……貴方もです」カチ

CHR「えっ!?」

プシュー……

田所「アーゥ、アァ……」

MO「わっ! ゴーグル取った顔初めて見た!」

UDK「なんだか、別人みたいです……」

CHR「ひ、氷崎さん!? 何をしてるんですか!」

ONDISK「もういいじゃないですか。彼を使う必要はどこにもありません」

CHR「だ、だからって……」

UDK「どうかしたんですか?」

ONDISK「いえいえ。それより、早く行ってあげなさい」

UDK「はい! 未央ちゃん! 先輩!」

MO「おうともよ! ……たどちゃーん?」

田所「アァイキソ、アイキソ……」

ONDISK「いつまで寝ぼけてるんですか」ガシッ

田所「ア!(スタッカート)」

UDK「と、とりあえず、連れていきますね」

ONDISK「ええ、お願いします」

MO「いきなり要介護アイドルになっちゃったの……?」スッ

スタ、スタスタ……

ONDISK「……では、俺はこれで失礼しますよ」スッ

CHR「えっ?」

ONDISK「貴女の依頼した仕事は達成出来ませんでした。もう俺が彼女達をプロデュースする理由はありませんよ」

CHR「そんな、ではこれからどうするんですか!?」

ONDISK「そうですねぇ。判事か、マッサージ師か、クソムリエに復帰するのもいいですね。ああもちろん、契約金はお返ししますよ」

CHR「そうではなく! 卯月ちゃんたちのことです!」

ONDISK「フッ……それなら、俺より適任が居るじゃないですか。彼が戻ってくるまで、そう日はかからないでしょう……」

CHR「そうは言っても、お別れもなしに……」

ONDISK「俺は馴れ合いでやっていたんじゃないんですよ、そんなものは必要ありません。……では、また。仕事の依頼ならいつでも歓迎しますよ」スタスタスタ……

CHR「氷崎さん……」

ステージ

スタ、スタスタスタ……

NSDR「さあ、熱い勝負を繰り広げた二つのユニットが再び揃いました!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


RN「……! 卯月、未央!?」

UDK「えへへ、来ちゃいました」ニコッ

MO「さっきぶり!」

RN「いや、ゴーグルは……」

UDK「よく分からないですけど、外していいそうです!」ニコッ

MO「こっちの方がかわいいでしょ? しまむーの笑顔!」

RN「え、うん……っていうか、田所も!?」

遠野「えっ、せんぱ……先輩!?」

田所「ウーン、ウーン……これもうわかんねえな……」

遠野「先輩!」タッタッタッ

田所「あれ、遠野……?」

遠野「先輩! 先輩!」ギューッ

田所「ファッ!?」

ワアアアアアアアアアッ!キャー!

MY「うふふ、あれがまゆの教えた、愛のカタチ……♪」

RN「まゆ……」


NSDR「なんだかよく分からないですが、緊張が解けて両ユニットも仲良く話しているようです!」

NSDR「それでは、フィナーレとなるアンコールにはわたくし西寺のこの曲を……ミュージック・スタート!」

~♪

KMR「この曲は……!」

MUR「『LOVE TOGETHER』だゾ!」

RIN「この曲に何かあるんですか?」

KMR「この曲は、先輩と僕と三浦さんでモバプロへオーディションへ行ったときに歌った曲なんです」

MUR「ある意味始まりの曲ゾ」

RIN「そうなんだ! その曲がここで流れるなんて……西寺さん、ロックな選曲!」

KMR「あれ、そういえば先輩、ゴーグルを着けていない……?」



田所「一体なんなんですかねこれは……」

遠野「先輩、一緒に歌いましょう!」

田所「は?(困惑)」

遠野「ほらっ、先輩! ねっ!」ギュッ

田所「と、遠野、いつからそんな積極的に……しょうがねぇなぁ!」

田所『LOVE TOGETHER,LOVE TOGETHER We're living on the floor』~♪

遠野「ずっと待ってたんです、先輩!」

田所『LOVE TOGETHER,LOVE TOGETHER We're living on the floor』~♪

NSDR『君を忘れたくて踊るのさ今↑夜↓』~♪

田所「イェア!」

NSDR「上手いねぇ~! 俺と変わんないじゃん!」

遠野「さすが先輩です! これからはもう、ずっと離しませんっ」ギュッ

田所「なんか気持ちよくなってきちゃったよ、ヤバいヤバい……」

MY「ふふ、その調子ですよ遠野ちゃん……」ジロジロ

RN「まゆ……!」

UDK「凛ちゃん! 私たちと一緒に踊りましょう!」

MO「もうユニットの垣根なんてあってないようなもの!」

RN「卯月、未央……うん!」

~♪

UDK『メロディが ほら電話を 鳴らす』~♪

UDK「一緒に踊るのは本当に久しぶりですね!」

MO『君の声 聞こえること 願う』~♪

MO「ニュージェネレーションズ、再結成!」

RN「ニューニュージェネレーションズってこと? ……悪くないかな」

UDK・MO「え?」

RN「…………」

NSDR「カモンカモン!ダンスフロア!FUCK OFF!!(唐突な暴言)」

RN『ダンスフロア 夏が通り過ぎても』~♪

UDK『ダンスフロア 君を忘れはしないから』~♪

MO『倒れてく』~♪

RN・MO・UDK『ダンスフロア!』~♪

NSDR『涙を流してる僕は み な み け』

『Why don't you feel the beat?』

MO「みんなも一緒にー!」

『Why don't you chant the rhyme?』

MY『テレビ塔 ひとり見上げ』~♪

田所『麻がクルルァで!』

LOVE TOGETHER,LOVE TOGETHER
We're living on the floor……


……
………

P(楽しいステージはいつまでも続いた)


RN『Love,Love,LOVE TOGETHER Baby』

MO『Love,Love,LOVE TOGETHER Baby』

UDK『Love,Love,LOVE TOGETHER Baby』

MY『一人のダンスフロア……』~♪


P(そう、ほんとに、いつまでも……)


田所『Love,Love,LOVE TOGETHER Baby、Love,Love,LOVE TOGETHER Baby、Love,Love,LOVE TOGETHER Baby』

遠野『いつものダンスフロア……』~♪

NSDR「ツギャ! ツギャ!」

Love,Love,LOVE TOGETHER Baby……

~♪

P「…………」

P(ほんと、いつまで続くんだか……)





P(その後、西寺兄貴が酸欠になったところでやっとアンコールは終了。大声援の中で、長かったアイドルアルティメイトは幕を閉じた……)

とりあえずここまで
もうちょっとだけ続きます

歌詞はJASRAC対策にわざと間違えたゾ


嘘です、センセンシャル!

深夜 イニ義事務所

トントン,ガチャ、キィー……バタン

P「失礼する」

イニ義「よぉ、遅かったじゃねえか。もうとっくに日を跨いじまってるぜ」

P「仕方ないだろ。一週間意識不明だった奴が目覚めたってだけでも大騒ぎなのに、そいつが病院抜け出してライブ会場に居たんだから」

P「……大の大人に説教されたのなんて久しぶりだよ、まったく」

イニ義「そいつは結構だな。間に合って良かったじゃねえか」

P「まあそれは、おかげさまでな」

イニ義「改めて、よくやった。これでお前や嬢ちゃんたちに余計な手を下さずに済むな」

P「……ああ」

イニ義「こうなった以上はもう話すことも無ェだろ、今日は帰りな」

P「…………」

イニ義「ンだよ、疲れてんだろ?」

P「……いや、そっちに話すことがなくても、こっちにはある」

イニ義「おいおい……穏便に済んでめでたしめでたしじゃねえか。どうしても今言わなきゃいけねえことかよ」

P「ああ。今、どうしても、だ」

イニ義「……だったら、そいつぁここじゃ聞けねえな。タカダ! 車の準備をしろ」

タカダキミヒコ「はい」スタスタスタ

P「なっ、別にここなら誰も聞いちゃいないだろ!?」

イニ義「どうしても話したいんだろ? だったら……大人しく着いてこい」

P「…………、分かったよ」


……
………

キィー……ガタッ

イニ義「着いたぞ。降りな」

P「着いたって……」ガチャ、バタン

P(車で一時間以上、山道に入ったのは分かったが……)

P「一体ここはどこなんだよ? 真っ暗で何も分からんぞ」

イニ義「ん? あぁ、そうだな。タカダ、車のヘッドライトを点けろ」

タカダキミヒコ「はい」ガチャン

パッ!

P「……そうか。単に人気も建物もない山奥に連れてきたかったってだけかよ」

イニ義「建物ならあるだろ? そこに廃工場が」

P「事と次第によっちゃ、あそこに死体が一つ捨てられるって?」

イニ義「んなこたぁ誰も言ってねえだろうが。話をとっとと始めな」

P「話ってほどのものじゃない。ただ一つ、頼み事をしたいだけだ」

イニ義「なんだ、言ってみろよ」

P「……頼む、もう俺たちには関わらないでくれ。互いに目的は果たした、これで協力関係は終わりのはずだ」

タカダキミヒコ「やれやれ、何を言い出すかと思えば……」

イニ義「フッ、まったくその通りだぜ。何もそんな仰々しく────」

P「分かってるんだぞ! お前が……お前らが、これから何をしようとしているのか!」

イニ義「ほぉ、そいつは気になるな……聞かせてくれねえか?」

P「他人事じゃない、お前らのことなんだぞ!」

イニ義「……だから聞かせろっつってんだろ? 二回も言わせんじゃねえよ」ギロッ

P「っ……ああ、聞きたきゃ聞かせてやる。お前らの目的は、芸能界を裏から支配すること……そうだろ?」

イニ義「そう言われて、はいそうですか、なんて認めるバカは居ねえよ」

P「……そもそもお前が俺たちに協力した理由、アレは嘘だ」

イニ義「あぁん? いきなり何言い出すんだよ」

P「お前は、ちひろさんが仕事の報酬を支払わなかったことからちひろさんを恨み、報復したいと考えていた」

P「しかしちひろさんを殺してしまったら、ちひろさんが関与していた様々な裏取引がパーになって面倒なことになる。だから直接手を出す事は出来ず、810プロを通じて報復しようと考えていた」

P「そこにちょうど810プロを倒したい俺たちが現れたから、協力関係を結んだ。……理屈が通っているようにも見えるが、まず、ちひろさんがその仕事の報酬を支払わなかったとはどうしても思えない」

P「お前は知らないだろうが、その時期にちひろさんはちょうど田所から大金を貰っていたはずなんだよ。もちろん、そんな金無くてもあの人ならどこからでも用意出来るだろうけど」

P「もう一つ決定的だったのは、お前以前、ちひろさんを消すかどうかは俺たちが810プロを倒した後に話してやるって言ってたよな? その直前には一度、はっきり『消す』とも言った」

P「それはどう考えてもおかしい。ちひろさんを消したら裏の取引も消えるんだろ?」

P「……矛盾だらけなんだよ。どう考えても、お前が話した理由じゃ辻褄が合わない」

タカダキミヒコ「つまりこう言いたいのですか? 私たちが協力した本当の理由は、貴方達を通じて芸能界を支配するためだと」

P「ああ、そうだ」

イニ義「馬鹿馬鹿しい。なにか? 俺はてめえのアイドルが優勝すると初めから分かってたってのかよ」

P「いいや、IUの結果は関係なかった。もし優勝出来なければ報復の代わりに服従を誓わせ、優勝したとしても、反社会勢力と関わっていた事実をダシにして脅迫する」

P「要は芸能界で動ける手駒が作れれば良かったんだよ。893プロを潰した時、李衣菜に自分を頼るように言ったのもそのための手段だろ?」

イニ義「けっ、昔のことをベラベラと。覚えちゃいねえよ、んなもん」

P「…………」

イニ義「ただ、一つだけはっきりと覚えてることがあるぜ……李衣菜っつったか? あいつが事務所に来て、レッスンスタジオを貸してくれと言ってきたときには……しめしめと思ったなァ」

P「!」

イニ義「兄ちゃんの想像力には感心するぜ。手駒云々はまだしも、芸能界の支配だぁ? 笑っちまうな、おい」

P「……違うのか?」

イニ義「フッ、いいや、よく気づいた。褒めてやるよ」

タカダキミヒコ「兄貴、いいんですか?」

イニ義「これ以上シラを切っても進まねえだろ。それによ……なんのためにこいつをここまで連れてきたと思ってんだ?」

タカダキミヒコ「……はい」

イニ義「それで、なんだ。もう縁を切って、今後一切関わらないで欲しいって?」

P「……ああ。お願いだ」

イニ義「兄ちゃんよぉ……」

グイッ!

P「!」

イニ義「都合のいいことばっか抜かしてんじゃねえよ。俺らみたいなはみだしモンと関わるのがどういうことか分かってんのか? おい」グッ

P「っ、それはもちろん、分かってるが……」

イニ義「『が』、だぁ? お前が今日ライブに間に合ったのは誰のおかげだと思ってんだ?」グイイッ

P「うぐっ、も、もちろん分かってる。これまで何度も助けられた、レッスンスタジオはもちろん、野球のときも、俺が入院してる間も……」

イニ義「分かってんじゃねえか。だったら、することは一つだろ?」パッ

P「っはあっ、何度も助けられたからこそ、忠告してるんだ……これ以上は、関わるな。でないと────」

イニ義「警察に通報するってかぁ? 残念だが、それは無駄だぜ」

P「なっ……」

イニ義「俺が千川ちひろから頼まれた依頼は二つ。一つは893プロを潰すこと、もう一つは……モバP、お前を監視することだ」

P「え……?」

イニ義「てめえが最初に俺の事務所へ来る前からずっと見張ってたんだよ。あいつを使ってな」

P「あい、つ……?」

タカダキミヒコ「貴方は私たちの事務所へ来るよう誘導されたでしょう?」

P「……! あの警官はお前らの仲間だったのか!」※インパルス板倉を忘れたホモは前々スレの最初の方を読んで、どうぞ

イニ義「警察でもなんでも通報するのは勝手だが、まともに取り合ってくれるかは保証しねえぜ? 兄ちゃん」

P「くっ……」

イニ義「さあ、話は終わりだ。大人しくしてりゃあお前のプロデュースに口は出さねえよ。俺に従え」

P「……嫌だ」

イニ義「おいおい……」スッ

ザザザザザザザッ!

P「!?」

P(イニ義の手下たちが俺を一瞬のうちに取り囲んだ……)

スチャッ,スチャッスチャッスチャッ!

イニ義「舐めたことばっか言ってるといい加減、痛い目みる羽目になるぜ? 兄ちゃん」スチャッ

P「お、おいおい、みんなで撃ったらお前らにも当たっちまうぞ、やめろよ……」

バァン!

P「っ……!」ビクッ

イニ義「やっと元気になった身体をすぐに傷物にしたくはないよなぁ? 兄ちゃんよぉ」

タカダキミヒコ「大人しく従うことです。死なない程度になら、私たちはいくらでも撃ちますよ」

P「…………っ」スーッハーッ

イニ義「……これが最後だ、モバP。はいかいいえで答えろ。これからも、俺たちはいい関係でいられるな……?」カチッ

P「その、答えは……」

イニ義「5秒以内に答えろ。5、4、3……」

P「……いいえだ! 変身!」

ピカーッ!

イニ義「何ッ、この光は……!?」

タカダキミヒコ「みなさん! モバPの足元を狙って撃ちなさい!」

バンバンバン! バリィン! シュウゥゥゥ……

イニ義「馬鹿野郎! ヘッドライトが割れちまっただろうが!」

タカダキミヒコ「す、すいません」

イニ義「野郎はどこいった!」

ドカッ! バガッバキッ! バタッ、バタッ……

タカダキミヒコ「あ、兄貴、これは」

イニ義「早く明かりを点けろ!」

タカダキミヒコ「今、非常ライトを……」

パッ!

イニ義・タカダキミヒコ「!」

サイバーP「だから『忠告』と言ったんだぞ……今から痛い目を見るのはそっちだ!」

バァンバァンバァン!

サイバーP「カスが効かねえんだよ(無敵)」ガシッ、ドカッ!

タカダキミヒコ「兄貴、どうやら────」

イニ義「くくっ、クハハハ……!」

タカダキミヒコ「兄貴……」

サイバーP「なんだ、気が変になっちまったか? 雑魚を片付たら、っ! お前らの番だからな……っ!」ダゴッ、バキッ!

イニ義「クク、そうか、そうかよ! おいお前らぁ! こいつを足止めしろ!」

バァンバァンバァンバァンバァンバァン!

サイバーP「銃なんて効かねえぞオラァ!」バガッ!

イニ義「タカダ!」

タカダキミヒコ「はい」スッ

サイバーP「! 車で逃げる気か!?」スタッ

ザザザザザザザッ

サイバーP「ちいっ! どけオラァ!」ドカッ!

タッタッタッタッ……

サイバーP(……なんだ? 車の方から離れてく……廃工場の中へ入ったのか?)

サイバーP「いずれにせよ、追っかけてぶっ飛ばす……!」

ガシッ,ドカッ! バァンバァン! パキィン! ゲシッバゴッ……

バタッ、バタン……

サイバーP「はあっ、やっと、全部倒せたか、さすがに疲れた……」

サイバーP(後はイニ義とタカダキミヒコ……逃げなかったってことは工場の中に爆弾でも仕掛けてあるのかもしれないが、ここで後には退けない)スタスタ

サイバーP(あいつらを倒したら一秒でも早く家に帰って、そこで変身を解くんだ。副作用の時間が長引かないように……)

スタスタスタ……スタッ

サイバーP「イニ義! どこだ、出てこい! 出てこないなら、逃走手段の車を壊すぞ!」

サイバーP(そしたら俺も困るから、ハッタリだけど)

サイバーP「ん……この、臭いは……?」

カチッ,ボオウッ!

サイバーP「!」

サイバーP(ガソリンか! 炎で囲んで逃げ場を封じる作戦!)

サイバーP「し、しかし、こんな程度の炎……!」スッ

サイバーP「…………」

サイバーP(だ、駄目だ。怖い……65℃の熱湯は効かなかったが、炎はウン百℃もするし……)

「安心しな、それは照明代わりだ。この程度の炎でそのスーツは燃えねえよ」

サイバーP「そ、そうなのか…………え?」

シュッ、スタッ

サイバーP(上に居たのか! 炎に隠れて姿がまだよく見えないが……)

サイバーP「どうしてお前がこのスーツの耐久性を知っているんだ!」

スタ、スタ、スタ……

「驚いたぜ、兄ちゃん。まさかお前も変身出来るとはな」

サイバーP「な……っ!?」

「モバPが一週間も眠っていた理由がやっと分かりましたね、兄貴」

「ああ、確かに改造もしてねえ一般人が変身すりゃあ反動でああもなる」

スタ、スタ、スタ……

サイバーP「!? な……んだ? お前ら……その、姿は……」

サイバーP(声は確かにイニ義とタカダキミヒコで、シルエットも人型ではある)

サイバーP(しかしその実体は、人ならざる何かとしか形容出来ない……)

「まだ分からねえのか? さっきの想像力はどうしたよ、兄ちゃん」

「兄貴ぃ、この際ですからはっきり言ってやってくださいよ」

「フッ、そうだな」

スタ、スタ、スタ……スタッ

サイバーP(二つの異形は炎をもろともせず歩み、俺の眼前で立ち止まった)


「教えてやるよ。俺こそが秘密結社メガデスの総統、メガデスそのものだ」


サイバーP「う、うっそだろ、お前……?」

とりあえずここまで

サイバーP(メガデス……このベルトと共にサイバーZを産み出した、世界征服を企む悪の組織)

サイバーP(その親玉が、よりにもよってこいつだったっていうのかよ……!)


サイバーP「……」

タカダキミヒコ「メガデス様ぁ、驚きのあまり何も言えないみたいですよ?」

メガデス「フッ……無理もねえ。お前が変身したときは俺達も驚いたからな」

サイバーP「…………」

メガデス「そう構えるなよ。なら三つ質問する権利をやる。聞きたいことは山ほどあるだろ?」

サイバーP(今すぐ攻撃してくるわけじゃないみたいだな……話す余地はあるか)

サイバーP「三つか。そうだな……」

メガデス「何から聞けばいいかも分からねえか?」

サイバーP「い、いや。じゃあまず一つ目、秘密結社の親玉がなんでヤクザなんかに化けてたんだ?」

メガデス「カタギよりはこっちの世界の方が動きやすいンだよ。何をするにしても、な」

サイバーP「そ、そうか、そりゃそうだよな……」

サイバーP(あー馬鹿っ、考えれば分かることを聞くなよ!)

メガデス「さあ、残り二つだ。それとももう終わりにするか?」

サイバーP「待て! えーと……そうだ、本物のサイバーZはどうしたんだ!」

サイバーP(俺にこのベルトを渡したあと、メガデスの本部へ乗り越んだはずだが……)

メガデス「本物? なんのこったよ」

タカダキミヒコ「メガデス様、恐らく松平ジョーのことかと」

メガデス「あぁ、裏切り物のあいつかァ……」

サイバーP「ま、まさか、お前ら……」

メガデス「フッ、あいつなら俺の影武者と、この研究所を壊滅させて満足してるだろうよ。今ごろは呑気に寝てんじゃねえか?」

サイバーP「か、影武者? それにここが、研究所……?」

タカダキミヒコ「彼は自分が改造されたこの場所を本部だと勘違いしていたようなので、それを利用したのです」

メガデス「利用? 笑わせんじゃねえ、ヤツをここで始末するっつっといて逃したのはどこのどいつだよ」

タカダキミヒコ「……はい、精進します」

サイバーP(とにかく、死んだわけじゃないんだな。良かった……)

メガデス「そうだモバP、こっちからも一つ質問させてもらうぜ。そのベルトはどっから手にいれた?」

サイバーP「そのサイバーZから貰ったんだ。死んだ1号のベルトを改造したものだって」

メガデス「ほぉ……」

サイバーP(答えたらまずかったか? いや……どのみち同じか)

サイバーP「……今度はこっちの番、最後の質問だ」

メガデス「ああ、なんだ?」

サイバーP「俺に正体を明かして、どうするつもりだ?」

メガデス「どうするもこうするもねえよ。言うことは同じだ」

タカダキミヒコ「これからも協力関係でいる、そう言ってくれればいいのです。大人しく従ってください」

メガデス「……ただ、『力』があると分かった以上は手伝ってもらうことがちょっとばかり増えるかもしれねえなァ」

メガデス「……あの姉ちゃんも含めて、な」

サイバーP「! お前らまさか、凛が変身出来ることも知ってるのか!?」

メガデス「おっと、ルール違反だぜ。質問していいと言ったのは三つまでだ」

サイバーP「くっ……俺はともかく、アイドルには絶対手を出すな!」

メガデス「……誰が俺に指図していいっつった?」グッ

ボオゥッ!

サイバーP「!?」

サイバーP(メガデスが右拳を握り締めた瞬間、俺たちを囲むように燃えていた炎が俺に襲いかかってきた!)

ボオオオオッ!

サイバーP「あぐっ、が……ぐああああああっ!」

メガデス「そろそろ痛い目を見るって言ったはずだぜ、モバP」

サイバーP「あああっ! がああああっ! ────!」ゴロゴロゴロ

タカダキミヒコ「メガデス様、のたうちまわって聞こえてないみたいですよ」

メガデス「おっと、少し刺激が強すぎたか」パッ

シュゥゥゥ……

サイバーP「っ、あ、あ、っぐ……」ビク,ビク

メガデス「聞こえてるか? モバP。スーツが燃えない程度の炎だ、そんなに熱くもねえだろ?」

サイバーP「あっつ、あっついねん……」ガクッ

メガデス「おいおい、マジかよ?」

タカダキミヒコ「松平ジョーが改造しているようですから、本来の出力ではないのっでしょう」

メガデス「あぁ、そうか。だったら、戦闘能力じゃあの姉ちゃんの方が上だな」

タカダキミヒコ「渋谷凛ですよ、メガデス様」

メガデス「そうだったな。いい加減名前ぐらい覚えねえとな」

サイバーP「お、前……いつから、凛のことを……」

メガデス「んだよ、アイドルのことになると元気じゃねえか。そんなに気になるか?」

サイバーP「こたえて、くれ……」

メガデス「んなもん、渋谷凛が覚醒した時からに決まってんだろ?」

サイバーP「……! 三次予選で、メガデスが襲ってきたのも、お前らの策略だったの、か……」

タカダキミヒコ「勘違いしないでください。私達はむしろ貴方がたを助けるつもりだったのですよ? アイドルのサンプル採取を兼ねて、ライバルを減らしてあげたのです」

メガデス「てめえのアイドルが襲われないのは運がいいからだとでも思ってたか? ……まぁ、命令を聞いてねえ馬鹿が一匹、姉ちゃんたちを襲っちまったがな」

タカダキミヒコ「結果的には裏切り物の所在と貴重なデータが得られたので良かったですが」

サイバーP(そうだ……こいつらはアイドルの持つエネルギーを狙っているんだった。以前、メガデスの怪人が言っていた)

サイバーP(芸能界の支配っていうのはつまり、そのエネルギーをより効率良く得るための手段、ってことか)

ムクッ……スタッ

サイバーP「だったらなおさら、協力するわけにはいかなくなったな……!」

メガデス「ほぉ、相当効いてると思ったがもう立ち上がるかよ。なかなかタフじゃねえか」

サイバーP「話は終わりでいい。俺の答えはさっきの通りだ」

メガデス「そうかよ。……もう少し損得で物を考えられる奴だと思ったんだがな」

タカダキミヒコ「馬鹿な男です。メガデス様、ここでこいつの戦闘データをとるのはいかがですか?」

メガデス「フッ、そいつはいい。それが終わったらすぐに改造手術に回すぞ」

タカダキミヒコ「はい」

サイバーP「物騒な話してんじゃねえ、ぞっ!」ブゥン!

メガデス「俺が相手するなんて言ってねえよ、ボケ」ガシッ

サイバーP「っく、このっ……!」ググ

メガデス「相手にならねえっつってんだろ!」ドカッ!

サイバーP「ぐああっ!」ドサッ……

サイバーP(クソっ、歯が立たない!)ムクッ

メガデス「お前ら、来い」スッ

サイバーP「!」

ザザザザザザザッ

サイバーP「おいおい、またかよ……」

サイバーP(メガデスが合図すると、多数の戦闘員が炎の壁を飛び越えて現れた)

メガデス「てめえが相手するのはそいつらだ。タカダ、準備はいいな?」

タカダキミヒコ「ええ、どうぞ」

メガデス「よし。お前ら、やれ!」

「イイーッ!」「イヤーッ!」「アーッ!」ダダダダダ

サイバーP「実験動物かよ俺は……っ!」スッ

ドカッ! バゴッ!バギィッ!

「アヤーッ!」「あぁん……」「イー……」バタッバタッ

サイバーP「モブが名有りキャラに勝てるわけないだろ!」ドカッ!

「イャーッ!」「キーィ!」ダダダダダ

ガシッ!

サイバーP「っ!? お前この野郎、流行らせコラ!」

「イー!」ドカッ! バキッ!

サイバーP「がっ……、この……っ!」ジタバタ

「イヤーッ!」「イイーッ!」「ンアーッ!」ダダダダダ

ドカッ、ガギッ、ボコッ、ゲシッ……


……

サイバーP(多勢に無勢とはまさにこのことだった)

サイバーP(一匹一匹は弱いこいつらだがとにかく数が多く、一人ではとても相手しきれない)

サイバーP(一瞬の隙に羽交い締めされてしまった俺は、為す術なくぼこぼこにされた……)


サイバーP「アーゥ、アァ……(瀕死)」

メガデス「呆気ねえ。おいお前ら、手を止めろ」

「イー!」スタッ

サイバーP「ァ、が……」バタッ

タカダキミヒコ「メガデス様、まだ気絶してはいないみたいですよ」

メガデス「だがもう、虫の息だろ?」

タカダキミヒコ「ですがこの男、何故か回復力が高いみたいですから。意識が残ったままだと不意をついて逃げられるかもしれません」

メガデス「……それもそうだな。よしお前ら、気絶するまでは殴っていいぞ。ただし、絶対に[ピーーー]なよ」

「イーッ!」「イヤーッ!」ドカッ!バキッ!ボコッ!

サイバーP「っ! っが、ぁ……」

サイバーP(駄目だ、意識が遠ざかっていく……起きてからまだ12時間も経ってないのに、また眠っちまうよ……)

サイバーP(しかも今度は、二度と目覚めない……次に起きるときは改造されて、もう元の俺じゃないんだから……)

サイバーP「ち、きしょ……う、最後の最後で、負け、かよ……」

「イイーーッ!」ブン!

サイバーP「っ…………」


「─────! ────────!」

ドガーーーーン!


サイバーP「!?」

タッタッタッタッ……シュッ、スタッ

サイバーP(なんだ……いやにやかましいが、走馬灯か……?)

RN「────!」ガシッ

サイバーP(最後に見るのが凛の顔なら、まあ、悪くないかな……)

RN「馬鹿! 冗談言ってないで、しっかりして!」

サイバーP「…………え?」

とりあえずここまで

サイバーP「凛、そこに居るのか……?」

RN「うん。もう、大丈夫だから。意識だけはしっかり保ってて」ギュッ

サイバーP(凛の手の感触に、途切れる寸前だった意識が戻ってくる……)

サイバーP「うぐっ、痛ててて……お前、どうしてここに───」ムクッ


メガデス「ハハハ、また面白いタイミングで現れたな。え? 正義のヒーローよ」

サイバーZ「メガデス……今度こそお前を倒す」


サイバーP(サイバーZまで居るのか!?)

タカダキミヒコ「黙りなさい。裏切り物はここで処分します」

サイバーZ「……メガデスより先にお前が死にたいらしいな」スッ

メガデス「フッ、そいつは結構。だがその前に、どうしてここが分かった? 特にその姉ちゃんは」

サイバーP「そうだ凛、お前サイバーZと一緒に来たのか?」

RN「うん。……不意に目が覚めたんだ。とてつもなく邪悪な力を感じた」

メガデス「邪悪とはまた言ってくれるなぁ、おい」

RN「それで気になったから外に出て様子を探ってたら、サイバーZの気配がして」

サイバーP「わざわざ追いかけたのか!?」

RN「嫌な予感がしたの。……案の定当たってるし」

サイバーP「うっ……俺だってこうなるとは思わなかったんだよ……」

RN「プロデューサーが変身してメガデスのボスと戦ってるって聞いたけど……まさか、それがアンタらだったなんてね」

メガデス「クク……」

サイバーZ「……俺はお前が変身したおかげでメガデスに気づけたんだ、モバP」

サイバーP「え? それって……じゃあ俺が変身するたび、お前に伝わってたのか?」

サイバーZ「ああ、感謝する」

サイバーP「そう……(無関心)、こう言っちゃ悪いが、凛は巻き込んで欲しくなかったよ」

サイバーZ「俺も巻き込むつもりはなかった。ただ、お前のアイドルに事情を話さないのもどうかと思ったんだ」

RN「ついてきたのは私の勝手だから。それにこれは、私たちが決着をつけなきゃいけないことだと思う」

サイバーP「……まぁ、相手が相手だしな」

タカダキミヒコ「御託はこの位でいいでしょう。サイバーZ、私が葬ってあげます」

メガデス「一人占めするなよ。この裏切り者は二人でヤるぞ」スッ

タカダキミヒコ「はい」スッ

サイバーZ「……いいよ、まとめてかかってきな」

メガデス「お前らはいつまでも寝てンじゃねえぞ! こいつを始末する間、姉ちゃんたちの相手をしてやれ!」

「イーッ!」「イイーッ!」ザザザザザザザッ

サイバーP「まだこんなに居るのか!」

RN「絶対に私の側を離れないでね、プロデューサー。……行くよ!」

サイバーZ「……来ないのか」

メガデス「好きに仕掛けさせてやるよ」

サイバーZ「なら、行くぞ……!」ダッダッダッダッ

タカダキミヒコ「……!」スッ

サイバーZ「!」スタッ、ブゥン!

メガデス「それでフェイントのつもりか?」ヒュン

サイバーZ「誰がフェイントと言った?」シュン!

メガデス「フッ、そうかよ……!」ググッ

ボオゥッ!

サイバーZ「!?」

サイバーP「サイバーZ、気を付けろ! そいつは炎を操る!」

サイバーZ「先に言え!」シュタッ

メガデス「避けきれるか? お前は」グググ

ボオオオオッ!

サイバーZ「っ、これは……!」スタッ

タカダキミヒコ「私が居ることを忘れないでください」シュッ

サイバーZ「!」

ドスッ、ザザザッ……

タカダキミヒコ「咄嗟にガードしましたか。ですが、いつまでも凌げはしませんよ」スッ

サイバーZ「くっ……!」

「イーッ!」ドドドド

RN「っ!」ジャキィン!

「ギヤーッ……」バタッ「イー!」「イーッ!」ドドドド

RN「何匹居ようと……!」ブゥン!

ガキィン、ザシュッ! バタッ,バタッ……

サイバーP(剣のリーチを利用して迂闊に敵を近づかせず、数的不利をものともしない立ち回り)

サイバーP(改めて凛の強さを実感するな。まずもって、仮にも人の形した敵を容赦無くぶった斬れるのが凄い……)

「イヤーッ!」

RN「っ! プロデューサー、危ない!」

サイバーP「オッルルァ!」ドカッ

「イッ……」ズサ……

サイバーP「俺だって背中を守るぐらいは出来るぞ?」

RN「……私に背中を守ってもらってるからでしょ?」

「イイーッ!」「イヤーッ!」ダダダダ

ドカッバシッ、ガキィン! ゴシュッ、バタッバタッ……

サイバーP「そりゃ違いない。持ちつ持たれつ、アイドルとプロデューサーも同じだな」

RN「ふふっ、それ、上手いこと言ったつもり?」

サイバーP「笑ってるじゃんか」

「イー!」「イーッ!」「yee^~」

ボコッ,ドスッ、バタッ、ザシュッザシュッ,ブゥン、バタッバタッバタッ……

RN「じゃあ背中は守ってあげるから、背中は任せるよ」

サイバーP「どっちだよ」

RN「両方だよ。……一気に片付ける!」

サイバーZ「っ!」タッタッタッタッ

タカダキミヒコ「臆せず向かって来ますか」スッ

サイバーZ「ふんっ!」シュッ、バシッ!

タカダキミヒコ「単調な攻撃です」ヒラッ

メガデス「オラオラ、どうしたァ!」ググッ

ボオゥッ!

サイバーZ「この程度の炎……、ぐうっ……!?」ズサッ

メガデス「てめえはモバPや渋谷凛と違って生かしておく理由がねえ。火力に加減はねえぞ?」ググググ

ボオオオオッ!

サイバーZ「!!」

ジャキィン! スゥ……

メガデス「あぁん?」

RN「あの程度で私たちの足止めは出来ないよ」スチャッ

メガデス「ほう……その剣は俺の炎を断ち切れるようだな」

サイバーP「どうだ、凄いだろ!」

RN「プロデューサーは下がって。あの二人は強い、ここからは私とサイバーZでやる」スタッ

サイバーP「そ、そうか。分かった……」

サイバーP(悔しいが、足を引っ張るよりはマシだ)

メガデス「おいおい、大事な商売道具の顔が傷ついちまうぞ? 姉ちゃんよ」

RN「…………」スタスタ,スタッ

サイバーZ「助かった。お前の方がメガデスとの相性はいいかもな」

RN「じゃあ、私があいつと戦う?」

サイバーZ「……いや、メガデスは俺がやる。」

RN「分かった。それじゃ、タカダキミヒコ……だっけ? そっちはどうか知らないけど、私は手加減しないから……!」タッタッタッタッ

タカダキミヒコ「困ったものですね……」

シュタッ、ブゥン! ヒュン!

メガデス「フッ、お前じゃ俺に指一本触れられねえよ。サイバーZ2号」

サイバーZ「……俺は俺のやりたいようにやるだけだ」スタッ、ダッダッ!

メガデス「その程度の速さに反応出来ねえとでも思ったか?」シュタッ!

サイバーZ「……!」

シュッ、ヒュン! タッタッタッ、フンッ!

サイバーP(俺がHTNになってるじゃないか……)

ボオオオオッ!

サイバーP「ん? ……!?」


メガデス「退屈してるだろ、モバP! その炎と追いかけっこでもしてな!」

サイバーZ「貴様……!」ブンッ

メガデス「おっと、当たらねえよ」


サイバーP「そんなことしなくていいからああああああっ!」タッタッタッタッ

ブゥン! ブンブンッ!

タカダキミヒコ「どうしました?」ヒュンヒュン

RN「っ、攻撃が読まれてる……!?」

タカダキミヒコ「気の流れです」

RN「そう、っ!」グイッ,ゲシッ!

ガシッ

タカダキミヒコ「剣も格闘も同じことです」パッ

RN「っく……でも避けてばかりじゃ、戦いにはならない!」ブゥン!

タカダキミヒコ「私は攻撃しませんよ。メガデス様がサイバーZを倒すまで、相手をしているだけです」ヒュン

RN「だったら……思う存分やらせてもらうから!」ブンッ!

タカダキミヒコ「何度やっても同じですよ」ヒュン

RN「っ……」

タカダキミヒコ「どうしました? 思う存分やっていいですよ」

RN「…………」

ボオオオオッ!

サイバーP「ああああああああ↑ ああああああああ↓!!!」

RN「プロデューサー!?」

タカダキミヒコ「やれやれ……」

サイバーP「凛、どけーっ! その炎は俺を追ってくる!」

RN「なら、私の剣で────」

サイバーP「いいから、どいてくれ!」タッタッタッタッ

RN「……! 分かった!」スッ

サイバーP「うおおおおおおっ!」ダッダッダッダッ

タカダキミヒコ「このまま近付いてギリギリで方向転換、炎だけ私にぶつけるつもでしょうが……見え見えですよ」スタッ

サイバーP「いいや、自分だけ避けようなんて思っちゃいない!」ガバッ!

ヒュイッ!

サイバーP「!」

タカダキミヒコ「飛び付いて自分ごと燃えるつもりでしたか? どちらにせよ、同じでしたが」

サイバーP「くっ……あぐっ、がああああっ!」メラメラメラ

RN「プロデューサー!」

タカダキミヒコ「死なない程度の炎です。メガデス様が消すまで耐えることですね」

サイバーP「っ、そ……」メラメラ

タカダキミヒコ「だいたい、貴方が死なない程度の炎で私を倒せるはずないでしょう? まったく無意味です」

ダッ……シュタッ

RN「無意味なんかじゃ……ない!」ブンッ!

タカダキミヒコ「おっと」ヒュイッ

RN「っ!?」

タカダキミヒコ「気の流れが『見える』のです。いくら接近しても、その剣は当たりませんよ」

RN「……『剣』や『格闘』ならね」キィーッ……

タカダキミヒコ「っ!?」バッ

RN「エトワール・プリズム!」

ピカーッ!

タカダキミヒコ「ぐっ、これは……!?」

RN「っ!」ブゥン!

タカダキミヒコ「ぐあぁっ! な、何故です……!? 何も見えない!」

RN「『暗闇』状態、って言っても、分からないだろうけど……今のアンタにはもう、気の流れは見えない!」

タカダキミヒコ「め、メガデス様!」

RN「これでトドメ……ヴォルト・オブ・ヘヴン!」ザシュッ,グサッ,ジャキィン!

タカダキミヒコ「ぐああああああああっ!」

バチバチバチ……バタッ

RN「……、プロデューサー!」タッタッタッ

ブンッブンッ、シューッ……

サイバーP「っ……や、やったな、凛……」

RN「うん……プロデューサーのおかげで力を溜められたし、あいつが攻撃をどうやって避けてるのか見破れた」

サイバーP「そいつは、良かった……」スゥー

RN「プロデューサー!?」

サイバーP「ああいや、大丈夫……炎に焼かれるのも、ちょっとは慣れてきたよ」

RN「笑えないよ……」

スタ,スタスタ……

メガデス「なんだ、タカダはあっさりやられちまったのかよ」

サイバーP「メガデス! ……サイバーZは!?」

RN「プロデューサー、あそこ!」

サイバーP「!」

メラメラメラ……

サイバーZ「…………」パタッ、シューッ……

メガデス「正直、歯ごたえが無さすぎて物足りねえんだ。来いよ、姉ちゃん。遊んでやる」

RN「……休んでる暇は無いみたいだね」チャキッ

サイバーP「凛! 大丈夫なのか!?」

RN「私が戦うしかないでしょ。ダメージは全く無いから、大丈夫」

サイバーP「…………」

メガデス「さあ、来い。俺に一撃喰らわせたら褒めてやるよ」ググッ

ボオオオオッ!

RN「……炎もろとも、アンタも断ち斬る!」タッタッタッタッ

ブンッ!

メガデス「中々速いじゃねえか!」スッ、ググ

ボオゥッ!

RN「っ! アンタの炎は効かない!」ブンッ!

メガデス「そいつは、どうだろうなァ!」ググググ

ボオオオオッ!

サイバーP(前後左右から、檻を作るように炎が襲いかかる!)

RN「こんなもの!」ブゥンッ!

メガデス「薙ぎ払ったか。こいつは本当に効かねえみたいだな」

RN「遊んでる余裕は無いんじゃない……!」タッタッタッ

メガデス「抜かせ」ググググッ

ボオオオオッ!

RN「効かないって言ってるでしょ!」ブンッ

メガデス「おっと、そうだったな。ハハハ」

RN「……エトワール・プリズム!」ピカッ!

メガデス「目眩ましか? それとも衝撃波か? 当たった感触すらしなかったぜ」

RN「っ、効かない……それなら!」シュタッ、ブゥン!

メガデス「当たらねえよ!」ヒラッ

ブンッ、ブゥン! シュタッ、ヒュン!

サイバーP(今のうちに、サイバーZの様子を確認しておこう……)スタスタ……

サイバーZ「……」

サイバーP「サイバーZ、サイバーZ! しっかりしろ!」

サイバーZ「…………」

サイバーP「正義のヒーローがこんなところでくたばってどうする! お前、南条光と約束しただろ!」

サイバーZ「……っ、ぐ、ぁあ」ピクッ

サイバーP「サイバーZ! 良かった、生きてる……」

サイバーZ「渋谷、凛……ダメ、だ、そいつは……」

サイバーP「え……!?」

ボオオオオッ!

RN「また炎……いい加減学習したら!」ブンッ!

メガデス「!」

RN「捉えた!」

チャキッ、ブン────

サイバーZ「そいつは……恐ろしく速い……!」

ガシッ!

RN「っ!? が、あっ……!」

サイバーP「凛!?」

サイバーP(凛が一撃を入れようとした刹那、メガデスは左手で凛の首を掴んで身体ごと持ち上げた!)

メガデス「てめえの部下から舐められないためにはよ……腕っぷしを鍛えるのが一番なんだよ」グッ

RN「あ、が……っ……!」ジタバタ

メガデス「力が入らねえだろ? もっと強くしてやろうか?」グググッ

RN「……! っ、っあ……っ」

パッ、カランガラン……

メガデス「剣を手離したらもう何にも出来ねえなあ、姉ちゃん」

RN「あ、っぎ……だ、っ……」

メガデス「あぁん? 聞こえねえよ」グググッ

RN「────!」ジタバタジタバタ

メガデス「興奮してきちまうなァ。俺が力をもう少し強めれば、お前は───」

サイバーP「やめろおおおおおおっ!」

ドカッ!

サイバーP「…………、!?」

サイバーP(まともに当たったのに、効いてない……!)

メガデス「いいところなんだから邪魔すんじゃねえよ」スッ

ボゴッ!

サイバーP「あ、がぁっ……」ガクッ,パタッ

RN「!」ジタバタ

メガデス「おぉ、いっそう元気に抵抗するじゃねえか」グッ

RN「ぁ……ぐ……」

メガデス「限界か? 離してやろうか? 死なれたら困るぜ」

RN「だ……れが……!」ギッ

メガデス「ほお、喋れる元気があるなら、大丈夫だな……!」グッ、グーッ!

RN「────! ぁ…………」グタッ

メガデス「おっと、やり過ぎたか。まあいい、死んじゃいねえだろ」パッ

RN「」ドサッ、ガクッ……

サイバーP(ダメ、だ……腹を一発殴られただけなのに、立てない……)

RN「……」

サイバーP(凛……! くっそぉ……っ)


メガデス「……あぁん? てめえ、まだ生きてたのか?」

サイバーZ「お前を、倒すまでは……死んでも、死にきれないんだよ……」


サイバーP(サイバーZ! もう、ボロボロのはずなのに!)


メガデス「なら、何回でも死んでろよ。タコ」グッ

ボオゥッ!

サイバーZ「ぐ、があああっ! っ……まだだ……!」


サイバーP(そうだ、諦めるな! 立てなくても、気合いで手ぐらい動かせ!)グーッ

RN「…………」

サイバーP(凛……さっきしてくれたみたいに、手を握ってやるからな……!)グググ


メガデス「いい加減しつけえよ」グググッ

ボオオオオッ!

サイバーZ「がっ、ぐっ……、サイバー……パンチ!」バキィッ!

メガデス「効かねえよ」ドカッ!

サイバーZ「が、はっ……!」ガクッ

メガデス「オラ、そんなに苦しみたきゃ、満足するまで苦しみやがれ!」

ドガッ、ボゴッ、ゲシッ……

ギュッ

サイバーP「凛……情けないけど、あいつを倒せるのはお前しかいない」

サイバーP「アイドルはその内側にとてつもないエネルギーを秘めている、凛の持ってる魔翌力とそのエネルギーを合わせれば、必ず勝てる!」

サイバーP「頼む……立ってくれ、凛!」ギュウッ

RN「……」ピクッ

サイバーP「!」

RN「…………う、たを」

サイバーP「う、歌? 歌がどうした!?」

RN「きかせて、くれない……? プロデューサーの、歌……」

サイバーP「なっ、お前、こんな時に何言って───」

サイバーP(……まだ目の焦点が合ってない、半ば無意識で話してるのか?)

サイバーP「でも歌って……逆だろ、普通!」

RN「おね、がい……」

サイバーP「……お、おーねがい、シーンデレラー、夢はゆーめでおーわれない」

RN「……動き、始めてる……輝く日のために……!」

ピカーッ!

サイバーP「!」

メガデス「……なんだ?」クルッ

RN「メガデス……今度こそ、倒す!」チャキッ

メガデス「あン……? クク、ハッハッハ! なんだよ姉ちゃん、まだそんな元気があったのか!」

RN「プロデューサーが力をくれたんだ。立ち上がって、戦う力を……!」シュンッ

メガデス「何ッ!?」

ガキィン!

RN「もう、絶対に……私は負けない!」ブンッ!

メガデス「ちっ、やるじゃねえか!」シュタッ


サイバーP(どういうことだ? たったの少し、歌を歌っただけで……)

サイバーP「……! いや、歌か!」ムクッ

サイバーP(アイドルのもつエネルギーを引き出すトリガーが、歌だったんだ! 凛があの力に目覚めたのも、ステージの直後だった!)

サイバーP(あれ、でもそれだと凛は自分が持ってるエネルギーを引き出せてることになるな……じゃあ一体……)

『プロデューサーが力をくれたんだ』

サイバーP(あっ! そういえばメガデスの怪人が、俺も体内のエネルギー反応は妙に高いとかなんとか言ってたような……)

サイバーP(二人で一緒に、しかも手を繋いで歌ったことで俺のエネルギーが凛に伝わった可能性が微粒子レベルで存在する……?)


ブンッ、ドスッ、ジャキィン!

メガデス「ぬおおっ!?」

RN「はあああっ!」ブゥン!

メガデス「っ、どうなってやがる……!」ズサッ


サイバーP(……いや、理屈はこの際どうでもいい)

サイバーP「凛! 今なら凛は無敵だ! 一気にぶった斬っちまえ!」

RN「エトワール・プリズム!」ガガガガッ

メガデス「ぐおおっ!? こ、この女ァ!」ブンッ!

ズパァン!

メガデス「がああああっ、う、腕があっ……!」

RN「……終わらせる!」

メガデス「ち、ちいっ、ふざけんじゃねえ!」シュンッ

RN「速いっ……!」

メガデス「どうやら俺の最高速には追い付けねえみてえだな!」シュタッ

RN「それはどうかな?」トントン

メガデス「ちいっ! っ、あっちか!」シュタッ

P「…………」

RN「プロデューサー……!?」

メガデス「こいつをどうすると思うよ……こうだァ!」グググッ

ボオオオオッ!

RN「!!!」

メガデス「加減はしてねえ! このまま俺を攻撃するなら、この男は殺す!」

RN「っ……!」

メガデス「ハーッハッハッハ! 所詮その程度か、今お前もぶち殺してやらぁ!」

RN「……なんて、馬鹿だね。アンタ」

メガデス「!?」

サイバーP「よく見てみろよ。そいつ、タカダキミヒコだぜ。まだ息があったのに」

タカダキミヒコ「め、メガデス様ァァァァ!」

メラメラメラ、シュゥゥゥゥ……

メガデス「な、なんだと、確かにこいつは!」

サイバーP「他人に変装する機能と、物を一瞬だけ別の物に見せる機能……こんなに焦ってなきゃ、お前には効かなかっただろうがな」

メガデス「っ、き、貴様ァッ! 途中から化けてやがったのか!」

RN「私はこっちだよ!」カアァァァァ……

メガデス「っ! クソッ!」スッ

サイバーP「逃げるつもりか!?」

ガシッ

メガデス「!?」

サイバーZ「やれっ! 渋谷凛!」

メガデス「サイバーZおおおおおおッ!」


RN「蒼の剣を受けよ、アイオライト……ブルー!」


ザシュッ……ドガァァァァン!

とりあえずここまで

サイバーP「や、やった!」

サイバーP(直撃だ、メガデスはもう跡形もなく────)

シュゥゥゥゥ……

メガデス「く、クク、ハハハ……」

サイバーP「なっ、嘘だろ!?」

RN「いや……もう……」

メガデス「まさか……こんなガキにヤられちまうとは、な……」スゥ……

サイバーP(メガデスの身体が徐々に透けていく……)

メガデス「だが、悪くねえ……渋谷凛、モバP……なかなか、面白かった……ぜ……」

スゥゥゥ……シュン

RN「完全に、消滅した……」フゥ

サイバーP「…………、何が『なかなか面白かった』だ、ふざけんな! 小物丸出しだったくせに死ぬ間際だけカッコつけやがって! 一発殴らせろ!」ブンブン!

RN「うるさい……」ガクッ

サイバーP「あっ、センセンシャル! って大丈夫か!? サイバーZも!」

RN「私は大丈夫、ちょっと力が抜けただけ」

サイバーP「そうか、良かった。……サイバーZ?」

サイバーZ「…………」

サイバーP「お、おい、サイバーZ! ……ま、まさか、凛の攻撃が当たってたんじゃあ────」

ドクン!

サイバーP「ッ!?」ガクッ

RN「プロデューサー!?」

サイバーP「やばい……変身のタイムリミット、かも……」

RN「じゃ、じゃあまた寝たきりに……!?」

サイバーP「あ、ぐ……だめ、だ……」

パタッ、シュゥゥン……

P「……」

RN「プロデューサー、プロデューサーっ!」ユサユサ

サイバーZ「……」

RN「サイバーZも……ねえ、起きてよ、二人とも!」

「…………」

RN「そんな、嘘でしょ……やっと全部終わったのに、こんな……」ウルッ

サイバーZ「っ……勝手に、[ピーーー]な……」ピクッ

RN「サイバーZ! 巻き込まれなかった!?」タッタッタッ

サイバーZ「メガデスもろとも喰らうつもりだったが、寸前で振りほどかれたよ……おかげで助かったが」

RN「良かった……立てる?」

サイバーZ「っ! ぐっ……、悪いが、身体に力が入らん……意識を保ってるだけで精いっぱいだ」

RN「分かった。……帰ろう、私が二人を担いでくよ」

P「いや、俺が乗ってきた車があるから大丈夫。歩きじゃ何分かかるか分からんぞ?」

RN「車って、そりゃあプロデューサーが居れば運転してもらえたけど……」クルッ

P「?」

RN「ぷ、プロデューサー……?」

P「いや、俺もよく分からないけど……平気みたいだ」

RN「……っ!」タッタッタッ

P「うわーっごめん! やだやめて叩かないで────」

ダキッ

P「……凛?」

RN「もう……ほんとに、ほんとにっ……!」ギュッ

P「凛……」スッ


……

P「っ、しょっと……」スタッ

EMT(サイバーZ)「悪いな。お前もかなり重症だろ?」

P「大丈夫だって安心しろよ~。もうほとんど、治りかけみたいなものだからさ」

RN「それ、ベルトの力じゃないよね? どういうことなんだろう」

P「さぁ……本当によく分からないんだ」

P(心当たりはひとつあるけど……)

P「……そういえば、サイバーZ」

EMT「変身していない時はそう呼ぶな」

P「あっはい。じゃあ、ジョー……でいいのかな?」

EMT「」コク

P「このベルト、返す。俺はもう変身しない」

EMT「……いいのか? 俺は別に、個人的な使い方を咎めたりしないぞ」

P「俺さ、これがあれば何でも出来る気がしてたんだ。今回のことも、いざとなったら変身すればどうにかなるって思ってたんだよ」

P「でも俺一人じゃどうにもならなくて、結局誰かに迷惑かけたり、悲しませたりしてさ……このベルトを使うたび、そんなことばっかりだった」

RN「……」

P「多分、正義の力を自分のために使うなってことなんだと思う。……だから、このベルトは返すよ」スッ

EMT「そうか。欲しいと言っても、もうやらないぞ」

P「言わないよ。そんなの無くても、凛が居るって!」トントン

RN「……人を戦闘要員みたいに言わないで欲しいんだけど」

P「違っ、そういう意味じゃないぞ! なんていうかこう、困ったときの秘密道具みたいな」

RN「それ、なおさら酷いから」

P「あははは、冗談、冗談だからな!」

RN「もう……」

スタ,スタ,スタ……

P「……あれ? 外、真っ暗じゃないか?」

RN「当たり前でしょ。何時だと思ってるの」

P「いやでも、じゃあなんでここは────」

ボオオオオオオオ! メラメラメラ……

RN「っ!? 炎が消えてない!」

EMT「め、メガデスなのか……!?」

P「いや違う! あいつらは最初ガソリンに火を付けた、それが消えないまま燃え広がっちまったんだよ!」

RN「じゃ、じゃあ火事ってこと!?」

P「逃げるぞ!」

RN「っ、ええっ!? 鎮火させるんじゃないの!?」

P「なんで俺たちがそんなことする必要があるんですか(正論)」

EMT「ここはメガデスの基地だったんだ。燃やしてしまったほうがいい」

RN「いやでも、木に燃え移って山火事になったら────」

メラメラメラメラメラメラ……

P「あんなに火が大きくなったらもう止められない! 急げ!」

RN「う、うん!」

スタスタスタスタ……

P(燃える廃工場を出た俺たちは残されたメガデスの車に乗り、すぐさまその場を脱出した)

P(凛とサイバーZ、もといジョーと別れてイニ義事務所へ車を返したときにはもうすっかり朝で、俺は家に帰ることなく364プロへ向かった)

P(そこでソファに横になると、ようやく眠気が襲ってきた)

P(一週間分の出来事が一日で起きた気分だ、とか、このまま寝たらまた起きないんじゃないか、とか、そんなことを考えながら眠りについた……)


……
………

「────サーさん! プロデューサーさん!」

P「っ……だれだよ……? まだ、眠いって……」

RIN「あっ、起きた! 社長さん、プロデューサーさん起きましたよ!」

MUR「えっ!? もう救急車呼んじゃったゾ!」

RIN「ええっ!?」

P(ああ、なんかもう本当に起きたくない……)

RIN「……あれっ? しゃ、社長さん! やっぱりプロデューサーさん起きません!」

MUR「えっ!? じゃあまた救急車呼ばないと!」ポパピプペ

P「呼ばんでいい!」ムクッ

RIN「うわあっ!?」

MUR「起きるのか寝るのかどっちなんだゾ!」

P「起きます! 起きますから119番にはかけないで!」

MUR「分かったゾ」ガチャ

RIN「プロデューサーさん、寝てただけですよね……なのに社長さんが騒ぐから」

MUR「俺は寝てると思って放っておいたのに李衣菜ちゃんが『また倒れたのかも!』って言ったんだゾ」

P「李衣菜」

RIN「ご、ごめんなさい……」

P「……いや、李衣菜は心配してくれただけだもんな。別にいいよ」

MUR「俺だって心配してるゾ?」

P「分かってますよ。ただ、焦ってよく確認せず救急車を呼んだのは反省してください」

MUR「おっ、そうだな」

P(凛やまゆと違って李衣菜や社長、それに他のみんなは事情を何も知らないんだから、反応が多少過剰になるのも無理はない……)

P「……今、何時ですか?」

MUR「8時半だゾ」

P(二時間ちょいしか眠れてないな……)

RIN「まだ眠いなら寝てても大丈夫ですよ。ね、社長さん?」

MUR「そうだよ(肯定) 事務所で何してたか分からないけど、大変だったんだろ?」

P「いや、大丈夫です。これまで一週間も寝てたんですから、元気は有り余ってますよ」ブンブン

MUR「そんな風に無理しなくていいって言ってるんだゾ」

P「え……いやいや、本当に大丈夫ですよ! 結構寝ましたから!」

MUR「そうか……ならいいゾ」

P(本当に、心配してくれてるんだよな……)

P「そういえば李衣菜、なんでこんな朝早くから居るんだ? 仕事入ってるのか?」

RIN「え……いや、あの……一時限目の物理、嫌だな~なんて……」

P「……すぐ学校行きなさい」

RIN「は、はいっ!」

タッタッタッ、ガチャバタン

P「まったく、ちょっと見ない間にワルになったんじゃないですか? 李衣菜は」

MUR「……違うゾ」

P「え?」

MUR「プロデューサーが今日ちゃんと、また前と同じように事務所に来てるか確かめたかったんじゃないか? っていうかそう言ってたゾ」

P「……! すいません、ちょっと出てきます!」

タッタッタッタッ……

P「李衣菜!」

RIN「……? プロデューサーさん。どうかしたんですか?」クルッ

P「いや、えっと、なんだ……」

RIN「学校ならすぐに行きますよ。寄り道なんてしません!」

P「そうじゃなくて……あーもう、そうだ!」

RIN「な、なんですか……?」

P「旅行! 北海道また行きたいって言ってただろ? 俺がモバプロに戻る前に絶対行こう! みんなで!」

RIN「ええっ!? な、なんですかいきなり!?」

P「今決めた! スケジュール調整出来るか分かんないけど、絶対だ!」

RIN「は、はあ……」

P「とにかくそういうことで。じゃ、学校頑張れ!」

クルッ、スタスタスタ……

RIN「……くすっ、いつものプロデューサーさんだ。李衣菜、頑張ります!」ルンルン

ピーポーピーポー……

RIN「~~♪ ……あ、社長が呼んだ救急車だ」

ガチャ、バタン

MUR「おかえりだゾ」

P「三浦さん、事務所のみんなで旅行に行くと決まったので資金繰りをお願いします」

MUR「えっ?」

ピーポーピーポー……

P「あっ、救急車来ちゃいましたよ。まずはそっち、対応してきてください」

MUR「わ、分かったゾ。……旅行?」スタスタ

ガチャ、バタン

P「ふぅ、落ち着いた。……いやいや、みんなのスケジュールを確認しなきゃな」スタッ

prrrrrr!

P「あー、タイミング悪い電話。誰からだ?」ガチャ

『もしもし?』

P「もしもし、こちら364プロのモバPです」

『……ちょうど良かったです』

P「え? ……!」

CHR『今から会えますか? モバPさん』

とりあえずここまで

P「ちひろさん!?」

CHR『はい。色々と……話をしたいので』

P「なるほど。いや、俺も近いうちに連絡しようと思ってたんですよ」

CHR『……そうですか』

P「でも今すぐにっていうのはちょっと。そんなに急用なんですか?」

CHR『あ、いえ……モバPさんが出ると思わなかったので、つい勢いで』

P「そうですか。じゃまあ、携帯の番号教えるんでまた昼にでもかけてください」

CHR『わかりました』

P「メモの用意は大丈夫ですか?」

CHR『どうぞ』

P「えっと、090-114-514-1919-810……」

CHR『……はい、わかりました。ではまた』

P「ええ、また」ガチャン

P(なんだろうか、この、妙にぎこちないような……)

ガチャ、バタン

P「あぁ三浦さん。おかえりなさい」

MUR「いや~二度と救急車呼ぶな池沼って言われたゾ~」

P「えぇ……、それは災難でしたね」

MUR「まあいつも言われてるような気もするし気にしないでおくゾ」

P「そう……(無関心)」

P(さて、まだみんなが来るまで時間あるけどどうすっかなー俺もな~)

MUR「そういえばそんなところに突っ立って、電話でもかかってきたのか?」

P「ああいや、別に大した相手じゃ────」

ぐぅ~っ

P「……三浦、ちょっと腹減らないすか?」

MUR「朝ごはんなら食べてきたゾ」

P「あ、そう……カップ麺とかあります?」

MUR「焼きそばならあるゾ。お湯入れて持ってくるから、座って待ってて」スタスタ

P「ありがとナス!」スタッ

P(んー……テレビでも見るかな。なにせ一週間も寝てたんだから、世間が今何で騒いでるかも分からん)

ポチッ


『えー、××山で起きた大規模な火災は未だに鎮火しておらず、現在も消火活動が続けられています』

『この火災の詳しい原因は分かっていませんが、一部の映像から山中にある現在使われていないはずの工場から出火したのではないかと推測されています。引き続き────』


P「やっべぇ……」



……

撮影スタジオ

「いや~バッチリでしたよ。三人ともレギュラーで出てもらいたいぐらい」

遠野「そ、そうですか……」

「いやもうね、そんなに照れなくて大丈夫だから。君たちは本物だよ!」

P「ですよねぇ?」

「てめえは褒めてねえんだよ。じゃ、ね、これから仕事もっと増えると思うけど、またよろしくね!」

P「はい、またよろしくお願いしますー」

「だからてめえには言ってねえっつってんじゃねーかよ……」スタスタスタ

RN「……はぁ」

P「よし、戻ろうか」

P(凛たちはIU優勝ユニットとしてさっそく、ネットの生番組に出演していたのだ)

スタスタスタスタ……

遠野「今の人、話長かったですね」

RN「うん。やっと終わったって感じ……」

P「褒めてもらってたんだからそう腐るなよ。俺も凄く良かったと思うぞ、ちゃんとコメント考えてて」

遠野「昨日はなんというか、あまり眠れなかったので……そのときに考え込んでました」

P「眠れなかったのか? まあ昨日は色々あったもんな」

RN「色々……ね」

MY「IUに優勝してプロデューサーさんが戻ってきた、幸せな一日でした♪」ギュッ

遠野「やだ、まゆさん大胆ですよっ」

P「そうだよ(便乗) 誰が見てるかも分からないんだから控えて、どうぞ」

MY「じゃあ、誰も見てない所へ行きますか……?」

P「やめてくれよ(絶望)」

MY「……ごめんなさい、プロデューサーさんとこうやって話せるのが嬉しくて、つい」

P「そういう風に言われると弱いなぁ」

MY「うふふふ♪」

RN「…………」

MY「……? なんだか眠たそうですね、凛ちゃん」

RN「え? まぁ……多少はね」

P「多少ってなんだよ(哲学)」

RN「多少、眠たい? いや多少でもないけど。……っていうか、分かるでしょ?」ジッ

P「ウン。俺もちょっと眠たい……」

MY「何が分かるんですか?」

P「え、ああいや……」

prrrrrr!

P「おっやべぇ、110番だな!(勘違い)」ピッ

CHR『もしもし。……今から、会えますか?』

P「えっ何? 俺とセックスしたいって?」

RN・MY「は?」

P「あっいや、聞き間違い聞き間違い……」

CHR『……大丈夫ですか?』

P「あ、はい。大丈夫っす、会えます」

CHR『そうですか。では、どこで待ち合わせますか?』

P「うーん……あっそうだ! ちょうと昼飯時ですし、何か奢ってくださいよ! 寿司とかどうですか? いいですよね!」

CHR『…………』

P「あー分かりましたよ、美味いラーメン屋の屋台で我慢しましょう」

CHR『…………』

P「…………」

CHR『……モバプロの近くにある喫茶店、覚えてますよね? あそこで待ってますから』

プツッ

P「あっちょっと! ……しょうがねぇなぁ」

MY「プロデューサーさん」

P「ん?」

MY「今の電話、誰からですか? 男の人? 女の人? それとも……」

P(それともってなんですかね……)

MY「ねぇ、答えてください!」

P「お、おう。ちひろさんだよ、話がしたいから会えないかって」

MY「ちひろさん……」

RN「えっ、ちひろさんが!?」

P「ああ。だからこの後ちょっと話してくるよ、これまでのことも、これからのことも」

RN「……分かった。よろしく言っておいて」

P「かしこまり!」

MY「ちひろさん……ちひろさんと……」

遠野「あの、プロデューサーさん。よければ、その人に先輩のことも聞いてくれませんか?」

P「田所のこと? ……そういや昨日お前、あいつに記憶が無いとか言ってたな」

遠野「はい。あのゴーグルを着けてからのことは、ほとんどぼんやりとしか覚えてないみたいで……とりあえず今日は810プロへ行ったみたいですけど」

P「分かったよ、それも聞いてみる」

遠野「ありがとうございます!」

MY「ちひろさん……ちひろさんと、セッ───」

P「違うだろ、いい加減にしろ! ただの冗談だから!」

RN「冗談だからってどうかと思うけど……」

P「いやースイマセーン(レ)」

喫茶店

カランカラーン……

「あらいらっしゃい!」

P「えっと……居た居た。お待たせしました!」スタスタスタッ

CHR「……お久しぶりです。アイスティー、頼んでおきましたよ」スッ

P「どうせなら食べ物にしといてくださいよ。すいませーん!」

「はい。ご注文でしょうか?」

P「はい。えーっと……じゃあこのローストビーフサンドを一つお願いします」

「かしこまりました」スタスタ……

P「……」

CHR「飲まないんですか?」

P「えっ、そんなん関係ないっしょ」

CHR「……そうですね」

P「それで、話っていうのはなんです?」

CHR「氷崎さんがプロダクションを去りました」

P「氷崎って……えっ、あいつ辞めたんですか!?」

CHR「はい。ですから、その……単刀直入に言えば、あなたに戻ってきて欲しいんです」

P「それはプロデューサーとして、でいいんですよね?」

CHR「はい。以前と同じように、卯月ちゃんや他のみんなをプロデュースしてもらいます」

P「そうですか! もちろん、戻らせてもらいますよ!」

CHR「…………」

P「……? はっとしたような顔をして、どうしました?」

CHR「い、いえ、あまりに素直でしたから……、もっと嫌な顔をされるかと思っていました」

P「そんな顔しませんよ。こっちは始めから、IUで優勝してモバプロに戻るつもりでしたから」

CHR「……モバプロに、ですか」

P「あ、今は810プロでしたね。すいません」

CHR「いえ……」

P「あぁそうだ、戻るって言いましたけど一つ条件があります。凛とまゆも、810プロに移籍させてもらいますよ」

CHR「ええ、それは構いませんよ」

P「……それとこれは確定じゃないですけど、他にも移籍してくるアイドルとかどっかの社長とか居るかもしれませんから、その人たちの受け入れ準備もお願いしますね」

CHR「分かりました。要は364プロを買収すればいいということですね?」

P「あくまでその準備ですよ、準備。……こっちの要望を素直に聞いてくれるんですね」

CHR「氷崎さんが抜けた穴はあなたにしか埋められませんから。実現可能なことならやるつもりです」

P「じゃあ寿司奢ってくれません?」

CHR「……なら、ここは出ましょうか」

P「嘘嘘、冗談ですよ。弱みにつけこむようなことはしません」

CHR「はぁ。相変わらず、冗談がお好きですね」

P「まあ好きというか、つい口からこぼれてしまうというか……」

「お待たせしました、ローストビーフサンドです」コトッ

P「わー美味しそう!」

「ごゆっくりどうぞ」スタスタ……

P「ちひろさんも食べますか?」

CHR「いえ、私は」

P「そうですか。じゃあいただきます」モグモグ

ゴクッ

P「うん、おいしい!」

CHR「……っ、そうですか」プルプル

P「なに笑ってるんですか」モグモグ

CHR「わ、笑ってません。何言ってるんですかもう」

P「……ちひろさん、せっかくだからこれ飲ませてもらいますけど、変なもの入ってませんよね?」

CHR「入ってません!」

P「あ、そうですか。では遠慮なく」モグモグ,チューチュー

CHR「…………(事務員の眼光)」

P「…………」モグモグモグ、チューチューチュー

CHR「っ……、モバPさん、詰め込み過ぎて頬が膨らんでますよっ……」プルプル

P「そうれふか? 気にしない気にしない。……あ、そうらちひろふぁん、ちょっと田所のことでききたいんれすけど────」

CHR「ちゃんと飲み込んでから喋ってください。田所?」

P「ふぁい。あいつこれからも社長のままなんれふかね?」モキュ,チューチュー

CHR「……場所を変えましょうか、モバPさん」

P「ここじゃまずいれふか? 別に、いいれすけど」モキュモキュ

CHR「ええ。出来れば、他に誰も居ないようなところで……」

P「そうでふか、じゃあお会計お願いしまふ。俺はちょっと、トイレに……」ガタッ、スタスタ……

CHR「…………」


……

P「……」

CHR「……」

トボ,トボ,トボ……

P「うおっ、と、とと!」ヨタタタッ、ポスッ

CHR「だっ、大丈夫ですか?」

P「ふぁぁ、すいません。なんかちょっと、眠くて……」

CHR「そうですか。……ほら、ちゃんとたってください」スッ

P「はぁい……あのぉ、どこまで歩くんですか……?」スー

CHR「じゃあ、ここにしましょう。お金は私が入りますから、安心してください」

P「こ↑こ↓? ここって───」

CHR「いいから、はい」

P「はぁ……」ウトウト

スタスタ……ウィーン

「────────」

CHR「ええ、はい。休憩でお願いします」

「────────」

P「……」ボーッ

CHR「……モバPさん、行きますよ」

P「えぇ? あ、はい……」

ガチャ……バタン

CHR「眠いんですよね。どうぞ、横になってください」

P「え、でも……」ウトウト

CHR「大丈夫です。大丈夫ですから、ホラホラ」

P「いやぁ……でも、寝ちゃったらまずいですよ……」ウトウト

CHR「……耐性が出来てるのかしら」ボソッ

P「耐性……なんですか、それ?」

CHR「あ、いえ、なんでもありません。それじゃあ、眠気が覚めるまでゆっくりしましょうか」

P「はい、すいません……」

CHR「……」

P「……」ウトウト

CHR「…………」

P「アゥ、アーウ……」フラフラ

CHR「あっ大丈夫ですか、大丈夫ですか?」

P「…………」パタッ

CHR「ふふっ……やっと寝ましたね、モバPさん」

P「…………」

CHR「……」ソーッ……

…………、パチッ!

CHR「!?」

P「んん……どうしたんですか、ちひろさん」

CHR「あっ、いや、寝ちゃったのかと思って……」

P「起こそうとしてくれたんですね、ありがとうございます」

CHR「い、いえいえ。もう眠気は覚めましたか?」

P「いや、正直今にも寝ちゃいそうで……でも、眠気を覚ますいい方法を思い付きました」

CHR「なんですか?」

P「その前に。実は俺、なんかおかしな体質になっちゃったんですよ。怪我してもすぐに治っちゃうんです」

CHR「へ、へぇ……」

P「だからこのペンを……」

CHR「!?」

P「腕に、思いっきり刺せば……!」スッ

CHR「なっ、何するつもりですか! やめてください!」

P「止めないでくださいよ。本当に、どんな重症でも治っちゃうんですよ?」

CHR「そんなわけないじゃないですか! 軽いケガならまだしも……」

P「……それ、どういう意味ですか?」

CHR「えっ……別に、言葉通りの意味ですけど……」

P「軽いケガなら大丈夫だとどうして分かるんですか?」

CHR「いや、ですから! ペンを腕に突き刺してすぐ治るなんて、そんなことはあり得ないと言っているんです」

P「本当ですか? ちひろさん。俺の身体について知ってること、あるんじゃないですか?」

CHR「…………」

P「ちひろさん……正直に話してください。昨日俺を起こしてくれたのは、ちひろさんでしょ?」

CHR「……あはは、何言ってるんですか」

P「持ってきたんですよ、これ。わざわざスタドリの空き瓶を置いて自己主張してるのに、今さら隠す必要なんかないじゃないですか」コトッ

CHR「もういいでしょう? 眠気が覚めたなら、ここを出ましょう」スタッ

P「……眠気なんて最初からありませんよ」

CHR「なっ……」

P「どうせアイスティーに睡眠薬か何か仕込んでたんでしょう。そういうホモが使ってくる手はもう慣れっこなんです」

CHR「でもあなたは、あのアイスティーを確かに飲んだはず……!」

P「吸いはしましたけどね。俺が何を頼んだか覚えてます?」

CHR「サンドイッチ……、まさか!?」

P「パンに吸わせて、なるべく飲み込まなかったんですよ。それで店を出るとき、トイレで全部吐いたんです」

P(あの喫茶店には悪いことしたと思うけど)

CHR「それならさっきまでのは全部、演技……!?」

P「昨日のことは感謝しますけど、それとこれとは別です。こんなところまで連れ込んで、俺を眠らせて一体どうするつもりだったんですか!」

CHR「…………」

P「ちひろさん!」

CHR「ふ、ふふ……そうですか……さっきまでのこと、全部はっきり聞いてたんですね……」

P「……」

CHR「ああ、もういいです……恥ずかしい……でももう、いいです……」

P「……ちひろさん?」

CHR「私はっ! あなたを困らせたかったんですよ!」

P「は……?(困惑)」

CHR「田所の家の屋上であなたを裏切ったとき、最初は田所からお金を貰ったらすぐにでも起こすつもりだったんですよ」

CHR「でも、意地悪することにしたんです。あなたを追い出して、倒してもらうことにしたんです」

P「えぇ……?(困惑)」

CHR「眠っているあなたの監視をイニ義たちに、氷崎さんにあなたを倒すように依頼しました」

CHR「……ほんのちょっとだけ意地悪しようと思ったのに、その時点でもう引っ込みがつかなくなってたんですよ」

P「いや、意地悪って……これそういうレベルなんですかね……」

CHR「……さっきおっしゃった通り、昨日あなたの意識が都合よく戻ったのは私のおかげです。点滴を抜いて、スタドリを直接注射しました」

CHR「どれほど深刻な状態か分からなかったので、一番強力なものを入れたんですよ? それで身体の自然治癒力が著しく向上したんでしょうね」

P(なるほど……変身状態だと更に身体能力や機能が向上するから、メガデスの攻撃を喰らってもすぐに治ったんだな)

CHR「でも私は、あなたに会場へ行って欲しかったからスタドリを打ったんじゃありません」

P「えっ……じゃあ、どうして」

CHR「決勝で負ける凛ちゃんたちを見せたかったからですよ。その姿を見て、してもしきれない程の後悔をさせて、絶望して欲しかったんですよ」

P「だから意地悪の域を越えてるっつってんじゃねーかよ……(棒読み)」

CHR「そうですね。悪趣味でしょうか、ここまでくると」

P「あのさぁ、そんなに俺に意地悪したい理由はなんですか? ただのドS、それともまた変な理由が?」

CHR「……っ、分からないですか」

P「知らないっつの……」

CHR「あなたが……っ、あなたが、私に振り向いてくれないからですよっ!」

P「は?」

CHR「モバプロに居たときからずっとそうでした。私が仕事でどれだけあなたを支えても、色々なコスプレをして誘ってみても……あなたは見向きもしてくれません」

CHR「あなたの目には、アイドルしか映ってないんです」

CHR「……事務所から追い出そうとすれば泣いてすがってくるって思ったんですよ? 仮に出ていっても、そのうち私を頼ってくると思ったんですよ?」

CHR「でも、違った……あなたは私に振り向くどころか、私を視界から完全に消してしまいました」

CHR「……病室にスタドリの瓶を置いたままにしたのは、また少しでも私の方を向いて欲しかったからかもしれませんね」

P「えぇ、いや、あの……もしかして俺のこと好きなんですか?」

CHR「そうですよ! あなたのことが好きだったんです!」

P「あ、はい。すいません」

P(なんか……駄目だな、この人……)

CHR「……あなたを事務所から追い出したことは反省しています。私の身勝手で、関係ない子たちも悲しませてしまいました」

CHR「だからこそ、あなたに戻ってきて欲しいとお願いしたんです」

P「…………」

CHR「……気が、変わっちゃいましたか?」

P「いや、それは全然無いですけど……」

CHR「それは良かったです。あなたが戻ってきたらもう関わるつもりはあありませんから、要望は今のうちに伝えてください」

P「……」

CHR「……ああ、そうそう、田所のことでしたか? 彼はもうクビにしますから、好きにしてください」

P「…………」

CHR「それじゃあ、部屋を出ましょう。それとももう顔も見たくないなら、私が先に帰りましょうか?」スタスタ

ガシッ

P「……ちひろさ~ん? それで許してもらえると思ってるんですか~?」

CHR「なんですか? ……そんなにお寿司が食べたいなら、お金をあげますよ」

P「そんなことで許してもらえるわけがな~い」ズルズル

CHR「やっ、何をするつもりですか!」

ドサッ、ガバッ!

CHR「……えっ? も、モバPさん?」

P「結局、この部屋に連れ込んで何をするつもりだったかまだ聞いてませんよ?」

CHR「そ、それは……」

P「ちひろさんは今まで俺にしたことに対する責任を取る必要があります」

CHR「責任って、これ、そんな取り方は……っ」

P「一応言っておきますけど、確かに俺は今までちひろさんのことを女性として好きだと思ったことはありません」

CHR「……」

P「でも……かわいいって思ったことなら、あります」ボソッ

CHR「えっ……!?」

P「…………、じゃあ今までのちかえしをたっぷりとさせてもらおうかな」

CHR「あっ、ちょっと、モバPさんっ……!」



……
………


ちひろ「んあーーーーーっ!」

とりあえずここまで

P(そこからの展開は早かった)

P(810プロは社長である田所の解任を発表。一つ前の社長が再び就任し、プロダクション名もモバプロダクションへ戻ることとなった)

P(田所は社長に仕立てあげられたことや無理矢理アイドルをやらされていたことについてかなり怒っていたらしいが、ちひろさんに自分が渡した以上の金を返してもらって満足したようだ)

P(もちろんちひろさんが自分の意思で金を渡したのではなく、俺がそう指示した)

P(あいつも可哀想だと少しは思うし、訴訟などを起こされると面倒という理由もある。それになにより、遠野の手前見捨てるわけにはいかなかった)

P(遠野は田所に自分の思いを伝えて、その結果今は田所の家で同棲しているようだ)

P(……話は戻って、モバプロは新社長による指示で、アイドル部門が更に拡大されることになった)

P(表向きな発表ではIUの結果を受けてということになっているが、ちひろさんが手を回したことは間違いない)

P(しかしとにかく、この改革のおかげで俺や凛、まゆだけでなく364プロ全員がモバプロへ移ることが可能になったのだ)

P(ちひろさんからその連絡を受けた俺は事務所にみんなを集め、このことを話した)

P(当然喜んで受け入れてくれる……と、思ったのだが────)

DB「俺はアイドルを辞めると言ったはずだ。関係ないな」

TDN「大坊! ……すいませんプロデューサーさん、まだ話がついてないんです」

P「なんだよお前、まだそんなこと言ってのか? 今しか出来ないんだから続けりゃいいのによ」

DB「……フン、関係ないだろう」

P「多田野はどうする?」

TDN「申し訳ありません。自分もまだコーチの件で悩んでいるので、この件は何とも言えません」

P「そうか……でも、他のみんなはいいだろ?」

NTK「……わざわざモバプロに行く必要は無いんじゃないかな」

P「えっ?」

NTK「もちろんモバPさんたちと別れるのは寂しいさ。けど、それを受け入れて新しい道へ進むことも大事じゃないかと思うんだ」

P「……」

KMR「僕はモバプロへ行くのも悪くないと思います。ですが……今は、やめておきます」

P「どうしてだ?」

KMR「これまでのアイドル活動はプロデューサーさんが居てこそのものでした。だからこそ確かめたいんです、プロデューサーさんと離れた僕がどれだけやれるのか」

P「……そうか、分かったよ。李衣菜はどうだ?」

RIN「…………」

P(俺の話を聞いているときは嬉しそうな顔をしていた李衣菜だが、今その表情は曇っている……)

RIN「私は……正直、プロデューサーさんについていきたい。けど……」

P「けど?」

RIN「二人が残るなら……私もやっぱり、残った方がいいのかなって……」

NTK「なんだよだりー、アタシが残るからって自分もそうする必要は無いだろ? 自分のやりたいようにすればいいのさ」

KMR「そうですよ(便乗) 事務所が変わっても、僕たち三人がロック・ザ・ビーストであることは変わりません」

RIN「うん……でも、二人の話を聞いたら、私もそうしなきゃいけない気がして……」

NTK「うじうじ悩んでるのはだりーらしくないぜ。直感で決めればいいじゃないか」

RIN「……そうだよね。じゃあ、決めた!」

P「どっちだよ」

RIN「じゃんけんで決めましょう! プロデューサーさんが勝ったら、私はプロデューサーさんに着いていきます!」

P「えぇ……(困惑)」

NTK「いや、直感とは言ったけどよ……そりゃちょっと違うんじゃないか……?」

RIN「もう決めたから! いきますよプロデューサーさん! じゃーんけーん────」スッ

P「ちょちょちょっと待った! 本当にじゃんけんで決めていいんだな!?」

RIN「……ここに残りたい気持ちとついていきたい気持ちは、多分同じぐらい。だから、後悔はしません」

DB「それはどっちを選んでも後悔する奴が言うセリフだ」

RIN「えっ!? た、確かに……ううん、女に二言はない! 今度こそいきますよ!」

P「わ、分かったよ。李衣菜が勝ったら、ここに残るんだな?」

RIN「はい。……一ついいですか?」

P「二言はないんじゃなかったのか?」

RIN「そうじゃありません! あらかじめ言っておきます、私が出すのはグーです」

P「はいはい、グーを出すのね……ってなんだそりゃ!? 心理戦かよ!」

RIN「じゃあいきますよ! じゃーんけーん────」

P(どうする!? パーを出して勝つべきなのか、チョキで負けるべきか!)

P(いやいや、宣言通りグーを出してくるとは限らないぞ。俺のパーを読んだチョキ、はたまたその裏をかいたパー……)

P(そもそも、なんでグーなんだ……?)

RIN「ぽん!」スッ

P「っ……グーとグーであいこだな」

RIN「じゃあ、あーいこでーっ────」

P(あーもう、何でもいい!)

RIN「しょっ!」スッ

P「!」

RIN「私の勝ち、ですね」

P「二回連続グーか。ははは、負けたよ」

RIN「……私はグーを出しますって言ったじゃないですか。何回あいこでも同じですよ」

P「あ、そっかぁ……でもなんでグーに拘って────」

P(待てよ、グーってつまりは……)

RIN「ロックですからね!」

P「ダジャレかい……あーあ、だったらパーを出しときゃ良かったな」

RIN「……そう思いますか? 勝って、私を連れていきたかったって」

P「そりゃあな。李衣菜じゃなくて俺が後悔するはめになったよ」

RIN「あははっ。じゃあ次は、ちゃんと私をゲットしてくださいね?」

P「次があったらな……」

RIN「という訳でこれからもよろしく、二人とも!」

KMR「ええ、今後ともよろしくお願いします」

NTK「いまいち締まらないんだが……まあ、いいか」

P「三人が残るっていうからには、事務所ごと合併ももちろん無しですね」

MUR「おっ、そうだな。プロデューサー抜きでも頑張るゾ!」

P「頼みますよ~? 倒産なんてしたらシャレになりませんからね」

MUR「稼いでくれるアイドルはいっぱい居るゾ!」

P(どちらかといえば、それを管理する人間の問題なんだが……)

P「……多田野たちは保留として、とりあえずこれで全員進退は決まったかな?」

MY「待ってください。まだ、遠野ちゃんが居ます」

P「え? あぁそうか、ごめんごめん」

遠野「いえ……僕はずっと黙ってましたから」

P「遠野はついてくると思ってたんだが、違うのか? っていうかミッドナの活動もあるし、来て欲しいっていうのが正直なところだが」

遠野「もちろん、アイドルを続けるならそうするつもりでしたけど……」

P「だろ。……ん? アイドルを、続けるなら?」

遠野「ごめんなさい。実は……アイドル活動はしばらくの間お休みしようと思っているんです」

P「うせやろ?」

RN「……初耳なんだけど」

遠野「本当に、ごめんなさい……まゆさんだけ、先に話しました」

MY「その時は、恋愛相談のつもりで話を聞いていたんですけどね」

P「恋愛って、お前まさか……妊娠したのか!?」

「ええっ!?」

RIN「と、遠野さん、女だったの!?」

遠野「ち、違います。男です」

RIN「だ、だよねっ!」

DB「なんだ、ビビらせやがって……」

P「いや、男なら妊娠出来ないという常識を────」

RN「相手が田所だとしたら、分かるの早すぎでしょっ!」パシッ

P「ぐはぁ!」

MY「……茶化さないで聞いてあげてください」

P「お、おう、すまん。でも恋愛ってことは、田所絡みなんだろ?」

遠野「先輩は長い間あのゴーグルを着けていた影響なのか、ときどき意識が飛んでしまうんです。端から見ると、ボーッとしているような状態で」

遠野「じきに治るってお医者さんには言われましたけど、いつ症状が起きるかは分からないし、その上ひどいとその状態が10分も20分も続くんです」

P(重くなぁい?)

遠野「だから僕が側に居て、支えてあげたいんです。身勝手な理由で、ごめんなさい」

P「そうか……それなら、仕方ないな」

遠野「……いいんですか? ユニットのお仕事、たくさんあったんですよね?」

P「今の時点でもオファーは山ほど来てるし、これからも来るだろうな」

遠野「じゃあやっぱり、仕事が落ち着くまでは────」

P「いいんだよ。元々田所を取り戻すためにアイドルになった、というかさせたんだから。無理強いはしないよ」

遠野「っ……ありがとう、ございます……」ウルッ

RN「……これっきりじゃないんでしょ? 遠野」

遠野「はいっ……あくまで、休むだけです。いつか絶対、またステージに立ちますっ……!」

RN「うん。それまで、ずっと待ってるよ」

MY「大事な人をちゃんと支えてあげてくださいね♪」

遠野「ウン……ウン……」グスッ

P「なんだよ、泣くなよ~。これから一つ楽しい話をしようってのに」

MUR「他にも話があるのか?」

P「やだな三浦さん、分かってるでしょ?」

MUR「……あっ、これか!」

P「そうです、それです」

RN「なに、何の話?」

P「約二名ほどには伝えておりましたが、えー364プロ新春慰安旅行の日程および行き先が決定いたしました!」

MUR「パチパチパチパチ~」

遠野「ぐすっ……新春?」

MY「慰安旅行、ですか?」

RIN「約二名って、一人は私ですよね? 北海道に旅行するってことしか聞いてなかったんですけど……いつの間に新春慰安旅行になったんですか!?」

KMR「北海道?」

P「あっ李衣菜! 行き先はこれから発表だったんだぞ!」

RIN「すすすいませんっ!」

TDN「旅行、いいですね。北海道にしたのはどうしてですか?」

P「それは約一名の希望で」

RIN「私です……」

NTK「あ~、二回戦で北海道に行ったときそんなこと言ってたな」

KMR「お正月によくスケジュールを合わせられましたね」

P「まあ、前々から色々調節してな」

P(というのは建前で、実際は俺が寝てる間に溜まっていた正月の仕事のオファーを断りまくっただけだが……)

DB「こいつの勝手な希望で予定を埋められたんじゃたまらんな」

RIN「ちょっ、そういう言い方ないじゃないですかー!」

P「……まあ正月休みが欲しかった人もいるかもしれないけどさ、これが最後だと思って我慢してくれよ」

DB「……フン、どうせ辞める身だからな。最後に楽しんでやる」

RN「あきれた……」

KMR「それで、日程はいつなんですか?」

P「1/3~1/5の二泊三日だ!」

RIN「おぉ! 二日間も泊まれるんですね!」

P「つってもあの旅館はクソ高いから一泊だけで、二日目にはもう寝台列車に乗って帰るんだけどな」

RIN「寝台列車!? 凄い、初めて乗ります!」

RN「あの旅館って?」

P「二回戦で北海道に行った時IU運営が用意してくれたクッソ高級な温泉旅館」

RN「ふーん……」

MY「温泉旅館……♪ 部屋割りは、まだ決めてませんよね?」

RN「あのさぁ……」

P「そりゃまだだけど。まゆは凛と一緒の部屋がいいのか?」

MY「またまた、分かってるくせに♪」

RIN「まゆちゃん、喋り方がちょっと変になったよ!?」

P「……まあ部屋割りはおいといてさ、実はどういう旅行にするか決めてないんだ」

DB「おい、それが一番重要だろう」

P「一応1日目か2日目のどっちかはスキーにするつもりだけど。重要だからこそみんなで決めた方がいいんじゃないかと思って」

KMR「それは間違いないですね」

P「まあとりあえず紙に行きたいところとか食べたい物とか書いてハイ、ヨロシクゥ!」スッ

RIN「私っ、私から書きます! えーっと……」カキカキ

RN「ふふっ、凄い食いつき」

NTK「だりーはずっと楽しみにしてたもんな」

RIN「そうですよ! えーっとえーっと、後は……」

DB「貸せ。お前だけの旅行じゃない」パシッ

RIN「あーちょっとーっ!」

P「こらこら、紙一つにまとめる必要なんかないんだから。大坊はこっちに書けばいいよ」スッ

DB「……フン」カキカキ

MUR「結局ノってるゾ」

TDN「グチグチ言いながら本番は一番楽しむタイプですから」

P「みんなが楽しんでくれれば何よりだよ」

MY「ねぇ、プロデューサーさん? まゆと一緒の部屋じゃダメですか? 二人きりで……」

RN「ダメでしょ。こういうのはクジで決めるのが普通」スッ

P「えっ、引けばいいの? 全部で何部屋とったか言ったっけ?」

RN「いいからはい」

P「えっと……1だな」

RN「じゃあ次は私。……1だね、ちなみに1は二人部屋だから」

P「えぇ……」

MY「は?(威圧) ……凛ちゃん? これい1しか入ってませんよ?」

RN「さあなんのことか……」ポイッ

P「そもそも襖一枚開ければ隣に繋がる部屋なんだよなぁ」

MY「えっ?」

RN「なんだ……」

P「どんな部屋想像してるんですかね……」

KMR「そういえば、下世話な話ですが資金はどこから?」

P「それはまあ俺がなんとかしたよ」

KMR「えっ、事務所のお金じゃなくてプロデューサーさん個人でなんとかしたんですか?」

P「当たり前やん! もうね、旅費の心配はしなくていいから」

KMR「そ、そうですか。分かりました」

P(ちひろさんありがとう! フラッシュ!)

P「……あっ、そうだ遠野。お前2日も家空けて大丈夫なのか? 田所のこと」

遠野「先輩はお正月帰省するみたいですから、それを旅行の日程に合わせてもらえば何とか」

P「おーそうかそうか、そいつは良かった」

ピピピピピピ!

MUR「なんの音だゾ!?」

P「すいません、俺のアラームです。みんな、今日はもう夜遅いからここまでだ。あとは家で書いてきてくれ」スッ,スッ

RIN「はいっ! くぅ~っ、今から楽しみーっ!」

遠野「そうですね。楽しい思い出をたくさん作りたいです」

MY「あんなことや、こんなことも……♪」

DB「フン、はしゃぐのはいいが風邪をひいたりするなよ」

HTN「うまいぞ心配(空気)」

MUR「おやつは514円までだゾ~」

P「そんな制限ないから……」


P(そんなわけで結局、モバプロへは俺と凛、まゆの三人が戻るだけとなった)

P(……そしてすぐに年が明け、364プロの新春慰安旅行が始まった!)

とりあえずここまで

RIN「うっひょーっ!」シューッ

NTK「あっ、おい! 待てよだりー!」スッ、シューッ

DB「あんなに興奮して、ケガしても知らんぞ俺は……」シュー

TDN「一緒に滑るか? 大坊」

DB「ついてくるな!」

スタッ、シューッ……

P(みんなで話し合った結果、1日目はスキーを思い切り楽しむことにしたのだ)

P「ん~、それにしてもいい天気だ。絶好のスキー日和だよ今日は」

RN「晴れてよかったね」

P「ああ!」

KMR「気持ちよく滑れますよね。それじゃあ、僕も……」スッ

遠野「あっ、じゃあ一緒にどうですか?」

KMR「ええ、行きましょうか」

P「遠野とナオキはスノボか、似合ってるな

MUR「かっこいいなあ、木村ァ……」ポフポフ

P「……何してるんですか?」

MUR「雪だるま作ってるんだゾ。俺は滑れないから……」

P「えぇ!? そんなこと一言も言ってなかったじゃないですか!」

MUR「楽しみに水を差しちゃ悪いかと思ったんだゾ……」

MY「分かります分かります」

P「まゆがスキー初めてっていうのは聞いてたけど……じゃあ一緒にスキー教室してやるか、凛!」

RN「うん、元からそのつもりだったし。教え子が一人増えただけ」

P「……じゃあついでにもう一人、俺も正直あんまり滑れないからさ、コツとか教えてくれよ」

RN「えぇ……私だって上級者なわけじゃないんだから、そこまでは指導出来ないよ」

P「まま、ええわ。とりあえず軽く歩くところから初めよう、スキー板をまっすぐにすると────」

MUR「あっ、あっあっ、勝手に滑るゾッ!」スー

P「ちょっ、まっすぐにすると滑っちゃうって言おうとしたんですよ! 八の字にしてブレーキかけてください!」

MUR「こ、こうか!?」スッ

シューッ!

P「手じゃねーよクソボケ! 足だ足!」

MUR「おっ、あっ(池沼)」シュー……

RN「誰かにぶつかったら大変、早く止めないと!」

P「しょうがねぇなぁ」

スーッ、シューッ……

MY「……置いていかれちゃいました」

HTN「」スッ

MY「ひゃっ!? は、羽田野さん、居たんですね」

HTN「教えようか?」

MY「えっ?」

HTN「滑り方」

MY「あ……、はい♪」


P(そんなこんなで、日が傾くまで各々スキーを楽しんだ!)

P(ちなみに、三浦さんは結局滑れるようにはならなかった……)

旅館

RIN「こ↑こ↓こ↑こ↓、ここですよ!」

DB「目の前にあるんだから言われんでも分かる」

遠野「はぇーすっごいおっきい……」

NTK「あの時はビビったな、ここが貸し切りだったんだから」

RIN「ねー。……あれっプロデューサーさん、貸し切りじゃないみたいですけど?」

P「無茶言うな!」

RIN「ふふっ、冗談ですよ。お正月ですからやっぱり混んでますねー」

MUR「アイドルだってバレないように気を付けた方がいいかもしれないゾ」

P「まあそうそうバレませんよ。都心ならともかく、こんなところでわざわざ声かけてくる人も居ないでしょう」

RN「ねえ、早く中に入ろうよ。寒くなってきた……」

P「おっそうだな、悪い悪い。さっさとチェックインしてひとっ風呂浴びよう!」


……
………

P「だから風呂上がりはミックス牛乳が一番っつってんじゃねーかよ……」

RIN「いいえコーヒー牛乳です!」

RN「っていうかミックス牛乳って何? 聞いたことないんだけど」

P「フルーツ牛乳とも言う」

RN「ふーん……まあ何でもいいんじゃない? 私は普通の牛乳が良いと思うけど」

NTK「おっ、仲間が居たな。アタシもそうなんだよ」

RIN「なっ、裏切ったね!?」

NTK「いや、最初から味方じゃないって……」

MY「まゆはプロデューサーさんのことを裏切りませんよ。ミックス牛乳が一番です♪」

P「よぉし」

DB「くだらん……」

MUR「ビールが一番だゾ。冷えてるか~?」

P「あぁいいっすねぇ~、今日は俺も飲んじゃおうかな……」

スーッ、ピシャッ

遠野「みなさん、遅くなりました~」ポカポカ

MY「長風呂でしたね、遠野ちゃん」

遠野「ごめんなさい、つい入りすぎちゃうんです……」

MY「いえいえ、私もさっきまで入ってましたから」

P「んじゃ、持ってきてもらうか。ここは料理も凄いぞ~?」

KMR「いつの間にか無くなってしまう美味しさですよね」

RIN「それはナオキくんの胃が凄いんだと思う……」

P(風呂の後は宴会場で豪勢な夕食、んー最高!)


……

RN「ふぅ……もう駄目、お腹いっぱい」

KMR「貰いましょうか?」

RN「え? あ、うん。食べかけでいいなら」

KMR「ありがとうございます」スッ

NTK「相変わらずの食べっぷりだなぁ、ナオキ」

KMR「……」パクパクパク

ドンッ!

MUR「まだ飲み足りないゾ~? 飲み足りないよなぁ?」

P「おっ、そうだなぁ! ビール! ビール!」ゴクゴク

RIN「び、びっくりした。っていうか相当酔ってる……?」

TDN「以前一度だけ一緒に飲んだことがありますが、あの二人は飲み始めると止まらないようで……」

P「なんか言ったかぁ多田野ォ? あそうだ(唐突)、お前犬の真似しろよ、犬だよ!」

TDN「ワン! ワン!」ヨツンヴァイン

RIN「多田野さん!? やらなくていいですよ!」

TDN「あ、すいません。身体が勝手に」

P「馬鹿じゃねえの(嘲笑) おーいまゆ、ビール注いでくれ」スッ

MY「はい♪」

MUR「こっちも頼むゾ~」

MY「はーい」トタトタ

P「んぐっ……あぁあ~うんめえなぁ~、おい多田野、犬が何服来てんだよ。脱げや」

TDN「そ、それはさすがに……」

RN「ちょっと、プロデューサー。飲むのはまあいいけど、あんまり変な事言わないで」

P「なんだよ凛、代わりにお前が全裸で犬の真似するって?」

RN「は?(威圧)」

P「みたーい、みたーい、誰でもいいから全裸で犬の真似みたーい」

RN「そここだわるんだ……」

MUR「誰もやらないなら俺がやっていいか?」ヌギヌギ

RIN「わわわーっ、ダメですよ!?」バッ

DB「お前は脱ぐな! お前は指の間から覗くな!」

RIN「覗いてません!」

P「う゛っ゛」クラッ

MY「プロデューサーさん!?」

P「縦割れはいやーきついっす……」

MY「た、縦割れ? なんのことですか?」

P「社長のアナ────」

アンアンアンアンアン……

P「ア!(スタッカート) 今度は耳がキンキンするっ」

MY「この声……遠野ちゃん?」クラッ

遠野「ううっ、先輩、先輩っ……どうして……」ゴクッ、アンッアンッ

NTK「いわゆる泣き上戸ってヤツだな、こりゃ」

DB「酒癖の悪いやつらだ……」

P「アーハキソ、ハキソ……」

MY「ぷっ、プロデューサーさん!」サスサス

MUR「脱ぐゾ~これ(パンツ)」ヌギヌギ

DB「やめろ! やめなきゃ撃つぞゴルァ!」

TDN「犬の真似なら自分がやります! ワン! ワン!」クルクル

RIN「あわわわ、えーっと私はどうすれば……うわあっ!?」ガッシャーン!

KMR「!!? りょ、料理が……」

RIN「ごっ、ごめん! ごめんなさい!」ペコペコ

HTN「(空気)」

RN「あーもう、めちゃくちゃだよ……」




P(その晩どのように過ごして何時ごろ寝たのか、よく覚えていない……)

翌日

P(2日目は、札幌やその周辺で行きたい場所を3つのグループに分かれて巡る)

P(364プロ全員での旅行なのだから本来は避けるべきことなのかもしれないが、みんなの希望を最大限叶えるためということで話がついた)

P(俺は李衣菜、ナオキ、まゆと一緒に北海道の美味しい物を食べ尽くすグループだ)

RIN「よーし、じゃあ張り切ってしゅっぱーつ!」

KMR「はい」

MY「おー♪」

P「お、おー……」

RIN「どうしたんですかプロデューサーさん? 元気がないですよ!」

P「いや……若干二日酔いでさ」

KMR「大丈夫ですか? 運転」

P「まあ運転はここまでもしてきたし問題ないと思うけど、肝心の飯が入るかどうか……」

RIN「きっと美味しいから大丈夫ですよ! さあ、行きましょう!」

P「クゥーン……」

ブーン……

P(こうして1日車で移動しながら市場を見学したり、名店のラーメンや回らない寿司などを食べたりした)

P(三浦さんと凛、夏樹、遠野のグループは名所や博物館などをたっぷり観光したようだ)

P(そして、多田野たち三人は────)

札幌ドーム

DB「……着いたぞ」ガチャ

TDN「悪いな、大坊。本当はプロデューサーさんたちの方へ行きたかったんだろ?」ガチャ、バタン

DB「今さらなことを言うな。早く球団事務所へ行ってこい」

TDN「ああ。でもその前に言っておく、コーチ打診の件は断ることにしたよ」

DB「なんだと?」

TDN「ナンバーワンのアイドルになる、IUを経験してようやくそのスタートラインに立てたと思う。だから今は、どうしてもその夢を諦められない」

TDN「野球の道へ戻るのは、アイドルをやりきったと自分が納得した時にするよ」

DB「……フン、勝手にしろ。俺には関係無い」

TDN「大坊! ……羽田野も、少し話を聞いてくれ」

HTN「ウィヒ?」

DB「チッ、また『逃げるな』とでも言うつもりか? もう沢山だ、暑苦しい」

TDN「違う。……あのIU決勝戦、凛さんたちを見て思ったんだ、一人ではナンバーワンのアイドルになれないと」

TDN「競い合う仲間や支えてくれるファン。そんな人たちが居てやっと、頂点への道が開ける」

DB「……だから、どうした」

TDN「大坊、羽田野。俺にとっては二人がそうだ。野球とアイドルの両方を一緒に経験した一番の仲間なんだよ」

TDN「二人が居たからここまで来られた。そして二人が居ないと、この先へ進めない」

TDN「理屈じゃない、ただのエゴだ。……だから頼む、一緒にアイドルを続けよう。そして三人で、ナンバーワン! になろう」

DB「……馬鹿が、ナンバーワンが三人も居たらもうナンバーワンじゃないだろ」

HTN「うまいぞツッコミ(空気)」

TDN「はは……それは、そうだな」

DB「だいたい一番なんぞ性に合わん、お前が勝手に目指せ。俺はお前と比べて売れない自分が嫌だったんだよ」

TDN「大坊……」

DB「……だがそもそも、俺はお前に誘われたからアイドルになったんだよな」

TDN「!」スッ

DB「寄るな! ……だからそこまで言うなら続けてやる。お前とのユニット活動限定でな」

TDN「ユニット活動限定……ソロ活動はいいのか?」

DB「自分の実力不足や人気の無さはもううんざりするほど分かってる。ソロで続けるつもりはない」

TDN「分かった。羽田野も、辞めないでくれるか?」

HTN「辞めないよ。空気が無いと二人とも生きていけないだろ? ……うまいぞシャレ(自画自賛)」

TDN「ああ、これからも一緒にやっていこう!」

DB「……フン」

札幌駅

スタスタスタスタ……

遠野「あっ、来たみたいですよ」

P「いやいや、おまたせ……げふっ」

RN「その様子だと相当食べたみたいだね」

P「ハハァ……」

RIN「もう二日食べなくていいぐらいかも……そっちはどうだった?」

RN「楽しかったよ。色んな場所に行けたし」

遠野「僕は動物園が一番面白かったです!」

KMR「やっぱり、珍しい動物が多かったですか?」

遠野「はい。かわいい動物もかっこいい動物も目白押しでした」

MUR「ポッチャマも居たゾ」

NTK「写真撮ったけど、見るか?」

RIN「おー! 見たい見たい!」

P「待て待て、まずは列車に乗ろう。確認するけど、みんなちゃんと居るよな?」

RN「私たちの方は全員居るし、そっちも……みんな居るね」

P「羽田野も?」

TDN「居ます、こっちに」

HTN「ウィヒ!」

P「おぉう、相変わらずの空気……そういえばどうだった、多田野?」

TDN「僕たち三人、揃ってアイドルを続けることになりました」

RIN「大坊さんも!? あれだけ辞める辞めるって言ってたのに」

DB「うるさい。……仕方ないから続けてやるだけだ」

MY「素敵なツンデレっぷりですね」

DB「黙れ!」

P「ははは、良かった良かった。んじゃ、ホームまで上がろうか」

ホーム

RIN「わぁ、これに乗るんだ!」

KMR「カシオペア号と言うんでしたっけ?」

P「ああ、札幌から上野まで直通さ。今はもう廃線になってるから、普段は走ってないんだけどな」

RIN「えっ?」

遠野「じゃあ、今日はどうして……?」

P「今は旅行会社のツアー専用車両なんだよ。それで今回偶然カシオペア号を使うツアーと日程が被ってたから、駄目元で連絡してみたら……」

RIN「乗せてもらえることになったんですか! 凄いですね!」

P「もちろんお金は払ってるけどな」

RN「じゃあ、この電車代だけで結構するんだ」

P「それは……んまぁそう、よくわかんないっす」

P(ちひろさんに任せたからなぁ……)

RN「えぇ……? ちゃんと計算してないの?」

P「ままそう、気にしないで。楽しめればいくらかかってもいいんだからさ」

DB「どんな金持ちだお前は」

MUR「そういうセリフ言ってみたいゾ」

RIN「プロデューサーさん、もう乗っていいんですよね? 早く乗りましょう!」

P「そうだな。……あ、ちょっと待った! 一つ大事なことを忘れてた!」

バサッ、ガサゴソ……

RN「まさか忘れ物? 財布とか」

P「さすがにそこまでドジじゃない。……あったあった、コレだよォ~」スチャッ

RN「一眼レフと三脚……ああ、写真?」

P「そうだよ(肯定)、記念撮影!」

DB「わざわざそんなカメラを使わなくても、スマホがあるだろう」

P「分かってないな~、こういうのは雰囲気出さなきゃダメだろ!」

DB「お前の好みなんぞ知るか!」

NTK「いいじゃないか味があって。ほら、並ぼうぜ」スタスタ

P「本当は昨日撮りたかったんだけど、すっかり酔っぱらってたからな~」カチャカチャ

RN「場所はどうする? 私はどこでもいいけど」

RIN「私は……真ん中よりちょっと右に」

遠野「僕は端で大丈夫です」スタスタ

TDN「羽田野、写真ぐらい目立つ位置に立てよ」スッ

HTN「ウィヒ!」スタッ

MUR「大人は後ろに下がるゾ~」

NTK「アタシがこの辺に立って、ナオキと大坊が横になると……」

P「おっ、俺がちょうど真ん中か? ありがとな! それじゃ、タイマー合わせて……はい撮りますね~」スタスタスタ

RIN「早く早く!」

P「大丈夫、余裕もってセットしたから。っしょっと」スッ

MY「隣はまゆですよ、プロデューサーさん♪」ギュッ

P「よーし、あと3、2……、みんなチーズ!」

「……」

P「あれっ?」

パシャッ!

「あーあー」「すっ、すまん!」「やっぱりドジだ……」
「最高の顔だったんだゾ!」「すいませんって!」
「うまいぞミス(皮肉)」「誰にでも間違いはありますよ」「撮り直そう、な?」
「これはこれで面白いんじゃないか?」「笑えはするだろうよ」「今もう一回セットするから! 撮り直し!」

ガヤガヤガヤガヤ……


……
………

上野駅

P「よし、じゃあここで解散だ。疲れが溜まってるだろうから、帰ったらちゃんと寝るんだぞ」

RN「ほんの二三時間前まで、列車の中で寝てたんだけど」

P「まあそりゃそうなんだが。今日の夜は、早めに寝ること!」

RIN「はーい……、ふわぁ……」

NTK「眠れてない奴も居るみたいだな
、だりー」

RIN「んん……そうみたい……」

P「みんなほとんど明日から仕事なんだから、疲れは本当にしっかり抜いておくんだぞ」

「……」

P「返事ィ!」

「はい!(はーい)」

MUR「分かったゾ~」

P「……それじゃあ、最後の話だ。旅行前に言った通り、俺、凛、まゆは今日限りで364プロからモバプロへ移る。だから、他のみんなとは……しばらくお別れだ。

P(物の引っ越しや俺の後任への引き継ぎなどは、既に済んでいる)

「…………」

P「みんながアイドル活動を続けてればまた仕事で会う機会もあると思う。月並みだけど、その時はまた、よろしくな」

KMR「はい。今まで、ありがとうございました」

NTK「教えてもらったことは忘れないぜ、モバPさん」

TDN「ありがとうございました!」

DB「……フン」

RIN「プロデューサーさん……っ、お互い、頑張りましょうね!」

P「ああ、もちろん!」

P「二人も、何か言うことがあったら」

RN「……私たちは、きっとまたステージの上で巡り合う。だからその時まで、ほんのちょっとだけ、お別れ」

TDN「ええ。凛さん、またいつかLIVEバトルをしましょう」

RN「LIVEバトル? まあ、それもいいけど。私は多田野と一緒に歌ってみたいな」

TDN「はい、それもぜひ!」

MY「李衣菜ちゃんや大坊さんの楽しいやり取りが見られなくなるのは寂しいですけど……またこうやって、プライベードで遊びに行けたらいいですね♪」

RIN「た、楽しいやり取り……」

DB「そんなことをした覚えはないぞ」

MY「えぇ? いつもやってるじゃないですか。李衣菜ちゃんがボケで、大坊さんがツッコミです」

RIN「私、そんなにボケてる……?」

DB「分からんのか?」

RIN「何をー!?」

MY「うふふふ♪ ほら、また」

RIN「あ……」

NTK「あっはは、確かにそれが見られなくなったら寂しいよな」

MUR「見たけりゃ見せてやるよ(震え声)、いつでも364に遊びにくればいいゾ~」

MY「はい。落ち着いたら、お菓子でも持って行きますね」

KMR「それなら、お二人はネタ合わせをする必要が……」

DB・RIN「無い(です)!」

遠野「…………」

MY「……? 遠野ちゃん?」

遠野「いえ、僕も……もう364プロへは戻りませんから」

P「そうか、遠野もこのまま活動を休止するんだったな」

遠野「みなさんと離ればなれになるのは、やっぱり辛いです……」グスッ

MY「遠野ちゃん……でも、それが愛のために決めたことですよね?」

遠野「……はい、だから頑張ります。みなさんのことは、テレビやネットを通じて応援します!」

P「田所、一日でも早く治ればいいな。そうすりゃまたすぐに復帰出来るんだから」

遠野「あはは、そうですね……」

「…………」

P「……、じゃあそろそろ本当に解散しようか。まだいろいろ、名残惜しいかもしれないけど」

KMR「そう、ですね……それでは、お疲れさまでした」

P「ああ、お疲れさま」

MUR「あっ、おい木村ァ! 待って欲しいゾ~」スタタタ

RIN「……じゃあ、私も。みんなまたね!」

NTK「だりーはまた明日。モバPさんたちは、またな」スッ

P「ああ、またな!」

DB「お前らはどうせ俺の車で帰るんだろう。早く来い」

TDN「分かってるじゃないか。……プロデューサーさん、みなさん、また」

HTN「ウィヒ!(別れのあいさつ)」

スタ、スタ、スタ……

P(ひとり、またひとり帰宅していって、最後に俺と凛とまゆが残った)

P「……なんだよ、二人とも帰らないのか?」

RN「プロデューサーこそ」

P「いや、俺は最後に行こうかと思ってさ……二人とも家まで送っていこうか」

MY「すぐに帰ってもいいですけど……せっかくですから、行ってみませんか?」

P「え? 行くって────」

RN「悪くないかな、いざ復帰した時になって迷子になりたくないし」

MY「ですよね?」

P「……ああ、分かった。じゃあ帰ろうか……モバプロに!」



P(こうしてついに俺たちはモバプロへ復帰した)

P(そして俺は、末永く幸せなプロデュースをして終了)


P(……とは、いかなかった)

P(モバプロへ戻った後、平和な時間はほんのわずかな間だけだった)


アイドルアルティメット優勝ユニットが突如解散。一名が活動を休止し、更に残った二名は元居た事務所へ再移籍。これが芸能ニュースを騒がせない訳はなかった。

発端となったスクープは遠野と田所の熱愛報道。この前代未聞のアイドル同性愛スキャンダルを皮切りに、364プロや凛たちに関するゴシップ報道が次々と報じられていった。

ゴシップと言っても支離滅裂な嘘ばかりでなく、俺たちにとって不都合な事実ももちろん混じっていた。
特にイニ義事務所と364プロが関連していたことは芸能界の中でも大きく波紋を呼び、IUのおかげで増えたはずの仕事はどんどん減っていった。

しばらくして364プロを直接書き立てる報道は沈静化していったが、今度はIU自体にゴシップが飛び火した。
あの決勝戦はやらせだったのではないか? という記事から始まって、準決勝でのGO信者が起こした騒動に関する黒い噂、三次予選で相次いでステージに遅刻するユニットが現れたことなど、記事のネタは尽きなかった。

本選のトーナメント表が事前に一部の参加者に流出していたことが明らかになると、ゴシップはIUに関する黒い噂からIU運営を批判するものへと内容を変えていった。
ピンキーのような本来勝ち進むべきでないアイドルが四次予選まで勝ち残ってしまったことや、IUとともに全国各所でライブフェスを開催して集金するやり方が大きく批判され、ついにはLIVEバトルで勝敗をつけるというやり方自体がアイドル評論家などからも疑問視された。

これらの報道を受けて、IU運営は翌年以降も予定していたユニットトーナメント部門の開催を中止すると発表。これ以降は大きなスクープが報道されることもなかった。

しかしここまでの報道が与えた影響はあまりにも大きく、一時はアイドル業界全体が暗黒期に入ったとまで言われるほど、アイドルのメディア露出は減少していた。

当然あのIUトーナメントは芸能界内でタブーとなり、テレビやラジオで凛たちがIU優勝者と紹介されることは無くなった。


P(ミッドサマーナイツ・ルードドリーム……「真夏の夜の淫夢」は、まるでそれが本当に暑い真夏の夜たった一度だけみた淫夢だったかのように、人々の記憶から消えていったのだ……)

ある日の夕方

P「ぬわああああああん疲れたもおおおん」ガクッ

P「ふぅー……でもこうして落ち着いて仕事が出来るのは、やっぱりいいな……」

ちひろ「お疲れさまです、プロデューサーさん」

P「ああちひろさん、お疲れ様です」

P(ちひろさんとは相変わらずプロデューサーと事務員の関係で、それ以上でもそれ以下でもない)

ちひろ「疲れた身体にはこれがオススメですよ」コトッ

P「あっ、ありがとうございます。……これ無料ですよね?」

ちひろ「当たり前です!」

P「あ、はい、すいません。いただきます……うん、おいしい!」

ちひろ「これで今日も終電ギリギリまで残業出来ますね」ニコッ

P「やめてくれよ(絶望)」

ちひろ「ふふふ、冗談ですよ。私がそんなこと指示できるわけないじゃないですか」

P「ハハァ……」

P(結局ちひろさんがどれほど裏の世界に通じているのか、そもそもモバプロ内で本当はどれだけ大きな権力を持っているのかは謎のままだ)

P(810プロに関する数多くのゴシップ記事もこの人の存在には1ミリも触れなかった。もしかしたら、それも裏で手を回していたからなのかもしれない……)

ちひろ「そういえば、覚えてますかプロデューサーさん? 今日でちょうど一年だったんですよ」

P「一年……? 何からですか?」

ちひろ「このオーディションからです」スッ

P「……?」ペラッ

田所

三浦

木村

P「……あれからもう一年経ったんですね」

ちひろ「そのときそのときは長く感じますけど……後から振り替えるとやっぱり、時間が経つのは早いですね」

P「ええ。本当に、色んなことがあったなぁ……ちひろさんのおかげで」

ちひろ「も、もうっ! それは言わないでください」

P「ははは……でも結局、一年前と何も変わってない気がします」

ちひろ「そうですか? 事務所の改装も終わりましたし、一年前とはかなり違うと思いますが」

P「そりゃあ事務所は変わりましたけど、逆に言えばそのくらいですよ。俺も凛もまゆも変わらずここに居て、逆に、新人はみんな辞めてるじゃないですか」

ちひろ「まあ新庄さんやホリさんたちは元々、氷崎さんが適当に用意した人材ですからね」

P「そいつらに限った話じゃないですよ。せっかく拡大したアイドル部門もすぐ元の規模に戻っちゃったじゃないですか」

P「……モバプロを出てから色んな出来事があって、知り合いだってたくさん増えたはずなのに……結局今は、一年前と同じ状態ですよ」

ちひろ「それは……仕方ないことですよ。アイドル業界もやっと持ちなおしてきましたし、またこれからです」

P「はい。でも……みんな今ごろ何してるんだろうなぁ」

ちひろ「364プロの名前、最近聞きませんものね」

P「ええ。だから、まあ変な話ですけど、あの日々も思い出も全部夢だったんじゃないかって……最近ちょっと考えちゃうんですよね」

ちひろ「…………」

タッタッタッタッ……ヒョコッ

MRA「居た居た。プロデューサー!」スタタタ

P「ん、何かあったのかみりあ?」

MRA「ロビーにプロデューサーに会いたいって人が来てるよ!」

P「えっ……誰か分かるか?」

MRA「ううん、分かんない」

P「なんだ、またどっかの記者か?」

ちひろ「それならしっかり受付を通すんじゃないですか?」

P「あー、ですよね……」

MRA「記者さんって感じの人じゃなかったよ。みりあよりちょっと上? の女の子で、もしかしたらアイドルかも」

P「アイドル? 養成所の子かな」

ちひろ「受付の仕方が分からなくて、とりあえずそこに居たみりあちゃんに頼んだというところでしょうか?」

P「まあ、とりあえず行ってきますよ」

MRA「みりあも一緒に行く~」

ちひろ「プロデューサーさん、私もご一緒していいですか?」

P「ご自由にどうぞ」

スタスタスタ……

ロビー

P「どこなのだよ? それっぽい奴は見当たらないけど」キョロキョロ

MRA「あれー、おかしいなぁ。みりあちょっと探してくる!」タッタッタッ

P「あ、おい!」

ちひろ「……あっ」

P「居たんですか?」

ちひろ「あそこに美波ちゃんとアーニャちゃんが」

P「なんだ……撮影から戻ってきたところだと思いますけど、一応聞いてみましょうか。おーい」スタスタ

MNM「プロデューサーさん。お疲れ様です」

P「二人こそお疲れ様。ちょっと聞きたいんだけど、って────」

ANZ「やっと来た。もー、定時を何分過ぎてると思ってるの?」

P「ふっ、双葉杏! なんでここに!?」

MNM「私たちも今それを聞いてたんですけど……」

AN「アー、プロデューサーをここで待ってたみたいです」

P「俺を待ってたって、あっ……(察し)」

ANZ「察した? 約束通り養ってもらいに来たよ」

P「約束? さ、さあなんのことか……」

ANZ「はあ!? なんでもするってあの時言ったじゃん!」

AN「ン?」

MNM「今あの時なんでもするって言いましたよね?」

P「い、いやいや……」

ちひろ「言ったんですか? プロデューサーさん」

P「そ、それは、確かに言いましたけど……」

ちひろ「それはプロデューサーさんが悪いですね。諦めましょう」

ANZ「そのとーり。さあ、杏を養うのだ」

P「いや言った、確かに言ったが! アイドルを辞めたらって条件付きだったはずだ! ……辞めたのか? お前」

AN「ニェット。杏とは、ついこの間もバラエティの撮影で一緒でした」

P「やっぱり辞めてないじゃないか(呆れ)」

ANZ「今は辞めてないけど、もう辞めるの。なんかCDで印税がっぽりって雰囲気でも無くなってきたし。誰の影響か知らないけどねー」

P「い、痛いところ突いてくるな……でも辞めてない以上はダメだぞ!」

ANZ「だから辞めるって言ってるじゃん」

P「許さん」

ANZ「はぁ? あなた杏のなんなのさ?」

P「プロ……じゃないけど、とにかくだな────」

「まーーてーー!」タッタッタッタッ

MRA「きゃーっ!」タッタッタッタッ

P「悲鳴っ、どうした!?」クルッ

YK「ターッチ、アウト!」

MRA「捕まっちゃったぁ」ヘナッ

P「何やってんだこいつら……」

MRA「鬼ごっこ!」
YK「挟殺をしようとする野手となんとか逃げようとする走者ごっこ!」

AN「きょ、キョウサツ……?」

MNM「野球の用語で、ランダウンプレーとも言うよ」

P「それなら最低あと一人、走者の進路にも野手が居ないと出来ないだろ~」

YK「おっ、それは正しい。お兄ちゃんもかなり野球が分かってきたね!」

P「ありがとナス! ……って友紀! お前何勝手に人の事務所に入ってきてんだ!」

YK「勝手じゃないよ! この子にちゃんと言ったもん!」

ちひろ「みりあちゃんが言ってたのはこの子じゃなくて、こっちの子だったんですね」

MRA「うん、そうだよー」

P「まあ、みりあが杏を見て自分よりちょっと上とは思いませんからそれは分かってましたけどね」

ちひろ「あ、それはそうですね……」

ANZ「幼く見られるのは分かるけどさー、杏これでも17だよ?」

MRA「えっ、そうなの!?」

YK「アタシも二十歳だから、この子……みりあちゃんよりちょっと上ってことはないと思うけどなー」

MRA「ええっ!? お姉さんこそ17歳ぐらいかと思ってた!」

P「ぷっ……確かに友紀は童顔だし、若く見えるよな」

YK「ちょっ、いま鼻で笑ったでしょー!?」

P「笑ってない笑ってない。それより、なんでここに来たんだよ」

YK「この後暇だったら一緒にナイター見に行かない? もちろんキャッツのホームゲーム!」

P「……それだけ?」

YK「うん」

P「アホっ! 電話かメールで十分だろうが!」

YK「番号もアドレスも知らないんだもん」

P「え、あ、そうだっけ……?」

P(友紀とはIU決戦のときのお礼? としてこの間キャッツの開幕戦を一緒に見に行ったのだ)

P(そこで俺が意外と野球観戦にハマったので、今度また観に行こうと約束していたのだった)

ANZ「デートのお誘いじゃん。けっこうモテるんだね」

YK「えっ!? べ、別にそういうのじゃないよ……」

ちひろ「……残念ですけど、モバPさんは今日終電まで帰れません。また今度にしてください」

P「は?(威圧) 何勝手なこと────」

ちひろ「ささ、話が終わったら部外者はお引き取りください。二人とも、さあ!」

AN「ちひろさん、怖いです……」

ANZ「はぁ。しょうがない、今日のところは引き下がるか」ムクッ

P「あのさぁ……ちひろさぁん? 俺のこと好きなのは知ってますけど、ちょっと強引なんじゃないですか?」

ちひろ「……ななななっ、いきなり何言ってるんですか!? ちょっと、いきなり変なこと言わないでくださいっ!」

AN「ミナミ、これは……ревность?」

MNM「うん、嫉妬だね」

P「アイドルに自分のジェラシー観察されて気持ちいいですかちひろさぁ~ん?」

ちひろ「────っ! もう知りませんっ!」タッタッタッタッ

YK「すごい(小並感)、顔がねこっぴーのほっぺみたいにピンクだった……」

P「それじゃ邪魔者も消えたことだし、アドレス交換────」

ウィーン……

「モバPはおるかぁ!」ドタッ

P「な、なんだ!?」チラッ

カーリー「ん!? 居ったなモバP!」スタタタタッ

CER「ぷ、プロデューサーさんっ、落ち着いてくださいっ」タッタッタッタッ

ANZ「何この事務所、いつもこんなにお客さん来るの? しかもこんな時間に」

P「いや……客なんて最近めっきりのはずだったんだが」

カーリー「オラ、モバP! 何呑気にしゃべくっとんねん!」

P「いや、そんなこと言われても……お前がなんでそんなにキレてるのかこれっぽっちも分からないし」

CER「そうですよっ。ちゃんと事情を話さないと……」

P「智絵里! ずいぶん久しぶりだな!」

CER「ふえっ!? あっ、はい……お久しぶりです」

カーリー「智絵里に気安く話掛けんな! だいたいお前はな、IUのときも任せとけ言うて結局負けさせとるしなぁ、────」ガミガミガミ

P「あーめんどくせーマジで……今さらそんなこと言いに来たのかよ」

CER「いえ、違うんです。実はプロデューサーさん、事務所を辞めさせられちゃって……」

P「フッ、馬鹿じゃねえの(嘲笑)」

カーリー「それがお前のせいや言うとんねん、モバP!」

P「どういうことなの……(レ)」

カーリー「お前のとこから始まったスクープが巡り巡ってここまで来たんや!」

P「……スクープ? どんなこと書かれたんだよ」

CER「あの、言いづらいんですけど……IUの予選が始まる前にプロデューサーさんがモバPさんたちや他のプロダクションを妨害しようとしたのが記事になっちゃったんです」

カーリー「それで俺はクビや。どうしてくれんねん! まだ中野くんが行方不明になったショックからも立ち直れてへんのに……」

P「いや、中野くんのことはともかくさ……それ自業自得じゃないか?」

ANZ「話を聞く限りそうだね」

MNM「横からですけど、そういうことをしたのが悪いんじゃないでしょうか」

CER「本当にその通りです。だから、やめましょうって言ったんですけど……」

カーリー「俺はお前を許さんでモバP。智絵里もお前と出会ってからどんどんおかしくなってくわ」

CER「プロデューサーさん! そういう言い方はしないでください!」

カーリー「ほらまた庇ったで。完全にお前のせいやねん」

P「分かった分かった。俺にどうして欲しいんだ? 土下座か、それとも金が欲しいのか?」

カーリー「ちゃうわアホ。俺をここで雇え、智絵里も移籍させる」

CER「えっ!?」

P「えぇ……」

カーリー「規模の大きい事務所に来れば智絵里はもっと伸びる。んでお前も智絵里好きやろ? 悪い話じゃ無いはずや」

P「いや、まあそりゃあ好きだけど……俺の一存でどうこう出来ることじゃないってそれ一番言われてるから」

CER「わ、私は……モバPさんにプロデュースしてもらうのも良いかも……です」

カーリー「何言うとんねん! 智絵里のPは俺に決まっとるやろ!」

CER「で、ですよね! ごめんなさい……」

P「まあそういうことなら話してみるけど、モバプロは俺たちの件で他事務所からの獲得には慎重になってるからなぁ」

YK「強い選手はFAでどんどん引き込むのが大正義球団だよ! ……アタシもFAしちゃおうかな」

ANZ「そっか、杏もここに所属だけして働かずに給料だけもらえばいいじゃん!」

P「あのさぁ……君たち、少しは自分の事務所を大事にしなさい」

カーリー「お前ならなんとか出来るやろ、というかなんとかせな殺すで」

P「無茶苦茶だなおい……」

ドバァン!

P「……なんだ今の音」

CER「何かがぶつかった音、でしょうか……?」

MNM「事務所の外から聞こえた気がします」

P「だよな、ちょっと確かめてくるか?
……ん?」

スタスタスタ……

MO「うおっ、なんだか賑やかなことになってますな!」

UDK「あれっ? 見かけない顔の人がいませんか?」

RN「……! なんでここに智絵里が?」

P「今度はNGがお揃いで。どうした?」

MO「レッスンルームにまでロビーの方が騒がしいのが聞こえてきたから、ちょっと見物に来たんだ」

RN「どうしたって、こっちが聞きたいんだけど……」

UDK「智絵里ちゃんたちやそちらのサングラスの方は、プロデューサーさんに会いに来られたんですか?」

ANZ「次から次へと人がやってきて困惑してる」

P「お、そうだな。ってかいっぺんに話すなよ」

カーリー「いい機会やから言っといたるわ。近いうちに智絵里と一緒にこの事務所に入るカーリーや、よろしく頼むで」

P「おい、まだ決まってないことを勝手に言うな!」

RN「……智絵里、ここに移籍するの?」

CER「よく分からないですけど……そうなりそうです。よろしくお願いしますっ」ペコッ

P「智絵里まで……」

RN「うん。よろしく」

UDK「よろしくお願いしますね、智絵里ちゃん!」ニコッ

CER「えへへっ。……カーリーさん、私、この事務所でもやっていけそうです」

カーリー「それでええねん。ここにはライバルもいっぱいおるからな」

P「あーもう、勝手にしてくれ……」

ウィーン、スタスタ……

ANZ「また誰か来たんじゃない?」

P「いやいや、そんな都合良く客人が来て────」クルッ

遠野「あ……」

P「来て、る……?」

RN「遠野……!?」

遠野「おっ、お久しぶりです!」ペコペコ

MO「ね、ねえしまむー、その隣に居るのは……」

田所「オッスお願いしまーす」

UDK「先輩!」

MO「だよね!? やっぱりたどちゃんだよね!」

カーリー「ここはラブホちゃうで君ら」

P「ちょっと黙ってろお前! ……遠野、お前どうして」

遠野「病院で先輩を診てもらったんですけど……もう大丈夫だって、言われたんです!」

RN「! じゃあ……」

遠野「はいっ! やっとアイドルに戻れます!」

RN「ふふっ、そっか。……待ちくたびれたんだからね」

遠野「ごめんなさい。でも嬉しくて、病院を出てすぐに来ちゃいました」

MO「じゃあたどちゃんも復帰するの!?」

UDK「未央ちゃん、先輩はもう……」

田所「やりますねぇ! やりますやります!」

UDK「本当ですか!?」

田所「遠野に誘われたらやるしかないよなぁ?」

MO「いよっ、色男!」

田所「それほどでもないけどなぁ~」

P「遠野……お前、本当にいいのか? ほとぼりが冷めてきたとはいえ……」

遠野「……治ったら二人で復帰しようってずっと決めてたんです。それに、凛さんたちとも約束しました」

P「そうか……そうだな、歓迎するよ! 田所もついでにな!」

田所「ついでってなんすか(半ギレ)」

RN「ねえプロデューサー、まゆにも連絡しないと」

P「ああ、今日はもう帰っちゃったもんな。電話のほうがいいかな」スッ

遠野「あっ、まゆさんにはもう────」

ウィーン

MY「遠野ちゃん!」タッタッタッタッ

遠野「まゆさん!」ギュッ

RN「まゆ!?」

田所「妬けますねぇ!」

P「お前、またまゆにだけ先に連絡してたのか?」

遠野「ここに来る前にまゆさんを通じて報告しておこうと思ったんですけど、もう帰ってたとは知らなくて……」

MY「それならいきなり訪ねた方が喜ぶって、教えてあげたんです♪」

RN「えぇ……」

カーリー「IUのファイナリストが揃い踏みか。これは手強いで、智絵里」

CER「は、はいっ。頑張ります」

MY「……智絵里ちゃん?」スッ

CER「あ……えっと、これからお世話になります」ペコリ

MY「えっ?」

P「まあ、そういうもんだと思っておいてくれ……」

タッタッタッタッ……

ちひろ「プロデューサーさん、大変で……、いつの間にこんな大人数になったんですか!?」

P「いや、こっちが聞きたいです……」

ANZ「もう杏たちのこと忘れてるよね?」

AN「私とミナミもその中に入ってますか?」

MNM「多分ね……」

P「いや忘れてはいないぞ! ただ、次から次に人が来るから対応しきれてないだけで」

MRA「ひーふーみー……、ちひろさんも合わせて15人もいるよ!」

YK「野球チームが一つ組めるね!」

P「ここぞとばかりに野球ネタ入れるな。……それでちひろさん、何が大変なんですか?」

ちひろ「はっ、そうでした。とにかく来てください!」

P「えっ、ちょちょっと! 何があったんですか?」

ちひろ「トラックが事務所の駐車場で接触事故を起こしたんです!」

P「は?(困惑)」

ANZ「そういえばさっきそんな感じの音してたね」

YK「あ、確かに。ドバァン! って」

P「あっ、それかぁ! ……ちょっと待ってください、それでなんで俺が事故の後始末までしなきゃいけないんですか?」

ちひろ「そうではなくて、そのトラックに乗っていたのが────」

駐車場

スタスタスタ……

P「重ねて確認しますけどちひろさん、本当に本当なんですね?」

RN「さすがにちょっと、ね」

ちひろ「私も報告を受けただけなので、そこまで言われると……」

遠野「でも僕だって今日ここに来たんですから!」

P「そんな偶然あるかなぁ……」

MY「偶然なら分かりませんけど……運命なら、ありえますよ?」

ちひろ「あっ、あそこです!」スッ

P「……!」スタッ


RIN「もー、色々台無しじゃないですか!」

TDN「大坊に運転を任せた自分が愚かでした」

DB「ブレーキが効かなかったんだから仕方ないだろう!」

NTK「羽田野が風を起こさなかったらどうなってたか」

MUR「ボロトラックしか借りられなくてゴメンだゾ……」

KMR「……! みなさん、向こうを見てください!」

RIN「えっ、なになに? あっ……!」


「プロデューサー(さん)!」

P(あれ……俺本当に、夢でも見てるのか……?)

P「ちひろさん、どうしてみんなが……?」

ちひろ「プロデューサーさんがそれを聞くんですよ!」

P「あ、そうか、そうでした。……おーい!」タッタッタッタッ

MUR「プロデューサ~、待ってたんだゾ~」

P「は、はあ。どうしたんですか一体……」

TDN「大坊のやつが下手糞な運転をしてこのザマです」

DB「だから車が壊れてたと言ってるだろ!」

RIN「もう本当にビックリしましたよ! 荷台の中に居たから、何が起きたのかも分からなかったですし」

P「に、荷台の中? っていうかそういうことを聞いてるんじゃなくて────」

RN「ステージの上で巡り会うって言ったのに、こんなところでまた会っちゃったね」スタッ

TDN「凛さん! お久しぶりです!」

RN「うん。3ヶ月……いや、4ヶ月ぶり?」

MY「もうそんなに経つんですね……中々遊びに行けなくてごめんなさい」

NTK「まゆも……遠野も居るじゃないか、勢揃いだな。……あれ?」

RIN「遠野さん!?」

遠野「みなさん、お久しぶりです」ペコ

RIN「えっ、どうして!?」

遠野「やっとアイドルに復帰出来るようになったんです。先輩と一緒に」

KMR「おお、それは良かったですね」

DB「お前……なかなかタフなんだな」

遠野「なにがですか?」

DB「いや……」

P「それより! こっちの話はおいといてまず、そっちの事情を話してください!」

MUR「おっ、そうだな。プロデューサー、事務所が倒産して夜逃げしてきたからかくまって欲しいゾ」

P「は?(困惑)」

KMR「三浦さん、夜逃げという言葉はちょっと違うんじゃないでしょうか……」

MUR「あっ、そっかぁ。ちょっと待って欲しいゾ」

P「何をですか?」

MUR「…………」

RIN「へくしゅっ! ちょっと寒くなってきたね」

カァー、カァー……(カラス君迫真の演技)

P「あの、三浦さん?」

MUR「よし、日が沈んだからこれで夜逃げになるゾ」

P「ならねーよ! そのためにわざわざ待たせたんですか!」

CHR「……はぁ、暗くなってしまいましたから、とりあえず事務所の中に戻って話ましょうか。ここも後始末しないといけませんし」

P「そ、そうですね……」

ウィーン、ガヤガヤガヤガヤ……

MO「おっ、戻ってきた」

YK「おかえりー、どうだった?」

P「いや、その前にさ────」

カーリー「そこに居るやん」

YK「あそっか。……おおっ、多田野選手ー! 久しぶりー!」

TDN「あ、はい。お久しぶりです」

DB「姫川……?」

RIN「な、なんか人がいっぱい……」

KMR「カーリーさんや緒方さんまで、どうしたんですか?」

CER「あ、えっと────」

P「おい! あのさぁ、友紀とかカーリーとか、なんでまだ居るんだよ!」

YK「まだ番号もアドレスも教えてもらってないよ?」

P「別に今日じゃなくてもいいってそれ一番言われてるから」

カーリー「何時に帰ろうが俺の勝手やろが」

P「殺されてえかお前……」

ANZ「zzz……」

AN「アー、すいません、一人寝てます」

P「起こせ!」

ちひろ「まあまあプロデューサーさん、話が進みませんから」

P「あぁ、そうですね……それで三浦さん、さっきちらっと倒産って聞こえたんですけど……」

MUR「364プロはもう倒産ゾ」

P「あ、聞き間違いじゃない……」

MUR「いやー、プロデューサーたちが居なくなったあと新しいレッスンスタジオを買ったり、社員を雇ったりしたのは良かったんだが……」

P「また何かやらかしちゃったんですか?」

KMR「いえ、三浦さんのミスではないんです。むしろ、事務所の経営状態が悪くなっても色々手を尽くしてくれたんですが……」

MUR「収入が予想より大幅に少なくて、借金が増える一方だったんだゾ……」

P「! それは、もしかして、アイドルの仕事が……」

MUR「そうだよ(涙)」

P(モバプロでさえアイドル部門の雲行きが一時期怪しかったのだ。364プロはひとたまりもなかっただろう……)

DB「俺なんか一週間まるごと休みだった時もあったぞ」

ANZ「なにそれ、うらやましい」

P「お? 起きたかお前~」ヒョイッ

ANZ「うわああっ、ちょっ、なにすんの!?」

P「よその事務所で勝手に寝るような奴は座る資格ありませーん」

ANZ「分かったよっ、分かったから下ろせー!」

HTN「ウィヒッ」

ちひろ「あの、事情は分かりましたけど……なぜここへ?」

MUR「頼れるのはプロデューサーしか居ないから、トラックに荷物全部積んで逃げてきたんだゾ」

P「逃げたって借金取りからですか? そんなに酷い借金を?」

KMR「いや、逃げたというのは少し違います」

P「いやどっちやねん!(レ)」

KMR「正確に言えば、新しくテナント募集をかけるために強制退去させられたんです」

P「あー、そういうことか……」

MUR「この通り頼むぞプロデューサー。なんとかアイドルだけでもここに入れてあげてくれないか?」ペコリ

P「わわっ、頭なんて下げないでくださいよ。そりゃあ俺は大歓迎ですけど……」チラッ

ちひろ「おっ、どうしました?(煽り) その視線はいったいなんですか?」

P「ち、ちひろさん。ここは一つ」

ちひろ「聞こえません(無慈悲)」

P(うわぁ、さっきのことまだ怒ってるなこりゃ……)

MO「ねえねえ、ちひろさんってプロデューサーの前だとたまーに態度違うよね?」ボソッ

UDK「未央ちゃんっ、そういうのそっとしておくのはいいんですよ!」ボソボソ

田所「あれがあの女の本性なんだよなぁ……」ボソッ

ちひろ「……何か言いました?」

UDK「ひっ」

MO「な、なんでもございません……」

P「……ちひろさん、ちょっとこっちに」スッ

スタスタ……スタッ

ちひろ「なんですか?」

P「なんとかしてください、オナシャス!」

ちひろ「はぁ……いくら私でも、出来ることと出来ないことはありますよ」

P「どうしても無理なんですか? この通り、なんでもしますから!」

ちひろ「ん? 今なんでも……といきたいところですけど、難しいです。364プロの子たちに加えて、遠野と田所……これだけの人数となるとさすがに」

P「ま、マジすか」

P(本当はそれに加えて智絵里とカーリーも居るっていうのに)

ちひろ「時間はかなりかかると思いますけど、少しずつ受け入れていくしかないでしょうね」

P「そうですか……分かりました」

スタスタ……

P「すまん。みんなすぐにっていうのは、ちょっと厳しいかもしれないな……」

MUR「ポッチャマ……」

KMR「もちろんプロデューサーさんの一存で決められないことは分かってます。無茶を言ってすいません」

RIN「でも……プロデューサーさんなら何とかしてくれるって気がしてたんですよね」ボソッ

P「!」

DB「……フン」

NTK「まあ、な……」

P(……なに諦めて妥協しようとしてるんだよ俺は。アイドルが困ってるなら、何とかするのがプロデューサーじゃないか!)

P「いや、やっぱり……やっぱりなんとかなる! なんとかする!」

MUR「それは本当か!」

P「もちろん。何人来ようがまとめて面倒みてあげますよ!」

RIN「さっすがー!」

TDN「本当になんとかなるんですか?」

P「も……もちろん!」

ちひろ「ちょっと、プロデューサーさん。出来ないことを出来ると言って期待させるのはかえって酷ですよ」

P「なんで出来ることを出来ないって言う必要があるんですか(正論)」

ちひろ「いや、ですから現段階では難しいと────」

P「不可能じゃあ、ないんですよね?」

ちひろ「なっ……そんな屁理屈言われても、私は知りませんからね!」

P「結構です。俺には俺のやり方がありますから」

ちひろ「プロデューサーさんのやり方って……」

RN「プロデューサー。どうやってみんなを事務所に入れるつもりなの?」

P「……いや、正直それは無理だな。人が多すぎるッピ!」

RN「は?(威圧)」

MUR「どっちだよ」

遠野「僕と先輩が先約ということなら全然、みなさんに譲りますよっ」

田所「ファッ!?」

CER「私もまだ328プロに移籍のことは話してないですから、大丈夫です」

カーリー「俺の椅子はとっとけよ。明日からでも働いたるわ」

CER「カーリーさんっ!」

P「落ち着け。全員をモバプロに所属させるのは無理でも、全員を俺がプロデュースする方法なら、ある」

ちひろ「……というと?」

P「プロジェクトを立ち上げるんですよ! それも複数事務所が合同で進めるビッグプロジェクト、その総合プロデューサーを俺にすればいいんです!」

ちひろ「えぇ……(困惑)」

KMR「いやしかし、僕たちは今どこの事務所にも所属していない状態ですよ? そのプロジェクトに参加しようにも、どこか事務所に所属しないと……」

P「そんなのは作ればいい。ここにちょうど失職者が二人いるからな」

MUR「ポッチャマ……」

カーリー「俺か? 俺がなんでそんな茶番に付き合わなアカンねん」

P「まあ聞けよ、このプロジェクトは少なくともここに居る全員が参加するんだ。いいか、全員だぞ?」

カーリー「それがなんやねん」

P「モバプロとその新事務所(仮)、それに加えて智絵里の328プロに友紀の89プロ、杏の20プロも合わせれば、計5つものプロダクションが関わる超巨大プロジェクトってことだよ」

YK「えっ、あたしも入ってるの!?」

ANZ「勝手に頭数に入れないでよ」

P「ままそう、焦らないで。とにかく、ここまでデカいプロジェクトが成功したときの事を考えみろよ。智絵里の人気だってうなぎ登り、お前のキャリアにもなるだろ?」

カーリー「……成功する保証がどこにあんねん」

ちひろ「そうですよプロデューサーさん……そんな荒唐無稽なプロジェクト、いったいどうやって通すんですか?」

P「通す必要はありません。勝手に始めます」

ちひろ「はい!?」

P「ようはこのプロジェクトが始まってるという既成事実を作っちゃうんですよ。他の事務所を巻き込んじゃえばNOとは言えないでしょ?」

ちひろ「あのですね……じゃあ他の事務所にはこのプロジェクトをどう納得させるんですか?」

P「今はどこの事務所もアイドル部門が伸び悩んでいます。そこにこんな、人気アイドルが大勢参加するビッグプロジェクトの話が舞い込んで来たら……例えば三浦さんならどうします?」

MUR「喜んで参加させていただきますゾ」

P「ですよねぇ?」

ちひろ「それで食いついてくるのは、いわゆる弱小事務所だけです。参加するのがそんな事務所だけでは、既成事実というには足りません」

P「有象無象はあくまで数合わせ、89410や2101のような大手にも声をかけます。あそこには顔がききますから、絶対に参加してくれますよ」

カーリー「ほぉ……段々面白そうな話になってきたやん」

遠野「な、なんだか凄い話になってきましたね」ボソボソ

RIN「話のスケールが急に大きくなってきたよねー」

RN「時々こういう突拍子もないことを言い出すんだから」

MY「それでいつも無茶しちゃうんですよね」

CER「分かります……」

P「納得してもらえましたか?」

ちひろ「いいえ。そのプロジェクトを推し進める費用はどこから持ち出すんですか? その新しい事務所を作るのにもお金は必要ですよね」

P「野暮なこと聞かないでくださいよ、ちひろさん」

ちひろ「……私をあてにしてるんですか!?」

P「人は動かせなくても、お金なら動かせますもんね?」

ちひろ「全部自分でなんとかするんじゃないんですか?」

P「そんなこと言ってませんよ。むしろちひろさんが居なきゃ、こんな大きなプロジェクト成り立ちませんって。頼りにしてますよ!」トントン

ちひろ「はぁ……もうっ、しょうがないですねぇ」

P(チョロい(確信))

ちひろ「でもプロデューサーさん、こんな大きなプロジェクトを本当にまとめきれるんですか? 人集めが上手くいったとすれば、それが一番の問題ですよ」

P「大丈夫、寝る間も惜しんで働きますよ。それでも寝ちゃったら……近くに居るちひろさんが起こしてください」

ちひろ「……えっ、そ、それって────」

MY「プロデューサーさん?」グイッ

ANZ「なるほど、本命はあの人だったんだ」

RN「ふーん……」

P「なっ、いや、違うぞ!」

ちひろ「違うんですか?」ジロッ

P「いや、だから! ちひろさんならスタドリでもエナドリでも無理矢理飲ませて俺を起こしてくれるってことですよ! そういう意味じゃないですから!」

RIN「そういう……どういう?」

MRA「みりあもわかんなーい(すっとぼけ)」

P「分からなくていいから(良心)」

MUR「あっ……あっ……」

DB「おい、池沼が思考を停止してるぞ」

P(いつかの知将ぶりは見る影もないな……)

田所「おっ大丈夫か、大丈夫か」

MUR「……ん? 鈴木! お前どうしたんだ!?」

田所「は? さっきから居たんだよなぁ……」

MUR「あれっ、そうだっけ? ええと……とにかく、またプロデューサーと一緒に仕事が出来るってことでいいのか?」

P「ええ、三浦さんにはまた社長になってもらいますよ」

MUR「おっ、いいゾ~それ」

KMR「……あの、ひとついいですか?」

P「ん、どうした?」

KMR「ただ僕たち全員をプロデュースしたいというだけで、そんなに大きなプロジェクトを立ち上げる必要はあるのでしょうか……」

NTK「……確かにな」

遠野「関係のない人たちをたくさん巻き込むことになりますよね……」

ANZ「そうだぞー、巻き込まれる方の身にもなってよ」

YK「楽しそうだし、あたしは全然問題ないけどな」

P「……実はさ、このプロジェクトは少し前から実現出来ないか考えてたんだよ。上手い理由とタイミングがあったから今話しただけで」

KMR「ああ、そうだったんですね。元はどういう理由でこんな企画を?」

P「それはさっき言ったことと関係してて、それこそみんなも感じてると思うけど……今のアイドル業界はまだ完全には立ち直れてなくて、行き詰まってる。それをなんとかしたいと思ったんだ」

KMR「アイドル業界、全体をですか?」

P「うん。それは一つの事務所でどうこう出来る問題でもないから、さっき説明したみたいにどんどん他の事務所も巻き込んで、それこそ業界全体で取り組む勢いで」

カーリー「何様やねん。元はお前のとこから始まったんやで? 分かるこの罪の重さ?」

P「だからこそもう一度俺たちから始めるんだよ。……まあ、他を巻き込んでいい理由にはならないかもしれないけどさ」

ちひろ「プロデューサーさん、そんなことまで考えてたんですね……」

P「偉いやろ?」

ちひろ「……その割にはこのプロジェクト、具体的に何をするのかは一切分からないですけどね」

P「そ、それはこれから考える予定だったんです! でもアイドルなんですから、とにかくライブをやれば大丈夫ですよ!」

カーリー「そんなんで業界が持ち直すならとっくに持ち直しとるわ」

P「うっ……ま、まあとりあえずは、プロジェクトをちゃんと立ち上げるところからだって!」

RN「そうだね。単純に考えて、他のたくさんの事務所のアイドルと一緒に仕事をして、ステージに立てるってことでしょ? ……悪くないんじゃないかな」

P「凛……! 他のみんなはどうだ、協力してくれるか?」

UDK「もちろんです!」

MO「プロデューサーのご命令とあらば!」

MUR「当たり前だよなぁ?」

田所「やりますねぇ! やりますやります」

遠野「さすが先輩です!」

MY「まゆはどこまでも、プロデューサーさんについていきますよ♪」

P「みんな……!」

ガヤガヤガヤ……

MNM「私、前からあなたとお仕事してみたいと思ってたんです」

KMR「え、僕ですか?」

MNM「はい。あの時のこと、忘れられなくて……」

AN「よろしくお願いします」ペコリ

KMR「え、ええ、どうもこちらこそ」ペコッ


DB「……フン、どの道選択権なんてないからな」

HTN「とか言って、菜々と仕事出来ないか期待してるんだろ?」

TDN「大坊、お前────」

DB「するか! ……あとあいつを名前で呼び捨てにするな!」


RIN「なんだかワクワクしてきた……またロックなことが色々起こりそうな予感!」

NTK「だりーのロックじゃ、幅が広すぎて何が起こるかまったく分からないな」

RIN「それが未来だよ!」

NTK「おぉ……なんか上手いこと言ったな」


カーリー「ええか智絵里、周りに埋もれんように振る舞うんやで。時にはキャラを変えることも大事や、チョップでビビらせたれ」

CER「は、はいっ。……カーリーさんも、モバPさんに協力してくれるんですね」

カーリー「あいつが総合Pっていうのが気に入らんが、ままええわ。お前のためや」

CER「ありがとうございますっ! ……あれ、そういえば杏ちゃんが居ないような」

ANZ「まったく、付き合ってられないよ。杏はアイドルを辞めるって言ってるのに……」スタスタ

ウィーン、ドサッ!

SCK「あっ、すいません。大丈夫ですか?」

ANZ「うん、何ともないよ。それじゃ」

SCK「……あれっ? ちょっと待ってください、杏さんじゃないですか。どうしてここに?」

ANZ「あー、気にしないでいいよ? うん。今帰るところだし」

SCK「えっ? って、なんですかあの人だかりは!?」

MRA「杏ちゃーーーん!」タッタッタッ

ANZ「うわっ、やば……」クルッ

SCK「杏さん? 呼んでますよ」ガシッ

ANZ「ちょっ!?」

MRA「勝手に帰ったらダメだよ杏ちゃん。……あっ、幸子ちゃんおかえりー」

SCK「え、ええ。……ん?」

YK「幸子ちゃん! そういえば幸子ちゃんも事務所ここだったね!」

SCK「友紀さん!? これはいったい、どういうことなんですか……?」

MRA「あのね、プロデューサーが────」

YK「アイドルとプロ野球のコラボだよっ! アイドルを通じて野球を、野球を通じてアイドルを知ってもらうんだ!」

MRA「えっ、そんなこと言ってたっけ……?」

YK「プロ野球ファンを取り込めばアイドル業界の活性化は待ったなーし! 幸子ちゃんも、もっとたくさんの人にかわいさをアピール出来るよ!」

SCK「な、なるほど。なんだかよく分かりませんが……ボクはどこに出しても恥ずかしくないかわいさですから、コラボにはもってこいですね!」

YK「よし、じゃあ幸子ちゃんもこっち来て! 杏ちゃんもっ!」ガシッ

ANZ「うあーっ、杏は関係なーい!」ズルズルズル……

P「───っ! 完璧だ……完璧だよ、もう……!」

ちひろ「完璧って……いくらなんでも気が早くないですか?」

P「そんなことありません。みんなのやる気がこれだけあれば、きっとなんだって出来ますよ」

ちひろ「ふふっ、そうかもしれませんね」

P「はい。やっぱり、…………」

ちひろ「やっぱり?」

P「あ、いえ。なんでもありません」

ちひろ「……そういえばプロデューサーさん、プロジェクトの名前はもう考えたんですか?」

P「名前? もちろん考えましたよ。ちょっと長いですけど────」



P(長い夢から覚めたような気がしていた。でも本当は、最初から全部現実だったんだ)

P(だってここにみんな居るじゃないか。あの日々を一緒に過ごした仲間も、思い出を語り合える友人も)

P(だから次は、夢から覚めてしまった奴らにもう一度見せてやろう。ステージ上で輝くアイドルたちの姿を)

P(そしてその姿に夢中になっても、それは夢の中じゃない。確かな現実だってことを)

P(このプロジェクトにはそんな意味を込めて────)



P「『ア淫夢ドルマスター 迫真デレラガールズ』……なんて、どうでしょうか?」

終わり! 閉廷!

ぬわあああああああん疲れたもおおおおおおおおん
クッッッソ長くなりましたが、最後まで読んでくれてありがとナス!
じゃあ俺、ギャラもらって帰るから……(棒読み)

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