幽霊「引っ越してきた人がエッチすぎる……」 (270)

幽霊「はぁ」

幽霊(今日も窓の外を眺める生活……浮遊霊の方たちが羨ましいです……)

幽霊「でも、こうしてアパートから通りを眺めているだけでも、意外に幸せだったりするこの頃です」 フワフワ

男「……」 スタスタ

幽霊「ああ……」 ガクリッ

幽霊(私の幸せな時間があっさり終わりを告げてしまいました)

ガチャッ

男「……」

幽霊「うぅ、ここは私の家なんですよ!」 プンプンッ

男「……」 パチッ

幽霊「眩しいですー! 消してください!」

男「……」 ヌギヌギッ

幽霊「な、なんでいつも帰ってきてすぐに服を脱ぐんですか!」

幽霊(いつもやめてって言ってるのに……この霊感無し!) プンプンッ


みたいな

男「……」 パカッ

幽霊「冷蔵庫は何も入ってないですよ? たまにはお買い物にでも行ったらどうですか?」

男「……」 バリバリッ ビリッ

幽霊「カップラーメンばかり食べてるからお腹が出てくるんです。やーいやーい、メタボ腹!」

男「……」 ジョボボボッ

幽霊「あはは、とんこつって共食いじゃないですか」

幽霊(うふふ、いくら悪口を言っても怒られないのが幽霊の特権です!) エッヘン

男「……ぃ……ょ」 トンッ カチッ ウィィィンッ

幽霊「あ」

幽霊(ま、またパソコンを起動して……)

男「……」 カチカチッ

幽霊「きゃっ!」 ビクッ

幽霊(またエッチな画像を開いて!) カァァァッ

幽霊「だっ、だからなんで私の特等席にきてオ、オ、オナッ!・・・エッチなことするんですか!」

男「・・・」シコシコ

幽霊「い、嫌がらせ?知ってやってるんですか!?分かっててやってますよね!!」ブンブン

男「うっ・・・!」ビクンビクン

幽霊「イヤァ!そこから離れてくださいもう!」フスカー


みたいな

幽霊「ご、ご飯を食べる時くらいエッチな事を考えずにいられないんですか!」

男「……」 カチカチッ

コンニチワ-ッ キョウハー コレカラエッチシマース

幽霊「あうっ」

男「……」 ボーッ

幽霊「……」 チラチラッ

幽霊(エッチな動画を眺めて三分間待つなんて……この人の頭にはエッチな事しかないんでしょうか?)

アンッ オッパイダメェ ンッ ンンッ

幽霊「……っ」 モゾモゾッ

男「そろそろか」 カチッ ピタッ

幽霊「あ」

男「……」 ピリピリッ ズルルルルッ

幽霊(こ、こんな中途半端な場面をオカズにラーメンを食べるなんて……やっぱり変態です!) ジィッ

幽霊(それにしても)

男「はふっ」 ズルズルッ ゴクッ ゴクッ

幽霊(この人、いつも美味しそうにカップラーメンを食べています。そういえば……)

幽霊「お母さんが作ってくれたラーメン、すごく美味しかったなぁ」

男「……」 モグモグッ

幽霊「えへへ、もう一回お母さんのラーメン食べたいです」

男「ごちそうさま」 カチャッ

幽霊「食べたらすぐに洗わないとダメなんですよー?」

男「……」 ジャーッ

幽霊「お部屋もたまには掃除機を掛けて、空気の入れ替えもしないとです」

男「ふぁ~」

幽霊「汚い所には悪い霊が来たりもするんですから! それに……わきゃっ!?」 ビクンッ

男「……Gか」 ノソノソッ

幽霊「いやぁー!!」 フワフワッ

男「ふんっ」 バシンッ

幽霊「あ」

男「……」 シュッシュッ ゴソゴソッ ポイッ

幽霊「ゴキブリさん……南無南無です」

男「……」 カチカチッ

幽霊(こ、この人……今ゴキブリさんを殺したばかりなのにエッチな動画を……!)

幽霊「な、なんて血も涙もないエッチさん……っ」

ンチュッ チュパチュパッ ンフゥッ チュパチュパッ

男「……」 ポロンッ

幽霊「わわわわっ!」 アタフタッ

男「……」 シコシコッ

幽霊「いやーっ! いやぁぁぁっ!!」 ブルブルッ

幽霊(せ、せめて扉の外まで!) ススススーッ スルスルッ

幽霊「はぁ、はぁ……どうにかギリギリ外に出られましたけど……うぅ、浮遊霊になりたいです……」 グスンッ

幽霊「あ、なんだか気が遠く」 スゥッ

幽霊「し、しっかりしないと!」 フルフルッ

幽霊「やっぱり部屋の外に出ると、うっかり消滅してしまいそうに……」

幽霊(これって多分成仏じゃないですよね……ちゃんと成仏できたら天国にいけるんでしょうか?)

幽霊「あ……お星さまが綺麗」

幽霊「そういえば、死んだ人はお空の星になるって言いますけど」

幽霊「幽霊が成仏する時も星になれるんでしょうか?」

幽霊「うーん」

幽霊「あ、流れ星!」

幽霊「成仏できますように、成仏できますように、成仏できますように……」 ブツブツ

ガタガタッ

幽霊(今の音は、その……終わったんでしょうね、あれが……)

幽霊「はぁ」 スススーッ

男「……」 ボーッ

幽霊「うぅ、ゴミ箱のティッシュが生々しいです……」

幽霊「はぁ……どうせ引っ越して来るなら年上のお姉さんとかが良かったです……」

幽霊「うっ……い、いやぁぁ、変な匂いするぅぅぅ!」 ジタバタッ

男「……」 ガタンッ

幽霊「ご、ごめんなさい、言いすぎました。……って、聞こえてないのでした」 テヘッ

男「……」 ゴソゴソッ カタンッ

幽霊「あ! それ私ずっと観たかった映画です! 観るんですか!?」

男「……」 ウィーンッ カチッ ウィーンッ

幽霊「やったー! テンション上がって来たーっ!!」 フリフリッ

幽霊「……」 ジーッ

男「……」 ジーッ

幽霊(この映画みたいに、家族みんなが仲良く暮らすのって、きっと幸せなんでしょうね) ジーッ

男「……」 ソロソローッ

幽霊「……」 ジーッ

男「……」 スッ

幽霊(私にも妹やお兄ちゃんがいたら、どんな感じだったんでしょう?) ジーッ

男「……」 カシャッ

幽霊「……っ、ビールですか。まったくもう、良い所なんですから邪魔しないでください!」

男「……」 ゴクゴクッ

幽霊「……」 ジーッ

男「……」 ジーッ

幽霊「はふぅ」

男「……」 ウィーンッ カチッ ウィーンッ

幽霊「最高でした……お父さんが無事で良かったです……」

幽霊「そうです! やっぱり物語はハッピーエンドじゃなきゃダメなんです!」 ビシッ

幽霊「だって、現実は全然ハッピーエンドじゃないんですから、物語くらいハッピーじゃないと……」

幽霊「あ、エンドなのは私みたいな幽霊だけでした」 テヘッ

男「……」 ゴクゴクッ

幽霊「って、聞こえてないんですよね。つい忘れてしまいがちです」

幽霊「私、死ぬ前もよく一人で話してたものですから、死んでからも一人で話してたので」

幽霊「なので、返事がなくても相手がいるだけで話している気分になってしまって」

幽霊「って、これも聞こえてないんですけど」

男「……」 ポイッ カランカランッ

男「……」 パチッ

幽霊「あ、寝るんですね」

男「……」 ゴソゴソッ

幽霊「しっかり眠らないと明日頑張れないですからね! ……おやすみなさい」 ニコニコッ

男「ぉ……」 モゾッ

幽霊「……」

幽霊(エッチな人ですけど、でもやっぱり、誰かが側にいるのは幸せです)

幽霊「星が綺麗です……」 ボーッ

幽霊「……」 ソワソワッ

男「ぐぅ……ぐぅ……」 グターッ

幽霊「……」 ソワソワッ

幽霊「……」 ソワソワッ

男「ぐぅ……ぐぅ……」 グターッ

幽霊「すぅ……起きてください、朝です!」

男「ぐぅ……ぐぅ……」 グターッ

幽霊「朝です! 遅刻です! 起きてください! ……起ーきーろー!」

男「……ぐぅ」

幽霊「うぅっ、起きないとダメです、起きてください!」 ペチペチッ

男「んぅ……」 モゾッ

幽霊「おはようございます!」

男「ぉ……ふぁ~、あーねみぃ」 ノソッ

男「ってやっべ!?」 ガタガタッ

幽霊(何度も起こしたのに起きないからです) プンプンッ

男「あーちくしょ、朝飯食えねえじゃねえか!」 ドンドンッ

幽霊「たまにはご飯を抜いてメタボを治せばいいんです!」

男「……あー、もういいや。スーツだけ着てこのまま出よ」 ガダガタッ ガチャッ

幽霊「そんなに困るのなら早起きすればいいんです」 ビシッ

男「……」 スタスタッ ガチャンッ

幽霊「あ」

幽霊(……いってらっしゃいを言えませんでした) ショボンッ

幽霊「どうせ、返事もないんですけどね」 フワフワッ

幽霊(こうしてまた一人になると、また窓の外を見るくらいしかやる事がありません)

少年「……」 トボトボッ

幽霊「あ、いつもの男の子です!」 フリフリッ

少年「……」 チラッ

幽霊「元気ですかー?」

少年「……っ」 タッタッタッ

幽霊「むぅ。……見えるのなら返事してくれればいいのに」

幽霊(登校時間が終わるとまた暇になってしまいます)

幽霊「なんだか太陽の光が気持ち良いです」 ポカポカッ

幽霊「お昼寝したい気分ですけど、幽霊にお昼寝はないので」

幽霊(隣の部屋に遊びに行きましょう) スルスルーッ

猫「むにゃー」 クイッ

幽霊「こんにちは、猫さん」

猫「にゃー」 ゴロゴロッ

幽霊「日向ぼっこですか? いい天気ですものね」 フワフワッ

猫「うーっ」 マルッ

幽霊「お隣、失礼しますね」 ゴロッ

幽霊(外に出るよりは楽ですけど、やっぱり元の部屋にいないと疲れます……)

幽霊「……あなたが私の部屋に遊びに来てくれたらいいんですけどね」

猫「にゃー」 

ガタンッ

幽霊「……?」

幽霊(今、部屋の方から音がしたような)

ガチャンッ

幽霊「ま、まさかあの人……こんな時間からエッチな事をするために帰って来たんですか!?」 スルスルーッ

幽霊(なんて変態さんなんですか! ダメです、そんなの絶対にダメです!)

幽霊「ちゃんとお仕事しないとダメですっ!」 ビシッ

中年「……」 ゴソゴソッ

幽霊「え?」

中年「……」 スッ ゴソゴソッ

幽霊「な、何やってるんですか! 勝手に人の部屋に入るなんて泥棒と同じですよ!」

中年「ちっ、ろくな物がねえな」

幽霊「え? ど、どういう事ですか?」

中年「……適当に換金できそうな物だけ持ってくか」 ゴソゴソッ

幽霊「なっ!? や、やめてください!! そんなのダメです!」 

中年「お、こりゃ最新のゲーム機か」 ゴソッ

幽霊「だだ、ダメです! あの人のやりたいソフトがもうすぐ届くんです! 持ってっちゃダメですっ!!」 ペチペチッ

中年「他は……適当に新しそうなソフトを持って」 ゴソゴソッ

幽霊「ダメって言ってるじゃないですか!!」 ペチペチッ

中年「しかしゲームくらいしかねえなんて、ろくな奴じゃないな」

幽霊「か、勝手な事言わないでください! あなたに何がわかるんですかっ!」

中年「こんなもんか」 スタスタッ

幽霊「待ってください! 待って、待ってって言って……うぅ、ダメ、ダメなのぉ!」

中年「……」 ガチャッ スタスタッ ガチャンッ カンッ カンッ カンッ

幽霊「うぅ、うぅぅぅ……! うぅうぅうぅ……っ」 ギュッ

男「……」 ガチャッ

男「……っ」 ビクッ

幽霊「ひっ、ひっ……」 ポロポロッ

男「……」 キョロキョロッ

男「これは……」

幽霊「わ、わたし……何もできなくて……っ」 ポロポロッ

男「……」 ガサゴソッ

男「ない」

幽霊「お、おじさんが、知らないおじさんが来て……全部持って行って……」 ギュッ

幽霊「だ、ダメって言ったのに、わたし言ったのに……」 ポタポタッ

男「……」

幽霊「ごめんなさい、ごめんなさい……」 ポロポロッ

男「とりあえず、警察か。……あ、すいません、泥棒に入られたみたいで……はい……はい……」

警官「……前科があれば指紋から分かる事もありますが」

男「あまり期待せずに待っておきます」

警官「それでは」 ペコリッ ガチャンッ

幽霊「ごめんなさい……ごめんなさい……」 ポロポロッ

男「……」 ガチャッ スタスタッ ガチャンッ

幽霊「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」 ポロポロッ

幽霊(どれだけ謝っても無駄だって分かってるんです)

幽霊(あの人も出掛けてしまって、誰もいなくなって、でも)

幽霊「ごめんなさい」 ポロポロッ

幽霊(謝る以外に、私には何もできなくて)

幽霊(そういえば、いつかもこんな風に泣いていた気がします)

幽霊(あの日もお母さんの帰りは遅くて)

幽霊(いえ、もしかすると何日も帰っていなかったのかもしれません)

幽霊(だから私は、お母さんが孵って来るのを待っていて)

幽霊(高熱で布団から起きられなくなってからも、ずっと待っていて)

幽霊(最後に私は、泣いていたような気がします)

幽霊「泣いても、どうせ誰も来てなんてくれないって知ってるのに」 グスッ

幽霊(私はまた待つんでしょうか? 私はまだ待つんでしょうか?)

幽霊「……」 ジッ

幽霊(あの扉の向こうに行けるなら、どこまでも行けるなら)

幽霊(もう誰かを待つなんてせずに、きっと迎えに行ける)

幽霊「……」 フワフワッ

幽霊「……」 チラッ

幽霊(誰もいない部屋なん寂しいだけです)

幽霊「……」 スルスルッ

幽霊(扉を抜けて、もっと先に) スススッ

幽霊「うっ」 グイッ

幽霊(何かに引っ張られているような、この感じは……)

幽霊「まだ……行けます……」 グググッ

幽霊「もっと先に、行けるはずです……」 グググッ

幽霊「もう、私は」 グッ

幽霊「一人で誰かを待つのは……嫌なんです!!」

男「はぁ」

男「……まさか泥棒に入られるなんてな」

男「帰るのも気が重いな……」 スタスタッ

幽霊「たまには夜の散歩でもすれば体にも良いと思いますよ?」

男「まあな……は?」 ポカーンッ

幽霊「へ?」 ポカーンッ

男「……っ」 スタスタスタスタッ

幽霊「え、今返事しました? しましたよね!?」

男「……シテナイ」

幽霊「してるじゃないですかぁ!!」 プンプンッ

幽霊「どうしてですか!? 見えてたなら言ってくれればいいじゃないですか!」

幽霊「今までずっと見えないフリをしてたんですか!? 酷いです!」

幽霊「私の声も聞こえていたんですよね!? どうしてくれるんですか! プライバシーの侵害ですよっ!」

幽霊「大体なんですか、私ずっと嫌だって言ってたじゃないですか! 乙女の前でパンツ姿見せるなんて犯罪ですよ!?」

幽霊「もう死んじゃえ! バカ! 地獄に落ちろ!」

男「幽霊が死ねとか言うなや、リアルすぎるわ」

幽霊「うるさい! バカ! メタボ!」

男「メタボじゃねえわボケ! お前こそ人に散々メタボとか言いやがって!」

幽霊「……」 フワフワフワッ

男「逃げてんじゃねえ!」

幽霊「ご、ごめんなさい……」

男「……」

幽霊「あの」

男「……俺は見えるだけなんだよ」

幽霊「え?」

男「見えるだけの体質で、他は何もできねえんだよ」

男「だからヘタに幽霊が見えるなんて気付かれると、面倒臭ぇ」

男「助けてくれとか構ってくれとか、そんな事言われてもどうしようもねえんだよ」

男「……だから部屋選びも気を付けたのに、なんで引っ越してから現れるんだよ」

幽霊「た、多分、押し入れに隠れてました」

男「なんで?」

幽霊「だって……知らない人は、怖いから……」 モジッ

男「幽霊が人怖がってんじゃねえよ」

男「で、お前の方は何なの? なんで外にいんの?」

幽霊「なんだか部屋にいたくなくて……頑張ったら、なんとか」

男「頑張ったらってなんだよ?」

幽霊「ブチって切れました」

男「だから何が?」

幽霊「私も分からないですけど、身体を縛ってた縄みたいのが」

男「……」

幽霊「どうしたんですか?」

男「いや、別に……」

幽霊「今変な顔してましたよね? なんですか?」

男「だから別になんでもねえよ」

幽霊「でも」

男「うっせーな! んなこと今関係ないだろっ!?」

幽霊「とにかく、そういうわけなので」

男「……はぁ」

幽霊「あの」

男「とりあえず、外ではあんまり話しかけるな」

幽霊「……怒ってます?」

男「ちげぇよ。会話なんてしてたら他の幽霊に見えるってバレるだろ」

幽霊「あ、なるほど」

男「それと、俺がナニする時には外出てろ」

幽霊「ナニ?」

男「オナニーだよ、言わせんな」

幽霊「あ、当たり前じゃないですか! 言われなくてもそうしますし! 変な事言わないでください!」

男「人がAV観てる時にじろじろ観てたじゃねえか」

幽霊「そ、そっちこそ! 私がいるの知っててあんなの観て! エッチ! 変態!」

男「はぁ? お前こそエロいシーンでモジモジしてたエロ女じゃねえか」

幽霊「……っ! 死んじゃえ! バカ、変態ッ!!」 フワフワフワッ

幽霊「おはようございます」

男「……おう。つーか戻って来たんだな、別に戻って来なくても」

幽霊「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す!」

男「……おはよう」

幽霊「はい、おはようございます」 ニコニコッ

男「で?」

幽霊「気持ち良い朝ですよ?」

男「……だから?」

幽霊「?」

男「あー、もういい。……着替えるからあっち向いてろ」

幽霊「あ、はい」 プイッ

男「……なんでお前付いて来てんの?」

幽霊「外では話さないのでは?」

男「今は周りにいないからいいんだよ。で、何なの?」

幽霊「だって自由に外を歩けるんですよ?」

男「お前歩いてないけどな、浮いてるし」

幽霊「?」

男「だから何の用なんだよ?」

幽霊「え、用はないですけど」

男「……ストーカーかよ」

幽霊「だ、誰があなたみたいなメタボのストーカーなんてしますか!」

男「じゃあどっか行けよ」

幽霊「……だって、いきなり外に出ても、久しぶりすぎて何すればいいかよく分からないんだもん」 モジモジッ

男「知るかよ」

幽霊「うぅ」 ショボンッ

男「……お前やりたい事とかないの?」

幽霊「やりたい事?」

男「死ぬ前にしたかった事とか、なんかあるだろ」

幽霊「……あんまりないです」

男「へー、そりゃ欲がないな」

幽霊(お母さんはもういないし、死んじゃった後でしたい事なんて……あ)

幽霊「あの人を」

男「あの人?」

幽霊「私の目の前で泥棒した、あのオジサンです! あのオジサンを見つけたいです!」

男「あー」

幽霊「あの人、私が何度も言ったのに、なのに無視して泥棒して行ったんですよっ!?」

男「見えなかっただけだろ。普通は見えないんだよ」

幽霊「とにかく! あの人を懲らしめないと気が済みません!」

男「なら探して来い、ほら行け行け」

幽霊「絶対に許しません!」 ススススーッ

男「はぁ」

男(やった行ったか)

男「……」 スタスタ

男(まさかこんな形で話す事になるとは思わなかったな)

男(もう幽霊とは関わらないと決めてたのに)

男「……まあ、その内あいつもいなくなるだろうさ」 スタスタ

幽霊「見つけました!」

男「……」 チラッ スタスタッ

幽霊「もう一日中探してやっと見つけたんです! あの人また泥棒しようとしてるみたいです!」

男「……」 スタスタッ

幽霊「なんだか大きな屋敷の下見をしているみたいで、絶対にあそこで泥棒しようとしてるんです!」

男「……」 スタスタッ

幽霊「止めなくちゃダメです! 泥棒はダメです! だって犯罪です、泥棒されたら困っちゃいます!」

幽霊「そうです、私達であの人を掴まえるんです! 私とあなたならできます!」

幽霊「って、聞いてますか!?」 プンプンッ

男「……うるせぇよ!? お前人の話聞いてんのか、外で話しかけんなって言ったろ!?」

幽霊「あ」

男「で、どこにいるって?」

幽霊「隣の駅から歩いて10分くらいの所なんですけど」

男「へー、よく見つかったな」

幽霊「頑張りました」 エヘンッ

男「じゃ警察呼ぶか」

幽霊「……?」

男「なんで不思議そうな顔してるんだ?」

幽霊「え、だって今警察を呼んでも説明できないじゃないですか」

男「説明?」

幽霊「あなたは犯人の顔を見てない事になってますし、あの人が泥棒だっていう証拠もないですし」

幽霊「今警察に言っても、あなたの作り話だとしか思われないですし」

幽霊「もしかして頭悪いんですか? ぷぷっ」

男「……」 ブチッ

男「……」

幽霊「だから謝ってるじゃないですか!」

男「……」

幽霊「こんなに謝ってるのに無視しなくても!」

男「……」

幽霊「……わ、私だってたまにはふざけますし」

男「……」

幽霊「怒ってるんですか? 怒ってるんですよね?」

男「……」

幽霊「やーいやーい、メタボ腹」

男「……」

幽霊「……ごめんなさい」

男「……」

幽霊「ひっ、ひっ……」 ポロポロッ

男「で、この駅から10分ってどっち?」

幽霊「は、はい! こっちです!」 フワフワッ

男「うぜぇ、はしゃぐな」

幽霊「……」 ショボンッ

男「……現行犯で捕まえればいって事だろ」

幽霊「……」

男「おい」

幽霊「……」 コクリッ

男「……」

幽霊「……」

男「なんか言えよ」

幽霊「……」 プイッ

男「はあ……面倒臭ぇ」

男「あの車に乗ってるんだな?」

幽霊「……」 コクリッ

男「あいつがいつ決行するのかが問題だな。できれば今日やってくれりゃいいんだが」

幽霊「……」

男「いい加減さ、機嫌直せよ」

幽霊「別に。……私、ウザいですから」 プイッ

男「そういう所がうぜぇんだよ」

幽霊「……」 ムスッ

男「悪かったよ。つい一言多くなっちまうんだよ」

幽霊「ふん」

男「どう謝れば気が済むんだよ? 大体原因はそっちにだってあんだろ」

幽霊「黙ってください!」

男「は?」

幽霊「……動きました」

男「動いたって……犯人が? ど、どうする?」

幽霊「底で隠れてじっとしていてください」 ススススーッ

男(じっとって、じっとしてどうするんだよ? 捕まえなくちゃいけないんだろうが)

男(つーか俺はなんで泥棒なんて捕まえようとしてるんだ? ゲームを盗まれたのは腹立つが)

男(だからってこんな危険な真似をするほどのことか?)

男(事情を説明できないにしても、もっとうまくやる方法だってあるんじゃ……)

幽霊「大丈夫です!」 スススーッ

男「うわっ!? な、何がだよ?」

幽霊「犯人は一人、武器はモデルガンだけで、車の中にも武器になりそうな物はありませんでした!」
幽霊「独り言を聞いたら思ったほど悪い人でもないみたいで、危なくなったらすぐに逃げるつもりみたいです!」
幽霊「他の所から合流する共犯の人がいないかも見てきましたけど、誰もいませんでした!」

男(幽霊すげぇ)

男「よ、よし、それなら俺でもなんとかやれるぜ!」

幽霊「気を付けてくださいね」

男「任せとけよ。正義の鉄槌くだしてやるぜ」

幽霊(自分が有利だって分かった途端に張り切りすぎじゃないでしょうか?)

幽霊「……相手は犯罪者の人ですからね」

男「ああ。……怪しい奴が入ってくのが見えて、後を付けたって流れだな。よし」 スタスタッ

幽霊(なんだか不安です……大丈夫なんでしょうか?)

幽霊(よく考えると、この人はちょっとエッチで幽霊が見えるだけですし)

幽霊「や、やっぱりやめませんか? その、危ないっていうか」

男「あ! 窓ガラス割って家の中に入ってったぞ!?」 タッタッタッ

幽霊「……」

中年「へへ、動くんじゃねえぞ」 ギュギュッ

老爺「目的は金か? この家にお前みたいな輩が欲しがるほどの金は」

中年「うるせぇ! それは俺がこれから調べんだよ!」 ガンッ

老爺「うぐっ」

男「ちょっと待ったぁ!」

中年「だ、誰だてめぇ!」

男「名乗るほどもない、ただの通りすがりだ!」 ジャジャーンッ

幽霊(なんだか変な脳内物質出ちゃってる感じが)

中年「……お前だけか?」

男「そうだ! お前如き俺一人で十分ぎゃっ!」 ドガシャーンッ

幽霊「きゃああっ!? し、しっかりしてください!」

中年「最近はご無沙汰だが、若い頃は毎日してたぜ? 喧嘩はよ」 ボキボキッ 

男「い、痛ぇ……やっべぇ、すげぇ痛ぇよ……」 ガクブルッ

中年「悪いがロープは一人分しかねえんだ、静かになるまでやらせてもらうぜ」

男「い、いやだ、死ぬ! マジで死ぬっ!」 ズルズルッ

中年「逃がすかよ」 ガシッ

男「いやだ! いやだぁ! 助け」

中年「おらっ」 ゴスッ

男「うげっ」

中年「おら! おらっ!」 ゴスゴスッ

幽霊「あ、あ、ああああ……っ」

幽霊(どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……!)

幽霊(このままじゃ死んじゃう、この人まで死んじゃう!) 

幽霊「……」


幽霊(死んだら)

幽霊(私と同じに)

幽霊(ずっと一緒に)

幽霊(いられる?)

男「うっ、うぅぅ……もうやめ……っ」 ボロッ

幽霊「あ」

幽霊(私、今……何を……)

中年「かーっ! 俺も歳取っちまったなぁ、素手じゃダメだこりゃ」 スッ

男「ゆ、許してくれるんですか?」

中年「お、いい感じのボトルがあるじゃねえか」 ガシッ

男「ちょ……そ、そんなので殴られたらし、し……」

中年「当たり所が悪くなけりゃ死なねえよ……ま、死んだらその時は運が悪かったってことだ。ケケッ!」

幽霊(死ぬのは)

男「や、やめ……い、言いません、絶対に誰にも言いませんから!」

幽霊(死ぬのは、とっても辛くて、苦しくて、悲しいのに、どうして……)

中年「俺は今、若返ったみてぇな良い気分なんだよ。邪魔すんじゃ、ねえっ!」 ブンッ

幽霊「やめっ、ろおおおおおっ!」

ガタガタガタガタガタガタッ

中年「な、うわっ!?」

バリーンッ

中年「な、なんで!?」

幽霊「ナゼ」 スゥッ

中年「ひっ!? な、なんだよ、お前どこから!?」

幽霊「ナゼ?」 ガシッ

中年「は、放せ、放せよ!?」

老爺「な、何を言ってるんだ?」

中年「この女だよ! 何なんだ、てめぇは!?」 

幽霊「ナゼ? ナゼ? ナゼ? ナゼ? ナゼ?」 

老爺「女、女なんてどこに?」

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ

幽霊「ナゼ、殺スノ? ナゼ? ネエ……ナゼ?」 グギギギギギギッ

中年「あぎぃいいいぃっ!?」 ブチブチブチッ

幽霊「ナゼ?」

幽霊「ナゼ?」

幽霊「ナゼ?」

幽霊「ナゼ?」

ギギギギギギギギギギギッ

幽霊「 ナ ゼ ?」 グニャアアア

中年「ひ、ひ、ひ、ひ……!」 ジョロロロロロッ

男「う、う、うわああああああああああああっ!!」

幽霊「……っ」 ビクッ

男「うあ、あ、あ……」 ブルブルッ

幽霊「ア……あ、違っ、違うんです、今のは……」 スッ

男「く、来るなぁ!」

幽霊「あ、の」

男「来るな、来るな、来るな、来るなっ!」 ビクビクッ

幽霊「……」

中年「ひっ、ひぃぃぃぃ」 タッタッタッ

男「来るな、来るな、来るな、来るな、来るな……っ」 ガタッ

老爺「何がどうなって……」

幽霊(どうして、こうなってしまったのでしょうか)

幽霊(私はただ、私の事が見えて、話せて、一緒にいられる人がいてくれる事が嬉しかっただけなのに)

男「来るな……来るなぁぁ!」

幽霊「……ごめんなさい。私と話してくれて、ありがとう」 スゥッ

警官「……結局、どういう事なんですか?」

老爺「……」

男「……」

警官「えー、強盗が入って? それを追いかけて君が来たと。そこまでは分かった」

警官「それから、その強盗が突然叫び出して? 何か見えないものに襲われて? それにポルターガイスト?」

老爺「うむ……」

警官「そう言われてしまうと、この部屋の惨状はそう見えますけどねぇ……」

老爺「……」

警官「君も何か言う事はないのかい?」

男「……ないです」

警官「はぁ……おまけに肝心の犯人は逃げたとなると、参ったね」

男「……」

警官「申し訳ないけど、もう少し付き合ってもらうよ。いいね?」

男「……はい」

そういやエロSS書くつもりだった気がする

男(ようやく解放されたのは明け方で)

男「……」 ガチャッ

男(帰った家に、あの幽霊の姿はなかった)

男(俺は……ホッとした)

男「あぁ」

男(怖かった)

男(身近にいた存在が、あんな悍ましいものだった事が、怖くて、怖くて)

男(だけど、それ以上に)

男「うっ、うっ、うぅぅぅ……っ」 ポロポロッ

男(俺は後悔していた)

男(あいつは俺を助けてくれたのに、そのためにあんな風になったのに)

男(俺はあいつを怖れて、拒絶して、傷付けた)

男(そして、あいつはいなくなった)

男「うぅぅぅ……っ」 ポロポロッ

男(走馬灯のように、この部屋へ引っ越して来てからの日々が蘇り)

男(俺はそのまま眠った)

少年「嘘じゃない!」

少年(いくら言っても無駄だって僕は知ってる)

少年(でも、僕は嘘なんか言わない。だから何度でも言う)

少年「僕は幽霊が見えるんだ!」

いじめっこA「嘘つき!」

いじめっこB「お前の嘘は聞きあきたんだよ!」 ドンッ

少年「……っ、僕は嘘なんか言わない!」

いじめっこA「この嘘つき野郎!」 ドンッ

少年「……っ」 ヨロッ

同級生A「もうやめようよ」

いじめっこB「あ? なんだよお前。お前だってこの嘘つきのこと嫌いだって言ってたろ?」

同級生A「それは……でも、こういうのは良くないよ」

同級生B「お前も嘘言うのやめろよ。だから嫌われるんだぞ」

少年「僕は……僕は嘘なんて言ってない!」

いじめっこA「しつこいんだよ!」 ゴスッ

少年「……っ」

いじめっこB「お前の父さん母さんも嘘つきなんだろ?」

少年「父さんと母さんは関係ないだろっ!!」

いじめっこA「嘘つきの子どもは嘘つき!」

少年(なんで)

少年(なんで幽霊が見えるだけで、こんな目に遭うんだよ)

少年(嫌いだ、幽霊なんて大嫌いだ!)

幽霊「……」 スゥッ

少年「……っ!?」 ゾクッ

幽霊「いじめちゃ……ダメでしょう……?」

少年(この人、学校に行く時に見かける幽霊の。……でも、なんか)

いじめっこA「おい、どこ見てんだ!?」

少年「そこに、幽霊が」

いじめっこB「てめぇ、いい加減に……」 ブンッ

幽霊「ダメ、でしょう?」 ツイッ

いじめっこB「う……っ」 ガクッ

いじめっこA「おい、どうしたんだ?」

いじめっこB「うぶぇぇぇっ」 ビチャビチャッ

いじめっこA「だ、大丈夫か!?」

幽霊「君も、ね?」 ナデッ

いじめっこA「うげぇぇぇっ」 ビチャビチャッ

同級生A「な、なんだこれ……」

同級生B「と、とにかく誰か人呼んで来よう!」 タッタッタッ

同級生A「うん!」 タッタッタッ

幽霊「……」 ボーッ

いじめっこA「うっ、うぇぇ……っ」 ビクッ

少年(これ、この幽霊が……っ)

少年(そうだ、前に見た時と雰囲気が違うんだ。前はもっとボンヤリしてて、そこにいるだけだったのに)

少年(今は、もっと)

幽霊「大丈夫?」 サワッ

少年「……っ」 ビクッ

少年(あれ……触られたのに、なんともない。二人みたいに吐いたりしないし)

幽霊「良かった」 ニコッ

少年(すごく、綺麗だ)

幽霊「……」 スゥッ

少年「ま、待って!」

幽霊「……?」

少年「あの」

少年(なんで呼び止めたんだろう? ……なんだか、今呼び止めないともう会えない気がして)

少年「僕と……僕と、友達になって!」

幽霊「友、達?」

少年「ダメ?」

幽霊「友達……」

少年「……」

幽霊「私で、いいの?」

少年「うん!」

幽霊「じゃあ、友達」 ニコッ

少年「……っ、うん!」

少年「僕は、幽霊が見えるんだ」

幽霊「ふふ」

少年「な、なんで笑うの?」

幽霊「だって、幽霊の私に言うんだもの」

少年「あ。そうだよね、僕何言ってるんだろう」 カァァァッ

少年「……えと、それで、幽霊が見えるって言うと、嘘つきだって言われて」

少年「みんな、僕のこと嫌いだって」 ジワッ

幽霊「どうして、みんな優しくなれないんでしょうね」

少年「え?」

幽霊「なゼ、人は人を傷付けルんでシょう?」

少年「……みんな、相手のことがわからないからだと思う」

幽霊「それは、どういうことですか?」

少年「分からないから怖がって、だから傷付けるんだと思う」

幽霊「……あなたは良い子ですね」 ナデナデッ

少年「……っ」 カァァァッ

幽霊「きっとあの人も、そうだったんでしょうね」

少年「あの人?」

幽霊「あなたは、みんなと仲良くしなさい」

少年「でも」

幽霊「死んでからでは、全部手遅れなんです。だから生きてる間に、ね?」

少年「……うん」

幽霊「それじゃ私は、そろそろ失礼しますね」

少年「え、もっと話そうよ!」

幽霊「少し、疲れてしまいました」

少年「……なら明日、また会おうよ! 僕、またここに来るから!」

幽霊「……」 スゥッ

少年「待ってるから! 絶対に待ってるからね!」

少年(初めて幽霊と仲良くなれた!)

少年(今まではボンヤリ見えるだけで、話したりなんてできなかったのに!)

少年「僕って……実は凄いのかも!」 タッタッタッ

少年(そうだ、帰って母さんに自慢しよう!) タッタッタッ

少年「うわっ!?」 ドンッ

男「……っ」 ヨロッ

少年「ご、ごめんなさい!」

男「いや……」

少年(この人、なんだかすごく疲れてる顔してる)

男「……」 スタスタ

少年(……まあいいや、早く帰ろうっと!) タッタッタッ

男「ごめんなさい、か」 ピタッ

男「あいつが謝る理由なんてなかったのに」

男「謝るのは、俺の方だろうが」

男「今どこにいるんだよ、お前」

少年「はぁ、はぁ、はぁ……」 タッタッタッ

少年(まだ来てない) キョロキョロッ

少年(来てくれるかな)

少年(僕が勝手に約束しただけだし、来てくれないかも) シュンッ

幽霊「……何か嫌な事があったんですか?」 ナデッ

少年「え? き、来てくれたのっ!」

幽霊「はい。だって、来ない人を待つのは辛いでしょう?」

少年(何か、あったのかな)

幽霊「……それに、友達ですから」

少年「友達……うん、友達だもんね!」

幽霊「……私も子供の頃、よくいじめられていました」

少年「そうなの?」

幽霊「ええ、家があまり裕福ではなくて」

少年「辛くなかったの?」

幽霊「辛かったですけど、それでも仲良くしてくれる友達はいましたから」

少年「僕とは違うんだね」

幽霊「幸福な家庭は似てるけど、不幸な家庭はみんな違うんだそうです」

少年「? 何それ」

幽霊「仲の良かった女の子が言っていました。『みんなそれぞれ不幸なんだからね!』と言っていました」

少年「それ、慰めてるの?」

幽霊「きっと彼女なりの慰めだったんです」

少年「変わってるね」

幽霊「ええ。変わっていて、とても大切な友達でした」

少年「その人は今どうしてるの?」

幽霊「知りません。私は死んでしまいましたから」

少年「会いたいと、思わないの?」

幽霊「今更私が現れても、きっと彼女も困ってしまいますから」

少年「そうかな、きっと喜ぶよ?」

幽霊「……ええ、そうですね」 ニコッ

少年「探そうよ!」

幽霊「……」 ニコニコッ

少年「どうしたの?」

幽霊「いえ。あなたは、本当に優しい子なんですね」 ナデナデッ

少年「どうして、そんなに悲しそうなの?」

幽霊「……そう、見えましたか?」

少年「うん」

幽霊「そうですね。ごめんなさい、私の態度はあなたに失礼でした」 ペコリッ

幽霊「私は、彼女に会いたいと思わないんです」

幽霊「もし彼女に会ったら、私は二度も彼女と別れなければいけないから」

幽霊「だから、私は彼女に会いません」

少年「……いなくなっちゃうの?」

幽霊「いえ。私は多分、いなくなれません」

少年「良かった、いなくなっちゃうのかと思った」

幽霊「ええ。……少し、いいですか?」

少年「え?」

幽霊「……」 ダキッ

少年「え、え、えっ!?」 ドキドキッ

幽霊「あなたは温かいですね」 ギュッ

少年「あ、あの、僕……っ」 カァァァッ


幽霊「これは、忠告です」

幽霊「もう二度と私に近付いてはいけません」

幽霊「他の幽霊にも関わってはいけません」

幽霊「幸せに生きたいのなら、私達みたいなものは無視しなさい」

幽霊「そして生きている人達と仲良くなりなさい」

幽霊「……私は、仲良しの家族を作るのが夢でした」

幽霊「お父さんがいなくて、お母さんもいつも出掛けていて、一人きりで」

幽霊「だから、仲良しの家族を作って、みんな幸せに暮らすのが夢でした」

幽霊「できれば私の代わりに、私の夢を叶えてください」 ニコッ

少年「ま、待ってよ! そんなの……っ」

幽霊「……さようなら」 バチッ

少年「あっ」 フラッ

少年(目が覚めると、僕は一人で倒れていて、あの人はいなくなっていた)

少年「こんなのって、ないよ……」

少年(あんなの、自分勝手だ)

少年(自分勝手に願いを押し付けて、消えてしまって、そんなのってない)

少年「どうしろって言うんだよ!」

少年(こんな気持ちだけ残して消えるなんて)

少年「うっ、うぅ……っ」 ポロポロッ

少年(このまま泣いて待っていれば来てくれるかもしれない)

少年(そんな風に思って日が沈むまで待っても、あの人は来なかった)

少年(何もする気がしないまま二日が過ぎて)

少年(僕は学校を休んで部屋にいた)

少年「……」

少年(会いたい)

少年(あの人に会いたい)

少年(近付くなって、あの人はそう言ったけど)

少年(それでも僕は……)

少年「会いたい」 スクッ

少年(いつもの場所に行っても、あの人はいない)

少年(でも、ここ以外にあの人がいる場所を僕は知らない)

少年(考えてみれば、僕はあの人の名前も知らなかった)

少年(何も知らない。あの人が教えてくれた少しの事しか僕は知らない)

少年「あ」

少年(もう一つだけ、僕は知っていた)

少年(僕らが初めって会った、通学路の道)

少年(あの人がいたアパートを、僕は知っていた)

男(そろそろ限界だよな……)

男「はぁ」 ボーッ

男(毎日あいつを探して歩き回って、有給も使い果たして)

男(部屋にいる間もこうやって窓の外ばかり眺めて)

男「……会えなけりゃ謝れもしねえだろうが」

男「ん?」

少年「……」 ジィッ

男(あの子供、なんでこの部屋を見上げてるんだ?)

少年「あの!」

男「……?」

少年「その部屋に、幽霊いませんか?」

男「知ってるのかっ!?」 ガタッ

少年「あの」

男「入れ」 ガチャッ

少年「……」 スッ

男「で、何を知ってるんだ?」

少年「それは……この部屋に幽霊がいる事、です」

男「それだけか?」

少年「いるんですね」

男「答えろ。それだけなんだな?」

少年「いるなら会わせてください」

男「いいから答えろ!」

少年「会わせてください!」

男「こっちが会いてぇんだよッ!!」

少年「え?」

男「……クソッ」

少年「僕は、あの人の友達です」

少年「数日前にいじめられている所を助けてもらって」

少年「それから話をして、友達になりました」

少年「子供の頃の話や、これからの話をしました」

少年「だけど、一方的に別れて、あの人はどこかへ行ってしまいました」

少年「だから僕は、あの人を初めて見たこのアパートに来ました。あの人を探しに」

男「俺はあいつの……同居人だ」

男「引っ越し先のここにあいつがいて」

男「しばらくは無視して過ごしてたが、見える事がバレちまって」

男「それからはくだらない話ばっかしてたよ」

男「だけど、暴れるあいつに怯える俺を見て、あいつは消えちまった」

男「それからずっと探し続けてるが、未だに手掛かり一つも見つけられてない」

少年「これでお互いの事がわかりましたけど」

男「ああ。だが、俺達の知りたい事は分かってない。にしても、あいつは人から逃げなきゃ気が済まないのか?」

少年「そういう言い方はやめてください、あの人は僕のためにしてくれたんです!」

男「相手のためなら何してもいいのか、おい?」

少年「そんな事言ってないじゃないですかっ!」

男「……ガキ相手にムキになっても仕方ねえか」

少年「……」 ムスッ

男「このままじゃダメだな。……探しに行くぞ」

少年「え?」

男「歩かないと話にならないだろ。……ついでに、あいつの話でもしようぜ。俺ら以外に誰も見えないんだからよ」

少年「そう、ですめ」

「ね」だ。眠いわ

男「いないな」

少年「ええ。……それよりも、気になる事があるんですけど」

男「奇遇だな。俺もだ」

少年「なんだか、僕とあなたの話すあの人が、ちょっと違う気がするんですけど」

男「そうだな。その、なんだかよく分からん力とか、消えたり現れたりするのってなんだ?」

少年「最初からそうでしたから、特に気にした事がないんですけど」

男「それに、お前他の幽霊は見えないのか?」

少年「あまり……」

男「そりゃ良いな。見えすぎても疲れるぞ」

少年「あの、もしあの人が見えないように消えてたら、分からないんじゃ……」

男「俺になら見えるかもしれないぞ」

少年「……僕には見えないあの人が、あなたには見えるってことですか?」

男「多分、お前より俺の方が霊視の力が強いんだよ」

少年「そんなの嫌だ!」

男「うっせぇよ! んな事言ってもどうしようもねえだろ!!」

少年「う……っ」 ゾクッ

男「……っ!」 ゾクッ

少年「い、今の何ですか?」

男「……マジモノの心霊スポットの近くに来ると、今のと似た感覚がする」

少年「それって」

男「普段なら絶対に近付かないけど、今は行く以外にねえ」 キッ

少年「ぼ、僕も行く!」

男「やめとけ、死ぬぞ」

少年「僕だって本気なんだっ!」

男「なら勝手にしろ」 スタスタッ

男「は……はぁ……う……っ」 フラッ

少年「うぅ……」 フラフラッ

男「うぇ……っ」 フラッ

少年「何、ですか……これ……っ」 フラフラッ

男「頭痛ぇ……」 

少年「うぅ……」

男「いる……この先にいるぞ……っ」 フラフラッ

少年「もう、ダメだ……」 ガクリッ

男「……」 フラフラッ

バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン
バン       バンバンバン゙ン バンバン
バン(∩`・ω・)  バンバンバンバン゙ン
 _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
    \/___/ ̄

  バン    はよ
バン(∩`・д・) バン  はよ
 _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/   
  ̄ ̄\/___/

      ; '     ;
       \,,(' ⌒`;;)
       (;; (´・:;⌒)/
     (;. (´⌒` ,;) ) ’
(  ´・ω((´:,(’ ,; ;'),`
( ⊃ ⊃ / ̄ ̄ ̄/__
    \/___/

ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチ
ポチ     ポチポチポチポチポチポチ
ポチ(∩`・ω・) ポチポチポチポチポチ
 _/_ミつ/ ̄/_
      /_/

意識ぶっ飛ぶ寸前に眠いんで、
変なこと書いてたら言ってくれ。ちょっと自己判断できない

男「いた、な」

幽霊「お久しぶりですね」

男「ああ、久しぶりだな。お前何勝手に消えてんだ?」

幽霊「私なりに考えた結果です」

男「幽霊と人間は一緒にいない方がいいってか? 勝手に決めてんじゃねえよ」

幽霊「……」

男「謝らせろよ! 何勝手に謝って勝手に感謝してんだよ? 人の結論まで決めてんじゃねえよ!」

幽霊「ごめんなさい」

男「だから……っ、俺がごめんなさいだろ! 俺は、いきなりあんなの見せられてビビっただけで、お前にビビったんじゃねえよ!」

男「だから勝手に俺から離れてんじゃねえよ!」

幽霊「ごめんなさい……ごめんなさい、もう遅いんです……」 ニコッ

男「遅いってなんだよ? 勝手に決めてんじゃねえよ、遅いかどうかなんて」

幽霊「違うんです、そうじゃないんです、そういう事じゃないんです」

幽霊「全部、全部同じ事だったんです」

男「同じ? 何がだよ」

幽霊「私が、あの部屋から離れられたのも、あの時私が化け物になってしまったのも」

幽霊「全部同じ事だったんです。私は、悪霊になる途中だっただけなんです」

男「悪霊って、お前が? そんなわけないだろ、お前みたいなバカが誰を呪うんだよ」

幽霊「この世に生きる人すべてを、です」

幽霊「生きてる人が憎い。誰かと生きられる人が憎い。幸せに生きられる人が憎い」

幽霊「私はもう死んでいるから、だからすべてが憎いんです」

男「……」

幽霊「誰かヲ憎まなけレば。誰かを憎メと声がするから……だから、もうダメなんです」

男「本当にダメなのか?」

幽霊「はい」

男「じゃあ俺を殺せよ」

幽霊「はい?」 ピクッ

男「俺も悪霊になるから。それでいいだろ」

幽霊「いいわけないでしょう!? 頭どうかしてるんじゃないですか!?」

男「頭どうかしてて悪いのかよ。好きなんだよ」

幽霊「はぁ!?」

男「お前が好きなんだよ」

幽霊「な、何言ってるんですか!? 私は幽霊ですよ!」

男「だから何だよ? 俺の事を散々変態呼ばわりしてたのはお前だろ、幽霊くらい守備範囲内だ」

幽霊「そ、そ、そんなの、今更言われたって、大体メタボだし、そんなの嬉しくないですからッ!!」

男「うるせぇな、どうせ俺以外相手にしてくれない幽霊女なんだから俺のこと好きになっとけばいいだろ!?」

幽霊「ひ、ひ、酷いです!! 他にも私のこと見える子だっているんですからね!?」

男「若い方がいいってか? このショタコンの変態が!」

幽霊「誰か変態ですか!?」

男「とにかく! 俺と一緒にいろ! いや、意地でも俺が一緒にいるからな!」

幽霊「あなたは私のストーカーですか!?」

男「お前が悪霊になるなら俺も悪霊になる、俺が生きてるかぎりお前も一緒に連れてく。絶対にだ」

男「それで俺が寿命で死んだ後で一緒に人生やり直して、お前の夢を叶えればいいだろ」

男「何か不満あるかよ、来世まで見据えた俺の人生設計プランに」

幽霊「でも私……もう悪霊に……」

男「知るか、どうにかしろ!」

幽霊「……一から十まで滅茶苦茶です。大体私、あなたの事なんて少しも好きじゃないですからね」

幽霊「でも……これからあなたが死ぬまで何十年かありますし、それまでに私を好きにさせてくれるなら」

幽霊「そのプランに乗ってあげてもいいですよ?」

男「おうよ」

幽霊「ええ。……これからゆっくり、憑り殺してあげますからね」 ニコッ

少年「終わったんですか?」

男「ああ」

少年「……もしかして、後ろにボンヤリいる人が?」

男「ああ、守護霊になったっぽい」

少年「そうですか」

幽霊「もう私、悪霊でもないし見えないよね」

少年「……僕、幸せになるから」

幽霊「うん」 コクリッ

少年「ばいばい」 タッタッタッ

幽霊「ばいばい。幽霊の私の、初めての友達」

男「……」 カチッ

幽霊「ダメです! エッチな動画を観る時はおっぱいの大きいのは禁止です!」

幽霊「あ! また痴漢ものなんて見て! 痴漢は犯罪ですよ!」

男「……」 カチッ

幽霊「こ、これは……ゆ、幽霊とのエッチなんて非合法ですっ! 現実的じゃないですっ!」

幽霊「まさか……わ、私とこんな風にエッチがしたいっていうメッセージなんですか!?」

幽霊「お手伝いくらいならしますけど、こんな生きてるみたいには……」 モジモジッ

男「うっせーよッ!!! オナニーくらい自由にさせろよッ!!」

幽霊「私は真後ろから離れられないんですからね! もっと気遣ってください!」

男「知らねーよ! もう勝手に成仏してろよ!」

幽霊「酷い! 呪い殺してやるッ!」

男「やれるもんならやってみろやギャァァァァァッ!?」 ジタバタッ

幽霊「ふふ」

男「この……悪霊ッ!!」

幽霊「ええ。一生成仏なんてしてやりませんからね」 ニヤニヤッ

これで終わりにするわ
多分途中で訳わからない事になってると思うけど、まあ許してよ
おやすみ

   /.   ノ、i.|i     、、         ヽ
  i    | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ        |
  |   i 、ヽ_ヽ、_i  , / `__,;―’彡-i     |
  i  ,’i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三”―-―’ /    .|

   iイ | |’ ;’((   ,;/ ’~ ゛   ̄`;)” c ミ     i.
   .i i.| ‘ ,||  i| ._ _-i    ||:i   | r-、  ヽ、   /    /   /  | _|_ ― // ̄7l l _|_
   丿 `| ((  _゛_i__`’    (( ;   ノ// i |ヽi. _/|  _/|    /   |  |  ― / \/    |  ―――
  /    i ||  i` ? -、` i    ノノ  ’i /ヽ | ヽ     |    |  /    |   丿 _/  /     丿
  ‘ノ  .. i ))  ’?、_`7   ((   , ‘i ノノ  ヽ
 ノ     Y  `?  ”    ))  ノ “”i    ヽ
      ノヽ、       ノノ  _/   i     \
     /ヽ ヽヽ、___,;//?’”;;”  ,/ヽ、    ヾヽ

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