魔王「我が野望は世界征服!野望の為ならば泥水も啜ってみせる!!」 (36)

―魔王の城―

勇者「はぁぁぁ!!!」

ザンッ!

魔王「ぬぅ!? ごっ……!!」

勇者「はぁ……はぁ……」

魔王「お、のれ……ニンゲンのぶんざいで……われを……たお、す……と……」ズゥゥゥン

勇者「はぁ……はぁ……」

勇者「これで……全て……終わった……」

勇者「長きに渡る戦も……終わる……」

勇者「人類の勝利だ!!」

兵士「勇者様だ!! 勇者様が魔王を討ち取ったぞ!!!」

「「オォォォォ!!!!!」」

勇者「帰りましょう。俺たちの故郷へ」

兵士「はい!! 陛下もお喜びになるでしょう!!」


魔王「ぐぅぅ……ぅぅ……おのれぇ……おのれぇ……ニンゲンども……これでかったとおもうな……」

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―数日後―

魔王「いたた……」

エルフ「魔王様、まだ安静にしていたほうが」

魔王「そうしようかな」

側近「陛下!! 何を仰っているのですか!!」

魔王「な、なんだ。こっちは怪我しているんだぞ」

側近「我々はニンゲンに負けたのですよ」

魔王「そうだな」

側近「そうだな、ではありません!! 陛下!! このままでは我々魔族は衰退していく一方です!!」

魔王「わかってる、わかってる。でも、今は我の回復を待とうではないか」

側近「待っている間に会議ぐらいはできるでしょう」

魔王「お前、昔から厳しいよな」

側近「陛下は悔しくないのですか。全てにおいてニンゲンに勝っている我々魔族が敗北したことに対して、何も思わないのですか」

魔王「我だって悔しい。悔しいけど、怪我が治ってからでもいいかなと思って」

側近「よくありません。さぁ、会議室に行きますよ。皆さんお待ちかねです」

―会議室―

魔王「あたたた……。斬られたところがまだヒリヒリする」

ドラゴン「大丈夫ですか、魔王様」

魔王「大丈夫じゃないんだな、これが」

ガイコツ「魔王にここまでの深手を負わせるとは。勇者というのも侮れんな」

ドラゴン「ニンゲンとは不思議な生き物だ。我々よりも小さいくせに、臆することなく立ち向かってくる」

ゾンビ「あーあー」コクコクッ

ドラゴン「あの諦めない精神はどこからくるのか。見習いたいぐらいだ」

ガイコツ「不屈が才能だというなら、ニンゲンのほうが上手だな」

ゾンビ「あーあー」コクコクッ

魔王「うむ。そうだな」

ドラゴン「我々が敗走したのも頷けます」

側近「しかし、このままで終わるわけにはいきません。そのためにこうして集まってもらったのですから」

ガイコツ「とはいえ、戦える者は殆ど残っていないじゃないか。見た目が強そうなのは魔王とドラゴンだけ、あとは骨と死体ばっかりだぜ?」

エルフ「私もいますよー」

ガイコツ「はんっ。エルフの嬢ちゃんになにができるってんだ」

エルフ「治癒はできますし、応援もできます」

ガイコツ「お話になんねーっての。せめて火とか氷とか手のひらからだせねえのか」

エルフ「出せたらニンゲンさんにも勝てたと思うんですけど」

ドラゴン「私は火を吐けますが、負けました」

ゾンビ「あー……」

ドラゴン「そんな哀れみに満ちた目で見ないでください」

魔王「こんな状況でニンゲンにケンカを売っても負けは見えているな」

ドラゴン「ここは200年ほど魔法様には療養していただき、魔族の戦力が整うまで様子を見ることをお勧めします」

魔王「それいいな。そうするか」

側近「いけません!!! 200年も悠長にしていれば益々ニンゲンたちが繁栄していくことになります!!」

ガイコツ「かといって、すぐには戦えないぞ。これだけしかいないのだから、やれることも少ない」

ゾンビ「あーあー」コクコクッ

側近「こういう時こそ、頭を使うのです」

魔王「策があるのか」

訂正

>>4
ドラゴン「ここは200年ほど魔法様には療養していただき、魔族の戦力が整うまで様子を見ることをお勧めします」

ドラゴン「ここは200年ほど魔王様には療養していただき、魔族の戦力が整うまで様子を見ることをお勧めします」

側近「当然です。何も考えずに会議は開きません」

ドラゴン「教えてください」

側近「ニンゲンにも陛下のような存在がいます」

魔王「我のように強面のニンゲンが? いるのか」

エルフ「魔王様みたいな顔の生き物が他にもいるのは嫌だなぁ」

魔王「ワッハッハッハ」

ドラゴン「存在するとしたら魔族のニンゲンの混血なのでは」

ガイコツ「禁忌だな」

側近「真面目にしてください!! 私は真剣なのです!!」

エルフ「ごめんなさい」

側近「もう! いいですか。我々にとって陛下は象徴です。それはニンゲン側も同じことでしょう」

側近「その象徴を奪われたら、どうなるか」

ドラゴン「つまり、ニンゲンの王を人質にするということか」

側近「それが今現在の戦力で実行可能且つ有効な手段です」

ゾンビ「あーあー!」パチパチパチ

魔王「なるほどなぁ」

側近「良い作戦でしょう。ニンゲンも象徴を盾にされたら屈服せざるを得ませんからね」

魔王「で、どうやってニンゲンの王を攫うつもりだ」

側近「夜、ニンゲンの王がいる城に忍び込み、サッと攫うしかないでしょう」

魔王「うむ。そうだな。で、忍び込む方法や侵入ルートなどはどうする」

側近「うっ……ドラゴンさんに乗って、城の頂上から侵入とか……」

ドラゴン「目立つと思います」

ガイコツ「しかも潜入できたとして、ニンゲンの王に辿りつけるのか」

エルフ「勇者って人も近くにいるかもしれませんもんね」

ゾンビ「あー……」

側近「ぐっ……。あ、そうだ。では、先兵を出しましょう。城の内部を調査してもうのです」

ガイコツ「骨と死体じゃ城はおろか街にもはいれないぜ」

ドラゴン「私も城へは入れませんね。体が無駄に大きいので」

魔王「我もだ」

側近「……」

魔王「というわけで、ニンゲンの王を攫うというのは無謀だな」

ドラゴン「はい。現戦力では難しいでしょうね」

ガイコツ「かー、これだから現場を知らねえ奴は」

ゾンビ「あー……あー……」

側近「もう勝手にしたらいいじゃないですか。魔族なんで滅亡すればいいんだ」

エルフ「拗ねないでください。どうぞ、ハーブティーです」

側近「ありがとう!」ズズズッ!!!

ドラゴン「やはり、200年間の療養と戦力確保は必須かと思われます」

魔王「うーむ……」

側近「魔族なんて滅んでしまえ」

ゾンビ「あー……」

魔王「あれだ。現状、即時実行は不可能に近いが、準備をしっかりとすればいずれは可能になるやもしれん」

ガイコツ「多少、準備をしたからってこの頭数でニンゲンの王を拉致できるのか?」

ドラゴン「先兵を出すこともできませんよ。魔族はニンゲンの中では酷く存在が浮いてしまいますから」

魔王「だが、この中で唯一ニンゲンに近しい容姿の者がいる。その者ならば、街に入り込むことぐらいはできるはず」

エルフ「誰ですか?」

ゾンビ「あっ」モジモジ

ガイコツ「おめぇじゃねえよ。内臓とか今にも出そうなのに」

ゾンビ「あぁー……」

魔王「お前だ」

エルフ「私ですか!? いや、しかし、耳とかとんがってますし!」

魔王「隠せばいい」

エルフ「髪の色もニンゲンさんとは違いますし!」

魔王「何かを被ればいい」

エルフ「あと、魔法とかも使えちゃいますし!」

魔王「使わなければいい」

エルフ「あと……その……」

魔王「嫌なのか?」

エルフ「嫌と言うか……私にそんな大役……無理と言うか……」

魔王「街に入り込むだけでいい。ニンゲンの様子を見てくるだけで構わない」

エルフ「見るだけですか」

魔王「見るだけだ」

エルフ「あとは特に何もしなくてもいいんですか」

魔王「よい」

エルフ「そ、それなら、頑張ってみます」

魔王「頼んだぞ」

ドラゴン「早速、用意しましょう」

エルフ「お、お願いします」

ガイコツ「あの嬢ちゃんで大丈夫かね。頼りねえけど」

魔王「見てくるだけならば心配しなくてもよかろう」

側近「陛下……」

魔王「折角、考えてくれたのだ。無駄にはできん」

側近「へいかぁ……ありがとうございます……」

魔王「よし。我々も出立の手伝いに加わるか」

側近「はっ!!」

―魔王の城 入口―

エルフ「で、では!! いってまいります!!!」

ドラゴン「途中まで送っていきます」

エルフ「は、はひ!」

ガイコツ「肩の力ぬいてけよ」

エルフ「そう言われましても……」

魔王「我々は敗北した身だ。守るものなど殆ど残ってはいない」

魔王「守るものは、己の命と矜持のみ。たった二つだけだ。かえって挑みやすいというものよ」

エルフ「そうですか?」

魔王「家族や恋人、故郷のことを気にしなくてもいいというのは考えようによっては楽だと思わんか」

エルフ「たしかに」

側近「故郷と魔族のことは考えてください」

魔王「さぁ、いけえ!! 新生魔王軍先兵、エルフ族の姫君よ!!」

エルフ「な、なんですか! それ!?」

魔王「ん? お前の肩書だが、気に入らんか? エルフ族の小悪魔とかのほうがいいか?」

エルフ「いえ! 姫でいいです!!」

魔王「うむ。そうか」

エルフ「じつは、お姫様とかにあこがれていて……えへへ……うれしいなぁ……」

ドラゴン「乗ってください」

エルフ「お姫様って柄じゃないけど……でも、ワイバーンに乗った王子様とか来てくれるかなぁなんて、小さいときには思ってたりしましてぇ……」

ドラゴン「もう行きますよ」

エルフ「まさか姫って魔王様に呼ばれる日がくるとは思いませんでしたぁ。ドレスとかも着たほうがいいでしょうか」

魔王「そうだな。何かの行事では必要になるかもしれんな」

エルフ「うへへへ。どーしよー、てれちゃう」

ドラゴン「はむっ」パクッ

エルフ「おぉぉ!?」

ドラゴン「いっふぇふぃふぁふ」バサッバサッ

エルフ「咥えないで背中に乗せてください!! あー!! 服が牙で破れる!! いやぁー!!!」

ガイコツ「肩書はなんのために?」

魔王「今まで裏方に徹していた者には表舞台に立つための名がいる。名無しでは自分が使い捨ての駒だと思い込む輩も存在するのでな」

ゾンビ「あーあー」グイッグイッ

魔王「ん? どうした?」

ゾンビ「あー」

魔王「……?」

側近「陛下。このあとはどうされますか」

魔王「そうだな。我は傷を癒そうと思う」

ガイコツ「それがいい。うちらの長が戦えないんじゃ、どうしようもねえからな」

魔王「有益な情報が飛び込んできたときのためにも、万全の態勢を整えておかなくてはな」

ガイコツ「ちがいねえ」

側近「それではそのように」

魔王「うむ」

ゾンビ「あーあー」グイッグイッ

魔王「どうしたのだ」

ゾンビ「あー……」

魔王「……そんなに見つめられても困るのだが」

―街道―

ドラゴン「遠くに街の明かりが見えるでしょう。あそこがニンゲンのたちの拠点となっている城下町です」

エルフ「あ、あそこが」

ドラゴン「この先よりはニンゲンに目視される危険性があるので、私の案内はここまでです」

エルフ「あとは、私一人というわけですね」

ドラゴン「そうなります」

エルフ「や、やっぱり、怖くなってきました……」

ドラゴン「エルフ族の姫君が何を恐れることがありますか」

エルフ「ひめ……」

ドラゴン「エルフの象徴たる貴方がそれでは困りますよ」

エルフ「そうですね。行ってきます」

ドラゴン「その意気です」

エルフ「私は姫ですから! 堂々としていればいいんです!!」

ドラゴン「ご武運を」

エルフ「はい!! ありがとうございます!! 何かあったら大声を出すのでそのときはすぐに来てください!!」

―街 入口―

ガヤガヤ……ガヤガヤ……

エルフ(ニンゲンさんがたくさんいる……)

兵士「止まれ」

エルフ「ひゃい!?」

兵士「……」

エルフ「な、なんですか……?」

エルフ(もしかして、魔族の姫であることがバレて……!?)

兵士「これをお持ちください」ペラッ

エルフ「なんですか……これ……?」

兵士「知っていると思いますが、今城下町では祝祭の真っ最中です。様々な露店などもあるので、その地図を見ながら楽しんでいってください」

エルフ「そ、そうなんですか」

兵士「どうぞ」

エルフ「あ、ありがとうございますぅ。おじゃまします」

兵士「ごゆっくり」

―街 広場―

「ほーら、大特価だ!! もってけ泥棒!!」

「あんな店のよりうちのほうがもっとお買い得だよ!!」

「なんだとこらー!!」

「いいぞー! もっとやれー!!」

エルフ「ほぇー。すっごい楽しそう。ニンゲンさん、みんな笑ってる」

「そこのお嬢さん。どうだい、買ってかないかい」

エルフ「え? あ、えと、お金ないので」

「あー、そうか。ま、全部使っても仕方ねえよな。みんな財布の紐は緩みっぱなしだしよ」

エルフ「そうなんですか」

「なんていっても、人類が勝利したんだからな! ここで使わねえでどこで使うんだ!!」

エルフ「なるほどぉ」

「んで、文無しのお嬢ちゃんはこれからどうするんだ? やっぱり城のほうに行くのか?」

エルフ「お金がない場合はお城に行ったほうがいいんですか」

「そらそうだろう。なんて言っても我らの姫様が民のためにひと肌脱いでくれてんだからな。今も祭りを盛り上げてくれてるぜ」

―城―

ワァァァァ!!

エルフ「おぉ……。すごい歓声……。何があるんだろう……」

オォォォォ!!!

エルフ「ニンゲンさんばかりで全然、前がみえな、い……」ピョンピョン

エルフ「ちょっとすみません。とおりまーす」

「ひめさまぁ!!!」

「うおぉぉぉぉ!! ひめさまぁぁ!!!」

エルフ「んー!! せまいんですけどぉ……!!」


姫「みなさーん!! まだまだ続きますけど、ついてこれますかぁー!!」


エルフ「あ、あれがニンゲンさんの姫様……」

ウオォォォォ!!!!

姫「それじゃあ、次の歌、いきまーす!!」

ワァァァァ!!!!

姫「イエーイ!!」

「キャー!!」

「ひめさまぁぁ!!」

姫「どんどん盛り上げていきますよー!! つかれてませんかー!!」

「ワァァァ!!」

姫「たのしんでますかー!!」

「オォォォォ!!!」

姫「最後までついくること、できますかー!!!」

エルフ「オォォォ!!!」

姫「それじゃあ、10曲目はっじめるよー!!!」

「キャー!! ひめさまぁー!!」

姫「イエイッ! イエイッ!」ピョンピョン

「ウォウウォ! ウォウウォ! ウォウウォ! フゥーフゥー!!」

エルフ「フゥーフゥー!」ピョンピョン

姫「いいよー!! みなさん、さいこーですー!!」

―街道―

ドラゴン「……」

ドラゴン「既に日が二度も落ちてしまった……。なのに、まだ戻ってこないとは……」

ドラゴン「まさか……」


兵士『おい!! こいつ、魔族だぞ!!!』

エルフ『しまった!!』

兵士『捕まえろ!!』

エルフ『くっ……コロセ……!!』

兵士『ククク……。いい心がけだな。だが、簡単には殺さねえぞ』

エルフ『な、なにをするつもりだ!! やめろ!! いやぁー!!!』


ドラゴン「まずいですね……。誰も失うわけにはいかないというのに……」

ドラゴン「ここは私が行くしかないですか」

ドラゴン「だが、ニンゲンの本丸へ単身で乗り込むなど、自殺行為に他ならない」

ドラゴン「魔王様に助けを求めたほうがよさそうですね」バサッバサッ

―魔王の城―

魔王「なんだと……!!」

ドラゴン「恐らくはニンゲンの手に落ちてしまったものかと」

魔王「くっ……!! バカな……」

ガイコツ「どうするんだよ」

側近「まだ捕まったと決まったわけではないのでは」

魔王「最悪の場合は考えておいたほうがよさそうだがな」

側近「むぅ……」

ドラゴン「攻め込みますか。意表をつけば救出できるやもしれません」

ガイコツ「だが、どこにいるかもわかんねえのに攻め入っても意味はないだろう」

魔王「交渉の道具にされたら、こちらに打つ手はない」

ドラゴン「そう、ですね……」

ガイコツ「かといって、骨をくわえて待つ訳でもないよな、魔王」

ゾンビ「あー!!」

魔王「……行くぞ。皆の者、我に命を捧げよ」

―街道―

ドラゴン「ここで別れたのです。彼女も何かあれば大声を出して助けを求めると言っていたのですが」

魔王「まだ戻ってはいないようだな」

ガイコツ「無策ではいきたくねえな。ニンゲンの住処に骨を埋めたくはないしな」

ゾンビ「あーあー」コクコクッ

側近「真夜中になるのを待ち、闇に紛れて近づくしかないのでは」

魔王「いや。お前たちはここにいろ」

側近「陛下!? 何を言っているのですか!!」

魔王「お前たちはいつでも逃げられる用意だけをしておけ」

ガイコツ「俺たちだけケツまくれってか」

魔王「助け出した後は我が城まで戻らねばならん。そのときに孤立無援では困るであろう」

側近「私たちだけ安全圏にいるわけには」

ドラゴン「命を捧げよと魔王様は言いました。私の命は魔王様が自由にお使いください」

魔王「使っているだろう。お前たちはここにいるんだ、わかったな」

ゾンビ「あ……あー……」

―街 入口―

魔王「さて、どうするか」

魔王(勇者がいたら厄介だが……)

兵士「ふわぁぁ。あっちは楽しそうだなぁ」

魔王(門番には雑兵が一人だけ。これならば、我でも押し通ることができるな)

魔王(一応、顔は隠しておくか)サッ

魔王「……」ズンズン

兵士「止まれ」

魔王(ちぃ……!! やはりこの図体では即座に見破られてしまうか……!!)

兵士「……」

魔王(増援を呼ばれたら終わりだ。ここで息の根を……!!)

兵士「魔王の仮装ですか。良い趣味ですね。魔族に化けた人は多かったけど、魔王になってる人は初めて見ましたよ」

魔王「お、おう、そうなのですか」

兵士「目立っていいと思います。こちらをお持ちください。街の地図です」ペラッ

魔王「失敬。では、これで」ズンズン

―街 広場―

子ども「魔王がいるぜ!!」

「ほんとだー!!」

魔王「む……!! なんだ、貴様らは……!!」

子ども「勇者があいてだー!!」ポカポカ

「おらおらー」ペチペチ

魔王「ぐぉぉぉ!! やめろぉぉ!! 小童どもがぁ!!!」

子ども「魔王がおこったー!!」

「にげろー!!」

魔王「おのれぇー!!!」ズンズン

魔王「ぐっ……!?」

魔王(まだ傷が疼くか……)

魔王「運が良かったな、ニンゲンどもめ!! 今日のところはここまでにしておいてやる!!!」

子ども「魔王がなんかいってる」

「あれってまけいぬのとおぼえっていうんだよなー」

魔王「なんという屈辱か……。敗戦者はここまで惨めになるのか……。ククク……だが、今だけだぞ……ニンゲンたちよ……」

魔王「いつの日か、必ずや魔族の栄華は戻ってくる」

魔王「必ずだぁぁぁ!!!!」

「あの人、すげえ迫真の演技だな」

「本物の魔王みたい」

「案外、本物だったりして」

「あははは。本物は勇者様が倒したんだろー」

「冗談だって」

魔王「なんとでも言うが良い。今は、今だけは甘んじて万の侮蔑を享受する」

魔王「これが、活力に変わる……!! 変えるのだ……!!」

魔王「……」

魔王「どこだー!! 姫よー!!!」ズンズン

「姫様ならあっちにいるよ」

魔王「これはご丁寧にどうも」

「いえいえ」

―城―

ワァァァァァ!!!!

魔王「ここにいるのか……?」

魔王(それにしてもなんというニンゲンの数か。ここで魔法を使えば一掃できるな)

魔王(まぁ、そのあとは逃げきれないだろうが。ここのゴミどもを掃除したところで我が野心は潤わない)

魔王「そのときではないのだ」

姫「では、本日5曲目、いっきーます!!!」

「オォォォォォ!!!!」

魔王「むぅ……あのニンゲンは……」

姫「みなさんもノリノリでいきましょー!!!」

「ウオォォォォォ!!!!」

魔王(なんという熱狂ぶり。あのニンゲンにそこまでのカリスマがあるとは思えんが)

姫「イェイ! イェイ!」

「フゥ! フゥ!」

魔王「……」

姫「キュンキュンしてますかー!」

「してまーす!!」

姫「トキめいてますかー!」

「ときめいてまーす!!」

姫「今日もたのしんでますかー!!!」

エルフ「キャー!!!」

姫「お祭りは今日で最後ですけど、めーいっぱい楽しんで、笑顔になってくださーい!!!」

「ひめさま、さいっこー!!!」

「かわいいー!!」

「最高のプリンセスだよー!!!」

姫「ありがとうございますっ!! 心を込めてあと3曲歌うので、きいてくださいねー!!」

「オォォォォォ!!!!」

魔王「オォォォォォ!!!!」

姫「しっとりになんてさせません!! 燃え尽きるまでもりあげていきますからねー!!!!」

ワァァァァ!!!

姫「みなさーん!!! 最後まで本当にありがとうございましたー!!」

姫「一週間にも及ぶ祝祭でしたけど、みなさんの応援でなんとかやり遂げることができました」

姫「本当に、感謝しています!!!」

「ひめさまー!!!」

姫「また来年、同じ日にこうした催しができればいいなと思っています!! では、また!!」

「アンコール!!! アンコール!!!」

エルフ「アンコール!! アンコール!!」

姫「えー。もう流石に歌いつかれたので……」

「えー?」

魔王「ここまで懇願しておるのに、民の声を一切拾わんつもりか」

姫「もう一曲だけですよー!!!」

ワァァァァ!!!

「ウヒョォォォォ!!!!」

「さいこーだぜ!!! ひめさまぁぁぁ!!!」

エルフ「キャー!!! すてきー!!」

兵士「ご来場のみなさん、列を乱さず、順番に退場してくださーい!!!」

エルフ「あー、たのしかったですぅ」

魔王「そうだな」

エルフ「おぉ!? まおうさ――」

魔王「しっ。大声を出すな。いや、これだけ騒がしければ誰も耳を傾けんか」

エルフ「どうしたんですか?」

魔王「お前の帰りが遅いから見に来たのだ」

エルフ「こんなニンゲンさんばかりのところによく入ってこれましたね」

魔王「それがどうも仮装だと思っているらしい」

エルフ「仮装、ですか」

魔王「ニンゲン共の中では魔王は勇者によって倒されたとなっているらしい」

エルフ「本物の魔王様がいるとは夢にも思っていないわけですか」

魔王「癪ではあるが、おかげで堂々と街にはいることができた。勇者がいれば話は別だったかもしれんがな」

エルフ「ところで魔王様も今のご覧になってういたんですか」

魔王「ああ。いつの間にか叫んでいた。不思議なニンゲンもいるものだな」

エルフ「私ももう、興奮しっぱなしでしたよー!!」

魔王「ニンゲンに捕まったのではないかと心配もしたが、何事もなくて安心したぞ」

エルフ「ごめんなさい。なんか夢中になっちゃって、えへへ」

魔王「ニンゲンの街はどうだった」

エルフ「とっても楽しそうでした! みんな、笑ってましたし」

魔王「勝者の特権だな」

エルフ「羨ましいです……」

魔王「我々は敗者だ。仕方あるまい」

エルフ「同じ、姫なのに。あんなにも輝いていて、羨ましいです」

魔王「……ん?」

エルフ「ワイバーンに乗った王子様を待つより、ああしてたくさんの魔族に応援される姫になりたいです」

魔王「……」

エルフ「そしたら、可愛い衣装とかきて、歌って踊って、でへへへ……」

魔王「ふむ」

魔王(戦とは相手を力でねじ伏せるもの。そうした概念に囚われていたが、何も相手を屈服させるのは力だけではないのかもしれぬな)

―街道―

ドラゴン「あれは……!!」

側近「へいかー!!!」テテテッ

魔王「心配をかけたな」

ガイコツ「とんでもねえ。あと数刻待っても戻らなかったら突入してるところだったぜ」

魔王「それはすまんな。機会を失わせて」

ガイコツ「まったくだぜ」

ゾンビ「あーあー」ギュゥゥ

エルフ「ごめんね」

側近「何があったのですか」

魔王「それは城に戻ってから話す。それと、ニンゲンを屈服させ、世界をこの手に収める妙案を思いついた」

側近「おぉぉぉ!!」

ドラゴン「我々でできることなのですか」

魔王「無論だ。ククク……」

ゾンビ「あー?」

―魔王の城―

魔王「ニンゲンたちは勝利の美酒に酔いしれていた」

魔王「全ての民が笑みを張りつけ、訪れた平和を噛み締めていた」

魔王「その祝福の宴の中心に一人のニンゲンがいた」

ドラゴン「それがニンゲンたちの姫と」

魔王「そうだ。誰もがその姫を注視し、喉を破壊する勢いで絶叫し、何度も腕を上下させ、体を酷使していた」

魔王「あの姫にはそれだけの求心力があるということだ」

ガイコツ「それってニンゲンたちの象徴が王じゃなく姫ってことなのか」

魔王「王を崇拝するのとはまた趣が違うように感じられた」

ゾンビ「あー?」

側近「どういうことでしょうか」

魔王「いうなれば、洗脳に近い。何を隠そう、我も洗脳されかけたほどだ」

ドラゴン「魔王様が……。どのような催眠魔法をも打ち消す魔王様が囚われてしまうとは」

魔王「あれは魔法などを超越した何かなのだろうな」

エルフ「もう知らない間に嵌っちゃって、抜け出せなくなるんですよ」

ガイコツ「ニンゲンってのはつくづく俺らの知らない力を使いやがるな」

魔王「種族として優れている魔族が敗れたのも、そこにあるのかもしれぬ。そこでだ……」

魔王「我々もニンゲンの姫のような存在を確立させる」

側近「な……!?」

ドラゴン「それが世界を手中に収めることに繋がるのですか」

魔王「戦とは兵力と兵力をぶつけ合い、領土を奪い合うものだ」

魔王「だが、その領土を奪う手段は何も力だけではない。双方の領土には必ず生き物がいる。ニンゲン、魔族、その他の動植物……」

魔王「力による支配では、土地もやせ細り、元の姿に戻すにも時間を要する。その間に、また戦の準備が整えば領土の綱引きが始まる」

ガイコツ「それが戦争ってもんだ」

魔王「だが、土地に住まうものたちの心を奪ってしまえば、どうだ。兵も魔法も使うことなく、支配することができる」

ドラゴン「無血戦争ですか」

魔王「地もそのまま手に入る。多くのニンゲンを心酔させてしまえば、自然と領地が広がっていく」

魔王「圧倒的に疲弊した我が軍が逆転できるとすれば、それしかあるまい」

側近「陛下、魔族からもニンゲンからも支持されるほどのカリスマを持つ者になるつもりなのですね。末恐ろしい御方だ……」

魔王「我ができるわけなかろう。こんな強面なのに。小童どもが泣き叫ぶぞ」

側近「では……ま、まさか……」

ゾンビ「あっ」モジモジ

ガイコツ「ねえから」

側近「わ、私は、その、そうしたことは、苦手でありまして……」モジモジ

魔王「こいつに託そうと思う」

エルフ「イェイ☆」

ゾンビ「あー……」

側近「そ、そうなのですか」

ドラゴン「容姿でいえば、ニンゲンに近しいですし、適任かもしれません」

ガイコツ「近しいとはいえ、魔族は魔族だぞ。敵であるニンゲンがそう簡単に心を開いてくれるかぁ?」

魔王「次の問題はそこだな。並大抵の努力ではニンゲンの心を掌握できるとは思えん。長年、戦い続けてきたのだからな」

ドラゴン「難しいでしょうね」

側近「策はあるのですか」

魔王「あの姫に極意を聞ければ話は早いが、そうもいかん。だが、急いて事を進めても失敗するだけだ。手始めに身内から攻めていこうと考えている」

魔王「魔族を手籠めにできず、仇敵を落とすことはできぬからなぁ」

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