清姫「安珍様の記憶を取り戻すために♪」 (28)

清姫「マスター、ねえマスター♪」

清姫「少しお話よろしいでしょうか?」

清姫「以前マスターは安珍様の生まれ変わりとお伝えしましたね」

清姫「でもマスターはその記憶を失くしてる」

清姫「それでわたくしの勝手ですが」

清姫「マスターに思い出してもらいたいと思ったのです」

清姫「思い出していただければ」

清姫「それが安珍様の生まれ変わりという証拠になりますから」

清姫「ね?マスター♪」

清姫「あの日安珍様は嘘を吐いて」

清姫「それが憎くてわたくしは安珍様を追いかけて」

清姫「その途中で化け物に転生して」

清姫「安珍様はお寺に逃げ込んで、鐘の中に隠れました」

清姫「わたくしはその鐘に巻きついて」

清姫「炎で炙りました」

清姫「はい」

清姫「以上が、あの日に起こった出来事です」

清姫「…『お話』では記憶は戻らなかったようですね」

清姫「それじゃあ、仕方ないですね」

清姫「状況再現、ですね」

清姫「あの日」

清姫「お寺の鐘に隠れた安珍様と」

清姫「それを追いかけたわたくしの」

清姫「状況を、再現、…ですね♪」

清姫「簡単ですよ」

清姫「わたくしの着物を鐘に見立てて、安珍様を包むだけです」

清姫「でも、全身覆えませんので」

清姫「そのお顔だけですが」

清姫「それに本当に焼いてしまっては元も子もないですから」

清姫「わたくしの体温で暖まってくださいませ」

清姫「ね?」

清姫「ついでに」

清姫「わたくしの安珍様への思いも一緒に伝えようかと思うのです」

清姫「二兎を追う者は二兎を得ずと言いますが」

清姫「わたくしはもう人間ではありませんので」

清姫「人を超えた身で二兎とも得て見せましょう」

清姫「なに、簡単です」

清姫「着物の中にお顔を包むということは」

清姫「必然的に見えてしまいますね♪」

清姫「安珍様を思って、わたくしのここがどんな風になるか」

清姫「間近でご覧に入れてさしあげましょう♪」

清姫「わたくしの思いも少しでも思い出していただければ」

清姫「とは言っても、やはり少し恥ずかしいので」

清姫「パンツだけは履かせていただきますね」

清姫「時代は変わって便利なものができましたね」

清姫「こういう嗜みもまた覚えていかなくてはいけませんね」

清姫「安珍様の好きな模様なんかも♪」

清姫「うふふ…ッ、そんなに急がなくても」

清姫「記憶も、わたくしも、逃げたりしませんから」

清姫「ケガをしないように、ゆっくりと、ソファに横になってください」

清姫「さ、…お顔のうえ、失礼しますね」

清姫「はい」

清姫「今日のわたくしは、こんなパンツを履いていました」

清姫「フリルをあしらった、オシャレで、可愛くて、…ぴっちりしたの」

清姫「ふふ、あの日と違う状況では『再現』にならないですかね…?」

清姫「うふッ…そうですよね、『やってみないとわからない』ですよね」

清姫「それじゃ、今日も始めましょうか」

清姫「よい、しょっと」

清姫「はい」

清姫「今日もまた、わたくしの着物の中には」

清姫「マスター、ただ1人」

清姫「あの日の記憶を取り戻さんと、必死にもがく」

清姫「マスター、ただ1人」

清姫「わたくしの、大好きな、大好きな…」

清姫「マスター、ただ1人」

清姫「いま、何が見えますか?」

清姫「『薄い緑に染まってる』…?」

清姫「そうですねえ」

清姫「今日のパンツは、そんな色、でした♪」

清姫「重たくは、ないですか?」

清姫「いつも履いてるのと違いますから」

清姫「体重の掛け方が、どうにも」

清姫「…お鼻に、違和感が?」

清姫「あ、そっか」

清姫「お花模様の細かい刺繍が入ってましたね」

清姫「履いている内側には当然そんなのは無いので」

清姫「気付きませんでしたねえ…」

清姫「まあ、想定された外の使い方ですから」

清姫「仕方ないといえばそうですよね」

清姫「履いたまま、お顔に跨って押し付ける、なんて使い方は」

清姫「…うふッ♪」

清姫「それにしても」

清姫「このままでは、いけませんね」

清姫「お鼻の違和感が邪魔をしちゃって」

清姫「『記憶を取り戻す』のが、妨げられちゃうかも」

清姫「だいじょうぶです」

清姫「こんなこともあるかなと思って」

清姫「ちゃあんと、『替えのパンツ』も用意してあるんです」

清姫「マスターは、何も心配しなくていいんです」

清姫「ただ、集中してくれるだけでいいんです」

清姫「わたくしの、パンツに」

清姫「着物の中の温もりに」

清姫「カバンは、ここに」

清姫「この中に、ほら、替えのパンツが」

清姫「こんなのでしたら、だいじょうぶですよね」

清姫「…っと」

清姫「こうやって広げても、見えませんよね」

清姫「わたくしの着物でお顔が包まれたままですもんね」

清姫「…うふふ」

清姫「それじゃあ、こっちのに履き替えますね」

清姫「座ったままでの履き替えは…ダメですね」

清姫「ほら、そんな顔したってダメですよぅ」

清姫「刺繍の段差が引っ掛かって」

清姫「お顔に傷を付けちゃ、いけませんから」

清姫「そういうのは、別なのを履いてるときにしてあげますから」

清姫「よいしょ、っと」

清姫「それじゃあ、まずは脱がないと」

清姫「でも、困りましたね」

清姫「マスターが真下に居ると」

清姫「わたくしの大事な部分が、見えちゃうかも知れませんね」

清姫「…遠くて、暗くて、良く見えない?」

清姫「うふッ、なあんだ」

清姫「それなら安心ですね」

清姫「あッ」

清姫「ごめんなさい」

清姫「マスターのお顔が、真下にあるんでした」

清姫「いつも通りにパンツを脱いじゃったら」

清姫「お顔のうえに、落ちちゃいましたね」

清姫「…うふふ」

清姫「すぐに拾いますね」

清姫「よいしょ」

清姫「…ねえ、マスター」

清姫「いま、パンツを拾おうと」

清姫「わたくしが、無防備にしゃがみこんだとき」

清姫「何か、見えました?」

清姫「お顔に近付いた、何かが、見えちゃいました?」

清姫「…『パンツが目隠しになって見えなかった』?」

清姫「あら、そうでしたか」

清姫「残念だった、のですかね?」

清姫「嘘でもないようですし」

清姫「…うふふふふッ♪」

清姫「さ、新しいのを履きますね」

清姫「お鼻を刺激しちゃうような、お邪魔な刺繍のないもの」

清姫「綿素材の、柔らかくて、ふわふわなの」

清姫「色は…何色でしたっけ」

清姫「ド忘れしちゃいました」

清姫「マスター」

清姫「教えていただけませんか?」

清姫「…うふ、そうでした」

清姫「わたくしはいま、無地の、薄いピンクのを履いたんでした」

清姫「うふふふふ♪」

清姫「それじゃあ、引き続き」

清姫「再現の再開、ですねえ」

清姫「はい」

清姫「ぺたんと、ぎゅうっと、むにゅっと」

清姫「もうお鼻は、違和感ないですね」

清姫「念のため、ちょっと前後に動いてみますね」

清姫「どうです、お鼻はチクチクします?」

清姫「うふ、良かったです」

清姫「押し付け具合は、どうですか」

清姫「燃える鐘の中を想像すると」

清姫「思い切り、ぎゅうって、した方がよいですか?」

清姫「それくらいの方が、再現になりますか?」

清姫「呼吸もできないくらい、密着させて」

清姫「動きを許さないほどに、お顔を挟み込んで」

清姫「それでも、お鼻と両眼は解放して」

清姫「ぎゅっと、ぎゅうっと」

清姫「いま、なにが見えますか」

清姫「視界いっぱいに、ピンク色の、わたくしの、パンツ?」

清姫「いま、どんなニオイがしますか」

清姫「わたくしの、ニオイだけ?」

清姫「いま、どんな感触に包まれてますか」

清姫「やわやわで、ぽかぽかで、ふにふにで、…ぐちゃぐちゃで」

清姫「いま、何をかんがえていますか」

清姫「わたくしのことだけ…?」

清姫「…ふふ」

清姫「うふふふふふッ」

清姫「ねえ、マスター」

清姫「あの日から、変わりましたよね」

清姫「安珍様は、こんな状況でも」

清姫「グッと眼を閉じて、必死に堪える」

清姫「そんな毅然とした方でしたのに」

清姫「いまは、こんなに」

清姫「わたくしを求めてくれて」

清姫「こんなに」

清姫「もちろん、どんなマスターでも」

清姫「わたくしは、大好きですが♪」

清姫「求めてるのは、『記憶』?」

清姫「…」

清姫「…うふッ、そうでしたね」

清姫「そういうお話、でしたね」

清姫「記憶を戻すために、仕方なく」

清姫「わたくしが語って」

清姫「それでもダメだから、再現する」

清姫「そういうこと、でしたよね」

清姫「記憶が戻ったら」

清姫「毅然な安珍様に戻っちゃったら」

清姫「こんなこと、できませんものね」

清姫「お顔を跨いで着物の中を見せつけながら」

清姫「そのままお顔にぺたんと座り込むなんて」

清姫「そして、それを望んで、なおも頼み込むなんて」

清姫「アイドルに向き合うマスターとして、許されないですからね」

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