―――SSPオフィス
ナオミ「番組出演?」
ディレクター「はい。是非、今注目されているSSPの皆さんに出演していただきたいのです」
ジェッタ「や、やったじゃんキャップ! サイトの宣伝にもなるし受けるっきゃないよ!」
ナオミ「う、うん、そうだけど……」
ディレクター「心配はいりません。番組の進行役にはプロを呼びますから、そこは任せておけば大丈夫です」
ナオミ「そうですか……ところで、テーマは何なんですか?」
ディレクター「恐らくSSPの皆さんもご存じかと思いますが、津軽海峡で最近目撃証言があるUMAのことです」
シン「ああ! 海中から高速で飛び出してくるとされる謎のUMAですね」
ジェッタ「あまりにも速すぎて撮影もできず、しかも空の向こうに消えて消失することから実在も怪しまれているっていう……」
ディレクター「はい。その特集番組に出演していただけないでしょうか」
ジェッタ「キャップ!」
ナオミ「よーし……。分かりました! そのお話、ありがたくお受けします!」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1487088056
※ウルトラマンオーブとアイドルマスターシンデレラガールズのクロスSSです
※最終回後ですがガイさんが日本にいます
※↑より無理な展開と設定がたくさんあります
※過去怪獣のリメイクという形でオリジナル怪獣がいます
※閲覧の際には以上のことにお気を付けください
※登場アイドル
浅利七海(14)
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira128416.jpg
―――一か月後、青森県海星町
下北半島の最北端、海星町。
故郷である小さな港町に帰ってきていた七海は漁港脇の浜辺を散歩していた。
七海(やっぱり夜の海はきれいれすね~)
暗くて穏やかで、心が静まる。ざああっ……という心地よい波の音。
七海(……?)
しかし気付いた。山のように積み重なるテトラポッドの麓に小さな明かりがあった。
火のようだ。それがパチパチという音を立てて波の音に混ざっていた。
七海「お兄さん、何してるのれすか~?」
近寄って見てみると見た目20代半ばといった男が砂浜に座っているのだった。
木の枝を集めて火を熾し、魚を二、三匹焼いている。
男「嬢ちゃんこそこんな時間に何やってんだい」
七海「お散歩れすよ~。七海は海が好きなので~」
男「そうか。だけど、この海はちょっと危険だな」
男の言葉に、七海は首を傾げた。
七海「海はどこでも危険れすよ? 気まぐれじゃない海なんてありませんし~」
男「そうだな。だけどここは、別の奴が海を荒らしてる」
七海「別の奴……?」
男「ああ。だから、早いところここから逃げた方がいいぞ」
七海「でも~……そうはいかないのれすよ~。明日撮影で海に出なくちゃいけないれすし~」
男「撮影?」
七海「はい~。SSPっていう人たちと一緒に海の調査をするのれす~」
七海がそう言うと、魚を頬張っていた男が突然むせだした。
七海「だ、大丈夫れすか?」
男「あ、ああ……。あいつら、また無茶なことやろうとしてんのか……」
七海「? 知り合いなんれすか~?」
男「ちょっとな」
男は難しい顔をしながら軽く溜め息をついた。
男「忠告しておくが、やめた方がいいぞ。危険だ」
七海「ん~……でも~七海にとっても気になることなのれす~」
男「何がそんなに気になるんだ?」
七海「ちょっと長い話になりますから座りますね~あと、美味しそうだからもらってもいいれすか~?」
七海は男の向かいに座ると、ひょいと焼き魚を頬張った。
男「あ、おい」
七海「あとでお返ししますから~」
男「はあ……まあいいや。で、何が気になるっていうんだ?」
七海「あれは昔々……七海が年端も行かぬオボコで~この髪も真っ黒だった時の話れす~」
男「つまり何歳?」
七海「六歳れす~」
男「わかった、続けて」
七海「六歳の七海は一度だけ父さまに無理を言って船に乗せてもらったことがあったのれす」
父親は猛反対したが、あまりにしつこいし、周りも宥めるし、気候も落ち着いているということで渋々承諾してくれた。
出港の時の興奮は今も覚えている。間を置かず訪れた船酔いの悪夢もセットで。
七海「その日は本当に快晴で、まるで空にも海が広がっているみたいで~。……でも海は突然、裏の顔を剥き出しにしたのれす」
まるで侵入者を許さないとでも言った風に荒れ狂い出した海。豪雨、強風、大浪。
大きくせり上がる波に乗せられた船は無抵抗に踊らされ続けた。
七海「そして……七海は船から海に落ちたのれす。どっぼーんと。あの時は何が起こっているのか全くわからなくて~……」
もがいてももがいても何もできず、鼻と口にしょっぱい水が流れ込んで頭の奥がつーんと痛くなった。
まるで怪物の腹の中にでもいるよう。捕らわれた者は何もすることができない。
七海「でも……」
男「でも?」
七海「そのとき、見たんれす。海の底に星があったんれす」
男「……星……?」
七海「大きく輝いて、周りを青く照らしてました。そしたら七海の体がぶわって浮き上がって――」
男「……海面に出ていた?」
七海はこくりと頷いた。
七海「今でもあの感触は忘れられなくて~……父さまたちは大きな魚のような影が見えたって言ってました」
男「なるほどな……それを探しに行きたいのか」
七海「はい~。また会えたらお礼が言いたいのれす。だから明日の撮影はキャンセルなんてできないのれす」
男「そうか……」
七海「ところで~お兄さんは名前、なんて言うんれすか?」
男「え? ああ、言ってなかったな」
男は最後の魚を食べ終わると、その串を火の中に放り投げて言った。
男「俺はクレナイ・ガイ。よろしくな」
ガイが火を消すと、辺りは真っ暗闇になった。七海は腰を上げてスカートの砂を払いながら言った。
七海「さて~ガイさんはこれからどうするのれすか?」
ガイ「ここで寝るよ。何かないか見張ってなきゃな」
七海「でも寒いれすよ? さっきの魚のお礼に、うちに来ません~?」
ガイ「えっ?」
七海「うち、すぐそこなんれす。今ちょうど父さまたちが宴会してるから、おいしい料理もありますよ~」
ガイ「おいしい料理……」
七海「シャコの塩ゆでに~サクラマスやマグロのお刺身も~とれたてピチピチの海の幸れすよ~」
ガイ「……い、いいのか?」
七海「はい~。海の幸はみんなで分け合ってみんなで笑顔になるのが一番れす~」
―――七海の家
そして、連れて行かれた先で……。
父「君ガイくんって言うのか! さあもっと飲め飲め!」
ガイ「い、いや、俺は酒は……」
父「一人娘が故郷に錦を飾ったんだぞー! 今日飲まないでいつ飲む! さあ!」
ガイ「は、はあ。いただきます……」
父「では七海のデビュー曲でも歌うとするか! うみぃ~のぉ~~おさかなぁ~のぉ~~」
男「浅利さん違う違う! それじゃあ演歌じゃ!」
父「うっさいわい! 今のじぇいぽっぷなんてわしにはわからん!」
と、そのまま調子はずれの歌声が響いて周りは大声で笑い転げる。
……といった感じのどんちゃん騒ぎの真ん中にガイは放り込まれてしまったのだった。
ガイ(……どうしてこんなことに……)
―――翌日、海星町の波止場
七海「こんにちは、浅利七海れす! そしてこちらが今日のゲスト、SSPの皆さんれす~!!」
ナオミ「ど、どうも~」
ジェッタ「よ、よろしく~」
テレビカメラを前に緊張した面持ちのSSPの三人。
対照的に七海は慣れたもので、海の景色や今回の目的について上手にコメントして番組を進行していた。
―――七海の家
一方、七海の家では……。
ガイ「くー……かー……」
酔い潰されたガイはお昼になった今も、まだ夢の中にいた……。
―――船
七海「では~SSPと調査員の皆さんを乗せて出発進行ーーっ!」
ディレクター「はい、オッケー! 七海ちゃん、良かったよー!」
七海「えへへ~ありがとうござ……い……」
ナオミ「あ、浅利さん? 顔色悪いけどどうしたの?」
七海「よ、酔ったみたいで~……」
ナオミ「え、ええ!? 大変、酔い止め酔い止め~!」
シン「というかキャップもジェッタくんもよく無事ですね……。僕ももう無理ですぅ」
ジェッタ「シンさんまで! もうちょっとSSPの根性見せろよ!」
シン「根性なんて非科学的です~……」
ディレクター「あ、あはは……賑やかだな……カメラ回しとけばよかったな……」
どたばた騒ぎながらも船は津軽海峡のど真ん中に到達した。
すると――
研究員「大変です!」
ナオミ「! どうかしたんですか」
研究員「明らかに魚じゃないサイズの反応がソナーにありました! 来てください!」
興奮した様子の研究員の後に七海たちは続いた。
操舵席の脇に設置されているソナーがピコン、ピコン……と断続的に音を立てている。
シン「ジェッタ君! 一緒に来てください!」
ジェッタ「え!? ちょ、ちょっとシンさん!」
シンはジェッタの腕を引っ張って操舵席を飛び出した。
シン「カメラを構えてください!」
背負っていたリュックから何やら珍妙な機械が取り出された。
それをルアーの代わりに釣竿の先に取り付け、海に放り投げた。
ジェッタ「シ、シンさん? それ何?」
シン「高性能360度水中カメラです。これで水中の様子がわかりますよ!」
確かに釣竿の持ち手にセットされたタブレットに水中の様子が映っている。
二人を追って甲板に出てきたナオミと七海がそれを覗き込んだ。
七海「すごいれすね~。もしかしたら……」
あのとき助けてくれたお魚さんとまた会えるかもしれない。七海は唾をごくりと飲み込んだ。
―――七海の家
ガイ「――!」
畳に敷かれた布団の上でガイはがばっと起き上がった。
部屋の明るさに驚き、それから壁の時計に目をやる。「しまった」と呟いて部屋を出る。
母「あ、ガイさん起きた? ごめんなさいね、昨夜は主人が……」
リビングから聞こえてきた声に適当に相槌を打って家から飛び出した。
目の前に広がる海に向かって駆け出す。顔を上げて空を見ると、そこには――
ガイ(来るか……)
―――船上
シン「! ジェッタ君、北北東です!」
ジェッタ「了解!」
その方角にカメラを向けるジェッタ。同時に大きな水しぶきが立ち昇った。
七海「……!」
空中に飛び上がる黒い影。一瞬にして視界から消える。
それを追って顔を上げる。七海は瞬きした。空がいつの間にか暗くなっていたからだ。
黒い影はその中で霞むように消える。なにぶん一瞬のことで、何が起こったかよくわからない。
シン「ジェッタ君、撮れましたか!?」
ジェッタ「バッチリ! 前みたいなヘマはもうしないって!」
ハンドカメラを操作して録画した映像を出す。
海面から影が飛び出してきたところで一時停止し、その姿をあらわにする。
ジェッタ「これが……UMAの正体……」
七海「トビウオ……?」
それは確かにトビウオのような姿をしていた。細長い体と、左右に広げる羽のようなヒレ。
しかし普通のトビウオとは違い、その体は炭に塗れたように真っ黒に染まっている。
ジェッタ「シンさん、これってもしかして――」
ジェッタがシンを見ると、彼は頷いてタブレットを操作し始めた。
ナオミと七海は変わらずハンドカメラの画面を見ている。七海は眉を顰めて呟く。
七海「目が……」
その怪魚は目が赤く光っていた。アカメのように角度によって赤く見えるのではない。それ自体が確かに光を放っている。
研究員「大変だ!」
その時、操舵席から大声が飛んできた。みな一斉にそちらを向く。
研究員「ソナーの反応が一気に増えました! この下に何かが大量に――」
言い終わるより前に水しぶきの音が声を掻き消す。その音が何度も続く。
船の周りで海面から黒い影が大量に飛び出してくる。
七海「な、何が起きてるのれす……?」
デッキの端で手摺を掴み、海に身を乗り出す七海。その脳裏にガイの言葉が過ぎった。
『だけどここは、別の奴が海を荒らしてる』
七海「もしかしてガイさんが言ってたのって……」
ナオミ「え、何? ガイさん?」
そのとき、船が大きく揺れた。すぐ近くから飛び出してきた怪魚がいて船の脇腹にぶつかったのだ。
ナオミ「きゃあああっっ!?」
七海「っ……!!」
―――陸
波止場への道を走り続けるガイ。しかし海から大量の影が飛び出してくるのを見て足を止めた。
ガイ「くそ……!」
オーブリングを取り出し構えると、リングが淡い光を放った。
ガイ『ウルトラマンさん!』
『ウルトラマン!』
ガイ『ティガさん!』
『ウルトラマンティガ!』
ガイ『――光の力、お借りします!』
『フュージョンアップ!』
『ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン!』
ナオミ「あ、……あれ!」
ジェッタ「! オーブ!」
ナオミが指さした方を見ると、陸の方からオーブが飛んできていた。
オーブ「シュワッ!」
オーブはまるで水泳選手のように腕を伸ばして海に飛び込んだ。
オーブ「……!」
海の中に入ると夥しい数の怪魚が視界に入った。
ぱっと見ただけでも200か300はいる。しかもこれは氷山の一角だ。
オーブ『スペリオン光輪!!』
手のひらに光輪を形成し投擲する。光輪は無数に分裂し、怪魚を次々に切り裂いていく。
??「ガァァァアオオオオ……ッッ!!!」
オーブ「!」
するとそれが逆鱗に触れたかのように、低い唸り声が深海から響いてきた。
オーブは絶えず湧いてくる怪魚を切り裂き続けながら声の元へ潜っていった。
―――船上
ジェッタ「急に出てこなくなったな……」
ナオミ「オーブが海の中でやっつけてくれてるのかな」
一方、船上。さっきとは打って変わって海は静かになっていた。
と、そんな中で「あーーっ!」という声が上がった。シンがタブレットを持って走ってきた。
ジェッタ「見つかった?」
シン「はい。恐らくこれじゃないでしょうか」
見せてきたタブレットの画面には古文書のようなものが映っていて七海は首を傾げた。
七海「これは……?」
シン「『日本太平風土記』です。太古に現れた怪獣や、未来の予言などが載ってるんですよ」
七海「へえ~……」
ジェッタ「で、何だったの?」
シン「読みますね。『天に黒雲渦巻きし時、海の底より黒魚現れ天へと向かわん』」
ナオミ「なるほど、合ってる」
シン「そして続きがこれです」
『天より生まれ落つる怪獣、その名を“禍狗雑矛”、破壊の限りを尽くす』
七海「……まが……く……ぞ、む?」
SSPの三人は驚いて七海の顔を見た。
七海「あ……いや~……」
ジェッタ「いいね、『怪獣マガクゾム』。それでいこう!」
七海「……そんなんでいいんれすか~……?」
―――海底
津軽海峡水深450メートルに到達したオーブはそこに潜む怪獣の姿を目にした。
尾を長く伸ばした二足歩行の怪獣。その額には赤いマガクリスタルが光っている。
オーブ『やはり“海ノ魔王獣”か……!』
マガクゾム「ガァァァオオオッ!!」
オーブ「シュワッ!」
水底に降り立ちファイティングポーズを取る。
光も届かぬ深海で、自らが放つ光を頼りにして怪獣に向かっていく。
マガクゾム「シャァァァアアオオッ!!」
怪獣が指先から紫色の光弾を放つ。一発目を手刀で薙ぎ払い、オーブは水底を蹴る。
次々と飛んでくる光弾。飛行の要領でそれを躱し、怪獣の身体に飛びつく。
マガクゾム「ガァァァアアッ!!」
オーブ「ジュアッ! セエアッ!!」
押し倒した怪獣の首にチョップを加えていくが、その手を掴まれる。
身動きができなくなったところを頭突きされ力が緩む。怪獣が身を捩り、オーブの下から脱出する。
マガクゾム「ガァァッ!」
オーブ「! デアッ……」
起き上がったマガクゾムは尻尾を振り回してオーブを弾き飛ばした。
オーブが水底に倒れる。柔らかい土が砂埃のように巻き上がる。
マガクゾム「ガァァァオオオッ……!!」
そのままオーブを踏みつけようとするマガクゾムだったが、オーブはそれよりも先に脚を折り曲げ、迫る怪獣を蹴り飛ばした。
よろけながら後ずさりするマガクゾム。オーブは身を起こし、右腕を掲げ上げる。
オーブ『――スペリオン光線!!』
十字に組んだ腕から光線が放たれマガクゾムに向けて一直線に突き進む。――しかし。
「キィィィィイィイイ!!!」
オーブ「!」
どこからともなく現れた怪魚の群れが盾となり、光線を防いだ。
マガクゾム「キィィィッギィィィッ!!」
オーブ「……!」
―――船上
一方その頃。
ナオミ「な、何が起きてるの……!?」
ジェッタ「シンさん、怪魚は天へ向かうんじゃなかったの!?」
シン「わかりませんよ僕にだってそんなことぉ!」
船はパニック状態になっていた。空に昇っていた無数の怪魚が突然再び海の中に飛び込み始めたのだ。
そのたびに大波が起こり船が揺れる。ここから脱出しようと思っても槍のように怪魚が降り注ぐ中だ。無理に動くと衝突する可能性もある。
七海「うぅっ、いったい、どうしたら~……!」
必死で手摺に掴まりながら揺られ続ける。
そのとき、船が大きく傾いた。怪魚が船首にぶつかり、船尾が大きく跳ねあがったのだ。
七海「――――」
その勢いで、七海は――
ジェッタ「! 七海ちゃん!」
ナオミ「浅利さんっ!!」
SSPの三人や取材クルーのみんなの声が聞こえ、そして消えた。
全身を包む冷たい水の感覚。春なのに、氷のように冷たく、そして暗い水の中――
七海「――――」
激しい水流にもがくことすらできず、七海は水底へと沈んでいった。
ジェッタ「――ぷはっ!」
ナオミ「ジェッタ! どう!?」
ジェッタ「ダメだ、見つかんない!」
海面から顔を出したジェッタが絶望的な声で叫ぶ。
シン「さっきまでこんなことなかったのに、急に水流が激しくなってるみたいです!」
360度の水中カメラを確認するシンだがそれでも見つからない。操舵室のソナーにも反応がない。
ジェッタ「くっそ……! 七海ちゃーん!! どこだーー!?」
―――海底
「キィィィィ!!」 「キシャアアアア!!」 「キィィィィッッ!!」
オーブ「……!」
海底ではオーブが驚いていた。突然怪魚が群れで襲来したのだ。
オーブがここに来るまでに怪魚はほとんど倒したはずだが、恐らく目撃証言があった日に海から出た個体だろう。
「キシャアアア!!」
オーブ「グッ、デアッ……!!」
怪魚はヒレをハサミのような形に変形させ、オーブの首や腹に噛みついた。
それが五匹。払いのけようとしても中々離れない。四苦八苦しているうちにマガクゾムが新たに行動を起こす。
マガクゾム「シャァァァアアオオッ!!!」
「キィィッ!!」 「キシャアア!!」 「キィィィッ!!」
マガクゾムが叫ぶと呼応するように、泳いでいた怪魚たちが一斉にその身体に向かった。
それが次々と吸収されていく。怪獣の身体が光る。その両腕が鎌のようになり、胸には銀色の装甲が纏われた。
オーブ「……!!」
マガクゾム「ガァァアアアア!!!」
強化態と化したマガクゾムが水面を仰いで叫ぶ。するとその周囲に黒い渦のようなものが現れた。
オーブ「ジュアッ……!?」
引き込まれるような急激な水流が起こりオーブがふらつく。
かと思えば突き放される。上下左右縦横無尽に水が荒れ狂う。すると渦が突然収縮した。いや、集約された。中心にいるマガクゾムに。
オーブ「!」
オーブは目を見張った。目から透視光線を出して辺りを見回す。
しかしどこにも怪獣の姿はない。あの渦はワームホール。それによって怪獣は別の場所に空間転移されたのだ。
オーブ「グゥゥッ……ジュアッ!」
噛みついている怪魚たちを力任せに引きちぎり、オーブは海面へと急いだ。
―――船上
ジェッタ「七海ちゃーん!!」
ナオミ「浅利さーーん!!」
シン「……!」
船上。ジェッタとナオミの二人は声を張り上げ、シンは水中カメラを操作して七海を捜索していた。
しかし何の応答も反応もない。「くそっ」と声を荒げてジェッタが空を仰ぐ。同時に彼は目を見開いた。
ジェッタ「ね、ねえキャップ。あれ何……?」
空に向けて指をさす。黒雲の中に異質な渦があった。
その中から何かが顔を出す。赤い瞳が光る巨大な怪獣の頭部が。
ナオミ「あれが……『マガクゾム』……?」
マガクゾム「――ガァァァオオオッ!!」
雄叫びを上げたマガクゾムは渦から抜け出、陸まで飛んで着陸した。
漁協を蹴り飛ばし、鎌から放つ光弾で港町を破壊していく。
オーブ「――シュアッ!!」
オーブが海面から現れ、彼もまた陸に移動する。町を守るために怪獣の背中に飛びつく。
マガクゾム「キィィィギィィィイッ!!」
身体を振り回しオーブを撥ね退けるマガクゾム。振り返ると同時に右腕の巨大な鎌が振るわれる。
オーブ「グッ!」
間一髪でスウェーしてそれを躱す。空を切った鎌はヒュオオッ!!という甲高い音を立てる。
マガクゾム「シャァァアッ!!」
しかし間を置かず繰り出された第二撃は躱せなかった。左腕の鎌が振り下ろされ、オーブの胸から火花が飛ぶ。
オーブ「ジュァッ……」
マガクゾム「ガァァアアアッ!!」
そして怯んだところに放たれる光弾。まともに受けたオーブは背後に吹っ飛ばされた。
オーブ「グッ……ジュアアッ……!」
胸のカラータイマーが赤く点滅し出す。構うことなくマガクゾムは歩を進める。
マガクゾム「ガァァァオオオッ!!」
(七海は――)
(どうしたのれしょう……?)
沈んでいく。どこまでも深く。それなのに、何故か痛みも苦しみも不快感もない。ただただ、沈んでいく。
(海の底――)
(お魚さんたちが……泣いてる……?)
いつもと違う海の様子に驚き、動揺し、怯え、哀しむ。
魚たちにそんな感情があるのかなんてわからないけれど、何故かわかる気がした。
(七海は――)
(七海は――……)
意識が溶けていく。ヘアピンがどこかへ行って、長い髪が無秩序に広がっていく。
そういえば、と思い出す。この髪が青くなっていったのは。“あの時”。海に落ちてから。
(そこに、いるんれすか……?)
七海は目を閉じた。
瞼の裏に深海が見えた。
そこに、星空が広がっていた。まるで空が海を映すように、深海が夜空を映していた。
(……あなた、だったんれすね……)
その真ん中に一際大きく輝く太陽。蒼白い光の塊。
七海はそれに向けて手を伸ばした。ゆっくりと。腕を伸ばした後、指の関節を真っ直ぐに。
泳げないのに、それに近づいていく。ゆっくりと。
近づくにつれて光の塊はどんどん大きくなっていく。予想外に大きい。自分の身体なんて呑み込めてしまえそうな程に。
(そう……れすよね)
(海は……)
(海は、大きな存在れすから……)
とうとう、指先がそれに触れる。七海は目を開いた。
そして掴んだ。両手をぎゅっと握りしめた。
浮遊感。ぐっと、天に昇っていく感覚。
忘れもしない。これは、あの時と同じ――
オーブ「グゥッ……!」
マガクゾム「ガァァァアアッ!!」
蹴飛ばされたオーブはその勢いのまま転がって距離を取った。
立ち上がり、渾身の力でスペリオン光輪を放つ。しかし――
マガクゾム「シャァァァアアオオッ!!」
マガクゾムが振り下ろした鎌に切り裂かれ、光輪が消失した。
オーブが膝を突く。胸のカラータイマーは今なお絶えず点滅を繰り返す。
マガクゾム「ガァァァオオオッ!!」
マガクゾムが雄叫びを上げ、今にもトドメの攻撃に移ろうとしたその時――
オーブ「……!」
その異変に気付いて、オーブは海に目をやった。
海面に線が走っていた。それが亀裂となって、まるで地割れのように両側が開いていく。
ジェッタ「う、海が割れてる……!?」
シン「一体何が起きてるんですか……!?」
ナオミ「二人とも、あれ!」
オーブ『あれは……』
開かれた海の底に、淡い光に包まれた巨人がいた。
全身を青に包んだ巨人だ。突いていた片膝をおもむろに上げ、身体を起こす。
巨人「…………」
その周囲に青い光が昇り、巨人の姿が消失する。
巨人「――デヤアアーーッ!!」
かと思えば、巨人が上空からマガクゾムを蹴りつけた。悲鳴を上げながらマガクゾムが倒れる。
巨人「…………」
静かにオーブを振り返る巨人。その姿にガイは見覚えがあった。
オーブ『あなたは、アグルさん……?』
かつて別次元の地球で出会った海の巨人、ウルトラマンアグル。
オーブ『でも、どうしてここに……』
アグルはそれに答えることなく、立ち上がった怪獣に向き直った。
アグル「デヤア!」
マガクゾム「シャァァァアアオオッ!!」
鎌を構え、マガクゾムが光弾を放つ。アグルは左掌に右手の拳を当ててそれを迎え撃つ。
アグル「ジュアアッ!!」
アグルが右手を振る。青い一閃が空間と共に光弾を切り裂いた。
エネルギーで形成した“アグルブレード”が右手から伸びていた。それを振りかぶり、マガクゾムに斬りかかる。
アグル「デアッ!」
マガクゾム「シャアアッ!!」
両腕の鎌でそれを受け止めるマガクゾム。しかしアグルはすぐさま身を翻し、空いた脇腹を切りつけた。
マガクゾムが鎌を振るう。同時に身を屈め、立ち上がると同時に斜め上に怪獣の身体を斬り上げる。
マガクゾム「ギィィィアアア!!」
遮二無二鎌を振り回すのをバク転して躱す。距離を取ったアグルは額にエネルギーを漲らせた。
アグル「――デヤアーーッ!!」
額から青色光線“フォトンクラッシャー”を放つ。――しかし。
マガクゾム「ガァァァオオオッ!!」
アグル「!」
マガクゾムの胸の装甲に光線が吸い込まれたのだ。それどころか反射された光線がアグルを襲った。
アグル「グワアアッ……!」
オーブ「……!」
アグルに追撃をかけようとするマガクゾムを見てオーブが力を振り絞り立ち上がる。
『覚醒せよ、オーブオリジン!』
ガイ『オーブカリバー!』
ガイはオーブカリバーを召喚し、その柄を握りしめた。
カリバーホイールを回すと剣に火・水・土・風のエレメントが宿っていく。それらが集約され、蒼い光になって弾ける。
オーブ「――デヤッ!!」
生まれ変わったオーブは掲げた剣で上空に光の円を描いた。
オーブ『銀河の光が、我を呼ぶ!』
アグル「……!」
立ち上がったアグルとオーブが目を合わせ、互いに頷く。
アグル「ハアアア――デアッ!!」
胸の前にエネルギーを集め、光球“リキデイター”にして打ち出す。
マガクゾム「ガァァアアアッ!!」
しかしそれもまたマガクゾムに吸収された。だがアグルは攻撃の手を休めない。吸収されるのも構わずリキデイターを連射し続ける。
オーブ「デヤッ!」
その隣でオーブは剣に火のエレメントを宿していた。
身体の前に円を描き、それをマガクゾムに飛ばす。その円は回転しながら怪獣を囲み、炎の球体となって怪獣を閉じ込める。
――と、次の瞬間。
マガクゾム「ギッィィィイィィィイッッ!?!?」
球体を突き破るように爆発が起きた。
その煙の中からマガクゾムがよろよろと現れる。その胸の装甲は見るも無残に破壊されていた。
ジェッタ「な、何が起こったんだ?」
シン「水蒸気爆発ですよ恐らく! 水を密閉状態で熱して気化させると体積が膨張することによって爆発が起きます! それであの装甲を破壊したんですよ!」
ナオミ「これで、もう光線は吸収されない……!」
『解き放て、オーブの力!』
オーブ「デヤアアアーーーーッ!!」
四つのエレメントを剣に宿し、溢れるエネルギーで上空に光の円を描くオーブ。
アグルもまた両腕を広げて青い光を迸らせ、光線の構えをとる。
オーブ『オーブスプリームカリバーーーーーー!!!』
アグル「ジュアアアーーッ!!」
オーブが突き出した剣先から、アグルが立てた右腕から破壊光線が放たれる。
二つの光線は混じり合い、二重螺旋となってマガクゾムを貫いた。
マガクゾム「――――」
悲鳴を上げることさえ許さず、マガクゾムの全身が木っ端みじんに砕かれる。
オーブとアグルは頷き合い、共に空の彼方へ飛び去った。
地上に戻ったガイは残されたマガクリスタルにオーブリングを翳していた。
赤い結晶が砕け、粒子となってリングを通り一枚のカードになる。「ウルトラマンアグル」のカードだった。
ガイ「マガクゾムを封印していたのはウルトラマンアグルさんのお力でしたか。お疲れさんです」
ガイ(この地球にも、ウルトラマンの光は存在したってことなのかもな)
ガイはオーブニカの音色を響かせながら、どこへともなく歩いていくのだった。
―――海星町・波止場
ナオミ「…………」
シン「…………」
ジェッタ「…………」
陸に戻ってきたSSPの三人だったが、その表情は重かった。
ナオミ「浅利さん……」
ジェッタはたまらないと言った表情で、海に向かって叫んだ。
ジェッタ「おーーい!! どこ行っちゃったんだよーー!!」
「お~~~い!!」
ジェッタ「おーーい!! ……って、あれ?」
三人が背後を振り返る。七海が手を振りながら走っていた。
七海「良かったれす~。皆さん無事だったんれすね~」
シン「そ、そ、それはまあ無事でしたけど……!?」
ナオミ「浅利さんはどうして……!?」
ジェッタ「海に落ちて、どこ探しても見つからなくて……!」
詰め寄るSSPの三人。七海は微笑んだまま海の方に顔を向けた。
七海「また、助けられたのれす」
シン「また……?」
ナオミ「も、もしかしてあの青いウルトラマンのこと? 彼が助けてくれたの?」
七海「話はまた後で~。とりあえず今日はこれからお祝いれす~♪」
三人「「「え?」」」
七海「海に平和が戻ったお祝い~♪ 皆さんも一緒にどうれすか~」
困惑する三人を置いて、七海は海岸沿いの道を走り出すのだった。
おしまい
[登場怪獣]
“魔王眷獣”バイアクヘー
・体長:18m
・体重:3,800t
“海ノ魔王獣”マガクゾム
・体長:65m
・体重:78,000t
津軽海峡の最深部、水深450mの深海に封印されていた魔王獣。バイアクヘーによって封印が解かれた。
プレーン体は普通の二足歩行怪獣だが、バイアクヘーを吸収・融合することで強化態になる。
強化態は両腕が鎌になり攻撃力が上がるのに加え、胸に纏った装甲で光線を吸収・反射することが可能。
バイアクヘーは魔王獣に仕える怪獣。マガクゾムを強化させたり、群れでワームホールを形成したりする。
元は『ウルトラマンガイア』OV「ガイアよ再び」に登場した“根源破滅飛行魚”バイアクヘーと“根源破滅海神”ガクゾム。
以下、過去作の宣伝。
三船美優「遥かな旋律、琥珀の夢」
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前回でダイナミラクルタイプ、今回でアグルのカードをゲットしたので次回はあれとあれ出したいです。
読んでくださった方、ありがとうございました。
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