佐久間まゆ「つま先立ち」 (30)
まゆ「Pさんが、結婚……?」
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まゆ「おはようございます、Pさん♪」
P「おはよー」
まゆはPさんが出勤する日はいつも、学校に行く前に事務所に顔を出すことにしています。Pさん以外は誰も事務所に来ていないので、この時間は二人きり。リラックスした空間で頂く一杯のコーヒーはまゆにとって一日の活力の源なんです♪
今日もいつも通りの幸せなひと時……のはずなのですが、さっきからPさんは手元の書類らしきものを見つめて険しい表情をしています。いつもは、この時間だけはリラックスする時間だから、と仕事の手を止めてまゆとお話してくれるのに……何かあったんでしょうか?
まゆ「Pさん、何を見てるんですかぁ?」
P「ああ、コレ? この人、俺のお見合いの相手だってさ」
まゆ「なあんだ、そうだったんですねぇ。お見合いの相手…………え?」
まゆ「ええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!」
P「おいおい、いきなり大声出すなよ。びっくりするだろ」
まゆ「あっ、まゆもびっくりしちゃったので、つい……」
P「でも中々伸びのある良い声だったな。ボイトレの成果が出てるんじゃないか?」
まゆ「うふふ、そうですねぇ……って、そうじゃなくて! お見合いって、どういうことなんですか!?」
P「ああ、お前もそろそろ身を固めたらどうだ、って親がうるさくてね……別にフラフラしているわけでもないのにな」
まゆ「Pさん、結婚するんですか?」
P「俺はまだいいかなーって思ってるんだけど、親がしつこくてさ……ん? まゆー。まゆー!」
まゆ「Pさんが、結婚……?」
P「ダメだ聞こえてない」
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今日は学校でも気もそぞろで、全然授業が頭に入ってきませんでした。体育の時間にこちら目掛けて飛んできたボールも避けられず……まだ頭が痛いです。
あの後、一応Pさんからは、まだ結婚すると決まったわけじゃない、と説明してもらいましたけど……さっき見た写真の女性、すらっとしていてきれいで……悔しいですけど、Pさんにお似合いでした。
Pさんがあんなに真剣に写真に見入っていたのも……
まゆももっと大人っぽくなればPさんに一人の女性として見てもらえるでしょうか? 大人っぽくなるってどうすればいいんでしょう……。服を変えるとか? でも今のまゆに大人っぽい服が似合うのでしょうか……
まゆ「考え事をしていたら、いつの間にか事務所の前に着いていました。危うく通り過ぎるところでした」
そうだ、事務所にいる他の人たちに聞いてみましょう。何かヒントを貰えるかも。
そうと決まれば早速誰か探しに行かなきゃ。あそこのベンチにいるのは……
まゆ「乃々ちゃん♪」
乃々「ひぃっ! まゆさん、いきなり後ろから話しかけるのはやめてくださいぃ……」
まゆ「うふふ…詩集に夢中で全然こちらに気が付いていなかったみたいなので、驚かしたくなってしまいましたぁ」
乃々「まゆさん…人が悪いです……」
まゆ「乃々ちゃんは大人っぽくなる方法、知ってますか?」
乃々「ええ……また随分唐突ですね……」
まゆ「真剣な悩みなんです。乃々ちゃん、何か知りませんか?」ズイッ
乃々「そう言われても……大人っぽい…楓さんのような人でしょうか……?」
まゆ「……!! 楓さん、そうですね! 楓さん……!」
乃々「楓さんのどういうところが大人っぽいか……お酒好き? でもお酒はまだ飲めませんし……他は…背が高い……あっ、でもそれも真似できませんし……あうぅ……」
まゆ「背が高い……それです! まゆも背を伸ばせばきっと大人っぽく見えます!」
乃々「えっ……でも、それは難しいんじゃ……」
まゆ「いえ、Pさんのためならやってみせます! そうと決まれば、早速楓さんに背を伸ばす方法を聞いてこなくちゃ。乃々ちゃんありがとう♪」ダッ
乃々「まゆさん…! 行ってしまいました……大丈夫でしょうか……」
* * *
楓さんは忙しい方ですから、もしかすると事務所にはいないかもしれませんが……近くは一応探してみましょう。事務所にいるとしたら、よく見かける場所からあたっていくのがいいですね。
まゆ「楓さん、どこでしょうか。この時間ならカフェにいることも多いのですが……」
楓「呼びましたか? まゆちゃん♪」
まゆ「わっ! も、もう、びっくりしちゃったじゃないですか!」
楓「ふふふ、ごめんなさい。でも夢中で探してるみたいだったので、つい驚かせたくなっちゃって」
まゆ「うぅ…まゆも同じことをしちゃったので何も言えません……」
楓「ところで、まゆちゃんはどうして私を探していたの? 何か聞きたいことがあるとか!」
まゆ「!! そうです! 危うく忘れるところでした……。楓さんはどうやってそんなに背を伸ばしたんですか?」
楓「背を伸ばす方法? うーん、身長はどうやって、というよりも自然と伸びてしまったから……よくわからないわ。まゆちゃんは背を伸ばしたいの?」
まゆ「はい! まゆも楓さんみたいに……!」
楓「でも、まゆちゃんはそのままで魅力的だと思うけれど」
まゆ「そう、ですか……」
楓「まゆちゃんがどうして背を伸ばしたいのかはわからないけれど、まゆちゃんにはまゆちゃんの魅力があるんじゃないかしら」
まゆ「はい……ありがとうございます」
* * *
どうやら背を伸ばすのは難しいみたいです。まゆの魅力……それがあればPさんはまゆに振り向いてくれるのでしょうか。でも、もっと大人っぽくならないとPさんに相手してもらえないんじゃ……
まゆ「うぅん……」
輝子「さっきから、私の隣で、なんで…唸っているんだ……?」
まゆ「……ハッ、気が付いたらPさんの机の下にいました」
輝子「気が付いたら、って……大丈夫か?」
まゆ「輝子ちゃん、悩み事があるんです」
輝子「は、はぁ……」
まゆ「まゆ、もっと大人っぽくなりたいんです」
輝子「……? まゆさんは、私から見たら充分大人っぽいぞ……」
まゆ「ありがとうございます。でも、Pさんからはどう見えているのでしょうか」
輝子「むぅ……それは、難しいな……」
まゆ「もっと大きくなれば大人っぽく見えるんじゃないか、とも思ったんですけど、それは難しそうですし……」
輝子「……! まゆさん、知ってるか? 世界で一番大きい生き物はキノコなんだぞ……フヒ……」
まゆ「そうなんですか!?」
輝子「ああ…菌糸全体の大きさだけどな……。それに……キノコは成長も速い……グングン伸びるぞ……」
まゆ「だからマリオも急に大きくなるんですね」
輝子「マ、マリオ……?」
まゆ「まゆもキノコを食べれば大きくなれるでしょうか……」
輝子「……マリオみたいに?」
まゆ「マリオみたいに」
* * *
―――翌日
まゆ「おはようございます♪」
P「おはよう……ん? まゆ、その手に持っているものは何だ?」
まゆ「これですか? これはキノコのソテーです」
P「ほほう、おいしそうだな。今食べるのか?」
まゆ「はい♪ これを食べて大きくなろうと思って……」
P「……マリオみたいに?」
まゆ「はい、マリオみたいに…………あっ」カアッ
P「そうかそうか、マリオみたいに…………ぷっ、あはははははははははは!!!!!」
まゆ「Pさん! 笑わないでください!」
P「だって、マリオみたいにって、あはははははは!!!」
まゆ「Pさん!」
P「んふっ、うん、わかった…ごめんごめん、もう笑わな……ブフッ!」
まゆ「も、もうっ! Pさんなんて知りません!」
P「あ、待って!……ハァハァ……もう大丈夫。ごめんな、そんなにへそを曲げないでくれ」
まゆ「……仕方ないですね、Pさんだから許してあげます」
P「ありがとう。でも、どうしていきなりそんなことを?」
まゆ「まゆはPさんにお似合いの女性になりたいんです」
P「? いまいち話が見えてこないぞ?」
まゆ「昨日、お見合いの相手の写真を見せてくれたじゃないですか」
P「ああ……そうだったな」
まゆ「あの女の人……すごくきれいでした。Pさんが目を奪われるのも無理はないと思います……でも! まゆはPさんを取られるわけにはいかないんです! だから、早く大人っぽくなってPさんに一人の女性として見てもらおうと……!」
P「そうか……何から話せばいいかな」
P「まず、そのお見合いの件についてだが……あれは断ったよ」
まゆ「そうだったんですか?」
P「考えてもみろ。これからしばらく土日はほとんどまゆの仕事が入っているんだぞ」
まゆ「あっ……そういえばそうでした」
P「それに今のところまだ結婚は考えてないよ。今は仕事が一番!って感じだしな」
まゆ「Pさんらしいです」
P「まゆ」
まゆ「はい」
P「大人には、いつかなれる。だから、焦る必要はどこにもないよ。今のまゆには今のまゆにしか出せない輝きがあるんだ」
まゆ「今のまゆにしか出せない輝き……」
P「そう。そのまゆの輝きが色々な経験や時を経て進化していく……それを見守ることが俺の楽しみというわけだ」
まゆ「じゃあ、Pさんはまゆが大人になるまで一緒にいてくれますか?」
P「当たり前だろ。アイドル佐久間まゆに惚れ込んだのは俺の方なんだから」
そう言うとPさんはまゆの頭を優しく撫でてくれて……こうしてもらっていると大人っぽくなりたいという願いはどこかに行っちゃって、まゆはまだ子供のままでいいかな、なんて気分になってしまうのでした。
おしまい
読んでくださった方、ありがとうございました。
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