男「ペヤングやきそばプラス納豆……!?」 (19)


たまたま立ち寄ったセブンイレブンで、俺はとんでもない商品を見つけてしまった。


「ペヤングやきそばプラス納豆……!?」


フタにでかでかと納豆の絵がプリントされており、
ただでさえ多種多様な商品が並ぶカップ麺コーナーでもひときわ異彩を放っている。

そういえば、インターネットで「ペヤングの納豆味が出る」なんて情報を目にしたことがあるが、
そうか、あれはもう出ていたのか。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1488807087


値段はおよそ180円。

隣にある普通のペヤングソースやきそばは160円なので、通常品より約20円高いことになる。
まあ、別に大して気になる価格差ではない。


問題は味である。

一体どんな味なんだろう……。
俺の中にある子供じみた好奇心が、みるみるうちに膨れ上がっていく。


本来の俺は、食事で冒険をするタイプではない。

自炊する時はほとんど同じメニューしか作らないし、
外食する時も馴染みのあるチェーン店に行くことが多い。
得体の知れない新製品に手をつけるなど、もってのほかであった。


しかし、この日は違った。

食べてみたい、と思ってしまった。


ペットボトルの緑茶やウーロン茶とともに、納豆のペヤングやきそばを購入する。

コンビニ店員特有の「ありがとうございました」を極限まで省略した挨拶を背に受け、店を出る。
もう春だというのに、風はまだまだ冷たかった。


「さみ……さっさと帰るか」


寒い、という愚痴とは裏腹に俺の心はワクワクしていた。

こんな気持ちになるのは久しぶりであった。


自宅に戻った俺は、さっそくポットで湯を沸かす。

沸くまでの間に、納豆やきそばの概要を確認する。
作り方は通常品とほとんど同じらしい。そりゃ当たり前か。


俺はフタを半分だけはがす。
すると、中には麺とソース、通常のかやくの他に、乾燥したひきわり納豆が入っていた。

そうか……ソースが納豆風味とかではなく、マジで納豆が入ってるのか。

そうこなくてはいけない、と俺は心の中で微笑んだ。


湯が沸いた。

さっそく俺は通常のかやくを入れ、中にお湯を注ぐ。


ちなみにペヤングソースやきそばには、「お湯はここまで注いで下さい」という線が引いてあるが、
皆さんはどういう風にお湯を入れるだろうか。

ちなみに俺は、線きっちりに入れるタイプである。


お湯を入れたらフタを閉め、三分間待つ。
この三分間が結構長い。なにか考え事でもしなければ。


ペヤングというと、いつだったかのゴキブリ混入事件がまだ記憶に新しい。

あまりあの事件について深いところまでは知らないのだが、あんな事件があったのにもかかわらず、
今再びコンビニやスーパーで当たり前のように並んでいるペヤングやきそばを見ると、
古くからのブランドの持つ力というのは大したものだなあ、と思ったりする。
もちろん、信頼回復のための企業努力もあったのだろうが。

でも、昔ながらのブランドでも凋落するケースだってある。
最近だと東芝とか……。

このあたりの明暗を分けるものとは一体なんなんだろう。
俺ごときに分かるわけないので、この辺を思考を切り上げる。


残り二分。


さて、納豆やきそばはどんな味なんだろう。

想像がつくような、つかないような。
俺はやきそばも納豆も好きなので、少なくともクソまずいってことはないと思うが。


そういえば俺は、カレーチェーンのココイチで納豆カレーを食べたことがある。
あれはうまかったと記憶している。

でも、俺はココイチで頼むメニューは基本的にはほうれん草カレーと決めている。
なぜか。
健康によさそうだから。


残り一分。


健康というと、納豆は健康にいいということでよく知られている。

しかし、プリン体を多く含んでおり、あまり食べすぎると痛風になるおそれもあるという話もある。
まあ、毎日4パックも5パックも食べるとか、常軌を逸した量を食べなければ問題ないらしいが。

いずれにせよ、食べすぎはよくないということである。


というか、この世に食べすぎてもいい、飲みすぎてもいい飲食物なんてきっと存在しないんだろう。
水でさえ、飲みすぎると水中毒なるものになって死に至るというのだから恐ろしい。

何事も程々が一番である。


三分経った。


さっそく俺は湯切り口のフタをペリリとはがし、流し台にお湯を捨てる。

熱湯を直接捨てると排水管が傷むらしいので、蛇口から水を流しながら、である。


ところで、カップやきそばを作る時のあるあるネタで、
「湯を捨てる時に中身の麺まで誤って捨ててしまう」というのがあるが、
あんなこと本当にありえるのだろうか。

ちゃんと指示通りにすれば、ちゃんと作れるはずなのだ。
湯と一緒に麺まで捨ててしまうなんて、よっぽどのバカなのだろうと思ってしまう。

……と思ったが、俺もペヤングソースやきそばを作る時に
いきなりフタを全開けしてしまい、どうすればいいんだ、という事態に陥ったことがあった。

俺もバカであった。


湯を捨てたら、フタを全てはがし、麺にソースと問題の納豆を混ぜる。


「あ、納豆の匂いする……」


思わずつぶやいてしまう。

麺とソース、かやくのキャベツと納豆がよく馴染んだら、いよいよ食事である。


「いただきます」


勢いよく麺をすする。

さて、納豆やきそばの味は――


「ああ、うん、悪くない。うん、うまい」


まさにこんな感じであった。


悪くない、うまい。

絶賛するほどじゃないけど、でも想像よりはかなりいい味、これが第一印象であった。


さらに麺をすする。


納豆は一見ゲテモノに思えるかもしれないが、決して自己主張していない。

ペヤングが本来持つ濃~い味付けを、納豆がうまく抑えているというか、
マイルドにしているという感じである。

するすると食べられてしまう。


「うん、いいじゃん、うん」


よく分からない独り言とともに、食が進む。


腹が減っていたのもあってか、ものの五分で食べ終わってしまった。

かやくのキャベツまで残さず、ペロリとだ。


「案外うまかったな」


総括すると、通常のペヤングソースやきそばに比べて劇的に何かが違うというわけではない。

だが、決して悪くはないし、というかうまい。
納豆のおかげで、ソースやきそばの持つ重さみたいなものがうまく緩和されている気がする。

これがヒット商品になるかすぐ販売打ち切りになるかどうかは分からないが、
少なくとも俺にとってはおいしかったといえよう。

ごちそうさまでした。


久々の俺の小さな冒険は、結構な満足を得る結果となった。


だがこの件で冒険したのは何も俺だけではない。

製造元のまるか食品にとっても、これを仕入れたさっきのセブンイレブンにとっても、
かなりの冒険であったはずだ。

皆がそれぞれ冒険したからこそ、この納豆やきそばは世に出て、俺の口に入ることになったのだ。


「……俺ももっと冒険してみるかな」


俺はしみじみとこうつぶやいた。

納豆の匂いが染みついたゲップとともに。





― 終 ―

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