< 氷魔女の家 >
氷魔女「氷魔法使いは常に冷静でなければならぬ」
見習い魔女「はいっ!」
氷魔女「冷静になれば、魔力で生み出したこの氷の板を100枚並べることすら容易い」
氷魔女「よく見ておくがいい……」スッスッ…
順調に氷の板を立てて並べていく。
見習い魔女「すごいすごい! あと10枚で100枚ですよ!」
氷魔女「あ、あと10枚か……!」ハァ…ハァ…
氷魔女「95枚……96枚……」スッ…
見習い魔女「先生、しっかり!」
氷魔女「きゅ、97……」プルプル…
次の瞬間――
パタタタタタタタタタタタタッ…
氷魔女「あ……あああああああああああっ……!」
100枚を目前にして、氷の板は全て倒れてしまった。
氷魔女「また……失敗か」ガクッ
氷魔女「私はどうして、肝心な時になると冷静さを失ってしまうんだ……」
見習い魔女「……大丈夫ですよ! きっといつか100枚立てられる日が来ますよ!」
氷魔女「励ましてくれるか……ありがとう」
見習い魔女「それと、今日は山を下りて町に行く日ですよ」
見習い魔女「元気を出して、さっそく準備しましょう!」
見習い魔女「先生の魔法を必要としてる人はいっぱいいるんですから!」
氷魔女「うむ……そうだな」
< 町 >
氷魔女は週に一回、山を下りて町で仕事や買い物をする。
氷魔女「まずは商店街に行くとするか」
見習い魔女「はい」
青年「あ、こんにちは」
見習い魔女「こんにちは!」
氷魔女「…………」ツーン
見習い魔女「せ、先生……!」
青年「いえ、いいんですよ! 氷の美貌っていうんですか……やっぱりさすがだなあ」
氷魔女「!」ピクッ
氷魔女「そ、そうか!」
青年「え?」
氷魔女「どうだ、今度一緒に氷山見学でも行かないか?」ガシッ
青年(うわっ、冷たっ!)
青年「あ、あの、遠慮しときます!」タタタッ
氷魔女「やれやれ……顔を真っ青にするほど照れることもあるまい」
見習い魔女「普通、照れる時って真っ赤になりますけどね」
氷魔女たちを見かけ、敬礼のポーズをする町の守備隊長。
守備隊長「これはどうも! 氷魔女殿! お弟子さん!」シュビッ
氷魔女「うむ」シュビッ
見習い魔女「こんにちは!」
守備隊長「この間は強盗退治にご協力いただき、ありがとうございました!」シュビッ
氷魔女「フン、あの程度のこと、わざわざ礼をいわれることではない」シュビッ
守備隊長「ではよいお買い物を!」シュビッ
氷魔女「うむ」シュビッ
見習い魔女「あの……先生」
氷魔女「なんだ?」
見習い魔女「あたしたちは敬礼のポーズをしなくてもいいんですよ」
氷魔女「え、そうなの!? シュビッてやらなくていいのか!」
魚屋――
氷魔女「ほら、氷だ」ドスンッ
氷魔女「これで存分に、魚を冷凍保存するがいい」
魚店主「おおっ、助かります!」
八百屋――
氷魔女「魔女特製の氷だ。そう簡単には溶けんぞ」ドスンッ
八百屋店主「いつもいつもありがとよ! ほれ、代金だ!」
診療所――
医者「氷魔女さんの氷があると、患部を冷やしたりできるので助かりますよ!」
氷魔女「ケガの時は、すみやかに冷却することが肝心だからな」
氷魔女「仕事も買い物も済んだし、そろそろ山に帰るとしよう」
氷魔女「帰ったら、魔法の特訓だ」
見習い魔女「お願いします!」
町の外へ出ようとした時――
氷魔女「――ん? 誰だあれは?」
見習い魔女「小さい玉に、粉みたいなものを入れてますね? なんでしょう?」
氷魔女「ふむ……気になるな。どれ、少し見物といくか」
見習い魔女「こんにちは」
花火師「……ん」
見習い魔女「なにをしてらっしゃるんですか?」
花火師「…………」
見習い魔女「あの……」
花火師「…………」
氷魔女「おい、無視とは感心せんな。少し冷たい目にあってみるか?」ビュォォ…
見習い魔女「せ、先生……!」
花火師「…………」シュボッ…
“粉”を入れた玉に火をつける。
パァンッ!
見習い魔女「きゃっ!」
氷魔女「うをおおおおおおおおっ!?」
見習い魔女「今のは……花火ですね! 初めて見ました!」
氷魔女(ビ、ビックリした……!)ドキドキ
花火師「よく知ってるな。そう、花火だ……俺は花火師なんでな」
見習い魔女「この町の人なんですか?」
花火師「ああ……一応な」
花火師「だが、一年のうち大半はよその地域で花火製作の依頼をこなしているから……」
花火師「この町にいることはほとんどないがな」
氷魔女「ふん、どうりで見たことがないわけだ」
見習い魔女「ということは、この粉は火薬ですか?」
花火師「ああ……火薬と金属の粉を混ぜたものだ」
見習い魔女「金属の粉?」
花火師「火はある種の金属と反応して、色が変わる」
花火師「それを利用して、火に色をつけるんだ」
見習い魔女「すっごーい! 勉強になります! メモメモ!」
氷魔女「フン……魔法による炎だって、色ぐらいつけられる!」ボッ…
見習い魔女「変な対抗意識燃やしてどうするんですか!」
氷魔女「あち! あちちち!」
見習い魔女「熱がりなのに、炎魔法なんて出すから……」
花火師「魔法……」
花火師「そうか……あんたは魔法使いか」
氷魔女「うむ」
氷魔女「魔法を使いこなす女は魔女と畏怖されるが、私は“氷の魔女”と呼ばれている」
花火師「そっちの女の子は娘か?」
氷魔女「娘ではなく、弟子だ」
見習い魔女「魔女見習いやってます!」
花火師「ふうん……」
氷魔女「なんというそっけなさ! 少しは興味ありそうにしたらどうだ!」
花火師「あ、いや……すまない」
花火師「あんたら、元々この地方の住民ってわけではないだろう?」
氷魔女「そうだ、私たちはもっと北の地方に住んでいたのだ」
氷魔女「私は氷魔法が得意なのだが、さまざまな属性の魔法を研究するには」
氷魔女「やはりもっと暖かい地方に移った方がいいと判断してな」
氷魔女「この地方に移ってきたのだ」
見習い魔女「それで、弟子だったあたしもついてきたんです!」
氷魔女「今でも年に一度は里帰りをしてるがな」
氷魔女「一年のうち、半分ぐらいは雪が積もってる町だ。寒いが、いいところだぞ」
花火師「……そうか」
氷魔女「全然会話が弾まん奴だな! もっと花火みたいに弾けたらどうだ!?」
氷魔女「なんなら私の魔法で――」ビュゴォォォ…
見習い魔女「先生、落ち着いて! 冷静になって!」
見習い魔女「ところで火薬って一歩間違えたら、大事故になりますよね」
花火師「まぁな」
花火師「扱いを誤れば、火薬が大爆発してなにもかも吹っ飛ぶ」
氷魔女「なんと恐ろしい……!」ゴクッ…
見習い魔女「よくそんな冷静に扱えますね」
花火師「ま……常に冷静であることは花火師の義務だろうな」
氷魔女「!」ピクッ
氷魔女「花火師!」ガシッ
花火師「うわっ」
花火師「あんた、ものすごく手が冷たいな」
氷魔女「常に冷気の魔力をまとっているからな……いや、それより!」
氷魔女「なぜそんなに冷静でいられるんだ!? 頼む、教えてくれぇ!」
花火師「おいおい、冷静になってくれ」
氷魔女「! ……す、すまない」パッ
見習い魔女「先生がお騒がせをいたしました」ペコッ
花火師「師匠とちがって、弟子の方はだいぶ冷静だな」
氷魔女「ぐぬぬ……」
氷魔女の白い肌が赤く染まる。
氷魔女「いいから答えてくれ! なぜそんなにも冷静になれる!?」
花火師「なぜって……うーん……」
花火師「自分なんていつ死んでもいいと思ってるからじゃないか?」
花火師「人間なんてのはしょせん自分の命が一番大事だ」
花火師「それを大事だとも思わなきゃ、嫌でも冷静になれる」
氷魔女「――なるほど!」
見習い魔女(納得しちゃった!)
< 氷魔女の家 >
氷魔女「自分なんていつ死んでもいいと思う、か……」
氷魔女「フッフッフ、もっともな話ではないか」
見習い魔女「まあ、一理はあると思いますけど……」
氷魔女「よーし、死んでもいいと思おう!」
氷魔女「思う、思う、思う……」
氷魔女「むごたらしい最期を迎える私の姿を想像しよう……」
氷魔女「む、む、む……」
みるみるうちに、氷魔女の額に汗が浮かび上がる。
氷魔女「――無理、思えない!」
氷魔女「だって……死ぬの怖いもん!」
見習い魔女「ですよね~」
見習い魔女「じゃああたしはどうです? あたしが死んだところを想像してみて下さい」
氷魔女「お前が死んだら、か」
氷魔女「フン、私は魔女だぞ? 魔女たる者、弟子が死んだところで……」
氷魔女「…………」
みるみるうちに、氷魔女の顔が青ざめていく。
氷魔女「死ぬなぁぁぁぁぁ! 死なないでぇぇぇぇぇ!」ユサユサ
見習い魔女「死んでません! 死んでませんってば!」
氷魔女「よかった……」ホッ…
見習い魔女「先生、ただでさえお肌が白いのに、さらにすごいことになってますよ」
氷魔女「どれどれ……? 鏡を見てみるか」チラッ
氷魔女「ギャーッ! 真っ青!」
氷魔女「…………」シュン…
見習い魔女「先生、お気になさらず」
見習い魔女「――そ、そうだ! 今日の授業を始めましょうよ!」
氷魔女「う、うむ……そうだな。私としたことが、珍しく冷静さを欠いていた」
見習い魔女(いつも欠いてるような……)
教材を準備し、授業を始める二人。
氷魔女「今日は魔法と他の物品との組み合わせ、についてだ」
氷魔女「魔法は特定の物品と組み合わせることで、より威力を発揮することもある」
氷魔女「たとえば氷魔法なら、剣に冷気をまとわせて氷の剣にしたり……」
見習い魔女「なるほど! メモメモ!」カリカリ
氷魔女(フッ、かわいい奴よ)
一週間後――
< 町 >
氷魔女「また会ったな」
見習い魔女「こんにちは!」
花火師「……あんたらか」
氷魔女「ところで……この間のアドバイスなのだが……」
花火師「ああ、どうだった。冷静になれたか?」
氷魔女「いや……どうやら私には向いていないようだ」
氷魔女「冷静になるどころか、この青白い肌が、さらに真っ青に……」
氷魔女「すまない……!」
花火師「…………」
氷魔女「私はまだ死にたくはないし、弟子にも死んで欲しくはない」
氷魔女「……私は一生冷静になれないのかもな」
花火師「いいんじゃないか?」
氷魔女「へ?」
花火師「無理に冷静になんてならんでも……」
花火師「死にたくないのも、そっちのお嬢ちゃんに死んで欲しくないと思うのも」
花火師「素晴らしいことだと俺は思うがな」
見習い魔女「そうですよ、先生!」
氷魔女「ど、どうもありがとう」
花火師「ただし……」シュボッ…
氷魔女「?」
パパパパァンッ!
花火師「花火師にゃ向いてないな」
氷魔女「うをおおおおおおおおおおお!!?」
見習い魔女「わ~、きれい!」
氷魔女「やるならやる、といってからやれ!」
花火師「じゃあ、やる」シュボッ…
パァンッ!
氷魔女「うをおおおおおおおおおおおお!!?」
花火師「どっちにしろうろたえるんだな」
見習い魔女「アハハハッ!」
氷魔女「笑うなァ!」
花火師「ところで、あんたらは山に住んでいるらしいな」
氷魔女「ああ、そうだ。町の近くにある山でな。この町には週一度ほどの割合で訪れる」
花火師「そうか」
氷魔女「終わりか! 少しは話題を広げようとしろ! 遊びに行っていいのか、とか!」
花火師「遊びに行っていいのか?」
氷魔女「残念だがノーだ。魔女の家に男を入れるなど、許されることではない」
花火師「そうか」
氷魔女「少しは粘れ! 交渉しろ!」
見習い魔女「あ、ウチはいつでもウェルカムですよ」
花火師「そうか」
氷魔女「なんなんだ、お前は!」
その夜――
< 氷魔女の家 >
氷魔女「…………」
見習い魔女「どうしました、先生?」
氷魔女「無理に冷静にならなくてもいいよ、か」
見習い魔女「はい、いい言葉ですよね」
氷魔女「幼少より、魔法使い、特に氷魔法使いは冷静であれと言われ続けた私にとっては」
氷魔女「革命的な言葉といえる」
見習い魔女「革命的ときましたか」
氷魔女「今なら……できるかもしれない。氷の板100枚並べ!」
見習い魔女「やってみましょうよ!」
氷魔女「…………」スッスッ…
魔法で作った氷の板を立てて並べていく。
氷魔女「あと、10枚……」
見習い魔女「先生……!」
氷魔女(私はここから手が震えたり、慌てたりしてしまうのだが……)
花火師『いいんじゃないか? 無理に冷静になんてならんでも……』
氷魔女「そうだ……無理に冷静にはならない」
氷魔女「私は死にたくないし、弟子を失いたくもない」
氷魔女「今の気持ちのまま……氷の板を立てる」ビュゴォォォォォ
見習い魔女(先生から……すごい冷気が!)
氷魔女「…………」スッ…
氷魔女「できた!」
ついに100枚並べを達成した。
氷魔女「やった! やった!」
見習い魔女「やりましたね!」
氷魔女「うむ、ありがとう!」コツッ
パタタタタタタタタタタタタッ…
氷魔女「あ……あああああああああああっ!!!」
見習い魔女「ま、まあ……成功してから倒したのでセーフということで」
氷魔女「もう少し眺めたかったのに……」
氷魔女「長年の悲願だった氷板100枚並べをようやく成功させることができた」
見習い魔女「おめでとうございます!」
氷魔女「興奮と感動で、全身の体温が下がっていくのが分かる……!」ビュオォォ…
見習い魔女「さ、さすが先生……普通逆なのに」
氷魔女「これも、あの花火師のおかげだ……」
見習い魔女「さっそく明日、花火師さんにお礼をいいに行きましょうよ!」
氷魔女「うむ、そうだな」
氷魔女(できればなにか恩返しをしたいところだが……)
今回はここまでとなります
よろしくお願いします
翌日――
< 町 >
氷魔女「ふん、また会ったな」
見習い魔女「こんにちは!」
花火師「あんたらか……町に来るのは週に一度ほどといっていたが」
氷魔女「ぜひ礼をいいたくてな」
花火師「礼?」
見習い魔女「実は――」
見習い魔女が説明を始める。
見習い魔女「――というわけなんです」
花火師「ふうん……」
花火師「氷板100枚並べってのはよく分からんが、成功したならなによりだ」
氷魔女「本当にありがとう……!」
花火師「不思議なもんだ……」
氷魔女「なにが不思議!?」
花火師「いや……魔女なのに律儀なんだな、と思ってな」
氷魔女「な……!?」
見習い魔女(こんなにアタフタする先生は初めて見る……いや、しょっちゅう見るか)
氷魔女「……コホン」
氷魔女「そこで私はなにかお前に恩返しをしたいのだ」
氷魔女「なにか手伝えることはないか?」
花火師「特にない」
氷魔女「即答!?」
見習い魔女「なんでもいいんです! どんな雑用でも……!」
氷魔女「そうそう! ほら、靴でも磨こうか?」
花火師「……っていわれてもな」
花火師「まさか、素人に火薬の調合をさせるわけにもいかんし……」
しばらく考えた後――
花火師「……そうだ」
花火師「あんた、魔法が使えるんだよな?」
氷魔女「その通りだ」
花火師「で、氷魔法が得意なんだったよな?」
氷魔女「うむ、氷魔法にかけては右に出る者はいないと自負している」
見習い魔女「先生の氷魔法はすごいですよ!」
見習い魔女「沸騰したお湯だって一瞬で氷にしちゃうんですから!」
花火師「ほう、すごいな」
氷魔女「ふ……ふんっ! 褒めてもなにも出ないぞ! 出るものか!」
氷魔女「ま、まあ、どうしてもというなら、氷像にしてやってもかまわんが……」
花火師「落ち着いてくれ」
花火師「だったら……」スッ…
花火師は火薬玉を一つ用意した。
花火師「この中に魔力を込めてみてくれないか?」
氷魔女「魔力を?」
花火師「ああ、あんたの氷の魔力を込めてみて欲しい」
氷魔女「なにを考えてるのかは知らんが……よかろう」
氷魔女「ふぅぅ……」ビュォォ…
氷魔女「込めてみたぞ」
花火師「ありがとう」
見習い魔女(これでいったいどうなるんだろう……?)
花火師「よし……火をつけるぞ」シュボッ…
ヒュパァンッ!
まるで火花のように、氷が美しく散った。
氷魔女「うをほぉっ!?」
見習い魔女「キレ~イ! 氷と火が混じり合って、弾けました!」
花火師「……俺もこんな花火を見るのは初めてだ」
氷魔女「ほ、本当か!?」
花火師「ああ」
花火師「一ヶ月後にこの町で行われる祭りのために、新作の花火を模索していたんだが」
花火師「魔女さん、もしかしたらあんたとなら、今までにない花火を作れるかもしれない」
花火師「協力してくれないか」
氷魔女「…………!」
見習い魔女「先生!」
氷魔女「少し考えさせてくれ。私の魔法を安売りするわけにはいかんからな」
しばらく悩むふりをした後、氷魔女は頷いた。
氷魔女「どうしてもというなら……いいだろう」
花火師「決まり……だな」
花火師「花火を打ち上げるのは、町の中心にあるタワーの近くだ」
花火師「あのタワーを茎に見立てて、この町に……美しい氷の花を咲かせてやろう」
氷魔女「ぶはっ! た、楽しみっ!」
見習い魔女「先生、落ち着いて」
< 氷魔女の家 >
見習い魔女「あの人に恩返しすることができそうで、よかったですね」
氷魔女「ああ、まさか火薬と氷魔法というものがあそこまで相性がいいとはな」
見習い魔女「この間の授業の“魔力と特定の物品を組み合わせると”というやつですね」
氷魔女「うむ」
氷魔女「しかし……あの花火師もよくこんな発想ができたものだな」
見習い魔女「ええ、魔法と花火を組み合わせようだなんて、なかなか思いつかないですよ」
氷魔女「あの冷静さ……私も見習わねば。さあ、今日も授業を始めるぞ!」
見習い魔女「はいっ!」
氷魔女「今日の授業は、時間経過で発動する魔法、についてだ」
見習い魔女「時間経過……」
氷魔女「たとえば、ある水滴に氷の魔力を込める」
氷魔女「この時、特殊な魔力を込め方をすれば、即凍らせるのではなく」
氷魔女「五分後や十分後など、好きな時間に凍らせることが可能だ」
見習い魔女「なるほど! メモメモ!」カリカリ
氷魔女「太古の氷魔法使いは戦争の際、湖を凍らせて自軍を渡らせた後――」
氷魔女「敵軍が湖に差しかかるタイミングで氷が溶けるようにもできたという」
見習い魔女「敵軍はみんな湖で溺れちゃうってわけですね」
氷魔女「まぁ、氷の花火に比べれば、大したことはないがな!」
見習い魔女(先生、花火作りが楽しみでしかたないんだろうな)フフッ
次の日から、本格的に氷花火作りが始まった。
< 町 >
花火師「打ち上げ花火の構造をかいつまんで説明すると、“星”と“割火薬”で成り立つ」
氷魔女「ほう……?」
見習い魔女「それぞれ、どういうものなんですか?」
花火師「“星”は花火のまさに花の部分のもので、“割火薬”はそれを飛ばすためのものだ」
花火師「これらを玉に詰めて打ち上げ、空に花火を咲かせるわけだ」
見習い魔女「メモメモ!」カリカリ
見習い魔女「つまり……“星”は花火の美しさを決める部分、ということですね?」
花火師「察しがいいな、その通りだ」
花火師「氷の花火を作るには、この“星”に氷の魔力を込めてもらうことになるが……」
花火師「氷魔女さん、あんたにはより美しく“星”が花を咲かせるよう」
花火師「魔力を込めてもらわなきゃならない」
氷魔女「美しく……私の得意分野だな」
花火師「さっそく始めよう」
氷魔女「あ、スルーするんだ」
花火師は火薬玉を取り出す。
花火師「この“星”に魔力を込めてみてくれ」
氷魔女「分かった」
見習い魔女「頑張って下さい、先生!」
意識を集中する氷魔女。
氷魔女「むむむ……」ビュォォ…
氷魔女「さ、込めたぞ!」
花火師「どれ……」シュボッ…
ヒュパァンッ!
氷魔女「おお、氷の火花ができた!」
花火師「いや……これじゃダメだ」
氷魔女「え!?」
花火師「氷の弾け方が均等じゃなかった」
花火師「これを花火玉に詰めたところで、形が崩れたブサイクな花火になっちまう」
氷魔女「なるほど……」
花火師「さ、もう一度だ」
ヒュパァンッ!
花火師「ダメだ、火に対して氷が強すぎる」
ヒュパァンッ!
花火師「今度は氷が弱い」
ヒュパァンッ!
花火師「これもダメだな、火とうまく同化してない」
ヒュパァンッ!
花火師「今までで一番ひどいぞ」
見習い魔女(あたしから見ると全然問題ないように見えるけど、厳しいなぁ……)
見習い魔女(でも、先生も粘り強く何度も何度もやり直してる……)
やがて、日が沈む時刻になった。
花火師「今日はここまでにしとこう」
氷魔女「ハァ……ハァ……うむ」
見習い魔女(さすがの先生も、魔力がすっからかんみたい)
花火師「……すごいな」
氷魔女「すごい? どこがだ?」
花火師「いや……正直いってすぐ音をあげて、投げ出すとばかり思っていたんだが」
花火師「まさか、まったく不平をいわないとは思わなかった」
花火師「俺はあんたを見くびってたようだ」
氷魔女「ふ、ふん……この程度、魔法使いの修行に比べれば大したことない」
花火師「どうやら、俺も本気にならざるをえんようだ」
花火師「明日からは今日より厳しくするから、悪く思わんで欲しい」
氷魔女「思うわけが……って、えええええ!?」
見習い魔女「頑張りましょう、先生!」
見習い魔女「花火師さんに叱られた分、あたしを怒ってもかまいませんから!」
氷魔女「う、うむ……お言葉に甘えさせてもらおう」
花火師「おいおい」
それから毎日、氷魔女の苦闘は続いた――
氷魔女「はぁぁ……」ビュォォ…
氷魔女「さ、やってくれ」
花火師「…………」シュボッ
ヒュパァンッ!
花火師「ダメだ、氷が強すぎる。もっと集中してくれ」
氷魔女「すまん……」
氷魔女「ハァ……ハァ……」
見習い魔女「先生、氷水です!」
氷魔女「ありがとう」ゴクゴク
氷魔女「うまい! ――もう一杯!」
花火師(あんな冷たい水、よく一気飲みできるな)
< 氷魔女の家 >
氷魔女「氷魔法には大きく分けて、魔力で氷を生み出す、すでにある水を凍らす、の」
氷魔女「二種類があるが……」ウトッ…
見習い魔女「先生……やはりお休みになった方が」
氷魔女「なにをいう。お前の授業をおろそかにしては、師としての立場がない」
見習い魔女「でも……眠たいんじゃ……」
氷魔女「心配いらん。氷魔法にはとっておきの目覚まし方法があるのだ」
見習い魔女「ホントですか? メモメモ!」
氷魔女「私は魔力を消費しきってるから、悪いがつららを出してくれ」
見習い魔女「はい」パキィン…
小さな手から、つららが生み出される。
氷魔女「ふふふ、いいつららだ。お前も成長しているな」
見習い魔女「ありがとうございます。でも、これをどうするんですか?」
氷魔女「手の甲にこうやって、グサッと……」グッ…
見習い魔女「わーっ! ダメダメ! 冷静になって!」ガシッ
失敗に失敗を重ね、一週間後――
氷魔女「はぁっ……!」ビュォォ…
花火師「じゃあ、火をつけるぞ」
ヒュパァンッ!
小さな玉は、今までにないほど美しい“花”を開かせた。
花火師「……ん」
見習い魔女「おおっ!」
氷魔女「うをおおおおおおっ!?」
見習い魔女「花火師さん、今のはいいんじゃないんですか!?」
花火師「ああ……完璧だった。今の感覚を覚えておいてくれ」
氷魔女「をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
見習い魔女「しばらく会話できそうにないですね」
氷魔女「つい取り乱してしまった。失礼した」
花火師「いや……さすがに慣れてきたから大丈夫だ」
見習い魔女(あ、やっぱり今まで慣れてなかったんだ)
花火師「さっきの感触は覚えてるか?」
氷魔女「うむ、大丈夫だ」
氷魔女「魔法とは泳ぎのようなもので、一度コツをつかむことが肝心なのでな」
花火師「よし……これで氷の花火の“氷”の部分は大丈夫だろう」
花火師「あとは俺の仕事だ。ゆっくり休んでくれ」
氷魔女「分かった」
氷魔女「ぐう……」
見習い魔女「先生、寝るの早すぎ!」
次の日、三人は町の中心にあるタワーを訪れた。
< タワー >
見習い魔女「二週間後、このタワーに花火が咲くんですね!」
氷魔女「うむ」
花火師「石造りの簡素な塔だが……祭りでは美しい主役になるはずだ」
見習い魔女「だけど、このタワー……どうして建てられたんですかね?」
花火師「なんでだろうな」
花火師「俺もあまりこの町の歴史には詳しくないからな」
町長「ほっほっほ、ではワシが教えてあげよう」
氷魔女「町長!」
見習い魔女「町長さん!」
花火師「……町長」
町長「魔女のお二人には町の者がいつも世話になっとるし」
町長「花火師もこの町の出身者として知っておいた方がええじゃろう」
町長「この町の秘密を教えてやろう……」
氷魔女「…………」ゴクッ
町長「昔、この町の人間は天に届く塔を作ろう、と野心を持ったのじゃ……」
見習い魔女「天に届く塔を……!?」
町長「……しかし!」
息を飲む魔女二人。
町長「めんどくなって、結局やめちゃったらしいんじゃよね」
氷魔女「え?」
見習い魔女「まさか、それだけですか!?」
町長「うむ」
町長「だから、このタワーの中はがらんどうじゃ。中に入ってもなーんもない」
町長「タワーというよりは、屋根のあるでかい筒じゃな」
見習い魔女「あらら……」
氷魔女「なんだそりゃ……」
花火師「まあ、こんなことだろうと思ったがな」
町長「しかしながら、歴史あるタワーであることに変わりはない」
町長「大切にしてやってくれい」
見習い魔女「はいっ!」
氷魔女「もちろんだ」
町長は笑いながら、立ち去っていった。
氷魔女「ところで、ずっと聞きたかったのだが……」
氷魔女「花火師はなぜ、花火の道を選んだのだ?」
花火師「…………」
花火師「話しにくいことなんだが……」
見習い魔女「あっ、話しにくいことなら無理に――」
氷魔女「ぜひ話してくれ! 話しにくいこと大歓迎!」
目を輝かせる氷魔女。
見習い魔女「先生ってば……」
花火師「それでこそあんたって気がしてきたよ」
花火師「俺としても、一度ぐらい他人に話した方が気が楽になりそうだしな」
花火師「かつて俺は……爆弾を作っていた」
見習い魔女「爆弾を……?」
花火師「ああ、北から来たお嬢ちゃんらは知らないだろうが」
花火師「ここから南方で戦争があった時期があったんだ」
花火師「で、援軍として駆り出されてな」
花火師「手先の器用さを買われて、爆弾作りをやらされた。親友と二人でな」
花火師「火薬と魔力の相性のよさを教えてくれたのも、その親友だった」
氷魔女「なるほど……」
花火師「俺の爆弾は……大いに味方を助けたらしい。つまり大勢の人間を殺した」
花火師「やがて、戦争は終わり、俺は親友を失った……」
花火師「そして俺は戦後……火薬の知識を生かして花火師になったんだ」
花火師「食い扶持を稼ぐためってのはもちろんだが――」
花火師「人を殺した分、誰かを楽しませる側に回りたかったのかもしれないな」
花火師「もっともそんなことをしたところで、俺の罪は消えんし、親友も戻らんが」
氷魔女&見習い魔女「…………」
しばしの沈黙。
氷魔女「……ふん!」
氷魔女「器から水がこぼれたら取り返しがつかない、などという言葉があるが」
氷魔女「そんなことは断じてない!」
氷魔女「凍らせてまた入れればいいだけのこと!」
見習い魔女「そうですよ!」
氷魔女「その親友のためにも、絶対花火を成功させよう!」
花火師「……ありがとう」
その日の夜――
< 氷魔女の家 >
見習い魔女「今日は楽しかったです!」
見習い魔女「花火師さんの過去は……ちょっとビックリしましたけど」
氷魔女「うむ……かなりビックリした」
見習い魔女「だけど、これで花火師さんとより心が通じ合えたような気がします」
氷魔女「するする!」
氷魔女「我々の息が合えばもう怖いものはない。祭りが楽しみだ!」
見習い魔女「はいっ!」
今回はここまでとなります
花火作りは佳境に入り――
< 町 >
ヒュパァンッ!
花火師「よし……完璧にコツを掴んだようだ。さすが氷の魔女だな」
見習い魔女「氷魔法にかけては、先生に敵う人はいませんもの!」
氷魔女「おいおい、あまり褒めるな……ニヤニヤしてしまうではないか」
花火師「あとはあんたが魔力を込めた“星”で、俺が花火を作るだけだ」
氷魔女「私の魔力を無駄にするような、しょっぱい花火だったら許さんぞ」
花火師「あまり期待してもらっても困る……といいたいところだが――」
花火師は胸を張った。
花火師「任せてもらおう」
氷魔女「いったな!? ダメだったら氷像にしてやるからな!?」
花火師「勘弁してくれ」
見習い魔女(花火師さんも、初めて会った時よりずっと明るくなったような……)
< 氷魔女の家 >
見習い魔女「いよいよ、お祭りまであと一週間ですね!」
氷魔女「うむ……」
見習い魔女「楽しみですね!」
氷魔女「楽しみすぎて……興奮しちゃうっ!」パキィンッ
床を凍らせ、その上を滑りまくる氷魔女。
氷魔女「三回転半ジャンプ!」ギュルルルッ
見習い魔女「ちょっ……先生!」
見習い魔女「そんな先生にさらに冷えていただくために、今日はかき氷を用意しました!」
氷魔女「おほっ!」
かき氷を頬張る二人。
見習い魔女「かき氷おいしいですね~」シャクシャク
氷魔女「うむ」シャクシャク
見習い魔女「うっ!」キーン…
見習い魔女「この頭痛が……ちょっとキツイですけど」
氷魔女「うむ」シャクシャク
見習い魔女「そういえば、先生は頭痛くならないんですか?」
氷魔女「普段から冷気をまとってるからか、ほとんどならないな」
見習い魔女「ほとんど?」
氷魔女「たまにはなるのだ」
氷魔女「で、なった時はものすごく痛くなる」
見習い魔女「普段痛くならない代わりに、痛くなった時の症状が重いのかもしれませんね」
ドォンッ……!
氷魔女&見習い魔女「!!??」
氷魔女「な、なんだ!?」
氷魔女「痛さを通り越して、私の頭が爆発!?」
見習い魔女「落ち着いて下さい、先生! 違います!」
見習い魔女「町の方向から……轟音がしましたよ!」
見習い魔女「それこそ……まるで爆発音みたいな……」
氷魔女「もしや、花火師が事故を……! そんな……あああああっ!」
見習い魔女「先生、落ち着いて!」
見習い魔女「町に……行ってみましょう!」
もう夜は更けていたが、二人は急いで山を下りた。
< 町 >
現場は騒然としていた。
ザワザワ…… ガヤガヤ……
見習い魔女「こんばんは!」
守備隊長「おおっ、これはどうも!」シュビッ
氷魔女「どうも!」シュビッ
氷魔女「あ、これやらなくていいんだっけ……いや、それより何があったんだ?」
守備隊長「我々もついさっき詰所から駆けつけたばかりなのですが……爆発事故です」
氷魔女「爆発……!?」
見習い魔女「もしかして……花火ですか?」
守備隊長「いえ、穀物庫が爆発したのです」
氷魔女「穀物庫……!? えええええっ!? 穀物庫……えええええええ!?」
見習い魔女「なぜ穀物庫が爆発を?」
守備隊長「おそらく……この乾いた空気ですし、なにか火花が起きて」
守備隊長「粉塵爆発でも起こったものかと……」
見習い魔女「つまり、事件ではないと?」
守備隊長「今のところ事件性は認められませんね」
氷魔女「…………」
氷魔女「少し調べさせてもらいたいんだが」
守備隊長「あ、いや! 消火作業が終わったばかりで、まだ危険なので……」
守備隊長「今は我々に任せていただきたい」
立ちはだかる守備隊長。
氷魔女「む、そうか」
氷魔女「…………」
氷魔女(この感覚は……まさか……)
見習い魔女「先生、どうしました?」
氷魔女「私たちは邪魔なようだ。家に帰ろう」
見習い魔女「花火師さんのところへは行かなくていいんですか?」
氷魔女「いい」
見習い魔女「でも……」
氷魔女「いい、といっているだろう!」
< 氷魔女の家 >
家に戻るなり、深刻な表情で考え込む氷魔女。
氷魔女「…………」
見習い魔女「先生、どうしたんですか?」
氷魔女「お前には教えておくべきだろう」
氷魔女「実はな、さっきの現場で魔力の痕跡が感じられた。ほんのわずかだがな」
見習い魔女「え……!?」
氷魔女「あの爆発は故意に起こされたものだ。事故などではない」
氷魔女「たとえば、魔力を込めた火薬のようなものをあそこで炸裂させたと考えられる」
見習い魔女「魔力を込めた火薬……」
見習い魔女「――――!」ハッ
少女の脳は即座に、ある人物を連想した。
見習い魔女「でも……それだけで……」
氷魔女「いや……私にはもう分かってしまった」
氷魔女「あの爆発事件の犯人は花火師だ!」
氷魔女「花火師に決まっているんだぁぁぁぁぁっ!!!」
見習い魔女「先生……落ち着いて……冷静になって……」
氷魔女「私は冷静だっ!!!」
見習い魔女「ひっ!」
氷魔女の瞳が怒りの色を帯びる。
氷魔女「う、うう……ゆ、許せん……」
氷魔女「あの男は私が魔力を込めた火薬玉で、悪さを企んでいるんだ!」
氷魔女「かくなる上は、この私自ら、あいつを捕えてくれよう……!」
氷魔女「氷像にして……守備隊に突き出してやるっ!!!」
血走った眼で、狂ったように笑う氷魔女。
氷魔女「フフフ……フハハハハハッ!」
氷魔女「花火師……私はお前を信じていたのにっ!」
氷魔女「一緒に氷の花を咲かせたいと思っていたのにっ!」
氷魔女「もう、なにもかも終わりだっ!」
氷魔女「ウフフ、フ、フフフ、フハハハハハハハハッ!!!」ビュゴォォォォォ…
見習い魔女「先生……」
この日、氷魔女の家には一晩中冷たい風が吹き荒れた。
次の日――
< 氷魔女の家 >
氷魔女「ふぅ……」
見習い魔女(先生……落ち込んでるなぁ)
見習い魔女(たしかに、もし先生の感覚が本当だったとするなら――)
見習い魔女(花火師さんは怪しい……)
見習い魔女(でも……あの人があんなことするだろうか……)
見習い魔女「先生、今日は寝ていた方がいいですよ」
氷魔女「ああ、そうだな……そうさせてもらう」フラッ…
氷魔女「ふぅ……」ゴロン…
ベッドに横たわる氷魔女。
見習い魔女(今のところ爆発事件であたしたちの出る幕はないし……)
見習い魔女(あたしは自習でもしよっかな)
勉強机に座る見習い魔女。
しばらくすると、玄関から音がした。
コンコン…
氷魔女「……なんだ」ムニャ…
氷魔女「出てみろ……」
見習い魔女「はい」ガチャッ
見習い魔女「!」
氷魔女「どうした?」
見習い魔女「あの先生……くれぐれも冷静に聞いて下さいね」
氷魔女「うむ……任せておけ。私は常に冷静――」
見習い魔女「花火師さんが……来られました」
氷魔女「ぬわにぃぃぃぃぃっ!!?」
見習い魔女(やっぱりこうなった!)
花火師「……こんな時間にすまない」
見習い魔女「い、いらっしゃいませ……」
氷魔女「…………」ピクピクッ
露骨に顔を引きつらせる氷魔女。
氷魔女「フッフッ、フフフ……」
氷魔女「よくぞ……この私の前に顔を出せたものだ……その勇気は褒めてやろう」
氷魔女「で、なんの用だ?」
花火師「……助けて欲しい」
氷魔女「!」
氷魔女(花火師……!)
氷魔女(爆破騒ぎを起こしておきながら、私に逃走の手助けをさせようというのか!?)
氷魔女(許さん! 許さんぞ!)
氷魔女(私の手で氷像にして――)ビュオォォォ…
見習い魔女「助けて欲しい、というのは?」
花火師「この町を……救いたい」
見習い魔女「……え?」
氷魔女「……へ!?」
花火師「昨晩の爆発事故、あんたたちも知ってるか?」
見習い魔女「は、はい! すごい音がしましたから……すぐ駆けつけました!」
花火師「あれは……事故なんかじゃない」
見習い魔女「……え?」
花火師「俺の……かつての親友の仕業だ」
氷魔女「…………」
氷魔女「ええええええええええ~~~~~~~~~~っ!!!」
花火師「なんでそんなに驚くんだ?」
見習い魔女「あ、実はですね、先生ったらあの爆破の犯人は――」
氷魔女「わーっ! いうな、いっちゃダメェェェ!!!」
花火師「……なるほど」
氷魔女「い、いや、疑ったわけじゃないよ? ただ……ちょっと怪しいなって」
花火師「別に責めてないさ。俺があんたの立場でも、俺が怪しいと思うだろう」
氷魔女「いや、ホントごめんなさい……」
見習い魔女「まぁ、これで花火師さんは犯人じゃないことが分かりました!」
見習い魔女「詳しい話を聞かせていただけますか?」
花火師「ああ、少し長くなるがいいか?」
氷魔女「もちろんです!」
花火師「俺がかつて戦争で、爆弾製造を担当していたというのは話したな?」
見習い魔女「はい」
氷魔女「タワー見物の時だな」
花火師「俺と親友は――二人で知恵を出し合い、さまざまな爆弾を作った」
花火師「威力の大きい爆弾、敵が罠にかかったら作動する爆弾、音が凄まじい爆弾……」
花火師「そして……大勢の人間を死なせた」
花火師「やがて、戦争が終わった時、俺は大いに喜んだ」
花火師「だが……あいつは――」
『こんなもんじゃ足りねェ……』
『オレの力なら、もっともっとすげぇ爆破ができる……!』
花火師「完全に爆弾に魅せられていた……」
花火師「そして、ある日――」
『古文書を調べてたら、火薬と魔法がとても相性がいいって分かったんだよ!』
『この力を使えば、もっともっとすげェ爆弾を作れる!』
『なぁ、一緒にやらねェか?』
『オレの夢にはお前が必要なんだ!』
『二人でとんでもない爆弾を作って、世の中をあっと言わせてやろうぜ!』
花火師「あいつの目は完全に常軌を逸していた」
花火師「“世の中をあっと言わせる”……つまり目的なんかどうでもよく」
花火師「とにかく爆弾を作りたくて、人や物をふっ飛ばしたくてたまらなかったんだろう」
花火師「もちろん俺は断り、あいつにそんなバカなことはやめるよう説得した」
花火師「だが……聞き入れてはくれなかった。俺を裏切り者だと罵った」
花火師「もはやあいつは、自分自身が爆弾と化していた」
花火師「放っておけば、人々に害を成すことになると判断した俺は」
花火師「ヤツの危険性を兵隊に密告し、捕えさせた」
花火師「これでもうあいつはシャバに出ることはない」
花火師「俺は親友を失った……はずだった」
見習い魔女(親友を失ったっていうのはこういうことだったのか……)
花火師「だが……昨日の爆発の直前、俺の家に手紙が投げ込まれてた」
花火師「これだ」
花火師が手紙を開く。
『親愛なる裏切り者へ
模範囚を演じたかいあってこのたびオレはめでたく出所を許された。
研究に研究を重ね、オレはついに爆弾を極めた。
かくなる上はお前に勝負を申し込む。
オレはお前の町で行われる祭りで、花火を打ち上げる。
止めたくば止めてみせろ。
なお、祭りを中止したり、住民を避難させた場合は、町民を無差別に爆破する。
とりあえず、宣戦布告の証に穀物庫を爆破する』
見習い魔女「爆弾を極めた……? 祭りで花火……? 町民を無差別に爆破……!?」
氷魔女「なんというヤツだ……!」
花火師「花火、というのはいうまでもなく爆弾のことだろう」
花火師「つまり、祭りの日、爆破事件を起こすつもりだ」
氷魔女「なんということを……!」
花火師「以前のあいつなら、俺一人でも食い止められただろう」
花火師「だが、今のあいつは俺の想像以上に成長している」
花火師「現に、俺はあんたのところに来るまでにあいつを探したが、見つからなかった」
花火師「それにおそらく……魔力と火薬を組み合わせる術も独学で身につけているはず」
見習い魔女「魔力と火薬……」
氷魔女「どうりで、現場で魔力を感知できたわけだ……」
花火師「もはやヤツは爆弾の怪物だ。俺一人ではどうにもならない」
花火師「かといって、祭りをやめたり、町民を避難させれば、待つのは無差別爆破だ」
花火師「仮に奴を捕えられたとしても、大勢死人が出てしまうだろう」
花火師「だから……頼む」
花火師「俺とともに爆弾解除を手伝ってくれないか……力を貸してくれ」
氷魔女「……よかろう!」
氷魔女「祭りを台無しにしようなどという輩は、この私が氷像にしてくれる!」
見習い魔女「あたしも手伝います!」
花火師「ありがとう」
氷魔女「といったものの、具体的にどうすればいいのだ?」
見習い魔女「守備隊に知らせるのは、やっぱりまずいですよね?」
花火師「ああ……下手に守備隊に知らせたりすると、守備隊も警戒してしまうから」
花火師「その不自然さを嗅ぎつけて無差別爆破をやりかねない」
花火師「現状、このことは三人の心のうちに留めておいた方がいいだろうな」
花火師「危険な賭けになってしまうが……」
氷魔女「なぁに、要は当日爆破を止めればいいんだろう? たやすいことだ!」
見習い魔女「自信満々ですね、先生!」
氷魔女「…………」ガチガチガチ…
見習い魔女「今から歯を鳴らしてどうするんですか!」
見習い魔女「でも、この人の手紙は本当に信用できるんでしょうか?」
見習い魔女「こっちが約束を守っても、あっちが守るつもりがなければ無意味です」
花火師「それは大丈夫だろう」
花火師「ヤツはプライドが高い……こうして挑戦状を叩きつけてきた以上」
花火師「こちらがヤツのルールに従ってる限り、ヤツも自分のルールを守る」
花火師「でなければ、今頃この町は予告なしで爆破されまくっていただろう」
花火師「あいつは俺にチャンスを与え、その上で俺を屈服させたいんだ」
氷魔女「爆弾に魅せられた男による、花火を魅せる男への逆恨み……」
氷魔女「この私が必ずや凍りつかせてくれる!」
見習い魔女「あ、先生、うまくまとめましたね!」
氷魔女「フッ……たまには私もうまいこというのだ」
花火師「二人とも、俺のかつての因縁に巻き込んでしまってすまない……」
氷魔女「かまわん!」
見習い魔女「あたしも全然かまいませんよ!」
笑顔の魔女二人とは裏腹に、花火師の表情は暗かった。
花火師「…………」
花火師(いざとなったら、命にかえてもこの二人は守らねば……)
今回はここまでとなります
それからの一週間――
三人は町に爆弾魔の脅威が迫っていることを隠しながら生活せねばならなかった。
~
町長「花火製作はどうかね?」
花火師「順調ですよ」
町長「ほっほう、キレイな花火を期待しとるよ」
氷魔女「その前に、町が花火にならねばいいんだが……」
町長「へ? どういうことじゃ?」
見習い魔女「なんでもないんです! なんでも!」
見習い魔女「も~、先生ったら!」ボソッ
氷魔女「……すまん」ボソッ
~
~
守備隊長「これはどうも!」シュビッ
氷魔女「うむ……」
見習い魔女「こんにちは!」
守備隊長「祭りでは、花火師殿と氷魔女殿たちが花火を打ち上げるそうで」
氷魔女「ああ……」
守備隊長「楽しみにしております!」シュビッ
氷魔女「どうなることやら……」ハァ…
守備隊長「おや、元気がありませんね? なにかあったのですか?」
氷魔女「いや、そんなことはないぞ!」シュビッシュビッシュビッ
見習い魔女「先生、敬礼しすぎ!」
~
~
花火師「待たせたな……ようやく氷の花火ができた」
さまざまな大きさの花火玉がいくつも出来上がっていた。
氷魔女「おおっ!」
見習い魔女「やりましたね!」
花火師「祭りのクライマックスにこの花火は打ち上げられる」
花火師「ただし、これを打ち上げられるかどうかは……俺たちにかかっている」
見習い魔女「……ですね」
氷魔女「ううう~……緊張してきた!」
~
~
氷魔女「明日はいよいよ祭りだ……」
氷魔女「己の冷静さを確認するために、氷の板並べをやっておくか」
見習い魔女「先生はもう100枚立てられたんですから大丈夫ですよ!」
氷魔女「フッ、そうだな」
しかし――
パタタタタタッ
氷魔女「…………!」
氷魔女「た、立てられない! 100枚どころか10枚も立てられないぞ!」
見習い魔女「先生……!」
~
あっという間に時は過ぎていった。
祭り当日――
< 町 >
ワイワイ…… ガヤガヤ……
タワーが建つ町の中心地には露店が並び、人々が賑わいを見せていた。
氷魔女「せっかくの祭りも、この町のどこかに爆弾が隠されてると思うと」
氷魔女「素直に楽しめんな……」モグモグ
見習い魔女「ホントですよ……」
見習い魔女「でもそのわりに先生、ホットドッグなんて食べてますけど」
氷魔女「お腹がすいたら、いい魔法は出せんからな」
氷魔女「ほら、お前も食べろ」
見習い魔女「いただきます……あ、おいしい」モグモグ…
青年「あっ、こんにちは!」
氷魔女「おお……こんにちは」
見習い魔女「こんにちは!」
青年「あれ? なんだか氷魔女さん、今日は様子が変じゃありません?」
氷魔女「え、なにが?」
青年「ものすごく青ざめてますけど、まるで今日、町に災難でも降りかかるかのように」
氷魔女「そ、そんなことはないぞ!? ――なぁ!?」
見習い魔女「そうですとも! 先生はいつも青白いです!」
青年「…………?」
露店でシャーベットを買う二人。
氷魔女「ううう……緊張してきた……」シャクシャク
見習い魔女「そろそろ花火師さんが見えられるはずですけど……」
花火師「待たせたな」
氷魔女「おおっ、花火師!」
花火師「さっき……子供からこの手紙を渡された」
花火師「変なおっさんに俺に渡すよう頼まれたんだそうだ」
氷魔女「つまり、それは――」
花火師「俺の親友からのメッセージだろう」
見習い魔女「その“おっさん”を探すことはできないんでしょうか?」
花火師「その子に聞いても分からない、といっていた。この人混みで探すのは困難だろう」
花火師「おそらくもう、簡単には見つからない場所から町を眺めてるに違いない」
花火師「爆弾が爆発するのをな」
氷魔女「おのれえ……!」
見習い魔女「爆弾はどこにあるんでしょうか?」
花火師「この手紙に書かれてるはずだ。読んでみよう」
手紙の内容は――
『親愛なる裏切り者へ
オレが仕掛けた花火は三つ。
一つは、町の長の住処
一つは、守りの要
一つは、巨大大砲の中
町を守りたくば、せいぜい頑張って探し出すことだ』
氷魔女「…………?」
氷魔女「何がなんだか、さっぱりだ」
見習い魔女「この三つの花火は爆弾のことですね」
花火師「ああ……ヤツはこの町に三つの爆弾を仕掛けている」
氷魔女「み、三つも!? てっきり一つかと……」
花火師「『町の長の住処』『守りの要』『巨大大砲の中』というのはそれぞれ」
花火師「爆弾を仕掛けた場所を示しているのだろう」
見習い魔女「とりあえず、一ヶ所は分かりやすいですね」
花火師「ああ、すぐに急行しよう」
氷魔女「え、分かりやすいってどこが!? 全然分からないんだが!?」
氷魔女「ああぁ~、どうしよう、どうしよう!」
完全にパニックに陥ってる氷魔女。
花火師「…………」
見習い魔女「…………」
花火師「まずは町長の家だ」
見習い魔女「はいっ!」
氷魔女「え!? どして!? なんで町長の家なの!?」
爆弾魔「…………」
爆弾魔「祭りが始まったか……」
爆弾魔「町民どもが避難する様子はないし、警備もおかしな動きは見せていない」
爆弾魔「どうやらあいつはオレのルールに従うつもりらしい」
爆弾魔「ならば、町の無差別爆破はおあずけにしといてやろう」
爆弾魔「裏切り者……果たして、お前にオレの爆弾を止めることができるか?」
爆弾魔「クククッ……無理だろうなぁ」
爆弾魔「オレの爆弾は絶対に食い止められない!」
爆弾魔「クククッ……クククククッ……!」
< 町長宅 >
祭りが行われているエリアを抜け、町長宅にやってきた三人。
氷魔女「町長一家はどうやら留守のようだ」
見習い魔女「みんなお祭りに参加してるんでしょうね」
花火師「好都合だ……勝手に入って爆弾を探そう」
花火師「もし爆弾を見かけたら、俺を呼んでくれ」
見習い魔女「分かりました!」
氷魔女「あああ……き、緊張してきた……」
探索を始めてすぐ――
見習い魔女「――あった! こっちにありました!」
庭に爆弾が置いてあった。
花火師「よくやった」
氷魔女「さすが私の弟子だ!」
花火師「これは――」
花火師「なるほど、手巻き時計と爆弾を連結させている」
花火師「一定の時間になると、時計の針が火打石のような役割をし、起爆部分を刺激し」
花火師「爆弾を爆発させるという仕組みだ」
花火師「この大きさなら、町長の家どころか家数軒をふっ飛ばせるだろう」
見習い魔女「一目でそんなに分かるものなんですか!」
氷魔女「で? で? 解除できるのか?」
花火師「この程度ならたやすい」
花火師「まず、起爆箇所を外して、時計を外して……」カチャカチャ
迷いのない手つきで、爆弾を解除していく。
見習い魔女「すごい……もし爆発したら、爆死してしまうのに」
氷魔女「なんという冷静さ……!」
花火師「いっちょあがりだ」
花火師「念のため、この爆弾本体を凍結させてもらえるか」
氷魔女「うむ、任せておけ……冷気よ!」ビュォォ…
パキィンッ!
氷漬けにされ、爆弾は無力化された。
花火師「凍らせた爆弾は、後で処理することにしよう」
見習い魔女「これで残り二つですね!」
氷魔女「ふっふっふ……なんだ、意外と楽勝ではないか」
花火師「……だといいんだがな」
町長宅を出て――
花火師「さて、二つ目の爆弾を探そう」
氷魔女「この『守りの要』というのはなんだろうか?」
見習い魔女「守りといえば思い出すのは、守備隊長さんですけど……」
花火師「なるほど」
氷魔女「そうか! 守備隊長の体内に爆弾が仕込んであるのだぁぁぁ!」
花火師「…………」
見習い魔女「…………」
氷魔女「……すまん」
二人の冷たい視線には、さすがの氷魔女も耐えられなかった。
< 守備隊詰め所 >
祭りの警備のため、守備隊は全員出払っていた。
花火師「二つ目の爆弾はここにあるはずだ」
花火師「手分けして探そう」
氷魔女「うむ!」
見習い魔女「はいっ!」
まもなく――
花火師「こっちにあったぞ。詰め所の裏側だ」
氷魔女「よしっ!」
見習い魔女「さっきのより、さらに大きいですね!」
花火師「ああ、しかも……」
バチバチッ… バチバチッ…
花火師「爆弾の周囲を、得体の知れないエネルギーが包み込んでいる……」
氷魔女「これは……魔力だな」
見習い魔女「やはり、犯人は火薬と魔力を組み合わせる術を会得してたんですね」
花火師「ああ、威力はさっきのものとは比較にならないはずだ」
花火師「質問をしたい。時間経過で魔法を作動させることは可能か?」
氷魔女「……可能だ」
見習い魔女「この間、先生が授業でおっしゃってましたね」
花火師の表情が曇る。
花火師「俺には魔法は分からんが、ヤツの考えつくことは分かる」
花火師「もう少し時間が経つと、この魔力が反応して爆弾を爆発させるんだろう」
花火師「かといって下手にいじると魔力が弾けて、ドカンだ」
花火師「まったく……爆弾に関しては天才的なヤツだ」
見習い魔女「どうすれば……!?」
花火師「さっきの爆弾と違い、魔力が関わってる代物な以上、俺では解除できん」
花火師「だから……」
氷魔女「わ、私か!」
花火師「その通り、あんたの魔力でもって凍らせて、ムリヤリ無力化するしかない」
氷魔女「…………!」
花火師「……やってくれるか?」
氷魔女「…………」ゴクッ
氷魔女の心臓がバクバクと鼓動する。
氷魔女(やれるのか……私に!?)
氷魔女(昨晩、氷の板を10枚も並べられなかった私に……)
氷魔女(だがこの爆弾を潰さなければ……氷の花火は打ち上げられない!)
氷魔女(ええい、ここで力を発揮できず、なにが魔女か!)
覚悟を決める。
氷魔女「……や、やってみよう」
見習い魔女「先生!」
氷魔女「し、し、心配するな」
氷魔女「氷魔法使いは……つ、つ、常に冷静でなければならぬ」
氷魔女が魔力を集中させる。
氷魔女「冷気よ、災いを凍てつかせたまえ!」
パキィィィンッ!
巨大な氷が爆弾を包み込んだ。
氷魔女「ふぅー、ふぅー、ふぅー……」
見習い魔女「やったーっ!」
花火師「これで……二つ目も無力化できた。残りは一つ」
花火師「残り一つにどんな細工があるか知らんが、魔女さんの存在は誤算のはず」
花火師「ラストも……今の方法でいけるはずだ」
氷魔女「……よし!」
しかし――
花火師「いくら考えても、手紙にある『巨大大砲の中』というのが分からん」
氷魔女「この町に巨大大砲があるなんて聞いたことないぞ!」
見習い魔女「だったら一度、このメッセージにこだわるのをやめましょう」
氷魔女「え、こだわらないの?」
見習い魔女「こう考えてみるんです。犯人なら三つ目をどこに仕掛けるかを」
氷魔女「そういう考え方もあるか、さすが我が弟子!」
見習い魔女「もし花火師さんが犯人の立場なら、どこに仕掛けますか?」
花火師「…………」
花火師「もし俺が犯人なら……やはり祭り会場のどこかに仕掛ける」
花火師「自分の爆弾の威力を分かりやすく堪能することができるからな」
花火師「死者の数、という形で……」
氷魔女「死者など……出させてたまるか!」
見習い魔女「探しましょう!」
三人は祭りの会場に戻るが、爆弾探しははかどらない。
ザワザワ…… ガヤガヤ……
氷魔女「見つからん! この人混みなら、爆弾などどこにでも仕掛けられそうだ……」
見習い魔女「どこにあるの……早くしないと……!」
花火師(分からん……残り一つがどこにあるか分からん)
花火師(今からでも町民を避難させるか?)
花火師(いや、そんなことをすれば、ヤツは無差別爆破をやるだろう)
花火師(なんとしても見つけねば……)
ザワザワ…… ガヤガヤ……
氷魔女「――どうだ!?」
見習い魔女「ダメです!」
見習い魔女「それとなく、周囲の人に不審なものがありませんでしたか、と」
見習い魔女「聞いてみたりもしましたけど……」
花火師「祭りの会場ではないのか……」
花火師「しかし、あいつの性格なら、祭り会場を標的にするはずだ……」
見習い魔女「どうしましょう……?」
花火師は黙り込んでしまう。
氷魔女「何をしているのだ! 早くしないと爆発してしまうぞ!」
花火師「……分かっている」
花火師(どこだ……どこにある……)
氷魔女「――ん」
氷魔女「あの町の中心にそびえ立つタワー……」
氷魔女「いっそあのてっぺんから、町を見下ろして探してみるか?」
見習い魔女「それは無理ですよ、先生」
氷魔女「どうして?」
見習い魔女「だって、あの塔は中身がない空洞だって町長さんがいってたじゃないですか」
見習い魔女「見た目は立派ですけど、実体は大きな筒だって」
見習い魔女「だから頂上まで上ることはできませんよ」
氷魔女「くそっ、私にしては珍しくいいアイディアだと思ったのだがな」
花火師(空洞……)
花火師「…………」ハッ
花火師「そうか、そうだったのか」
氷魔女「なにか分かったのか!?」
花火師「最後の爆弾は……タワーの中だ!」
見習い魔女「えええっ!?」
氷魔女「しかし……あれのどこが大砲なのだ?」
花火師「お嬢ちゃんが今思い出してくれたが、あのタワーは巨大な筒だ」
花火師「巨大な大砲と見立てることもできる」
見習い魔女「そういうことですか!」
氷魔女「ちょっと待て。もし、あのタワーが爆破されたら……どうなる?」
花火師「考えられるのは――」
花火師「まず、タワー全体がまさに砲身の役割を果たして」
花火師「爆風であの屋根が吹っ飛び、砕け散り、瓦礫が町じゅうに降り注ぐ」
氷魔女「なんだと!?」
花火師「その後、タワーは倒壊し、おびただしい犠牲者が出るだろう」
花火師「そうなればもう……この町は壊滅だ」
氷魔女「か、壊滅……」
見習い魔女「とにかく急ぎましょう!」
三人は全速力でタワーに向かう。
< タワー >
ギィィィ……
タワーの内部は、殺風景であった。
氷魔女「うっ……カビ臭いな」
見習い魔女「中に入る人もほとんどいなかったでしょうしね」
そして――
花火師「……あった」
氷魔女「おおっ、やはりここにあったのか!」
見習い魔女「先生、凍らせちゃって下さい!」
氷魔女「任せておけ」
自信満々の氷魔女であったが――
花火師「待った」
花火師「あいつめ……! なんて……なんて爆弾を作りやがった……!」
今回はここまでとなります
爆弾の形状は至ってシンプルなものだった。
四角い透明な容器に水が入れてあり、白いボールが半分ほど水に浸ったまま静止している。
氷魔女「これは……」
花火師「終わった……。こんなもの、解除できるわけがない……」
見習い魔女「どういうことですか?」
見習い魔女「見た目は、今までの二つの方がすごそうでしたけど」
花火師「あのボールが爆弾なのはいうまでもないな?」
花火師「あれを少しでも揺らせば……爆発する」
見習い魔女「だったら、さっきみたいに凍らせれば……」
花火師「ダメなんだ」
花火師「あの爆弾を凍結させようとすれば、その瞬間、当然周囲の水も凍る」
花火師「すると、水の体積が変化するから、あのボールに刺激が伝わる」
花火師「……で、爆発だ」
花火師「さっき俺が説明した大惨事が現実のものとなる」
見習い魔女「つまり、あの爆弾を無力化するには……」
花火師「周囲の水を一切凍らせることなく、あの“ボールのみ”を凍結させるしかない」
花火師「……そんなことできるわけがない」
花火師「俺はあんたたちのことは隠し玉のつもりだった」
花火師「だがヤツは……あんたたちのことも知っていたんだ」
花火師「俺があんたたちに頼ることも……計算してた」
花火師「そして、氷魔法の達人でもあるあんたでも解除不可能な爆弾を用意して――」
花火師「俺たちをあざ笑うつもりだったんだ」
氷魔女「…………」
花火師「こうなっては仕方ない」
花火師「二人とも、タワーの外に出てくれ」
見習い魔女「ど、どうしてですか!? 花火師さんはどうするんです!?」
花火師「俺は自作の爆弾で自爆する」
見習い魔女「ええっ!?」
花火師「こいつはごく狭い範囲に強烈な爆風を巻き起こすシロモノだ」
花火師「俺自身があの爆弾に覆いかぶさってから、この爆弾を炸裂させれば」
花火師「うまくいけば、爆風で爆風を押さえられるかもしれない」
見習い魔女「そ、そんな……」
花火師「俺が死んで恨みを晴らせば、ヤツもこれ以上爆破事件を起こすことはあるまい」
花火師「だから……早く外に出てくれ」
氷魔女「……フッ」
氷魔女「ふはははははっ……! ふはははははははっ!」
見習い魔女「せ、先生……?」
氷魔女「笑わせてくれる」
花火師「……なんだと」
氷魔女「はっきりいってお前の自爆がうまくいくとは思えんし」
氷魔女「犯人はお前が死ねば、それこそ嬉々として次々に爆破事件を起こすだろう」
氷魔女「自分の手の内が分かる人間がいなくなるのだからな」
氷魔女「いつも冷静なお前らしくもない」
花火師「…………」
花火師「ならば、どうしろというんだ……」
氷魔女「簡単な話だ」
氷魔女「私がこの爆弾を爆弾だけ凍結させればいいことだ」
花火師「……バカな、できるわけがない」
花火師「俺は魔法に関しては素人だが、俺のいったことの困難さは分かるつもりだ」
氷魔女「……しかし、やるしかないのだろう?」
氷魔女「任せておけ」
氷魔女「二人はタワーの外に避難しておいてくれ」
花火師「……そんなことできるわけがないだろう」
見習い魔女「私も先生にお供します!」
氷魔女「……勝手にしろ」
爆弾の前に座り込む氷魔女。
氷魔女「さて、やるか」
氷魔女「…………」
氷魔女(――といってみたはいいものの)
氷魔女(本当にできるのか? この私に?)
氷魔女(水に囲まれた爆弾……それを水を少しも凍らせずに爆弾だけを凍結させるなど)
氷魔女(それこそ、世界最高峰の魔法使いだってできるかどうか……!)
氷魔女(しかもこの爆弾、魔力が少しずつ高まっている……)
氷魔女(犯人は魔法の素人ながら、かなりの魔力をこれに込めたようだ)
氷魔女(放っておいてももうすぐ爆発する……)
氷魔女(もう時間がない!)
氷魔女の心臓が高鳴る。
氷魔女(くっ……! 胸が……張り裂けそうだ……!)
氷魔女(落ち着け……落ち着け……!)
氷魔女(氷魔法使いは常に冷静でなければならぬ!)
氷魔女(冷静で……ダ、ダメだ……)
氷魔女(私の手に……町の運命が……花火師と弟子の運命がかかってると思うと……)
氷魔女(手の震えが止まらない……)
氷魔女(冷静になど……なれない……!)
氷魔女(くそぉっ……!)
氷魔女「…………」
氷魔女「二人とも……」
花火師「……ん?」
見習い魔女「先生」
氷魔女「もし……もしも失敗したら……すまん」
花火師「…………」
花火師「なにをいう」
花火師「元々この件の責任は俺にある。あんたが謝ることじゃない」
見習い魔女「あたしも先生と一緒なら、死ぬのなんか怖くありません!」
氷魔女「……ありがとう」
花火師「礼をいわなきゃならないのは、こっちの方だ」
花火師「俺はあんたたちと出会ってから、本当に楽しかった」
花火師「俺は死んでいるように生きていたが、あんたらと出会ってからは」
花火師「本当に生きてるって感じがしてた」
花火師「もしも爆発しちまったら……また三人であの世で会おう」
見習い魔女「あたしもです!」
見習い魔女「先生に弟子入りしてから今日まで、たくさんのことを教えていただきました」
見習い魔女「だから……どうなっても大丈夫です!」
花火師「町の住民には申し訳ないが、俺たちはあんたに全てを委ねる」
花火師「さ……やってくれ」
見習い魔女「先生……どうぞ!」
氷魔女「あ、あの……」
氷魔女「もう終わっちゃったんだけど……」
花火師「なにいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」
見習い魔女「えええええええええええええええっ!!?」
水に囲まれた三つ目の爆弾は、見事に爆弾だけ凍結されていた。
花火師「あんた何してんだぁぁ!?」
花火師「覚悟が決まって、さぁどうぞ、と思ったらもう終わってるとか!」
見習い魔女「そ、そうですよぉ!」
見習い魔女「やるならやるっていってからやって下さいよぉ!」
氷魔女「ご、ごめんなさい」
氷魔女「二人に励まされたら、こいつらを死なせてたまるか、と手の震えが止まってな」
氷魔女「ちょうど氷板100枚並べを達成した時のような心境になって――」
氷魔女「これならいけるんじゃ、と思ってやってみたらできちゃった」
花火師「できちゃったて……なんて度胸だ……俺でも無理だ」
見習い魔女「あたし、今になって体が震えてますよ……」ガタガタ…
花火師「俺もだ……」ガタガタ…
氷魔女「私もだ……」ガタガタガタ…
氷魔女「しかし……常に冷静な花火師でもうろたえることがあるのだな」
花火師「…………!」
花火師「当たり前だ。俺をなんだと思ってる」
氷魔女「……ぷっ」
見習い魔女「……ふふっ」
アッハッハッハッハ……
花火師「……参ったな、俺としたことが」
花火師「しかし、和んでいる場合じゃないぞ」
花火師「勝負は俺たちの勝ちだが、あいつがこのままじっとしてるとは思えん」
< 町の外 >
爆弾魔「――な、なぜだ!?」
爆弾魔「もう時間は過ぎたのに……」
爆弾魔「なぜ爆発しない!? タワーが大砲にならない!?」
爆弾魔「オレの爆弾は完璧だった!」
爆弾魔「この町にいるという氷の魔女を味方につけても、無力化できるはずないんだ!」
爆弾魔「きっとなにかの間違いだ……そうに決まってる!」
爆弾魔「こうなればオレ自らあの爆弾を作動させてやる!!!」
様子を眺めていた爆弾魔は、一目散にタワーめがけて駆け出した。
爆弾魔「こんなはずはない! こんなはずは……!」タタタッ
爆弾魔「――――!」ハッ
花火師「久しぶりだな」
氷魔女「…………」
見習い魔女「…………」
爆弾魔の前に、三人が現れた。
爆弾魔「な、なんで……!?」
花火師「二つ目と三つ目の爆弾には、お前の魔力が宿されていた」
花火師「だから、魔女さんがお前の接近を感じ取ることができたんだ」
花火師「特定の魔力を感知する魔法、とやらでな」
爆弾魔「そんなことを聞いてるんじゃねえ!」
爆弾魔「オレの……オレの爆弾はどうなったんだ! なんで爆発してねぇ!?」
花火師「……聞くまでもないだろう」
花火師「爆弾は後ろの魔女さんが凍結させた」
爆弾魔「ウ、ウソだ! そんなこと、できるわけが――」
花火師「事実だ」
花火師「ゲームは終わりだ……お前の負けだ」
爆弾魔「オレの負けだと……? ふ、ふ、ふ……」
爆弾魔「ふざけるなぁぁぁぁぁっ!!!」
爆弾魔「ゲームはまだ終わってねェぞ、裏切り者がぁっ!」
爆弾魔「こうなったら……!」ババッ
隠し持っていた爆弾を取り出す。
爆弾魔「ククッ、こうなったら、オレが直接爆破してやる! この町の全てをなァ!」
氷魔女「残念だったな」
ビュオオオッ!
冷風が吹いたかと思うと、爆弾魔の両手が凍りついた。
爆弾魔「な……!?」ピシッ…
氷魔女「私の前に姿を現した時点で……お前の負けは確定してる」
爆弾魔「こんな氷……!」
ピシピシッ!
爆弾魔の足が凍りつく。
爆弾魔「ひいいっ……!」
爆弾魔「つめたっ……い、痛い……痛いぃぃぃ!」
氷魔女「どれ……次は心臓を凍らせてみせようか」
氷魔女の白い手が、爆弾魔の胸に触れる。
氷魔女「安心しろ、一瞬で死ねる」
爆弾魔「ひっ! や、やめっ……!」
氷魔女「私もいやしくも魔女と呼ばれている身……」
氷魔女「冷静にはなれないかもしれんが、冷酷になることはできるぞ?」
爆弾魔「あ……っ!」
氷魔女の凍てつくような瞳に、爆弾魔の心はたちまち凍りつかされた。
見習い魔女「立ったまま気を失ってる……」
花火師「魔法を使うまでもなく、氷像と化したか……氷の魔女、恐るべしだな」
氷魔女「ふんっ、こんな小物に振り回されてたと思うと腹が立つ!」
見習い魔女「先生、ナイス脅しです! あたし、ゾクゾクしちゃいました!」
氷魔女「そ、そう?」ポッ
花火師「こいつも昔はまともだった……」
花火師「戦いを嫌い、火薬や爆弾の恐ろしさを知っている男だった」
花火師「だが、爆弾に魅せられ、狂ってしまった……」
見習い魔女「花火師さん……」
花火師「いや……大丈夫だ。もうこいつに対して未練はないよ」
氷魔女「爆弾魔はどうする?」
花火師「俺たちにはまだ仕事が残ってるし、守備隊長さんに事情を話して、引き渡そう」
見習い魔女「それが一番ですね!」
すると――
ポトッ
コロコロ……
花火師「ま、まずい……! ヤツのポケットから爆弾が……!」
氷魔女「ええええっ!? どうしよどうしよ!?」
氷魔女「ようし、ここはあえて炎魔法で――」
花火師「落ち着いてくれ!」
見習い魔女「ここはあたしが」
パキィンッ!
見習い魔女の手で、転がった爆弾が凍結された。
氷魔女「…………」ホッ…
花火師「この子がいてくれて、よかったな」
氷魔女「ホ、ホント……! いい弟子を持った……!」
見習い魔女「先生ったら……」
氷魔女たちは、守備隊長に全ての事情を説明した。
守備隊長「……そんなことがあったのですか」
守備隊長「我々を頼っていただけなかったのは心苦しくもありますが……」
花火師「……申し訳ない」
守備隊長「いえいえ、とんでもない! 今のは失言でした」
守備隊長「町を爆弾魔から守って下さり、ありがとうございます!」
守備隊長「こやつは責任を持って、国に引き渡します」シュビッ
氷魔女「うむ、頼んだぞ」シュビッ
見習い魔女(結局先生、敬礼癖はそのまんまみたい)
そして、いよいよ「氷の花火」打ち上げが始まる。
ワイワイ…… ガヤガヤ……
タワーの近くに陣取る花火師たち。
花火師「打ち上げ開始だ」
氷魔女「しっかり頼むぞ! ここで爆発事故なんて起こされたらかなわん!」
見習い魔女「せ、先生!」
花火師「分かっているさ。では――」
ヒュルルルル……
ヒュパァァァァァンッ!
夜空に、美しい氷の花火が咲いた。
「なんてキレイなんだ!」 「すっげぇ~!」 「いいぞ、いいぞー!」
打ち上げは続く。
ヒュパァァァァァンッ!
ヒュパァァァァァンッ!
ヒュパァァァァァンッ!
タワーの上空に咲いた、銀色の花々は筆舌に尽くしがたい美しさであったという――
ワアァァァァァ……! ワアァァァァァ……!
青年「キレイだなぁ~……まるで氷魔女さんみたいだ……」
町長「ほっほっほ、あのタワーに氷の花が咲くとはのう……長生きはするもんじゃ」
守備隊長「なんと美しい!」シュビッ
守備隊長「貴様もそう思うだろう?」
爆弾魔「……ああ」
守備隊長「さ、行くぞ」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
氷魔女「ふははははははっ! 大盛り上がりではないか!」
見習い魔女「大成功ですね!」
花火師「この歓声こそが、本当の花火だ」
花火師「これだけ盛り上がれば花火師冥利に尽きるってものだ」
氷魔女「では、我々も遅めの食事といくか。かき氷だ!」パァァァ…
見習い魔女「いいですね~!」
花火師「晩飯にかき氷か……キツイな……」
……
……
一週間後――
< 町 >
荷物をまとめる花火師。
氷魔女「やれやれ、あわただしいな。もう行ってしまうとは」
見習い魔女「寂しくなります……」
花火師「俺の稼業っていうのはそういうもんだからな」
花火師「花火を打ち上げ終わったら、また他の地域に行くのが定め」
花火師「だが、また来年の今ごろには帰ってくるよ」
花火師「それに――」
花火師「俺は死に場所を求めて、なにかの間違いで爆発事故でも起こして死ぬために」
花火師「花火師をやっていた部分があった」
花火師「だが、今はそうじゃない」
花火師「よりよい花火を作りたくて、よりよい花火を打ち上げたくて、仕方ないんだ」
花火師「それこそ今回作った氷の花火より、もっとすごい花火をな」
花火師「こんな気持ちになれたのは……あんたたちのおかげだ」
花火師「本当にありがとう」
見習い魔女「どういたしまして!」
氷魔女「ふん、次に会った時、大して腕が上がっていなかったら氷像にしてやるからな」
花火師「あんたこそ、もっと冷静になっててくれよ」
氷魔女「むう……私はもう冷静だ!」
氷魔女「なにしろ、爆弾魔渾身の爆弾をあっさり無力化したぐらいだからな!」
氷魔女「今の私なら氷の板を1000枚だって並べられる!」
花火師「ほぉう?」シュボッ…
パァンッ!
見習い魔女「あ、きれい」
氷魔女「うをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
花火師「ハハハ、初対面の時よりひどくなってるじゃないか」
氷魔女「おのれぇ~、初めて笑ったと思ったら……! 氷像にしてくれる!」ビュオォォ…
花火師「おっと、氷像にされるのは勘弁だ」
花火師「さて馬車の時間に遅れてしまう……そろそろ行くか」
花火師「また会える日を楽しみにしてるよ」
氷魔女「達者でな」
見習い魔女「また一緒に花火を作りましょう!」
花火師は小さく手を振ると、世に花火を魅せるため、旅立っていった。
氷魔女「……フッ」
氷魔女「私たちも帰るとしよう」
見習い魔女「今日も魔法の授業のほど、よろしくお願いします!」
氷魔女「うむ、今日は少々ハイレベルな授業をするぞ。覚悟しておけ」
見習い魔女「もちろんです!」
見習い魔女「次、花火師さんと会ったら、すごい魔法であの人を驚かせてみせます!」
氷魔女「その意気だ! 私も常に冷静な氷魔法使いになってみせる!」
冷気を自在に操る氷の魔女。
しかし、彼女がそれに見合う冷静さを身につける日は……遠そうである。
~ おわり ~
以上で終わりです
ありがとうございました
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