※ウルトラマンオーブ×シンデレラガールズのSSです
※オーブの世界に346プロがあるという設定です
※過去怪獣のリメイクという形でオリジナル怪獣がいます
※捏造設定や独自の解釈などがかなり多めです
※時系列的には23話「闇の刃」より前という設定ですが、舞台をクリスマスにしてしまったために矛盾が生じています。目を瞑っていただけると幸いです
※加蓮×奈緒のカップリング要素が少々含まれますので苦手な方はご注意ください
※主な登場アイドル
渋谷凛(15) 北条加蓮(16) 神谷奈緒(17)
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◆
奈緒は街を歩いていた。
道に並ぶ店の数々からは橙色の光が溢れ出し、情緒がどこか異世界めいた風景。
広場の中央には背高の樅の木が置かれ、色とりどりに飾られている。
奈緒「…………」
煌びやかなイルミネーション。どこからともなく聴こえてくるクリスマスソングのメロディー。
(ああ、そうか……)と奈緒はぼんやり思い出す。今日は……。
奈緒(……今日?)
不意に湧きあがった疑問が、頭に亀裂を入れた。
視界がぼやけるような気がする。いや違う。「世界」そのものがぼやけている……。
奈緒(……)
これは……と、感付く一瞬前のことだった。
ぐにゃりと、ぼやけかけていた「世界」がねじ曲がった。
奈緒(…………?)
視界がぐるっと回転する。夜空が映る。真っ暗な夜空に渦を巻く黒雲が見える。
「私は、夢幻の鳥」
吐き気にも似た感覚が頭を襲う。自分はこの「世界」にいては駄目だ……そんな危険信号。
逃げなければ……だが逃げては駄目だ……逃げたくない……まだここにいたい……。
一瞬の間に繰り返される理性と欲望の対立。それでも「世界」は加速度的に歪んでいく。
「お前の大切な人が死ぬ」
黒雲の中心から覗く女の顔。雲よりも、夜よりも真っ黒な肌。額に妖しく輝く結晶体。そして、紅く光るその双眸。
「近い内に」
彫刻のような唇がぬるりと動く。今にもその端から唾が垂れてきそうなほどに、滑らかに。
「お前の大切な人が、死ぬ」
奈緒(死ぬ……)
奈緒(大切な人が……)
奈緒(死ぬ…………)
奈緒(――――――――)
奈緒「…………!」
目が、覚めた。
奈緒「…………」
夢を見ていた気がする。いや、絶対見ていた。最後の瞬間は今でも覚えている。
奈緒「死ぬ」
口に出して反芻する。その記憶を消さないために。
奈緒「大切な人が、死ぬ」
そうだ。あの……女はそう言っていた。黒い雲から顔を突き出していた奇妙な女が。
奈緒「…………」
そこで記憶はぷつんと切れていた。胸にわだかまっているものが胃の辺りで止まっているような嫌な感覚。
駄目だ、これ以上は。目を瞑って深く息を吸った。朝の冷たい空気が肺に入って、頭がちょっとだけしゃっきりする。
奈緒「はあ……はあ……」
深呼吸をして初めて、奈緒は喘鳴していたことに気付いた。
額の汗が空気に触れて冷たい。全身もぐっしょり濡れて寝間着が汗ばんでいる。
奈緒「死ぬ……」
大切な人が、死ぬ。
あんなの初めて見る。どうしてこんな夢を見たんだろう……。
母親「奈緒、どうかしたの? 様子が変だけど」
奈緒「えっ!? い、いや……何でもない」
朝食の席。無意識のうちに家族を目で追っている自分がいた。
いや、ただの夢だとはわかっているのだが。しかし最近東京では変な事件や怪獣出現が頻発しているのも気になる。
世間の不安定さが精神面にもたらした悪夢なのか、それとも……。
母親「きゃっ!?」
奈緒「!?」
キッチンの方から悲鳴が聞こえてきて奈緒は跳ね上がるように席を立った。
奈緒「どうした!?」
母親「あっつつ……あぁ、ごめん。コーヒー手にこぼしちゃって」
奈緒「は、早く冷やさないと! 火傷……爛れたところから黴菌が入ったりしたら……!」
慌てふためく奈緒に母親は訝し気な視線を向けた。
母親「どうしたの、大声出して……。そんな大層なことじゃないわよ」
奈緒「あ、ああ……」
母親「奈緒、今日変よ? 熱でもあるんじゃないの?」
奈緒「い……いや、大丈夫。大丈夫だから……」
◆
奈緒「はあ……」
溜め息を吐きながら奈緒は事務所の扉を開いた。
凛「おはよう、奈緒」
奈緒「おはよー……」
凛「どうしたの、元気ないね」
奈緒「うん……いや、大丈夫……」
凛「? そう……」
凛は軽く首を傾げたが、持っていた楽譜に目を戻した。
彼女の横に座り、横目でちらと見る。特別、変な様子はなさそうだが……。
凛「奈緒、熱でもあるんじゃない? 様子が変だけど……」
奈緒「ね、ねーよ!」
凛「いやいや、一度計った方がいいよ。ほら」
額に手を当ててくる凛。真っ赤になりながら慌てて仰け反ると、その口元が綻んだ。
奈緒「あ、お、お前ー! からかったなあたしを!」
「だって奈緒が面白かったから」と凛が笑い出す。
別の意味で顔が赤くなる。本当に熱が出てしまいそうだ。
加蓮「おっはよーって、あれ? 珍しく二人ではしゃいでる?」
扉が開いて加蓮が入ってきた。
凛に続いてあいさつを返そうとして、奈緒は目を見開いた。
奈緒「かっ、かっ、加蓮、それ!」
加蓮「あーごめん、ちょっと風邪気味かも」
加蓮の顔半分はマスクで覆われていた。居ても立っても居られず詰め寄り、肩を掴んだ。
奈緒「い、今すぐ帰れ!」
加蓮「はあ?」
驚きの表情だった加蓮が呆れたふうになる。
奈緒「体調悪いんだろ!? こんなとこに来てる場合じゃないだろ!」
加蓮「心配しすぎだって。別に熱があるわけじゃないし、喉にちょっと違和感あるだけだから」
奈緒「そ、それでも何かあったら……!」
加蓮「何、どうしたの? 熱があるのは奈緒の方じゃないの?」
凛「奈緒、過保護にするとまた加蓮が怒るよ。『奈緒なんて知らない!』って」
加蓮「えー、さっきのそれ私の真似? 似てない~」
奈緒「お前ら、これは笑いごとじゃなくて……」
加蓮「じゃあ何? 真面目に、こんな風邪で私が死ぬとでも言いたいわけ?」
奈緒「ばっ……! そんなこと言うな! そういうこと言うやつって大体その後死ぬんだよ!」
加蓮「はあ……昨夜アニメでも見たの?」
奈緒「そ、そうじゃなくて……」
凛「もういいでしょ奈緒。そろそろ打ち合わせだよ」
加蓮「そーですよ、奈緒サン?」
奈緒「…………」
◆
慶「はい、今日はこれで終わり」
三人「お疲れさまでした!」
慶「うむ。……神谷。今日は体調でも悪かったのか?」
奈緒「えっ?」
慶「全然ダメだったぞ。もう時間もないから解散にするが、次までには修正しておけよ」
奈緒「は、はい……」
◆
加蓮「――はい、というわけでファミレスまでやってきたわけですが」
凛「何その口調」
加蓮「奈緒、いったいどうしたの。……今日何度目だろ、このセリフ」
奈緒「べ、別に……」
凛「何でもない、わけないでしょ。今日ずっと挙動不審だったよ」
加蓮「うんうん」
奈緒「加蓮まで……」
加蓮「だってさ、打ち合わせの時もレッスンの時もちらちら私の方見てくるじゃん」
凛「私も気付いてた。そんなに加蓮のことが気になるの?」
奈緒「ぐっ……ち、ちが……」
加蓮「はあ~あ、私たちトライアドプリムスは最高のユニットだと思ってたのになー」
奈緒「な、何だよ急に」
凛「今日は一名ほど素直じゃない人がいるね」
奈緒「…………」
加蓮「わーこうなってしまったら解散の危機だー今までの私たちの友情も努力も全てパーにー」
奈緒「わ、わかったよ! 話せばいいんだろ話せば!」
加蓮「そうそう。それでいーの」
加蓮と凛は顔を見合わせてくすりと笑った。
奈緒「ったく……でも、聞いても笑うなよ」
加蓮「笑わない笑わない。何?」
奈緒「……変な夢を見たんだ」
凛「変な夢?」
加蓮「夢って……」
奈緒「あーもう、だから笑うな! その夢に変な怪物みたいな女が現れて予言したんだよ! 『お前の大切な人が死ぬ』って!」
凛と加蓮は鳩が豆鉄砲を食ったように、揃って目を丸くした。
加蓮「……で、奈緒はそれ信じたの?」
奈緒「べ、別に信じ込んだわけじゃないけどさ。ほら、最近物騒だし何かあったらって思うと」
加蓮「ふーん、それで私の体調に過剰反応してたってわけね」
挑発的な眼差しから逃げるように奈緒は顔を背けた。するとちょうど示し合わせたように、
?「――それ、本当の話!?」
と、後ろのボックス席から青年が身を乗り出してきた。
?「最近ネット上で話題になってるんだ。夢の中で不吉な予言を残して去っていく謎の鳥女! 君もそれ見たの!?」
奈緒「え、ええと……」
加蓮「どちら様? 盗み聞きなんてお兄さん、趣味が悪いんじゃない?」
?「あ、これは失礼……。おれ……じゃなくて僕はこういうものです」
てきぱきと配られた名刺を見る。「SOMETHING SEARCH PEOPLE」という文字の横に「SSP」のロゴ。
「社員」、名前は「早見善太」。
早見「SSPって聞いたことない? 俺たち都市伝説や怪奇現象を追ってるニュースサイトを運営してるんだけど」
加蓮「聞いたことないけど」
早見「そっかあ~……いや、それは別にいいや。君、鳥女の夢を見たんだよね? 詳しく話聞かせてもらえないかな?」
青年の顔がずいっと迫ってくる。そのキラキラした瞳に奈緒はたじろぐ。
奈緒「み、見たっていっても内容はほとんど忘れたし……」
早見「そうなんだよなぁ~。今までの目撃者も『夢だから』って理由でほとんど覚えてないんだよなあ。現在判明しているのはその姿くらい……」
奈緒「……予言は……」
早見「うん。予言は全部的中してる……というか的中した人だけ証言してるとも言えるんだけど。その夢を見た人の周囲の人物が近い内に亡くなってるんだ」
奈緒「……!」
奈緒が衝撃に体を強張らせた時だった。深い溜め息が正面の席から聞こえた。
加蓮「もういい? クリスマスイヴだからって変なナンパしないでよね」
早見「ナ、ナンパとかじゃないって! 取材協力のお礼はするからさ!」
加蓮「凛、奈緒、行くよ」
凛「え……う、うん」
勢いよく席を立った加蓮に釣られ、青年を置いて二人も後に続く。
店を出ようとしたところで奈緒は背中に強い視線を感じ、振り返った。
男「…………」
奈緒「…………」
青年が座っていた席の向かいにその男は座っていた。
焦げ茶色のジャケットを羽織り、オレンジジュースが入ったコップを傾けている。
奈緒(気のせい……?)
後ろ髪が引かれるような気はしたが、催促されて奈緒も外に出た。
奈緒「おい加蓮、どうしたんだよ?」
凛「今度は加蓮が変に見えるよ」
加蓮「……もういいでしょ、その話は。さ、帰ろっ」
奈緒「お、おう……」
さっさと歩き出す加蓮の背中を追う。駅まで来ると加蓮はくるりとターンして奈緒の方を向いた。
加蓮「それよりも、ちゃんと覚えてる? 明日のこと」
奈緒「あ、ああ。待ち合わせな」
加蓮「モーニングコールはいる?」
奈緒「い、いらないってそんなの」
加蓮「くすっ」
奈緒の頬を小突くと、加蓮はホームに下りていった。
奈緒「……ったく、何なんだあいつ」
肩にぽんと手が乗せられる。反射的に振り向くと、もう片側の頬に指が食い込んだ。
凛「引っ掛かるんだ……」
奈緒「……りーーーんーーー!!」
凛「じゃあね、また明後日」
奈緒「何事もなかったかのようにクールに去るなーーー!!」
◆
駅から出て家路についた頃には日は落ち切っていた。
ひとりになると今日のことを色々思い返してしまう。
『最近ネット上で話題になってるんだ。夢の中で不吉な予言を残して去っていく謎の鳥女!』
『予言は全部的中してる……というか的中した人だけ証言してるとも言えるんだけど』
『その夢を見た人の周囲の人物が近い内に亡くなってるんだ』
奈緒(大切な人が、死ぬ……)
電車の中でSSPのサイトを見てみた。
掲載されているものだけでも五件、死因はバラバラ。自殺、他殺、交通事故、落雷、怪獣災害。
奈緒(…………)
それが自分の「大切な人」に降りかかる可能性。
考えたくないのに考えてしまう。信憑性などゼロだと割り切ってしまいたいのに嫌な想像が脳裏にこびりついて離れない。
……「病死」はまだ記載されてない。
いや、本人の言う通り加蓮はもうすこぶる健康体だ。だけど……。
奈緒(……加蓮……)
奈緒(………………)
奈緒(………………?)
奈緒は我に返った。音楽だ。ハーモニカのような響きの物悲しい旋律が聞こえる。
奈緒「…………」
目の前の街灯の下に男がいることに気付いて奈緒は飛び上がりそうなほど驚いた。
だがその恰好に既視感を覚えて取り直した。焦げ茶のジャケットを羽織った、ファミレスにいた男……。
男「…………」
男は楽器を下ろして内ポケットにしまうと、街灯にもたれたまま首だけ奈緒に向けた。
男「……夢幻の鳥」
奈緒「はっ?」
男「奴はそんなことを言っていなかったか。お前さんの夢の中で」
奈緒「夢幻の鳥…………」
『お前の大切な人が、死ぬ』
鍵を嵌め込まれ扉が開かれたように、記憶が鮮明に、遡及的に蘇っていく。
『近い内に』
『お前の大切な人が死ぬ』
『私は、夢幻の鳥』
渦巻く黒雲。顔を突き出す女の顔。ぬるりと気味悪く動く唇――
奈緒「あ……あんたはあいつのことを知ってるのか!?」
男「…………」
男は小さく頷くと、街灯から離れて奈緒に向き直った。
男「奴は“凶ノ魔王獣”禍姑獲鳥。人の死を予言する怪鳥だ」
奈緒「『ワザワイ』の……『マオウジュウ』……?」
男「このまま手をこまねいていれば、お前さんの仲間は奴に殺される」
奈緒「……!」
唾を飲み込む。男の表情と口ぶりは真剣そのものだった。
店を出ていく時に感じた、背中を刺し貫くような視線。それが目の前から放たれて奈緒は動けなくなっていた。
奈緒「どうすれば……防げる」
男「奴を倒すしかない」
奈緒「で、でもっ! あいつを倒しても予言は的中してしまうんじゃ……」
男「違う。奴の予言は嘘っぱちだ。必ず自らの手で人を死に追いやり、予言を『再現』しているんだ」
奈緒「…………」
男「今までの『自殺』『他殺』『交通事故』『落雷』『怪獣災害』、それは全て奴が元凶になっている」
奈緒「どうやって……」
男「プラズマ生物である禍姑獲鳥は電気を操ることができる。生物の生体電流にも干渉することが可能だ」
奈緒「はあ……?」
男「電気信号を改竄することで『自殺』『他殺』『怪獣災害』を実行。『交通事故』は自動車を暴走させ、『落雷』はそのまんまだ」
奈緒「……つまり、怪獣から逃れられれば死なずに済むってことか?」
男「ああ。だが奴は神出鬼没だ。そう簡単に逃げられるとは思えない」
奈緒「……それで、倒すしかない……のか。でもどうやって」
男「時間を稼いでくれ」
奈緒「はっ?」
男「お前さんたちが逃げている間に奴の正体を暴き、そこを叩いてみせる」
奈緒「…………え、えっと。お兄さん、ビートル隊の隊員だったり?」
男「そういうことだ。くれぐれも目を離さないようにな。『大切な人』から」
奈緒「…………。あ、ああ……」
男はそれだけ言い置くと奈緒に背を向け去っていった。
本当のことなのかは分からないし、信じたくもない。だが――
奈緒(……絶対に、加蓮を守ってみせる!)
もし最悪の可能性が僅かでも存在するのなら。自分の手で絶対に「大切な人」を守り抜こう。
奈緒はそう決意し、力強い足取りで家へ帰った。
◆
奈緒「――――って、なんでだよーーーっ!!!」
翌朝、12月25日のクリスマス。起きて妙に体がだるいと思ったら、39度近い熱があった。
奈緒(加蓮に風邪うつされたんじゃないだろうな……。にしても今日は外出れないなこれじゃ)
ガンガンと痛む頭を起こして加蓮に電話する。コール音はすぐに破られた。
加蓮『あ、奈緒? おはよー』
奈緒「うん、おはよ……」
加蓮『ちゃんと起きたんだね、ふふっ。で、どうかしたの?』
奈緒「風邪ひいて、今日行けそうもない……」
加蓮『…………』
奈緒「…………」
加蓮『…………』
奈緒「…………加蓮?」
加蓮『…………えっ、ああっ。えっと、風邪? 何度?』
奈緒「38度8分……」
加蓮『だいぶあるね。大丈夫?』
奈緒「加蓮に体調のことで心配されるとは思わなかった」
加蓮『はあ。大丈夫そうだね』
奈緒「だから今日はゴメン。会えない」
加蓮『……だったら私がお見舞いに行く!』
奈緒「は、はあ!?」
加蓮『「はあ!?」じゃないでしょ。前に来てもらったこともあるし、そのお返し』
奈緒「い、いや、別にいいから。家でじっとしてろって」
加蓮『嫌だよ、せっかくのクリスマスなのに』
奈緒「いいから家にいろ!」
加蓮『……何、急に大声出して。まさか昨日の話?』
奈緒「ああ。昨日事情を知ってる人から聞いたんだ。だから――」
加蓮『…………』
奈緒「加蓮、頼む。今日はじっとしててくれよ。埋め合わせはどっかで絶対するからさ」
加蓮『……もういい』
奈緒「え?」
返事もなく、唐突に通話は途切れた。
奈緒「……『もういい』って……」
スマホを放り出し、再び横になって布団を頭から被る。
奈緒「別に意地悪してこんなこと言ってんじゃないってのに……」
奈緒「…………」
奈緒「……ああもうっ、何かモヤモヤするな!」
早々と再度スマホを手に取ると、加蓮に電話をかけた。……が、繋がらない。
10秒、20秒と待ってもコール音のみ。仕舞いには、例の音声が流れてくる始末だった。
『おかけになった番号は現在電源が入っていないか電波の届かない場所に…………』
奈緒「……おいィィィィーーー!!!」
◆
一方、SSPのオフィス。
ジェッタとシンは二人で膨大な量の資料を引っ掻き回していた。
ジェッタ「クリスマスだっていうのに何をしてるんだろうな俺たち……」
シン「キャップは安定のバイトですし、ガイさんはどこへ行ったんでしょうかね~」
ジェッタ「まさか俺たちも知らないお相手が……」
シン「まさかあ」
ジェッタ「いやいや、ああいう謎が多い男に惹かれる女性というのも案外……」
シン「おや。ジェッタ君、見つけましたよ!」
ジェッタ「何? ガイさんのお相手?」
シン「違いますよ~鳥女の正体を探るっていう目的でしょう?」
ジェッタ「あ、そっちか! で、どれどれ」
シン「これです。『姑獲鳥(コカクチョウ)』。えーどれどれ、鳥の毛を被ることで鳥の姿になる女……と」
ジェッタ「他人の子供を攫う習性があり、日本では『姑獲鳥(ウブメ)』と同一視される……」
シン「うーむ、現在現れている鳥女は別段子供を標的にしているわけではありませんからねえ」
ジェッタ「コカクチョウとはまた違うのかな……。このウブメっていうのは?」
シン「ウブメは妊婦が死んだ場合になると言われる妖怪です。こいつも赤ん坊を攫いますから、コカクチョウとごちゃ混ぜになったんでしょうね」
ジェッタ「ふーむ……これも微妙だな。鳥女の正体は如何に……」
シン「そうですねえ~」
ジェッタ「…………」
シン「…………」
ジェッタ「クリスマスに男二人で何してるんだろうね俺たち」
シン「そうですねえ……」
ジェッタ「……どうせキャップもバイトだし、今日はもう上がって街にでも出ようぜ!」
シン「いい提案です!」
ジェッタ「よーっし、SSP出動――っ!!」
シン「おーーーっ!!」
シン・ジェッタ「「あははははははははは!!」」
◆
未央「でさあ~、あーちゃんが撮った茜ちんのしょんぼり顔が可愛くてさ~」
卯月「それ私も見ました! みんなで『茜ちゃんかわいい!』って送りましたよね!」
未央「そうしたらもう顔真っ赤になっちゃって、それがマジで可愛いのなんの!」
凛「へえ、その顔も撮ったりはしてないの?」
未央「バッチリあーちゃんが撮ってました~! でも本人があんまりダメって言うから封印」
卯月「えぇ~? 私も見たいです!」
未央「えへへー、これはポジパ内の機密事項なんでっ」
卯月「もー、ずるいです!」
クリスマスに浮かれた街のとあるカフェでニュージェネレーションズの三人は歓談に興じていた。
そんな中、携帯の着信音が鳴った。
凛「私のだ。……加蓮? はい、もしもし」
加蓮『凛? ねえ、そっち行っていい?』
凛「え? 今奈緒と一緒じゃないの?」
加蓮『……奈緒のことはもういいから』
凛「もういいって……」
加蓮『とにかく、いいよね? 今どこにいるの?』
凛「原宿の『カフェU-TOM』だけど……」
加蓮『わかった、20分で行く』
それだけ言って通話が切れた。凛はじっと画面を見詰めていた。
凛(加蓮……涙声だった)
未央「ど、どうしたの?」
卯月「加蓮ちゃんと奈緒ちゃんがどうかしたんですか?」
凛「待って。今確認してみる」
◆
奈緒「………………」
奈緒「………………」
奈緒「………………」
奈緒(寝れない…………)
加蓮のことが気になる。何かあったらというのもそうだが、電話を切る間際の言葉も。
あの後も何度か電話しようとしたりメッセージアプリで伝言を送ってみたりしたが反応は一度もなかった。
奈緒(ああもう、あいつ妙なこと考えてないだろうな)
体調がすこぶる悪いのに寝ることも出来ずに二重に苦しむばかり。
こんな酷いクリスマスは生まれて初めてだ。埋め合わせをしてもらわなきゃいけないのはむしろこっちなのでは。でもそれも何事もなかった時の話であって……。
奈緒「……!」
そんなことを考えていると突然スマホが着信音を鳴らした。
噂をすれば何とやら――かと思って急いで取り上げてみる。が、その主は加蓮ではなかった。
奈緒「何だ、凛か……」
凛『「何だ」って何……。やっぱり加蓮と何かあったの?』
奈緒「な、何でそのこと」
凛『加蓮、こっちに来るって』
奈緒「はあ!? あんなに家にいろって言ったのに!」
凛『それでか……。加蓮泣いてたよ』
ぐっ、と言葉に詰まった。でも普通泣くかそんなことで。
奈緒「わかったよ……もう、あたしもそっち行くから!」
凛『え? あ、うん……』
奈緒「じゃあ後でな!」
もうどうにでもなれだ。ベッドを下りて汗だくの寝間着を脱ぎ捨て着替えた。
頭も喉も痛いし体も重い。でももう――
奈緒「あたしの体なんて知ったことか!」
あたしは体がだるいだけだが加蓮は命がかかっている。
リビングから聞こえてくる両親の声も無視して奈緒は家を飛び出した。
◆
奈緒「――加蓮!」
重い身体を引き摺ってようやく教えられた店についた。
凛たちと和気藹々とおしゃべりをしていた加蓮の腕を強引に引っ張り、近くの路地に連れ込んだ。
奈緒「何で出てきたんだ! ちゃんと事情は話しただろ!」
加蓮「……思ったより元気そうだね。本当に風邪?」
奈緒「これが元気そうな顔に見えるか!?」
加蓮「あ、ほんとだ。すごい熱」
ぴと、と奈緒の額に手を当てる加蓮。火が出てしまいそうなほどの体温が手のひらに伝わる。
奈緒「いや、いや、いや! ああもう、そうじゃなくてっ! だからどうして出てきたんだよ! 危ないんだぞ命が!」
加蓮「…………」
奈緒「なあ、ちゃんと聞いてくれよ。あたしはただ加蓮が心配なだけなんだよ。別に会いたくないとか一緒に遊びたくないとかじゃないんだから」
加蓮「…………」
奈緒「加蓮――――」
加蓮「……だって、今更じゃん」
奈緒「え?」
加蓮「……今更、死ぬとかさ。しかも、よりにもよって予言? 私の運命はもう決められてるっていうの?」
キッと奈緒を見据えた加蓮の声は徐々に高くなっていく。
加蓮「嫌だよ! 私はもうあの頃の私じゃない。アイドルになって、奈緒や凛と出会って、毎日が楽しくて仕方ないのに……!」
奈緒「加蓮……」
加蓮「何で今更、また死ぬとかそんな話が出てくるの!? どうして……!?」
奈緒「…………ごめん」
加蓮は目元を手の甲で拭いながら、首を振った。
加蓮「私こそ……ごめん。奈緒の気持ちは分かってたのに」
奈緒「あたしも……わかるよ。加蓮の気持ち」
頷く加蓮の両肩に奈緒は手を置いた。
涙ぐみながら顔を上げる加蓮に、笑いかける。
奈緒「大丈夫。一緒に予言をひっくり返してやればいいんだ」
加蓮「奈緒……」
奈緒「だから……その」
奈緒はちょっと目を逸らせて、言った。
奈緒「あ……あたしが、加蓮を死なせないから」
加蓮「……うん」
にっこり笑った加蓮が抱きついてくる。
加蓮「……ありがと」
奈緒「う、うん」
奈緒も加蓮の背中に手を回そうとした時だった。
ふと視線を感じて道の方を見やると、縦に連なって覗いている三人の顔があった。
奈緒「なっ、なっ、なっ…………」
未央「あっ、やばっ」
奈緒「なに見てんだお前らーーーーーーっ!!!」
◆
奈緒「…………」
未央「いやあ、ごめんごめん~。ちょっと気になってさ~」
奈緒「…………」
凛「まあ……とりあえず仲直りは済んだってことで。奈緒は早く帰って休んだ方がいいんじゃない?」
奈緒「そうもいかないんだ。実は――」
そう、奈緒が言いかけた時だった。
卯月「あの、あれ何でしょう……?」
卯月が空を指さした。暗い夜空、蠢くように広がる暗雲があった。
瞬間、脳裏に閃く光景。あの夢と同じ――イルミネーションの光が溢れる街、そこに流れるクリスマスソング。
我知らず、奈緒は叫んでいた。
奈緒「みんな、逃げろっ!!」
加蓮の手を引いて路地裏に駆け戻る。その直後、真っ暗な両側の壁が一瞬白に染まった。
――ドオオオオオオン!!!
轟く雷鳴。道の方を見ると、腰を抜かしている卯月と固まっている未央と凛が見えた。
奈緒「みんな、無事かっ!?」
凛「だっ……大丈夫!」
奈緒「よし。加蓮、逃げるぞ!」
加蓮「う、うん!」
加蓮の手を引いて反対側から路地を抜ける。
先程の落雷のせいか、街を歩く人々に動揺が走っている。
奈緒「どっか……どっか店の中に避難……!」
走る足は止めず、辺りを見回す。
しかし次の瞬間、再び雷鳴が轟いた。今にも足を向けそうになっていたグッズショップに電撃が落ちる。
奈緒「っ!」
店に火が燃え上がる。しかも何が影響したか分からないが街のイルミネーションが一斉に光を失った。
ざわめきが悲鳴に変わる。加蓮の手を強く握りしめ、揺れ動く人の間を縫って進む。
加蓮「奈緒、どこに行くの!?」
奈緒「……わっかんねえ!」
加蓮「ええっ……」
とにかく遮二無二走り続ける。が、風邪をひいている体だ。
頭の中で鐘のように鳴り響く音が加速していく。余力もなくなってきた。
足がもつれる。しまった、と思う頃には奈緒の体は既に転んでいた。
加蓮「奈緒!」
奈緒「いって……死ぬ……死ぬほどいてえ……」
加蓮「早く! 立って!」
奈緒「あたしは狙われないから、ひとりで逃げろ……!」
加蓮「駄目! 一緒に予言をひっくり返すんでしょ!? 奈緒が私を守ってくれるんでしょ!?」
奈緒「……!」
力を振り絞って立ち上がる。ふらつく体を加蓮に支えてもらいながら走る。
雷が方々の店に落ち、街が炎に包まれていく。逃げ場がもうない。
奈緒「くっそ……どうする……」
加蓮「……奈緒、逃げて。私といたら巻き添えを……」
奈緒「バカ! さっき言ったこともう忘れたのか!」
加蓮「でも……!」
奈緒「ああ、くっそ! ビートル隊はまだ来ないのか! アイツ、適当なデタラメ言ったんじゃないだろーな!」
そんなことを言っている間にも火の手は広がっていく。黒雲もまた渦を大きくしていた。
電撃が放たれ、二人の前で爆発が起きる。一緒に吹っ飛ばされて広場の花壇に背中をぶつけた。
奈緒「いってぇ……っ! 加蓮、大丈夫か?!」
加蓮「な、何とか……!」
見上げる空に広がる暗雲。その中に青白い有刺鉄線のような光が回り始める。
次で決める気だ。本能的に奈緒はそう悟った。だが、身体が動かない。体力はもう限界まで来ていた。
奈緒「…………っ!!」
雷が放たれる。目の前に閃光が満ちる。吹きつける突風に目が閉ざされる。続けて起こる衝撃音が耳をつんざく。
奈緒「加蓮ーーーーっ!!!」
しかし――
奈緒「……あれ?」
加蓮「…………」
目を開くと、閃光がそのまま静止していた。徐々に晴れ、柔らかな色調へ変わっていく。
その中に見える巨大な影。胸の中心に青い円状の発光体がある巨人。
加蓮「ウルトラマン……オーブ」
巨人がすっくと立ち上がり、背後の暗雲の方を振り向く。
彼が身を挺して二人を雷撃から守っていたのだった。
オーブ「――シュワッ!」
地を蹴りオーブが飛び立つ。反撃の間を与えず、すぐさま必殺光線の構えに入る。
オーブ『――スペリオン光線!!』
光線が暗雲の中に飲み込まれていく。ぐるぐると円を描き、やがてそれが一つの形を作っていく。
禍姑獲鳥「キキャアアアアアアッッ!!!」
全身を漆黒に包んだ、鳥と人間が合体したような姿の怪獣だった。
オーブの光線でエネルギーを与え続けることで、プラズマ生物を目に見える形へと変えさせたのだ。
禍姑獲鳥「ギャァァァァァッッ!!」
怪鳥が手のひらから電撃を放つ。その時だった。オーブの姿が消えた。
オーブ「――セヤアッ!!」
オーブは超高速で禍姑獲鳥の上に回り込んでいた。
両手を握りハンマーのように叩きつける。怪鳥は地上向けて真っ逆さまに墜ちていった。
禍姑獲鳥「キキャアアアアアアッッ!!」
オーブ「テアッ!」
オーブも地上に降り立つ。禍姑獲鳥の電撃をバリアで弾き返し、拳で打撃を加えようとする。
オーブ「グッ……!?」
しかしそれは怪鳥の体に命中しなかった。周囲に張り巡らされた電磁シールドがオーブの攻撃を防いだのだ。
禍姑獲鳥「キィィイイイッ!!」
ヒステリックな声を上げながら禍姑獲鳥が爪を振り抜く。オーブの胸が切り裂かれ、火花が飛ぶ。
続けて電撃を放とうとするが、オーブは咄嗟に手首を抑えてそれを止める。
オーブ「ハッ!」
禍姑獲鳥「キキャアアアア!!」
オーブ「テャッ!」
そのまま胸を蹴り飛ばそうとする。しかしまたもや電磁シールドに阻まれ逆に怯んでしまう。
嘴を閉じた禍姑獲鳥の頭が腹を刺し、オーブを突き飛ばした。
オーブ「デアアッ……!!」
禍姑獲鳥「キィイィイィイイイイ……!!」
オーブから目を離し、再び嘴を開く禍姑獲鳥。
その視線の先には奈緒と加蓮がいた。
加蓮「……!」
禍姑獲鳥「キキャアアアアアア!!!
手のひらに青白いプラズマを形成する。たじろいで慄く加蓮は動けない。が、その前に影が立ちはだかった。
奈緒「……!」
加蓮「奈緒っ!」
奈緒「お……おい! よく聞けバケモノ!」
加蓮をかばうように両腕を広げ、怪鳥の鋭い目を睨みつける。
奈緒「あたしが死んでもお前の予言通りには絶対させない! 絶対に! 加蓮は守り切ってみせるからな!!」
怪鳥が手のひらからバチッバチッと放電する。禍姑獲鳥の足元に落ち小規模な爆発が立て続けに発生する。
加蓮「奈緒!」
奈緒「……!!」
一瞬でも気を抜けば倒れてしまいそう。奥歯を噛み締め、奈緒は怪鳥から一寸たりとも目を背けなかった。
禍姑獲鳥「………………」
禍姑獲鳥はそんな奈緒の顔をじっと見詰めたまま、何故か足元への放電を繰り返している。
まるで、その光景を目の当たりにして呆然としているかのように。
オーブ「――デュアアッ!!」
――その時だった。横からオーブの拳が呆けている禍姑獲鳥を捉えた。
その姿は一回り大きく筋肉質に、瞳が吊り上がっている「サンダーブレスター」に変わっていた。
禍姑獲鳥「キィイイイイ……!!」
オーブ「ヴァアアッ!!」
振るわれた拳は電磁シールドを突き破り、禍姑獲鳥の胸に叩きつけられる。
反撃とばかりに爪攻撃を繰り出すが、荒々しくいなされ、逆に蹴り飛ばされた。
禍姑獲鳥「キギャアアアアッ!!」
ジェッタ「おーい! 君たち、大丈夫かー!?」
奈緒「あ……あの人」
力が抜けてへたり込んだ奈緒の元にジェッタとシンが駆けてきた。
仕事を放りだして遊びに行っていたこの二人も偶然現場に居合わせていた。
加蓮「奈緒、今動けなくて」
ジェッタ「わかった、おぶさって!」
奈緒「助かります……」
加蓮「き、昨日のことは……」
ジェッタ「いいよ今はそんなこと。それよりも早く逃げよう!」
オーブ「ヴアッ! デアアアッ!!」
ダウンした禍姑獲鳥を無理やり掴みあげ、投げ飛ばす。よろよろと立ち上がる怪鳥に、オーブは十字に組んだ腕を向けた。
オーブ『ゼットシウム――――光線ッッ!!』
禍姑獲鳥「キィイイイイイ!!!」
青白い光と赤黒い影が重なった必殺光線が禍姑獲鳥に直撃する。
禍姑獲鳥は悲鳴のような甲高い声を上げながらそれを体内に吸収する。しかし――
オーブ「――ヴォオオオオオッッ!!!」
禍姑獲鳥「キィィィッッ…………ギギィィヤアアアアアアッ!!!」
更に勢いを増した光線を取り込みきれない。
体内から赤黒い稲妻が放散され、地を揺るがすような轟音と共にその身体は爆散された。
奈緒「やった……のか?」
加蓮「うん……! 予言は覆ったよ!」
奈緒「そっか……はあ……よかったぁ……」
ようやく安堵して緊張の糸が切れたのか、奈緒はそのままぐったりと眠り込んでしまった。
ジェッタ「それにしてもシンさん、あの怪獣、何か妙だったな」
シン「そうですね。神谷さんが身を挺して北条さんを守っているところで、攻撃を躊躇っているように見えました」
加蓮「そういえば……」
シン「これは僕の推測なのですが、あの鳥女は『姑獲鳥(ウブメ)』なのではないでしょうか」
加蓮「ウブメ?」
シンはオフィスでジェッタに語った内容を加蓮にも話した。
加蓮「子供を身籠ったまま死んだ女の妖怪ね……でも、それは伝承でしょう?」
シン「妖怪というと妙な感じはしますが、あれは幽霊かもしれません。そして幽霊の正体はプラズマなのではないかという説があります」
ジェッタ「なるほど、オーブと戦うまでは暗雲の中で稲妻の形だったし……」
シン「『大切な人が死ぬ』と予言して回ったのは、自分が生前できなかった、『大切な人を守る』光景が見たかったからではないでしょうか」
加蓮「大切な人を守る……。そっか、お母さんとして子供を守りたかったんだね」
ジェッタ「それで彼女の姿を見て攻撃をやめたのか……」
シン「仮説ですけどね。ですが、必ず突き止めてみせますよ! なんたって、この世には不思議なことなど何もないのですから」
ジェッタ「……京極夏彦?」
シン「バレました?」
オーブはスペシウムゼペリオンの姿に戻り、オーブ水流で火災を鎮めていた。
オーブ「シュワッ!」
夜空の彼方に飛び去っていくオーブ。
残された街はいつもとは違う静かな夜に身を委ね、更けていった。
◆
奈緒「はあ~~……もう疲れた……」
自宅に戻ってきた奈緒はベッドに倒れ込むように横になった。
加蓮「……今日はありがとう。奈緒のおかげで生きていられた」
奈緒「……お、おう」
ストレートにそんなことを言われると照れるもので、奈緒は寝返りを打って加蓮に背を向けた。
「今日はもう帰れ」と言おうとした矢先――
加蓮「ね。今日は泊まっていっていい?」
などと言われて、あまりのことに咳が止まらなくなった。
加蓮「ど、どうしたの。大丈夫?」
奈緒「お、お、お前……! あたし風邪ひいてんだぞ! うつるぞ!?」
加蓮「……うつされてもいいよ?」
奈緒「ばっ……!」
加蓮「冗談冗談。帰るよちゃんと」
奈緒「…………。た、たちの悪い冗談はよせよな!」
加蓮はくすりと笑うと、バッグから小包を取り出した。
緑地に赤のリボンの包装がされている小箱だった。
加蓮「奈緒、これ」
奈緒「えっ?」
加蓮「遅れちゃったけど、クリスマスプレゼント」
奈緒「……」
奈緒はそれを受け取って納得した。
加蓮が最初見舞いに来ると強情に言っていたのはこれを渡すためだったのだと。
奈緒「……あ、ありがと」
加蓮「ふふっ。……ね、奈緒からは何かないの?」
奈緒「えっ、あっ、えっと……」
加蓮「あー、ちょっと気が変わったかな~。やっぱり帰りたくなくなってきたかも~」
奈緒「……泊まっていけよ、もうっ!」
トナカイの鼻のように真っ赤になった奈緒の顔を見て加蓮は笑った。
そしていつもとは違う二人の夜もまた、静かに更けていくのだった。
おしまい
[登場怪獣]
“凶ノ魔王獣”禍姑獲鳥
・体長:62m
・体重:52,000t
人の夢の中に現れ、「大切な人の死」を予言する魔王獣。
プラズマ生物であり、微力な電気で生物の脳に干渉したり強力な放電攻撃をしたりできる。
正体は出産を待たずして死んだ妊婦の霊の集合体であり、「大切な人を守る」光景が見たいがために予言をして回っていた。
マガクリスタルは額にあり、ウルトラマンダイナ(ミラクルタイプ)によって電離層に封印されていた。
元は『ウルトラマンダイナ』19話「夢幻の鳥」に登場した“凶獣”姑獲鳥。
オーブ最終回の余韻に浸りすぎてクリスマスに間に合いませんでした……。
凄かったですね。オリジンサーガや映画が終わったらジャグラーPネタとかやってみたくなりました。
それでは読んでくださった方、ありがとうございました。
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